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特許7242293成膜装置、成膜方法、および電子デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】成膜装置、成膜方法、および電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20230313BHJP
   C23C 14/54 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
C23C14/34 M
C23C14/34 U
C23C14/54 B
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2018244428
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020105568
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 洋紀
(72)【発明者】
【氏名】松本 行生
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-521560(JP,A)
【文献】特開2013-049884(JP,A)
【文献】特開2000-345335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C23C 14/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象物およびターゲットが内部に配置されるチャンバと、
前記ターゲットからスパッタ粒子を発生させるスパッタリング領域を前記チャンバ内で移動させる移動手段と、
前記チャンバに設けられた複数の排気口と、
前記複数の排気口それぞれからの排気量を調整する排気量調整手段と、
を有し、
前記移動手段によって前記スパッタリング領域を移動させつつ前記スパッタ粒子を前記成膜対象物に堆積させて成膜する成膜装置であって、
前記排気量調整手段は、前記成膜が行われる間、前記移動手段によって前記スパッタリング領域が移動するいずれの位置においても、前記スパッタリング領域の近傍におけるスパッタガスの圧力が所定の範囲に維持されるように、前記チャンバ内における前記スパッタリング領域の位置に応じて前記複数の排気口それぞれからの排気量を調整する
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記排気量調整手段は、前記スパッタリング領域からの距離が近い前記排気口ほど排気量が大きくなるように、前記複数の排気口それぞれからの排気量を調整する
ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記複数の排気口は、前記移動手段による前記スパッタリング領域の移動方向に沿って配置されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記チャンバ内のガスの圧力値を取得する圧力取得手段をさらに有し、
前記排気量調整手段は、前記圧力取得手段が取得した前記スパッタリング領域の近傍の圧力値に基づいて、前記複数の排気口それぞれからの排気量を調整する
ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記圧力取得手段は、前記スパッタリング領域とともに移動する
ことを特徴とする請求項に記載の成膜装置。
【請求項6】
複数の前記圧力取得手段が、前記チャンバ内に、前記移動手段による前記スパッタリング領域の移動方向に沿って配置されている
ことを特徴とする請求項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記排気量調整手段は、前記移動手段により前記スパッタリング領域が移動する移動方向の前方に配置された前記圧力取得手段が取得した前記圧力値を用いる
ことを特徴とする請求項に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記排気量調整手段は、前記スパッタリング領域の位置に応じた前記複数の排気口それぞれからの排気量が保存された制御プロファイルに基づいて、排気量の調整を行う
ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記排気量調整手段は、前記移動手段により前記スパッタリング領域が移動する移動方向の前方にある前記排気口を、前記複数の排気口から選択する
ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記排気量調整手段は、前記スパッタリング領域の現在位置に近い前記排気口を、前記複数の排気口から選択する
ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項11】
前記複数の排気口それぞれに対応する複数のバルブをさらに有し、
前記排気量調整手段は、前記バルブの開度を制御することにより、排気量の調整を行うことを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項12】
前記複数の排気口それぞれに対応する複数の排気手段をさらに有し、
前記排気量調整手段は、前記排気手段の排気能力を制御することにより、排気量の調整を行う
ことを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項13】
前記移動手段は、前記ターゲットの長手方向と交差する方向に前記ターゲットを移動させることにより、前記スパッタリング領域を移動させる
ことを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項14】
前記ターゲットは円筒形状であり、
前記ターゲットを回転させる回転手段をさらに有する
ことを特徴とする請求項13に記載の成膜装置。
【請求項15】
前記ターゲットは平板形状である
ことを特徴とする請求項13に記載の成膜装置。
【請求項16】
前記ターゲットは、前記成膜対象物と対向するように前記チャンバに固定されており、
前記移動手段は、前記ターゲットを介して前記成膜対象物と対向するように配置された磁石を移動させることにより、前記スパッタリング領域を移動させる
ことを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項17】
成膜対象物およびターゲットが内部に配置され、複数の排気口が設けられたチャンバを用いた成膜方法であって、
前記ターゲットからスパッタ粒子を発生させるスパッタリング領域を前記チャンバ内で
移動させつつ、前記スパッタ粒子を前記成膜対象物に堆積させて成膜する工程と、
前記複数の排気口それぞれからの排気量を調整する工程と、
を含み、
前記調整する工程では、前記成膜が行われる間、前記スパッタリング領域が移動するいずれの位置においても、前記スパッタリング領域の近傍におけるスパッタガスの圧力が所定の範囲に維持されるように、前記チャンバ内における前記スパッタリング領域の位置に応じて前記複数の排気口それぞれからの排気量を調整する
ことを特徴とする成膜方法。
【請求項18】
電子デバイスの製造方法であって、
成膜対象物と、前記成膜対象物に対向するようなターゲットを、複数の排気口が設けられたチャンバ内に配置する工程と、
前記ターゲットからスパッタ粒子を発生させるスパッタリング領域を前記チャンバ内で移動させつつ、前記スパッタ粒子を前記成膜対象物に堆積させて成膜する工程と、
前記複数の排気口それぞれからの排気量を調整する工程と、
を含み、
前記調整する工程では、前記成膜が行われる間、前記スパッタリング領域が移動するいずれの位置においても、前記スパッタリング領域の近傍におけるスパッタガスの圧力が所定の範囲に維持されるように、前記チャンバ内における前記スパッタリング領域の位置に応じて前記複数の排気口それぞれからの排気量を調整する
ことを特徴とする電子デバイスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置、成膜方法、および電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板や基板上に形成された積層体などの成膜対象物に、金属や金属酸化物などの材料からなる薄膜を形成する方法として、スパッタ法が広く知られている。スパッタ法によって成膜を行う成膜装置は、真空チャンバ内において、成膜材料からなるターゲットと成膜対象物とを対向させて配置した構成を有している。ターゲットに電圧を印加するとターゲットの近傍にプラズマが発生し、電離した不活性ガス元素がターゲット表面に衝突することでターゲット表面からスパッタ粒子が放出され、放出されたスパッタ粒子が成膜対象物に堆積して成膜される。また、ターゲットの背面(円筒形のターゲットの場合にはターゲットの内側)にマグネットを配置し、発生する磁場によってカソード近傍の電子密度を高くして効率的にスパッタする、マグネトロンスパッタ法も知られている。
【0003】
従来のこの種の成膜装置としては、たとえば、特許文献1に記載のようなものが知られている。特許文献1の成膜装置は、ターゲットを成膜対象物の成膜面に対して平行移動させて成膜する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-172240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、成膜装置のチャンバ内の位置によってガス圧力が異なる場合がある。すなわち、スパッタガスを導入するガス導入口の付近では圧力が高く、真空ポンプに接続される排気口の付近では圧力が低い、というように、チャンバ内の圧力分布が不均一となる場合がある。ここで、特許文献1のようにチャンバ内でカソードを移動させながらスパッタリングを行うと、ターゲットの表面からスパッタ粒子が放出されるスパッタリング領域もチャンバに対して移動する。そのため、圧力分布が不均一な条件下では、スパッタリング領域の周辺の圧力がスパッタリングプロセスの間に変化する。スパッタ粒子の平均自由行程は圧力に反比例し、分子密度が低く圧力が低い領域では長く、分子密度が高く圧力が高い領域では短いため、圧力が異なると成膜レートが変化してしまう。その結果、成膜の品質低下(例えば膜厚や膜質のムラなど)が生じるおそれがある。しかし、特許文献1には、チャンバ内のスパッタガスの圧力の違いに応じた成膜制御についての記載はない。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、チャンバ内においてスパッタリング領域を移動させながらスパッタリングを行う場合に、ガス圧力の不均一に起因するスパッタリングの品質低下を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、
成膜対象物およびターゲットが内部に配置されるチャンバと、
前記ターゲットからスパッタ粒子を発生させるスパッタリング領域を前記チャンバ内で移動させる移動手段と、
前記チャンバに設けられた複数の排気口と、
前記複数の排気口それぞれからの排気量を調整する排気量調整手段と、
を有し、
前記移動手段によって前記スパッタリング領域を移動させつつ前記スパッタ粒子を前記成膜対象物に堆積させて成膜する成膜装置であって、
前記排気量調整手段は、前記成膜が行われる間、前記移動手段によって前記スパッタリング領域が移動するいずれの位置においても、前記スパッタリング領域の近傍におけるスパッタガスの圧力が所定の範囲に維持されるように、前記チャンバ内における前記スパッタリング領域の位置に応じて前記複数の排気口それぞれからの排気量を調整する
ことを特徴とする成膜装置である。


【0009】
本発明は、また以下の構成を採用する。すなわち、
成膜対象物およびターゲットが内部に配置され、複数の排気口が設けられたチャンバを用いた成膜方法であって、
前記ターゲットからスパッタ粒子を発生させるスパッタリング領域を前記チャンバ内で移動させつつ、前記スパッタ粒子を前記成膜対象物に堆積させて成膜する工程と、
前記複数の排気口それぞれからの排気量を調整する工程と、
を含み、
前記調整する工程では、前記成膜が行われる間、前記スパッタリング領域が移動するいずれの位置においても、前記スパッタリング領域の近傍におけるスパッタガスの圧力が所定の範囲に維持されるように、前記チャンバ内における前記スパッタリング領域の位置に応じて前記複数の排気口それぞれからの排気量を調整する
ことを特徴とする成膜方法である。


【0010】
本発明は、また以下の構成を採用する。すなわち、
電子デバイスの製造方法であって、
成膜対象物と、前記成膜対象物に対向するようなターゲットを、複数の排気口が設けられたチャンバ内に配置する工程と、
前記ターゲットからスパッタ粒子を発生させるスパッタリング領域を前記チャンバ内で移動させつつ、前記スパッタ粒子を前記成膜対象物に堆積させて成膜する工程と、
前記複数の排気口それぞれからの排気量を調整する工程と、
を含み、
前記調整する工程では、前記成膜が行われる間、前記スパッタリング領域が移動するいずれの位置においても、前記スパッタリング領域の近傍におけるスパッタガスの圧力が所定の範囲に維持されるように、前記チャンバ内における前記スパッタリング領域の位置に応じて前記複数の排気口それぞれからの排気量を調整する
ことを特徴とする電子デバイスの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、チャンバ内においてスパッタリング領域を移動させながらスパッタリングを行う場合に、ガス圧力の不均一に起因するスパッタリングの品質低下を抑制するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1の成膜装置の構成を示す模式図。
図2】(A)は実施形態1の成膜装置を別の角度から見た図、(B)はマグネットユニットの構成を示す斜視図。
図3】実施形態1のバルブの開度制御を説明するチャート。
図4】実施形態2の成膜装置の構成を示す模式図。
図5】実施形態2の制御を示すフローチャート。
図6】実施形態3の成膜装置の構成を示す模式図。
図7】実施形態4の成膜装置の構成を示す模式図。
図8】実施形態6の成膜装置の構成を示す模式図。
図9】実施形態7の成膜装置の構成を示す模式図。
図10】実施形態7の磁石ユニットの構成を示す模式図。
図11】実施形態8の成膜装置の構成を示す模式図。
図12】有機EL素子の一般的な層構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、以下の実施形態は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲はそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成およびソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0014】
本発明は、基板等の成膜対象物に薄膜、特に無機膜を形成するために好適である。本発明は、成膜装置およびその制御方法、成膜方法としても捉えられる。本発明はまた、電子デバイスの製造装置や電子デバイスの製造方法としても捉えられる。本発明はまた、制御方法をコンピュータに実行させるプログラムや、当該プログラムを格納した記憶媒体としても捉えられる。記憶媒体は、コンピュータにより読み取り可能な非一時的な記憶媒体であってもよい。
【0015】
[実施形態1]
図面を参照して、実施形態1の成膜装置1の基本的な構成について説明する。成膜装置1は、半導体デバイス、磁気デバイス、電子部品などの各種電子デバイスや、光学部品などの製造において基板(基板上に積層体が形成されているものも含む)上に薄膜を堆積形成するために用いられる。より具体的には、成膜装置1は、発光素子や光電変換素子、タッチパネルなどの電子デバイスの製造において好ましく用いられる。中でも、本実施形態に係る成膜装置1は、有機EL(ErectroLuminescence)素子などの有機発光素子や、有機薄膜太陽電池などの有機光電変換素子の製造において特に好ましく用いられる。本発明における電子デバイスは、発光素子を備えた表示装置(例えば有機EL表示装置)や照明装置(例えば有機EL照明装置)、光電変換素子を備えたセンサ(例えば有機CMOSイメージセンサ)も含むものである。
【0016】
図12は、有機EL素子の一般的な層構成を模式的に示している。図12に示す一般的な有機EL素子は、基板(成膜対象物6)に陽極601、正孔注入層602、正孔輸送層603、有機発光層604、電子輸送層605、電子注入層606、陰極607がこの順番に成膜された構成である。本実施形態に係る成膜装置1は、有機膜上に、スパッタリングによって、電子注入層や電極(陰極)に用いられる金属や金属酸化物等の積層被膜を成膜する際に好適に用いられる。また、有機膜上への成膜に限定されず、金属材料や酸化物材料等のスパッタで成膜可能な材料の組み合わせであれば、多様な面に積層成膜が可能である。さらに、本発明は金属材料や酸化物材料による成膜に限定されず、有機材料による成膜にも適用可能である。成膜の際に所望のマスクパターンを有するマスクを用いることにより、成膜される各層を任意に構成できる。
【0017】
図1は、本実施形態の成膜装置1の構成を示す模式図である。成膜装置1は、基板等の成膜対象物6を内部に収容可能である。成膜装置1は、ターゲット2が内部に配置される
チャンバ10と、チャンバ10内の、ターゲット2を介して成膜対象物6と対向する位置に配置される磁石ユニット3と、を有している。この実施形態では、ターゲット2は円筒形状であり、内部に配置される磁石ユニット3と共に、成膜源として機能する回転カソードユニット8を構成している。なお、ここで言う「円筒形」とは、数学的に厳密な円筒形のみを意味するのではなく、母線が直線ではなく曲線であるものや、中心軸に垂直な断面が数学的に厳密な「円」ではないものも含む。すなわち、本発明におけるターゲット2は、中心軸を軸に回転可能な略円筒形状であればよい。
【0018】
成膜が行われる前に、成膜対象物6がマスク6bとアライメントされホルダ6aにより保持される。ホルダ6aは、成膜対象物6を静電気力によって吸着保持するための静電チャックを備えていてもよく、成膜対象物6を挟持するクランプ機構を備えていてもよい。また、ホルダ6aは、成膜対象物6の背面からマスク6bを引き寄せるためのマグネット板を備えていてもよい。成膜工程においては、回転カソードユニット8のターゲット2が、その回転中心軸を中心に回転しながら、回転中心軸に対して直交方向に移動する。一方、磁石ユニット3は、ターゲット2と異なり回転せず、常にターゲット2の成膜対象物6と対向する表面側に漏洩磁場を生成し、ターゲット2の近傍の電子密度を高くしてスパッタする。この漏洩磁場が生成される領域が、スパッタ粒子が発生するスパッタリング領域A1である。ターゲット2のスパッタリング領域A1が、回転カソードユニット8の移動と共にチャンバ10に対して移動することで、成膜対象物6の全体に順次成膜が行われる。ここでは磁石ユニット3は回転しないものとしたが、これに限定はされず、磁石ユニット3も回転または揺動してもよい。
【0019】
ホルダ6aに保持された成膜対象物6は、チャンバ10の天井壁10d側に水平に配置されている。成膜対象物6は、例えば、チャンバ10の側壁に設けられた一方のゲートバルブ17から搬入されて成膜され、成膜後、チャンバ10の他方の側壁に設けられたゲートバルブ18から搬出される。図では、成膜対象物6の成膜面が重力方向下方を向いた状態で成膜が行われるデポアップの構成を示している。しかし、成膜対象物6がチャンバ10の底面側に配置されてその上方に回転カソードユニット8が配置され、成膜対象物6の成膜面が重力方向上方を向いた状態で成膜が行われるデポダウンの構成であってもよい。あるいは、成膜対象物6が垂直に立てられた状態(すなわち、成膜対象物6の成膜面が重力方向と平行な状態)で成膜が行われる構成であってもよい。また、成膜対象物6は、ゲートバルブ17および18のいずれか一方からチャンバ10に搬入されて成膜され、成膜後、搬入の際に通過したゲートバルブから搬出されてもよい。
【0020】
本実施形態では、チャンバ10のX軸方向の両端部にガス導入手段16(後述)と接続される導入口41,42が配置され、中央部に排気手段15(後述)と接続される排気口5が配置されている。チャンバ内の低い位置には、X軸方向に延伸する案内レール250が配置されている。回転カソードユニット8は、案内レール250に沿って、X軸方向の一端部(導入口41に近い側)と他端部(導入口42に近い側)との間を移動する。
図2(A)は、成膜装置1を別の方向から見た側面図である。回転カソードユニット8は、両端が移動台230上に固定されたサポートブロック210とエンドブロック220によって支持されている。回転カソードユニット8の円筒形状のターゲット2は回転可能であり、その内部の磁石ユニット3は固定状態で支持されている。
【0021】
移動台230は、リニアベアリング等の搬送ガイド240を介して、一対の案内レール250に沿って移動可能に支持されている。回転カソードユニット8の回転軸Nは、Y軸方向に延びた状態である。成膜工程では、回転カソードユニット8は、回転軸Nを中心に回転しながら、成膜対象物6に対向する移動領域内を案内レール250に沿って移動する(図1の白抜き矢印)。本実施形態の移動領域は、一辺が回転カソードユニット8の幅に略等しく、当該一辺と交差する他辺が案内レール250の長さと略等しい、略平面形状を
なす。
【0022】
ターゲット2は、回転手段であるターゲット駆動装置11によって回転駆動される。ターゲット駆動装置11としては、モータ等の駆動源を有し、動力伝達機構を介してターゲット2に動力を伝達する一般的な駆動機構を利用できる。ターゲット駆動装置11は、サポートブロック210またはエンドブロック220に搭載されていてもよい。
【0023】
移動台230は、移動台駆動装置12によって案内レール250に沿って駆動される。移動台駆動装置12としては、回転モータの回転運動を駆動力に変換するボールねじ等を用いたねじ送り機構、リニアモータ等、公知の種々の運動機構を使用できる。図示例の移動台駆動装置12は、ターゲットの長手方向(Y軸方向)と交差する短手方向(X軸方向)にターゲットを移動させる。図示したように、移動台230のターゲット移動方向の前後に防着板261,262を設けてもよい。移動台駆動装置12を移動手段だと考えてもよいし、移動台駆動装置12,案内レール250および移動台230が移動手段に含まれると考えてもよい。制御部14は、回転カソードユニット8のチャンバ内における位置、移動方向、および移動速度に関する情報を、エンコーダ等によって検出することができる。
【0024】
ターゲット2は、成膜対象物6に成膜を行う成膜材料の供給源として機能する。ターゲット2の材質として例えば、Cu、Al、Ti、Mo、Cr、Ag、Au、Niなどの金属単体、あるいは、それらの金属元素を含む合金または化合物が挙げられる。あるいは、ITO、IZO、IWO、AZO、GZO、IGZOなどの透明導電酸化物であってもよい。これらの成膜材料が形成された層の内側には、別の材料からなるバッキングチューブ2aの層が形成されている。バッキングチューブ2aには、ターゲットホルダ(不図示)を介して電源13が接続される。このとき、ターゲットホルダ(不図示)およびバッキングチューブ2aは、電源13から印加されるバイアス電圧(例えば、負電圧)をターゲット2に印加するカソードとして機能する。ただし、バッキングチューブを設けずに、バイアス電圧をターゲットそのものに印加してもよい。なお、チャンバ10は接地されている。
【0025】
磁石ユニット3は、成膜対象物6に向かう方向に磁場を形成する。図2(B)に示すように、磁石ユニット3は、回転カソードユニット8の回転軸と平行方向に延びる中心磁石31と、中心磁石31を取り囲む中心磁石31とは異極の周辺磁石32と、ヨーク板33とを備えている。なお、中心磁石31は、カソードユニット8の移動方向と交差する方向に延びているということもできる。周辺磁石32は、中心磁石31と平行に延びる一対の直線部32a,32bと、直線部32a,32bの両端を連結する転回部32c、32dとによって構成されている。磁石ユニット3によって形成される磁場は、中心磁石31の磁極から、周辺磁石32の直線部32a,32bへ向けてループ状に戻る磁力線を有している。これにより、ターゲット2の表面近傍には、ターゲット2の長手方向に延びたトロイダル型の磁場のトンネルが形成される。この磁場によって電子が捕捉され、ターゲット2の表面近傍にプラズマが集中し、スパッタリングの効率が高められる。磁石ユニットの磁場が漏れるターゲット2の表面の領域が、スパッタ粒子が発生するスパッタリング領域A1である。スパッタリング領域A1の近傍のガス圧力が粒子の飛翔距離に影響する。なお、スパッタリング領域A1の近傍の範囲は、必ずしも距離によって限定されるものではなく、求められる成膜の精度に与える影響に応じて適宜規定される。
【0026】
チャンバ10には、ガス導入手段16および排気手段15が接続されている。ガス導入手段16および排気手段15がスパッタガスの導入や排気を行うことで、チャンバ内部の圧力が維持される。スパッタガスは、例えば、アルゴンその他の希ガス等の不活性ガスや、酸素や窒素や水(水蒸気)等の反応性ガスである。本実施形態のガス導入手段16は、
チャンバ10の両側部に設けられた導入口41,42を通じてスパッタガスを導入する。また、真空ポンプ等の排気手段15は、排気口5(本図では4つの排気口5a~5d)を通じてチャンバ10の内部から外部へ排気を行う。
【0027】
ガス導入手段16は、ガスボンベ等の供給源と、供給源と導入口41,42を接続する配管系と、配管系に設けられる各種真空バルブ、マスフローコントローラ等から構成されている。ガス導入手段16は、マスフローコントローラの流量制御弁によって、ガス導入量を調整可能となっている。流量制御弁は、電磁弁等の、電気的に制御可能な構成となっている。導入口41,42を配置する位置は、チャンバの両側壁に限定されず、一方の側壁でもよいし、底壁や天井壁でもよい。また、配管がチャンバ内に延びて、導入口がチャンバ10内に開口していてもよい。また、各側壁の導入口41,42がそれぞれ、ターゲット2の長手方向(Y軸方向)に複数配置されてもよい。
【0028】
本実施形態の排気手段15は真空ポンプである。また、排気手段15に、真空ポンプと排気口5a~5dを接続する配管系を含んでもよい。排気手段15は、バルブ55a~55dと配管系とを介して、排気口5a~5dに接続される。バルブ55a~55dは排気量を制御する流量制御手段であり、開度に応じて排気量が調整可能である。流量制御手段としては図示例のようなバルブが好適であり、制御部14による電気的な制御に応じて開度を変更することで排気速度を調整可能なコンダクタンスバルブが特に好ましい。複数の排気口5a~5dは、チャンバの底壁10cに略等間隔に設置される。なお、排気口の設置場所は底壁に限定されず、側壁でもよいし、天井壁でもよい。また、配管がチャンバ内に延びて、排気口がチャンバ10内に開口していてもよい。
【0029】
制御部14は、複数の排気口5a~5dそれぞれの位置情報と、各排気口に対応するバルブ55a~55dに関する情報をメモリ等に記憶している。そして、チャンバ内部の位置に応じて異なる排気制御を行うことができる。具体的には例えば、複数の排気口それぞれの排気能力を、排気口に対応するバルブの開度を調整するなどして制御できる。制御部14としては、CPUやメモリ等の演算資源を備え、プログラムやユーザの指令に従って動作する制御回路や情報処理装置を利用できる。制御部14が、本発明において各排気口からの排気量を調整する排気量調整手段だと考えてもよい。
【0030】
成膜装置1の動作について説明する。成膜工程(スパッタ工程)では、制御部14がターゲット駆動装置11を駆動させてターゲット2を回転させ、電源13からバイアス電圧を印加する。バイアス電位が印加されると、磁石ユニット3によって、成膜対象物6に対向するターゲット2の表面近傍にプラズマが集中して生成され、プラズマ中の陽イオン状態のガスイオンがターゲット2をスパッタし、飛散したスパッタ粒子が成膜対象物6に堆積する。
制御部14はまた、移動台駆動装置12を駆動させて、回転カソードユニット8を移動領域の始端から終端まで、所定の速度で移動させる。回転カソードユニット8が移動領域内を移動するのに伴って、成膜対象物上に、移動方向の上流側から下流側に向けて順次、スパッタ粒子が堆積する。
【0031】
図3は、本実施形態においてターゲットを移動させながら成膜を行う際の、排気手段15の制御の様子を示すタイミングチャートである。図示例では、回転カソードユニット8は紙面で左から右に向かって移動する。符号(5)で示すターゲット位置xは、チャンバ内部での、回転カソードユニット8が備えるターゲット2のx軸方向での位置を示す。図中、左端の移動開始時(成膜開始時)の座標をx1、図中右端の移動終了時(成膜終了時)の座標をx9とする。符号(1)~符号(4)は、それぞれ、バルブ55a~バルブ55dの開度の推移のチャートであり、ターゲット位置xとバルブ開度との関係を示す。すなわち、図は、ターゲットと排気口の位置関係(特に距離)に応じて定まるバルブ開度を
示している。
【0032】
説明を簡易にするため、回転カソードユニット8の移動は等速直線運動とする。よって本タイミングチャートにおけるターゲット位置xは、成膜開始後の経過時間tに相当する。ただし、回転カソードユニット8の移動が等速直線運動ではない場合でも、本実施形態のようなターゲット位置に応じた排気制御は実行できる。
【0033】
制御部14は、ターゲット2が配置された回転カソードユニット8の現在位置、移動方向および移動速度に関する情報を、エンコーダ等を用いて取得する。そして、ターゲット近傍の排気口に対応するバルブと、ターゲット2がこれから進む先にある排気口に対応するバルブの開度をb1%とするような制御を行う。例えば、位置x1にあるターゲット2が右方向に進み、位置x2まで到達したとき、制御部14は、移動方向の先にある排気口5bに対応するバルブ55bの開度を大きくし始める。その結果、ターゲット2が排気口5bの影響を強く受ける領域(位置x3~位置x5の間の領域)に進入したとき、当該領域での排気量が大きな状態となっている。
【0034】
なお、バルブ開度0%とはバルブが閉鎖されて、当該バルブに対応する排気口からの排気が行われない状態である。またバルブ開度100%とは、バルブの開口が構造上許容される最大限度まで拡大している状態であり、対応する排気口からの排気量が最大となる。設定される開度b1%は、ターゲットの近傍がスパッタリングに好適なガス圧力となるような開度である。開度b1%は例えば、排気能力が最大排気能力の40~50%となるような開度とする。ただしこの範囲には限定されず、ガスの種類(不活性ガスか反応性ガスか等)や、要求される成膜の仕様に応じて好適な開度を適宜設定すればよい。
【0035】
図示例では、制御部14は、ターゲット2がある排気口に接近してくるのに応じて、その排気口に対応するバルブの開度を徐々に大きくし、ターゲット2が当該排気口の影響を強く受ける領域に進入した時点では好適な排気量となるように制御を行っている。また、ターゲット2がある排気口から遠ざかるのに応じて、その排気口に対応するバルブの開度を徐々に小さくすることで、ターゲット2が当該排気口の影響をあまり受けない領域に移動したときには、当該排気口の排気量が小さくなる(あるいはゼロになる)ようにしている。このような開度制御によれば、導入口41,42から、ターゲット近傍の排気口へのガスの流れを形成することができる。
【0036】
しかし、開度制御の方法はこれに限定されない。例えば、バルブを徐々に開閉するのではなく、素早く開閉するようにしてもよい。また、ターゲットから遠く、スパッタリング領域への影響が小さい排気口においても、排気を行っていて構わない。その際のバルブ開度をb1%としても良いし、その他の値(例えば、0%とb1%の間の値)としてもよい。
【0037】
本実施形態では、ターゲット位置xに応じた各バルブ55a~55dのバルブ開度の関係が、予め、制御プロファイルとして保存されている。このような制御プロファイルは、予め、排気手段15の能力や流量制御値、ガス導入手段16の能力や流量制御値、排気口と導入口の位置関係、および、要求されるスパッタリングの性能などに基づいて決定され、メモリ中にテーブルや数式などの形で保存されている。
【0038】
そして制御部14は、エンコーダ等のターゲット位置取得手段を用いてターゲット位置xを取得し、制御プロファイルを参照して各バルブ55a~55dの開度を決定したのち、各バルブに開度の制御信号を送信する。このようにして、制御部14は、チャンバ内のスパッタリング領域A1の位置に応じて、複数の排気口5a~5dそれぞれからの排気量を調整する。例えば図示例では、制御部14は、何れかの排気口にターゲット2が近づく
と、当該排気口に接続されたバルブ55の開度を大きくする。そして、当該排気口からターゲット2が遠ざかると、当該排気口に接続されたバルブ55の開度を小さくする。その結果、ターゲットに近いバルブ55ほど開度が増して、対応する排気口5の排気能力が高まる。
【0039】
図示例の制御によれば、ターゲット近傍の排気口に対応するバルブ開度はb1%となるため、排気口の排気能力もその開度に応じた数値になる。その結果、ターゲット2がチャンバ内のどの位置にあるときでも、ターゲット近傍では同程度の排気能力で排気が実行されるため、スパッタリング領域A1付近のガス圧力が、成膜工程全体を通して均一になる。したがって、成膜対象物6に生成される膜の膜厚や膜質のむらを低減し、スパッタリングの品質低下を抑制することができる。
【0040】
なお、上述したように、ターゲット2が近くにある排気口のバルブ開度をターゲット2が遠くにある排気口のバルブ開度よりも大きくすることによって、チャンバ内部において、導入口41,42からターゲットに近い排気口へと向かうガスの流れが形成される。その結果、スパッタリング領域A1の近くに多くのガスが送られるため、成膜レートを向上させられるという、さらなる効果が得られる。
【0041】
[実施形態2]
次に、本発明の実施形態2について説明する。以下、実施形態1との相違点を中心として説明を行い、同一の構成要素については同一の符号を付して説明を簡略化する。
【0042】
図4は、本実施形態の成膜装置1の構成を示す模式図である。図1との相違点は、回転カソードユニット8に圧力取得手段として圧力センサ71,72が配置されている点である。圧力センサ71,72は、回転カソードユニット8の近傍の圧力値を取得し、制御部14に送信する装置である。圧力センサ7としては、キャパシタンスマノメータ等の隔膜真空計、ピラニ真空計や熱電対真空計等の熱伝導式真空計、水晶摩擦真空計等の各種真空計が利用可能である。
【0043】
図示例では、スパッタリング領域近傍の圧力を測定するために、圧力センサを防着板261,262に設置している。この構成であれば、複数の圧力センサのうち移動方向の側にある圧力センサを選択して、これからターゲットが向かう、移動方向の前方の領域の圧力を測定できる。ただし、圧力センサの数や設置場所はこれに限定されない。例えば、圧力センサを回転カソードユニットの他の位置や、移動台230に設置してもよい。
【0044】
図5は、本実施形態のバルブ開度制御を説明するフローチャートである。成膜処理開始後、ステップS101において、制御部14はエンコーダを用いてターゲット位置xを取得する。ステップS102において、制御部14は開度を制御する対象となるバルブをバルブ55a~55dから選択する。制御部14は、ターゲット2の移動方向と移動速度に基づき、ターゲット2の移動方向前方にある排気口に対応するバルブを選択する。例えばターゲット2が図中で左から右に進行し、図4で示す位置まで到達した場合、制御部14は、移動方向の前方にある排気口5dに対応するバルブ55dを選択する。
なお、選択するバルブの位置は上記に限定されない。例えば、ターゲット2の移動方向前方にある排気口に対応するバルブの代わりに、あるいは、ターゲット2の移動方向前方にある排気口に対応するバルブと共に、ターゲット2の現在位置に近い排気口に対応するバルブを選択してもよい。あるいは、本ステップの処理を行わずに、常に全てのバルブの開度をターゲットとの位置関係(特に距離)に応じて0%~100%の間で決定してもよい。
【0045】
ステップS103において圧力センサ71,72が圧力値を取得し、ステップS104
において制御部14がバルブ制御値を決定する。例えば、ターゲット2がこれから進入する領域の圧力値がスパッタリングに好適な値よりも高かった場合、選択したバルブの開度を大きくして当該領域の圧力を低くする。また、現在の圧力値がスパッタリングに好適な範囲内であれば、現在の開度を維持する。続いてステップS105で成膜対象物6の成膜が完了したか否かが判定され、完了していなければステップ106に進み、案内レール250上での移動および成膜が継続される。本フローの処理により、チャンバ内でのスパッタリング領域の位置に応じて、複数の排気口からの排気量が適切に制御される。
【0046】
本実施形態では、回転カソードユニットと共に移動する圧力センサ7によりターゲット近傍の圧力値が測定され、排気口5a~5dそれぞれからの排気量が制御される。よって、ターゲット2から放出されたのち成膜対象物6まで到達して堆積するスパッタ粒子の量を略均一にすることができるので、成膜時の膜厚や膜質のむらを低減し、スパッタリングの品質低下を抑制することができる。
また本実施形態でも、上記実施形態と同様に、ターゲットに近い排気口の排気能力を向上させ、ターゲットから遠い排気口の排気能力を低下させる又はゼロにすることができる。その結果、導入口からターゲット近傍へのガスの流れを形成して良好な成膜を行うことができる。
【0047】
[実施形態3]
次に、本発明の実施形態3について説明する。上記各実施形態との相違点を中心として説明を行い、同一の構成要素については同一の符号を付して説明を簡略化する。
【0048】
図6は、本実施形態の成膜装置1の構成を示す模式図である。本実施形態では、チャンバ内部に、圧力取得手段として複数の圧力センサ73~77が、スパッタリング領域A1の移動方向(X軸と平行方向)に沿って配置されている。複数の圧力センサ73~77は、スパッタリング領域A1と略同一の高さに配置され、移動方向に直線的に一定間隔で一列に配置されている。なお、圧力センサの数や配置場所はこれに限られない。例えば手前側の側壁(前壁)10eに配置してもよい。また、前壁と後壁の両方に圧力センサを配置してもよい。その場合、前壁側と後壁側のセンサの測定値の平均値をバルブ開度制御に利用してもよい。
【0049】
図示例では、各圧力センサをスパッタリング領域A1と略同一の高さに配置している。しかし、圧力センサをスパッタリング領域A1よりも成膜対象物寄りの高さに配置してもよいし、スパッタリング領域A1を挟んで成膜対象物とは反対側の高さに配置してもよい。また、圧力センサを複数の高さに配置してもよい。また、圧力センサ同士の間隔を一定に限る必要はなく、排気口や導入口の位置から推定されるチャンバ内の圧力分布に応じて間隔を変化させてもよい。例えば、圧力変化が大きい領域の圧力センサの間隔を狭く、圧力変化が小さい領域の圧力センサの間隔を広くする等、適宜設定することができる。
【0050】
制御部14は、チャンバ内での回転カソードユニット8の位置、移動方向、および移動速度に関する情報を、エンコーダによって検出する。また制御部14は、複数の圧力センサ73~77それぞれの位置情報と、複数の排気口5a~5dそれぞれの位置情報をメモリ等に記憶している。そして制御部14は、ターゲット2の移動方向と移動速度に基づき、ターゲット2の移動方向前方にある圧力センサと、移動方向前方にある排気口に対応するバルブを選択する。例えばターゲット2が図中で左から右に進行し、図6で示す位置まで到達した場合、制御部14は、移動方向の前方にある圧力センサ77と、同じく移動方向前方にある排気口5dに対応するバルブ55dを選択する。
そして、圧力センサ77の測定値が好適なスパッタリングが行われる範囲から外れている場合、バルブ55dの開度を調整して排気口5dからの排気量を変化させる。このようにすれば、移動方向の前方の領域の圧力を、予め、スパッタリングに好適な目標値に近い
値に調整することができる。
【0051】
なお、選択するバルブの位置は上記に限定されない。例えば、ターゲット2の移動方向前方にある圧力センサおよびバルブの代わりに、あるいは、ターゲット2の移動方向前方にある圧力センサおよびバルブと共に、ターゲット2の現在位置に近い圧力センサおよびバルブを選択してもよい。あるいは制御部14は、常に全ての圧力センサの測定値を取得して、ターゲット位置との関係に基づく補正を行って圧力値を取得するとともに、常に全てのバルブの開度をターゲットとの距離に応じて0%~100%の間で決定してもよい。
【0052】
本実施形態では、チャンバに配置された複数の圧力センサを用いることによりターゲット近傍の圧力値が測定され、排気口55a~55dそれぞれからの排気量が制御される。よって、ターゲット2から放出されたのち成膜対象物6まで到達して堆積するスパッタ粒子の量を略均一にすることができるので、成膜時の膜厚や膜質のむらを低減し、スパッタリングの品質低下を抑制することができる。
また本実施形態でも、上記実施形態と同様に、ターゲットに近い排気口の排気能力を向上させ、ターゲットから遠い排気口の排気能力を低下させる又はゼロにすることができる。その場合、導入口からターゲット近傍へのガスの流れを形成して良好な成膜を行うというさらなる効果が得られる。
【0053】
[実施形態4]
次に、本発明の実施形態4について説明する。上記各実施形態との相違点を中心として説明を行い、同一の構成要素については同一の符号を付して説明を簡略化する。
【0054】
図7は、本実施形態の成膜装置1の構成を示す模式図である。図面の煩雑化を避けるために、ターゲット駆動装置11、移動台駆動装置12および電源13は省略している。成膜装置1は、複数のポンプ(排気手段15a~15d)を備えており、排気手段15a~15dはそれぞれ排気口5a~5dからの排気を行う。制御部14は、バルブ55a~55dの開度を制御することにより、対応する排気口5a~5dそれぞれの排気能力を調整する。
なお、図7では一つの排気口に対して一つのポンプをそれぞれ接続しているが、複数の排気口をグループ化しておき、一つのグループに対して一つのポンプをそれぞれ接続するようにしても構わない。例えば、排気口5aおよび5bに排気手段15aを接続し、排気口5cおよび5dに排気手段15cを接続するようにしてもよい。その場合、排気口5aと排気手段15aとの間と、排気口5bと排気手段15aとの間とに、バルブをそれぞれ設けるようにしてもよいし、排気口5aおよび5bと排気手段との間に、2つの排気口に共通に接続されるバルブを設けてもよい。
【0055】
このような構成の成膜装置1によっても、上記各実施形態と同様に、予め定められた開度制御プロファイルにしたがって、または、回転カソードユニット8あるいはチャンバ10の内壁に配置された圧力センサの測定値に基づいて、各排気口5a~5dからの排気量を調整することにより、スパッタリング領域A1近傍のガス圧力を適正な所定の範囲に維持し、好適なスパッタリングを行うことが可能である。
【0056】
[実施形態5]
次に、本発明の実施形態5について説明する。本実施形態での制御部14は、排気手段15のポンプの排気能力を調整することが可能である。例えば排気手段15がクライオポンプの場合、クライオ面の温度を低下させることで排気量を増大させて、ガス圧力を低下させる。また排気手段15がターボ分子ポンプの場合、タービン翼の回転速度を上昇させることで排気量を増大させて、ガス圧力を低下させる。その他、真空ポンプの方式に応じて制御部が適切な制御を行うことで、排気口ごとの排気量制御が可能になる。
【0057】
図4の成膜装置1に本実施形態の制御を適用した場合について説明すると、制御部14は、圧力センサ71,72のうちターゲットの移動方向の前方にあるセンサの測定値と、好適なスパッタリングが行われる圧力の範囲を比較し、測定値が好適な範囲から外れている場合には、排気手段15の出力を調整してガス圧力を適正な値にする。本実施形態の制御方法によれば、各排気口の排気量の個別制御はできないものの、ターゲットが移動していても、スパッタリング領域近傍のガス圧力を好適な範囲に維持することができる。
【0058】
なお、本実施形態のようなポンプ出力制御と、上記各実施形態のような排気口ごとのバルブ開度制御を組み合わせてもよい。これにより、ガス圧力をより細かく制御できる。
【0059】
[実施形態6]
次に、本発明の実施形態6について説明する。上記各実施形態との相違点を中心として説明を行い、同一の構成要素については同一の符号を付して説明を簡略化する。
【0060】
図8は、本実施形態の成膜装置1の構成を示す模式図である。図面の煩雑化を避けるために、ターゲット駆動装置11、移動台駆動装置12および電源13は省略している。本実施形態の成膜装置1は、実施形態4と同様に、排気口5a~5dにそれぞれ対応する複数のポンプ(排気手段15a~15d)を備えている。本実施形態では、各排気口からの排気量の調整を、バルブの開度ではなく、排気手段15a~15dの出力調整によって実施する。
【0061】
このような構成の成膜装置1によっても、上記各実施形態と同様に、予め定められた開度制御プロファイルにしたがって、または、回転カソードユニット8あるいはチャンバ10の内壁に配置された圧力センサの測定値に基づいて、各排気口からの排気量を調整することにより、スパッタリング領域A1近傍のガス圧力を適正な範囲に維持し、好適なスパッタリングを行うことが可能である。
【0062】
[実施形態7]
次に、本発明の実施形態7について説明する。上記各実施形態との相違点を中心として説明を行い、同一の構成要素については同一の符号を付して説明を簡略化する。
【0063】
図9は、本実施形態の成膜装置1の構成を示す模式図である。本実施形態では、円筒状のターゲットを使用した回転カソードユニットではなく、平板形状のターゲット302を使用したプレーナカソードユニット308が用いられている。プレーナカソードユニット308は、成膜対象物と平行に配置されたターゲット302を有する。ターゲット302を挟んで成膜対象物6とは反対側の面には、電源13から電力が印加されるバッキングプレート302aが設けられている。また、ターゲット302およびバッキングプレート302aを挟んで成膜対象物6と反対側には、磁場発生手段である磁石ユニット3が配置されている。バッキングプレート302aに電力が印加されることで、スパッタリング領域A1にスパッタ粒子が発生する。プレーナカソードユニット308は、移動台230の上面に設置されている。
【0064】
成膜工程においては、プレーナカソードユニット308が、成膜対象物6の成膜面に対向する移動領域上を、案内レール250に沿って、ターゲット302の長手方向に対して直交方向(図中、X軸方向)に移動する。ターゲット302の成膜対象物6と対向する表面近傍が、磁石ユニット3によって生成される磁場によって電子密度を高くなるスパッタリング領域A1である。成膜工程においては、プレーナカソードユニット308の移動とともに、スパッタリング領域A1が成膜対象物6の成膜面に沿って移動し、成膜対象物6に順次成膜する。
【0065】
なお、図10(A)~図10(C)に示すように、プレーナカソードユニット308内において、磁石ユニット3が、ターゲット302に対して相対移動可能となっていてもよい。このようにすれば、スパッタリング領域A1をターゲット302に対して相対的にずらすことができ、ターゲット302の利用効率を高めることができる。
【0066】
本実施形態のようにプレーナカソードユニット308を用いる場合であっても、予め定められた開度制御プロファイルにしたがって、または、プレーナカソードユニット308あるいはチャンバ10の内壁に配置された圧力センサの測定値に基づいて、各排気口5a~5dからの排気量を調整することにより、スパッタリング領域A1近傍のガス圧力を適正な範囲に維持し、好適なスパッタリングを行うことが可能である。
また本実施形態でも、ターゲットに近い排気口の排気能力を向上させ、ターゲットから遠い排気口の排気能力を低下させる又はゼロにすることができる。その結果、導入口からターゲット近傍へのガスの流れを形成して良好な成膜を行うことができる。
【0067】
[実施形態8]
次に、本発明の実施形態8について説明する。上記各実施形態との相違点を中心として説明を行い、同一の構成要素については同一の符号を付して説明を簡略化する。
【0068】
図11は、本実施形態にかかる成膜装置1を示している。
上述した図10(A)~図10(C)においては、プレーナカソードユニット内の磁石ユニット3が、ターゲット302に対して相対移動可能となっていた。本実施形態では、平板形状のターゲット402がチャンバ10に固定されて設けられている。ターゲット402は、X軸方向およびY軸方向の両方において成膜対象物6の全面に対応するような大きさである。また、磁場発生手段としての磁石ユニット3が、チャンバ10に固定されたターゲット402に対して(すなわち、チャンバ10に対して)移動する。これに伴い、ターゲット402のターゲット粒子が放出されるスパッタリング領域A1も成膜対象物6に対して移動する。
【0069】
ターゲット402は、真空領域と大気圧領域の境界部分に配置され、磁石ユニット3はチャンバ10外の大気中に置かれる。すなわち、ターゲット402は、チャンバ10の底壁10cに設けられた開口部10c1を気密に塞ぐように配置される。ターゲット402はチャンバ10の内部空間に面し、成膜対象物6と対向している。ターゲット402の成膜対象物6とは反対側の面には、電源13から電力が印加されるバッキングプレート402aが設けられており、バッキングプレート402aは外部空間に面している。なお、ここではターゲット402が真空領域と大気圧領域の境界部分に配置されるものとしたが、これに限定はされず、ターゲット402と大気圧領域との間に別の部材を設けてもよく、ターゲット402をチャンバ10の底壁10cに配置してもよい。
【0070】
磁石ユニット3は、チャンバ10の外に配置され、圧力センサ7はチャンバ10内に配置される。磁石ユニット3は、磁石ユニット移動装置430に支持され、ターゲット402に沿ってX軸方向に移動可能となっている。磁石ユニット3は、マグネット駆動装置121が磁石ユニット移動装置430を駆動することによって駆動される。磁石ユニット移動装置430は、磁石ユニット3をX軸方向に直線案内する装置であり、特に図示しないが、磁石ユニット3を支持する移動台と移動台を案内するレール等のガイド等によって構成される。この磁石ユニット3の移動によって、スパッタリング領域A1がX軸方向に移動していく。
【0071】
圧力センサ7は、チャンバ10内に配置したセンサ移動装置に支持され、ターゲット402に沿って、X軸方向に移動可能となっている。センサ移動装置450についても、磁
石ユニット移動装置430と同様に、圧力センサ7を支持する移動台と移動台を案内するレール等のガイド等によって構成される。磁石ユニット3および圧力センサ7は制御部14によって制御されて移動し、制御部14は、圧力センサ7の測定値を随時取得する。
なお、図示例のように圧力センサ7を移動させながら圧力値を取得してバルブ開度を制御する方式以外にも、チャンバ内部の複数位置に配置された複数の圧力センサの測定値に基づいてバルブ開度を制御する方式や、予め定められた制御プロファイルにしたがってバルブ開度を制御する方式も利用できる。
【0072】
本実施形態では、チャンバ10の底壁10cにターゲット402が配置されるので、排気口5a~5dがチャンバ10の後壁10fに、略同一の高さで列状に設けられている。各排気口は、それぞれバルブ55a~55dを介して排気手段15に接続されている。なお、排気口の設置場所はこれに限られない。例えば後壁10fと前壁10eの両方に設置してもよい。また、導入口41,42の位置や数も図示例に限られない。制御部14は、磁石ユニット3の位置をエンコーダにより検出して、スパッタリング領域A1の位置を取得する。そして、上記各実施形態と同様に、スパッタリング領域A1の移動方向前方の排気口からの排気量を制御することで、圧力を調整する。
【0073】
本実施形態のように、磁石ユニット3が移動する方式の成膜装置においても、ターゲット近傍の排気口からの排気量が適切に制御できる。よって、ターゲット2から放出されたのち成膜対象物6まで到達して堆積するスパッタ粒子の量を略均一にできるので、成膜時の膜厚や膜質のむらを低減し、スパッタリングの品質低下を抑制することができる。
また本実施形態でも、スパッタリング領域A1に近い排気口の排気能力を向上させ、スパッタリング領域A1から遠い排気口の排気能力を低下させる又はゼロにすることができる。その結果、導入口からスパッタリング領域A1近傍へのガスの流れを形成して良好な成膜を行うことができる。
【0074】
[他の実施形態]
上記各実施形態では、回転カソードユニット8や、プレーナカソードユニット308、磁石ユニット3が1つの場合を示したが、これらのユニットがチャンバ内部に複数配置されていてもよい。例えば回転カソードユニット8が複数ある場合、それぞれの回転カソードユニットについて、ターゲット近傍やターゲットの移動方向前方の排気口の排気量を調整すればよい。
【0075】
上記各実施形態では、カソードの構成として回転カソードユニット、プレーナカソードユニット、および磁石ユニット移動装置を用いるカソードを示した。また排気口の排気量を制御する方法として、バルブ開度を調整する方法と、ポンプの出力を調整する方法を示した。また圧力センサを用いて随時測定した圧力値に基づく排気量制御と、予め決定された制御プロファイルに基づく排気量制御方法を示した。これらの構成要素の組合せは、矛盾を生じない限りにおいて互いに任意に組み合わせて構わない。
【符号の説明】
【0076】
1:成膜装置、2:ターゲット、6:成膜対象物、10:チャンバ、12:移動台駆動装置、A1:スパッタリング領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12