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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】水性樹脂組成物及びコーティング剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20230314BHJP
   C08L 33/26 20060101ALI20230314BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20230314BHJP
   C08G 18/75 20060101ALI20230314BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20230314BHJP
   C09D 175/00 20060101ALI20230314BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
C08L75/04
C08L33/26
C08G18/00 C
C08G18/75
C09D133/00
C09D175/00
C09D5/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019025494
(22)【出願日】2019-02-15
(65)【公開番号】P2020132708
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 直人
(72)【発明者】
【氏名】永浜 定
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-027208(JP,A)
【文献】特開2018-141119(JP,A)
【文献】特開2015-071684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル重合体(A)と、ウレタン樹脂(B)と、水性媒体(C)とを含む水性樹脂組成物であって、
前記アクリル重合体(A)が、(メタ)アクリルアミド単量体(a1)と、不飽和カルボン酸又はその無水物(a2)と、ポリオキシアルキレン単位及び重合性不飽和基を有する単量体(a3)とを少なくとも含む単量体成分から形成されるものであり、
前記(メタ)アクリルアミド単量体(a1)の含有率が、前記単量体成分中30質量%以上70質量%以下であり、
前記不飽和カルボン酸又はその無水物(a2)の含有率が、前記単量体成分中0.5質量%以上20質量%以下であり、
前記アクリル重合体(A)の重量平均分子量が230,000以上であり、
前記ウレタン樹脂(B)が、ポリオール(b1)とポリイソシアネート(b2)との反応物であり、前記ポリイソシアネート(b2)が、脂環式ポリイソシアネートを含むものである水性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(メタ)アクリルアミド単量体が、N,N-二置換(メタ)アクリルアミド単量体である請求項1記載の水性樹脂組成物。
【請求項3】
前記不飽和カルボン酸又はその無水物が、メタクリル酸である請求項1又は2記載の水性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリオキシアルキレン単位及び重合性不飽和基を有する単量体の数平均分子量が、200以上1,500以下である請求項1~3のいずれか1項記載の水性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項記載の水性樹脂組成物からなるコーティング剤。
【請求項6】
請求項記載のコーティング剤の塗膜を有する物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性樹脂組成物及びコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティング剤は、各種基材表面の劣化を防止するとともに、基材の表面特性を変化させるために用いられる。エアコンなどに使用されるアルミフィンでは、表面の親水性・耐食性が必要とされており、特に、湿潤・低温状態と乾燥・高温状態とが繰り返される条件下においても、親水性・耐食性を維持できること(親水持続性)が求められる。
【0003】
こうした表面親水性や親水持続性を達成するためのコーティング剤として、アクリル酸、アクリル酸塩、マレイン酸、マレイン酸塩、イタコン酸、イタコン酸塩等と、アクリルアミドと、アクリロニトリルとから得られる共重合体を含む親水性コーティング剤が提案されている(例えば、特許文献1ご参照)。また、重合性二重結合とポリオキシアルキレン鎖とを有する親水性モノマーと、アクリルアミドモノマー等から得られる親水性重合体と、架橋剤とを含む親水化処理剤が提案されている(例えば、特許文献2ご参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-10764号公報
【文献】特開2017-20015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来から知られる上記の親水化処理剤では、親水持続性が十分に満足できるものではない場合があった。本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、初期の表面親水性及び耐食性を発揮しつつ、湿潤・低温状態と乾燥・高温状態とが繰り返される条件下においても、親水性・耐食性を維持することができ、親水持続性を発揮することが可能な水性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水性樹脂組成物は、アクリル重合体(A)と、ウレタン樹脂(B)と、水性媒体(C)とを含み、前記アクリル重合体(A)が、(メタ)アクリルアミド単量体と、不飽和カルボン酸又はその無水物と、ポリオキシアルキレン単位及び重合性不飽和基を有する単量体とを少なくとも含む単量体成分から形成されるものであり、かつ重量平均分子量が230,000以上である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水性樹脂組成物を用いることで、初期の表面親水性及び耐食性を発揮しつつ、湿潤・低温状態と乾燥・高温状態とが繰り返される条件下においても、親水性・耐食性を維持することができ、親水持続性を発揮することが可能な水性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の水性樹脂組成物は、アクリル重合体(A)と、ウレタン樹脂(B)と、水性媒体(C)とを含む。
【0009】
前記アクリル重合体(A)は、(メタ)アクリルアミド単量体(a1)と、不飽和カルボン酸又はその無水物(a2)と、ポリオキシアルキレン単位及び重合性不飽和基を有する単量体(a3)とを少なくとも含む単量体成分から形成されるものであり、前記単量体成分の共重合体である。
【0010】
前記(メタ)アクリルアミド単量体(a1)としては、1種又は2種以上を用いることができ、(メタ)アクリルアミド;(メタ)アクリロニトリル;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のN-一置換(メタ)アクリルアミド単量体;N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピロリドン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン、N-(メタ)アクリロイル-4-ピペリドン、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のN、N-二置換(メタ)アクリルアミド単量体などが挙げられる。
【0011】
前記(メタ)アクリルアミド単量体(a1)の含有率は、前記単量体成分中、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。
【0012】
前記不飽和カルボン酸又はその無水物(a2)としては、1種又は2種以上を用いることができ、(メタ)アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸;(メタ)アクリル酸β-カルボキシエチル、2-(メタ)アクリロイルプロピオン酸等のモノカルボン酸の(メタ)アクリルエステル;クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、サクシン酸等の不飽和ジカルボン酸;前記不飽和ジカルボン酸のハーフ(メタ)アクリル酸エステル;前記不飽和ジカルボン酸の無水物;前記不飽和ジカルボン酸のカルボキシ基の少なくとも1つに(メタ)アクリロキシアルキル基(好ましくは(メタ)アクリロキシエチル基)が付加した化合物などが挙げられる。中でも、不飽和モノカルボン酸が好ましく、アクリル酸が特に好ましい。
【0013】
前記不飽和カルボン酸又はその無水物(a2)の含有率は、前記単量体成分中、好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0014】
前記ポリオキシアルキレン単位及び重合性不飽和基を有する単量体(a3)は、ポリオキシアルキレン単位と重合性不飽和基とが、直接又は連結基を介して結合している単量体であり、前記連結基としては、-CO-、-O-、-NH-、2価の炭化水素基(炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素原子数3~10の脂環式炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基、又はこれらを組み合わせた炭素原子数20以下の基)、又はこれらを組み合わせた基が挙げられ、-CO-が好ましい。前記ポリオキシアルキレン単位の他端(重合性不飽和基が結合していない端)には、-OR(Rは、炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素原子数3~10の脂環式炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基、又はこれらを組み合わせた炭素原子数20以下の基)が結合していてもよく、前記Rとしては、脂肪族炭化水素基(好ましくはアルキル基)が好ましく、該脂肪族炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは1~5、より好ましくは1~2である。
【0015】
前記ポリオキシアルキレン単位は、オキシエチレン単位を含むことが好ましい。前記ポリオキシアルキレン単位中、オキシエチレン単位の含有率は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0016】
前記ポリオキシアルキレン単位において、オキシアルキレン単位の繰り返し数は、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは7以上であり、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、さらに好ましくは15以下である。
【0017】
前記ポリオキシアルキレン単位及び重合性不飽和基を有する単量体(a3)の数平均分子量は、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、さらに好ましくは400以上であり、好ましくは1,500以下、より好ましくは1,000以下、さらに好ましくは800以下、いっそう好ましくは600以下である。
【0018】
前記単量体成分は、前記(メタ)アクリルアミド単量体(a1)、前記不飽和カルボン酸又はその無水物(a2)、オキシアルキレン単位及び重合性不飽和基を有する単量体(a3)以外に、その他の単量体(a4)を含んでいてもよい。
【0019】
前記その他の単量体(a4)としては、(メタ)アクリル酸エステル、親水性基(ヒドロキシ基、イミド基、シアノ基、アミノ基、スルホン酸基、第4級アンモニウム基等)を有するアクリル単量体、その他のビニル化合物等が挙げられる。
【0020】
前記(メタ)アクリル酸エステルとしては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸n-オクタデシル、(メタ)アクリル酸イソオクタデシル等の脂肪族(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル等の脂環式(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸フェニル等の芳香族(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0021】
前記イミド基を有するアクリル単量体としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、(メタ)アクリルイミド、N-メチロールマレイミド、N-ヒドロキシエチルマレイミド、N-グリシジルマレイミド、N-4-クロロメチルフェニルマレイミド、N-アセトキシエチルマレイミド等が挙げられる。
【0022】
前記シアノ基を有するアクリル単量体としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、アクリロニトリル、シアノメチルアクリレート、2-シアノエチルアクリレート、シアノプロピルアクリレート、1-シアノメチルエチルアクリレート、2-シアノプロピルアクリレート、1-シアノシクロプロピルアクリレート、1-シアノシクロヘプチルアクリレート、1、1-ジシアノエチルアクリレート、2-シアノフェニルアクリレート、3-シアノフェニルアクリレート、4-シアノフェニルアクリレート、3-シアノベンジルアクリレート、4-シアノベンジルアクリレート等が挙げられる。
【0023】
前記アミノ基を有するアクリル単量体としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-tert-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0024】
前記4級アンモニウム基を有するアクリル単量体としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、テトラブチルアンモニウム(メタ)アクリレート、トリメチルベンジルアンモニウム(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0025】
前記スルホン酸基を有するアクリル単量体としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、スルホプロピル(メタ)アクリレートナトリウム、2-スルホエチル(メタ)アクリレートナトリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0026】
前記その他のビニル化合物としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0027】
前記その他の単量体(a4)の含有率は、前記単量体成分中、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下であり、下限は0質量%である。
【0028】
前記単量体成分を重合することにより、前記アクリル重合体(A)を得ることができる。重合法としては、ラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法等が挙げられ、ラジカル重合法が好ましい。重合の際は、1種又は2種以上の重合開始剤を用いることができる。前記重合開始剤としては、具体的には、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}二塩酸塩、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)等のアゾ開始剤;過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、クメンハイドロパーオキサイド等の過酸化物開始剤;過硫酸塩開始剤;カルボニル開始剤;レドックス開始剤等などが挙げられ、アゾ開始剤が好ましい。
【0029】
前記重合は、水、親水性有機溶剤又は水と親水性有機溶剤との混合物中で行うことができ、前記親水性溶剤としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコール溶剤;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル溶剤;N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム溶剤などが挙げられる。
【0030】
前記アクリル重合体(A)の重量平均分子量は、230,000以上であり、好ましくは250,000以上、さらに好ましくは260,000以上であり、例えば1,000,000以下、700,000以下、500,000以下であってもよい。
【0031】
前記アクリル重合体(A)の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ法により、ポリスチレンを標準試料とした換算値として測定することができる。
【0032】
前記ウレタン樹脂(B)は、分子内にウレタン結合を有する重合体であり、ポリオール(b1)とポリイソシアネート(b2)と、必要に応じて用いる鎖伸長剤(b3)及び/又は末端停止剤(b4)との反応物であることが好ましい。鎖伸長剤(b3)及び/又は末端停止剤(b4)を用いる場合、ポリオール(b1)とポリイソシアネート(b2)とを反応させ、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーとして、鎖伸長剤(b3)及び/又は末端停止剤(b4)と反応させることが好ましい。
【0033】
前記ポリオール(b1)としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオールのポリマーポリオール(b1-1);親水性基を有するポリオール(b1-2);低分子量ポリオール(b1-3)などが挙げられる。
【0034】
前記ポリマーポリオール(b1-1)の数平均分子量は、好ましくは500以上、より好ましくは800以上であり、好ましくは5,000以下、より好ましくは4,000以下、さらに好ましくは3,000以下である。
【0035】
前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール等の活性水素原子を2個以上有する化合物の1種又は2種以上を必要に応じて開始剤として用い、アルキレンオキシドを付加重合させたものなどが挙げられる。
【0036】
前記開始剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-プロパンジオ-ル、1,3-プロパンジオ-ル、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、蔗糖、アコニット糖、トリメリット酸、ヘミメリット酸、リン酸、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリイソプロパノールアミン、ピロガロール、ジヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフタル酸、1,2,3-プロパントリチオール等が挙げられる。
【0037】
前記アルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0038】
前記ポリエーテルポリオールとしては、テトラヒドロフランの開環重合により得られるポリオキシテトラメチレングリコールが好ましい。
【0039】
前記ポリエーテルポリオールの数平均分子量は、好ましくは500以上、3,000以下である。
【0040】
前記ポリエステルポリオールとしては、例えば、低分子量のポリオールと、ポリカルボン酸とを反応して得られるポリエステルポリオール;ε-カプロラクトン等の環状エステル化合物を開環重合反応して得られるポリエステルポリオール;これらを共重合して得られるポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0041】
前記ポリエステルポリオールの製造に用いられる低分子量のポリオールとしては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、グリセリン、トリメチロ-ルプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の分子量が50以上300以下である脂肪族ポリオール;シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA等の脂環式構造を有するポリオール;ビスフェノールA及びビスフェノールF等の芳香族構造を有するポリオールなどが挙げられる。
【0042】
前記ポリカルボン酸としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ポリカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸等の脂環式ポリカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ポリカルボン酸;それらの無水物またはエステル化物などが挙げられる。
【0043】
前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、炭酸エステルと多価アルコールとのエステル化反応物、多価アルコールとホスゲンとの反応物等が挙げられる。
【0044】
前記炭酸エステルとしては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、脂肪族カーボネート、脂環式カーボネート(以下、脂環構造を含むことを「脂環式」という場合がある。)、芳香族カーボネートが挙げられる(以下、芳香族構造を含むことを総称して「芳香族」という場合がある。)。脂肪族カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジ-n-ブチルカーボネート、ジイソブチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、エチルイソブチルカーボネート等の飽和脂肪族カーボネート;エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、1,2-プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、1,3-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、1,2-ペンチレンカーボネート、1,3-ペンチレンカーボネート、1,4-ペンチレンカーボネート、1,5-ペンチレンカーボネート、2,3-ペンチレンカーボネートおよび2,4-ペンチレンカーボネート等の不飽和脂肪族カーボネートなどが挙げられる。芳香族カーボネートとしては、ジフェニルカーボネート、ジベンジルカーボネート等が挙げられる。
【0045】
前記多価アルコールとしては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の直鎖状又は分岐鎖状のジオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA等の脂環式ジオール;トリメチロールメタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の3官能以上のポリオールなどが挙げられる。
【0046】
前記ポリオレフィンポリオールとしては、例えば、ポリエチレンポリオール、ポリプロピレンポリオール、ポリイソブテンポリオール、水素添加(水添)ポリブタジエンポリオール、水素添加(水添)ポリイソプレンポリオール等が挙げられる。
【0047】
前記ポリマーポリオール(b1-1)としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールが好ましい。
【0048】
前記ポリマーポリオール(b1-1)の含有率は、前記ポリオール(b1)中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは93質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0049】
前記親水性基を有するポリオール(b1-2)としては、アニオン性基を有するポリオール、カチオン性基を有するポリオール、ノニオン性基を有するポリオール等が挙げられ、アニオン性基又はカチオン性基を有するポリオールが好ましく、アニオン性基を有するポリオールがより好ましい。
【0050】
前記アニオン性基を有するポリオールとしては、例えば、カルボキシル基を有するポリオールや、スルホン酸基を有するポリオール等が挙げられる。
【0051】
前記カルボキシル基を有するポリオールとしては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸等が挙げられる。これらの中でも2,2-ジメチロールプロピオン酸が好ましい。また、前記カルボキシル基を有するポリオールと各種ポリカルボン酸とを反応させて得られるカルボキシル基を有するポリエステルポリオールも使用することもできる。
【0052】
前記スルホン酸基を有するポリオールとしては、例えば、5-スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4-スルホフタル酸、5[4-スルホフェノキシ]イソフタル酸等のジカルボン酸またそれらの塩と、前記芳香族構造を有するポリエステルポリオールの製造に使用可能なものとして例示した低分子量ポリオールとを反応させて得られるポリエステルポリオールが挙げられる。
【0053】
前記アニオン性基は、それらの一部又は全部が、塩基性基等によって中和されていることが好ましい。前記塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、モルホリン、モノエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等の沸点が200℃以上の有機アミンや、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を含む金属水酸化物などが挙げられる。前記塩基性化合物は、ウレタン樹脂組成物の水分散安定性を向上させる観点から、前記塩基性化合物が有する塩基性基/アニオン性基=0.5~3.0(モル比)となる範囲で使用することが好ましく、0.8~2.0(モル比)となる範囲で使用することがより好ましい。
【0054】
前記カチオン性基を有するポリオールとしては、例えば、3級アミノ基を有するポリオール等が挙げられる。具体的には、N-メチル-ジエタノールアミン、1分子中にエポキシを2個有する化合物と2級アミンとを反応させて得られるポリオール等が挙げられる。
【0055】
前記カチオン性基は、その一部または全部が、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グルタル酸、酒石酸、アジピン酸等の酸性化合物で中和されていることが好ましい。
【0056】
また、前記カチオン性基としての3級アミノ基は、その一部または全部が4級化されていることが好ましい。前記4級化剤としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、メチルクロライド、エチルクロライド等が挙げられる。これらの中でもジメチル硫酸を使用することが好ましい。
【0057】
また、前記ノニオン性基を有するポリオールとしては、例えば、ポリオキシエチレン構造を有するポリオール等が挙げられる。
【0058】
前記親水性基を有するポリオール(b1-2)の含有率は、前記ポリオール(b1)中、好ましくは0.3質量%以上、10質量%以下である。
【0059】
前記低分子量ポリオール(b1-3)は、分子量が500未満(好ましくは450以下、より好ましくは400以下であり、下限は50程度)のポリオールであり、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族ポリオール;シクロブタンジオール、シクロペンタンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、シクロヘプタンジオール、シクロオクタンジオール、ブチルシクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ヒドロキシプロピルシクロヘキサノール、ジシクロヘキサンジオール、水素添加ビスフェノ-ルA、1,3-アダマンタンジオール、1,1’-ビシクロヘキシリデンジオール、シクロヘキサントリオール等の脂環式ポリオール;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、およびそれらのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド付加物等の芳香族ポリオールなどが挙げられる。
【0060】
前記低分子量ポリオール(b1-3)を含む場合、その含有率は、前記ポリオール(b1)中、好ましくは0.1質量%以上、15質量%以下である。
【0061】
前記ポリイソシアネート(b2)としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0062】
前記脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートメチルエステル、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。これらの脂肪族ポリイソシアネートは、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0063】
前記脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジメチルメタンジイソシアネート、2,2’-ジメチルジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ビス(4-イソシアナト-n-ブチリデン)ペンタエリスリトール、ダイマ酸ジイソシアネート、2-イソシアナトメチル-3-(3-イソシアナトプロピル)-5-イソシアナトメチル-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプタン、2-イソシアナトメチル-3-(3-イソシアナトプロピル)-6-イソシアナトメチル-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプタン、2-イソシアナトメチル-2-(3-イソシアナトプロピル)-5-イソシアナトメチル-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプタン、2-イソシアナトメチル-2-(3-イソシアナトプロピル)-6-イソシアナトメチル-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプタン、2-イソシアナトメチル-3-(3-イソシアナトプロピル)-6-(2-イソシアナトエチル)-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプタン、2-イソシアナトメチル-3-(3-イソシアナトプロピル)-6-(2-イソシアナトエチル)-ビシクロ〔2,1,1〕-ヘプタン、2-イソシアナトメチル-2-(3-イソシアナトプロピル)-5-(2-イソシアナトエチル)-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプタン、2-イソシアナトメチル-2-(3-イソシアナトプロピル)-6-(2-イソシアナトエチル)-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプタン、ノルボルネンジイソシアネート等が挙げられ、飽和脂環式ポリイソシアネートであることが好ましく、単環式の(縮合環を有しない)脂環式ポリイソシアネートであることが好ましい。これらの脂環式ポリイソシアネートは、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0064】
前記芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。これらの芳香族ポリイソシアネートは、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0065】
なかでも、得られる塗膜の親水性能の観点から、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートを含むことが好ましく、脂環式ポリイソシアネートを含むことがより好ましい。
【0066】
前記ポリイソシアネート(b2)に含まれるイソシアネート基と、前記ポリオール(b1)に含まれる水酸基とのモル比(NCO/OH)は、好ましくは1.05以上であり、好ましくは3以下、より好ましくは2以下である。
【0067】
前記鎖伸長剤(b3)は、分子中に活性水素原子を有する基(好ましくは置換又は無置換のアミノ基)を2個以上有する化合物であって、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,3-ブタンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアミン(イソホロンジアミン)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ヒドラジン、o-トリレンジアミン、m-トリレンジアミン、p-トリレンジアミン等のジアミン化合物;ジエチレントリアミン等のトリアミン化合物、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のアミノ基を4個以上有するポリアミン化合物などが挙げられる。
【0068】
前記鎖伸長剤は、前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。
【0069】
前記末端停止剤(b4)としては、分子中に活性水素原子を有する基(好ましくは置換若しくは無置換のアミノ基又はヒドロキシル基)を1個有する化合物又は分子中にヒドロキシル基と活性水素原子を有する基(好ましくは置換若しくは無置換のアミノ基又はヒドロキシル基)とを有する化合物などが挙げられる。
【0070】

前記分子中に活性水素原子を有する基(好ましくは置換若しくは無置換のアミノ基又はヒドロキシル基)を1個有する化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、ウンデカノール等のモノアルコール化合物;アンモニア、ジブチルアミン、アミノシラン等のモノアミン化合物などが挙げられる。
【0071】
前記分子中にヒドロキシル基と活性水素原子を有する基(好ましくは置換若しくは無置換のアミノ基又はヒドロキシル基)とを有する化合物としては、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等のジオール化合物;エタノールアミン、ジエタノールアミン等のアミノアルコール化合物などが挙げられる。
【0072】
前記末端停止剤(b4)は、前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0073】
前記ポリオール(b1)と、前記ポリイソシアネート(b2)と、必要に応じて用いる鎖伸長剤(b3)及び/又は末端停止剤(b4)とを反応させることにより、前記ウレタン樹脂(B)を製造することができる。反応温度は、50~150℃であることが好ましい。また、前記反応時は、有機錫化合物等のウレタン化触媒を共存させてもよい。
【0074】
前記親水性基を有するポリオールとしてアニオン性基を有するポリオールを用いる場合、前記ウレタン樹脂の酸価は、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上であり、好ましくは70mgKOH/g以下、より好ましくは50mgKOH/g以下である。
【0075】
前記アクリル重合体(A)と前記ウレタン樹脂(B)の質量比((A)/(B))は、好ましくは5/95以上、より好ましくは10/90以上であり、好ましくは50/50以下、より好ましくは40/60以下である。
【0076】
前記ウレタン樹脂(B)は、予め水性媒体(C)の一部又は全部に分散した後に、前記アクリル重合体(A)、後述する水性媒体(C)と混合してもよい。
【0077】
前記水性媒体(C)としては、水、水と混和しうる有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。水と混和しうる有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等のアルコール溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤;エチレングリコール-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコール-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル等のグリコールエーテル溶剤;N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン等のラクタム溶剤;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド溶剤などが挙げられる。これらの水と混和する有機溶剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0078】
また、前記水性媒体(C)としては、安全性や環境に対する負荷低減を考慮すると、水のみ、又は、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましく、水のみがより好ましい。
【0079】
前記水性媒体(C)の含有率は、前記水性樹脂組成物全量中、好ましくは30~80質量%であり、より好ましくは50~70質量%である。
【0080】
前記水性樹脂組成物は、前記アクリル重合体(A)、前記水性媒体(C)以外に、必要に応じて、架橋剤、可塑剤、帯電防止剤、ワックス、界面活性剤、光安定剤、流動調整剤、染料、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光触媒性化合物、無機顔料、有機顔料、体質顔料等のその他の添加剤等を含んでいてもよい。
【0081】
前記架橋剤としては、例えば、アミノ樹脂、アジリジン化合物、メラミン化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物等が挙げられる。
【0082】
また、前記界面活性剤を使用することで、本発明のウレタン樹脂組成物の配合安定性をより一層向上できる。界面活性剤を使用する場合は、得られる塗膜の基材密着性を維持できることから、前記ウレタン樹脂(A)100質量部に対して、20質量部以下の範囲で使用することが好ましく、できるだけ使用しないことが好ましい。
【0083】
前記その他の添加剤の含有率は、前記水性樹脂組成物の不揮発分中、例えば30質量%以下、例えば20質量%以下であり、下限は0質量%であり、0.1質量%以上であってもよい。
【0084】
前記水性樹脂組成物からなるコーティング剤も本発明の技術的範囲に包含される。前記コーティング剤の基材としては、例えば、金属、各種プラスチックやそのフィルム、ガラス、紙、木材等が挙げられる。
【0085】
前記金属基材としては、例えば、自動車、家電、建材等の用途に使用される亜鉛めっき鋼板やアルミニウム-亜鉛めっき鋼板、アルミ板、アルミ合金板、電磁鋼板、銅板、ステンレス鋼板等が挙げられる。
【0086】
前記プラスチック基材としては、一般に、携帯電話、家電製品、自動車内外装材、OA機器等のプラスチック成型品に採用されている素材として、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ABS/PC樹脂、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA樹脂)、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等が挙げられ、プラスチックフィルム基材としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、TAC(トリアセチルセルロース)フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等を使用することができる。
【0087】
前記コーティング剤は、例えば、アルミフィン;外壁、屋根等の建築部材;ガードレール、防音壁、排水溝等の土木部材;家電製品;産業機械;自動車外装材;ゴーグル;防曇フィルムシート、防曇ガラス等の防曇材;鏡;医療器具等の各種物品の表面塗装などに好適に用いることができる。これらの前記コーティング剤の塗膜を有する物品も、本発明の技術的範囲に包含される。
【0088】
前記水性樹脂組成物を基材に塗工し、乾燥、硬化させることにより塗膜を形成することができる。前記塗工方法としては、例えば、スプレー法、カーテンコーター法、フローコーター法、ロールコーター法、刷毛塗り法、浸漬法等が挙げられる。前記乾燥は、常温下で自然乾燥でも良いが、加熱乾燥させることもできる。加熱乾燥は、通常40~250℃で、1~600秒程度の時間で行うことが好ましい。
【0089】
前記水性樹脂組成物は、その架橋塗膜の厚みが、例えば10μm以下(さらには5μm以下、2.5μm以下)であっても、初期親水性、耐食性及び親水持続性を発揮することができる。架橋塗膜の厚みの下限は、例えば、0.1μmである。
【実施例
【0090】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本実施例において、アクリル重合体の重量平均分子量は、以下の方法により測定した。
【0091】
[アクリル重合体の重量平均分子量の測定法]
前記アクリル重合体(A)の重量平均分子量は、以下の条件で測定した。
HPLC :Shimadzu/L20システム
カラム :Shodex OHpak SB-806MHQ
(8.0mmI.D. ×300mmL.×2本)
ガードカラム :Shodex OHpak SB-G
(4.6mmI.D. ×10mmL.)
カラム温度 :40℃
溶離液 :0.2mol/L 硝酸ナトリウム水溶液
流量 :0.70mL/min
検出器 :RI,UV254nm
注入量 :50μL
使用メソッド :0.2M_NaNO3.lcm
【0092】
(標準試料)
昭和電工株式会社製「Shodex Pullulan P-800」
昭和電工株式会社製「Shodex Pullulan P-400」
昭和電工株式会社製「Shodex Pullulan P-200」
昭和電工株式会社製「Shodex Pullulan P-100」
昭和電工株式会社製「Shodex Pullulan P-50」
昭和電工株式会社製「Shodex Pullulan P-20」
昭和電工株式会社製「Shodex Pullulan P-10」
昭和電工株式会社製「Shodex Pullulan P-5」
【0093】
(合成例(A-1))
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、窒素雰囲気下、重合溶媒としてイオン交換水とイソプロピルアルコールを合計150質量部となるように仕込み、N,N-ジメチルアクリルアミド(以下、「DMAA」という)50質量部、メトキシポリエチレングリコールアクリレート(新中村化学工業株式会社製「AM-90G」、オキシエチレン基の平均付加モル数が9モル)48質量部、アクリル酸(以下、「AA」という)2質量部を仕込んだ。次いで、アゾ系重合開始剤(和光純薬工業株式会社製「VA-044」)0.1質量部を滴下し、50℃に保持してラジカル重合を行い、アクリル重合体(A-1)の組成物を得た。得られたアクリル重合体(A-1)の組成物の重量平均分子量は310,000であり、不揮発分は40質量%であった。
【0094】
(合成例(A-2)~(A-5))
単量体成分を表1に示す通りに変更したこと以外は、調製例1と同様にして、アクリル重合体(A-2)~(A-5)の組成物を得た。
【0095】
(合成例(B-1))
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中に、エチレングリコールとネオペンチルグリコールとテレフタル酸とイソフタル酸とアジピン酸を反応させて得られた数平均分子量1,200のポリエステルポリオール69.8質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA)2.7質量部、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)25質量部及びメチルエチルケトン65質量部を仕込み70℃で反応させることによって、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液を得た。
【0096】
次いで40℃に冷却し、トリエチルアミンを2質量部加えることで前記ウレタンプレポリマーが有するカルボキシル基の一部または全部を中和し、さらに水335質量部を加え十分に攪拌し、次いでエチレンジアミン(EDA)0.5質量部を加えて、ウレタン樹脂の水分散体を得、エージング・脱溶剤することによって、不揮発分30質量%のウレタン樹脂(B-1)の組成物を得た。
【0097】
(合成例(B-2))
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中に、エチレングリコールとネオペンチルグリコールとテレフタル酸とイソフタル酸とアジピン酸を反応させて得られた数平均分子量1,200のポリエステルポリオール76.0質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA)2.9質量部、イソホロンジイソシアネート(IPDI)18.9質量部及びメチルエチルケトン65質量部を仕込み70℃で反応させることによって、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液を得た。
【0098】
次いで前記ウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液中に、1,3-ブタンジオール0.2質量部を添加し70℃で反応させ、イソシアネート成分を完全に反応停止させた。次いで40℃に冷却し、トリエチルアミン(TEA)を2質量部加えることで前記ウレタンプレポリマーが有するカルボキシル基の一部または全部を中和し、さらに水335質量部を加え十分に攪拌し、ウレタン樹脂の水分散体を得、エージング・脱溶剤することによって、不揮発分30質量%のウレタン樹脂(B-2)の組成物を得た。
【0099】
(合成例(B-3))
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中に、エチレングリコールとネオペンチルグリコールとテレフタル酸とイソフタル酸とアジピン酸を反応させて得られた数平均分子量1,200のポリエステルポリオール79.2質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA)3.0質量部、トリレンジイソシアネート(TDI)15.4質量部及びメチルエチルケトン65質量部を仕込み70℃で反応させることによって、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液を得た。
【0100】
次いで前記ウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液中に、1,3-ブタンジオール0.2質量部を添加し70℃で反応させ、イソシアネート成分を完全に反応停止させた。次いで40℃に冷却し、トリエチルアミン(TEA)を2.3質量部加えることで前記ウレタンプレポリマーが有するカルボキシル基の一部または全部を中和し、さらに水335質量部を加え十分に攪拌し、ウレタン樹脂の水分散体を得、エージング・脱溶剤することによって、不揮発分30質量%のウレタン樹脂(B-3)の組成物を得た。
【0101】
(実施例1~4、比較例1~4の調製)
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、以下の表に示すアクリル重合体(A)とウレタン樹脂(B)の溶液とを、アクリル重合体(A)とウレタン樹脂(B)の不揮発分の質量比((A)/(B))が20/80、アクリル重合体(A)とウレタン樹脂(B)の不揮発分の合計10質量部に対して水性媒体(C)としてのイオン交換水が30質量部となるように加えて水分散体を得た。この水分散体を減圧蒸留することにより、不揮発分が25質量%である水性樹脂組成物(1)~(4)、(D1)~(D4)を得た。
【0102】
[試験片の作成]
実施例1~4、比較例1~4で得られた水性樹脂組成物(1)~(4)、(D1)~(D4)の組成物を、アルミニウム板に1μm厚で塗布し、180℃で1分間乾燥させ、試験片を作成した。
【0103】
[耐食性の評価]
前記試験体を構成する塗膜を試験機株式会社製塩水噴霧試験器にて塩水噴霧試験を実施し、240時間後の錆発生面積を目視により求めて評価した。JIS試験方法(JIS Z2371:2000)に準拠した方法にて測定した。
【0104】
○:錆の生じた面積が、塗膜表面全体の20%未満であった。
△:錆の生じた面積が、塗膜表面全体の20%以上70%未満であった。
×:錆の生じた面積が、塗膜表面全体の70%以上であった。
【0105】
[初期親水性の評価]
試験片表面に、純水8μLを滴下し、8秒後の接触角を測定した。
【0106】
[親水保持性の評価]
試験片の湿潤-乾燥サイクルを20回繰り返した後、試験片表面に、純水8μLを滴下し、8秒後の接触角を測定した。湿潤条件は、25℃の水に2分間浸漬することとし、乾燥条件は、40℃で6分間保持することとした。
【0107】
[密着性の評価]
前記方法で作製した試験板のプライマー層の表面に、ニチバン株式会社製の24mm幅の粘着テープを貼付した。次いで、前記粘着テープを前記塗膜に対して垂直方向に引張り、前記粘着テープを塗膜の表面から剥がした際の、前記塗膜の表面の状態を、下記評価基準に従って目視で評価した。
◎:試験板を構成する基材表面から塗膜が全く剥離しなかった。
○:試験板を構成する基材表面から、ごく一部の塗膜が剥離したが、その剥離した範囲は、試験板を構成する皮膜の全面積に対して10%未満であった。
△:試験板を構成する塗膜の面積に対して10%以上50%未満の範囲のプライマー層が、試験板を構成する基材表面から剥離した。
×:試験板を構成する塗膜の全面積に対して50%以上の範囲のプライマー層が、試験板を構成する基材表面から剥離した。
【0108】
評価結果を表1に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
表中、AMは、アクリルアミド、AAはアクリル酸をそれぞれ表す。
【0111】
実施例1~4は、本発明の実施例であり、初期の表面親水性及び耐食性を発揮しつつ、湿潤・低温状態と乾燥・高温状態とが繰り返される条件下においても親水性・耐食性を維持することができ、親水保持性が良好であった。一方、比較例1、2は、アクリル重合体の重量平均分子量が23万未満の例であり、親水保持性が十分に満足できるものではなかった比較例3は、ウレタン樹脂を含まない例であり、耐食性、密着性、親水保持性に劣るものであった。比較例4は、アクリル重合体を含まない例であり、初期の親水性に劣るものであった。