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特許7243942インクジェットインク用顔料分散体、インクジェットインク及び印刷物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】インクジェットインク用顔料分散体、インクジェットインク及び印刷物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/326 20140101AFI20230314BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
C09D11/326
C09D17/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022562514
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2022016449
(87)【国際公開番号】W WO2022220149
(87)【国際公開日】2022-10-20
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2021067630
(32)【優先日】2021-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 崇
(72)【発明者】
【氏名】服部 巌
(72)【発明者】
【氏名】重森 実
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 成人
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-311383(JP,A)
【文献】特開平08-218013(JP,A)
【文献】特開2019-019315(JP,A)
【文献】国際公開第2021/157310(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/40
B41J 2/01-2/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散剤(A)、顔料(B)、及び水(C)を含有し、
前記分散剤(A)は、少なくとも、酸基含有モノマーに由来する構成単位(a1)を有する非架橋の樹脂(A1)を含有し、
前記樹脂(A1)において、構成単位(a1)中の前記酸基が、酸基を理論当量で中和した場合の中和率を100%として、100%超、200%以下の中和率で、第3級アルカノールアミンを用いて中和されており、
前記3級アルカノールアミンは、構造中に水酸基を2~3つ有し、且つ、沸点が150~330℃であり、
前記樹脂(A1)の酸価が、80~225mgKOH/gであることを特徴とする、インクジェット用顔料分散体。
【請求項2】
分散剤(A)、顔料(B)、及び水(C)を含有し、
前記分散剤(A)は、少なくとも、酸基含有モノマーに由来する構成単位(a1)を有する非架橋の樹脂(A1)を含有し、
前記樹脂(A1)において、構成単位(a1)中の前記酸基が、酸基を理論当量で中和した場合の中和率を100%として、100%超、200%以下の中和率で、第3級アルカノールアミンを用いて中和されており、
前記3級アルカノールアミンは、構造中に水酸基を2~3つ有し、且つ、沸点が150~330℃であり、
プラスチック基材への印刷用であることを特徴とする、インクジェット用顔料分散体。
【請求項3】
さらに、バインダー(D)を含有する、請求項1又は2に記載のインクジェット用顔料分散体。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載のインクジェット用顔料分散体を用いたインクジェットインク。
【請求項5】
請求項に記載のインクジェットインクで印刷した印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクジェットインク用途に用いられる顔料分散体、当該顔料分散体を用いて調製される水性インクジェットインク、及び当該インクジェットインクを用いてインクジェット印刷が施された印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
VOCによる大気汚染の悪化、地球温暖化等の全地球規模の拡大を背景としたサステナビリティの観点に加え、労働安全衛生や引火爆発性の懸念から脱石油資源へ転換する動きがあり、有機溶剤の使用に対する規制が増々厳しくなりつつある。そのため印刷インク業界では、溶剤型印刷インク中の有機溶剤を水に置き換えた水性インクの開発が行われており、インクジェットインクにおいても水性インクの開発、改良が求められている。
【0003】
一方、人口増加や所得水準の上昇、物流システムの変化により、世界的にプラスチックフィルムのパッケージ消費量が増加傾向にあり、これに伴いパッケージ用インクの生産量は年々増加している。
従来、フィルム基材への印刷では溶剤型フレキソインクや溶剤型グラビアインクが主流だった。しかしながら、これらの印刷方法では製版が必要なことからコストが増大し、且つ、印刷までに時間を要するという課題があった。そのため、フィルムパッケージ印刷においても、製版が不要でオンデマンド印刷が可能なインクジェット印刷への要望が大きくなっている。また、パッケージ用途以外のフィルム基材へのオンデマンド印刷、例えば、屋内外で利用されるサインディスプレイ用途でのフィルム印刷等への要望も高まっている。
【0004】
しかしながら、水性のインクジェットインクは、溶剤型インクジェットインクと比較すると耐擦過性が未だ十分ではないという課題があった。フィルム基材への印刷では、フィルム基材の裏面に印刷を行う裏刷りが主流であるが、印刷や加工のスピードはフィルム基材の表面に印刷を行う表刷りの方が速く、生産性及びコストを重視する場合には表刷りの方が有利である。しかしながら、表刷りでは印刷面が基材を介さずに外的環境と接触するため、印刷面及びインク自体の高い耐擦過性が求められる。耐擦過性を兼ね備えたインクジェットインクであれば、フィルムの裏刷りのみならず表刷りにも使用することが可能となり汎用性が高まるため、耐擦過性に優れたインクジェットインクが望まれている。
【0005】
一方で、水性インクジェットインクにおいて耐擦過性を向上させる試みも行われているが、その結果として凝集物が発生することにより、ろ過性やインク吐出性の低下が懸念される。インクジェット印刷特有の課題であるインク吐出信頼性とは、インクジェット印字時のインク吐出していない時間(オープンタイム)において、インクジェットヘッド吐出部分でインクが乾く事でノズル詰まり不良が発生することに起因する。インクジェット用インクには、このノズル詰まりの発生を低減可能とする優れたインク再溶解性が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-196423公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、耐水性及び耐アルコール性に優れ、フィルム印刷が可能なインクジェットインクが開示されており、そのインクは分散剤の酸価がアンモニア中和されていることと、樹脂エマルジョンが特定のTg及び酸価を有することを特徴としている。特許文献1では溶剤耐性が溶剤で湿らせた綿棒による擦過により評価されており、特許文献1の構成によってある程度の擦過性が得られることがわかる。しかしながら特許文献1ではろ過性や再溶解性の評価がなされておらず、乾燥時の耐擦過性も評価されておらず、耐擦過性についてもさらなる向上が望まれる。
【0008】
加えて、特許文献1記載の発明では中和にアンモニアを用いていることから、製造時に発生する臭気や組成物自体に残存する臭気による問題もあった。さらに、アンモニアは揮発性が高いことから、中和に用いたアンモニアが揮発することでノズル詰まりが発生しうるという問題もある。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、プラスチック基材等の各種基材上に印刷した際の耐擦過性が良好で、ろ過性及びインクジェット印刷時のインク吐出性に優れ、製造時等に臭気が発生しないインクジェットインク、並びに、当該インクジェットインクに用い得るインクジェット用顔料分散体、及び当該インクジェットインクによってインクジェット印刷が施された印刷物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、分散剤樹脂中の酸基の一部又は全部を特定の第3級アルカノールアミンで中和し、さらに分散剤として非架橋の樹脂を用いた顔料分散体によって課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明に関するものである。
(1)分散剤(A)、顔料(B)、及び水(C)を含有し、
前記分散剤(A)は、少なくとも、酸基含有モノマーに由来する構成単位(a1)を有する非架橋の樹脂(A1)を含有し、
前記樹脂(A1)において、構成単位(a1)中の前記酸基が、酸基を理論当量で中和した場合の中和率を100%として、100%超、200%以下の中和率で、第3級アルカノールアミンを用いて中和されており、
前記3級アルカノールアミンは、構造中に水酸基を2~3つ有し、且つ、沸点が150~330℃であることを特徴とする、インクジェット用顔料分散体。
(2)前記樹脂(A1)の酸価が、80~225mgKOH/gである、(1)のインクジェット用顔料分散体。
(3)さらに、バインダー(D)を含有する、(1)又は(2)のインクジェット用顔料分散体。
(4)プラスチック基材への印刷用である、(1)~(3)のいずれかのインクジェット用顔料分散体。
(5)(1)~(4)のいずれかのインクジェット用顔料分散体を用いたインクジェットインク。
(6)(5)のインクジェットインクで印刷した印刷物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プラスチック基材等に用いた場合にも擦過性が良好で、ろ過性及びインクジェット印刷時のインク吐出性に優れ、製造時等に臭気が発生しない水性インクジェットインクを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[インクジェット用顔料分散体]
本発明の「インクジェット用顔料分散体」(以下、単に「顔料分散体」又は「分散体」ということがある。)は、分散剤(A)、顔料(B)、及び水(C)を含有するものであって、インクジェットインクの調製のために用いられるものである。以下、「分散剤(A)」を「(A)成分」ということがあり、他の成分についても同様にいうことがある。
本発明の顔料分散体は、インクジェットインクのための中間製品として製造されるものであって、希釈した後に水性インクジェットインクとしてインクジェット印刷に使用される。
【0014】
<分散剤(A)>
分散剤(A)は、非架橋の樹脂(A1)を含有するものであって、樹脂(A1)は、少なくとも、酸基含有モノマーに由来する構成単位(a1)を有する。また、分散剤(A)において、構成単位(a1)中の構成単位(a1)中の前記酸基が第3級アルカノールアミンで中和されている。
【0015】
(樹脂(A1))
樹脂(A1)は、酸基含有モノマーに由来する構成単位(a1)と、(a1)以外の構成単位(a2)とを有する非架橋の樹脂であって、酸基含有モノマーと、それ以外のモノマーとを、任意の重合開始剤の存在下でラジカル重合等の公知の方法を用いて重合させることにより得られる。樹脂(A1)が酸基を有することにより、樹脂(A1)に親水性が付与され、顔料を水中で安定に分散することが可能となる。
【0016】
構成単位(a1)を誘導する酸基含有モノマーにおいて酸基としてはカルボキシル基、スルホン酸基、燐酸基、チオカルボキシル基等が挙げられ、これらの基を有するエチレン性不飽和単量体を構成単位(a1)の原料モノマーとして用いることができる。
【0017】
カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、4-ビニル安息香酸等の不飽和カルボン酸類;コハク酸ビニル、マレイン酸アリル、テレフタル酸ビニル、トリメトリット酸アリル等の多塩基酸不飽和エステル類が挙げられる。
【0018】
また、スルホン酸基を含有するエチレン性不飽和単量体の例としてはアクリル酸2-スルホエチル、メタクリル酸4-スルホフェニル等の不飽和カルボン酸スルホ置換アルキル又はアリールエステル類:スルホコハク酸ビニル等のスルホカルボン酸不飽和エステル類;スチレン-4-スルホン酸等のスルホスチレン類を挙げることができる。
【0019】
なかでも、構成単位(a1)を誘導するモノマーとしては、原料モノマーの入手のしやすさ、価格等を考慮すると、酸基としてカルボキシル基を有するモノマーが好ましく、不飽和カルボン酸類がより好ましく、アクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。
以下、アクリル酸とメタクリル酸との双方を包含して「(メタ)アクリル酸」ということがあり、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとの双方を包含して「(メタ)アクリル酸エステル」ということがある。類似のアクリル酸系化合物についても同様である。
【0020】
構成単位(a1)以外の構成単位(a2)としては、(a1)と共重合し得るエチレン性不飽和単量体が挙げられ、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチルプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;マレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル、等の不飽和脂肪酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和脂肪酸アミド類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の不飽和エーテル類;スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、4-メトキシスチレン、4-クロロスチレン等スチレン類;エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-オクテン、ビニルシクロヘキサン、4-ビニルシクロヘキセン、等の不飽和炭化水素類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、3-クロロプロピレン、等の不飽和ハロゲン化炭化水素類;4-ビニルピリジン、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルピロリドン、等のビニル置換複素環化合物類;上記例示単量体中のカルボキシル基、水酸基、アミノ基、等活性水素を有する置換基を含有する単量体とエチレンオキシド、プロピレンオキシド、シクロヘキセンオキシド等、エポキシド類との反応生成物;上記例示単量体中の水酸基、アミノ基等を有する置換基を含有する単量体と酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ヘキサン酸、デカン酸、ドデカン酸等のカルボン酸類との反応生成物等を挙げることができる。
なかでも、構成単位(a2)を誘導するモノマーとしては、樹脂(A1)の顔料への吸着力を高める効果が得られる点で、(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン類が好ましく、(メタ)アクリル酸ブチル、スチレン、又はα-メチルスチレンが好ましい。
【0021】
構成単位(a2)としてはさらに、吐出性が良化するという優れた効果を有することから、モノマーとしてメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートを含有することも好ましい。
【0022】
樹脂(A1)は、非架橋の樹脂である。本発明において樹脂(A1)が非架橋であるとは、一般的に架橋剤とされる化合物が意図的に用いられることなく樹脂(A1)が合成、製造されていること、又は、通常用いられる架橋工程を経ることなく樹脂(A1)が合成、製造されていることをいう。架橋剤の添加や意図的な架橋工程を経ずに製造された樹脂(A1)の架橋率は5%以下となり、好ましくは3%以下、最も好ましくは0%である。非架橋の樹脂(A1)は、基本的に直鎖状の樹脂となる。上記架橋率は、理論値であって、架橋剤量が1モル当量の場合には100%、0.5モル当量の場合には50%とする。
【0023】
本発明では、後述するアルカノールアミンにより耐擦過性が向上することから、樹脂(A1)の架橋によって耐擦過性を担保する必要がない。そして、樹脂(A1)が非架橋であることにより、分散体及びインクの再溶解性が良好となり、優れたインク吐出性が得られる結果、ノズル詰まり不良等の不具合が抑制される。また、樹脂(A1)の製造時に架橋工程を経ないことにより、製造工程の短縮及び消費エネルギー低減が期待される。
【0024】
樹脂(A1)の質量平均分子量は、顔料分散体を適度な粘度とし、分散安定性を良好にし、且つ、インクジェットインクとした場合に長期間安定した印字を担保することが容易な点で、2,000~100,000の範囲にあることが好ましく、5,000~50,000の範囲にあることが特に好ましい。
【0025】
樹脂(A1)の酸価は、一般的には80~350mgKOH/gであって、80~225mgKOH/gが好ましく、80~220mgKOH/gがより好ましく、100mgKOH/g以上、200mgKOH/g未満が特に好ましい。また、170mgKOH/g未満とすることも好ましい。
上記範囲内とすることにより、分散剤の親水性と顔料吸着性のバランスがとれて顔料分散体の分散安定性が向上する。
本発明では、樹脂(A1)を非架橋とすることで、樹脂(A1)の酸化が比較的低い(例えば、200mgKOH/g未満、等)の場合にも良好な再溶解性を得ることができる。
【0026】
樹脂(A1)のガラス転移点は、30~130℃が好ましく、50~120℃がより好ましく、80~110℃が特に好ましい。
【0027】
分散剤(A)において、構成単位(a1)中の構成単位(a1)中の前記酸基の一部又は全部が、構造中に水酸基を2~3つ有し、且つ、沸点が150~330℃である第3級アルカノールアミン(以下、単に「アルカノールアミン」ということがある。)で中和されている。
【0028】
アルカノールアミンとしては、アンモニア(NH)の3つの水素原子のうち、2つが「水酸基を有する有機基」で置換され、残り1つが有機基で置換された化合物、又は、3つ全てが、「水酸基を有する有機基」で置換された化合物が好ましい。水素原子を置換する有機基としては炭素原子数1~3のアルキル基が好ましく、水素原子を置換する「水酸基を有する有機基」としては炭素原子数1~3のアルキル基に水酸基が結合した基が好ましい。
アルカノールアミンとしては、下記式(I)で表される化合物が好ましい。
【0029】
【化1】
【0030】
(式(I)中、R~Rはそれぞれ独立に、水酸基を有する有機基であり、Rは有機基又は水酸基を有する有機基である。)
【0031】
アルカノールアミンの沸点は、150~330℃であって、200~330℃が好ましく、200~320℃がより好ましく、220℃~310℃がさらに好ましい。
330℃以下の沸点を有するアルカノールアミンを中和に用いることにより、印刷物乾燥時にアルカノールアミンが良好に揮発する一方で、アンモニアのように臭気を発生することがない。また、150℃以上の沸点を有するアルカノールアミンであれば、インクジェットノズルで揮発することがないため、ノズルの目詰まりや吐出性の低下が発生しづらい。
【0032】
沸点が150~330℃の第3級アルカノールアミンとしては、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-(3-アミノプロピル)ジエタノールアミン等のジアルカノール3級アミン;トリイソプロパノールアミン等のトリアルカノール3級アミンが挙げられる。
【0033】
これらの中でも、炭素数2以上9以下の3級アルカノールアミンが好ましく、メチルジエタノールアミン又はトリイソプロパノールアミンが特に好ましい。
【0034】
アルカノールアミンによる中和の方法は特に限定されるものではないが、例えば、モノマーの合成により得られた有機溶剤中の樹脂(A1)に対して、アルカノールアミンと、必要に応じて水とを加えることにより中和することができる。
【0035】
中和は、アルカノールアミン単体で行ってもよく、他の中和剤を併用してもよい。他の中和剤としては、金属塩が挙げられる。
【0036】
金属塩としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの金属水酸化物;塩化ナトリウム、塩化カリウムなどの金属塩化物;硫酸銅などの金属硫化物が挙げられる。
【0037】
アルカノールアミンと金属塩を併用する場合の比率は、後述する中和率が150%の場合には、アルカノールアミン:金属塩=60~120%:30~90%で合計150%の中和率とすることが好ましい。中和率150%でない場合には、同様の比率でアルカノールアミンと金属塩とを用いることが好ましい。
金属塩を併用することにより、耐擦過性と溶解性のバランスを取ることができるが、一方で金属塩を使用した場合には食品パッケージ用途の印刷に適さない等の問題もあるため、用途を考慮して併用を検討することが好ましい。
【0038】
中和は、酸基の一部のみが中和されていても良く、酸基の全てが中和されていてもよいが、酸基の全てが中和されていることが好ましい。
具体的には、樹脂(A1)の酸基を理論等量で中和した場合の中和率を100%として、中和率は100%超、200%以下であって、120~200%が好ましく、150~200%がより好ましい。このような中和率とすることにより、樹脂(A1)の溶解性及びろ過性が向上する。
【0039】
分散剤(A)は、樹脂(A1)のみからなるものであってもよく、樹脂(A1)に加えて他の成分を有するものであってもよい。
【0040】
本発明の顔料分散体において、分散剤(A)は、顔料に対し、不揮発分換算で5~100質量%含有されることが好ましく、10~80質量%がより好ましい。これらの範囲であると、分散剤の過不足による顔料分散体の分散安定性低下を抑制し、長期的な保存においても安定な状態を維持できる。
【0041】
<顔料(B)>
顔料(B)は、分散体中に良好に分散し得るものであれば特に限定されるものではないが、平均粒子径10~400nmで分散しうるものを用いることが好ましい(詳細は後述)。例えば、一般のインク、塗料、及び記録剤などに使用されている有機顔料、無機顔料や染料を使用することができる。
【0042】
有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、アゾメチンアゾ系、ジクトピロロピロール系、イソインドリン系などの顔料が挙げられる。藍インクには、コスト・耐光性の点から銅フタロシアニンを用いることが好ましい。
【0043】
無機顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、シリカ、ベンガラ、マイカ(雲母)などが挙げられる。また、ガラスフレーク又は塊状フレークを母材とした上に金属、もしくは金属酸化物をコートした光輝性顔料(メタシャイン;日本板硝子株式会社)を使用できる。白インクには酸化チタン、墨インクにはカーボンブラック、金、銀インクにはアルミ、パールインクにはマイカ(雲母)を使用することがコストや着色力の点から好ましい。
【0044】
上述の通り、分散体において、顔料は体積平均粒子径10~400nmで分散されることが好ましい。顔料の平均粒子径は、分散体を作製した後、分散体中に顔料を均一分散させた状態で、動的光散乱法等の公知の方法により体積平均粒子径を測定することができる。なかでも、分散体の体積平均粒子径は10~300nmが好ましく、50~200nmがより好ましく、50~150nmがさらに好ましく、50nm以上100nm未満が特に好ましい。体積平均粒子径が50nm以上であることにより、顔料分散体保存時の顔料の凝集が抑制できる。また、体積平均粒子径が400nm以下(特に好ましくは100nm以下)であることにより、インク吐出性が向上する。
【0045】
分散体における顔料の含有量は特に限定されるものではないが、分散体全量中において10~30質量%が好ましい。10質量%未満であると、分散体を希釈調製したインクジェットインクにおいて十分なインク着色力が得られないおそれがある。また、30質量%より多いと、顔料種によっては分散体輸送時や保存時に顔料が凝集するおそれがあり、その場合は平均粒子径50~400nmでの分散性が担保できなくなる。また、希釈の程度によっては、インク吐出性が悪化する懸念がある。
【0046】
本発明の分散体において、顔料濃度としては、顔料が有機顔料又はカーボンブラックの場合、10~30質量%が好ましく、10~25質量%がより好ましい。これらの範囲であると、希釈調整してインクジェットインクにとした際に、インク着色力とインク吐出性が好適に両立可能である。
また、顔料が無機顔料の場合、25~60質量%が好ましく、30~50質量%がより好ましい。
【0047】
<その他任意成分>
本発明の顔料分散体は、本発明の効果が損なわれない範囲内で、上述の(A)成分、(B)成分、及び水(C)に加えて、その他の任意成分を含有していてもよい。
【0048】
その他の成分として例えば、バインダー(D)、沸点が100℃以上のアミン化合物(E)、上記成分以外のその他樹脂、水以外の溶媒、界面活性剤、ワックス、低表面張力有機溶剤、湿潤剤、浸透剤、上記以外の分散剤、消泡剤、防腐剤、粘度調製剤、pH調製剤、キレート化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0049】
<バインダー(D)>
バインダー(D)はインクの基材密着性や耐擦過性をより向上させる目的で添加されるものである。本発明では、上述の第3級アルカノールアミンの使用により耐擦過性が向上することから、バインダー(D)を使用せずしない場合にも十分な耐擦過性を確保することができる。
【0050】
バインダー(D)が顔料分散能を有すると、バインダー(D)が分散剤(A)を顔料から脱離させて顔料分散体の分散安定性を低下させる可能性があることから、バインダー(D)は顔料分散能を有さないことが好ましい。
好ましいバインダーとしては、アクリル系バインダー(D1)が挙げられる。
【0051】
(アクリル系バインダー(D1))
アクリル系バインダー(D1)としては、アクリル系水性樹脂エマルションが好ましい。
【0052】
アクリル系エマルションとしては、例えば、アクリルエマルション、スチレンアクリルエマルション、アクリルマレイン酸エマルション、スチレンアクリルマレイン酸エマルションが挙げられ、アクリルエマルションやスチレンアクリルエマルションが好ましいものとして挙げられる。エマルションはコアシェル型であってもよく、コアシェル型以外であってもよい。
【0053】
エマルション樹脂中の構成単位としては、構成単位(a1)や構成単位(a2)で上述したものや、それらと共重合可能なものが挙げられる。
【0054】
本発明者らは、過去の検討により、乾式の耐擦過性はアクリル系バインダー(D1)のTgが高いほど良好な結果が得られる一方で、アクリル系バインダー(D1)のTgが低くなると乾式の耐擦過性が低下しうることを見出している。
【0055】
アクリル系バインダー(D1)の酸価は5~100mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは5~80mgKOH/g、さらに好ましくは20~50mgKOH/gである。酸価が5mgKOH/g未満であると、アクリル系バインダー(D1)の分散安定性が低下する可能性がある。一方、酸価が100mgKOH/gを超えると、印刷塗膜の吸湿性が高まり、耐擦過性のうち湿摩擦性が損なわれる可能性がある。
【0056】
アクリル系バインダー(D1)のガラス転移点は、0~100℃が好ましく、0~80℃がより好ましく、0~70℃がさらに好ましく、10~40℃が特に好ましい。
上記範囲内とすることにより、印刷後の乾燥時間を短縮することができ、印刷速度の向上及び省エネの観点から好ましい。
【0057】
アクリル系バインダー(D1)の体積平均粒径は、20~100nmが好ましく、20~80nmがさらに好ましい。体積平均粒径は、例えば、イオン交換水で希釈した樹脂をセルに詰め、UPA-EX150を用いて下記条件で測定することができる。
・ローディングインデックス:5±1
・測定時間:180秒
・測定回数:5回
・透過性:透過
・粒子屈折率:1.80
・形状:真球
・密度:1.00
・溶媒屈折率:1.333
・高温時粘度:30℃、0.797
・低温時粘度:20℃、1.002
・フィルタ:Stand:Norm
・感度:Standard
・UPA互換モード
【0058】
また、アクリル系バインダー(D1)としては、市販品を使用することも勿論可能である。市販品としては、ME-2039 XJE-509、XJE-518、XJE-520、XJE-556(星光PMC社製、アクリルエマルション)、ジョンクリル631、ジョンクリル731(BASF社製)等を使用できる。
【0059】
バインダー(D)は、アクリル系バインダー(D1)に替えて又は加えて、さらに他の成分を含有することができる。他の成分としては、ポリウレタン樹脂が好ましく、ポリエステルポリオール系ポリウレタンに比べて加水分解を起こしにくく、着色画像の耐擦過性に特に優れる点でポリエーテルポリオール系ポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。この様なポリエーテルポリオール系ポリウレタン樹脂としては、例えば、ポリテトラメチレンエーテルグルコール(PTMG)とジイソシアネートとを必須成分として反応させたポリウレタン樹脂が挙げられる。
【0060】
本発明の分散体がバインダー(D)を含有する場合、バインダー(D)は、不揮発分換算で10~200質量%含有されることが好ましく、30~150質量%がより好ましい。これらの範囲であると、希釈後にもインクジェットインクの基材への密着性と耐擦過性、耐ブロッキング性が両立するため好ましい。
【0061】
(沸点が100℃以上のアミン化合物(E))
本発明の顔料分散体は、沸点が100℃以上のアミン化合物(E)を含有することが好ましい。アミン化合物(E)を添加することで、インクの過度な乾燥がより抑制されてインクがノズル詰まりを起こすことがなく、結果として吐出性が良好となり、吐出性と耐擦過性とを両立することができる。
【0062】
アミン化合物(E)としては、ポリアルキレンイミン、ポリアリルアミン、(ポリ)エチレンポリアミン、アルカノールアミン、アルキルアミンが挙げられる。
これらの中でも、顔料分散性、臭気及び再溶解性の観点から、アルカノールアミンが好ましい。
【0063】
(ポリアルキレンイミン)
ポリアルキレンイミンは、好ましくは炭素数が2以上5以下のアルキレン基を有するポリアルキレンイミンである。
ポリアルキレンイミンは、好ましくはアルキレン基の炭素数が2以上4以下のポリアルキレンイミン、より好ましくはポリエチレンイミン又はポリプロピレンイミン、更に好ましくはポリエチレンイミンである。これらは、1種又は2種以上を用いてもよい。
【0064】
ポリアルキレンイミンの数平均分子量は、好ましくは150以上、より好ましくは500以上、更に好ましくは800以上、更に好ましくは1,000以上であり、そして、好ましくは10,000以下、より好ましくは5,000以下、更に好ましくは4,000以下である。
該分子量の値は、実施例に記載の方法により求められる。
【0065】
(ポリアリルアミン)
ポリアリルアミンとしては、アリルアミン、ジメチルアリルアミン等のアリル化合物の単独重合体又は共重合体などのアミノ基を側鎖に有するポリマーが挙げられる。
ポリアリルアミンの重量平均分子量は、好ましくは800以上、より好ましくは1,000以上、更に好ましくは1,500以上であり、そして、好ましくは10,000以下、より好ましくは5,000以下、更に好ましくは4,000以下である。
【0066】
(ポリエチレンポリアミン)
(ポリ)エチレンポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等が挙げられる。これらの中でも、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンが好ましい。
【0067】
(アルカノールアミン)
アルカノールアミンとしては、好ましくは炭素数2以上9以下のアルカノールアミンである。アルカノールアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノブタノールアミン等の1級アルカノールアミン;N-メチルエタノールアミン、N-メチルプロパノールアミン等のモノアルカノール2級アミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のジアルカノール2級アミンなどの2級アルカノールアミン;N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジメチルプロパノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン等のモノアルカノール3級アミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン等のジアルカノール3級アミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のトリアルカノール3級アミンなどの3級アルカノールアミンが挙げられる。これらの中でも、炭素数2以上9以下の3級アルカノールアミンが好ましく、トリイソプロパノールアミンが特に好ましい。
【0068】
(アルキルアミン)
アルキルアミンとしては、好ましくは炭素数1以上6以下のアルキルアミンである。アルキルアミンとしては、例えば、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン等の1級アミン;ジエチルアミン、ジプロピルアミン等の2級アミンが挙げられる。
【0069】
本発明の顔料分散体において、アミン化合物(E)は、分散剤(A)の酸基に対して中和率30~500%が好ましく、特に50~400%の範囲に設定されることが好ましい。これらの範囲であると、ノズル詰まりが起こらず、密着性や耐擦過性にも優れるインクとなる。
【0070】
((A)~(E)成分以外の成分)
その他樹脂としては、顔料分散体を調製するのに好適な水性樹脂がよく、好ましい例としては例えば、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体などのスチレン-アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体、及び該水性樹脂の塩のうち、上記成分に該当しないものが挙げられる。
【0071】
水以外の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール及びイソプロパノール等のアルコール溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル類;N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム溶剤などが挙げられる。
【0072】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられ、これらの中では、アニオン性界面活性剤、又はノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0073】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられ、これらの具体例として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩などを挙げることができる。
【0074】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー、アルキルフェノールエトキシレート類、等を挙げることができ、これらの中では、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー、アルキルフェノールエトキシレート類が好ましい。
【0075】
その他の界面活性剤として、ポリシロキサンオキシエチレン付加物のようなシリコン系界面活性剤;パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテルのようなフッ素系界面活性剤;スピクリスポール酸、ラムノリピド、リゾレシチンのようなバイオサーファクタント等も使用することができる。
【0076】
これらの界面活性剤は、単独で用いることもでき、2種類以上を混合して用いることもできる。また、界面活性剤の溶解安定性等を考慮すると、そのHLBは、7~20の範囲であることが好ましい。
【0077】
市販のフッ素系界面活性剤として、ノベックFC-4430、FC-4432(以上、住友スリーエム製)、ゾニールFSO-100、FSN-100、FS-300、FSO(以上、デュポン製)、エフトップEF-122A、EF-351,352801、802(ジェムコ製)、メガファックF-470、F-1405、F474、F-444(DIC製)、サーフロンS-111、S-112、S-113、S121、S131、S132、S-141、S-145(旭硝子製)、フタージェントシリーズ(ネオス製)、フルオラッド(Fluorad)FCシリーズ(ミネソタ・マイニング・アンド・マニファクチュアリング・カンパニー製)、モンフロール(Monflor)(インペリアル・ケミカル・インダストリー製)、リコベット(Licowet)VPFシリーズ(ファルベベルケ・ヘキスト製)が挙げられる。
【0078】
シリコン系界面活性剤として、KF-351A、KF-642、オルフィンPD-501、オルフィンPD-502、オルフィンPD-570(信越化学工業製)、BYK347、BYK348(ビックケミー・ジャパン製)などが挙げられる。
【0079】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤としては、BTシリーズ(日光ケミカルズ)、ノニポールシリーズ(三洋化成製)、D-,P-シリーズ(竹本油脂製)、EMALEX DAPEシリーズ(日本エマルジョン製)、ペグノールシリーズ(東邦化学工業製)が挙げられる。ポリエチレングリコールアルキルエステル系として、ペグノール(東邦化学工業製)が挙げられる。
【0080】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、オルフィンE1010、STG、Y(以上、日信化学社製)、サーフィノール104、82、420、440、465、485、TG(Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。
【0081】
ワックスとしては、例えば、カルナバワックス、キャンデリワックス、みつろう、ライスワックス、ラノリン等の植物・動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト等の鉱物系ワックス;パラフィンワックスはいわゆる石油系ワックス;カーボンワックス、ヘキストワックス、ポリオレフィンワックス、シリコーンワックス、ステアリン酸アミド等の合成ワックス類、α-オレフィン・無水マレイン酸共重合体等の天然・合成ワックスエマルジョンや配合ワックス等のワックスが挙げられる。これらのワックスは、形成された記録物の表面にスリップ性を付与し耐擦過性を向上させる効果を有する。これらのワックスは、1種あるいは複数種を混合して用いることができる。これらの中でも、シリコーンワックス、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス等が好ましく用いられる。
【0082】
シリコーンワックスの市販品としては、例えば、SM8706EX、SM7036EX、SM7060EX、SM7025EX、SM490EX、SM8701EX、SM8709SR、SM8716SR、IE-7045、IE-7046T、SH7024、BY22-744EX、BY22-818EX、FZ-4658、FZ-4634EX、FZ-4602(以上商品名、東レ・ダウコーニング社製)、POLON-MF-14、POLON-MF-14EC、POLON-MF-23POLON-MF-63、POLON-MF-18T、POLON-MF-56、POLON-MF-49、POLON-MF-33A、POLON-MF-55T、POLON-MF-28T、POLONMF-50、POLON-MK-206、POLON-SR-CONC、KM-9771、KM-9774、KM-2002-T、KM-2002-L-1、KM-9772、KS-7002、KS-701、X-51-1264(以上商品名、信越化学工業社製)等が挙げられる。
【0083】
ポリオレフィンワックスとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン又はその誘導体から製造されたワックス及びそのコポリマー、具体的には、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、ポリブチレン系ワックス等が挙げられる。ポリオレフィンワックスは、1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、上記の架橋性基を有するウレタン樹脂粒子の架橋性基と反応しにくく、吐出安定性に優れるものとできる観点から、ポリエチレン系ワックスが好ましい。
【0084】
ポリオレフィンワックスの市販品としては、例えば、AQUACER513(ポリエチレン系ワックス、平均粒子径100nm以上200nm以下、融点130℃、固形分30%)、AQUACER507、AQUACER515、AQUACER840、AQUACER1547(以上商品名、ビックケミー・ジャパン社製)等のAQUACERシリーズや、ハイテックE-7025P、ハイテックE-2213、ハイテックE-6500、ハイテックE-6314、ハイテックE-9460、ハイテックE-9015、ハイテックE-4A、ハイテックE-5403P、ハイテックE-8237(以上商品名、東邦化学社製、ポリエチレン系ワックス)等のハイテックシリーズ、ノプコートPEM-17(商品名、サンノプコ社製、ポリエチレンエマルジョン、平均粒子径40nm)、ULTRALUBE E-843N(商品名、keim additec surface GmbH社製、ポリエチレンワックス)等が挙げられる。
【0085】
パラフィンワックスはいわゆる石油系ワックスである。ここで、パラフィンとは、炭素原子の数が20以上のアルカンを意味し、パラフィンワックスとは、炭素数20以上30以下の直鎖状のパラフィン系炭化水素を主成分とし、少量のイソ・パラフィンを含む分子量300~500程度の炭化水素の混合物をいう。インクがパラフィンワックスを含むことにより、記録物にスリップ性や撥水性が付与され、それにより耐擦過性が向上する。
【0086】
パラフィンワックスの市販品としては、例えば、AQUACER537、AQUACER539(以上商品名、ビックケミー・ジャパン社製)等が挙げられる。
【0087】
ワックスは顔料分散体中に微粒子状態、すなわち、エマルジョン状態又はサスペンジョン状態で含有されていることが好ましい。これにより、インクの粘度をインクジェットヘッドを用いた吐出で適正な範囲となるように調整しやすくなり、また記録時の吐出安定性、間欠吐出特性を確保しやすくなる。
【0088】
低表面張力有機溶媒としては、例えばグリコールエーテル化合物としては、ジエチレングリコールモノ(炭素数1~8のアルキル)エーテル、トリエチレングリコールモノ(炭素数1~8のアルキル)エーテル、プロピレングリコールモノ(炭素数1~6のアルキル)エーテル、ジプロピレングリコールモノ(炭素数1~6のアルキル)エーテルを挙げることができ、これらを1種又は2種以上の混合物として使用することができる。
【0089】
具体的には、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘプチルエーテル、ジエチレングリコールモノオクチルチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノペンチルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノヘプチルエーテル、トリエチレングリコールモノオクチルチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノペンチルエーテル、プロピレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノペンチルエーテル、ジプロピレングリコールモノヘキシルエーテルなどを挙げることができる。
【0090】
グリコールエーテルや界面活性剤等は、インクの表面張力を調製するのに表面張力調整剤として使用することができる。具体的にはインクの表面張力が15mN/m~30mN/m以下になるよう適宜添加でき、界面活性剤の添加量は、水性顔料分散体に対して0.1~10質量%程度の範囲が好ましく、より好ましくは0.3~2質量%である。表面張力は16~28の範囲とすることがなお好ましく、18~25の範囲が最も好ましい。
【0091】
湿潤剤としては特に限定はないが、水との混和性がありインクジェットプリンターのヘッドの目詰まり防止効果が得られるものが好ましい。例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-ノナンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-ノナンジオール、1,2-オクタンジオール等のジオール化合物、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ε-カプロラクタム等の含窒素複素環化合物等が挙げられる。中でも、プロピレングリコール、1,3-ブチルグリコールを含むことが安全性を有し、かつインク乾燥性、吐出性能に優れた効果が見られる。
湿潤剤のインク中の含有量は3~50質量%であることが好ましい。
【0092】
浸透剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールヘキシルエーテルやジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等が挙げられる。顔料分散体中の浸透剤の含有量は0.01~10質量%であることが好ましい。
【0093】
<顔料分散体の製造方法>
本発明における顔料分散体の製造方法は何ら限定されるものではない。
(A)~(C)成分と、必要に応じて添加される(D)、(E)成分等の任意成分とを分散させて顔料分散体としてもよいし、予め、(A)、(B)成分及び(C)成分の一部や媒体等により顔料濃度の高い顔料分散ミルベース液を作製し、適宜(D)成分等の任意成分を添加、(C)成分等の水性媒体で希釈して水性インクジェットインクの調製のための顔料分散体としてもよい。攪拌・分散装置を用いて顔料を分散させて顔料分散ミルベース液を予め作製した後に顔料分散体を作製することにより、所望の体積平均粒子径で顔料が分散された水性顔料分散体を容易に得ることができる。
以下、後者の顔料分散ミルベース液を作製した後、顔料分散体とする方法について述べる。
【0094】
顔料分散ミルベース液の製造方法としては、以下のような方法が挙げられる。
(1)必要に応じて顔料分散剤を含有する水性媒体に顔料を添加した後、攪拌・分散装置を用いて顔料を該水性媒体中に分散させることにより、顔料分散ミルベース液を調製する方法。
(2)顔料、及び必要に応じて顔料分散剤を2本ロール、ミキサー等の混練機を用いて混練し、得られた混練物を水性媒体中に添加し、攪拌・分散装置を用いて顔料分散ミルベース液を調製する方法。
(3)メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等の水と相溶性を有する有機溶剤中に顔料分散剤を溶解して得られた溶液に顔料を添加した後、攪拌・分散装置を用いて顔料を有機溶液中に分散させ、次いで水性媒体を用いて転相乳化させた後、前記有機溶剤を留去し顔料分散ミルベース液を調製する方法。
【0095】
攪拌・分散装置としては、例えば、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザー等を挙げることができ、これらのうちの1つを単独で用いてもよく、2種類以上装置を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
<インクジェットインク>
本発明の顔料分散体を用い、顔料の含有率が1~30質量%となる様に水性媒体で希釈し水性インクジェットインクとする。この水性媒体は、(C)成分と同様に水であってもよく、水と有機溶剤との混合物であってもよく、有機溶剤のみであってもよい。有機溶剤としては、水と混和するものであれば特に限定されないが、「水以外の溶媒」として任意成分中で上述したものが挙げられる。
また、水性媒体中に、顔料分散体の任意成分(例えば、(D)成分、防腐剤、表面張力調整剤等)を含有させることもできる。
【0097】
<印刷物>
本発明のインクジェットインクは、各種基材への密着性に優れることから、プラスチック基材とインクジェットインクによる印刷層とを有する印刷物を好適に製造することが可能である。
【0098】
プラスチック基材としては、Ny6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリ乳酸等のポリヒドロキシカルボン酸;ポリ(エチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート)等の脂肪族ポリエステル系樹脂に代表される生分解性樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂又はそれらの混合物等の熱可塑性樹脂よりなるプラスチック基材やこれらの積層体が挙げられるが、中でも、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルからなる基材が好適に使用できる。
【0099】
また、プラスチック基材は、プラスチックフィルムであってもよい。プラスチックフィルムとしては、未延伸フィルムでも延伸フィルムでも良く、その製法も限定されるものではない。また、フィルムの厚さも特に限定されるものではないが、通常は1~500μmの範囲であればよい。
また、フィルムの印刷面には、コロナ放電処理がされていることが好ましい。また、印刷面にシリカ、アルミナ等が蒸着されていても構わない。
【0100】
本発明の印刷物は、プラスチック基材に対する密着性が良好であり、かつインクジェット印刷によって作製が可能であることから、包装材料として好適に使用可能である。特に意匠性及びオンデマンド印刷性に優れることから、食品包装用として特に好適に使用可能である。また、本発明のインクジェットインクは耐擦過性に優れることから、本発明の印刷物は、表面となる面にインクジェット印刷が施された、表刷り印刷物とすることも可能である。
【実施例
【0101】
以下、実施例と比較例とにより、本発明を具体的に説明する。以下、特に明記のない限りにおいて、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を意味する。
【0102】
[実施例1]
<分散樹脂の作製>
2Lのステンレス製フラスコにメチルエチルケトン(MEK)600gを入れ、20mL/minにて窒素を吹き入れ、100rpmで攪拌しながら、オイルバスを用いて80℃まで加温した。予め混合しておいた、メタクリル酸 84.5g、スチレン215.0g、メタクリル酸ブチル 200.0g、パーブチル(登録商標)O(日油社製) 18.0gを2g/minにてフラスコ内に滴下した。その後、内温を80℃に保持したまま16時間攪拌を続け、不揮発分45% 酸価110 重量平均分子量20000の樹脂Aを得た。
【0103】
<顔料分散体の作製>
100mLのポリ容器に、イオン交換水 13.6g、メチルジエタノールアミン(MDEA、沸点247℃)0.21g(中和率150%)、分散樹脂A 1.3g、銅フタロシアニン顔料(DIC社製、TGR-SD)4.0g、φ0.5mmジルコニアビーズ(ニッカトー社製、YTZ)100gを入れ、1時間の分散処理を行った。その後、ビーズの除去し、MEKを充分に留去したのち、顔料濃度15%に調整、孔径8umのメンブレンフィルター(メルクミリポワ社製、ニトロセルロース)を用いてろ過を行い、顔料分散体を得た。
【0104】
<インクジェットインクの作製>
作製した顔料分散体とバインダー及び水可溶性溶剤等を混合し、顔料濃度5%、スチレン-アクリルバインダー(星光PMC製 酸価30℃ Tg20℃)濃度 1.5%、酸化ポリエチレンワックス(keim additec社製)濃度 1.1%、水可溶性溶剤 合計28%(プロピレングリコール 10%、1.3-ブタンジオール 5%、1.2-ヘキサンジオール3%、2-ピロリドン 10%)、防腐剤・表面張力調整剤濃度 0.1~1.0%の水系インクジェットインクを得た。
【0105】
[実施例2]
顔料分散体の作製工程において、イオン交換水を13.5g、MDEAを0.28g(中和率200%)を用いた以外は実施例1と同様の方法で、顔料分散体及び水性インクジェットインクを得た。
【0106】
[実施例3]
分散樹脂の作製工程において、メタクリル酸 130.6g、メタクリル酸ブチル 153.9g、スチレン 215.0g、パーブチル(登録商標)O 36.0gを用いた以外は実施例1と同様の方法で、不揮発分45% 酸価170 重量平均分子量8000の分散樹脂Bを得た。
さらに、顔料分散体の作製工程において、イオン交換水 13.3g、トリイソプロパノールアミン(TIPA、沸点305℃) 0.52g(中和率150%)、分散樹脂B 1.3gを用いた以外は実施例1と同様の方法で、顔料分散体及び水性インクジェットインクを得た。
【0107】
[実施例4]
顔料分散体の作製工程において、イオン交換水 13.6g、MDEA 0.22g(中和率101%)とした以外は実施例3と同様の方法で、顔料分散体及び水性インクジェットインクを得た。
【0108】
[実施例5]
顔料分散体の作製工程において、イオン交換水 13.5g、MDEA 0.32g(中和率150%)とした以外は実施例3と同様の方法で、顔料分散体及び水性インクジェットインクを得た。
【0109】
[実施例6]
分散樹脂の作製工程において、アクリル酸 138.3g、メタクリル酸 0.0g、メタクリル酸ブチル 0.0g、スチレン 361.2g、パーブチル(登録商標)O 26gを用いた以外は実施例1と同様の方法で、不揮発分 45%、酸価215、重量平均分子量 8500の分散樹脂Cを得た。
さらに、顔料分散体の作製工程において、イオン交換水 13.2g、TIPA 0.66g(中和率150%)、分散樹脂C 1.3gを用いた以外は実施例3と同様の方法で、顔料分散体及び水性インクジェットインクを得た。
【0110】
[実施例7]
顔料分散体の作製工程において、イオン交換水 13.5g、MDEA 0.32g(中和率150%)とした以外は実施例6と同様の方法で、顔料分散体及び水性インクジェットインクを得た。
【0111】
[比較例1]
顔料分散体の作製工程において、イオン交換水 13.6g、35%水酸化カリウム水溶液(KOH) 0.17g(中和率60%)とした以外は実施例3と同様の方法で、顔料分散体及び水性インクジェットインクを得た。
【0112】
[比較例2]
顔料分散体の作製工程において、イオン交換水 13.6g、35%KOH 0.22g(中和率75%)とした以外は実施例3と同様の方法で、顔料分散体及び水性インクジェットインクを得た。
【0113】
[比較例3]
顔料分散体の作製工程において、イオン交換水 13.5g、トリエタノールアミン(TEA、沸点335℃) 0.27g(中和率100%)とした以外は実施例3と同様の方法で、顔料分散体及び水性インクジェットインクを得た。
【0114】
[比較例4]
顔料分散体の作製工程において、イオン交換水 13.4g、TEA 0.40g(中和率150%)とした以外は実施例3と同様の方法で、顔料分散体及び水性インクジェットインクを得た。
【0115】
[比較例5]
顔料分散体の作製工程において、イオン交換水 13.5g、TIPA 0.35g(中和率100%)とした以外は実施例3と同様の方法で、顔料分散体及び水性インクジェットインクを得た。
【0116】
[比較例6]
顔料分散体の作製工程において、イオン交換水 13.5g、35%KOH 0.28g(中和率75%)とした以外は実施例6と同様の方法で、顔料分散体及び水性インクジェットインクを得た。
【0117】
[比較例7]
顔料分散体の作製工程において、イオン交換水 13.7g、28%アンモニア水溶液 0.11g(中和率80%)とした以外は実施例6と同様の方法で、顔料分散体及び水性インクジェットインクを得た。
【0118】
[比較例8]
顔料分散体の作製工程において、イオン交換水 13.6g、ジメチルエタノールアミン(DMEA、沸点133℃) 0.20g(中和率100%)とした以外は実施例6と同様の方法で、顔料分散体及び水性インクジェットインクを得た。
【0119】
[比較例9]
顔料分散体の作製工程において、イオン交換水 13.4g、35%KOH 0.37g(中和率100%)とした以外は実施例6と同様の方法で顔料分散体を得た。
得られた分散体に、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス製 エポキシ当量183)を0.43g(50%当量)添加し、70℃にて3時間攪拌し、樹脂の架橋処理を行った。さらに、孔径8umのメンブレンフィルター(メルクミリポワ製 ニトロセルロース)を用いてろ過を行った。
それ以外は実施例6と同様の方法で、顔料分散体及び水性インクジェットインクを得た。
【0120】
[比較例10]
顔料分散体の作製工程において、イオン交換水 13.4g、TIPA 0.44g(中和率100%)とした以外は比較例9と同様の方法で架橋処理を行い、顔料分散体及びインクジェットインクを得た。
【0121】
[比較例11]
顔料分散体の作製工程において、イオン交換水 13.5g、TEA 0.34g(中和率100%)とした以外は比較例9と同様の方法で架橋処理を行い、顔料分散体及びインクジェットインクを得た。
【0122】
<評価用印刷物の作製>
インク組成物をインクジェットプリンター(セイコーエプソン(株)製、MJ-510C)のインクカートリッジに充填し、コロナ処理ポリプロピレン(OPP)二軸延伸フィルム(東洋紡績社製「パイレンP2161」、厚さ20μm)、コロナ処理(PVC)フィルム(サクライ社製「LSPVC1270f140μm)又はコロナ処理ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡績社製「エステルE5100」、厚さ12μm)に、ベタ絵柄を印刷後、ドライヤーで乾燥したのち、更に90℃オーブンに入れ10分乾燥し印刷物を得た。
【0123】
<臭気試験>
悪臭防止法における臭気の6段階表示法に従い、室温における顔料分散液及び評価用印刷物を90℃にて乾燥させた際のオーブン内のアミン臭気を官能評価した。Aを合格とする。
A:0~1段階(無臭~やっと検知できる匂い)
B:2~5段階 (匂いが何であるか分かる弱い匂い~強烈な匂い)
【0124】
<ろ過性>
顔料濃度15%に調整した顔料分散体を孔径8umのメンブレンフィルター(メルクミリポワ製 ニトロセルロース)を用いてろ過を行い、以下の基準によりろ過性を評価した。架橋処理を行った試料は、架橋処理後のろ過性をもって判定した。Aを合格とする。
A:ろ過速度 150g/min以上
B:ろ過速度 50g/min~150g/min
C:ろ過速度 50g/min以下もしくは、26g通液前にフィルターが閉塞
【0125】
<耐擦過性>
JIS K5701-1:2000に従って、学振型摩擦堅牢度試験機(テスター産業(株)製、AB-301)を用い、OPPフィルム、PVCフィルム、又はPETフィルム上に印刷した印刷物の耐擦過性を評価した。印刷物を試験機にセットし、乾摩擦試験は摩擦用紙としてPPCペーパー、荷重200g、100往復の条件とし、湿摩擦試験は摩擦用紙としてイオン交換水で湿らせたカナキン3号、荷重200g、10往復の条件として試験を行った。試験後の印刷物におけるインクの剥がれ具合について、目視にて以下の評価基準に従って評価した。B以上を合格とする。
A:全く剥がれが生じなかった。
B:1%未満の剥がれがあった。
C:1%以上5%未満の剥がれがあった。
D:5%以上10%未満の剥がれがあった。
【0126】
<再溶解性評価>
各例の顔料濃度調製済プラスチック基材用水性インクジェットインクをスライドガラス上に30μL塗布し、80℃乾燥機内で10分間放置し、試験板を作製した。その後、室温の水に60秒間浸漬し、再び溶解するかを目視で確認した。B以上を合格とする。
A:30秒間浸漬し、取り出した後にスライドガラス上に着色成分が確認されず、かつ浸漬液に粒状の未溶解分が確認されなかったもの
B:スライドガラスもしくは浸漬液に若干の溶け残りが確認されるが許容範囲であるもの
C:スライドガラスもしくは浸漬液に明らかに未溶解物があるもの
D:スライドガラスもしくは浸漬液に著しく未溶解物があるもの
なお、本実験において評価が合格以上とされた捺染剤は、スクリーン記録法で再溶解性を示し、あるいはインクジェット記録法において、印字の長期休止後のクリーニング操作で、容易に吐出可能となる。
【0127】
【表1】















【0128】
【表2】
























【0129】
【表3】
























【0130】
【表4】
【0131】
上記結果から明らかなように、本発明に係る実施例1~7の顔料分散体を用いた実施例1~7のインクジェットインクは、製造時に臭気を発生することが無く、耐擦過性、ろ過性及び再溶解性の全てにおいてに優れていることが確認できた。
一方、比較例1~11の比較分散体を用いた比較例1~11のインクジェットインクは、上記いずれかの特性に劣るものであった。
よって、本発明のインクジェット用顔料分散体及びインクジェットインクは、インクジェット印刷に好適に用いうるものであることが確認できた。加えて、本発明の顔料分散体及びインクは、プラスチック基材に対して印刷を行った際の耐擦過性が高いことから、パッケージやサインディスプレイ等の用途のプラスチックフィルムへの印刷に適したものであり、且つ、表刷りにも適用し得ることが確認できた。