(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】遠赤外分光装置、遠赤外分光方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3581 20140101AFI20230308BHJP
【FI】
G01N21/3581
(21)【出願番号】P 2021566720
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2019051387
(87)【国際公開番号】W WO2021131014
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茂原 瑞希
(72)【発明者】
【氏名】志村 啓
(72)【発明者】
【氏名】愛甲 健二
【審査官】古川 直樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/116461(WO,A1)
【文献】特開2019-168701(JP,A)
【文献】特開2019-135499(JP,A)
【文献】特開2011-75583(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147253(WO,A1)
【文献】特開2017-138461(JP,A)
【文献】K. Murate and K. Kawase,Perspective: Terahertz wave parametric generator and its applications,Journal of Applied Physics,AIP Publishing,2018年10月17日,Volume 124,p.160901-1~11,<DOI: https://doi.org/10.1063/1.5050079>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
G01J 3/00 - G01J 4/04
G01J 7/00 - G01J 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠赤外光を用いて試料を分析する遠赤外分光装置であって、
波長可変の第1遠赤外光を出射する波長可変遠赤外光源、
前記試料を透過した前記第1遠赤外光を検出する検出系、
を備え、
前記波長可変遠赤外光源は、ポンプ光とシード光を発生用非線形光学結晶に対して入射し、前記発生用非線形光学結晶に隣接して配置された発生用Siプリズムを介して、前記第1遠赤外光を出射するように構成されており、
前記検出系は、前記第1遠赤外光を検出用Siプリズムに対して入射するとともに、前記ポンプ光を前記検出用Siプリズムに隣接して配置された検出用非線形光学結晶に対して入射することにより、前記検出用非線形光学結晶を介して、前記第1遠赤外光を近赤外光に変換して出射するように構成されており、
前記検出用非線形光学結晶と前記検出用Siプリズムは、前記ポンプ光に対して第1角度を形成する入射角度で、第1周波数を有する前記第1遠赤外光を前記検出用Siプリズムに対して入射したとき、前記検出用非線形光学結晶の内部において前記第1遠赤外光が前記ポンプ光に対して、前記第1周波数に対応する角度を形成するように配置されており、
前記検出用非線形光学結晶と前記検出用Siプリズムは、前記ポンプ光に対して第2角度を形成する入射角度で、第2周波数を有する前記第1遠赤外光を前記検出用Siプリズムに対して入射したとき、前記検出用非線形光学結晶の内部において前記第1遠赤外光が前記ポンプ光に対して、前記第2周波数に対応する角度を形成するように配置されており、
前記検出用非線形光学結晶は、前記検出用非線形光学結晶に対して前記ポンプ光が入射する入射面の法線と、前記ポンプ光との間の角度δ1を調整することにより、前記第1角度と前記第2角度を等しくするように構成されている
ことを特徴とする遠赤外分光装置。
【請求項2】
前記遠赤外分光装置はさらに、
前記検出用非線形光学結晶を移動または傾けることにより前記角度δ1を調整する検出用ステージ、
前記検出用ステージを制御する制御部、
を備え、
前記制御部は、前記ポンプ光に対して前記第1角度を形成する入射角度で、前記第1周波数を有する前記第1遠赤外光を前記検出用Siプリズムに対して入射したとき、前記検出用非線形光学結晶の内部において前記第1遠赤外光が前記ポンプ光に対して前記第1周波数に対応する角度を形成するように、前記角度δ1を調整し、
前記制御部は、前記ポンプ光に対して前記第2角度を形成する入射角度で、前記第2周波数を有する前記第1遠赤外光を前記検出用Siプリズムに対して入射したとき、前記検出用非線形光学結晶の内部において前記第1遠赤外光が前記ポンプ光に対して前記第2周波数に対応する角度を形成するように、前記角度δ1を調整し、
前記制御部は、前記第1角度と前記第2角度が一致するような前記角度δ1を探索することにより、前記角度δ1を調整する
ことを特徴とする請求項1記載の遠赤外分光装置。
【請求項3】
前記検出用非線形光学結晶と前記検出用Siプリズムは、前記ポンプ光に対して第3角度を形成する入射角度で、第3周波数を有する前記第1遠赤外光を前記検出用Siプリズムに対して入射したとき、前記検出用非線形光学結晶の内部において前記第1遠赤外光が前記ポンプ光に対して、前記第3周波数に対応する角度を形成するように配置されており、
前記検出用非線形光学結晶は、前記角度δ1を調整することにより、前記第1角度と前記第3角度との間の差分を許容範囲内に収めるとともに、前記第2角度と前記第3角度との間の差分を前記許容範囲内に収めるように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の遠赤外分光装置。
【請求項4】
前記発生用非線形光学結晶は、前記第1遠赤外光を発生させるとともに、前記シード光に依拠せず前記ポンプ光に依拠して生じる第2遠赤外光を発生させるように構成されており、
前記遠赤外分光装置はさらに、前記第1遠赤外光の光路上において、前記第2遠赤外光を遮断する遮光部材を備える
ことを特徴とする請求項1記載の遠赤外分光装置。
【請求項5】
前記発生用非線形光学結晶は、前記第1遠赤外光の周波数に応じて異なる角度で前記第1遠赤外光を出射するように構成されており、
前記遮光部材は、前記第1遠赤外光の周波数に対応する位置に移動することにより、前記第1遠赤外光を通過させるとともに前記第2遠赤外光を遮断するように構成されている
ことを特徴とする請求項4記載の遠赤外分光装置。
【請求項6】
前記遠赤外分光装置はさらに、前記ポンプ光に対して前記第1角度または前記第2角度を形成する入射角度で、前記検出用Siプリズムに対して入射するように、前記第1遠赤外光を前記検出用Siプリズムに向かって反射させるミラーを備える
ことを特徴とする請求項1記載の遠赤外分光装置。
【請求項7】
前記遠赤外分光装置はさらに、前記発生用非線形光学結晶を移動させるステージを備え、
前記ステージは、前記発生用非線形光学結晶が前記第1遠赤外光を出射する出射角度に対応する位置に前記発生用非線形光学結晶を移動させる
ことを特徴とする請求項1記載の遠赤外分光装置。
【請求項8】
前記発生用非線形光学結晶は、前記第1遠赤外光の周波数に応じて異なる角度で前記第1遠赤外光を出射するように構成されており、
前記ステージは、前記出射角度に応じて、前記第1遠赤外光と前記ポンプ光との間で相互作用が生じる光路長が長くなるように、前記発生用非線形光学結晶を移動させる
ことを特徴とする請求項7記載の遠赤外分光装置。
【請求項9】
前記発生用非線形光学結晶と前記発生用Siプリズムは、前記ポンプ光に対して第4角度を形成する出射角度で、第4周波数を有する前記第1遠赤外光を前記発生用Siプリズムから出射したとき、前記発生用非線形光学結晶の内部において前記第1遠赤外光が前記ポンプ光に対して、前記第4周波数に対応する角度を形成するように配置されており、
前記発生用非線形光学結晶と前記発生用Siプリズムは、前記ポンプ光に対して第5角度を形成する出射角度で、第5周波数を有する前記第1遠赤外光を前記発生用Siプリズムから出射したとき、前記発生用非線形光学結晶の内部において前記第1遠赤外光が前記ポンプ光に対して、前記第5周波数に対応する角度を形成するように配置されており、
前記発生用非線形光学結晶は、前記発生用非線形光学結晶に対して前記ポンプ光が入射する入射面の法線と、前記ポンプ光との間の角度δ2を調整することにより、前記第4角度と前記第5角度を等しくするように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の遠赤外分光装置。
【請求項10】
前記遠赤外分光装置はさらに、
前記発生用非線形光学結晶を移動または傾けることにより前記角度δ2を調整する発生用ステージ、
前記発生用ステージを制御する制御部、
を備え、
前記制御部は、前記ポンプ光に対して前記第4角度を形成する出射角度で、前記第4周波数を有する前記第1遠赤外光を前記発生用Siプリズムから出射したとき、前記発生用非線形光学結晶の内部において前記第1遠赤外光が前記ポンプ光に対して前記第4周波数に対応する角度を形成するように、前記角度δ2を調整し、
前記制御部は、前記ポンプ光に対して前記第5角度を形成する出射角度で、前記第5周波数を有する前記第1遠赤外光を前記発生用Siプリズムから出射したとき、前記発生用非線形光学結晶の内部において前記第1遠赤外光が前記ポンプ光に対して前記第5周波数に対応する角度を形成するように、前記角度δ2を調整し、
前記制御部は、前記第4角度と前記第5角度が一致するような前記角度δ2を探索することにより、前記角度δ2を調整する
ことを特徴とする請求項9記載の遠赤外分光装置。
【請求項11】
前記発生用非線形光学結晶と前記発生用Siプリズムは、前記ポンプ光に対して第6角度を形成する出射角度で、第6周波数を有する前記第1遠赤外光を前記発生用Siプリズムから出射したとき、前記発生用非線形光学結晶の内部において前記第1遠赤外光が前記ポンプ光に対して、前記第6周波数に対応する角度を形成するように配置されており、
前記発生用非線形光学結晶は、前記角度δ2を調整することにより、前記第4角度と前記第6角度との間の差分を閾値以内に収めるとともに、前記第5角度と前記第6角度との間の差分を前記閾値以内に収めるように構成されている
ことを特徴とする請求項9記載の遠赤外分光装置。
【請求項12】
前記シード光の波長は、1066nmから1084nmまでの範囲であり、
前記第1遠赤外光の周波数は、0.5THzから5THzまでの範囲である
ことを特徴とする請求項1記載の遠赤外分光装置。
【請求項13】
遠赤外光を用いて試料を分析する遠赤外分光方法であって、
波長可変遠赤外光源から波長可変の第1遠赤外光を出射するステップ、
試料を透過した前記第1遠赤外光を検出するステップ、
を有し、
前記第1遠赤外光を出射するステップにおいては、ポンプ光とシード光を発生用非線形光学結晶に対して入射し、前記発生用非線形光学結晶に隣接して配置された発生用Siプリズムを介して、前記第1遠赤外光を出射し、
前記第1遠赤外光を検出するステップにおいては、前記第1遠赤外光を検出用Siプリズムに対して入射するとともに、前記ポンプ光を前記検出用Siプリズムに隣接して配置された検出用非線形光学結晶に対して入射することにより、前記検出用非線形光学結晶を介して、前記第1遠赤外光を近赤外光に変換して出射し、
前記検出用非線形光学結晶と前記検出用Siプリズムは、前記ポンプ光に対して第1角度を形成する入射角度で、第1周波数を有する前記第1遠赤外光を前記検出用Siプリズムに対して入射したとき、前記検出用非線形光学結晶の内部において前記第1遠赤外光が前記ポンプ光に対して、前記第1周波数に対応する角度を形成するように配置されており、
前記検出用非線形光学結晶と前記検出用Siプリズムは、前記ポンプ光に対して第2角度を形成する入射角度で、第2周波数を有する前記第1遠赤外光を前記検出用Siプリズムに対して入射したとき、前記検出用非線形光学結晶の内部において前記第1遠赤外光が前記ポンプ光に対して、前記第2周波数に対応する角度を形成するように配置されており、
前記第1遠赤外光を検出するステップにおいては、前記検出用非線形光学結晶に対して前記ポンプ光が入射する入射面の法線と、前記ポンプ光との間の角度δ1を調整することにより、前記第1角度と前記第2角度を等しくする
ことを特徴とする遠赤外分光方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠赤外領域の光を用いて試料を分析する遠赤外分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
遠赤外光はテラヘルツ波とも呼ばれ、物質への透過性と、物質固有の吸収スペクトルを得られる。したがって、可視光や赤外光に対して透過性の低い物質や、遮蔽物に包まれた物質の吸収スペクトルを得て物質を分析する際に有効である事が期待されている。この分野の技術として、時間領域分光(TDS:Time Domain Spectroscopy)法が知られている。TDSは、医薬品の成分同定や有効成分の定量分析などにおいて有用であるが、他方でダイナミックレンジが狭い課題がある。そこでピークパワーの強いis-TPG(injection-seeded THz Parametric Generator)法を用いることにより、例えば厚さが数mmのタブレット状のサンプルを測定できる可能性がある。
【0003】
下記特許文献1は、is-TPG法を用いる遠赤外光源について記載している。同文献は、『本発明は、遠赤外光の周波数を変化させても、遠赤外光の照射位置のずれを低減することができる、遠赤外光源を提供するものである。本発明に係る遠赤外光源は、遠赤外光の周波数を変化させたとき非線形光学結晶内における前記遠赤外光の発生角度の変化量を、前記遠赤外光の周波数を変化させたとき前記非線形光学結晶とプリズムとの間の界面における前記遠赤外光の屈折角の変化量と、略相殺するように構成されている』という技術を開示している(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
is-TPG法においては、遠赤外線を発生させる際に、2つのレーザ光(高パルスエネルギーのポンプ光と単一波長のシード光)を発生用非線形光学結晶に導入して、単一波長のパルス状の遠赤外線(is-TPG光)をパラメトリック発生させる。シード光の波長を変化させ、あるいは非線形光学結晶への入射角を調整すれば、発生するis-TPG光の周波数を変えることができる。発生させたis-TPG光を試料に照射し、その透過光を検出用非線形光学結晶に導入することにより近赤外光に変換して検出する。
【0006】
is-TPG光の発生角度は、その周波数に依存して変化する。したがって、is-TPG光の周波数を掃引する場合は、その周波数に応じて、検出光学系を周波数ごとに微調整したり、挿引する周波数帯域が広い場合は照明光学系や検出光学系のサイズを大きくしたりする必要がある。検出光学系に対するis-TPG光の入射位置が、周波数ごとに変化するからである。これにより、検出光学系のサイズやコストが増加する傾向がある。
【0007】
発生用非線形光学結晶に対して入射するポンプ光の一部を分岐し、検出用非線形光学結晶に対して入射することにより、検出用非線形光学結晶の内部において、is-TPG光を近赤外光へ変換することができる。このとき検出用非線形光学結晶の内部において、波長変換効率を最大にするためには、ポンプ光に対するis-TPG光の角度を、is-TPG光の周波数毎に適切に構成する必要がある。しかしこの角度を光学的に微調整することは、一定の困難をともなう。またこの角度が遠赤外分光装置間で異なっていると、検出する近赤外光の信号強度が装置間で異なってしまう可能性がある。
【0008】
特許文献1においては、is-TPG光を発生させる際における、周波数ごとの発生角度差を低減することを目的としている(同文献の0008参照)。しかし同文献においては、is-TPG光を検出する際に、検出用非線形光学結晶の内部において周波数ごとに適した角度を確保することについては、十分考慮されていない。
【0009】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、is-TPG法を用いて遠赤外光を発生させる遠赤外分光装置において、検出光学系や検出用非線形光学結晶を微調整することなく、is-TPG光を効率的に検出することができる、遠赤外分光装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る遠赤外分光装置は、第1周波数を有する遠赤外光を検出用非線形光学結晶に対して入射したときと、第2周波数を有する前記遠赤外光を前記検出用非線形光学結晶に対して入射したときとの間で、検出用Siプリズムに対する前記遠赤外光の入射角度が同じである場合であっても、前記検出用非線形光学結晶の内部において、ポンプ光に対する前記遠赤外光の角度を、前記遠赤外光の周波数ごとに適切に構成することができるように、前記検出用非線形光学結晶に対する前記ポンプ光の入射面角度を調整する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る遠赤外分光装置によれば、is-TPG法を用いて遠赤外光を発生させる遠赤外分光装置において、周波数毎に検出光学系や検出用非線形光学結晶を微調整することなく、is-TPG光を効率的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】実施形態1に係る遠赤外分光装置1の全体構成を示す側面模式図である。
【
図2A】検出系における各光の波数ベクトルの関係を示す図である。
【
図2B】遠赤外光250が、検出用Siプリズム142と検出用非線形光学結晶132に対して入射する箇所の拡大図である。
【
図2C】検出用Siプリズム142と検出用非線形光学結晶132の先端を中心にして、これらを角度δ1だけ回転させたときの図である。
【
図2D】角度δ1、遠赤外光250の周波数、および角度γ’’(遠赤外光250が検出用Siプリズム142に対して入射するときの角度)の関係を示す計算例である。
【
図3A】実施形態2に係る遠赤外分光装置1の全体構成を示す側面模式図である。
【
図3B】遠赤外光250が、発生用Siプリズム140と発生用非線形光学結晶130から出射する箇所の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施の形態1:遠赤外光源の構成>
図1Aは、本発明の実施形態1に係る遠赤外分光装置1の全体構成を示す側面模式図である。遠赤外分光装置1は、試料200に対して遠赤外光を照射することにより試料200を分析する装置である。遠赤外分光装置1は、波長可変遠赤外光源100、照明光学系150、検出光学系170、検出用非線形光学結晶132、光検出器290、制御部500、信号処理部400、を備える。
【0014】
波長可変遠赤外光源100は、発生用非線形光学結晶130に対して、互いに波長の異なるレーザ光(ポンプ光115とシード光125)を導入し、差周波発生あるいはパラメトリック発生によって遠赤外光250を発生させる。この方式はis-TPG法と呼ばれる。is-TPG法によって発生させる遠赤外光のことをis-TPG光と呼ぶことにする。
【0015】
パルスレーザ光源110はポンプ光115を出射し、波長可変光源120はシード光125を出射する。ポンプ光115の一部は、ハーフミラー等の分岐素子127によって分岐され、ポンプ光235として検出用非線形光学結晶132に対して導かれる。入射角調整機構121は、シード光125が発生用非線形光学結晶130に対して入射する入射角度を調整する。ミラー126はシード光125を発生用非線形光学結晶130へ向けて反射する。
【0016】
例えば、発生用非線形光学結晶130としてMgO:LiNbO3を用い、パルスレーザ光源110として、パルス発振のQスイッチYAGレーザ(波長:1064nm)を用い、波長可変光源120が出射するシード光125を発生用非線形光学結晶130に入れると、パラメトリック発生によって遠赤外光250を得ることができる。波長可変光源120は連続発振のレーザでもよい。発生用非線形光学結晶130側面に発生用Siプリズム140を取り付けることにより、発生した遠赤外光250を効率よく取り出すことができる。シード光125の波長を1066nmから1084nm程度の間で変化させ、さらに発生用非線形光学結晶130に対するシード光125の入射角度を調整することにより、発生する遠赤外光250(is-TPG光)の周波数を0.5THzから5THz程度の範囲で変えることができる。
【0017】
図1Bは、各光の関係を示すベクトル図である。発生する遠赤外光250の周波数をω
T、ポンプ光115の周波数をω
P、シード光125の周波数をω
Sとすると、ω
T=ω
P-ω
S(式1)が成り立つ。さらに遠赤外光250、ポンプ光115、シード光125それぞれの波数ベクトルをk
T、k
P、k
Sとすると、k
T=k
P-k
S(式2)が成り立つ。発生した遠赤外光250(0.5THz~5THz)は、発生用Siプリズム140を介して、ポンプ光115に対して約48°~36°の角度で空気中に取り出される。
【0018】
発生用非線形光学結晶130として用いているLiNbO3は、3THz以上の遠赤外光を強く吸収するので、ポンプ光115とシード光125を発生用非線形光学結晶130のできるだけ端面に近い位置に導入し、発生する遠赤外光250が発生用非線形光学結晶130内部において通過する距離をできるだけ短くする。発生用非線形光学結晶130内部における遠赤外光250の通過距離が短いほど、発生用非線形光学結晶130によって吸収される遠赤外光250の量を抑制できるからである。一方、ポンプ光115とシード光125を発生用非線形光学結晶130のできるだけ端面側に入射させて、1THz以下の低周波数の遠赤外光を発生させると、発生用非線形光学結晶130内部における低周波数の遠赤外光の吸収は抑制できるが、他方でポンプ光115の光が結晶端でケラレることなく、すべてのエネルギーを結晶に導入できるために、ポンプ光115と遠赤外光250との間で相互作用が生じる光路長も短くなるので、遠赤外光250の発生効率が低下する。これにより、遠赤外光250を効率よく発生させられないという課題がある。
【0019】
そこで、1THz以下の低周波数遠赤外光を発生させるときには、ポンプ光115とシード光125を発生用非線形光学結晶130の中心近辺へ照射すると、ポンプ光115の光が結晶端でケラレることなく、すべてのエネルギーを結晶に導入できる。これにより、遠赤外光250が発生用非線形光学結晶130の外へ出射するまでの間において遠赤外光250がポンプ光115で誘起された発生用非線形光学結晶130内部を通過する距離が長くなるので、ポンプ光115と遠赤外光250との間で相互作用が生じる距離をより長く確保できる。なお、1THz以下の低周波数の遠赤外光に対する発生用非線形光学結晶130内部における吸収は小さいので、結晶中心部で遠赤外光を発生させても問題とならない。
【0020】
本実施形態1においては、自動並進ステージ135を用いて、遠赤外光250の周波数に応じて、発生用非線形光学結晶130と発生用Siプリズム140を、ポンプ光115に対してy’軸方向に移動させる。これにより、ポンプ光115とシード光125が発生用非線形光学結晶130に対して入射する位置を変化させる。このようにすると、1THz以下の低周波数の遠赤外光250では、ポンプ光115と遠赤外光250との間で相互作用が生じる光路長を、十分長く確保でき、3THz以上の高周波数の遠赤外光250では、結晶内部で吸収されることなく、効率よく発生させることができる。
【0021】
発生用非線形光学結晶130から出射する余分な光は、ダンパー240によって回収され破棄される。後述する検出用非線形光学結晶132においても同様に、ダンパー240によって余分な光を回収および破棄する。
【0022】
<実施の形態1:TPG光を除去する構成>
発生用非線形光学結晶130内部においては、ポンプ光115に依拠しシード光125に依拠せずに発生する、ブロードな周波数帯域をもつ遠赤外光(TPG光)もわずかながら発生している。TPG光は、遠赤外光250とともに、試料200を透過して、検出用非線形光学結晶132に導入され、ポンプ光235により、ブロードな周波数をもつ近赤外線に波長変換され、光検出器290によって検出される。この信号は、is-TPG光によって生成される検出信号に対して、ノイズとなるので、検出信号の安定性に影響を与える。さらに、TPG光は出力が不安定であるので、発生用非線形光学結晶130内および検出用非線形光学結晶132内における変換効率が不安定になり、検出光300の出力が安定して観測できなくなるという課題がある。さらには、TPG光を近赤外光に変換するためにポンプ光235のエネルギーが使われてしまうので、エネルギー保存則の観点から、is-TPG光から近赤外光への波長変換効率が低下する課題がある。
【0023】
図1Bに示すように、発生用非線形光学結晶130は、遠赤外光250の周波数に応じた角度γで遠赤外光250を出射するが、TPG光はポンプ光115の存在によって発生する成分であるので、シード光125の波長を変化させても(すなわち遠赤外光250の出射角度を変化させても)、TPG光の出射角度は変化しない。そこで、ミラー161を介して遠赤外光250とTPG光をレンズ151によって集光すると、その集光スポットは遠赤外光250とTPG光との間で空間的に異なることになる。したがって、自動並進ステージ206に設置したスリット205(遮光部材)を用いて、TPG光のみ除去することができる。
【0024】
TPG光と遠赤外光250は同じ偏光を持つので、TPG光は偏光子などによって除去することはできない。またTPG光と遠赤外光250は、時間ドメインにおいてもほぼ同じパルス状の光として発生する。したがって、スリット205によってTPG光を空間的に除去することが適していると考えられる。遮光部材としてはスリット205の他に、アイリス、ピンホール、ナイフエッジなどを用いることもできる。スリット205の幅、アイリスの開口、ピンホールの大きさなどは、遠赤外光250を除去しない程度で、可能な限り小さくすることが望ましい。遮光部材の材質は、TPG光を吸収できるような樹脂やTPG光を反射する金属などであってもよい。
【0025】
シード光125の波長を変えて遠赤外光250の周波数を変化させた場合、レンズ151(焦点距離f)によって集光されたビームスポットの変異量Δは、Δ=fθ(式3)にしたがって変化する。θは遠赤外光250の発生角度である。自動並進ステージ206を式3にしたがって移動させることにより、常に所望周波数の遠赤外光250のみを取り出すことができる。
【0026】
上記構成により、TPG光が遠赤外光250とともに検出用非線形光学結晶132に対して導入されることがないので、遠赤外光250のみを効率よく波長変換することができ、安定な出力の検出光300を得ることができる。また、波長変換の際に、TPG光を近赤外に変換するためにポンプ光235のエネルギーを使うことがないので、遠赤外光250の変換効率を上昇させることができる。
【0027】
スリット205を用いてTPG光を除去する方式と、上記の発生用非線形光学結晶130を自動並進ステージ135で移動させる方式を組み合わせると、光検出器290において検出する周波数帯域を広げることができる。
【0028】
<実施の形態1:光学系の構成>
遠赤外分光装置1の製造時における光学調整の際には、is-TPG光が最高出力になるように、ポンプ光115またはシード光125、またはその両方の光軸を調整する。複数の遠赤外分光装置1を製造するとき、わずかな光軸の違いによって、is-TPG光の発生位置や発生角度が装置間で異なってしまう場合がある。この装置間差を制御するのは難しく、試料200、検出光学系170、検出用非線形光学結晶132の位置をすべて調整しなければならないという課題がある。
【0029】
そこで、発生したis-TPG光(遠赤外光250)をミラー161によって反射し、スリット205を通過させ、回転ステージ163に搭載したミラー162によって試料200へ向けて反射する。遠赤外光250の周波数を変更すると、遠赤外光250の発生角度が変化するが、回転ステージ163を用いて、ミラー162の角度を補正するとよい。回転ステージ163の回転中心はミラー162の表面にあるようにし、ミラー162上の回転中心と遠赤外光250の発生位置が鏡像関係になるようにすると、周波数を変えたときであっても、遠赤外光250はミラー162の回転中心に常に入射することになる。上記鏡像関係は、レンズ151の光軸方向の位置により調整するとよい。また、紙面に垂直な方向の光に関しては、遠赤外光250の角度は周波数に依存しないので、紙面に平行な方向のみ考えればよい。
【0030】
ミラー162によって反射された遠赤外光250は、レンズ152により平行光に変換され、レンズ156を用いて試料200に対して集光される。これにより、遠赤外光250の周波数が変わっても、試料200の常に同じ位置に対して遠赤外光250が照射される。
【0031】
照明光学系150の上記構成を用いることにより、複数の遠赤外分光装置1間においても、ミラー161と162とレンズ151のみで、遠赤外光250の方向や位置を簡単に補正することができる。
【0032】
検出光学系170は、レンズ177と179を有する。レンズ177は、試料200を通過した遠赤外光250を平行光に変換する。レンズ179は、遠赤外光250を検出用Siプリズム142に対して集束させる。検出用Siプリズム142に対する遠赤外光250の入射角度が後述するγ’’となるように、照明光学系150/検出光学系170/ステージ145を調整する。
【0033】
<実施の形態1:検出系の構成>
試料200を通過した遠赤外光250は、検出光学系170と検出用Siプリズム142を経て、検出用非線形光学結晶132に導入される。遠赤外光250は、検出用非線形光学結晶132により、波長1066nm~1084nm付近の近赤外光(検出光300)に波長変換される。検出光300は、近赤外光に感度を有する光検出器290によって光電変換され、検出信号として検出される。
【0034】
図2Aは、検出系における各光の波数ベクトルの関係を示す図である。各光のベクトル関係は、発生時と同様に
図2Aのように表すことができる。検出用非線形光学結晶132による波長変換を効率的に実施するためには、ポンプ光235に対して遠赤外光250が形成する角度γを適切に構成する必要がある。遠赤外光250の周波数が変化するとγも変化するので、適切なγを確保するためには、例えば検出用非線形光学結晶132と検出用Siプリズム142をステージ145によって移動(または角度を変更)することが必要となる。しかしそのような微調整を実施するためには、ステージ145の制御精度などを相応に確保する必要があり、装置構成が複雑になってしまう。
【0035】
そこで本実施形態1においては、遠赤外光250が、検出用Siプリズム142と検出用非線形光学結晶132に対して入射するときの屈折現象を利用して、検出用非線形光学結晶132内部における遠赤外光250の角度(すなわち
図2Aと2Bにおける角度γ)を調整する。
【0036】
図2Bは、遠赤外光250が、検出用Siプリズム142と検出用非線形光学結晶132に対して入射する箇所の拡大図である。遠赤外光250は、検出用Siプリズム142に対して入射するときその境界面で屈折し、さらに検出用非線形光学結晶132に対して入射するときその境界面で屈折する。ポンプ光235に対する遠赤外光250の角度γを周波数ごとに適切にセットする必要がある。
【0037】
図2Cは、検出用Siプリズム142と検出用非線形光学結晶132の先端を中心にして、これらを角度δ1だけ回転させたときの図である。遠赤外光250の周波数ごとに、
図2Cのように検出用Siプリズム142と検出用非線形光学結晶132を回転させれば、検出用非線形光学結晶132内部における角度γを適切にセットできる。しかし周波数ごとにこのような微調整をするのは、制御精度などの観点から困難である。
【0038】
図2Dは、角度δ1、遠赤外光250の周波数、および角度γ’’(遠赤外光250が検出用Siプリズム142に対して入射するときの角度)の関係を示す計算例である。ここでは角度δ1=0°、3°、7°の例を示した。検出用非線形光学結晶132内部における適切な角度γを確保するためには、検出用Siプリズム142に対する入射角度γ’’を適切にセットする必要がある。遠赤外光250の周波数に応じて、適切なγ’’も変化する。さらにδ1を変化させると、周波数とγ’’との間の関係も変化することがわかる。
【0039】
図2Dによれば、δ1=7°のとき、遠赤外光250の周波数を変化させることにともなう適切な入射角度γ’’の変化が最も小さいことが分かる。本発明者等は、このような角度δ1が存在することを見出した。そこで本実施形態1においては、周波数変化にともなう角度γ’’の変化が最も小さくなるように、ステージ145によって角度δ1をセットすることとした(
図2Dの例においてはδ1=7°)。これにより、遠赤外光250の広い周波数帯域にわたって、入射角度γ’’のための複雑な補正機構を必要とせず、検出光300を効率的に発生させることができる。
【0040】
周波数変化にともなうγ’’の変化が最も小さいδ1(
図2Dにおいてはδ1=7°)の特性においては、γ’’が同一となる周波数が2つ以上存在することが望ましい。例えば
図2Dのδ1=7°の例においては、周波数が1.5THz付近と4.0THz付近において、γ’’の値が同じである。さらにその前後の周波数帯においても、γ’’が略同一の範囲内(この例においては、1.5THz付近におけるγ’’との間の差分が許容範囲内であり、かつ4.0THz付近におけるγ’’との間の差分も許容範囲内)に収まっていることが望ましい。
【0041】
望ましいδ1(
図2Dにおいてはδ1=7°)は、遠赤外分光装置1を用いて試料200を分析する前にあらかじめセットしておいてもよいし、測定開始後において適切なδ1の値を探索してもよい。いずれの場合においても、ステージ145によって検出用Siプリズム142と検出用非線形光学結晶132の角度を変更しながら、適切なγ’’をセットするとともに、周波数を変化させたときにおけるγ’’の変化が最も小さくなるようなδ1(例えば2つの周波数においてγ’’が同一となるようなδ1)を探索すればよい。ステージ145は制御部500によって制御すればよい。自動並進ステージ135も同様に制御部500によって制御できる。
【0042】
<実施の形態1:近赤外光を検出する構成>
遠赤外光から変換された検出光300は光検出器290によって検出される。光検出器290は、複数の受光素子が1次元配列に並んだ受光素子(1Dアレイ検出器)でもよいし、複数の受光素子が2次元配列に並んだ受光素子(2Dアレイ検出器)でもよい。近赤外用の1Dアレイ検出器または2Dアレイ検出器は、比較的入手が容易であり、応答速度も速く、常温で使用できる。したがって、これらの検出器は産業応用に適している。信号処理部400は、光検出器290のもつノイズや、装置内部の可視光や近赤外光の散乱光などによるノイズ等によるS/N比の低下をふせぐために、測定した信号から、後に遠赤外線を遮断した際の信号強度を差し引く。光検出器290の大きさに対して検出光が小さい場合は、光検出器290上の検出光が存在する特定の範囲を積分した値を検出光強度として、信号処理部400に送るとよい。また、周波数を挿引した場合、検出光300のビーム位置は変化するので、その処理する信号の範囲を追従するとよい。検出光300と同様に、ノイズ成分も強度が異なるので、周波数毎に対応した範囲のノイズを測定する必要がある。
【0043】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る遠赤外分光装置1は、第1周波数(例えば
図2Dにおける1.5THz付近)を有する遠赤外光250を検出用非線形光学結晶132に対して入射したときと、第2周波数(例えば
図2Dにおける4.0THz付近)を有する遠赤外光250を検出用非線形光学結晶132に対して入射したときとの間で、検出用Siプリズム142に対する遠赤外光250の適切な入射角度γ’’が同じとなるように、検出用非線形光学結晶132に対するポンプ光235の入射面の角度δ1を調整する。ここでいう適切な入射角度γ’’とは、検出用非線形光学結晶132内部において、遠赤外光250を近赤外光へ変換する際の効率がよい角度γを、遠赤外光250の周波数に応じて確保できるような角度である。これにより、遠赤外光250の広い周波数帯域において、入射角度γ’’のための複雑な補正機構を必要とせず、検出光300を効率的に発生させることができる。
【0044】
本実施形態1に係る遠赤外分光装置1は、遠赤外光250の発生角度とTPG光の発生角度が互いに異なる場合において、スリット205の位置を式3にしたがって調整することにより、TPG光のみを遮断する。これにより、TPG光に起因するノイズを抑制するとともに、ポンプ光235のエネルギーをTPG光のため用いないようにすることができる。
【0045】
本実施形態1に係る遠赤外分光装置1は、遠赤外光250の周波数に応じてその発生角度が異なる場合であっても、検出用Siプリズム142に対して、遠赤外光250が適切な入射角度γ’’で入射するように、ミラー162によって遠赤外光250の角度を調整する。これにより、遠赤外光250の周波数を変更した場合であっても、変換効率のよい角度γを常に確保することができる。さらに、検出用Siプリズム142と検出用非線形光学結晶132の角度を変更しなくとも、同一の入射角度γ’’の下で、変換効率のよい角度γを常に確保することができる。
【0046】
本実施形態1に係る遠赤外分光装置1は、遠赤外光250の周波数に応じて、ポンプ光115と遠赤外光250との間の相互作用が生じる光路長を発生用非線形光学結晶130内部においてできるだけ長く確保できるように、自動並進ステージ135によって発生用非線形光学結晶130の位置を調整する。これにより、広範な周波数範囲にわたって、ポンプ光115と遠赤外光250との間で相互作用が生じる光路長を十分長く確保し、効率よく遠赤外光250を発生させることができる。
【0047】
<実施の形態2>
実施形態1においては、検出用非線形光学結晶132に対するポンプ光235の入射面の角度δ1を調整することにより、γ’’を微調整しなくとも、検出側における変換効率を確保する構成例を説明した。同様の角度調整は、発生用非線形光学結晶130においても実施することができる。そこで本発明の実施形態2では、検出側に加えて発生側においても、ポンプ光115が入射する入射面の角度を調整する構成例を説明する。
【0048】
図3Aは、本実施形態2に係る遠赤外分光装置1の全体構成を示す側面模式図である。
図3Aに示す構成においては、
図1Aの構成と比較して、ミラー161からミラー162に至る光学素子を省略している。その他構成は実施形態1と同様である。ただし以下に説明するように、発生用非線形光学結晶130に対してポンプ光115が入射する入射面の角度δ2を調整する。
【0049】
図3Bは、遠赤外光250が、発生用Siプリズム140と発生用非線形光学結晶130から出射する箇所の拡大図である。発生用非線形光学結晶130内部において、遠赤外光250は、ポンプ光115に対して角度γ2を形成して発生する。遠赤外光250は、発生用Siプリズム140と発生用非線形光学結晶130との間の境界面において屈折するとともに、発生用Siプリズム140と空気との間の境界面において屈折する。ポンプ光115に対する出射角度はγ2’’となる。γ2、γ2’、γ2’’は、遠赤外光250の周波数ごとに変化する。
【0050】
発生用Siプリズム140と発生用非線形光学結晶130においても、
図2Dと同様の関係が存在する。すなわち、遠赤外光250の周波数を変更してもγ2’’が略一定となるような、入射面の角度δ2が存在する。そこで本実施形態2においては、自動並進ステージ135により、発生用Siプリズム140と発生用非線形光学結晶130を傾けて角度δ2を形成する。これにより、遠赤外光250の周波数を変更しても、遠赤外光250の発生角度γ2’’はほぼ変化しないので、照明光学系150などの光学系の大きさを小さくしても問題ないし、照射される試料200の位置も変わらないので、移動ステージで補正する必要もなくなる。
【0051】
ただし実施形態1と同様に、遠赤外光250の周波数を変更するときは、ポンプ光115に対する発生用非線形光学結晶130と発生用Siプリズム140の位置を、自動並進ステージ135によって適切な位置になるように移動することが望ましい。さらには実施形態1と同様に、角度δ2を自動並進ステージ135によって探索してもよい。
【0052】
試料200を透過した遠赤外光250は、実施形態1と同様に検出用Siプリズム142を介して検出用非線形光学結晶132に導入される。実施形態1と同様に、検出用非線形光学結晶132と検出用Siプリズム142角度δ1だけ傾けて設置する。これにより検出側においても実施形態1と同様の効果を発揮できる。
【0053】
本実施形態2においては、ミラー161からミラー162に至る光学素子を省略しているので、遠赤外分光装置1を小型化し、かつコストを抑制できる。ただしTPG光を除去するスリット205などがないので、TPG光によるノイズやエネルギー消費を許容できる用途において、本実施形態2を用いることが望ましい。これに対して実施形態1においては、TPG光をスリット205などによって除去するためには、遠赤外光250の発生角度とTPGの発生角度が互いに異なる必要があるので、波長可変遠赤外光源100において本実施形態2の構成を用いるべきではない。
【0054】
<本発明の変形例について>
以上の実施形態において、遠赤外分光装置1は、例えば試料200中の化学物質の成分含有量の定量分析や定性分析、あるいは、試料200内における異物の検査などの検査工程において、用いることができる。遠赤外光250を用いて試料200を分析するその他適当な用途においても用いることができる。
【0055】
以上の実施形態において、制御部500は、遠赤外分光装置1の全体を制御することができる。信号処理部400と制御部500は、その機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアを用いて構成することもできるし、その機能を実装したソフトウェアを演算装置が実行することによって構成することもできる。
【符号の説明】
【0056】
1:遠赤外分光装置
100:波長可変遠赤外光源
110:パルスレーザ光源
120:波長可変光源
115、235:ポンプ光
125:シード光
130:発生用非線形光学結晶
132:検出用非線形光学結晶
135:自動並進ステージ
140:発生用Siプリズム
142:検出用Siプリズム
145:ステージ
150:照明光学系
152、156:レンズ
161、162:ミラー
163:回転ステージ
200:試料
205:スリット
206:自動並進ステージ
250:遠赤外光(is-TPG光)
290:光検出器
300:検出光
400:信号処理部
500:制御部