(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池の処理方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20230313BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
C22B7/00 C
H01M10/54
(21)【出願番号】P 2020008486
(22)【出願日】2020-01-22
(62)【分割の表示】P 2015083650の分割
【原出願日】2015-04-15
【審査請求日】2020-02-20
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開発報告書「平成26年度 リサイクル優先レアメタル回収技術開発事業 廃小型家電製品等からのコバルト回収技術開発」発行者:JX日鉱日石金属株式会社(公開日:平成27年2月13日、報告先:独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構、公開者:JX日鉱日石金属株式会社)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、経済産業省、リサイクル優先レアメタル回収技術開発事業に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の規定の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】薄井 正治郎
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】井上 猛
【審判官】羽鳥 友哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-026088(JP,A)
【文献】特開2005-197149(JP,A)
【文献】特開2006-004884(JP,A)
【文献】特開2006-004883(JP,A)
【文献】特開2013-080595(JP,A)
【文献】特開平11-054159(JP,A)
【文献】特開2012-229481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを含む筐体で包み込まれたリチウムイオン電池を加熱して処理する方法であって、
リチウムイオン電池の温度を、400℃を超えて上昇させるに当り、リチウムイオン電池の昇温速度をコントロールすることにより、リチウムイオン電池の温度が200℃~400℃の範囲内にある間に、リチウムイオン電池の昇温速度を低下させてリチウムイオン電池の平均昇温速度を10℃/min以下とし、リチウムイオン電池の筐体内からのガスの流出を終了させ
、
リチウムイオン電池の温度が200℃~400℃の範囲内にある間に、前記筐体内からガスの流出が終了したか否かを確認する、リチウムイオン電池の処理方法。
【請求項2】
リチウムイオン電池の温度上昇を、大気雰囲気下で行う、請求項1に記載のリチウムイオン電池の処理方法。
【請求項3】
前記リチウムイオン電池の加熱の終了後、リチウムイオン電池の前記筐体で包み込まれた性状が維持される、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池の処理方法。
【請求項4】
前記筐体内からのガスの流出を終了させるまでの間に、リチウムイオン電池の温度を200℃~400℃の範囲内の一段階以上の特定の温度で保持する、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池の処理方法。
【請求項5】
リチウムイオン電池の筐体内からのガスの流出を終了させた後、リチウムイオン電池を550℃の温度に加熱する、請求項1~
4のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミニウムを含む筐体により周囲を覆われたリチウムイオン電池を加熱して処理する方法に関するものであり、特には、加熱処理に際するリチウムイオン電池の周囲を包み込む筐体の破裂を防止して、リチウムイオン電池からのアルミニウムの除去に寄与することのできる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の電子デバイスをはじめとして多くの産業分野で使用されているリチウムイオン電池は、マンガン、ニッケルおよびコバルトを含有するリチウム金属塩を正極活物質として用い、その正極活物質を含む正極材及び負極材の周囲を、アルミニウムを含む筐体で包み込んだものであり、近年は、その使用量の増加および使用範囲の拡大に伴い、電池の製品寿命や製造過程での不良により廃棄される量が増大している状況にある。
かかる状況の下では、大量に廃棄されるリチウムイオン電池スクラップから、上記のニッケルおよびコバルト等の有価金属を、再利用するべく比較的低コストで容易に回収することが望まれる。
【0003】
有価金属の回収のために、リチウムイオン電池スクラップ等のリチウムイオン電池を処理するには、はじめに、リチウムイオン電池を焙焼することによって、内部に含まれる有害な電解液を除去して無害化するとともに、その後に破砕、篩別を順に行って、筐体や正極基材に含まれるアルミニウムをある程度除去する前工程を実施する。
次いで、前工程により得られる粉末状の正極材を酸浸出し、そこに含まれ得るリチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウム等を溶液中に溶解させて、浸出後液を得る浸出工程を行う。
【0004】
そしてその後、浸出後液に溶解している各金属元素を分離させる回収工程を行う。ここでは、浸出後液に浸出しているそれぞれの金属を分離させるため、浸出後液に対し、分離させる金属に応じた複数段階の溶媒抽出もしくは中和等を順次に施し、さらには、各段階で得られたそれぞれの溶液に対して、逆抽出、電解、炭酸化その他の処理を施す。具体的には、まずアルミニウムを回収し、続いてマンガン、そしてコバルト、その後にニッケルを回収して、最後に水相にリチウムを残すことで、各有価金属を回収することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、先述したように、リチウムイオン電池を酸浸出するに先立って、リチウムイオン電池を加熱して、リチウムイオン電池を焙焼すると、リチウムイオン電池の外装を構成する筐体が破裂することがあった。このように、焙焼で電池スクラップの筐体が破裂すると、筐体や正極基材に含まれるアルミニウムが酸化・脆化されて、破砕時に粉砕されやすくなるために、これを篩別にて篩上に取り除くことが困難になるので、篩下に回収される粉末状の正極材に多く混入し、正極材を酸浸出した際に浸出後液に多くのアルミニウムが含まれることになる。
その結果として、回収工程でアルミニウムの分離・除去のための工数が必要となり、それによるコストが嵩むという問題があった。
【0006】
この発明は、このような問題を解決することを課題とするものであり、その目的とするところは、リチウムイオン電池の加熱処理に際し、その筐体の破裂を有効に防止することができるリチウムイオン電池の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は鋭意検討の結果、リチウムイオン電池を焙焼する際に、リチウムイオン電池の温度を400℃よりも高く上昇させる昇温過程で、450℃以上の高い温度に急激に上昇させている点に着目し、上記の筐体の破裂は、加熱時のリチウムイオン電池の急激な温度上昇に起因して、内部の電解液が急速に気化して筐体内で多量のガスが生じ、このガスの発生流量が、筐体外への流出流量を上回ることによって、筐体が膨張することが原因であると考えた。但し、この発明は、このような理論に限定されるものではない。
そのため、リチウムイオン電池の昇温過程の間に、リチウムイオン電池の昇温速度をコントロールして、比較的低温にある間に筺体内の略全てのガスを緩慢に流出させることで、リチウムイオン電池を破裂させることなしに有効に焙焼できると考えた。
【0008】
このような知見の下、この発明のリチウムイオン電池の処理方法は、アルミニウムを含む筐体で包み込まれたリチウムイオン電池を加熱して処理する方法であって、リチウムイオン電池の温度を、400℃を超えて上昇させるに当り、リチウムイオン電池の昇温速度をコントロールすることにより、リチウムイオン電池の温度が200℃~400℃の範囲内にある間に、リチウムイオン電池の昇温速度を低下させてリチウムイオン電池の平均昇温速度を10℃/min以下とし、リチウムイオン電池の筐体内からのガスの流出を終了させ、リチウムイオン電池の温度が200℃~400℃の範囲内にある間に、前記筐体内からガスの流出が終了したか否かを確認することにある。
【0010】
またこの発明の処理方法は、リチウムイオン電池の温度上昇を、大気雰囲気下で行うことが可能である。
そしてこの発明では、前記リチウムイオン電池の加熱の終了後まで、リチウムイオン電池の前記筐体で包み込まれた性状が維持されることが好適である。
【発明の効果】
【0011】
この発明のリチウムイオン電池の処理方法によれば、リチウムイオン電池の温度が200℃~400℃の範囲内にある間に、リチウムイオン電池の筐体内からのガスの流出が終了するように、昇温速度をコントロールすることにより、筐体内でのガスの発生を緩慢にすることができ、それにより、急速なガスの発生がもたらす筐体の破裂を有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1の加熱工程での試料温度の経時変化を示すグラフである。
【
図2】実施例2の加熱工程での試料温度の経時変化を示すグラフである。
【
図3】比較例1の加熱工程での試料温度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態のリチウムイオン電池の処理方法では、アルミニウムを含む筐体によって包み込まれたリチウムイオン電池を対象とし、たとえば所定の炉内で、かかるリチウムイオン電池の温度を上昇させ、その温度が200℃~400℃の範囲内に達したところで、筺体からガスが流出し始めるので、200℃~400℃の範囲内にある間に、リチウムイオン電池の昇温速度をコントロールしてそのガスの流出を終了させる。従って、ここでは、リチウムイオン電池の温度が200℃~400℃の範囲内にある間のいずれかの時点で、筺体からのガスの流出は終了することになる。その後、リチウムイオン電池の温度を、400℃を超える温度にさらに上昇させる。
【0014】
(リチウムイオン電池)
この発明で対象とするリチウムイオン電池は、携帯電話その他の種々の電子機器等で使用されるリチウムイオン電池であればどのようなものでもかまわないが、その周囲を包み込む筐体として、アルミニウムを含む筐体を有するものとする。なかでも、電池製品の寿命や製造不良またはその他の理由によって廃棄された、いわゆるリチウムイオン電池スクラップを対象とすることが、資源の有効活用の観点から好ましい。
【0015】
リチウムイオン電池の筐体としては、たとえば、アルミニウムのみからなるものや、アルミニウム及び鉄、アルミラミネート等を含むものがある。
なお、リチウムイオン電池は、上記の筺体内に、リチウム、ニッケル、コバルト及びマンガンのうちの一種以上の単独金属酸化物又は、二種以上の複合金属酸化物等からなる正極活物質や、正極活物質が有機バインダー等によって塗布されて固着されたアルミニウム箔(正極基材)を含むものとすることができる。またその他に、リチウムイオン電池には、銅、鉄等が含まれる場合がある。
また、リチウムイオン電池には一般に、筺体内に電解液が含まれる。電解液としては、たとえば、エチレンカルボナート、ジエチルカルボナート等が使用されることがある。
【0016】
筐体で包み込まれたリチウムイオン電池は、実質的に正方形もしくは長方形状の平面輪郭形状を有するものとすることができ、この場合、処理前の寸法として、たとえば、縦が40mm~80mm、横が35mm~65mm、厚みが4mm~5mmのものを対象とすることができるが、この寸法のものに限定されるものではない。
【0017】
(加熱工程)
この加熱工程は、リチウムイオン電池の温度を、400℃を超える温度に上昇させて、内部の電解液を除去して無害化するとともに、アルミニウム箔と正極材を結着させているバインダーを分解し、破砕・篩別時のアルミニウム箔と正極材の分離を促進して篩下に回収される正極材の回収率を高くし、更に、リチウムイオン電池に含まれる有価金属を、後述の浸出工程で浸出させやすい形態に変化させること等を目的として行う。
【0018】
上述したような筐体を有するリチウムイオン電池は、たとえば焼却炉等で温度を急激に上昇させると、筐体が破裂する。その結果、筺体が酸化して脆化することによって、加熱後のリチウムイオン電池を破砕した際に筐体等を構成するアルミニウムが微細な粉末状となって多く含まれることになる。このようなアルミニウムは篩別によっても除去しきれずに、浸出工程で酸性溶液に添加するリチウムイオン電池に混入することから、後にこれを回収する作業及びコストが増大する。
このようなリチウムイオン電池の加熱時の破裂は、加熱を開始したときから、リチウムイオン電池の温度が一気に上昇することによって、筺体内の電解液が急速に気化してガスとなり、そして、筐体内から流出可能なガスの量よりも多量に生じる筐体内のガスが、筺体を膨張させて破裂させることによるものと考えられる。
【0019】
これに対処するため、この発明の実施形態では、加熱工程で、リチウムイオン電池の温度を、400℃を超えて上昇させる昇温過程において、リチウムイオン電池の温度を上昇させ、その温度が200℃~400℃の範囲内に達すると、筐体内からガスが流出し始めるところ、この200℃~400℃の範囲内にある間に、リチウムイオン電池の昇温速度を、たとえば低下させる等してコントロールし、この間に筺体からのガスの流出を終了させる。
【0020】
このことによれば、電解液の気化によるガスの発生が、筺体からのガスの流出が終了するまで緩慢に行われるので、筺体を膨張させるほどにガスが急速に発生することを防止することができて、筺体の破裂及び酸化による脆化を有効に防ぐことができる。ガスの流出が終了した後は、さらに温度を上昇させて、リチウムイオン電池に含まれる金属を容易に酸浸出できる形態へと変化させる。また、このような昇温過程で温度を上げすぎると、筺体から流出したガスに着火して、リチウムイオン電池の温度の急激な上昇を招くが、この実施形態では、このようなガスの着火を招くことのないように、昇温速度をコントロールする。
【0021】
なおここで、筺体内からのガスの流出が終了したか否かについては、筺体内から流失したミスト状のものを目視で確認するか、または排ガス中の可燃性成分を分析すること等により確認することが可能である。
【0022】
ここで、昇温過程の温度範囲は、電解液の気化によって生じるガスの流量を所定量以下にするため、200℃~400℃とする。それにより、加熱工程の終了まで、リチウムイオン電池の原型をとどめた状態、つまりリチウムイオン電池が筐体に包み込まれた性状が維持されて、その後の分解ないし破砕、篩別によって、筺体等に含まれるアルミニウムを十分に除去することが可能になる。
これを言い換えれば、昇温過程でリチウムイオン電池の温度が200℃未満では、ガスの筐体からの流出が起こらずに本発明の効果が得られず、この一方で、昇温過程でガスの流出終了前に400℃を超えると、ガスの発生流量の増大によって筐体が破裂するおそれがある。このような観点から、昇温過程では、200℃~400℃の温度範囲内でガスの流出を終了させることが好ましく、特に、220℃~380℃の温度範囲内でガスの流出を終了させることがより好ましい。なおこの温度は、リチウムイオン電池の筐体の表面温度を測定することにより計測可能である。
【0023】
またここで、昇温過程の200℃~400℃の範囲とする時間は、リチウムイオン電池の種類、大きさその他の条件によって異なるが、リチウムイオン電池の温度が200℃~400℃の範囲内に達したときから、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上経過したときまでの時間とすることができる。つまり、200℃~400℃の範囲内でのリチウムイオン電池の平均昇温速度を、20℃/min以下とすることが好ましく、特に10℃/min以下とすることがより一層好ましい。これはすなわち、200℃~400℃の範囲内でのリチウムイオン電池の平均昇温速度が20℃/minより大きいときは、場合によっては筐体内からのガスの流出が十分に終了しないうちに、400℃を超えてしまうことがあり、筺体が破裂する懸念があるからである。
一方、この200℃~400℃の範囲とする時間は、長ければ長いほど、より確実にガスの流出を終了させることができるので、破裂防止の点では好ましい上限値は特にないが、長すぎると処理時間の増大に起因して処理能率が低下する。それにより、通常は60分以下とすることができ、さらに30分以下とすることができる。
【0024】
昇温過程では、筺体からのガスの流出が終了するまで、リチウムイオン電池の温度が400℃を超えなければ、ガスの急速な流出による破裂を防止しつつ、ガスを有効に流出させることができる。ここでは、ガスの流出が終了するまで、200℃~400℃の範囲内で緩やかに上昇させることが一般的である。但し、可能であれば、ガスの流出が終了するまで、昇温過程の温度を200℃~400℃の範囲内の一段階以上の特定の温度で保持してもよい。
【0025】
上記のようにリチウムイオン電池の温度を制御すれば、この加熱工程は、各種の炉等の様々な加熱設備を用いて行うことができる。リチウムイオン電池の温度を上述したように制御することが可能であれば、大気雰囲気で加熱を行う炉を用いることもできる。そのため、この発明の処理方法は、リチウムイオン電池の焙焼のための特殊な設備を用いなくても実施することができる点で有利である。
【0026】
(浸出工程及び回収工程)
上記の加熱工程の後、所要に応じて破砕及び篩別することにより、アルミニウムが十分に除去された粒状ないし粉状等の正極材を含む篩別物を得ることができる。
その後、この粒状ないし粉状の正極材を含む篩別物を、硫酸等の酸性溶液に添加して浸出させて得た浸出後液から、浸出後液中に溶解しているニッケル、コバルト、マンガン等を回収する。具体的には、たとえば、溶媒抽出又は中和により、はじめにマンガンを分離させて回収し、次いでコバルトを、その後にニッケルを順次に分離させて回収し、最後に水相にリチウムを残す。
【0027】
ここでは、上述した加熱工程により、浸出後液に溶解した金属に、アルミニウムがほとんど含まれなくなることから、回収工程でのアルミニウムの分離除去に要する処理を簡略化ないし省略することができる。それにより、処理能率の向上および処理コストの低減を実現することができる。
【実施例】
【0028】
次に、この発明の処理方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は、単なる例示を目的とするものであって、それに限定されることを意図するものではない。
【0029】
(実施例1)
大気雰囲気において、るつぼ炉でAl筐体のリチウムイオン電池を加熱した。試料温度が急激な上昇をすることのないよう、
図1に試料温度の履歴をグラフで示すように、200℃~400℃の範囲を10分間以上保持するように調整後に、550℃まで加熱した。加熱後のリチウムイオン電池は、Al筐体の膨張は見られたが、筐体が破裂等することなく原型が維持されていた。加熱処理後のリチウムイオン電池を破砕機にて破砕後、篩別して目開き1mmの篩で篩別し、篩下に正極材等を回収した。篩別物(<1mm)の品位は、Coが37%、Alが4.5%、Cuが0.7%であり、Co回収率は98%であった。篩別物の分析値と回収率を表1に示す。
【0030】
なお、ここでいう回収率は、加熱処理したリチウムイオン電池を破砕、篩別して回収した各篩別物の重量と、各篩別物を縮分した試料を酸溶解してICP発光分析装置にて分析した分析値から得た各篩別物の品位から、成分毎の金属量を算出し、この全産出物の各金属量合計に対する篩別物(<1mm)中の各金属量の重量百分率として求めたものである。
【0031】
【0032】
実施例1では、リチウムイオン電池の加熱時に比較的長い時間にわたって、温度を200℃~400℃の範囲としたことにより、筺体内からガスを十分に流出させることができて、リチウムイオン電池の破裂を防止することができた。その結果として、表1に示す結果より、コバルトを高い回収率で回収しつつ、篩別物中のアルミニウム量を少なくできたことが解かる。
【0033】
(実施例2)
大気雰囲気において、るつぼ炉でAl筐体のリチウムイオン電池を加熱した。
図2に試料温度の履歴をグラフで示すように、200℃~400℃の範囲を10分間以上保持するような温度履歴とし、その後更に550℃まで加熱した。加熱後のリチウムイオン電池は、Al筐体の膨張は見られたが、筐体が破裂等することなく形を維持していた。加熱処理後のリチウムイオン電池を破砕機にて破砕後、篩別して目開き1mmの篩で篩別し、篩下に正極材等を回収した。篩別物(<1mm)の品位はCo38%、Al1.8%、Cu0.4%で、Co回収率は85%であった。篩別物の分析値と回収率を表2に示す。
【0034】
【0035】
表2に示す結果より、実施例2では、リチウムイオン電池の昇温過程の温度を200℃~400℃の範囲とした時間を、実施例1よりは短いものの10分間以上としたことにより、この実施例2でもまた、コバルトを高い回収率で回収しつつ、篩別物中のアルミニウム量を少なくすることができた。
【0036】
(比較例1)
大気雰囲気において、るつぼ炉でAl筐体のリチウムイオン電池を加熱した。電気炉の加熱能力のフルパワーで加熱し、その後更に550℃まで加熱した。この時、200℃~400℃の範囲を通過する時間は10分間未満となる急激な温度上昇となった。加熱後のリチウムイオン電池は、全体的に破損している状態で、一部は内部のアルミニウム箔が見えている状態であった。加熱処理後のリチウムイオン電池を破砕機にて破砕後、篩別して目開き1mmの篩で篩別し、篩下に正極材等を回収した。篩別物(<1mm)の品位、Co31%、Al7.0%、Cu1.3%で、Co回収率は71%であった。
【0037】
【0038】
比較例1では、リチウムイオン電池の昇温過程で温度を急激に上昇させたことにより、リチウムイオン電池が破損して筺体のアルミニウム箔の大部分が酸化したと考えられ、それにより、表3に示す結果から、篩別物中のアルミニウム量が多くなったことが解かる。