(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】導電性ピラー
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20230314BHJP
【FI】
H01L21/92 602D
(21)【出願番号】P 2021526839
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2020023752
(87)【国際公開番号】W WO2020256012
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2019112763
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】山口 亮太
(72)【発明者】
【氏名】矢田 真
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第09859241(US,B1)
【文献】特開2014-111800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径が1μm未満の金属微粒子と、カルボニル基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、チオエーテル基のうち少なくとも一種以上の官能基を有し、かつ、分子量が500以上の化合物である保護剤と、
を含有するペーストを焼結して作製したピラー(A)と、接合層と、を有することを特徴とする導電性ピラー(B)。
【請求項2】
ピラー(A)に含まれる保護剤が、炭素数8
~200のポリエチレンオキシド構造を含む有機化合物であることを特徴とする請求項1記載の導電性ピラー(B)。
【請求項3】
ピラー(A)と、接合層と、の間に金属間化合物層を有することを特徴とする請求項1または2記載の導電性ピラー
(B)。
【請求項4】
接合層が、スズ、鉛、銀、銅又はこれらの内から選択される1種以上の金属を含有する合金であることを特徴とする請求項1から3いずれか一項記載の導電性ピラー
(B)。
【請求項5】
粒子径が1μm未満の金属微粒子が、銀または銅から選択される1種以上の金属であることを特徴とする請求項1から4いずれか一項記載の導電性ピラー
(B)。
【請求項6】
導電性ピラーのアスペクト比が0.5以上であることを特徴とする請求項1から5いずれか一項記載の導電性ピラー
(B)。
【請求項7】
フリップチップ実装用端子である請求項1から6いずれか一項記載の導電性ピラー
(B)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体パッケージ内において、半導体チップとパッケージインターポーザの接続方式であるフリップチップ実装端子である、導電性ピラー(Pillar)に関する。本発明は、金属微粒子を含有するペーストを焼結することにより作製されるピラーであって、接合層を有する導電性ピラーである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置は、半導体チップ上に電子回路を製造し、半導体チップ上の電極と半導体パッケージ上の電極とを接続して製造される。従来、半導体チップ上の電極と半導体パッケージ上の電極との間は、金あるいは銅製のボンディングワイヤを用いて電気的に接続されていた。半導体チップと半導体パッケージの間の電気的な接続方法としてフリップチップ法が用いられている。フリップチップ法における代表的な接続方法として、金バンプやはんだバンプ法が知られている。
【0003】
高密度実装法として注目されるフリップチップ実装法は、多数のはんだバンプをウエハや基板に配置された金属製の電極パッド上に形成し、その上に半導体チップを搭載した後、加熱することにより、はんだバンプを溶融してチップ接合を行う方法である(特許文献1)。
【0004】
フリップチップ実装法におけるはんだバンプの形成は、電解メッキによりバンプを形成する方法、ステンシルマスク法、ドライフィルム法などの印刷法、ボールマウント法、蒸着法、IMS(インジェクション・モールデッド・ソルダー)法(特許文献2、3、4)などによってウエハや基板上に供給されたはんだを溶融(リフロー)することによりなされる。この際に、はんだに含まれる溶剤が溶融時にガス化してバンプ中にボイドとなって残留すると、接合強度等の低下を生じるため、ボイドの少ないはんだバンプが求められている。
【0005】
はんだバンプ接合を用いた場合、はんだ材料は、耐熱性能が劣る、銅や銀と比較して体積抵抗率が高い、電流容量が小さい等の課題がある。これら課題を解決するための材料として、銅ピラーバンプが知られている。銅ピラーに用いられる金属材料としての銅は、耐熱性能、低い電気抵抗、高い電流容量、高いエレクトロマイグレーション耐性等の観点からも優れている(特許文献5)。
【0006】
これまで、銅ピラーは、シード層と呼ばれるメッキ下地層を電極パッド上に作製し、電解メッキにより形成していた。しかし電解メッキ工法は、シード層エッチング時のアンダーカットが課題であった。また、メッキ工法は設備導入コストが大きく、有害廃液による環境負荷も大きかった。
【0007】
メッキ工法を用いずに銅ピラーを形成する方法として、金属粒子及びはんだを用いる方法が報告されている(特許文献6)。しかし、当該文献には、ピラーに用いることができる金属粒子の粒子径、導電性ペーストの組成についての詳細な記載はなく、本発明が達成しようとする効果を得ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-029497号公報
【文献】特開2007-294959号公報
【文献】特開2015-106617号公報
【文献】特開2018-144086号公報
【文献】特開2011-029636号公報
【文献】US9,859,241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
電解メッキ技術を用いて基板上に銅ピラーを形成した場合、シード層と呼ばれるメッキ層を電極パッド上に作製する必要が生じるため、全面に導電性のシード層を設けねばならない。したがって、シード層エッチング時に銅ピラー自体も溶解することから、アンダーカットにより、微細なピラーを作製することが困難であるという課題があった。
【0010】
メッキ工法は、大量の廃液を再生又は処分する必要があり、環境負荷が大きく設備維持にコストも要するという課題があった。
【0011】
メッキ方法等で作製したバルクの銅ピラーは、はんだ材料の弾性率に比べて3倍以上大きく、はんだ材料の降伏応力に比べて8倍以上大きいため、チップと基板を接合する際に生じる熱応力を十分に緩衝することができない課題があった。
そのため、チップが熱応力の影響を大きく受けるようになり、機械的強度の弱い誘電率層間絶縁膜を採用する配線層にクラックが生じやすくなり歩留まりの低下を招いていた。
【0012】
文献6には、前記のように金属粒子を用いて導電性ピラーを作製する方法が開示されるが、導電性ピラーの組成については何ら記載されておらず、どのような組成を原料とすることで好適な導電性及び接合強度が得られるかについては不明であった。
ここにおいて、金属粒子を用いて導電性ピラーの製造を行う場合、金属粒子の粒子径が大きいと微細な導電性ピラーを作製することができないという課題があった。
【0013】
さらに、粒子径が1μmを超える金属粒子を用いて導電性ピラーを作製する場合には、金属粒子同士の融着による接合機構を用いることができず、金属粒子同士を接合するためにバインダー樹脂を要し、耐熱性能が劣るという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記諸課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、粒子径が1μm未満の金属微粒子と、保護剤と、を含有するペーストを焼結して作製したピラー(A)と、接合層と、を有する導電性ピラー(B)を見出した。本発明は、フリップチップ実装用端子として用いられる導電性ピラーに関する。
【0015】
本発明に係るペーストを用いて電極基板上に導電性ピラーを形成することにより、導電性ピラーのメッキレス化を実現した。従来方法による課題であったエッチング時のアンダーカットを解決し、微細な銅ピラーの形成を可能とした。
【0016】
本発明に係るペーストを用いて電極基板上に導電性ピラーを形成することにより、金属微粒子と接合層からなる導電性ピラーを作製することができた。得られた導電性ピラーは、導電性および接合強度が実装に耐えうる性能を有するものであった。
【0017】
本発明に係る導電性ピラーに設けられた接合層を介して半導体パッケージの電極と接続でき、実装が可能となる。
以下に、本発明について具体的に記述する。
【0018】
(1)粒子径が1μm未満の金属微粒子と、保護剤と、を含有するペーストを焼結して作製したピラー(A)と、接合層と、を有することを特徴とする導電性ピラー(B)
【0019】
(2)ピラー(A)に含まれる保護剤が、アミノ基、カルボニル基、チオール基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、チオエーテル基、リン酸基のうち少なくとも一種以上の官能基を有し、かつ、分子量が500以上の化合物であることを特徴とする(1)記載の導電性ピラー(B)。
【0020】
(3)ピラー(A)に含まれる保護剤が、炭素数8~200のポリエチレンオキシド構造を含む有機化合物であることを特徴とする(1)又は(2)記載の導電性ピラー(B)。
【0021】
(4)ピラー(A)と、接合層と、の間に金属間化合物層を有することを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の導電性ピラー。
【0022】
(5)接合層が、スズ、鉛、銀、銅又はこれらの内から選択される1種以上の金属を含有する合金であることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の導電性ピラー。
【0023】
(6)粒子径が1μm未満の金属微粒子が、銀または銅から選択される1種以上の金属であることを特徴とする(1)から(5)のいずれかに記載の導電性ピラー。
【0024】
(7)導電性ピラーのアスペクト比が0.5以上であることを特徴とする(1)から(6)のいずれかに記載の導電性ピラー。
【0025】
(8)フリップチップ実装用端子である(1)から(7)のいずれかに記載の導電性ピラー。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、フリップチップ実装に用いることができる、金属微粒子からなるピラーであって接合層を有する導電性ピラーである。
金属微粒子と保護剤を含有するペーストを用いて作製した導電性ピラーは、その製造工程において、従来技術であるメッキ技術を使用することなく、スキージ等であらかじめペーストをパターニングされたレジスト層の開口部分に充填させることでピラーを簡便に形成することができる。また、メッキ方法による課題であったエッチング時のアンダーカットを解決することができ、微細な銅ピラーの形成が可能となる。
【0027】
本発明の導電性ピラーは、従来のメッキ方法が有していた課題も解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図2】導電性ピラー(B)及び(C)の上面図、及び導電性ピラー(B)、(C)それぞれの断面模式図
【
図3】導電性ピラー(C)を用いてフリップチップ実装をした際の断面の模式図
【
図4】導電性ピラー(C)を用いてフリップチップ実装をした際の断面写真
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。ここで単位「%」は、特に断りのない限りにおいて「質量パーセント濃度」である。
【0030】
<金属微粒子>
本発明の金属微粒子として用いることができる金属種は、後述する保護剤中の官能基が、当該金属微粒子の表面に物理的又は化学的に吸着するか、化学的に結合(配位)できるものであれば特に制限されない。しかし、金属微粒子の安定性の観点から、金、銀、銅、ニッケルから選択される一種以上を好適に用いることができる。特に好ましくは、銀、銅である。金属種は一種類であっても、前記に列挙した金属を含んでいれば二種類以上の混合物、または、合金であっても良い。
【0031】
金属微粒子の粒子径は、充填性及び接合性の観点から、平均一次粒子径が1μm未満であることが好ましい。また、バインダー樹脂を用いず微粒子の融着機能を利用して導電性ピラーを作製する場合には、平均一次粒子径が100nm以下の金属微粒子を用いることがより好ましい。これにより、レジスト開口部が100μm未満となるようなレジスト開口部分にペーストを充填し導電性ピラーを形成する場合に、レジスト開口部へ密に金属微粒子を充填すること、電極/ピラー間の十分な接合強度を保つこと、金属微粒子間の接触又は接合による導電性を確保することができる。
【0032】
金属の融着機能によりピラーを形成する場合には、バインダー樹脂の添加量を少なく又は添加せずにピラーを形成することができ、耐熱性にも優れたピラーを形成できる。
金属微粒子の形状については、特に制限はなく、球状、フレーク状等の微粒子を本発明の効果を損なわない範囲で用いることができるが、平均一次粒子径の算出方法により算出される平均一次粒子径が1μm未満であることが好ましい。
【0033】
平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により算出することができる。すなわち、本明細書において、金属微粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により試料の写真を撮影し、その画像を解析することにより算出する。
【0034】
作製した金属微粒子を、良溶媒で任意の濃度に希釈し、その希釈液を、カーボン膜被覆グリッド上にキャストし、乾燥させ、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。
平均一次粒子径は、得られたTEM像の中から無作為に微粒子を200個抽出し、それぞれの面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として算出した値を採用する。
無作為に抽出される粒子からは、2個の粒子が重なったものは除外する。多数の粒子が、接触して、又は、二次凝集して、集合している場合には、集合を構成している粒子はそれぞれ独立した粒子であるものとして取り扱う。例えば、5個の一次粒子が接触又は二次凝集して1の集合を構成している場合、集合を構成する5個の粒子それぞれが金属微粒子の平均一次粒子径の算出対象となる。
また、平均一次粒子径は、焼結前の値を採用する。すなわち、焼結されることにより融着が生じる前の値を採用する。
【0035】
<保護剤>
本発明の保護剤は、金属微粒子表面を保護剤により保護することができ、金属微粒子や分散媒との親和性を有する官能基及び/又は分子構造を有する化合物であれば特に制限はなく、例えば以下に示す官能基・分子構造を有する化合物を用いることができる。
使用する保護剤は、分子量の大小にかかわらず使用することができ、使用する金属種や所望する物性に応じて保護剤を設計することで高導電性や分散安定性を金属微粒子に付与することが可能である。
【0036】
種々の目的に応じて保護剤を選択することで金属微粒子の特性を自在に変更することができる。高分子量の保護剤を用いる場合は、化合物中の官能基の数及び種類を変更することで様々な特性を発現できる。低分子量の保護剤を用いる場合は、二種以上の化合物を併用することで様々な特性を発現できる。
【0037】
本発明の保護剤に含まれる官能基として、具体的には、チオール基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、リン酸基、リン酸エステル基、スルホン酸基、芳香族基が挙げられる。これら官能基を有する保護剤を使用することにより、微粒子に分散安定性を付加することができる。
中でも、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、リン酸エステル基、アミノ基、ヒドロキシ基を有する保護剤を使用することが好ましく、低温焼結した場合においてより低い体積抵抗率を発現する高導電性を付加することができる。
【0038】
保護剤に、カルボキシル基を有する低分子量の化合物を用いる場合、具体例として以下の物質を用いることができる。
例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、パルミトオレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リシノール酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ジグリコール酸、マレイン酸、イタコン酸、安息香酸、N-オレイルサルコシン、N-カルボベンゾキシ-4-アミノ酪酸、p-クマル酸、3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3-ヒドロキシミリスチン酸、2-ヒドロキシパルミチン酸、2-ヒドロキシイコサン酸、2-ヒドロキシドコサン酸、2-ヒドロキシトリコサン酸、2-ヒドロキシテトラコサン酸、3-ヒドロキシカプロン酸、3-ヒドロキシオクタン酸、3-ヒドロキシノナン酸、3-ヒドロキシデカン酸、3-ヒドロキシウンデカン酸、3-ヒドロキシドデカン酸、3-ヒドロキシトリデカン酸、3-ヒドロキシテトラデカン酸、3-ヒドロキシヘキサデカン酸、3-ヒドロキシヘプタデカン酸、3-ヒドロキシオクタデカン酸、15-ヒドロキシペンタデカン酸、17-ヒドロキシヘプタデカン酸、15-ヒドロキシペンタデカン酸、17-ヒドロキシヘプタデカン酸、ラウロイルサルコシン、6-アミノヘキサン酸、2-ベンゾイル安息香酸、12-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシペンタデカン酸、2-ヒドロキシパルミチン酸、3-ヒドロキシデカン酸、15-ヒドロキシペンタデカン酸、ラウロイルサルコシン、6-アミノヘキサン酸、N-(tert-ブトキシカルボニル)-6-アミノヘキサン酸、[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸、N-カルボベンゾキシ-β-アラニン等を例示することができる。また、多量体を形成する化合物であれば、これらの二量体及び三量体から六量体までの多量体を用いても良い。また、1又は2以上のカルボン酸を任意の割合で組み合わせて用いることもできる。
【0039】
保護剤に、アミノ基を有する低分子量の化合物を用いる場合、具体例として以下の物質を用いることができる。
例えば、2-メトキシエチルアミン、2-エトキシエチルアミン、2-イソプロポキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-イソプロポキシプロピルアミン、3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、N-メチルエチレンジアミン、N-エチルエチレンジアミン、N-イソプロピルエチレンジアミン、N-メチル-1,3-プロパンジアミン、3-イソプロピルアミノプロピルアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジエチル-1,3-プロパンジアミン、N-(3-アミノプロピル)モルホリン、N-(tert-ブトキシカルボニル)-1,4-ジアミノブタン、N-(tert-ブトキシカルボニル)-1,5-ジアミノペンタン、N-(tert-ブトキシカルボニル)-1,6-ジアミノヘキサン、2-(アミノエチルアミノ)エタノール、2-(アミノエトキシ)エタノール、3-(2-ヒドロキシエチルアミノ)プロピルアミン、N-(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、N-(3-アミノプロピル)ジエタノールアミン等を例示することができる。この他に、アミン類として第二級アミン化合物、又は、第三級アミン化合物も併用することができる。
【0040】
本発明の保護剤に、高分子量の保護剤を用いる場合、選択可能な分子構造としては、分散媒との親和性を有する任意の分子構造を採用することができる。例えば、分散媒がアルコール類や水などの極性溶媒である場合においては、炭素数8~200のポリエチレンオキシド構造を含む有機化合物を好適に用いることができ、炭素数8~100のポリエチレンオキシド構造を含む有機化合物をより好適に用いることができる。
当該保護剤のポリエチレンオキシド部位は、沸点が250℃以下のアルコール系溶媒との親和性に優れることから、金属微粒子の凝集を強く抑制でき、金属微粒子の高分散することができる。これにより、金属微粒子が高密度に充填されている状態となり、加熱処理による保護剤及び溶媒の分解除去に伴うボイド発生が起きず、高密度充填が可能となる。
【0041】
本発明で用いられる炭素数8~200のポリエチレンオキシド構造を含む有機化合物を含有する金属微粒子(有機化合物と金属微粒子の複合体)の例として、特許第4784847号公報、特開2013-60637号公報又は特許第5077728号公報に記載の金属微粒子が挙げられ、これらに記載の方法で合成することができる。これらは、チオエーテル型(R-S-R’)有機化合物が金属微粒子表面に対して適切な親和吸着効果と、加熱による迅速な脱離性を有することが特徴となっており、低温融着特性を示す金属微粒子として開発されている。
【0042】
他の例として、特開2010-209421号公報に記載のチオエーテル骨格を有する高分子化合物(チオエーテル型有機化合物)のうち、炭素数8~200のポリエチレンオキシド部位を有する高分子化合物が複合した金属微粒子、さらには、特許第4697356号公報に記載のチオエーテル骨格を有しリン酸エステル基を有する高分子化合物のうち、炭素数8~200のポリエチレンオキシド部位を有する高分子化合物が複合した金属微粒子などが挙げられる。これらのポリエチレンオキシド構造を含む高分子化合物の製造は、これら公報に記載の方法に従い行うことができる。
また、本発明においてこれらのポリエチレンオキシド構造を含むリン酸エステル型有機化合物は、チオエーテル骨格を有しリン酸エステル基をも有しており、これらの基を有することにより、金属微粒子表面に対して適切な親和吸着効果と、加熱による迅速な脱離性を付加することができる。
【0043】
ペースト中の保護剤濃度は、特に制限されるものではないが、焼結時の金属微粒子同士の融着のし易さ、導電性及び接合強度の向上の観点から15%以下の範囲が好適であり、より好ましくは、10%以下の範囲である。
【0044】
<ペーストの製造方法>
本発明に係るペーストは、少なくとも金属微粒子と、保護剤と、から構成される。本発明に係るペーストは、金属微粒子表面を保護剤により保護することで作製できる。ペーストの作製は、任意の方法を採用することができる。
例えば、湿式法として化学還元法の他に熱分解法、電気化学法や、乾式法としてガス中蒸発法、スパッタ法を採用することもできる。
【0045】
本発明の効果を説明するため、保護剤として炭素数8~200のポリエチレンオキシド構造を含む有機化合物を使用した際のペーストの製造方法について説明する。
前記製造方法の具体例を示すにあたり、金属種を銅及び/又は銀とした場合について記述する。
炭素数8~200のポリエチレンオキシド構造を含む有機化合物が複合した金属微粒子は、チオエーテル型有機化合物の存在下で、2価の銅イオン化合物又は1価の銀イオン化合物を溶媒と混合する工程と、銅イオン又は銀イオンを還元する工程と組み合わせることで容易に作製することが可能である。
【0046】
2価の銅イオン化合物としては、一般に入手可能な銅化合物が利用可能であり、硫酸塩、硝酸塩、カルボン酸塩、炭酸塩、塩化物、アセチルアセトナート錯体等を用いることができる。0価の銅微粒子との複合体を得る場合には、2価の化合物や、1価の化合物から製造してもよく、水分や結晶水を有していても良い。
2価の銅イオン化合物として具体的には、CuSO4、Cu(NO3)2、Cu(OAc)2、Cu(CH3CH2COO)2、Cu(HCOO)2、CuCO3、CuCl2、Cu2O、C5H7CuO2、及びそれらの水和物等を使用することができる。また、前記塩類を加熱し、又は、塩基性雰囲気に曝す等により得られる塩基性塩たとえばCu(OAc)2・CuO、Cu(OAc)2・2CuO、Cu2Cl(OH)3等を好適に用いることができる。
これら塩基性塩は、反応系内で調製してもよいし、反応系外で別途調製したものを使用してもよい。また、アンモニアやアミン化合物を加えて錯体形成し、溶解度を確保してから還元に用いる一般的な方法も適用できる。
【0047】
1価の銀イオン化合物としては、一般的に入手可能な銀化合物が利用可能であり、硝酸銀、酸化銀、酢酸銀、フッ化銀、銀アセチルアセトナート、安息香酸銀、炭酸銀、クエン酸銀、銀ヘキサフルオロフォスフェート、乳酸銀、亜硝酸銀、ペンタフルオロプロピオン酸銀、それらの水和物等が挙げられ、取り扱い容易性、工業的入手容易性の観点から、硝酸銀または酸化銀を用いることが好ましい。
【0048】
これらの銅及び/又は銀イオン化合物を、予めチオエーテル型有機化合物を溶解又は分散した溶媒に溶解、または混合する。このとき用いることができる溶媒としては、使用する有機化合物の構造にもよるが、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、水、アセトン等の極性溶媒、及び、それらの混合物が好適に用いることができる。なかでも、水-エチレングリコール混合物が特に好ましい。
【0049】
チオエーテル型有機化合物の各種溶媒中における濃度としては、引き続き行なう還元反応の制御が容易になる点から、0.3~10%の範囲に調整することが好ましい
【0050】
上記で調整した溶媒中に、銅及び/又は銀イオン化合物を、一括又は分割して添加し、混合する。難溶性溶媒を使用する場合には、予め少量の良溶媒に溶解させ、溶媒中に添加しても良い。
【0051】
混合するチオエーテル型有機化合物と銅及び/又は銀イオン化合物の配合割合としては、反応溶媒中でのチオエーテル型有機化合物の保護能力に応じて適宜選択することができる。銅及び/又は銀イオン化合物1mol当たりチオエーテル型有機化合物として1mmol~30mmolの範囲で調製し、特に15~30mmolの範囲で用いることが好ましい。ここで、ポリエチレンオキシド構造を含むリン酸エステル型有機化合物を用いても同様に行うことができ、銅及び/又は銀イオン化合物1molあたりの有機化合物の使用量も前記と同様である。
【0052】
引き続き、銅及び/又は銀イオンの還元反応を各種還元剤により行なう。還元剤としては、ヒドラジン化合物、ヒドロキシルアミンおよびその誘導体、金属水素化物、ホスフィン酸塩類、アルデヒド類、エンジオール類、ヒドロキシケトン類など、氷冷温から80℃以下の温度で銅及び/又は銀の還元反応を進行させることができるため、好適に用いることができる。
【0053】
銅イオンの還元にはヒドラジン水和物、非対称ジメチルヒドラジン、ヒドロキシルアミン水溶液、水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤が好適である。これらの還元剤は、銅化合物を0価まで還元することができ、2価および1価の銅化合物を還元銅とし、有機化合物とナノ銅粒子との複合体を製造する場合に適している。
【0054】
還元反応の条件は、原料として用いる銅化合物、還元剤の種類、錯化の有無、溶媒、チオエーテル型有機化合物の種類に応じ、適宜設定することができる。例えば、水系溶媒で酢酸銅(II)を水素化ホウ素ナトリウムで還元する場合には、氷冷程度の温度でも0価のナノ銅粒子が調製できる。一方、ヒドラジンを用いる場合には、室温では反応が遅く、60℃程度に加熱してはじめて円滑な還元反応が起こる。またエチレングリコール/水系で酢酸銅を還元する場合には、60℃で2時間程度の反応時間を要する。これら還元反応の結果、有機化合物と銅系微粒子との複合体を含む反応混合物が得られる。
【0055】
このように調製した銅微粒子は、保護剤の効果により水分を完全に除去して乾燥体粉末とした後に、再び溶媒に分散させた場合にも乾燥前と同じように高分散させることが可能である。
【0056】
還元反応後は、必要に応じて金属化合物残渣、還元試薬残渣、余剰のポリエチレンオキシド構造を含む有機化合物等を除く工程が設けられる。複合体の精製は、再沈殿、遠心沈降または限外濾過などにより行うことができ、得られた複合体を含む反応混合物を水、エタノール、アセトンおよびこれらの混合物によって洗浄することで、前述の不純物を洗い流すことができる。
【0057】
本発明に係るペーストは、本発明の効果を損なわせない範囲において、樹脂等のバインダー成分、乾燥防止剤、消泡剤、基材への密着付与剤、酸化防止剤、皮膜形成促進のための各種触媒、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤の様な各種界面活性剤、レベリング剤、離型促進剤等を助剤として添加することができる。
【0058】
本発明に係るペースト中の金属微粒子の濃度は、後述する分散媒を添加することにより任意の濃度に調整することができる。分散媒は、ペースト合成時に添加することもできるし、合成後に添加することもできる。
ペースト中の金属微粒子の濃度は、特に制限されるものではないが、ペーストの流動性及び開口部分への充填性能を考慮すると40以上95%未満の範囲が好ましく、より好ましくは60~90%の範囲である。
【0059】
<分散媒>
本発明の金属微粒子と保護剤を含有するペーストには、発明の効果を損なわない範囲において分散媒となる水又は溶剤を添加することができる。分散媒は、基材への濡れ性付与や、ペースト中の金属微粒子の濃度を調整することを目的として添加できる。本発明で使用できる分散媒としては、焼結後にピラー内部に分散媒が残留しないことが望ましく、沸点250℃以下の化合物又は混合物を用いることが好ましい。
【0060】
分散媒は、沸点が250℃以下の化合物であれば、特に制限されることはなく、水又は/及び有機溶剤を分散媒として用いることが可能である。前記分散媒は、金属微粒子を凝集させない良分散媒を用いることが、均一な粒子径を有するペーストを製造する上で好ましい。
【0061】
以下に、好適に用いることができる有機溶剤について例示列挙する。
【0062】
例えば、水酸基を含む有機溶剤としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、アミルアルコール、tert-アミルアルコール、1-ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、4-メチル-2-ペンタノール、ネオペンチルグリコール、プロピオニトリル、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、イソブチレングリコール、2,2-ジメチル-1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、ジプロピレングリコール、2,5-ヘキサンジオール、グリセリン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを例示することができる。中でも、1-ブタノール、エタノール、1-プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、水を好適に用いることができる。
【0063】
その他、水酸基を含まない有機溶剤として、アセトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、アクリロニトリル、プロピオニトリル、n-ブチロニトリル、イソブチロニトリル、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクト、プロピオラクトン、炭酸-2,3-ブチレン、炭酸エチレン、炭酸1,2-エチレン、炭酸ジメチル、炭酸エチレン、マロン酸ジメチル、乳酸エチル、安息香酸メチル、サリチル酸メチル、二酢酸エチレングリコール、ε-カプロラクタム、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ホルムアミド、ピロリジン、1-メチル-2-ピロリジノン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ナフタレン、ケロシンを用いることができる。
【0064】
(混合物の沸点測定方法)
複数の溶媒を組み合わせた混合溶媒を分散媒として用いる場合、前記混合溶媒の沸点は、JIS K2233-1989「自動車用非鉱油系ブレーキ液」7.1に規定する「平衡還流沸点試験方法」に準じて測定することができる。
【0065】
<ピラー(A)>
本発明におけるピラーは本発明の効果を奏する範囲において、その形状、径等について特に制限されるものではない。本発明のピラーは、チップ接合が安定となることから柱形状であることが好ましく、更に好ましくは略円柱状形状、特に好ましくは円柱形状である。また、本発明のピラーの径はチップ接合工程が効率的になることから、ピラー底面の径(後述)が100μm以下であることが好ましく、更に好ましくは50μm以下、特に好ましくは30μm以下である。
【0066】
本発明におけるピラーの形成方法については、特に制限されるものではないが、埋め込み方法によりピラーを形成する方法について、以下詳しく説明する。
埋め込み方法によりピラーを形成するためには、電極部を有する基板上にレジスト層を形成し、レジスト層に開口部分を複数有するパターン(鋳型)を形成し、レジスト層の開口部分にペーストを充填し、焼結することでピラー(A)を簡便に作製することができる。
【0067】
(電極を有する基板の材料)
電極を有する基板の材料について、特に制限はなく、金属、セラミック、シリコン、樹脂、及びこれらの複合材料等を用いることができる。
【0068】
(レジスト層の形成)
開口部分を有するレジスト層を、電極を有する基板上に作製するのは、公知の手法を採用することができる。使用する樹脂の材料は、開口部分を有する所望のパターンの鋳型を製造することができれば特に制限されるものではない。例えば、フォトレジスト(photo-resist)、ポリイミド、エポキシ、エポキシモールディングコンパウンド(epoxy-molding compound:EMC)など、各種ドライフィルムを用いることができる。レジスト層は、ピラー(A)形成後、又は導電性ピラー形成後に除去しても良いし、永久膜として残存させておくこともできる。永久膜として用いる場合には、樹脂膜を剥離する工程を削減することができるという利点がある。
【0069】
(ペーストの充填)
レジスト開口部分へのペースト充填方法としては、特に制限されるものではなく、スキージ、ドクターブレード、ディスペンサ、インクジェット、プレス注入、真空印刷、加圧による押込み等を用いることができる。
【0070】
例えば、スキージを用いて開口部分にペーストを充填する方法を採用した場合、スキージ素材についての制限はなく、プラスチック、ウレタンゴム、その他ゴム、セラミック、金属製等のスキージを用いることができる。スキージの厚さ、長さについても特に制限されるものではない。塗布時の押し込みは、レジスト層の開口部分パターンを破損させない程度の印圧で行うことができる。また、メタルマスクやスクリーン印刷用のマスクを使用してもよい。
【0071】
酸化しやすい金属微粒子を材料に用いてピラーを作製する場合には、不活性ガス雰囲気下又は還元性ガス雰囲気下で、鋳型へのペースト充填操作を行うことができる。
【0072】
作製するピラーの形状については、特に制限はなく、ピラーの先端部に接合層を設けることができれば特に制限はないが、円柱や、多角柱形状が好適である。
【0073】
(ピラーの焼結)
本発明に係るペーストは、金属微粒子が融着する温度にまで加熱をすることで、粒子間で融着が生じ、導電性が発現する。金属微粒子が融着する温度は、使用する金属種、保護剤や溶媒種によって異なる。金属微粒子が融着する温度は、熱重量分析(TG-DTA)や示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。
【0074】
ピラーの導電性及び接合強度について十分な値が得られる範囲であれば、焼成温度及び焼成時間に特に制限されるものではないが、好ましくは、焼成温度が150~350℃かつ焼成時間が1~60分間の範囲である。より好ましくは、焼成温度が200~250℃以下かつ焼成時間が5~15分間、の範囲である。本発明に係るペーストを使用すれば、短時間焼成を行った場合であっても十分な性能を発揮することができる。
また、必要に応じて、低温で溶媒を揮発させる仮焼成を行った後、150~350℃の範囲で本焼成を行う等の、温度プロファイルを用いて焼成を行うこともできる。
金属微粒子を焼結させる焼成方法としては金属微粒子の融着が生じる限りにおいて特に制限されるものではなく、ホットプレートや熱風オーブンをはじめとする熱による焼成や可視光、赤外光又はレーザー光の照射、フラッシュランプ、水素ガスをはじめとするプラズマ処理を用いても良い。
【0075】
焼結時に使用するガス種については特に制限はない。金属微粒子に貴金属を用いる場合には、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス環境下に限らず大気中での焼結も可能である。金属微粒子に卑金属を用いる場合、窒素ガスやアルゴンガスをはじめとする不活性ガスを用いることが好ましい。また、金属微粒子に卑金属を用いる場合には、水素を含有したフォーミングガスを使用しても良いし、蟻酸などの還元成分を添加したガスを用いても良い。
【0076】
本発明のペーストをレジスト層に設けた開口部分に充填し、ペーストを焼結することより、保護剤、溶媒等が蒸発し、また融着により体積が減少した結果、断面上部の形状が凹型のカップ形状になる。このカップ形状は、(1)ピラーと接合層との接合面積を増加させることができるためピラーの接合強度を増加させる効果がある。また、(2)トップチップとボトムチップの線膨張係数が異なる場合、加熱・冷却のサイクルにより電極基板に対して水平方向に歪が生じるが、歪方向と同一方向に接合層/ピラー界面が存在しないためピラーの接合強度を増加させる効果がある。これにより密着性及びダイシェア試験時の接合強度が飛躍的に向上する効果が得られる。この効果は、メッキ法で作製した導電性ピラーでは実現し得ないものである。
【0077】
作製したピラーは、鋳型に細密充填された銅粒子が融着したものであり、空隙を有する構造をしていることから、バルク金属とは異なり、熱膨張率の差から生じる基材間の応力を緩和できるという効果を有する。そのため、冷熱衝撃試験をはじめとする環境試験時の耐久性が向上するとともに、接合強度が向上する効果を有する。
【0078】
<導電性ピラーの作製>
本発明に係る導電性ピラー(B)は、上記方法により作製したピラー(A)の少なくとも一方の先端部に接合層を形成することにより作製することができる(
図1)。
本発明に係る導電性ピラー(C)も、導電性ピラー(B)と同様にして作製することができる。導電性ピラー(C)は、ピラー(A)と、接合層と、の界面に金属間化合物層を有している点が導電性ピラー(B)と異なる。
図2に導電性ピラー(B)と(C)の違いを示した。
図2Aは、作製した導電性ピラーの上面図の模式図を示すものである。
図2B及びCは、
図2Aの破線で示す断面での断面図の模式図である。
以下、各構成について詳しく述べる。
【0079】
<接合層>
本発明に係る接合層の材料としては、Au、Ag、Cu、Sn、Ni、はんだ合金等を用いることができ、単一の成分のみで構成されていても、複数の成分から構成されていてもよい。
本発明に係る接合層の材料としては、はんだ合金をより好適に用いることができる。はんだ合金としては、Sn-Ag合金、Sn-Pb合金、Sn-Bi合金、Sn-Zn合金、Sn-Sb合金、Sn-Bi合金、Sn-In合金、Sn-Cu合金、SnにAu、Ag、Bi、In及びCuからなる群より選ばれる2つの元素を添加した合金等を用いることができる。また、はんだ合金には、Sn以外にも一般的な接合目的で利用される金属または合金を用いることができる、使用することもできる。
【0080】
本発明に係る接合層の材料としては、溶剤及び/又はフラックス成分を含まない材料をより好適に用いることができる。
接合層材料に溶剤やフラックス成分が含まれている場合、溶融時やリフロー時にガス化して接合層中にボイドとなって残留するおそれがあり、接合強度の低下を生じさせる。
【0081】
本発明にかかる接合層を形成する方法は、金属微粒子からなるピラーの少なくとも一方の先端部に接合層を形成することができれば特に限定されない。例えば、電解メッキによりバンプを形成する方法、ステンシルマスク法・ドライフィルム法などの印刷法、ボールマウント法、蒸着法、IMS法等によってピラー先端部に供給されたはんだを溶融(リフロー)することにより形成できる。
中でも、接合層材料を溶融させた状態で、ピラー先端部に接合層を作製でき、かつ、溶剤やフラックス成分を必要としないことからIMS法をより好適に用いることができる。
【0082】
接合層の構造は特に限定されるものではなく、二種以上の接合層の材料が積層された多層構造としてもよい。接合層は、金属微粒子からなるピラーの少なくとも一方の先端部に形成される。
【0083】
<金属間化合物層>
本発明に係る金属間化合物層は、ピラー(A)と、接合層と、の間に形成される合金層のことを示している。金属間化合物の組成及びその比率については特に限定されるものではなく、金属種、焼結条件により合金の組成比率は変化する。
金属間化合物層は、接合材料がピラー(A)内部へ、ピラー(A)の金属が接合材料内部へ、相互に拡散することにより形成される。
金属微粒子ペーストから作製されるピラーは、金属微粒子から構成されており、多孔質構造を有する。当該構造は、金属微粒子が焼結により融着した場合であっても、維持される。
作製されたピラーに接合層を設ける際、溶融した接合材料が、多孔質構造を有するピラー(A)の細孔内部へと含侵する。含侵した接合材料は、金属微粒子と金属間化合物を形成する。
多孔質構造を有する材料は、その比表面積の大きさゆえ、バルク金属と比較して、素早く、また、均一な金属間化合物層を形成できる。
この金属間化合物層は、接合層とピラー(A)との界面に形成され、導電性ピラーの接合強度を向上させる。加えて、この金属間化合物層は
図2C及び
図4に示すように電極基板と平行に存在せず、凹型形状をしている。この凹型形状が、ダイシェア試験に対する強度を向上させている。
【0084】
<導電性ピラー(B、C)の形状、径及びアスペクト比の算出方法>
(導電性ピラーの形状)
導電性ピラー(B)又は(C)の形状について、導電性ピラーはチップ間を接合できれば、特に制限されるものではないが、導電性を損なわないために、円柱、三角柱、又は多角柱形状を好適に用いることができる。
【0085】
(導電性ピラーの径の算出方法)
本発明の導電性ピラーの径は、以下のとおりにして算出することができる。
導電性ピラーが円柱形状であって、ピラー(A)と電極基板との接続面が円であるときは、ピラー底面の形状である「円」の直径を導電性ピラーの径として算出することができる。
導電性ピラーが三角柱形状であって、ピラー(A)と電極基板との接続面が三角形であるときは、ピラー底面の形状である「三角形」の高さを導電性ピラーの径として算出することができる。
導電性ピラーが多角柱形状であって、ピラー(A)と電極基板との接続面が多角形であるとき(三角形を除く)は、ピラー底面の形状である「多角形」の対角線のうち最も長い線の長さを導電性ピラーの径として算出することができる。
【0086】
(導電性ピラーのアスペクト比の算出方法)
導電性ピラーのアスペクト比について、特に制限されるものではないが、アスペクト比0.5以上の導電性ピラーを好適に用いることができる。
導電性ピラーが円柱形状であって、ピラー(A)と電極基板との接続面が円であるときのアスペクト比は、
[アスペクト比]=[導電性ピラーの高さ]/[円の直径]
導電性ピラーが三角柱形状であって、ピラー(A)と電極基板との接続面が三角形であるときのアスペクト比は、
[アスペクト比]=[導電性ピラーの高さ]/[三角形の高さ]
導電性ピラーが多角柱形状であって、ピラー(A)と電極基板との接続面が多角形であるときのアスペクト比は、
[アスペクト比]=[導電性ピラーの高さ]/[多角形の対角線のうち最も長い線の長さ]
で算出することができる。
「導電性ピラーの高さ」とは、接合層を含んだ高さをいい、ピラー(A)と電極基板との接続面から垂直方向に伸ばした線のうち、最も長い長線の長さを採用する。
【0087】
<レジスト層の剥離>
導電性ピラー作製後、ピラー作製の際に鋳型として用いたレジスト層を除去してもよい。鋳型に用いたレジスト層を基板上から除去するためには、公知の手法を用いることができる。
レジスト層を除去せずに永久膜として残存させておくこともできる。永久膜とする場合には、樹脂膜を剥離する工程を削減することができるという利点がある。
【0088】
本発明の導電性ピラーは、フリップチップ実装をはじめとする種々の電子部品・デバイスの実装用端子として用いることができる(
図3)。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ここで「%」は、特に指定がない限り「質量パーセント濃度」である。
【0090】
(合成例1)
<分散体の合成>
酢酸銅(II)一水和物(3.00g、15.0mmol)(東京化成工業社製)、エチル3-(3-(メトキシ(ポリエトキシ)エトキシ)-2-ヒドロキシプロピルスルファニル)プロピオナート〔ポリエチレングリコールメチルグリシジルエーテル(ポリエチレングリコール鎖の分子量2000(炭素数91))への3-メルカプトプロピオン酸エチルの付加化合物〕(0.451g)、およびエチレングリコール(10mL)(関東化学社製)からなる混合物に、窒素を50mL/分の流量で吹き込みながら加熱し、125℃で2時間通気攪拌して脱気した。この混合物を室温に戻し、ヒドラジン水和物(1.50g、30.0mmol)(東京化成工業社製)を水7mLで希釈した溶液を、シリンジポンプを用いてゆっくり滴下した。約1/4量を2時間かけてゆっくり滴下し、ここで一旦滴下を停止し、2時間攪拌して発泡が沈静化するのを確認した後、残量を更に1時間かけて滴下した。得られた褐色の溶液を60℃に昇温して、さらに2時間攪拌し、還元反応を終結させた。
【0091】
つづいて、この反応混合物をダイセン・メンブレン・システムズ社製の中空糸型限外濾過膜モジュール(HIT-1-FUS1582、145cm2、分画分子量15万)中に循環させ、滲出する濾液と同量の0.1%ヒドラジン水和物水溶液を加えながら、限外濾過モジュールからの濾液が約500mLとなるまで循環させて精製した。0.1%ヒドラジン水和物水溶液の供給を止め、そのまま限外濾過法により濃縮すると、2.85gのチオエーテル型有機化合物と銅微粒子との複合体の水分散液が得られた。水分散液中の不揮発物含量は16%であった。
【0092】
<ペーストの調製>
上記の水分散液5mLをそれぞれ50mL三口フラスコに封入し、ウォーターバスを用いて40℃に加温を行いながら、減圧下、窒素を5mL/分の流速で流すことで、水を完全に除去し、銅微粒子複合体乾燥粉末1.0gを得た。
得られた乾燥粉末に窒素バブリングしたエチレングリコールを添加した。添加後、乳鉢で10分間混合することで金属微粒子含有率70%のペーストを作製した。また、表面張力を調整するためにフッ素系レベリング剤MEGAFACE(DIC社製)を添加した。
【0093】
<熱重量分析(TG-DTA)による重量減少率の測定>
合成した銅微粒子複合体乾燥粉末2~25mgを熱重量分析用アルミパンに精密にはかり、EXSTAR TG/DTA6300型示差熱重量分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)に載せ、不活性ガス雰囲気下において、室温~600℃まで毎分10℃の割合で昇温して、100℃~600℃の重量減少率を測定した。前記重量減少率より有機物の含有率を計算した。
【0094】
TG-DTA測定による重量減少より、得られた銅微粒子には3%のポリエチレンオキシド構造を含む有機物が存在することを確認した。
【0095】
<平均一次粒子径の測定>
平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により測定した。作製した金属微粒子を、良溶媒(水、テルピネオール、1-ブタノール又はエチレングリコール)で100倍に希釈し、その希釈液を、カーボン膜被覆グリッド上にキャストし、乾燥させ、透過型電子顕微鏡(装置:TEMJEM-1400(JEOL製)、加速電圧:120kV)にて観察した。
平均一次粒子径は、得られたTEM像の中から無作為に微粒子を200個抽出し、それぞれの面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として算出した値を採用した。
【0096】
得られた銅微粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察すると、得られた銅微粒子の平均一次粒子径は20nmであった。
【0097】
(合成例2)
<分散体の合成>
硝酸銅(東京化成工業社製)5.6g、保護剤としてオクチルアミン(東京化成工業社製)9.2g、リノール酸(東京化成工業社製)2.1gをトリメチルペンタン(東京化成工業社製)1Lに加え、攪拌混合し溶解した。この混合溶液に、0.01mol/Lの水素化ホウ素ナトリウム(東京化成工業社製)を含むプロパノール(東京化成工業社製)溶液1Lを1時間かけて滴下し銅を還元した。さらに、3時間攪拌して黒色の液体を得た。得られた黒色の液体をエバポレーターによって濃縮した後、これにメタノール2Lを加えて褐色の沈殿物を生成させた後、吸引ろ過により沈殿物を回収した。生成した沈殿物をトリメチルペンタンに再分散させ、ろ過した後、乾燥させて、銅微粒子を黒色の固体として、銅微粒子乾燥粉末1.0gを得た。
【0098】
<ペーストの調製>
得られた乾燥粉末に窒素バブリングしたテルピネオール(和光純薬工業製)を添加した。添加後、乳鉢で10分間混合することで金属微粒子含有率70%のペーストを作製した。また、表面張力を調整するためにフッ素系レベリング剤MEGAFACE(DIC社製)を添加した。
【0099】
<熱重量分析(TG-DTA)による重量減少率の測定>
合成例1記載の方法と同様にして、TG-DTAによる重量減少率の測定を行った。TG-DTA測定による重量減少より、得られた銅微粒子には2.2%の有機物が存在していたことを確認した。
【0100】
<平均一次粒子径の測定>
合成例1記載の方法と同様にして、平均一次粒子径の測定を行った。得られた微粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察すると、微粒子の平均一次粒子径は6nmであった。
【0101】
(合成例3)
<分散体の合成>
アルゴンガス雰囲気下で1Lフラスコに、N,N-ジメチルエチレンジアミン(東京化成工業社製)153.2g(1.738mol)、3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン(東京化成工業社製)325.6g(1.738mol)を添加後、この混合液の内温が30℃になるまでオイルバスで加熱攪拌した。加熱攪拌下、シュウ酸銀(松田産業社製)35.2g(0.116mol)を添加して、内温が40℃になるまで加熱攪拌した。1時間加熱攪拌を維持した後、フラスコ上部を開放し、オイルバスを95℃まで昇温した。シュウ酸銀とアミンの熱分解により反応液が90-97℃まで上昇することを確認後、フラスコをオイルバスから外し、アルゴンガス雰囲気下で反応液の内温が40℃以下になるまで冷却し、銀微粒子分散体を得た。
過剰なアミンを銀微粒子分散体から除去するために、N-ヘキサン(関東化学社製)によりデカンテーションを実施し、銀微粒子分散体を洗浄した。デカンテーション後、銀微粒子分散体約22gを得た。
【0102】
<ペーストの調製>
上記合成により得られた銀微粒子分散体に、銀に対して2.0%になるように、リシノール酸(東京化成工業社製)を加えた1-ブタノール(関東化学社製)混合液を、銀濃度が70%になるように添加した。0.5時間程度攪拌し、深い青色のペーストを得た。また、表面張力を調整するためにフッ素系レベリング剤MEGAFACEを添加した。
【0103】
<熱重量分析(TG-DTA)による重量減少率の測定>
合成例1記載の方法と同様にして、TG-DTAによる重量減少率の測定を行った。TG-DTA測定による重量減少より、得られた銀微粒子には4.1%の有機物が存在していたことを確認した。
【0104】
<平均一次粒子径の測定>
合成例1記載の方法と同様にして、平均一次粒子径の測定を行った。得られた銀微粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察すると、銀微粒子の平均一次粒子径は17nmであった。
【0105】
(合成例4)
<分散体の合成>
末端にp-トルエンスルホニルオキシ基を有するメトキシポリエチレングリコール化合物5.39g(2.5mmol)、分岐状ポリエチレンイミン(アルドリッチ社製、分子量25,000)を20.0g(0.8mmol)、炭酸カリウム0.07g及びN,N-ジメチルアセトアミド100mlを、窒素雰囲気下、100℃で6時間攪拌した。得られた反応混合物に酢酸エチルとヘキサンの混合溶液(V/V=1/2)300mlを加え、室温で強力攪拌した後、生成物の固形物を濾過した。その固形物を酢酸エチルとヘキサンの混合溶液(V/V=1/2)100mlを用いて2回繰り返し洗浄した後、減圧乾燥して、分岐状ポリエチレンイミンにポリエチレングリコールが結合した高分子化合物の固体を24.4g得た。
【0106】
得られた高分子化合物を0.592g用いた水溶液138.8gに酸化銀10.0gを加えて25℃で30分間攪拌した。引き続き、ジメチルエタノールアミン46.0gを攪拌しながら徐々に加えたところ、反応溶液は褐色に変わり、若干発熱したが、そのまま放置して25℃で30分間攪拌した。その後、10%アスコルビン酸水溶液15.2gを攪拌しながら徐々に加えた。その温度を保ちながらさらに20時間攪拌を続けて、褐色の分散体を得た。
【0107】
<ペーストの調製>
上記合成により得られた銀微粒子分散体に、銀に対して2.0%になるように、リシノール酸(東京化成工業社製)を加えた1-ブタノール(関東化学社製)混合液を、銀濃度が70%になるように添加した。0.5時間程度攪拌し、深い青色のペーストを得た。また、表面張力を調整するためにフッ素系レベリング剤MEGAFACEを添加した。
【0108】
<熱重量分析(TG-DTA)による重量減少率の測定>
合成例1記載の方法と同様にして、TG-DTAによる重量減少率の測定を行った。TG-DTA測定による重量減少より、得られた銀微粒子には1.8%の有機物が存在していたことを確認した。
【0109】
<平均一次粒子径の測定>
合成例1記載の方法と同様にして、平均一次粒子径の測定を行った。得られた銀微粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察すると、銀微粒子の平均一次粒子径は25nmであった。
【0110】
(合成例5)
<ペーストの調整>
本合成例のペーストは、銅粉末(三井金属鉱山(株)製 1100Y D50:1.1μm)を8.26gと、TEGO(登録商標)VARIPLUSSK(エボニックデグサジャパン(株)製)を0.190gと、DISPER BYK-111(ビックケミー社製 リン酸基含有ポリマー)を0.05gと、TRIXENE BI 7992(バクセンデン社製)を0.660gと、デナコ-ル(登録商標)EX-321(ナガセケムテックス(株)製)を0.207gと、ハイソルブ(登録商標)MTEM(東邦化学工業(株)製)を0.260gと、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを0.323gと、及び、U-CAT SA 102(サンアプロ(株)製)を0.050gと、をオートマチックフーバーマーラー((株)安田精機製作所製)を用いて混合し、分散させることにより作製した。
【0111】
<ペーストの調製>
その後、得られたペーストにジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを添加し、乳鉢で混合することで金属微粒子含有率を70%に調製した。
【0112】
<平均一次粒子径の測定>
合成例1記載の方法と同様にして、平均一次粒子径の測定を行った。購入した銅微粒子粉末を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察すると、銅微粒子の平均一次粒子径は1.2μmであった。
【0113】
(実施例1)
<導電性ピラーの作製>
(電極基板及び鋳型の作製)
実験に用いた電極基板の作製方法を述べる。ピラーの基板への接合状態を観察するため、以下の手順で基板を作製した。
Al製電極が設けられた4インチのシリコンウエハー上に、Ti(厚さ50nm)をスパッタした後、Cu(250nm)をスパッタし、電極基板を作製した。
スパッタをしたシリコン基板に最終膜厚が30μmになるようにレジスト樹脂を塗布し、パターニングした。レジストパターンの形状は円柱形状であり、開口部分の直径は30μmであり、開口部分の深さは30μmであった。アスペクト比は、1.0となるようにデザインした。
【0114】
(ピラー形成)
ピラーの形成は、調整したペーストを作製した電極基板に設けたレジスト開口部分に埋め込み、焼結することにより作製した。
ペーストの充填は、スクリーン印刷用のウレタンゴムスキージを用いて行った。印刷は手刷りで行い、印刷用マスクは使用しなかった。充填時の送印速度約10mm/sとした。
合成例1に記載した方法で作製したペーストを、ウレタンスキージにより直径30μmの開口部分に充填した。
【0115】
(焼結)
焼結は、ペーストを開口部分に充填した後、蟻酸蒸気を含んだ窒素ガス雰囲気下において250℃で10分間行った。焼結は、ホットプレートを用いて行った。
【0116】
(接合層の作製)
本実施例における接合層の作製には、IMS(Injection Molded Soldering)工法を使用した(特開2015-106617)。溶融はんだを保持するリザーバから、溶融はんだを射出し、ピラーを有するレジスト開口部分へ直接溶融はんだを供給した。はんだ合金は、SAC305を使用した。これにより、はんだ合金から成る接合層をピラー先端部に作製した。ピラー先端部で固化したはんだ合金は、レジスト層との表面エネルギー差によりその頭部が凸曲面状に盛り上がった形状を示した(
図1)。
【0117】
(実施例2)
<導電性ピラーの作製>
(電極基板及び鋳型の作製)
実施例1記載の方法と同様にして、電極基板の作製を行った。
【0118】
(ピラー形成)
合成例2に記載した方法で作製したペーストを用いて、実施例1記載の方法と同様にして、ピラーの形成を行った。
【0119】
(焼結)
実施例1記載の方法と同様にして、ペーストの焼結を行った。
【0120】
(接合層の作製)
実施例1記載の方法と同様にして、接合層の作製を行った。
【0121】
(実施例3)
<導電性ピラーの作製>
(電極基板及び鋳型の作製)
実施例1記載の方法と同様にして、電極基板の作製を行った。
【0122】
(ピラー形成)
合成例3に記載した方法で作製したペーストを用いて、実施例1記載の方法と同様にして、ピラーの形成を行った。
【0123】
(焼結)
実施例1記載の方法と同様にして、ペーストの焼結を行った。
【0124】
(接合層の作製)
実施例1記載の方法と同様にして、接合層の作製を行った。
【0125】
(実施例4)
<導電性ピラーの作製>
(電極基板及び鋳型の作製)
実施例1記載の方法と同様にして、電極基板の作製を行った。
【0126】
(ピラー形成)
合成例4に記載した方法で作製したペーストを用いて、実施例1記載の方法と同様にして、ピラーの形成を行った。
【0127】
(焼結)
実施例1記載の方法と同様にして、ペーストの焼結を行った。
【0128】
(接合層の作製)
実施例1記載の方法と同様にして、接合層の作製を行った。
【0129】
(実施例5)
<導電性ピラーの作製>
(電極基板及び鋳型の作製)
実験に用いた電極基板は、以下の手順で作製した。
4インチのシリコンウエハー上に設けられたAl製電極基板上に、Ni層を設け、その上にAuを無電解メッキ法により4μmの厚さで積層させた電極基板を作製した。作製した電極基板を本実験に用いた。
Au電極を有するシリコン基板に最終膜厚が30μmになるようにレジスト樹脂を塗布し、パターニングした。レジストパターンの形状は円柱形状であり、開口部分の直径は30μmであり、開口部分の深さは30μmであった。アスペクト比は、1.0となるようにデザインした。
【0130】
(ピラー形成)
合成例1に記載した方法で作製したペーストを用いて、実施例1記載の方法と同様にして、ピラーの形成を行った。
【0131】
(焼結)
実施例1記載の方法と同様にして、ペーストの焼結を行った。
【0132】
(接合層の作製)
実施例1記載の方法と同様にして、接合層の作製を行った。
【0133】
(比較例1)
<導電性ピラーの作製>
(電極基板及び鋳型の作製)
実施例1記載の方法と同様にして、電極基板の作製を行った。
【0134】
(ピラー形成)
合成例5に記載した方法で作製したペーストを用いて、実施例1記載の方法と同様にして、ピラーの形成を行った。
【0135】
(焼結)
焼結は、ペーストを開口部分に充填した後、蟻酸蒸気を含んだ窒素ガス雰囲気下において180℃で30分間行った。焼結は、ホットプレートを用いて行った。
【0136】
(接合層の作製)
実施例1記載の方法と同様にして、接合層の作製を行った。
【0137】
(比較例2)
<導電性ピラーの作製>
(電極基板及び鋳型の作製)
実施例1記載の方法と同様にして、電極基板の作製を行った。
【0138】
(導電性ピラーの作製)
本実施例におけるピラーの作製には、IMS(Injection Molded Soldering)工法を使用した(特開2015-106617)。溶融はんだを保持するリザーバから、溶融はんだを射出し、レジスト開口部分へ直接溶融はんだを供給した。はんだ合金は、SAC305を使用した。これにより、はんだ合金のみから成る導電性ピラーを作製した。固化したはんだ合金は、レジスト層との表面エネルギー差によりその頭部が凸曲面状に盛り上がった形状を示した。
【0139】
(参考例1)
<導電性ピラーの作製>
(電極基板の作製)
実験に用いた電極基板の作製方法を述べる。ピラーの基板への接合状態を観察するため、以下の手順で基板を作製した。
4インチのシリコンウエハー上に、Ti(厚さ50nm)をスパッタした後、電解メッキをするためのシード層としてCu(250nm)をスパッタした電極基板を作製し、実験に用いた。
スパッタをしたシリコン基板に最終膜厚が30μmになるようにレジスト樹脂を塗布し、パターニングした。レジストパターンの形状は円柱形状であり、開口部分の直径は30μmであり、開口部分の深さは30μmであった。アスペクト比は、1.0となるようにデザインした。
【0140】
(メッキピラーの作製)
作製した電極基板を5wt%硫酸に浸漬し、シード層の酸化被膜を除去する前処理を行った。前処理の後、硫酸銅・5水和物65g/L、硫酸170g/L、塩化ナトリウム70mg/Lからなる銅メッキ液を調整した。銅メッキ液に、作製した電極基板を浸漬させ、分極した。レジスト層のパターン開口部分の露出したカソード電極面に銅メッキを行い、ピラーを作製した。作製したピラーは円柱状であり、ピラー高さは20umであった。
【0141】
(接合層の作製)
実施例1記載の方法と同様にして、接合層の作製を行った。
【0142】
<導電性ピラーの評価>
(接合強度の測定)
接合強度の測定は、JIS Z-03918-5:2003「鉛フリーはんだ試験方法」に記載の方法で、上記の接合試験片にせん断力を付加し、接合強度を測定した。試験条件は、高さを電極基板より7μm、スピードを200μm/sで実施した。測定したピラーは、円柱形状のものを使用した。導電性ピラーの直径は75μmであり、高さは約30μmであった。
【0143】
実施例及び参考例に記載した導電性ピラーの接合強度測定を実施した。
ペーストの充填又はメッキ法によりレジスト開口部分にピラーを形成し、IMS法によりピラー先端部に接続層であるSAC305を形成し、導電性ピラーを得た。作製した導電性ピラーは、ピラーの高さ(金属微粒子層)が15~20μm、金属間化合物層が1~5μm、接合層が5~15μm程度であった。
レジスト薄膜を除去し、接合強度測定を行った。得られた接合強度測定の結果を表1に示した。
【0144】
(観察・評価)
評価基準について、測定は7箇所行った。評価は、測定した値の最高値を用いた。評価基準は、以下のとおりとした。
◎:作製した導電性ピラーのシェア強度の最高値が150MPa以上であることを示す。
○:作製した導電性ピラーのシェア強度の最高値が80MPa以上であることを示す。
△:作製した導電性ピラーのシェア強度の最高値が50MPa以上であることを示す。
×:作製した導電性ピラーのシェア強度の最高値が50MPa未満であることを示す。
【0145】
【0146】
実施例1から5で作製したピラーは、比較例のものと比較して良好な接合強度を示した。中でも、合成例1により作製した銅ペーストを用いて作製した導電性ピラーは非常に良好な結果を示した。特に、電極基板をAuにより作製した導電性ピラーは、参考例1に記載した銅メッキピラーと同程度の良好なシェア強度を示した。これは、電極基板表面が酸化の影響を受けず、電極と導電性ピラーとの接合が強固になったものと考えられる。
したがって、電極基板表面の酸化被膜を除去すると、実施例1から5においても参考例1記載の接合強度と同程度に向上すると考えられ、本発明に係る金属微粒子からなる導電性ピラーは産業上利用できることを示している。
【0147】
<導電性ピラーの電気抵抗測定>
作製した導電性ピラーを有するトップSiチップと銅製電極基板を有するボトムSiチップとを接合し、導電性ピラーの電気抵抗を4端子測定により測定した。測定に使用した導電性ピラーの直径は40μmの円柱形状であり、チップアッセンブリ後の導電性ピラーの高さは25μmであった。抵抗値の測定は、80個又は82個の導電性ピラーを直列に接合し、電気抵抗を測定することにより行った(
図3、
図4)。
測定は、80個又は82個の導電性ピラーが直列に接続された配線を16箇所測定した。測定により得られた抵抗値をもとに、導電性ピラー1個あたりの抵抗値を算出した。測定により得られた、それら抵抗値の平均値を表2に示す。
【0148】
【0149】
実施例1から5で作製したピラーは、比較例のものと比較して良好な抵抗値すなわち導電性を示した。中でも、合成例1により作製した銅ペーストを用いて作製した導電性ピラーは非常に良好な結果を示した。比較例2のSAC305と比較しても、1/10から1/5程度の抵抗値であり、実用に十分耐えうるものである。また、今回の導電性評価は80個又は82個の導電性ピラーを直列で接合し、導電性の評価を行ったが、本測定方法が可能なことから、本発明の導電性ピラーは欠けや欠落等の欠陥が少なく、良好な歩留りのものである。なお、比較例1は断線のため測定ができなかった。
【0150】
本発明の導電性ピラーは優れたシェア強度、導電性を有しており、フリップチップ実装用端子をはじめとする種々の電子部品・デバイス実装用端子として用いることができる。また、本発明の導電性ピラーはエッチング工程やメッキ工程を伴わず製造することもできるため、製造時の環境負荷が小さく、更には微細な構造とすることができる。
【符号の説明】
【0151】
11 基板、12 電極、13 ピラー(A)、14 接合層、
2A1 基板、2A2 電極、2A3 導電性ピラー(B又はC)、
2B1 基板、2B2 電極、2B3 ピラー(A)、2B4 接合層
2C1 基板、2C2 電極、2C3 ピラー(A)、2C4 接合層、2C5 金属間化合物層
31 基板、32 電極、33 ピラー(A)、34 金属間化合物層、35 接合層、36 電極、37 アンダーフィル、38 基板、39 導電配線