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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】光学式測定装置および光学式測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/03 20060101AFI20230309BHJP
【FI】
G01B11/03 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019072408
(22)【出願日】2019-04-05
(65)【公開番号】P2020169934
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100134511
【弁理士】
【氏名又は名称】八田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】今泉 良一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 一郎
【審査官】飯村 悠斗
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-226802(JP,A)
【文献】特開平02-085905(JP,A)
【文献】特開平07-035516(JP,A)
【文献】特開昭59-037405(JP,A)
【文献】特開平08-029131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象に対し、光軸が平行に移動する走査光を照射する照射装置と、
前記被測定対象を超えて到達する前記走査光に対して光電変換を行う受光素子と、
所定の時間範囲にわたって前記走査光の一部が前記被測定対象によって遮られる場合に、前記受光素子が出力する電気信号の時間変化から得られる電圧波形において、前記被測定対象によって前記走査光が遮られない場合の電圧値に対する第1エッジと、前記被測定対象によって前記走査光が遮られる場合の電圧値に対する第2エッジとから、前記所定の時間範囲に相当する距離を演算する演算部と、を備え
前記被測定対象は、前記走査光の光軸および走査方向に対して直交する方向において段差を有し、
前記走査光の断面形状は、前記被測定対象の軸方向に長径を有し、前記走査方向に短径を有していることを特徴とする光学式測定装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記第1エッジの中点と、前記第2エッジの中点とから、前記所定の時間範囲に相当する距離を演算することを特徴とする請求項1記載の光学式測定装置。
【請求項3】
前記走査光の断面形状における最大径は、30μm以上、2mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学式測定装置。
【請求項4】
前記走査光の断面形状は、前記走査光の走査方向においては前記所定の時間範囲に相当する距離よりも小さい径を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の光学式測定装置。
【請求項5】
前記走査光の断面形状は、前記長径が30μm以上2mm以下であり、前記短径が前記段差の寸法よりも小さいことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の光学式測定装置。
【請求項6】
被測定対象に対し、光軸が平行に移動する走査光を照射装置から照射し、
前記被測定対象を超えて到達する前記走査光に対して受光素子で光電変換を行い、
所定の時間範囲にわたって前記走査光の一部が前記被測定対象によって遮られる場合に、前記受光素子が出力する電気信号の時間変化から得られる電圧波形において、前記被測定対象によって前記走査光が遮られない場合の電圧値に対する第1エッジと、前記被測定対象によって前記走査光が遮られる場合の電圧値に対する第2エッジとから、前記所定の時間範囲に相当する距離を演算し、
前記被測定対象は、前記走査光の光軸および走査方向に対して直交する方向において段差を有し、
前記走査光の断面形状は、前記被測定対象の軸方向に長径を有し、前記走査方向に短径を有している、ことを特徴とする光学式測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、光学式測定装置および光学式測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学式測定装置が開示されている(例えば、特許文献1,2参照)。この光学式測定装置では、回転ミラーにより回転走査されたレーザビームをコリメートレンズによりコリメート光とし、コリメートレンズと集光レンズとの間に被測定対象を配置することで、被測定対象の外径を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-275015号公報
【文献】特開昭63-32308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような光学式測定装置を用いてクランクシャフトなどの段差の寸法を測定する場合、二つの電圧波形を取得するために2回の走査が必要となる。このような測定の場合、一般には、シャフト測定機や投影機等を用いることが有効であるが、光学式測定装置よりも大型かつ高額な装置であるため、導入には敷居が高いと考えられる。
【0005】
1つの側面では、本発明は、1回の走査で段差の寸法を測定することができる光学式測定装置および光学式測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様では、本発明に係る光学式測定装置は、被測定対象に対し、光軸が平行に移動する走査光を照射する照射装置と、前記被測定対象を超えて到達する前記走査光に対して光電変換を行う受光素子と、所定の時間範囲にわたって前記走査光の一部が前記被測定対象によって遮られる場合に、前記受光素子が出力する電気信号の時間変化から得られる電圧波形において、前記被測定対象によって前記走査光が遮られない場合の電圧値に対する第1エッジと、前記被測定対象によって前記走査光が遮られる場合の電圧値に対する第2エッジとから、前記所定の時間範囲に相当する距離を演算する演算部と、を備え、前記被測定対象は、前記走査光の光軸および走査方向に対して直交する方向において段差を有し、前記走査光の断面形状は、前記被測定対象の軸方向に長径を有し、前記走査方向に短径を有していることを特徴とする。
【0007】
上記光学式測定装置において、前記演算装置は、前記第1エッジの中点と、前記第2エッジの中点とから、前記所定の時間範囲に相当する距離を演算してもよい。
【0008】
上記光学式測定装置において、前記走査光の断面形状における最大径を、30μm以上、2mm以下としてもよい。
【0009】
上記光学式測定装置において、前記走査光の断面形状は、前記走査光の走査方向においては前記所定の時間範囲に相当する距離よりも小さい径を有していてもよい。
【0010】
上記光学式測定装置において、前記走査光の断面形状は、前記長径が30μm以上2mm以下であり、前記短径が前記段差の寸法よりも小さくてもよい。
【0011】
他の態様では、本発明に係る光学式測定方法は、被測定対象に対し、光軸が平行に移動する走査光を照射装置から照射し、前記被測定対象を超えて到達する前記走査光に対して受光素子で光電変換を行い、所定の時間範囲にわたって前記走査光の一部が前記被測定対象によって遮られる場合に、前記受光素子が出力する電気信号の時間変化から得られる電圧波形において、前記被測定対象によって前記走査光が遮られない場合の電圧値に対する第1エッジと、前記被測定対象によって前記走査光が遮られる場合の電圧値に対する第2エッジとから、前記所定の時間範囲に相当する距離を演算し、前記被測定対象は、前記走査光の光軸および走査方向に対して直交する方向において段差を有し、前記走査光の断面形状は、前記被測定対象の軸方向に長径を有し、前記走査方向に短径を有している、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
1回の走査で段差の寸法を測定することができる光学式測定装置および光学式測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る光学式測定装置の斜視図である。
図2】光学式測定装置の構成を例示する概略図である。
図3】(a)はクランクシャフトを例示する図であり、(b)は2回の走査で段差寸法を測定する場合を例示する図である。
図4】2回の走査で段差寸法を測定する場合を例示する図である。
図5】1回の走査で段差寸法を測定する場合を例示する図である。
図6】(a)~(c)は電圧波形が三段階で推移する場合の電圧波形を例示する図である。
図7】レーザ光の走査方向が段差LDの端面に対して傾斜する場合を例示する図である。
図8】レーザ光のビーム径を大きくする場合を例示する図である。
図9】(a)および(b)はレーザ光の断面形状を変更する場合を例示する図である。
図10】(a)および(b)はレーザ光の断面形状を変更する場合を例示する図である。
図11】(a)および(b)はレーザ光の断面形状を変更する場合を例示する図である。
図12】(a)および(b)はレーザ光の断面形状を変更する構成を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、実施形態に係る光学式測定装置100の斜視図である。図2は、光学式測定装置100の構成を例示する概略図である。光学式測定装置100は、レーザ光を一次元走査して被測定対象の寸法を測定するレーザ・スキャン・マイクロメータ(LSM)であり、例えば、電子部品や機械部品の寸法測定、金属丸棒や光ファイバーの寸法測定などに利用される。以下の説明において、被測定対象Wに対するレーザ光の出射方向をZ方向とし、被測定対象Wの軸方向をX方向とし、Z方向及びX方向に直交する方向をY方向とする。Y方向は、レーザ光の走査方向と一致する。図1および図2で例示するように、光学式測定装置100は、発光部10、走査部20、直線偏光板30、受光部40、演算部50などを備える。
【0016】
発光部10は、レーザ光源11、レーザ制御回路12、偏光装置13等を備えている。レーザ光源11は、半導体レーザ素子等により構成され、波長が例えば650nmで、断面形状がほぼ円形若しくは楕円形の光束(レーザ光)を射出する。レーザ光源11は、レーザ制御回路12によって制御され、高速(例えば数MHz~数十MHz)でオンオフされる。偏光装置13は、レーザ光源11が射出したレーザ光を90°偏光させる装置である。例えば、偏光装置13は、レーザ制御回路12の指示に従って、レーザ光にλ/2波長板を通過させない場合と、レーザ光にλ/2波長板を通過させる場合と、を切り替える。
【0017】
走査部20は、反射ミラー21、回転ミラー22、モータ23、モータ駆動回路24、F-θレンズ25、同期用受光素子26等を備えている。反射ミラー21は、レーザ光源11から射出されたレーザ光を反射して回転ミラー22に入射する。回転ミラー22は、回転ミラー22と同軸に配置されたモータ23により回転し、反射ミラー21を介して入射されたレーザ光を回転走査光に変換してF-θレンズ25に入射する。具体的には、回転ミラー22は、多角柱(図2では8角柱)の各側面がそれぞれ反射面を構成する回転多面鏡であり、モータ23によって例えば5000~20000回転/分の速度で回転駆動される。回転ミラー22は、自身の回転によって反射面に入射するレーザ光の反射角度を変化させ、これによりレーザ光を主走査方向(スキャン方向)に偏向走査させる。
【0018】
モータ駆動回路24は、後述するモータ同期回路53の出力に基づきモータ23に対して電力を供給する。F-θレンズ25は、回転ミラー22で変換された回転走査光を等速度の平行走査光に変換する。具体的には、F-θレンズ25は、2枚のレンズ面の曲率を変えることにより、レンズ周辺部と中心部で走査速度が一定になるように設計されている。したがって、F-θレンズ25を用いて、被測定対象Wを透過する平行走査光の透過強度の時間変化を測定することで、被測定対象Wの寸法を求めることができる。F-θレンズ25により平行走査光に変換されたレーザ光は、回転ミラー22の回転に伴い被測定対象Wを含む測定領域を走査するように照射されることになる。
【0019】
同期用受光素子26は、F-θレンズ25の外側であって、レーザ光がF-θレンズ25を通過する範囲の1回の走査が開始される前、または終了した後に、レーザ光を受光する位置に配置されている。同期用受光素子26は、レーザ光による1走査の開始または終了を検出してパルス状のタイミング基準信号(以下、基準信号と称する)を出力する。したがって、レーザ光の1回の走査が開始される毎に、または終了する毎に基準信号が1回出力されることとなる。
【0020】
直線偏光板(偏光板)30は、偏光子の向きが、レーザ光の出射方向(Z方向)および被測定対象Wの軸方向(X方向)に直交する方向、即ち、被測定対象Wの反射面(XZ平面)に対して垂直方向(Y方向)となるように形成されている。即ち、F-θレンズ25により平行走査光に変換されたレーザ光は、直線偏光板1を通過する際、被測定対象Wの反射面に対して水平方向(X方向)の振動成分が遮断され、反射面に対して垂直方向(Y方向)の成分のみが通過することとなる。被測定対象Wは円筒形状を有しているため、回転ミラー22の回転に伴い、直線偏光板30を通過する平行走査光は、被測定対象Wの円筒形状の軸に対する垂直断面内において光軸が平行に移動する。
【0021】
受光部40は、集光レンズ41、受光素子42、アンプ43、等を備えている。集光レンズ41は、被測定対象Wを通過した平行走査光を集光して受光素子42に入射する。受光素子42は、集光レンズ41により集光された平行走査光に対して光電変換を行う。具体的には、受光素子42は、受光強度に応じた電圧を有する電気信号を出力する。受光素子42は、受光強度が大きいほど電圧が大きい電気信号を出力し、受光強度が小さいほど電圧が小さい電気信号を出力する。電気信号の電圧の強弱を測定することで、被測定対象Wの走査面内における走査方向の寸法を測定することができる。なお、こうした寸法算出処理は、演算部50にて行われる。アンプ43は、受光素子42より出力された電気信号を増幅し、演算部50に出力する。
【0022】
演算部50は、電圧検出回路51、クロック回路52、モータ同期回路53、入出力回路54、キーボード55、CPU(中央演算装置)56、RAM(ランダムアクセスメモリ)57、記憶部58、等を備えている。電圧検出回路51は、アンプ43から出力された電気信号の電圧値の時間変化を検出する。それにより、受光素子42で受光される走査光の受光強度の時間変化を検出することができる。
【0023】
モータ同期回路53は、クロック回路52から入力されたクロック信号に同期した駆動信号をモータ駆動回路24に対して出力する。なお、モータ駆動回路24は、モータ同期回路53の出力に基づいてモータ23に電力を供給する。したがって、回転ミラー22は、クロック信号に対して所定の関係を持った速度で回転することとなる。
【0024】
入出力回路54は、算出された値(被測定対象Wの寸法)等を表示装置や印刷装置などの外部出力装置(図示省略)に出力する。キーボード55は、各種の操作キー群を備えて構成されている。ユーザによりキーボード55の所定のキーの押下操作が行われると、この押下操作に応じた操作信号がCPU56に出力される。CPU56は、例えば、記憶部58に記憶されている各種処理プログラムに従って、各種の制御処理を行う。
【0025】
RAM57は、CPU56により演算処理されたデータを格納するワークメモリエリアを形成している。記憶部58は、例えば、CPU56によって実行可能なシステムプログラムや、そのシステムプログラムで実行可能な各種処理プログラム、これら各種処理プログラムを実行する際に使用されるデータ、CPU56によって演算処理された各種処理結果のデータなどを記憶する。なお、プログラムは、コンピュータが読み取り可能なプログラムコードの形で記憶部58に記憶されている。
【0026】
CPU56は、電圧検出回路51が検出した電圧の時間変化を用いて、被測定対象Wの段差を計算する。以下、被測定対象Wの段差の測定の詳細について説明する。
【0027】
図3(a)で例示するように、被測定対象Wの一例として、クランクシャフトに着目する。クランクシャフトは、X軸方向の先端部において、X軸方向に向かって、同軸であって外径の異なる複数の円柱が、順に外径が小さくなるように接続された構造を有している。それにより、クランクシャフトの外径は、X軸方向の先端に向かって段階的に小さくなっている。したがって、被測定対象Wは、段差LDを有している。
【0028】
光学式測定装置100を用いて段差LDの段差寸法Gを測定しようとする場合、図3(b)で例示するように、一段目の外径D1および二段目の外径D2を測定する。外径D1および外径D2は、それぞれ、電圧検出回路51が検出する電圧波形において、立ち上がりエッジおよび立ち下りエッジを検出することで測定することができる。外径D1と外径D2との差分の1/2を計算することで、一段目と二段目との段差寸法G1,G2を測定することができる。しかしながら、この場合、外径D1を測定するための走査および外径D2を測定するための走査の2回の走査を行うことになる。
【0029】
または、図4で例示するように、二段目の外周と基準エッジとの隙間G1と一段目の外周と基準エッジとの隙間G2とを測定する。隙間G1および隙間G2は、それぞれ、電圧検出回路51が検出する電圧波形において、立ち上がりエッジおよび立ち下りエッジを検出することで測定することができる。隙間G1と隙間G2との差分を計算することで、一段目と二段目との段差寸法G3を測定することができる。しかしながら、この場合、隙間G1を測定するための走査および隙間G2を測定するための走査の2回の走査を行うことになる。
【0030】
このような段差測定の場合、一般には、シャフト測定機や投影機等を用いることが有効である。しかしながら、これらの機器は、光学式測定装置よりも大型かつ高額な装置であるため、導入には敷居が高くなる。
【0031】
そこで、本実施形態においては、XY平面におけるレーザ光の走査位置(走査軌跡)を段差LDに合わせ、当該段差LDから得られる電圧波形から段差寸法Gを測定する。
【0032】
図5で例示するように、XY平面におけるレーザ光の走査軌跡を段差LDに合わせる。具体的には、レーザ光の中心を段差LDの端面に一致させる。段差LDの端面とは、段差LDにおいて、走査方向に延びる面であって、YZ平面に平行な面である。この場合、段差LDよりもY軸方向の外側では、レーザ光は遮られない。したがって、電圧検出回路51で検出される電圧値は、100%となる。レーザ光が段差LDに照射されると、レーザ光の一部が遮られる。それにより、電圧検出回路51で検出される電圧値は、0%と100%との間(例えば、50%)となる。段差LDよりもY軸方向の内側では、レーザ光は遮られる。したがって、電圧検出回路51で検出される電圧値は、0%となる。このように、レーザ光の走査軌跡を段差LDに合わせると、所定の時間範囲にわたってレーザ光の一部が被測定対象Wによって遮られるため、電圧検出回路51によって検出される電圧波形は、三段階(例えば、100%、50%、0%)で推移する。したがって、当該電圧波形において、被測定対象Wによってレーザ光が遮られない場合の電圧値(100%)に対する第1エッジと、被測定対象Wによってレーザ光が遮られる場合の電圧値(0%)に対する第2エッジとが現れる。
【0033】
この場合において、電圧値が100%と50%との中間位置(例えば、75%近傍)は、ビームが段差部分に侵入し始めた位置を示している。電圧値が50%と0%との中間位置(例えば、25%近傍)は、ビームが段差部分から脱出し始めた位置を示している。したがって、第1エッジと第2エッジとから、レーザ光の一部が被測定対象Wによって遮られる上記の所定の時間範囲に相当する距離を演算することで、段差寸法Gを測定することができる。
【0034】
本実施形態によれば、1回の走査で第1エッジおよび第2エッジを検出することができるため、1回の走査で段差寸法Gを測定することができる。
【0035】
続いて、より高精度に段差寸法Gを測定する構成について説明する。図6(a)~図6(c)は、電圧波形が三段階で推移する場合の電圧波形を例示する図である。図6(b)で例示するように、理想的には、レーザ光の中心が段差LDの端面に一致する。この場合、レーザ光が段差LDに照射される場合に、レーザ光の半分が遮られる。したがって、段差LDにおいて電圧検出回路51で検出される電圧値は、50%となる。この場合、電圧検出回路51で検出される電圧値が75%となる位置が、レーザ光の中心が段差LDに侵入し始めた侵入位置を示している。電圧検出回路51で検出される電圧値が25%となる位置が、レーザ光の中心が段差LDから脱出し始めた脱出位置を示している。
【0036】
しかしながら、誤差などに起因して、レーザ光の中心が段差LDの端面からずれる場合がある。例えば、図6(a)で例示するように、レーザ光の中心が、段差LDの端面よりも、X軸方向外側にずれる場合がある。この場合、段差LDにおいて、レーザ光の半分よりも小さい範囲だけが遮られる。したがって、段差LDにおいて電圧検出回路51で検出される電圧値は、50%よりも大きくなってしまう。次に、図6(b)で例示するように、レーザ光の中心が、段差LDの端面よりも、X軸方向内側にずれる場合がある。この場合、段差LDにおいて、レーザ光の半分よりも大きい範囲が遮られる。したがって、段差LDにおいて電圧検出回路51で検出される電圧値は、50%よりも小さくなってしまう。これらのような場合に、電圧値=75%を侵入位置とし、電圧値=75%を脱出位置とすると、段差寸法Gの測定に誤差が生じるおそれがある。
【0037】
そこで、図6(a)~図6(c)で例示するように、第1エッジにおいて、電圧値が100%から変化する変化点と、段差LDにおける電圧値への変化点との中点を侵入位置とする。また、第2エッジにおいて、段差LDにおける電圧値から変化する変化点と、電圧値=0%に変化する変化点との中点を脱出位置とすることが好ましい。このように第1エッジの中点および第2エッジの中点を定義することで、レーザ光の中心が段差LDの端面からずれても、段差寸法Gの測定誤差を抑制することができる。
【0038】
または、段差LDにおいて電圧検出回路51で検出される電圧値(%)と100%とのちょうど中間となる電圧値の位置を侵入位置とし、段差LDにおいて電圧検出回路51で検出される電圧値(%)と0%とのちょうど中間となる電圧値の位置を脱出位置としてもよい。このように第1エッジの中点および第2エッジの中点を定義することで、レーザ光の中心が段差LDの端面からずれても、段差寸法Gの測定誤差を抑制することができる。
【0039】
(変形例1)
複数の段差が並ぶ方向に対してレーザ光の走査方向が傾斜している場合には、レーザ光の走査軌跡が段差と一致せず、エッジをロストしてしまうおそれがある。例えば、図7で例示するように、複数の段差が並ぶ方向に対してレーザ光の走査方向が傾斜する場合には、段差LDにレーザ光の走査軌跡を合わせることができても、他方の段差からレーザ光の走査軌跡が外れることになる。この場合、立ち上がりエッジをロストしてしまい、レーザ光の走査軌跡が外れた段差寸法の測定ができなくなるおそれがある。
【0040】
そこで、図8で例示するように、レーザ光のビーム径を大きくすることが好ましい。この場合、複数の段差が並ぶ方向に対してレーザ光の走査方向が傾斜していても、レーザ光を両方の段差に照射することができる。例えば、ビーム径を30μm以上、2mm以下程度まで大きくすることで、十分にビーム径を大きくすることができる。
【0041】
(変形例2)
段差寸法Gが小さい場合には、レーザ光のビーム径を大きくし過ぎると、エッジの検出が困難となる場合がある。例えば、図9(a)で例示するように、ビーム径が段差寸法Gよりも大きいと、レーザ光の中心が段差LDの端面に一致していても、電圧検出回路51で検出される電圧値が50%となる場合が一瞬となり、電圧波形からのエッジの検出が困難となるおそれがある。
【0042】
そこで、図9(b)で例示するように、レーザ光のビーム形状(断面形状)が、走査方向と交差する方向に長径を有していることが好ましい。例えば、レーザ光の断面形状は、X軸方向に長径を有していることが好ましい。例えば、レーザ光の断面形状が、X軸方向に長さを有する楕円形状を有していることが好ましい。この場合、エッジの検出が容易になる。特に、レーザ光の断面形状が、Y軸方向において段差寸法Gよりも小さい径を有していれば、段差LDにおいて電圧値が一定となる時間が長くなる。それにより、電圧波形からのエッジの検出が容易となる。
【0043】
例えば、レーザ光のX軸方向における径を30μm以上2mm以下とし、Y軸方向における径を段差寸法Gよりも小さくすることで、十分にビーム径を大きくしつつ、電圧波形からのエッジの検出を容易とすることができる。
【0044】
また、レーザ光の断面形状が円である場合、図10(a)で例示するように、レーザ光の中心が段差LDの端面に一致していたとしても、レーザ光が段差LDに差し掛かってからレーザ光の中心が段差LDの端面に到達するまでに所定の時間を要するため、電圧波形におけるエッジの時間が長くなる。この場合、電圧波形のスロープが緩やかとなり、ノイズ成分の影響を受けるおそれがある。
【0045】
これに対して、レーザ光の断面形状がY軸方向に短径を有していれば、図10(b)で例示するように、レーザ光が段差LDに差し掛かってからレーザ光の中心が段差LDの端面に到達するまでの時間が短くなり、電圧波形におけるエッジの時間が短くなる。この場合、電圧波形のスロープが急峻となり、ノイズ成分の影響を抑制することができる。
【0046】
例えば、図11(a)で例示するように、電圧波形のスロープが緩やかであると、微分値波形のピークが緩やかとなり、極大値が小さくなる。したがって、エッジ位置の判定にバラツキが生じやすくなる。これに対して、図11(b)で例示するように、電圧波形のスロープが急峻であると、微分値波形のピークが急峻になり、極大値が大きくなる。したがって、エッジ位置の判定にバラツキが生じにくくなる。
【0047】
なお、図12(a)で例示するように、レーザ光源11から出射される光に対してコリメートレンズ14でコリメートした後に、楕円形状の絞り15でコリメート光を絞ることで、レーザ光の断面形状を楕円にすることができる。または、図12(b)で例示するように、光が通過する強度を位置によって変化させるようなフィルム16を用いて、レーザ光の断面形状を楕円にすることもできる。
【0048】
上記各例において、発光部10および走査部20が、被測定対象に対し、光軸が平行に移動する走査光を照射する照射装置の一例である。受光素子42が、前記被測定対象を超えて到達する前記走査光に対して光電変換を行う受光素子の一例である。演算部50が、所定の時間範囲にわたって前記走査光の一部が前記被測定対象によって遮られる場合に、前記受光素子が出力する電気信号の時間変化から得られる電圧波形において、前記被測定対象によって前記走査光が遮られない場合の電圧値に対する第1エッジと、前記被測定対象によって前記走査光が遮られる場合の電圧値に対する第2エッジとから、前記所定の時間範囲に相当する距離を演算する演算部の一例である。
【0049】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 発光部
11 レーザ光源
13 偏光装置
22 回転ミラー
51 電圧検出回路
20 走査部
40 受光部
50 演算部
100 光学式測定装置
図1
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