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特許7243783含フッ素エーテル組成物、コーティング液および物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】含フッ素エーテル組成物、コーティング液および物品
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/00 20060101AFI20230314BHJP
   C08L 73/00 20060101ALI20230314BHJP
   C08G 65/00 20060101ALI20230314BHJP
   C08G 65/22 20060101ALI20230314BHJP
   C08G 65/336 20060101ALI20230314BHJP
   C08G 67/00 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
C08L71/00 Z
C08L73/00
C08G65/00
C08G65/22
C08G65/336
C08G67/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021167508
(22)【出願日】2021-10-12
(62)【分割の表示】P 2019203296の分割
【原出願日】2018-03-01
(65)【公開番号】P2022001653
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2021-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2017050558
(32)【優先日】2017-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 泰輝
(72)【発明者】
【氏名】小林 大介
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/008380(WO,A1)
【文献】特許第6617853(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素エーテル化合物(A)と含フッ素エーテル化合物(B)(但し、下記式(A)で表される化合物を除く)とを含み、
前記含フッ素エーテル化合物(A)が、(CFO)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖および2個以上の下式(I)で表される基を有する化合物であり、
前記含フッ素エーテル化合物(B)が、(CFO)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖および2個以上の前記式(I)で表される基を有する化合物であることを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
-SiR3-n ・・・(I)
ただし、Lは水酸基または加水分解性基であり、
Rは水素原子または1価の炭化水素基であり、
nは0~2の整数であり、
nが0または1のとき(3-n)個のLは、同一であっても異なっていてもよく、
nが2のときn個のRは、同一であっても異なっていてもよく、
前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)それぞれが有する前記式(I)で表される基は同一であっても異なっていてもよい。
F1 O(CF CF O) CF -(Q) (-(CH -SiL 3-p (A)。
ただし、式(A)中の記号は以下の意味を示す。
F1 :炭素数1~20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基、または、炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数2~20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基でありかつ-OCF O-構造が存在しない基。
a:1~200の整数。
b:0または1。
Q:bが0である場合にはQは存在せず、bが1である場合にはQは2~3価の連結基。
c:Qが存在しないまたはQが2価の連結基である場合のcは1、Qが3価の連結基である場合のcは2。
d:2~6の整数。
L:加水分解性基。
R:水素原子または1価炭化水素基。
p:1~3の整数。
【請求項2】
前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)とが、いずれも、下式(A/B)で表される含フッ素エーテル化合物であって、
前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるRが、(CFO)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、
前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるRが、(CFO)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖である、請求項1に記載の含フッ素エーテル組成物。
[Rf1-O-Q-R-]Z[-SiR3-n ・・・(A/B)
ただし、Rf1は、ペルフルオロアルキル基であり、
Qは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該ポリオキシフルオロアルキレン基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、
は、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、
Zは、(r+s)価の連結基であり、
-SiR3-nは、前記式(I)で表される基であり、
rが2以上の場合は、r個の[Rf1-O-Q-R-]は同一の基であり、
s個の式(I)で表される基は同一の基であり、
rは1以上の整数であり、sは2以上の整数であり、r+sは3~8である。
【請求項3】
前記(CFO)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖が、(CFO)単位と(CFCFO)単位とを含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖である、請求項1または2に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項4】
前記(CFO)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖が、(CFCFO)単位、(CFCFCFO)単位および(CFCFCFCFO)単位から選ばれる少なくとも1種を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖である、請求項1~3のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項5】
前記(CFO)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖が、(CFCFOCFCFCFCFO)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖である、請求項1~4のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項6】
前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)の少なくとも一方が、前記式(I)で表される基を3個以上有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項7】
下式(A1)で表される含フッ素エーテル化合物(A1)と下式(B1)で表される含フッ素エーテル化合物(B1)とを含むことを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
[Rf1a-O-Q-Rfa-]ra[-SiR na 3-nasa・・・(A1)
[Rf1b-O-Q-Rfb-]rb[-SiR nb 3-nbsb・・・(B1)
ただし、Rf1aおよびRf1bは、ペルフルオロアルキル基であり、
およびQは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該ポリオキシフルオロアルキレン基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、
faは、(CFO)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、
fbは、(CFO)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、
は、(ra+sa)価の連結基であり、
は、(rb+sb)価の連結基であり、
およびLは、水酸基または加水分解性基であり、
およびRは、水素原子または1価の炭化水素基であり、
naおよびnbは、0~2の整数であり、
naが0または1のときの(3-na)個のL、nbが0または1のときの(3-nb)個のLはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
naが2のときna個のR、nbが2のときnb個のRはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
raおよびrbは、1以上の整数であり、raが2以上のときra個の[Rf1a-O-Q-Rfa-]は、同一であっても異なっていてもよく、rbが2以上のときrb個の[Rf1b-O-Q-Rfb-]は、同一であっても異なっていてもよく、
saおよびsbは、2以上の整数であり、sa個の[-SiR na 3-na]は、同一であっても異なっていてもよく、sb個の[-SiR nb 3-nb]は、同一であっても異なっていてもよい。
【請求項8】
前記含フッ素エーテル化合物(A1)と前記含フッ素エーテル化合物(B1)の合計に対し、前記含フッ素エーテル化合物(A1)を10~80質量%含む、請求項7に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物と、液状媒体とを含むことを特徴とするコーティング液。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を有することを特徴とする物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エーテル組成物、コーティング液および物品に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素化合物は、高い潤滑性、撥水撥油性等を示すことから、表面処理剤等に用いられる。たとえば該表面処理剤によって基材の表面に表面層を形成すると、潤滑性、撥水撥油性等が付与され、基材の表面の汚れを拭き取りやすくなり、汚れの除去性が向上する。含フッ素化合物の中でも、ペルフルオロアルキル鎖の途中にエーテル結合(-O-)が存在するポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有する含フッ素エーテル化合物は、油脂等の汚れの除去性に優れる。
【0003】
含フッ素エーテル化合物として、加水分解性シリル基を有するものが提案されている。このような含フッ素エーテル化合物は、指で繰り返し摩擦されても撥水撥油性が低下しにくい性能(耐摩擦性)および拭き取りによって表面に付着した指紋を容易に除去できる性能(指紋汚れ除去性)が長期間維持されることが求められる用途、たとえば、タッチパネルの、指で触れる面を構成する部材の表面処理剤に用いられる。
【0004】
潤滑性を高めるために、加水分解性シリル基を有する含フッ素エーテル化合物に対し、含フッ素オイル、すなわち加水分解性シリル基を有しない非反応性の含フッ素エーテル化合物を配合した含フッ素エーテル組成物が提案されている(たとえば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-65884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者によれば、上記のような含フッ素エーテル組成物によって形成される表面層は、指等による摩擦が繰り返されたときに潤滑性、撥水撥油性等の性能が低下しやすい(耐久性が低い)ことが分かった。そのため、潤滑性および耐久性の両特性を高いレベルで両立することが難しい。
【0007】
本発明は、潤滑性および耐久性に優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル組成物およびコーティング液、ならびに潤滑性および耐久性に優れる表面層を有する物品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の[1]~[15]の構成を有する、含フッ素エーテル組成物、コーティング液および物品を提供する。
[1]含フッ素エーテル化合物(A)と含フッ素エーテル化合物(B)とを含み、
前記含フッ素エーテル化合物(A)が、(CFO)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖および下式(I)で表される基を有する化合物であり、
前記含フッ素エーテル化合物(B)が、(CFO)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖および前記式(I)で表される基を有する化合物であることを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
-SiR3-n ・・・(I)
ただし、Lは水酸基または加水分解性基であり、
Rは水素原子または1価の炭化水素基であり、
nは0~2の整数であり、
nが0または1のとき(3-n)個のLは、同一であっても異なっていてもよく、
nが2のときn個のRは、同一であっても異なっていてもよく、
前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)それぞれが有する前記式(I)で表される基は同一であっても異なっていてもよい。
【0009】
[2]前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)とが、いずれも、下式(A/B)で表される含フッ素エーテル化合物であって、
前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるRが、(CFO)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、
前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるRが、(CFO)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖である、[1]の含フッ素エーテル組成物。
[Rf1-O-Q-R-]Z[-SiR3-n ・・・(A/B)
ただし、Rf1は、ペルフルオロアルキル基であり、
Qは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該ポリオキシフルオロアルキレン基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、
は、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、
Zは、(r+s)価の連結基であり、
-SiR3-nは、前記式(I)で表される基であり、
rが2以上の場合は、r個の[Rf1-O-Q-R-]は同一の基であり、
sが2以上の場合は、s個の式(I)で表される基は同一の基であり、
rおよびsは、それぞれ、1以上の整数であって、r+sは3~8である。
【0010】
[3]前記(CFO)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖が、(CFO)単位と(CFCFO)単位とを含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖である、[1]または[2]の含フッ素エーテル組成物。
[4]前記(CFO)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖が、(CFCFO)単位、(CFCFCFO)単位および(CFCFCFCFO)単位から選ばれる少なくとも1種を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖である、[1]~[3]のいずれかの含フッ素エーテル組成物。
[5]前記(CFO)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖が、(CFCFOCFCFCFCFO)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖である、[1]~[4]のいずれかの含フッ素エーテル組成物。
[6]前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)の少なくとも一方が、前記式(I)で表される基を3個以上有する、[1]~[5]のいずれかの含フッ素エーテル組成物。
[7]前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)の両方が、前記式(I)で表される基を2個以上有する、[1]~[5]のいずれかの含フッ素エーテル組成物。
[8]前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)の両方が、前記式(I)で表される基を3個以上有する、[1]~[5]のいずれかの含フッ素エーテル組成物。
[9]前記含フッ素エーテル化合物(A)の数平均分子量が2,000~20,000である、[1]~[8]のいずれかの含フッ素エーテル組成物。
[10]前記含フッ素エーテル化合物(B)の数平均分子量が2,000~20,000である、[1]~[9]のいずれかの含フッ素エーテル組成物。
[11]前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)の合計に対し、前記含フッ素エーテル化合物(A)を10~80質量%含む、[1]~[10]のいずれかの含フッ素エーテル組成物。
【0011】
[12]下式(A1)で表される含フッ素エーテル化合物(A1)と下式(B1)で表される含フッ素エーテル化合物(B1)とを含むことを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
[Rf1a-O-Q-Rfa-]ra[-SiR na 3-nasa ・・・(A1)
[Rf1b-O-Q-Rfb-]rb[-SiR nb 3-nbsb ・・・(B1)
ただし、Rf1aおよびRf1bは、ペルフルオロアルキル基であり、
およびQは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該ポリオキシフルオロアルキレン基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、
faは、(CFO)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、
fbは、(CFO)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、
は、(ra+sa)価の連結基であり、
は、(rb+sb)価の連結基であり、
およびLは、水酸基または加水分解性基であり、
およびRは、水素原子または1価の炭化水素基であり、
naおよびnbは、0~2の整数であり、
naが0または1のときの(3-na)個のL、nbが0または1のときの(3-nb)個のLはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
naが2のときna個のR、nbが2のときnb個のRはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
raおよびrbは、1以上の整数であり、raが2以上のときra個の[Rf1a-O-Q-Rfa-]は、同一であっても異なっていてもよく、rbが2以上のときrb個の[Rf1b-O-Q-Rfb-]は、同一であっても異なっていてもよく、
saおよびsbは、1以上の整数であり、saが2以上のときsa個の[-SiR na 3-na]は、同一であっても異なっていてもよく、sbが2以上のときsb個の[-SiR nb 3-nb]は、同一であっても異なっていてもよい。
[13]前記含フッ素エーテル化合物(A1)と前記含フッ素エーテル化合物(B1)の合計に対し、前記含フッ素エーテル化合物(A1)を10~80質量%含む、[12]の含フッ素エーテル組成物。
[14]前記[1]~[13]のいずれかの含フッ素エーテル組成物と、液状媒体とを含むことを特徴とするコーティング液。
[15]前記[1]~[13]のいずれかの含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を有することを特徴とする物品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の含フッ素エーテル組成物およびコーティング液によれば、潤滑性および耐久性に優れる表面層を形成できる。
本発明の物品は、潤滑性および耐久性に優れる表面層を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
本明細書における以下の用語の意味は、以下の通りである。
「加水分解性シリル基」とは、加水分解反応することによってシラノール基(Si-OH)を形成し得る基を意味する。たとえば、式(I)中のLが加水分解性基である基である。
オキシペルフルオロアルキレン基の化学式は、その酸素原子をペルフルオロアルキレン基の右側に記載して表すものとする。
「表面層」とは、基材の表面に形成される層を意味する。
コーティング液を塗布して「乾燥する」とは、コーティング液を基材に塗布して該基材上にコーティング液の塗膜を形成した後、該塗膜から液状媒体を蒸発除去することをいう。
【0014】
〔含フッ素エーテル組成物〕
本発明の含フッ素エーテル組成物(以下、本組成物とも記す。)は、含フッ素エーテル化合物(A)(以下、化合物(A)とも記す。)と、含フッ素エーテル化合物(B)(以下、化合物(B)とも記す。)とを含む。本組成物は、後述するように液状媒体は含まない。本組成物は、化合物(A)および化合物(B)からなるものでもよく、後述するように化合物(A)および化合物(B)以外の他の含フッ素エーテル化合物や、化合物(A)、化合物(B)および他の含フッ素エーテル化合物以外の不純物を含んでいてもよい。
化合物(A)は、(CFO)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖(以下、A鎖とも記す。)、および基(I)を有する。
化合物(B)は、(CFO)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖(以下、B鎖とも記す。)、および基(I)を有する。化合物(B)は、A鎖を有しない。
-SiR3-n ・・・(I)
ただし、Lは水酸基または加水分解性基であり、
Rは水素原子または1価の炭化水素基であり、
nは0~2の整数であり、
nが0または1のとき(3-n)個のLは、同一であっても異なっていてもよく、
nが2のときn個のRは、同一であっても異なっていてもよく、
化合物(A)および化合物(B)それぞれが有する基(I)は、同一であっても異なっていてもよい。
【0015】
化合物(A)、化合物(B)はそれぞれ、基(II)をさらに有することができる。化合物(A)および化合物(B)の両方が基(II)を有する場合、それぞれが有する基(II)は、同一であっても異なっていてもよい。
f1-O-Q- ・・・(II)
ただし、
f1は、ペルフルオロアルキル基であり、
Qは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基である。該ポリオキシフルオロアルキレン基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよい。
【0016】
(A鎖)
A鎖としては、下式(a1)で表される、(CFO)単位と(Rf2O)単位とを含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖が挙げられる。
{(CFO)m1(Rf2O)m2} ・・・(a1)
ただし、Rf2は炭素数2以上のペルフルオロアルキレン基であり、
m1は1以上の整数であり、m2は0以上の整数であり、かつ(m1+m2)は2~200の整数であり、
m2が1以上のときm1個のCFOおよびm2個のRf2Oの結合順序は限定されず、
m2が2以上のとき(Rf2O)m2は炭素数の異なる2種以上のRf2Oからなるものであってもよい。
【0017】
f2は、分岐状でも直鎖状でもよく、表面層の潤滑性がさらに優れる点から、直鎖状が好ましい。
f2の炭素数は、表面層の耐久性および潤滑性がさらに優れる点から、2~6が好ましく、2~4がより好ましく、表面層の潤滑性がさらに優れる点から、2が特に好ましい。
【0018】
(m1+m2)は、2~200の整数である。したがって、m1が1の場合のm2の最小値は1であり、少なくとも1個の(Rf2O)が存在する。m1が2以上の場合のm2の最小値は0であり、(Rf2O)は存在してもよく存在しなくてもよい。(m1+m2)は、10~150の整数が好ましく、20~100の整数が特に好ましい。(m1+m2)が前記範囲の下限値以上であれば、表面層の潤滑性に優れる。(m1+m2)が前記範囲の上限値以下であれば、表面層の耐久性に優れる。すなわち、化合物(A)の数平均分子量が大きすぎると、単位分子量あたりに存在する基(I)の数が減少し、耐久性が低下する。
【0019】
m1とm2との比(m1/m2)は、100/0~30/70が好ましく、90/10~40/60が特に好ましい。前記の範囲内でm1の割合が高いほど、表面層の潤滑性に優れる傾向がある。
【0020】
(CFO)m1(Rf2O)m2において、m2が1以上のとき、つまり炭素数の異なる2種以上のオキシペルフルオロアルキレン基が存在するとき、各オキシペルフルオロアルキレン基(m1個のCFOおよびm2個のRf2O)の結合順序は限定されない。たとえば、各オキシペルフルオロアルキレン基がランダム、交互、ブロックのいずれに配置されてもよい。特に、(CFO)単位と(Rf2O)単位とはランダムに配置されていることが好ましい。
m2が2以上のとき、(Rf2O)m2は炭素数の異なる2種以上のRf2Oからなるものであってもよい。また、m2個のRf2Oの結合順序は限定されない。
【0021】
A鎖の具体的な態様として、以下の(a2)~(a6)等が挙げられる。
(CFO)m01 ・・・(a2)
{(CFO)m11(CFCFO)m12} ・・・(a3)
{(CFO)m11(CFCFCFO)m12} ・・・(a4)
{(CFO)m11(CFCFCFCFO)m12} ・・・(a5)
{(CFO)m11(CF(CF)CFO)m12} ・・・(a6)
ただし、m01は2~200の整数であり、m11は1以上の整数であり、m12は1以上の整数であり、(m11+m12)は2~200の整数である。
m01、(m11+m12)それぞれの好ましい範囲は(m1+m2)と同様である。
m11とm12との比(m11/m12)は、99/1~30/70が好ましく、90/10~40/60が特に好ましい。
上記のなかでも、(a3)~(a5)が好ましく、(a3)が特に好ましい。
A鎖は、(CFO)単位と(CFCFO)単位とを含む上記(a3)であることが好ましく、(CFO)単位と(CFCFO)単位とがランダムに配置された上記(a3)であることが特に好ましい。
【0022】
(B鎖)
B鎖としては、下式(b1)で表される、少なくとも1種の(Rf3O)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖が挙げられる。
(Rf3O)m3 ・・・(b1)
ただし、Rf3は炭素数2以上のペルフルオロアルキレン基であり、
m3は2~200の整数であり、
(Rf3O)m3は炭素数の異なる2種以上のRf2Oからなるものであってもよく、
(Rf3O)m3が炭素数の異なる2種以上のRf2Oからなるとき各Rf2Oの結合順序は限定されない。
【0023】
f3は、分岐状でも直鎖状でもよく、表面層の潤滑性がさらに優れる点から、直鎖状が好ましい。
f3の炭素数は、表面層の耐久性および潤滑性がさらに優れる点から、2~6が好ましい。
【0024】
m3は2~200の整数であり、10~150の整数が好ましく、15~100の整数が特に好ましい。m3が前記範囲の下限値以上であれば、表面層の潤滑性に優れる。m3が前記範囲の上限値以下であれば、表面層の耐久性に優れる。すなわち、化合物(B)の数平均分子量が大きすぎると、単位分子量あたりに存在する基(I)の数が減少し、耐久性が低下する。
【0025】
(Rf3O)m3は炭素数の異なる2種以上のRf2Oからなるとき、各Rf3Oの結合順序は限定されない。たとえば、各Rf3Oがランダム、交互、ブロックのいずれに配置されてもよい。
【0026】
(Rf3O)m3が炭素数の異なる2種以上のRf2Oからなる場合のB鎖としては、下式(b2)で表されるものが好ましい。
{(CFCFO)m4(Rf4O)m5} ・・・(b2)
ただし、Rf4は、炭素数3~6のペルフルオロアルキレン基であり、
m4は、1以上の整数であり、
m5は、1以上の整数であり、
(m4+m5)は、2~200の整数であり、
m4個のCFCFOおよびm5個のRf4Oの結合順序は限定されない。
【0027】
f4としては、CFCFCFCFが好ましい。
(m4+m5)の好ましい範囲はm3と同様である。
m4とm5との比(m4/m5)は、90/10~10/90が好ましく、70/30~30/70が特に好ましい。前記の範囲内でm4の割合が高いほど、潤滑性に優れる傾向がある。前記の範囲内でm5の割合が高いほど、耐久性に優れる傾向がある。
【0028】
{(CFCFO)m4(Rf4O)m5}の好ましい一態様として、{(CFCFO)m41-(Rf4O)m51m6が挙げられる。ただし、m41は1~3の整数であり、m51は1~3の整数であり、m6は1以上の整数であり、(m41+m51)×m6は2~200の整数である。このポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖は、(CFCFO)の1~3個からなる単位と(Rf3O)の1~3個からなる単位とが直列に連結した単位の1個以上からなるものである。(m41+m51)×m6の好ましい範囲は、(m4+m5)と同様である。m41およびm51は、それぞれ1であることが好ましい。
なお、{(CFCFO)m41-(Rf4O)m51m6は、{(CFCFO)m41-(Rf4O)m51}を単位とするポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖とみなすこともでき、(CFCFO)m41単位と(Rf4O)m51単位とが交互に配列したポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖とみなすこともできる。
【0029】
B鎖は、(CFCFO)単位、(CFCFCFO)単位および(CFCFCFCFO)単位から選ばれる少なくとも1種を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であることが好ましい。特に、(CFCFOCFCFCFCFO)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であることが好ましい。
好ましいB鎖の具体的な態様として、以下の(b3)~(b5)等が挙げられる。
(CFCFO)m13 ・・・(b3)
(CFCFCFO)m14 ・・・(b4)
(CFCFO-CFCFCFCFO)m15 ・・・(b5)
ただし、m13およびm14はそれぞれ2~200の整数であり、m15は1~100の整数である。
(b5)は、(CFCFOCFCFCFCFO)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、またこのポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖は、(CFCFO)単位と(CFCFCFCFO)単位とが交互に結合してなるポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖とみなすこともできる。
【0030】
(基(I))
基(I)において、Lは、水酸基または加水分解性基である。
加水分解性基は、加水分解反応によって水酸基となる基である。すなわち、Lが加水分解性基である場合、基(I)のSi-Lは、加水分解反応によってシラノール基(Si-OH)となる。
加水分解性基としては、アルコキシ基、ハロゲン原子、アシル基、イソシアナート基(-NCO)等が挙げられる。アルコキシ基の炭素数は、1~4が好ましい。アシル基の炭素数は、2~5が好ましい。
【0031】
Lは、化合物(A)の製造のしやすさの点から、炭素数1~4のアルコキシ基であるか、またはハロゲン原子であることが好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子が特に好ましい。Lとしては、塗布時のアウトガスが少なく、化合物(A)の保存安定性に優れる点から、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、化合物(A)の長期の保存安定性が必要な場合にはエトキシ基が特に好ましく、塗布後の反応時間を短時間とする場合にはメトキシ基が特に好ましい。
【0032】
Rは水素原子または1価の炭化水素基である。
1価の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基等の飽和炭化水素基、アルケニル基、アリル基等が挙げられ、飽和炭化水素基が好ましい。
1価の炭化水素基の炭素数は、化合物(A)が製造しやすい点で、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が特に好ましい。
【0033】
nは、0または1が好ましく、0が特に好ましい。1個の基(I)にLが複数存在することによって、基材との接着性がより強固になり、表面層の耐久性がさらに優れる。
nが0または1のとき(3-n)個のLは、同一であっても異なっていてもよい。たとえば一部のLが加水分解性基で、残りのLが水酸基であってもよい。
【0034】
基(I)としては、Si(OCH、SiCH(OCH、Si(OCHCH、SiCl、Si(OCOCH、およびSi(NCO)が好ましい。工業的な製造における取扱いやすさの点から、Si(OCHが特に好ましい。
【0035】
(基(II))
基(II)において、Rf1はペルフルオロアルキル基である。
f1におけるペルフルオロアルキル基の炭素数は、表面層の潤滑性および耐久性がさらに優れる点から、1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~6がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。
ペルフルオロアルキル基は分岐状でも直鎖状でもよく、直鎖状が好ましい。直鎖状のペルフルオロアルキル基として、たとえばCF-、CFCF-、CFCFCF-等が挙げられる。
【0036】
Qは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個(好ましくは2~4個)が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基である。ポリオキシフルオロアルキレン基において複数のオキシフルオロアルキレン基は、通常、直列に結合している。
Qが水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であると、化合物(A)および化合物(B)の液状媒体への溶解性が高くなる。そのため、コーティング液中で化合物(A)および化合物(B)が凝集しにくく、また、基材の表面に塗布した後、乾燥させる途中に化合物(A)および化合物(B)が凝集しにくいため、表面層の外観にさらに優れる。
オキシフルオロアルキレン基の炭素数は、1~6が好ましく、2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましく、2または3が特に好ましい。
オキシフルオロアルキレン基における水素原子の数は、表面層の外観に優れる点から、1個以上であり、2個以上が好ましく、3個以上が特に好ましい。オキシフルオロアルキレン基における水素原子の数は、表面層の撥水撥油性にさらに優れる点から、(Qの炭素数)×2個以下が好ましく、(Qの炭素数)個以下が特に好ましい。
オキシフルオロアルキレン基は、分岐状でも直鎖状でもよく、表面層の潤滑性がさらに優れる点から、直鎖状が好ましい。
ポリオキシフルオロアルキレン基において、2~5個のオキシフルオロアルキレン基は、全てが同一であっても異なっていてよい。
Qは、化合物(A)および化合物(B)の製造のしやすさの点から、単結合であるか、または-CHFCFOCHCFO-、-CFCHFCFOCHCFO-、-CFCFCHFCFOCHCFO-、-CFCFOCHFCFOCHCFO-、-CFCFOCFCFOCHFCFOCHCFO-、-CFCHOCHCFO-、および-CFCFOCFCHOCHCFO-からなる群から選ばれる基(ただし、左側がRf1-Oに結合する。)であることが好ましい。
【0037】
化合物(A)が有するA鎖、化合物(B)が有するB鎖はそれぞれ1個でもよく2個以上でもよい。製造の容易さと取扱いの容易さの点から、1~3個が好ましい。
化合物(A)がA鎖を2個以上有する場合、各A鎖は同一であっても異なっていてもよい。化合物(B)がB鎖を2個以上有する場合、各B鎖は同一であっても異なっていてもよい。
【0038】
化合物(A)、化合物(B)それぞれが有する基(I)は1個でもよく2個以上でもよい。基材との結合が増えることにより表面層の耐久性がより優れる点から、2個以上が好ましく、3個以上が特に好ましい。基材に結合する分子密度を高くすることにより表面層の耐久性がより優れる点から、10個以下が好ましく、5個以下がより好ましく、4個以下が特に好ましい。
したがって、化合物(A)、化合物(B)それぞれが有する基(I)は1~10個が好ましく、2~5個がより好ましく、3~4個が特に好ましい。
化合物(A)、化合物(B)が基(I)を2個以上有する場合、各基(I)は同一であっても異なっていてもよい。化合物(A)、化合物(B)の製造のしやすさの点では、全てが同一の基であることが好ましい。
【0039】
A鎖、B鎖の一方の末端には、基(II)が結合していることが好ましい。すなわち、化合物(A)は、A鎖の一方の末端に結合した基(II)をさらに有することが好ましい。化合物(B)は、B鎖の一方の末端に結合した基(II)をさらに有することが好ましい。これにより、表面層の潤滑性がさらに優れたものとなる。
【0040】
化合物(A)、化合物(B)それぞれの数平均分子量(Mn)は、2,000~20,000が好ましく、3,000~15,000がより好ましく、4,000~12,000が特に好ましい。化合物(A)、化合物(B)の数平均分子量が前記範囲の下限値以上であれば、表面層の潤滑性がさらに優れる。化合物(A)、化合物(B)の数平均分子量が前記範囲の下限値以上であれば、表面層の耐久性がさらに優れる。
数平均分子量(Mn)は、後述する実施例に記載の測定方法により測定される。
【0041】
化合物(A)、化合物(B)はそれぞれ、A鎖またはB鎖と基(I)とを有する限り特に限定されない。たとえば以下の文献に記載されるような公知の含フッ素エーテル化合物のなかから適宜選択できる。
特開2013-91047号公報、特開2014-80473号公報、国際公開第2013/042732号、国際公開第2013/042733号、国際公開第2013/121984号、国際公開第2013/121985号、国際公開第2013/121986号、国際公開第2014/163004号、国際公開第2014/175124号、国際公開第2015/087902号、特開2013-227279号公報、特開2013-241569号公報、特開2013-256643号公報、特開2014-15609号公報、特開2014-37548号公報、特開2014-65884号公報、特開2014-210258号公報、特開2014-218639号公報、特開2015-200884号公報、特開2015-221888号公報、国際公開第2013/146112号、国際公開第2013/187432号、国際公開第2014/069592号、国際公開第2015/099085号、国際公開第2015/166760号、特開2013-144726号公報、特開2014-77836号公報、特開2013-117012号公報、特開2014-214194号公報、特開2014-198822号公報、特開2015-129230号公報、特開2015-196723号公報、特開2015-13983号公報、特開2015-199915号公報、特開2015-199906号公報等。
【0042】
本組成物において、化合物(A)は、1種の化合物(A)からなる単一化合物であってもよく、2種以上の化合物(A)からなる混合物であってもよい。
本明細書において、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖におけるオキシペルフルオロアルキレン基の繰り返し数の数に分布を有する以外は同一の化合物群である含フッ素エーテル化合物は単一化合物とみなす。たとえばポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖が(CFO)m1(Rf2O)m2である化合物(A)の場合、m1とm2に分布を有する以外は同一の化合物群は、単一化合物である含フッ素エーテル化合物とする。
【0043】
(化合物(A)および化合物(B)の好ましい組み合わせ)
本組成物の好ましい一態様においては、化合物(A)および化合物(B)の少なくとも一方が、基(I)を3個以上、より好ましくは3~5個有する。少なくとも一方が基(I)を3個以上有していれば、表面層の耐久性がより優れる。
いずれか一方のみが基(I)を3個以上有する場合、他方が有する基(I)の数は1または2個であり、耐久性の点から、2個が好ましい。
【0044】
本組成物の好ましい他の一態様においては、化合物(A)および化合物(B)の両方が、基(I)を2個以上、より好ましくは3個以上、さらに好ましくは3~5個有する。両方が基(I)を2個以上有していれば、表面層の耐久性がより優れる。
【0045】
ドライコーティング法により表面層を形成する場合、化合物(A)の数平均分子量(Mn)と化合物(B)の数平均分子量(Mn)との差が少ないことが好ましい。ドライコーティング法の場合、分子量の小さいものほど先に蒸発して基材に蒸着される傾向がある。数平均分子量(Mn)の差が少ないほど、形成される表面層に化合物(A)および化合物(B)の分布のムラが生じにくい。
化合物(A)の数平均分子量(Mn)と化合物(B)の数平均分子量(Mn)との差は、3,000以下が好ましく、2,000以下が特に好ましい。
ウェットコーティング法により表面層を形成する場合は、化合物(A)の数平均分子量(Mn)と化合物(B)の数平均分子量(Mn)との間に差があっても、形成される表面層に化合物(A)および化合物(B)の分布のムラは生じにくいため、それらの差は特に限定されない。
【0046】
本組成物における化合物(A)と化合物(B)との好ましい組み合わせの例として、以下の組み合わせが挙げられる。
組み合わせ例1:A鎖を1個有し、基(I)を3つ有する化合物(A)と、B鎖を1個有し、基(I)を3つ有する化合物(B)との組み合わせ。
組み合わせ例2:A鎖を2個有し、基(I)を4つ有する化合物(A)と、B鎖を2個有し、基(I)を4つ有する化合物(B)との組み合わせ。
組み合わせ例3:A鎖を1個有し、基(I)を5つ有する化合物(A)と、B鎖を1個有し、基(I)を5つ有する化合物(B)との組み合わせ。
これら各組み合わせにおいて、化合物(A)は、A鎖の一方の末端に結合した基(II)を有することが好ましい。また、化合物(B)は、B鎖の一方の末端に結合した基(II)を有することが好ましい。
【0047】
化合物(A)と化合物(B)とは、いずれも、下式(A/B)で表される含フッ素エーテル化合物であることが好ましい。下式(A/B)において、化合物(A)のRは、(CFO)単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、化合物(B)のRは、(CFO)単位を含まないポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖である。
[Rf1-O-Q-R-]Z[-SiR3-n ・・・(A/B)
上記式(A/B)において、Rf1は前記Rf1であり、Qは前記Qであり、-SiR3-nは前記式(I)で表される基である。Zは(r+s)価の連結基である。rは1以上の整数であり、前記の化合物(A)および化合物(B)におけるポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖の数に相当する数である。sは1以上の整数であり、前記の化合物(A)および化合物(B)における基(I)の数に相当する数である。
前記のポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖の数および基(I)の数より、r+sは、2~13が好ましく、3~8がより好ましく、4~7が特に好ましい。(r+s)価の連結基であるZとしては、後述のZ、Zで表される基が挙げられる。
さらに、rが2以上の場合は、r個の[Rf1-O-Q-R-]は同一の基であることが好ましく、sが2以上の場合は、s個の式(I)で表される基は同一の基であることが好ましい。
【0048】
(好ましい態様)
本組成物の好ましい一態様として、化合物(A)が下式(A1)で表される含フッ素エーテル化合物(A1)(以下、化合物(A1)とも記す。)であり、化合物(B)が式(B1)で表される含フッ素エーテル化合物(B1)(以下、化合物(B1)とも記す。)である態様が挙げられる。すなわち、本態様の組成物は、化合物(A1)と化合物(B1)とを含む。
[Rf1a-O-Q-Rfa-]ra[-SiR na 3-nasa ・・・(A1)
[Rf1b-O-Q-Rfb-]rb[-SiR nb 3-nbsb ・・・(B1)
ただし、Rf1aおよびRf1bは、ペルフルオロアルキル基であり、
およびQは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該ポリオキシフルオロアルキレン基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、
faは、A鎖であり、
fbは、B鎖であり、
は、(ra+sa)価の連結基であり、
は、(rb+sb)価の連結基であり、
およびLは、水酸基または加水分解性基であり、
およびRは、水素原子または1価の炭化水素基であり、
naおよびnbは、0~2の整数であり、
naが0または1のときの(3-na)個のL、nbが0または1のときの(3-nb)個のLはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
naが2のときna個のR、nbが2のときnb個のRはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
raおよびrbは、1以上の整数であり、raが2以上のときra個の[Rf1a-O-Q-Rfa-]は、同一であっても異なっていてもよく、rbが2以上のときrb個の[Rf1b-O-Q-Rfb-]は、同一であっても異なっていてもよく、
saおよびsbは、1以上の整数であり、saが2以上のときsa個の[-SiR na 3-na]は、同一であっても異なっていてもよく、sbが2以上のときsb個の[-SiR nb 3-nb]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0049】
f1aおよびRf1bはそれぞれ前記基(II)中のRf1と同様であり、好ましい態様も同様である。
raが2以上のときra個のRf1aは、炭素数が同一であることが好ましく、製造しやすさの点から、同一の基、すなわち炭素数が同一かつ化学構造が同一の基であることが好ましい。炭素数が同一かつ化学構造が同一の基であるとは、たとえばraが2の場合に、2個のRf1aがCFCFCF-であるということである(2個のRfaの炭素数が同一であっても化学構造が異なる、CFCFCF-、CFCF(CF)-の組み合わせではない。)。
rbが2以上のときrb個のRf1bは、炭素数が同一であることが好ましく、製造しやすさの点から、同一の基、すなわち炭素数が同一かつ化学構造が同一の基であることが好ましい。
【0050】
およびQは前記基(II)中のQと同様であり、好ましい態様も同様である。
faのA鎖、RfbのB鎖はそれぞれ前記と同様であり、好ましい態様も同様である。
およびLは前記基(I)中のLと同様であり、好ましい態様も同様である。
およびRは前記基(I)中のRと同様であり、好ましい態様も同様である。
naおよびnbは前記基(I)中のnと同様であり、好ましい態様も同様である。
raおよびrbの好ましい値はそれぞれ、化合物(A)が有するA鎖、化合物(B)が有するB鎖それぞれの好ましい数と同様である。すなわち、raおよびrbはそれぞれ、1~3の整数が好ましい。
saおよびsbの好ましい値は、化合物(A)、化合物(B)それぞれが有する基(I)の好ましい数と同様である。すなわち、saおよびsbはそれぞれ、1~10の整数が好ましく、2~5の整数がより好ましく、3~4の整数が特に好ましい。
【0051】
としては、たとえば、(ra+sa)価の置換または無置換の炭化水素基、置換または無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間または/および末端に、炭化水素基以外の基または原子を有する(ra+sa)価の基、(ra+sa)価のオルガノポリシロキサン基等が挙げられる。
としては、価数が(rb+sb)価である以外はZと同様のものが挙げられる。
【0052】
無置換の炭化水素基としては、たとえば直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基、芳香族炭化水素環式基(たとえばベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族炭化水素環から(ra+sa)個または(rb+sb)個の水素原子を除いた基)、直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基と芳香族炭化水素環式基との組み合わせからなる基(たとえば前記芳香族炭化水素環式基に置換基としてアルキル基が結合した基、前記飽和炭化水素基の炭素原子間または/および末端にフェニレン基等のアリーレン基を有する基等)、2以上の芳香族炭化水素環式基の組み合わせからなる基等が挙げられる。これらの中でも直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基が好ましい。無置換の炭化水素基の炭素数は、20以下が好ましい。
置換の炭化水素基は、炭化水素基の水素原子の一部または全部が置換基で置換された基である。置換基としては、たとえば水酸基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、アミノカルボニル基等が挙げられる。
【0053】
炭化水素基の炭素-炭素原子間または/および末端に有する炭化水素基以外の基または原子としては、たとえばエーテル性酸素原子(-O-)、チオエーテル性硫黄原子(-S-)、窒素原子(-N<)、ケイ素原子(>Si<)、炭素原子(>C<)、-N(R15)-、-C(O)N(R15)-、-OC(O)N(R15)-、-Si(R16)(R17)-、オルガノポリシロキサン基、-C(O)-、-C(O)-O-、-C(O)-S-等が挙げられる。ただし、R15は水素原子、アルキル基またはフェニル基であり、R16~R17はそれぞれ独立にアルキル基またはフェニル基である。アルキル基の炭素数は、1~6が好ましい。
オルガノポリシロキサン基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよい。
【0054】
<化合物(A1)の好ましい形態>
化合物(A1)としては、表面層の耐摩擦性および指紋汚れ除去性にさらに優れる点から、以下の化合物(A11)、化合物(A12)および化合物(A13)からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0055】
「化合物(A11)」
化合物(A11)は、下式(A11)で表される。
f1a-O-Q-Rfa-Q32a-[C(O)N(R33a)]pa-R34a-C[-R35a-SiR na 3-na ・・・(A11)
ただし、Rf1a、Q、Rfa、R、Lおよびnaはそれぞれ前記と同義であり、
32aは、炭素数1~20のフルオロアルキレン基、または炭素数2~20のフルオロアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基(ただし、一端がエーテル性酸素原子に結合し他端がRfaと結合するフルオロアルキレン基がペルフルオロアルキレン基である場合を除く。)であり、
33aは、水素原子または炭素数1~6のアルキル基であり、
paは、0または1であり、
34aは、単結合、炭素数1~6のアルキレン基、該アルキレン基の末端(ただし、C[-R34a-SiRna3-naと結合する側の末端。)にエーテル性酸素原子を有する基、炭素数2~6のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基、または炭素数2~6のアルキレン基の末端(ただし、C[-R34a-SiRna3-naと結合する側の末端。)および炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、
35aは、炭素数1~6のアルキレン基、該アルキレン基の末端(ただし、Siと結合する側の末端を除く。)にエーテル性酸素原子を有する基、または炭素数2~6のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、
3個の[-R34a-SiRna3-na]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0056】
化合物(A11)は、上述の式(A1)において、raが1であり、saが3であり、Zが-Q32a-[C(O)N(R33a)]pa-R34a-C[-R35a-]の化合物である。
ただし、Rfa中の(CFO)の数は4個以上であって、かつQ32a中の(CFO)の数は0~3個であることが好ましい。
【0057】
32aにおいて、炭素数1~20のフルオロアルキレン基としては、ペルフルオロアルキレン基、および、1個以上の水素原子を含むフルオロアルキレン基が好ましい。フルオロアルキレン基は、表面層の耐摩擦性および潤滑性の点から、直鎖状が好ましい。
炭素数2~20のフルオロアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基としては、例えば、後述する(ii)の基が挙げられる。
32aとしては、炭素数1~20のペルフルオロアルキレン基、1個以上の水素原子を含む炭素数1~20のフルオロアルキレン基、および、1個以上の水素原子を含む炭素数2~20のフルオロアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基が好ましい。
【0058】
paが0で、Rfaが{(CFO)m11(CFCFO)m12}である場合、Q32aは、典型的には、炭素数1のペルフルオロアルキレン基である。
paが1の場合、Q32aとしては、下記の基が挙げられる。
(i)ペルフルオロアルキレン基。
(ii)RCHO(ただし、Rは、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基である。)をRfaと結合する側に有し、1個以上の水素原子を含むフルオロアルキレン基(炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよい。)をC(O)N(R33a)と結合する側に有する基。
【0059】
(ii)のQ32aとしては、表面層の耐久性および潤滑性、化合物(A11)の製造のしやすさの点から、下記の基が好ましい。
-RCHO-CFCHFOCFCFCF-、-RCHO-CFCHFCFOCFCF-、-RCHO-CFCHFCFOCFCFCF-、-RCHO-CFCHFOCFCFCFOCFCF-。
【0060】
[C(O)N(R33a)]pa基におけるpaが0と1の場合で、含フッ素エーテル化合物の特性はほとんど変わらない。paが1の場合にはアミド結合を有するが、Q32aの[C(O)N(R33a)]と結合する側の末端の炭素原子に少なくとも1個のフッ素原子が結合していることにより、アミド結合の極性は小さくなり、表面層の撥水撥油性が低下しにくい。paが0か1かは、製造のしやすさの点から選択できる。
[C(O)N(R33a)]pa基中のR33aとしては、化合物(A11)の製造のしやすさの点から、水素原子が好ましい。
33aがアルキル基の場合、アルキル基としては、炭素数1~4のアルキル基が好ましい。
【0061】
paが0の場合、R34aとしては、化合物(A11)の製造のしやすさの点から、単結合、-CHO-、-CHOCH-、-CHOCHCHO-および-CHOCHCHOCH-からなる群から選ばれる基(ただし、左側がQ32に結合する。)が好ましい。
paが1の場合、R34aとしては、化合物(A11)の製造のしやすさの点から、単結合、-CH-および-CHCH-からなる群から選ばれる基が好ましい。
【0062】
35aとしては、化合物(A11)の製造のしやすさの点から、-CHCH-、-CHCHCH-、-CHOCHCHCH-、-OCHCHCH-からなる群から選ばれる基(ただし、右側がSiに結合する。)が好ましい。
35aとしては、表面層の耐光性に優れる点から、エーテル性酸素原子を有しないものが特に好ましい。屋外使用のタッチパネル(自動販売機、案内板等のデジタルサイネージ)、車載タッチパネル等においては、撥水撥油層に耐光性が求められる。
化合物(A11)中の3つのR35aは、同一であっても異なっていてもよい。
【0063】
化合物(A11)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。該化合物は、工業的に製造しやすく、取扱いやすく、表面層の撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、潤滑性、外観にさらに優れる点から好ましい。
【0064】
【化1】
【0065】
ただし、これらの式中のWは、Rf1a-O-Q-Rfa-である。Wの好ましい形態は、上述した好ましいRf1a、QおよびRfaを組み合わせたものとなる。Q32aの好ましい範囲は上述した通りである。
【0066】
「化合物(A12)」
化合物(A12)は、下式(A12)で表される。
f1a-O-Q-Rfa-R42a-R43a-N[-R44a-SiR na 3-na ・・・(A12)
ただし、Rf1a、Q、Rfa、R、Lおよびnaはそれぞれ前記と同義であり、
42aは、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基であり、
43aは、単結合、炭素数1~6のアルキレン基、該アルキレン基の末端(ただし、Nと結合する側の末端を除く。)にエーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基、炭素数2~6のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基、または炭素数2~6のアルキレン基の末端(ただし、Nと結合する側の末端を除く。)および炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基であり、
44aは、炭素数1~6のアルキレン基、または炭素数2~6のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基であり、
2個の[-R44a-SiRna3-na]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0067】
化合物(A12)は、上述の式(A1)において、raが1であり、saが2であり、Zが-R42a-R43a-N[-R44a-]の化合物である。
【0068】
42aは、直鎖状のペルフルオロアルキレン基であることが好ましい。R42aが直鎖状のペルフルオロアルキレン基であれば、表面層の耐摩擦性および潤滑性がさらに優れる。
42aは、Rfaが{(CFO)m11(CFCFO)m12}である場合、典型的には、炭素数1のペルフルオロアルキレン基である。
【0069】
43aとしては、化合物(A12)の製造のしやすさの点から、-CH-、-CHCH-、-CHCHCH-、-CHOCHCH-および-CHNHCHCH-からなる群から選ばれる基(ただし、左側がR42aに結合する。)が好ましい。
43aは、極性が高くかつ耐薬品性や耐光性が不充分なエステル結合を有しないため、表面層の初期の撥水性、耐薬品性および耐光性に優れる。
【0070】
44aとしては、化合物(A12)の製造のしやすさの点から、-CHCHCH-および-CHCHOCHCHCH-(ただし、右側がSiに結合する。)が好ましい。
44aは、極性が高くかつ耐薬品性や耐光性が不充分なエステル結合を有しないため、表面層の初期の撥水性、耐薬品性および耐光性に優れる。
44aとしては、表面層の耐光性に優れる点からは、エーテル性酸素原子を有しないものが特に好ましい。
化合物(A12)中の2個のR44aは、同一であっても異なっていてもよい。
【0071】
化合物(A12)としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。該化合物は、工業的に製造しやすく、取扱いやすく、撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、潤滑性、耐薬品性および耐光性にさらに優れる点から好ましい。
【0072】
【化2】
【0073】
ただし、これらの式中のWは、Rf1a-O-Q-Rfa-である。Wの好ましい形態は、上述した好ましいRf1a、QおよびRfaを組み合わせたものとなる。R42aの好ましい範囲は上述した通りである。
【0074】
「化合物(A13)」
化合物(A13)は、下式(A13)で表される。
[Rf1a-O-Q-Rfa-R51a-R52a-O-]ea3a[-O-R53a-SiR na3-nafa ・・・(A13)
ただし、Rf1a、Q、Rfa、R、Lおよびnaはそれぞれ前記と同義であり、
51aは、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基であり、
52aは、炭素数1~6のアルキレン基であり、
3aは、(ea+fa)価の炭化水素基、または炭化水素基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を1個以上有する、炭素数2以上で(ea+fa)価の基であり、
53aは、炭素数1~20のアルキレン基であり、
eaは、1以上の整数であり、
faは、1以上の整数であり、
(ea+fa)は3以上であり、
eaが2以上のときea個の[Rf1a-O-Q-Rfa-R51a-R52a-O-]は、同一であっても異なっていてもよく、
faが2以上のときfa個の[-O-R53a-SiR na 3-na]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0075】
化合物(A13)は、上述の式(A1)において、raがeaであり、saがfaであり、Zが[-R51a-R52a-O-]ea3a[-O-R53a-]faの化合物である。
【0076】
eaは1~3の整数が好ましい。faは1~10の整数が好ましく、2~5の整数がより好ましく、3~4の整数が特に好ましい。
【0077】
51aは、たとえばRfaが{(CFO)m11(CFCFO)m12}である場合、-CF-である。
51aは直鎖状が好ましい。R51aが直鎖状である化合物(A13)であれば、耐摩擦性および潤滑性により優れる表面層を形成できる。
【0078】
52aとしては、化合物(A13)の製造のしやすさの点から、炭素数1~4のアルキレン基が好ましく、-CH-が特に好ましい。
【0079】
f1a-O-Q-Rfa-R51a-基としては、表面層の撥水撥油性、耐久性、指紋汚れ除去性、潤滑性、さらに外観にもさらに優れる点および化合物(A13)の製造のしやすさの点から、基(R-1)および基(R-2)が好ましい。
f11O{(CFO)m21(CFCFO)m22}CF- (R-1)
f11OCHFCFOCHCFO{(CFO)m21(CFCFO)m22}CF- (R-2)
ただし、Rf11は、炭素数1~20で直鎖状のペルフルオロアルキル基であり;m21およびm22は、それぞれ1以上の整数であり、m21+m22は、2~200の整数であり、m21個のCFOおよびm22個のCFCFOの結合順序は限定されない。
【0080】
3aとしては、(ea+fa)個の水酸基を有する多価アルコールから水酸基を除いた残基が挙げられる。
3aの具体例としては、たとえば、下式の基が挙げられる。Z3aとしては、水酸基の反応性に優れる点から、1級の水酸基を有する多価アルコールから水酸基を除いた残基が好ましく、原料の入手容易性の点から、基(Z-1)、基(Z-2)、および、基(Z-3)が特に好ましい。ただし、Rは、アルキル基であり、メチル基またはエチル基であることが好ましい。
【0081】
【化3】
【0082】
53aとしては、化合物(A13)の製造のしやすさの点から、炭素数3~14のアルキレン基が好ましい。さらに、後述する化合物(A13)の製造におけるヒドロシリル化の際に、アリル基(-CHCH=CH)の一部または全部がインナーオレフィン(-CH=CHCH)に異性化した副生物が生成しにくい点から、炭素数4~10のアルキレン基が特に好ましい。
【0083】
化合物(A13)としては、たとえば、下式の化合物(A13-1)~化合物(A13-6)が挙げられる。該化合物は、工業的に製造しやすく、取扱いやすく、表面層の撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、潤滑性、外観にさらに優れる点から好ましい。
【0084】
【化4】
【0085】
ただし、これらの式中のWは、Rf1a-O-Q-Rfa-である。Wの好ましい形態は、上述した好ましいRf1a、QおよびRfaを組み合わせたものとなる。R51aの好ましい形態は上述した通りである。
【0086】
<化合物(B1)の好ましい形態>
化合物(B1)としては、表面層の耐摩擦性および指紋汚れ除去性にさらに優れる点から、以下の化合物(B11)、化合物(B12)および化合物(B13)が好ましい。
【0087】
「化合物(B11)」
化合物(B11)は、下式(B11)で表される。
f1b-O-Q-Rfb-Q32b-[C(O)N(R33b)]pb-R34b-C[-R35b-SiRnb3-nb ・・・(B11)
ただし、Rf1b、Q、Rfb、R、Lおよびnbはそれぞれ前記と同義であり、
32bは、炭素数1~20のフルオロアルキレン基、または炭素数2~20のフルオロアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基(ただし、一端がエーテル性酸素原子に結合し他端がRfbと結合するフルオロアルキレン基がペルフルオロアルキレン基である場合を除く。)であり、
33bは、水素原子または炭素数1~6のアルキル基であり、
pbは、0または1であり、
34bは、単結合、炭素数1~6のアルキレン基、該アルキレン基の末端(ただし、C[-R34b-SiRnb3-nbと結合する側の末端。)にエーテル性酸素原子を有する基、炭素数2~6のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基、または炭素数2~6のアルキレン基の末端(ただし、C[-R34b-SiRnb3-nbと結合する側の末端。)および炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、
35bは、炭素数1~6のアルキレン基、該アルキレン基の末端(ただし、Siと結合する側の末端を除く。)にエーテル性酸素原子を有する基、または炭素数2~6のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、
3つの[-R34b-SiRnb3-nb]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0088】
化合物(B11)は、上述の式(B1)において、rbが1であり、sbが3であり、Zが-Q32b-[C(O)N(R33b)]pb-R34b-C[-R35b-]の化合物である。
【0089】
32bにおけるフルオロアルキレン基、フルオロアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基はそれぞれ、前記式(A11)中のQ32aにおけるフルオロアルキレン基、フルオロアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基と同様である。
32b中の(CFO)の数は0~3個であることが好ましい。
32bは、p1が0で、Rfbが(CFCFO)m13である場合、典型的には、炭素数1のペルフルオロアルキレン基である。p1が0で、Rfbが(CFCFCFO)m14である場合、典型的には、炭素数2のペルフルオロアルキレン基である。p1が0で、Rfbが(CFCFO-CFCFCFCFO)m15である場合、典型的には、炭素数3の直鎖のペルフルオロアルキレン基である。
33b、pb、R34b、R35bはそれぞれ、前記式(A11)におけるR33a、pa、R34a、R35aと同様であり、好ましい態様も同様である。
【0090】
「化合物(B12)」
化合物(B12)は、下式(B12)で表される。
f1b-O-Q-Rfb-R42b-R43b-N[-R44b-SiRnb3-nb ・・・(B12)
ただし、Rf1b、Q、Rfb、R、Lおよびnbはそれぞれ前記と同義であり、
42aは、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基であり、
43aは、単結合、炭素数1~6のアルキレン基、該アルキレン基の末端(ただし、Nと結合する側の末端を除く。)にエーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基、炭素数2~6のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基、または炭素数2~6のアルキレン基の末端(ただし、Nと結合する側の末端を除く。)および炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基であり、
44aは、炭素数1~6のアルキレン基、または炭素数2~6のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基であり、
2個の[-R44-SiR3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0091】
化合物(B12)は、上述の式(B1)において、rbが1であり、sbが2であり、Zが-R42b-R43b-N[-R44b-]の化合物である。
【0092】
42b、R43b、R44bはそれぞれ、前記式(A12)におけるR42a、R43a、R44aと同様である。
ただし、R42bは、Rfbが(CFCFO)m13である場合、典型的には、炭素数1のペルフルオロアルキレン基である。Rfbが(CFCFCFO)m14である場合、典型的には、炭素数2のペルフルオロアルキレン基である。Rfbが(CFCFO-CFCFCFCFO)m15である場合、典型的には、炭素数3の直鎖のペルフルオロアルキレン基である。
【0093】
「化合物(B13)」
化合物(B13)は、下式(B13)で表される。
[Rf1b-O-Q-Rfb-R51b-R52b-O-]eb3b[-O-R53b-SiR nb 3-nb ・・・(B13)
ただし、Rf1b、Q、Rfb、R、Lおよびnbはそれぞれ前記と同義であり、
51bは、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基であり、
52bは、炭素数1~6のアルキレン基であり、
3bは、(eb+fb)価の炭化水素基、または炭化水素基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を1個以上有する、炭素数2以上で(eb+fb)価の基であり、
53bは、炭素数1~20のアルキレン基であり、
ebは、1以上の整数であり、
fbは、1以上の整数であり、
(eb+fb)は3以上であり、
ebが2以上のときeb個の[Rf1b-O-Q-Rfb-R51b-R52b-O-]は、同一であっても異なっていてもよく、
fbが2以上のときfb個の[-O-R53b-SiR nb 3-nb]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0094】
化合物(B13)は、上述の式(B1)において、rbがebであり、sbがfbであり、Zが[-R51b-R52b-O-]eb3b[-O-R53b-]fbの化合物である。
【0095】
51b、R52b、Z3b、R53b、eb、fbはそれぞれ、前記式(A13)におけるR51a、R52a、Z3a、R53a、ea、faと同様である。
f1b-O-Q-Rfb-R51b-R52b-基としては、表面層の撥水撥油性、耐久性、指紋汚れ除去性、潤滑性、さらに外観にもさらに優れる点および化合物(B13)の製造のしやすさの点から、基(R-3)が好ましい。
f11O(CFCFOCFCFCFCFO)m25CFCFOCFCFCF- (R-3)
ただし、Rf11は、炭素数1~20で直鎖状のペルフルオロアルキル基であり;m25は、1~100の整数である。
【0096】
(他の含フッ素エーテル化合物)
本組成物は、化合物(A)および化合物(B)からなるものでもよく、化合物(A)および化合物(B)以外の他の含フッ素エーテル化合物をさらに含むものでもよい。
他の含フッ素エーテル化合物としては、たとえば、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有し、基(I)を有しない含フッ素エーテル化合物(以下、化合物(C)とも記す。)が挙げられる。該ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖は、A鎖であってもよくB鎖であってもよい。
【0097】
化合物(C)としては、たとえば化合物(C1)が挙げられる。
31-O-Q51-(RF3O)m30-[Q52-O]p3-A32 ・・・(C1)
ただし、A31およびA32は、それぞれ独立に炭素数1~20のペルフルオロアルキル基であり;Q51は、単結合、1個以上の水素原子を含む分岐構造を有しない炭素数1~6のフルオロアルキレン基、1個以上の水素原子を含む分岐構造を有しない炭素数1~6のフルオロアルキレン基の末端(ただし、A31-Oと結合する側の末端を除く。)にエーテル性酸素原子を有する基、1個以上の水素原子を含む分岐構造を有しない炭素数2~6のフルオロアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基、または1個以上の水素原子を含む分岐構造を有しない炭素数2~6のフルオロアルキレン基の末端(ただし、A31-Oと結合する側の末端を除く。)および炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり(ただし、酸素数は10以下である。);Q52は、1個以上の水素原子を含む分岐構造を有しない炭素数1~20のフルオロアルキレン基、または1個以上の水素原子を含む分岐構造を有しない炭素数2~6のフルオロアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり(ただし、酸素数は10以下である。);RF3は、分岐構造を有しない炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基であり;m30は、2~200の整数であり;(RF3O)m30は、炭素数の異なる2種以上のRF3Oからなるものであってもよく;p3は、Q51が単結合の場合は0であり、Q51が単結合以外の場合は1である。
【0098】
化合物(C1)は、公知の製造方法により製造したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。たとえば、Q51が単結合であり、p3が0である化合物(C1)の市販品としては、FOMBLIN(登録商標)M、FOMBLIN(登録商標)Y、FOMBLIN(登録商標)Z(以上、ソルベイソレクシス社製)、Krytox(登録商標)(デュポン社製)、デムナム(登録商標)(ダイキン工業社製)等が挙げられる。
【0099】
本組成物は、化合物(A)、化合物(B)および他の含フッ素エーテル化合物以外の不純物を含んでいてもよい。化合物(A)、化合物(B)および他の含フッ素エーテル化合物以外の不純物としては、化合物(A)、化合物(B)および他の含フッ素エーテル化合物の製造上不可避の化合物等が挙げられる。
【0100】
(本組成物の組成)
本組成物において、化合物(A)と化合物(B)の合計に対する化合物(A)の含有量(化合物(A)/[化合物(A)+化合物(B)]の質量割合)は、10~80質量%が好ましく、20~50質量%が特に好ましい。化合物(A)の含有量が前記範囲内で高いほど、表面層の潤滑性がより優れる。化合物(A)の含有量が前記範囲内で低いほど(すなわち、化合物(A)と化合物(B)の合計に対する化合物(B)の含有量が高いほど)、表面層の耐久性がより優れる。
【0101】
本組成物において、化合物(A)および化合物(B)の合計量は、本組成物の総質量に対し、50質量%以上が好ましく、80質量%以上が特に好ましい。上限は特に限定されず、100質量%であってもよい。
【0102】
〔コーティング液〕
本発明のコーティング液(以下、本コーティング液とも記す。)は、本組成物と液状媒体とを含む。本コーティング液は、液状であればよく、溶液であってもよく、分散液であってもよい。
本コーティング液は、本組成物を含んでいればよく、化合物(A)、化合物(B)等の製造工程で生成した副生成物等の不純物を含んでもよい。
本組成物の濃度は、本コーティング液中、0.001~50質量%が好ましく、0.05~30質量%がより好ましく、0.05~10質量%がさらに好ましく、0.1~1質量%が特に好ましい。
【0103】
液状媒体としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒は、フッ素系有機溶媒であってもよく、非フッ素系有機溶媒であってもよく、両溶媒を含んでもよい。
【0104】
フッ素系有機溶媒としては、フッ素化アルカン、フッ素化芳香族化合物、フルオロアルキルエーテル、フッ素化アルキルアミン、フルオロアルコール等が挙げられる。
フッ素化アルカンとしては、炭素数4~8の化合物が好ましい。市販品としては、たとえばC13H(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AC-2000)、C13(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AC-6000)、CCHFCHFCF(ケマーズ社製、バートレル(登録商標)XF)等が挙げられる。
フッ素化芳香族化合物としては、たとえばヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ペルフルオロトルエン、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等が挙げられる。
フルオロアルキルエーテルとしては、炭素数4~12の化合物が好ましい。市販品としては、たとえばCFCHOCFCFH(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AE-3000)、COCH(3M社製、ノベック(登録商標)7100)、COC(3M社製、ノベック(登録商標)7200)、CCF(OCH)C(3M社製、ノベック(登録商標)7300)等が挙げられる。
フッ素化アルキルアミンとしては、たとえばペルフルオロトリプロピルアミン、ペルフルオロトリブチルアミン等が挙げられる。
フルオロアルコールとしては、たとえば2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール等が挙げられる。
非フッ素系有機溶媒としては、水素原子および炭素原子のみからなる化合物と、水素原子、炭素原子および酸素原子のみからなる化合物が好ましく、炭化水素系有機溶媒、アルコール系有機溶媒、ケトン系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、エステル系有機溶媒が挙げられる。
本コーティング液は、液状媒体を50~99.999質量%含むことが好ましく、70~99.5質量%含むことがより好ましく、90~99.5質量%含むことがさらに好ましく、99~99.9質量%含むことが特に好ましい。
【0105】
本コーティング液は、本組成物および媒体の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、たとえば、加水分解性シリル基の加水分解と縮合反応を促進する酸触媒や塩基性触媒等の公知の添加剤が挙げられる。
本コーティング液における、その他の成分の含有量は、10質量%以下が好ましく、1質量%以下が特に好ましい。
【0106】
本コーティング液の固形分濃度は、0.001~50質量%が好ましく、0.05~30がより好ましく、0.05~10質量%がさらに好ましく、0.01~1質量%が特に好ましい。
コーティング液の固形分濃度は、加熱前のコーティング液の質量と、120℃の対流式乾燥機にて4時間加熱した後の質量とから算出する値である。
本組成物の濃度は、固形分濃度と、本組成物および溶媒等の仕込み量とから算出可能である。
【0107】
〔物品〕
本発明の物品は、本組成物から形成された表面層を基材の表面に有する。
【0108】
(表面層)
本組成物においては、化合物(A)および化合物(B)中の基(I)におけるLが加水分解性基である場合には、基(I)が加水分解反応することによってシラノール基(Si-OH)が形成され、該シラノール基は分子間で反応してSi-O-Si結合が形成され、または該シラノール基が基材の表面の水酸基(基材-OH)と脱水縮合反応して化学結合(基材-O-Si)が形成される。したがって、表面層は、化合物(A)および化合物(B)を、化合物(A)および化合物(B)それぞれの基(I)の一部または全部が加水分解反応した状態で含む。基(I)におけるLが水酸基である場合には、加水分解反応を経ずに上記反応が進む。
【0109】
表面層の厚さは、1~100nmが好ましく、1~50nmが特に好ましい。表面層の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、表面処理による効果が充分に得られやすい。表面層の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、利用効率が高い。表面層の厚さは、薄膜解析用X線回折計(RIGAKU社製、ATX-G)を用いて、X線反射率法によって反射X線の干渉パターンを得て、該干渉パターンの振動周期から算出できる。
【0110】
(基材)
本発明における基材は、潤滑性や撥水撥油性の付与が求められている基材であれば特に限定されない。基材の材料としては、金属、樹脂、ガラス、サファイア、セラミック、石、および、これらの複合材料が挙げられる。ガラスは化学強化されていてもよい。基材の表面にはSiO膜等の下地膜が形成されていてもよい。
基材としては、タッチパネル用基材、ディスプレイ用基材、およびメガネレンズが好適であり、タッチパネル用基材が特に好適である。タッチパネル用基材は、透光性を有する。「透光性を有する」とは、JIS R3106:1998(ISO 9050:1990)に準じた垂直入射型可視光透過率が25%以上であることを意味する。タッチパネル用基材の材料としては、ガラスおよび透明樹脂が好ましい。
【0111】
(物品の製造方法)
本発明の物品は、たとえば、下記の方法で製造できる。
・本組成物を用いたドライコーティング法によって基材の表面を処理して、本発明の物品を得る方法。
・ウェットコーティング法によって本コーティング液を基材の表面に塗布し、乾燥させて、本発明の物品を得る方法。
【0112】
<ドライコーティング法>
本組成物は、ドライコーティング法にそのまま用いることができる。本組成物は、ドライコーティング法によって密着性に優れた表面層を形成するのに好適である。
ドライコーティング法としては、真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法等が挙げられる。化合物(A)および化合物(B)の分解を抑える点、および装置の簡便さの点から、真空蒸着法が特に好ましい。真空蒸着時には、鉄や鋼等の金属多孔体に本組成物または本コーティング液を含浸させたペレット状物質を使用してもよい。
【0113】
真空蒸着の際の温度は、20~300℃が好ましく、30~200℃が特に好ましい。 真空蒸着の際の圧力は、1×10-1Pa以下が好ましく、1×10-2Pa以下が特に好ましい。
【0114】
<ウェットコーティング法>
ウェットコーティング法としては、スピンコート法、ワイプコート法、スプレーコート法、スキージーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、ロールコート法、キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、グラビアコート法等が挙げられる。
【0115】
<後処理>
表面層の耐摩擦性を向上させるために、必要に応じて、化合物(A)および化合物(B)と基材との反応を促進するための操作を行ってもよい。該操作としては、加熱、加湿、光照射等が挙げられる。
たとえば、水分を有する大気中で表面層が形成された基材を加熱して、加水分解性シリル基のシラノール基への加水分解反応、基材の表面の水酸基等とシラノール基との反応、シラノール基の縮合反応によるシロキサン結合の生成、等の反応を促進できる。
表面処理後、表面層中の化合物であって他の化合物や基材と化学結合していない化合物は、必要に応じて除去してもよい。具体的な方法としては、たとえば、表面層に溶媒をかけ流す方法、溶媒をしみ込ませた布でふき取る方法等が挙げられる。
【0116】
〔作用効果〕
本組成物および本コーティング液にあっては、化合物(A)および化合物(B)を含むため、潤滑性および耐久性に優れる表面層を形成できる。すなわち、本組成物または本コーティング液を用いて基材の表面に表面層が形成されることによって、優れた初期の潤滑性、撥水撥油性等の特性が付与されるとともに、該表面が繰り返し摩擦されてもそれらの特性が低下しにくい優れた耐久性が得られる。また、表面が繰り返し摩擦されても撥水撥油性が低下しにくいことから、基材の表面の指紋汚れを容易に除去できる性能(指紋汚れ除去性)が得られる。
化合物(A)は、A鎖に(CFO)単位を含むため、潤滑性に優れる。その一方で、(CFO)単位を含まない場合に比べて、耐久性に劣る。化合物(B)は、B鎖に(CFO)単位を含まないため、耐久性に優れる。その一方で、(CFO)単位を含む場合に比べて、潤滑性に劣る。これらを組み合わせたときに、それぞれの優れた特性が充分に維持され、優れた潤滑性および耐久性を両立できる。この理由としては、潤滑性が高い成分(化合物(A))により摩耗にかかる力を分散させ、耐久性の高い成分(化合物(B))の耐久性をさらに高めていることが考えられる。
【0117】
〔用途〕
したがって、このようにして得られる、表面層を有する基材は、タッチパネルを構成する部材として好適である。
ただし、本組成物、本コーティング液および物品の用途はタッチパネルに限定されるものではない。たとえば、タッチパネル以外の表示入力装置;透明なガラス製または透明なプラスチック製(アクリル、ポリカーボネート等)部材の表面保護コート、キッチン用防汚コート;電子機器、熱交換器、電池等の撥水防湿コートや防汚コート、トイレタリー用防汚コート;導通しながら撥液が必要な部材へのコート;熱交換機の撥水・防水・滑水コート;振動ふるいやシリンダ内部等の表面低摩擦コート等に用いることができる。
より具体的な使用例としては、ディスプレイの前面保護板、反射防止板、偏光板、アンチグレア板、あるいはそれらの表面に反射防止膜処理を施したもの、携帯電話、携帯情報端末等の機器のタッチパネルシートやタッチパネルディスプレイ等人の指あるいは手のひらで画面上の操作を行う表示入力装置を有する各種機器、トイレ、風呂、洗面所、キッチン等の水周りの装飾建材、配線板用防水コーティング熱交換機の撥水・防水コート、太陽電池の撥水コート、プリント配線板の防水・撥水コート、電子機器筐体や電子部品用の防水・撥水コート、送電線の絶縁性向上コート、各種フィルタの防水・撥水コート、電波吸収材や吸音材の防水性コート、風呂、厨房機器、トイレタリー用防汚コート、熱交換機の撥水・防水・滑水コート、振動ふるいやシリンダ内部等の表面低摩擦コート、機械部品、真空機器部品、ベアリング部品、自動車部品、工具等の表面保護コート等が挙げられる。
【実施例
【0118】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下、「%」は特に断りのない限り「質量%」である。
例1~5、7~11、13~17、19~23、25~29、42~49、52~59、61~65は実施例であり、例6、12、18、24、30~41、50~51、60、66~67は比較例である。
【0119】
〔物性および評価〕
(数平均分子量)
含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、H-NMRおよび19F-NMRによって、末端基を基準にしてオキシペルフルオロアルキレン基の数(平均値)を求めることによって算出した。末端基は、たとえば基(I)または基(II)である。
【0120】
(水接触角)
表面層の表面に置いた約2μLの蒸留水の接触角(水接触角)を、接触角測定装置(協和界面科学社製、DM-701)を用いて20℃で測定した。表面層の表面における異なる5箇所で測定を行い、その平均値を算出した。接触角の算出には2θ法を用いた。水接触角が大きいほど、撥水性に優れる。
【0121】
(潤滑性)
人工皮膚(出光テクノファイン社製、PBZ13001)に対する表面層の動摩擦係数を、荷重変動型摩擦摩耗試験システム(新東科学社製、HHS2000)を用い、接触面積:3cm×3cm、荷重:0.98Nの条件で測定した。動摩擦係数が小さいほど潤滑性に優れる。
【0122】
(耐久性1(接触角100°以上の維持回数))
表面層について、JIS L0849:2013(ISO 105-X12:2001)に準拠して往復式トラバース試験機(ケイエヌテー社製)を用い、スチールウールボンテスター(♯0000)を圧力:98.07kPa、速度:320cm/分で往復させた。千回往復させる毎に水接触角を測定して、水接触角100°以上が維持される上限の回数(接触角100°以上の維持回数)を求めた。この回数が多いほど、表面層が摩擦によって損なわれにくく、耐久性に優れる。
【0123】
(耐久性2(動摩擦係数の低下しにくさ))
前記<耐久性1>の条件で3千回スチールウールボンテスターを往復させた後、前記<潤滑性>と同条件で動摩擦係数を測定した。動摩擦係数の変化が小さいほど、最表面が摩擦によって損なわれにくく、耐久性に優れる。
【0124】
〔原料〕
(A-1):後述する製造例A-1で得た組成物(A-1)。
(A-2):後述する製造例A-2で得た組成物(A-2)。
(A-3):後述する製造例A-3で得た化合物(A-3)。
(A-4):後述する製造例A-4で得た化合物(A-4)。
(A-5):後述する製造例A-5で得た化合物(A-5)。
【0125】
(B-1):後述する製造例B-1で得た化合物(B-1)。
(B-2):後述する製造例B-2で得た組成物(B-2)。
(B-3):後述する製造例B-3で得た化合物(B-3)。
(B-4):後述する製造例B-4で得た化合物(B-4)。
(B-5):後述する製造例B-5で得た化合物(B-5)。
(B-6):東レ・ダウコーニング社製「2634コーティング」の溶媒を留去して使用した。CFCFCFO(CFCFCFO)21CFCFCHOCHCHCHSi(OCH
【0126】
(C-1):CFO{(CFO)r1(CFCFO)r2}CFで表される含フッ素エーテル化合物(r1/r2=20/21)(ソルベイソレクシス社製「FOMBLIN M03」)。
【0127】
前記(A-1)~(A-5)、(B-1)~(B-5)、(C-1)が有するポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖の繰り返し単位、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖の数(以下、PEPE数とも記す。)、基(I)の数および数平均分子量(Mn)を表1に示す。
なお、(A-1)~(A-5)および(C-1)における繰り返し単位「(CFO)(CFCFO)」は、(CFO)単位と(CFCFO)単位とがランダムに配置されたポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であることを表す。
【0128】
【表1】
【0129】
〔製造例A-1〕
300mLの3つ口フラスコに、24%KOH水溶液の24.4g、tert-ブチルアルコールの33g、化合物(1)(ソルベイソレクシス社製、FLUOROLINK(登録商標)D4000)の220gを入れ、CFCFCF-O-CF=CF(東京化成工業社製)の19.4gを加えた。窒素雰囲気下、60℃で8時間撹拌した。希塩酸水溶液で1回洗浄し、有機相を回収し、エバポレータで濃縮することによって、粗生成物の233gを得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィに展開して分取した。展開溶媒としては、C13CHCH(旭硝子社製、AC-6000)、AC-6000/CFCHOCFCFH(旭硝子社製、AE-3000)=1/2(質量比)、AE-3000/酢酸エチル=9/1(質量比)を順に用いた。各フラクションについて、末端基の構造および構成単位の単位数(x1、x2)の平均値をH-NMRおよび19F-NMRの積分値から求めた。粗生成物中には化合物(2)、化合物(3)および化合物(1)がそれぞれ、42モル%、49モル%および9モル%含まれていたことがわかった。化合物(2)の98.6g(収率:44.8%)および化合物(3)の51.9g(収率:23.6%)が得られた。
HO-CH-(CFO){(CFO)x1(CFCFO)x2}-CF-CH-OH ・・・(1)
CFCFCF-O-CHFCFOCH-(CFO){(CFO)x1(CFCFO)x2}-CF-CH-OH ・・・(2)
CFCFCF-O-CHFCFOCH-(CFO){(CFO)x1(CFCFO)x2}-CF-CHOCFCHF-O-CFCFCF ・・・(3)
化合物(2):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,150。
化合物(3):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,420。
【0130】
100mLのナスフラスコに、化合物(2)の30.0g、フッ化ナトリウム粉末の0.9g、ジクロロペンタフルオロプロパン(旭硝子社製、AK-225)の30gを入れ、CFCFCFOCF(CF)COFの3.5gを加えた。窒素雰囲気下、50℃で24時間撹拌した。加圧ろ過器でフッ化ナトリウム粉末を除去した後、過剰のCFCFCFOCF(CF)COFおよびAK-225を減圧留去した。得られた粗生成物をC13H(旭硝子社製、AC-2000)で希釈し、シリカゲルカラムに通し、回収した溶液をエバポレータで濃縮し、化合物(4)の31.8g(収率98.8%)を得た。
CFCFCF-O-CHFCFOCH-(CFO){(CFO)x1(CFCFO)x2}-CF-CH-OCOCF(CF)OCFCFCF ・・・(4)
化合物(4):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,460。
【0131】
1Lのニッケル製オートクレーブのガス出口に、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層および0℃に保持した冷却器を直列に設置した。0℃に保持した冷却器から凝集した液をオートクレーブに戻す液体返送ラインを設置した。
オートクレーブにClCFCFClCFOCFCFCl(以下、CFE-419とも記す。)の750gを入れ、25℃に保持しながら撹拌した。オートクレーブに窒素ガスを25℃で1時間吹き込んだ後、20%フッ素ガスを、25℃、流速2.0L/時間で1時間吹き込んだ。20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、オートクレーブに、化合物(4)の31.0gをCFE-419の124gに溶解した溶液を、4.3時間かけて注入した。20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、オートクレーブの内圧を0.15MPa(ゲージ圧)まで加圧した。オートクレーブ内に、CFE-419中に0.05g/mLのベンゼンを含むベンゼン溶液の4mLを、25℃から40℃にまで加熱しながら注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉めた。15分間撹拌した後、再びベンゼン溶液の4mLを、40℃を保持しながら注入し、注入口を閉めた。同様の操作をさらに3回繰り返した。ベンゼンの注入総量は0.17gであった。20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、1時間撹拌を続けた。オートクレーブ内の圧力を大気圧にして、窒素ガスを1時間吹き込んだ。オートクレーブの内容物をエバポレータで濃縮し、化合物(5)の31.1g(収率98.5%)を得た。
CFCFCF-O-(CFCFO)(CFCFO){(CFO)x1(CFCFO)x2}(CFCFO)-COCF(CF)OCFCFCF ・・・(5)
化合物(5):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,550。
【0132】
テトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルコキシビニルエーテル)共重合体(以下、PFAとも記す。)製丸底フラスコに、化合物(5)の30.0gおよびAK-225の60gを入れた。氷浴で冷却しながら撹拌し、窒素雰囲気下、メタノールの2.0gを滴下漏斗からゆっくり滴下した。窒素でバブリングしながら12時間撹拌した。反応混合物をエバポレータで濃縮し、化合物(6)の27.6g(収率98.8%)を得た。
CFCFCF-O-(CFCFO)(CFCFO){(CFO)x1(CFCFO)x2}-CF-COOCH ・・・(6)
化合物(6):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,230。
【0133】
100mLの3つ口ナスフラスコ内にて、塩化リチウムの0.18gをエタノールの18.3gに溶解させた。これに化合物(6)の25.0gを加えて氷浴で冷却しながら、水素化ホウ素ナトリウムの0.75gをエタノールの22.5gに溶解した溶液をゆっくり滴下した。氷浴を取り外し、室温までゆっくり昇温しながら撹拌を続けた。室温で12時間撹拌後、液性が酸性になるまで塩酸水溶液を滴下した。AC-2000の20mLを添加し、水で1回、飽和食塩水で1回洗浄し、有機相を回収した。回収した有機相をエバポレータで濃縮し、化合物(7)の24.6g(収率99.0%)を得た。
CFCFCF-O-(CFCFO)(CFCFO){(CFO)x1(CFCFO)x2}-CF-CHOH ・・・(7)
化合物(7):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,200。
【0134】
100mLの2つ口ナスフラスコに、化合物(7)の20.0g、硫酸水素テトラブチルアンモニウムの0.21g、BrCHCH=CHの1.76gおよび30%水酸化ナトリウム水溶液の2.6gを加え、60℃で8時間撹拌した。反応終了後、AC-2000の20gを加え、希塩酸水溶液で1回洗浄し、有機相を回収した。回収した有機相をシリカゲルカラムに通し、回収した溶液をエバポレータで濃縮し、化合物(8)の19.8g(収率98.2%)を得た。
CFCFCF-O-(CFCFO)(CFCFO){(CFO)x1(CFCFO)x2}-CF-CHOCHCH=CH ・・・(8)
化合物(8):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,250。
【0135】
100mLのPFA製ナスフラスコに、化合物(8)の5.0g、白金/1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金含有量:2%)の0.005g、HSi(OCHの0.25g、ジメチルスルホキシドの0.005gおよび1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(東京化成工業社製)の0.20gを入れ、40℃で4時間撹拌した。反応終了後、溶媒等を減圧留去し、孔径0.2μmのメンブランフィルタでろ過し、化合物(8)の1個のアリル基がヒドロシリル化された化合物(9)および化合物(8)の1個のアリル基がインナーオレフィン(-CH=CHCH)に異性化した副生物からなる組成物(A-1)の4.9g(収率95%)を得た。ヒドロシリル化の転化率は100%であり、化合物(8)は残存していなかった。ヒドロシリル化の選択率は95%であった。
CFCFCF-O-(CFCFO)(CFCFO){(CFO)x1(CFCFO)x2}-CF-CHOCHCHCH-Si(OCH ・・・(9)
【0136】
化合物(9)のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):0.7(6H)、1.7(6H)、3.6(11H)、3.8(2H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:C) δ(ppm):-52.4~-55.8(42F)、-78.2(1F)、-80.2(1F)、-82.2(3F)、-89.4~-91.1(90F)、-130.5(2F)。
単位数x1の平均値:21、単位数x2の平均値:20、化合物(9)の数平均分子量:4,370。
【0137】
〔製造例A-2〕
100mLの2つ口ナスフラスコに、製造例A-1で得た化合物(7)の20.0g、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(東京化成工業社製)の20.0g、CFSOCl(和光純薬工業社製)の1.01gおよびトリエチルアミンの1.00gを入れ、窒素雰囲気下、室温で4時間撹拌した。反応終了後、AK-225の15gを加え、水および飽和食塩水で各1回洗浄し、有機相を回収した。回収した有機相をエバポレータで濃縮し、化合物(10)の20.3g(収率99%)を得た。
CFCFCF-O-(CFCFO)(CFCFO){(CFO)x1(CFCFO)x2}-CF-CHOSOCF ・・・(10)
化合物(10):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,340。
【0138】
50mLのナスフラスコ内に、化合物(10)の15.0g、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(東京化成工業社製)の15.0g、HN(CHCH=CH(東京化成工業社製)の2.27g、およびトリエチルアミンの0.68gを入れ、窒素雰囲気下、90℃で24時間撹拌した。反応終了後、AK-225の15gを加え、水および飽和食塩水で各1回洗浄し、有機相を回収した後、シリカゲル1.5gと混合し、フィルタろ過で有機相を回収した。回収した有機相をエバポレータで濃縮し、化合物(11)の14.4g(収率98%)を得た。
CFCFCF-O-(CFCFO)(CFCFO){(CFO)x1(CFCFO)x2}-CF-CH-N(CHCH=CH ・・・(11)
化合物(11):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,280。
【0139】
100mLのPFA製ナスフラスコに、化合物(11)の12.0g、白金/1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金含有量:2%)の0.03g、HSi(OCHの1.3g、ジメチルスルホキシドの0.01gおよび1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(東京化成工業社製)の0.5gを入れ、40℃で10時間撹拌した。反応終了後、溶媒等を減圧留去し、孔径0.2μmのメンブランフィルタでろ過し、化合物(11)の2個のアリル基がヒドロシリル化された化合物(12)および化合物(11)の2個のアリル基が分子内で環化して生成した副生物からなる組成物(A-2)の11.9g(収率92%)を得た。ヒドロシリル化の転化率は100%であり、化合物(11)は残存していなかった。ヒドロシリル化の選択率は81%であった。
CFCFCF-O-(CFCFO)(CFCFO){(CFO)x1(CFCFO)x2}-CF-CH-N[CHCHCH-Si(OCH ・・・(12)
【0140】
化合物(12)のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):0.7(4H)、1.6(4H)、2.6(4H)、3.1(2H)、3.6(18H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-52.4~-55.7(42F)、-74.4(1F)、-76.6(1F)、-82.2(3F)、-89.4~-91.1(90F)、-130.5(2F)。 単位数x1の平均値:21、単位数x2の平均値:20、化合物(12)の数平均分子量:4,530。
【0141】
〔製造例A-3〕
50mLのナスフラスコに、製造例A-1で得た化合物(6)の5.0gおよびHN-CH-C(CHCH=CHの0.2gを入れ、12時間撹拌した。NMRから、化合物(6)がすべて化合物(13)に変換していることを確認した。また、副生物であるメタノールが生成していた。得られた溶液をAE-3000の9.0gで希釈し、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒:AE-3000)で精製し、化合物(13)の4.4g(収率85%)を得た。
CFCFCF-O-(CFCFO)(CFCFO){(CFO)x1(CFCFO)x2}-CF-C(O)NH-CH-C(CHCH=CH ・・・(13)
化合物(13):単位数x1の平均値21、単位数x2の平均値20、数平均分子量4,360。
【0142】
10mLのPFA製サンプル管に、化合物(13)の4g、白金/1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金含有量:2%)の0.4mg、HSi(OCHの0.33g、ジメチルスルホキシドの0.01g、1,3―ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(東京化成工業社製)の0.2gを入れ、40℃で10時間撹拌した。反応終了後、溶媒等を減圧留去し、1.0μm孔径のメンブランフィルタでろ過し、化合物(A-3)の4.3g(収率100%)を得た。
CFCFCF-O-(CFCFO)(CFCFO){(CFO)x1(CFCFO)x2}-CF-C(O)NH-CH-C[CHCHCH-Si(OCH ・・・(A-3)
【0143】
化合物(A-3)のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):0.75(6H)、1.3~1.6(12H)、3.4(2H)、 3.7(27H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-52.4~-55.8(42F)、-82.2(3F)、-89.4~-91.1(92F)、-130.8(2F)。
単位数x1の平均値:21、単位数x2の平均値:20、化合物(A-3)の数平均分子量:4,720。
【0144】
〔製造例A-4〕
300mLの3つ口フラスコ内に、ジペンタエリスリトール(ACROS社製)の15.0g、48%NaOH水溶液の29.5g、ジメチルスルホキシドの150gを入れた。40℃に加熱し、5-ブロモ-1-ペンテン(東京化成工業社製)の39.5gを加え、4時間撹拌した。希塩酸水溶液で1回洗浄し、シクロペンチルメチルエーテルの200gを加え、有機相を回収した。回収した溶液をエバポレータで濃縮し、粗生成物の29.4gを得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィに展開して化合物(14)の5.3gおよび化合物(15)の6.0gを分取した。
【0145】
【化5】
【0146】
50mLの2つ口ナスフラスコ内に、化合物(14)の1.0g、2,6-ルチジンの0.4g、AE-3000の5gを入れた。氷浴で冷却しながら撹拌し、窒素雰囲気下で、無水トリフルオロメタンスルホン酸の0.5gをゆっくり滴下した。さらに1時間撹拌し、希塩酸水溶液で1回洗浄し、有機相を回収した。回収した溶液をエバポレータで濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィに展開して、化合物(14)のHO-がCFSO-に変換された化合物(16)の1.2gを分取した。
【0147】
50mLのナスフラスコに、化合物(16)の1.0g、国際公開第2015/087902号の製造例6に記載の方法によって得た化合物(17)の6.6g、炭酸セシウムの2.7g、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンの6.6gを入れ、80℃還流条件下で4時間撹拌した。AE-3000を10g加え、希塩酸水溶液で1回洗浄し、有機相を回収した。回収した溶液をエバポレータで濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィに展開して、化合物(16)のCFSO-がCFCFCFO{(CFO)m21(CFCFO)m22}CF-CH-O-に変換された化合物(18)の6.6gを分取した。
CFCFCFO{(CFO)m21(CFCFO)m22}CF-CH-OH ・・・(17)
【0148】
100mLのPFA製ナスフラスコに、化合物(18)の6.0g、白金/1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金含有量:2%)の0.03g、トリメトキシシラン(東京化成工業社製)の1.2g、ジメチルスルホキシドの0.01gおよび1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンの0.9gを入れ、40℃で4時間撹拌した。溶媒等を減圧留去し、孔径0.2μmのメンブランフィルタでろ過し、化合物(18)の5つのアリル基がヒドロシリル化された化合物(A-4)の6.4gを得た。ヒドロシリル化の転化率は100%であり、化合物(18)は残存していなかった。ヒドロシリル化の選択率は100%であった。
ここで、化合物(A-4)は、前記化合物(A13-3)のW-R51a-が式(R-1)で表される基である化合物である。
【0149】
〔製造例A-5〕
化合物(14)の代わりに、製造例A-4で得た化合物(15)を用いた以外は製造例A-4と同様にして、化合物(15)の2個のHO-が全てCFSO-に変換された化合物(19)を得た。次に、化合物(16)の代わりに化合物(19)を用いた以外は製造例A-4(3)と同様にして、化合物(19)の2個のCFSO-が全てCFCFCFO{(CFO)m21(CFCFO)m22}CF-CH-O-に変換された化合物(20)を得た。次に、化合物(18)の代わりに化合物(20)を用いた以外は製造例A-4と同様にして、化合物(20)の4つのアリル基がヒドロシリル化された化合物(A-5)の6.4gを得た。
ここで、化合物(A-5)は、前記化合物(A13-4)のW-R51a-が式(R-1)で表される基である化合物である。
【0150】
〔製造例B-1〕
国際公開第2013/121984号の実施例6に記載の方法にしたがい、化合物(B-1)を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3(CFCFO)-CFCFCF-CONHCHCHCH-Si(OCH ・・・(B-1)
化合物(B-1):単位数x3の平均値13、数平均分子量4,870。
【0151】
〔製造例B-2〕
国際公開第2013/121984号の実施例7に記載の方法にしたがい、化合物(21)を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3(CFCFO)-CFCFCF-CHOH ・・・(21)
化合物(21):単位数x3の平均値13、数平均分子量4,700。
【0152】
化合物(7)を化合物(21)に、CFSOCl(和光純薬工業社製)の量を0.86gに、トリエチルアミンの量を1.02gに変更した以外は製造例A-2と同様にして、化合物(22)の30.6g(収率99%)を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3(CFCFO)-CFCFCF-CHOSOCF ・・・(22)
化合物(22):単位数x3の平均値13、数平均分子量4,830。
【0153】
化合物(10)を化合物(22)に、HN(CHCH=CHの量を2.08gに、トリエチルアミンの量を0.63gに変更した以外は製造例A-2と同様にして、化合物(23)の14.6g(収率98%)を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3(CFCFO)-CFCFCF-CH-N(CHCH=CH ・・・(23)
化合物(23):単位数x3の平均値13、数平均分子量4,780。
【0154】
化合物(11)を化合物(23)に、白金錯体溶液の量を0.029gに、HSi(OCHの量を1.2gに変更した以外は製造例A-2と同様にして、化合物(23)の2個のアリル基がヒドロシリル化された化合物(24)および化合物(23)の2個のアリル基が分子内で環化して生成した副生物からなる組成物(B-2)の11.8g(収率94%)を得た。ヒドロシリル化の転化率は100%であり、化合物(23)は残存していなかった。ヒドロシリル化の選択率は80%であった。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3(CFCFO)-CFCFCF-CH-N[CHCHCH-Si(OCH ・・・(24)
【0155】
化合物(24)のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):0.7(4H)、1.6(4H)、2.6(4H)、3.2(2H)、3.6(18H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:C) δ(ppm):-56.3(3F)、-84.0(54F)、-89.2(54F)、-91.4(2F)-120.9(2F)、-126.6(54F)。
単位数x3の平均値:13、化合物(24)の数平均分子量:5,020。
【0156】
〔製造例B-3〕
国際公開第2013/121984号の実施例6に記載の方法にしたがい、化合物(25)を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3(CFCFO)-CFCFCF-C(O)OCH ・・・(25)
化合物(25):単位数x3の平均値13、数平均分子量4,700。
【0157】
化合物(6)を化合物(25)の9.0gに、HN-CH-C(CHCH=CHの量を0.45gに変更した以外は製造例A-3と同様にして、化合物(26)の7.6g(収率84%)を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3(CFCFO)-CFCFCF-C(O)NH-CH-C(CHCH=CH ・・・(25)
化合物(26):単位数x3の平均値13、数平均分子量4,800。
【0158】
化合物(13)を化合物(26)の6.0gに、白金錯体溶液の量を0.07gに、HSi(OCHの量を0.78gに、ジメチルスルホキシドの量を0.02gに、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(東京化成工業社製)の量を0.49gに変更した以外は製造例A-3と同様にして、化合物(B-3)の6.7g(収率100%)を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3(CFCFO)-CFCFCF-C(O)NH-CH-C[CHCHCH-Si(OCH ・・・(B-3)
【0159】
化合物(B-3)のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):0.75(6H)、1.3~1.6(12H)、3.4(2H)、3.7(27H)。 19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-55.2(3F)、-82.1(54F)、-88.1(54F)、-90.2(2F)、-119.6(2F)、-125.4(52F)、-126.2(2F)。 単位数x3の平均値:13、化合物(B-3)の数平均分子量:5,400。
【0160】
〔製造例B-4〕
化合物(17)の代わりに、国際公開第2013/121984号の実施例7に記載の方法によって得られた化合物(27)(m25の平均値:13、数平均分子量:4,700)を用いた以外は製造例A-4と同様にして、化合物(16)のCFSO-がCFO(CFCFOCFCFCFCFO)m25CFCFOCFCFCF-CH-O-に変換された化合物(28)を得た。次に、化合物(18)の代わりに化合物(28)を用いた以外は製造例A-4と同様にして、化合物(28)の5つのアリル基がヒドロシリル化された化合物(B-4)の6.3gを得た。
CFO(CFCFOCFCFCFCFO)m25CFCFOCFCFCF-CH-OH ・・・(27)
ここで、化合物(B-4)は、前記化合物(A13-3)のW-R51a-が式(R-3)で表される基である化合物である。
【0161】
〔製造例B-5〕
化合物(17)の代わりに化合物(27)を用いた以外は製造例A-5と同様にして、化合物(19)の2個のCFSO-が全てCFCFCFO{(CFO)m21(CFCFO)m22}CF-CH-O-に変換された化合物(29)を得た。次に、化合物(18)の代わりに化合物(29)を用いた以外は製造例A-4と同様にして、化合物(29)の4つのアリル基がヒドロシリル化された化合物(B-5)の6.1gを得た。
ここで、化合物(B-5)は、前記化合物(A13-4)のW-R51a-が式(R-3)で表される基である化合物である。
【0162】
〔例1〕
(A-1)の50質量部と(B-1)の50質量部とを混合して組成物を調製した。この組成物を用いて、下記のドライコーティング法により、基材の表面処理を行い、例1の物品を得た。基材としては化学強化ガラスを用いた。得られた物品について、耐久性1(接触角100°以上の維持回数)、潤滑性および耐久性2(動摩擦係数の低下しにくさ)を評価した。結果を表3~5に示す。
【0163】
(ドライコーティング法)
ドライコーティングは、真空蒸着装置(昭和真空社製、SGC-22WA)を用いて行った(真空蒸着法)。組成物の35mgを真空蒸着装置内のモリブデン製ボートに充填し、真空蒸着装置内を5×10-3Pa以下に排気した。組成物を配置したボートを加熱し、組成物を基材の表面に堆積することによって、基材の表面に蒸着膜を形成した。蒸着膜が形成された基材を、温度:25℃、湿度:40%の条件で一晩放置し、基材の表面に表面層を有する物品を得た。
【0164】
〔例2~40〕
使用する化合物の種類と組み合わせを表2に示すように変更した以外は例1と同様にして、組成物を調製し、表面層を形成して物品を得て、得られた物品の評価を行った。2種の化合物を組合わせた例において、各化合物の質量比は全て50:50である。結果を表3~5に示す。
【0165】
【表2】
【0166】
耐久性1(接触角100°以上の維持回数)
【表3】
【0167】
潤滑性(動摩擦係数)
【表4】
【0168】
耐久性2(動摩擦係数の低下しにくさ)
【表5】
【0169】
化合物(A)と化合物(B)とを組み合わせた例1~5、7~11、13~17、19~23、25~29の組成物は、化合物(B)と基(I)を有しない化合物(C-1)とを組み合わせた例36~40の組成物に比べて、耐久性および潤滑性に優れていた。また、化合物(B)を単独で用いた例31~35に比べて、潤滑性に優れていた。また、化合物(A)および化合物(B)それぞれが有する基(I)の数が多くなるにつれて、耐久性が向上する傾向が見られた。
【0170】
(例41~50)
(A-3)と(B-3)との混合比(質量比)を表6に示すようにした以外は例15と同様にして、組成物を調製し、前記ドライコーティング法により、基材の表面層を形成して物品を得て、得られた物品の評価を行った。結果を表6に示す。
また、各組成物を用いて、下記のウェットコーティング法により、基材の表面処理を行い物品を得た。基材としては化学強化ガラスを用いた。得られた物品について、耐久性1および潤滑性を評価した。結果を表7に示す。
【0171】
(ウェットコーティング法)
例41~50で得た各組成物と、液状媒体としてのCOC(3M社製、ノベック(登録商標)7200)とを混合して、固形分濃度0.05%のコーティング液を調製した。コーティング液に基材をディッピングし、30分間放置後、基材を引き上げた(ディップコート法)。塗膜を120℃で30分間乾燥させ、AK-225にて洗浄することによって、基材の表面に表面処理層を有する物品を得た。
【0172】
【表6】
【0173】
【表7】
【0174】
(例51~60)
(A-4)と(B-4)との混合比(質量比)を表8に示すようにした以外は例22と同様にして、組成物を調製し、前記ドライコーティング法により、基材の表面層を形成して物品を得て、得られた物品の評価を行った。結果を表8に示す。
【0175】
【表8】
【0176】
化合物(A)と化合物(B)とを併用することで、各化合物を単独で用いた場合に比べて、潤滑性および耐久性の両特性をより高いレベルで両立できた。化合物(A)/化合物(B)の質量比が20/80~50/50の範囲内のときに、耐久性および潤滑性が特に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本組成物および本コーティング液は、潤滑性や撥水撥油性の付与が求められている各種の用途に用いることができる。たとえばタッチパネル等の表示入力装置;透明なガラス製または透明なプラスチック製部材の表面保護コート、キッチン用防汚コート;電子機器、熱交換器、電池等の撥水防湿コートや防汚コート、トイレタリー用防汚コート;導通しながら撥液が必要な部材へのコート;熱交換機の撥水・防水・滑水コート;振動ふるいやシリンダ内部等の表面低摩擦コート等に用いることができる。
なお、2017年03月15日に出願された日本特許出願2017-050558号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。