(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】膜分離方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20230314BHJP
B01D 65/08 20060101ALI20230314BHJP
C02F 1/50 20230101ALI20230314BHJP
【FI】
C02F1/44 C
B01D65/08
C02F1/50 510C
C02F1/50 520B
C02F1/50 531M
C02F1/50 532H
C02F1/50 560E
(21)【出願番号】P 2021007020
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2021-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【氏名又は名称】井上 美和子
(74)【代理人】
【識別番号】100130683
【氏名又は名称】松田 政広
(72)【発明者】
【氏名】大塚 雄太
(72)【発明者】
【氏名】早川 邦洋
(72)【発明者】
【氏名】中川 剛
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-176116(JP,A)
【文献】国際公開第2013/005787(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0138965(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44、1/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合塩素系酸化剤を被処理水に含有させ、この結合塩素系酸化剤を含む被処理水を膜分離装置に通水する膜分離方法であり、
当該結合塩素系酸化剤中の〔遊離塩素測定用試薬による300秒後の塩素濃度/全塩素濃度〕の割合は、1~15%であり、
当該結合塩素系酸化剤を含む被処理水は、遊離塩素測定用試薬による300秒後の塩素濃度の測定結果であるFree300秒値が、0.036mg/L-Cl
2以上の被処理
水であり、
当該結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の安定化結合塩素濃度は、0.1~5.0mg/L-Cl
2である、膜分離方法。
【請求項2】
結合塩素系酸化剤を被処理水に含有させ、この結合塩素系酸化剤を含む被処理水を膜分離装置に通水する膜分離方法であり、
当該結合塩素系酸化剤中の〔遊離塩素測定用試薬による300秒後の塩素濃度/全塩素濃度〕の割合は、1~15%であり、
当該結合塩素系酸化剤を含む被処理水は、遊離塩素測定用試薬による300秒後の塩素濃度の測定結果であるFree300秒値が、0.036mg/L-Cl
2以上の被処理水であり、
当該結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の安定化結合塩素濃度は、0.1~5.0mg/L-Cl
2であり、及び、
当該結合塩素系酸化剤を含む被処理水は、〔Free300秒値/Log
10(バイオ
ファウリングポテンシャル)〕が、0.008以上の被処理水であり、
前記Free300秒値は、結合塩素系酸化剤を被処理水に含有させ、この結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の遊離塩素測定用試薬による300秒後の塩素濃度(mg/L-Cl
2)であり、
前記バイオファウリングポテンシャルは、結合塩素系酸化剤を含有させる前の被処理水を30℃暗闇条件下で7日間保管し、この7日間保管したときの試料中の菌数(cfu/mL)である、膜分離方法。
【請求項3】
前記膜分離方法におけるバイオファウリングポテンシャルが、1×10
3~1×10
7cfu/mL
であり、
前記バイオファウリングポテンシャルは、結合塩素系酸化剤を含有させる前の被処理水を30℃暗闇条件下で7日間保管し、この7日間保管したときの試料中の菌数(cfu/mL)である、請求項1又は2に記載の膜分離方法。
【請求項4】
前記結合塩素系酸化剤を含む被処理水は、〔Free300秒値/Log
10(バイオファウリングポテンシャル)〕が、0.008以上の被処理水
であり、
前記バイオファウリングポテンシャルは、結合塩素系酸化剤を含有させる前の被処理水を30℃暗闇条件下で7日間保管し、この7日間保管したときの試料中の菌数(cfu/mL)である、請求項1に記載の膜分離方法。
【請求項5】
前記結合塩素系酸化剤を被処理水に含有させるのは、逆浸透膜装置に通水する前である、請求項1~4のいずれか一項に記載の膜分離方法。
【請求項6】
前記結合塩素系酸化剤を含む被処理水における〔Free300秒値/全塩素濃度〕の割合は、1~15%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の膜分離方法。
【請求項7】
(a)Free300秒値、及び/又は、(b)バイオファウリングポテンシャルを、指標とし、当該指標に基づき、被処理水に含有させる結合塩素系酸化剤の添加量を制御する、
前記バイオファウリングポテンシャルは、結合塩素系酸化剤を含有させる前の被処理水を30℃暗闇条件下で7日間保管し、この7日間保管したときの試料中の菌数(cfu/mL)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の膜分離方法。
【請求項8】
前記膜分離方法は、バイオファウリング抑制方法、又は膜分離装置を備える水系の運転方法である、請求項1~7のいずれか一項に記載の膜分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
逆浸透膜(RO膜)、ナノろ過膜(NF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、精密ろ過膜(MF膜)などの透過膜を用い、被処理水中の濁質や溶解性物質、イオン類を分離するように構成されている膜分離処理工程又は膜分離装置を用いて、被処理水の水処理を行い、これにより純水、超純水、再利用水など所望の処理水を得ている。
【0003】
例えば、海水淡水化プラント又は排水回収プラントなどでは、電解質や中低分子の有機成分を効率的に除去することができるRO膜装置が広く用いられている。RO膜装置を含む水処理装置又は水処理水系では、通常、RO膜装置の前段に、圧力ろ過装置、重力ろ過装置、凝集沈澱処理装置、加圧浮上ろ過装置、浸漬膜装置、膜式前処理装置などから選択される1種又は2種以上の装置が水系に応じて適宜設けられている。被処理水は、これら前段の装置により前処理された後に、RO膜装置に供給してRO膜分離されることで、所望の処理水(具体的には透過水)が製造されている。
【0004】
このような水処理においては、被処理水中に含まれる微生物(例えば、細菌、微細藻類など)が、流路又は装置配管内や透過膜膜面で増殖してスライムを形成し、これにより系内の微生物の繁殖による臭気発生、膜の透過水量低下といった障害(例えば、バイオファウリング)を引き起こすことがある。このような微生物による水系の汚染を防止するために、被処理水に殺菌剤やスライム抑制剤などの薬剤を常時又は間欠的に添加している。
【0005】
そして、膜分離装置や膜分離処理工程、これを有する水系(例えば、水処理水系、冷却水系など)では、このような微生物による透過膜の汚染(例えば、バイオファウリング)を抑制するために、過酸化水素水、結合ハロゲン剤(例えば、結合塩素剤、結合臭化剤など)、ハロゲンなどの酸化剤などの薬剤が、鋭意検討されてきた。
【0006】
例えば、特許文献1では、被処理液を透過膜に供給して膜分離を行う方法において、被処理水にクロラミンを存在させることを特徴とする膜分離方法、及び当該クロラミンが遊離塩素を含む被処理水にアンモニアイオンを添加して生成されてものであってもよい膜分離方法が提案されている。
また、例えば、特許文献2では、塩素系酸化剤及びスルファミン酸化合物を含有する膜分離用スライム防止剤、及び、膜分離装置への給水又は洗浄水中に塩素系酸化剤及びスルファミン酸化合物からなる結合塩素剤を存在させることを特徴とする膜分離方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平01-104310号公報
【文献】特開2006-263510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように膜分離装置又は膜分離処理工程に酸化剤を用いる膜分離方法を鋭意検討するなかで、クロロスルファミン酸ナトリウムなどの結合塩素系酸化剤は、逆浸透膜の性能を変化させずに、微生物汚染を抑制できることから幅広く用いられてきた。さらに、従来は、結合塩素系酸化剤の殺菌力などの薬剤効果の違いは考慮せずに、被処理水中の全塩素濃度の値のみで水処理条件を決定して水系を長期的に運転できるように運転管理していた。
【0009】
しかしながら、本発明者らは、その配合や原料のグレード保管状況によっては、結合塩素系酸化剤の殺菌力などの薬剤効果が十分に発揮できず、このため膜分離装置を備える水系において長期的な運転ができない場合があることを見出した。具体的には、後記〔実施例〕の試験例2に示すように、本発明者らは、薬剤効果の指標として一般的に用いられている全塩素濃度を用いて、薬剤添加後の被処理水中の全塩素濃度(mg/L-Cl2)が同じになるように複数の結合塩素系酸化剤を被処理水に含有させた場合、そのなかの結合塩素系酸化剤の1つが、膜差圧変化を十分に抑制できず、膜分離装置を備える水系において、より長期的な運転ができなかった。
【0010】
そこで、本発明は、膜分離装置を備える水系において、より長期的に運転できる技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述のように結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の全塩素濃度を指標としても、上述のようにより長期的な運転ができない場合があり、この原因も全く不明であった。このため、バイオファウリング抑制効果の予測又は評価が十分にできず、適切な処理条件の設定も難しかった。
【0012】
しかしながら、本発明者らは、鋭意検討するなかで、後記〔実施例〕に示すように、JIS K 040-33-10:1999に示されているN,N-ジエチル-1,4-フェニレンジアミン(DPD)法に用いられる遊離塩素測定用試薬(Free試薬)を結合塩素系酸化剤を含む被処理水に含有させてから塩素濃度の値(mg/L-Cl2)を読むまでの時間を300秒に延長することで、このFree300秒値の塩素濃度の値を薬剤効果の指標とすることができることを新たに見出し、Free300秒値が関与する指標に基づいて、結合塩素系酸化剤を含有させた被処理水を調製し、この調製された結合塩素系酸化剤を含む被処理水を膜分離装置に通水したところ、水系をより長期的に運転できることを全く偶然にも見出した。
このようにして、本発明を以下のように完成させた。
【0013】
本発明は、結合塩素系酸化剤を被処理水に含有させ、この結合塩素系酸化剤を含む被処理水を膜分離装置に通水する膜分離方法であり、
当該結合塩素系酸化剤を含む被処理水は、遊離塩素測定用試薬による300秒後の塩素濃度測定結果であるFree300秒値が、0.036mg/L-Cl2以上の被処理水である、膜分離方法を提供することができる。
【0014】
また、本発明は、結合塩素系酸化剤を被処理水に含有させ、この結合塩素系酸化剤を含む被処理水を膜分離装置に通水する膜分離方法であり、
当該結合塩素系酸化剤を含む被処理水は、〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕が、0.008以上の被処理水であり、
前記Free300秒値は、結合塩素系酸化剤を被処理水に含有させ、この結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の遊離塩素測定用試薬による300秒後の塩素濃度(mg/L-Cl2)であり、
前記バイオファウリングポテンシャルは、結合塩素系酸化剤を含有させる前の被処理水を30℃暗闇条件下で7日間保管し、この7日間保管したときの試料中の菌数(cfu/mL)である、膜分離方法を提供することができる。
【0015】
前記膜分離方法におけるバイオファウリングポテンシャルが、1×103~1×107cfu/mLであってもよい。
前記結合塩素系酸化剤を含む被処理水は、〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕が、0.008以上の被処理水であってもよい。
【0016】
前記結合塩素系酸化剤を被処理水に含有させるのは、逆浸透膜に通水する前であってもよい。
(a)Free300秒値、及び/又は、(b)バイオファウリングポテンシャルを、指標とし、当該指標に基づき、被処理水に添加する結合塩素系酸化剤の添加量を制御してもよい。
前記膜分離方法は、バイオファウリング抑制方法、又は膜分離装置を備える水系の運転方法であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、膜分離装置を備える水系において、より長期的に運転できる技術を提供することができる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】薬品1、薬品2及び薬品3を用いた膜分離装置を備える各水系における経時的な逆浸透膜の差圧変化を示す。点線が実施例1、破線が実施例2、実線が比較例1である。縦軸は差圧変化[kPa]であり、横軸は経過日数(日)である。差圧変化は、0日目を差圧変化0kpaとしている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が限定されて解釈されることはない。なお、数値における上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0020】
1.本実施形態に係る膜分離方法
本実施形態は、結合塩素系酸化剤を被処理水に含有させ、この結合塩素系酸化剤を含む被処理水を膜分離装置に通水する膜分離方法を提供することができる。
【0021】
本実施形態に用いる結合塩素系酸化剤又は結合塩素系酸化剤を含む被処理水は、好ましくは、Free300秒値、〔Free300秒値/log10(バイオファウリングポテンシャル〕、安定化結合塩素濃度、〔全塩素濃度/Free300秒値〕、バイオファウリングポテンシャル、及び全塩素濃度などから選択される1種又は2種以上を指標として、当該指標に基づき調製されたものであることが好適である。
これら指標のうち、「Free300秒値が関与する指標」を第一指標とし、重要な指標とすることが、より好適であり、当該「Free300秒値が関与する指標」としては、Free300秒値、及び/又は、〔Free300秒値/log10(バイオファウリングポテンシャル〕であることがさらに好適である。
さらに、第一指標以外の指標(例えば、全塩素濃度など)のなかから適宜選択された1種又は2種以上の指標を、第二指標などとして、第一指標にさらに加えてもよく、これら組み合わせた指標に基づき、本実施形態に用いる結合塩素系酸化剤又は結合塩素系酸化剤を含む被処理水を調製してもよい。
【0022】
本発明の膜分離方法は、さらに、下記の第一実施形態及び/又は第二実施形態を好適な態様とすること望ましい。第一実施形態及び第二実施形態で説明される指標、結合塩素系酸化剤、被処理水、膜分離などの各構成などを、適宜組み合わせることができる。
本実施形態に係る膜分離方法により、膜分離装置を備える水系において、より長期的に運転できる技術を提供することができる。
また、本実施形態に係る膜分離方法は、バイオファウリング抑制方法、微生物スライム抑制方法、膜差圧上昇抑制方法、膜分離装置又は当該装置を備える水系の運転方法などにも適用することができる。
【0023】
1-1.本発明の第一実施形態の概要
本発明の好適な第一実施形態として、結合塩素系酸化剤を含む被処理水中のFree300秒値(mg/L-Cl2)(以下、「Free300秒値」ともいう)を、結合塩素系酸化剤を含む被処理水における薬剤効果の指標として用いることが好ましい。また、Free300秒値を、結合塩素系酸化剤における薬剤効果の指標として用いてもよい。当該薬剤効果とは、特に限定されないが、例えば、膜分離向上効果、バイオファウリング抑制効果、微生物スライム抑制効果、膜差圧上昇の抑制効果などが挙げられる。また、Free300秒値は、結合塩素系酸化剤を含む被処理水又は結合塩素系酸化剤における薬剤効果の性状あるいは適否を判定するときなどの基準値(閾値)としても用いることができる。
【0024】
本第一実施形態では、前記結合塩素系酸化剤を含む被処理水は、遊離塩素測定用試薬による300秒後の塩素濃度測定結果であるFree300秒値が、所定値(好適には0.036mg/L-Cl2)以上の被処理水であることが、より好ましい。
【0025】
また、本第一実施形態では、被処理水に含有させたときに、前記Free300秒値が、所定値(好適には0.036mg/L-Cl2)以上の被処理水になるような結合塩素系酸化剤を調製することが、より好ましい。
また、本第一実施形態では、前記Free300秒値が、所定値(好適には0.036mg/L-Cl2)以上の被処理水になるような結合塩素系酸化剤を、被処理水に含有させることが、より好ましい。
【0026】
本第一実施形態では、前記Free300秒値に、さらに結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の全塩素濃度も考慮した、「結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の全塩素濃度(mg/L-Cl2)に占める、結合塩素系酸化剤を含む被処理水中のFree300秒値(mg/L-Cl2)」の割合(以下、〔Free300秒値/全塩素濃度〕の割合ともいう。)を、上記のように、薬剤効果の指標又は基準値(閾値)として用いることができる。
【0027】
本第一実施形態は、結合塩素系酸化剤を被処理水に含有させ、この結合塩素系酸化剤を含む被処理水を膜分離装置に通水する膜分離方法であり、当該結合塩素系酸化剤を含む被処理水は、遊離塩素測定用試薬による300秒後の塩素濃度測定結果であるFree300秒値が、所定値(好適には、0.036mg/L-Cl2)以上の被処理水である、膜分離方法を提供することができる。
【0028】
<Free300秒値(mg/L-Cl2)の測定方法>
前記Free300秒値(mg/L-Cl2)は、後記<全塩素濃度(全残留塩素濃度)の算出方法>を参考にして、試験環境の温度は25℃で、遊離塩素測定用試薬による300秒後における、結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の塩素濃度の測定結果であることが好ましい。Free300秒値の測定時間は、試料に遊離塩素測定用試薬を添加した後から300秒以降は測定値が安定することから、好ましくは300秒時又は300~310秒間などが挙げられる。
【0029】
<全塩素濃度(全残留塩素濃度)の算出方法>
本実施形態における、全塩素濃度(全残留塩素濃度)は、JIS K 040-33-10:1999に準じた、以下の測定方法をもとに算出することができる。
全塩素濃度(全残留塩素濃度)=遊離塩素濃度+活性化結合塩素濃度+安定化結合塩素濃度。
遊離塩素濃度:DPD法(ポケット残留塩素計、HACH社製)による遊離塩素濃度[ここで、DPD法による遊離塩素濃度は、遊離塩素測定用試薬であるDPD(Free)試薬による5~30秒後の塩素濃度測定結果(mg/L-Cl2)]。
活性化結合塩素濃度:遊離塩素測定用試薬であるDPD(Free)試薬による300秒後の塩素濃度測定結果(mg/L-Cl2)から、上記遊離塩素濃度(mg/L-Cl2)の測定結果を差し引いた値。
安定化結合塩素濃度:全塩素測定用試薬であるDPD(Total)試薬による180秒後の塩素濃度測定結果(mg/L-Cl2)から、遊離塩素測定用試薬であるDPD(Free)試薬による300秒後の塩素濃度測定結果(mg/L-Cl2)を差し引いた値。
遊離塩素比率(%)=(遊離塩素濃度/全残留塩素濃度)×100
安定化結合塩素比率(%)=(安定化結合塩素濃度/全残留塩素濃度)×100
なお、試験環境の温度は25℃とする。
【0030】
<〔Free300秒値/全塩素濃度〕の算出方法>
〔Free300秒値/全塩素濃度〕の割合は、〔結合塩素系酸化剤を含む被処理水中のFree300秒値(mg/L-Cl2)/結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の全塩素濃度(mg/L-Cl2)〕×100(%)にて、算出することができる。
なお、「Free300秒値(mg/L-Cl2)」の測定は、上記<Free300秒値(mg/L-Cl2)の測定方法>により、行うことができる。また、「結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の全塩素濃度(mg/L-Cl2)」の測定は、上記<全残留塩素濃度の算出方法>により、行うことができる。
【0031】
1-2.本発明の第二実施形態の概要
本発明の好適な第二実施形態として、結合塩素系酸化剤を含む被処理水における〔Free300秒値(mg/L-Cl2)/Log10(バイオファウリングポテンシャル(cfu/mL))〕(以下、〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕ともいう)を、結合塩素系酸化剤を含む被処理水における薬剤効果の指標として用いることが好ましい。また、〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕を、結合塩素系酸化剤の薬剤効果の指標として用いてもよい。当該薬剤効果とは、例えば、膜分離向上効果、バイオファウリング抑制効果、微生物スライム抑制効果、膜差圧上昇の抑制効果などが挙げられる。
また、〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕は、結合塩素系酸化剤を含む被処理水又は結合塩素系酸化剤の薬剤効果の性状あるいは適否を判定するときなどの基準値(閾値)としても用いることができる。
前記Free300秒値(mg/L-Cl2)は、結合塩素系酸化剤を被処理水に含有させ、この結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の遊離塩素測定用試薬による300秒後における塩素濃度(mg/L-Cl2)であることが好ましい。
前記バイオファウリングポテンシャルは、結合塩素系酸化剤を含有させる前の被処理水を30℃暗闇条件下で7日間保管し、この7日間保管したときの試料中の菌数(cfu/mL)であることが好ましい。
【0032】
本第二実施形態では、前記結合塩素系酸化剤を含む被処理水は、〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕が、所定値(好適には0.008)以上の被処理水であることが、より好ましい。
【0033】
また、本第二実施形態では、被処理水に含有させたときに、前記〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕が、所定値(好適には0.008)以上の被処理水になるような結合塩素系酸化剤を調製することが、より好ましい。
また、本第二実施形態では、前記〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕が、所定値(好適には0.008)以上の被処理水になるような結合塩素系酸化剤を、被処理水に含有させることが、より好ましい。
【0034】
本第二実施形態は、結合塩素系酸化剤を被処理水に含有させ、この結合塩素系酸化剤を含む被処理水を膜分離装置に通水する膜分離方法であり、当該結合塩素系酸化剤を含む被処理水は、〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕が、所定値(好適には0.008)以上の被処理水である、膜分離方法を提供することができる。
前記Free300秒値は、結合塩素系酸化剤を被処理水に含有させ、この結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の遊離塩素測定用試薬による300秒後の塩素濃度(mg/L-Cl2)であることが好適である。
前記バイオファウリングポテンシャルは、結合塩素系酸化剤を含有させる前の被処理水を30℃暗闇条件下で7日間保管し、この7日間保管したときの試料中の菌数(cfu/mL)であることが好適である。
【0035】
<〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕の算出方法>
〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕の割合は、〔結合塩素系酸化剤を含む被処理水中のFree300秒値(mg/L-Cl2)/Log10(バイオファウリングポテンシャル(cfu/mL))〕により、算出することができる。
なお、「Free300秒値(mg/L-Cl2)」の測定は、上記<Free300秒値(mg/L-Cl2)の測定方法>により、行うことができる。
また、Log10(バイオファウリングポテンシャル(cfu/mL))のLog10は常用対数であり、(バイオファウリングポテンシャル(cfu/mL))の測定は、下記<バイオファウリングポテンシャル(cfu/mL)の測定方法>により、行うことができる。
【0036】
<バイオファウリングポテンシャル(cfu/mL)の測定方法>
「バイオファウリングポテンシャル(cfu/mL)」の測定は、被処理水を30℃暗闇条件下で7日間保管し、この7日間保管したときの試料中の菌数(cfu/mL)を測定することにより、行うことができる。
【0037】
上記菌数(cfu/mL)は、コロニー形成単位であり、この生菌数(cfu/mL)の測定は「JISK0350-10-10:2002 用水・排水中の一般細菌試験方法」に準じて、行うことができる。例えば、上記7日間保管したときの試料を、被処理水に含まれる微生物が生育可能な固体培地(例えば、寒天培地)上に接種し、当該被処理水の微生物の生育可能条件にて培養したときに生じるコロニーの数を測定することができる。例えば、被処理水が淡水の場合には淡水用の培地、被処理水が海水の場合には海水用の培地を用いてもよい。また、塗抹量として、例えば、10~100μL(適宜希釈してもよい)、培養条件として、例えば、25~40℃で、1~2日間や1~7日間程度などが挙げられる。
【0038】
固体培地は、市販品の微生物測定用固体培地を用いることができ、この市販品に添付されているプロトコールを参考にして培養を行ってもよい。市販品の微生物測定用固体培地として、例えば、トリプチケースソイ寒天培地(TSA)、トリプトンソイブイヨン培地(TSB)などが挙げられるがこれに限定されない。また、固体培地を用いない場合には、微生物検査用フィルム培地を用いることも可能であり、当該微生物検査用フィルム培地は市販品を用いてもよく、この市販品に添付されているプロトコールを参考にして培養を行ってもよい。市販品の微生物検査用フィルム培地として、例えば、3MTMペトリフィルムTM生菌数測定用プレート(ACプレート)などが挙げられるが、これに限定されない。
【0039】
1-3.本実施形態の好適な態様
以下、本実施形態(より好適には本第一実施形態及び本第二実施形態)における、結合塩素系酸化剤、指標、被処理水、膜分離、各条件、各工程などについて説明する。なお、本第二実施形態の各構成などの説明は、本第一実施形態にも当てはまり、当該説明を本第一実施形態として適宜採用することができる。また、本第一実施形態の各構成などの説明は、本第二実施形態にも当てはまり、当該説明を本第二実施形態として適宜採用することができる。
【0040】
1-3-1.結合塩素系酸化剤
本実施形態に用いられる結合塩素系酸化剤は、結合塩素を含むものが好適であり、当該結合塩素はクロラミン化合物の形で存在することができ、モノクロラミン化合物又はジクロラミン化合物が挙げられるが、モノクロラミン化合物が好ましい。結合塩素系酸化剤は市販品を用いてもよいし、公知の製造方法にて得たものを用いてもよい。
さらに、後述するFree300秒値又は〔Free300秒値/バイオファウリングポテンシャル〕の割合値の基準を満たす結合塩素系酸化剤又はこれらのいずれかの基準を少なくとも満たすように調製された結合塩素系酸化剤を用いることが、より好適である。
結合塩素系酸化剤の形態は、粉末状、液体状など特に限定されないが、取扱や製造の観点から、水溶液の製剤が好適である。
【0041】
1-3-1-1.クロラミン化合物
クロラミン化合物とは、窒素原子と塩素原子との結合(N-Cl結合)を少なくとも1つ有する化合物を指していう。
クロラミン化合物として、例えば、アンモニウム塩と塩素からなるクロラミン、クロロスルファミン酸化合物、これら以外のクロラミン化合物などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を使用することができる。
アンモニウム塩として、例えば、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を使用することができる。これらの中でも、硫酸アンモニウムが好ましい。
【0042】
クロロスルファミン酸化合物を構成するスルファミン酸化合物は、R1R2NSO3H・・・〔1〕で表される化合物であることが好適である。当該一般式〔1〕中の、R1、R2はそれぞれ独立にH又は炭素数1~8のアルキル基であることが好適である。
スルファミン酸化合物として、例えば、2つのR1基及びR2基が共に水素原子であるスルファミン酸(アミド硫酸)又はその塩;N-メチルスルファミン酸、N-エチルスルファミン酸、N-プロピルスルファミン酸、N-イソプロピルスルファミン酸、N-ブチルスルファミン酸などの2つのR1基及びR2基のうち一方が水素原子で他方が炭素数1~8のアルキル基であるスルファミン酸又はその塩;N,N-ジメチルスルファミン酸、N,N-ジエチルスルファミン酸、N,N-ジプロピルスルファミン酸、N,N-ジブチルスルファミン酸、N-メチル-N-エチルスルファミン酸、N-メチル-N-プロピルスルファミン酸などの2つのR1基及びR2基が共に炭素数1~8のアルキル基であるスルファミン酸又はその塩;などが挙げられるが、これらに限定されない。これらから選択される1種又は2種以上を使用することができる。
【0043】
スルファミン酸化合物として、R1、R2がそれぞれHである狭義のスルファミン酸がより好ましいが、N-メチルスルファミン酸、N,N-ジメチルスルファミン酸、N-フェニルスルファミン酸なども使用できる。スルファミン酸化合物は、これらのスルファミン酸を遊離(粉末状)の酸の状態で用いてもよく、またナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などのアルカリ金属塩などの塩であってもよい。
【0044】
クロロスルファミン酸とは、スルファミン酸(H2NSO2OH)が有するNH2基のうち少なくとも1つの水素原子を塩素原子で置換したものを指していう。クロロスルファミン酸としては、例えば、モノクロロスルファミン酸、ジクロロスルファミン酸などが挙げられる。
【0045】
クロロスルファミン酸塩とは、スルファミン酸(H2NSO2OH)が有するOH基のうち少なくとも1つの水素原子を金属イオン(例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属イオン)で置換したものをいう。
クロロスルファミン酸塩としては、例えば、クロロスルファミン酸リチウム、クロロスルファミン酸ナトリウム、及びクロロスルファミン酸カリウムなどが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を使用することができる。これらのなかでも、クロロスルファミン酸ナトリウムが好ましい。
また、その他のクロラミン化合物としては、クロラミンTなどを用いることができる。
【0046】
なお、クロラミン化合物の塩として、特に限定されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩;マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩などの他の金属塩;アンモニウム塩、有機アンモニウム塩など;グアニジン塩などのアミノ酸塩;などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を使用することができる。
【0047】
1-3-1-2.結合塩素系酸化剤の調製方法
結合塩素系酸化剤として、塩素安定化剤、アルカリ、及び塩素系酸化剤を含有させることで結合塩素を含む薬剤を調製することができ、この調製された結合塩素系酸化剤を被処理水に添加してもよい。また、塩素安定化剤、アルカリ、及び塩素系酸化剤のこれら3成分の各薬剤を同時に又はそれぞれ別々に被処理水に添加し、これら3成分が被処理水中で混合されることで、被処理水中に結合塩素系酸化剤を形成させてもよい。なお、結合塩素系酸化剤における全塩素濃度(Cl2)は、有効塩素(Cl2)ともいい、結合塩素系酸化剤中の全塩素濃度などの各種塩素濃度は、上記<全残留塩素濃度の算出方法>により、測定することができる。
【0048】
塩素安定化剤として、酸化剤と反応して結合塩素を生成できるものであれば特に限定されないが、好ましくはアミノ基を有する化合物であり、例えば、上述した、アンモニウム塩、スルファミン酸化合物などが挙げられるが特に限定されず、このうち、スルファミン酸化合物が好ましい。
【0049】
アルカリとして、特に限定されないが、例えば、酸化物、水酸化物などが挙げられる。アルカリ金属の酸化物又は水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどから選択される1種又は2種以上が好適であり、このうち水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムがより好適である。アルカリは、水溶液の形態が好ましく、アルカリ水溶液中のアルカリ含有量は35~55質量%が好ましい。
【0050】
塩素系酸化剤として、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、塩素化イソシアヌル酸、及びこれらの塩(好適にはアルカリ金属塩)などから選択される1種又は2種以上が挙げられ、このうち次亜塩素酸又はその塩が好ましく、より好ましくは次亜塩素酸塩である。当該塩素系酸化剤の全塩素濃度(Cl2)は、特に限定されないが、例えば10~16%又は12~16%などが挙げられ、市販品を用いてもよい。
【0051】
酸化系酸化剤と塩素安定化剤との使用割合は特に限定されないが、塩素系酸化剤の全塩素濃度(Cl2)1モルに対して、塩素安定化剤(好適にはスルファミン酸化合物)を0.5~5.0モルにすることが好ましく、より好ましくは0.5~2.0モル、さらに1.0~1.5モルとすることがより好ましい。当該使用割合は、薬剤中の含有割合であってもよい。
【0052】
結合塩素系酸化剤のpHは、pH7以上のアルカリが好ましく、より好ましくは10以上、さらに好ましくは11以上、より好ましくは12以上、より好ましくは13以上である。
【0053】
結合塩素系酸化剤中の安定化結合塩素濃度(mg/L-Cl2)は、特に限定されない。
【0054】
結合塩素系酸化剤中の〔遊離塩素測定用試薬であるDPD(Free)試薬による300秒後の塩素濃度(mg/L-Cl2)/全塩素濃度(mg/L-Cl2)×100(%)〕により算出される〔遊離塩素測定用試薬による300秒後の塩素濃度/全塩素濃度〕の割合は、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは1%以上、より好ましくは2.5%以上、さらに好ましくは3%以上、さらにより好ましくは5%以上、より好ましくは6%以上、より好ましくは7%以上であり、また、その好適な上限値として、好ましくは15%以下、より好ましくは14%以下、さらに好ましくは13%以下、より好ましくは12%以下であり、当該好適な数値範囲として、より好ましくは1~15%、さらに好ましくは2.5~15%である。
【0055】
また、上述のように結合塩素系酸化剤を調製する際に又調製した際に、上記指標(好適には、Free300秒値、及び/又は〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕)を薬剤効果の指標として用いて、結合塩素系酸化剤が期待する薬剤効果を発揮しうるかどうかの適否を判定することができる。これにより、所望の薬剤効果をより良好に発揮できる被処理水を調製することが可能な結合塩素系酸化剤を選定することができる。そして、上記指標に基づいて、これに合格した結合塩素系薬剤を、本発明の効果を発揮しうる薬剤として提供することも可能である。
【0056】
これにより、Free300秒値が所定値(好適には0.036mg/L-Cl2)以上の被処理水とすることができる結合塩素系酸化剤を提供することができる。また、これにより、〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕が、所定値(好適には、0.008)以上の被処理水とすることができる結合塩素系酸化剤を提供することができる。
【0057】
本実施形態に用いる結合塩素系酸化剤又は結合塩素を被処理水に添加することにより、本実施形態の膜分離方法を実施することができる。
また、本実施形態は、上述した薬剤効果を発揮させるために用いる、結合塩素系酸化剤もしくは結合塩素又はその使用を提供することができる。また、本実施形態の結合塩素系酸化剤又は結合塩素は、上述した薬剤効果を発揮しうる方法又は当該方法の有効成分として使用することができる。
また、本実施形態の結合塩素系酸化剤又は結合塩素は、上述した薬剤効果を有する又は上述した薬剤効果を発揮するための使用目的の製剤又は各種組成物などの製造のために使用することができる。
【0058】
1-3-2.被処理水
本実施形態で用いられる原水(例えば、被処理水)は、特に限定されず、例えば、有機物を含んだ産業用排水、海水、かん水(例えば海水、汽水など塩分を含む水)、淡水(例えば河川水、湖水など)、工業用水・市水などが挙げられる。
【0059】
<バイオファウリングポテンシャル>
本実施形態に用いられる「バイオファウリングポテンシャル」は、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは1×103cfu/mL以上、より好ましくは1×104cfu/mL以上であり、また、その好適な上限値として、好ましくは1×108cfu/mL以下、より好ましくは1×107cfu/mL以下、さらに好ましくは5×106cfu/mL以下、より好ましくは1×106cfu/mL以下、より好ましくは5×105cfu/mL以下、より好ましくは1×105cfu/mL以下であり、より好適な数値範囲として、好ましくは1×103~1×107cfu/mLである。
なお、バイオファウリングポテンシャルの測定は、上記<バイオファウリングポテンシャル(cfu/mL)の測定方法>により、行うことができる。
【0060】
バイオファウリングポテンシャルを測定する際の試料として、いずれの時期の被処理水を用いてもよく特に限定されないが、原水、又は、水系もしくは膜分離装置(好適には逆浸透膜装置)に流入する原水もしくは被処理水などを適宜採用することができる。バイオファウリングポテンシャルを測定する際の試料は、結合塩素系酸化剤を含有させる前の被処理水が好適であり、原水であることがより好適である。
バイオファウリングポテンシャルの測定の時期は、特に限定されず、所定の運転間隔(例えば0.5~6ヶ月間程度)、水系の運転再開時などが挙げられる。例えば、水系に流入するときの原水を、0.5~2ヶ月の間隔で採取し、この採取された原水のバイオファウリングポテンシャルを測定してもよい。また、採取は、1年のうち、1、2、3、又は4回程度であってもよい。用いるバイオファウリングポテンシャルは、最新のバイオファウリングポテンシャルが好適である。
【0061】
1-3-3.結合塩素系酸化剤を含む被処理水
本実施形態に用いられる結合塩素系酸化剤を含む被処理水は、上記指標に基づき結合塩素系酸化剤を含有させて調製することが好適であり、これにより所定のFree300秒値以上及び/又は所定の〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕以上の被処理水にすることがより好適である。当該結合塩素系酸化剤を含む被処理水を膜分離装置に通水することで、水系をより長期的に運転することができる。
【0062】
<結合塩素系酸化剤を含む被処理水中のFree300秒値>
本実施形態に用いられる「Free300秒値(mg/L-Cl2)」は、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは0.025mg/L-Cl2以上、より好ましくは0.03mg/L-Cl2以上、さらに好ましくは0.035mg/L-Cl2以上、より好ましくは0.036mg/L-Cl2以上、より好ましくは0.04mg/L-Cl2以上、より好ましくは0.045mg/L-Cl2以上、より好ましくは0.05mg/L-Cl2以上、より好ましくは0.06mg/L-Cl2以上、より好ましくは0.07mg/L-Cl2以上、より好ましくは0.08mg/L-Cl2以上である。また、結合塩素系酸化剤を含む被処理水のFree300秒値(mg/L-Cl2)は、その好適な上限値として、好ましくは0.2mg/L-Cl2以下、より好ましくは0.15mg/L-Cl2以下、さらに好ましくは0.14mg/L-Cl2以下であり、またより好適な数値範囲として、好ましくは0.036~0.15mg/L-Cl2である。
なお、Free300秒値(mg/L-Cl2)の測定は、上記<Free300秒値(mg/L-Cl2)の測定方法>により、行うことができる。
【0063】
<結合塩素系酸化剤を含む被処理水における〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕>
本実施形態に用いられる〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕は、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは0.005以上、より好ましくは0.006以上、さらに好ましくは0.007以上、より好ましくは0.008以上、より好ましくは0.009以上であり、また、その好適な上限値として、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.1以下であり、当該好適な数値範囲として、好ましくは0.006~0.1である。
【0064】
なお、〔Free300秒値/バイオファウリングポテンシャル〕の「Free300秒値」は、結合塩素系酸化剤を含む被処理水におけるFree300秒値であり、上記<結合塩素系酸化剤を含む被処理水中のFree300秒値>を採用することができる。〔Free300秒値/バイオファウリングポテンシャル〕の「バイオファウリングポテンシャル」は、結合塩素系酸化剤を含有させる前の被処理水におけるバイオファウリングポテンシャルが好適であり、上記<バイオファウリングポテンシャル>を採用することができる。
また、〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕の測定は、上記<〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕の算出方法>により、行うことができる。
【0065】
<結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の全塩素濃度>
本実施形態に用いられる、結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の全塩素濃度(有効塩素)は、特に限定されない。このような全塩素濃度になるように、被処理水1Lに対して結合塩素系酸化剤を添加してもよい。なお、結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の全塩素濃度などの各種塩素濃度は、上記<全残留塩素濃度の算出方法>により、測定することができる。
【0066】
<結合塩素系酸化剤を含む被処理水における〔Free300秒値/全塩素濃度〕(%)>
本実施形態に用いられる、結合塩素系酸化剤を含む被処理水における〔Free300秒値/全塩素濃度〕の割合(%)は、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは1%以上、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは4%以上、より好ましくは5%以上、より好ましくは6%以上、さらに好ましくは7%以上であり、また、好適な上限値として、好ましくは20%以下、より好ましくは15、14又は13%以下である。好適な数値範囲として、好ましくは3~20%である。このような〔Free300秒値/全塩素濃度〕になるように、被処理水1Lに対して結合塩素系酸化剤を添加してもよい。
なお、〔Free300秒値/全塩素濃度〕は、上記<〔Free300秒値/全塩素濃度〕の算出方法>により、測定することができる。
【0067】
<結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の安定化結合塩素濃度>
本実施形態に用いられる、結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の安定化結合塩素濃度は、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは0.1mg/L-Cl2以上、より好ましくは0.2mg/L-Cl2以上、さらに好ましくは0.25mg/L-Cl2以上、より好ましくは0.3mg/L-Cl2以上、より好ましくは0.35mg/L-Cl2以上、より好ましくは0.4mg/L-Cl2以上、より好ましくは0.5mg/L-Cl2以上であり、また、好適な上限値として、特に限定されないが、薬剤コスト及び薬剤効果の観点から、好ましくは5.0mg/L-Cl2以下、より好ましくは4.0mg/L-Cl2以下、さらに好ましくは3.0mg/L-Cl2以下、より好ましくは2.5mg/L-Cl2以下、より好ましくは2.0又は1.5mg/L-Cl2以下である。好適な数値範囲として、好ましくは0.1~5.0mg/L-Cl2、より好ましくは0.3~2.5mg/L-Cl2である。このような安定化結合塩素濃度になるように、被処理水1Lに対して結合塩素系酸化剤を添加してもよい。
なお、結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の全塩素濃度などの各種塩素濃度は、上記<全残留塩素濃度の算出方法>により、測定することができる。
【0068】
1-4.膜分離装置
本実施形態に用いられる膜分離装置は、特に限定されず、膜分離を行うように構成されている公知の装置を用いることができ、装置の数は単数又は複数でもよく、装置は並列的及び/又は直列的な配置であってもよい。
本実施形態に用いる膜分離装置は、被処理水中の濁質や溶解性物質、イオン類を分離するように構成されている膜分離部を備えることが好適である。当該膜分離装置は、さらに、通水前の被処理水に各種薬剤を添加するように構成されている薬剤添加部を単数又は複数備えてもよく、当該薬剤添加部は、間欠的に又は連続的に薬剤を添加してもよく、各種薬剤を同時期に又は別々の時期に添加してもよい。さらに、当該膜分離装置は、薬剤の添加量、薬剤の種類、添加時期、添加間隔などを制御するように構成されている制御部を外部又は内部に備えることがより好適であり、当該制御部が外部に備えられている場合には、サーバやクラウドなどを介して制御することができる。
【0069】
膜分離を実施できるように構成されている膜分離装置を、膜分離工程に適用してもよい。
膜分離に使用される透過膜は、特に限定されず、逆浸透膜(RO膜)、ナノろ過膜(NF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、精密ろ過膜(MF膜)などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を使用することが好適である。この透過膜のうち、逆浸透膜が好適である。
【0070】
本実施形態における膜分離装置に通水する結合塩素系酸化剤を含む被処理水(以下、「供給水」ともいう)として、例えば、供給水pH、供給水量、供給水温、供給水の水圧(MPa)、供給水のTOC(全有機炭素:Total Organic Carbon)、供給水の酸化還元電位(ORP)などが挙げられるが、これら条件から1種又は2種以上を選択することができる。供給水の有機物をTOCとする。
なお、上記供給水は「逆浸透膜装置に供給する結合塩素系酸化剤を含む被処理水」であることが好適であり、この場合の供給水は、逆浸透膜装置に導入されて逆浸透膜分離される水をさし、通常、逆浸透膜装置の入口水が該当する。
【0071】
供給水のpHは、特に限定されないが、好ましくは3.0~9.0、より好ましくは4.0~8.0、さらに好ましくは5.0~7.0である。当該pHは、pH調整剤で調整してもよい。
供給水の水圧は、特に限定されないが、好ましくは4~8MPaである。
供給水温は、特に限定されないが、好ましくは4~50℃、さらに好ましくは10~40℃である。
供給水のCODcrは、特に限定されないが、好ましくは0.1~30mg/L as C、より好ましくは0.5~20mg/L as C、さらに好ましくは1~10mg/L as Cである。
供給水の酸消費量(pH4.8)(mg/L-CaCO3)は、特に限定されないが、好ましくは1~100mg/L、より好ましくは5~50mg/L、さらに好ましくは5~30mg/Lである。なお、酸消費量(pH4.8)は、総アルカリ度ともいう(例えば、JIS K 0102 15.1 滴定法)。
供給水のTOCは、特に限定されないが、好ましくは0.1~20mg/L as C、より好ましくは0.5~10mg/L as C、さらに好ましくは0.5~5mg/L as Cである。なお、TOCは、水のTOCが測定可能な市販品のTOC分析装置を用いて測定することができる。
供給水の全リンは、特に限定されないが、好ましくは0.001mg~1mg/L、より好ましくは0.005~0.5mg/Lである。なお、全リンは、JIS K0102 46 3.3により測定することができる。
供給水の全窒素は、特に限定されないが、好ましくは0.02~10mg/L、より好ましくは0.1~5mg/Lである。なお、全窒素は、JIS K0102 45.4により測定することができる。
供給水の導電率は、好ましくは1~100mS/m、より好ましくは5~50mS/mである。なお、導電率は、水の導電率が測定可能な市販品の導電率測定装置を用いて測定することができる(JIS K 0102 13)。
また、供給水の全硬度は、特に限定されないが、好ましくは1~100mg/L-CaCO3、より好ましくは1~80mg/L-CaCO3、さらに好ましくは5~50mg/L-CaCO3である。なお、全硬度は、水の全硬度(CaCO3)が測定可能な市販品の全硬度計を用いて測定することができる(例えば、JIS K 0101 15.1)。
【0072】
本実施形態の水系において、膜分離装置の好適な態様として、保安フィルター装置及び/又は逆浸透膜装置を備えることが好ましく、少なくとも逆浸透膜装置を備えることがより好ましい。
【0073】
1-4-1.逆浸透膜装置
本実施形態に用いられる逆浸透膜装置は、特に限定されず、逆浸透膜を用いて原水中のイオン類や有機物などを除去できるように構成されていることが好適である。逆浸透膜装置は、海水淡水化、超純水製造、工業用水処理、下水処理、排水回収処理及び排水の再利用などを行いうるように構成されていることが好適である。また、逆浸透膜装置は、逆浸透膜を有するユニットを単数又は複数備えていてもよい。また、水系は、単数又は複数の逆浸透膜装置を有していてもよい。
【0074】
<逆浸透膜>
本実施形態に用いる逆浸透膜(以下、「RO膜」ともいう)は、特に限定されず、例えば、ポリアミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリイミド系、ポリエチレンイミン系、ポリエチレンオキシド系、酢酸セルロース系などが挙げられる。このなかでも、ポリアミド系RO膜は、イオン性物質の阻止率が高く、流束が大きいので好適に用いることができる利点を有する。
本実施形態で用いる結合塩素系酸化剤は、耐塩素性がなく遊離塩素による酸化劣化しやすいポリアミド系高分子膜を逆浸透膜として使用しても、劣化を抑制でき長期間運転することができる。
【0075】
本実施形態において、より好適な態様として、逆浸透膜装置に被処理水を供給する前に、前段での前処理部にて被処理水から有機物や濁質などを除去する前処理工程を含んでもよい。例えば、前処理工程として、ろ過工程、保安フィルター処理工程などが挙げられ、より具体的には、原水(被処理水)をろ過装置でろ過処理する工程、ろ過処理水を保安フィルターで処理する工程などが挙げられる。これにより、前処理した逆浸透膜装置又は逆浸透膜工程に供給するための被処理水を得ることができる。
【0076】
本実施形態において、より好適な態様として、逆浸透膜装置に供給する被処理水は、保安フィルター装置にて前処理することが好適である。当該保安フィルター装置は、逆浸透膜分離工程の前処理工程ができるように構成されていることが好適であり、逆浸透膜装置の前に前段として備えられていることがより好ましい。
【0077】
保安フィルター装置に用いる透過膜として、特に限定されないが、ナノろ過膜(NF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、精密ろ過膜(MF膜)などから選択される1種又は2種以上を使用することができる。これにより、逆浸透膜装置に供給する被処理水の濁質などの不純物を低減することができる。
【0078】
本実施形態において、逆浸透膜装置に供給する被処理水中には、薬剤効果がより良好にかつ安定的に発揮しうるように結合塩素系酸化剤が含まれているので、適宜、逆浸透膜装置で発生するバイオファウリングをより良好に抑制でき、また、適宜、結合塩素系酸化剤が発揮しうる効果(例えば、抗菌、殺菌、殺藻、微生物生育阻害、微生物代謝阻害など)をより良好に効率よく発揮させることもできる。これによって、逆浸透膜装置で発生するバイオファウリングを抑制する効果、使用する薬剤による薬剤効果も期待できる。
また、本実施形態を用いることで、差圧上昇速度の増加及び差圧変化率の増加を抑制することができ、長期的な運転が可能である。
また、本実施形態によれば、膜分離装置を備える水系をより長期的に運転することができる。
【0079】
なお、本実施形態に係る膜分離方法は、逆浸透膜の処理方法であってもよい。また、本実施形態に係る膜分離方法は、装置又はシステムに適用することができる。
また、本発明に係る膜分離方法は、上述したこと、下記「2.」~「4.」などの構成と重複する、結合塩素系酸化剤、指標、被処理水、膜分離などの各構成などの説明については適宜省略するが、当該「1.本実施形態に係る膜分離方法」~「4.本実施形態係る水処理装置」などの説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
【0080】
2.本実施形態における膜分離方法の適用例
本実施形態における膜分離方法は、膜分離装置にも適用することができる。本実施形態の膜分離方法は、スライム抑制方法、バイオファウリング抑制方法、水系、装置又はシステムに適用することができる。
本実施形態に係る膜分離方法に従って行う膜分離工程は、装置又はシステムに適用することができる。例えば膜分離工程を、それぞれ、膜分離方法、膜分離装置、膜分離システムに適用してもよい。
本実施形態における膜分離方法は、少なくとも膜分離装置(好適には逆浸透膜装置)を備える水系に適用することが好適である。
【0081】
膜分離装置(好適には逆浸透膜装置)を備える水系として、特に限定されないが、例えば、水処理水系;冷却塔などの循環水系;紙パルプ製造などのプロセス水系;海水淡水化、超純水製造、工業用水処理、下水処理、排水回収処理及び排水の再利用などを行う水系;などが挙げられる。
【0082】
膜分離装置(好適には逆浸透膜装置)を備える水系の一例として、原水が被処理水として流入し、被処理水中の濁質や溶解性物質、イオン類を分離するように構成されている膜分離装置と、薬剤を添加する薬剤添加装置を備えることが好適である。Free300秒値を測定するための測定装置及びバイオファウリングポテンシャルを測定するための測定装置などをさらに備えてもよい。本実施形態の方法を実施するための制御装置をさらに備えることが好ましく、当該制御装置は、Free300秒値及びバイオファウリングポテンシャルのデータを、自動又は手動にて取得してもよい。なお、原水は、水系に流入するときに、希釈又は濃縮されてもよい。
膜分離装置は、被処理水から所望の透過水が得られるように構成されていることが好適である。薬剤として、結合塩素系酸化剤を用いることが好適である。薬剤添加装置は、膜分離装置(好適には逆浸透膜装置)に被処理水が通水される前に、薬剤を被処理水に添加できるように構成されていることが好適である。
【0083】
膜分離装置(好適には逆浸透膜装置)を備える水系の一例として、原水が被処理水として流入し、被処理水に凝集剤を注入して濁質などを凝集形成又はフロック形成させる凝集処理工程、凝集物を含む被処理水から沈殿物と上澄みとに分離する固液分離工程、流入した上澄みから濁質などを、除去する保安フィルター処理工程が、順次又は順不同に、含んでいてもよい。また、これら処理工程は、それぞれ処理工程を行うように構成されている処理装置又は処理部を用いて行ってもよい。さらに、保安フィルター処理工程の後に、逆浸透膜分離工程を備えることがより好ましい。
【0084】
逆浸透膜装置を備える水系の一例として、例えば
図1に示す水系1を参照して説明するが、本実施形態に係る水系は、これに限定されない。逆浸透膜装置2を備える水系1において、原水が被処理水として流入し、被処理水に凝集剤を注入して濁質などを凝集形成又はフロック形成させるように構成されている凝集処理装置5にて行う凝集工程、凝集物を含む被処理水から沈殿物と上澄みとに分離するように構成されている固液分離装置4にて行う固液分離工程、流入した上澄みから濁質などを逆浸透膜分離の前にさらに除去する除濁膜分離を行うように構成されている保安フィルター3にて行う前処理工程、前処理された結合塩素系酸化剤を含む被処理水を通水する逆浸透膜装置2にて行う逆浸透膜分離工程を含む。逆浸透膜分離工程にて、濃縮水と所望の透過水とに分離されうる。
【0085】
また、逆浸透膜装置を備える水系の一例として、原水を被処理水として供給するように構成されている原水供給路と、前記原水供給路から供給された被処理水を、透過水と濃縮水とに分離するように構成されている逆浸透膜装置とを備える水処理装置(好適には超純水装置)が挙げられる。
【0086】
また、逆浸透膜装置を備える水系の一例として、原水を被処理水として供給するように構成されている原水供給路と、前記原水供給路から供給された被処理水をろ過し凝集物などをろ過するように構成されているろ過装置及びろ過処理水槽、このろ過された被処理水からさらに不溶性物質などを除去し、逆浸透膜分離の前処理として構成されている保安フィルター装置、及び逆浸透膜装置が備えられている水処理装置が挙げられる。保安フィルター装置にて、上述した除濁膜分離を行ってもよい。
【0087】
なお、本実施形態の水系は、上述したこれら逆浸透膜装置を備える水系の一例で説明された各装置や各工程を必要に応じて組み合わせてもよい。
また、本実施形態の方法を、「1.本実施形態に係る膜分離方法」~「4.本実施形態係る水処理装置」などで説明する、膜装置に通水する膜分離方法、バイオファウリング制御方法、膜分離方法、膜分離装置を備える水系の運転方法などの方法を実施又は管理するための装置又は当該装置に備える制御部(当該制御部はCPUなどを含む)によって実現させることも可能であり、これら装置又は制御部を提供することができる。当該実施又は管理するための装置として、例えば、コンピュータ、ノートパソコン、デスクトップパソコン、タブレットPC、PLC、サーバ、クラウドサービスなどが挙げられる。さらに、前記実施又は管理するための装置などには、タッチパネルやキーボードなどの入力部、各部間の送受信部やネットワーク、ネットワークアクセス部などの通信部、タッチパネルやディスプレイなどの表示部などを適宜備えてもよい。これにより、本実施形態の方法を実施することができる。
【0088】
また、本実施形態の方法を、記憶媒体(不揮発性メモリ(USBメモリなど)、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)、CD、DVD、ブルーレイなど)などを備えるハードウェア資源にプログラムとして格納し、前記制御部によって実現させることも可能である。本実施形態の方法をプログラムとして提供することができる。本実施形態の方法を記憶した記憶媒体を提供することができる。これにより、本実施形態の方法を実施することができる。
【0089】
また、前記制御部、前記記憶媒体又は前記プログラムなどを含み、膜分離処理工程やこれを含む膜分離方法を実施できるように又はバイオファウリングを制御できるように構成されている、膜分離装置や逆浸透膜分離装置の運転又はバイオファウリング制御などを実施するための、装置、水処理装置、システム又は水系システムなどを提供することができる。これにより、本実施形態の方法を実施することができる。これら装置、水処理装置、システム又は水系システムなどは、適宜目的に応じて対応できるように構成していてもよい。
【0090】
また、本第一実施形態での一例として、コンピュータに、結合塩素系酸化剤を被処理水に含有させ、この結合塩素系酸化剤を含む被処理水を膜分離装置に通水する膜分離方法を実現させるプログラムであり、当該結合塩素系酸化剤を含む被処理水における遊離塩素測定用試薬による300秒後の塩素濃度測定結果であるFree300秒値を指標として用いるように構成されている第一機能と、を含む、膜分離処理又はバイオファウリング制御などを、実現させるプログラムを提供することができる。
【0091】
また、本第二実施形態での一例として、コンピュータに、結合塩素系酸化剤を被処理水に含有させ、この結合塩素系酸化剤を含む被処理水を膜分離装置に通水する膜分離方法を実現させるプログラムであり、 当該結合塩素系酸化剤を含む被処理水は、〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕を指標として用いるように構成されている第一機能と、を含む、膜分離処理又はバイオファウリング制御などを、実現させるプログラムを提供することができる。
また、本実施形態におけるプログラムでは、第一実施形態のプログラム及び/又は第二実施形態のプログラムを適宜組み合わせることができ、これらを並列又は直列的に組み合わせて実現させることができる。
【0092】
なお、本実施形態に係るプログラムでは、上記「1.」下記「3.」「4.」などの構成と重複する指標、結合塩素系酸化剤、被処理水、膜分離などの各構成などの説明については適宜省略するが、当該「1.本実施形態に係る膜分離方法」~「4.本実施形態係る水処理装置」などの説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
【0093】
3.本実施形態に係る水処理方法
本発明に係る水処理方法は、上記「1.」「2.」、下記「4.」などの構成と重複する、結合塩素系酸化剤、指標、被処理水、膜分離などの各構成などの説明については適宜省略するが、当該「1.本実施形態に係る膜分離方法」~「4.本実施形態係る水処理装置」などの説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
【0094】
本実施形態は、上記指標に基づき、結合塩素系酸化剤を含む被処理水を調製する方法を提供することができ、さらに当該調製工程を含む膜分離方法又は水処理方法を提供することができる。これにより、薬剤効果に優れた被処理水を得ることができ、当該調製された被処理水を用いることで、上述したように、膜分離装置を備える水系をより長期的に運転すること、バイオファウリングを抑制することなどができる。
【0095】
さらに、本実施形態は、上記指標に基づき、被処理水に含有させる結合塩素系酸化剤の添加量を調整することを含む、膜分離方法又は水処理方法を提供することができる。より好適な方法として、上記指標に基づく結合塩素系酸化剤の添加量の判定工程と、当該判定結果に基づく薬剤添加工程とを含む、方法である。
当該指標に所定値を設定することで、被処理水に含有させる結合塩素系酸化剤の添加量の増減を判定することができる(添加量増減の判定工程)。所定値以上の場合には添加量を維持又は減少させると判定することができ、所定値未満の場合には添加量を増量させると判定することができる。さらに、当該所定値が、幅のある数値範囲であってもよく、当該数値の範囲内の場合には、結合塩素系薬剤の添加量を維持するように判定してもよい。
【0096】
当該判定結果に基づき、結合塩素系酸化剤の添加量を調整するように指示をし、被処理水に結合塩素系酸化剤を含有させるように薬剤を添加することができる(添加工程)。なお、被処理水に結合塩素系酸化剤を含有させる場合には、結合塩素系酸化剤を被処理水に添加してもよいし、結合塩素系酸化剤を被処理水中で形成するように、各種薬剤(アルカリ、塩素系酸化剤、塩素安定化剤など)を被処理水に同時期に又は別々の時期に添加し、被処理水中で混合させてもよい。
これにより、結合塩素系酸化剤の添加量をより適切にすることができ、薬剤コストを低減することもできる。
【0097】
本実施形態に用いる指標として、Free300秒値が関与するものを第一の指標とすることがより好適であり、より好適な態様としては、Free300秒値、及び/又は〔Free300秒値/log10(バイオファウリングポテンシャル〕であり、これらに、さらに、安定化結合塩素濃度、〔全塩素濃度/Free300秒値〕、バイオファウリングポテンシャル、及び全塩素濃度などの指標から選択される1種又は2種以上を組み合わせることがより好適である。
【0098】
以下に、本実施形態の例として、本実施形態の例1~例4を挙げるが、これらに限定されない。なお、本実施形態の例1~4において、制御部は薬剤添加部に薬剤添加の指示を行い、これにより薬剤添加部は、膜分離装置を備える水系において、より長期的に運転できるように、被処理水に結合塩素系酸化剤を添加することができる。これにより、被処理水に対し、より過不足なくより適切な結合塩素系酸化剤の添加量を添加することができ、これによりコスト低減することができる。
【0099】
<本実施形態の例1>
本実施形態の例1として、Free300秒値を指標とした場合について、説明する。
ステップ101において、制御部は、結合塩素系酸化剤を含む被処理水におけるFree300秒値のデータを、外部又は内部から取得し、Free300秒値を指標として、当該指標に基づき薬剤量の増減に関する判定を行う。
ステップ102において、制御部は、結合塩素系酸化剤を含む被処理水において、Free300秒値が所定値以上の被処理水である場合には、結合塩素系酸化剤の添加量を維持するか、所定値に近づけるように減少させるように薬剤添加部に指示をする。このときの所定値を閾値としてもよく、より好適な閾値として、Free300秒値0.036mg/L-Cl2である。
ステップ103において、制御部は、結合塩素系酸化剤を含む被処理水において、Free300秒値が所定値未満の被処理水である場合には、結合塩素系酸化剤の添加量を所定値以上になるように増加させるように、薬剤添加部に指示をする。
本実施形態の例1では、このステップ201~203を行うことで、より長期的に運転することができると共に、結合塩素系酸化剤を過不足なく適切な添加量にすることができ、コスト低減することができる。
【0100】
<本実施形態の例2>
本実施形態の例2として、〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕について説明する。
ステップ201において、制御部は、結合塩素系酸化剤を添加する前の被処理水(例えば原水)のバイオファウリングポテンシャルのデータ、及び結合塩素系酸化剤を含む被処理水におけるFree300秒値のデータを、外部又は内部から取得する。そして、〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕を指標として、当該指標に基づき薬剤量の増減に関する判定を行う。
ステップ202において、制御部は、結合塩素系酸化剤を含む被処理水において、〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕が所定値以上の場合には、結合塩素系酸化剤の添加量を維持するか、所定値に近づけるように減少させる。このときの所定値を閾値としてもよく、より好適な閾値として、〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕0.008である。
ステップ203において、制御部は、結合塩素系酸化剤を含む被処理水において、〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕が所定値未満の被処理水である場合には、結合塩素系酸化剤の添加量を所定値以上になるように増加させる。
本実施形態の例2では、このステップ201~203を行うことで、より長期的に運転することができると共に、結合塩素系酸化剤を過不足なく適切な添加量にすることができ、コスト低減することができる。
【0101】
<本実施形態の例3>
本実施形態の例3として、上記本実施形態の例1及び例2を組み合わせてもよく、これらは、並列的に又は直列的に、ステップ101~103、ステップ201~203を、結合塩素系酸化剤の添加量が適切な添加量になるように行うことができる。
【0102】
<本実施形態の例4>
本実施形態の例4として、上記本実施形態の例1~3の指標以外に、さらに別の指標を組み合わせてもよく、これらは、並列的に又は直列的に行い、結合塩素系酸化剤の添加量を適切な添加量になるように行うことができる。
例えば、本実施形態の例1~例3のいずれかを行う前に、結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の全塩素濃度を測定し、所定値未満になった場合に、添加した結合塩素系酸化剤を、別のロットの結合塩素系酸化剤に変更することができる。所定値以上になるまで結合塩素系酸化剤を変更し、所定値以上になる結合塩素系酸化剤にて上記本実施形態の例1~3のいずれかを行うことができる。また、本実施形態の例1~3のいずれかを行っている場合でも、同様にして結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の全塩素濃度に基づき結合塩素系酸化剤がより良好な薬剤効果を発揮しうるかどうかを判定することができる。
【0103】
4.本実施形態に係る水処理装置
本発明に係る水処理装置は、上記「1.」「2.」「3.」などの構成と重複する、結合塩素系酸化剤、指標、被処理水、膜分離などの各構成などの説明については適宜省略するが、当該「1.本実施形態に係る膜分離方法」~「4.本実施形態係る水処理装置」などの説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
また、本実施形態に係る水処理装置は、膜分離装置(好適には逆浸透膜装置)を少なくとも有する水処理装置又は水系であってもよい。当該水処理装置は、水処理水系、又は水処理システムであってもよい。
【0104】
本実施形態に係る水処理装置は、膜分離装置(好適には逆浸透膜装置)を備える、本実施形態の方法を実施する水処理装置であることが好適である。
本実施形態に係る水処理装置は、本実施形態の膜分離方法、バイオファウリング抑制方法、膜分離装置を備える水系の運転方法などを実施することが好適である。
【0105】
本実施形態に係る水処理装置は、薬剤添加部、及び膜分離部(好適には、逆浸透膜部)を少なくとも備え、さらに、これら部を制御する制御部を備えることが好適であり、逆浸透膜部の前に前処理部として、保安フィルター部をさらに備えることが好適である。薬剤添加部は、保安フィルター部の上流もしくは下流の流路、及び/又は逆浸透膜部の上流の流路に接続されていることが好適であり、接続される場所として、例えば、保安フィルター部とその前の部との間の流路、保安フィルター部と逆浸透膜部との間の流路などが挙げられる。これにより、各薬剤を被処理水に含有させ、各薬剤を含む被処理水を逆浸透膜装置に供給することができる。また、これら各部は、単数又は複数であってもよく、また、これら部は、装置であってもよい。なお、本実施形態の実施は、制御部が実施してもよいし、水処理の制御装置又は水処理装置、水処理システム、水系などの装置が実施してもよい。
【0106】
本実施形態は、以下のような構成を採用することができる。
〔1〕
結合塩素系酸化剤を被処理水に含有させ、添加後の結合塩素系酸化剤を含む被処理水を膜分離装置に通水する膜分離方法であり、
当該添加後の結合塩素系酸化剤を含む被処理水は、遊離塩素測定用試薬による300秒後の塩素濃度測定結果であるFree300秒値が、0.036mg/L-Cl2以上の被処理水である、膜分離方法。
前記結合塩素系添加剤を被処理水に含有させる場合、結合塩素系酸化剤を被処理水に添加すること、又は、各種薬剤(アルカリ、塩素系酸化剤、塩素安定化剤など)を被処理水に同時期に又は別々の時期に添加し被処理水中で混合させて結合塩素系酸化剤を被処理水中で形成することが、好適であり、より好適には、結合塩素系酸化剤を被処理水に添加することである。
【0107】
〔2〕
結合塩素系酸化剤を被処理水に含有させ、添加後の結合塩素系酸化剤を含む被処理水を膜分離装置に通水する膜分離方法であり、
当該添加後の結合塩素系酸化剤を含む被処理水は、〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕が、0.008以上の被処理水であり、
前記Free300秒値は、結合塩素系酸化剤を被処理水に含有させ、当該添加後の結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の遊離塩素測定用試薬による300秒後の塩素濃度(mg/L-Cl2)であり、
前記バイオファウリングポテンシャルは、結合塩素系酸化剤を添加する前の被処理水を30℃暗闇条件下で7日間保管し、この7日間保管したときの試料中の菌数(cfu/mL)である、膜分離方法。
前記結合塩素系添加剤を被処理水に含有させる場合、結合塩素系酸化剤を被処理水に添加すること、又は、各種薬剤(アルカリ、塩素系酸化剤、塩素安定化剤など)を被処理水に同時期に又は別々の時期に添加し被処理水中で混合させて結合塩素系酸化剤を被処理水中で形成することが、好適であり、より好適には、結合塩素系酸化剤を被処理水に添加することである。
【0108】
〔3〕
前記バイオファウリングポテンシャルが、1×103~1×107cfu/mLである、前記〔1〕又は〔2〕に記載の膜分離方法。
〔4〕
前記添加後の結合塩素系酸化剤を含む被処理水は、〔Free300秒値/Log10(バイオファウリングポテンシャル)〕が、0.008以上の被処理水である、前記〔1〕に記載の膜分離方法、又は、前記添加後の結合塩素系酸化剤を含む被処理水は、Free300秒値が、0.036mg/L-Cl2以上の被処理水である、前記〔2〕に記載の分離膜方法。
〔5〕
前記結合塩素系酸化剤の添加が、逆浸透膜装置に通水する前であり、より好ましくは保安フィルター装置と逆浸透膜装置との間である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一に記載の膜分離方法。
〔6〕
(a)Free300秒値、及び/又は、(b)バイオファウリングポテンシャルを、指標とし、当該指標に基づき、被処理水に添加する結合塩素系酸化剤の添加量を制御する、前記〔1〕~〔5〕のいずれか一に記載の膜分離方法。好適には、当該指標が閾値以上の場合には、当該結合塩素系酸化剤の添加量を維持又は減少させること、又は、当該指標が閾値未満の場合には、当該結合塩素系酸化剤の添加量を増加させることである。
〔7〕
前記膜分離方法は、バイオファウリング抑制方法、又は膜分離装置を備える水系の運転方法である、前記〔1〕~〔6〕のいずれか一に記載の膜分離方法。
【0109】
〔8〕
前記結合塩素系酸化剤を含む被処理水が、当該結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の全塩素濃度が0.1mg/L-Cl2以上、及び/又は、安定化結合塩素濃度が0.1mgmg/L-Cl2以上、である、前記〔1〕~〔7〕のいずれか一に記載の膜分離方法。
〔9〕
前記膜分離方法が、逆浸透膜(RO膜)、ナノろ過膜(NF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、精密ろ過膜(MF膜)から選択される1種又は2種以上の膜分離方法であり、好適にはRO膜分離方法である、前記〔1〕~〔8〕のいずれか一に記載の膜分離方法。
〔10〕
前記〔1〕~〔8〕のいずれか一に記載の膜分離方法を実施する又は実施するための、水処理水系又は水処理装置。
〔11〕
前記〔1〕~〔8〕のいずれか一に記載の膜分離方法をするように構成されている制御部をさらに備える、膜分離装置を少なくとも備える水処理水系又は水処理装置。
〔12〕
(a)Free300秒値、及び/又は、(b)バイオファウリングポテンシャルを指標とし、当該指標に基づき、結合塩素系酸化剤を調製する方法。当該調製方法は、被処理水に添加するための結合塩素系酸化剤の調製方法であり、所望の薬剤効果を発揮しうる被処理水になるような結合塩素系酸化剤を調製することが好適である。
【実施例】
【0110】
以下の試験例、実施例及び比較例などを挙げて、本発明の実施形態について説明をする。なお、本発明の範囲は試験例、実施例などに限定されるものではない。
また、本〔実施例〕において、上記<Free300秒値(mg/L-Cl2)の測定方法>、<全塩素濃度(全残留塩素濃度)の算出方法>、及び<バイオファウリングポテンシャル(cfu/mL)の測定方法>などにより、塩素濃度やバイオファウリングポテンシャルなどの各種測定値を得た。
【0111】
<薬品調製>
下記表1に示す配合で各サンプル(薬品1~3)を調製した。全塩素濃度に占めるFree300秒値の比率は、表1に記載の通りである。全塩素濃度に占めるFree300秒値の比率(%)は、〔Free300秒値(mg/L-Cl2)/全塩素濃度(mg/L-Cl2)〕×100(%)にて算出した。全塩素濃度及びFree300秒値は、上記<Free300秒値(mg/L-Cl2)の測定方法>、<全塩素濃度(全残留塩素濃度)の算出方法>により算出した。12%次亜塩素酸ナトリウムの12%は、全塩素濃度(Cl2)であり、全塩素濃度(Cl2)1モルに対して、スルファミン酸化合物は1.0~1.5モルの範囲内であった。
薬品1~3は、表1に示す、アルカリの水溶液、酸化剤の水溶液、及び塩素安定化剤の水溶液を一緒に混合して調製された結合塩素系酸化剤であり、これら薬品のpHは全てpH13以上である。
【0112】
【0113】
<バイオファウリングポテンシャルの測定>
被処理水とする原水を200mL容滅菌瓶にサンプリングし、30℃の暗闇条件で7日間保管した後のサンプル水中の生菌数(cfu/mL)をバイオファウリングの起こりやすさの指標とする。滅菌瓶は、市販品のガンマ線滅菌済みのディスポーザブルブラスチック容器を使用した。このサンプル水中の生菌数(cfu/mL)は、JIS K 0350-10-10 用水・排水中の一般細菌試験方法により行った。より具体的には、生菌数(cfu/mL)の測定は、市販品の微生物測定用トリプチケースソイ寒天培地(TSA)を用い、培地への塗抹量100μL、培養条件30℃、7日間程度で行った。
【0114】
試験例1及び試験例2に使用する原水の性状は以下の通りであり、脱塩素処理をした野木町の水道水を原水として使用した。試験例1及び試験例2で使用する原水(被処理水)は、この原水のTOCとPの濃度のみ栄養源の調整で変更したものである。
<原水>
導電率:24mS/m、全硬度:32 mg/L-CaCO3、カルシウム硬度:26 mg/L-CaCO3、マグネシウム硬度:6mg/L-CaCO3、塩化物イオン:65 mg/L、硫酸イオン:11mg/L、シリカ:6mg/L、CODcr: 7mg/L、ナトリウムイオン:30mg/L、カリウム:1.73mg/L、酸消費量(4.8):15mg/L-CaCO3。
【0115】
(1)試験例1に使用するRO膜分離装置に通水(給水)するときの原水(被処理水)の性状:
TOC: 0.6mg/L asC、N: 1.6 mg/L asN、P: 0.02 mg/L asP、pH: 6.8~7
(2)試験例2に使用するRO膜分離装置に通水(給水)するときの原水(被処理水)の性状:
TOC: 1.2mg/L asC、 N: 1.6 mg/L asN
P: 0.04 mg/L asP、 pH: 6.8~7、なお、Cが微生物増殖の律速になるように原水条件を設定した。
【0116】
[試験例1]本実施形態のデータ「差圧上昇抑制試験~最低添加量」
配合の違いによりFree300秒値が異なる3種類の結合塩素系酸化剤を、添加量を変化させながら被処理水の添加し、逆浸透膜のモジュール差圧上昇抑制効果を確認した。このとき、非特許文献1(J. S. Vrouwenvelder et. al. IWA Publishing(2011))にある膜ファウリングシミュレータを参考にした、RO膜モジュールを模擬した通水装置を用い、差圧上昇速度及び差圧変化率の測定方法及び算出方法もこの非特許文献1を参照して行った。このとき使用した逆浸透膜は、ポリアミド系RO膜(日東電工製)を用いた。
試験例1に使用した原水のバイオファウリングポテンシャルは、1.6×104 cfu/mLであった。
【0117】
<手順>
RO膜モジュールを模擬した通水装置にバイオファウリングポテンシャルが1.6×104cfu/mLの試験水を被処理水として通水し、バイオファウリングの進行を差圧の上昇速度で観察した。薬品の効果を定量化するために、薬品添加後の全塩素濃度ごとに差圧の上昇速度を整理した。2kPa/dを差圧上昇速度の閾値として設定し、これ以上になった場合にはバイオファウリングを抑制できていないと判断した。
【0118】
<結果・考察>
被処理水に薬品1を添加し、結合塩素系酸化剤を含む被処理水No.1~7を調製し、結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の全塩素濃度、遊離塩素濃度、Free300秒値を、上記<Free300秒値(mg/L-Cl2)の測定方法>、<全残留塩素濃度の算出方法>などにより、測定した。
例えば、薬品1-No.1の場合、全塩素濃度1.20mg/L-Cl2のとき、Free300秒値は0.139mg/L-Cl2であった。薬品1-No.2の場合、全塩素濃度1.05mg/L-Cl2のとき、Free300秒値は0.122mg/L-Cl2であった。薬品1-No.6の場合、全塩素濃度0.45mg/L-Cl2のとき、Free300秒値は0.052mg/L-Cl2であった。薬品1-No.7の場合、全塩素濃度0.30mg/L-Cl2のとき、Free300秒値は0.035mg/L-Cl2であった。
【0119】
被処理水に薬品3を添加し、結合塩素系酸化剤を含む被処理水No.1~3を調製し、結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の全塩素濃度、遊離塩素濃度、Free300秒値を、<全残留塩素濃度の算出方法>により、測定した。例えば、薬品3-No.1の場合、全塩素濃度1.20mg/L-Cl2のとき、Free300秒値は0.036mg/L-Cl2であった。薬品3-No.2の場合、全塩素濃度1.05mg/L-Cl2のとき、Free300秒値は0.032mg/L-Cl2であった。薬品3-No.3の場合、全塩素濃度0.90mg/L-Cl2のとき、Free300秒値は0.027mg/L-Cl2であった。
【0120】
試験例1の結果を下記の表1に示す。薬品1では被処理水に対する添加量が、Free300秒値が0.035mg/L-Cl2以下で、はじめて2kPa/dを超える差圧上昇が見られ、このときの全塩素濃度は0.3mg/L-Cl2以下であった。
また、薬品3でも被処理水に対する添加量がFree300秒値が0.032mg/L-Cl2以下で、はじめて2kPa/dを超える差圧上昇が見られ、このときの全塩素濃度は1.05mg/L-Cl2以下であった。
【0121】
このことから、薬品1を含む被処理水(薬品1-No.2)と薬品3を含む被処理水(薬品3-No.2)は、それぞれ、被処理水中の全塩素濃度が比較的高くほぼ同じ約1mg/L-Cl2であっても、薬品3を含む被処理水(薬品3-No.2)の場合ではバイオファウリングが発生し、薬品1を含む被処理水(薬品1-No.2)の場合では、バイオファウリングを抑制することができた。さらに、薬品1を含む被処理水(薬品1-No.6)の場合では、全塩素濃度が0.45mg/L-Cl2と、薬品3を含む被処理水(薬品3-No.2)の全塩素濃度の半分以下でありながら、バイオファウリングを抑制することができた。これらを含む各被処理水でのFree300秒値は、薬品1を含む被処理水(薬品1-No.2)の場合0.1225mg/L-Cl2、薬品1を含む被処理水(薬品1-No.6)の場合0.0525mg/L-Cl2、薬品3を含む被処理水(薬品3-No.2)の場合0.032mg/L-Cl2であり、Free300秒値を薬剤効果の指標として用いて管理することで、バイオファウリングをより良好に抑制でき、膜分離装置を備える水系をより長期的に運転することができると本発明者らは考えた。
【0122】
また、薬品1-No.1~7を含む被処理水における〔Free300秒値/全塩素濃度〕は、下限値0.116及び上限値0.117であり、平均値は0.116であった。薬品3-No.1~3を含む被処理水における〔Free300秒値/全塩素濃度〕は、下限値0.030及び上限値0.030であり、平均値は0.030であった。
このことから(表2及び表3参照)、バイオファウリングポテンシャルが105 cfu/mL以下(好適には1.6×104 cfu/mL)においては、全塩素濃度に関わらずFree300秒値0.036mg/L-Cl2以上の被処理水になるように薬品を添加することで、バイオファウリングを抑制できたといえる。
【0123】
【0124】
[試験例2]本発明のデータ「差圧上昇抑制試験(同添加量)」
配合の違いにより、被処理水のFree300秒値(mg/L-Cl2)が異なる3種類の結合塩素系酸化剤による逆浸透膜のモジュール差圧上昇抑制効果を確認した。なお、〔試験例2〕の通水装置、測定方法などは、上記〔試験例1〕と同様にした。
<手順>
RO膜モジュールを模擬した通水装置にバイオファウリングポテンシャルが7.3×104 cfu/mLの試験水を被処理水として通水し、それぞれの薬品1~3の添加量を同じ全塩素濃度(1.05mg/L-Cl2)に合わせて添加し、バイオファウリング抑制能を差圧の上昇速度(傾き)で比較した。
【0125】
<結果・考察>
結果を下記の表3と
図2に示す。薬品1、薬品2、及び薬品3を全塩素濃度を基準として同じ全塩素濃度になるように添加した各被処理水の場合、薬品1及び薬品2は差圧上昇を抑制できているが、薬品3は差圧上昇を抑制できない結果となった。この場合でも上記試験例1と同様に、Free300秒値を指標とした方が、薬剤効果をより効果的に判定することができる。このように、Free300秒値(mg/L-Cl
2)を薬剤の指標とすることで、バイオファウリング抑制ができ、水系をより長期的に運転することができることが確認できた。
さらに、Free300秒値(mg/L-Cl
2)と、バイオファウリングポテンシャル(cfu/mL)と関係をより検討した結果、〔Free300秒値(mg/L-Cl
2)/Log
10(バイオファウリングポテンシャル(cfu/mL))〕の比率を、薬剤効果の指標とすることができた。このとき、閾値は0.008以上と考えた。
【0126】
【0127】
以上のことより、本発明者らは、クロロスルファミン酸などの結合塩素系酸化剤は、原料のグレード、配合、保管条件などにより殺菌力などの薬剤効果に違いが生じることを見出した。
さらに、本発明者らは、結合塩素系酸化剤の殺菌力などの薬剤効果を測定する指標として、DPD法による結合塩素系酸化剤を含む被処理水中のFree試薬添加300秒後の値(mg/L-Cl2)が適切であることを見出した。通常のDPD法では、Free試薬を用い、結合塩素系酸化剤を含む被処理水にFree試薬を添加後の30秒以内に指示値を読むことで、結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の遊離塩素濃度(mg/L-Cl2)を測定している。本発明者らは、結合塩素系酸化剤を含む被処理水にFree試薬を添加してから値(mg/L-Cl2)を読むまでの時間を300秒に延長することで、結合塩素系酸化剤を含む被処理水又は結合塩素系酸化剤が、一定程度の殺菌力などの薬剤効果を持つかどうかを判定することができることを見出した。
そして、本発明者らは、結合塩素系酸化剤を含む被処理水中の全塩素濃度(mg/L-Cl2)に占める、結合塩素系酸化剤を含む被処理水中のFree300秒値(mg/L-Cl2)の割合(%)を算出し、その値の大小を殺菌力などの薬剤効果の指標とし、膜分離装置又は膜分離工程における水処理条件決定の際の参考にできることを見出した。
【0128】
また、本発明者らは、現場で濃度を監視する際に全塩素濃度に加えてFree300秒値(mg/L-Cl2)を測定することで、処理条件が適正になっていることを把握することができることを見出した。
また、本発明者らは、結合塩素系酸化剤を用いる際には、Total塩素濃度(mg/L-Cl2)とFree300秒値(mg/L-Cl2)の差分は安定化結合塩素濃度(mg/L-Cl2)とされるが、結合塩素系酸化剤が通常用いられる範囲では、この安定化結合塩素濃度が一定程度存在することを見出した。本発明者らは、その安定化結合塩素濃度の範囲は、0.1~5.0mg/L-Cl2が望ましく、さらに望ましくは0.3~2.5mg/L-Cl2であると考えた。
【0129】
本発明者らは、バイオファウリングポテンシャル(cfu/mL)とFree300秒値(mg/L-Cl2)との関係についても検討を行った。単純に、これらの比率を計算すると、バイオファウリングポテンシャルの数値の変化がFree300秒値に比べて大きすぎて1つの値を定めきることができなかった。そこで、本発明者らは、「Free300秒値(mg/L-Cl2)/Log10(バイオファウリングポテンシャル(cfu/mL))」の値を使う方が適切であると考えた。例えば、試験例1では、「Free300秒値(mg/L-Cl2)/Log10(バイオファウリングポテンシャル(cfu/mL))」=「0.036/Log10(1.6^4)」=0.0086となった。本発明者らは、「Free300秒値(mg/L-Cl2)/Log10(バイオファウリングポテンシャル(cfu/mL))」のこの値が、所定値(好適には0.0086)以上のとき、差圧上昇を良好に抑制できると考えた。
【0130】
試験例2の薬品2の条件では、「Free300秒値(mg/L-Cl2)/Log10(バイオファウリングポテンシャル(cfu/mL))」の値が0.0152となっているので、差圧上昇は抑制され、薬品3の条件では、この値が0.0066となっているので、差圧上昇が起こっていた。このようなことから、「Free300秒値(mg/L-Cl2)/Log10(バイオファウリングポテンシャル(cfu/mL))」を、薬剤効果の指標として用いることができると考えた。
【0131】
このように、薬剤効果を判定するためのFree300秒値(mg/L-Cl2)という新たな概念を用いることで、本実施形態では、膜分離装置を備える水系又は膜分離処理工程に用いる、結合塩素系酸化剤、又は結合塩素系酸化剤を含む被処理水の薬剤効果、具体的にはバイオファウリング抑制効果などを高めることができた。これにより、水系をより長期間運転することもできる。
また、本実施形態のFree300秒値(mg/L-Cl2)を用いることで、膜分離装置を備える水系又は膜分離工程における添加する薬剤の殺菌力などの薬剤効果の状況をより正確に把握できる。被処理水中の全塩素濃度を薬剤効果の指標としていた従来の技術ではバイオファウリングが発生する場合があったため、薬剤を過剰に添加してバイオファウリングを抑制していたが、本実施形態のFree300秒値(mg/L-Cl2)を用いることで、過剰添加を抑制することができ、薬剤の浪費を減らすことができる。
【符号の説明】
【0132】
1 水系;2 逆浸透膜装置;3 保安フィルター;4固液分離装置;5凝縮装置;10 薬剤添加装置