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特許7243973シミュレータ、該シミュレータを備える注入装置または撮像システム、及びシミュレーションプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】シミュレータ、該シミュレータを備える注入装置または撮像システム、及びシミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20230314BHJP
   A61M 5/142 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
A61B5/055 390
A61B5/055 383
A61M5/142 530
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018200816
(22)【出願日】2018-10-25
(65)【公開番号】P2020065783
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391039313
【氏名又は名称】株式会社根本杏林堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100154162
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 徹
(72)【発明者】
【氏名】粟井 和夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 優子
(72)【発明者】
【氏名】増田 和正
(72)【発明者】
【氏名】弓場 孝治
(72)【発明者】
【氏名】吉川 明史
(72)【発明者】
【氏名】根本 茂
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0095328(US,A1)
【文献】国際公開第2016/084373(WO,A1)
【文献】特表2004-518480(JP,A)
【文献】特表2014-509529(JP,A)
【文献】特開2018-130231(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152841(WO,A1)
【文献】特表2018-526657(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0030071(US,A1)
【文献】特開2007-143880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055,6/00-6/014
A61M 5/142
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液情報を取得する薬液情報取得部と、
造影剤の注入プロトコルを取得するプロトコル取得部と、
前記注入プロトコル及び前記薬液情報に基づいて、被写体の組織の造影剤濃度の経時変化をシミュレーションする予測部であって、造影剤濃度と核磁気共鳴画像法を用いて得られるべき信号強度とが関連付けられた変換テーブルを参照して、シミュレーションして得られた前記造影剤濃度の前記経時変化から前記組織の前記信号強度の経時変化をシミュレーションする予測部とを備える、シミュレータ。
【請求項2】
前記変換テーブルの前記信号強度は、互いに濃度が異なる複数の造影剤濃度と関連付けられている、請求項1に記載のシミュレータ。
【請求項3】
前記変換テーブルの前記造影剤濃度は、互いに撮像パラメータが異なる複数の信号強度と関連付けられている、請求項1または2に記載のシミュレータ。
【請求項4】
前記変換テーブルは、互いに異なる複数のMR装置に対応している、請求項1から3のいずれか一項に記載のシミュレータ。
【請求項5】
目標信号強度の目標持続時間を取得する目標値取得部をさらに備え、
前記予測部は、前記組織の前記信号強度の前記経時変化をシミュレーションして、予測持続時間を求めるとともに、前記予測持続時間を前記目標持続時間と比較し、前記予測持続時間が前記目標持続時間より短い場合には、前記注入プロトコルの注入速度及び注入時間の少なくとも一方を変動させて再シミュレーションする、請求項1に記載のシミュレータ。
【請求項6】
前記予測部は、前記予測持続時間が前記目標持続時間より短い場合には、シミュレーションにおいて使用した使用造影剤量よりも多量の造影剤を注入する条件で再シミュレーションし、前記予測持続時間が前記目標持続時間より長い場合には、前記使用造影剤量よりも少量の造影剤を注入する条件で再シミュレーションする、請求項5に記載のシミュレータ。
【請求項7】
前記予測部は、再シミュレーションして得られた結果を参照して、最適な注入プロトコルを決定する、請求項1から6のいずれか一項に記載のシミュレータ。
【請求項8】
前記予測部は、前記組織を血流方向に沿って分割した複数のコンパートメントのそれぞれにおいて前記信号強度の前記経時変化をシミュレーションする、請求項1から7のいずれか一項に記載のシミュレータ。
【請求項9】
注入プロトコルに従って造影剤を注入する注入ヘッドと、
請求項1から8のいずれか一項に記載のシミュレータとを備える、注入装置。
【請求項10】
被写体を撮像するMR装置と、
請求項1から8のいずれか一項に記載のシミュレータとを備える、撮像システム。
【請求項11】
核磁気共鳴画像法を用いて得られるべき被写体の組織の信号強度の経時変化を予測するシミュレーションプログラムであって、コンピューターを
薬液情報を取得する薬液情報取得部と、
造影剤の注入プロトコルを取得するプロトコル取得部と、
前記注入プロトコル及び前記薬液情報に基づいて、前記被写体の前記組織の造影剤濃度の経時変化をシミュレーションする予測部であって、造影剤濃度と核磁気共鳴画像法を用いて得られるべき信号強度とが関連付けられた変換テーブルを参照して、シミュレーションして得られた前記造影剤濃度の前記経時変化から前記組織の前記信号強度の経時変化をシミュレーションする予測部として機能させる、シミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴画像法を用いて得られるべき信号強度の経時変化をシミュレーションするシミュレータ、該シミュレータを備える注入装置または撮像システム、及びシミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、被写体情報と、注入プロトコルと、組織情報とに基づいて、組織を血流方向に沿って分割した複数のコンパートメントのそれぞれの画素値の経時変化を予測する予測部を備えるシミュレータが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/084373号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているようなCT(Computed Tomography)においては、X線減衰が造影剤の体積または注入速度とほぼ直線的に相関する。一方、核磁気共鳴画像法を用いるMRI(Magnetic Resonance Imaging)では、造影剤の体積または注入速度の増加に伴って信号強度が増加するが、造影剤の体積または注入速度の増加率に比べて信号強度の増加率が小さい。そのため、造影剤の体積または注入速度が増加しても、信号強度は直線的には増加しない。したがって、被験者の組織を核磁気共鳴画像法を用いて撮像して得られるべき信号強度を、比例係数を用いてシミュレーションすることができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係るシミュレータは、薬液情報を取得する薬液情報取得部と、造影剤の注入プロトコルを取得するプロトコル取得部と、前記注入プロトコル及び前記薬液情報に基づいて、被写体の組織の造影剤濃度の経時変化をシミュレーションする予測部であって、造影剤濃度と核磁気共鳴画像法を用いて得られるべき信号強度とが関連付けられた変換データを参照して、シミュレーションして得られた前記造影剤濃度の前記経時変化から前記組織の前記信号強度の経時変化をシミュレーションする予測部とを備える。
【0006】
本発明のさらなる特徴は、添付図面を参照して例示的に示した以下の実施例の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】シミュレータの概略ブロック図。
図2】造影剤濃度と信号強度とが関連付けられた変換データ。
図3】試料の撮像に用いられる試料支持具の概略斜視図。
図4】シミュレータの表示部に表示されるメイン画面。
図5】シミュレータの表示部に表示される自動最適化画面。
図6】自動最適化のフローチャート。
図7】注入装置及び撮像システムの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための例示的な実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態で説明する寸法、材料、形状、及び構成要素の相対的な位置は任意であり、本発明が適用される装置の構成または様々な条件に応じて変更できる。また、特別な記載がない限り、本発明の範囲は、以下に具体的に記載された実施形態に限定されない。特に言及した場合を除き、造影剤という用語は、造影剤単体と、造影剤に加えて他の溶媒及び添加物を含む薬液との両方を含む。
【0009】
[第1実施形態]
図1に示すシミュレータ(灌流シミュレータ)20は、核磁気共鳴画像法を用いて得られるべき被写体の組織の信号強度の経時変化を予測する。そのため、シミュレータ20は、CPU等を含む制御部25と記憶部24とを備えている。この制御部25は、記憶部24に記憶された制御プログラムに従ってシミュレータ20の各部を制御している。そして、記憶部24に実装された制御プログラムに対応して制御部25が各種処理を実行することにより、各部が各種機能として論理的に実現される。さらに、制御部25は、表示部26を制御する表示制御部としても機能する。
【0010】
記憶部24は、制御部25が動作するためのシステムワークメモリであるRAM(Random Access Memory)、並びにプログラム若しくはシステムソフトウェアを格納するROM(Read Only Memory)、HD(Hard-disk Drive)及びSSD(Solid State Drive)等の記憶装置を有する。また、記憶部24は、コンピューターとしての制御部25を、核磁気共鳴画像法を用いて得られるべき被写体の組織の信号強度の経時変化を予測する予測部16として機能させる制御プログラムとしてシミュレーションプログラム29を記憶している。代替的に、制御部25は、CD(Compact Disc)及びDVD(Digital Versatile Disc)、CF(Compact Flash)カード等の可搬記録媒体、またはインターネット上のサーバー等の外部記憶媒体に記憶された制御プログラム及びシミュレーションプログラム29に従って、各種処理を制御することもできる。
【0011】
制御部25は、被写体である被験者に関する被写体情報を取得する被写体情報取得部11を備えている。被写体情報取得部11は、シミュレータ20のオペレータがシミュレータ20の入力部27から入力された被写体情報を取得する。この被写体情報は、一例として、体重、身長、心機能、及び心拍数を含む。また、被写体情報は、他の例として、ヘモグロビン量、体表面積、一回拍出量、心拍出量、推定糸球体濾過量(eGFR)、クレアチニン値、年齢、性別、除脂肪体重、ボディマス指数、循環血液量、被験者番号(被験者ID)、被験者の疾病及び副作用の履歴、被験者氏名、生年月日、血液量、並びに血流速度を含んでいてもよい。
【0012】
代替的に、被写体情報取得部11は、シミュレータ20の記憶部24または外部記憶装置(サーバー)から被写体情報を取得してもよい。このようなサーバーとしては、例えば、RIS(Radiology Information System)、PACS(Picture Archiving and Communication System)、HIS(Hospital Information System)、検像システム、及び画像作成用ワークステーションがある。さらに、被写体情報取得部11は、図7に示すMR装置3または注入装置2から被写体情報を取得してもよい。
【0013】
また、制御部25は、造影剤の注入プロトコルを取得するプロトコル取得部12を備える。このプロトコル取得部12は、入力部27を介してオペレータが記憶部24に記憶させた注入プロトコルを取得する。注入プロトコルは、一例として、薬液の注入時間及び注入速度を含んでいる。また、注入プロトコルは、他の例として、注入方法、造影剤注入箇所、注入量、注入タイミング、造影剤濃度、注入圧力、注入速度の加速度、造影剤の注入時間及び注入速度、生理食塩水の注入時間及び注入速度、造影剤の後押し注入の有無、注入速度の増減、クロス注入の有無、リンク速度設定の有無、並びに注入用チューブの体積等の情報を含んでいてもよい。
【0014】
注入プロトコルにおけるクロス注入とは、注入開始から設定された時間が経過するまで、生理食塩水の注入速度より高速で造影剤を注入した後、注入速度が徐々に減少するように造影剤を注入すると同時に、注入速度が徐々に増加するように生理食塩水を注入する注入方法である。また、注入プロトコルにおけるリンク速度設定とは、造影剤と生理食塩水の注入速度が同一になるように、両者の注入速度をリンクさせる設定である。代替的に、プロトコル取得部12は、外部記憶装置または注入装置2(図7)から注入プロトコルを取得してもよい。
【0015】
さらに、制御部25は、被写体の組織情報を取得する組織情報取得部13を備えている。この組織情報取得部13は、入力部27を介してオペレータが記憶部24に記憶させた組織情報を取得する。組織情報は、一例として、組織におけるコンパートメント数(血管及び臓器の分割コンパートメント数)、組織の体積(血管腔の体積)、毛細血管の体積、細胞外液腔の体積、単位組織あたりの血流量(血流速度)、組織における造影剤の染み出し速度(毛細血管透過性表面積)、組織における造影剤の染み戻り速度(毛細血管透過性表面積)、及び組織生来の信号強度を含んでいる。組織情報においてコンパートメント数は、小さな体積を有する組織よりも大きな体積を有する組織の方が多くなるように設定することができる。組織には、心臓(右心室及び左心室)、血管、腎臓、尿管、その他の臓器及び筋肉が含まれる。代替的に、組織情報取得部13は、外部記憶装置または注入装置2(図7)から組織情報を取得してもよい。
【0016】
また、制御部25は、薬液情報の一例として造影剤量を取得する薬液情報取得部14を備えている。この薬液情報取得部14は、入力部27を介してオペレータが記憶部24に記憶させた薬液情報を取得する。この薬液情報は、他の例として、粘稠度、浸透圧比、生理食塩水量、製品ID、製品名称、化学分類、含有成分、濃度、消費期限、シリンジ容量、シリンジ耐圧、シリンダ内径、ピストンストローク、及びロット番号を含んでいてもよい。以下においては、薬液情報としてガドリニウム造影剤の製品名称、造影剤濃度、浸透圧比、粘稠度、及び造影剤量を取得する場合について説明する。一例として、製品名称は、バイエル薬品株式会社が販売するガドビスト(Gd-BT-DO3A)並びにプリモビスト(Gd-EOB-DTPA)、エーザイ株式会社が販売するプロハンス(Gd-HP-DO3A)、富士製薬工業株式会社が販売するマグネスコープ(Gd-DOTA)を含んでいる。
【0017】
代替的に、薬液情報取得部14は、外部記憶装置または注入装置2から薬液情報を取得してもよい。さらに、薬液情報取得部14は、注入装置2(図7)に内蔵された読取部から薬液情報を取得してもよい。この読取部は、注入ヘッド21に搭載されるシリンジに取り付けられたデータキャリアから薬液情報を読み取る。このデータキャリアは、例えば、RFIDチップ、ICタグ、またはバーコードである。
【0018】
また、制御部25は、目標信号強度の目標持続時間を取得する目標値取得部15を備えている。オペレータは、目標信号強度及び目標持続時間の少なくとも一方を、入力部27から入力することができる。そして、目標値取得部15は、入力部27を介してオペレータが記憶部24に記憶させた目標信号強度及び目標持続時間を取得する。この目標持続時間とは、目標信号強度よりも大きい信号強度が維持される時間を意味する。代替的に、制御部25は、外部記憶装置または注入装置2から目標信号強度及び目標持続時間を取得してもよい。
【0019】
また、制御部25は、検査情報の一例としてエコー時間(TE)またはフリップ角(FA)を取得する検査情報取得部17を備えている。検査情報取得部17は、入力部27を介してオペレータが記憶部24に記憶させた検査情報を取得することができる。この検査情報は、他の例として、繰り返し時間(TR)等の撮像パラメータ、検査番号(検査ID)、検査部位、検査日時、薬液種類、薬液名称、及び撮像する部位に関する部位情報を含んでいてもよい。この部位情報は、撮像対象として選択される部位(範囲)を特定できる情報である。例えば部位情報は、撮像部位名、撮像方法の名称、及び薬液の注入部位から撮像部位までの距離を含む。代替的に、制御部25は、外部記憶装置またはMR装置3から検査情報を取得してもよい。
【0020】
また、制御部25は、一例として注入プロトコル及び薬液情報に基づいて、被写体の組織の造影剤濃度の経時変化をシミュレーションする予測部16を備えている。この予測部16は、造影剤濃度と核磁気共鳴画像法を用いて得られるべき信号強度とが関連付けられた変換テーブルまたは変換マップ等の変換データ28を参照する。これにより、予測部16は、シミュレーションして得られた造影剤濃度の経時変化から組織の信号強度の経時変化をシミュレーションする。例えば、予測部16は、プロトコル取得部12から、注入プロトコルとして、造影剤の注入時間(sec)及び注入速度(mL/sec)、生理食塩水の注入時間(sec)及び注入速度(mL/sec)、クロス注入の有無、及びリンク速度設定の有無を取得できる。さらに、予測部16は、薬液情報取得部14から、薬液情報として、造影剤濃度(mol/L)、浸透圧比、粘稠度(mPs.s)、及び造影剤量(mL)を取得できる。
【0021】
また、予測部16は、被写体情報取得部11から、被写体情報として、ヘモグロビン量(g/dL)、体重(kg)、身長(cm)、心機能(%)、心拍数(bpm)、体表面積(m2)、心拍出量(L/min)、及びeGFRを取得してもよい。ここで心機能は、平均的心機能を100%としたときに、平均的心機能に対して優れていれば増加し(例えば120%)、劣っていれば低減する(例えば80%)ように、オペレータが設定する値である。代替的に、予測部16は、体表面積、心拍出量、及び推定糸球体濾過量の少なくとも一つを算出してもよい。例えば、体表面積は、体重及び身長に基づいて、藤本式、デュボア式または新谷式によって算出できる。また、心拍出量は、体表面積、心機能及び心拍数に基づいて算出できる。また、eGFRは、クレアチニン値、年齢及び性別に基づいて算出できる。また、心機能に代替するパラメータとして、測定された心拍出量(L/min)、または平均的心拍出量に対する測定された心拍出量の割合を用いてもよい。
【0022】
さらに、予測部16は、組織情報取得部13から、組織情報として、組織におけるコンパートメント数、組織の体積、毛細血管の体積、細胞外液腔の体積、血流速度、毛細血管透過性表面積、毛細血管透過性表面積、及び組織生来の信号強度を取得してもよい。これにより、予測部16は、被写体の組織を血流方向に沿って分割した複数のコンパートメントのそれぞれにおいて、被写体の組織における信号強度の経時変化をシミュレーションできる。このシミュレーションは、被写体情報と、注入プロトコルと、組織情報とに基づいて実行される。その後、予測部16は、時間ごとの各コンパートメントの信号強度を、各組織と関連付けて記憶部24に記憶させる。
【0023】
また、予測部16は、検査情報取得部17から検査情報として、エコー時間(TE)及びフリップ角(FA)を取得してもよい。これにより、予測部16は、エコー時間(TE)及びフリップ角(FA)等の撮像パラメータを参照して、互いに撮像パラメータが異なる複数の造影剤濃度と関連付けられている信号強度を取得できる。さらに、予測部16は、入力部27からオペレータが入力した、解析時間(sec)等の付加情報を取得できる。この解析時間は、予測の対象となる時間の長さであり、時間信号強度曲線のX軸(図4)の長さに対応する。これにより、予測部16は、X軸の長さをオペレータが所望する解析時間に一致させることができる。
【0024】
また、シミュレータ20は、各組織のコンパートメントを信号強度に応じた濃度の色で表示する表示部26を備えている。そして、制御部25は、信号強度の経時変化に応じて、表示部26に表示された予測画像41(図4)の各組織のコンパートメントの濃淡を変更する。そのために、制御部25は、記憶部24から選択された時間におけるコンパートメントの信号強度を読み出して、コンパートメントの濃淡を変更する。この表示部26には、後述するメイン画面及び自動最適化画面等の操作画面が表示される。また、表示部26には、注入プロトコル、装置の入力状態、設定状態、及び注入結果が表示されてもよい。
【0025】
また、シミュレータ20は、被写体情報取得部11、プロトコル取得部12、組織情報取得部13、薬液情報取得部14、目標値取得部15、及び検査情報取得部17に接続された入力部27を備えている。この入力部27としては、例えばテンキーまたはキーボードを用いることができる。代替的に、入力部27と表示部26とを兼用するタッチパネルを用いてもよい。
【0026】
[信号強度の経時変化の予測]
予測部16は、被写体の組織における造影剤濃度の経時変化を予測するシミュレーションを行う。この被写体の組織は、例えば、右心室、大動脈、静脈(頭部静脈、肺静脈、上行大静脈、下行大静脈、肝静脈、及び腎静脈)、動脈(頭部動脈、肺動脈、上行大動脈、下行大動脈、腹部大動脈、下腹部大動脈、膵動脈、肝動脈、及び腎静脈)、脳(頭)、上肢、心筋(右冠動脈が支配的な心筋、前下行枝が支配的な心筋、回旋枝が支配的な心筋)、肺、肝臓、胃、脾臓、膵臓、腸管、腎臓、尿管、下肢、左心室及び門脈を含む。被写体の各組織は、組織情報取得部13から取得された組織の分割コンパートメント数に応じて、血流方向に沿って複数のコンパートメントに分割されている。ただし、高い精度のシミュレーションが求められない場合、各組織におけるコンパートメント数は単数であってもよい。
【0027】
予測部16は、予測対象のコンパートメントを含む組織の体積と、当該組織の毛細血管体積と、当該組織の細胞外液腔体積とを、分割コンパートメント数で除算して、各コンパートメントについて造影剤濃度の経時変化を予測する。例えば、分割コンパートメント数が15である場合、予測部16は、組織の体積と、毛細血管体積と、細胞外液腔体積とのそれぞれを、15で除算した値に基づいて造影剤濃度の経時変化を予測する。ここで予測部16は、造影剤の浸透圧と粘稠度とを参照して、造影剤の拡散をシミュレーションする。MRIにおいては、CTと比較して造影剤の量がはるかに少ないためである。具体的に予測部16は、血液中の造影剤の拡散速度が、造影剤の浸透圧に正比例しかつ造影剤の粘稠度に反比例するように、造影剤の拡散をシミュレーションする。
【0028】
また、シミュレーションにおいて、上肢静脈から注入された造影剤は、右心室、肺、左心室、大動脈(上行大動脈、下行大動脈)を介して各臓器に移動し、その後、静脈を介して右心室に到達する。さらにシミュレーションにおいて、体内に注入された造影剤は、腎臓及び尿管を介して体外に排出される。なお、シミュレーションにおいて、一部の造影剤(例えば、バイエル薬品株式会社が販売するプリモビスト)は、肝細胞に取り込まれた後に胆道から排出されてもよい。
【0029】
そのため、予測部16は、血流方向における上流及び下流のそれぞれに向かって右心室から順に各組織の造影剤濃度の経時変化を予測する。例えば、予測部16は、最初に右心室の予測を行い、次いで右心室に対して血流方向の上流側に位置する大静脈及び静脈と、右心室に対して血流方向の下流側に位置する動脈とを含む組織群の予測を行う。すなわち、予測部16は、血流方向における上流及び下流のそれぞれに向かって造影剤の注入箇所に近い組織から順に各組織の造影剤濃度の経時変化を予測する。
【0030】
また、予測部16は、各組織(血管及び臓器)における造影剤濃度の変化を時間関数として求めるために、例えば下記式1のような微分方程式を用いる。ここでは、コンパートメントに流入する造影剤の濃度をCとし、コンパートメントから流出する造影剤の濃度をCとし、コンパートメントの体積をVとし、コンパートメントにおける単位組織あたりの血流量(血流速度)をQとしている。
【0031】
【数1】
【0032】
さらに、予測部16は、右心室、左心室、血管以外の組織における造影剤濃度の変化を求めるために、造影剤が毛細血管から細胞外液腔へと透過する際の染み出し速度と、細胞外液腔から毛細血管へと透過する際の染み戻り速度とを考慮する。そのため、予測部16は、例えば下記式2及び式3のような微分方程式を用いている。ここでは、細胞外液腔の体積をVecとし、細胞外液腔の造影剤濃度をCecとし、毛細血管の体積をVivとし、毛細血管の造影剤濃度をCivとし、染み出し速度をPSとし、染み戻り速度をPSとしている。
【0033】
【数2】
【0034】
【数3】
【0035】
上記微分方程式を解くことにより、注入開始からの経過時間と造影剤濃度の変化が時間関数として求められる。この予測に用いられるパラメータの例として、胃については、120mL以上160mL以下の組織体積、2mL以上5mL以下の毛細血管体積、12mL以上18mL以下の細胞外液腔体積、120mL/min以上180mL/min以下の単位組織あたり血流量(動脈血流速度)、15以上25以下の染み出し速度、及び15以上25以下の染み戻り速度が用いられる。この染み出し速度及び染み戻り速度は、毛細血管面積と透過性の積により算出できる。例えば、人体内の毛細血管の総面積を800m2と仮定して、各臓器ごとにその重量に応じた毛細血管面積を割り当てる。そして、全ての臓器の透過性を1ml/min/gと仮定して、染み出し速度及び染み戻り速度を算出できる。
【0036】
さらに、予測部16は、隣り合うコンパートメント間での造影剤の拡散を考慮する。すなわち、予測部16は、隣り合うコンパートメント間において、濃度の高いコンパートメントの造影剤濃度を減少させて、濃度の低いコンパートメントの造影剤濃度を増加させるように造影剤濃度の経時変化を予測する。ここで、予測部16は、濃度差が大きい場合には、造影剤濃度の減少量及び増加量を大きくする。
【0037】
また、予測部16は、造影剤の浸透圧比が大きいときには、造影剤濃度の減少量及び増加量を大きくする。さらに、予測部16は、コンパートメント同士の接触面積が大きい場合には、造影剤濃度の減少量及び増加量を大きくする。具体的に、予測部16は、異なる組織のコンパートメント同士が隣り合う場合には、接触面積が小さくなるため、造影剤濃度の減少量及び増加量を小さくする。そして、予測部16は、同じ組織のコンパートメント同士が隣り合う場合には、接触面積が大きくなるため、造影剤濃度の減少量及び増加量を大きくする。
【0038】
[造影剤の排出]
実際の体内に注入された造影剤の一部は、腎臓及び尿管を介して体外に排出されるため再循環しない。そのため、予測部16は、所定の排出速度に基づく造影剤の排出量を算出し、腎臓の毛細血管内の造影剤から当該排出量を減じてシミュレーションする。その結果、腎臓に到達した造影剤の一部が、体全体(血漿中)の合計造影剤量から減算される。具体的に、予測部16は、腎臓に到達した造影剤を、毛細血管、細胞外液腔、及び細胞実質に割り当てる。その後、予測部16は、腎臓の毛細血管に割り当てられた造影剤を3分割して、腎動脈、腎臓の細胞外液腔、及び尿管に割り当てる。すなわち、予測部16は、腎臓の毛細血管から排出量の造影剤を尿管に移動させるようにシミュレーションする。この尿管に移動された造影剤は、体内には戻らないため、体全体の合計造影剤量からは減算される。
【0039】
尿管に移動させる造影剤は、腎臓の毛細血管内の造影剤濃度に比例して多くなる。すなわち、造影剤の排出速度(mL/sec)は、毛細血管内の造影剤濃度に比例して増加する。この造影剤濃度は、単位時間(例えば10msec)毎の組織(コンパートメント)中の造影剤及び血液に対する造影剤の割合である。また、実際の体内に注入された造影剤は、eGFRに比例して多くなる。そこで、予測部16は、eGFRに調整係数を乗算して得た値を、さらに造影剤濃度に乗算して造影剤の排出速度を求める。この調整係数は、一例として0より大きく5より小さい値である。造影剤の排出をシミュレーションすることによって、体全体の合計造影剤量が経時的に減少するため、より精度の高いシミュレーションを行うことができる。
【0040】
さらに、予測部16は、肝臓において肝細胞に取り込まれた肝特異性造影剤(例えば、バイエル薬品株式会社が販売するプリモビスト)が胆道を介して排出されることをシミュレーションしてもよい。また、予測部16は、尿管中の造影剤が尿に押されて膀胱に移動することをシミュレーションするように、所定時間が経過すると尿管内の造影剤を減算してもよい。
【0041】
[変換データの作成]
上述したように、MRIでは、造影剤の体積または注入速度の増加率に比べて信号強度の増加率が小さい。そのため、造影剤の体積または注入速度が増加しても、信号強度は直線的には増加しない。その結果、組織における造影剤濃度を予測しても、当該造影剤濃度から比例係数を用いて信号強度を導き出すことができない。そこで、予測部16は、記憶部24に記憶されている変換データ28を参照して、予測した造影剤濃度に対応する信号強度を取得する。具体的に、予測部16は、被験者の体内の造影剤の経時的な造影剤濃度を算出すると共に、造影剤濃度と信号強度とが関連付けられた変換データ28を参照して予測した造影剤濃度に対応する信号強度を取得する。この変換データ28は、様々な濃度に希釈して作成された複数の造影剤の試料を、MR装置の機種毎に、複数のパターンの撮像パラメータで撮像して信号強度を取得することによって予め作成できる。
【0042】
例えば、記憶部24は図2に示すような変換データ28を記憶している。この変換データ28では、実際にMR装置(キヤノンメディカルシステムズ株式会社が販売する「Vantage Titan(3.0T)」)によって撮像した画像の信号強度が、造影剤濃度に関連付けられている。また、変換データ28の信号強度は、互いに濃度が異なる複数の造影剤濃度と関連付けられている。そのために、変換データ28は、様々な濃度に希釈した造影剤の試料を複数作成し、作成した複数の試料を核磁気共鳴画像法を用いて撮像して得られた信号強度に基づいて作成されている。一例として、0.000001%、0.000002%、0.000005%、0.00001%、0.00002%、0.00005%、0.0001%、0.0002%、0.0005%、0.001%、0.002%、0.005%、0.01%%、0.02%、0.05%、0.1%、0.2%、0.5%、1%、2%、5%の割合で希釈した試料が使用できる。すなわち、造影剤のモル濃度5×10-9mol/Lから0.5mol/Lの範囲において、造影剤を21段階に希釈した試料が使用できる。これにより、造影剤濃度を対数軸にとった変換データ28において、計測点をほぼ等間隔にすることができる。
【0043】
これらの試料は、人血(例えば、コスモ・バイオ株式会社が販売する「Human blood O Type 450 ml」)によって造影剤を希釈して得ることができる。具体的には、造影剤を蒸留水によって希釈して得られた2mlの造影剤水溶液と8mlの血液とを混合し、目的の希釈濃度となるような試料を作成できる。一例として、まず0.5mlの造影剤と999.5mlの蒸留水とを混合して2000倍希釈の造影剤水溶液を作成する。そして、8mlの血液と2000倍希釈の造影剤水溶液 2mlを混合する。これにより、10000倍希釈の10mlの試料を作成できる。
【0044】
このように、造影剤水溶液を使用することによって、希釈精度を落とさず使用する血液の量を少なくすることができる。すなわち、低濃度の試料を作成する場合には、投入する造影剤の量が極めて少量となり、僅かな計量誤差でも大きな誤差となってしまう。例えば、10000倍希釈の試料10mlを作成する場合、造影剤0.001mlを正確に計量し投入しなければならない。一方、投入する造影剤をある程度の量とした上で、希釈する血液の量を増やした場合には、大量の血液が必要となってしまう。例えば、10000倍希釈の試料を1mlの造影剤から作成する場合、9999mlの血液が必要となってしまう。そこで、造影剤水溶液を使用することによって、使用する血液の量を少なくすることができる。
【0045】
また、撮像パラメータによって得られるべき信号強度が異なるため、変換データ28の造影剤濃度は、互いに撮像パラメータが異なる複数の信号強度と関連付けられている。具体的に、変換データ28の造影剤濃度は、エコー時間を、1.2ms、1.6ms、2.0ms、及び2.4msに設定した条件で得られるべき信号強度に関連付けられている。さらに、変換データ28の造影剤濃度は、フリップ角を、10deg、15deg、20deg、及び25degに設定した条件で得られるべき信号強度に関連付けられている。そのために、変換データ28は、複数の試料を異なる撮像パラメータにおいて撮像して得られた信号強度に基づいて作成されている。すなわち、4パターンのエコー時間のそれぞれについて、4パターンのフリップ角を設定して試料を撮像し、一つの試料に対して合計16回の撮像を行っている。なお、エコー時間及びフリップ角の他に、撮像パラメータとして、繰り返し時間(TR)を複数の範囲で設定したそれぞれの条件においてさらに試料を撮像してもよい。
【0046】
さらに、MR装置毎に得られるべき信号強度が異なるため、変換データ28は、互いに異なる複数のMR装置に対応している。すなわち、変換データ28は、MR装置の機種毎(例えば、株式会社フィリップス・ジャパンが販売する「Ingenia CX(3.0T)」、株式会社日立製作所が販売する「Trilium Oval(3.0T)」、及びキヤノンメディカルシステムズ株式会社が販売する「Vantage Titan(3.0T)」)に作成された複数のデータを含んでいる。そのため、変換データ28は、複数の試料をMR装置の機種毎に撮像して得られた信号強度に基づいて作成されている。
【0047】
図3を参照して、試料の撮像の一例について説明する。試料の撮像時には、目的の希釈濃度の試料をそれぞれ10ml作成した後、10mlのシリンジ51に試料を封入する。そして、略円筒状の試料支持具50にシリンジ51を挿入して、不図示のMR装置のボア内に試料支持具50を載置して信号強度を計測する。そのために、試料支持具50の中央には、試料を封入したシリンジ51を挿入する穴52が形成されている。一例として、穴52の直径は10mmである。また、一例として、試料支持具50の外径は120mmであり、長さは60mmである。このような試料支持具50は、アクリル樹脂を材料として、3Dプリンタを使用して形成できる。
【0048】
さらに、穴52の周囲には、MRIの基準物質となる液体を封入できる内部空間53が形成されている。また、試料支持具50の背面には、封止具の一例としてのスクリューキャップ54によって封止可能な物質の充填口(不図示)が形成されている。このスクリューキャップ54を開けることによって、試料支持具50の内部空間53に液体を充填することができる。また、スクリューキャップ54には、内部空間53内の気泡を逃がすため気泡逃げ部が形成されている。この気泡逃げ部は、内部空間53と連通しており、液体に混入した気泡を撮像範囲から気泡逃げ部内へと逃がすことができる。
【0049】
試料支持具50内の液体は、T1強調画像及びT2強調画像のいずれにおいても、試料に対して十分なコントラスト比が得られる物質である。MRIにおいては、例えば撮影時のレシーバゲインによって信号強度が変動してしまう。そのため、基準物質を試料と同時に撮影し、基準物質の信号強度によって試料の信号強度を正規化している。一例として、基準物質としては、濃度0.5w/v%から1w/v%の硫酸銅水溶液(CuSO水溶液)を用いることができる。さらに、基準物質に増粘剤、例えば、濃度5w/v%から10w/v%のポリビニルアルコール水溶液(PVA水溶液)を添加してもよい。具体的には、試料支持具50に10w/v%のポリビニルアルコール水溶液を充填し、さらに試料支持具50に濃度が1w/v%となるように硫酸銅水溶液を添加する。これにより、基準物質の対流によるアーチファクトを防ぐことができる。
【0050】
撮像シーケンスは、一般的なダイナミック造影MRI検査に使用されるグラディエントエコー系のT1強調画像とすることができる。一例として、MRI血管造影検査用のルーチン撮像シーケンスを使用し、3D-FFE(Fast Field Echo 3D)法によって、試料支持具50及び試料のアキシャル断面画像を撮影する。キヤノンメディカルシステムズ株式会社が販売する「Vantage Titan(3.0T)」によって撮像する場合、エコー時間及びフリップ角以外の撮像パラメータは、例えば、繰り返し時間(repetition time):3.6、加算回数(number of acquisition):1.0、間引量(reduction factor):2.0、脂肪飽和パルス:オン設定、マトリックス数(matrix):224×256、撮像視野(field of view):360mm、スライス厚:4.0mm、スライスギャップ:0mm、スキャン時間:20secに設定する。
【0051】
そして、試料の領域と基準物質の領域の信号強度をそれぞれ計測し、試料の信号強度を基準物質の信号強度によって除すことで正規化する。すなわち、基準物質の信号強度が1000になるように試料の信号強度を正規化する。この正規化して得られる試料の信号強度は、0.0~1.0程度の実数となる。そして、得られた試料の信号強度を、試料の造影剤濃度と関連付けて変換データ28を作成する。すなわち、造影剤濃度を横軸にプロットし、信号強度を縦軸にプロットして半対数グラフを作成する。また、得られた信号強度が離散的なデータであるため、スプライン関数を用いて補間する。代替的に、ラグランジュ関数、または最小二乗法等の他の補間法を用いて補間してもよい。
【0052】
図2の変換データ28では、エコー時間を2.0msに設定しかつフリップ角を10度、15度、20度または25度に設定した場合の信号強度が、複数の試料の造影剤濃度に関連付けられている。図2中右端のプロットは、造影剤濃度5%に対応する信号強度を示している。また、図2中左端のプロットは、造影剤濃度0.000001%に対応する信号強度を示している。図2に示すように、造影剤濃度と信号強度とは比例していない。すなわち、造影剤の注入速度が増加するにつれて、所定の組織における造影剤濃度が増加するが、当該組織において、信号強度は直線的に増加しない。そのため、造影剤濃度が大きく増加しても、信号強度の増加が小さいまたは信号強度が減少することがある。
【0053】
また、図2の変換データ28において、フリップ角10度に設定した場合、造影剤濃度0.5%に関連付けられたピークの信号強度は0.812である。しかし、これよりも高い造影剤濃度5%に関連付けられた信号強度は0.179であり、ピークの信号強度から大きく減少している。換言すると、信号強度のピークに対応する造影剤濃度に対して、これよりも高い造影剤濃度では、信号強度が減少してしまう。そのため、組織における造影剤濃度を予測しても、当該造影剤濃度から信号強度を導き出すことができない。
【0054】
この点、予測部16は、予め作成された変換データ28を参照することによって、信号強度を予測することができる。例えば、エコー時間が2.0msに設定されかつフリップ角が10度に設定されているとき、予測部16は、予測した造影剤濃度が5%である場合は信号強度として0.179を取得できる。同じ条件において、予測した造影剤濃度が0.5%である場合、予測部16は信号強度として0.812を取得できる。このシミュレーションが終了すると、予測部16は、シミュレーション結果を記憶部24に順次記憶させる。このシミュレーション結果は、組織に関連付けられた時間ごとの信号強度の情報が含まれている。
【0055】
[メイン画面]
図4を参照して、表示部26に表示される一例としてのメイン画面について説明する。メイン画面は各種数値を入力するための操作画面であり、メイン画面の右上には予測画像41が配置されている。また、メイン画面の左上には条件設定欄42が配置されており、メイン画面の中央上側には時間信号強度曲線を示すグラフ欄43が配置されている。また、メイン画面の中央下側には表示ボタン44が配置されており、メイン画面の右下には患者設定欄45が配置されている。
【0056】
グラフ欄43において、X軸は注入開始からの経過時間(sec)に対応し、Y軸は信号強度に対応する。このグラフ欄43には、複数の組織の時間に対する信号強度の変化を示す曲線を重ねて表示させることができる。この場合、制御部25は、各曲線を異なる色で表示する。なお、図4においては、肝動脈の信号強度の変化を示す曲線が表示されている。また、合計造影剤量を表示させる場合、X軸は注入開始からの経過時間(sec)に対応し、Y軸は造影剤量(mL)に対応する。また、グラフ欄43の右上には、Y軸固定チェックボックス435が設けられている。オペレータは、Y軸固定チェックボックス435を選択して、Y軸の最大値を固定できる(図4においてはY軸固定設定が選択されていない)。例えば、Y軸の最大値が50に固定された場合、合計造影剤量(例えば最大15.0mL)のみを表示させる場合であっても、Y軸の最大値は50で維持される。一方、Y軸固定設定が選択されていなければ、例えば最大15.0mLの合計造影剤量のみを表示させる場合、Y軸の最大値は15に変更される。
【0057】
グラフ欄43の下側には、スクロールバー431が配置されている。オペレータは、このスクロールバー431を操作して、現在時点バー432をグラフ欄43の左右方向に動かすことができる。オペレータがスクロールバー431を操作すると、制御部25は、選択された時間における各コンパートメントの信号強度を記憶部24から読み出す。そして、制御部25は、読み出した信号強度を予測画像41に反映させ、表示部26に表示させる。例えば、図4においては、注入開始から72.5sec経過時点が選択され、当該時点の予測画像41が表示されている。初期設定では、注入開始時、つまり0sec経過時点における予測画像41が表示される。なお、図4には予測画像41として、体の水平断面が図示されているが、予測画像41として、横断面、冠状面、及び矢状面を含む任意の断面を示す画像、ボリュームレンダリング法又はサーフェスレンダリング法によって表示される三次元画像、並びにアンギオグラフィックビューなどの他の画像を表示させてもよい。また、図4には予測画像41として、人体の上半身を模した画像が表示されている。しかし、表示部26は、各組織がそれぞれ単独で表示されるようにコンパートメントを配置して、各コンパートメントを信号強度に応じた濃度の色で表示してもよい。また、表示部26は、各コンパートメントをカラー表示してもよい。
【0058】
グラフ欄43の下側には、表示する組織を選択するための複数の表示ボタン44が配置されている。オペレータは、グラフ欄43に表示する組織を、表示ボタン44の中から選択することができる。図4では、肝動脈ボタン442が選択されている。また、オペレータが合計造影剤量ボタン441を選択すると、グラフ欄43に合計造影剤量バー(不図示)が表示され、体内に残留する造影剤の総量の変化を示す曲線がグラフ欄43に表示される。この場合、オペレータは、スクロールバー433を操作して、表示された合計造影剤量バーをグラフ欄43の上下方向に動かすことができる。また、制御部25は、オペレータがスクロールバー433を操作して選択した位置における造影剤量を、スクロールバー433の下側に表示させる。さらに、表示ボタン44には保存ボタン443が配置されている。オペレータは、この保存ボタン443を選択して、造影剤濃度、及びグラフ欄43に表示された曲線をCSV(comma-separated values)形式で保存できる。
【0059】
さらに、予測画像41の下側には、画像を操作する操作ボタン411が配置されている。この操作ボタン411には、メイン画面の左から順に停止ボタン、再生ボタン、3倍速再生ボタン、10倍速再生ボタン、30倍速再生ボタン、及びリセットボタンが含まれている。オペレータが再生ボタンを選択すると、経過時間に沿って予測画像41が連続的に動画として再生される。オペレータが3倍速再生ボタン、10倍速再生ボタン、及び30倍速再生ボタンを選択すると、動画再生速度が増加する。これにより、オペレータは、所望の時間における、各組織内の造影剤の位置を視覚により認識することができる。また、グラフ欄43の現在時点バー432は、予測画像41が連続的に再生されると、経過時間に対応してX軸に沿って移動する。そして、オペレータが停止ボタンを選択すると再生が一時停止する。オペレータが、リセットボタンを選択すると再生が終了し、予測画像41は初期設定(0sec経過時点)に戻る。
【0060】
メイン画面の予測画像41の右側には、予測画像41の表示条件変更ボタン412が配置されている。オペレータがこの表示条件変更ボタン412を押すと、押したボタンに応じて予測画像41の表示条件、すなわちWL(Window Level)またはWW(Window Width)が変更され、明るさまたはコントラストが変化する。ボタンA1からA3は自動ボタンであり、全組織の時間信号強度曲線から信号強度の最大値と最小値を抽出し、最適な表示条件となるような表示条件を決定する。具体的に、ボタンA3を選択するとコントラストが高く変更され、ボタンA1を選択するとコントラストが低く変更される。ボタンA2を選択すると、中間のコントラストに変更される。また、ボタンT1からT3は、表示ボタン44によって選択されている組織のみの時間信号強度曲線から信号強度の最大値と最小値を算出し、最適な表示条件となるような表示条件を決定する。具体的に、ボタンT3を選択するとコントラストが高く変更され、ボタンT1を選択するとコントラストが低く変更される。ボタンT2を選択すると、中間のコントラストに変更される。
【0061】
メイン画面の左上に表示されている条件設定欄42では、薬剤情報、注入プロトコル、撮像パラメータ、及び解析時間等を設定できる。具体的に、オペレータは、薬剤プルダウンメニュー421を操作して、複数の薬剤名の中から一つを選択できる。例えば、選択できる造影剤としては、ガドビスト、プリモビスト、マグネスコープ及びプロハンスが挙げられる。オペレータが薬剤を選択すると、薬液情報取得部14(図1)は、オペレータが選択した薬剤名に対応する、造影剤濃度(ガドリニウム濃度)、粘稠度、浸透圧比及び造影剤量等の薬液情報を取得する。これらの薬液情報は、予め記憶部24に記憶されている。
【0062】
代替的に、薬液情報取得部14は、オペレータが入力部27から入力するガドリニウム濃度、粘稠度、浸透圧比及び造影剤量を取得することもできる。例えば、ガドリニウム濃度ボタンを設け、オペレータがガドリニウム濃度ボタンを選択したときに、制御部25がガドリニウム濃度の入力画面を表示部26に表示させることができる。オペレータは、当該入力画面から所望のガドリニウム濃度を入力できる。同様に、粘稠度、浸透圧比及び造影剤量を入力できるボタンを設け、オペレータが薬液情報を入力してもよい。制御部25は、入力に応じて薬液情報取得部14が取得した造影剤量等を条件設定欄42に表示する。
【0063】
オペレータは、造影剤設定欄の注入時間ボタン422を選択して、注入プロトコルにおける造影剤の注入時間を入力できる。オペレータが注入時間ボタン422を選択すると、制御部25は注入時間の入力画面を表示部26に表示する。そして、オペレータは、当該入力画面から所望の注入時間を入力できる。同様に、オペレータは、注入速度ボタン423を選択して、注入プロトコルにおける造影剤の注入速度を入力できる。さらに、造影剤設定欄には、体重当たり造影剤量を入力できるように、体重当たり造影剤量ボタンを配置してもよい。この場合、体重当たり造影剤量が入力されると、予測部16は、体重当たり造影剤量に体重を乗算して、自動的に造影剤量を変更する。
【0064】
加えて、オペレータは、リンク速度設定チェックボックス426を選択して、リンク速度設定の有無を選択できる。リンク速度設定が選択されている場合は、造影剤の注入速度と生理食塩水の注入速度とが同一になるように設定される。例えば、造影剤の注入速度を1.0mL/secから2.0mL/secに変更した場合、生理食塩水の注入速度が自動的に2.0mL/secに設定される。この場合、生理食塩水の注入速度の入力を禁止してもよい。また、生理食塩水の注入速度を変更した場合に、造影剤の注入速度を自動的に設定してもよい。なお、図4においては、リンク速度設定が選択されている。
【0065】
生理食塩水設定欄(生食設定欄)では、オペレータは、注入時間ボタン422を選択して、注入プロトコルにおける生理食塩水の注入時間を入力できる。オペレータが注入時間ボタン422を選択すると、制御部25は注入時間の入力画面を表示部26に表示する。そして、オペレータは、当該入力画面から所望の注入時間を入力できる。同様に、オペレータは、注入速度ボタン423及び生理食塩水量ボタン424を選択して、注入プロトコルにおける生理食塩水の注入速度及び生理食塩水量をそれぞれ入力できる。
【0066】
生理食塩水設定欄の下側には、注入量表示画面427が配置されている。注入量表示画面427において、X軸は注入開始からの経過時間であり、Y軸は注入速度である。この注入量表示画面427において、造影剤の注入量を表す領域、及び生理食塩水の注入量を表す領域は、それぞれ異なる色で塗り潰して表示されている。制御部25は、プロトコル取得部12(図1)が取得した注入プロトコルにおける注入量を注入量表示画面427に表示させる。
【0067】
注入量表示画面427の下側には、撮像パラメータプルダウンメニュー425が配置されている。オペレータは、撮像パラメータプルダウンメニュー425を操作して、撮像パラメータとしてエコー時間及びフリップ角を変更できる。エコー時間及びフリップ角を変更すると、制御部25は、グラフ欄43に表示されるデータ及び予測画像41に表示される画像を変化させる。一方、各組織の造影剤濃度分布は、エコー時間及びフリップ角の変更の影響を受けない。
【0068】
撮像パラメータプルダウンメニュー425の下側には、グラフ設定チェックボックス428、解析時間ボタン429、及び更新ボタン420が配置されている。オペレータは、グラフ設定チェックボックス428の造影剤濃度または信号強度のいずれかを選択できる。オペレータが信号強度を選択すると、グラフ欄43に表示されるデータ及び予測画像41に表示される画像が、各組織の信号強度に変更される。また、オペレータが造影剤濃度を選択すると、グラフ欄43に表示されるデータ及び予測画像41に表示される画像が、各組織の造影剤濃度分布に変更される。また、オペレータは、解析時間ボタン429を選択して、グラフ欄43のX軸の長さに対応する解析時間を入力できる。なお、更新ボタン420については後述する。
【0069】
メイン画面の右下には、患者設定欄45が配置されている。患者設定欄45では、体重、身長、心機能、及び心拍数を入力できる。制御部25は、被写体情報取得部11(図1)が取得した被写体情報に基づいて、予め体重、身長、心機能、及び心拍数を患者設定欄45に表示する。具体的に、オペレータが体重ボタン451を選択すると、制御部25は体重の入力画面を表示部26に表示する。そして、オペレータは、当該入力画面から被写体の体重を入力できる。同様に、オペレータは、身長ボタン452、心機能ボタン453、及び心拍数ボタン454を選択して、被写体の身長、心機能及び心拍数をそれぞれ入力できる。なお、オペレータが入力部27から体重等を入力した場合、被写体情報取得部11は入力された値を取得する。
【0070】
また、患者設定欄45には、体表面積欄及び心拍出量欄が配置されている。予測部16は、被写体情報取得部11が取得した体重及び身長に基づいて体表面積を算出する。そして、制御部25は、算出された体表面積を体表面積欄に表示する。同様に、予測部16は、被写体情報取得部11が取得した被写体の体表面積、心機能及び心拍数に基づいて心拍出量を算出する。制御部25は、算出された心拍出量を心拍出量欄に表示する。なお、オペレータが被写体の体重等を入力した場合、被写体情報取得部11は入力された値を取得する。
【0071】
さらに、患者設定欄45には、eGFR欄、クレアチニン値ボタン、年齢ボタン及び性別ボタンを配置してもよい。この場合、オペレータは、クレアチニン値ボタン、年齢ボタン及び性別ボタンを選択して、被写体のクレアチニン値、年齢及び性別をそれぞれ入力できる。被写体情報取得部11は、入力されたクレアチニン値等を取得する。予測部16は、取得された被写体のクレアチニン値、年齢及び性別に基づいてeGFRを算出する。制御部25は、算出されたeGFRをeGFR欄に表示する。代替的に、被写体情報取得部11は、心拍数を外部測定器から取得してもよい。さらに、被写体情報取得部11は、一回拍出量または心拍出量を外部測定器から取得してもよい。一回拍出量が取得された場合、予測部16は、一回拍出量に心拍数を乗算して心拍出量を算出する。
【0072】
オペレータは、設定が終了したら、メイン画面の左下に配置されている更新ボタン420を選択する。これにより、入力された各種情報が取得され、予測部16は、取得された各種情報に従ってシミュレーションを行ってシミュレーション結果を記憶部24に記憶させる。その後、制御部25は、記憶部24からシミュレーション結果を読み出す。そして、制御部25は、オペレータが選択した表示ボタン44に対応する組織の予測画像41を表示する。さらに、制御部25は、オペレータが選択した表示ボタン44に対応する組織の時間信号強度曲線をグラフ欄43に表示する。
【0073】
図4の左上において、メイン画面タブの右側には、自動最適化タブ46及び組織設定タブ47が配置されている。オペレータが自動最適化タブ46を選択すると、制御部25は自動最適化画面(図5)を表示部26に表示する。そして、オペレータは、自動最適化画面から注入プロトコルの最適化を自動的に実行できる。また、オペレータが組織設定タブ47を選択すると、制御部25は組織設定画面(不図示)を表示部26に表示する。そして、オペレータは、組織設定画面から組織情報(例えば、組織の体積、毛細血管の体積、細胞外液腔の体積、単位組織あたりの血流量、組織における造影剤の染み出し速度、及び組織における造影剤の染み戻り速度)を入力できる。
【0074】
[自動最適化画面]
図5は注入プロトコルを自動で最適化するための自動最適化画面を示している。自動最適化画面の上側には最適化設定欄が配置され、自動最適化画面の下側にはプリセットボタン461と、ロードボタン462とが配置されている。オペレータが自動最適化画面の最適化ボタン467を選択すると、予測部16は、注入プロトコルを自動的に最適化する。
【0075】
最適化設定欄には、ターゲットプルダウンメニュー463、目標信号強度ボタン464、目標持続時間ボタン465、最大造影剤量ボタン466、最適化ボタン467、時間固定チェックボックス468、及び速度固定チェックボックス469が配置されている。オペレータは、ターゲットプルダウンメニュー463を操作して、複数の組織の中から一つを選択できる。オペレータがターゲット組織を選択すると、組織情報取得部13は、オペレータが選択したターゲット組織に対応する組織情報を取得する。
【0076】
また、オペレータは、目標信号強度ボタン464を選択して、目標信号強度を入力できる。オペレータが目標信号強度ボタン464を選択すると、制御部25は目標信号強度の入力画面を表示部26に表示する。そして、オペレータは、当該入力画面から所望の目標信号強度を入力できる。同様に、オペレータは、目標持続時間ボタン465、及び最大造影剤量ボタン466を選択して、目標持続時間及び最大造影剤量をそれぞれ入力できる。目標値取得部15は、入力された目標信号強度及び目標持続時間を取得する。また、薬液情報取得部14は、入力された最大造影剤量を取得する。代替的に、薬液情報取得部14は、オペレータが選択した薬剤名に基づいて、シリンジに充填されている造影剤量を最大造影剤量として取得してもよい。
【0077】
さらに、オペレータは、時間固定チェックボックス468または速度固定チェックボックス469を選択して、時間固定または速度固定の条件を選択できる。図5においては、速度固定の条件が選択されている。速度固定の条件が選択されると、予測部16は、注入速度を変更せずに再シミュレーション(図6)を実行する。時間固定の条件が選択されると、予測部16は、注入時間を変更せずに再シミュレーションを実行する。
【0078】
オペレータは、プリセットボタン461を選択して、ボタン選択時に最適化設定欄に入力されている設定をプリセット1からプリセット4として保存できる。プリセットボタン461が選択されると、予測部16は、選択されたボタンに応じてプリセット1からプリセット4として入力されている設定を記憶部24に記憶させる。また、オペレータは、ロードボタン462を選択して、プリセット1からプリセット4として保存された設定を読み出すことができる。ロードボタン462が選択されると、予測部16は、選択されたボタンに応じてプリセット1からプリセット4として記憶された設定のいずれかを記憶部24から読み出す。そして、予測部16は、読み出した設定を目標信号強度等に反映させる。
【0079】
[自動最適化]
以下、図6のフローチャートを参照して、最適化について説明する。オペレータが最適化ボタン467(図5)を選択すると(S101)、予測部16は各種情報を取得する(S102)。具体的に、予測部16は、プロトコル取得部12から、造影剤の注入プロトコルを取得する。さらに、予測部16は、薬液情報取得部14から最大造影剤量を取得し、目標値取得部15から目標信号強度及び目標持続時間を取得する。また、予測部16は、検査情報取得部17から検査情報を取得する。その後、予測部16は、取得した最大造影剤量に基づき、取得した注入プロトコルに従って最大造影剤量の半分を使用造影剤量として注入する場合の被写体の組織の造影剤濃度の経時変化をシミュレーションする。そして、予測部16は、変換データ28を参照して、信号強度の経時変化をシミュレーションする。続いて、予測部16は、シミュレーション結果から予測持続時間を求める(S103)。
【0080】
次に、予測部16は、求めた予測持続時間を目標持続時間と比較する(S104)。そして、予測持続時間が目標持続時間より短い場合(S105でYES)、予測部16は、前回のシミュレーションで使用した使用造影剤量よりも多量の造影剤を注入する場合の被写体の組織の信号強度の経時変化を再シミュレーションする。そのために、予測部16は、造影剤の注入速度及び注入時間の少なくとも一方を変動させて再シミュレーションを行う。つまり、予測部16は、使用造影剤量を増加させる(S106)。
【0081】
具体的に、速度固定の条件が選択されている場合、予測部16は、注入プロトコルにおける注入速度を変更せずに注入時間を長くする。これにより、注入時間が長くなる結果、使用される造影剤量は増加する。時間固定の条件が選択されている場合、予測部16は、注入プロトコルにおける注入時間を変更せずに注入速度を増加させる。これにより、単位時間当たりの注入速度が増加する結果、使用される造影剤量は増加する。
【0082】
予測持続時間が目標持続時間より長い場合(S107でYES)、予測部16は、前回のシミュレーションで使用した使用造影剤量よりも少量の造影剤を注入する場合の被写体の組織の信号強度の経時変化を再シミュレーションする。そのために、予測部16は、造影剤の注入速度及び注入時間の少なくとも一方を変動させて再シミュレーションを行う。つまり、予測部16は、使用造影剤量を低減させる(S108)。
【0083】
具体的に、速度固定の条件が選択されている場合、予測部16は、注入プロトコルにおける注入速度を変更せずに注入時間を短くする。これにより、注入時間が短くなる結果、使用される造影剤量は減少する。時間固定の条件が選択されている場合、予測部16は、注入プロトコルにおける注入時間を変更せずに注入速度を低減させる。これにより、単位時間当たりの注入速度が低減する結果、使用される造影剤量は低減する。
【0084】
予測部16は、変更した注入プロトコルに従って算出した使用造影剤量を注入する場合の、被写体の組織の信号強度の経時変化を再シミュレーションする(S109)。そして、予測部16は、再シミュレーション結果から予測持続時間を再度求める。その後、予測部16は、再シミュレーション結果及び再シミュレーションで使用した注入プロトコルを記憶部24に記憶させる。ここで、終了条件を満たす場合(S110でYES)には、再シミュレーションが終了する。この終了条件は、予測持続時間が目標持続時間と一致した場合、所定回数(例えば40回)再シミュレーションを実行した場合、再シミュレーション開始から所定時間(例えば10sec)経過した場合、または変動が所定閾値以下になった場合である。この変動が所定閾値以下という条件は、再シミュレーション時の予測持続時間と前回の再シミュレーション時の予測持続時間との差分が所定閾値(例えば、0.01sec)以下という条件である。
【0085】
終了条件を満たさない場合(S110でNO)、予測部16は、求めた予測持続時間を目標持続時間と再度比較する(S104)。そして、予測部16は、予測持続時間が目標持続時間より短い場合、より多量の造影剤を注入する場合の被写体の組織の信号強度の経時変化を再シミュレーションする。また、予測部16は、予測持続時間が目標持続時間より長い場合、より少量の造影剤を注入する場合の被写体の組織の信号強度の経時変化を再シミュレーションする。そして、予測部16は、再シミュレーション結果から予測持続時間を再度求める。
【0086】
予測部16は、再シミュレーションを終了すると、再シミュレーションして得られた結果を参照して、最適な注入プロトコルを決定する。例えば、予測部16は、記憶した再シミュレーション結果のうち、予測持続時間の長さが目標持続時間以上であり且つ使用造影剤量が最も少ないシミュレーション結果に対応する注入プロトコルを、最適な注入プロトコルとして決定し、記憶部24に記憶させる。代替的に、予測部16は、記憶した再シミュレーション結果のうち、予測持続時間の長さが目標持続時間以上であり且つ最大信号強度が最も高いシミュレーション結果に対応する注入プロトコルを、最適な注入プロトコルとして記憶部24に記憶させてもよい。
【0087】
続いて、制御部25は、自動最適化画面を閉じて、メイン画面を開く。同時に、予測部16は、最適な注入プロトコルの条件(造影剤量、造影剤の注入時間及び注入速度、生理食塩水量、及び生理食塩水の注入時間及び注入速度)を造影剤設定欄に反映させる。そして、制御部25は、最適化前の注入プロトコルを最適な注入プロトコルと置き換えて表示する。さらに、制御部25は、最適な注入プロトコルに対応するシミュレーション結果から時間信号強度曲線を読み出してグラフ欄43に表示する。同様に、制御部25は、予測画像41を読み出して表示し、自動最適化が終了する。
【0088】
以上説明したMRIにおける信号強度の経時変化をシミュレーションするシミュレータ20によれば、造影剤濃度を信号強度に変換して、被写体の組織における信号強度の経時変化をシミュレーションすることができる。
【0089】
シミュレータ20において実行されるシミュレーションプログラム29は、核磁気共鳴画像法を用いて得られるべき被写体の組織の信号強度の経時変化を予測するシミュレーションプログラム29であって、コンピューターとしての制御部25を、薬液情報を取得する薬液情報取得部14と、造影剤の注入プロトコルを取得するプロトコル取得部12と、注入プロトコル及び薬液情報に基づいて、被写体の組織の造影剤濃度の経時変化をシミュレーションする予測部16であって、造影剤濃度と核磁気共鳴画像法を用いて得られるべき信号強度とが関連付けられた変換データ28を参照して、シミュレーションして得られた造影剤濃度の経時変化から組織の信号強度の経時変化をシミュレーションする予測部16として機能させる。このシミュレーションプログラム29は、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記憶させることができる。
【0090】
続いて、図7を参照して、シミュレータ20(図1)を備える撮像システム100について説明する。この撮像システム100において、シミュレータ20は、MR装置3及び注入装置2の少なくとも一方に搭載される。
【0091】
図7に示すように、撮像システム100は、造影剤を注入する注入装置2と、注入装置2に有線または無線で接続され且つ被写体を撮像するMR装置3とを備えている。このMR装置3は、略トンネル状のボアが形成されておりかつ寝台上の被写体を撮像する撮像部(ガントリ)31を備えている。また、MR装置3は、MR装置3の全体を制御する制御装置32を備えている。さらに、MR装置3は、表示部の一例としてのディスプレイ33と、入力部34の一例としてのキーボード等のユーザインタフェースを有している。
【0092】
制御装置32は、オペレータが設定した撮像パラメータに従って被写体を撮像するように撮像部31を制御する。この撮像パラメータには、例えば、エコー時間、フリップ角及び繰り返し時間が含まれている。さらに、制御装置32は、シミュレータ20としても機能する。また、制御装置32は、撮像部31、注入装置2、及び外部記憶装置(外部記憶装置)と有線または無線によって通信できる。
【0093】
撮像部31は、寝台と、静磁場発生部と、傾斜磁場発生部と、送受信部と、シーケンサ(撮像制御部)とを有している。この撮像部31は、静磁場中に置かれた被検者に高周波磁場を照射し、高周波磁場によって被検者から発せられる核磁気共鳴信号を収集して画像を再構成する。
【0094】
ディスプレイ33は、制御装置32に接続されており、装置の入力状態、設定状態、撮像結果、及び各種情報を表示する。代替的に、制御装置32とディスプレイ33とは、一体的に構成することもできる。また、オペレータは、入力部34を介して、薬液情報、注入プロトコル、組織情報、被写体情報及び目標値をMR装置3に入力できる。
【0095】
注入装置2は、注入プロトコルに従って造影剤を注入する注入ヘッド21を備えている。そして、注入装置2は、シリンジに充填された薬液、例えば、生理食塩水及び各種造影剤を被写体に注入する。また、注入装置2は、注入ヘッド21を保持するスタンド22と、注入ヘッド21に有線または無線で接続されたコンソール23とを備えている。
【0096】
コンソール23は、注入ヘッド21を制御する制御装置として機能する。さらに、このコンソール23を、シミュレータ20として機能させてもよい。コンソール23は、入力表示部として機能するタッチパネル26を備え、注入ヘッド21及びMR装置3と有線または無線で通信できる。このタッチパネル26は、注入プロトコル、装置の入力状態、設定状態、注入結果、及び各種情報を表示できる。注入装置2は、タッチパネル26に代えて、表示部としてのディスプレイと、入力部としてのキーボードとを備えていてもよい。なお、MR装置3の制御装置32がシミュレータ20としても機能する場合、コンソール23はシミュレータ20として機能させなくともよい。
【0097】
代替的に、注入装置2は、コンソール23に代えて、注入ヘッド21に接続された制御装置と、該制御装置に接続され且つ薬液の注入状況が表示される表示部(例えばタッチパネルディスプレイ)とを有していてもよい。この制御装置も、シミュレータ20として機能する。また、注入ヘッド21及び制御装置は、スタンド22と一体的に構成することもできる。さらに、スタンド22に代えて天吊部材を設け、該天吊部材を介して天井から注入ヘッド21を天吊することもできる。
【0098】
また、注入装置2は、注入ヘッド21を遠隔操作する遠隔操作装置(例えばハンドスイッチまたはフットスイッチ)を有していてもよい。この遠隔操作装置は、注入ヘッド21を遠隔操作して注入を開始または停止することができる。さらに、注入装置2は、電源またはバッテリーを有していてもよい。この電源またはバッテリーは、注入ヘッド21または制御装置のいずれかに設けることができ、これらとは別に設けることもできる。
【0099】
注入ヘッド21は、薬液が充填されたシリンジが搭載されるシリンジ保持部と、注入プロトコルに従ってシリンジ内の薬液を押し出す駆動機構とを備えている。また、注入ヘッド21は、駆動機構の動作を入力するための操作部212を有している。操作部212には、例えば駆動機構の前進ボタン、駆動機構の後進ボタン、及び最終確認ボタンが設けられている。さらに、注入ヘッド21は、注入条件、注入状況、装置の入力状態、設定状態、及び各種注入結果が表示されるヘッドディスプレイを備えていてもよい。
【0100】
造影剤が注入される際には、注入ヘッド21に搭載されたシリンジの先端部に延長チューブ等の付属品が接続される。そして、注入準備が完了すると、オペレータが操作部212の最終確認ボタンを押す。これにより、注入ヘッド21は、注入を開始できる状態で待機する。注入を開始すると、シリンジから押し出された造影剤は、延長チューブを介して被写体の体内へ注入される。
【0101】
また、注入ヘッド21には、RFIDチップ、ICタグ、またはバーコード等のデータキャリアを有するプレフィルドシリンジ、及び種々のシリンジを搭載することができる。そして、注入ヘッド21は、シリンジに取り付けられたデータキャリアの読み取りを行う読取部(不図示)を備えていてもよい。このデータキャリアには、薬液に関する薬液情報が記憶されている。さらに、注入ヘッド21は、3つ以上のシリンジ保持部を有していてもよく、または一つのみのシリンジ保持部を有していてもよい。
【0102】
注入装置2は、不図示の外部記憶装置から情報を受信することができ、サーバーへ情報を送信することもできる。また、MR装置3も、外部記憶装置から情報を受信することができ、外部記憶装置へ情報を送信することもできる。例えば、外部記憶装置には、予め検査オーダーが記憶されている。この検査オーダーは、被写体に関する被写体情報と、検査内容に関する検査情報とを備えている。また、外部記憶装置は、MR装置3から送信された画像のデータ等の撮像結果に関する情報と、注入装置2から送信された注入結果に関する情報を記憶することができる。なお、注入装置2及びMR装置3を操作するために、外部の検像システムまたは画像作成用ワークステーションを用いることもできる。
【0103】
以上説明したMR装置3によれば、オペレータは、ディスプレイ33で予測画像41を確認しながらMR装置3を操作することができる。また、MR装置3は、予測部16による予測結果に応じて撮像パラメータを変更できる。具体的に、MR装置3は、シミュレーション結果において目標信号強度または目標持続時間に達するように、例えばエコー時間またはフリップ角を変更できる。
【0104】
また、以上説明した注入装置2によれば、オペレータは、コンソール23で予測画像41を確認しながら注入装置2を操作することができる。さらに、この注入装置2は、自動最適化によって得られた最適な注入プロトコルと一致するように、例えば注入速度または注入時間を変更できる。
【0105】
なお、シミュレータ20は、MR装置3及び注入装置2の少なくとも一方に有線または無線接続される外部コンピューターに搭載してもよい。この場合、シミュレータ20は、シミュレーション結果及び最適な注入プロトコルを、MR装置3及び注入装置2に送信する。さらに、注入装置2とMR装置3とを、シミュレータ20としても機能する共通の制御装置によって制御してもよい。また、シミュレータ20は、注入装置2及びMR装置3の少なくとも一方、若しくは注入装置2及びMR装置3の少なくとも一方にインターネット回線を通じて接続された外部記憶装置又はクラウド上にあってもよい。
【0106】
以上、各実施形態を参照して本発明について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明に反しない範囲で変更された発明、及び本発明と均等な発明も本発明に含まれる。また、各実施形態及び各変形形態は、本発明に反しない範囲で適宜組み合わせることができる。
【0107】
例えば、図2に示すように、造影剤濃度が増加しても大きく信号強度が減少することがある。そのため、この場合に使用造影剤量を減らして増やして再シミュレーションを行っても、目標信号強度を得ることができない。そこで、シミュレータ20の予測部16は、目標信号強度を得られずかつ再シミュレーションによって得られた予測信号強度が、前回シミュレーションによって得られた予測信号強度から所定の減少割合を超えて減少している場合に、使用造影剤量を減らして再び再シミュレーションを行ってもよい。例えば、前回シミュレーションによって得られた予測信号強度から10%以上減少している場合、予測部16は、使用造影剤量を減らして再び再シミュレーションを行ってもよい。すなわち、予測部16は、注入速度を低下させるかまたは注入時間を短くして再び再シミュレーションを行ってもよい。
【0108】
注入速度を低下させた再シミュレーションにおいて目標信号強度を得られなかった場合、予測部16は、信号強度が減少するタイミングよりも注入速度を低下させるタイミングが先行するように(注入速度を低下させるタイミングが注入開始タイミングに近づくように)注入速度を低下させて再シミュレーションを行ってもよい。このように、注入速度を低下させるタイミングを徐々に注入開始タイミングに近づけることによって、より早く注入速度が低下するため、使用造影剤量をより減少させることができる。
【0109】
またシミュレータ20は、被写体情報または組織情報を参照せずに、被写体の組織の造影剤濃度の経時変化をシミュレーションしてもよい。例えば、予測部16は、各組織間の造影剤濃度の変化速度が一定であるという条件でシミュレーションすることができる。ただし、被写体情報または組織情報を参照することにより、予測部16は、より高精度で造影剤濃度の経時変化をシミュレーションできる。
【0110】
さらにシミュレータ20は、検査情報を参照せずに、被写体の組織の造影剤濃度の経時変化をシミュレーションしてもよい。例えば、予測部16は、造影剤濃度毎に一定のエコー時間及びフリップ角の条件でシミュレーションすることができる。ただし、検査情報を参照することにより、予測部16は、より高精度で信号強度の経時変化をシミュレーションできる。さらに変換データ28は、一種類のMR装置にのみ対応していてもよい。また、変換データ28において、信号強度は、造影剤濃度として造影剤のモル濃度(mol/L)と関連付けられていてもよい。この場合、予測部16は、造影剤及び血液に対する造影剤の割合である造影剤濃度(%)に代えて、造影剤濃度として、組織中の造影剤のモル濃度の経時変化を予測する。そして、予測部16は、変換データ28を参照して、信号強度の経時変化をシミュレーションする。一例として、造影剤のモル濃度は、組織中の造影剤の希釈割合(造影剤及び血液の合計に対する造影剤の割合)に、造影剤の原液濃度を乗じることによって算出できる。
【0111】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0112】
(付記1)
MR装置によって撮像される試料を挿入するための穴と、
前記穴の周囲に形成された空間とを備える、試料支持具。
【0113】
(付記2)
前記空間には、MR装置によって撮像した画像において基準として用いる物質が充填されている、付記1に記載の試料支持具。
【0114】
(付記3)
前記物質の充填口と、
前記充填口を封止可能な封止具とをさらに備え、
前記封止具内には、前記空間と連通する気泡逃げ部が形成されている、付記1または2に記載の試料支持具。
【符号の説明】
【0115】
2:注入装置、3:MR装置、20:シミュレータ、12:プロトコル取得部、15:目標値取得部、16:予測部、21:注入ヘッド、100:撮像システム、14:薬液情報取得部、25:制御部、28:変換データ、29:シミュレーションプログラム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7