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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】積層膜付き透明基板
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/34 20060101AFI20230310BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20230310BHJP
   B32B 17/04 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
C03C17/34 Z
B32B9/00 A
B32B17/04 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019562039
(86)(22)【出願日】2018-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2018047630
(87)【国際公開番号】W WO2019131660
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2017254295
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
【住所又は居所原語表記】Avenue Jean Monnet 4, 1348 Louvain-la-Neuve, Belgique
(73)【特許権者】
【識別番号】507090421
【氏名又は名称】エージーシー フラット グラス ノース アメリカ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AGC FLAT GLASS NORTH AMERICA,INC.
【住所又は居所原語表記】11175 Cicero Dr. Suite 400, Alpharetta, GA 30022, U.S.A.
(73)【特許権者】
【識別番号】516170945
【氏名又は名称】エージーシー ヴィドロ ド ブラジル リミターダ
【氏名又は名称原語表記】AGC Vidros do Brasil Ltda.
【住所又は居所原語表記】Estrada Municipal Doutor Jaime Eduardo Ribeiro Pereira, n 500, Jardim Vista Alegre, Guaratingueta, Sao Paulo, CEP 12523-671, Brasil
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 章代
(72)【発明者】
【氏名】一色 眞誠
(72)【発明者】
【氏名】秋田 正文
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/046058(WO,A1)
【文献】特開平04-077330(JP,A)
【文献】国際公開第2016/199676(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/060082(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00 - 23/00
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、前記透明基板の少なくとも一方の表面に設けられた積層膜とを有する積層膜付き透明基板であり、
前記積層膜が、透明基板側から、第1の誘電体層、結晶性向上層、機能層及び第2の誘電体層を順に有し、
前記結晶性向上層が、ZrN(但し、xは1.2超2.0以下である。)を含み、
前記機能層が、窒化チタン、窒化クロム、窒化ニオブ、窒化モリブデン及び窒化ハフニウムからなる群から選ばれた1種以上の金属窒化物を含み、
前記機能層が、前記結晶性向上層に接してその直上に形成されており、
前記結晶性向上層と前記機能層との境界における酸素原子濃度が、20原子%以下であることを特徴とする積層膜付き透明基板。
【請求項2】
前記機能層に含まれる前記金属窒化物のX線回折パターンにおける(200)面のピークの積分強度に対する(111)面のピークの積分強度の比が、2.5超である、請求項1に記載の積層膜付き透明基板。
【請求項3】
前記機能層の波長1500nmにおける消衰係数が、2.8超である、請求項1又は2に記載の積層膜付き透明基板。
【請求項4】
前記第1の誘電体層の厚さが、1.5~200nmであり、前記結晶性向上層の厚さが、3~30nmであり、前記機能層の厚さが、3~60nmであり、かつ、前記第2の誘電体層の厚さが、1.5~200nmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層膜付き透明基板。
【請求項5】
前記透明基板が、ガラス板である、請求項1~4のいずれか一項に記載の積層膜付き透明基板。
【請求項6】
前記透明基板の一方の表面に、前記積層膜を2つ以上有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の積層膜付き透明基板。
【請求項7】
前記第1の誘電体層が、アルミニウムがドープされた窒化ケイ素を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層膜付き透明基板。
【請求項8】
前記機能層が、窒化チタン及び窒化クロムのいずれか一方又は両方を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の積層膜付き透明基板。
【請求項9】
前記結晶性向上層の厚さに対する前記機能層の厚さの比が5~10である、請求項1~8のいずれか一項に記載の積層膜付き透明基板。
【請求項10】
前記積層膜の表面に、二酸化ケイ素、窒化チタン及びカーボンからなる群より選ばれた1種以上の化合物を含むトップ層を有する請求項1~9のいずれか一項に記載の積層膜付き透明基板。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の積層膜付き透明基板の製造方法であり、
前記透明基板の表面に、第1の誘電体層、結晶性向上層、機能層、及び第2の誘電体層を順次成膜することを特徴とする積層膜付き透明基板の製造方法。
【請求項12】
前記第1の誘電体層、前記結晶性向上層、前記機能層、及び前記第2の誘電体層を、スパッタリング法にして成膜する請求項11に記載の積層膜付き透明基板の製造方法。
【請求項13】
前記スパッタリング法にして成膜した後、400~700℃にて、2~60分間熱処理する請求項12に記載の積層膜付き透明基板の製造方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載の積層膜付き透明基板を用いる合わせガラス。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか一項に記載の積層膜付き透明基板を用いる複層ガラス。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか一項に記載の積層膜付き透明基板を有する窓ガラスであって、前記透明基板が単板である、窓ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層膜付き透明基板に関する。
【背景技術】
【0002】
暑熱地域、例えば、東南アジア等の低緯度から中緯度の地域における建築用窓ガラスには、高い遮熱性が求められている。窓ガラスに高遮熱性能を持たせるためには、熱放射率を低くすることが必要とされる。熱放射率の低い窓ガラスとしては、透明基板と、透明基板の上に透明導電層と膜厚が10nm超の窒素含有光吸収層とが積層された積層膜とを有する積層膜付き透明基板(遮熱ガラス)が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/060082号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、スズがドープされた酸化インジウム(ITO)等の透明導電層の表面に形成された窒化チタンからなる窒素含有光吸収層は、抵抗値が比較的高いため、特許文献1の積層膜付き透明基板は、遮熱性が充分に高くないという課題を有する。窒化チタンと同様にNaCl型の結晶構造を有し、結晶構造の格子定数が4.55Å以下である窒化クロム、窒化ニオブ、窒化モリブデン又は窒化ハフニウムを窒素含有光吸収層に用いた積層膜付き透明基板も、同様の課題を有する。
【0005】
本発明は、窒化チタン、窒化クロム、窒化ニオブ、窒化モリブデン及び窒化ハフニウムからなる群から選ばれた1種以上の金属窒化物を含む機能層を有するものであっても遮熱性が充分に高い積層膜付き透明基板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
<1>透明基板と、前記透明基板の少なくとも一方の表面に設けられた積層膜とを有する積層膜付き透明基板であり、前記積層膜が、透明基板側から、第1の誘電体層、結晶性向上層、機能層及び第2の誘電体層を順に有し、前記結晶性向上層が、ZrN(但し、xは1.2超2.0以下である。)を含み、前記機能層が、窒化チタン、窒化クロム、窒化ニオブ、窒化モリブデン及び窒化ハフニウムからなる群から選ばれた1種以上の金属窒化物を含み、前記結晶性向上層と前記機能層との境界における酸素原子濃度が、20原子%以下であることを特徴とする積層膜付き透明基板。
<2>前記機能層に含まれる前記金属窒化物のX線回折パターンにおける(200)面のピークの積分強度に対する(111)面のピークの積分強度の比が、2.5超である前記<1>の積層膜付き透明基板。
<3>前記機能層の波長1500nmにおける消衰係数が、2.8超である前記<1>又は<2>の積層膜付き透明基板。
<4>前記第1の誘電体層の厚さが、1.5~200nmであり、前記結晶性向上層の厚さが、3~30nmであり、前記機能層の厚さが、3~60nmであり、前記第2の誘電体層の厚さが、1.5~200nmである前記<1>~<3>のいずれかの積層膜付き透明基板。
<5>前記透明基板がガラス板である前記<1>~<4>のいずれかの積層膜付き透明基板。
<6>前記透明基板の一方の表面に、前記積層膜を2つ以上有する前記<1>~<5>のいずれかの積層膜付き透明基板。
<7>前記第1の誘電体層が、アルミニウムがドープされた窒化ケイ素を含む前記<1>~<6>のいずれかの積層膜付き透明基板。
<8>前記機能層が、窒化チタン及び窒化クロムのいずれか一方又は両方を含む前記<1>~<7>のいずれかの積層膜付き透明基板。
<9>前記結晶性向上層の厚さに対する前記機能層の厚さの比が5~10である前記<1>~<8>のいずれかの積層膜付き透明基板。
<10>前記積層膜の表面に、二酸化ケイ素、窒化チタン及びカーボンからなる群より選ばれた1種以上の化合物を含むトップ層を有する前記<1>~<9>のいずれかの積層膜付き透明基板。
<11>前記<1>~<10>のいずれかの積層膜付き透明基板の製造方法であり、
前記透明基板の表面に、第1の誘電体層、結晶性向上層、機能層、及び第2の誘電体層を順次成膜することを特徴とする積層膜付き透明基板の製造方法。
<12>前記第1の誘電体層、前記結晶性向上層、前記機能層、及び前記第2の誘電体層を、スパッタリング法にして成膜する前記<11>の積層膜付き透明基板の製造方法。
<13>前記スパッタリング法にして成膜した後、400~700℃にて、2~60分間熱処理する前記<11>又は<12>の積層膜付き透明基板の製造方法。
<14>前記<1>~<10>のいずれかの積層膜付き透明基板を用いる合わせガラス。
<15>前記<1>~<10>のいずれかの積層膜付き透明基板を用いる複層ガラス。
<16>前記<1>~<10>のいずれかの積層膜付き透明基板を有する窓ガラスであって、前記透明基板が単板である、窓ガラス。
【発明の効果】
【0007】
本発明の積層膜付き透明基板は、窒化チタン、窒化クロム、窒化ニオブ、窒化モリブデン及び窒化ハフニウムからなる群から選ばれた1種以上の金属窒化物を含む機能層を有するものであっても、機能層に含まれる金属窒化物の結晶性が向上し、機能層の抵抗値が低くなる。その結果、機能層の導電性が高くなり、積層膜付き透明基板の遮熱性が充分に高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の積層膜付き透明基板の一例を示す断面図である。
図2】本発明の積層膜付き透明基板の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の用語の定義は、本明細書及び特許請求の範囲にわたって適用される。
「透明」とは、光を透過できることを意味する。
「結晶性向上層と機能層との境界」は、次のように定義する。結晶性向上層の表面に機能層を成膜した場合、結晶性向上層を構成する原子と機能層を構成する原子とが混ざり合うため、結晶性向上層と機能層との境界は、厚さ方向にある程度の幅を持って存在する。したがって、イオンスパッタリングによるエッチングとX線光電子分光(XPS)測定とを交互に繰り返すことによって、積層膜の表面から積層膜と透明基板との界面まで厚さ方向に原子濃度の分析を行い、得られたスパッタ時間と原子濃度とのグラフにおいて結晶性向上層に含まれる金属原子及び機能層に含まれる金属原子の両方が検出されるスパッタ時間の範囲(但し、一方又は両方の金属原子がノイズとして検出された部分を除く。)を結晶性向上層と機能層との境界とする。
【0010】
「結晶性向上層と機能層との境界における酸素原子濃度」は、上述したスパッタ時間と原子濃度とのグラフにおいて、結晶性向上層に含まれる金属原子及び機能層に含まれる金属原子の両方が検出されるスパッタ時間の範囲における酸素原子濃度の最大値である。
「機能層に含まれる金属窒化物のX線回折パターン」は、X線回折(XRD)装置を用いて実施例に記載の方法及び条件にて測定される。
【0011】
透明基板の厚さ及び積層膜を構成する各層の厚さは、幾何学的厚さである。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
「圧力」の値は、特に言及のない限り、「絶対圧」を示す。
図1及び図2は、いずれも模式的図面であり、それらにおける寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なったものである。
【0012】
(積層膜付き透明基板)
図1は、本発明の積層膜付き透明基板の一例を示す断面図である。
積層膜付き透明基板10は、透明基板12と、透明基板12の一方の表面に設けられた積層膜14とを有する。
積層膜14は、透明基板12側から、第1の誘電体層22、結晶性向上層24、機能層26及び第2の誘電体層28を順に有する。
【0013】
図2は、本発明の積層膜付き透明基板の他の例を示す断面図である。
積層膜付き透明基板10は、透明基板12と、透明基板12の一方の表面に設けられた第1の積層膜16と、その表面に設けられた第2の積層膜18とを有する。
第1の積層膜16は、透明基板12側から、第1の誘電体層22、結晶性向上層24、機能層26及び第2の積層膜18の第1の誘電体層22を兼ねた第2の誘電体層28を順に有する。
第2の積層膜18は、透明基板12側から、第1の積層膜16の第2の誘電体層28を兼ねた第1の誘電体層22、結晶性向上層24、機能層26及び第2の誘電体層28を順に有する。
【0014】
透明基板としては、ガラス板、樹脂板等が挙げられ、耐候性、耐光性、耐熱性等の点から、ガラス板が好ましい。
ガラス板の材質としては、ソーダライムガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス等が挙げられ、ソーダライムガラスが好ましい。
樹脂板の材質としては、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリエステル等が挙げられる。
透明基板の厚さは、積層膜付き透明基板の用途に応じて適宜設定される。積層膜付き透明基板を窓ガラスとして用いる場合、透明基板の厚さは、0.5~12mmが好ましい。
【0015】
積層膜は、透明基板側から、第1の誘電体層、結晶性向上層、機能層及び第2の誘電体層を順に有する。
積層膜は、必要に応じて第1の誘電体層と結晶性向上層との間に犠牲層を有していてもよく、機能層と第2の誘電体層との間に犠牲層を有していてもよい。これらの犠牲層は、熱処理時に、第1の誘電体層から結晶性向上層に窒素が拡散することや第2の誘電体層から機能層に窒素が拡散することを抑制するためのものであり、ケイ素、アルミニウム、チタン、クロム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、ジルコニウムのいずれか若しくはこれらの組み合わせからなるのが好ましい。
また、最も透明基板から遠い第2の誘電体層の表面に、積層膜を保護するための後記するトップ層を有していてもよい。
【0016】
積層膜は、透明基板の少なくとも一方の表面に設けられる。積層膜は、透明基板の両面に設けてもよい。
積層膜は、積層膜付き透明基板の遮熱性がさらに高くなる点から、2つ以上設けることが好ましく、複数重ねて設けることがより好ましい。積層膜を複数重ねて設けた場合であって、透明基板側の積層膜の第2の誘電体層とこれに隣接する積層膜の第1の誘電体層とが同じ材料からなる場合、これら誘電体層は、それぞれの誘電体層の役割を兼ねた1つの誘電体層としてもよい。
積層膜を複数重ねて設けた場合、少なくとも1つの積層膜が、窒化チタン、窒化クロム、窒化ニオブ、窒化モリブデン及び窒化ハフニウムからなる群から選ばれた1種以上の金属窒化物を含む機能層を有していればよく、他の積層膜は、窒化チタン、窒化クロム、窒化ニオブ、窒化モリブデン及び窒化ハフニウムを含まない機能層(例えば、窒化ジルコニウムを含む機能層)を有していてもよい。
【0017】
第1の誘電体層の材質としては、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等が挙げられる。窒化ケイ素は、ホウ素、アルミニウム、チタン、ニッケル、亜鉛、モリブデン、スズ、タングステン、ジルコニウム又はニオブがドープされたものであってもよい。窒化アルミニウムは、ホウ素、ケイ素、チタン、ニッケル、亜鉛、モリブデン、スズ、タングステン、ジルコニウム又はニオブがドープされたものであってもよい。
第1の誘電体層の材料としては、耐湿性向上の点から、アルミニウムがドープされた窒化ケイ素(Si1-α・Alα(但し、αは、0.03以上0.50以下であり、yは、1.0以上2.0以下である。))を含むことが好ましい。
【0018】
第1の誘電体層には、成膜時に不可避的に導入される不純物(炭素原子、酸素原子等)が含まれてもよい。第1の誘電体層は、単層であってもよく、種類の異なる2種以上の層の組み合わせであってもよい。
第1の誘電体層の厚さは、1.5~200nmであることが好ましい。第1の誘電体層の厚さが1.5nm以上であれば、機能層を酸素や水分による劣化から保護できる。第1の誘電体層の厚さが200nm以下であれば、良好な生産性を得ることができる。
【0019】
結晶性向上層は、直上に形成される機能層に含まれる特定の金属窒化物の結晶性を向上させる。結晶性向上層は、ZrN(但し、xは1.2超2.0以下である。)を含む。ZrNは、結晶性向上層において、機能層と接する部分に存在することが好ましい。
【0020】
ZrNにおけるxの値は、1.2超2.0以下である。xが1.2超であれば、機能層に含まれる特定の金属窒化物の結晶性向上効果が発揮される。xは、1.28以上が好ましく、1.35以上がより好ましい。xの上限値は、化学組成上の理論値の2である。
xの値は、成膜条件(透明基板の温度、成膜時圧力、導入ガスの組成、成膜時電源パワー、ターゲット組成、後熱処理温度等)を制御することによって調整できる。
【0021】
結晶性向上層には、成膜時に不可避的に導入される不純物(炭素原子、酸素原子、他の金属原子等)が含まれてもよい。
なお、結晶性向上層の表面における酸素濃度が増えると、直上に形成される機能層に含まれる特定の金属窒化物の結晶性向上効果が低下する。結晶性向上層の表面における酸素濃度が増えると、直上に形成される機能層に含まれる金属窒化物と、結晶性向上層に含まれるZrNxとの結合が弱くなり、金属窒化物の結晶性は結晶性向上層との関係が小さくなる。本発明者らは、結晶性向上層の表面における酸素濃度が20原子%以下であると、金属窒化物とZrNxとの結合が強くなり、金属窒化物の結晶性が、結晶性向上層の影響を強く受け、変化することを見出した。
【0022】
なお、結晶性向上層の格子定数と金属窒化物層の格子定数とは一致していないにも関わらず、金属窒化物層の結晶性が向上することは従来知られていない。結晶性向上層と機能層との境界における酸素原子濃度は、20原子%以下であり、15原子%以下が好ましく、10原子%以下がより好ましい。結晶性向上層と機能層との境界における酸素原子濃度は低ければ低いほどよく、その下限値は0原子%である。
【0023】
結晶性向上層の厚さは、3~30nmが好ましく、4.5~25nmがより好ましい。該厚さが前記範囲の下限値以上であれば、機能層に含まれる特定の金属窒化物の結晶性向上効果が充分に発揮される。上記厚さが前記範囲の上限値以下であれば、結晶性向上層の表面凹凸が小さくなるため、機能層の結晶成長が促進され、結晶性向上効果が充分に発揮される。
【0024】
機能層は、熱線反射機能を有する、窒化チタン、窒化クロム、窒化ニオブ、窒化モリブデン及び窒化ハフニウムからなる群から選ばれた1種以上の金属窒化物(以下、特定の金属窒化物ともいう。)を含む。機能層は、窒化チタン及び窒化クロムのいずれか一方又は両方を含むことが好ましい。機能層は、優れた熱線反射機能を有する点で、窒化チタンを含むことが特に好ましい。
機能層には、成膜時に不可避的に導入される不純物(炭素原子、酸素原子、他の金属原子等)が含まれてもよい。
【0025】
機能層は、結晶性向上層に接してその直上に形成される。
ZrN(x>1.2)を含む結晶性向上層の直上にZrN(0.9<x<1.0)を含む機能層を形成することによって、機能層に含まれるZrN(0.9<x<1.0)の結晶性が向上することは知られている。これは、ZrN(x>1.2)とZrN(0.9<x<1.0)との結晶構造及び構成元素がほぼ同じだからである。
一方、NaCl型の結晶構造を有し、結晶構造の格子定数が4.55Å以下である窒化チタン、窒化クロム、窒化ニオブ、窒化モリブデン及び窒化ハフニウムは、窒化ジルコニウム(NaCl型、格子定数:4.58Å)とは格子定数及び構成元素が異なるため、ZrN(x>1.2)を含む結晶性向上層の直上に、窒化ジルコニウム以外の金属窒化物を含む機能層を形成しても、機能層に含まれる窒化ジルコニウム以外の金属窒化物の結晶性が向上することは、技術常識的には予測困難である。
ところが驚くべきことに、ZrN(x>1.2)を含む結晶性向上層の直上に、窒化チタン、窒化クロム、窒化ニオブ、窒化モリブデン及び窒化ハフニウムからなる群から選ばれた1種以上の金属窒化物を含む機能層を形成しても、機能層に含まれる窒化ジルコニウム以外の金属窒化物の結晶性が向上することを、本発明者らは見出した。
【0026】
機能層に含まれる特定の金属窒化物の結晶性の高さは、機能層の表面に対して平行な格子面のX線回折パターンにおける(111)面のピークの大きさによって確認できる。すなわち、機能層に含まれる金属窒化物のX線回折パターンにおける(200)面のピークの積分強度I200に対する(111)面のピークの積分強度I111の比(I111/I200)は、2.5超が好ましく、3.4以上がより好ましく、5.5以上がさらに好ましい。I111/I200が大きければ、機能層に含まれる特定の金属窒化物の配向が揃い、結晶性が充分に高くなるため、機能層の抵抗値が充分に低くなる。その結果、機能層の導電性が充分に高くなり、積層膜付き透明基板の遮熱性がさらに高くなる。I111/I200は大きければ大きいほどよく、その上限値は特に制限されない。例えば、(111)面の配向が充分に揃うと、(200)面のピーク強度は測定できないほど小さくなり、I111/I200は無限大となる。なお、結晶性向上層による機能層のI111/I200の向上効果は、積層膜の成膜直後においても、積層膜の成膜後さらに熱処理した後においても、存在する。
【0027】
機能層の波長1500nmにおける消衰係数は、2.8超が好ましく、4.1以上がより好ましく、5.9以上がさらに好ましい。該消衰係数が大きければ、機能層の導電性が充分に高くなり、積層膜付き透明基板の遮熱性がさらに高くなる。上記消衰係数は高ければ高いほどよく、その上限値は通常10.0である。
【0028】
機能層の厚さは、3~60nmが好ましく、10~40nmがより好ましい。該厚さが前記範囲の下限値以上であれば、積層膜付き透明基板の遮熱性がさらに高くなる。上記厚さが前記範囲の上限値以下であれば、可視光透過性を適度に有することができる。
結晶性向上層の厚さに対する機能層の厚さの比は、5~10であることが好ましい。該厚さの比が5~10であると、結晶性向上層による機能層の結晶性向上効果が充分に発揮され、積層膜付き透明基板の遮熱性がさらに高まる。上記厚さの比は、5~9であることがより好ましく、5~8であることが特に好ましい。
【0029】
第2の誘電体層の材質としては、第1の誘電体層の材料と同様のものが挙げられ、好ましい形態も同様である。
第2の誘電体層には、成膜時に不可避的に導入される不純物(炭素原子、酸素原子等)が含まれてもよい。第2の誘電体層は、単層であってもよく、種類の異なる2種以上の層の組み合わせであってもよい。
第2の誘電体層の厚さは、1.5~200nmが好ましい。該厚さが1.5nm以上であれば、機能層を酸素や水分による劣化から保護できる。上記厚さが200nm以下であれば、良好な生産性を得ることができる。
第2の誘電体層の材質及び厚さのいずれか一方又は両方は、第1の誘電体層と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0030】
必要に応じて設けられるトップ層は、積層膜を保護する。第2の誘電体層が保護層としての機能を兼ねる場合、トップ層を設置しなくてもよい。
トップ層の材質としては、二酸化ケイ素、窒化チタン、カーボン等が挙げられる。
トップ層の厚さは、1~10nmが好ましい。
【0031】
本発明の積層膜付き透明基板は、透明基板の表面に、第1の誘電体層、結晶性向上層、機能層及び第2の誘電体層を順次成膜することによって製造できる。
成膜方法としては、物理的蒸着法(真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法)、化学的蒸着法(熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法)、イオンビームスパッタリング法等が挙げられ、厚さの均一性、生産性に優れる点から、スパッタリング法が好ましい。
【0032】
本発明の積層膜付き透明基板は、透明基板上に積層膜を成膜した後に、熱処理を行ってもよい。この熱処理を行うことによって、機能層の結晶性を向上し、導電性を高める効果がある。熱処理としては、例えば、好ましくは400~700℃、より好ましくは、500~700℃で、好ましくは2分~1時間、より好ましくは5分~1時間、積層膜を大気雰囲気に保持することにより行われる。
【0033】
本発明の積層膜付き透明基板は、遮熱ガラスとして建築用窓ガラス、車両用窓ガラス等として用いることができる。
本発明の積層膜付き透明基板は、そのまま単板で用いてもよく、合わせガラスに用いてもよく、複層ガラスに用いてもよい。
合わせガラスは、第1の透明基板と、第2の透明基板と、これらの透明基板の間に配置された中間膜とを有する。本発明の積層膜付き透明基板は、第1の透明基板及び第2の透明基板のいずれか一方又は両方として用いることができる。
複層ガラスは、第1の透明基板と、第2の透明基板と、これらの透明基板の間に空隙が形成されるように第1の透明基板及び第2の透明基板の周縁部に介在配置された枠状のスペーサとを有する。本発明の積層膜付き透明基板は、第1の透明基板及び第2の透明基板のいずれか一方又は両方として用いることができる。
【0034】
以上説明した本発明の積層膜付き透明基板は、機能層の直下にZrN(但し、xは1.2超2.0以下である。)を含む結晶性向上層を有し、かつ結晶性向上層と機能層との境界における酸素原子濃度が20原子%以下である。そのため、結晶性向上層に接して直上に形成された機能層が、窒化チタン、窒化クロム、窒化ニオブ、窒化モリブデン及び窒化ハフニウムからなる群から選ばれた1種以上の金属窒化物を含むものであっても、機能層に含まれる金属窒化物の結晶性が向上し、機能層の抵抗値が低くなる。その結果、機能層の導電性が高くなり、積層膜付き透明基板の遮熱性が充分に高くなる。
【実施例
【0035】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
例1~10、14は実施例であり、例11~13、15は比較例である。
【0036】
(各層の厚さ)
積層膜における各層の厚さは、分光エリプソメーター(ジェー・エー・ウーラム社製のM-2000を用いて、50°、60°、70°の入射角において測定)、透過スペクトル(日立製作所社製のU-4100を用いて、250nm~2500nmの波長域において測定)、膜面反射スペクトル(日立製作所社製のU-4100を用いて、入射角5°、250nm~2500nmの波長域において測定)、ガラス面反射スペクトル(日立製作所社製のU-4100を用いて、入射角5°、250nm~2500nmの波長域において測定)をすべて満たすように得られた複素屈折率・膜厚の解から決定した。
【0037】
(RBS測定)
ラザフォード後方散乱分光法(Rutherford BackscatteringSpectrometry:RBS)によって、結晶性向上層を構成する窒化ジルコニウム又は酸窒化ジルコニウムにおけるZrとNとの元素比、すなわちZrN又はZrNにおけるxの値を求めた。
【0038】
(XPS測定)
走査型X線光電子分光装置(アルバック・ファイ社製、PHI 5000 VersaProbe)を用いてビーム径100μmとし、積層膜の表面から積層膜と透明基板との界面まで厚さ方向に原子濃度の分析を行った。このとき、エッチングガスとしてアルゴンガスを用い、ガス圧を1.5×10-2Pa、加速電圧を1kV、イオンビーム径を1×1mmとした。測定結果から結晶性向上層と機能層との境界における酸素原子濃度を求めた。
積層膜が2つ以上ある場合は、結晶性向上層と機能層との境界における酸素原子濃度をそれぞれ求め、最も小さい値を採用した。
【0039】
(XRD測定)
XRD測定用のサンプルとしては、積層膜付き透明基板を2.5cm×2.5cmのサイズに切断したものを用いた。
XRD測定には、デスクトップX線回折装置(リガク社製、MiniFlex II)を用いた。基板に対し垂直方向の回折を評価するようにサンプルをセットし、発散スリット1.25°、散乱スリット1.25°、受光スリット0.3mmとし、2θが30°~60°の範囲において、2θ/θスキャンを実施した。
バックグラウンド補正を行った後、機能層に含まれる金属窒化物(窒化チタン、窒化クロム、窒化ニオブ、窒化モリブデン又は窒化ハフニウム)のX線回折パターンにおける(111)面に帰属するピーク(2θ=32.9~37.5deg.)の積分強度I111と、(200)面に帰属するピーク(2θ=38.4~43.7deg.)の積分強度I200とを求め、積分強度の比(I111/I200)を算出した。
機能層が2層以上ある場合は、機能層ごとにI111/I200を求め、大きい方の値を採用した。同種の機能層が2層以上ある場合、又はピーク分離できないほどピークが近接している場合は、複数の層を合わせた数値として得られる積分強度の比(I111/I200)を採用した。
【0040】
(シート抵抗)
積層膜のシート抵抗は、非接触抵抗計(DELCOM社製、717conductance monitor)を用いて測定した。
【0041】
(消衰係数)
機能層の波長1500nmにおける消衰係数を以下のようにして求めた。
積層膜付き透明基板について、分光光度計(日立製作所社製、U-4100)を用いて分光スペクトルを測定した。また、分光エリプソメーター(ジェー・エー・ウーラム社製、M-2000)を用いて偏光情報の測定を行った。得られた分光透過スペクトル、分光反射スペクトル(膜面及びガラス面)及び偏光情報を用いて、光学モデルのフィッティングを行い、消衰係数を決定した。
【0042】
(例1)
透明基板として、100mm(縦)×100mm(横)×3mmt(厚さ)のソーダライムガラス板を用意した。
透明基板の一方の表面に表1に示す層構成の積層膜を形成し、次いで、大気雰囲気で、680℃20分間の熱処理を行うことにより積層膜付き透明基板を得た。積層膜の各層は、スパッタリング法によって成膜した。
第1の誘電体層(Si1-α・Alα)の成膜には、Si-Al(10質量%)ターゲットを用い、放電ガスとしてアルゴンガスと窒素ガスとの混合ガス(アルゴンガス:窒素ガス=3:2(sccm))を用いた。成膜時の圧力は、0.4Paであった。
結晶性向上層(ZrN)の成膜には、Zrターゲットを用い、放電ガスとして窒素ガスを用いた。成膜時の圧力は、0.4Paであった。
機能層(TiN)の成膜には、Tiターゲットを用い、放電ガスとしてアルゴンガスと窒素ガスとの混合ガス(アルゴンガス:窒素ガス=5.7:1(sccm))を用いた。成膜時の圧力は、0.3Paであった。
第2の誘電体層(Si1-α・Alα)の成膜には、Si-Al(10質量%)ターゲットを用い、放電ガスとしてアルゴンガスと窒素ガスとの混合ガス(アルゴンガス:窒素ガス=3:2(sccm))を用いた。成膜時の圧力は、0.4Paであった。
【0043】
(例2)
結晶性向上層(ZrN)の成膜には、Zrターゲットを用い、放電ガスとして窒素ガスと酸素ガスとの混合ガス(窒素ガス:酸素ガス=27:1(sccm))を用いた。成膜時の圧力は、0.4Paであった。
結晶性向上層及び機能層の厚さは、基板搬送速度を変えることで表1に示す厚さとなるよう調整した。それ以外は例1と同様に、透明基板の一方の表面に表1に示す層構成の積層膜を形成し、積層膜付き透明基板を得た。
【0044】
(例3)
結晶性向上層(ZrN)の成膜には、Zrターゲットを用い、放電ガスとして窒素ガスと酸素ガスとの混合ガス(窒素ガス:酸素ガス=40:1(sccm))を用いた。成膜時の圧力は、0.4Paであった。
機能層の成膜(CrN)には、Crターゲットを用い、放電ガスとしてアルゴンガスと窒素ガスとの混合ガス(アルゴンガス:窒素ガス=3:2(sccm))を用いた。成膜時の圧力は、0.4Paであった。
結晶性向上層及び機能層の厚さは、基板搬送速度を変えることで表1に示す厚さとなるよう調整した。それ以外は例1と同様に、透明基板の一方の表面に表1に示す層構成の積層膜を形成し、積層膜付き透明基板を得た。
【0045】
(例4)
透明基板として、100mm×100mm×6mmtのソーダライムガラス板を用意した。
誘電体層、結晶性向上層及び機能層の厚さは、基板搬送速度を変えることで表1に示す厚さとなるよう調整した。それ以外は例1と同様に、透明基板の一方の表面に表1に示す層構成の第1の積層膜及び第2の積層膜を形成し、積層膜付き透明基板を得た。
【0046】
(例5)
透明基板として、100mm×100mm×6mmtのソーダライムガラス板を用意した。
第1の積層膜における機能層(ZrN)の成膜には、Zrターゲットを用い、放電ガスとしてアルゴンガスと窒素ガスとの混合ガス(アルゴンガス:窒素ガス=4.9:1(sccm))を用いた。成膜時の圧力は、0.3Paであった。
第2の積層膜における機能層(CrN)の成膜は、例3と同様に行った。
誘電体層、結晶性向上層及び機能層の厚さは、基板搬送速度を変えることで、表1に示す厚さとなるよう調整した。それ以外は例1と同様に、透明基板の一方の表面に表1に示す層構成の第1の積層膜及び第2の積層膜を形成し、積層膜付き透明基板を得た。
【0047】
(例6)
透明基板として、100mm×100mm×6mmtのソーダライムガラス板を用意した。
第1の積層膜における機能層(ZrN)の成膜は、例5と同様に行った。
誘電体層、結晶性向上層及び機能層の厚さは、基板搬送速度を変えることで、表1に示す厚さとなるよう調整した。それ以外は例1と同様に、透明基板の一方の表面に表1に示す層構成の第1の積層膜及び第2の積層膜を形成し、積層膜付き透明基板を得た。
【0048】
(例7)
透明基板として、100mm×100mm×6mmtのソーダライムガラス板を用意した。
第1の積層膜における機能層(HfN)の成膜には、Hfターゲットを用い、放電ガスとしてアルゴンガスと窒素ガスとの混合ガス(アルゴンガス:窒素ガス=4.6:1(sccm))を用いた。成膜時の圧力は、0.3Paであった。
誘電体層、結晶性向上層及び機能層の厚さは、基板搬送速度を変えることで、表1に示す厚さとなるよう調整した。それ以外は例1と同様に、透明基板の一方の表面に表1に示す層構成の第1の積層膜及び第2の積層膜を形成し、積層膜付き透明基板を得た。
【0049】
(例8)
透明基板として、100mm×100mm×6mmtのソーダライムガラス板を用意した。
第2の積層膜には結晶性向上層を形成しなかった。
第2の積層膜における機能層(ZrN)の成膜は、例5と同様に行った。
誘電体層、結晶性向上層及び機能層の厚さは、基板搬送速度を変えることで、表1に示す厚さとなるよう調整した。それ以外は例1と同様に、透明基板の一方の表面に表1に示す層構成の第1の積層膜及び第2の積層膜を形成し、積層膜付き透明基板を得た。
【0050】
(例9)
透明基板として、100mm×100mm×8mmtのソーダライムガラス板を用意した。
第2の積層膜における機能層(ZrN)の成膜は、例5と同様に行った。
誘電体層、結晶性向上層及び機能層の厚さは、基板搬送速度を変えることで、表1に示す厚さとなるよう調整した。それ以外は例1と同様に、透明基板の一方の表面に表1に示す層構成の第1の積層膜及び第2の積層膜を形成し、積層膜付き透明基板を得た。
【0051】
(例10)
誘電体層、結晶性向上層及び機能層の厚さは、基板搬送速度を変えることで、表1に示す厚さとなるよう調整した。それ以外は例9と同様に、透明基板の一方の表面に表1に示す層構成の第1の積層膜及び第2の積層膜を形成し、積層膜付き透明基板を得た。
【0052】
(例11)
結晶性向上層を形成しなかった。機能層(CrN)の成膜は、例3と同様に行った。
それ以外は例1と同様に、透明基板の一方の表面に表1に示す層構成の積層膜を形成し、積層膜付き透明基板を得た。
【0053】
(例12)
結晶性向上層を形成しなかった。
それ以外は例1と同様に、透明基板の一方の表面に表1に示す層構成の積層膜を形成し、積層膜付き透明基板を得た。
【0054】
(例13)
結晶性向上層(ZrN)の成膜には、Zrターゲットを用い、放電ガスとして窒素ガスと酸素ガスとの混合ガス(窒素ガス:酸素ガス=13:1(sccm))を用いた。成膜時の圧力は、0.4Paであった。
機能層(CrN)の成膜は、例3と同様に行った。
それ以外は例1と同様に、透明基板の一方の表面に表1に示す層構成の積層膜を形成し、積層膜付き透明基板を得た。
(例14)
680℃20分間の熱処理を行わなかった以外は、例1と同様にして、積層膜付き透明基板を得た。
(例15)
680℃20分間の熱処理を行わなかった以外は、例12と同様にして、積層膜付き透明基板を得た。
【0055】
【表1】
【0056】
(結果)
例1~15の積層膜付き透明基板について、機能層のI111/I200を求めた。また、例1~13の積層膜付き透明基板について、結晶性向上層を構成するZrN又はZrNにおけるxの値、結晶性向上層と機能層との境界における酸素原子濃度を求めた。また、例1~3、11~15の積層膜付き透明基板について、積層膜のシート抵抗を求めた。また、例1~3、11の積層膜付き透明基板について、機能層の波長1500nmにおける消衰係数を求めた。結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
例1~3の積層膜付き透明基板は、機能層に含まれる金属窒化物の結晶性が高いため、積層膜のシート抵抗が比較的低く、機能層の波長1500nmにおける消衰係数が高い。そのため、遮熱性が充分に高い。
例4~10の積層膜付き透明基板は、機能層に含まれる金属窒化物の結晶性が高いため、遮熱性が充分に高い。
結晶性向上層を有していない例11の積層膜付き透明基板は、機能層に含まれる金属窒化物の結晶性が低いため、積層膜のシート抵抗が同種の機能層(CrN)を有する例3に比べ高く、機能層の波長1500nmにおける消衰係数が低い。そのため、遮熱性が低い。
【0059】
結晶性向上層を有していない例12及び15の積層膜付き透明基板は、機能層に含まれる金属窒化物の結晶性が低いため、積層膜のシート抵抗が同種の機能層(TiN)を有する例1及び例2に比べ高い。そのため、遮熱性が低い。
結晶性向上層と機能層との境界における酸素原子濃度が高い例13の積層膜付き透明基板は、機能層に含まれる金属窒化物の結晶性が低いため、積層膜のシート抵抗が同種の機能層(CrN)を有する例3に比べ高い。そのため、遮熱性が低い。
例14の積層膜付き透明基板は、熱処理を実施していないものの、機能層に含まれる金属窒化物の結晶性が高いため、積層膜のシート抵抗が比較的低く、遮熱性が充分に高い。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の積層膜付き透明基板は、遮熱ガラスとして建築用窓ガラス、車両用窓ガラス等に有用である。
なお、2017年12月28日に出願された日本特許出願2017-254295号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0061】
10:積層膜付き透明基板、12:透明基板、14:積層膜、16:第1の積層膜、18:第2の積層膜、22:第1の誘電体層、24:結晶性向上層、26:機能層、28:第2の誘電体層。
図1
図2