(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 64/30 20060101AFI20230314BHJP
【FI】
C08G64/30
(21)【出願番号】P 2019028599
(22)【出願日】2019-02-20
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503231882
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】谷口 翔平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 葉裕
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 賢
(72)【発明者】
【氏名】門田 敏樹
(72)【発明者】
【氏名】柴田 浩喜
(72)【発明者】
【氏名】ワン ツン
(72)【発明者】
【氏名】マーティン バン ミュアーズ
(72)【発明者】
【氏名】テイ ブン イン
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-512460(JP,A)
【文献】特表2012-501359(JP,A)
【文献】特開2016-183287(JP,A)
【文献】特開2002-146172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00-64/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融重合条件下、ビスフェノールAとジアリールカーボネートとをエステル交換触媒の存在下に溶融重縮合させる工程を含むポリカーボネート樹脂の製造方法であって、該エステル交換触媒が、下記式(1)で表される化合
物であることを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法。
【化1】
(式(1
)中、R
1、R
2、R
3は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立して、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルボニル基、またはアリールカルボニル基を表し、これらの基は更に置換基を有していてもよく、該置換基中にはヘテロ原子が含まれていてもよい。またR
1、R
2、R
3は、その内の2つの基が相互に結合して環を形成していてもよい。但し、式(1)におけるR
1、R
2およびR
3のうちの少なくとも一
つは、炭素数6以上の芳香族炭化水素環または脂肪族炭化水素環を含み、R
1、R
2、R
3の炭素原子数の合計は50以下である。
R
4、R
4’、R
5、R
5’は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルボニル基、またはアリールカルボニル基を表し、これらの基は更に置換基を有していてもよく、該置換基中にはヘテロ原子が含まれていてもよい。またR
4、R
4’、R
5、R
5’は、その内の2つの基が相互に結合して環を形成していてもよい。但し、R
4、R
4’、R
5、R
5’の炭素原子数の合計は50以下である。
R
4’、R
5’が存在する場合、式(1
)中の点線と実線の組み合わせ部分は単結合を示すが、R
4’、R
5’はなくてもよく、その場合、式(1
)中の点線と実線の組み合わせ部分は二重結合を示す。
X
-は、アニオンを表す。)
【請求項2】
前記式(1
)中、R
1およびR
3の少なくとも一つが、アダマンチル基、フェニル基およびメシチル基から選ばれる基であることを特徴とする請求項
1に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記エステル交換反応時の反応混合物中の前記触媒濃度が前記ビスフェノールAの1molに対して、0.01~1000μmolであることを特徴とする請求項1
又は2に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記エステル交換反応時の温度が200~350℃であることを特徴とする請求項1ないし
3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項5】
製造された前記ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量[Mv]が5,000~40,000であることを特徴とする請求項1ないし
4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項6】
製造された前記ポリカーボネート樹脂を加水分解した後に測定された、下記式(A)~(E)で表される化合物の総量が該ポリカーボネート樹脂に対して100ppm以上800ppm以下であることを特徴とする請求項1ないし
5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【化2】
(式(A)~(E)中、R
a~R
fは、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を示す。なお、式(A)~(E)中のベンゼン環は、式中に示されていない置換基を有していてもよい。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂の製造方法に関する。より詳しくは、色調に優れ、特定の副生成物量が少ないポリカーボネート樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、機械的物性、光学特性、電気的特性に優れた樹脂であり、例えば自動車材料、電気電子機器材料、住宅材料、その他の工業分野における部品製造用材料等に幅広く利用されている。
【0003】
ポリカーボネート樹脂の製造方法としては、いくつかの方法が知られているが、ジヒドロキシ化合物(例えば、ビスフェノールA)と、炭酸ジエステル(例えば、ジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネート)とを、エステル交換触媒の存在下に、溶融エステル交換法により反応させてポリカーボネート樹脂を製造するプロセスが、環境に影響を与える溶媒を使用しない、製造に必要なエネルギーが小さい、製品中の夾雑塩素などの不純物が少ない、といったいくつかのメリットを有するため商業的プロセスとしては好ましい。
【0004】
上記エステル交換触媒としては、従来、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属等の金属系触媒を用いる方法が知られている。また、ホスホニウム塩やアンモニウム塩などの第4級オニウム塩を用いる方法(特許文献1参照)、含窒素塩基性化合物などの有機系塩基触媒を用いる方法(例えば、特許文献2~4参照)や、上記金属系触媒と有機系塩基触媒を組み合わせる方法(例えば特許文献5~7参照)も提案されている。また、特許文献8にはイミダゾール構造を有する触媒を用いる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2004-526839号公報
【文献】特開平7-82363号公報
【文献】特開2016-183287号公報
【文献】特開平2-124934号公報
【文献】特開平5-1145号公報
【文献】特開平7-109346号公報
【文献】特開2014-101487号公報
【文献】中国特許出願公開第107573497号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エステル交換法によるポリカーボネート樹脂の製造プロセスでは、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを溶融状態とし、エステル交換触媒を添加して高真空条件下でフェノールなどのモノヒドロキシ化合物を留去しながら重縮合を行うが、高温条件のために副反応を引き起こし、着色成分や、耐候性や流動性に悪影響を及ぼす特定の副生成物が生成するという課題がある。
【0007】
エステル交換触媒として金属系触媒を使用した場合は、特にポリカーボネート樹脂の色調が低下しやすく、副生成物も生成しやすいという課題がある。加えて、得られたポリカーボネート樹脂の熱安定性、特に溶融滞留時の色調安定性や、高温時の耐加水分解性も劣るという欠点もある。
【0008】
一方、有機系塩基触媒を用いて製造されたポリカーボネート樹脂は、金属系触媒によって得られるポリカーボネート樹脂よりも副生成物が少ない傾向にあるが、未だ満足のいくレベルではなく、色調が悪化しやすいという課題もあった。また、有機系塩基触媒は減圧下で揮散しやすく、重合の最終段階までポリマー中に残ることができないため、重合活性を発揮することができず、高分子量のポリカーボネート樹脂が得られないといった欠点も有していた。
【0009】
金属系触媒と有機系塩基触媒を組み合わせる手法もまた、金属塩系触媒の配合量に応じて副生成物が増加し、さらには色調が悪化するため、やはり重合活性と品質のバランスをとることができないという課題を有していた。
【0010】
本発明は上述の課題に鑑みて創案されたもので、十分な重合活性を最終重合段階まで発揮でき、副反応をも抑制できる新規な有機系塩基触媒を用いることにより、色調に優れ、特定の副生成物量が少ないポリカーボネート樹脂を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決するために、ポリカーボネート樹脂製造の際の反応性や副反応抑制、揮発性とエステル交換触媒の分子構造の関係性に注目して検討を重ねた結果、特定の構造を有するカルベン化合物および/またはイミダゾール化合物を使用することにより、色調に優れ、副生成物量が少ないポリカーボネート樹脂を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明は以下を要旨とする。
【0013】
[1] 溶融重合条件下、ビスフェノールAとジアリールカーボネートとをエステル交換触媒の存在下に溶融重縮合させる工程を含むポリカーボネート樹脂の製造方法であって、該エステル交換触媒が、下記式(1)で表される化合物および下記式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法。
【0014】
【0015】
(式(1)、(2)中、R1、R2、R3は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立して、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルボニル基、またはアリールカルボニル基を表し、これらの基は更に置換基を有していてもよく、該置換基中にはヘテロ原子が含まれていてもよい。またR1、R2、R3は、その内の2つの基が相互に結合して環を形成していてもよい。但し、式(1)におけるR1、R2およびR3のうちの少なくとも一つ、式(2)におけるR1およびR3のうちの少なくとも一つは、炭素数6以上の芳香族炭化水素環または脂肪族炭化水素環を含み、R1、R2、R3の炭素原子数の合計は50以下である。
R4、R4’、R5、R5’は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルボニル基、またはアリールカルボニル基を表し、これらの基は更に置換基を有していてもよく、該置換基中にはヘテロ原子が含まれていてもよい。またR4、R4’、R5、R5’は、その内の2つの基が相互に結合して環を形成していてもよい。但し、R4、R4’、R5、R5’の炭素原子数の合計は50以下である。
R4’、R5’が存在する場合、式(1)、(2)中の点線と実線の組み合わせ部分は単結合を示すが、R4’、R5’はなくてもよく、その場合、式(1)、(2)中の点線と実線の組み合わせ部分は二重結合を示す。
【0016】
[2] 前記触媒が前記式(1)で表される化合物であることを特徴とする[1]に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【0017】
[3] 前記式(1)、(2)中、R1およびR3の少なくとも一つが、アダマンチル基、フェニル基およびメシチル基から選ばれる基であることを特徴とする[1]または[2]に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【0018】
[4] 前記エステル交換反応時の反応混合物中の前記触媒濃度が前記ビスフェノールAの1molに対して、0.01~1000μmolであることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【0019】
[5] 前記エステル交換反応時の温度が200~350℃であることを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【0020】
[6] 製造された前記ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量[Mv]が5,000~40,000であることを特徴とする[1]ないし[5]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【0021】
[7] 製造された前記ポリカーボネート樹脂を加水分解した後に測定された、下記式(A)~(E)で表される化合物の総量が該ポリカーボネート樹脂に対して100ppm以上800ppm以下であることを特徴とする[1]ないし[6]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【0022】
【0023】
(式(A)~(E)中、Ra~Rfは、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を示す。なお、式(A)~(E)中のベンゼン環は、式中に示されていない置換基を有していてもよい。)
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、重縮合触媒であるエステル交換触媒として、特定の構造を有するカルベン化合物および/またはイミダゾール化合物を用いることにより、反応活性を維持したまま副反応を抑制することができ、色調に優れ、副生成物量が少ないポリカーボネート樹脂を製造することができる。
【0025】
本発明により製造されたポリカーボネート樹脂は、自動車材料、電気電子機器材料、住宅材料、その他の工業分野における部品製造用材料等として、ポリカーボネート樹脂単体で、または他の樹脂や添加剤をコンパウンドした組成物として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について実施形態および例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態および例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0027】
[1.概要]
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法は、ビスフェノールAとジアリールカーボネートとを、特定の構造を有するカルベン化合物および/またはイミダゾール化合物よりなるエステル交換触媒の存在下に重縮合してポリカーボネート樹脂を製造する方法である。
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法でエステル交換触媒として用いる特定の構造を有するカルベン化合物および/またはイミダゾール化合物は、高分子量の置換基を含み、重合最終段階まで分解ないし揮発することなく重合活性を発揮し、かつ分子サイズが大きいために副反応を効率的に抑制することができる。
【0028】
[1.ビスフェノールA・ジアリールカーボネート]
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法においては、原料として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA、以下、“BPA”と略記することがある)とジアリールカーボネートを用いる。
ジアリールカーボネートとしては、好ましくは下記式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0029】
【0030】
上記式(3)中、R11及びR12は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシカルボニル基、炭素数4~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基であり、m及びnはそれぞれ独立に0~5の整数を表す。
【0031】
ジアリールカーボネートとしては、具体的にはジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と称する場合がある。)、ビス(4-メチルフェニル)カーボネート、ビス(4-クロロフェニル)カーボネート、ビス(4-フルオロフェニル)カーボネート、ビス(2-クロロフェニル)カーボネート、ビス(2,4-ジフルオロフェニル)カーボネート、ビス(4-ニトロフェニル)カーボネート、ビス(2-ニトロフェニル)カーボネート、ビス(メチルサリチルフェニル)カーボネート、ジトリルカーボネート等の(置換)ジアリールカーボネートが挙げられるが、なかでもジフェニルカーボネートが好ましい。なお、これらのジアリールカーボネートは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0032】
また、前記のジアリールカーボネートは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0033】
これらジアリールカーボネート(前記の置換したジカルボン酸又はジカルボン酸エステルを含む。以下同じ。)は、通常ビスフェノールAに対して過剰に用いられる。すなわち、ジアリールカーボネートは、ビスフェノールAに対して、1.01~1.30倍量(モル比)、好ましくは1.02~1.20倍量(モル比)で用いられる。このモル比が小さすぎると、得られるポリカーボネート樹脂の末端OH基が多くなり、樹脂の熱安定性が悪化する傾向となる。一方、このモル比が大きすぎると、エステル交換の反応速度が低下し、所望の分子量を有するポリカーボネート樹脂の生産が困難となったり、樹脂中のジアリールカーボネートの残存量が多くなり、成形加工時や成形品としたときの臭気の原因となる場合がある。
【0034】
[2.エステル交換触媒]
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法では、エステル交換触媒として、下記式(1)、(2)で表される特定の構造を有するイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物(以下、「本発明のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物」と称す場合がある。)よりなる触媒(以下、「本発明の触媒」と称す場合がある。)を用いることを特徴とする。ここで、イミダゾール化合物とは、イミダゾール骨格がカチオン化された構造であるイミダゾリウム塩であっても良い。
【0035】
【0036】
(式(1)、(2)中、R1、R2、R3は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立して、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルボニル基、またはアリールカルボニル基を表し、これらの基は更に置換基を有していてもよく、該置換基中にはヘテロ原子が含まれていてもよい。またR1、R2、R3は、その内の2つの基が相互に結合して環を形成していてもよい。但し、式(1)におけるR1、R2およびR3のうちの少なくとも一つ、式(2)におけるR1およびR2のうちの少なくとも一つは、炭素数6以上の芳香族炭化水素環または脂肪族炭化水素環を含み、R1、R2、R3の炭素原子数の合計は50以下である。
R4、R4’、R5、R5’は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルボニル基、またはアリールカルボニル基を表し、これらの基は更に置換基を有していてもよく、該置換基中にはヘテロ原子が含まれていてもよい。またR4、R4’、R5、R5’は、その内の2つの基が相互に結合して環を形成していてもよい。但し、R4、R4’、R5、R5’の炭素原子数の合計は50以下である。
R4’、R5’が存在する場合、式(1)、(2)中の点線と実線の組み合わせ部分は単結合を示すが、R4’、R5’はなくてもよく、その場合、式(1)、(2)中の点線と実線の組み合わせ部分は二重結合を示す。
X-は、アニオンを表す。)
【0037】
式(1)、(2)中の点線と実線の組み合わせ部分を具体的に示すと、式(1)で表される化合物は、下記式(1)-Aで表される化合物および/または下記(1)-Bであり、式(2)で表される化合物は下記式(2)-Aで表される化合物および/または下記(2)-Bである。
【0038】
【0039】
(式(1)-A,B、式(2)-A,B中、R1、R2、R3、R4、R4’、R5、R5’、X-は式(1)、(2)におけると同義である。)
【0040】
本発明のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物が副反応を効率的に抑制でき、且つ重合活性が高い理由の詳細は不明であるが、以下のように推測される。
即ち、ポリカーボネート樹脂の製造における副生成物は触媒のカチオン種と反応原料からなる特定の反応中間体を経由して生成されると考えられるが、本発明のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物はカチオン種が嵩高い構造を有していることから、カチオン種と反応原料による特定の反応中間体の形成が抑制されると考えられる。
また、本発明のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物が置換基として炭素原子数が多く、嵩高い置換基を有するため、沸点が上昇し、且つ熱安定性が向上することで、重合最終段階まで分解ないし揮発することなく、重合活性を維持させることができると推測される。
【0041】
上記式(1)、(2)中、R1~R3またはR1,R3の少なくとも一つは炭素数6以上の芳香族炭化水素環または脂肪族炭化水素環を含む。
ここで芳香族炭化水素環基としては具体的には、フェニル基、メシチル基、o-メチルフェニル基、m-メチルフェニル基、p-メチルフェニル基、o-ジイソプロピルフェニル基、o-ジイソペンチルフェニル基、p-エチルフェニル基、p-第3ブチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、オクタデシルフェニル基、ナフチル基などの置換基としてアルキル基を有していてもよい合計炭素原子数が6~20のアリール基が挙げられる。
【0042】
また、脂肪族炭化水素環基としては具体的には、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基などの置換基としてアルキル基を有していてもよい合計炭素原子数が6~20の環状アルキル基やアダマンチル基などの縮合環基が挙げられる。
【0043】
これらの芳香族炭化水素環基または脂肪族炭化水素環基は、それぞれアルコキシ基、カルボメトキシ基、シアノ基、チオアルキル基、アルキルアミノ基などのO、N、S等を含む置換基を含有していてもよい。これら置換基として、より具体的には、メトキシメチル基、メトキシエチル基、シアノエチル基、メチルチオエチル基、ジメチルアミノエチル基、メトキシフェニル基、ブトキシフェニル基、シアノフェニル基、メチルチオフェニル基、ジメチルアミノフェニル基などが挙げられる。
【0044】
また、R1、R2、R3において、上記芳香族炭化水素環基または脂肪族炭化水素環基は、式(1)、(2)の含窒素五員環に直接付加していても構わないし、含窒素五員環と上記芳香族炭化水素環基または脂肪族炭化水素環基との間にアルキレン基、アリーレン基またはアルキルアリーレン基等の連結基が存在しても構わない。
【0045】
本発明で用いるエステル交換触媒は、式(1)におけるR1~R3、式(2)におけるR1,R3の少なくとも一つが炭素数6以上の芳香族炭化水素環または脂肪族炭化水素環を含むものであるが、重合活性や反応副生物の抑制の観点からこれらのうちのいずれか二つが炭素数6以上の芳香族炭化水素環または脂肪族炭化水素環を含むことが好ましく、特にR1とR3が炭素数6以上の芳香族炭化水素環または脂肪族炭化水素環を含むことが好ましい。この場合において、式(1)におけるR2はメチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、フェニル基、4-メトキシフェニル基、4-エトキシフェニル基、4-イソプロピルフェニル基、4-tert-ブチルフェニル基であることが好ましい。
【0046】
なお、R1、R2、R3の合計の炭素原子数が50を超えるとエステル交換触媒の熱安定性が低下することから、式(1)におけるR1~R3の合計炭素原子数、式(2)におけるR1~R2の合計炭素原子数は50以下であり、好ましくは40以下、例えば10~40である。
【0047】
式(1)、(2)中、R4、R4’、R5、R5’は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルボニル基、またはアリールカルボニル基を表し、これらの基は更に置換基を有していてもよく、該置換基中にはヘテロ原子が含まれていてもよい。またR4、R4’、R5、R5’は、その内の2つの基が相互に結合して環を形成していてもよい。但し、R4、R4’、R5、R5’の炭素原子数の合計は50以下である。
R4’、R5’が存在する場合、式(1)、(2)中の点線と実線の組み合わせ部分は単結合を示すが、R4’、R5’はなくてもよく、その場合、式(1)、(2)中の点線と実線の組み合わせ部分は二重結合を示す。
【0048】
R4、R4’、R5、R5’としては、エステル交換触媒の安定性の観点から特に水素原子、アルキル基が好ましく、とりわけ水素原子、メチル基が好ましい。
【0049】
なお、R4、R4’、R5、R5’の合計の炭素原子数が50を超えるとエステル交換触媒の安定性が低下することから、式(1)、(2)におけるR4、R4’、R5、R5’の合計炭素原子数は50以下であり、好ましくは30以下、例えば0~30である。
【0050】
式(1)中、X1は、対応するカチオンと配位結合して塩を形成しうるアニオンであれば特に制限はないが、具体的には4-(2-(ヒドロキシフェニル)プロパン-2-イル)フェノラート(BPAモノアニオン)、OH、OR15、OCOR16、HCO3、NO3、(R’)SO3、SO4、HSO4、ClO4、BR17
4、PR18
6、ハロゲンなどが挙げられ、好ましくはBPAモノアニオン、ハロゲンである。
【0051】
なお、上記R’はアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、フェニル基を表し、これらの基は更に置換基を有していてもよい。
また、上記R15、R16は、アルキル基またはアリール基を表し、置換基を含有するアルキル基、アリール基を含んでいてもよい。例えば直鎖アルキル基、分岐アルキル基、環状アルキル基、アリールアルキル基、フルオロアルキル基、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。より具体的には、メチル基、エチル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、オクチル基、トリフルオロメチル基、p-メチルフェニル基、2-ナフチル基などが挙げられる。
【0052】
上記R17、R18は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基およびアリール基から選ばれる少なくとも1種を表し、アルキル基およびアリール基は、置換基を含有するアルキル基、アリール基を含んでいてもよい。例えば、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、環状アルキル基、アリールアルキル基、フルオロアルキル基、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。より具体的には、メチル基、エチル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、オクチル基、トリフルオロメチル基、p-メチルフェニル基、2-ナフチル基などが挙げられる。
【0053】
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法において、エステル交換触媒としては、上記本発明のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物の1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
エステル交換触媒の安定性の観点から、本発明においては、前記式(1)で表されるイミダゾール化合物を用いることが好ましい。
【0054】
本発明のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物は、例えば、以下の方法で入手または製造することができる。但し、本発明のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物の製造方法は以下の方法に限定されない。
(1)市販の本発明のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物をそのまま使用する。
(2)市販の本発明に係るカチオン種を使用して任意のアニオン種に変換する。
(3)市販のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物を原料に使用して、任意の置換基を付加して本発明のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物とする。
(4)市販のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物以外の構造の有機試薬を原料に使用して、本発明のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物を合成する。
【0055】
カルベン化合物は公知の合成方法に従って合成することができ、例えば、A.J.Arduengo;H.V.R.Dias;R.L.Harlow,M.Kline,J.Am.Chem.Soc.1992,114,5530.に記載の方法に従って合成することができる。
また、イミダゾール化合物またはカルベン化合物に置換基を付加する方法は特に指定されないが、例えばS.Ahrens,A.Peritz,T.Strassner,Angew.Chem.Int.Ed.2009,48,7908.に記載の方法で置換基を付加することができる。
アニオン種に変換する方法は特に指定されないが、例えば目的のアニオンとアルカリ金属の塩をカチオン種の塩と混合させ、析出したアルカリ金属塩を除去する方法がある。
【0056】
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法において、本発明のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物の使用量は、ビスフェノールAの1molに対して、0.01μmol以上であることが好ましく、より好ましくは0.1μmol以上であり、更により好ましくは1μmol以上であり、最も好ましくは10μmol以上である。一方、本発明のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物の使用量は、ビスフェノールAの1molに対して、10000μmol以下であることが好ましく、より好ましくは1000μmol以下、更により好ましくは500μmol以下、最も好ましくは200μmol以下である。本発明のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物の使用量が、0.01μmol未満の場合は、重合活性が十分に得られず、目的とする所定の高い分子量のポリカーボネート樹脂を得ようとするには、反応時間を長くしなければならず、色調が悪化する恐れがある。一方、本発明のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物の使用量が、10000μmolを超える場合は、異種結合構造の生成が加速され、副生成物が増加する恐れがある。
【0057】
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法においては、本発明の効果を著しく阻害しない範囲で、エステル交換触媒として上述の本発明のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物に加えて、これら以外の化合物を更に触媒成分として用いてもよい。具体的には、本発明のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物とは異なる塩基性化合物をさらに追加してもよい。このような化合物としては、周期表第1族元素(水素を除く)の化合物、周期表第2族元素の化合物、および塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の化合物が挙げられる。
【0058】
前記の第1族元素(水素を除く)の化合物としては、第1族元素(水素を除く)の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素化合物等の無機化合物;第1族元素(水素を除く)のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等の有機化合物等が挙げられる。ここで、第1族元素(水素を除く)としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。これらの第1族元素(水素を除く)の化合物の中でも、セシウム化合物が好ましく、特に、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、水酸化セシウムが好ましい。
【0059】
また、前記の第2族元素の化合物としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の水酸化物、炭酸塩等の無機化合物;これらのアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等が挙げられる。
【0060】
前記の塩基性ホウ素化合物としては、ホウ素化合物のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、ストロンチウム塩等が挙げられる。ここで、ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等が挙げられる。
【0061】
前記の塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ-n-プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ-t-ブチルフェニルホスフィン等の3価のリン化合物等が挙げられる。
【0062】
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法において、触媒の成分として含んでもよい本発明のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物以外の他の触媒化合物の使用割合は、本発明のイミダゾール化合物および/またはカルベン化合物:他の触媒化合物(モル比率)で、通常10000:1から3:1の範囲、好ましくは5000:1~5:1の範囲、より好ましくは1000:1~10:1の範囲である。上記範囲を逸脱すると、副生成物が多くなるという問題点を生じる場合があるため好ましくない。
【0063】
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法において、上記エステル交換触媒の添加方法は任意の方法を用いることができる。原料であるビスフェノールAやジアリールカーボネートに直接混合してもよいし、予め溶媒に溶解させ、希釈溶液として用いてもよい。このように希釈溶液として用いることでフィード精度や原料への分散性を向上させることができる。使用する溶媒や濃度については特に限定されず、溶解性に応じて適宜選択すればよいが、溶媒としては、例えば水、フェノール、アセトン、アルコール、トルエン、エーテル、テトラヒドロフランなどが挙げられる。溶媒に水を使用する場合の水の性状は、含有される不純物の種類ならびに濃度が一定であれば特に限定されないが、通常、蒸留水や脱イオン水等が好ましく用いられる。
上記エステル交換触媒は重合中に追加で加えても構わない。
【0064】
[3.ポリカーボネート樹脂の製造]
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法は、原料である前記ビスフェノールAとジアリールカーボネートとを混合し、この原料混合物を、前記エステル交換触媒の存在下、重縮合反応装置で重縮合反応をさせることによって行われる。この重縮合工程の反応方式は、バッチ式、連続式、これらの組合せ等を用いることができる。重縮合工程後、反応を停止させ重合反応液中の未反応原料や反応副生物を脱揮除去する工程、熱安定剤、離型剤等を添加する工程、必要に応じて所定の粒径のペレットに形成する工程等を経て、ポリカーボネート樹脂が製造される。
【0065】
前記の重縮合工程は、通常2段階以上、好ましくは3段~7段の多段方式で連続的に行われる。具体的な反応条件としては、温度:150℃~320℃、圧力:常圧~0.01Torr(1.3Pa)、平均滞留時間:5分~150分の範囲である。
【0066】
多段方式においては、重縮合反応装置で、重縮合反応の進行とともに副生するフェノールをより効果的に系外に除去するために、前記の反応条件内で、段階的により高温、より高真空に設定する。なお、得られるポリカーボネート樹脂の色相等の品質低下を防止するためには、できるだけ低温、短滞留時間の設定が好ましい。
【0067】
重縮合工程を多段方式で行う場合は、通常、竪型反応器を含む複数基の反応器を設けて、ポリカーボネート樹脂の平均分子量を増大させる。反応器は通常3基~6基、好ましくは4基~5基設置される。
【0068】
前記の反応器としては、例えば、攪拌槽型反応器、薄膜反応器、遠心式薄膜蒸発反応器、表面更新型二軸混練反応器、二軸横型攪拌反応器、濡れ壁式反応器、自由落下させながら重合する多孔板型反応器、ワイヤーに沿わせて落下させながら重合するワイヤー付き多孔板型反応器等が用いられる。
【0069】
竪型反応器の撹拌翼の形式としては、例えば、タービン翼、パドル翼、ファウドラー翼、アンカー翼、フルゾーン翼(神鋼パンテック(株)製)、サンメラー翼(三菱重工業(株)製)、マックスブレンド翼(住友重機械工業(株)製)、ヘリカルリボン翼、ねじり格子翼(日立製作所(株)製)等が挙げられる。
【0070】
横型反応器とは、攪拌翼の回転軸が横型(水平方向)であるものをいう。横型反応器の攪拌翼としては、例えば、円板型、パドル型等の一軸タイプの撹拌翼やHVR、SCR、N-SCR(三菱重工業(株)製)、バイボラック(住友重機械工業(株)製)、あるいはメガネ翼、格子翼(日立製作所(株)製)等の二軸タイプの撹拌翼が挙げられる。
【0071】
[4.ポリカーボネート樹脂]
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法で得られるポリカーボネート樹脂(以下、「本発明のポリカーボネート樹脂」と称す場合がある。)の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、溶液粘度から換算した粘度平均分子量[Mv]は、通常5,000以上であり、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上であり、また、一方で、通常40,000以下であり、好ましくは30,000以下、より好ましくは24,000以下である。粘度平均分子量を前記範囲の下限値以上とすることにより本発明のポリカーボネート樹脂の機械的強度をより向上させることができ、機械的強度の要求の高い用途に用いる場合により好ましいものとなる。一方、粘度平均分子量を前記範囲の上限値以下とすることにより本発明のポリカーボネート樹脂の流動性低下を抑制して改善でき、成形加工性を高めて成形加工を容易に行えるようになる。
【0072】
なお、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10-4Mv0.83、から算出される値を意味する。また極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【0073】
【0074】
本発明のポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は、特に限定されないが、1500ppm以下が好ましく、より好ましくは1000ppm以下、更により好ましくは800ppm以下、特に好ましくは600ppm以下である。末端水酸基濃度が低くなるにつれて、ポリカーボネート樹脂の滞留熱安定性がより向上する傾向にある。また、一方で、ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は、50ppm以上が好ましく、より好ましくは100ppm以上、より好ましくは150ppm以上、さらに好ましくは200ppm以上である。末端水酸基濃度が高くなるにつれて、色調が改善される傾向にある。
【0075】
なお、末端水酸基濃度の単位は、ポリカーボネート樹脂の重量に対する、末端水酸基の重量をppmで表示したものである。その測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)である。
【0076】
また、原料ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールAを用いた本発明のポリカーボネート樹脂は、得られるポリカーボネート樹脂を加水分解した際に、例えば、下記式(A)~(E)に示されるような副生成物を含有することがあり、これらの副生成物の存在は、得られるポリカーボネート樹脂の構造単位の中にビスフェノールAに由来する異種結合構造単位を含むことを意味している。
【0077】
【0078】
式(A)~(E)中、Ra~Rfは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示す。式(A)~(E)中のベンゼン環において、ベンゼン環に結合する1つ以上の水素原子は、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、フェニル基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基等の置換基によって置換さていてもよい。
【0079】
これらの副生成物は、前記のポリカーボネート樹脂を加水分解した後に分析することにより、含有量を測定することができる。上記式(A)~(E)で表される副生成物の合計量が、加水分解する前の得られたポリカーボネート樹脂全体に対して、800ppm以下であることが好ましく、600ppm以下であることがより好ましく、500ppm以下であることがさらに好ましい。この副生成物の含有量の総量が800ppmを超えると、ポリカーボネート樹脂の色調の悪化や耐候性の悪化が生じる恐れがある。一方、上記式(A)~(E)で表される副生成物の合計量は0ppmであることが好ましいが、極端に減らそうとした場合、重合活性を低くし、長時間反応させる必要があり、その結果、色調が悪化するという不具合があるため、製品色調の観点から、通常100ppm以上とすることが好ましい。
【0080】
本発明のポリカーボネート樹脂は、色調が良好である特徴を有しているが具体的には、後述の実施例の項に記載される方法で測定されるペレットYIで、通常15以下、好ましくは10以下、さらに好ましくは8以下である。このようなペレットYIのポリカーボネート樹脂とすることで、着色した際の発色性や明度が向上し、製品デザインの自由度が向上する。
【0081】
[5.ポリカーボネート樹脂組成物]
本発明のポリカーボネート樹脂は、必要に応じて、本発明のポリカーボネート樹脂以外のポリカーボネート樹脂や、ポリカーボネート樹脂以外の他の樹脂、各種樹脂添加剤などのその他の成分を配合してポリカーボネート樹脂組成物として用いてもよい。前記その他の成分は1種または2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0082】
その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート樹脂などの熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリメタクリレート樹脂等が挙げられる。
【0083】
なお、その他の樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0084】
樹脂添加剤としては、例えば、熱安定性、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、滑剤、染顔料、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、衝撃改良材、難燃剤、ガラス繊維、炭素繊維などの強化材、タルク、マイカ、シリカなどの充填材などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
まず、各評価の測定方法について、説明する。
【0086】
[評価方法]
<色相評価(ペレットYI)>
ポリカーボネート樹脂の色相評価は、ASTM D1925に準拠して、ポリカーボネート樹脂ペレットの反射光におけるYI値(イエローインデックス値)を測定して評価した。装置はコニカミノルタ社製分光測色計CM-5を用い、測定条件は測定径30mm、SCEを選択した。シャーレ測定用校正ガラスCM-A212を測定部にはめ込み、その上からゼロ校正ボックスCM-A124をかぶせてゼロ校正を行い、続いて内蔵の白色校正板を用いて白色校正を行った。白色校正板CM-A210を用いて測定を行い、L*が99.40±0.05、a*が0.03±0.01、b*が-0.43±0.01、YIが-0.58±0.01となることを確認した。ペレットの測定は、内径30mm、高さ50mmの円柱ガラス容器にペレットを40mm程度の深さまで詰めて測定を行った。ガラス容器からペレットを取り出してから再度測定を行う操作を2回繰り返し、計3回の測定値の平均値を用いた。
YI値が小さいほど樹脂の黄色味が少なく、色調に優れることを意味する。
【0087】
<ポリカーボネート樹脂に含まれる式(A)~(E)で表される副生成物含有量の測定>
ポリカーボネート樹脂0.5gを塩化メチレン5mlに溶解した後、メタノール45mlおよび25重量%水酸化ナトリウム水溶液5mlを加え、70℃で30分間撹拌して加水分解した(塩化メチレン溶液)。その後、この塩化メチレン溶液に6規定の塩酸を加え、溶液のpHを2程度とし、純水にて100mlとなるように調整した。
次に、調整した塩化メチレン溶液20μlを液体クロマトグラフィーに注入し、式(A)~(E)で表される化合物の含有量を測定し(単位:ppm)、特定副生成物含有量とした。
液体クロマトグラフィーおよび測定条件は以下の通りである。
液体クロマトグラフィー:株式会社島津製作所製LC-10AD
カラム:YMC PACK ODS-AM M-307-3
4.6mmID×75mmL
検出器:UV280nm
溶離液:(A)0.05%トリフルオロ酢酸水溶液 (B)メタノール
グラジェント条件:0分(B=40%)、25分(B-95%)
式(A)~(E)で表される化合物の含有量は、ビスフェノールAにより作成した検量線に基づき、各々のピーク面積より算出した。
【0088】
[略号の説明]
以下において、用いた原料や化合物中の置換基等の略号は以下の通りである。
BPA:ビスフェノールA(三菱ケミカル社製)
DPC:ジフェニルカーボネート(三菱ケミカル社製)
THF:テトラヒドロフラン
DCM:ジクロロメタン
Ph:フェニル
Ad:アダマンチル
imy:イミダゾール
Et:エチル
Me:メチル
Mes:メシチル
Pr:プロピル
TMAH:水酸化テトラメチルアンモニウム
(p-tBuPh)3-P:トリス(p-ter-ブチルフェニル)ホスフィン
【0089】
[実施例で用いた触媒]
<合成例1:触媒Aの合成>
2-Ph-1,3-Ad2-imy-Br(遼寧美大康華邦薬業製)494mgをTHF4mLとエタノール1mLに溶解した。別に、BPA228mgとカリウム ターシャリーブトキシド(シグマアルドリッチ製)112mgをTHF2mLとエタノール0.5mLに溶解した。2-Ph-1,3-Ad2-imy-Brを含む溶液とBPAを含む溶液を室温で4時間攪拌した後、ろ過物を回収した。ろ過物中の溶媒をロータリーエバポレーターで除去した後、DCM 4mLと混合した。DCMをロータリーエバポレーターで除去し、下記構造式で表される触媒A(2-Ph-1,3-Ad2-imy-BPA、純度93%)を652mg得た。
NMR(核磁気共鳴)による構造同定は以下の通りであった。
1H NMR(400MHz,298K):δ8.11(s,2H,4,5-H),7.77(d,3JH-H=7.8Hz,2H,Ph-H),7.71(t,3JH-H=7.8Hz,1H,Ph-H),7.57(t,3JH-H=7.8Hz,2H,Ph-H),6.80,6.40(each d,3JH-H=8.6Hz,each 4H,BPA-H),1.98(ps,6H,Ad-H),1.94(ps,12H,Ad-H),1.56-1.42(pdd,12H,Ad-H),1.46(s,6H,BPA-H)
【0090】
【0091】
<合成例2:触媒Bの合成>
2-Et-1,4-Ad2-imidazolium bromide0.8gをTHF5mLに溶解した。次に、カリウム ターシャリーブトキシド(シグマアルドリッチ製)188mgをTHF2mLに溶解した溶液に2-Et-1,4-Ad2-imidazolium bromideを含む溶液に加えた。混合物は14時間、室温で攪拌した。ろ過物を回収し、ロータリーエバポレーターで残留溶媒を除去すると黄色い固形物(2-Et-1,4-Ad2-imidazole)が580mg得られた。
次に、2-Et-1,4-Ad2-imidazole400mgをヨードメタン3mLに溶解させて45℃で14時間攪拌した。ロータリーエバポレーターでヨードメタンを除去後、ジエチルエーテル10mLを加えて固形物をろ過、乾燥させると青みがかった黄色い結晶が552mg得られた(2-Et-1,4-Ad2-3-Me-imy-I)。
次に、2-Et-1,4-Ad2-3-Me-imy-I653mgをTHF3mLとエタノール1mLに溶解した。また、AgBF4を252mgをTHF3mLとエタノール1mLに溶解した。AgBF4を含む溶液を2-Et-1,4-Ad2-3-Me-imy-Iを含む溶液に滴下した。次に、BPA294mgとカリウム ターシャリーブトキシド(シグマアルドリッチ製)145mgをTHF3mLとエタノール1mLに溶解した。この溶液を2-Et-1,4-Ad2-3-Me-imy-Iを含む溶液と混合し、室温で4時間攪拌し、ろ過物を回収した。ろ過物中の残存溶媒はロータリーエバポレーターで除去し、固形物をDCMで抽出した。溶液中のDCMをロータリーエバポレーターで除去して下記構造式で表される触媒B(2-Et-1,4-Ad2-3-Me-imy-BPA、純度85%)を670mg得た。
NMR(核磁気共鳴)による構造同定は以下の通りであった。
1H NMR(400MHz,298K):δ7.20(s,1H,5-H),6.70,6.32(each d,3JH-H=8.6Hz,each 4H,BPA-H),3.86(s,3H,N-CH3),3.22(q,3JH-H=7.4Hz,2H,CH2CH3),2.18(9H,Ad-H),2.04(3H,Ad-H),1.96(6H,Ad-H),1.76-1.66(12H,Ad-H),1.44(s,6H,BPA-H),1.20(t,3JH-H=7.4Hz,3H,CH2CH3)
【0092】
【0093】
<合成例3:触媒Cの合成>
3-hydroxybutan-2-oneを13.2gとメシチルアミン13.5gとトルエン150mLと塩化水素0.05mLを混合し、窒素雰囲気下で3時間、還流した。得られた黄色い溶液を室温まで冷却後、溶媒をロータリーエバポレーターで除去し、3-(mesitylamino)butan-2-oneを15.4g得た。
次に、3-(mesitylamino)butan-2-one 4.1gと、トリエチルアミン5.6mL、アセチルクロライド7.9g、DCM30mLを0℃で混合し、室温で14時間攪拌した。析出したアンモニウム塩をフィルターで除去した。溶液からDCMを留去し、得られた溶液をシリカゲルカラムで分離した。生成物をヘキサンおよび酢酸エチル混合液(重量比4:1)で溶離させて青みがかった黄色い液体を3.2g得た。次に、得られた液体2.5gを無水酢酸10.3gと混合し、37%塩化水素水溶液0.84mLを添加した。混合物を室温で14時間攪拌し、50mLのジエチルエーテルを添加した。有機溶液層を回収しジエチルエーテル2mLで2回洗浄した。得られた油状の物質をトルエン20mL、メシチルアミン2.0gと混合し室温で3時間攪拌した。無水ジエチルエーテル50mLで洗浄し、無水酢酸6mL、トルエン20mL、37%塩化水素水溶液1.3mLを混合し110℃で14時間攪拌した。溶媒をロータリーエバポレーターで除去すると白色の2,4,5-Me3-1,3-Mes2-Imy-Clを1.4g得た。
次に、2,4,5-Me3-1,3-Mes2-Imy-Cl500mgをTHF 2mLとエタノール0.5mLに溶解させた。次に、BPA228mgとカリウム ターシャリーブトキシド112mgをTHF2mLとエタノール0.5mLに溶解させた。2,4,5-Me3-1,3-Mes2-Imy-Clを含む溶液とBPAを含む溶液を60℃で1時間攪拌した後、ろ過物を回収した。ろ過物中の溶媒をロータリーエバポレーターで除去した後、DCM 5mLと混合した。DCMをロータリーエバポレーターで除去し、下記構造式で表される触媒C(2,4,5-Me3-1,3-Mes2-Imy-BPA、純度86%)を495mg得た。
NMR(核磁気共鳴)による構造同定は以下の通りであった。
1H NMR(400MHz,298K):δ7.23(s,4H,Ar-H),6.68(d,3JH-H=8.6Hz,4H,Ar-H),6.30(d,3JH-H=8.6Hz,4H,Ar-H),2.36(s,6H,C4,5-CH3),2.10(s,3H,C2-CH3),2.02(s,12H,Ar-CH3),2.01(s,6H,Ar-CH3),1.43(s,6H,BPA-CH3)
【0094】
【0095】
<合成例4:触媒Dの合成>
21,3-Bis(1-adamantyl)imidazol-2-ylidene(Strem Chemicals製)15.7mgとTHF7.6mLとBPA10.6mgを混合し、1.5mLメタノールを添加して、下記構造式で表される触媒D(Ad2-Imy-BPA)を含む溶液を得た。
【0096】
【0097】
<合成例5:触媒Eの合成>
1-adamantylamine4.53gと炭酸カリウム6.2gとアセトニトリル30mLを混合した。次に3-chloro-2-butanone6.4gを添加した。混合物をアルゴン雰囲気下、14時間還流した。固形物をろ過し、アセトニトリル5mLで2回洗浄した。残留溶媒をロータリーエバポレーターで除去し3-(1’-Adamantylamino)butan-2-oneを6.2g得た。
次に、蟻酸2.3g、無水酢酸4.3gを60℃で2時間攪拌し、3-(1’-Adamantylamino)butan-2-oneを4.6g滴下した。溶媒をロータリーエバポレーターで除去し、シリカゲルカラムで黄色い油状の物質を単離しN-Formyl-3-(1’-adamantylamino)butan-2-oneを1.3g得た。
次に、N-Formyl-3-(1’-adamantylamino)butan-2-one 1.3gと無水酢酸4.4gを混合した。45%HBrの酢酸溶液を0.86mL添加し、混合物を室温で14時間攪拌した。ジエチルエーテル30mLを添加し油状の物質が沈殿した。上層の有機層を除去し、油状の物質をジエチルエーテル10mLで2回洗浄した。次にトルエン15mLとDCM10mLと1-adamantylamine0.94gを混合し、室温で3時間攪拌した。沈殿した固形物を回収し、ジエチルエーテル10mLで2回洗浄した。次に45%HBrの酢酸溶液を0.86mLとトルエン15mLを添加し120℃で14時間還流した。溶媒をロータリーエバポレータで除去し、残渣をDCMで抽出し、DCMを留去して、下記構造式で表される白色の触媒E(4,5-Me2-1,3-Ad2-imy-Br)を0.37g得た。
NMR(核磁気共鳴)による構造同定は以下の通りであった。
1H NMR(400MHz,CD2Cl2,298K):δ8.32(s,1H,CH),2.35(s,6H,2×CH3),2.22(s,12H,6×CH2),2.19(s,6H,6×CH),1.68(s,12H,6×CH2)
13C NMR(100.6MHz,CD2Cl2,298K):δ131.0,128.7,63.1,41.6,35.7,30.2,12.4
【0098】
【0099】
[比較例1で用いた触媒]
<触媒F>
触媒としては、下記構造式で表される水酸化テトラメチルアンモニウム(97%、シグマアルドリッチ製)を使用した。
【0100】
【0101】
<触媒G>
触媒Gとしては、下記構造式で表されるトリス(p-tert-ブチルフェニル)ホスフィン(北興化学株式会社製)を使用した。
【0102】
【0103】
<合成例6:触媒Hの合成>
ナトリウムフェノキサイド116mgとTHF1mLとiPr2-imy-Cl(Strem Chemicals製、97%)189mgを混合し、室温で14時間攪拌した。固形物をろ過して除去し、溶液中のTHFをロータリーエバポレーターで留去して、下記構造式で表される触媒H(iPr2-imy-OPh)231mgを得た。
【0104】
【0105】
<合成例7:触媒Iの合成>
1,2-Me2-3-Me-imy-Cl(シグマアルドリッチ製、97%)とナトリウムフェノキサイド116mgと3mLエタノールを混合して室温で14時間攪拌した。固形物をろ過して除去し、溶液中のエタノールをロータリーエバポレーターで留去してDCM2mLで洗浄した。DCMをロータリーエバポレーターで除去して、下記構造式で表される触媒I(1,2-Me2-3-Et-imy-OPh)198mgを得た。
【0106】
【0107】
[ポリカーボネート樹脂の製造]
<実施例1>
反応器攪拌機、反応器加熱装置、反応器圧力調整装置を付帯した内容量150mlのガラス製反応器に、BPA116.71g(約0.51mol)、DPC116.09(約0.54mol)を投入しエステル交換触媒AをBPA1molに対し、7μmolとなるように添加して混合物を調製した。
【0108】
次に、ガラス製反応器内を約100Pa(0.75Torr)に減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応器の内部を窒素置換した。窒素置換後、反応器外部温度を220℃にし、反応器の内温を徐々に昇温させ、混合物を溶解させた。その後、100rpmで撹拌機を回転させた。そして、反応器の内部で行われるBPAとDPCのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応器内の圧力を絶対圧で101.3kPa(760Torr)から13.3kPa(100Torr)まで減圧した。
【0109】
続いて、反応器内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールをさらに留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。その後、反応器外部温度を290℃に昇温、40分間かけて反応器内圧力を絶対圧で13.3kPa(100Torr)から399Pa(3Torr)まで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。さらに反応器内の絶対圧を30Pa(約0.2Torr)まで減圧し、重縮合反応を行った。反応器の攪拌機が予め定めた所定の攪拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。
なお、反応開始から、反応終了までの反応時間を計測し、表1中に重合時間(単位:分)として記載した。
【0110】
次いで、反応器内を、窒素により絶対圧で101.3kPaに復圧の上、ゲージ圧で0.2MPaまで昇圧し、反応器の槽底からポリカーボネート樹脂をストランド状で抜き出し、ストランド状のポリカーボネート樹脂を得た後、回転式カッターを使用してペレット化した。
得られたポリカーボネート樹脂の評価結果を表1に示す。
【0111】
<実施例2>
実施例1において、エステル交換触媒として触媒Aの代わりに触媒Bを、BPA1molに対し7.7μmol使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂の重合を行った。重合時間と得られたポリカーボネート樹脂の評価結果を表1に示す。
【0112】
<実施例3>
実施例1において、エステル交換触媒として触媒Aの代わりに触媒Cを使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂の重合を行った。重合時間と得られたポリカーボネート樹脂の評価結果を表1に示す。
【0113】
<実施例4>
実施例1において、エステル交換触媒として触媒Aの代わりに触媒Dを使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂の重合を行った。重合時間と得られたポリカーボネート樹脂の評価結果を表1に示す。
【0114】
<実施例5>
実施例1において、エステル交換触媒として触媒Aの代わりに触媒Eを、BPA1molに対し5μmol使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂の重合を行った。重合時間と得られたポリカーボネート樹脂の評価結果を表1に示す。
【0115】
<比較例1>
実施例1において、エステル交換触媒として触媒Aの代わりに触媒Fを、BPA1molに対し5μmol使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂の重合を行った。重合時間と得られたポリカーボネート樹脂の評価結果を表1に示す。
【0116】
<比較例2>
実施例1において、エステル交換触媒として触媒Aの代わりに触媒Gを、BPA1molに対し50μmol使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂の重合を行った。重合時間と得られたポリカーボネート樹脂の評価結果を表1に示す。
【0117】
<比較例3>
実施例1において、エステル交換触媒として触媒Aの代わりに触媒Hを、BPA1molに対し5μmol使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂の重合を行った。重合時間と得られたポリカーボネート樹脂の評価結果を表1に示す。
【0118】
<比較例4>
実施例1において、エステル交換触媒として触媒Aの代わりに触媒Iを、BPA1molに対し5μmol使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂の重合を行った。重合時間と得られたポリカーボネート樹脂の評価結果を表1に示す。
【0119】
【0120】
表1より次のことが分かる。本発明に係るエステル交換触媒を用いた実施例1~5では、重合活性に優れ、重合時間が短く、得られたポリカーボネート樹脂の分子量は目標に到達し、しかも特定副生成物含有量は800ppm以下であり、かつ色調も良好である。
これに対して、従来のエステル交換触媒を用いた比較例1~4は重合活性に劣る。このため、比較例1は、重合時間が長いにもかかわらず、目標分子量に達せず、特定副生成物含有量も多く、色調も悪い。
比較例2でも、重合時間が長いにもかかわらず、目標分子量に達せず、特定副生成物含有量も多い。
比較例3でも、重合時間が長いにもかかわらず、目標分子量に達せず、色調も悪い。
比較例4でも、重合時間が長いにもかかわらず、目標分子量に達せず、色調も悪い。
【0121】
以上より、本発明の構成要件を満足する実施例1~5によれば、優れた重合活性のもとに、副生成物含有量が少なく、色調等の品質に優れたポリカーボネート樹脂を提供できることがわかる。