IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

特許7243493半導体封止用エポキシ樹脂組成物及び半導体装置
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】半導体封止用エポキシ樹脂組成物及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20230314BHJP
   C08G 59/68 20060101ALI20230314BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20230314BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20230314BHJP
   H01L 23/28 20060101ALI20230314BHJP
   H01L 23/00 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08G59/68
H01L23/30 R
H01L23/28 F
H01L23/00 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019125935
(22)【出願日】2019-07-05
(65)【公開番号】P2021011528
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(72)【発明者】
【氏名】長田 将一
(72)【発明者】
【氏名】大石 宙輝
(72)【発明者】
【氏名】川村 訓史
(72)【発明者】
【氏名】萩原 健司
(72)【発明者】
【氏名】横田 竜平
(72)【発明者】
【氏名】金田 雅浩
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/199639(WO,A1)
【文献】特開2001-106771(JP,A)
【文献】特開2019-036642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 59/00-59/72
H01L 23/28-23/30
H01L 21/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂
(B)フェノール系硬化剤
(C)ウレア構造を有する硬化促進剤
(D)レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤 及び
(E)無機充填材
を含む半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、
(A)エポキシ樹脂と(B)フェノール系硬化剤はエポキシ基/フェノール性水酸基の当量比が0.5以上1.5以下となる量であり、
(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(C)成分:0.5~10.0質量部、(D)成分:20~100質量部、(E)成分:50~1,500質量部をそれぞれ含むものである半導体封止用エポキシ樹脂組成物
【請求項2】
前記(D)成分が、下記式(1)
AB24 (1)
(式中、Aは鉄、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛、マグネシウム及びマンガンから選ばれる1種もしくは2種以上の金属元素であり、Bは鉄又はクロムであり、ただしA及びBは同時に鉄ではない)
の平均組成式で示され、スピネル構造を有する金属酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記(D)成分の添加量が、前記(A)成分と前記(B)成分の合計100質量部に対し、3080質量部である請求項1又は2に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D)成分の平均粒径が0.01~5μmである請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
(D)成分が、前記(D)成分10質量部を純水50質量部に浸漬して(D)成分の水分散液を得、該水分散液を125℃±3℃で20時間±1時間静置後の該(D)成分の水分散液中のナトリウムイオン濃度が50ppm以下であり、かつ塩化物イオン濃度が50ppm以下であるものである、請求項1~4のいずれか1項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記(E)成分の湿式篩法によるトップカット径が5~25μmであり、平均粒径が0.5~10μmであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物を有する半導体装置。
【請求項8】
前記硬化物の少なくとも一部がメッキ処理されていることを特徴とする請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
メッキ処理がレーザー照射箇所に施されることを特徴とする請求項8に記載の半導体装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解メッキにより硬化物表面又は硬化物内部に、被覆層又は配線層を作製可能な、半導体封止用エポキシ樹脂組成物、及びその硬化物を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、スマートフォン等の通信機器に搭載される半導体装置では、機器が発する電磁ノイズによる誤動作を防ぐため、電磁波シールド性を持たせる必要がある。
半導体装置に電磁波シールド性をもたせる方法として、板金による方法、スパッタにより半導体表面に金属層を蒸着する方法等がある。しかし、板金により電磁波シールド性をもたせる方法は、通信機器の薄型化・小型化に適さず、またスパッタにより金属層を蒸着する方法は、その過程で高真空にする必要があり、連続生産ができず生産性に劣るものである。
【0003】
また、ウェアラブルデバイス等の発展に伴い、半導体装置もさらなる薄型化が要求されている。そこで、半導体封止材の表面にメッキによる金属配線パターンを形成することで、半導体装置の上に新たな半導体装置を直接作製可能となる。
また、配線以外にも半導体封止材の表面にアンテナを形成することで通信機器向け半導体装置の小型化も試みられている。
そうした開発の一環として、近年ではウェハーレベル封止のチップサイズパッケージにおいて、再配線層をチップの外側に設けることで、複数のチップ間を高密度の配線で接続することが可能となる技術が開発されている。しかし、現在の再配線に用いられる方式としては、銅電解メッキなどが主流であり、レジストの塗布、パターン形成、洗浄、スパッタ、レジストの除去、電解メッキと工程が非常に煩雑である。また電解メッキによる方法では、樹脂やチップに対しても耐薬品性が求められている。
【0004】
そうした中、選択的にメッキパターンを構築する方法として、レーザーダイレクトストラクチャリング(以下「LDS」と記載する)という技術が開発されている(特許文献1)。この技術ではLDS添加剤を熱可塑性樹脂に添加し、その硬化物表面又は内部をレーザーにて活性化することで、照射した部分のみにメッキ層を形成できる。この技術では接着層や、レジスト等を用いずに硬化物表面又は内部に金属層の形成が可能という特徴がある(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2004-534408号公報
【文献】特開2015-108123号公報
【文献】国際公開WO2015/033295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
LDS添加剤は複合金属酸化物でありルイス酸性を示す。そのため、塩基性の硬化促進剤を含む従来の半導体封止用エポキシ樹脂組成物に、LDS添加剤を用いると、触媒活性が阻害され、硬化性が著しく低下するという問題があった。半導体封止用樹脂組成物にルイス酸性の添加物を加える際には、表面をシランカップリング剤等で被覆し、硬化促進剤と直接の接触を避ける方法があるが、組成物の硬化後にレーザーを照射し、LDS添加剤を活性化させるため、LDS添加剤の表面を被覆すると、その活性化を阻害してしまうという問題がある。そのため、これまで、半導体封止用エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂に対してLDS技術を使用した例はなかった。
【0007】
従って、本発明は硬化性に優れる組成物であって、該組成物の硬化物表面又は内部の、レーザーで照射した部分のみにメッキ層を形成することができる、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究したところ、LDS添加剤を含むエポキシ樹脂組成物において、ウレア構造を有する硬化促進剤を用いることで、硬化阻害を受けないことを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の半導体封止用エポキシ樹脂組成物及び該組成物の硬化物を有する半導体装置を提供するものである。
[1]
(A)エポキシ樹脂
(B)フェノール系硬化剤
(C)ウレア構造を有する硬化促進剤
(D)レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤 及び
(E)無機充填材
を含む半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
[2]
前記(D)成分が、下記式(1)
AB24 (1)
(式中、Aは鉄、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛、マグネシウム及びマンガンから選ばれる1種もしくは2種以上の金属元素であり、Bは鉄又はクロムであり、ただしA及びBは同時に鉄ではない)
の平均組成式で示され、スピネル構造を有する金属酸化物であることを特徴とする[1]に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
[3]
前記(D)成分の添加量が、前記(A)成分と前記(B)成分の合計100質量部に対し、20~100質量部である[1]又は[2]に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
[4]
前記(D)成分の平均粒径が0.01~5μmである[1]~[3]のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
[5]
(D)成分が、前記(D)成分10質量部を純水50質量部に浸漬して(D)成分の水分散液を得、該水分散液を125℃±3℃で20時間±1時間静置後の該(D)成分の水分散液中のナトリウムイオン濃度が50ppm以下であり、かつ塩化物イオン濃度が50ppm以下であるものである、[1]~[4]のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
[6]
前記(E)成分の湿式篩法によるトップカット径が5~25μmであり、平均粒径が0.5~10μmであることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
[7]
[1]~[6]のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物を有する半導体装置。
[8]
前記半導体装置の少なくとも一部がメッキ処理されていることを特徴とする[7]に記載の半導体装置。
[9]
メッキ処理がレーザー照射箇所に施されていることを特徴とする[8]に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物は、硬化性に優れる。また、本発明の組成物の硬化物は無電解メッキ処理により硬化物表面又は内部に金属層(メッキ層)を、選択的かつ容易に形成できる。したがって、本発明の組成物は、小型で薄型の、電磁波シールド性を必要とする通信デバイス、アンテナを備える半導体装置及び配線層を備える半導体装置等の封止材として好適である。また、本発明の組成物の硬化物を有する半導体装置は、連続生産が可能であり、生産性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0012】
(A)エポキシ樹脂
(A)成分のエポキシ樹脂としては、封止用エポキシ樹脂組成物の技術分野で従来使用されるエポキシ樹脂が挙げられる。このようなエポキシ樹脂としては、
フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;
ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジヒドロアントラセンジオール型エポキシ樹脂等の結晶性エポキシ樹脂;
トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;
フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するナフトールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等のアラルキル型エポキシ樹脂;
ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの二量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;
トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;
ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのうち、組成物の粘度を低く抑えるため、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等のアラルキル型エポキシ樹脂及びビフェニル型エポキシ樹脂が好ましい。
【0013】
(A)成分は、本発明の組成物中、4.0~40.0質量%含有することが好ましく、4.5~30.0質量%含有することがより好ましく、5.0~20.0質量%含有することがさらに好ましい。
【0014】
(B)フェノール系硬化剤
(B)成分のフェノール系硬化剤としては、封止用エポキシ樹脂組成物の技術分野で従来使用されるフェノール系樹脂が挙げられる。このような硬化剤としては、ノボラック型フェノール樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂、アラルキル型ビフェニル樹脂、アラルキル型フェノール樹脂、トリフェノールアルカン型フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、脂環式フェノール樹脂、複素環型フェノール樹脂ナフタレン環含有フェノール樹脂、ビスフェノールA型フェノール樹脂、ビスフェノールF型フェノール樹脂等のビスフェノール型フェノール樹脂が挙げられ、これらは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのうち、好ましくはノボラック型フェノール樹脂、アラルキル型ビフェニル樹脂、アラルキル型フェノール樹脂であり、特に好ましくはアラルキル型フェノール樹脂である。
【0015】
エポキシ樹脂と硬化剤との配合割合(エポキシ基/フェノール性水酸基)は、当量比で、0.5以上1.5以下が好ましく、0.8以上1.2以下がより好ましい。この配合割合が過度に小さいと硬化剤が過多となって経済的に不利となり、配合割合が過度に大きいと、硬化剤が過小になり硬化不足になる。
【0016】
(C)硬化促進剤
(C)成分の硬化促進剤は、ウレア構造を有し、(A)成分のエポキシ基と(B)成分のフェノール性水酸基との架橋反応を促進させるものであることが特徴である。(C)成分の硬化促進剤としては、例えば、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア、N’-フェニル-N,N-ジメチルウレア、N,N-ジエチルウレア、N’-[3-[[[(ジメチルアミノ)カルボニル]アミノ]メチル]-3,5,5-トリメチルシクロへキシル]-N,N-ジメチルウレア、N,N”-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビス(N’,N’-ジメチルウレア)等が挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
中でも、一定の温度に達してはじめて硬化反応を起こす潜在性を有することから、N,N-ジエチルウレア、N’-[3-[[[(ジメチルアミノ)カルボニル]アミノ]メチル]-3,5,5-トリメチルシクロへキシル]-N,N-ジメチルウレアが好ましい。
【0017】
(C)成分の添加量としては、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、0.5~10.0質量部が好ましく、1.5~6.0質量部がより好ましい。この範囲内であれば、(A)成分のエポキシ基と(B)成分のフェノール性水酸基が速やかに反応し、容易に硬化物を得ることができる。
【0018】
また、(C)成分のウレア構造を有する硬化促進剤以外に、エポキシ樹脂組成物に一般的に用いられているウレア構造を有さない硬化促進剤を、組成物全体の硬化性を阻害しない範囲で併用してもよい。(C)成分のウレア構造を有する硬化促進剤以外の硬化促進剤としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-メチル-4-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-メチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等の三級アミン類;トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等の有機ホスフィン類等及び、これらをマイクロカプセル化したもの等が挙げられる。
【0019】
(D)レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤(LDS添加剤)
(D)LDS添加剤は、下記式(1)
AB24 (1)
(式中、Aは鉄、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛、マグネシウム及びマンガンから選ばれる1種もしくは2種以上の金属元素であり、Bは鉄又はクロムであり、ただしA及びBは同時に鉄ではない)
の平均組成式で示され、スピネル構造を有する金属酸化物である。
具体的には、FeCr24、CuCr24、NiCr24、CoCr24、ZnCr24、MgCr24、MnCr24、CuFe24、NiFe24、CoFe24、ZnFe24、MgFe24、MnFe24などが挙げられる。
これらLDS添加剤である金属酸化物の製造方法は限定されず、金属酸化物混合粉の焼成、金属粉混合物の酸化、化学合成等で製造されたものを使用すればよい。
【0020】
LDS添加剤の形状は、微粒子であることが好ましく、その平均粒径は、レーザー回折式粒度分布計で測定した体積粒度分布測定値において、0.01~5μmのものが好ましく、特に0.05~3.0μmの範囲に入るものが好ましい。LDS添加剤の平均粒径が0.01~5μmであれば、LDS添加剤が樹脂全体に均一に分布し、パッケージ表面にレーザーを照射した際のメッキ触媒となる金属種の発生が促され、メッキ性が向上する。
【0021】
LDS添加剤の配合量は(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して20~100質量部が好ましく、30~80質量部がより好ましい。20質量部より少ないと、レーザーを照射した際のメッキ触媒となる金属種の発生が不十分となり、メッキ性が低下する。100質量部より多くとなると、粒径の小さな金属酸化物粒子の割合が多くなり、組成物の流動性及び成型性の低下の原因となる場合がある。
【0022】
また、LDS添加剤10質量部を125℃±3℃/20±1時間の条件下で純水50質量部に浸漬した場合、浸漬後の水分散液中の無機イオン濃度が一定濃度以下であるLDS添加剤が好ましく、特にはナトリウムイオン濃度が50ppm以下であり、かつ塩化物イオン濃度が50ppm以下であることが好ましい。ナトリウムイオン、及び塩化物イオンの濃度が50ppmより多くなると、硬化物の高温高湿環境での電気特性が低下し、半導体装置の金属部分の腐食の原因となるおそれがある。
ナトリウムイオン濃度は原子吸光光度計により測定した値であり、塩化物イオン濃度はイオンクロマトグラフィにより測定した値である。
なお、市販のLDS添加剤のイオン濃度が前記上限値を超える場合は、前記市販のLDS添加剤を繰り返し水洗等により、好ましいイオン濃度となるまで精製し、乾燥してから、用いればよい。
【0023】
(E)無機充填材
(E)無機充填材は溶融シリカ、結晶シリカ、クリストバライト、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化チタン、ガラス繊維、アルミナ繊維、酸化亜鉛、タルク、炭化カルシウム等の材料(但し、上述した(D)成分を除く)を使用することができる。これらを2種以上併用してもよい。(E)無機充填材のトップカット径は湿式篩法において5~25μmが好ましく、より好ましくは10~20μmであり、平均粒径はレーザー回折式粒度分布計で測定した体積粒度分布測定値において1~10μmが好ましく、より好ましくは3~7μmである。
ここでいうトップカット径とは、製造された無機充填材が湿式篩法による分級で用いられた篩の目開きを表し、該目開きよりも大きい粒子の割合がレーザー回折法により測定した体積粒度分布測定値において2体積%以下となる値をいう。トップカット径が25μmより大きいとレーザー照射した際に無機充填材表面が露出した部分はめっきされず、配線層やビア作製の障害となるおそれがある。
【0024】
(E)無機充填材の添加量は、(A)成分及び(B)成分の合計100質量部に対して50~1,500質量部が好ましく、150~1,200質量部がより好ましい。
【0025】
・その他の添加剤
本発明の樹脂組成物には、更に、本発明の効果を損なわない範囲で、接着助剤、離型剤、難燃剤、イオントラップ剤、可撓性付与剤、その他の添加剤を含有してもよい。
【0026】
接着助剤としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン;N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールとγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの反応物、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン;γ-メルカプトシラン、γ-(チイラニルメトキシ)プロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン等が挙げられ、これらは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0027】
離型剤としては、カルナバワックス、ライスワックス、ポリエチレン、酸化ポリエチレン、モンタン酸、モンタン酸と飽和アルコール、2-(2-ヒドロキシエチルアミノ)-エタノール、エチレングリコール、グリセリン等とのエステル化合物等のワックス;ステアリン酸、ステアリン酸エステル、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体等が挙げられ、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
難燃剤としては、ハロゲン化エポキシ樹脂、ホスファゼン化合物、シリコーン化合物、モリブデン酸亜鉛担持タルク、モリブデン酸亜鉛担持酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン等が挙げられる。これらの難燃剤は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよいが、環境負荷や流動性確保の観点からホスファゼン化合物、モリブデン酸亜鉛担持酸化亜鉛、酸化モリブデンが好適に用いられる。
【0029】
イオントラップ剤としては、ハイドロタルサイト化合物、ビスマス化合物、ジルコニウム化合物等が挙げられ、これらは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0030】
可撓性付与剤としては、シリコーンオイル、シリコーンレジン、シリコーン変性エポキシ樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂等のシリコーン化合物や、スチレン樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性エラストマー等が挙げられ、これらは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0031】
これらのその他の添加剤のエポキシ樹脂組成物中の含有量は各添加剤の機能を良好に発揮させる範囲内で適宜決定すればよいが、例えば(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下の範囲である。
【0032】
・組成物の製造方法
本発明の組成物は例えば次のようにして製造される。すなわち、エポキシ樹脂、フェノール系硬化剤、硬化促進剤、LDS添加剤、無機充填材、及びその他の材料をそれぞれ所定の量ずつ配合し、ミキサー等によって十分均一に混合した後、熱ロール、ニーダー、エクストルーダー等による溶融混合処理を行い、次いで冷却固化させ、適当な大きさに粉砕すればよく、得られた組成物は成形材料として使用できる。また、さらに打錠しタブレット形状としても使用できる。
【0033】
本発明の組成物はトランジスタ型、モジュール型、DIP型、SO型、フラットパック型、ボールグリッドアレイ型等の半導体装置の封止樹脂として有効である。本発明の組成物による半導体装置の封止方法は特に制限されるものでなく、従来の成形法、例えばトランスファー成形、インジェクション成形、注型法等を利用すればよい。特に好ましいのはトランスファー成形である。
【0034】
本発明の組成物の成形(硬化)条件は特に規制されるものでないが、160~190℃で90~300秒間が好ましい。さらに、ポストキュアを170~250℃で2~16時間行うことが好ましい。
【0035】
本発明の組成物は、硬化性及び成型性に優れている。したがって、該組成物はトランスファー成形材料として使用することができる。また、本発明の組成物の硬化物の表面又は内部に容易かつ選択的にレーザーダイレクトストラクチャリングによる無電解メッキにより金属層を設けることができることから、電磁波シールド性を必要とする通信用デバイス等に好適に使用できる。
【0036】
・半導体装置
本発明の半導体装置は、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物を有するものであり、前記硬化物の少なくとも一部がメッキ処理されていることを特徴とする。メッキ処理を施す方法としては、特に限られないが、硬化物の表面又は内部に、波長248nm、308nm、355nm、532nm、1064nm又は10,600nmから選ばれるレーザーを、所望の配線、孔径、深さになるように照射し、レーザー照射後、Cu、Ni、Agなど目的とする金属成分を含むメッキ液に浸漬する方法が挙げられる。レーザーの出力は0.01~15W、レーザーの走査速度は1~1000mm/sの範囲が好ましい。メッキ液は目的とする金属成分の他、錯化剤、pH調整剤、電導度塩、還元剤などを含む溶液で、一般的に市販しているものを用いることができる。メッキ液の温度は50~80℃、浸漬時間は20~120分である。
【実施例
【0037】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
実施例及び比較例に使用した材料を以下に示す。
【0038】
(A)エポキシ樹脂
・エポキシ樹脂1:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂:DIC製「エピクロンN695」(エポキシ当量210)
・エポキシ樹脂2:ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂:日本化薬社製「NC-3000」(エポキシ当量273)
【0039】
(B)フェノール系硬化剤
・硬化剤1:ノボラック型フェノール樹脂:DIC製「TD-2093Y」(フェノール当量110)
・硬化剤2:アラルキル型フェノール樹脂:明和化成社製「MEHC-7851SS」(フェノール当量175)
【0040】
(C)硬化促進剤
・硬化促進剤1:N’-[3-[[[(ジメチルアミノ)カルボニル]アミノ]メチル]-3,5,5-トリメチルシクロへキシル]-N,N-ジメチルウレア:サンアプロ社製「U-cat 3513N」
・硬化促進剤2:3―フェニル―1,1―ジメチルウレア:サンアプロ社製「U-cat 3512T」
・硬化促進剤3(比較例用):2-エチル-4-メチルイミダゾール:四国化成製「2E4MZ」
・硬化促進剤4(比較例用):トリフェニルホスフィン:北興化学製「TPP」
【0041】
(D)LDS添加剤
・LDS添加剤1:EX1816:シェファードカラージャパンインク製(CuCr24:ナトリウムイオン濃度:16ppm、塩化物イオン濃度:14ppm、平均粒径0.8μm)
・LDS添加剤2:Black 30C940:シェファードカラージャパンインク製(FeCr24:ナトリウムイオン濃度:490ppm、塩化物イオン濃度:57ppm、平均粒径1.0μm)
・LDS添加剤3:Black 30C933:シェファードカラージャパンインク製(MnFe24:ナトリウムイオン濃度:86ppm、塩化物イオン濃度:24ppm、平均粒径0.9μm)

なお、上記LDS添加剤1~3のナトリウムイオン濃度及び塩化物イオン濃度は、下記の方法で測定した。LDS添加剤10質量部を純水50質量部に浸漬して水分散液を得、該水分散液を125℃±3℃で20時間±1時間静置した。所定時間後、該水分散液をろ紙で濾過し、ろ液を原子吸光光度計で測定し、ナトリウムイオン濃度を求めた。塩化物イオン濃度はイオンクロマトグラフィで測定した。
【0042】
(E)無機充填材
・シリカ粒子1:龍森社製「MUF-4」(平均粒径4μm、トップカット径10μm)
・アルミナ粒子1:アドマテックス社製「AC9104-SXE」(平均粒径4μm、トップカット径10μm)
【0043】
[離型剤]
・カルナバワックス:東亜化成社製「TOWAX-131」
【0044】
上記成分を表1~2に記載の組成(質量部)に従い配合し、各成分を溶融混合し、冷却、粉砕して組成物を得た。得られた各組成物を以下に示す方法に従い評価し、その結果を表1~2に示した。
【0045】
[スパイラルフロー]
EMMI規格に準じた金型を使用して、成形温度175℃、成形圧力6.9N/mm2、成形時間300秒の条件で測定した。
【0046】
[ゲル化時間]
ISO8987(1995)に記載のゲル化時間測定法B法(平板法)に準拠しゲル化時間の測定を行った。
【0047】
[硬化物メッキ性評価]
(表面メッキ性評価)
175℃で300秒間の条件で成型した試験片表面に、YVO4レーザーマーカー(KEYENCE社製、1064nm)のテストモードで印字した。
この試験片を、アトテック社製メイキャップCNN-mod:75ml、アトテック社製オーロテックCNNパートA:30ml、純水:395ml、及びアンモニア水:8mlを混合して調製したNiメッキ液に80℃に保温した状態で30分間浸漬し、メッキ性を確認した。
(内部メッキ性評価)
レーザー基板切断機MicroLine5820P(LPKF製)を用いて厚さ0.20mmの硬化物に200μmφの貫通孔を10個形成した。
この成形物を前記メッキ液に65℃で30分浸漬し貫通孔にメッキした。内部メッキ性の確認は、貫通孔を断面研磨し、顕微鏡にてメッキ性を確認した。

いずれもメッキ性は全くメッキされていなければ×、部分的にメッキされ、メッキ部に途切れや飛びがある場合は△、連続して均一にメッキされていれば○とした。
【0048】
[電気信頼性評価]
櫛形電極を配線したシリコンチップを搭載したDIP14pinリードフレームを、実施例又は比較例の各組成物を用いて175℃で300秒間の条件で封止し、180℃で4時間の条件でポストキュアして半導体装置を得た。得られた半導体装置10個を85℃/85%RH環境下に静置し、電圧5Vを336時間かけた。336時間後の抵抗を測定し、抵抗値が上昇し、100Ω以上となった半導体装置を不良と判断し、正常に通電している半導体装置を良好と判断し、10個の半導体装置のうち良好と判断された半導体装置の個数をカウントした。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
以上の結果から、本発明の組成物は良好な硬化性を持ち、硬化物表面及び内部に無電解メッキ処理により容易に金属層を形成できることから、電磁波シールド性を必要とする通信デバイスや、アンテナを備える半導体装置、配線層を形成する必要がある半導体装置に好適である。