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特許7243730防汚皮膜、ガラスセラミックス製品、防汚皮膜形成用塗料、ガラスセラミックス製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】防汚皮膜、ガラスセラミックス製品、防汚皮膜形成用塗料、ガラスセラミックス製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20230314BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20230314BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20230314BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20230314BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20230314BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D5/16
B05D7/00 E
B05D5/00 H
B05D3/02 Z
B05D7/24 303B
B05D7/24 302A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020545972
(86)(22)【出願日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 JP2019035011
(87)【国際公開番号】W WO2020054577
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2018171189
(32)【優先日】2018-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】前田 大作
(72)【発明者】
【氏名】茂 啓二郎
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-11958(JP,A)
【文献】特開2013-75974(JP,A)
【文献】特開2014-40367(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102864397(CN,A)
【文献】米国特許第6399154(US,B1)
【文献】特開昭62-241554(JP,A)
【文献】特開2008-300850(JP,A)
【文献】特表2014-515698(JP,A)
【文献】特開2010-37173(JP,A)
【文献】特開2010-280972(JP,A)
【文献】特開2016-135824(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101184866(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00- 7/26
C09D 1/00- 10/00
C09D101/00-201/10
C23C 18/00- 20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A):ジルコニウムと、
成分(B):ランタンと、
成分(C):ケイ素、リン、およびホウ素からなる群から選択される少なくとも1種と、
を含む防汚皮膜であって、
成分(A)、成分(B)および成分(C)の質量を、これらの酸化物としての質量に換算して用いたとき、
前記防汚皮膜の質量に対する、前記成分(A)と前記成分(B)の合計質量の割合が、90%以上95%以下であり、
前記成分(B)の質量/(前記成分(A)と前記成分(B)の合計質量)×100の式で得られる割合をXとしたときに、Xが20%以上50%以下であり、
前記防汚皮膜の質量に対する前記成分(C)の質量の割合が、5%以上[6+(X-20)/6]%以下である、
ことを特徴とする防汚皮膜。
【請求項2】
ガラスセラミックスからなる基体と、前記基体の表面に形成された、請求項1に記載の防汚皮膜と、を有することを特徴とする、ガラスセラミックス製品。
【請求項3】
前記防汚皮膜の表面の視感反射率R%と、前記基体の表面の視感反射率R%の差(R-R)が1%以上であることを特徴とする、請求項2に記載のガラスセラミックス製品。
【請求項4】
成分(a):ジルコニウム酸化物、ジルコニウムイオンおよびジルコニウム酸化物前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、
成分(b):ランタン酸化物、ランタンイオンおよびランタン酸化物前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、
成分(c):ケイ素、リンおよびホウ素からなる群から選択される少なくとも1種の、酸化物、酸化物イオンおよび酸化物前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、
分散媒と、
を含む防汚皮膜形成用塗料であって、
成分(a)、成分(b)および成分(c)の質量を、これらの酸化物としての質量に換算して用いたとき、
塗料の全固形分の質量に対する、前記成分(a)と前記成分(b)の合計質量の割合が、90%以上95%以下であり、
前記成分(b)の質量/(前記成分(a)と前記成分(b)の合計質量)×100の式で得られる割合をXとしたときに、Xが20%以上50%以下であり、
全固形分の質量に対する、前記成分(c)の質量の割合が、5%以上[6+(X-20)/6]%以下であることを特徴とする防汚皮膜形成用塗料。
【請求項5】
ガラスセラミックスからなる基体の表面に、請求項4に記載の防汚皮膜形成用塗料を塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を650℃以上950℃以下の温度にて熱処理して、前記基体の表面に防汚皮膜を形成する工程と、を有することを特徴とするガラスセラミックス製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚皮膜、ガラスセラミックス製品、防汚皮膜形成用塗料、ガラスセラミックス製品の製造方法に関する。
本願は、2018年9月13日に、日本に出願された特願2018-171189号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ガラスセラミックス製品は、耐熱性、意匠性、高い表面硬度等の優れた性質を有するため、ガスコンロ、インダクションヒーター、ラジエントヒーター製品のトッププレートとして、広く用いられている。しかし、ガラスセラミックス製品は、食品等の物質が高温で焦げ付いた場合、清掃が困難になるという欠点がある。このような清掃性の欠点を補うために、ガラスセラミックス製品を構成するガラス基板の表面に、フッ素樹脂や無機材料からなる防汚皮膜を形成することが検討されている。
【0003】
しかしながら、従来、ガラス基板の表面に形成される防汚皮膜には、以下のような欠点があった。
フッ素樹脂からなる防汚皮膜をガラス基板の表面に形成してなるガラスセラミックス製品は、300℃を超えるような温度条件や、摩耗条件下で劣化しやすいという欠点がある。
無機材料からなる防汚皮膜としては、例えば、珪素酸化物とジルコニア酸化物からなる防汚皮膜が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1の防汚皮膜には、糖分を含む食品の焦げ付きに対する清掃性が悪い、及び、酸やアルカリを含有する汚染物質が防汚皮膜の表面に高温で焦げ付くと、防汚皮膜が侵食されて外観が変化する、という課題があった。一方、外観に関して、特に、防汚皮膜の表面の視感反射率と、防汚皮膜が形成されていないガラス基板の表面の視感反射率との差が1%以上あるような厚い防汚皮膜では、侵食による防汚皮膜の干渉色の変化が目立ちやすくなる。このため、防汚皮膜の膜厚を薄くしなければならない。しかしながら、防汚皮膜の膜厚を薄くすることは、製品の意匠性を制限することになることに加えて、防汚皮膜の機能の低下の点からも不利である。
防汚皮膜の膜厚を薄くした際の、防汚皮膜の機能の低下の例としては、(1)皮膜の耐摩耗性や、清掃性が低下すること、や(2)防汚皮膜形成用塗料をガラス基板の表面に薄く塗布して塗膜を形成し、その塗膜の乾燥温度を例えば850℃以上に上げると、防汚皮膜の成分とガラス基板との固相反応およびガラスの軟化により、防汚皮膜がガラス基板に沈み込み、その結果、耐摩耗性や、清掃性が低下して、工程上の制約も大きくなること、等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5403094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、糖分を含む汚染物質の焦げ付きの清掃が容易であり、かつ汚染物質に含まれる酸やアルカリの侵食作用に対する耐久性を改善できるとともに、清掃性と化学的耐久性(酸・アルカリに対する耐久性)を損なうことなく、耐摩耗性等の機械的強度を改善できる、防汚皮膜、ガラスセラミックス製品、防汚皮膜形成用塗料、ガラスセラミックス製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、以下に述べる特徴を有する防汚皮膜とすることにより、とすることで、上記問題を改善できる防汚皮膜が得られることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第一の態様の防汚皮膜は、成分(A):ジルコニウムと、成分(B):ランタンと、成分(C):ケイ素、リン、およびホウ素からなる群から選択される少なくとも1種と、を含む防汚皮膜であって、成分(A)、成分(B)および成分(C)の質量を、酸化物としての質量に換算して用いたとき、前記防汚皮膜の質量に対する前記成分(A)と前記成分(B)の合計質量の割合が90%以上95%以下であり、前記成分(B)の質量/(前記成分(A)と前記成分(B)の合計質量)×100の式で得られる割合をXとしたときにXが20%以上50%以下であり、前記防汚皮膜の質量に対する前記成分(C)の質量の割合が5%以上[6+(X-20)/6]%以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の第二の態様のガラスセラミックス製品は、基体と、前記基体の表面に形成された、本発明の第一の態様の防汚皮膜と、を有することを特徴とする。
【0010】
前記ガラスセラミックス製品は、前記防汚皮膜の表面の視感反射率R%と前記基体の表面の視感反射率R%の差(R-R)が1%以上であることが好ましい。
【0011】
本発明の第三の態様の防汚皮膜形成用塗料は、成分(a):ジルコニウム酸化物、ジルコニウムイオンおよびジルコニウム酸化物前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、成分(b):ランタン酸化物、ランタンイオンおよびランタン酸化物前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、成分(c):ケイ素、リンおよびホウ素からなる群から選択される少なくとも1種の酸化物、酸化物イオンおよび酸化物前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、分散媒と、を含む防汚皮膜形成用塗料であって、成分(a)、成分(b)および成分(c)の質量を酸化物としての質量に換算して用いたとき、塗料の全固形分の質量に対する、前記成分(a)と前記成分(b)の合計質量の割合が、90%以上95%以下であり、前記成分(b)の質量/(前記成分(a)と前記成分(b)の合計質量)×100の式で得られる割合をXとしたときにXが20%以上50%以下であり、全固形分の質量に対する前記成分(c)の質量の割合が5%以上[6+(X-20)/6]%以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明の第四の態様のガラスセラミックス製品の製造方法は、基体の表面に本発明の防汚皮膜形成用塗料を塗布して塗膜を形成する工程と、前記塗膜を650℃以上950℃以下の温度にて熱処理して、前記基体の表面に防汚皮膜を形成する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、糖分を含む汚染物質の焦げ付きの清掃が容易であり、かつ汚染物質に含まれる酸やアルカリの侵食作用に対する耐久性を改善できるとともに、清掃性と化学的耐久性(酸・アルカリに対する耐久性)を損なうことなく、耐摩耗性等の機械的強度を改善できる、防汚皮膜、ガラスセラミックス製品、防汚皮膜形成用塗料、ガラスセラミックス製品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の防汚皮膜、ガラスセラミックス製品、防汚皮膜形成用塗料、ガラスセラミックス製品の製造方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種類、量、比率、時間等について、変更、省略、追加、置換、その他の変更が可能である。各実施形態において、互いに好ましい例を共有しても良い。
【0015】
[防汚皮膜]
本実施形態の防汚皮膜は、以下の特徴を有する。すなわち、成分(A):ジルコニウムと、成分(B):ランタンと、成分(C):ケイ素、リンおよびホウ素からなる群から選択される少なくとも1種と、を含む。成分(A)、成分(B)および成分(C)の質量を酸化物としての質量に換算したとき、防汚皮膜の質量に対する成分(A)と成分(B)の合計質量の割合が90%以上95%以下である。成分(B)の質量/(成分(A)と成分(B)の合計質量)×100の式で表される割合Xが20%以上50%以下である。防汚皮膜の質量に対する成分(C)の質量の割合が5%以上[6+(X-20)/6]%以下である。
成分(A)~(C)は、以下の記載において、それぞれ、(A)ジルコニウム、(B)ランタン、及び(C)ケイ素と記載されることがある。
【0016】
本実施形態の防汚皮膜は、任意に選択される基体の任意に選択される領域に、例えば、基体の表面の少なくとも一部、すなわち、食品等の焦げ付き汚れや油汚れが付く可能性がある領域に、好ましく設けられる。
【0017】
ここで、本実施形態の防汚皮膜が適用される基体の例としては、例えば、製品として、ガスコンロ、誘導加熱(IH:Induction Heating)方式のIHコンロ、ラジエントコンロ等の天板、オーブンのオーブン皿、オーブン筐体、及びオーブン底板等の調理用物品が挙げられる。
【0018】
その他の基体の例としては、例えば、表面が釉薬処理された釉薬処理品、透明もしくは黒色のガラスセラミックス等が挙げられる。
釉薬処理品の例としては、例えば、各種コンロの天板、ホーロー製のオーブン皿、オーブン筐体、陶器製や磁器製のオーブン皿、オーブン底板等が挙げられる。
透明もしくは黒色の結晶化ガラスの例としては、例えば、ガスコンロの天板用、IHコンロの天板用、ラジエントコンロの天板用の結晶化ガラスが挙げられる。ここでは、透明結晶化ガラスの裏面に施色したものも、透明ガラスに含める。
しかしながら、本実施形態の防汚皮膜は、上記以外の様々な分野に、適用可能である。
【0019】
本実施形態の防汚皮膜は、(A)ジルコニウムと、(B)ランタンと、(C)ケイ素、リンおよびホウ素からなる群から選択される少なくとも1種と、を含む。
【0020】
成分(A):成分(A)のジルコニウムは、防汚皮膜中で、ジルコニウム元素単体であってもよく、ジルコニウム酸化物(酸化ジルコニウム:ZrO)であってもよく、ジルコニウム元素単体とジルコニウム酸化物の混合物であってもよい。すなわち、成分(A)は、ジルコニウム元素単体及びジルコニウム酸化物の少なくとも1つを好ましく含む。
成分(B):成分(B)のランタンは、防汚皮膜中で、ランタン元素単体であってもよく、ランタン酸化物(酸化ランタン:La)であってもよく、ランタン元素単体とランタン酸化物の混合物であってもよい。すなわち、成分(B)は、ランタン元素単体及びランタン酸化物の少なくとも1つを好ましく含む。
【0021】
成分(C):成分(C)のケイ素は、防汚皮膜中で、ケイ素元素単体であってもよく、ケイ素酸化物(酸化ケイ素:SiO)であってもよく、ケイ素元素単体とケイ素酸化物の混合物であってもよい。
成分(C):成分(C)のリンは、防汚皮膜中で、リン元素単体であってもよく、リン酸化物(五酸化二リン:P)であってもよく、リン元素単体とリン酸化物の混合物であってもよい。
成分(C):成分(C)のホウ素は、防汚皮膜中で、ホウ素元素単体であってもよく、ホウ素酸化物(酸化ホウ素:B)であってもよく、ホウ素元素単体とホウ素酸化物の混合物であってもよい。
すなわち成分(C)は、ケイ素元素単体、ケイ素酸化物、リン元素単体、リン酸化物、ホウ素元素単体、及び、ホウ素酸化物の少なくとも1つを好ましく含む。
【0022】
本実施形態の防汚皮膜において、成分(A)、成分(B)および成分(C)の質量を、酸化物としての質量に換算したとき、防汚皮膜の質量(全質量)に対する、成分(A)と成分(B)の合計質量が、90%以上95%以下であり、92.5%以上95%以下であることが好ましい。93.0%以上95.0%以下であることも好ましい。
防汚皮膜の質量(全質量)に対する成分(A)と成分(B)の合計質量が90%以上では、防汚皮膜の清掃性と、酸、アルカリに対する化学的耐久性が低下しない。一方、防汚皮膜の質量(全質量)に対する成分(A)と成分(B)の合計質量が95%を超えないと、防汚皮膜の耐摩耗性が低下しない。
なお酸化物としての質量に換算するとは、防汚皮膜の形成に使用される材料に含まれる、ケイ素、リン、及び、ホウ素の少なくとも1つと、ジルコニウムと、ランタンについて、これらが全て酸化物であると仮定して、任意に選択される測定により、前記質量の値を得ることを意味してよい。
防汚皮膜の質量(全質量)とは、成分(A)の酸化物として換算された質量と、成分(B)の酸化物として換算された質量と、成分(C)の酸化物として換算された質量を、合計した値を意味してもよい。
【0023】
本実施形態の防汚皮膜において、成分(A)、成分(B)および成分(C)の質量を酸化物としての質量に換算したとき、成分(B)の質量/(成分(A)と成分(B)の合計質量)×100の式で得られる割合Xが、20%以上50%以下であり、25%以上45%以下であることが好ましく、30%以上40%以下であることがより好ましい。
前記Xが20%以上であると、防汚皮膜の化学的耐久性(酸・アルカリに対する耐久性)が低下せず、かつ、防汚皮膜をガラスセラミックス製品に適用した場合に、後述する防汚皮膜の表面の視感反射率R%とガラスセラミックス基体の表面の視感反射率R%の差(R-R)が1%以上の防汚皮膜において、トマトケチャップやジャムのような、酸・アルカリを含む物質の焦げ付きを除去した後でも、防汚皮膜の外観の変化が大きくならない。一方、Xが50%を超えないと、防汚皮膜をガラスセラミックス製品に適用した場合に、ガラスセラミックス基板に対する防汚皮膜の密着性が低下しない。
【0024】
本実施形態の防汚皮膜において、成分(A)、成分(B)および成分(C)の質量を、酸化物としての質量に換算したとき、防汚皮膜の質量(全質量)に対する成分(C)の質量の割合が5%以上[6+(X-20)/6]%以下である。
前記割合が5%以上では、防汚皮膜の耐磨耗性が低下しない。一方、前記割合が[6+(X-20)/6]%を超えないと、防汚皮膜の清掃性が低下しない。また、防汚皮膜の化学的耐久性(酸・アルカリに対する耐久性)も低下しないため、防汚皮膜をガラスセラミックス製品に適用した場合に、後述する防汚皮膜の表面の視感反射率R%とガラスセラミックス基体の表面の視感反射率R%の差(R-R)が1%以上の防汚皮膜において、トマトケチャップやジャムのような、酸・アルカリを含む物質の焦げ付きを除去した後でも、防汚皮膜の外観の変化が大きくならない。
本実施形態の防汚皮膜において、成分(A)、成分(B)および成分(C)の質量を、酸化物としての質量に換算したとき、防汚皮膜の質量(全質量)に対する、成分(C)の質量の割合は、上記範囲内で任意に選択できる。例えば、5.0~11.0%であってよく、5.5~10.0%であることが好ましく、6.0~9.5%であることがより好ましく、6.5~8.6%であることが更に好ましい。ただしこれらの例のみに限定されない。
【0025】
防汚皮膜に含まれる成分(A)、成分(B)および成分(C)の質量を、例えば上記酸化物として、測定する方法としては、蛍光X線法や電子プローブマイクロアナライザーを用いる方法が挙げられる。
例えば、前記成分(A)の換算された質量は、ZrOの質量として、前記防汚皮膜の蛍光X線法の定量分析により、測定された値であってもよい。前記成分(B)の質量は、Laの質量として、前記成分(C)の質量はSiO、P、Bの少なくとも1つの質量として、上記と同様に測定された値であってもよい。
本実施形態の防汚皮膜は、加熱により形成されているので、好ましくは、溶媒などの分散媒は含まない。本実施形態の防汚皮膜は、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)のみから形成されてもよい。
本実施形態の防汚皮膜は、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)以外の成分(D)、例えばバインダーや界面活性剤に起因する物質、を所定の量で、例えばわずかな量で、含んでも良い。防汚皮膜の成分(A)~(C)(元素単体、酸化物、および混合物も、前記各成分として計算される)、及び成分(D)の総量に対して、成分(D)の割合は、例えば、0~10質量%や、0.01~8.0質量%であっても良く、0.1~6.0質量%であっても良い。前記割合は、0.5~4.0質量%や、1.0~2.0質量%であっても良い。
前記成分(D)を含む、前記総量に対して、成分(A)~(C)の割合は、任意に選択できる。例えば、90.0~100質量%であって良く、93.0~99.9質量%であっても良い。前記割合は、95.0~99.7質量%や、97.0~99.5質量%や、98.0~99.0質量%であっても良い。ただしこれらの例のみに限定されない。
【0026】
本実施形態の防汚皮膜の厚さは、任意に選択できるが、例えば1nm~1mmであってもよく、10nm以上200nm以下であることが好ましく、15nm以上150nm以下であることがより好ましく、20nm以上120nm以下であることがさらに好ましい。
防汚皮膜の厚さが10nm以上であれば、防汚塗膜を設けた基体に対して、充分な防汚性を付与することができる。一方、防汚皮膜の厚さが200nm以下であれば、防汚塗膜は充分な耐衝撃性を有するため、外部からの力によりクラックが入り難くなる。また、防汚塗膜の光沢度を抑えることができるため、防汚塗膜を設けた基体自体の色調等の意匠性を損なうことがない。
【0027】
本実施形態の防汚皮膜の厚さを測定する方法としては、任意に選択できるが、防汚皮膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察する方法、光学式膜厚測定法等が挙げられる。
【0028】
本実施形態の防汚皮膜の製造方法の好ましい例について説明する。
本実施形態の防汚皮膜は、任意に選択される基体に、例えば、基体の表面の少なくとも一部、例を挙げると、食品等の物質の焦げ付き汚れや油汚れが付く可能性がある領域に、後述する防汚皮膜形成用塗料を塗布して、必要に応じて塗料を乾燥して、塗膜を形成する。そして、その塗膜を熱処理することによって、前記皮膜を得ることができる。
【0029】
防汚皮膜形成用塗料の塗布方法としては、例えば、スプレーコート法、バーコート法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法等が用いられる。
熱処理における条件は任意に選択できるが、例えば、加熱温度は、650℃以上950℃以下の温度が好ましく、より好ましくは、700℃以上900℃以下であり、さらに好ましくは800℃以上900℃以下である。ただしこれらの条件のみに限定されない。得られた塗膜の厚さは任意に選択できるが、例えば、10nm以上200nm以下であることが好ましく、15nm以上150nm以下であることがより好ましく、20nm以上120nm以下であることがさらに好ましい。加熱の雰囲気は任意に選択できるが、例えば大気雰囲気において、加熱しても良い。
【0030】
本実施形態の防汚皮膜によれば、防汚皮膜に対する焦げ付き、特に、従来の無機質防汚皮膜では、除去が困難であった糖分を含む汚染物質の焦げ付きに対する清掃性を改善できる。
【0031】
また、本実施形態の防汚皮膜によれば、従来の無機質防汚皮膜よりも、酸・アルカリに対する耐久性を改善できる。これにより、防汚皮膜が汚染物質から侵食され難くなる。このため、後述する防汚皮膜の表面の視感反射率R%とガラスセラミックス基体の表面の視感反射率R%の差(R-R)が1%以上の防汚皮膜においても、例えば比較的に膜厚が大きい防汚皮膜においても、焦げ付き除去後の防汚皮膜の干渉色の変化による外観の変化が生じ難くなる。その結果、製品の意匠性の選択の幅が広がる。また、防汚皮膜の膜厚を厚くすることにより、膜厚が薄い防汚皮膜と比較して、清掃性や耐摩耗性を向上することができる上に、850℃以上の高温焼成により防汚皮膜の機能が低下することを抑制できる。
【0032】
さらに、本実施形態の防汚皮膜によれば、清掃性や酸・アルカリに対する耐久性を保持しながら、耐摩耗性を向上できる。
【0033】
[ガラスセラミックス製品]
本実施形態のガラスセラミックス製品は、ガラスセラミックスからなる基体と、その基体の表面に形成され、本実施形態の防汚皮膜と、を有する。
【0034】
本実施形態のガラスセラミックス製品の例としては、例えば、ガスコンロ、誘導加熱(IH:Induction Heating)方式のIHコンロ、ラジエントコンロ等の天板、オーブンのオーブン皿、オーブン筐体、オーブン底板等の調理用物品が挙げられる。ただし、これらの例のみに限定されない。汚れが付く可能性があるものであれば、如何なるガラスセラミックス製品にも、適用可能である。
【0035】
本実施形態のガラスセラミックス製品において、基体に設けられた防汚皮膜の表面の視感反射率R%と、前記基体の表面の視感反射率R%の差(R-R)が1%以上であることが好ましく、3%以上20%以下であることが好ましい。
差(R-R)が1%以上であれば、清掃性や耐摩耗性を向上することができる上に、850℃以上の高温焼成により防汚皮膜の機能が低下することを抑制できる。
【0036】
本実施形態のガラスセラミックス製品において、防汚皮膜の表面の視感反射率(R)%と基体の表面の視感反射率(R)%を測定する方法としては、日本工業規格 JIS Z 8722:2009「色の測定方法-反射及び透過物体色」に記載される方法が挙げられる。
【0037】
基体としては、本実施形態の防汚皮膜で使用される基体の例として挙げられたものと同様の、ガラスセラミックスからなる基体が挙げられる。
【0038】
基体の厚さは、特に限定されず、ガラスセラミックス製品の種類や適用する場所(位置)等に応じて適宜調整される。
【0039】
本実施形態のガラスセラミックス製品は、本実施形態の防汚皮膜を有する。このため、防汚皮膜に対する焦げ付き、特に、従来の無機質防汚皮膜では、除去が困難であった糖分を含む汚染物質の焦げ付きに対する清掃性を改善できる。また、本実施形態のガラスセラミックス製品によれば、従来の無機質防汚皮膜よりも、防汚皮膜の酸・アルカリに対する耐久性を改善できる。さらに、本実施形態のガラスセラミックス製品によれば、防汚皮膜の清掃性や酸・アルカリに対する耐久性を保持しながら、防汚皮膜の耐摩耗性を向上できる。
【0040】
[防汚皮膜形成用塗料]
本実施形態の防汚皮膜形成用塗料は、成分(a):ジルコニウム酸化物、ジルコニウムイオンおよびジルコニウム酸化物前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、成分(b):ランタン酸化物、ランタンイオンおよびランタン酸化物前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、成分(c):ケイ素、リンおよびホウ素からなる群から選択される少なくとも1種の酸化物、酸化物イオンおよび酸化物前駆体からなる群から選択される少なくとも1種と、分散媒と、を含む。前記成分(a)、成分(b)および成分(c)の質量を、酸化物としての質量に換算したとき、全固形分の質量に対する成分(a)と成分(b)の合計質量の割合が、90%以上95%以下、成分(b)の質量/(成分(a)と成分(b)の合計質量)×100の式で示される割合Xが20%以上50%以下、全固形分の質量に対する成分(c)の質量の割合が5%以上[6+(X-20)/6]%以下である。
【0041】
本実施形態の防汚皮膜形成用塗料は、本実施形態の防汚塗膜の形成に用いられる。
【0042】
本実施形態の防汚皮膜形成用塗料において、ジルコニウム酸化物は、酸化ジルコニウム(ZrO)である。ジルコニウム酸化物のイオンは、Zr2+、Zr3+、Zr4+、ZrO、ZrO2+、Zr4+、及びZr 2+から選択される少なくとも1つである。ジルコニウム酸化物前駆体は、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、ジルコニウムメトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムプロポキシド、及びジルコニウムブトキシドから選択される少なくとも1つである。
【0043】
本実施形態の防汚皮膜形成用塗料において、ランタン酸化物は、酸化ランタン(La)である。ランタン酸化物のイオンは、La3+、LaO、LaO 、La4+、及びLa 2+から選択される少なくとも1つである。ランタン酸化物前駆体は、硝酸ランタン、オキシ硝酸ランタン、酢酸ランタン、オキシ塩化ランタン、硫酸ランタン、水酸化ランタン、ランタンメトキシド、ランタンエトキシド、ランタンプロポキシド、及びランタンブトキシドから選択される少なくとも1つである。
【0044】
本実施形態の防汚皮膜形成用塗料において、ケイ素酸化物は、酸化ケイ素(SiO)である。ケイ素酸化物のイオンはSi4+、及びSiO2+から選択される少なくとも1つである。ケイ素酸化物前駆体は、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸カリウム、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロキシシラン、及びテトラブトキシシランから選択される少なくとも1つである。
【0045】
本実施形態の防汚皮膜形成用塗料において、リン酸化物は、五酸化二リン(P)である。リン酸化物のイオンは、P5+、PO3+、PO 、PO 、PO 3-、P8+、P 6+、P 4+、及びP 2+から選択される少なくとも1つである。リン酸化物前駆体は、リン酸、及びリン酸トリフェニルから選択される少なくとも1つである。
【0046】
本実施形態の防汚皮膜形成用塗料において、ホウ素酸化物は、酸化ホウ素(B)である。ホウ素酸化物のイオンはB3+、BO、BO2-、B4+、及びB 2+から選択される少なくとも1つである。ホウ素酸化物前駆体は、ホウ酸、三塩化ホウ素、及び水酸化ホウ素から選択される少なくとも1つである。
【0047】
本実施形態の防汚皮膜形成用塗料において、成分(a)、成分(b)および成分(c)の質量を、酸化物としての質量に換算したとき、防汚皮膜形成用塗料の全固形分(成分(a)、成分(b)および成分(c)の合計質量)の質量に対する、成分(a)と成分(b)の合計質量の割合が、90%以上95%以下であり、92.5%以上95%以下であることが好ましい。93.0%以上95.0%以下であることも好ましい。
防汚皮膜形成用塗料の全固形分の質量に対する、成分(a)と成分(b)の合計質量が90%以上では、防汚皮膜の清掃性と、酸、アルカリに対する化学的耐久性が低下しない。一方、防汚皮膜形成用塗料の全固形分の質量に対する成分(a)と成分(b)の合計質量が95%を超えないと、防汚皮膜の耐摩耗性が低下しない。
【0048】
本実施形態の防汚皮膜形成用塗料において、成分(a)、成分(b)および成分(c)の質量を、酸化物としての質量に換算したとき、成分(a)の質量/(成分(a)と成分(b)の合計質量)×100の式で得られる割合をXで表したとき、Xは20%以上50%以下であり、25%以上45%以下であることが好ましく、30%以上40%以下であることがより好ましい。
前記Xが20%以上では、防汚皮膜形成用塗料を用いて形成した防汚皮膜の化学的耐久性(酸・アルカリに対する耐久性)が低下しない。また、防汚皮膜をガラスセラミックス製品に適用した場合に、防汚皮膜の表面の視感反射率R%とガラスセラミックス基体の表面の視感反射率R%の差(R-R)が1%以上の防汚皮膜においても、トマトケチャップやジャムのような、酸・アルカリを含む物質の焦げ付きを除去した後の防汚皮膜の外観の変化が大きくならない。一方、Xが50%を超えないと、防汚皮膜形成用塗料を用いて形成した防汚皮膜をガラスセラミックス製品に適用した場合に、ガラスセラミックス基板に対する防汚皮膜の密着性が低下しない。
【0049】
本実施形態の防汚皮膜形成用塗料において、成分(a)、成分(b)および成分(c)の質量を酸化物としての質量に換算したとき、防汚皮膜形成用塗料の全固形分の質量に対する成分(c)の質量の割合が、5%以上[6+(X-20)/6]%以下である。
防汚皮膜形成用塗料の全固形分の質量に対する成分(c)の質量が5%以上であると、防汚皮膜形成用塗料を用いて形成した防汚皮膜の耐磨耗性が低下しない。一方、防汚皮膜形成用塗料の全固形分の質量に対する成分(c)の質量の割合が[6+(X-20)/6]%を超えないと、防汚皮膜形成用塗料を用いて形成した防汚皮膜の清掃性が低下しない。また、防汚皮膜の化学的耐久性(酸・アルカリに対する耐久性)も低下しない。このため、防汚皮膜をガラスセラミックス製品に適用した場合に、防汚皮膜の表面の視感反射率R%とガラスセラミックス基体の表面の視感反射率R%の差(R-R)が1%以上の防汚皮膜では、トマトケチャップやジャムのような、酸・アルカリを含む物質の焦げ付きを除去した後の防汚皮膜の外観の変化が大きくならない。
【0050】
防汚皮膜形成用塗料に含まれる成分(a)、成分(b)および成分(c)の質量を測定する方法の例としては、蛍光X線法やICP発光分析法が挙げられる。
【0051】
本実施形態の防汚皮膜形成用塗料は、塗料における、全固形分(成分(a)、成分(b)および成分(c))の含有量は任意に選択できるが、0.2質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.25質量%以上4.5質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上3.0質量%以下であることがさらに好ましい。
全固形分(成分(a)、成分(b)および成分(c))の含有量が0.2質量%以上であると、塗料の粘度安定性が低下せず、防汚皮膜の厚さが過小にならず、清掃性、酸、アルカリに対する化学的耐久性、耐摩耗性が低下しない。一方、全固形分(成分(a)、成分(b)および成分(c))の含有量が5質量%を超えないと、防汚皮膜の厚さが過剰にならず、外観のムラや、密着不足による剥離が、発生しにくい。
【0052】
分散媒としては、上記の成分(a)、成分(b)および成分(c)を溶解または分散させることのできる溶媒であれば、特に制限なく用いることができる。このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール等の低級アルコールの他、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類(セロソルブ類)、アセトン、ジメチルケトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン類、エチレングリコール等のグリコール類、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。分散媒の量は任意に選択できるが、例えば、塗料に対して、95.0~99.8質量%であってもよく、97~99.7質量%であることが好ましく、96.0~99.0質量%であることがより好ましい。ただしこれらの例のみに限定されない。
【0053】
本実施形態の防汚皮膜形成用塗料は、防汚性を損なわない程度に、界面活性剤、バインダー等を含んでいてもよい。
【0054】
界面活性剤は、上記の成分(a)、成分(b)および成分(c)を分散媒に分散できるものであれば、任意に選択でき、特に限定されない。界面活性剤の量は任意に選択できる。
【0055】
バインダーとしては、任意に選択でき、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、グアガム、カラーギーナン、アルギン酸ナトリウム、コーンスターチ、キサンタンガム、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシルビニルポリマー、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチ硫酸ナトリウム等が挙げられる。バインダーの量は任意に選択できる。
【0056】
本実施形態の防汚皮膜形成用塗料によれば、防汚皮膜に対する焦げ付き、特に、従来の無機質防汚皮膜では、除去が困難であった糖分を含む汚染物質の焦げ付きに対する清掃性を改善した、防汚皮膜を形成できる。また、本実施形態の防汚皮膜形成用塗料によれば、従来の無機質防汚皮膜よりも、酸・アルカリに対する耐久性を改善した防汚皮膜を形成できる。さらに、本実施形態の防汚皮膜形成用塗料によれば、清掃性や酸・アルカリに対する耐久性を保持しながら、耐摩耗性を向上した防汚皮膜を形成できる。
【0057】
[ガラスセラミックス製品の製造方法]
本実施形態のガラスセラミックス製品の製造方法は、ガラスセラミックスからなる基体の表面に、本実施形態の防汚皮膜形成用塗料を塗布して塗膜を形成し、その塗膜を650℃以上950℃以下の温度にて熱処理して、基体の表面に防汚皮膜を形成する。
【0058】
本実施形態のガラスセラミックス製品の製造方法では、前記基体の表面の少なくとも一部、例えば、食品等の物質の焦げ付き汚れや油汚れが付く可能性がある領域に、防汚皮膜形成用塗料を塗布して塗膜を形成する。
防汚皮膜形成用塗料の塗布方法としては、例えば、スプレーコート法、バーコート法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法等が用いられる。
防汚皮膜形成用塗料の塗布に当たっては、塗膜の厚さを任意に選択でき、例えば、熱処理後の膜厚が10nm以上200nm以下の範囲となるように調整することが好ましい。
【0059】
このようにして形成した塗膜を、熱風乾燥機等を用いて乾燥する。その後、この塗膜中に含まれる、分散媒、バインダー等を散逸させるために、例えば、高温焼成炉等を用いて大気雰囲気中で、650℃以上950℃以下の温度にて熱処理し、本実施形態の防汚皮膜とする。
熱処理温度が650℃を下回らないと、得られた防汚皮膜の強度が低下せず好ましい。一方、熱処理温度が950度を超えないと、基体が変形しないので好ましい。
【0060】
本実施形態のガラスセラミックス製品の製造方法によれば、防汚皮膜に対する焦げ付き、特に、従来の無機質防汚皮膜では、除去が困難であった糖分を含む汚染物質の焦げ付きに対する清掃性を改善した防汚皮膜を有するガラスセラミックス製品を製造することができる。また、本実施形態のガラスセラミックス製品の製造方法によれば、従来の無機質防汚皮膜よりも、酸・アルカリに対する耐久性を改善した防汚皮膜を有するガラスセラミックス製品を製造することができる。さらに、本実施形態のガラスセラミックス製品の製造方法によれば、清掃性や酸・アルカリに対する耐久性を保持しながら、耐摩耗性を向上した防汚皮膜を有するガラスセラミックス製品を製造することができる。
【実施例
【0061】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
[スプレーコート用の防汚皮膜形成用塗料の成分]
実施例1~実施例56および比較例2~比較例65のスプレーコート用の防汚皮膜形成用塗料の成分として、下記の成分(1)~(5)を用いた。これらの成分の配合比を表1に示す。
(1)ジルコニウム酸化物微粒子水分散液(平均粒子径3nmのジルコニウム酸化物微粒子を4質量%含む水分散液)
(2)硝酸ランタン6水和物の5%水溶液
(3)シリカゾル(平均粒子径3nmの酸化ケイ素粒子を10質量%含む水分散液)
(4)リン酸の1%水溶液
(5)ホウ酸の1%水溶液
【0063】
[スクリーン印刷用の防汚皮膜形成用塗料の成分]
実施例57~実施例100の防汚塗膜のスクリーン印刷用の防汚皮膜形成用塗料の成分として、上記の成分(1)~(5)と下記の成分(6)を用いた。これらの成分の配合比を表1に示す。
(6)ヒドロキシエチルセルロース
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示す成分の配合から計算される、ジルコニウム、ランタン、珪素、リンおよびホウ素の質量を酸化物として換算したときの質量比、並びに、これらの元素を酸化物として換算したときの質量の、防汚皮膜形成用塗料の全質量に対する含有量(質量%)を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
[スプレーコート用の防汚皮膜形成用塗料の調製]
表1及び表2の配合比に従って、塗料の調整を行った。まず、上記の成分(1)~(5)を、200mLのパイレックス(登録商標)ビーカーに、マグネチックスターラーで撹拌しながら、防汚皮膜形成用塗料の全質量が100gとなるように、(I)ジルコニウム酸化物微粒子水分散液と、(II)硝酸ランタン6水和物の5%水溶液と、(III)シリカゾル、リン酸の1%水溶液またはホウ酸の1%水溶液とを、この順に添加した。その後、溶媒としてプロピレングリコールモノブチルエーテルと、界面活性剤とを、この順に混合した。その結果、実施例1~実施例56および比較例2~比較例65のスプレーコート用の防汚皮膜形成用塗料を得た。
【0068】
[スクリーン印刷用の防汚皮膜形成用塗料の調製]
上記の成分(1)~(5)を、撹拌シールを有する蓋によって密閉できる900mLのガラス瓶に、防汚皮膜形成用塗料の全質量が300gとなるように、表1と表2の配合比に従って、(I)ジルコニウム酸化物微粒子水分散液と、(II)硝酸ランタン6水和物の5%水溶液と、(III)シリカゾル、リン酸の1%水溶液またはホウ酸の1%水溶液とを、この順に添加した。その後、溶媒としてプロピレングリコールモノブチルエーテルと、バインダーとしてヒドロキシエチルセルロースと、界面活性剤とを、この順に添加し、原料液とした。
次に、前記ガラス瓶の蓋の撹拌シールを通して、ガラス瓶内に挿入したテフロン(登録商標)製の撹拌羽根で、ガラス瓶内の原料液を600rpmにて2時間撹拌した。その結果、実施例57~実施例100のスクリーン印刷用の防汚皮膜形成用塗料を得た。撹拌中、ガラス瓶を40.5℃の温浴で加温した。
【0069】
[防汚皮膜形成用塗料の不揮発分の含有量の測定]
実施例1~実施例100および比較例2~比較例65の防汚皮膜形成用塗料について、以下の方法により、不揮発分の含有量を測定した。
防汚皮膜形成用塗料を磁製平皿に30g採取し、電気炉で800℃にて1時間焼成した。その後、磁製ルツボに残った試料の質量を測定した。採取した防汚皮膜形成用塗料の質量に対する、磁製ルツボに残った試料の質量の比率(質量%)を算出した。結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
表3の結果から、得られた不揮発分の含有量は、表2に示す、防汚皮膜形成用塗料の全質量に対する、ジルコニウム、ランタン、珪素、リンおよびホウ素を酸化物として換算したときの質量の比率、すなわち含有量(質量%)、にほぼ一致することが確認された。
【0072】
[防汚皮膜の形成]
(ガラスセラミックス基板)
ショット社製の黒色結晶化ガラスセランを、ガラスセラミックス基板として使用した。
ガラスセラミックス基板を、50mm×100mmの長方形に切断して、スプレーコート用試験片とした。
また、ガラスセラミックス基板を、一辺が170mmの正方形に切断して、スクリーン印刷用試験片とした。
【0073】
(スプレーコート)
局所排気されたドラフト内の20cm×25cmのエリアに、前述のスプレーコート用試験片を配置した。スプレーコート法により、スプレーコート用試験片の表面に、スプレーコート用の防汚皮膜形成用塗料を吹き付けて、塗膜を形成した。
以下の表4に示すように、吹き付けにおいては、スプレーコート用の防汚皮膜形成用塗料の吹き付け量を、10.0mL、4.2mL、1.5mL、及び1.0mLと変更した。
【0074】
【表4】
【0075】
(スクリーン印刷)
スクリーン印刷用の防汚皮膜形成用塗料を、25℃の恒温水槽中に30分間保持した。この後、一辺が170mmの正方形の印刷エリアを備える、ミタニマイクロニクス社製の3種類のテトロン(登録商標)製スクリーンを、印刷に用いた。
以下の表5に示すように、3種類のスクリーンは、それぞれ、(1)メッシュ数420/インチ、線径27μm、メッシュ厚さ(紗厚)40μm、(2)メッシュ数355/インチ、線径35μm、メッシュ厚さ61μm、(3)メッシュ数255/インチ、線径40μm、メッシュ厚さ60μmである。
これらのテトロン(登録商標)製スクリーンを用いて、前述のスクリーン印刷用試験片の表面に、スクリーン印刷用の防汚皮膜形成用塗料を塗布して、塗膜を形成した。
【0076】
【表5】
【0077】
(スプレーコート塗膜の熱処理)
スプレーコートで塗膜を形成した前記試験片を、室温で乾燥させた。この後、電気炉で熱処理した。
電気炉による熱処理温度を、800℃または900℃とし、電気炉内の温度が充分に安定した後に、電気炉内に試験片を入れた。その後、30分間熱処理して、防汚皮膜を形成した。
【0078】
(スクリーン印刷塗膜の熱処理)
スクリーン印刷で塗膜を形成した試験片を、100℃に保持された乾燥機内で10分間乾燥させた。この後、電気炉で熱処理した。
電気炉による熱処理温度を、800℃または900℃とし、電気炉内の温度が充分に安定した。この後に、電気炉内に前記試験片を入れて、30分間熱処理して、防汚皮膜を形成した。
【0079】
[防汚皮膜の各成分の付着量の測定]

蛍光X線法の定量分析により、試験片の表面の1平方メートル当たりの、ZrO、La、SiO、P、Bの付着量を測定した。
ただし、ガラスセラミックス基板には、基板自身に、上記の成分の一部または全部が、含有される場合がある。よって、ガラスセラミックス基板である試験片の表面上に形成された防汚皮膜の付着量だけを、蛍光X線法により直接、測定することができない。すなわち基板の値も測定してしまう可能性がある。そのため、以下の方法により、間接的に、試験片の表面に形成された、防汚皮膜の成分の含有量を分析した。
スプレーコートの場合には、ガラスセラミックス基板と共にステンレス鋼板を塗装エリアに置いて、前記鋼板上にも同様の塗膜を形成した。
また、スクリーン印刷の場合には、ガラスセラミックス基板に塗膜を形成する場合と同じ条件で、ステンレス鋼板に塗膜を形成した。
その後、スプレーコートで塗膜を形成したステンレス鋼板と、スクリーン印刷で塗膜を形成したステンレス鋼板とを、乾燥機内で250℃にて10分間乾燥させた。この後、蛍光X線法の定量分析により、それぞれのステンレス鋼板の表面に形成された防汚皮膜の各成分の付着量を測定した。
これらの測定結果を、実施例1~実施例100の防汚皮膜の成分量として表6~表9に示し、比較例2~比較例65の防汚皮膜の成分量として、表10~表12に示す。
【0080】
[防汚皮膜の表面の視感反射率の測定]
日本分光株式会社製の分光光度計V-770を用いて、波長380nm~800nmの範囲で、防汚皮膜の表面およびガラスセラミックス基板の表面の5°反射スペクトルを測定した。以下の計算式(α)により、防汚皮膜の表面の視感反射率R%と、ガラスセラミックス基板の表面の視感反射率R%を測定した。
視感反射率(%)=ΣR(λ)V(λ)/ΣV(λ)・・・(α)
(ただし、計算式(α)において、Rは反射率(%)、Vは比視感度を示す。)
防汚皮膜の表面の視感反射率R%とガラスセラミックス基板の表面の視感反射率R%の差(R-R)をΔRとした。
実施例1~実施例100のΔRを表6~表9に示し、比較例2~比較例65のΔRを表10~表12に示す。
【0081】
【表6】
【0082】
【表7】
【0083】
【表8】
【0084】
【表9】
【0085】
【表10】
【0086】
【表11】
【0087】
【表12】
【0088】
[防汚皮膜の密着性の評価]
比較例1の未コートのガラスセラミックス基板の表面、及び、実施例1~実施例100および比較例2~比較例65の防汚皮膜の表面を、銅タワシに1kgの荷重をかけて、20回擦った。傷が付いたものを×(不可)と評価し、傷が付かなかったものを○(良)と評価した。結果を表13~表17に示す。
【0089】
[防汚皮膜の耐摩耗性の評価]
樹脂製研磨粒子を含む不織布スポンジを、一辺2cmの正方形に切断した。この切断したスポンジを用いて、600gの荷重をかけて、比較例1の未コートのガラスセラミックス基板の表面、及び、実施例1~実施例100および比較例2~比較例65の防汚皮膜の表面で、往復摩耗試験を行った。評価基準を以下の通りとした。結果を表13~表17に示す。
・500往復後、5本以上の傷が3波長光源下の目視観察で確認できた場合「×」(不可)
・1000往復後、5本以上の傷が3波長光源下の目視観察で確認できた場合「△」(可)
・1500往復後、5本以上の傷が3波長光源下の目視観察で確認できた場合「○」(良)
・1500往復終了時に、5本以上の傷が目視で確認できなかった場合「◎」(優)
【0090】
[清掃性の評価]
比較例1の未コートのガラスセラミックス基板、および、実施例1~実施例100および比較例2~比較例65の防汚皮膜の表面に、砂糖とトマトケチャップを焦げ付かせた。この後、清掃性の評価を行った。清掃性の評価を行う手順は以下の通りとした。
砂糖0.5gと、トマトケチャップ1gとを、試験片の表面に別々に付着させた。
次に、ラジアントクッキングヒータの上に、砂糖とトマトケチャップを付着させた試験片を載せた。試験片の表面温度が350℃±20℃となるようにヒーターの出力を15分間保持して、防汚皮膜の表面に砂糖とトマトケチャップを焦げ付かせた。
次に、試験片を室温で冷却させた後、水槽に5分間浸漬した。
次に、水槽から試験片を取り出し、その後試験片を室温で乾燥させた。
次に、樹脂製研磨粒子を含む不織布スポンジを、一辺2cmの正方形に切断した。切断したスポンジを用いて、600gの荷重をかけて、試験片の表面の焦げ付き部分に対して、往復摩擦試験を行った。不織布スポンジを用いて、25回の往復摩擦をして、焦げが最初に付着していた面積に対して、焦げ付きの面積が10%を超えて残存しているかどうかを、目視で評価した。超えていた場合には、さらに100回の往復摩擦を加えた(合計125往復摩擦後)。この後に、焦げの残存面積を目視で評価した。評価基準は、以下の通りとした。結果を表13~表17に示す。
・25回の往復摩擦により、最初に付着していた焦げの面積に対して、90%以上の焦げの面積が除去できた場合「◎」(優)
・25回の往復摩擦をした後、最初に付着していた焦げの面積に対して、焦げの面積が10%を超えて残存しており、合計125往復摩擦により、90%以上の焦げの面積が除去できた場合「○」(良)
・125回の往復摩擦をした後、最初に付着していた焦げの面積から、50%以上90%未満の焦げの面積が除去できた場合「△」(可)
・125回の往復摩擦をした後、焦げが最初に付着していた焦げの面積に対して、50%を超える面積で残存していた場合「×」(不可)
【0091】
[焦げ付きによる外観の変化の評価]
上記清掃性の評価によりトマトケチャップの焦げ付きを除去した後、前記未コートガラスセラミックス基板、および実施例1~実施例100および比較例2~比較例65の未コートガラスセラミックス基板および防汚皮膜の外観の変化を、以下の評価基準により評価した。結果を表13~表17に示す。
・防汚皮膜の外観が全く変化しなかった場合「○」(良)
・防汚皮膜の外観が僅かに変化した場合「△」(可)
・防汚皮膜の外観が明らかに変化した場合「×」(不可)
【0092】
【表13】
【0093】
【表14】
【0094】
【表15】
【0095】
【表16】
【0096】
【表17】
【0097】
表13~表17の結果から、全ての実施例では、比較例1とした防汚皮膜を形成していない、未コートガラスセラミックス基板と比較して、どの防汚皮膜の付着量、及び防汚皮膜の焼成温度においても、清掃性(焦げ落ち)が改善されることが確認された。
【0098】
表13~表17の結果から、実施例1~実施例8と、比較例34~比較例41とを比較すると、以下の結果が得られることが分かった。すなわち、ジルコニウムの酸化物として、及びランタンの酸化物として換算したこれらの合計質量に対する、ランタンの酸化物として換算した質量の、比率をX%とすると、Xが20%未満では、清掃性が低下することが確認された。また、Xが20%未満では、防汚皮膜の化学的耐久性(酸・アルカリに対する耐久性)も低下した。また、ΔRが1%以上の防汚皮膜では、トマトケチャップの焦げ付きを除去した後の、防汚皮膜の外観の変化が大きくなることが確認された。
【0099】
表13~表17の結果から、実施例25~実施例32と、比較例18~比較例25とを比較すると、以下の結果が得られることが分かった。すなわち、ジルコニウムの酸化物及びランタンの酸化物として換算した合計質量に対して、ランタンの酸化物として換算した質量が、50%を超えると、ガラスセラミックス基板に対する防汚皮膜の密着性が低下することが確認された。
【0100】
表13~表17の結果から、実施例33~実施例40と、比較例2~比較例9とを比較すると、以下の結果が得られることが分かった。すなわち、防汚皮膜の質量に対する、ケイ素、リンまたはホウ素の酸化物として換算した質量が5%未満では、防汚皮膜の耐磨耗性が低下することが確認された。
【0101】
表13~表17の結果から、実施例1~実施例24と、比較例42~比較例65とを比較すると、以下の結果が得られることが分かった。すなわち、ジルコニウムの酸化物として及びランタンの、酸化物として換算した合計質量に対する、ケイ素、リンおよびホウ素の、酸化物として換算した合計質量の割合が、[6+(X-20)/6]%を超えると、防汚皮膜の清掃性が低下することが確認された。また、ジルコニウムの酸化物として及びランタンの酸化物として換算したこれらの合計質量に対する、ランタンの酸化物として換算した質量の比率をX%としたときに、ケイ素、リンおよびホウ素の酸化物として換算した合計質量が、[6+(X-20)/6]%を超えると、防汚皮膜の化学的耐久性(酸・アルカリに対する耐久性)も低下した。このため、ΔRが1%以上の防汚皮膜では、トマトケチャップの焦げ付きを除去した後の防汚皮膜の外観の変化が大きくなることが確認された。
【0102】
表13~表17の結果から、実施例25~実施例32と、比較例10~比較例17とを比較すると、以下の結果が得られることが分かった。すなわち、ジルコニウムの酸化物として及びランタンの酸化物として換算したこれらの合計質量が、防汚皮膜の質量(前記合計質量に、成分(c)を酸化物として換算した質量を、加えた質量)に対して、90%を下回ると、清掃性が低下することが確認された。また、ジルコニウムの酸化物とランタンの酸化物として換算した合計質量が、防汚皮膜の質量に対して90%を下回ると、防汚皮膜の化学的耐久性も低下した。このため、ΔRが1%以上の防汚皮膜では、トマトケチャップの焦げ付きを除去した後の防汚皮膜の外観の変化が大きくなることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0103】
糖分を含む汚染物質の焦げ付きの清掃が容易であり、汚染物質に含まれる酸やアルカリの侵食作用に対する耐久性を改善でき、清掃性と化学的耐久性を損なうことなく耐摩耗性等の機械的強度を改善できる、防汚皮膜、ガラスセラミックス製品、防汚皮膜形成用塗料、及びガラスセラミックス製品の製造方法を提供する。