IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立ハイテクノロジーズの特許一覧

<>
  • 特許-荷電粒子ビーム装置 図1
  • 特許-荷電粒子ビーム装置 図2
  • 特許-荷電粒子ビーム装置 図3
  • 特許-荷電粒子ビーム装置 図4
  • 特許-荷電粒子ビーム装置 図5
  • 特許-荷電粒子ビーム装置 図6
  • 特許-荷電粒子ビーム装置 図7
  • 特許-荷電粒子ビーム装置 図8
  • 特許-荷電粒子ビーム装置 図9
  • 特許-荷電粒子ビーム装置 図10
  • 特許-荷電粒子ビーム装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20230313BHJP
   H01J 37/141 20060101ALI20230313BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20230313BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
H01J37/141 A
H01J37/244
H01J37/28 B
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022000214
(22)【出願日】2022-01-04
(62)【分割の表示】P 2020126129の分割
【原出願日】2017-03-24
(65)【公開番号】P2022037226
(43)【公開日】2022-03-08
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 俊介
(72)【発明者】
【氏名】ホック シャヘドゥル
(72)【発明者】
【氏名】池田 宇輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誠
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-004995(JP,A)
【文献】特開2004-259469(JP,A)
【文献】特開2015-146283(JP,A)
【文献】特表2013-541799(JP,A)
【文献】国際公開第2007/119873(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/22
H01J 37/141
H01J 37/244
H01J 37/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームを集束する対物レンズと、試料から放出された後方散乱電子を検出して電気信号に変換する検出器と、演算装置を備えた荷電粒子ビーム装置において、
前記対物レンズは、コイルを包囲するように形成された内側磁路と外側磁路を含み、前記内側磁路は、前記荷電粒子ビームの光軸に対向する位置に配置される第1の内側磁路と、前記荷電粒子ビームの光軸に向かって傾斜して形成され、磁路先端を含む第2の内側磁路から構成され、
前記検出器は、前記第1の内側磁路と、前記磁路先端を通過すると共に前記荷電粒子ビーム光軸に平行な仮想直線との間の空間であって、前記第1の内側磁路の上端よりも前記試料側の空間に配置され、
前記検出器は、前記後方散乱電子を検出する検出面と、当該検出面での前記後方散乱電子の検出によって得られる光を前記電気信号に変換する変換素子を有し、
前記演算装置は、前記電気信号から、所定の出力値を持つ電気信号を選択的に抽出する処理を行うことによって、エネルギー弁別がなされた後方散乱電子画像を生成することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記検出器は、前記光を前記変換素子に導光する導光部材を有し、
前記導光部材は、前記第1の内側磁路と前記仮想直線との間の空間であって、前記第1の内側磁路の上端よりも前記試料側の空間に配置されることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
請求項において、
前記エネルギー弁別がなされた後方散乱電子画像は、所定のエネルギー値またはエネルギー領域を持つ後方散乱電子を選択的に反映させた画像であることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
請求項において、
前記エネルギー弁別がなされた後方散乱電子画像は、パターンの表面情報または底面情報を選択的に反映させた画像であることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項5】
請求項4において、前記演算装置は、前記パターンの第1層と第2層を弁別するために定めた第1閾値に基づいて、前記電気信号から、所定の出力値を持つ電気信号を選択的に抽出する処理を行うことによって、前記第1層または前記第2層のいずれかの情報を強調した後方散乱電子画像を生成することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項6】
請求項において、
前記検出面はシンチレータであることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記変換素子はシリコンフォトマルチプライヤであることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項8】
請求項6において、
前記変換素子はアバランシェフォトダイオードであることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項9】
請求項において、
前記演算装置は、ユーザーインターフェースから指定された前記所定のエネルギー値またはエネルギー領域に基づいて、前記所定の出力値を持つ電気信号のみをカウントし、当該カウント値又は当該カウント値に基づいて生成した画像を前記ユーザーインターフェース上に表示することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項10】
請求項において、
前記演算装置は、予め定めた1以上の閾値と前記電気信号とを比較処理することで、前記所定の出力値を持つ電気信号を選択的に抽出することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項11】
請求項7において、
前記検出器は、前記荷電粒子ビームの光軸に対して少なくとも45度を含む出射角度で前記試料から放出された後方散乱電子を検出することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記検出器は、さらに、前記荷電粒子ビームの光軸に対して90度の出射角度で前記試料から放出された後方散乱電子を検出することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項13】
請求項5において、
前記演算装置は、前記パターンの第3層と前記第2層を弁別するために定めた第2閾値に基づいて、前記電気信号から、所定の出力値を持つ電気信号を選択的に抽出する処理を行うことによって、前記第1層、前記第2層および前記第3層のうちのいずれかの情報を強調した後方散乱電子画像を生成する
ことを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項14】
請求項6において、
前記荷電粒子ビームを偏向する偏向器を備え、
前記シンチレータおよび前記変換素子は、前記偏向器よりも試料側に配置されることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項15】
請求項において、
前記第2の内側磁路には、前記荷電粒子ビームを加速するための正電圧が印加されることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項16】
請求項15において、前記試料には、前記荷電粒子ビームを減速するための負電圧が印加されることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項17】
請求項14において、
前記シンチレータの内径は、前記磁路先端の内径より大きいことを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項18】
請求項17において、
前記シンチレータの内径は、前記偏向器の内径以上の大きさであることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料に荷電粒子ビームを照射することによって、試料から放出される荷電粒子を検出する荷電粒子線装置に係り、特に、荷電粒子ビーム光軸に対し、或る相対角度方向に放出される荷電粒子を検出する荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線装置の一態様である走査電子顕微鏡は、試料に向かって電子ビームを照射することによって得られる2次電子等の検出に基づいて、画像や信号波形を生成する装置である。試料から放出される電子の中で反射電子(後方散乱電子)は、試料表面に入射する角度の鏡面反射方向に放出されるという角度依存性を持っているため、試料の凹凸を観察するのに適していることが知られている。特許文献1には、試料面に対し小さな角度(低アングル)方向に放出された反射電子を、試料に向かって集束磁場を漏洩させる対物レンズの漏洩磁場を利用して対物レンズ上に導き、その軌道上に配置された検出器によって検出する走査電子顕微鏡が開示されている。また、特許文献2には、対物レンズのビーム通路内に電子ビームを一時的に加速させる加速管を設けると共に、当該加速管内に反射電子検出器を設置した走査電子顕微鏡が開示されている。特許文献2には、対物レンズの反射電子に対する収束作用と、2次電子に対する収束作用に差があるという現象を利用した2次電子と反射電子を弁別検出法が説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-110351号公報(対応米国特許USP6,555,819)
【文献】特許第5860642号(対応米国特許USP9,029,766)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
反射電子は一般的に二次電子よりも量が少なく、観察、測定、或いは検査を高精度に行うための十分な信号量が得られないことがある。十分な信号量を確保するために、電子ビームの照射時間やプローブ電流を増加させることが考えられるが、観察等に要する時間や、ビーム照射に基づく帯電量が増加するため、低ドーズを維持しつつ、検出量を増加することが望ましい。そのために、低角反射電子のみではなく、量の比較的多い中角反射電子を検出することが望ましい。
【0005】
特許文献1のように対物レンズの漏洩磁場によって、対物レンズ上に配置された検出器に、反射電子を導くことによって、ある程度の量の低角反射電子を検出することができるが、このような構成では、カバーできる検出角度範囲に限りがある。広い角度範囲(低角度から中角度)に放出される反射電子を高効率に検出するためには、検出面を大きくするか、反射電子が放出されるビーム照射位置と検出面を近づける必要があるが、特許文献1に開示の構成では、高効率検出化に限りがある。また、特許文献2についても電子ビームを加速させるための加速管内に、検出器の検出面が設けられているため、検出面の大型化には限りがある。特に、検出面の大きさは対物レンズの内側磁路先端部の内径よりも小さくなり、一次電子線光軸に近い高角反射電子は検出されるが、広がった軌道をもつ低角・中角反射電子の検出効率が低下する。また磁路に穴をあける構成であるため、対物レンズの寄生収差や加工精度ばらつきが生じ、高分解能化の妨げとなる。
【0006】
以下に、試料から放出される荷電粒子の検出角度範囲を広範囲にカバーすることを目的とする荷電粒子線装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための一態様として、本発明に係る荷電粒子ビーム装置は、荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームを集束する対物レンズと、試料から放出された後方散乱電子を検出して電気信号に変換する検出器と、演算装置を備える。前記対物レンズは、コイルを包囲するように形成された内側磁路と外側磁路を含み、前記内側磁路は、前記荷電粒子ビームの光軸に対向する位置に配置される第1の内側磁路と、前記荷電粒子ビームの光軸に向かって傾斜して形成され、磁路先端を含む第2の内側磁路から構成される。前記検出器は、前記第1の内側磁路と、前記磁路先端を通過すると共に前記荷電粒子ビーム光軸に平行な仮想直線との間の空間であって、前記第1の内側磁路の上端よりも前記試料側の空間に配置される。前記演算装置は、前記電気信号の弁別または分類を行うことによって、エネルギー弁別がなされた画像を生成する。
【発明の効果】
【0008】
上記構成によれば、低角度から中角度に亘った広い範囲に、試料から放出される荷電粒子を高効率に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】走査電子顕微鏡の概略図。
図2】信号検出面10の配置の一例を示す断面図。
図3】信号検出面10の配置の一例を示す断面図。
図4】信号検出面10の構成を示す下面図。
図5】シンチレータの発生フォトン数と電子入射エネルギーの関係を示す図。
図6】信号電子の信号処理の流れを説明する図。
図7】出力電気信号の強度と時間の関係を示す図。
図8】2種類の検出面を持つ信号検出面10の一例を示す図。
図9】走査電子顕微鏡の対物レンズ形状、及び検出器の配置条件を説明する図。
図10】ビームの照射位置に応じて、反射電子のエネルギーが変化する例を説明する図。
図11】検出信号のエネルギー弁別に基づいて、所望のエネルギーの検出信号情報を強調する画像処理工程を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
荷電粒子線装置の一種である走査電子顕微鏡の用途の1つとして、半導体デバイスの評価・計測がある。近年、半導体デバイスの構造は微細化、3D化が進んでおり、半導体デバイスメーカーである顧客が求める評価値が多様化している。特に、デバイス構造の3D化に伴い、歩留まり向上のために半導体基板上の穴や溝形状の底部寸法を高精度に計測したいというニーズがある。
【0011】
電子ビームを試料に照射すると、電子と試料の相互作用によって様々なエネルギーをもった信号電子が様々な方向に出射する。信号電子は、出射エネルギーと出射角度に応じて試料に関する異なる情報を持っており、信号電子の弁別検出が、多様な計測に不可欠である。
【0012】
一般に、50eV以下のエネルギーで出射する信号電子を二次電子、それよりも大きく、一次電子線のエネルギーに近いエネルギーで出射する信号電子を反射電子と呼び、信号電子は区別される。二次電子は試料の表面形状や電位ポテンシャルに敏感であり、半導体デバイス構造のパターン幅などの表面構造の寸法計測に有効であるが、穴・溝などの3D構造に対しては側壁に吸収されるなどして穴・溝から脱出できず、検出および計測ができない。一方、反射電子は試料の組成や立体形状の情報を含んでおり、3D構造や、表面と底部の組成の違いなどの情報が得られるとともに、高いエネルギーをもつため、穴・溝から側壁を貫通して脱出でき、穴・溝構造の底部からの信号検出および計測に用いることができる。
【0013】
なお、以下の説明では試料から放出される電子の出射角度について、電子ビームの光軸方向を90度と定義する。反射電子の出射角度に応じて90度付近を高角反射電子、45度付近を中角反射電子、0度付近を低角反射電子と定義する。高角反射電子は主に試料の組成情報を、中角反射電子は試料の組成・形状情報両方を、低角反射電子は主に試料の立体形状情報をそれぞれ含んでいる。また中角反射電子は、発生数が高角・低角と比較して多いという特徴を持つ。
【0014】
以下に、反射電子検出を行う場合であっても、高分解能化と高効率化の両立を実現する走査電子顕微鏡について説明する。より具体的には、ワーキングディスタンスの極小化のために、対物レンズと試料との間に検出器を配置することなく、低角度から中角度の広範囲方向に放出される電子の検出を可能とする走査電子顕微鏡について説明する。後述する実施例に記載の構成によれば、高分解能を維持したまま、中角以下の反射電子を高効率に検出することができる。
【0015】
以下に説明する実施例では、例えば、一次荷電粒子線(電子ビーム)を発生する荷電粒子源と、前記荷電粒子線を試料上に収束させる磁場型対物レンズと、前記一次荷電粒子線を前記試料上で偏向するための偏向器を有し、磁場型対物レンズを構成する内側磁路先端を前記一次荷電粒子線光軸に対して傾斜して形成し、前記先端以外の内側磁路の内側に試料から放出された荷電粒子検出面及び荷電粒子を電気信号に変換する変換素子を有する荷電粒子線装置について説明する。前記荷電粒子検出面の内径は、内側磁路先端の内径よりも大きく、かつ偏向器内径よりも小さくはない。
【0016】
内側磁路の一部(先端部)を選択的に傾斜して形成することによって、試料から放出された低角・中角反射電子は、前記内側磁路に衝突せずに飛行するため、内側磁路先端の内径よりも大きく、かつ偏向器内径よりも小さくはない内径を持つ荷電粒子検出面において低中角反射電子を検出することが可能となる。また対物レンズ短焦点化を達成し、磁路内側に荷電粒子を電気信号に変換する素子を有するため小型化し顕微鏡鏡筒の大型化などを防ぎ高分解能化も同時に達成される。上記構成によれば、高分解能化と中角以下反射電子の高効率検出の両立が可能となる。
【0017】
以下に図面を用いて、走査電子顕微鏡の概要について説明する。
【0018】
[実施例1]
本実施例を図1から図4を用いて説明する。図1は走査電子顕微鏡の概要を示す図である。真空環境である電子顕微鏡鏡筒1の内部に、電子源2が配置されており、前記電子源2から放出された一次電子線(電子ビーム)は、一次電子線光軸3に沿って飛行する。コイル5と、コイル5を包囲する外側磁路6、一次電子線光軸3に対して傾斜して配置された内側磁路7によって構成された対物レンズにより一次電子線は試料8上に収束される。コイルに電流を流すと、回転対称な磁力線が生まれ、内側磁路と外側磁路を磁力線が通過し、その磁力線がレンズギャップ(内側磁極先端と外側磁極先端との間)で漏洩磁場を発生されるため、当該漏洩磁場のレンズ作用によって一次電子線が試料上に収束される。
【0019】
試料8には負電圧が印加されており、一次電子は電子源2で発生したときのエネルギーよりも小さいエネルギーで試料に衝突する。一次電子の衝突により試料から発生した信号電子9はそれぞれの出射エネルギー、出射角度に応じて電子顕微鏡鏡筒1内を飛行する。対物レンズ内側にシンチレータで構成された信号検出面10が配置されており、信号検出面10に信号電子9が衝突すると、シンチレータにより信号電子9は光に変換され、ライトガイド11により光/電気変換素子12に導光される。
【0020】
信号検出面10を構成するシンチレータは荷電粒子線入射により発光する物質であればYAPやYAGなどの単結晶でもよく、P47などの粉体、GaN系の多層薄膜構造体などでもよい。また図1ではライトガイド11がある場合を示したが、ライトガイド11を用いずに直接光/電気変換素子12をシンチレータ10に取り付けた形態も可能である。光/電気変換素子12は例えば光電子増倍管(PMT)、フォトダイオード、Si-PMなどで構成される。導光された光は前記光/電気変換素子12で電気信号に変換され、出力ケーブル13で電子顕微鏡鏡筒1の外側に配置された信号処理回路14に伝送される。前記電気信号は信号処理回路14上にある増幅回路14aによって振幅の大きい電気信号に増幅され、演算回路14bによって単位時間当たりの電気信号の大きさや頻度に応じて像のコントラストとして処理され、モニタ15上に所定の階調値を持つ画素として表示される。前記信号電子検出を、一次電子線を偏向器4によって試料8上を走査しながら行い、モニタ15上に試料表面の拡大二次元画像を表示する。
【0021】
信号検出面10は図1のように一次電子線光軸3に対して垂直に配置される場合もあれば、図2のように傾斜した場合、図3のように平行に配置される場合もある。信号検出面10は各配置方法において平面でも曲面でもよい。これらにおいて信号電子の検出方法、画像生成は前記のように行われる。また信号検出面10は図4(a)のように角度方向に多角形や扇形などの複数の領域に分割された構成や図4(b)のように径の異なるリング状に分割された構成となることも可能である。図4(a)では4分割の例を示すが、図4(a)、(b)ともに分割数に制限は無い。また図4(a)では小片検出面間に空間がある場合を示しているが、この空間の無い形状も可能である。これらの分割された信号検出面において、各信号検出面に対応して得られる電気信号を後段の回路で演算することで、信号電子の出射角度に基づいた陰影像などの異なるコントラストを持つ画像を取得できる。図4(a)、(b)の小片信号検出面10と光/電気変換素子12の接続の仕方は一例であり、図4(a)であれば小片信号検出面10の隙間に光/電気変換素子を配置する方法などが考えられる。
【0022】
上記構成において、試料8に負電圧を印加する減速(リターディング)光学系、内側磁路7に正電圧を印加する加速(ブースティング)光学系が高分解化と反射電子検出の高効率化に効果的である。リターディング光学系では、一次電子が試料に入射する直前で試料に印加された負電圧により減速され、収束された一次電子線の入射角が大きくなり、収差が低減される。一方で信号電子に対しては加速電界として作用し、エネルギーの低い二次電子はリターディング電界により一次電子線光軸3に沿って飛行するようになり、同時にエネルギーの高い反射電子はあまり影響を受けず、電子顕微鏡鏡筒1内を様々な方向に飛行する。したがってリターディング電界による二次電子/反射電子の分離検出が可能となり、発生効率の高い二次電子に埋もれずに反射電子の検出が可能となる。
【0023】
またブースティング光学系では、対物レンズ入射時の一次電子のエネルギーを一時的に高めることで、一次電子線内のエネルギー揺らぎの比率を小さくし、対物レンズによる収差を抑制することができる。同時に試料からの信号電子の引き上げ電界として作用するため、外側磁路6の下部に衝突していた信号電子を内側磁路7の内部に引き上げられるため、より広い角度範囲の反射電子が検出され、高効率化が達成できる。
【0024】
次に、本実施例のより具体的な作用、効果を、図面を用いて説明する。図9図1に例示した走査電子顕微鏡の対物レンズ形状、及び検出器の配置条件を説明する図である。図9に例示するように、対物レンズの内側磁路は磁路先端部を含む内側磁路7(第2の内側磁路)と、それ以外の内側磁路を形成する第1の内側磁路905から構成されている。第1の内側磁路905の内壁面(ビーム通過筒を形成する面)は、一次電子線光軸3に対向するように形成されている。
【0025】
第2の内側磁路は、一次電子線光軸3に対し、傾斜する方向に長く、且つ一次電子線光軸3に向かって傾斜するように形成されている。また、図9のような断面図で表現したときに、第1の内側磁路905の磁束通過方向となる方向に対して、傾斜して形成されている。更に、内側磁路先端を通過すると共に、一次電子線光軸3に平行な方向に定義される仮想直線901より外側(第1の内側磁路905側)に信号検出面10を位置させるように、検出器の構成部材が配置されている。仮想直線901は、内側磁路7の一次電子線光軸3に対向する対向面(一次電子線光軸3に最も近接する面)に沿って定義される。また、信号検出面10の内径(ビーム通過開口径)は、内側磁路7の内径より大きな径を持つように形成されている。
【0026】
このような構成によれば、低角に放出される反射電子と、中角に放出される反射電子を高効率に検出することが可能となる。上記のような対物レンズ構造と、検出器の配置条件を併用することによって、このような構成を採用しない場合と比較して、矢印902方向に検出面を拡げることができ、且つ矢印903方向(試料方向)に検出面の位置を下げることができる。換言すれば、上述のような対物レンズ構造の採用によって、対物レンズの電子ビーム通路内に空間904を設けることができ、このような空間904に信号検出面10を位置させることによって、特に低角に放出される反射電子と中角に放出される反射電子の軌道上に検出面を位置させることができ、結果として試料面の凹凸情報が高いレベルで表現された画像を生成することが可能となる。
【0027】
広い角度範囲に放出する電子を検出するためには、単に検出面を拡げるだけではなく、検出面を試料に近接する必要がある。これは同じ大きさの検出面であっても、試料(電子ビーム照射位置)に近い方が、検出面がカバーできる角度範囲が大きくなることによる。図9のような構成によれば、矢印902方向への検出面の拡張とカバー可能な放出角度範囲の拡大を合わせて実現することが可能となり、結果として上述のような効果を実現することが可能となる。また、単に検出面を拡げるのではなく、一次電子線光軸3から離軸する方向に検出面を拡張できるので、特にこれまで失われていた中角方向に放出される反射電子を検出することができ、より高いレベルで試料の凹凸状態を反映した画像を生成することが可能となる。
【0028】
[実施例2]
本実施例について、図5、6、7、10、及び11を用いて説明する。本実施例は低中角反射電子を検出する実施例1において、信号検出面10、光/電気変換素子12と信号処理回路14を用いてエネルギー弁別を行うための構成例について説明する。信号検出面10がシンチレータで構成される場合、図5のように信号検出面10に入射する信号電子9のエネルギーに応じて発生フォトン数が変化する。シンチレータは、反射電子信号を光に変換する第1の変換素子となる。
【0029】
この性質を利用し、シンチレータで発生したフォトン数に応じて光/電気変換素子12で電気信号に変換し、演算回路14で電気信号の出力値を読み取り、エネルギー弁別を行う。図6に信号電子検出から画像生成までの概略図を示す。試料8から発生した信号電子9が信号検出面10に衝突すると、信号電子9のエネルギーに応じた数のフォトンが放出される。放出フォトン16は図示しないライトガイドに導かれ、光/電気変換素子12でフォトン数に応じた出力電気信号17に変換され、出力電気信号17は増幅回路14aで増幅され、増幅後出力電気信号18となる。演算回路14bで設定された出力の閾値に応じて電気信号を抽出し、その抽出電気信号19の単位時間当たりの頻度で画像階調値を作成し、モニタ15に伝送することで、エネルギー弁別をした場合の画像が生成される。
【0030】
図7に増幅後出力電気信号18の強度と時間の関係図を示す。増幅後出力電気信号18は様々な出力値を持つパルスとして発生するが、それらの出力信号の中で、演算回路14bで設定された閾値よりも高い出力を持つもの、あるいは低い出力を持つものを選択して抽出することで、エネルギー弁別がなされる。エネルギー弁別により観察部の部分強調ができ、多様な計測が達成される。
【0031】
図10に例示するように、ホールパターンの表面1001と、底面1002に同じ条件でビーム照射したとき、それぞれからエネルギーE2を持つ電子が反射したとしても、底面1002で反射した反射電子1004は、試料の一部を貫通する分、表面1001から放出された反射電子1003に比べて、エネルギーが低下(E1=E2-ΔE)する。更に、Si-PMのような変換素子(第2の変換素子)は、エネルギー情報を反映したフォトン数に応じた電気信号を発生させることができるため、電気信号の弁別(分類)を行うことによって、パターンの特定部分を強調した画像を生成することが可能となる。
【0032】
図11はその原理を説明する図である。図5、10にて説明したように、反射電子のエネルギーがE2のときはフォトン数がn個、エネルギーがE1のときはフォトン数がm個である場合、所定の閾値(Th)によって両者を識別する。図11に例示するように、所定の閾値以上の信号を抽出することによって、視野内の反射電子のエネルギーがE2の領域を選択的に抽出することができる。エネルギーがE2の反射電子は、試料表面1001から放出されたものが多く、エネルギーE2の反射電子の検出に基づいて生成された画像は、試料表面1001の情報が強く反映されている。
【0033】
他のエネルギーを持つ反射電子信号を除外した信号波形(B)は、試料表面情報を特に強く反映した画像となっている。一方、エネルギーがE1の反射電子の検出に基づいて生成された画像は、底面1002の情報が強く反映されているため、底面1002の情報が強く反映された信号(A)から、試料表面を示す信号(B)を減算することによって、底面1002を強調した画像を生成することが可能となる。
【0034】
図11は単一の閾値(Th)によって、信号を2つに弁別する例について説明したが、例えば上層、中層、下層の少なくとも3つの異なる高さのパターンが含まれる立体構造を評価対象とする場合には、パターンがより深くなるにつれて、反射電子のエネルギーの減衰の程度も大きくなると考えられるため、上層と中層を弁別する第1の閾値(Th1)、中層と下層を弁別する第2の閾値(Th2)を設けることによって、特に強調したい層を抽出するような減算処理を行うようにしても良い。また、図11の例では、閾値(Th)以下の信号を除外することによって、上層側の信号を強調した画像を生成する例について説明したが、閾値(Th)を超えた信号を除外することによって、相対的に下層側の情報を強調するような処理を行うようにしても良い。
【0035】
上述のような処理を演算回路14b(プロセッサ)で実行することによって、エネルギーフィルタやスペクトロメータのような真空領域内に配置される光学素子を用いることなく、演算によるエネルギー弁別を行うことが可能となる。
【0036】
本実施例ではエネルギーの高低のみで説明したが、ある領域内の出力値を持つ電気信号を抽出することも可能であり、反射電子のエネルギーに対して、ハイパス、ローパス、バンドパスが可能である。
【0037】
また取得したいエネルギー領域の設定方法についても手段は複数ある。例えば、あらかじめ取得したい信号電子エネルギーの領域を選択し、その範囲にある出力値を持つ電気信号のみをカウントし、モニタ上に表示する。または画素ごとにすべての出力値を記録しておき、一次電子走査終了後にエネルギー領域を選択してその範囲にある出力値を持つ電気信号から画像を生成するなどである。
【0038】
光/電気変換素子12はファノ因子の小さい半導体型素子であるフォトダイオード(PD(特にアバランシェフォトダイオード:APD))やSi-PM(シリコンフォトマルチプライヤ)などの利用が望ましい。これらの素子は出力ばらつきが小さく、入射フォトン数を電気信号の出力値に反映させることができる。一方、電子顕微鏡で一般的に用いられている光/電気変換素子12の光電子増倍管(PMT)は出力ばらつきが大きく、入射フォトン数によらない出力値を持つ電気信号を発生させるため、望ましくない。
【0039】
これらの素子で構成した場合、エネルギーフィルタや分光器など、他の機器を使用することなくエネルギー弁別が可能となるため、他のエネルギー弁別可能な検出器と比較して構成が容易であるという利点を持つ。
【0040】
[実施例3]
本実施例について、図8を用いて説明する。図8に、信号検出面10を径の異なるシンチレータで構成した検出面の下面図を示す。信号検出面10を、発光波長や発光量の異なるいくつかのシンチレータを径の異なるリング(20、21)で構成する。分割数は効果のある範囲で3分割以上もありえる。光/電気変換素子12を用いて、分光あるいはフォトンカウンティングを行うと、検出した波長・信号量に対応した検出面位置から出射角度弁別が可能となる。
【0041】
実施例1ではリング状に分割した各信号検出面10に対応した光/電気変換素子12を置く構成例を示したが、本実施例では、分割した各信号検出面10を構成するシンチレータの発光特性を変えることで出射角度弁別をすることを示している。
【符号の説明】
【0042】
1…電子顕微鏡鏡筒、2…電子源、3…一次電子線光軸、4…偏向器、5…コイル、6…外側磁路、7…内側磁路、8…試料、9…信号電子、10…信号検出面、11…ライトガイド、12…光/電気変換素子、13…出力ケーブル、14…信号処理回路、14a…増幅回路、14b…演算回路、15…モニタ、16…放出フォトン、17…出力電気信号、18…増幅後出力電気信号、19…抽出電気信号、20…外側リング状信号検出面、21…内側リング状信号検出面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11