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特許7243356ゼオライト分離膜、およびそれを用いた分離方法
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  • 特許-ゼオライト分離膜、およびそれを用いた分離方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】ゼオライト分離膜、およびそれを用いた分離方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20230314BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20230314BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20230314BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20230314BHJP
   C01B 39/20 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
B01D71/02 500
B01D69/00
B01D53/22
B01D69/02
C01B39/20
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019055688
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020151694
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】摩庭 篤
(72)【発明者】
【氏名】内田 雅人
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-213488(JP,A)
【文献】特開2009-011980(JP,A)
【文献】特開2015-066532(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052058(WO,A1)
【文献】特開2014-046267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-71/82
B01D 53/22
C02F 1/44
C01B 33/20-39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材の表面上にゼオライト膜が形成されたゼオライト分離膜であって、該ゼオライト膜が、1.5より大きく3.0以下のSi/Alモル比及びFAU型の結晶相を有し、膜厚が1.0μm以上5.0μm以下であり、かつ対イオンとして銀イオンを含み、なおかつ、ゼオライト膜に対する硫化水素透過度が1×10 -8 mol/m /s/Pa以上であることを特徴とするゼオライト分離膜。
【請求項2】
多孔質基材がアルミナ多孔質基材であることを特徴とする請求項1に記載のゼオライト分離膜。
【請求項3】
ゼオライト膜のAg/Alモル比が0.010以上1.0以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のゼオライト分離膜。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか一項に記載のゼオライト分離膜を用いることを特徴とする、硫化水素の分離方法。
【請求項5】
ゼオライト膜に吸着している水分を除去する脱水工程の後に、硫化水素と炭化水素を含む気体と、ゼオライト分離膜とを接触させる分離工程を有することを特徴とする請求項4に記載の硫化水素の分離方法。
【請求項6】
硫化水素の透過度が2×10-8mol/m/s/Pa以上、かつ硫化水素/メタンの分離係数が5以上であることを特徴とする請求項5に記載の硫化水素の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト分離膜に関する。より詳細には、当該ゼオライト分離膜、およびそれを用いた硫化水素の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガスの精製プラントでは液化工程での配管閉塞を回避するために、天然ガス中に含まれる硫化水素の分離が必要である。これまではアミンなどの塩基を用いた化学吸収法が用いられてきたが、吸収した硫化水素を脱離するためのエネルギーが大きく、硫化水素の分離に莫大なエネルギーが必要であった。このため、省エネルギーかつ簡素化が可能な分離膜による硫化水素分離方法の確立が望まれていた。
【0003】
近年、無機多孔質基材表面に形成させたゼオライト膜を用いた硫化水素分離方法が報告されている。ゼオライトからなる膜は、分子のサイズや形状の違いにより選択的に分子を通過させる性質を有するため、分子ふるいとして広く利用されている。例えば、特許文献1ではFAU型、DDR型、LTA型、LTL型、MOR型、MFI型、SOD型、及びBEA型ゼオライト膜が硫化水素分離膜として提案されているが、硫化水素の分離性能についての記述が無く、ゼオライト膜が硫化水素分離膜として適用できるかは不明であった。特許文献2ではCHA型ゼオライト膜の硫化水素透過度を報告しているが、硫化水素単成分における透過性能を示しているにすぎず、天然ガス等の硫化水素及び複数の炭化水素を含む混合物から硫化水素を選択的に分離できるかは不明であった。さらに、長期的かつ安定的に硫化水素を分離することが可能な硫化水素分離膜が望ましいが、硫化水素耐性に優れたゼオライト分離膜は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-236142号公報
【文献】特開2014-46267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、化学吸収法や、熱スイング吸着法等とは異なる方法により、硫化水素同伴ガスから硫化水素の高選択分離に用いることのできるゼオライト分離膜であって、長時間使用しても硫化水素分離性能が劣化しないゼオライト分離膜を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、特定のゼオライト分離膜を用いることによって、硫化水素と炭化水素を含む気体から硫化水素を高選択的に分離できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、多孔質基材の表面上にゼオライト膜が形成されたゼオライト分離膜であって、該ゼオライト膜が、1.5より大きく3.0以下のSi/Alモル比及びFAU型の結晶相を有し、膜厚が1.0μm以上5.0μm以下であり、かつ対イオンとして銀イオンを含むゼオライト膜であることを特徴とするゼオライト分離膜である。
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明は、多孔質基材の表面上にゼオライト膜が形成されたゼオライト分離膜であって、該ゼオライト膜が、1.5より大きく3.0以下のSi/Alモル比及びFAU型の結晶相を有し、膜厚が1.0μm以上5.0μm以下であり、かつ対イオンとして銀イオンを含むゼオライト膜であることを特徴とするゼオライト分離膜である。これにより、本発明のゼオライト分離膜は高い耐熱性を有し、硫化水素を含有するガスと接触させた際に、長期的かつ選択的に硫化水素を透過させる。
【0010】
本発明のゼオライト分離膜におけるゼオライト膜は、1.5より大きく3.0以下のSi/Alモル比を有し、1.5より大きく2.5以下のSi/Alモル比を有することが好ましい。これにより、本発明のゼオライト分離膜は高い耐熱性を有し、長期的に硫化水素を透過させることができる。
【0011】
本発明のゼオライト分離膜におけるゼオライト膜は、FAU型ゼオライトであり、Y型ゼオライトであることが好ましい。これにより高い温度で硫化水素をより効率的に分離することができる。
【0012】
本発明のゼオライト分離膜におけるゼオライト膜は、対イオンとして銀イオンを含む。これにより、ゼオライト膜中の銀と硫化水素が反応して硫化銀を生成するため、硫化水素暴露下でも長期的かつ選択的に硫化水素を分離することができる。このとき、膜厚が1.0μm未満のときは膜の劣化により硫化水素の分離性能が著しく低下する。一方、膜厚が5.0μmより厚いときは、硫化水素の透過抵抗が増大し、硫化水素の透過量が低下する。したがって、本発明のゼオライト分離膜におけるゼオライト膜の膜厚は1.0μm以上5.0μm以下である。ゼオライト膜の膜厚は、1.5μm以上4.5μm以下であることが好ましい。
【0013】
本発明のゼオライト分離膜におけるゼオライト膜は、多孔質基材の表面上に形成されている。これにより硫化水素を含む気体を該ゼオライト膜が形成されている側の表面に接触させることで硫化水素を選択的に分離することができる。
【0014】
多孔質基材としては、圧力差に耐える強度や、耐熱性を有するもの、更に硫化水素に対する耐腐食性があれば特に限定するものではなく、例えば、無機系多孔質基材、又は無機有機ハイブリッド多孔質基材等が挙げられる。
【0015】
無機系多孔質基材としては、多孔質であれば特に制限されるものではなく、例えば、シリカ、アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、窒化珪素、または炭化珪素などのセラミックス焼結体、またはステンレスなどの焼結金属、ガラス、カーボン成形体等を用いることができる。
【0016】
無機有機ハイブリッド多孔質基材としては、特に限定するものではなく、例えば、前記無機系多孔質基材と酢酸セルロース等の有機系基材を混合又は積層させたものが挙げられる。
【0017】
強度、耐熱性、耐腐食性の観点で無機系多孔質基材が好ましく、アルミナ多孔質基材がより好ましい。
【0018】
多孔質基材表面層の細孔径は、0.05μm以上3.0μm以下、さらには0.08μm以上2.0μm以下、またさらには0.10μm以上1.5μm以下の範囲であることが好ましい。当該基材の細孔径の評価は、バブルポイント法や水銀圧入法などで行うことができる。尚、多孔質基材表面層とは、ゼオライト膜を形成する基材表面部分を指す。また、ゼオライト膜を形成する基材表面層以外の部分の細孔径は特に制限されないが、0.05μm以上3.0μm以下、さらに0.30μm以上1.5μm以下であることが例示できる。
【0019】
また、多孔質基材の気孔率は硫化水素を分離する際の強度及び透過流量を左右するため、20%以上60%以下の気孔率を有するものが好ましい。
【0020】
多孔質基材表面に形成されたゼオライト膜の結晶相は、XRDにより確認することができる。
【0021】
多孔質基材の形状は、気体混合物を有効に分離できる形状であれば制限されるものではなく、例えば、平板状、波板状、管状、円柱状、円錐状、円錐台状、円筒状、角柱状、角筒状、角錐状、角錐台状、又は円柱状、若しくは角柱状の孔が多数存在するハニカム状などが挙げられる。波板状、管状、円柱状、円錐状、円錐台状、円筒状、角柱状、角筒状、角錐状、角錐台状、又は円柱状の多孔質基材については、中心がくり抜かれた筒状のものが好ましく、筒は貫通しているものでもよいし、試験管状の貫通していないものであってもよい。
【0022】
本発明のゼオライト分離膜におけるゼオライト膜は、対イオンとして銀イオンを含む。これによりゼオライト膜の硫化水素透過性能が高く、かつ、耐久性に優れる。
【0023】
本発明のゼオライト分離膜におけるゼオライト膜のAg/Alモル比は0.010以上が好ましく、0.10以上がより好ましい。これにより、より長期的かつ高選択的に硫化水素を分離することができる。さらに、Ag/Alモル比は1.0以下が好ましい。
【0024】
本発明のゼオライト分離膜におけるゼオライト膜のAg含有量は0.4重量%以上42重量%以下が好ましい。これにより、より耐久性に優れたゼオライト膜となる。
【0025】
本発明のゼオライト分離膜におけるゼオライト膜のAgイオン交換率(Ag/(Na+Ag)モル比)は0.010以上1.0以下が好ましい。これにより、より長期的かつ高選択的に硫化水素を分離することができる。
【0026】
本発明のゼオライト膜は、膜表面をシリル化剤等で修飾していても良い。
【0027】
ゼオライト膜に対する硫化水素透過度は1×10-8mol/m/s/Pa以上が好ましく、更には2×10-8mol/m/s/Pa以上であることが好ましい。これにより、硫化水素を分離するために必要なゼオライト膜面積を小さくすることができ、経済的に有利である上に装置の簡素化が可能となる。
【0028】
ゼオライト膜に対するメタン透過度は1×10-8mol/m/s/Pa以下が好ましく、更に好ましくは0.8×10-8mol/m/s/Pa以下である。これにより、より効率的にメタン等の炭化水素を回収することができる。
【0029】
次いで、本発明の硫化水素の分離方法について説明する。
【0030】
本発明の硫化水素の分離方法は、本発明のゼオライト分離膜を用いた分離方法である。
【0031】
本発明の硫化水素の分離方法は、ゼオライト膜に吸着している水分をあらかじめ除去するための脱水工程の後に、硫化水素と炭化水素を含む気体と、ゼオライト分離膜とを接触させる硫化水素の分離工程とを有することが好ましい。
【0032】
脱水工程における脱水方法は特に限定するものではなく、例えば減圧下550℃以下で加熱処理する方法が挙げられる。これにより硫化水素の透過度が高くなる、分離性能が高い点で500℃以下が好ましく、400℃以下がさらに好ましい。分離前の工程でエネルギー消費量が低い点で50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。分離性能とエネルギー消費量の観点で50℃以上400℃以下が好ましい。脱水時の圧力は減圧下でも大気圧下でも良い。また、脱水時の雰囲気は酸素雰囲気でも非酸素雰囲気でも良い。
【0033】
分離工程は、ゼオライト膜に炭化水素と硫化水素を含む気体を接触させる。より詳細には、少なくとも一方の表面がFAU型ゼオライト膜で被覆された多孔質基材からなる分離膜2つの表面のうち、一方の表面に硫化水素/炭化水素混合ガスを接触させることによって行われる。さらに詳しくは、膜に気体を接触させ、選択的に硫化水素を、ゼオライト膜及び基材を透過させて分離する。この際、硫化水素と同伴する炭化水素等はゼオライト膜により阻害され、その炭化水素の膜透過量は極めて少ない。分離係数を(硫化水素の透過度)/(メタンの透過度)で表した場合、本発明における分離は、分離係数3以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは5以上の性能を有するゼオライト膜を用いて行われる。
【0034】
分離工程では、ゼオライト膜の温度を-60℃以上110℃以下に保持することにより、硫化水素をより高選択的に分離することができる。分離工程における膜温度は、-60℃以上であることが好ましく、更には-40℃以上、また更には-20℃以上が好ましい。これにより、ゼオライト膜-基材の細孔内において、硫化水素の凝縮が抑制され、より高選択的に分離を行うことができる。膜温度は、80℃以下であることが好ましく、更には50℃以下であることが好ましい。これにより、硫化水素をより高選択的に透過させることができる。
【0035】
分離工程における硫化水素/炭化水素混合ガスの圧力は特に限定するものではなく、例えば0.10MPa以上で分離する方法が挙げられる。これにより膜の単位面積当たりの硫化水素透過量が高くなる、すなわち分離性能が高い点で0.10MPa以上が好ましく、0.20MPa以上がさらに好ましい。
【0036】
分離工程における硫化水素透過度は1×10-8mol/m/s/Pa以上が好ましく、更には2×10-8mol/m/s/Pa以上であることが好ましい。これにより、硫化水素を分離するために必要なゼオライト膜面積を小さくすることができ、経済的に有利である上に装置の簡素化が可能となる。
【0037】
分離工程におけるメタン透過度は1×10-8mol/m/s/Pa以下が好ましく、更に好ましくは0.8×10-8mol/m/s/Pa以下である。これにより、より効率的にメタン等の炭化水素を回収することができる。
【0038】
硫化水素/炭化水素混合ガスにおける炭化水素は、少なくともメタンを含むことが好ましい。メタンは天然ガス等の主成分であることから、本発明の分離方法を工業的に実施することが可能となる。炭化水素は特に限定するものではなく、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、エチレン、アセチレン、プロピレン、プロパジエン、ブテン、ブタジエンからなる群の少なくとも1種が挙げられ、2種以上を含んでいてもよい。また、硫化水素/炭化水素混合ガスは、前記ガスのほか、二酸化炭素、水、窒素、酸素、希ガス等の第三成分を含んでいてもよい。
【0039】
本発明のゼオライト分離膜を用いることで、硫化水素を高選択的に、かつ膜が劣化することなく長期的に安定して分離することが可能である。
【発明の効果】
【0040】
本発明のゼオライト分離膜は耐久性に優れることから、系外から大量の熱エネルギーを加えることなく、硫化水素/炭化水素混合ガスから硫化水素を高選択的に、かつ膜が劣化することなく長期的に安定して透過分離することが可能であり、従来のアミン等の塩基を用いた化学吸収法に比べて極めてエネルギー効率が良いため、省エネルギー製造プロセスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】ゼオライト分離膜を用いた硫化水素の分離性能評価装置の模式図である。
【実施例
【0042】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
【0043】
(X線回折測定)
一般的なXRD装置(装置名:RINT UltimaIII、理学電機製)を使用し、試料のXRD測定を行った。測定条件は以下のとおりとした。
【0044】
線源 : CuKα線(λ=1.54Å)
測定モード : ステップスキャン
スキャン条件: 毎分4°
発散スリット: 2/3deg
散乱スリット: 2/3deg
受光スリット: 0.3mm
ステップ幅 : 0.02°
測定範囲 : 2θ=5~40°
(組成分析)
ゼオライト膜のSi/Alモル比は、XRD法により格子定数を算出し、非特許文献(T.Takaishi,The Journal of Physical Chemistry 99(1995)10982-10987)を参考に評価した。ゼオライト膜の銀含有量はエネルギー分散型X線分光法(EDS)で測定した。測定には一般的なSEM-EDS装置(装置名:JSM-IT100 InTouchScope、日本電子(株)製)を用いた。
【0045】
(膜厚評価)
ゼオライト膜の膜厚は、走査型電子顕微鏡(SEM)による膜の断面観察により評価した。観察には一般的なSEM装置(装置名:JSM-IT100 InTouchScope、日本電子(株)製)を用いた。
【0046】
(硫化水素の分離評価)
図1に示す分離性能評価装置を用いて、ゼオライト膜の分離性能を評価した。硫化水素/メタン混合ガスをゼオライト膜表面へマスフローコントローラーを用いて供給した。供給圧は背圧弁を用いて調整した。膜を透過したガスをスィープガス(He 50mL/min)により回収し、ガスクロマトグラフィーにより定量分析を実施した。測定には一般的なガスクロマトグラフ装置(装置名:Agilent 7890B、アジレント・テクノロジー(株)製、TCD検出器)を用いた。硫化水素分離性能を示す分離係数は次式により算出した。
【0047】
分離係数=(透過ガス中の硫化水素濃度/透過ガス中のメタン濃度)
/(供給ガス中の硫化水素濃度/供給ガス中のメタン濃度)
実施例1
非特許文献(H.Kita,K.Fuchida,T.Horita,H.Asamura,and K.Okamoto,Separation and Purification Technology 25(2001)261-268)を参考にしてY型ゼオライト膜を作製した。
【0048】
<種晶付多孔質基材の作製>
種晶として東ソー(株)製HSZ-360HUA12.5gを50mlの純水に分散させ、ボールミルで24時間かけて粉砕した。得られたスラリーに円筒型多孔質基材(材質:αアルミナ、平均細孔径:0.7μm(表面側:0.15μm)、気孔率:35~45%、長さ:3cm、外径:1cm、内径:0.7cm)を浸漬し、これを乾燥させることで基材外表面に種晶を担持した。
【0049】
<ゼオライト分離膜の作製>
水酸化ナトリウム(関東化学製特級)2.6g、蒸留水26g、及びアルミン酸ソーダ(和光純薬工業株式会社製)0.13gを室温で5min撹拌混合した(溶液1)。また、ケイ酸ナトリウム溶液(3号)(キシダ化学株式会社製)14g及び蒸留水26gを室温で5min撹拌混合した(溶液2)。溶液1と溶液2を混合し、80℃で4h撹拌混合した。得られた混合溶液に種晶付多孔質基材を浸漬し、85℃で24h水熱合成した。次いで、混合溶液から取り出した基材を蒸留水で洗浄、乾燥してゼオライト分離膜を得た。得られた多孔質基材のゼオライト膜部分に対して、XRDによって構成相の同定を行い、当該ゼオライト膜部分のSi/Alの比が1.7であり、その結晶相がNaY型ゼオライトであることを確認した。
【0050】
得られたNaY型ゼオライト分離膜を0.01モル%のAgNO水溶液に3h浸漬した後、蒸留水で複数回洗浄してAgY型ゼオライト分離膜を得た。組成分析の結果、得られたゼオライト膜Ag含有量は42重量%であった。イオン交換率(Ag/(Na+Ag)モル比)は0.99であり、Ag/Alモル比は0.99であった。ゼオライト膜の膜厚は3.5μmであった。
【0051】
得られたAgY型ゼオライト分離膜を、図1に示す評価装置の恒温槽内へ取り付け、脱水処理(150℃、30min、He 50mL/min)を実施した。脱水処理後、恒温槽の温度を30℃へ保持した状態で、硫化水素/メタンのモル比が20/80の混合ガスとなるように、ゼオライト膜表面へ硫化水素を20mL/min、メタンを80mL/minで供給し、供給圧を0.1MPaとした。硫化水素を含有するガスを1h、6h、12h及び14h供給した後の硫化水素分離性能評価を実施した。硫化水素透過度、メタン透過度、及び分離係数を表1に示す。
【0052】
比較例1
AgNO水溶液による浸漬処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でNaY型ゼオライト分離膜を作製した。当該分離膜を、実施例1と同様の方法で脱水処理した後、硫化水素を14h供給した後の硫化水素分離性能評価を実施した。硫化水素透過度、メタン透過度、及び分離係数を表1に示す。XRDによってゼオライト膜の構成相の同定を行い、FAU型ゼオライトであることを確認した。膜厚は3.5μmであった。
【0053】
【表1】
【0054】
以上の実施例から、本発明のゼオライト分離膜は、硫化水素を含有するガスを接触させて硫化水素分離方法に用いることで、その分離係数が1よりも大きく、硫化水素/炭化水素混合ガスから硫化水素を選択的に分離可能であることが分かる。さらに、硫化水素透過度の低下が見られず、膜が劣化することなく長期的に安定して分離可能であることが分かる。したがって、本発明の硫化水素分離方法を天然ガス等の硫化水素分離プロセスへ適用することにより、莫大なエネルギーを投入することなく経済的に有利となる。
【0055】
実施例2
実施例1と同様の方法でAgY型ゼオライト分離膜を作製し、図1に示す評価装置の恒温槽内へ取り付け、脱水処理(70℃、30min、He 50mL/min)を実施した。脱水処理後、恒温槽の温度を30℃へ保持した状態で、硫化水素を含有するガスを1h供給した後の硫化水素分離性能評価を実施した。硫化水素透過度は2.2×10-8mol/m/s/Pa、メタン透過度は3.5×10-10mol/m/s/Pa、及び分離係数は63であった。
【0056】
実施例3
実施例1と同様の方法でAgY型ゼオライト分離膜を作製し、図1に示す評価装置の恒温槽内へ取り付け、脱水処理(70℃、120min)を実施した。ここで、該脱水処理は、ゼオライト膜が形成されている基材表面側へNを供給し(50mL/min)、もう一方の表面側を真空ポンプにより100Paとして実施した。脱水処理後、恒温槽の温度を30℃へ保持した状態で、硫化水素を含有するガスを1h供給した後の硫化水素分離性能評価を実施した。硫化水素透過度は4.5×10-8mol/m/s/Pa、メタン透過度は8.5×10-10mol/m/s/Pa、及び分離係数は53であった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のゼオライト分離膜を用いることで天然ガス等の硫化水素含有炭化水素ガスに含まれる硫化水素を分離除去することが可能である。天然ガスの他、農業廃棄物、食品廃棄物等の嫌気性発酵により発生するバイオガスに含まれる硫化水素を除去することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 硫化水素ガス
2 炭化水素ガス
3 ヘリウム
4 マスフローコントローラー
5 マスフローコントローラー
6 マスフローコントローラー
7 恒温槽
8 モジュール
9 ゼオライト膜付多孔質基材
10 排気
11 ガスクロマトグラフ
12 排気
13 圧力計
14 真空ポンプ
15 排気
16 背圧弁
17 圧力計
図1