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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】サンプリング回路
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/12 20060101AFI20230314BHJP
【FI】
H03M1/12 C
H03M1/12 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021538558
(86)(22)【出願日】2019-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2019030672
(87)【国際公開番号】W WO2021024343
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2021-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 直樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷 宗彦
(72)【発明者】
【氏名】野坂 秀之
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第3113367(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0253286(US,A1)
【文献】特開2008-244576(JP,A)
【文献】特表2009-544242(JP,A)
【文献】米国特許第5471162(US,A)
【文献】特開昭63-001119(JP,A)
【文献】特開2010-035186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 1/00-1/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端から入力された入力信号を他端へ伝送する第1の伝送線路と、
一端から入力されたクロック信号を他端へ伝送する第2の伝送線路と、
前記第1および第2の伝送線路に対して一定の線路距離で接続されて、前記第2の伝送線路から供給される前記クロック信号で指定されたタイミングで、前記第1の伝送線路から供給される前記入力信号をサンプリングして保持出力する複数のサンプルホールド回路とを備え、
前記第1の伝送線路は、前記入力信号を前記線路距離ごとに第1の伝搬時間で伝送し、
前記第2の伝送線路は、前記クロック信号を前記線路距離ごとに、予め設定されたサンプリング間隔と前記第1の伝搬時間との和からなる第2の伝搬時間で伝送する
ことを特徴とするサンプリング回路。
【請求項2】
請求項1に記載のサンプリング回路において、
前記第1の伝送線路は、前記入力信号を前記線路距離ごとに前記第1の伝搬時間で伝搬させる第1の線路定数を有し、
前記第2の伝送線路は、前記クロック信号を前記線路距離ごとに前記第2の伝搬時間で伝搬させる第2の線路定数を有する
ことを特徴とするサンプリング回路。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のサンプリング回路において、
前記第1および第2の伝送線路のいずれか一方または両方は、差動伝送線路からなることを特徴とするサンプリング回路。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれかに記載のサンプリング回路において、
前記複数のサンプルホールド回路は、入力端子が前記第1の伝送線路に接続された第1の入力トランジスタを備え、
前記複数のサンプルホールド回路の前記第1の入力トランジスタに対して、前記第1の入力トランジスタが有する入力容量を調整するための第1のバイアス電圧を供給する第1のバイアス供給配線を、さらに備えることを特徴とするサンプリング回路。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれかに記載のサンプリング回路において、
前記複数のサンプルホールド回路は、入力端子が前記第2の伝送線路に接続された第2の入力トランジスタを備え、
前記複数のサンプルホールド回路の前記第2の入力トランジスタに対して、前記第2の入力トランジスタが有する入力容量を調整するための第2のバイアス電圧を供給する第2のバイアス供給配線を、さらに備えることを特徴とするサンプリング回路。
【請求項6】
請求項1~請求項3のいずれかに記載のサンプリング回路において、
前記複数のサンプルホールド回路は、前記第1の伝送線路に接続されている第1の入力トランジスタと並列して、入力端子が前記第1の伝送線路に接続された第1の半導体素子を備え、
前記複数のサンプルホールド回路の前記第1の半導体素子に対して、前記第1の半導体素子が有する入力容量を調整するための第1のバイアス電圧を供給する第1のバイアス供給配線を、さらに備えることを特徴とするサンプリング回路。
【請求項7】
請求項1~請求項3のいずれかに記載のサンプリング回路において、
前記複数のサンプルホールド回路は、前記第2の伝送線路に接続されている第2の入力トランジスタと並列して、入力端子が前記第2の伝送線路に接続された第2の半導体素子を備え、
前記複数のサンプルホールド回路の前記第2の半導体素子に対して、前記第2の半導体素子が有する入力容量を調整するための第2のバイアス電圧を供給する第2のバイアス供給配線を、さらに備えることを特徴とするサンプリング回路。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれかに記載のサンプリング回路において、
前記第1の伝送線路の前記一端に接続された前記入力信号の信号源の出力抵抗と、前記第1の伝送線路の特性インピーダンスと、前記第1の伝送線路の前記他端に接続された終端抵抗とが、前記複数のサンプルホールド回路の入力容量を含めてインピーダンス整合されているか、
前記第2の伝送線路の前記一端に接続された前記クロック信号の信号源の出力抵抗と、前記第2の伝送線路の特性インピーダンスと、前記第2の伝送線路の前記他端に接続された終端抵抗とが、前記複数のサンプルホールド回路の入力容量を含めてインピーダンス整合されているか、
の少なくともいずれかであることを特徴とするサンプリング回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイムインターリーブ構成を用いて高周波の入力信号をサンプリングするサンプリング回路技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有線通信や無線通信の高速・大容量化に伴い、通信システムが処理するデータレートは年々高速化してきている。これに伴い、アナログ値をデジタル値に変換するADコンバータに要求される変換速度も高速化してきている。ADコンバータが入力値を変換している間、入力は一定に保たれている必要があるため、サンプリング回路がADコンバータの前段に用いられる。サンプリング回路とは、時間方向に連続な入力値をクロック周期で取得(サンプリング)し、一定の時間保持する回路である。ここで単位時間あたりにサンプリングする回数をサンプリングレートと呼ぶ。
【0003】
近年の通信に要求されるデータレートの高速化に対応するためには、より高速なサンプリングレートを持つサンプリング回路が必要不可欠である。サンプリング回路においては、入力値を保持する瞬間は1クロック周期につき1回発生するため、次の式に示すように、サンプリングレートは、クロック周波数に等しいという関係が成り立つ。
(サンプリングレート)=(クロック周波数)
クロック周波数を上げると、時間方向の分解能の向上が図れるが、クロック生成回路やクロックバッファ、あるいはサンプリング回路そのものに対するアナログ回路設計上の要求水準が厳しくなるという問題がある。
【0004】
従来、このようなクロック周波数そのものを変えることなく、サンプリングレートを上げるための回路構成上の手法としてタイムインターリーブ構成が提案されている(例えば、非特許文献1など参照)。図8は、従来のサンプリング回路の構成例を示す回路図である。図8に示した、従来のサンプリング回路50では、タイムインターリーブ構成として、サンプルホールド回路SHを複数個並列に用いている。この個数をインターリーブ数と呼び、ここではn(nは2以上の整数)とする。また、n個あるサンプルホールド回路SHのそれぞれを、伝送線路の入力端子に近い順にサンプルホールド回路SH(i)(i=1,2,…,n)とする。
【0005】
個々のサンプルホールド回路SHには、入力信号dinおよびクロック信号ckが、それぞれ第1の伝送線路W51および第2の伝送線路W52を介して、共通して供給される。クロック信号ckは、サンプルホールド回路SHのスイッチSWのオンオフ、すなわちサンプリングのタイミング制御に用いられる。入力信号dinは、スイッチSWがクロック信号ckによりオンしたタイミングで、サンプルホールド回路SHの容量素子Csで保持され、その保持電圧がサンプリング電圧Vs(i)として出力される。
【0006】
ここで、全体のインターリーブ数nに対するクロック信号ckの時間遅れを、クロック信号ckの1クロック周期分すなわちTckとし、隣接するサンプルホールド回路SH間の時間遅れをΔT=Tck/nとなるように設計する。図8において、第2の伝送線路W52の途中にあるΔTは時間遅れを表す。この時間遅れは、回路レベルの実装においては、例えば多段接続したバッファ等の遅延回路DLで実現される。
先頭のサンプルホールド回路SH(1)が入力信号dinをサンプリングする時刻をt=0とし、任意の整数値j=0,1,2,…に対してjをnで割った余りをkとする。この場合には、時刻t=ΔT×jにおいてサンプルホールド回路SH(k+1)がサンプリングを行うことになる。
【0007】
したがって、時刻t=ΔT×jにおいて、サンプルホールド回路SH(1)~S(n)のうち、必ずいずれか1つのサンプルホールド回路SHがサンプリングを行うため、このサンプリング回路50全体のサンプリング間隔はΔT=Tck/nとなる。すなわち、入力されるクロック信号ckの周期はTckであり、個々のサンプルホールド回路SH(i)も周期Tckで動作しながら、回路全体ではTckよりも短い周期ΔTでサンプリングを行うことが可能となる。
【0008】
以上の説明を一般化すると、タイムインターリーブ構成を用いた場合、次の式に示すように、サンプリング回路50全体のサンプリングレートは、クロック周波数とインターリーブ数の積に等しい、という関係が成り立つ。
(サンプリングレート)=(クロック周波数)×(インターリーブ数)
したがって、インターリーブ数を増やすことで、クロック生成回路やクロックバッファへの要求がさほど厳しくないような、比較的遅いクロック周波数を用いた場合でも、高いレートでサンプリングすることが可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】W. Black and D. Hodges, "Time interleaved converter arrays," ISSCC 1980
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述したようなタイムインターリーブ構成を用いたサンプリング回路50において、実際には、個々のサンプルホールド回路SHの入力段がトランジスタ素子すなわち入力トランジスタから構成される。したがって、入力トランジスタがバイポーラトランジスタならベース電極、MOSFETならゲート電極に、入力信号dinの入力電圧が印加されることになる。以下では、バイポーラトランジスタを例に説明するが、これに限定されるものではなく、MOSFET等他のトランジスタでも同様の議論が適用される。
【0011】
一般に、バイポーラトランジスタのベース電極は、入力容量として対地容量成分を有している。これは主に、ベース-エミッタ電極間およびベース-コレクタ電極間のpn接合に寄生する接合容量に起因する。一方、タイムインターリーブ構成を用いた場合、個々のサンプルホールド回路SHは、互いに並列的に接続される。このため、第1の伝送線路W51および第2の伝送線路W52全体での入力容量は、個々のサンプルホールド回路SHの入力容量の和となる。したがって、インターリーブ数を増やすごとに全体の入力容量が増加し、入力帯域が狭まるという課題がある。
【0012】
第1の伝送線路W51において、入力信号dinの信号源S1に関する出力抵抗をRo1とし、インターリーブ数をnとすると、サンプリング回路50全体の入力信号dinに対する遮断周波数fcutoffは、次の式(1)で与えられる。
【0013】
【数1】
【0014】
この式(1)において、インターリーブ数nを大きくするにつれて分母の値が大きくなり、サンプリング回路50全体の遮断周波数fcutoffが小さくなることを示している。このため、インターリーブ数nを大きくすると、遮断周波数fcutoffが低下し、結果としてサンプリング回路50の入力帯域が狭帯域化してしまうという課題がある。したがって、サンプリング回路50に入力可能な帯域内に、入力信号dinの信号周波数を抑え込もうとすると、入力信号dinのデータレートを下げざるを得ないことになる。このため、タイムインターリーブ構成を採用して、サンプリング回路50のサンプリングレートを上げたことによる本来の作用効果が得られなくなってしまう。
【0015】
本発明は、この課題に鑑みてなされたものであり、インターリーブ数の増加に伴う入力帯域の狭帯域化を回避し、広帯域な入力特性を実現できるサンプリング回路技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような目的を達成するために、本発明にかかるサンプリング回路は、一端から入力された入力信号を他端へ伝送する第1の伝送線路と、一端から入力されたクロック信号を他端へ伝送する第2の伝送線路と、前記第1および第2の伝送線路に対して一定の線路距離で接続されて、前記第2の伝送線路から供給される前記クロック信号で指定されたタイミングで、前記第1の伝送線路から供給される前記入力信号をサンプリングして保持出力する複数のサンプルホールド回路とを備え、前記第1の伝送線路は、前記入力信号を前記線路距離ごとに第1の伝搬時間で伝送し、前記第2の伝送線路は、前記クロック信号を前記線路距離ごとに、予め設定されたサンプリング間隔と前記第1の伝搬時間との和からなる第2の伝搬時間で伝送するようにしたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、タイムインターリーブを用いたサンプリング回路の高速化に際し、インターリーブ数の増加に伴う入力容量の増加を回避でき、広帯域な入力特性を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、第1の実施の形態にかかるサンプリング回路の構成を示す回路図である。
図2図2は、伝送線路の分布定数回路を示す説明図である。
図3図3は、伝搬時間差生成例(線路幅)を示すブロック図である。
図4図4は、伝搬時間差生成例(線路長)を示すブロック図である。
図5図5は、伝搬時間差生成例(分岐接続)を示すブロック図である。
図6図6は、第2の実施の形態にかかるサンプリング回路の構成を示す回路図である。
図7図7は、第3の実施の形態にかかるサンプリング回路の構成を示す回路図である。
図8図8は、従来のサンプリング回路の構成例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかるサンプリング回路10について説明する。図1は、第1の実施の形態にかかるサンプリング回路の構成を示す回路図である。
【0020】
図1に示すように、サンプリング回路10は、外部から入力された入力信号dinを指定されたタイミングでサンプリングして保持するn(nは2以上の整数)個のサンプルホールド回路SH(i)(i=1,2,…,n)と、これらサンプルホールド回路SHに対して入力信号dinを供給する第1の伝送線路W1と、これらサンプルホールド回路SHに対してサンプリングのタイミングを指定するクロック信号ckを供給する第2の伝送線路W2とを備えている。
【0021】
[サンプルホールド回路]
サンプルホールド回路SHは、第1の伝送線路W1および第2の伝送線路W2に対して、一定の線路距離xをあけて並列的に接続されている。サンプルホールド回路SHは、すべて同じ回路構成を有しており、クロック信号ckに応じてオンオフ動作するスイッチSWと、スイッチSWがオンしたタイミングで第1の伝送線路W1から入力された入力信号dinをサンプリングして保持し、その保持電圧をサンプリング電圧Vs(i)として出力する容量素子Csとを備えている。
【0022】
[第1の伝送線路]
第1の伝送線路W1は、入力信号dinを線路距離xごとに第1の伝搬時間Tx1で伝搬させる第1の線路定数を有する伝送線路からなり、入力信号dinを線路距離xごとに第1の伝搬時間Tx1で伝送することにより、サンプルホールド回路SHのそれぞれに対して入力信号dinを供給するよう構成されている。第1の伝送線路W1の一端(入力ポート)P11と接地電位GNDとの間には、出力抵抗Ro1を有する入力信号dinの信号源S1が接続されている。また、第1の伝送線路W1の他端(出力ポート)P12と接地電位GNDとの間には、インピーダンス整合のための終端抵抗RL1が接続されている。
【0023】
[第2の伝送線路]
第2の伝送線路W2は、クロック信号ckを線路距離xごとに第2の伝搬時間Tx2で伝搬させる第2の線路定数を有する伝送線路からなり、クロック信号ckを線路距離xごとに、予め設定されたサンプリング間隔ΔTと第1の伝搬時間Tx1との和からなる第2の伝搬時間Tx2で伝送することにより、サンプルホールド回路SHのそれぞれに対してクロック信号ckを供給するよう構成されている。第2の伝送線路W2の一端(入力ポート)P21と接地電位GNDとの間には、出力抵抗Ro2を有するクロック信号ckの信号源S2が接続されている。また、第2の伝送線路W2の他端(出力ポート)P22と接地電位GNDとの間には、インピーダンス整合のための終端抵抗RL2が接続されている。
【0024】
[伝送線路]
次に、伝送線路の基本的な考え方について説明する。
一般に、電子回路の内部において、例えば同一チップ上における異なる回路ブロック間のデータ伝送などに、数百μm程度以上の長さの伝送線路を使うことがある。しかし、周波数が数十~数百GHzに達する高周波信号を扱う場合、誘電体に囲まれた金属配線中の伝搬においてその波長が数百μmまで短くなる。したがって、低周波信号の集中乗数回路で扱われるような理想的な伝送線路、すなわち時間差ゼロで信号が伝わり、誘導・容量成分が一切ないような伝送線路を仮定することはできず、信号の波としての特性を考慮した議論が必要となる。
【0025】
高周波信号が、このような伝送線路を伝搬する場合、同一伝送線路上であっても、その伝搬する位置によって、電圧や電流のベクトル、すなわち伝送線路を取り巻く電界と磁界のベクトルが異なる。したがって、高周波信号の場合、配線ループと鎖交する磁束の時間変化による誘導起電力を無視できなくなるため、伝送線路全体に誘導成分が分布していると解釈できる。
【0026】
高周波信号の場合、接地電位GNDに対する容量も無視できなくなるため、伝送線路全体に容量成分が分布していると解釈できる。このような伝送線路全体における誘導成分と容量成分との間には、トレードオフの関係がある。これは、誘導成分をできるだけ小さくするために、配線ループが囲む面積を小さくすると、配線同士が近接して容量成分が大きくなるためである。
【0027】
図2は、伝送線路の分布定数回路を示す説明図である。伝送線路のそれぞれの位置での電力損失を考えると、伝送線路は、図2に示すような分布定数回路を用いたモデルで表される。すなわち、伝送線路Wは、モデル化された回路すなわち分布定数回路Mが、無限につながったものと考えることができる。
【0028】
図2に示すように、伝送線路Wに関する、単位長あたりの分布定数回路Mは、伝送線路Wに直列して生じる抵抗成分Rおよび誘導成分Lと、伝送線路Wと接地電位GNDとの間に生じるコンダクタンス成分Gおよび容量成分Cで表される。
したがって、伝送線路Wを伝搬する電気信号は、このようなモデルに基づいて立てられる電信方程式の解として得られる。この考え方により、高周波における実際の振る舞いをより正確に記述することができる。伝送線路Wはこの考え方に基づいて設計される。
【0029】
理解を容易とするため、周波数ωが十分大きく、伝送線路Wに直列して生じる抵抗成分Rと、伝送線路Wと接地電位GNDとの間に生じるコンダクタンス成分Gについて、R<<jωL、G<<jωCが成り立つと仮定する。このとき、伝送線路Wを伝搬する電圧と電流の比は、特性インピーダンスZ0と呼ばれる。この特性インピーダンスZ0と、波形が伝搬する速度を示す位相速度vとは、次の式(2)で与えられる。
【0030】
【数2】
【0031】
電子回路において、このような伝送線路Wを設計する際、なるべく損失が少なく、伝送線路W全体にわたって伝搬特性が均一であり、かつ、伝搬特性がコントロールしやすい設計法が用いられる。具体的には、マイクロストリップ線路、ストリップ線路、コプレーナ線路などが、主な物理的な設計方法である。以上が伝送線路の基本的な考え方である。
【0032】
[第1および第2の伝送線路]
次に、図1を参照して、本実施の形態にかかるサンプリング回路10の第1の伝送線路W1および第2の伝送線路W2について説明する。以下では、第1の伝送線路W1および第2の伝送線路W2を代表する伝送線路Wを想定して説明する。
【0033】
サンプルホールド回路SHを無視した伝送線路W(W1,W2)に関する、単位長あたりの誘導成分および容量成分をそれぞれLおよびCとする。伝送線路Wに対してサンプルホールド回路SHが一定の線路距離xで接続されているとすると、伝送線路Wの途中には、サンプルホールド回路SHの入力容量が等しい線路距離xで伝送線路Wに接続されていることになる。前述したように、サンプルホールド回路SHの入力段がトランジスタ素子からなるとすると、伝送線路W側から見たサンプルホールド回路SHの入力負荷は容量成分を有しており、この容量成分をCq(Cq1,Cq2)とする。
【0034】
ここで、このように伝送線路Wの途中に容量成分Cqが等間隔に配置されている場合、伝送線路Wを大局的にみたとき、単位長あたりの誘導成分はLのままで、単位長あたりの容量成分がC+Cq/xに増えたと考えることができる。この仮定が成り立たなくなる場合については後述する。したがって、元々の伝送線路WにCqが追加されたことにより、本来の特性とは異なる特性を有する疑似的な伝送線路を、新たに考慮する必要がある。
【0035】
本発明は、このようなサンプルホールド回路SHの入力容量Cqを考慮した新たな伝送線路を疑似伝送線路と呼び、第1および第2の伝送線路W1、W2のそれぞれが、この疑似伝送線路から構成されているものと見なしている。また、本発明では、第1の伝送線路W1に関する、単位長あたりの誘導成分L1および容量成分C1を、第1の線路定数と呼び、第2の伝送線路W2に関する、単位長あたりの誘導成分L2および容量成分C2を、第2の線路定数と呼ぶ。
【0036】
なお、本発明では、疑似伝送線路を伝搬する信号の位相速度vや遮断周波数fcutoffが、サンプリング回路10の入力特性に直接関与するため、これら位相速度vや遮断周波数fcutoffの算出に用いる、単位長あたりの誘導成分Lと容量成分Cとを線路定数と呼ぶが、これに限定されるものではない。図2に示した単位長あたりの抵抗成分Rやコンダクタンス成分Gを、線路定数に含めてもよい。
【0037】
したがって、サンプルホールド回路SHの入力容量Cqが線路距離xごとに接続されているとすると、疑似伝送線路の特性インピーダンスZ0と位相速度vは、前出の式(2)を用いて、次の式(3)でそれぞれ求められる。
【0038】
【数3】
【0039】
[第1の実施の形態の動作]
次に、図1を参照して、本実施の形態にかかるサンプリング回路10の動作について説明する。
出力抵抗Ro1を有する信号源S1から、第1の伝送線路W1の一端P11に入力された入力信号dinは、第1の伝送線路W1の特性で決まる一定の位相速度で、前述した擬似伝送線路からなる第1の伝送線路W1を伝搬し、第1の伝送線路W1の他端P12に接続された終端抵抗RL1に到達する。
この際、個々のサンプルホールド回路SHの入力容量Cq1も含めて、第1の伝送線路W1と終端抵抗RL1とのインピーダンスが整合されているため、入力信号dinは、他端P12で反射することなく、そのまま終端抵抗RL1に吸収される。
【0040】
第1の伝送線路W1に関する第1の線路定数である、単位長あたりの誘導成分および容量成分を、それぞれL1およびC1とすると、入力信号dinが、第1の伝送線路W1上において、一定の線路距離x1で隣接するサンプルホールド回路SH間を伝搬するのに要する第1の伝搬時間Tx1は、次の式(4)で表される。
【0041】
【数4】
【0042】
一方、出力抵抗Ro2を有する信号源S2から、第2の伝送線路W2の一端P21に入力されたクロック信号ckも、入力信号dinと同様に、第2の伝送線路W2の特性で決まる一定の位相速度で、前述した擬似伝送線路からなる第2の伝送線路W2を伝搬し、第2の伝送線路W2の他端P22に接続された終端抵抗RL2に到達する。
この際、個々のサンプルホールド回路SHの入力容量Cq2も含めて、第2の伝送線路W2と終端抵抗RL2とのインピーダンスが整合されているため、クロック信号ckは、他端P12で反射することなく、そのまま終端抵抗RL2に吸収される。
【0043】
第2の伝送線路W2に関する第2の線路定数である、単位長あたりの誘導成分および容量成分をそれぞれL2およびC2とし、サンプリング間隔をΔTとし、クロック信号ckのクロック周期をTckとした場合、クロック信号ckが、第2の伝送線路W2上において、一定の線路距離x2で隣接するサンプルホールド回路SH間を伝搬するのに要する第2の伝搬時間Tx2は、第1の伝搬時間Tx1を用いて、次の式(5)で表される。
【0044】
【数5】
【0045】
したがって、第2の伝搬時間Tx2が、第1の伝搬時間Tx1とサンプリング間隔ΔTとの和と等しくなるよう、第2の伝送線路W2に接続される入力容量Cq2および第2の伝搬時間Tx2に合わせて、第2の線路定数である誘導成分L2および容量成分C2の値を設計すれば、個々のサンプルホールド回路SHに入力される入力信号dinとクロック信号ckとが同期することになる。これにより、クロック周波数はTckでありながら、その1/nの周期ΔTで精度よくサンプリングすることができる。
【0046】
以下、図3図5を参照して、第1および第2の伝送線路W1,W2でサンプリング間隔ΔTに相当する伝搬時間差を生成するための具体的な構成例について説明する。図3は、伝搬時間差生成例(線路幅)を示すブロック図である。図4は、伝搬時間差生成例(線路長)を示すブロック図である。図5は、伝搬時間差生成例(分岐接続)を示すブロック図である。
【0047】
図3の構成例は、第1および第2の伝送線路W1,W2に関する、線路幅、および、接地電位GNDとの距離の、いずれか一方または両方を調整することにより、線路定数、すなわち容量成分C1,C2と誘導成分L1,L2を変化させて、それぞれの位相速度vを決定することにより、伝搬時間差を生成する方法である。図3には、第1および第2の伝送線路W1,W2の両方を直線状に形成し、第2の伝送線路W2に比較して第1の伝送線路W1の線路幅を大きくし、第1および第2の伝送線路W1,W2に対してサンプルホールド回路SHが接続される線路距離x1,x2が等しく(x1=x2)した構成例が示されている。
【0048】
図3の伝搬時間差生成方法によれば、誘導成分L1に比較して誘導成分L2が大きくなるため、第1の伝送線路W1に比較して第2の伝送線路W2の位相速度vが小さくなって伝搬時間差が生じ、結果として入力信号dinに比較してクロック信号ckの伝搬が遅れることになる。図3の構成例についてはあくまでも1つの例であり、これに限定されるものではなく、適宜、アレンジを加えてもよい。例えば、後述する図4と組合せて第1および第2の伝送線路W1,W2のいずれか一方または両方を蛇行させてもよい。
【0049】
図4の構成例は、隣接するサンプルホールド回路SH間を結ぶ、第1および第2の伝送線路W1,W2の線路長を調整することにより、線路定数、すなわち容量成分C1,C2と誘導成分L1,L2を変化させて、それぞれの位相速度vを決定することにより、伝搬時間差を生成する方法である。図4には、第1の伝送線路W1を直線状に形成し、第2の伝送線路W2をジグザグ状(矩形波形状、ミアンダ形状、正弦波形状)に蛇行させることにより、第1の伝送線路W1の線路距離x1に比較して第2の伝送線路W2の線路距離x2を長く(x1<x2)した構成例が示されている。
【0050】
図4の伝搬時間差生成方法によれば、容量成分C1と誘導成分L1に比較して容量成分C2と誘導成分L2が大きくなるため、第1の伝送線路W1に比較して第2の伝送線路W2の位相速度vが小さくなって伝搬時間差が生じ、結果として入力信号dinに比較してクロック信号ckの伝搬が遅れることになる。図3の構成例についてはあくまでも1つの例であり、これに限定されるものではなく、適宜、アレンジを加えてもよい。例えば、第1および第2の伝送線路W1,W2の両方を蛇行させ、第1の伝送線路W1に比較して第2の伝送線路W2の蛇行幅を大きくしてもよい。これにより、線路距離x1に比較して線路距離x2を長くすることができる。
【0051】
図5の構成例は、直列に接続された複数の分岐バッファBUFを用いて、第2の伝送線路W2を、サンプルホールド回路SHごとに分岐することにより、分岐バッファBUFでの遅延時間に応じて伝搬時間差を生成する方法である。
図5の構成例についてはあくまでも1つの例であり、これに限定されるものではなく、適宜、アレンジを加えてもよい。例えば、前述した図3図4の伝搬時間差生成方法と任意に組み合わせて実施してもよい。
【0052】
なお、以上の説明では、第1および第2の伝送線路W1,W2が、シングルエンドの伝送線路からなる場合を例として説明したが、これに限定されるものではなく、いずれか一方または両方を、差動伝送線路で構成してもよい。差動伝送線路は、対をなす2つの線路からなり、これら2つの線路で互いに逆位相である2つの信号、すなわち差動信号をそれぞれ伝送する伝送線路である。これにより、同相ノイズをキャンセルすることができるとともに、偶数次の非線形歪みを抑制することができる。
【0053】
[第1の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、一端P11から入力された入力信号dinを他端P12へ伝送する第1の伝送線路W1と、一端P12から入力されたクロック信号ckを他端P22へ伝送する第2の伝送線路W2と、これら第1および第2の伝送線路W1,W2に対して一定の線路距離xで接続された複数のサンプルホールド回路SHとを備え、第1の伝送線路W1は、入力信号dinを線路距離xごとに第1の伝搬時間Tx1で伝送し、第2の伝送線路W2は、クロック信号ckを線路距離xごとに、予め設定されたサンプリング間隔ΔTと第1の伝搬時間Tx1との和からなる第2の伝搬時間Tx2で伝送するようにしたものである。
【0054】
より具体的には、第1の伝送線路W1は、入力信号dinを線路距離xごとに第1の伝搬時間Tx1で伝搬させる第1の線路定数、すなわち単位長あたりの誘導成分L1と容量成分C1を有し、第2の伝送線路W2は、クロック信号ckを線路距離xごとに第2の伝搬時間Tx2で伝搬させる第2の線路定数、すなわち単位長あたりの誘導成分L2と容量成分C2を有している。
【0055】
これにより、個々のサンプルホールド回路SHの入力容量Cq1,Cq2は、それぞれ第1および第2の伝送線路W1,W2の容量成分C1,C2の一部と見なすことができる。すなわち、入力容量Cq1,Cq2が容量成分C1,C2に吸収されることになる。このため、前述した従来構成におけるインターリーブ数nの増加に伴う入力容量Cq1,Cq2の増大を抑制でき、サンプリング回路10における入力帯域の広帯域化を実現することが可能となる。
【0056】
ここで、本回路構成における伝送線路W(W1,W2)の遮断周波数fcutoffについて述べる。損失が無視できる伝送線路の場合、理論上、遮断周波数は存在せず、無限に高周波な波形であっても伝搬させることができる。しかし、本回路構成のように、伝送線路Wの途中に集中定数的に入力容量Cq(Cq1,Cq2)が配置されている場合、入力容量Cq間の線路距離xが、波長に対し無視できなくなる程度の高周波の信号(din,ck)に対して、L(L1,L2)とC(C1,C2)からなる2次のローパスフィルタ効果が現れて、伝送線路Wを伝搬する信号の波形が減衰する。このときの遮断周波数fcutoffは、次の式(6)で計算される。
【0057】
【数6】
【0058】
伝送線路Wを伝搬する信号が、遮断周波数fcutoffよりも十分低い周波数であれば、入力容量Cqも含めて伝送線路と見なせるが、遮断周波数fcutoff近辺まで高周波になると、波形に対してCqが集中定数的に見える。このため、LとCの2次ローパスフィルタの特性が現れて、伝送線路Wを伝搬する信号が減衰し、サンプリング回路10全体の入力帯域は、この遮断周波数fcutoffまでの帯域となる。この際、前述の式(1)で説明した従来構成の遮断周波数fcutoffのように、式(6)には、インターリーブ数nが分母に含まれていない。したがって、インターリーブ数nを大きくしても、遮断周波数fcutoffが低下することはない。
【0059】
[第2の実施の形態]
次に、図6を参照して、本発明の第2の実施の形態にかかるサンプリング回路11について説明する。図6は、第2の実施の形態にかかるサンプリング回路の構成を示す回路図である。
【0060】
発明が解決しようとする課題の欄で述べたが、サンプルホールド回路SHの入力容量Cqは、入力トランジスタのpn接合に寄生する接合容量に起因する。入力トランジスタがバイポーラポーラトランジスタの場合、ベース-エミッタ電極間、およびベース-コレクタ電極間のPn接合に寄生する接合容量からなる。この入力容量Cqは、pn接合の両端にかかるバイアス電圧に対する依存性を持つ。本実施の形態は、入力トランジスタに供給される入力信号dinやクロック信号ckのバイアス電圧を調整することにより、入力容量Cqの値を可変制御するようにしたものである。
【0061】
図1と比較して、本実施の形態にかかるサンプリング回路11には、図6に示すように、第1のバイアス供給配線Wb1と第2のバイアス供給配線Wb2とが追加されている。
第1のバイアス供給配線Wb1は、各サンプルホールド回路SHのうち、入力信号dinが入力される第1の入力トランジスタQ1に対して第1のバイアス電圧Vb1を供給する配線である。第2のバイアス供給配線Wb2は、各サンプルホールド回路SHのうち、クロック信号ckが入力される第2の入力トランジスタQ2に対して第2のバイアス電圧Vb2供給する配線である。図6では、第1のバイアス供給配線Wb1と第2のバイアス供給配線Wb2の両方を設けた場合が示されているが、これに限定されるものではなく、第1のバイアス供給配線Wb1と第2のバイアス供給配線Wb2のいずれか一方のみを設けてもよい。
【0062】
第1のバイアス電圧Vb1は、第1のバイアス供給配線Wb1の一端(入力ポート)Pb1から入力され、第1のバイアス供給配線Wb1を介して、各サンプルホールド回路SHの第1の入力トランジスタQ1に供給される。第1の入力トランジスタQ1は、第1のバイアス電圧Vb1が高く(低く)なれば、入力容量Cq1が小さく(大きく)なるため、第1の伝送線路W1に関する第1の伝搬時間Tx1を小さく(大きく)することができる。これにより、第1のバイアス電圧Vb1の電圧値を調整することにより、結果として、第1の伝送線路W1に関する第1の伝搬時間Tx1を制御することができる。
【0063】
また、第2のバイアス電圧Vb2は、第2のバイアス供給配線Wb2の一端(入力ポート)Pb2から入力され、第2のバイアス供給配線Wb2を介して、各サンプルホールド回路SHの第2の入力トランジスタQ2に供給される。第2の入力トランジスタQ2は、第2のバイアス電圧Vb2が高く(低く)なれば、入力容量Cq2が小さく(大きく)なるため、第2の伝送線路W2の第2に関する伝搬時間Tx2を小さく(大きく)することができる。これにより、第2のバイアス電圧Vb2の電圧値を調整することにより、結果として、第2の伝送線路W2に関する第2の伝搬時間Tx2を制御することができる。
【0064】
[第2の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態によれば、第1のバイアス供給配線Wb1に関する第1の伝搬時間Tx1や、第2のバイアス供給配線Wb2に関する第2の伝搬時間Tx2を制御することができる。一般に、タイムインターリーブのサンプリングレートを変更するには、クロック信号ckのクロック周波数を変えるのと同時に、遅延量ΔT=Tck/nも変更する必要がある。本実施の形態によれば、第1の伝搬時間Tx1や第2の伝搬時間Tx2を制御できるため、遅延量ΔTも容易に変更することができる。したがって、タイムインターリーブのサンプリングレートを容易に変更可能な、サンプリング回路11を実現することができる。
【0065】
[第3の実施の形態]
次に、図7を参照して、本発明の第3の実施の形態にかかるサンプリング回路12について説明する。図7は、第3の実施の形態にかかるサンプリング回路の構成を示す回路図である。
【0066】
図6では、サンプルホールド回路SHの第1および第2の入力トランジスタQ1,Q2に関する入力容量Cqを調整する場合を例として説明した。本実施の形態は、第1および第2の入力トランジスタQ1,Q2とは別個に設けた第1および第2の半導体素子U1,U2の入力容量Cqを調整する場合について説明する。
【0067】
図1と比較して、本実施の形態にかかるサンプリング回路11には、図7に示すように、第1のバイアス供給配線Wb1および第2のバイアス供給配線Wb2が追加されている。また、各サンプルホールド回路SHの第1および第2の入力トランジスタQ1,Q2と並列して、第1および第2の入力トランジスタQ1,Q2の接続点と接地電位GNDとの間に、入力端子が第1の伝送線路W1に接続された第1の半導体素子U1と、入力端子が第2の伝送線路W2に接続された第2の半導体素子U2とが追加されている。
【0068】
第1および第2の半導体素子U1,U2は、バイポーラトランジスタ、MOSFET、あるいはダイオードなどの、pn接合を有する能動素子からなる。このため、前述の第1および第2の入力トランジスタQ1,Q2と同様に、第1および第2の半導体素子U1,U2は、pn接合の両端にかかるバイアス電圧に対する依存性を持つ第1および第2の入力容量Cu1,Cu2をそれぞれ有している。本実施の形態では、第1および第2の半導体素子U1,U2に供給される入力信号dinやクロック信号ckのバイアス電圧、すなわち、第1および第2のバイアス電圧Vb1,Vb2を調整することにより、入力容量Cu1,Cu2の値を可変制御するようにしたものである。
【0069】
第1のバイアス供給配線Wb1は、各サンプルホールド回路SHのうち、第1の半導体素子U1に対して第1のバイアス電圧Vb1を供給する配線である。第2のバイアス供給配線Wb2は、各サンプルホールド回路SHのうち、第2の半導体素子U2に対して第2のバイアス電圧Vb2供給する配線である。図7では、第1のバイアス供給配線Wb1と第2のバイアス供給配線Wb2の両方を設けた場合が示されているが、これに限定されるものではなく、第1のバイアス供給配線Wb1と第2のバイアス供給配線Wb2のいずれか一方のみを設けてもよい。
【0070】
第1のバイアス電圧Vb1は、第1のバイアス供給配線Wb1の一端(入力ポート)Pb1から入力され、第1のバイアス供給配線Wb1を介して、各サンプルホールド回路SHの半導体素子U1に供給される。第1の半導体素子U1は、第1のバイアス電圧Vb1が高く(低く)なれば、入力容量Cu1が小さく(大きく)なるため、第1の伝送線路W1に関する第1の伝搬時間Tx1を小さく(大きく)することができる。これにより、第1のバイアス電圧Vb1の電圧値を調整することにより、結果として、第1の伝送線路W1に関する第1の伝搬時間Tx1を制御することができる。
【0071】
また、第2のバイアス電圧Vb2は、第2のバイアス供給配線Wb2の一端(入力ポート)Pb2から入力され、第2のバイアス供給配線Wb2を介して、各サンプルホールド回路SHの第2の半導体素子U2に供給される。第2の半導体素子U2は、第2のバイアス電圧Vb2が高く(低く)なれば、入力容量Cu2が小さく(大きく)なるため、第2の伝送線路W2の第2に関する伝搬時間Tx2を小さく(大きく)することができる。これにより、第2のバイアス電圧Vb2の電圧値を調整することにより、結果として、第2の伝送線路W2に関する第2の伝搬時間Tx2を制御することができる。
【0072】
[第3の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態によれば、第1のバイアス供給配線Wb1に関する第1の伝搬時間Tx1や、第2のバイアス供給配線Wb2に関する第2の伝搬時間Tx2を制御することができる。一般に、タイムインターリーブのサンプリングレートを変更するには、クロック信号ckのクロック周波数を変えるのと同時に、時間遅れすなわちサンプリング間隔ΔT=Tck/nも変更する必要がある。本実施の形態によれば、第1の伝搬時間Tx1や第2の伝搬時間Tx2を制御できるため、サンプリング間隔ΔTも容易に変更することができる。したがって、タイムインターリーブのサンプリングレートを容易に変更可能な、サンプリング回路12を実現することができる。
【0073】
また、本実施の形態によれば、第1および第2の入力トランジスタQ1,Q2とは別個の第1および第2の半導体素子U1,U2を用いているため、各サンプルホールド回路SHにおける入力容量の調整幅を、容易に大きくすることができる。例えば、第1および第2の半導体素子U1,U2の並列接続数を増やせばよい。したがって、第1および第2の伝搬時間Tx1,Tx2の制御幅を拡大でき、結果として、より柔軟にタイムインターリーブのサンプリングレートを調整することが可能となる。
【0074】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、これらはあくまで本発明の原理の理解の手助けとなるよう応用の一事例を示しているに過ぎないものであり、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。また、各実施形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0075】
10,11,12…サンプリング回路、SH…サンプルホールド回路、SW…スイッチ、Cs…容量素子、Q1…第1の入力トランジスタ、Q2…第2の入力トランジスタ、U1…第1の半導体素子、U2…第2の半導体素子、W…伝送線路、W1…第1の伝送線路、W2…第2の伝送線路、Wb1…第1のバイアス供給配線、Wb2…第2のバイアス供給配線、din…入力信号、ck…クロック信号、x,x1,x2…線路距離、Tx1…第1の伝搬時間、Tx2…第2の伝搬時間、Vb1…第1のバイアス電圧、Vb2…第2のバイアス電圧、GND…接地電位、S1,S2…信号源、Ro1,Ro2…出力抵抗、RL1,RL2…終端抵抗、P11,P21,Pb1,Pb2…一端、P12,P22…他端、Vs…サンプリング電圧。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8