(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20230314BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20230314BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
C09D11/322
B41M5/00 120
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2021576339
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(86)【国際出願番号】 CN2020137563
(87)【国際公開番号】W WO2022126586
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2021-12-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】王 佳楠
(72)【発明者】
【氏名】日比野 良太
(72)【発明者】
【氏名】チアウチャン スミトラー
(72)【発明者】
【氏名】候 世征
(72)【発明者】
【氏名】山口 征志
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-090191(JP,A)
【文献】特開2010-144905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散体(X)をバインダ樹脂として含有するインクであって、
前記分散体(X)は、カルボキシル基またはカルボキシル基が塩基性化合物によって中和された官能基と、下記一般式(1)で示される構造単位とを有する重合体(A)によって、下記一般式(2)で示される構造単位を50質量%以上有する重合体(B)が水(C)中に分散されたものであることを特徴とするインク。
【化1】
(一般式(1)中のMは、水素原子またはアルカリ金属を表す。)
【化2】
(一般式(2)中のR
1は、水素原子またはメチル基を表す。)
【請求項2】
さらに顔料と、顔料分散剤とを含有する請求項
1に記載のインク。
【請求項3】
前記重合体(A)が、カルボキシル基を有する単量体またはその酸無水物と、スチレンスルホン酸のアルカリ金属塩とを含む単量体混合物の重合体である請求項1
又は2に記載のインク。
【請求項4】
前記重合体(A)が、1000~20000の範囲の重量平均分子量を有するものである請求項1~
3のいずれか1項に記載のインク。
【請求項5】
前記重合体(A)と前記重合体(B)との
質量比[重合体(A)/重合体(B)]が1/100~30/100の範囲である請求項1~
4のいずれか1項に記載のインク。
【請求項6】
前記重合体(A)及び前記重合体(B)が、前記インクの全量に対し、合計0.1質量%~30質量%の範囲で含まれる請求項1~
5のいずれか1項に記載のインク。
【請求項7】
前記重合体(A)によって前記重合体(B)が水(C)中に分散された分散物の体積平均粒子径が20nm~1000nmである請求項1~
6のいずれか1項に記載のインク。
【請求項8】
さらに顔料と、前記顔料を前記水(C)に分散させるための顔料分散樹脂とを含有する請求項1~
7のいずれか1項に記載のインク。
【請求項9】
インクジェット印刷方式での印刷に使用する請求項1~
8のいずれか1項に記載のインク。
【請求項10】
前記インクジェット印刷方式がサーマル型インクジェット印刷方式である請求項
9に記載のインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェット印刷方式をはじめとする様々な印刷方式で使用可能なインクに関する。
【背景技術】
【0002】
織布、不織布、編布等の布帛や普通紙やコート紙をはじめとする被記録媒体に、文字、絵、図柄などの画像を印刷する際には、例えば顔料を含有するインクを使用できることが知られている。
【0003】
前記インクとしては、一般に、顔料を高濃度で含有する水性顔料分散体を、必要に応じて水で希釈し、バインダ樹脂やその他添加剤を混合して得られたものが知られており、例えばポリウレタン樹脂をバインダ樹脂とした、布帛への印刷に使用する捺染インクが知られている(例えば特許文献1参照。)。
【0004】
前記インクの被記録媒体への印刷方法としては、例えばインクジェット記録装置を用いた方法が知られている。インクジェット記録装置を用いた印刷法は、印刷する絵や図柄ごとの製版が不要で、また、小ロット印刷におけるコスト削減や納期短縮等の利点を有することから、例えば衣服やカーテン等の繊維製品の製造場面での使用が検討されている。
前記繊維製品は、通常、印刷工程や使用の過程で印刷面同士や印刷面と他の物品等とが接触する場合や、洗濯液とともに洗濯される場合がある。
しかし、従来技術では、前記接触が繰り返されると、経時的に印刷面の剥がれや擦れが生じ、外観不良を引き起こす場合があった。
上記擦れ等の課題は、被記録媒体として普通紙やコート紙を用いた場合にも生じうる。例えばプリンターの内部で印刷面と搬送ロールとが接触した場合に、印刷面に擦れが生じ、印刷物の外観不良を引き起こす場合があった。
また、前記普通紙やコート紙、繊維製品等に鮮明で高発色な画像等を形成するためには、インク中に含まれる顔料の濃度を増やす方法が挙げられる。
しかし、顔料濃度の高いインクは、インクジェット印刷法で吐出する際に、吐出ノズルの詰まりやインクの吐出方向の異常を引き起こしやすいという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、本発明が解決しようとする課題は、例えば衣服等の繊維製品や普通紙等の被記録媒体への印刷工程や印刷物の使用過程で印刷面同士や印刷面と他の物品等とが接触した場合であっても、印刷面の剥がれや擦れ等を引き起こさないレベルの耐擦過性と、インクジェット記録装置のインク吐出ノズルの詰まりやインクの吐出方向の異常を発生させることのないレベルの吐出安定性を備えたインクを提供することである。
【0007】
また、本発明が解決しようとする第二の課題は、例えば水や温水、さらに洗濯液等を含む液体中で洗濯された場合であっても、布帛等の被記録媒体からの剥れを引き起こすことがないレベルの耐洗濯性を有する印刷画像等を形成可能で、かつ、耐擦過性と吐出安定性にも優れたインクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、カルボキシル基またはカルボキシル基が塩基性化合物によって中和された官能基と、下記一般式(1)で示される構造単位とを有する重合体(A)によって、下記一般式(2)で示される構造単位を50質量%以上有する重合体(B)が水(C)中に分散されたインクによって、前記課題を解決した。
【0009】
【化1】
(一般式(1)中のMは、水素原子またはアルカリ金属を表す。)
【0010】
【化2】
(一般式(2)中のR
1は、水素原子またはメチル基を表す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明のインクは、耐擦過性や耐洗濯性に優れた印刷物の製造に使用でき、かつ、インクジェット記録装置のインク吐出ノズルの詰まりやインクの吐出方向の異常を発生させることのないレベルの吐出安定性を備えることから、例えば布帛をはじめとする被記録媒体へのインクジェット印刷に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のインクは、カルボキシル基またはカルボキシル基が塩基性化合物によって中和された官能基と、下記一般式(1)で示される構造単位とを有する重合体(A)によって、下記一般式(2)で示される構造単位を50質量%以上有する重合体(B)が水(C)中に分散されたものであることを特徴とする。
【0013】
【化3】
(一般式(1)中のMは、水素原子またはアルカリ金属を表す。)
【0014】
【化4】
(一般式(2)中のR
1は、水素原子またはメチル基を表す。)
【0015】
本発明のインクを用いることによって、インクの良好な吐出安定性を維持したまま、印刷後の乾燥時間が短い場合であっても、優れた耐擦過性を備え、かつ、普通紙をはじめとする被記録媒体に印刷した場合に高発色性の印刷物を製造することができる。また、本発明のインクを用いて得られた印刷物は、前記したように印刷後の乾燥時間が短い場合に優れた耐擦過性を有するだけでなく、十分に乾燥させることによって、より一層優れた耐擦過性を有する。
【0016】
前記重合体(A)は、前記重合体(B)を水(C)中に安定して分散させるために使用する。そのため、前記重合体(A)は、後述する顔料分散樹脂とは異なり、水(C)中における後述する顔料の分散性の向上には実質的に寄与しない。
【0017】
前記重合体(A)及び前記重合体(B)は、水(C)中で粒子状で存在する。具体的には、前記重合体(B)の粒子の表面に前記重合体(A)の粒子が存在することで一つの分散物(X)を形成する。前記重合体(A)は、前記重合体(B)の粒子の表面に吸着した状態でもよい。また、前記重合体(A)は、前記重合体(B)の粒子の表面で皮膜を形成した状態でもよい。
前記分散物(X)の分散粒子径は、20nm~1000nmの範囲であることが好ましく、200nm~600nmの範囲であることがより好ましく、240nm~500nmの範囲であることが、インクの粘度上昇に起因したインクの吐出安定性の低下を防止し、かつ、とりわけサーマル方式のインクジェット印刷ヘッドのコゲーション(インクに含まれる成分がヘッド内の加熱部品に吸着しインク吐出の推進力となるはずの気泡の発生を阻害する現象)を防止するうえで特に好ましい。なお、前記体積平均粒子径は、動的光散乱法で測定した値を指す。
前記重合体(A)及び重合体(B)を含む前記分散物(X)は、いわゆるバインダ樹脂としての役割を有する。バインダ樹脂は、一般に、印刷物の耐擦過性の向上を目的として使用される。前記バインダ樹脂としては、従来5nm~20nm程度の体積平均粒子径を有するものが使用される。しかし、体積平均粒子径が上記のように非常に小さいバインダ樹脂は、インクの動的粘度を増加させやすく、その結果、インクの吐出安定性を低下させる場合がある。インクの動的粘度を増加させにくく、インクの良好な吐出安定性を維持するために、バインダ樹脂として比較的粒子径が大きいエマルジョン状態の樹脂を使用する方法が挙げらる。しかし、エマルジョン樹脂は、通常、乳化剤を用いる乳化重合法で製造されるため、乳化剤を含む。その乳化剤が、前記したコゲーションを引き起こす原因となる場合があった。
本発明では、前記重合体(A)によって重合体(B)が水(C)に分散されたインクを使用することによって、前記分散物(X)の分散粒子径を従来よりも大きく制御することで、インクの良好な吐出安定性を維持でき、かつ、耐擦過性に優れた印刷物を製造することができる。また、本発明のインクは、前記したとおり乳化剤の使用量を低減できるため、サーマル方式のインクジェット印刷方式に適用した場合であってもコゲーションを引き起こしにくいという効果を有する。
本発明のインクは、前記したとおり乳化剤の使用を排除するものではない。しかし、前記乳化剤の含有量は、優れた耐擦過性と吐出安定性とを両立し、かつ、コゲーションの発生を抑制するうえで、本発明のインクの全量に対して、0~1質量%の範囲であることが好ましく、0~0.5質量%の範囲であることがより好ましく、0~0.01質量%の範囲であることがより好ましく、0質量%であることが特に好ましい。
【0018】
前記重合体(A)としては、カルボキシル基またはカルボキシル基が塩基性化合物によって中和された官能基と、下記一般式(1)で示される構造単位とを有するものを使用する。前記一般式(1)で示される構造単位が有する官能基-SO3Mは、スルホン酸基またはスルホン酸アルカリ金属塩基を表す。
【0019】
【化5】
(一般式(1)中のMは、水素原子またはアルカリ金属を表す。)
前記重合体(A)は、例えば重合性不飽和二重結合を有する単量体をラジカル重合して得られる重合体を使用することができる。
【0020】
前記単量体としては、前記重合体(A)にカルボキシル基を導入するためにカルボキシル基を有するビニル単量体と、前記重合体(A)に前記一般式(1)で示される構造を導入するためのビニル単量体と、必要に応じてその他のビニル単量体とを組み合わせ使用することができる。
【0021】
前記カルボキシル基を有するビニル単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルプロピオン酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸ハーフエステル、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンサクシネート、β-(メタ)ヒドロキシエチルハイドロゲンフタレートやこれらの塩、無水マレイン酸等の酸無水物を、単独または2種以上組み合わせ使用することができる。これらの中で、アクリル酸、メタクリル酸を使用することが、優れた耐擦過性を備え、かつ、普通紙をはじめとする被記録媒体に印刷した場合に高発色性の印刷物を得るうえで好ましい。
【0022】
前記カルボキシル基を有するビニル単量体は、前記重合体(A)の製造に使用する単量体の全量に対して1質量%~80質量%の範囲で使用することが好ましく、5質量%~70質量%の範囲で使用することがより好ましく、10~50質量%の範囲で使用することが、より一層優れた耐擦過性と発色性を両立した印刷物を製造可能なインクを得るうえで好ましい。
また、前記重合体(A)に前記一般式(1)で示される構造単位を導入するためのビニル単量体としては、例えばスチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸のアルカリ金属塩等を使用することができる。前記スチレンスルホン酸のアルカリ金属塩としては、スチレンスルホン酸ナトリウム塩やスチレンスルホン酸リチウム塩などを使用できる。この中でも特にスチレンスルホン酸ナトリウム塩を使用することが、耐擦過性に優れた印刷物を製造可能なインクを得るうえで好ましい。
前記重合体(A)に前記一般式(1)で示される構造単位を導入するために使用する前記ビニル単量体は、前記重合体(A)の製造に使用する単量体の全量に対して1質量%~90質量%の範囲で使用することが好ましく、40質量%~90質量%の範囲で使用することが、より一層優れた耐擦過性と発色性を両立した印刷物を製造可能なインクを得るうえで好ましい。
、前記重合体(A)の製造に使用可能なその他の単量体としては、例えばリン原子を有する単量体を使用することができる。
前記リン原子を有する単量体としては、例えば2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート(例えば、共栄社化学製の「ライトエステルP-1M」、「ライトアクリレートP-1A」等)、ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、ポリエチレングリコールモノメタクリレートのリン酸エステル(例えば、ローディア日華社製の「Sipomer PAM100」や「Sipomer PAM4000」等)、ポリエチレングリコールモノアクリレートのリン酸エステル(例えば、ローディア日華社製の「SipomerPAM5000」等)、ポリプロピレングリコールモノメタクリレートのリン酸エステル(例えば、ローディア日華社製の「Sipomer PAM200」等)、ポリプロピレングリコールモノアクリレートのリン酸エステル(例えば、ローディア日華社製の「Sipomer PAM300」等)等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートのリン酸エステル、リン酸メチレン(メタ)アクリレート、リン酸トリメチレン(メタ)アクリレート、リン酸プロピレン(メタ)アクリレート、リン酸テトラメチレン(メタ)アクリレート等のリン酸アルキレン(メタ)アクリレート等を使用することができる。
また、前記その他の単量体としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルブチラート、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、アミルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類;(メタ)アクリロニトリル等のビニル系ニトリル類;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルアニソール、α-ハロスチレン、ビニルナフタリン、ジビニルスチレン等の芳香族環を有するビニル系単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有ビニル系単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有ビニル系単量体;N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-イソプロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のメチロールアミド基又はそのアルコキシ化物含有ビニル系単量体;(メタ)アクリルアミド、N-モノアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有ビニル系単量体等を単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
前記重合体(A)は、例えば前記したビニル単量体の混合物を、水(C)や必要に応じて重合開始剤や連鎖移動剤の存在下へ、一括して供給または分割して供給しラジカル重合することによって製造することができる。
前記重合開始剤としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化物、過酸化水素、前記過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス重合開始剤、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ系開始剤等を使用することができる。前記還元剤としては、アスコルビン酸、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシラートの金属塩、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウムを使用することができる。
なかでも、前記重合開始剤としては、前記過硫酸アンモニウムを使用することが、重合体(A)の生産効率を向上するうえで好ましい。
前記連鎖移動剤としては、例えば、チオリンゴ酸、チオグリセリン等を単独または2種以上を組み合わせ使用することができ、チオリンゴ酸を使用することが、分散安定性に優れ、かつ、発色性に優れた印刷物を製造可能なインクを得るうえで好ましい。
前記重合体(A)の製造は、通常、温度30℃~100℃の範囲で1時間~40時間の範囲で行うことが好ましい。前記重合体(A)の製造は、前記ビニル単量体の重合をすみやかに行うために、窒素ガス等の不活性ガスの存在下で行うことが好ましい。
前記重合体(A)は、前記単量体の重合後、必要に応じて中和剤として塩基性化合物と混合されることによって中和されてもよい。
前記塩基性化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物;水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属化合物;アンモニア;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジメチルプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等の有機アミン類等を単独または2種以上組み合わせ使用することができ、アンモニア、アンモニア水を使用することが、分散安定性に優れ、かつ、発色性に優れた印刷物を製造可能なインクを得るうえで好ましい。
以上の方法によって、前記重合体(A)が水(C)に溶解または分散した組成物を製造することができる。
前記方法で得られた重合体(A)としては、1000~20000の重量平均分子量を有するものを使用することが好ましく、3000~15000のものを使用することが、より一層優れた耐擦過性と発色性を両立した印刷物を製造可能なインクを得るうえで好ましい。
次に、本発明のインクを構成する重合体(B)を説明する。
前記重合体(B)としては、前記重合体(B)の全量に対して、下記一般式(2)で示される構造単位を50質量%以上有するものを使用する。これにより、本発明のインクを用いて得られた印刷物に優れた耐擦過性を付与することができる。とりわけ、本発明のインクを用い布帛に印刷して得られた印刷物の耐洗濯性を向上することができる。
前記重合体(B)としては、前記重合体(B)の全量に対して下記一般式(2)で示される構造を50質量%~90質量%の範囲で使用することが好ましく、60質量%~80質量%の範囲で使用することがより好ましく、60質量%~75質量%の範囲で使用することが、より一層優れた耐洗濯性と耐擦過性とを備えた印刷物を得るうえで好ましい。
【0023】
【化6】
(一般式(2)中のR
1は、水素原子またはメチル基を表す。)
前記重合体(B)としては、例えばアクリル重合体(b)、ポリウレタン、ポリエステル等の様々な重合体を使用することができる。なかでも、前記重合体(B)としては、アクリル重合体(b)を使用することが好まい。
前記アクリル重合体(b)としては、(メタ)アクリル単量体やその他ビニル単量体の重合物を使用することができる。
前記(メタ)アクリル単量体としては、前記一般式(2)で示される構造単位を重合体(B)に導入するうえで、エチル(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。
前記(メタ)アクリル単量体としては、前記エチル(メタ)アクリレートの他に、必要に応じてその他のビニル単量体を使用することができ、例えばメチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するビニル単量体を使用することができる。
前記アクリル重合体(b)は、前記エチル(メタ)アクリレートを含むビニル単量体の混合物を重合させることによって製造することができる。
一方、本発明のインクは、前記重合体(A)によって前記重合体(B)が水(C)中に分散されたものである。したがって、前記重合体(B)の製造は、前記重合体(A)の存在下で行うことが、分散安定性に優れ、かつ、耐擦過性に優れた印刷物を製造可能なインクを得るうえで好ましい。
前記重合体(B)の製造方法としては、具体的には、前記重合体(A)が水(C)に溶解または分散した組成物中に、前記アクリル重合体(b)を構成する(メタ)アクリル単量体等を一括または分割して供給し重合させる方法が挙げられる。
以上の方法によれば、前記重合体(A)によって前記重合体(B)が水(C)中に分散された組成物を得ることができ、かかる組成物を本発明のインクに使用することができる。
また、本発明のインクは、前記インクの全量に対して、前記重合体(A)及び前記重合体(B)を合計0.1質量%~30質量%の範囲で含むことが好ましく、0.1質量%~20質量%であることさらに好ましく、0.5質量%~10質量%であることが、より一層耐擦過性に優れた印刷物を製造可能なインクを得るうえで特に好ましい。
前記方法で得られた本発明のインクは、前記重合体(A)と前記重合体(B)との質量比が[重合体(A)/重合体(B)]が1/100~30/100の範囲であることが好ましく、1/100~20/100であることが、より一層耐擦過性に優れた印刷物を製造可能なインクを得るうえでより好ましい。
前記水(C)としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透膜処理水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることができる。また、前記水としては、紫外線照射または過酸化水素添加等によって滅菌された水を用いることが、本発明のインクを長期間保存する場合に、カビまたはバクテリアの発生を防止することができるため好適である。
【0024】
前記水(C)は、本発明のインクの全量に対して40質量%~95質量%の範囲で含まれることが好ましく50質量%~90質量%の範囲で含まれることが、より一層優れた耐擦過性と発色性を両立した印刷物を製造可能なインクを得るうえで好ましい。
【0025】
本発明のインクとしては、前記重合体(A)や重合体(B)や水(C)以外に、必要に応じてその他の成分を含有するものを使用することができる。
【0026】
前記その他の成分としては、例えば顔料や染料等の色材、顔料分散樹脂、前記重合体(A)や重合体(B)以外のバインダ樹脂、前記水(C)以外の溶媒、湿潤剤、潤滑剤、アルカリ剤、pH調整剤、界面活性剤、防腐剤、キレート剤、可塑剤、酸化防止剤、ワックス、紫外線吸収剤等を使用することができる。なかでも、前記その他の成分としては、前記重合体(A)や重合体(B)以外のバインダ樹脂として、前記したアニオン性基を有するポリエステル樹脂、アニオン性基を有するエポキシ樹脂、アニオン性基を有するウレタン樹脂、アニオン性基を有するアクリル酸系樹脂、アニオン性基を有するマレイン酸系樹脂、アニオン性基を有するスチレン系樹脂、アニオン性基を有するポリビニール酢酸系樹脂等のアニオン性基を有するビニル系共重合体等を使用することが好ましく、この中でアニオン性基を有するウレタン樹脂を使用することが、より一層耐擦性、耐洗濯性に優れた印刷物を作製可能なインクを得るうえで特に好ましい。
【0027】
前記顔料としては、例えば有機顔料または無機顔料を単独または2種以上組合せ使用することができる。
【0028】
前記有機顔料としては、例えばキナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、フタロン系顔料、イソインドリノン系顔料、メチン・アゾメチン系顔料、アゾ系顔料、ジスアゾ系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、アゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料等を使用することができる。
【0029】
前記無機顔料としては、例えば二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、アルミナ白、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、リトボン、カドミウムイエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデートオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺青、マンガンバイオレット、カーボンブラック、アルミニウム粉、パール系顔料等を使用することができる。
【0030】
前記顔料としては、水に自己分散可能な顔料を使用することもできる。
【0031】
前記顔料は、前記インクの全量に対して、0.1質量%~20質量%の範囲で使用することが好ましく、1質量%~10質量%の範囲で使用することが、良好な保存安定性を有し、かつ、インクジェット印刷法に適用した場合に優れた吐出安定性を有するインクを得るうえでより好ましい。
【0032】
前記色材として前記顔料を使用する場合、前記水(C)中で前記顔料を安定して分散させるために顔料分散樹脂を使用することが好ましい。前記顔料分散樹脂は、前記重合体(A)や重合体(B)とは異なり、前記顔料の粒子の周りに吸着することで、前記顔料に水(C)中での分散安定性を付与する。
【0033】
前記顔料分散樹脂としては、例えばアニオン性基を有する顔料分散樹脂を使用することができる。前記アニオン性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。
【0034】
前記アニオン性基を有する顔料分散樹脂としては、疎水性の構造単位と親水性のアニオン性基由来の構造単位とを有する樹脂を使用することが、本発明のインクの安定性を保つ構造の設計自由度が高く、普通紙へ印刷した場合に発色性の優れた印刷物を形成可能なインクを得るうえで特に好ましい。
【0035】
前記疎水性の構造単位と親水性のアニオン性基由来の構造単位とを有する樹脂としては、例えば前記顔料分散樹脂がスチレン由来の構造単位とアクリル酸由来の構造単位とを有する樹脂を使用することができる。
【0036】
前記疎水性の構造単位と親水性のアニオン性基由来の構造単位とを有する樹脂としては、酸価60~300mgKOH/gの範囲のものを使用することが好ましく、100~250mgKOH/gの範囲のものを使用することが、顔料の分散性、インクの安定性、高印刷濃度のバランスを取る観点から適している。
【0037】
前記疎水性の構造単位と親水性のアニオン性基由来の構造単位とを有する樹脂としては、水(C)中における顔料の分散性、インクの安定性、耐擦過性、高印刷濃度、更には吐出性のバランスを取る観点から重量平均分子量が3000~50000の範囲のものを使用することが好ましく、4000~40000の範囲のものを使用することがより好ましく、5000~30000の範囲のものを使用することさらに好ましく、5000~20000の範囲のものを使用することが特に好ましい。
【0038】
前記疎水性の構造単位と親水性のアニオン性基由来の構造単位とを有する樹脂としては、本発明のインクをサーマルジェット方式のインクジェット印刷法に適用した場合であっても、サーマルジェット方式に由来する熱の影響によって前記樹脂が変質することなく、優れた吐出安定性を維持するうえで、ガラス転移温度30℃~150℃の範囲のものを使用することが好ましく、70℃~150℃の範囲のものを使用することがさらに好ましい。
【0039】
前記疎水性の構造単位と親水性のアニオン性基由来の構造単位とを有する樹脂としては、アニオン性基の中和により水分散性となり得るものが好ましく、中和剤となる塩基性化合物の作用下で乳化剤等の分散安定剤を用いることなく、安定な水分散粒子を形成できる能力を有する樹脂であることが好ましい。
【0040】
前記顔料分散樹脂としてアニオン性基を有する樹脂を使用する場合、前記アニオン性基の中和に使用可能な塩基性化合物としては、無機系塩基性化合物、有機系塩基性化合物を使用することができる。前記塩基性化合物としては、より一層優れた保存安定性を有するインクを得るうえで、無機系塩基性化合物を使用することが好ましい。
【0041】
前記無機系塩基性化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム等を使用することができ、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物を使用することが、前記顔料により一層優れた分散安定性を付与するうえで好ましい。前記無機系塩基性化合物は、混合性向上の点などから、予め水に溶解または分散した濃度10質量%~60質量%の水溶液を使用することができる。
【0042】
また、前記有機系塩基性化合物としては例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミンを使用することができる。前記アミンは一般に液体状であるので、そのままの形態で用いることができる。
【0043】
前記塩基性化合物の含有量は、前記アニオン性基を有する樹脂の中和率が好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上となるように調整することが、前記水(C)中の分散速度の向上、良好な分散安定性や長期保存安定性を確保するうえで好適である。前記中和率の上限値は特に限定しないが、実質的には、長期保存でもインクの安定性があり、ゲル化しないためにも、好ましくは200%以下、より好ましくは120%以下である。なお、ここで中和率とは、下記の式によって計算される値である。
【0044】
中和率(%)=[{塩基性化合物の質量(g)×56.11×1000}/{顔料分散樹脂の酸価(mgKOH/g)×塩基性化合物の当量×顔料分散樹脂の質量(g)}]×100
【0045】
前記顔料分散樹脂としては、より具体的には、例えば前記したアニオン性基を有するポリエステル樹脂、アニオン性基を有するエポキシ樹脂、アニオン性基を有するウレタン樹脂、アニオン性基を有するアクリル酸系樹脂、アニオン性基を有するマレイン酸系樹脂、アニオン性基を有するスチレン系樹脂、アニオン性基を有するポリビニール酢酸系樹脂等のアニオン性基を有するビニル系共重合体等を使用することができる。
【0046】
前記顔料分散樹脂としては、例えばポリ(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、酢酸ビニル-マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル-クロトン酸共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸共重合体を使用することができる。
【0047】
前記湿潤剤としては、例えばエチレングリコール、グリセロール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールのエーテル類;グリセリンのポリオキシアルキレン付加物;N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン等の含窒素複素環化合物;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド類;トリエチルアミン等の有機アミン類、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン等を単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
【0048】
前記湿潤剤としては、前記顔料と顔料分散樹脂とを均一に分散させるためには高沸点のものを使用することが好ましく、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、グリセリンのポリエチレンオキサイド付加物等の多価アルコール類を使用することがより好ましい。
【0049】
前記湿潤剤は、前記顔料の全量に対して10質量%~1000質量%の範囲で使用することが好ましく、30質量~200質量%の範囲で使用することがより好ましい。
【0050】
本発明のインクとして前記顔料と顔料分散樹脂とを含有するものを使用する場合、本発明のインクの製造方法としては、例えばあらかじめ前記顔料と顔料分散樹脂と水(C)とを混合して得た水性顔料分散体、及び、前記重合体(A)と重合体(B)と水(C)とを含む組成物を混合することによって製造する方法が挙げられる。
【0051】
前記水性顔料分散体は、例えば前記顔料と顔料分散樹脂と必要に応じて塩基性化合物や湿潤剤を含有する組成物を混練する工程[1]、前記工程[1]で得られた混練物を水(C)に希釈分散させる工程[2]等を経ることによって製造することができる。
【0052】
前記工程[1]及び[2]において、顔料分散樹脂を適切に選択することで、顔料分散樹脂の顔料への親和性が極めて良好となり、水性顔料分散体の分散安定性が向上するとともに、顔料分散体を用いて得られたインクを被記録媒体に印刷することによって形成された印刷物の光沢や耐久性や耐水性等を向上させることができる。
【0053】
前記工程[1]では、例えばロールミル、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、プラネタリーミキサー等の装置を使用することができ、撹拌槽と撹拌羽根を有し、撹拌槽が密閉可能なヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、プラネタリーミキサー等の装置を使用することが、前記工程[1]中の前記組成物の固形分比率を一定に保つことができ、分散状態の良好な混練物が得られるため好ましく、プラネタリーミキサーを使用することが、広い範囲の粘度領域で混練処理が可能であり好ましい。
【0054】
また、前記工程[2]では、前記工程[1]で得られた混練物を、水(C)に希釈分散させる工程である。
【0055】
前記方法で得られた水性顔料分散体は、顔料等の原材料に由来する粗大粒子や凝集粒子を除去するうえで遠心分離処理またはろ過処理することが、本発明のインクをインクジェット印刷法に適用する際に、インク吐出ノズルの詰まり等の発生を防止するうえで好ましい。
【0056】
本発明のインクは、前記方法で得られた水性顔料分散体と、前記重合体(A)によって前記重合体(B)が水(C)中に分散された組成物とを混合し、30~90分間撹拌等する方法が挙げられる。
【0057】
前記方法で得られた本発明のインクとしては、例えば粘度が1mPa・sec~10mPa・secの範囲のものを使用することが好ましい。とりわけ、後述するインクジェット印刷方式で本発明のインクを吐出する場合には、粘度が1mPa・sec~6mPa・secのものを使用することがより好ましい。
【0058】
本発明のインクは、被記録媒体への印刷に使用することができる。
【0059】
前記被記録媒体としては、例えばインクの溶媒を吸収し顔料等を表面に定着しやすいインク受容層を備えたコート紙、インクの溶媒を吸収しにくい層が設けられたコート紙、普通紙、布帛などを使用することができる。
【0060】
ところで、被記録媒体への印刷に、両面印刷可能なインクジェットプリンターを用いる場合、被記録媒体の一方の面(表面)に印刷された片面印刷物が、一定時間乾燥された後、プリンター内部の搬送ロール及び反転機構によって反転され、前記片面印刷物の他方の面(裏面)に、印刷されることによって行われることが多い。前記片面印刷物を反転する際に、前記片面印刷物の印刷面に搬送ロール等が接触すると、印刷面に傷がつき、印刷品質の低下を引き起こす場合がある。とりわけ、普通紙と比較してインク中の溶媒を吸収しにくいコート紙に両面印刷する場合に、前記印刷品質の低下が懸念される場合があった。
しかし本発明のインクであれば、コート紙や普通紙に両面印刷する場合であっても耐擦過性に優れるため傷がつきにくく、また、普通紙に印刷した際の発色性の低下を効果的に防止することが可能である。
【0061】
本発明のインクは、前記被記録媒体として布帛を用いた印刷に好適に使用することができる。本発明のインクに含まれる重合体(A)によって水(C)中に分散された重合体(B)が、布帛を構成する繊維と親和性が高いため、印刷物を水や温水や洗浄液で洗濯した場合であっても、布帛からインクが剥がれ落ちにくく、洗濯後も発色濃度が高い印刷画像を維持することができる。
【0062】
本発明のインクを用いて印刷された印刷物は、前記したとおり優れた耐擦過性と高発色性とを両立することができる。
【0063】
本発明のインクは、様々な印刷方式に適用できるが、もっぱらインクジェット印刷方式による印刷場面で好適に使用することができる。
【0064】
前記インクジェット印刷方式としては、例えば連続噴射型(荷電制御型、スプレー型など)、オンデマンド型(ピエゾ方式、サーマル方式、静電吸引方式など)等が挙げられるが、本発明のインクは、サーマル型のインクジェット印刷方式での印刷に好適である。そして、このインクジェット記録用水性インクは、基本的にこれら各種のインクジェット方式に適用した場合に、極めて安定したインク吐出が可能となり、加えて形成された画像の良好な耐傷性、耐擦過性を実現することができる。
【実施例】
【0065】
[合成例1]
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に脱イオン水138質量部を仕込み、窒素を吹き込みながら80℃に昇温した。
【0066】
次いで、メタクリル酸4.51質量部、スチレンスルホン酸ナトリウム塩5.63質量部、チオリンゴ酸0.15質量部を仕込み80℃まで加温した後、10質量%過硫酸アンモニウム水溶液5質量部を添加し、重合を開始した。
【0067】
前記重合容器内の温度80℃で1時間維持した後、前記重合容器の内容物を40℃以下に冷却し、アンモニア水を混合することによって、重合体(A-1)の水溶液(I-1)を得た。
【0068】
次に、80℃に調整した前記重合体(A-1)の水溶液(I-1)に、重合体(B-1)を形成するエチルアクリレート65質量部とメチルメタクリレート5質量部と2-ヒドロキシエチルメタクリレート30質量部との混合物100質量部、及び、10質量%過硫酸アンモニウム水溶液5質量部を、4時間かけて滴下し、1時間維持することによって重合を行った。
【0069】
前記1時間経過後に、前記反応容器の内容物を40℃以下に冷却した。
【0070】
前記冷却後、前記反応容器にアンモニア水を供給し前記内容物のpHを7に調整し、前記反応容器を1時間攪拌することによって、前記重合体(A-1)によって前記重合体(B-1)が水中に分散した不揮発分40質量%の分散体(II-1)を得た。前記分散体(II-1)に含まれる分散物の体積平均粒子径は、470nmであった。
なお、前記体積平均粒子径は、マイクロトラック・ベル(株)社製NANOTRAC WAVE IIを用いて算出した。はじめに、前記分散体を、イオン交換水で1000倍に希釈した。次に、希釈液の約4mlをセルにいれ、マイクロトラック・ベル(株)社製NANOTRAC WAVE IIを用い、25℃環境下で、レーザー光の散乱光を検出することにより、体積平均粒子径(MV)を測定した。前記体積平均粒子径を3回測定し平均値(整数)を算出した。平均値の一桁目を切り捨てた値を、体積平均粒子径の値(単位:nm)とした。
【0071】
[合成例2]
メタクリル酸の使用量を4.51質量部から1.03質量部に変更し、エチルアクリレートの使用量を65質量部から68質量部に変更し、メチルメタクリレートの使用量を5質量部から12質量部に変更し、2-ヒドロキシエチルメタクリレートの使用量を30質量部から20質量部に変更したこと以外は、合成例1と同様の方法で、重合体(A-2)によって重合体(B-2)が水中に分散した不揮発分40質量%の分散体(II-2)を得た。前記分散体(II-2)に含まれる分散物の体積平均粒子径は、320nmであった。
【0072】
[合成例3]
メタクリル酸の使用量を4.51質量部から1.03質量部に変更し、エチルアクリレートの使用量を65質量部から71質量部に変更し、メチルメタクリレートの使用量を5質量部から19質量部に変更し、2-ヒドロキシエチルメタクリレートの使用量を30質量部から10質量部に変更したこと以外は、合成例1と同様の方法で、重合体(A-3)によって前記重合体(B-3)が水中に分散した不揮発分40質量%の分散体(II-3)を得た。前記分散体(II-3)に含まれる分散物の体積平均粒子径は、290nmであった。
【0073】
[合成例4]
メタクリル酸の使用量を4.51質量部から1.03質量部に変更しアンモニア水の代わりに、水酸化カリウム水溶液を用いてpHを7に調整したこと以外は、合成例1と同様の方法で、重合体(A-4)によって重合体(B-4)が水中に分散した不揮発分40質量%の分散体(II-4)を得た。前記分散体(II-4)に含まれる分散物の体積平均粒子径は、440nmであった。
【0074】
[合成例5]
エチルアクリレートの使用量を65質量部から40質量部に変更し、メチルメタクリレートの使用量を5質量部から30質量部に変更したこと以外は、合成例1と同様の方法で、重合体(A-5)によって重合体(B-5)が水中に分散した不揮発分40質量%の分散体(II-5)を得た。前記分散体(II-5)に含まれる分散物の体積平均粒子径は、390nmであった。
【0075】
[合成例6]
メタクリル酸の使用量を4.51質量部から1.03質量部に変更し、エチルアクリレートの使用量を65質量部から47質量部に変更し、メチルメタクリレートの使用量を5質量部から23質量部に変更したこと以外は、合成例1と同様の方法で、重合体(A-6)によって重合体(B-6)が水中に分散した不揮発分40質量%の分散体(II-6)を得た。前記分散体(II-6)に含まれる分散物の体積平均粒子径は、350nmであった。
【0076】
【0077】
[合成例7]
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び窒素導入管を備えた4ッ口フラスコに、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均分子量1000)250.0質量部、水素添加4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(H12MDI)181.7質量部を入れ、十分に撹拌させたのち100℃で2時間反応させた。その後50℃まで冷却し、2,2―ジメチロールプロピオン酸(DMPA)59.3質量部、メチルエチルケトン(MEK)122.8質量部およびジブチルスズジラウリレート0.18質量部を加え、75℃で15時間反応させた。反応後50℃以下に冷却し、MEK204.6質量部を加え1時間撹拌させるとともに、40℃以下まで冷却しウレタン重合体(A-7)のMEK溶液を得た。得られたウレタン重合体(A-7)のMEK溶液に25質量%水酸化カリウム水溶液94.4質量部を加え、30分撹拌させることにより酸基を中和させた。次いで強撹拌下でイオン交換水を徐々に添加し、ウレタンを乳化させたのち、減圧蒸留によりMEKを留去し、不揮発分40質量%、酸価50 mgKOH/gの重合体(A-7)の分散体(II-7)を得た。前記分散体(II-7)に含まれる分散物の体積平均粒子径は、15nmであった。
【0078】
[合成例8]
H12MDIの使用量を181.7質量部から111.0質量部に変更し、DMPAの使用量を59.3質量部から23.2質量部に変更し、25質量%水酸化カリウム水溶液の使用量を94.4質量部から36.8質量部に変更したこと以外は、[合成例7]と同様の方法で、不揮発分40質量%、酸価25 mgKOH/gの重合体(A-8)の分散体(II-8)を得た。前記分散体(II-8)に含まれる分散物の体積平均粒子径は、5nmであった。
【0079】
[実施例1]
顔料分散樹脂としてジョンクリル JONCRYL PDX-6137A(BASF社製、スチレンアクリル樹脂水溶液、重量平均分子量16,000、酸価220~250、ガラス転移点100℃、pH7.8、不揮発分約29質量%)500質量部と、マゼンタ顔料(FASTOGEN Super Magenta RY、DIC(株)製)5000質量部とを、容量50Lのプラネタリーミキサー((株)井上製作所製)に仕込み、ジャケットを加温した。
【0080】
前記プラネタリーミキサーの内容物の温度が60℃に達した後、自転回転数:80回転/分及び公転回転数:25回転/分の条件で前記内容物を撹拌し混合した。
【0081】
前記撹拌開始から5分後、トリエチレングリコール3,700質量部を加えた。
【0082】
その後、プラネタリーミキサーの電流値が最大電流値を示した時点から起算し、120分経過するまで混合を継続することによって混練物を得た。
【0083】
次に、前記混練物に、60℃のイオン交換水10,000質量部を、2時間かけて加えることによって液状混合物を得た。前記液状混合物に含まれる前記スチレンアクリル樹脂の前記マゼンタ顔料に対する質量割合は0.29であった。
【0084】
次に、前記液状混合物に、イオン交換水とトリエチレングリコールとを加え、マゼンタ顔料濃度14.5質量%、前記マゼンタ顔料に対するトリエチレングリコールの濃度が100質量%であるマゼンタ水性顔料分散液を得た。
【0085】
次に、2-ピロリジノン(BASF社製)5.6質量部と、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(東京化成工業(株)製)5.6質量部と、精製グリセリン(花王(株)製)2.1質量部と、サーフィノール440(非イオン系界面活性剤、エボニックジャパン(株))0.3質量部と、イオン交換水とを、100mlのポリ容器に入れ、1時間撹拌した。この液体に前記分散体(II-1)1.7質量部を加え、さらにこの液体を前記マゼンタ水性顔料分散体14.5質量部の入った別の容器に加えて1時間撹拌した。
【0086】
次に、5質量%水酸化カリウム水溶液を用いpHを9~9.8の範囲内に調整したものを、孔径5~10μmのフィルターでろ過することによって、合計70質量部の水性インクM1(マゼンタ顔料濃度3質量%)を得た。
【0087】
[実施例2]
前記分散体(II-1)の代わりに前記分散体(II-2)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で水性インクM2を得た。
[実施例3]
前記分散体(II-1)の代わりに前記分散体(II-3)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で水性インクM3を得た。
[実施例4]
前記分散体(II-1)の代わりに前記分散体(II-4)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で水性インクM4を得た。
[比較例1]
前記分散体(II-1)の代わりに前記分散体(II-5)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で水性インクM11を得た。
[比較例2]
前記分散体(II-1)の代わりに前記分散体(II-6)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で水性インクM12を得た。
[比較例3]
前記分散体(II-1)の代わりにDIC株式会社製HYDRAN WLS-210を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で水性インクM13を得た。
[比較例4]
前記分散体(II-1)の代わりに前記分散体(II-7)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で水性インクM14を得た。
[比較例5]
前記分散体(II-1)の代わりに前記分散体(II-8)を用いた以外は実施例1と同様の方法で水性インクM15を得た。
[比較例6]
前記分散体(II-1)の代わりにイオン交換水を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で水性インクM16を得た。
【0088】
【0089】
【0090】
<耐擦過性>
実施例及び比較例で得たインクを、バーコーターNo.3を用いて、HP社製ブローシャ&フライヤ用紙(両面光沢紙)に塗布し、25℃の環境下に60秒放置し乾燥させることによって印刷物を得た。
次に、前記印刷物を学振型摩擦堅牢度試験機(大栄科学精機制作所製RT-300S)の試験片台に置き、テープで固定した。次に、HP社製ブローシャ&フライヤ用紙を貼り付けた摩擦子(荷重200g)で前記印刷物の表面を、1往復擦った。
次に、前記印刷物の印刷面をスキャン処理して画像データ化し、色の残存部のピクセル数をカウントした。画像の全領域を100ピクセルとしたときの色の残存部のピクセル数が多いほど耐擦過性が良好であると判断した。
A:残存部のピクセル数が60よりも多かった。
B:残存部のピクセル数が40以上60以下であった。
C:残存部のピクセル数が20以上40以下であった。
D: 残存部のピクセル数が20よりも少なかった。
【0091】
<吐出安定性>
比較例6で得たインクをインクカートリッジに充填した。次に、市販のサーマルジェット方式インクジュットプリンタを用い、前記インクをインクジェット用OHPシート(フィルムの表面にインクを吸収する層が設けれたシート)に、印字濃度100%の設定で印刷することによって印刷物を得た。25℃の環境下に1時間放置して乾燥させた後、OHPシートの未印刷部分をリファレンスとして印刷物の最大吸光度(Abs0)を紫外可視分光光度計(日本分光株式会社V-660型)で測定した。
次に、実施例及び比較例1~5で得たインクをインクカートリッジに充填した。
次に、市販のサーマルジェット方式インクジェットプリンタを用い、それぞれのインクをインクジェット用OHPシート、印字濃度100%の設定で印刷することによって印刷物を得た。それぞれの印刷物を25℃の環境下に1時間放置して乾燥させた後、OHPシートの未印刷部分をリファレンスとして印刷物の最大吸光度(Abs1)を紫外可視分光光度計(日本分光株式会社V-660型)で測定した。
[最大吸光度(Abs1)/最大吸光度(Abs0)]×100から求められた値に基づいて、下記基準でインクの吐出性を評価した。
A: 上記式の値が70以上であった。
B: 上記式の値が60以上70未満であった。
C: 上記式の値が50以上60未満であった。
D: 上記式の値が50未満であった。
【0092】
<普通紙発色性>
比較例6で得たインクをバーコーターNo.3 を用いて市販の普通紙に塗布して25℃の環境下で1時間乾燥させた後、塗布部の光学濃度(OD0)を積分球分光測色計X-Riteで測定した。
次に、実施例及び比較例1~5で得たインクをバーコーター#3 を用いて市販の普通紙に塗布して1時間乾燥させた後、それぞれの塗布部の光学濃度(OD1)を積分球分光測色計X-Riteで測定した。
[光学濃度(OD1)/光学濃度(OD0)]×100から求められた値に基づいて、下記基準で印刷物の発色性を評価した。
A: 上記式の値が90以上であった。
B: 上記式の値が85以上90未満であった。
C: 上記式の値が80以上85未満であった。
D: 上記式の値が80未満であった。
【0093】
<耐洗濯性>
実施例及び比較例で得たインクに、5cm×5cmの正方形の綿布を浸漬し、150℃で5分間乾燥することによって、試験用サンプルを得た。
次に、前記試験用サンプルの光学濃度(OD0)を積分球分光測色計X-Riteを用いて測定した。
次に、JISL0844:2011に基づいた50℃の洗濯液に、前記試験用サンプルを30分間浸漬した後、前記洗濯液と試験用サンプルとをフードミキサーで1分間撹拌した。取り出した試験用サンプルを水で洗った後アイロンで乾燥した。。次に、前記試験用サンプルの光学濃度(OD1)を積分球分光測色計X-Riteを用いて測定した。
[光学濃度(OD1)/光学濃度(OD0)]×100から求められた値に基づいて、下記基準で印刷物の耐洗濯性を評価した。
A: 上記式の値が70以上であった。
B: 上記式の値が60以上70未満であった。
C: 上記式の値が50以上60未満であった。
D: 上記式の値が50未満であった。
【0094】
【0095】