(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】成形品の内部応力算出方法、寿命予測方法、変形予測方法、設計方法、及び成形方法
(51)【国際特許分類】
G01L 1/00 20060101AFI20230309BHJP
B29C 45/77 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
G01L1/00 D
B29C45/77
(21)【出願番号】P 2019056560
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2022-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】望月 章弘
(72)【発明者】
【氏名】束田 拓平
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特公昭60-13132(JP,B2)
【文献】特開平2-221849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともインサート成形品を成形する工程
において、インサート成形品の内部応力を算出するインサート成形品の内部応力算出方法であって、
前記インサート成形品は、樹脂
部材と、前記樹脂
部材に接触しない位置に歪ゲージが設けられた
インサート部材と、を用いて
成形され、
前記
インサート部材は、円筒状であって、チタン又は真鍮を含み、引張弾性率が210GPa以下であり、かつ、下記式を満たし、
前記
インサート成形品の成形工程中において前記歪ゲージから取得した前記
インサート部材の歪の変化値を用いて前記
インサート成形品の内部応力を算出
し、
前記インサート成形品の成形工程中から成形後における前記インサート成形品の内部応力を連続的に算出するインサート成形品の内部応力算出方法。
(式中、Pは前記樹脂部材の成形時において樹脂を射出する最大圧力を表し、R
1
は前記インサート部材の外径、R
2
は前記インサート部材の内径、αは安全率(0.6~0.8)を表し、σ
Y
は前記インサート部材の0.2%耐力を表す。)
【請求項2】
前記インサート成形品の成形後から所定期間経過後における前記インサート成形品の内部応力を連続的に算出する請求項
1に記載の
インサート成形品の内部応力算出方法。
【請求項3】
前記所定期間に前記インサート成形品の耐久試験を行う請求項
2に記載の
インサート成形品の内部応力算出方法。
【請求項4】
請求項
1~3のいずれか1項に記載の
インサート成形品の内部応力算出方法より算出した前記インサート成形品の内部応力を基に前記インサート成形品の寿命を予測する方法。
【請求項5】
コンピュータによる解析を用いた請求項
4に記載の前記インサート成形品の寿命を予測する方法。
【請求項6】
前記インサート成形品の成形後及び/又は所定期間中における前記インサート成形品の変形量のデータと、請求項
1又は2に記載の
インサート成形品の内部応力算出方法より算出した前記インサート成形品の内部応力とを基に前記インサート成形品の変形を予測する方法。
【請求項7】
コンピュータによる解析を用いた請求項
6に記載の前記インサート成形品の変形を予測する方法。
【請求項8】
請求項
1又は2に記載の
インサート成形品の内部応力算出方法より算出した前記インサート成形品の内部応力と流動解析とを組み合わせて、前記インサート成形品の形状及び/又は前記インサート部材の温度を決定する前記インサート成形品の設計方法。
【請求項9】
請求項
1又は2に記載の
インサート成形品の内部応力算出方法より算出した前記インサート成形品の内部応力を基に前記インサート成形品の成形条件を決定する前記インサート成形品の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歪ゲージを用いて成形品の内部応力を算出する内部応力算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物体内部の応力を測定する技術が提供されている。例えば、樹脂成形品の表面に穿孔部と歪み測定部とを設け、ドリルで穿孔部を第一穿孔深さに穿孔したときに歪み測定部で第一応力を測定し、ドリルで穿孔部を第二穿孔深さまでさらに穿孔したときに歪み測定部で第二応力を測定し、第二応力から第一応力を差し引いた差分を第一深さと第二深さの中間の深さにおける内部応力として算出する技術が提供されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、インサート成形品におけるインサート部材の所定位置に歪センサを取り付け、インサート部材から樹脂部材を除去する前と後の歪の変化値を歪センサから取得し、その歪の変化値をコンピュータ上の応力解析に利用することによって、インサート成形品の熱履歴を再現し、解析モデルに発生する内部応力を正確に取得する技術が提供されている(特許文献2参照)。
【0004】
また、磁性塗料が塗布されたインサート部材を用いて、樹脂成型前後における磁性塗料の磁束密度の変化から樹脂の内部応力を測定する方法が挙げられる(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-243335号公報
【文献】特開2012-219884号公報
【文献】特開平5-45236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に係る技術は、成形品を成形した後における測定を前提としている。また、上記のような技術は、樹脂成形品を穿孔する、又は樹脂部材を除去するといった破壊試験であることから、使用環境を想定した耐久試験等において、成形品等の内部応力の連続的な変化を測定することは困難である。
【0007】
また、特許文献3に係る技術において、金型内に閉じ込められた状態の磁性塗料が塗布されたインサート部材からは、磁性塗料の磁束密度を測定することができないため、成形工程中の内部応力の連続的な変化を測定することは困難である。
【0008】
本発明は、上記の実情を鑑みてなされるものであって、成形品(相手部材を含まない樹脂単独の成形品(以下、樹脂成形品ともいう)又はインサート成形品等)の成形工程中における成形品の内部応力を非破壊で算出することができる内部応力算出方法を提供することを目的とする。また、当該内部応力算出方法を用いた成形品の寿命予測方法を提供することを目的とする。また、当該内部応力算出方法を用いた成形品の変形予測方法を提供することを目的とする。また、当該内部応力算出方法を用いた成形品の設計方法を提供することを目的とする。また、当該内部応力算出方法を用いた成形品の成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の一態様は、以下のとおりである。
【0010】
(1)成形品の内部応力算出方法であって、樹脂と、前記樹脂に接触しない位置に歪ゲージが設けられた相手部材を用いて成形品を成形する工程を含み、前記成形品の成形工程中において前記歪ゲージから取得した前記相手部材の歪の変化値を用いて前記成形品の内部応力を算出する内部応力算出方法。
【0011】
(2)前記成形品は、樹脂成形品であり、前記相手部材は、成形型であり、前記樹脂成形品の成形工程中から成形後における前記樹脂成形品の内部応力を連続的に算出する(1)に記載の内部応力算出方法。
【0012】
(3)成形後における前記樹脂成形品を前記成形型から取出し、取出した前記樹脂成形品に歪ゲージを取付けて成形後から所定期間経過後における前記樹脂成形品の内部応力を連続的に算出する(2)に記載の内部応力算出方法。
【0013】
(4)前記所定期間に前記樹脂成形品の耐久試験を行う(3)に記載の内部応力算出方法。
【0014】
(5)前記成形品は、インサート成形品であり、前記樹脂は、樹脂部材であり、前記相手部材は、インサート部材であり、前記インサート成形品の成形工程中から成形後における前記インサート成形品の内部応力を連続的に算出する(1)に記載の内部応力算出方法。
【0015】
(6)前記インサート成形品の成形後から所定期間経過後における前記インサート成形品の内部応力を連続的に算出する(5)に記載の内部応力算出方法。
【0016】
(7)前記所定期間に前記インサート成形品の耐久試験を行う(6)に記載の内部応力算出方法。
【0017】
(8)前記インサート部材の引張弾性率は、210GPa以下であり、かつ、下記式を満たす(5)~(7)のいずれか1項に記載の内部応力算出方法。
【0018】
【0019】
式中、Pは前記樹脂部材の成形時において樹脂を射出する最大圧力を表し、R1は前記インサート部材の外径、R2は前記インサート部材の内径、αは安全率(0.6~0.8)を表し、σYは前記インサート部材の0.2%耐力を表す。
【0020】
(9)前記インサート部材は、チタン又は真鍮を含む(8)に記載の内部応力算出方法。
【0021】
(10)前記インサート部材は、円筒状である(5)~(9)のいずれか1項に記載の内部応力算出方法。
【0022】
(11)(3)に記載の内部応力算出方法より算出した前記樹脂成形品の内部応力を基に前記樹脂成形品の寿命を予測する方法。
【0023】
(12)コンピュータによる解析を用いた(11)に記載の前記樹脂成形品の寿命を予測する方法。
【0024】
(13)前記樹脂成形品の成形後及び/又は所定期間中における前記樹脂成形品の変形量のデータと、(2)又は(3)に記載の内部応力算出方法より算出した前記樹脂成形品の内部応力とを基に前記樹脂成形品の変形を予測する方法。
【0025】
(14)コンピュータによる解析を用いた(13)に記載の前記樹脂成形品の変形を予測する方法。
【0026】
(15)(2)又は(3)に記載の内部応力算出方法より算出した前記樹脂成形品の内部応力と流動解析とを組み合わせて、前記樹脂成形品の形状及び/又は前記成形型の温度を決定する前記樹脂成形品の設計方法。
【0027】
(16)(2)又は(3)に記載の内部応力算出方法より算出した前記樹脂成形品の内部応力を基に前記樹脂成形品の成形条件を決定する前記樹脂成形品の成形方法。
【0028】
(17)(6)に記載の内部応力算出方法より算出した前記インサート成形品の内部応力を基に前記インサート成形品の寿命を予測する方法。
【0029】
(18)コンピュータによる解析を用いた(17)に記載の前記インサート成形品の寿命を予測する方法。
【0030】
(19)前記インサート成形品の成形後及び/又は所定期間中における前記インサート成形品の変形量のデータと、(5)又は(6)に記載の内部応力算出方法より算出した前記インサート成形品の内部応力とを基に前記インサート成形品の変形を予測する方法。
【0031】
(20)コンピュータによる解析を用いた(19)に記載の前記インサート成形品の変形を予測する方法。
【0032】
(21)(5)又は(6)に記載の内部応力算出方法より算出した前記インサート成形品の内部応力と流動解析とを組み合わせて、前記インサート成形品の形状及び/又は前記インサート部材の温度を決定する前記インサート成形品の設計方法。
【0033】
(22)(5)又は(6)に記載の内部応力算出方法より算出した前記インサート成形品の内部応力を基に前記インサート成形品の成形条件を決定する前記インサート成形品の成形方法。
【発明の効果】
【0034】
本発明は、成形品(樹脂成形品又はインサート成形品等)の成形工程中における成形品の内部応力を算出することができる。上記のような内部応力算出方法を用いることにより、成形品を破壊することなく、連続して成形品の内部応力の変化を算出することができる。
【0035】
また、成形工程中における相手部材(成形型又はインサート部材等)の変形の影響を考慮することにより、成形品の内部応力を精度よく算出できるため、得られた算出値から成形品の寿命を精度よく予測することができる。また、前述の内部応力算出方法を用いて成形品の変形予測方法を提供することができる。また、前述の内部応力算出方法を用いて成形品の設計方法を提供することができる。また、前述の内部応力算出方法を用いて成形品の成形方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、インサート成形品を説明する図である。
【
図2】
図2は、インサート成形品の内部応力について説明する図である。
【
図3】
図3は、射出成形時におけるインサート成形品の発生応力変化を示す図である。
【
図4】
図4は、インサート成形品の斜視図、上面図、及び側面図である。
【
図5】
図5は、耐久試験時におけるインサート成形品の発生応力変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0038】
本実施の形態では、歪ゲージを用いて成形品の成形工程中における成形品の歪の変化を測定することで成形品内部の所定の位置での内部応力を算出する。また、成形品内部の複数の位置において、成形品の内部応力を算出することで内部応力の分布を導出する。
【0039】
本実施の形態における成形品は、樹脂、及び樹脂に接触しない位置に歪ゲージが設けられた相手部材を用いて成形される。具体的には、相手部材の表面に射出された樹脂が接触し、相手部材の裏面(樹脂が接しない面)に歪ゲージが設けられている。本実施の形態において成形品は、樹脂成形品又はインサート成形品等が挙げられる。以下、樹脂成形品又はインサート成形品の内部応力の算出方法について説明する。まず、インサート成形品の内部応力の算出方法について説明する。
【0040】
<インサート成形品の内部応力の算出方法>
まず、本実施の形態におけるインサート成形品を
図1(A)及び
図1(B)を用いて説明する。
図1(B)は、
図1(A)におけるA-A’面の断面図である。インサート成形品は、樹脂部材10、及び樹脂部材10に接触しない位置に歪ゲージ14が設けられた円筒状のインサート部材12を用いて成形される。具体的には、インサート部材12の内側に歪ゲージ14が設けられ、外側に樹脂部材10が設けられている。歪ゲージ14は、ケーブル16を用いて歪測定器(図示せず)と接続されている。
【0041】
インサート部材12において、歪ゲージ14が設けられている部分の歪が測定される。なお、歪を測定する方法は、歪ゲージを用いることに限定されず、歪を測定できるものを用いればよい。また、歪を測定する部分は特に限定されず、当該部分が単数であってもよいし、複数であってもよい。さらに、インサート部材は、円筒状に限定されず、歪ゲージが樹脂に接触しない位置に設けられていれば平板状のような形状でもよいが、角部等を含むインサート部材を樹脂部材が包み込む場合は、当該角部等によって樹脂部材にも角部等の応力集中部が設けられるため、樹脂部材の角部等へ応力が集中する影響を、構造解析を行って考慮する必要がある。
【0042】
本実施の形態におけるインサート成形品に含まれる樹脂部材は、特に限定されず、従来公知の一般的な樹脂部材を用いることができる。また、インサート成形品には、複数の樹脂が含まれた樹脂部材を用いてもよい。また、インサート成形品には、ガラスファイバー等の強化材、タルク等の無機フィラー、核剤、カーボンブラック、無機焼成顔料等の着色剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の添加剤を添加して、所望の特性を付与した組成物を成形してなるインサート成形品も含まれる。このように、樹脂材料の種類によらず適用することができるため、候補となる複数の樹脂材料の中から適切な材料を選択する場合に好ましく用いることができる。また、樹脂材料によらず同じ方法で内部応力を算出し比較することで、内部応力の使用材料による差をより正確に評価することができる。
【0043】
ここでインサート部材の歪及び樹脂部材の応力について
図2を用いて説明する。なお、
図2は、
図1(A)に示すインサート成形品を長手方向に対して垂直に切断したときの断面図である。図中のPは、樹脂部材10の成形時において樹脂を射出する最大圧力を表し、R
1はインサート部材12の外径、R
2はインサート部材12の内径、R
3は樹脂部材10の外径、tはインサート部材12の肉厚、σ
θは樹脂部材10の内径部の円周方向の応力、σ
Rは樹脂部材10の内径部の径方向の応力を表す。なお、tは、R
1からR
2を差し引いた差分に対応する。
【0044】
なお、歪ゲージから取得できるインサート部材の内径部の円周方向の歪εθからインサート部材の外径部にかかる外圧Poutを導出する。Poutは、以下の式により導出することができる。式中のEは、インサート部材の引張弾性率を表す。
【0045】
【0046】
また、インサート部材の外径部にかかる外圧Poutは、樹脂部材の内径部の内圧Pinと絶対値が等しくなることを利用して、樹脂部材の内径部の内圧Pinから樹脂部材の内径部の円周方向の応力σθを導出する。σθは、以下の式により導出することができる。なお、樹脂部材の内径部の径方向の応力σRの絶対値は、Pin及びPoutの絶対値と等しくなる。
【0047】
【0048】
また、本実施の形態におけるインサート成形品に含まれるインサート部材は、金属に限定されず、複合材、セラミック、樹脂等を用いることができる。インサート部材の材質及び厚さを最適化することによりインサート部材の歪の検出感度を向上させることができ、インサート部材は、引張弾性率が210GPa以下であるものが好ましく、50~150GPaであるものがより好ましく、100~110GPaであるものがさらに好ましい。
【0049】
さらに、インサート部材は、下記の式を満たすと好ましい。
【0050】
【0051】
上記式中、Pは樹脂部材の成形時において樹脂を射出する最大圧力を表し、R1はインサート部材の外径、R2はインサート部材の内径、αは安全率を表し、σYはインサート部材の0.2%耐力を表す。なお、αは0.6~0.8が好ましいがこれに限られない。また、0.2%耐力とは、除荷時の歪が0.2%になる応力をいう。
【0052】
上記の式を満たし、かつ、引張弾性率が210GPa以下であるインサート部材としては、チタン又は真鍮を含むものが好ましく、例えば、α-βチタン(Ti-6Al-4V)及び真鍮(TSB-SH)が好ましい。
【0053】
本実施の形態におけるインサート成形品の内部応力を算出するには、まず、インサート成形品を成形する前のインサート部材の内側に歪ゲージを取付け、歪ゲージを用いてインサート部材の表面に樹脂部材が成形されていない状態におけるインサート部材の歪の値(以下、第一初期値ともいう)を測定する。次に、歪ゲージが取付けられたインサート部材の外側の表面に樹脂部材を成形する。この成形工程中においても歪ゲージがインサート部材の内側に取付けられているため、樹脂部材を成形する工程において、射出される樹脂によって歪ゲージがインサート部材から外れることを抑制することができる。したがって、インサート成形品の成形工程中において、歪ゲージを用いてインサート部材の歪の値(以下、第一歪値ともいう)を測定することができ、第一歪値から第一初期値を差し引いた差分からインサート部材の歪の変化値を取得できる。予め測定したインサート部材の内側(歪ゲージ取付け側)の歪から、インサート部材の外側(樹脂部材成形側)に発生する応力を算出し、さらにこれを樹脂部材の内側(インサート部材接触面側)の応力として与えたときの、樹脂部材の内側に発生する各方向の応力(肉厚方向、面方向など寿命予測等に必要な方向を適宜選択)を算出し、そのデータからインサート部材の歪の値とインサート成形品の内部応力との関係性を導き、当該関係性と取得したインサート部材の歪の変化値とを用いてインサート成形品の内部応力を算出することができる。また、上記のような内部応力算出方法を用いることにより、インサート成形品の成形工程中に歪ゲージを用いてインサート部材の歪の値を連続して測定することができるため、インサート成形品の成形工程中から成形後におけるインサート成形品の内部応力を連続的に算出することができる。なお、上述のインサート部材の歪の取得にあたっては、熱によるインサート部材自体の膨張または収縮の影響を除去するため、予めインサート部材における温度と歪の関係も把握しておき、その分の歪を差し引くことで、正確な歪の把握が可能となる。
【0054】
さらに、インサート成形品の成形後から所定期間経過後におけるインサート成形品の内部応力を連続的に算出することもできる。例えば、インサート成形品の成形後からヒートショック試験又は薬品浸漬試験等の耐久試験を行っている際におけるインサート成形品の内部応力を連続的に算出することができる。上記のような内部応力算出方法を用いることにより、インサート成形品を破壊することなく、インサート成形品の内部応力を連続的に算出することができる。
【0055】
上記のような内部応力算出方法を用いることにより、インサート成形品の成形工程中におけるインサート部材の変形の影響を考慮することができるため、インサート成形品の内部応力を精度よく算出することができる。
【0056】
次に、樹脂成形品の内部応力の算出方法について説明する。
【0057】
<樹脂成形品の内部応力の算出方法>
本実施の形態における樹脂成形品は、樹脂、及び樹脂に接触しない位置に歪ゲージが設けられた成形型を用いて成形される。具体的には、成形型内に射出された樹脂と接触しない成形型の外表面に歪ゲージが設けられている。成形型において、歪ゲージが設けられている部分の歪が測定される。なお、歪を測定する方法は、歪ゲージを用いることに限定されず、歪を測定できるものを用いればよい。また、歪を測定する部分は特に限定されず、当該部分が単数であってもよいし、複数であってもよい。
【0058】
本実施の形態における樹脂成形品に含まれる樹脂は、特に限定されず、前述した樹脂部材に用いられる材料と同様の材料を用いることができる。また、樹脂材料によらず同じ方法で内部応力を算出し比較することで、内部応力の使用材料による差をより正確に評価することができる。
【0059】
本実施の形態における樹脂成形品を成形する際に用いる成形型は、特に限定されず、金属、複合材、セラミック、樹脂等を用いることができ、例えば、鉄、鋼、鋳鉄等を用いることができる。一般的な成形型に必要となる強度や耐久性を考慮すると具体的にはSKD-11、SKD-61等が好ましく、耐腐食性を考慮するとSUS402J2等が好ましく、加工性を考慮すると析出硬化系鋼材が好ましい。
【0060】
本実施の形態における樹脂成形品の内部応力を算出するには、まず、樹脂成形品を成形する前の成形型の外側に歪ゲージを取付け、歪ゲージを用いて成形型内に樹脂が射出されていない状態における成形型の歪の値(以下、第二初期値ともいう)を測定する。ここで、歪ゲージを取付ける成形型の位置としては、歪の測定を行う樹脂成形品の所定の位置に対応する成形型内壁面(樹脂が射出充填されるキャビティ空間を形成する面)に対し、成形型の外側に向かって当該内壁面の法線を延長した線上にあたる成形型外壁面を、取付け位置として設定すればよいが、成形型内壁面から成形型外壁面までの距離(成形型厚さ)が大きすぎる場合、歪測定の感度が低下するおそれがある。一方、当該成形型厚さが小さすぎる場合、射出成形時の樹脂圧により成形型が変形するおそれがある。好ましい成形型厚さは、成形型に用いる材質や成形する樹脂種によって適宜選択すればよいが、0.5mm~10mmが好ましく、1mm~5mmがより好ましく、2mm~3mmがさらに好ましい。なお、ここでいう成形型外壁面とは、成形型の最外壁面のみを意味するのではなく、例えばキャビティが入れ駒を有する場合などは、その入れ駒における外側の面を歪ゲージ取付け位置としてもよい。その場合は当該入れ駒の厚さを上記と同様の範囲とすることが好ましい。また、先に述べたインサート部材の厚さについても上記と同様の範囲とすることが好ましい。
【0061】
次に、歪ゲージが取付けられた成形型内に樹脂を射出成形する。この成形工程中においても歪ゲージが成形型の外側に取付けられているため、樹脂を成形する工程において、射出される樹脂によって歪ゲージが成形型から外れることを抑制することができる。したがって、樹脂成形品の成形工程中において、歪ゲージを用いて成形型の歪の値(以下、第二歪値ともいう)を測定することができ、第二歪値から第二初期値を差し引いた差分から取得できる成形型の歪の変化値を取得できる。予め測定した成形型の外側(歪ゲージ取付け側)の歪から、成形型の内側(樹脂成形側)に発生する応力を算出し、さらにこれを樹脂の外側(成形型接触面側)の応力として与えたときの、樹脂の内側に発生する各方向の応力(肉厚方向、面方向など寿命予測等に必要な方向を適宜選択)を算出し、そのデータから成形型の歪の値と樹脂成形品の内部応力との関係性を導き、当該関係性と取得した成形型の歪の変化値とを用いて樹脂成形品の内部応力を算出することができる。また、上記のような内部応力算出方法を用いることにより、樹脂成形品の成形工程中に歪ゲージを用いて成形型の歪の値を連続して測定することができるため、樹脂成形品の成形工程中から成形後における樹脂成形品の内部応力を連続的に算出することができる。上記のような内部応力算出方法を用いることにより、樹脂成形品を破壊することなく、樹脂成形品の内部応力を連続的に算出することができる。なお、上述の成形型の歪の取得にあたっては、熱による成形型自体の膨張または収縮の影響を除去するため、予め成形型における温度と歪の関係も把握しておき、その分の歪を差し引くことで、正確な歪の把握が可能となる。
【0062】
さらに、成形後における樹脂成形品を成形型から取出し、取出した樹脂成形品に歪ゲージを取付けて樹脂成形品の成形後から所定期間経過後における樹脂成形品の内部応力を連続的に算出することもできる。なお、歪ゲージは、第二歪値から第二初期値を差し引いた差分から取得した成形型の歪の変化値を用いて樹脂成形品の内部応力を算出した位置に取付ける。その後、歪ゲージを用いて取出した樹脂成形品の歪の値(以下、第三歪値ともいう)を測定する。第三歪値と、第二歪値から第二初期値を差し引いた差分から算出した樹脂成形品の内部応力とを用いることで樹脂成形品を成形型から取出す際に解放された樹脂成形品の内部応力を算出することができる。また、樹脂成形品の成形後からヒートショック試験又は薬品浸漬試験等の耐久試験を行っている使用中における樹脂成形品の内部応力を連続的に算出することができる。
【0063】
上記のような内部応力算出方法を用いることにより、樹脂成形品の成形工程中における成形型の変形の影響を考慮することができるため、樹脂成形品の内部応力を精度よく算出することができる。
【0064】
<寿命予測及び変形予測の検討>
本実施の形態の内部応力算出方法より算出した樹脂成形品又はインサート成形品の内部応力を用いれば、樹脂成形品又はインサート成形品の劣化の状態を把握することができるため、樹脂成形品又はインサート成形品の寿命を予測することができる。また、本実施の形態の内部応力算出方法より算出した樹脂成形品又はインサート成形品の内部応力と、樹脂成形品又はインサート成形品の成形後、及び/又は、所定期間中における樹脂成形品又はインサート成形品の変形量のデータと、を用いれば、樹脂成形品又はインサート成形品の変形の状態を把握することができるため、樹脂成形品又はインサート成形品の変形を予測することができる。なお、上記の寿命及び変形を予測にはコンピュータによる解析を用いることが好ましく、例えば、CAE(Computer Aided Engineering)解析を用いることができる。
【0065】
<設計条件及び成形条件の検討>
本実施の形態の内部応力算出方法より算出した樹脂成形品又はインサート成形品の内部応力と、流動解析とを組み合わせれば、樹脂成形品又はインサート成形品の形状、及び/又は、成形型又はインサート部材の温度を決定することができる。また、樹脂成形品又はインサート成形品が複雑な形状をもつ場合、複雑な形状の部分は、他の部分と内部応力分布が異なる。本実施の形態の内部応力算出方法は、複数の位置において、樹脂成形品又はインサート成形品の内部応力を算出することで内部応力の分布を導出することができるため、樹脂成形品又はインサート成形品の設計等の形状を検討する段階、及び樹脂の射出速度又は温度等の成形条件を検討する段階においても有用である。また、当該成形条件を基に変形が小さい成形品の成形方法を得ることができる。
【実施例】
【0066】
(実施例1)
本実施例では、射出成形中におけるインサート成形品の内部に発生した応力(以下、発生応力又は内部応力ともいう)の経時変化について具体的に説明する。
【0067】
まず、
図1に示すようなインサート成形品を用意した。インサート成形品は、
樹脂部材としてポリプラスチックス社製のポリアセタール樹脂ジュラコン(登録商標)M90-44を用い、インサート部材としてSCM440製の均肉中空円筒(円筒部外径25mm、円筒部内径20mm、高さ45mm)を用いて、インサート部材の外周に樹脂部材(外径35mm、内径25mm、高さ30mm)をインサート成形した。また、インサート成形品に取付けられた歪ゲージは、株式会社共和電業製のKFU-2-120-D17-11を用いた。
成形条件として、金型温度を80℃に設定し、保圧力を80MPaに設定した。
保圧時間は20秒、金型内での冷却時間は20秒にそれぞれ設定した。
【0068】
上述した内部応力算出方法よりインサート成形品の発生応力を算出した。射出成形時におけるインサート成形品の発生応力の変化を
図3に示す。
【0069】
図3より成形開始直後に、充填樹脂によりインサート部材の金属(以下、インサート金属ともいう)の温度が上昇していることが確認でき、保圧に伴って、円周方向および径方向の応力がともに大きく変化していることが確認できる。冷却中には、インサート金属部分と樹脂部分の収縮率差に起因した熱応力から、樹脂内径部の円周方向に引張の応力が発生していることが確認できる。このように、インサート成形品の内部応力を成形過程を通して測定及び評価可能であることが分かった。更に、室温までの冷却完了後に、樹脂部分を切開等により除去することにより、円周方向に発生していた引張応力が解放され、応力がゼロ近傍まで戻っている状態が確認できる。この結果から、本実施例における条件において、インサート金属の塑性変形の影響は極めて小さく、インサート成形品の樹脂部分に関する挙動を、正確に評価可能であることが明らかとなった。
【0070】
(実施例2)
本実施例では、ヒートショック試験中におけるインサート成形品の内部に発生した応力(以下、発生応力又は内部応力ともいう)の経時変化について具体的に説明する。
【0071】
まず、
図4に示すようなインサート成形品を用意した。インサート成形品は、
樹脂部材としてポリプラスチックス株式会社製のポリフェニレンサルファイド樹脂ジュラファイド(登録商標)1140A1を用い、インサート部材としてSCM440製の応力集中部を有するノッチ付き中空円筒(円筒部外径25mm、円筒部内径20mm、高さ45mm、ノッチ部における樹脂肉厚が1.1mmかつ、ノッチ部と円筒部の接線のなす角が84.9°となり、ノッチ先端Rは0.2mmとなるように形成)を用いて、インサート部材の外周に樹脂部材(外径39mm、内径25mm、高さ30mm)をインサート成形した。また、インサート成形品に取付けられた歪ゲージは、株式会社共和電業製のKFU-2-120-D17-11を用いた。なお、
図4の寸法単位は「mm」である。
【0072】
次に、上記インサート成形品に対してヒートショック試験を行った。ヒートショック試験の試験条件は以下の通りである。
【0073】
試験機:日立アプライアンス株式会社ES-106LH
試験温度範囲:-40~140℃
常温から-40℃に降温して1時間保持後、140℃に昇温して1時間保持してから、常温に戻るまでを1サイクルとした。
【0074】
上述した内部応力算出方法よりインサート成形品の発生応力を算出した。ヒートショック試験時におけるインサート成形品の発生応力の変化を
図5に示す。
【0075】
図5より試験開始から10~20時間の間にインサート成形品の内部に発生した円周方向の応力が減少していることが確認できる。
図6に当該期間をより詳細に示す。
【0076】
図6より試験開始から13~14時間の間にインサート成形品の内部に発生した円周方向の応力が減少していることが確認でき、インサート成形品のより正確な寿命を把握することができることが確認できた。
【0077】
インサート成形品の内部の破壊等は外見から視認することが困難であり、目視確認で正確な寿命を把握することができなかったが、本実施例においては、上述した内部応力算出方法よりインサート成形品のより正確な寿命を把握することができるため、この情報を基にインサート成形品の寿命を精度よく予測することができることが分かった。
【符号の説明】
【0078】
10 樹脂部材
12 インサート部材
14 歪ゲージ
16 ケーブル