(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】相分離構造形成用樹脂組成物及び相分離構造を含む構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 53/00 20060101AFI20230310BHJP
C08K 5/07 20060101ALI20230310BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20230310BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20230310BHJP
H01L 21/312 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
C08L53/00
C08K5/07
C08K5/103
H01L21/30 502D
H01L21/312 A
(21)【出願番号】P 2018229402
(22)【出願日】2018-12-06
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】太宰 尚宏
(72)【発明者】
【氏名】宮城 賢
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/062157(WO,A1)
【文献】特開2014-070154(JP,A)
【文献】特開2015-084373(JP,A)
【文献】特開2015-168732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,H01L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロックコポリマーと、
イオン液体と、
有機溶剤成分と、
を含有する相分離構造形成用樹脂組成物であって、
前記イオン液体は、カチオン部とアニオン部とを有する化合物(IL)を含み、
前記有機溶剤成分は、
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(S1)と、
ガンマブチロラクトン又はシクロヘキサノン(S2)
からなり、
前記(S1)と、前記(S2)との質量比が、(S1)/(S2)=99/1~40/60である、相分離構造形成用樹脂組成物。
【請求項2】
前記(S1)と、
前記(S2)との質量比が、
(S1)/(S2)=
40:60~48/52である、請求項1に記載の相分離構造形成用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の相分離構造形成用樹脂組成物を用いて、基板上にブロックコポリマーを含む層(BCP層)を形成する工程と、
前記化合物(IL)の少なくとも一部を気化させ、かつ、前記BCP層を相分離させて、相分離構造を含む構造体を得る工程と、を有する、相分離構造を含む構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相分離構造形成用樹脂組成物及び相分離構造を含む構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模集積回路(LSI)のさらなる微細化に伴い、より繊細な構造体を加工する技術が求められている。
このような要望に対し、互いに非相溶性のブロック同士が結合したブロックコポリマーの自己組織化により形成される相分離構造を利用して、より微細なパターンを形成する技術の開発が行われている(例えば、特許文献1参照)。
ブロックコポリマーの相分離構造を利用するためには、ミクロ相分離により形成される自己組織化ナノ構造を、特定の領域のみに形成し、かつ、所望の方向へ配列させることが必須とされる。これらの位置制御及び配向制御を実現するために、ガイドパターンによって相分離パターンを制御するグラフォエピタキシーや、基板の化学状態の違いによって相分離パターンを制御するケミカルエピタキシー等のプロセスが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
ブロックコポリマーは、相分離により規則的な周期構造の構造体を形成する。
「構造体の周期」とは、相分離構造の構造体が形成された際に観察される相構造の周期を意味し、互いに非相溶である各相の長さの和をいう。相分離構造が基板表面に対して垂直なシリンダー構造を形成する場合、構造体の周期(L0)は、隣接する2つのシリンダー構造の中心間距離(ピッチ)となる。
【0004】
構造体の周期(L0)は、重合度N、及び、フローリー-ハギンズ(Flory-Huggins)の相互作用パラメータχなどの固有重合特性によって決まることが知られている。すなわち、χとNとの積「χ・N」が大きくなるほど、ブロックコポリマーにおける異なるブロック間の相互反発は大きくなる。このため、χ・N>10(以下「強度分離限界点」という)のときには、ブロックコポリマーにおける異種類のブロック間の反発が大きく、相分離が起こる傾向が強くなる。そして、強度分離限界点においては、構造体の周期はおよそN2/3・χ1/6となり、下式(1)の関係が成り立つ。つまり、構造体の周期は、分子量と、異なるブロック間の分子量比と、に相関する重合度Nに比例する。
【0005】
L0 ∝ a・N2/3・χ1/6 ・・・(1)
[式中、L0は、構造体の周期を表す。aは、モノマーの大きさを示すパラメータである。Nは、重合度を表す。χは、相互作用パラメータであり、この値が大きいほど、相分離性能が高いことを意味する。]
【0006】
したがって、ブロックコポリマーの組成及び総分子量を調整することによって、構造体の周期(L0)を調節することができる。
ブロックコポリマーが形成する周期構造は、ポリマー成分の体積比等に伴ってシリンダー(柱状)、ラメラ(板状)、スフィア(球状)と変化し、その周期は分子量に依存することが知られている。
このため、ブロックコポリマーの自己組織化により形成される相分離構造を利用して、比較的大きい周期(L0)の構造体を形成するためには、ブロックコポリマーの分子量を大きくする方法が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】プロシーディングスオブエスピーアイイー(Proceedings of SPIE),第7637巻,第76370G-1(2010年).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、現状、汎用のブロックコポリマー(例えば、スチレンのブロックとメタクリル酸メチルのブロックとを有するブロックコポリマー等)の自己組織化により形成される相分離構造を利用して構造体を形成するに際し、相分離性能の更なる向上を図ることが困難である。加えて、構造体表面のラフネス(荒れ)が低減された良好な形状の相分離構造を形成する技術が求められる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、相分離性能が良好で、かつラフネスの発生を低減して良好な形状を形成できる相分離構造形成用樹脂組成物、及び相分離構造を含む構造体の製造方法を提供すること、を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の第一の態様は、ブロックコポリマーと、イオン液体と、有機溶剤成分と、を含有する相分離構造形成用樹脂組成物であって、前記イオン液体は、カチオン部とアニオン部とを有する化合物(IL)を含み、前記有機溶剤成分は、沸点が150℃未満の有機溶剤(S1)と、沸点が150℃以上の有機溶剤(S2)とを含む、相分離構造形成用樹脂組成物である。
【0011】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る相分離構造形成用樹脂組成物を用いて、基板上にブロックコポリマーを含む層(BCP層)を形成する工程と、前記化合物(IL)の少なくとも一部を気化させ、かつ、前記BCP層を相分離させて、相分離構造を含む構造体を得る工程と、を有する、相分離構造を含む構造体の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、相分離性能が良好で、かつラフネスの発生を低減して良好な形状を形成できる相分離構造形成用樹脂組成物、及び相分離構造を含む構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る、相分離構造を含む構造体の製造方法の一実施形態例を説明する概略工程図である。
【
図2】任意工程の一実施形態例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書及び本特許請求の範囲において、「脂肪族」とは、芳香族に対する相対的な概念であって、芳香族性を持たない基、化合物等を意味するものと定義する。
「アルキル基」は、特に断りがない限り、直鎖状、分岐鎖状及び環状の1価の飽和炭化水素基を包含するものとする。アルコキシ基中のアルキル基も同様である。
「アルキレン基」は、特に断りがない限り、直鎖状、分岐鎖状及び環状の2価の飽和炭化水素基を包含するものとする。
「ハロゲン化アルキル基」は、アルキル基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換された基であり、該ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
「フッ素化アルキル基」又は「フッ素化アルキレン基」は、アルキル基又はアルキレン基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換された基をいう。
「構成単位」とは、高分子化合物(樹脂、重合体、共重合体)を構成するモノマー単位(単量体単位)を意味する。
「置換基を有していてもよい」と記載する場合、水素原子(-H)を1価の基で置換する場合と、メチレン基(-CH2-)を2価の基で置換する場合との両方を含む。
「露光」は、放射線の照射全般を含む概念とする。
【0015】
(相分離構造形成用樹脂組成物)
本実施形態に係る相分離構造形成用樹脂組成物は、ブロックコポリマー、カチオン部とアニオン部とを有する化合物(IL)を含むイオン液体、及び有機溶剤成分を含有するものである。前記有機溶剤成分は、沸点が150℃未満の有機溶剤(S1)と、沸点が150℃以上の有機溶剤(S2)とを含む。
【0016】
<ブロックコポリマー>
ブロックコポリマーは、複数種類のブロック(同種の構成単位が繰り返し結合した部分構成成分)が結合した高分子である。ブロックコポリマーを構成するブロックは、2種類であってもよく、3種類以上であってもよい。
ブロックコポリマーを構成する複数種類のブロックは、相分離が起こる組み合わせであれば特に限定されるものではないが、互いに非相溶であるブロック同士の組み合わせであることが好ましい。また、ブロックコポリマーを構成する複数種類のブロック中の少なくとも1種類のブロックからなる相が、他の種類のブロックからなる相よりも、容易に選択的に除去可能な組み合わせであることが好ましい。
また、ブロックコポリマーを構成する複数種類のブロック中の少なくとも1種類のブロックからなる相が、他の種類のブロックからなる相よりも、容易に選択的に除去可能な組み合わせであることが好ましい。容易に選択的に除去可能な組み合わせとしては、エッチング選択比が1よりも大きい、1種又は2種以上のブロックが結合したブロックコポリマーが挙げられる。
【0017】
ブロックコポリマーとしては、例えば、芳香族基を有する構成単位のブロックと、(α置換)アクリル酸エステルから誘導される構成単位のブロックと、が結合したブロックコポリマー;芳香族基を有する構成単位のブロックと、(α置換)アクリル酸から誘導される構成単位のブロックと、が結合したブロックコポリマー;芳香族基を有する構成単位のブロックと、シロキサン又はその誘導体から誘導される構成単位のブロックと、が結合したブロックコポリマー;アルキレンオキシドから誘導される構成単位のブロックと、(α置換)アクリル酸エステルから誘導される構成単位のブロックと、が結合したブロックコポリマー;アルキレンオキシドから誘導される構成単位のブロックと、(α置換)アクリル酸から誘導される構成単位のブロックと、が結合したブロックコポリマー;シルセスキオキサン構造含有構成単位のブロックと、(α置換)アクリル酸エステルから誘導される構成単位のブロックと、が結合したブロックコポリマー;シルセスキオキサン構造含有構成単位のブロックと、(α置換)アクリル酸から誘導される構成単位のブロックと、が結合したブロックコポリマー;シルセスキオキサン構造含有構成単位のブロックと、シロキサン又はその誘導体から誘導される構成単位のブロックと、が結合したブロックコポリマー等が挙げられる。
【0018】
芳香族基を有する構成単位としては、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基を有する構成単位が挙げられる。中でも、スチレン又はその誘導体から誘導される構成単位が好ましい。
スチレン又はその誘導体としては、例えば、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、4-n-オクチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、4-メトキシスチレン、4-t-ブトキシスチレン、4-ヒドロキシスチレン、4-ニトロスチレン、3-ニトロスチレン、4-クロロスチレン、4-フルオロスチレン、4-アセトキシビニルスチレン、4-ビニルベンジルクロリド、1-ビニルナフタレン、4-ビニルビフェニル、1-ビニル-2-ピロリドン、9-ビニルアントラセン、ビニルピリジン等が挙げられる。
【0019】
(α置換)アクリル酸は、アクリル酸、又は、アクリル酸におけるα位の炭素原子に結合した水素原子が置換基で置換されているもの、の一方又は両方を意味する。該置換基としては、炭素数1~5のアルキル基等が挙げられる。
(α置換)アクリル酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。
【0020】
(α置換)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステル、又は、アクリル酸エステルにおけるα位の炭素原子に結合した水素原子が置換基で置換されているもの、の一方又は両方を意味する。該置換基としては、炭素数1~5のアルキル基等が挙げられる。
(α置換)アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸アントラセン、アクリル酸グリシジル、アクリル酸3,4-エポキシシクロヘキシルメタン、アクリル酸プロピルトリメトキシシラン等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸アントラセン、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸3,4-エポキシシクロヘキシルメタン、メタクリル酸プロピルトリメトキシシラン等のメタクリル酸エステルなどが挙げられる。
これらの中でも、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸t-ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸t-ブチルが好ましい。
【0021】
シロキサン又はその誘導体としては、例えば、ジメチルシロキサン、ジエチルシロキサン、ジフェニルシロキサン、メチルフェニルシロキサン等が挙げられる。
アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、イソプロピレンオキシド、ブチレンオキシド等が挙げられる。
シルセスキオキサン構造含有構成単位としては、かご型シルセスキオキサン構造含有構成単位が好ましい。かご型シルセスキオキサン構造含有構成単位を提供するモノマーとしては、かご型シルセスキオキサン構造と重合性基とを有する化合物が挙げられる。
【0022】
上記の中でも、ブロックコポリマーとしては、芳香族基を有する構成単位のブロックと、(α置換)アクリル酸又は(α置換)アクリル酸エステルから誘導される構成単位のブロックと、を含むものが好ましい。
【0023】
基板表面に対して垂直方向に配向したシリンダー状の相分離構造を得る場合は、芳香族基を有する構成単位と、(α置換)アクリル酸又は(α置換)アクリル酸エステルから誘導される構成単位と、の質量比は、60:40~90:10であることが好ましく、60:40~80:20であることがより好ましい。
また、基板表面に対して垂直方向に配向したラメラ状の相分離構造を得る場合は、芳香族基を有する構成単位と、(α置換)アクリル酸又は(α置換)アクリル酸エステルから誘導される構成単位と、の質量比は、35:65~60:40であることが好ましく、40:60~60:40であることがより好ましい。
【0024】
かかるブロックコポリマーとして、具体的には、スチレンから誘導される構成単位のブロックとアクリル酸から誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー、スチレンから誘導される構成単位のブロックとアクリル酸メチルから誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー、スチレンから誘導される構成単位のブロックとアクリル酸エチルから誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー、スチレンから誘導される構成単位のブロックとアクリル酸t-ブチルから誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー、スチレンから誘導される構成単位のブロックとメタクリル酸から誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー、スチレンから誘導される構成単位のブロックとメタクリル酸メチルから誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー、スチレンから誘導される構成単位のブロックとメタクリル酸エチルから誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー、スチレンから誘導される構成単位のブロックとメタクリル酸t-ブチルから誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー、かご型シルセスキオキサン(POSS)構造含有構成単位のブロックとアクリル酸から誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー、かご型シルセスキオキサン(POSS)構造含有構成単位のブロックとアクリル酸メチルから誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー等が挙げられる。
本実施形態においては、特に、スチレンから誘導される構成単位のブロック(PS)とメタクリル酸メチルから誘導される構成単位のブロック(PMMA)とを有するブロックコポリマー(PS-PMMAブロックコポリマー)を用いることが好ましい。
【0025】
ブロックコポリマーの数平均分子量(Mn)(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算基準)は、20000~200000が好ましく、30000~150000がより好ましく、50000~90000がさらに好ましい。本発明に係る相分離構造を含む構造体の製造方法によれば、相分離構造形成用樹脂組成物中に化合物(IL)を含むイオン液体を添加しなくても相分離可能な数平均分子量を有するブロックコポリマー(例えば、Mn>80000)において、イオン液体の添加により、周期(L0)を変えることなく、ラフネスの発生を低減して良好な形状を形成することができる。
ブロックコポリマーの分散度(Mw/Mn)は、1.0~3.0が好ましく、1.0~1.5がより好ましく、1.0~1.3がさらに好ましい。尚、「Mw」は質量平均分子量を示す。
【0026】
相分離構造形成用樹脂組成物において、ブロックコポリマーは、1種を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
相分離構造形成用樹脂組成物中、ブロックコポリマーの含有量は、形成しようとするブロックコポリマーを含む層の厚さ等に応じて調整すればよい。
【0027】
<イオン液体>
相分離構造形成用樹脂組成物において、イオン液体は、特定のカチオン部とアニオン部とを有する化合物(IL)を含む。
イオン液体とは、液体で存在する塩をいう。イオン液体は、カチオン部とアニオン部とで構成され、これらのイオン間の静電相互作用は弱く、結晶化しにくい塩である。イオン液体は、融点が100℃以下のものであり、さらに下記の特徴1)~5)を有する。
特徴1)蒸気圧が極めて低い。特徴2)広い温度範囲で不燃性を示す。特徴3)広い温度範囲で液状を保つ。特徴4)密度を大きく変えられる。特徴5)極性の制御が可能である。
また、本実施形態において、イオン液体は、非重合性であることが好ましい。
イオン液体の質量平均分子量(Mw)は1000以下が好ましく、750以下がより好ましく、500以下が更に好ましい。
【0028】
≪化合物(IL)≫
化合物(IL)は、カチオン部とアニオン部とを有する化合物である。
【0029】
・化合物(IL)のカチオン部
化合物(IL)のカチオン部は、特に限定されないが、相分離性能の向上効果がより得られやすいことから、カチオン部の双極子モーメントが3debye以上であることが好ましく、より好ましくは3.2~15debye、さらに好ましくは3.4~12debyeである。
「カチオン部の双極子モーメント」とは、カチオン部の極性(電荷の偏り)を定量的に示すパラメータをいう。1debye(デバイ)は1×10-18esu・cmと定義される。本明細書において、カチオン部の双極子モーメントは、CACheによるシミュレーション値を示す。例えば、CAChe Work System Pro Version 6.1.12.33により、MM geometry(MM2)、PM3 geometryを用いて構造最適化を行うことにより測定される。
【0030】
双極子モーメントが3debye以上のカチオンとしては、例えば、イミダゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、アンモニウムイオンが好適に挙げられる。
すなわち、好ましい化合物(IL)としては、例えば、イミダゾリウム塩、ピロリジニウム塩、ピペリジニウム塩又はアンモニウム塩が挙げられる。これらの塩の中でも、相分離性能がより向上しやすいことから、そのカチオン部が、置換基を有するカチオンであることが好ましい。その中でも、置換基を有していてもよい炭素数2以上のアルキル基を含むカチオン、又は極性基を含むカチオンであるものが好ましい。前記のカチオンが含む炭素数2以上のアルキル基は、好ましくは炭素数が2~12、より好ましくは炭素数が2~6である。前記のアルキル基は、直鎖状アルキル基であっても分岐鎖状アルキル基であってもよいが、直鎖状アルキル基であることが好ましい。炭素数2以上のアルキル基が有していてもよい置換基としては、ヒドロキシ基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。なお、炭素数2以上のアルキル基は、置換基を有さないことが好ましい。前記のカチオンが含む極性基としては、例えば、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、スルホ基等が挙げられる。
より好ましい化合物(IL)のカチオン部としては、置換基を有するピロリジニウムイオンが挙げられ、その中でも、置換基を有していてもよい炭素数2以上のアルキル基を含むピロリジニウムイオンであることが好ましい。
【0031】
・化合物(IL)のアニオン部
化合物(IL)のアニオン部は、特に限定されないが、下記一般式(a1)~(a5)のいずれかで表されるアニオン等が挙げられる。
【0032】
【化1】
[式(a1)中、Rは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい脂肪族環式基、又は置換基を有していてもよい鎖状の炭化水素基を表す。式(a2)中、R’はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基を表す。kは1~4の整数であり、lは0~3の整数であり、かつ、k+l=4である。式(a3)中、R”は、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基を表す。mは1~6の整数であり、nは0~5の整数であり、かつ、m+n=6である。]
【0033】
【化2】
[式(a4)中、X”は、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された炭素数2~6のアルキレン基を表す。式(a5)中、Y”及びZ”は、それぞれ独立に、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された炭素数1~10のアルキル基を表す。]
【0034】
前記一般式(a1)中、Rは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい脂肪族環式基、又は置換基を有していてもよい鎖状の炭化水素基を表す。
【0035】
前記一般式(a1)中、Rが置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基である場合、Rに含まれる芳香環として具体的には、ベンゼン、ビフェニル、フルオレン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族炭化水素環;前記芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換された芳香族複素環;等が挙げられる。芳香族複素環におけるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。
該芳香族炭化水素基として具体的には、前記芳香族炭化水素環から水素原子を1つ除いた基(アリール基);前記アリール基の水素原子の1つがアルキレン基で置換された基(たとえば、ベンジル基、フェネチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基、2-ナフチルエチル基等のアリールアルキル基);等が挙げられる。前記アルキレン基(アリールアルキル基中のアルキル鎖)の炭素数は、1~4であることが好ましく、1~2であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
Rの芳香族炭化水素基としては、フェニル基もしくはナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0036】
前記一般式(a1)中、Rが置換基を有していてもよい脂肪族環式基である場合、多環式であってもよく、単環式であってもよい。単環式の脂肪族環式基としては、モノシクロアルカンから1個の水素原子を除いた基が好ましい。該モノシクロアルカンとしては炭素数3~8のものが好ましく、具体的にはシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等が挙げられる。多環式の脂肪族環式基としては、ポリシクロアルカンから1個の水素原子を除いた基が好ましく、該ポリシクロアルカンとしては炭素数7~12のものが好ましく、具体的にはアダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカン等が挙げられる。
中でも、前記脂肪族環式基としては、アダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカン等のポリシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基であることがより好ましい。
【0037】
前記一般式(a1)中、Rの鎖状の炭化水素基としては、鎖状のアルキル基が好ましい。鎖状のアルキル基としては、炭素数が1~10であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の直鎖状のアルキル基;1-メチルエチル基、1-メチルプロピル基、2-メチルプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基等の分岐鎖状のアルキル基;が挙げられる。鎖状のアルキル基は、炭素数が1~6であることがより好ましく、炭素数が1~3であることがさらに好ましい。また、直鎖状のアルキル基であることが好ましい。
【0038】
前記一般式(a1)中、Rの芳香族炭化水素基、脂肪族環式基又は鎖状の炭化水素基が有していてもよい置換基としては、水酸基、アルキル基、フッ素原子又はフッ素化アルキル基等が挙げられる。
【0039】
前記一般式(a1)中、Rとしては、メチル基、トリフルオロメチル基又はp-トリル基が好ましい。
【0040】
前記一般式(a2)中、R’は、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基を表す。
kは、1~4の整数であり、好ましくは3~4の整数、最も好ましくは4である。
lは、0~3の整数であり、好ましくは0~2の整数、最も好ましくは0である。lが2以上の場合、複数のR’は、相互に同一であってもよいし異なっていてもよいが、相互に同一であることが好ましい。
【0041】
前記一般式(a3)中、R”は、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基を表す。
mは、1~6の整数であり、好ましくは3~6の整数、最も好ましくは6である。
nは、0~5の整数であり、好ましくは0~3の整数、最も好ましくは0である。nが2以上の場合、複数のR”は、相互に同一であってもよいし異なっていてもよいが、相互に同一であることが好ましい。
【0042】
前記の式(a4)中、X”は、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された炭素数2~6のアルキレン基を表す。ここでのアルキレン基は、直鎖状であってもよいし分岐鎖状であってもよく、炭素数は2~6であり、好ましくは炭素数3~5、最も好ましくは炭素数3である。
【0043】
前記の式(a5)中、Y”及びZ”は、それぞれ独立に、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された炭素数1~10のアルキル基を表す。ここでのアルキル基は、直鎖状であってもよいし分岐鎖状であってもよく、炭素数は1~10であり、好ましくは炭素数1~7、特に好ましくは炭素数1~3である。
X”のアルキレン基の炭素数、又は、Y”及びZ”の各アルキル基の炭素数は、上記炭素数の範囲内において、有機溶剤成分への溶解性も良好である等の理由により、小さいほど好ましい。
【0044】
また、前記X”のアルキレン基、又は、前記Y”及びZ”の各アルキル基においては、酸の強度が強くなる等の理由により、フッ素原子で置換されている水素原子の数が多いほど好ましい。該アルキレン基又はアルキル基のフッ素化率は、好ましくは70~100%、さらに好ましくは90~100%であり、最も好ましくは、全ての水素原子がフッ素原子で置換されたパーフルオロアルキレン基又はパーフルオロアルキル基である。
【0045】
化合物(IL)のアニオン部としては、前記一般式(a1)~(a5)のいずれかで表されるアニオン部の中でも、一般式(a1)又は(a5)で表されるアニオン部が好ましい。
【0046】
化合物(IL)のカチオン部とアニオン部の好ましい組合せとしては、ピロリジニウムイオンからなるカチオン部と前記一般式(a1)又は(a5)で表されるアニオン部との組合せが挙げられる。
【0047】
以下に、化合物(IL)の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
相分離構造形成用樹脂組成物において、化合物(IL)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
相分離構造形成用樹脂組成物中、化合物(IL)の含有量は、ブロックコポリマー100質量部に対して0.05~50質量部であることが好ましく、0.1~40質量部であることがより好ましく、0.5~30質量部であることがさらに好ましい。
化合物(IL)の含有量が前記の好ましい範囲内であると、相分離性能の向上効果がより得られやすくなる。
【0052】
本実施形態の相分離構造形成用樹脂組成物において、イオン液体は、化合物(IL)以外の、カチオン部とアニオン部とを有する化合物を含んでもよい。
イオン液体に占める化合物(IL)の割合は、イオン液体の総質量に対し、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。イオン液体に占める化合物(IL)の割合が前記範囲の好ましい下限値以上であると、相分離性能の向上効果がより得られやすくなる。
【0053】
<有機溶剤成分>
本実施形態において、有機溶剤成分は、沸点が150℃未満の有機溶剤(S1)(以下、(S1)成分という場合がある。)と、沸点が150℃以上の有機溶剤(S2)(以下、(S2)成分という場合がある。)とを含む。
【0054】
<(S1)成分>
(S1)成分としては、沸点が150℃未満の有機溶剤であれば特に限定されない。(S1)成分としては、例えば、アセトン(沸点:56.5℃)、メチルエチルケトン(沸点:79.6℃)、メチルイソペンチルケトン(沸点:144℃)などのケトン類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)(沸点:146℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)(沸点:121℃)等の多価アルコール類の誘導体;ジオキサン(沸点:101℃)のような環式エーテル類や、乳酸メチル(沸点:144℃)、酢酸メチル(沸点:57℃)、酢酸エチル(沸点:77℃)、酢酸ブチル(沸点:126℃)、ピルビン酸メチル(沸点:138℃)、ピルビン酸エチル(沸点:142℃)、メトキシプロピオン酸メチル(沸点:144℃)、などのエステル類;エチルベンゼン(沸点:136℃)、トルエン(沸点:110.6℃)、キシレン(沸点:144℃)等の芳香族系有機溶剤などが挙げられる。
【0055】
(S1)成分は、単独で用いてもよいし、2種以上の混合溶剤として用いてもよい。
なかでも、(S1)成分としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)及び酢酸ブチルからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)がより好ましい。
【0056】
<(S2)成分>
(S2)成分としては、沸点が150℃以上の有機溶剤であれば特に限定されない。(S2)成分としては、例えば、γ-ブチロラクトン(沸点:204℃)等のラクトン類;シクロヘキサノン(沸点:156℃)、2-ヘプタノン(沸点:151℃)などのケトン類;エチレングリコール(沸点:197.3℃)、ジエチレングリコール(沸点:245℃)、プロピレングリコール(沸点:188.2℃)、ジプロピレングリコール(沸点:230.5℃)などの多価アルコール類;エチレングリコールモノアセテート(沸点:182℃)、ジエチレングリコールモノアセテート(沸点:218℃)、プロピレングリコールモノアセテート(沸点:191℃)、またはジプロピレングリコールモノアセテート(沸点:209℃)等のエステル結合を有する化合物;乳酸エチル(EL)(沸点:154℃)、エトキシプロピオン酸エチル(沸点:170℃)などのエステル類;アニソール(沸点:153.8℃)、エチルベンジルエーテル(沸点:186℃)、クレジルメチルエーテル(沸点:174℃)、ジフェニルエーテル(沸点:258℃)、ジベンジルエーテル(沸点:297℃)、フェネトール(沸点:170℃)、ブチルフェニルエーテル(沸点:210℃)、ジエチルベンゼン(沸点:182℃)、ペンチルベンゼン(沸点:205℃)、イソプロピルベンゼン(沸点:152℃)、シメン(沸点:177℃)、メシチレン(沸点:165℃)等の芳香族系有機溶剤などが挙げられる。
【0057】
(S2)成分は、単独で用いてもよいし、2種以上の混合溶剤として用いてもよい。
なかでも、(S2)成分としては、γ-ブチロラクトン及びシクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0058】
本実施形態において、有機溶剤成分中の(S1)成分と(S2)成分との質量比は、有機溶剤(S1)/有機溶剤(S2)=99/1~40/60であることが好ましく、98/2~45/55がより好ましく、97.5/2.5~48/52が更に好ましい。
有機溶剤成分中の(S1)成分と(S2)成分との質量比が上記の好ましい範囲内であると、相分離性能の向上効果がより得られやすくなる。
【0059】
相分離構造形成用樹脂組成物に含まれる有機溶剤成分は、特に限定されるものではなく、塗布可能な濃度で、塗布膜厚に応じて適宜設定され、一般的には固形分濃度が0.2~70質量%、好ましくは0.2~50質量%の範囲内となるように用いられる。
【0060】
<任意成分>
相分離構造形成用樹脂組成物には、上記のブロックコポリマー、イオン液体及び有機溶剤成分以外に、さらに、所望により、混和性のある添加剤、例えば下地剤層の性能を改良するための付加的樹脂、塗布性を向上させるための界面活性剤、溶解抑制剤、可塑剤、安定剤、着色剤、ハレーション防止剤、染料、増感剤、塩基増殖剤、塩基性化合物等を適宜、含有させることができる。
【0061】
以上説明した本実施形態の相分離構造形成用樹脂組成物は、ブロックコポリマーに加えて、カチオン部とアニオン部とを有する化合物(IL)、及び沸点が150℃未満の有機溶剤(S1)と、沸点が150℃以上の有機溶剤(S2)とを含む有機溶剤成分を含有するため、相分離性能が高められている。
上述したように、ブロックコポリマーの自己組織化により形成される相分離構造の構造体の周期(L0)については下式(1)の関係が成り立つ。
尚、相分離構造の構造体の周期(L0)の測定方法としては、MATLAB等の画像解析ソフトを用いる方法が挙げられる。
【0062】
L0 ∝ a・N2/3・χ1/6 ・・・(1)
[式中、L0は、構造体の周期を表す。aは、モノマーの大きさを示すパラメータである。Nは、重合度を表す。χは、相互作用パラメータであり、この値が大きいほど、相分離性能が高いことを意味する。]
【0063】
本実施形態の相分離構造形成用樹脂組成物は、化合物(IL)を含有することにより、該相分離構造形成用樹脂組成物中のブロックコポリマーと相互作用し、該相分離構造形成用樹脂組成物を用いて形成される相分離構造のL0が大きくなる。a及びNは定数であることから、L0が大きくなるのに伴い、χの値が大きくなる(ハイカイ化が図られる)。すなわち、化合物(IL)を含有することにより、相分離性能が高められる。
【0064】
本実施形態の相分離構造形成用樹脂組成物を用いて相分離構造を形成する場合、相分離構造形成用樹脂組成物を含む層をアニール処理することにより、相分離構造形成用樹脂組成物中に含まれる化合物(IL)の少なくとも一部を気化することができる。その際、沸点が150℃未満の(S1)成分は、相分離構造形成用樹脂組成物を含む層から揮発しやすい。そのため、(S1)成分は、相分離構造形成用樹脂組成物中に含まれる化合物(IL)の少なくとも一部を気化しやすくする。
一方、沸点が150℃以上の(S2)成分は、相分離構造形成用樹脂組成物を含む層に残存しやすい。相分離構造形成用樹脂組成物を含む層中に残存する(S2)成分は、該層中のブロックコポリマーの流動を助長するため、相分離構造が形成しやすくなる。
以上のような、ブロックコポリマーと、化合物(IL)と、(S1)成分及び(S2)成分を含む有機溶剤成分との相乗効果により、相分離性能が良好で、かつラフネスの発生を低減して良好な形状の相分離構造を形成できると推測される。
【0065】
(相分離構造を含む構造体の製造方法)
本実施形態に係る、相分離構造を含む構造体の製造方法は、前記相分離構造形成用樹脂組成物を用いて、基板上にブロックコポリマーを含む層(BCP層)を形成する工程(以下「工程(i)」という。)と、前記化合物(IL)の少なくとも一部を気化させ、かつ、前記BCP層を相分離させて、相分離構造を含む構造体を得る工程(以下「工程(ii)」という。)と、を有する。
以下、かかる相分離構造を含む構造体の製造方法について、
図1を参照しながら具体的に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではない。
【0066】
図1は、相分離構造を含む構造体の製造方法の一実施形態例を示す。
まず、必要に応じて、基板1上に下地剤を塗布して、下地剤層2を形成する(
図1(I))。
次に、下地剤層2上に、相分離構造形成用樹脂組成物を塗布して、BCP層3を形成する(
図1(II);以上、工程(i))。
次に、加熱してアニール処理を行い、BCP層3を、相3aと相3bとに相分離させる。(
図1(III);工程(ii))。
かかる本実施形態の製造方法、すなわち、工程(i)及び工程(ii)を有する製造方法によれば、下地剤層2が形成された基板1上に、相分離構造を含む構造体3’が製造される。
【0067】
[工程(i)]
工程(i)では、基板1上に、相分離構造形成用樹脂組成物を用いて、BCP層3を形成する。
【0068】
基板は、その表面上に相分離構造形成用樹脂組成物を塗布し得るものであれば、その種類は特に限定されない。
基板としては、例えば、シリコン、銅、クロム、鉄、アルミニウム等の金属からなる基板、ガラス、酸化チタン、シリカ、マイカ等の無機物からなる基板、アクリル板、ポリスチレン、セルロース、セルロースアセテート、フェノール樹脂等の有機化合物からなる基板などが挙げられる。
基板の大きさや形状は、特に限定されるものではない。基板は必ずしも平滑な表面を有する必要はなく、様々な材質や形状の基板を適宜選択することができる。例えば、曲面を有する基板、表面が凹凸形状の平板、薄片状などの様々な形状のものを多様に用いることができる。
基板の表面には、無機系および/または有機系の膜が設けられていてもよい。無機系の膜としては、無機反射防止膜(無機BARC)が挙げられる。有機系の膜としては、有機反射防止膜(有機BARC)が挙げられる。
【0069】
基板1上にBCP層3を形成する前に、基板1の表面を洗浄してもよい。基板の表面を洗浄することにより、相分離構造形成用樹脂組成物又は下地剤の基板1への塗布を、より良好に行うことができる。
洗浄処理としては、従来公知の方法を利用でき、例えば酸素プラズマ処理、水素プラズマ処理、オゾン酸化処理、酸アルカリ処理、化学修飾処理等が挙げられる。例えば、基板を硫酸/過酸化水素水溶液等の酸溶液に浸漬させた後、水洗し、乾燥させる。その後、当該基板の表面に、BCP層3又は下地剤層2を形成する。
【0070】
基板1上にBCP層3を形成する前に、基板1を中性化処理することが好ましい。
中性化処理とは、基板表面を、ブロックコポリマーを構成するいずれのポリマーとも親和性を有するように改変する処理をいう。中性化処理を行うことにより、相分離によって特定のポリマーからなる相のみが基板表面に接することを抑制することができる。例えば、BCP層3を形成する前に、基板1表面に、用いるブロックコポリマーの種類に応じた下地剤層2を形成しておくことが好ましい。これに伴い、BCP層3の相分離によって、基板1表面に対して垂直方向に配向したシリンダー状又はラメラ状の相分離構造が形成しやすくなる。
【0071】
具体的には、基板1表面に、ブロックコポリマーを構成するいずれのポリマーとも親和性を有する下地剤を用いて下地剤層2を形成する。
下地剤には、ブロックコポリマーを構成するポリマーの種類に応じて、薄膜形成に用いられる従来公知の樹脂組成物を適宜選択して用いることができる。
かかる下地剤としては、例えば、ブロックコポリマーを構成する各ポリマーの構成単位をいずれも有する樹脂を含有する組成物や、ブロックコポリマーを構成する各ポリマーと親和性の高い構成単位をいずれも有する樹脂を含有する組成物等が挙げられる。
例えば、スチレンから誘導される構成単位のブロック(PS)とメタクリル酸メチルから誘導される構成単位のブロック(PMMA)とを有するブロックコポリマー(PS-PMMAブロックコポリマー)を用いる場合、下地剤としては、PSとPMMAとの両方をブロックとして含む樹脂組成物や、芳香環等と親和性が高い部位と、極性の高い官能基等と親和性の高い部位と、の両方を含む化合物又は組成物を用いることが好ましい。
PSとPMMAとの両方をブロックとして含む樹脂組成物としては、例えば、PSとPMMAとのランダムコポリマー、PSとPMMAとの交互ポリマー(各モノマーが交互に共重合しているもの)等が挙げられる。
【0072】
また、PSと親和性が高い部位と、PMMAと親和性の高い部位と、の両方を含む組成物としては、例えば、モノマーとして、少なくとも、芳香環を有するモノマーと極性の高い置換基を有するモノマーとを重合させて得られる樹脂組成物が挙げられる。芳香環を有するモノマーとしては、フェニル基、ビフェニル(biphenyl)基、フルオレニル(fluorenyl)基、ナフチル基、アントリル(anthryl)基、フェナントリル基等の、芳香族炭化水素の環から水素原子を1つ除いた基を有するモノマー、又はこれらの基の環を構成する炭素原子の一部が酸素原子、硫黄原子、窒素原子等のヘテロ原子で置換されたヘテロアリール基を有するモノマーが挙げられる。また、極性の高い置換基を有するモノマーとしては、トリメトキシシリル基、トリクロロシリル基、カルボキシ基、水酸基、シアノ基、アルキル基の水素原子の一部がフッ素原子で置換されたヒドロキシアルキル基等を有するモノマーが挙げられる。
その他、PSと親和性が高い部位と、PMMAと親和性の高い部位と、の両方を含む化合物としては、フェネチルトリクロロシラン等のアリール基と極性の高い置換基との両方を含む化合物や、アルキルシラン化合物等のアルキル基と極性の高い置換基との両方を含む化合物等が挙げられる。
また、下地剤としては、例えば、熱重合性樹脂組成物、ポジ型レジスト組成物やネガ型レジスト組成物等の感光性樹脂組成物も挙げられる。
【0073】
これらの下地剤層は、常法により形成することができる。
下地剤を基板1上に塗布して下地剤層2を形成する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法により形成できる。
たとえば、下地剤を、スピンコート又はスピンナーを用いる等の従来公知の方法により基板1上に塗布して塗膜を形成し、乾燥させることにより、下地剤層2を形成できる。
塗膜の乾燥方法としては、下地剤に含まれる溶媒を揮発させることができればよく、たとえばベークする方法等が挙げられる。この際、ベーク温度は、80~300℃が好ましく、180~270℃がより好ましく、220~250℃がさらに好ましい。ベーク時間は、30~500秒間が好ましく、60~400秒間がより好ましい。
塗膜の乾燥後における下地剤層2の厚さは、10~100nm程度が好ましく、40~90nm程度がより好ましい。
【0074】
次いで、下地剤層2の上に、相分離構造形成用樹脂組成物を用いて、BCP層3を形成する。
下地剤層2の上にBCP層3を形成する方法としては、特に限定されるものではなく、例えばスピンコート又はスピンナーを用いる等の従来公知の方法により、下地剤層2上に相分離構造形成用樹脂組成物を塗布して塗膜を形成し、乾燥させる方法が挙げられる。
【0075】
相分離構造形成用樹脂組成物の塗膜の乾燥方法としては、相分離構造形成用樹脂組成物に含まれる有機溶剤成分を揮発させることができればよく、例えば振り切り乾燥やベークする方法等が挙げられる。
【0076】
BCP層3の厚さは、相分離が起こるために充分な厚さであればよく、基板1の種類、又は、形成される相分離構造の構造周期サイズもしくはナノ構造体の均一性等を考慮すると、10~100nmが好ましく、30~80nmがより好ましい。
例えば、基板1がSi基板又はSiO2基板の場合、BCP層3の厚さは、20~100nmが好ましく、30~80nmがより好ましい。
基板1がCu基板の場合、BCP層3の厚さは、10~100nmが好ましく、30~80nmがより好ましい。
【0077】
[工程(ii)]
工程(ii)では、前記化合物(IL)の少なくとも一部を気化させ、かつ、基板1上に形成された、BCP層3を相分離させる。
例えば、工程(i)後の基板1を加熱してアニール処理を行うことにより、ブロックコポリマーの選択除去によって、基板1表面の少なくとも一部が露出するような相分離構造が形成することができる。すなわち、基板1上に、相3aと相3bとに相分離した相分離構造を含む構造体3’が製造される。
アニール処理は、化合物(IL)の少なくとも一部を気化させて、BCP層から化合物(IL)を除去することができるような温度条件で行うことが好ましい。かかる温度条件として、例えば210℃以上でアニール処理を行う。すなわち、工程(ii)は、210℃以上の温度条件でアニール処理を行うことにより、化合物(IL)の少なくとも一部を気化させて、BCP層から化合物(IL)を除去する操作を有することが好ましい。なお、前記操作において、BCP層から除去される化合物(IL)の量は、BCP層に含有される全部であってもよく、その一部であってもよい。
【0078】
アニール処理の温度条件は、210℃以上が好ましく、220℃以上であることがより好ましく、230℃以上であることが更に好ましく、240℃以上であることが特に好ましい。アニール処理の温度条件の上限は、特に限定されないが、ブロックコポリマーの熱分解温度未満であることが好ましい。例えば、アニール処理の温度条件は、400℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましく、300℃以下であることがさらに好ましい。アニール処理の温度条件の範囲としては、例えば、210~400℃、220~350℃、230~300℃、又は240~300℃等が挙げられる。
また、アニール処理における加熱時間は、1分以上であることが好ましく、5分以上であることがより好ましく、10分以上であることがさらに好ましく、15分以上であることが特に好ましい。加熱時間を長くすることにより、BCP層における化合物(IL)の残存量をより減らすことができる。加熱時間の上限は、特に限定されないが、工程時間管理の観点から、240分以下とすることが好ましく、180分以下とすることがより好ましい。アニール処理における加熱時間の範囲としては、例えば、1~240分、5~240分、10~240分、15分~240分、15~180分等が挙げられる。
また、アニール処理は、窒素等の反応性の低いガス中で行われることが好ましい。
【0079】
アニール処理を行うことにより、BCP層から化合物(IL)が気化して除去されるため、アニール処理後のBCP層(すなわち、
図1(III)における構造体3’)では、アニール処理前のBCP層と比較して、気化して除去された化合物(IL)の量に応じて膜厚が減少する。アニール処理前のBCP層の厚さ(tb(nm))に対する、アニール処理後のBCP層の厚さ(ta(nm))の割合(ta/tb)は、例えば、0.90以下であることが好ましい。(ta/tb)の値は、0.85以下であることがより好ましく、0.80以下であることがさらに好ましく、0.75以下であることが特に好ましい。(ta/tb)の値が小さくなると、BCP層における化合物(IL)の残存量が減少するため、ラフネスの発生が低減された良好な形状の構造体を得ることができる。(ta/tb)の下限値は、特に限定されないが、0.50以上が挙げられる。
【0080】
また、本実施形態において、工程(ii)は、前記相分離構造形成用樹脂組成物に含まれる前記化合物(IL)の全量の40質量%以上をBCP層から気化させる操作を有していてもよい。この場合、相分離構造形成用樹脂組成物に含まれる化合物(IL)の全量の45質量%以上を気化させることが好ましく、50質量%以上を気化させることがより好ましく、60質量%以上を気化させることが更に好ましく、100質量%を気化させることが特に好ましい。
工程(ii)において、相分離構造形成用樹脂組成物に含まれる前記化合物(IL)の全量の40質量%以上をBCP層から気化させる操作としては、特に限定されない。例えば、上記のように、BCP層を相分離させる際のアニール処理の温度条件を、化合物(IL)の全量の40質量%以上が気化されるように設定することができる。
【0081】
以上説明した本実施形態の、相分離構造を含む構造体の製造方法によれば、工程(ii)において、化合物(IL)が気化し、BCP層から化合物(IL)の少なくとも一部が除去される。化合物(IL)は、ブロックコポリマーと相互作用し、BCP層の相分離性能を向上させる作用を有する。そのため、従来、アニール処理は、BCP層中の化合物(IL)がなるべく残存するような温度条件で行われていた。しかしながら、本実施形態の工程(ii)では、BCP層中の化合物(IL)の残存量を減少させ、かつBCP層を相分離させる。具体的には、本実施形態の工程(ii)では、BCP層中の化合物(IL)の残存量が減少するような温度条件で、アニール処理を行うことが好ましい。あるいは、本実施形態の工程(ii)では、BCP層中の化合物(IL)の残存量が減少する操作を行った後に、BCP層の相分離を行うことが好ましい。化合物(IL)をブロックコポリマーと相互作用させた後、BCP層から化合物(IL)を除去することにより、相分離性能を向上させるとともに、ラフネスの発生を低減して良好な形状を形成することができる。
【0082】
また、本実施形態においては、工程(ii)において、沸点が150℃未満の(S1)成分は、BCP層から揮発しやすい。そのため、(S1)成分は、BCP層に含まれる化合物(IL)の少なくとも一部を気化しやすくする。
一方、沸点が150℃以上の(S2)成分は、BCP層に残存しやすい。BCP層中に残存する(S2)成分は、BCP層中のブロックコポリマーの流動を助長するため、相分離構造が形成しやすくなる。
そのため、本実施形態によれば、更に相分離性能を向上させるとともに、ラフネスの発生を低減して良好な形状を形成することができる。
【0083】
また、従来のように、BCP層中の化合物(IL)がなるべく残存するような条件でBCP層の相分離を行う場合、化合物(IL)と下地剤層2との極性のマッチングが相分離構造の形成に影響を与えていた。そのため、用いる化合物(IL)の種類に応じて下地剤を選択する必要があった。
本実施形態の工程(ii)では、BCP層中の化合物(IL)の残存量を減少させるため、化合物(IL)と下地剤層2との極性のマッチングの影響が小さい。そのため、本実施形態に係る相分離構造を含む構造体の製造方法によれば、用いる化合物(IL)の種類に依存することなく、下地剤を自由に選択することができる。
【0084】
[任意工程]
本発明に係る、相分離構造を含む構造体の製造方法は、上述した実施形態に限定されず、工程(i)~(ii)以外の工程(任意工程)を有してもよい。
かかる任意工程としては、BCP層3のうち、前記ブロックコポリマーを構成する複数種類のブロックのうちの少なくとも一種類のブロックからなる相を選択的に除去する工程(以下「工程(iii)」という。)、ガイドパターン形成工程等が挙げられる。
【0085】
・工程(iii)について
工程(iii)では、下地剤層2の上に形成されたBCP層3のうち、前記ブロックコポリマーを構成する複数種類のブロックのうちの少なくとも一種類のブロックからなる相(相3a、相3b)を選択的に除去する。これにより、微細なパターン(高分子ナノ構造体)が形成される。
【0086】
ブロックからなる相を選択的に除去する方法としては、BCP層に対して酸素プラズマ処理を行う方法、水素プラズマ処理を行う方法等が挙げられる。
尚、以下において、ブロックコポリマーを構成するブロックのうち、選択的に除去されないブロックをPAブロック、選択的に除去されるブロックをPBブロックという。例えば、PS-PMMAブロックコポリマーを含む層を相分離した後、該層に対して酸素プラズマ処理や水素プラズマ処理等を行うことにより、PMMAからなる相が選択的に除去される。この場合、PS部分がPAブロックであり、PMMA部分がPBブロックである。
【0087】
図2は、工程(iii)の一実施形態例を示す。
図2に示す実施形態においては、工程(ii)で基板1上に製造された構造体3’に、酸素プラズマ処理を行うことによって、相3aが選択的に除去され、離間した相3bからなるパターン(高分子ナノ構造体)が形成されている。この場合、相3bがP
Aブロックからなる相であり、相3aがP
Bブロックからなる相である。
【0088】
上記のようにして、BCP層3の相分離によってパターンが形成された基板1は、そのまま使用することもできるが、さらに加熱することにより、基板1上のパターン(高分子ナノ構造体)の形状を変更することもできる。
加熱の温度条件は、用いるブロックコポリマーのガラス転移温度以上であり、かつ、熱分解温度未満が好ましい。また、加熱は、窒素等の反応性の低いガス中で行われることが好ましい。
【0089】
・ガイドパターン形成工程について
本発明に係る、相分離構造を含む構造体の製造方法においては、下地剤層上にガイドパターンを設ける工程(ガイドパターン形成工程)を有してもよい。これにより、相分離構造の配列構造制御が可能となる。
例えば、ガイドパターンを設けない場合に、ランダムな指紋状の相分離構造が形成されるブロックコポリマーであっても、下地剤層表面にレジスト膜の溝構造を設けることにより、その溝に沿って配向した相分離構造が得られる。このような原理で、下地剤層2上にガイドパターンを設けてもよい。また、ガイドパターンの表面が、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーとも親和性を有することにより、基板表面に対して垂直方向に配向したシリンダー状又はラメラ状の相分離構造が形成しやすくなる。
【0090】
ガイドパターンは、例えばレジスト組成物を用いて形成できる。
ガイドパターンを形成するレジスト組成物は、一般的にレジストパターンの形成に用いられるレジスト組成物やその改変物の中から、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーと親和性を有するものを適宜選択して用いることができる。該レジスト組成物としては、レジスト膜露光部が溶解除去されるポジ型パターンを形成するポジ型レジスト組成物、レジスト膜未露光部が溶解除去されるネガ型パターンを形成するネガ型レジスト組成物のいずれであってもよいが、ネガ型レジスト組成物であることが好ましい。ネガ型レジスト組成物としては、例えば、酸発生剤成分と、酸の作用により有機溶剤を含有する現像液への溶解性が酸の作用により減少する基材成分とを含有し、該基材成分が、酸の作用により分解して極性が増大する構成単位を有する樹脂成分、を含有するレジスト組成物が好ましい。
ガイドパターンが形成された下地剤層上に相分離構造形成用樹脂組成物が流し込まれた後、相分離を起こすためにアニール処理が行われる。このため、ガイドパターンを形成するレジスト組成物としては、耐溶剤性及び耐熱性に優れたレジスト膜を形成し得るものであることが好ましい。
【実施例】
【0091】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0092】
(実施例1~3、比較例1~4)
<相分離構造形成用樹脂組成物の調製>
表1に示す各成分を混合して溶解し、各例の相分離構造形成用樹脂組成物をそれぞれ調製した。
【0093】
【0094】
表3中、各略号はそれぞれ以下の意味を有する。[ ]内の数値は配合量(質量部)である。
BCP-1:ポリスチレン(PSブロック)とポリメタクリル酸メチル(PMMAブロック)とのブロックコポリマー[Mn:PS41000,PMMA41000,合計82000;PS/PMMA組成比(質量比)50/50;分散度1.02]。
(IL)-1:下記の化学式(IL-3)で表される化合物。
【0095】
【0096】
(S)-1:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート/γ-ブチロラクトン(質量比97/3)の混合溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの沸点:146℃。γ-ブチロラクトンの沸点:204℃)。
(S)-2:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート/γ-ブチロラクトン(質量比50/50)の混合溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの沸点:146℃。γ-ブチロラクトンの沸点:204℃)。
(S)-3:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート/シクロヘキサノン(質量比97/3)の混合溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの沸点:146℃。シクロヘキサノンの沸点:156℃)。
(S)-4:シクロヘキサノン(沸点:156℃)。
(S)-5:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点:146℃)。
【0097】
<相分離構造を含む構造体の製造(1)>
[工程(i)]
300mmのシリコン(Si)ウェーハ上に、以下に示す下地剤をスピンコート(回転数1500rpm、60秒間)により塗布し、大気中250℃、60秒間で焼成して乾燥させることにより、膜厚60nmの下地剤層を形成した。
【0098】
下地剤として、スチレン(St)単位、メタクリル酸メチル(MMA)単位、及びメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)単位を有する共重合体(St/MMA/HEMA=82/12/6(モル%))のPGMEA溶液(樹脂濃度2.0質量%)を用いた。
【0099】
次いで、下地剤層を、OK73シンナー(商品名、東京応化工業株式会社製)で15秒間リンスして、未架橋部分等のランダムコポリマーを除去した。この後、100℃、60秒間でベークした。ベーク後、該Siウェーハ上に形成された下地剤層の膜厚は7nmであった。
【0100】
次いで、前記ウェーハ上に形成された下地剤層を被覆するように、各例の相分離構造形成用樹脂組成物(固形分濃度1.2質量%)をそれぞれスピンコート(回転数1500rpm、60秒間)して、膜厚50nmのPS-PMMAブロックコポリマー層を振り切り乾燥して形成した。
【0101】
[工程(ii)]
次いで、窒素気流下、250℃で60分アニール処理することにより、PS-PMMAブロックコポリマー層を、PSからなる相と、PMMAからなる相と、に相分離させて、相分離構造を含む構造体を形成した。
【0102】
[工程(iii)]
相分離構造が形成されたシリコン(Si)ウェーハに対し、酸素プラズマ処理を行い、PMMAからなる相を選択的に除去した。
【0103】
<相分離性能についての評価>
上記各例の製造方法を用いて形成した、相分離構造を含む構造体の周期(L0)を求めた。相分離構造を含む構造体の周期(L0)は、得られた基板の表面(相分離状態)を、走査型電子顕微鏡(CG6300、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で観察したフィンガープリントパターンを、オフライン測長ソフトウェア(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いる方法により測定した。
表2に、各例の相分離構造を含む構造体の周期(L0)を示した。
【0104】
<FER(フィンガープリントエッジラフネス)の評価>
上記各例の製造方法を用いて形成した、相分離構造を含む構造体について、FERを示す尺度である3σを求めた。これを「FER(nm)」として表2に示した。
「3σ」は、得られた基板の表面(相分離状態)を、走査型電子顕微鏡(CG6300、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で観察したフィンガープリントパターンを、オフライン測長ソフトウェア(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いる方法により測定した。3σはその測定結果から求めた標準偏差(σ)の3倍値(3σ)(単位:nm)を示す。
該3σの値が小さいほど、相分離構造を含む構造体のラフネスが小さく、よりラフネスの発生が低減された良好な形状の構造体が得られたことを意味する。
【0105】
【0106】
表2に示す結果から、実施例1~3の相分離構造形成用樹脂組成物を用いて形成した相分離構造を含む構造体は、比較例1~4の相分離構造形成用樹脂組成物を用いて形成した相分離構造を含む構造体に比べて、FERが小さく、ラフネスの発生が低減された良好な構造体が形成されたこと、が確認できる。