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  • 特許-前立腺癌の検出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】前立腺癌の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20230309BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20230309BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20230309BHJP
   C07K 14/37 20060101ALI20230309BHJP
   C07K 14/375 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
G01N33/574 B ZNA
G01N33/543 501B
C12N15/31
C07K14/37
C07K14/375
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019545075
(86)(22)【出願日】2018-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2018035155
(87)【国際公開番号】W WO2019065527
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2017191505
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】522158557
【氏名又は名称】MGCウッドケム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106448
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 伸介
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和利
(72)【発明者】
【氏名】野々村 祝夫
(72)【発明者】
【氏名】三善 英知
(72)【発明者】
【氏名】小林 夕香
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/138457(WO,A1)
【文献】特許第4514163(JP,B2)
【文献】国際公開第2010/090264(WO,A1)
【文献】桝田実花ほか,前立腺がんの革新的な糖鎖バイオマーカーとしての尿中フコシル化PSA,日本分子腫瘍マーカー研究会プログラム・講演抄録,2017年08月30日,Vol.37th,PP.40-41
【文献】斎藤誠一ほか,糖鎖マーカー,日本臨床,2011年06月20日,Vol.69,増刊号5,PP.129-134
【文献】Kazutoshi FUJITA et al.,Decreased fucosylated PSA as a urinary marker for high Gleason score prostate cancer,Oncotarget,2016年08月,Vol.7,No.35,PP.56643-56649
【文献】LI, Q.K. et al.,Serum Fucosylated Prostate-specific Antigen (PSA) Improves the Differentiation of Aggressive from No,Theranostics,2015年01月01日,Vol. 5, Issue 3,PP.267-276
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
C07K 14/375
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から採取された血清からなる検体に含まれるフコシル化PSAと、フコースα1→6特異的レクチンとを反応させ、反応した前記レクチンを検出することを含む前立腺癌の検出方法であって、
前記フコシル化PSAと前記レクチンとの反応工程及びそれ以降の処理工程からなる工程群の少なくとも一工程のpHを7.4以上11.0未満に調整することを特徴とする、前記前立腺癌の検出方法。
【請求項2】
前記pHは、8.5よりも高い、請求項1に記載の前立腺癌の検出方法。
【請求項3】
前記フコースα1→6特異的レクチンは、モエギタケ科、キシメジ科、テングタケ科又はタコウキン科に属する担子菌から抽出されたものである、請求項1又は2に記載の前立腺癌の検出方法。
【請求項4】
前記フコースα1→6特異的レクチンは、スギタケレクチン、ツチスギタケレクチン、サケツバタケレクチン、クリタケレクチン、コムラサキシメジレクチン、及びベニテングタケレクチンの少なくとも一種である、請求項1~3のいずれかに記載の前立腺癌の検出方法。
【請求項5】
前記フコースα1→6特異的レクチンは、
(a)配列番号1~5のいずれかに示すアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチド、又は、
(b)配列番号1~5のいずれかに示すアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸が欠失、挿入又は置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチド、
を含み、かつ、配列番号1~5のいずれかに示すアミノ酸配列を有するタンパク質と機能的に同等なタンパク質又はペプチドである、請求項1~4のいずれかに記載の前立腺癌の検出方法。
【請求項6】
前記フコースα1→6特異的レクチンは、標識されていることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の前立腺癌の検出方法。
【請求項7】
前記フコースα1→6特異的レクチンと、抗体とを用いて前記フコシル化PSAを検出することを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の前立腺癌の検出方法。
【請求項8】
前記フコシル化PSAと前記フコースα1→6特異的レクチンとの反応が、アルブミンの存在下で行われる、請求項1~7のいずれかに記載の前立腺癌の検出方法。
【請求項9】
前記フコシル化PSAと前記フコースα1→6特異的レクチンとの反応によるシグナル(反応値)が、グリソンスコア6以下の者から得られているシグナル(参照値)と比べて高い場合に、前記被験者での高リスク前立腺癌が示唆される、請求項1~8のいずれかに記載の前立腺癌の検出方法。
【請求項10】
フコースα1→6特異的レクチンと、被験者から採取される血清からなる検体に含まれる前記フコシル化PSAと前記フコースα1→6特異的レクチンとの反応工程及びそれ以降の処理工程を含む工程群から選ばれる少なくとも一工程のpHを7.4以上11.0未満に調整するためのアルカリ性試薬とを含む前立腺癌検出用診断薬キット。
【請求項11】
前記pHは、8.5よりも高い、請求項10に記載の前立腺癌検出用診断薬キット。
【請求項12】
さらに、抗PSA抗体を含む、請求項10又は11に記載の前立腺癌検出用診断薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺癌の検出方法に関し、より詳細には、血清中フコシル化PSAの測定を用いる前記検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺は、男性の膀胱の真下に尿道を取り囲むように存在する生殖器である。前立腺癌が、近年、増加している。前立腺癌の検診方法として、血中PSA検診が公知である。PSAは、前立腺特異抗原(prostate specific antigen)である。PSAには、遊離型PSA(「F-PSA」又は「フリーPSA」ともいう)と、α1-アンチキモトリプシン(ACT)と結合した複合型PSA(「PSA-ACT」ともいう)とがある。ヒトの血中PSA値は、遊離型PSAと複合型PSAの合計値となる。健常者の血中PSA値は、加齢とともに上昇するが、一般に、4ng/mL未満とされる。4ng/mL以上の異常高値が測定された場合には、前立腺癌が疑われ、検査陽性となる。
【0003】
PSA検診によって検査陽性となった者は、確定診断のために前立腺生検が行われる。この生検では、臨床医が前立腺針を用いて前立腺癌の疑われる領域から組織を採取し、その組織や細胞を病理組織学的検査にかけ、前立腺癌のリスク分類(悪性度や重症度)を決定する。
【0004】
上記リスク分類は、血中PSA値、グリソンスコア、及び病期分類(TNM分類)の3つの因子を組み合わせて総合的に判別される。グリソンスコア(以下、GSともいう)とは、組織内の癌の悪性度を判断する指標である。まず、採取した検体の癌組織学形態を、組織の状況と浸潤の状況に基づいて、G1~G5のパターンに分類する(前立腺癌取扱い規約第4版)。G3~G5の評価は、以下の通りである。
グリソンパターン
G3:明瞭な管腔を有する独立腺管よりなる。既存の非腫瘍性腺管の間に浸潤する。
G4:癒合腺管、篩状腺管、hypernehromatoid、不明瞭な腺管形成を示すもの。
G5:充実性増殖、索状配列、弧在性増殖、面疱状壊死を示すもの。
【0005】
最も多い病変(優勢病変)と2番目に多い病変(随伴病変)のパターン判定をそれぞれ行い、それらの数値の合計をグリソンスコア(GS)とする。GSが高いほど、癌の悪性度が高い。GS7以上の前立腺癌は、進行し、また転移するため、外科的手術等の治療を早期に要する高リスク前立腺癌と呼ばれる。
【0006】
TNM分類とは、前立腺癌を、腫瘍の大きさ(T)、リンパ節への転移(N)、及び遠隔転移(M)の観点で評価する国際規格である。TNM分類から、さらにステージ(病期)が決定される。
【0007】
血中PSA値は、加齢、前立腺の炎症、及び前立腺肥大症によっても上昇する。血中PSA値が異常に高い患者を生検しても、前立腺癌細胞の検出率は30%程度である。また、表6に示す前立腺患者群の血中PSA値及びGSを見ると、血中PSA値が高いからといって、前立腺癌の悪性度が高いわけではない。
【0008】
このような状況において、前立腺癌の検出の確度が血中PSA検診よりも高い前立腺癌の検出方法の開発が望まれる。しかも、その検出方法は、グリソンスコア等のリスク分類と相関を持つことが望ましい。測定値からリスク分類や高リスク前立腺癌を予測できれば、生検を行なう頻度を削減できる。
【0009】
PSAに結合した糖鎖の癌性変化に基づいて前立腺癌を検出しようとする報告が公知である。例えば、特許文献1に記載のPSAの分析方法は、フコースα1-2ガラクトース残基と親和性のあるレクチンとPSA含有試料とを接触させ、前記レクチンと親和性を有するPSAの量を判定することを特徴とする。前立腺癌患者の血液から採取された検体はα1-2フコシル化PSAが増大するという知見に基づいて、前立腺癌及び前立腺肥大症が鑑別される。
【0010】
非特許文献1には、正常PSAには2本鎖のアスパラギン結合型糖鎖(N-グリカン)がほとんど含まれず、ハイブリッドタイプや高マンノースタイプが主体であるのに対して、前立腺癌由来のPSAには末端にシアル酸がα2-3で結合した分岐N-グリカンが多いことが記載されている。
【0011】
非特許文献2には、血中PSA検査値が4~10ng/mLの前立腺癌又は前立腺肥大症患者の血中フコシル化PSAを、α1-2フコースに親和性を有するUEA-1レクチンを用いるELLAで測定すると、前立腺癌患者のフコシル化PSAは、前立腺肥大症患者と比べて有意に高いと報告されている。
【0012】
非特許文献3は、血中フコシル化PSAレベルを、AALを用いる多重磁性ビーズ基礎免疫分析(multiplex magnetic bead-based immunoassay)で調べたところ、血中フコシル化PSAレベルがGSの増大に従って増大したことを報告する。この文献は、血中フコシル化PSAレベルが悪性前立腺癌と非悪性前立腺癌とを区別するためのサロゲートバイオマーカーとなり得ると示唆する。
【0013】
非特許文献4は、尿中フコシル化PSAのレベルをAAL又はPhoSLを用いたレクチン抗体ELISAで調べたところ、GSの高い前立腺癌患者ほど、そのレベルが低かったことを報告する。この文献は、尿中フコシル化PSAレベルの減少が、GSの高い前立腺癌患者を検出するためのマーカーとなり得ることを示唆する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】WO2010/090264A1(PSAの分析方法、及び前記分析方法を用いた前立腺癌と前立腺肥大症との鑑別方法)
【文献】特許4514163(フコースα1→6特異的レクチン)
【文献】特開2011-148736(ペプチド)
【非特許文献】
【0015】
【文献】M. Tajiri et al.,’’Oligosaccharide profiles of the prostate specific antigen in free and complexed forms from the prostate cancer patient serum and in seminal plasma: a glycopeptide approach.’’,Glycobiology vol.18,No.1,2008,p2-8
【文献】Meriam V.Dwek et al.,’’A sensitive assay to measure biomarker glycosylation demonstrates increased fucosylation of prostate specific antigen (PSA) in patients with prostate cancer compared with benign prostatic hyperplasia’’,Clinica Chimica Acta,41,(2010),p1935-1939
【文献】Qing Kay Li et.al.,’’Serum Fucosylated Prostate-specific Antigen (PSA) Improves the Differentiation of Aggressive from Non-aggressive Prostate Cancers’’,Theranostics.2015;5(3):267-276
【文献】Kazutoshi Fujita et.al.,’’Decreased fucosylated PSA as a urinary marker for high Gleason score prostate cancer’’,Oncotarget.2016 Aug 30;7(35):56643-56649
【文献】Yuka Kobayashi et al.,’’A Novel Core Fucose-specific Lectin from the Mushroom Pholiota squarrosa’’,J.Biol.Chem,2012,287,p33973-33982
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、従来のPSA検診よりも確度の高い前立腺癌の検出方法を提供する。本発明の別の目的は、測定値がリスク分類と相関する前立腺癌の検出方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、上記課題を鋭意検討したところ、血清中フコシル化PSAにフコースα1→6特異的レクチンを作用させる工程及びそれ以降の処理工程の少なくとも一工程のpHを特定のアルカリ性域に調整することにより、前立腺癌の検出の確度が向上することを発見した。この知見に基づけば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
すなわち、本発明は、被験者から採取された血清からなる検体に含まれるフコシル化PSAと、フコースα1→6特異的レクチンとを反応させ、反応した前記レクチンを検出することを含む前立腺癌の検出方法であって、前記フコシル化PSAと前記レクチンとの反応工程及びそれ以降の処理工程からなる工程群の少なくとも一工程のpHを7.4以上11.0未満に調整することを特徴とする、前記前立腺癌の検出方法を提供する。
【0019】
非特許文献1~2に開示の方法は、α1→6フコース糖鎖を検出していない点で、本発明の検出方法と明確に相違する。非特許文献3では、血清中フコシル化PSAを、AALを用いて測定している。後述の比較例2に示すように、AALは、非前立腺癌の検出率(偽陽性率)が高い。一方、本発明は、前立腺癌を検出率(陽性率)が高く、かつ非前立腺癌の検出率(偽陽性率)が低い点で、非特許文献3の方法よりも優れる。非特許文献4では、尿中フコシル化PSAを、PhoSLを用いて測定している。本発明の方法は、血清中フコシル化PSAを測定する点で、非特許文献4の方法と相違する。非特許文献4では、フコシル化PSAとPhoSLとの複合体に基づくシグナルが、GSの増大に伴って低下する。そのため、非特許文献4の対象は、予め測定した血中PSA値が高いために前立腺癌の疑われる者となる。一方、前立腺癌の疑われる者に限定されない本発明の方法は、初期検診として使用される。
【0020】
前記フコースα1→6特異的レクチンは、例えばモエギタケ科、キシメジ科、テングタケ科又はタコウキン科に属する担子菌から抽出されたものである。
【0021】
前記フコースα1→6特異的レクチンは、例えばスギタケレクチン、ツチスギタケレクチン、サケツバタケレクチン、クリタケレクチン、コムラサキシメジレクチン、及びベニテングタケレクチンの少なくとも一種である。
【0022】
前記フコースα1→6特異的レクチンは、例えば、
(a)配列番号1~5のいずれかに示すアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチド、又は、
(b)配列番号1~5のいずれかに示すアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸が欠失、挿入又は置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチド、
を含み、かつ、配列番号1~5のいずれかに示すアミノ酸配列を有するタンパク質と機能的に同等なタンパク質又はペプチドである。
【0023】
前記フコースα1→6特異的レクチンは、標識されていてもよい。
【0024】
前記フコースα1→6特異的レクチンと、抗体とを用いたアッセイにより、前記フコシル化PSAを検出してもよい。
【0025】
前記フコシル化PSAと前記フコースα1→6特異的レクチンとの反応は、アルブミンの存在下で行われることが好ましい。
【0026】
前記フコシル化PSAと前記フコースα1→6特異的レクチンとの反応によるシグナル(反応値)が、グリソンスコア6以下の者から得られているシグナル(参照値)と比べて高い場合に、前記被験者での高リスク前立腺癌が示唆される。「高リスク前立腺癌」とは、本明細書において、グリソンスコアが7以上の進行性前立腺癌を意味する。
【0027】
本発明は、また、フコースα1→6特異的レクチンと、被験者から採取される血清からなる検体に含まれる前記フコシル化PSAと前記フコースα1→6特異的レクチンとの反応工程及びそれ以降の処理工程を含む工程群から選ばれる少なくとも一工程のpHを7.4以上11.0未満に調整するためのアルカリ性試薬とを含む前立腺癌検出用診断薬を提供する。
【0028】
前記前立腺癌検出用診断薬は、さらに、抗PSA抗体を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
PSA検診による血中PSA値は、加齢や、前立腺肥大症や前立腺炎症等の非前立腺癌によっても上昇するため、血中PSA値による前立腺癌の検出確度は低い。一方、血清中フコシル化PSAをフコースα1→6特異的レクチンと反応させる工程又はそれ以降の処理工程を特定のアルカリ性域で行うことを特徴とする本発明の検出方法は、後述の実施例で実証されるように、前立腺癌を高い確度で検出する。
【0030】
従来のPSA検診では、悪性度の高い前立腺癌と悪性度の低い前立腺癌とを区別することが困難であった。血中PSA値が高くて前立腺癌が疑われる者は、生検によりグリソンスコア等のリスク分類を評価する必要があった。一方、本発明の方法では、前立腺癌のリスク度(悪性度)が高いほど、血中フコシル化PSA-フコースα1→6特異的レクチンの複合体の反応値が増大する、すなわち、反応値とリスク度(悪性度)とが相関する。
【0031】
本発明の検出方法は、非侵襲性でありながら、本来治療すべき患者を容易に選別することが期待される。本発明の方法は、また、血中PSA検査陽性の患者に対して前立腺の生検実施に先立ち、前立腺癌の有無について有用な情報を提供することも可能である。血中PSA値がグレーゾーンの患者にとっては、前記検出レベルの高低が生検実施の必要性を判断する指標となる。また、血中PSA値が基準値より明らかに高い患者にとっては、前記検出反応値レベルの高低が悪性度の判別の指標となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】α1→6フコースオリゴ糖及び非α1→6フコースオリゴ糖の構造図である。
図2】α1→6フコースオリゴ糖及び非α1→6フコースオリゴ糖の別の構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明の実施の形態をより詳細に説明する。本発明の前立腺癌の検出方法(以下、本発明の方法という)は、ヒトの血清からなる検体に含まれるフコシル化PSAにフコースα1→6特異的レクチンを特定の条件で作用させ、フコシル化PSAとフコースα1→6特異的レクチンとの複合体に基づくシグナル(反応値)を測定する。
【0034】
本発明の方法の対象となる第一の候補は、健康診断としてPSA検診を検討するヒト男性である。本発明の検出方法は、後述の実施例で実証されるように、PSA検診よりも高い確度で前立腺癌を検出する。
【0035】
本発明の方法の対象となる第二の候補は、PSA検診を受けて血中PSA値が4ng/mL以上の異常高値となった者である。血中PSA値が4ng/mL以上であると、前立腺癌が疑われ、検査陽性となる。検査陽性の患者には、GS6のように治療の必要のない患者や、GS7~8のように癌が進行した患者が含まれる。本発明の方法では、前立腺癌の進行度に従って、フコシル化PSA-フコースα1→6特異的レクチンの複合体の反応値が増大するので、本発明の方法は、生検の必要性を判断する材料や患者の癌の悪性度に関する情報を提供可能である。
【0036】
特に、血中PSA値が4~20ng/mLの患者は、検査陽性であっても、前立腺癌でない可能性が高く、もしくは前立腺癌であってもGS6で治療不要である可能性が高い。本発明の方法は、このような患者が生検を必要とするか判断する材料を提供可能である。
【0037】
上記フコースα1→6特異的レクチンは、
(1)α1→6フコース糖鎖に対する結合定数の下限、及び
(2)α1→6フコースを含まない糖鎖及びα1→6フコースを含まない糖脂質系糖鎖に対する結合定数の上限
によって定義可能である。
【0038】
上記フコースα1→6特異的レクチンは、より具体的には、以下の特性〔1〕~〔3〕をすべて有する。
〔1〕フコースα1→6特異的レクチンは、下記構造式(1):
【化1】
〔式中、Gal、GlcNAc、Man、及びFucは、それぞれ、ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、マンノース、及びフコースを意味する〕
を有するα1→6フコース糖鎖No.405に対して結合定数1.0×10-1以上(25℃において)で示される親和性を有する。
【0039】
〔2〕フコースα1→6特異的レクチンは、下記構造式(2):
【化2】
〔式中、GlcNAc、及びManは、それぞれ、N-アセチルグルコサミン、及びマンノースを意味する〕
を有するα1→6フコースを含まない糖鎖No.003に対して結合定数が1.0×103-1以下(25℃において)である。
【0040】
〔3〕フコースα1→6特異的レクチンは、下記構造式(3):
【化3】
〔式中、Gal、GlcNAc、Fuc、及びNeu5Acは、それぞれ、ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、フコース、及びN-アセチルノイラミン酸を意味する〕
を有するα1→6フコースを含まない糖脂質系糖鎖No.909に対して、結合定数が1.0×103-1以下(25℃において)である。
で定義される。
【0041】
前記結合定数は、本明細書において、例えばフロンタルアフィニティクロマトグラフィー(FAC法)を用い、分析温度25℃において測定される数値を意味する。FAC法の詳細は、例えば、本出願人の一部が出願した特許文献2に記載されている。
【0042】
前記フコースα1→6特異的レクチンのα1→6フコース糖鎖No.405に対する結合定数(25℃において)は、好ましくは5.0×10-1以上、より好ましくは1.0×10-1以上、さらに好ましくは2.0×10-1以上である。
【0043】
前記α1→6フコースを含まない糖鎖No.003及びα1→6フコースを含まない糖脂質系糖鎖No.909に対する結合定数(25℃において)は、通常、1.0×10-1以下であり、好ましくは1.0×10-1以下、特に好ましくは0であることを意味する。
【0044】
前記フコースα1→6特異的レクチンは、さらに糖鎖No.405の非還元末端にシアル酸を有するα1→6フコース糖鎖に対しても高い親和性を有してもよい。高い親和性とは、結合定数(25℃において)が、好ましくは1.0×10-1以上、より好ましくは5.0×10-1以上、さらに好ましくは1.0×10-1以上を意味する。一方、従来のレクチンは、非還元末端にシアル酸を有するα1→6フコース糖鎖に対して親和性が低いものもある。ここで低い親和性とは、結合定数(25℃において)が1.0×10-1以下を意味する。
【0045】
前記フコースα1→6特異的レクチンは、さらにα1→6フコースの結合したN結合型の一本鎖、二本鎖、三本鎖及び/又は四本鎖の糖鎖に対する結合定数(25℃において)が、好ましくは1.0×10-1以上、より好ましくは5.0×10-1以上、さらに好ましくは1.0×10-1以上で示される親和性を有する。
【0046】
前記フコースα1→6特異的レクチンのSDSポリアクリルアミド電気泳動法による分子量は、通常、4,000~40,000であり、好ましくは4,000~20,000である。ここで、SDSポリアクリルアミド電気泳動法による分子量は、例えばLaemmiの方法(Nature,227巻,680頁,1976年)に準じて測定されるものである。前記レクチンは、サブユニットが、通常、2~10個、好ましくは2~6個、さらに好ましくは2~3個結合したものでもよい。
【0047】
天然物から取得するフコースα1→6特異的レクチンを概説する。上記天然物は、例えば担子菌、子嚢菌等のキノコである。モエギタケ科、キシメジ科、タコウキン科及びテングタケ科は、担子菌に属している。モエギタケ科としては、スギタケ、ツチスギタケ、サケツバタケ、クリタケ、ヌメリスギタケモドキ、ヌメリスギタケ等が挙げられる。キシメジ科としては、コムラサキシメジ等が挙げられる。タコウキン科としては、シロハカワラタケ、ツヤウチワタケ等が挙げられる。テングタケ科としては、ベニテングタケ等が挙げられる。
【0048】
天然物からフコースα1→6特異的レクチンを抽出及び/又は精製する方法は、本出願人の一部による特許文献2、及び本出願人の投稿した非特許文献5に詳細に記載されている。なお、特許文献2に記載のツチスギタケレクチン(PTL)をスギタケレクチン(PhoSL)と読み替える。
【0049】
上記担子菌又は子嚢菌のうち、フコースα1→6特異的レクチンのα1→6フコース糖鎖認識特異性とレクチンの回収効率の観点から、モエギタケ科、キシメジ科又はテングタケ科が好ましい。特に好ましくは、スギタケレクチン(PhoSL)、ツチスギタケレクチン(PTL)、サケツバタケレクチン(SRL)、クリタケレクチン(NSL)、コムラサキシメジレクチン(LSL)、及びベニテングタケレクチン(AML)である。PhoSL、SRL、LSL及びNSLのアミノ酸配列を表1に示す。
【0050】
配列番号1に示すPhoSLは、スギタケから抽出することのできるレクチンである。配列番号1の第10及び17番目のXaaは、任意のアミノ酸残基であってよいが、好ましくはCysである。第20、23、27、33、35及び39番目のXaaは、それぞれ、Tyr/Ser、Phe/Tyr、Arg/Lys/Asn、Asp/Gly/Ser、Asn/Ala、及び、Thr/Glnである。
【0051】
配列番号2に示すSRLは、サケツバタケから抽出することのできるレクチンである。配列番号2の第10及び17番目のXaaは、任意のアミノ酸残基であってよいが、好ましくはCysである。第4、7、9、13、20、27、29、33、34及び39番目のXaaは、それぞれ、Pro/Gly、Glu/Lys、Val/Asp、Asn/Asp/Glu、His/Ser、Lys/His、Val/Ile、Gly/Asn/Ser、Ala/Thr、及び、Arg/Thrである。
【0052】
配列番号3に示すLSLは、コムラサキシメジから抽出することのできるレクチンである。配列番号3の第10及び17番目のXaaは、任意のアミノ酸残基であってよいが、好ましくはCysである。第1、4、7、8、9、13、16、20、22、25、27、31及び34番目のXaaは、それぞれ、Ala/Gln、Pro/Lys、Ala/Ser、Met/Ile/Val、Tyr/Thr、Asp/Asn、Lys/Glu、Ala/Asn、Val/Asp/Asn、Asp/Asn、Arg/His/Asn、Gln/Arg、及び、Thr/Valである。
【0053】
配列番号4に示すNSLは、クリタケから抽出することのできるレクチンである。配列番号4の第10及び17番目のXaaは、任意のアミノ酸残基であってよいが、好ましくはCysである。第13、14及び16番目のXaaは、それぞれ、Asp/Thr、Ser/Ala、及び、Gln/Lysである。
【0054】
配列番号5に示すNSLもまた、クリタケから抽出することのできるレクチンである。配列番号5の第10及び18番目のXaaは、任意のアミノ酸残基であってよいが、好ましくはCysである。第14、15及び17番目のXaaは、それぞれ、Asp/Thr、Ser/Ala、及び、Gln/Lysである。なお、配列番号5は、配列番号4のペプチド中に1個のAsnが挿入された変異体ともいえる。
【0055】
前記フコースα1→6特異的レクチンは、(a)配列番号1~5のいずれかに示すアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチド、又は、(b)配列番号1~5のいずれかに示すアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸が欠失、挿入又は置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチド、を含み、かつ、配列番号1~5のいずれかに示すアミノ酸配列を有するタンパク質と機能的に同等なタンパク質又はペプチドであってもよい。
【0056】
上記の「1又は複数のアミノ酸が欠失、挿入又は置換」には、Hisタグ、Flagタグ、GSTタグ等のように別の機能のために付加したアミノ酸やそれらの付加のためのスペーサー等は含まれない。また、上記(a)および(b)の配列を複数結合したようなタンパク質又はペプチドの場合には、上記(a)および(b)に相当する配列において、上記の「1又は複数のアミノ酸が欠失、挿入又は置換」に該当するかを判断し、複数結合させるためのスペーサー等は上記の「1又は複数のアミノ酸が欠失、挿入又は置換」に含まれない。
【0057】
ここで、「機能的に同等」とは、α1→6フコース糖鎖No.405に対して結合定数(25℃において)が1.0×10-1以上であり、好ましくは5.0×10-1以上であり、より好ましくは1.0×10-1以上、さらに好ましくは2.0×10-1以上で示される親和性を有することを意味する。配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチドの変異体の一例が、配列番号5に示すアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチドである。
【0058】
上記フコースα1→6特異的レクチンは、上記天然物からの抽出の他に、天然由来のレクチンのアミノ酸配列に基づいて化学合成されたペプチドやタンパク質であってもよい。さらに、化学合成のペプチドやタンパク質は、天然由来のレクチンのアミノ酸配列中の1又は数個のアミノ酸がリジン及び/又はアルギニンで置換されかつ糖結合活性を有するペプチドであってもよい。フコースα1→6特異的レクチンのぺプチドの入手方法は、本出願人の一部による特許文献3に詳細に記載されている。PhoSLペプチドのアミノ酸配列(配列番号6)を表1に示す。配列番号6に示すPhoSLペプチドは、配列番号1のPhoSLの具体例(APVPVTKLVC DGDTYKCTAY LDFGDGRWVA QWDTNVFHTG)において、1番目のAla、20番目のTyr、及び39番目のThrがLysに置換され、さらに40番目のGlyが欠失したアミノ酸配列を有する。
【0059】
【表1】
【0060】
上記フコースα1→6特異的レクチンは、上記天然物からの抽出の他に、天然由来のレクチンのアミノ酸配列をコードする核酸を用いて天然由来とは異なる公知の宿主内で人工的に発現させたリコンビナントであってもよい。
【0061】
上記フコースα1→6特異的レクチンに属するPhoSL、SRL、NSL及びLSLの各種糖鎖に対する結合定数(25℃において)を表2~5に示す。比較のため、フコースα1→6に親和性を有するが特異的ではないレクチンであるヒイロチャワンタケレクチン(AAL)、麹菌レクチン(AOL)、レンズマメレクチン(LCL)及びエンドウ豆レクチン(PSL)の各種糖鎖(図1~2)に対する結合定数(25℃において)も表2~5に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
AAL及びAOLは、フコースα1→6糖鎖(糖鎖No.015、201-203、401-418)に結合する一方、フコースα1→6を含まない糖脂質系糖鎖(糖鎖No.718、722、723、727、909、910、933)とも結合する。LCL及びPSLは、フコースα1→6糖鎖に結合するものの、α1→6フコースを含まない糖鎖(糖鎖No.003、005-014)にも結合する。
【0067】
PhoSL等のフコースα1→6特異的レクチンは、フコースα1→6糖鎖に確実に結合し、かつ、α1→6フコースを含まない糖鎖に全く結合しない。しかも、その結合定数(25℃において)は、従来のフコースα1→6親和性レクチンよりも大きい(結合定数が1.0×10-1以上)。さらに、フコースα1→6特異的レクチンは、フコースα1→6糖鎖にシアル酸が付加されていても、結合定数が下がらない(糖鎖No.601、602)。また、フコースα1→6特異的レクチンは、フコースα1→6糖鎖の三本鎖(糖鎖No.407-413)や四本鎖(糖鎖No.418)にも強く結合する。
【0068】
本発明の方法は、具体的には、以下の工程:
(A)被験者から採取された血清からなる検体に含まれるフコシル化PSAと、フコースα1→6特異的レクチンとを反応させ、フコシル化PSA-フコースα1→6特異的レクチンの複合体を得る、及び
(B)前記複合体を適宜の手段で検出する
を含む。
【0069】
発明の方法は、前記工程(A)及び(B)の少なくとも一工程のpHを特定のアルカリ性域に調整することによって、フコシル化PSA-フコースα1→6特異的レクチンの複合体の感度を高める。
【0070】
具体的には、フコシル化PSAとフコースα1→6特異的レクチンとを反応させてフコシル化PSA-フコースα1→6特異的レクチンの複合体を得るレクチン反応工程の溶媒、前記複合体を洗浄する洗浄工程の洗浄液、前記複合体に2次プローブ以降のプローブを反応させるプローブ反応工程の溶媒、プローブ反応後の前記複合体を洗浄する洗浄液から選ばれる少なくとも一種の溶液のpHを特定のアルカリ性域に調整する。好ましくは、前記レクチン反応工程のpHを特定のアルカリ性域に調整する。
【0071】
後述の実施例8に示すように、被験者から採取した血清中のフコシル化PSAにフコースα1→6特異的レクチンを作用させると、血清不純物によるノイズが高い等の問題がある。よって、pHの下限は、複合体のシグナル/ノイズ比の改善の点では8.5よりも高いことが好ましく特に好ましくは8.6以上、より好ましくは8.8以上、さらに好ましくは9.0以上である。また、pHの上限は、11.0未満であり、好ましくは10.5以下である。pHが8.5以下又は11.0以上であると、複合体のシグナル/ノイズ比の改善が図れない場合がある。
【0072】
上記pHの調整は、アルカリ性試薬、好ましくはアルカリ性溶液、さらに好ましくはアルカリ性緩衝液の添加によって行われる。アルカリ性緩衝液の例には、グリシン-水酸化ナトリウム(NaOH)緩衝液;炭酸-重炭酸緩衝液;TAPS、Tricine、Bicine、CHES、CAPSO、CAPS等のグッド緩衝液;ホウ酸ナトリウム緩衝液;塩化アンモニウム緩衝液;Britton‐Robinson 緩衝液等の広域緩衝液等が挙げられる。好ましくはグリシン-NaOH緩衝液、炭酸-重炭酸緩衝液及びTAPS緩衝液から選ばれる一種以上であり、より好ましくはグリシン-NaOH緩衝液及びTAPS緩衝液から選ばれる一種以上である。これらの緩衝液の調製は、従来公知の方法に基づく。
【0073】
工程(A)のフコシル化PSAとフコースα1→6特異的レクチンとの反応に、アルブミン、例えば牛血清アルブミン(BSA)を添加することが好ましい。反応液のアルブミン濃度は、通常、0.01~10%でよく、好ましくは0.1~3%、特に好ましくは0.5~1%である。
【0074】
工程(B)で上記複合体を検出するために、前記レクチンは、予め標識手段が組み込まれていることが好ましい。前記標識手段としては、特に制限なく、公知の標識化方法を適用することができ、例えば、放射性同位元素による標識化、標識化合物の結合等を挙げることができる。前記放射性同位元素としては、例えば14C、H及び32Pが挙げられる。また、前記レクチンと結合する抗レクチン抗体を用いて検出してもよい。
【0075】
前記標識化合物としては、例えば酵素標識(西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等)、ビオチン標識、ジゴキシゲニン標識、並びに蛍光標識(フロオレッセインイソチアシアナート、CyDye(登録商標)、4-アミノ安息香酸エチル(ABEE)、アミノピリジン、アロフィコシアニン、フィコエリスリン、Alexa Fluor(登録商標)等)を挙げることができる。これらの標識化合物は、常法によりレクチンと結合することができる。特に、ビオチン標識は、感度が高い点で好ましい。
【0076】
上記工程(B)において、前記複合体を検出する手段は、特に制限されない。検出手段として、例えば、ELISA(直接吸着法、サンドウィッチ法、及び競合法)、レクチンアフィニティクロマトグラフィー、レクチン染色、レクチンチップ、フローサイトメトリー(FACS)法、凝集法、表面プラズモン共鳴法(例えば、Biacore(登録商標)システム)、電気泳動、ビーズ等を使用可能である。いくつかの代表的な検出方法を、以下に概説する。
【0077】
直接吸着ELISA法では、検体(血清)をプレートに添加して固定化する。次いで、ビオチン標識した前記レクチンを添加して、PSAと前記レクチンとを反応させる。2次標識化合物としてHRP(ホースラディッシュパーオキシダーゼ)標識ストレプトアビジン溶液を添加して、ビオチンとストレプトアビジンとを反応させる。次いで、HRP用発色基質を加えて発色させ、発色強度を吸光光度計で測定する。予め、既知の濃度の糖鎖を含む標準試料によって検量線を作成しておけば、糖鎖の定量化も可能である。
【0078】
サンドイッチELISA法では、フコシル化PSAと親和性を有するレクチン、抗体(例えば抗PSA抗体)又はそれらの断片から選ばれる少なくとも一種をプレートに添加し固定化する。抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれでもよい。次いで、検体(血清)をプレートに曝す。次いで、ビオチン標識した前記フコースα1→6特異的レクチンを添加して、血清中のフコシル化PSAとフコースα1→6特異的レクチンとを反応させる。この反応により、フコシル化PSAとフコースα1→6特異的レクチンとの複合体が生成される。2次標識化合物としてHRP標識ストレプトアビジン溶液を添加して、ビオチンとストレプトアビジンとを反応させる。次いで、HRP用発色基質を加えて発色させ、発色強度を吸光光度計で測定する。予め、既知の濃度の標準試料によって検量線を作成しておけば、α1→6フコース糖鎖の定量化も可能である。
【0079】
レクチンアフィニティクロマトグラフィーは、担体に固定化されたレクチンが糖鎖と特異的に結合する性質を利用したアフィニティクロマトグラフィーである。HPLCと組み合わせることでハイスループットを期待することができる。
【0080】
レクチンの固定化担体としては、アガロース、デキストラン、セルロース、スターチ、ポリアクリルアミド等のゲル材が一般的である。これらには、市販のものを特に制限なく使用でき、例えばセファロース4Bやセファロース6B(共にGEヘルスケアバイオサイエンス社製)が挙げられる。レクチンクロマトグラフィーに用いるカラムとしては、マイクロプレートやナノウエルにレクチンを固定化したものも含まれる。
【0081】
固定化するレクチンの濃度は、通常、0.001~100mg/mL、好ましくは0.01~20mg/mLである。担体がアガロースゲルの場合、それをCNBr等で活性化してからレクチンとカップリングさせる。活性化スペーサーを導入したゲルにレクチンを固定化してもよい。さらには、ホルミル基を導入したゲルにレクチンを固定化してからNaCNBHで還元してもよい。また、NHS-セファロース(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)のような市販の活性化ゲルを使用してもよい。
【0082】
検体(血清)をカラムに供与した後、洗浄の目的で緩衝液を流す。あるいは、緩衝液中に検体をカラムに供与する。緩衝液の一例は、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、グリシン緩衝液等であり、モル濃度が、通常、5~500mM、好ましくは10~500mMであり、pHが、通常、4.0~10.0、好ましくは6.0~9.0である。また、NaCl含量が、通常、0~0.5M、好ましくは0.1~0.2Mであり、CaCl、MgCl又はMnCl含量が、通常、0~10mM、好ましくは0~5mMの緩衝液である。
【0083】
アフィニティカラムの洗浄後、糖鎖の溶出は、糖鎖を有効に溶出できる中性の非変性緩衝液中で、塩化ナトリウム、ハプテン糖等の脱着剤を用いて行われる。この緩衝液は、上記と同様であってもよい。脱着剤の濃度は、好ましくは、1~500mM、特に好ましくは10~200mMである。
【0084】
工程(B)において、血清中フコシル化PSA-フコースα1→6特異的レクチンの複合体からのシグナル(反応値)を、グリソンスコア6以下の者、好ましくは6の者で得られているシグナル(参照値)と比較することにより、高リスク前立腺癌の発症の有無や、発症の場合の悪性度を高い確度で評価することができる。すなわち、検体のシグナル(反応値)が、グリソンスコア6以下の者から得られているシグナル(参照値)と比べて高い場合に、前記被験者が高リスク前立腺癌であることが示唆される。
【0085】
血清中フコシルPSAとフコースα1→6特異的レクチンとの複合体によるシグナル(反応値)のレベルは、レクチン反応条件、血中フコシル化PSA濃度とレクチンの種類に依存する。フコシル化PSA標準品(濃度既知)を用いて、フコシル化PSA濃度とシグナル値との関係を表す検量線を作成することにより、シグナルを定量化できる。各レクチンにおいて、フコシル化PSA濃度10ng/mLに対応する反応値を10U/mLとする。
【0086】
本発明は、また、フコースα1→6特異的レクチンと、被験者から採取される血清からなる検体に含まれる前記フコシル化PSAと前記フコースα1→6特異的レクチンとの反応工程及びそれ以降の処理工程を含む工程群から選ばれる少なくとも一工程のpHを特定のアルカリ性域に調整するためのアルカリ性試薬とを含む前立腺癌検出用診断薬を提供する。上記フコースα1→6特異的レクチン及び上記アルカリ性試薬の説明は上記したとおりである。
【0087】
前記診断薬は、適宜、各種の標識化合物、緩衝液、プレート、ビーズ、反応停止液等の検出に使用する汎用のものを含んでもよい。該診断薬は、血清からなる検体中に含まれるフコシル化PSAを抽出するための試薬(例えば、抗PSA抗体又はその断片や類縁体)を含むことが好ましい。
【実施例
【0088】
以下に、本発明の実施例を示して、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
1.試料の準備
本発明の検出方法に使用する試薬を、以下の手順で用意した。
(1)固相化用抗PSA抗体
Hytest社から抗PSA抗体を購入した。この抗体の糖鎖を非特許文献5に記載の方法に従って除去してから、固相化用抗PSA抗体として使用した。
【0090】
(2)フコシル化PSA標準品
PSA(標準品、BBI Solutions社製)から、LCA(レンズマメレクチン)のカラム(株式会社J-オイルミルズ社製)を使ってフコシル化PSAを精製し、フコシル化PSA標準品とした。
【0091】
(3)ビオチン標識レクチン
本発明の方法に用いるフコースα1→6特異的レクチンとして、スギタケレクチン(PhoSL)、サケツバタケレクチン(SRL)、クリタケレクチン(NSL)、ベニテングタケレクチン(AML)、及び、スギタケレクチンペプチド(以下、PhoSLペプチドという、配列番号6)を準備した。このPhoSLペプチドは、特許文献3の実施例6の記載に基づいて合成した(ただし、特許文献3のPTLをPhoSLと読み替える)。これらのレクチンを量り取り、0.1M 炭酸水素ナトリウム溶液を加え溶解した(濃度5mg/mL)。ジメチルスルホキシドに溶解したビオチン化試薬をレクチン溶液に加えて反応させた。限外ろ過(分画分子量3K)を用いて反応液を水に対して溶媒置換した。この液を凍結乾燥してビオチン標識レクチンを得た。また、α1→6フコース親和性レクチンとして、ビオチン標識ヒイロチャワンタケレクチン(AAL、株式会社J-オイルミルズ社製)を用意した。
【0092】
(4)使用する試薬等
(4-1)リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)
リン酸水素二ナトリウム5.75g、リン酸二水素カリウム1.0g、塩化カリウム1.0g、及び塩化ナトリウム40.0gを水5Lに溶解して、PBS(pH7.4)を得た。
(4-2)100mMグリシン-水酸化ナトリウム緩衝液(グリシン‐NaOH、pH10)
グリシン3.76gを、水400mL程度に溶解し、5N水酸化ナトリウムを添加してpH10に合わせ、さらに水で500mLにメスアップすることにより、pH10の緩衝液を調製した。
(4-3)1%ウシ血清アルブミン(BSA)/PBS
ウシ血清アルブミン(BSA、シグマ・アルドリッチ社製)1gを100mLのPBSに溶解して、濃度1%のBSAのPBS溶液(以下、1% BSA/PBSという)を得た。
(4-4)0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)/PBS
ウシ血清アルブミン0.1gを100mLのPBSに溶解して、濃度0.1%のBSAのPBS溶液(以下、0.1% BSA/PBSという)を得た。
(4-5)0.1%BSA/10倍希釈PBS+グリシン‐NaOH(pH9.6)
上記1%BSA/PBSを5倍希釈した溶液5mLに、上記グリシン‐NaOH 5mLを添加することにより、0.1%BSA/10希釈PBS+グリシン‐NaOH(pH9.6)を得た。
【0093】
(5-1)被験者試料A
前立腺癌と診断された患者9名及び健常者7名から採取されたヒト血清標本を、株式会社ケー・エー・シー(KAC)より購入し、被験者試料Aとして使用した。各標本の血中PSA値、並びに各前立腺癌患者の血中PSA値及び前立腺癌のリスク分類を表6に示す。
【0094】
【表6】
【0095】
(5-2)被験者試料B
大阪大学医学部付属病院で前立腺癌患者にインフォームドコンセントを行なった後、収集された血清を、被験者試料Bとして使用した。各検体のグリソンスコアに群分けされた内容を表7に示す。表7のNegativeとは、血中PSA値が高かったものの、前立腺の生検で前立腺癌が見つからなかった群である。
【0096】
【表7】
【0097】
〔実施例1及び8〕スギタケレクチン(PhoSL)を用いたフコシル化PSA検出試験(I)
前立腺癌患者の血清中のフコシル化PSAを高感度で検出するために、血清中フコシル化PSAとPhoSLとの反応時のpHを変更する試験を実施した。
【0098】
1.サンドイッチELISA
(1)抗体固定化
糖鎖除去した抗PSA抗体をPBSで5μg/mLに希釈した。この希釈液25μLを、ELISAプレートの各ウェルに添加し、37℃で12時間放置後、添加液を廃棄した。
(2)洗浄
150μLの0.05% Tween20(製品名:ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ナカライ社製)添加PBSを各ウェルに添加した後、添加液を廃棄した。この操作を合計3回繰り返した。
(3)ブロッキング
25μLの1% BSA/PBSを各ウェルに添加して、37℃で1時間放置後、添加液を廃棄した。
(4)洗浄
150μLの0.05% Tween20添加PBSを各ウェルに添加した後、添加液を廃棄した。この操作を合計3回繰り返した。
(5)抗原抗体反応
検量線作成のため、1% BSA/PBSで濃度0~200ng/mLに希釈されたフコシル化PSA標準品を25μL、各ウェルに添加し、室温で1時間放置後、添加液を廃棄した。また、レクチンによる被験者血清中のフコシル化PSAの検出のために、PBSで2倍希釈した健常1及び前立腺癌4の血清25μLを、各ウェルに添加し、室温で1時間放置後、添加液を廃棄した。
(6)洗浄
150μLの0.05% Tween20添加PBSを各ウェルに添加した後、添加液を廃棄した。この操作を合計3回繰り返した。
(7)標識レクチン反応
実施例8では、0.1%BSA/PBS(pH7.4)で濃度0.1μg/mLに希釈されたビオチン標識PhoSL 25μLを、各ウェルに添加して、4℃で30分間放置後、添加液を廃棄した。実施例1では、0.1%BSA/10倍希釈PBS+グリシン‐NaOH(pH9.6)で濃度0.1μg/mLに希釈されたビオチン標識PhoSL 25μLを、各ウェルに添加して、4℃で30分間放置後、添加液を廃棄した。
(8)洗浄
150μLの0.05% Tween20添加PBSを各ウェルに添加した後、添加液を廃棄した。この操作を合計3回繰り返した。
(9)HRP標識ストレプトアビジン反応
25μLの西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジン溶液(ベクター社製、濃度0.04μg/mL 1%BSA/PBS)をウェルに添加し、室温で30分間放置後、添加液を廃棄した。
(10)洗浄
150μLの0.05% Tween20添加のPBSを各ウェルに添加した後、添加液を廃棄した。この操作を合計3回繰り返した。
(11)発色反応
HRP用発色基質(製品名:TMB、KPL社製)を25μL、各ウェルに添加し、室温で10分間放置した。
(12)反応停止
1M リン酸を25μL添加して、反応を停止した。
(13)吸光度測定
プレートリーダーを用いて波長450nm及び630nmの吸光度(Ab)を測定し、測定値(Ab450-630)を求めた。
(14)検量線の作成
フコシル化PSA標準品のビオチン標識PhoSLでのシグナル(反応値、Ab450-630)をプロットした検量線を作成した。フコシル化PSA濃度10ng/mLに対応するビオチン標識PhoSLのシグナル(Ab450-630)を10U/mLとした。
(15)反応値の算出
被験者試料Aの血清中フコシル化PSAに対するビオチン標識PhoSLのシグナル(Ab450-630)を上記検量線に当てはめて、反応値(単位:U/mL)を算出した。
【0099】
レクチン反応時のpHを変えた試験(実施例8及び実施例1)のPhoSL反応値の測定結果を、表8に示す。
【表8】
【0100】
表8から、血清中フコシル化PSAとPhoSLとの反応工程のpHを本発明に従って特定のアルカリ性域で行った実施例1は、実施例8と比べて、前立腺癌のPhoSL反応値Aが増大する一方で、健常1のPhoSL反応値Bが減少することがわかる。反応値AとBとの差Δが拡大する結果、本発明に従う実施例1では、前立腺癌患者(GS6)を高感度に検出できることが判明した。
【0101】
〔実施例2〕PhoSLを用いたフコシル化PSA検出試験(II)
被検者試料Aに対して実施例1と同一の操作でPhoSL反応値を測定した。その結果を表9に示す。PhoSL反応値から、平均値及び中央値を求めた。さらに、目安のカットオフ値(89.7U/mL)を用いて、前立腺癌患者の検出率(陽性率)、及び健常者の偽検出率(偽陽性率)を求めた。結果を表10に示す。
【0102】
表9中の比較例1は、血中PSA値の測定結果である。血清PSA値のカットオフ値は、4ng/mLとした。実施例2と同様に、平均値、中央値、陽性率及び偽陽性率を求めた。それらの結果を表10に示す。
【0103】
表9中の比較例2は、被験者試料Aに対してAALを用いた血清中フコシル化PSAの検出結果(AAL反応値)である。具体的には、実施例8において、ビオチン標識PhoSLをビオチン標識AALに代えて、実施例8と同一の操作でAAL反応値を測定した。AAL反応値の目安のカットオフ値は、894.8U/mLとした。実施例2と同様に、AAL反応値から、平均値、中央値、陽性率及び偽陽性率を求めた。それらの結果を表10に示す。
【0104】
【表9】
【0105】
【表10】
【0106】
表10に示すとおり、血中PSA値による前立腺癌患者群の検出率(陽性率)は、77%であった。AAL反応値による前立腺癌患者群の検出率(陽性率)は、89%となった。しかし、健常者群を前立腺癌と判断してしまう偽陽性率も57%と高かった。本発明に従う実施例2では、前立腺癌患者群の陽性率は100%であり、健常者群の偽陽性率は0%であった。以上のことから、本発明に従ってフコースα1→6特異的レクチンを特定の条件で用いると、前立腺癌を高感度及び高特異度で検出可能であることが判明した。
【0107】
次に、表9の前立腺癌患者群の測定結果を、Negative(G5以下)、GS6、GS7、及びGS8以上にグループ分けし、各グループの平均値及び中央値を表11に示す。
【表11】
【0108】
表11を見ると、血中PSA値やAAL反応値の中央値とGSとの間には、相関が認められない。実施例2には、GSの増大(悪性度の進行)とともに、PhoSL反応値の中央値に増大傾向が認められる。
【0109】
〔実施例3〕PhoSLを用いたフコシル化PSA検出試験(III)
実施例2でのPhoSL反応値の中央値とGSとの相関関係の存在を確認するために、被験者試料Aよりもn数が多い被験者試料BでPhoSL反応値を実施例2と同一の操作で測定した。結果を表12に示す。比較のため、血中PSA値の測定結果も表12に併記する。
【0110】
【表12】
【0111】
表12に示すとおり、血中PSA値とGSとの間には、相関が認められない。一方、本発明に従う実施例3では、PhoSL反応値の中央値は、GSとともに増大する傾向が認められる。表11及び12の結果から、PhoSLのようなフコースα1→6特異的レクチンを特定の条件で用いれば、反応値によってGSを予測可能である。よって、本発明の方法により、生検せずにGSを予見すること及びGS7以上の高リスク前立腺癌を予見することが期待される。
【0112】
〔実施例4及び9〕サケツバタケレクチン(SRL)を用いたフコシル化PSA検出試験
実施例1及び実施例8において、PhoSLをSRLに変えた以外は、実施例1及び実施例8と同じ操作で、2種類のSRL反応値を測定した。結果を表13に示す。
【表13】
【0113】
表13で、血清中フコシル化PSAとSRLとの反応を特定のアルカリ性域で行った実施例4では、実施例9と比べて、前立腺癌患者の反応値が増大する一方で、健常者の反応値が低下する。したがって、SRLを特定の条件で用いても、血清中フコシル化PSAを高感度で検出可能である。そして、SRLは、前立腺癌の検出に有効である。
【0114】
〔実施例5及び10〕クリタケレクチン(NSL)を用いたフコシル化PSA検出試験
実施例1及び実施例8において、PhoSLをNSLに変えた以外は、実施例1及び実施例8と同じ操作で、2種類のNSL反応値を測定した。結果を表14に示す。
【表14】
【0115】
表14で、血清中フコシル化PSAとNSLとの反応を特定のアルカリ性域で行った実施例5では、実施例10と比べて、前立腺癌患者の反応値と健常者の反応値との差Δが拡大する。したがって、NSLを特定の条件で用いても、血清中フコシル化PSAを高感度で検出可能である。そして、NSLは前立腺癌の検出に有効である。
【0116】
〔実施例6及び11〕ベニテングタケレクチン(AML)を用いたフコシル化PSA検出試験
実施例1及び実施例8において、PhoSLをAMLに変えた以外は、実施例1及び実施例8と同じ操作で、2種類のAML反応値を測定した。結果を表15に示す。
【表15】
【0117】
表15で、血清中フコシル化PSAとAMLとの反応を特定のアルカリ性域で行った実施例6では、実施例11と比べて、前立腺癌患者の反応値が増大する一方で、健常者の反応値が低下する。AMLを特定の条件で用いても、血清中フコシル化PSAを高感度で検出可能である。そして、AMLは、前立腺癌の検出に有効である。
【0118】
〔実施例7及び12〕PhoSLペプチドを用いたフコシル化PSA検出試験
実施例1及び実施例8において、PhoSLをPhoSLペプチドに変えた以外は、実施例1及び実施例8と同じ操作で、2種類のPhoSLペプチド反応値を測定した。結果を表16に示す。
【表16】
【0119】
表16で、血清中フコシル化PSAとPhoSLペプチドとの反応を特定のアルカリ性域で行った実施例7では、実施例12と比べて、前立腺癌患者の反応値が増大する一方で、健常者の反応値が低下する。PhoSLペプチドを特定の条件で用いても、血清中フコシル化PSAを高感度で検出可能である。そして、PhoSLペプチドは、前立腺癌の検出に有効である。
図1
図2
【配列表】
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