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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】試料保持器および荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/20 20060101AFI20230309BHJP
【FI】
H01J37/20 A
H01J37/20 F
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021521587
(86)(22)【出願日】2019-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2019020877
(87)【国際公開番号】W WO2020240655
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽根田 茂
(72)【発明者】
【氏名】東 淳三
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-139175(JP,A)
【文献】特開2016-207425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線装置に用いられる試料保持器であって、
第1側面を有する第1電極と、
前記第1側面と対向する第2側面を有する第2電極と、
前記第1電極に取り付けられ、且つ、前記第1電極を水平方向へ移動させる機能を有する圧力印加部材と、
を有し、
前記第1側面と前記第2側面との間に試料を保持する場合、前記水平方向と直交する高さ方向において、前記試料の上面を、前記圧力印加部材が前記第1電極に接する箇所における前記圧力印加部材の第1幅の範囲内に位置させることが可能であり、
前記第1側面および前記第2側面は、前記水平方向に対して垂直な断面と平行な面を成す、試料保持器。
【請求項2】
請求項1に記載の試料保持器において、
前記試料の上面は、前記第1幅の中心と同じ高さに位置する、試料保持器。
【請求項3】
請求項1に記載の試料保持器において、
前記試料の観察時に、前記第1電極および前記第2電極にそれぞれ異なる電圧が供給されることで、前記試料は導通状態とされる、試料保持器。
【請求項4】
請求項1に記載の試料保持器において、
前記第1側面または前記第2側面には、冶具が設けられ、
前記試料の上面が前記冶具の下面に接するように、前記試料は、前記第1側面と前記第2側面との間に設けられる、試料保持器。
【請求項5】
請求項4に記載の試料保持器において、
前記冶具の下面の位置は、前記第1電極の上面の位置および前記第2電極の上面の位置よりも低い、試料保持器。
【請求項6】
請求項1に記載の試料保持器において、
前記第1側面または前記第2側面には、第1カバー部材が設けられ、
前記第1カバー部材が前記第1側面に設けられている場合、前記第1カバー部材を構成する材料は、前記第1電極を構成する材料よりも低い硬度を有し、
前記第1カバー部材が前記第2側面に設けられている場合、前記第1カバー部材を構成する材料は、前記第2電極を構成する材料よりも低い硬度を有する、試料保持器。
【請求項7】
請求項1に記載の試料保持器において、
前記第1電極の前記第1側面および上面、または、前記第2電極の前記第2側面および上面には、前記第1電極または前記第2電極に着脱可能な第2カバー部材が設けられている、試料保持器。
【請求項8】
請求項7に記載の試料保持器において、
前記第2カバー部材が前記第1電極の前記第1側面および上面に設けられている場合、前記第2カバー部材を構成する材料は、前記第1電極を構成する材料よりも低い硬度を有し、
前記第2カバー部材が前記第2電極の前記第2側面および上面に設けられている場合、前記第2カバー部材を構成する材料は、前記第2電極を構成する材料よりも低い硬度を有する、試料保持器。
【請求項9】
荷電粒子線装置に用いられる試料保持器であって、
第1側面を有する第1電極と、
前記第1側面と対向する第2側面を有する第2電極と、
前記第1電極に取り付けられ、且つ、前記第1電極を水平方向へ移動させる機能を有する圧力印加部材と、
を有し、
前記第1側面または前記第2側面には、冶具が設けられ、
前記水平方向と直交する高さ方向において、前記冶具の下面は、前記圧力印加部材が前記第1電極に接する箇所における前記圧力印加部材の第1幅の範囲内に位置し、
前記第1側面および前記第2側面は、前記水平方向に対して垂直な断面と平行な面を成す、試料保持器。
【請求項10】
請求項9に記載の試料保持器において、
前記冶具の下面は、前記第1幅の中心と同じ高さに位置する、試料保持器。
【請求項11】
請求項9に記載の試料保持器において、
前記第1側面または前記第2側面には、第1カバー部材が設けられ、
前記第1カバー部材が前記第1側面に設けられている場合、前記第1カバー部材を構成する材料は、前記第1電極を構成する材料よりも低い硬度を有し、
前記第1カバー部材が前記第2側面に設けられている場合、前記第1カバー部材を構成する材料は、前記第2電極を構成する材料よりも低い硬度を有する、試料保持器。
【請求項12】
請求項9に記載の試料保持器において、
前記第1電極の前記第1側面および上面、または、前記第2電極の前記第2側面および上面には、前記第1電極または前記第2電極に着脱可能な第2カバー部材が設けられている、試料保持器。
【請求項13】
請求項1に記載の試料保持器と、
前記試料保持器を搭載可能なステージと、
前記試料保持器に保持される試料から発生する粒子を検出するための検出器と、
を備える、荷電粒子線装置。
【請求項14】
請求項13に記載の荷電粒子線装置において、
観察室であって、前記ステージおよび前記検出器を備える観察室と、
前記観察室に隣接した準備室であって、前記試料保持器を設置可能な準備室と、
を備え、
前記観察室と前記準備室の真空を保ったまま前記観察室と前記準備室との間で前記試料保持器を移動させることが可能である、
荷電粒子線装置。
【請求項15】
請求項13に記載の荷電粒子線装置において、
電子銃と、
前記電子銃から放出された電子線を集束させるための電子レンズと、
前記試料保持器が前記ステージ上に搭載された場合、前記電子線を前記試料のうち所望の位置へ走査するための偏向コイルと、
を有し、
前記第2電極は、前記第1電極よりも前記検出器の近くに設けられ、
前記第2電極の上面の位置は、前記第1電極の上面の位置よりも低い、荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料保持器および試料保持器を搭載可能な荷電粒子線装置に関し、特に試料を通電させる電極が設けられた試料保持器に好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池のような全固体電池は、高容量および高エネルギー密度が得られる特性から、例えばモバイル用電池として期待されている。リチウムイオン二次電池は、主に、正極板、固体電解質および負極板によって構成されている。正極板および負極板には活物質が含まれるが、リチウムイオン二次電池の充電時および放電時において、活物質が膨張および収縮を繰り返すので、極板に変形が生じ、サイクル寿命が低下してしまうという問題がある。
【0003】
このような充放電時における極板の状態変化、または、極板に対するリチウムイオンの挙動を観察することは、リチウムイオン二次電池の容量および寿命を向上させる技術の発展のため、重要である。例えば、特許文献1には、観察試料である全固体電池に対して電流を供給すると同時に、通電された全固体電池に作用している圧縮力を測定する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、積層体の全固体電池を保持する際の知見が開示されている。特許文献2によれば、積層体を保持する圧力に不均一な領域があると、圧力が高い領域では荷重が集中し、電極割れが発生する恐れがあり、圧力が低い領域では各層間の導通が不十分となり、全体としての電池性能が低下する恐れがある。
【0005】
一方で、特許文献3および特許文献4に開示されているように、全固体電池の正極板、固体電解質および負極板は、粉末成形法によって順次積層されることで形成される場合が多い。そのため、全固体電池は圧力に対して脆さを有するという一面もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-207425号公報
【文献】特開2017-204377号公報
【文献】国際公開第2014/016907号
【文献】特開平9-35724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)のような荷電粒子線装置を用いて試料の表面状態などを観察する場合、荷電粒子線装置には、試料を保持するための機構として試料保持器が設けられている。また、上述のように、観察試料として全固体電池を用い、導通状態における全固体電池の挙動を観察することが求められている。
【0008】
そこで、荷電粒子線装置を用い、導通状態における全固体電池の構造変化を観察する技術が必要となる。特に、圧力変化が起こる前後における試料の構造観察技術のみならず、導通状態において、圧力が印加された試料の構造がどのように変化していくのか、という過程を観察する技術が望まれる。
【0009】
そのような観点において、例えば、特許文献1に開示されている技術を用いて、試料に圧力を印加しようとする場合、所望の観察面に対して効率的に圧力を加えることが難しいので、観察面から正確な観察像を取得することが困難である。
【0010】
本願の目的の一つは、試料の観察面に対して圧力を効率的に印加可能な試料保持器を提供することである。また、本願の他の目的は、そのような試料保持器を備えた荷電粒子線装置によって、より正確な観察像を取得することである。
【0011】
その他の課題および新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0013】
一実施の形態における試料保持器は、第1側面を有する第1電極と、第1側面と対向する第2側面を有する第2電極と、第1電極に取り付けられ、且つ、第1電極を水平方向へ移動させる機能を有する圧力印加部材とを有する。ここで、第1側面と第2側面との間に試料を保持する場合、水平方向と直交する高さ方向において、試料の上面を、圧力印加部材が前記第1電極に接する箇所における圧力印加部材の第1幅の範囲内に位置させることが可能である。
【0014】
また、一実施の形態における試料保持器は、第1側面を有する第1電極と、第1側面と対向する第2側面を有する第2電極と、第1電極に取り付けられ、且つ、第1電極を水平方向へ移動させる機能を有する圧力印加部材とを有する。ここで、第1側面または第2側面には、冶具が設けられ、水平方向と直交する高さ方向において、冶具の下面は、圧力印加部材が第1電極に接する箇所における圧力印加部材の第1幅の範囲内に位置する。
【0015】
また、一実施の形態における荷電粒子線装置は、試料を保持した試料保持器を搭載可能であり、試料の観察時において、試料保持器によって導通状態にされ、且つ、試料保持器によって圧力が印加された試料の構造が変化していく様子を、複数の観察像として確認することができる。
【発明の効果】
【0016】
一実施の形態によれば、試料の観察面に対して圧力を効率的に印加可能な試料保持器を提供できる。また、そのような試料保持器を備えた荷電粒子線装置によって、より正確な観察像を取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施の形態1における試料保持器を示す斜視図である。
図2】実施の形態1における試料保持器を示す断面図である。
図3】実施の形態1における荷電粒子線装置を示す模式図である。
図4】変形例1における試料保持器を示す断面図である。
図5】実施の形態2における試料保持器を示す断面図である。
図6】変形例2における試料保持器を示す断面図である。
図7】実施の形態3における試料保持器を示す断面図である。
図8】変形例3における試料保持器を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0019】
また、実施の形態で用いられる図面では、図面を見易くするために、断面図であってもハッチングが省略されている場合もある。
【0020】
また、図面に示されるX方向、Y方向およびZ方向は、互いに直交している。以下では、X方向およびY方向を水平方向とし、Z方向を高さ方向として説明する場合もある。
【0021】
(実施の形態1)
<実施の形態1における試料保持器HL>
以下に図1および図2を用いて、実施の形態1における荷電粒子線装置用の試料保持器HLについて説明する。図1は、試料保持器HLの主要部を示す斜視図であり、図2は、図1に示されるA-A線に沿った断面図である。また、図1では、隔壁2を取り外した状態の試料保持器HLが示されている。
【0022】
実施の形態1において、試料SAMは、二次電池のような電子材料であり、具体的にはリチウムイオン二次電池のような全固体電池である。なお、図1には試料SAMは図示されていない。
【0023】
試料保持器HLには、外形構成部材として土台1および隔壁2が設けられ、隔壁2は、その下面が凹状となるように形成されている。土台1および隔壁2は、シール材であるOリング8によって接続される。従って、土台1および隔壁2に囲まれた空間SPは、密閉され、試料保持器HLの外部から隔離されている。試料保持器HLを用いて試料SAMを保管する際には、空間SPに窒素ガスまたはアルゴンガスなどの不活性ガスを充満させることができるので、試料SAMが酸化するなどの不具合を防止できる。
【0024】
また、隔壁2は土台1から取り外し可能であり、後述の荷電粒子線装置CRDを用いて試料SAMを観察する際、または、試料SAMを交換する際などには、隔壁2は取り外される。隔壁2の上部の一部には、取り出し用の突起部2aが設けられている。突起部2aは、例えばフック形状を成し、隔壁2と一体化されている。このフック形状に一致する形状のピンを挿入し、隔壁2を回転させて、隔壁2と土台1の間に設けられているネジを緩めることで、隔壁2の取り外しが可能となる。
【0025】
土台1上には、絶縁部材3aを介して固定電極4aが設けられ、絶縁部材3bを介して固定電極4bが設けられている。固定電極4aには棒状の圧力印加部材6が設けられ、圧力印加部材6の先端は可動電極5に取り付けられている。可動電極5の側面は、固定電極4bの側面と対向している。
【0026】
圧力印加部材6は、例えば無頭ネジ(イモネジ、止めネジ)であり、可動電極5を水平方向(X方向)へ移動させる機能を有する。すなわち、圧力印加部材6が無頭ネジである場合、圧力印加部材6を回転させることで、可動電極5はX方向に移動する。
【0027】
なお、可動電極5をX方向へ移動させることができれば、圧力印加部材6は、上記無頭ネジに限定されない。例えば、圧力印加部材6は、なべネジまたはサラネジなどの他形状のネジであってもよく、六角穴付きボルトまたは六角ボルトであってもよい。更に、圧力印加部材6は、油圧、水圧、空気圧または圧電素子に印加する電圧を調整することで可動電極5を移動させることが可能な部材であってもよい。
【0028】
このように、可動電極5がX方向へ移動可能であることで、試料SAMを挟むように、固定電極4bと可動電極5との間において試料SAMを保持することができ、試料SAMへ所望の圧力を加えることができる。更に、棒状の圧力印加部材6の軸線ALの位置が、試料SAMの上面の位置とほぼ同じであることで、観察対象となる試料SAMの上面へ、効率的に圧力を加えることができる。
【0029】
また、可動電極5の下面が固定電極4aの上面に接するように、少なくとも可動電極5の一部は、固定電極4a上に設けられていることが好ましい。これにより、高さ方向(Z方向)における可動電極5の位置が安定する。
【0030】
固定電極4b側における可動電極5の側面には、冶具(位置合わせ用部材)7が設けられている。冶具7は、主に試料SAMの高さ位置を調整するために設けられている。すなわち、試料SAMの上面が冶具7の下面に接した位置を測定位置とすることで、試料SAMの高さ位置の調整が容易となる。
【0031】
実施の形態1の主な特徴は、試料保持器HLに設けられた固定電極4a、固定電極4b、可動電極5、圧力印加部材6および冶具7の構造と、これらの位置関係とであるが、そのような特徴については、荷電粒子線装置CRDの説明を行った後で詳細に説明する。
【0032】
また、可動電極5、固定電極4aおよび固定電極4bは、試料SAMを充電および放電させるための電極として機能している。
【0033】
土台1には、土台1を貫通するように複数の孔が設けられ、複数の孔の内壁には絶縁膜が形成され、複数の孔の内部には、絶縁膜を介して複数の配線部材10が形成されている。そのため、土台1と、複数の配線部材10とは、互いに絶縁されている。
【0034】
電源9は、試料保持器HLの外部に設けられ、配線11を介して配線部材10に電気的に接続されている。従って、可動電極5、固定電極4aおよび固定電極4bは、それぞれ、配線11および配線部材10を介して電源9に電気的に接続されている。これにより、試料SAMに電源9から電圧および電流を供給できる。
【0035】
また、電源9の内部には、各電圧および各電流を生成および制御可能な制御回路が設けられており、可動電極5(固定電極4a)および固定電極4bには、それぞれ異なる電圧が印加される。例えば、可動電極5(固定電極4a)に正電圧が印加されている場合には、固定電極4bには負電圧が印加される。また、可動電極5(固定電極4a)に負電圧が印加されている場合には、固定電極4bには正電圧が印加される。
【0036】
なお、複数の配線部材10は、土台1の下面または側面などにおいて配線11に接続できればよく、複数の配線部材10の平面的な位置は、図1および図2に示される位置に限定されない。
【0037】
以下に、試料保持器HLを構成する各構造の材料を例示する。
【0038】
一つの例における土台1を構成する材料は、電気導通性を有する導電体であり、非磁性体である。一つの例における土台1は、Al、C(グラファイト)、ステンレス、Cu、Ta、Mo、Ti、W、黄銅または青銅からなるか、これらの材料を含んだ化合物または合金からなる。
【0039】
一つの例における隔壁2を構成する材料は、電気導通性を有する導電体であり、非磁性体である。一つの例における隔壁2は、ステンレス、C(グラファイト)、Al、Cu、Ta、Mo、Ti、W、黄銅または青銅からなるか、これらの材料を含んだ化合物または合金からなる。
【0040】
また、隔壁2は、空間SPが試料保持器HLの外部環境による影響を受けず、土台1から容易に着脱が可能であればよい。この観点から、隔壁2は、セラミクスのような絶縁材料であってもよいし、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、繊維強化プラスチック(FRP)樹脂またはガラスエポキシ樹脂のような、絶縁性を有する樹脂材料であってもよい。
【0041】
一つの例における絶縁部材3a、3bを構成する材料は、絶縁体であり、非磁性体である。一つの例における絶縁部材3a、3bは、セラミクス、ジルコニア、サファイアまたはガラスのような絶縁材料からなる。
【0042】
また、絶縁部材3a、3bは、自身の変形によって印加される試料SAMへの圧力変化の影響が小さい材料であればよい。この観点から、絶縁部材3a、3bは、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、繊維強化プラスチック(FRP)樹脂またはガラスエポキシ樹脂のような、絶縁性を有する樹脂材料であってもよい。
【0043】
一つの例における固定電極4bおよび可動電極5を構成する材料は、電気導通性を有する導電体であり、非磁性体である。一つの例における固定電極4bおよび可動電極5は、リン青銅、C(グラファイト)、ステンレス、Al、Cu、Ta、Mo、Ti、W、黄銅または青銅からなるか、これらの材料を含んだ化合物または合金からなる。
【0044】
また、固定電極4bおよび可動電極5の各々の表面には、試料SAMとの接触抵抗を小さくする目的で、非磁性体からなるメッキ膜が形成されていてもよい。一つの例では、そのようなメッキ膜は、Au、Ag、Cu、Pt、Pd、IrまたはHfからなるか、これらの材料を含んだ化合物または合金からなる。
【0045】
一つの例における固定電極4aおよび冶具7を構成する材料は、電気導通性を有する導電体であり、非磁性体である。一つの例における固定電極4aおよび冶具7は、ステンレス、C(グラファイト)、Al、Cu、Ta、Mo、Ti、W、黄銅または青銅からなるか、これらの材料を含んだ化合物または合金からなる。
【0046】
一つの例における配線部材10を構成する材料は、電気導通性を有する導電体であり、非磁性体である。一つの例における配線部材10は、リン青銅、C(グラファイト)、ステンレス、Al、Cu、Ta、Mo、Ti、W、黄銅または青銅からなるか、これらの材料を含んだ化合物または合金からなる。
【0047】
また、配線部材10の表面には、配線11との接触抵抗を小さくする目的で、非磁性体からなるメッキ膜が形成されていてもよい。一つの例では、そのようなメッキ膜は、Au、Ag、Cu、Pt、Pd、IrまたはHfからなるか、これらの材料を含んだ化合物または合金からなる。
【0048】
<実施の形態1における荷電粒子線装置CRD>
図3は、上述の試料保持器HLを備えた荷電粒子線装置CRDを示す模式図である。なお、実施の形態1における荷電粒子線装置CRDは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)である。
【0049】
図3に示されるように、荷電粒子線装置CRDは、電子銃22、コンデンサレンズ(電子レンズ)23、偏向コイル(走査コイル)24、対物レンズ(電子レンズ)25、ステージ26および検出器27を備える。これらは一つの鏡体21に内包され、この鏡体21には各構成を制御する制御回路なども含まれるが、ここではそれらの図示を省略している。なお、コンデンサレンズ23および対物レンズ25は、コイルを有する電磁石であり、各々から発生する電磁場が、電子線EBに集束作用を与えるレンズとして機能する。
【0050】
また、ここで観察対象となる試料SAMは、例えば、直径5mm以上20mm以下、厚さ0.2mm以上2mm以下のコイン形状を成す全固体電池であり、これを半月状に割断したものである。このような割断した端面を観察面(試料SAMの上面)として、試料SAMを試料保持機HLに保持させた状態で、荷電粒子線装置CRDによる観察を行っている。
【0051】
観察対象となる試料SAMを観察する場合には、まず、試料SAMを保持した試料保持器HLを、観察室29に接続された準備室28に設置する。なお、図3では観察室29と準備室28とが隣接している。しかし、観察室29と準備室28とが隣接している必要はない。換言すれば、観察室29と準備室28とは直接的に接続されておらず間接的に接続されていてもよい。例えば、準備室28はロードロック機構になっている、または、準備室28はロードロック機構を有する。この例においては、図示しないアーム、トランスファーロッドおよびアクチュエータなどの機構により、準備室28および観察室29の真空を保ったまま、準備室28と観察室29との間で試料保持器HLを移動させることが可能である。試料保持器HLの準備室28と観察室29との間の移動は、自動で行われてもよく、手動で行われてもよい。次に、必要な場合は、準備室28を空間SPと同じ窒素ガスまたはアルゴンガスなどの不活性ガスで置換した後に、隔壁2の突起部2aを取り出し機器30によって取り外す。突起部2aはフック形状を成し、取り出し機器30はピン形状を成している。従って、取り出し機器30を突起部2aに挿入し、隔壁2を回転させて、隔壁2と土台1の間に設けられているネジを緩めることで、試料保持器HLから隔壁2が取り外される。隔壁2を取り外した後、準備室28を真空状態とする。
【0052】
次に、隔壁2が取り外された試料保持器HLを観察室29のステージ26上へ搭載し、試料SAMの観察を開始する。電子銃22から放出された電子線EBは、コンデンサレンズ23によって特定の倍率に縮小され、偏向コイル24によって試料SAMのうち所望の位置へ走査され、対物レンズ25によって試料SAMに電子スポットとして集束される。
【0053】
また、試料保持器HLの配線部材10は、ステージ26に設けられた端子31に接続され、端子31は配線11を介して、荷電粒子線装置CRDの外部に備えられた電源9に電気的に接続されている。
【0054】
従って、観察時において、試料SAMには、試料保持器HLによって電圧および電流が通電され、試料保持器HLによって圧力が印加されている。より具体的には、試料SAMの上面に圧力が印加されている。すなわち、試料SAMが充電状態または放電状態であり、且つ、圧力が試料SAMに印加された状態で、電子線EBが試料SAMに照射される。
【0055】
荷電粒子線装置CRDには、例えば二次電子検出器のような検出器27が設けられており、電子線EBが試料SAMに衝突した際に、試料SAMから発生した二次電子は、検出器27によって検出される。この検出された二次電子の量を明るさとして、検出器27に電気的に接続された画像処理機器などに表示することで、観察像(SEM像、二次電子像)が得られる。得られた観察像は、荷電粒子線装置CRDに備えられている記録機器(ハードディスク、フラッシュメモリなど)に記録される。
【0056】
以上のようにして、充電状態または放電状態であり、且つ、圧力が印加された状態である試料SAMの構造が変化していく様子を、複数の観察像として取得することができる。
【0057】
なお、荷電粒子線装置CRDには、このような検出器27の他に、反射電子を検出するための反射電子検出器、または、試料SAMから発生するX線のスペクトルを検出し、試料SAMの元素解析を行うためのX線検出器などが設けられていてもよい。それらの検出器を用いることで、充電状態または放電状態であり、且つ、圧力が印加された状態である試料SAMの構造が変化していく様子も、複数の反射電子像または複数のX線のスペクトルとして観察できる。
【0058】
<実施の形態1における主な特徴>
実施の形態1における試料保持器HLでは、固定電極4bと可動電極5との間に試料SAMを保持することができる。具体的には、可動電極5側における固定電極4bの側面と、固定電極4b側における可動電極5の側面との間に試料SAMを保持することができる。また、可動電極5が圧力印加部材6によって水平方向(X方向)へ移動可能であるので、試料SAMへ所望の圧力を加えることができる。
【0059】
また、固定電極4b側における可動電極5の側面に、冶具7が設けられていることで、試料SAMの上面が冶具7の下面に接した位置を測定位置とすることができる。これにより、試料保持器HLに試料SAMを搭載する場合、高さ方向(Z方向)において試料SAMの位置の調整が容易となる。従って、試料保持器HLを備えた荷電粒子線装置CRDの観察作業時間を、短縮することができる。
【0060】
また、高さ方向において、観察面となる試料SAMの上面が、棒状の圧力印加部材6の幅の範囲内に位置している。より厳密には、上記「圧力印加部材6の幅」とは、圧力印加部材6が可動電極5に接している箇所における、圧力印加部材6の高さ方向の幅である。また、このような関係を言い換えれば、観察面となる試料SAMの上面は、圧力印加部材6の最上面から最下面までの間に位置している。更に言い換えれば、高さ方向において、冶具7の下面が、圧力印加部材6の幅の範囲内に位置し、圧力印加部材6の最上面から最下面までの間に位置している。このように圧力印加部材6の位置が調整されていることで、観察対象となる試料SAMの上面へ、効率的に圧力を加えることができる。
【0061】
特に、棒状の圧力印加部材6の軸線ALの位置が、試料SAMの上面の位置と同じである場合、試料SAMの上面へ、最も効率的に圧力を加えることができる。また、軸線ALの位置とは、言い換えれば、高さ方向における圧力印加部材6の幅の中心である。すなわち、高さ方向において、試料SAMの上面は、圧力印加部材6の幅の中心と同じ高さに位置する。
【0062】
ここで、一見すると、試料SAMの高さ位置と圧力印加部材6の高さ位置が、ほぼ同じであった場合(例えば試料SAMの中心が圧力印加部材6の軸線ALと同じ場合)でも、試料SAMには圧力が印加されるので、実施の形態1と同じ効果が得られると思われる。しかしながら、その場合、圧力印加部材6が可動電極5に接する箇所である力点が、試料SAMのほぼ中心となる。そうすると、最も強い圧力が印加される箇所は、試料SAMの中心となり、観察対象となる試料SAMの上面の構造変化は、試料SAMの中心に比べて、起き難い。
【0063】
更に、実施の形態1では、試料SAMの側面全体が可動電極5に接しているので、試料SAMへ印加される圧力は、試料SAMの側面全体において均一であると思われる。しかしながら、上述のように、力点の位置が、最も強い圧力が印加される箇所となる。
【0064】
従って、実施の形態1の構造を適用することで、力点が試料SAMの上面を含むように位置される。また、試料SAMの上方には冶具7以外の構造物が存在していない。よって、試料SAMには全体的にほぼ均一な圧力が加えられるが、試料SAMの上面へ最も強い圧力が加えられる。
【0065】
なお、このような力点の違いによる圧力の変化は微小であるが、試料SAMは微細なデバイスであり、荷電粒子線装置CRDによって観察される構造は、例えばナノメートル(nm)またはオングストローム(Å)単位の微細な構造であると考えられる。従って、このような微小な圧力の変化であっても、試料SAMの構造変化に大きな影響がある。よって、観察面である試料SAMの上面へ圧力を効率的に印加し、より正確な観察像を得るためには、上述のような工夫が重要である。
【0066】
また、試料SAMの上面の位置は、固定電極4bの上面の位置および可動電極5の上面の位置よりも低いことが好ましい。言い換えれば、試料SAMの上面の位置に対応する冶具7の下面の位置は、固定電極4bの上面の位置および可動電極5の上面の位置よりも低いことが好ましい。
【0067】
例えば固定電極4bの上面と側面とが成す角部は、図面では直角であるが、実際には面取り加工などが施されている。そのため、試料SAMの上面の位置が固定電極4bの上面の位置と同じであると、固定電極4bの角部が面取りされている分、試料SAMの上面に十分な圧力を印加できない恐れがある。そのため、試料SAMの上面の位置が若干下方へずらされるように、上記関係が満たされていることが好ましい。
【0068】
また、荷電粒子線装置CRDにおける試料SAMの観察時には、固定電極4bおよび可動電極5には、互いに異なる電圧が印加される。従って、試料保持器HLによって導通状態にされ、且つ、試料保持器HLによって圧力が印加された試料SAMの構造が変化していく様子を、複数の観察像として確認することができる。
【0069】
また、例えば試料SAMから発生する粒子を検出して観察像を得る場合、発生する粒子は、図3に示される検出器27によって検出される。この際、発生する粒子が検出器27に検出され易くするためには、固定電極4bの高さが低いことが好ましい。例えば固定電極4bの高さが高い場合、発生する粒子は固定電極4bに妨害され、検出器27で得られる信号量が低減する。そうすると、より明確な観察像の取得が困難となる。ここで、試料SAMから発生する粒子としては、二次電子またはX線が挙げられる。特に、X線を検出する場合には、固定電極4bによる遮蔽の影響が大きく、信号量の低減が顕著となる。
【0070】
従って、固定電極4bの高さおよび可動電極5の高さのうち、少なくとも一方の高さが低いことが好ましい。図3に示される例では、固定電極4bが可動電極5よりも検出器27の近くになるように、試料保持器HLが荷電粒子線装置CRDに備えられている。よって、実施の形態1では、固定電極4bの上面の位置は、少なくとも可動電極5の上面の位置よりも低く、冶具7の上面の位置および固定電極4aの上面の位置よりも低い。
【0071】
なお、実施の形態1では、可動電極5の上面の位置、固定電極4aの上面の位置および冶具7の上面の位置は、それぞれ異なっているが、これらが同じ位置であってもよい。
【0072】
また、固定電極4bを可動電極とすることも可能である。例えば、試料保持器HLにおいて、固定電極4bに代えて、固定電極4a、可動電極5および圧力印加部材6と同じ構造の電極が設けられていてもよい。
【0073】
(変形例1)
図4は、実施の形態1の変形例1における試料保持器HLを示している。
【0074】
実施の形態1では、冶具7は、固定電極4b側における可動電極5の側面に設けられていた。変形例1では、図4に示されるように、冶具7は、可動電極5側における固定電極4bの側面に設けられている。
【0075】
このような場合でも、試料SAMの上面が冶具7の下面に接した位置を測定位置とすることができるので、試料保持器HLに試料SAMを搭載する場合、試料SAMの高さ位置の調整が容易となる。すなわち、冶具7は、可動電極5または固定電極4bの少なくとも一方に設けられていればよい。
【0076】
また、図示はしないが、冶具7は、固定電極4b側における可動電極5の側面、および、可動電極5側における固定電極4bの側面の両方に設けられていてもよい。
【0077】
(実施の形態2)
以下に図5を用いて、実施の形態2における試料保持器HLを説明する。なお、以下では、実施の形態1との相違点を主に説明する。
【0078】
図5に示されるように、実施の形態2では、可動電極5側における固定電極4bの側面に、カバー部材(低抵抗化部材)12が設けられている。すなわち、試料SAMの観察時には、固定電極4bと試料SAMとの間にカバー部材12が設けられている。
【0079】
一つの例におけるカバー部材12を構成する材料は、電気導通性を有する導電体であり、非磁性体である。一つの例におけるカバー部材12は、リン青銅、C(グラファイト)、ステンレス、Al、Cu、Ta、Mo、Ti、W、黄銅または青銅からなるか、これらの材料を含んだ化合物または合金からなる。
【0080】
また、カバー部材12の各々の表面には、接触抵抗を小さくする目的で、非磁性体からなるメッキ膜が形成されていてもよい。一つの例では、そのようなメッキ膜は、Au、Ag、Cu、Pt、Pd、IrまたはHfからなるか、これらの材料を含んだ化合物または合金からなる。
【0081】
カバー部材12は、試料SAMよりも柔らかい材料で構成されている。言い換えれば、カバー部材12の硬度は、試料SAMの硬度よりも低い。なお、ここで説明する「硬度(硬さ)」は、ビッカース硬さ、ブリネル硬さまたはロックウェル硬さなどによって示される値であり、それぞれに適切に用いられる測定法によって測定可能である。
【0082】
例えば、試料SAMがリチウムイオン二次電池のような全固体電池である場合、特許文献3、4に示されるように、全固体電池は、一般的に粉末材料から形成される。従って、全固体電池の表面は、厳密には平坦ではなく、粉末による微細な凸凹が形成されている。そのため、固定電極4bの硬度が高い場合には、固定電極4bは、試料SAMの複数の凸凹と点接触される。従って、固定電極4bと試料SAMとの接触抵抗が高くなり易い。
【0083】
これに対して、硬度の低いカバー部材12を用いれば、試料SAMに圧力が印加された際、試料SAMの複数の凸凹に沿うように、カバー部材12が変形し易い。すなわち、カバー部材12は、試料SAMの複数の凸凹と面接触され易い。従って、カバー部材12と試料SAMとの接触抵抗を低減することができる。
【0084】
ところで、固定電極4bは、試料SAMを保持するための支柱としての役割も果たすので、その硬度は出来るだけ高いことが好ましい。そこで、低い硬度を有するカバー部材12を固定電極4bに設けることで、支柱としての役割と、接触抵抗の低減とを両立させることができる。すなわち、カバー部材12を構成する材料は、固定電極4bを構成する材料よりも低い硬度を有することが好ましい。
【0085】
例えば、カバー部材12をステンレスで作製した場合、および、カバー部材12をリン青銅で作製した場合とでは、ステンレスよりもリン青銅の方が硬度が低いので、カバー部材12をリン青銅で作製した場合の方が、接触抵抗を低減できる。
【0086】
(変形例2)
図6は、実施の形態2の変形例2における試料保持器HLを示している。
【0087】
実施の形態2では、カバー部材12は、可動電極5側における固定電極4bの側面に設けられていた。変形例2では、図6に示されるように、カバー部材12は、固定電極4b側における可動電極5の側面に設けられている。また、カバー部材12は、試料SAMの硬度よりも低く、可動電極5の硬度よりも低い。
【0088】
このような場合でも、可動電極5と試料SAMとの接触抵抗と比較して、カバー部材12と試料SAMとの接触抵抗を低減することができる。すなわち、カバー部材12は、可動電極5または固定電極4bの少なくとも一方に設けられていればよい。
【0089】
また、図示はしないが、カバー部材12は、固定電極4b側における可動電極5の側面、および、可動電極5側における固定電極4bの側面の両方に設けられていてもよい。その場合、試料SAMに対する接触抵抗を、より低減させることができる。
【0090】
(実施の形態3)
以下に図7を用いて、実施の形態3における試料保持器HLを説明する。なお、以下では、実施の形態1または実施の形態2との相違点を主に説明する。
【0091】
図7に示されるように、実施の形態3では、可動電極5側における固定電極4bの側面および上面に、カバー部材(保護部材)13が設けられている。すなわち、試料SAMの観察時には、固定電極4bと試料SAMとの間にカバー部材13が設けられている。また、詳細に図示はしていないが、実施の形態3におけるカバー部材13は、バネ力またはネジ止めなどの簡単な固定手段によって、固定電極4bに容易に着脱可能であってよい。
【0092】
上述のように、試料SAMがリチウムイオン二次電池のような全固体電池である場合、全固体電池は、一般的に粉末材料から形成され、脆弱である場合がある。試料SAMが脆弱である場合、圧力印加部材6によって印加される圧力によって、試料SAMの一部が崩れ得る。この崩れた試料SAMは、付着物として固定電極4bに付着し得る。そうすると、試料SAMと固定電極4bとの接触面積が少なくなり、接触抵抗が上昇する可能性がある。また、異なる材料同士が接触したことで、化学反応が起こり、上記付着物を起因とする異物が発生する場合もあり得る。
【0093】
このため、例えばある試料を観察した後に他の試料を観察する場合、上記付着物などを除去する必要があるが、上記付着物または上記異物が、通常の洗浄処理などによって簡単に除去できない場合もある。そうすると、試料保持器HL自体を交換する必要があり、荷電粒子線装置CRDを用いた観察に掛かるコストが増加してしまう。
【0094】
実施の形態3におけるカバー部材13は、固定電極4bの側面および上面を覆うように設けられている。このため、仮に上記付着物が発生したとしても、上記付着物はカバー部材13に付着するため、固定電極4bが保護される。カバー部材13は固定電極4bに容易に着脱可能であり得るので、カバー部材13のみを交換すれば、試料保持器HL自体を交換する必要は無く、直ぐに荷電粒子線装置CRD用いた観察を行うことができる。従って、観察に掛かるコストおよび時間の増加を抑制できる。
【0095】
また、実施の形態3におけるカバー部材13を構成する材料は、その表面に形成されるメッキ膜も含め、実施の形態2におけるカバー部材12を構成する材料と同じ材料から選択されてよい。しかし、実施の形態3では、付着物に関する観点から、実施の形態2と異なり、カバー部材13を構成する材料と、固定電極4bを構成する材料とは、同じ材料であってもよいし、それぞれ異なる材料であってもよい。すなわち、カバー部材13の硬度と、固定電極4bの硬度とは、同じであってもよいし、それぞれ異なっていてもよい。
【0096】
しかしながら、実施の形態3におけるカバー部材13に、実施の形態2におけるカバー部材12と同様の機能を持たせることも可能である。すなわち、付着物に関する観点に加えて、接触抵抗の低減に関する観点も考慮するならば、実施の形態2と同様の理由で、カバー部材13を構成する材料は、試料SAMよりも低い硬度を有し、固定電極4bを構成する材料よりも低い硬度を有することが好ましい。
【0097】
(変形例3)
図8は、実施の形態3の変形例3における試料保持器HLを示している。
【0098】
実施の形態3では、カバー部材13は、可動電極5側における固定電極4bの側面および上面に設けられていた。変形例3では、図8に示されるように、カバー部材13は、固定電極4b側における可動電極5の側面および上面に設けられている。また、変形例3におけるカバー部材13も、実施の形態3と同様に、バネ力またはネジ止めなどの簡単な固定手段によって、可動電極5に容易に着脱可能である。
【0099】
このような場合でも、試料SAMから発生した付着物は、カバー部材13に付着するため、可動電極5が保護される。従って、カバー部材13のみを交換すれば、試料保持器HL自体を交換する必要が無い。
【0100】
また、カバー部材13を構成する材料と、可動電極5を構成する材料とは、同じ材料であってもよいし、それぞれ異なる材料であってもよい。すなわち、カバー部材13の硬度と、可動電極5の硬度とは、同じであってもよいし、それぞれ異なっていてもよい。
【0101】
しかしながら、実施の形態3と同様に、付着物に関する観点に加えて、接触抵抗の低減に関する観点も考慮するならば、カバー部材13を構成する材料は、試料SAMよりも低い硬度を有し、可動電極5を構成する材料よりも低い硬度を有することが好ましい。
【0102】
また、図示はしないが、カバー部材13は、固定電極4b側における可動電極5の側面および上面、並びに、可動電極5側における固定電極4bの側面および上面に、それぞれ設けられていてもよい。これにより、付着物から可動電極5および固定電極4bの両方を保護することができ、試料SAMとの接触抵抗を更に低減させることができる。
【0103】
以上、本発明を実施するための形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0104】
例えば、上記実施の形態では、試料SAMは電子材料であり、電子材料の一例として全固体電池を用いたが、圧力を印加しながら電気的特性を観察する必要がある電子材料ならば、試料SAMは全固体電池に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0105】
1 土台
2 隔壁
3a、3b 絶縁部材
4a、4b 固定電極
5 可動電極
6 圧力印加部材
7 冶具(位置合わせ用部材)
8 Oリング
9 電源
10 配線部材
11 配線
12 カバー部材(低抵抗化部材)
13 カバー部材(保護部材)
21 鏡体
22 電子銃
23 コンデンサレンズ
24 偏向コイル
25 対物レンズ
26 ステージ
27 検出器
28 準備室
29 観察室
30 取り出し機器
31 端子
AL 軸線
CRD 荷電粒子線装置
EB 電子線
HL 試料保持器
SAM 試料
SP 空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8