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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】自己集合能を有するペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/00 20060101AFI20230314BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
C07K14/00 ZNA
C07K7/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018225513
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2020083859
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】397020146
【氏名又は名称】株式会社ECC
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】前田 衣織
(72)【発明者】
【氏名】野瀬 健
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-126713(JP,A)
【文献】特開2015-013850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/00
C07K 7/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)又は(b)のペプチド:
(a)配列番号1~4、15~16のいずれかのアミノ酸配列の繰り返し配列からなり、繰り返し回数nが4~300の整数であるペプチド
(b)前記(a)のペプチドにおいて1または2個のアミノ酸が欠失、置換、および/または付加されてなるペプチドであって、温度依存性自己集合性を示すペプチド
【請求項2】
nが4~10の整数であることを特徴とする請求項1記載のペプチド。
【請求項3】
nが5であることを特徴とする請求項2記載のペプチド。
【請求項4】
配列番号7~10のいずれかのアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項1記載のペプチド。
【請求項5】
配列番号20又は21のアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項1記載のペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己集合能(コアセルベーション能)を有するペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
人体をはじめとする動物組織を構成するタンパク質として、エラスチンが知られている。このエラスチンは、コラーゲンと同様に細胞外において機能する繊維状のタンパク質であり、ゴムのように伸縮する性質(弾性)を有していることから、組織への柔軟性の付与に関与している。このため、伸縮性が必要とされる組織・器官(ヒトでは、例えば、皮膚の真皮、靱帯、腱、肺、血管壁など)に広く分布している。
【0003】
このエラスチンは、生体内においてはまず、前駆体タンパク質であるトロポエラスチン(分子量約70,000)として血管平滑筋細胞や線維芽細胞で生合成される。次いで、トロポエラスチンは、ミクロフィブリルと称される糖タンパク質の周囲や間隙に自己集合した後、分子間で適切に架橋されて不溶性のエラスチンとなる。生体内における正常なエラスチンの形成には、この第一段階であるトロポエラスチンの規則的な自己集合が重要であり、この自己集合の現象は「コアセルベーション」と称されている。つまり、正常なエラスチンの形成にはコアセルベーションが深く関与している。
【0004】
エラスチンのコアセルベーション特性は、試験管内において観察することができる(図1)。すなわち、トロポエラスチンやトロポエラスチンに内在するアミノ酸配列を持つエラスチン由来ペプチドの水溶液は、低温(25℃以下)では透明で均一な溶液である。しかし、温度を体温(37℃)以上に上げていくと、分子が自己集合し、その結果溶液は白濁する。白濁した溶液を再度冷却すると透明な溶液へと戻るが、冷却せずにそのまま放置すると、溶液系は二層に分離する。具体的には、エラスチン分子をわずかしか含まない平衡溶液(上層)と、分子が濃縮されてなる粘性のコアセルベート層(下層)との二層に分離する。この層分離過程も可逆的であり、温度を25℃以下に下げると再び元の透明な均一溶液となる。この可逆的な自己集合・解離の特性が「コアセルベーション」であり、正常なエラスチンの線維形成や、さらには弾性機能の発現に重要な特性である。
【0005】
エラスチンの前駆体であるトロポエラスチンの一次構造上の特徴は、疎水性アミノ酸を多く含む疎水性領域と、分子間の架橋に関わる架橋領域とが交互に繰り返されていることである。疎水性領域には様々な疎水性アミノ酸の繰り返し配列が存在し、その繰り返し配列の一つであるVal-Pro-Gly-Val-Gly(以下、「VPGVG」と略すことがある;また、本明細書において、アミノ酸配列は、N末端側からC末端側へと向かって、左から右へと記載する(以下同様))からなるペンタペプチド配列は、これまでに報告されているほとんど全ての動物種に存在する。また、この繰り返し配列を有する合成ポリペプチド(VPGVG)(n≧40)はコアセルベーション特性を示すことから、VPGVG繰り返し配列がエラスチンの弾性機能を担う配列であることが示唆されている。
【0006】
このように、VPGVGの繰り返しアミノ酸配列を有するポリペプチドは、自己集合能を有することにより生体材料や薬物送達システム(DDS)用材料等の基盤素材としての利用価値が高い。しかしながら、当該ポリペプチドを工業的に利用するには高分子量のペプチドを合成する必要があり、時間およびコストがかかる。このため、これまでのところ工業的な利用はほとんどなされていない。なお、海外からの報告として、遺伝子的に合成されたIle-Pro-Gly-Val-Gly(以下、「IPGVG」と略すことがある)繰り返し配列を有するポリマーを生体材料に利用することが、Dan W. Urry教授によって提案されている(非特許文献1参照)。
【0007】
一方、本発明者らは、従来報告されている合成ポリペプチド(ポリペンタペプチド;(VPGVG)や(IPGVG))において、N末端アミノ酸(バリン、イソロイシン)をフェニルアラニンで置き換えることにより、より低分子量でも自己集合能を発現させうることを発見した(特許文献1参照)。
【0008】
また、本発明者らは、(Z-Pro-Z-Z-Zで表される特定のペプチドにも、低分子量で自己集合能があることを発見した(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2012‐126713号公報
【文献】特開2015‐013850号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】J. Phys. Chem. B, 101, 11007-11028 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、低分子量であっても自己集合能を有する新たなペプチドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述のように、自己集合能を有するペプチドに関する研究を進める中で、アミノ酸の配列(順序)ではなく、アミノ酸の組成に着目した。すなわち、上記特許文献1記載のペプチド(Phe-Pro-Gly-Val-Gly(配列番号23))の配列をスクランブルし(バラバラに並べ替え)、かかる配列を変更した各ペプチドについて特性を調査した。その結果、配列を変更したペプチドにおいても自己集合能が発現されることを見いだし、本発明を完成するに至った。さらに、この配列を変更したペプチドのいくつかは、特許文献1記載のペプチドよりも低温で自己集合能を有することを見いだした。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
〈1〉下記(a)、(b)又は(c)のペプチド:
(a)下記式1(式中、nは、3~300の整数であり、X~Xは、Pro、Val、Gly及びGlyの組み合わせからなる。)で表されるペプチド(ただし、XがPro、XがGly、XがVal及びXがGlyであるものを除く)
[式1]
(Phe-X-X-X-X
(b)前記(a)のペプチドにおいて1または数個のアミノ酸が欠失、置換、および/または付加されてなるペプチドであって、温度依存性自己集合性を示すペプチド
(c)前記(a)のペプチドと60%以上の相同性を有し、かつもとのアミノ酸(置換されるアミノ酸)に比べて疎水性が同等又は高いアミノ酸で置換されたペプチドであって、温度依存性自己集合性を示すペプチド。
【0014】
〈2〉式1で表されるペプチドが、式1A(式中、X~Xは、Pro、Val及びGlyの組み合わせからなる。)で表されるペプチドであることを特徴とする〈1〉記載のペプチド。
[式1A]
(Phe-Gly-X-X-X
【0015】
〈3〉配列番号1~4のいずれかのアミノ酸配列で表される繰り返し配列を有することを特徴とする〈2〉記載のペプチド。
〈4〉配列番号15のアミノ酸配列で表される繰り返し配列を有することを特徴とする〈1〉記載のペプチド。
〈5〉式1中のnが4~10の整数であることを特徴とする〈1〉~〈4〉のいずれか記載のペプチド。
〈6〉式1中のnが5であることを特徴とする〈5〉記載のペプチド。
〈7〉配列番号7~10のいずれかのアミノ酸配列からなることを特徴とする〈3〉記載のペプチド。
〈8〉配列番号20のアミノ酸配列からなることを特徴とする〈4〉記載のペプチド。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低分子量であっても自己集合能を有する新規なペプチドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】エラスチンのコアセルベーション特性を説明するための説明図である。
図2】実施例における、固相法によるペプチドの化学合成の様子を説明するための説明図である。
図3】実施例における、固相法によるペプチドの化学合成の様子を説明するための説明図である。
図4】(Phe-Gly-Pro-Val-Gly)(配列番号24)についての自己集合能を確認した図(濃度1 mg/mLにおける濁度曲線)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のペプチドは、下記(a)又は(b)のペプチドである。
(a)下記式1で表されるペプチド
[式1]
(Phe-X-X-X-X
(b)(a)のペプチドにおいて1または数個のアミノ酸が欠失、置換、および/または付加されてなるペプチドであって、温度依存性自己集合性を示すペプチド
(c)前記(a)のペプチドと60%以上の相同性(アミノ酸配列の相同性)を有し、かつもとのアミノ酸に比べて疎水性が同等又は高いアミノ酸で置換されたペプチドであって、温度依存性自己集合性を示すペプチド
【0019】
従来自己集合能を有するペプチドとして見いだされた特許文献1やそれ以前のペプチドは、自己集合能を有するエラスチンのアミノ酸配列に基づき設計されたものであり、繰り返し配列(Phe-Pro-Gly-Val-Gly)の中心に位置する「Pro-Gly」のアミノ酸配列がすべての繰り返し配列において保存されていることが重要であると考えられていた。本発明では、このような一般的な考えに反し、「Pro-Gly」のアミノ酸配列を有していないペプチドであっても、高い自己集合能を示すことを見出したものである。すなわち、本発明者らは、従来の知見からでは、自己集合能を向上するのは限界があると考え、フェニルアラニン(Phe)による疎水性の効果やその他のアミノ酸の特性を再度精査し、従来の知見にとらわれることなく、新たな発想で、アミノ酸の配列(順序)ではなくアミノ酸の組成に着目し、配列変更による効果を見いだし、本発明を完成させたものである。
【0020】
ここで、式1中、nは、「Phe-X-X-X-X」からなるアミノ酸配列の繰り返し回数(重合度)を表し、3~300の整数である。nが2以下であると、ペプチドが自己集合能を発現するのが困難となる。一方、nが300を超えるとタンパク質化学的に取り扱いが困難となる。nは、3~100であることが好ましく、3~10であることがより好ましく、3~8であることがさらに好ましく、4~8であることが特にさらに好ましく、4~6であることが最も好ましい。
【0021】
式1中、X~Xは、Pro、Val、Gly及びGlyの組み合わせからなる。ただし、これらの組み合わせのうち、XがPro、XがGly、XがVal及びXがGlyの組み合わせ(Phe-Pro-Gly-Val-Gly)は、本発明に含まれない。また、本発明のペプチドは、Pro-Gly、Gly-Pro、又はGly-Glyのジペプチド配列を有している。
【0022】
式1で表されるペプチドの一例として、例えば、下記式1Aで表されるペプチドを挙げることができる。
【0023】
[式1A]
(Phe-Gly-X-X-X
【0024】
式1Aで表されるペプチドとしては、具体的には、配列番号1~6のいずれかのアミノ酸配列で表される繰り返し配列を有するペプチドを挙げることができる。
【0025】
(配列番号1の繰り返し配列を有するペプチド(n=5;配列番号7のペプチド))
(Phe-Gly-Pro-Val-Gly)
(配列番号2の繰り返し配列を有するペプチド(n=5;配列番号8のペプチド))
(Phe-Gly-Pro-Gly-Val)
(配列番号3の繰り返し配列を有するペプチド(n=5;配列番号9のペプチド))
(Phe-Gly-Val-Pro-Gly)
(配列番号4の繰り返し配列を有するペプチド(n=5;配列番号10のペプチド))
(Phe-Gly-Gly-Val-Pro)
(配列番号5の繰り返し配列を有するペプチド(n=5;配列番号11のペプチド))
(Phe-Gly-Val-Gly-Pro)
(配列番号6の繰り返し配列を有するペプチド(n=5;配列番号12のペプチド))
(Phe-Gly-Gly-Pro-Val)
【0026】
これらの中でも、配列番号1~4のいずれかのアミノ酸配列で表される繰り返し配列を有するペプチドが好ましく、この繰り返し回数n=5のペプチド(配列番号7~10のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチド)が特に好ましい。これらは、特許文献1記載のペプチド(Phe-Pro-Gly-Val-Gly)と同等又は低温で自己集合能を発揮する。さらにこれらの中でも、配列番号1~3のアミノ酸配列で表される繰り返し配列を有するペプチド(配列番号7~9のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチド)は、特許文献1記載のペプチドより低温で自己集合能を示すことから特に好ましい。
【0027】
その他、式1で表されるペプチドとしては、配列番号13~17のいずれかのアミノ酸配列で表される繰り返し配列を有するペプチドを挙げることができる。
【0028】
(配列番号13の繰り返し配列を有するペプチド(n=5;配列番号18のペプチド))
(Phe-Pro-Gly-Gly-Val)
(配列番号14の繰り返し配列を有するペプチド(n=5;配列番号19のペプチド))
(Phe-Pro-Val-Gly-Gly)
(配列番号15の繰り返し配列を有するペプチド(n=5;配列番号20のペプチド))
(Phe-Val-Pro-Gly-Gly)
(配列番号16の繰り返し配列を有するペプチド(n=5;配列番号21のペプチド))
(Phe-Val-Gly-Pro-Gly)
(配列番号17の繰り返し配列を有するペプチド(n=5;配列番号22のペプチド))
(Phe-Val-Gly-Gly-Pro)
【0029】
これらの中でも、配列番号15のアミノ酸配列で表される繰り返し配列を有するペプチド(繰り返し回数n=5の配列番号20のアミノ酸配列からなるペプチド)は、特許文献1記載のペプチドより低温で自己集合能を示すことから特に好ましい。
【0030】
なお、本発明のペプチドのC末端は、カルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO)、アミド(-CONH)又はエステル(-COOR)のいずれであってもよい。ここで、C末端がエステル(-COOR)である場合におけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基もしくはα-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基、ピバロイルオキシメチル基などが挙げられる。
【0031】
また、本発明のペプチドのN末端のアミノ基は、保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されていてもよい。
【0032】
さらに、本発明のペプチドは、遊離体であってもよいし、塩であってもよい。このような塩としては、生理学的に許容される酸(例、無機酸、有機酸)や塩基(例、アルカリ金属塩)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。このような塩としては、例えば、無機酸(例、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロ酢酸)との塩などが用いられる。
【0033】
本発明のペプチドとしては、上記(a)に示す式1で表されるペプチドに加えて、当該ペプチドのアミノ酸配列がわずかに改変されてなるアミノ酸配列からなるペプチドも、温度依存的な自己集合能を有するものである限り、本発明の技術的範囲に包含される。すなわち、上記(b)に記載のように、(a)のペプチドにおいて1または数個(好ましくは1~8個、より好ましくは1~4個、さらに好ましくは1~2個)のアミノ酸が欠失、置換、および/または付加されてなるペプチドや、上記(c)に記載のように、(a)のペプチドと60%以上の相同性を有し、かつもとのアミノ酸に比べて疎水性が同等又は高いアミノ酸で置換されたペプチドもまた、温度依存的な自己集合能を有するものであれば、本発明の技術的範囲に包含される。本発明のペプチドのようなエラスチンに基づくペプチドは、他の単なる凝集ペプチドに比べて、アミノ酸の欠失、置換、付加の数が多くても、同様の性質(自己集合能)を示す傾向にある。
【0034】
このようなアミノ酸配列がわずかに改変されてなるアミノ酸配列からなるペプチドは、上記(a)のペプチドと60%以上の相同性を有するものが好ましく、80%以上の相同性を有するものがより好ましく、90%以上の相同性を有するものがさらに好ましく、95%以上の相同性を有するものが特に好ましい。また、疎水性の高いアミノ酸を用いるほど自己集合能が向上する傾向にあることから、置換されるアミノ酸は、もとのアミノ酸に比べて疎水性が同等又は高いアミノ酸であることが好ましい。例えば、バリン(Val)を、より疎水性の高いアミノ酸であるロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンなどへ置換することができる。同様に、グリシン(Gly)を、アラニンやそれ以上に疎水性の高いアミノ酸へ置換することができる。
【0035】
また、本発明のペプチドは、ペプチドを構成するアミノ酸のうち80%以上が、側鎖に電荷を持つことができる官能基や水素結合を形成可能な官能基を有さないアミノ酸から構成されていることが好ましい。
【0036】
ここで、本発明のペプチドが有する自己集合能とは、自身が溶解している溶液の温度が上昇すると、ある時点において可逆的に自己集合して凝縮体を形成し、冷却とともに自己集合が解消されて元の溶解状態へと戻ることをいう。その判定は、後述する実施例に記載の手法によって行うことができる。
【0037】
本発明のペプチドとしては、いずれかの濃度で自己集合能を示すものであれば特に制限されるものではないが、0.1~100mg/mlのいずれかの濃度で自己集合能を示すものが好ましく、1~100mg/mlのいずれかの濃度で自己集合能を示すものがより好ましく、1~10mg/mlのいずれかの濃度(低濃度)で自己集合能を示すものがさらに好ましく、1mg/ml又は2mg/mlで自己集合能を示すものが特に好ましい。また、自己集合が生じる温度も特に制限されるものではないが、60℃以下のものが好ましく、50℃以下のものがより好ましく、40℃以下であることが更に好ましく、35℃以下であることが特に好ましく、25℃以下であることが最も好ましい。さらに、本発明のペプチドは、自己集合が生じる温度が、同条件の特許文献1記載のペプチドよりも低温であるものが好ましい。
【0038】
さらに、本発明のペプチドは、構成するアミノ酸がL型であってもD型であってもよいが、すべてのアミノ酸がL型であることが好ましい。
【0039】
本発明のペプチドを製造する手法については特に制限はなく、ペプチドの取得に関する従来公知の知見を適宜参照することができる。例えば、本発明のペプチドは、公知のペプチド合成法に従って製造することができる。
【0040】
例えば、ペプチドの合成法としては、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。すなわち、本発明のペプチドを構成するアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的のペプチドを製造することができる。公知の縮合方法や保護基の脱離としては、例えば、以下の(i)~(v)に記載された方法が挙げられる。
(i)M.BodanszkyおよびM.A.Ondetti、ペプチド・シンセシス(Peptide Synthesis),Interscience Publishers,New York(1966年)
(ii)SchroederおよびLuebke、ザ・ペプチド(The Peptide),Academic Press,New York(1965年)
(iii)泉屋信夫他、ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株)(1975年)
(iv)矢島治明および榊原俊平、生化学実験講座1、タンパク質の化学IV、205、(1977年)
(v)矢島治明監修、続医薬品の開発、第14巻、ペプチド合成、広川書店
【0041】
このようにして得られたペプチドは、公知の精製法により精製単離することができる。ここで、精製法としては、例えば、溶媒抽出・蒸留・カラムクロマトグラフィー・液体クロマトグラフィー・再結晶などが挙げられる。
【0042】
上記方法で得られるペプチドが遊離体である場合は、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができ、逆にペプチドが塩で得られた場合は、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
【0043】
本発明のペプチドの合成には、通常市販のタンパク質合成用樹脂を用いることができる。そのような樹脂としては、例えば、クロロメチル樹脂、ヒドロキシメチル樹脂、ベンズヒドリルアミン樹脂、アミノメチル樹脂、4-ベンジルオキシベンジルアルコール樹脂、4-メチルベンズヒドリルアミン樹脂、PAM樹脂、4-ヒドロキシメチルメチルフェニルアセトアミドメチル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、4-(2’,4’-ジメトキシフェニル-ヒドロキシメチル)フェノキシ樹脂、4-(2’,4’-ジメトキシフェニル-Fmocアミノエチル)フェノキシ樹脂などが挙げられる。このような樹脂を用い、α-アミノ基と側鎖官能基を適当に保護したアミノ酸を、目的とするペプチドの配列通りに、それ自体公知の各種縮合方法に従い、樹脂上で縮合させる。反応の最後に樹脂からペプチドを切り出すと同時に各種保護基を除去して、目的のペプチドを取得する。
【0044】
上記した保護アミノ酸の縮合に関しては、ペプチド合成に使用できる各種活性化試薬を用いることができるが、特に、カルボジイミド類が好ましい。カルボジイミド類としては、DCC、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロリル)カルボジイミドなどが用いられる。また、TBTU、HBTU、HATU、BOP、PyBOP、PyAOP、HCTU、PyClocK、COMU、PyOximなどの縮合剤を使用することも可能である。これらによる活性化にはラセミ化抑制添加剤(例えば、HOBt,HOOBt、HOAt)とともに保護アミノ酸を直接樹脂に添加するかまたは、対称酸無水物またはHOBtエステルあるいはHOOBtエステルとしてあらかじめ保護アミノ酸の活性化を行った後に樹脂に添加することができる。
【0045】
保護アミノ酸の活性化や樹脂との縮合に用いられる溶媒としては、ペプチド縮合反応に使用できることが知られている溶媒から適宜選択される。例えば、N,N-ジメチルホルムアミド,N,N-ジメチルアセトアミド,N-メチルピロリドンなどの酸アミド類、塩化メチレン,クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、トリフルオロエタノールなどのアルコール類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ピリジン,ジオキサン,テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトニトリル,プロピオニトリルなどのニトリル類、酢酸メチル,酢酸エチルなどのエステル類あるいはこれらの適当な混合物などが用いられる。反応温度はペプチド結合形成反応に使用できることが知られている範囲から適宜選択され、通常約-20~約50℃の範囲である。活性化されたアミノ酸誘導体は通常1.1~10倍過剰で用いられる。ニンヒドリン反応を用いたテストの結果、縮合が不十分な場合には保護基の脱離を行うことなく縮合反応を繰り返すことにより十分な縮合を行うことができる。反応を繰り返しても十分な縮合が得られないときには、無水酢酸またはアセチルイミダゾールを用いて未反応アミノ酸をアセチル化することによって、後の反応に影響を与えないようにすることができる。
【0046】
原料の反応に関与すべきでない官能基の保護ならびに保護基、およびその保護基の脱離、反応に関与する官能基の活性化などは公知の基または公知の手段から適宜選択することができる。
【0047】
原料のアミノ基の保護基としては、例えば、Z、Boc、t-ペンチルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、4-メトキシベンジルオキシカルボニル、Cl-Z、Br-Z、アダマンチルオキシカルボニル、トリフルオロアセチル、フタロイル、ホルミル、2-ニトロフェニルスルフェニル、ジフェニルホスフィノチオイル、Fmocなどが用いられる。
【0048】
カルボキシル基は、例えば、アルキルエステル化(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、t-ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、2-アダマンチルなどの直鎖状、分枝状もしくは環状アルキルエステル化)、アラルキルエステル化(例えば、ベンジルエステル、4-ニトロベンジルエステル、4-メトキシベンジルエステル、4-クロロベンジルエステル、ベンズヒドリルエステル化)、フェナシルエステル化、ベンジルオキシカルボニルヒドラジド化、t-ブトキシカルボニルヒドラジド化、トリチルヒドラジド化などによって保護することができる。
【0049】
保護基の除去(脱離)方法としては、例えば、Pd-黒あるいはPd-炭素などの触媒の存在下での水素気流中での接触還元や、また、無水フッ化水素、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸あるいはこれらの混合液などによる酸処理や、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、ピペリジン、ピペラジンなどによる塩基処理、また液体アンモニア中ナトリウムによる還元なども用いられる。上記酸処理による脱離反応は、一般に約-20℃~約40℃の温度で行われるが、酸処理においては、例えば、アニソール、フェノール、チオアニソール、メタクレゾール、パラクレゾール、ジメチルスルフィド、1,4-ブタンジチオール、1,2-エタンジチオールなどのようなカチオン捕捉剤の添加が有効である。また、ヒスチジンのイミダゾール保護基として用いられる2,4-ジニトロフェニル基はチオフェノール処理により除去され、トリプトファンのインドール保護基として用いられるホルミル基は上記の1,2-エタンジチオール、1,4-ブタンジチオールなどの存在下の酸処理による脱保護以外に、希水酸化ナトリウム溶液、希アンモニアなどによるアルカリ処理によっても除去される。
【0050】
原料のカルボキシル基の活性化されたものとしては、例えば、対応する酸無水物、アジド、活性エステル〔アルコール(例えば、ペンタクロロフェノール、2,4,5-トリクロロフェノール、2,4-ジニトロフェノール、シアノメチルアルコール、パラニトロフェノール、HONB、N-ヒドロキシスクシミド、N-ヒドロキシフタルイミド、HOBt)とのエステル〕などが用いられる。原料のアミノ基の活性化されたものとしては、例えば、対応するリン酸アミドが用いられる。
【0051】
ペプチドを得る別の方法としては、例えば、まず、カルボキシ末端アミノ酸のα-カルボキシル基をアミド化して保護した後、アミノ基側にペプチド鎖を所望の鎖長まで延ばした後、ペプチド鎖のN末端のα-アミノ基の保護基のみを除いたペプチドとC末端のカルボキシル基の保護基のみを除去したペプチドとを製造し、これらのペプチドを上記したような混合溶媒中で縮合させる。縮合反応の詳細については上記と同様である。縮合により得られた保護ペプチドを精製した後、上記方法によりすべての保護基を除去し、所望の粗ペプチドを得ることができる。この粗ペプチドは既知の各種精製手段を駆使して精製し、主要画分を凍結乾燥することで所望のペプチドのアミド体を得ることができる。
【0052】
ペプチドのエステル体を得るには、例えば、カルボキシ末端アミノ酸のα-カルボキシル基を所望のアルコール類と縮合しアミノ酸エステルとした後、ペプチドのアミド体と同様にして、所望のペプチドのエステル体を得ることができる。
【0053】
さらに、本発明のペプチドは、それをコードするポリヌクレオチドを含有する形質転換体を培養し、得られる培養物から当該ペプチドを分離精製することによって製造することもできる。本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドはDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAが挙げられる。また、当該ポリヌクレオチドは二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。一本鎖の場合は、センス鎖(すなわち、コード鎖)であっても、アンチセンス鎖(すなわち、非コード鎖)であってもよい。
【0054】
本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドとしては、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、哺乳動物(例えば、ヒト、ウシ、サル、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、ハムスターなど)のあらゆる細胞[例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくはガン細胞など]もしくはそれらの細胞が存在するあらゆる組織[例えば、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、脂肪組織(例、褐色脂肪組織、白色脂肪組織)、骨格筋など]由来のcDNA、合成DNAなどが挙げられる。本発明で用いられるタンパク質またはその部分ペプチドをコードするゲノムDNAおよびcDNAは、上記した細胞・組織より調製したゲノムDNA画分および全RNAもしくはmRNA画分をそれぞれ鋳型として用い、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)(PCR法)、(Loop-Mediated Isothermal Amplification)LAMP法、および逆転写酵素(Reverse Transcriptase)を用いたRT-PCR法によって直接増幅することもできる。
【0055】
本発明のペプチドは、上記のように、温度依存的に自己集合する性質(温度依存性自己集合性)を有する。この性質を利用して、本発明の他の形態によれば、上述した本発明のペプチドを溶解した水溶液を加熱する工程を含む、ペプチドを自己集合させる方法が提供される。また、本発明のさらに他の形態によれば、上述した本発明のペプチドが自己集合してなる、ペプチド集合体が提供される。
【0056】
本発明のペプチドの自己集合化は、本発明のペプチドが溶解している溶液を加熱することにより行うことができる。
【0057】
ペプチド溶液におけるペプチドの濃度に特に制限はないが、好ましくは0.1~100mg/ml程度である。また、加熱手段についても特に制限はなく、当該技術分野において一般的に用いられている、水浴、ブロックヒーター、インキュベーターといった加熱手段が同様に用いられうる。なお、加熱温度についても特に制限はなく、ペプチドのコアセルベーション(自己集合)が生じる温度であればよい。なお、ペプチドのコアセルベーション(自己集合)が生じる温度は低いほど好ましい。
【0058】
本発明のペプチドは、組織工学用バイオマテリアルや薬物送達システム(DDS)、化粧品の基材、微生物や酵素等の固定化材等の原料として広い用途で利用されることが期待される。
【0059】
また、本発明のペプチドやその集合体は、細胞培養基材としても有用である。すなわち、本発明のさらに他の形態によれば、本発明に係るペプチドまたはペプチド集合体を含む細胞培養基材もまた、提供される。
【0060】
この場合、本発明のペプチドやその集合体をそのまま単独で細胞培養基材として用いてもよいし、従来公知の他の細胞培養基材と併用してもよい。なお、本発明のペプチドやその集合体と併用できる従来公知の他の細胞培養基材としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、キチン-キトサン、ヒアルロン酸、フィブロネクチン、ラミニン、プロテオグリカン、テネイシン、アガロース、アルギン酸、セルロース、ヒドロキシアパタイト、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸グリコール(PLGA)、ポリアクリル酸(PAAc)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)、ポリカプロラクトン、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレンなど)などが挙げられる。
【0061】
さらに、本発明のさらに他の形態によれば、細胞シートの製造方法も提供される。具体的には、本発明の細胞シートの製造方法は、上述した本発明に係るペプチドまたはペプチド集合体を含む細胞培養基材を用いて細胞を培養する工程(培養工程)と、培養された細胞を含む細胞シートを回収する工程(回収工程)とを含む点に特徴を有する。これにより、培養された細胞を含む細胞シートが製造される。
【0062】
上述した製造方法を実施する具体的な方法については特に制限はなく、従来公知の知見を適宜参照することができる。培養方法の一例としては、例えば、本発明に係る細胞培養基材を敷き詰めた培養皿上で、細胞を培養するという方法が例示される。この方法によれば、2次元組織体(細胞シート)が形成され、これを簡便に分離・回収することができる。この際、2次元組織体(細胞シート)を形成させてこれを回収するには、培養皿上に本発明に係る細胞培養基材を敷き詰め、その上で通常の細胞培養を行えばよい。そして、充分に細胞が増殖したのを確認した後、大量の培養液を添加して培養皿をシェイクすることで、培養皿から細胞シートを剥離させることができる。
【0063】
なお、本発明の細胞培養基材は本発明に係るペプチドまたはその集合体からなるものであることから、コアセルベーション能(温度依存性自己集合性)を示すものである。したがって、本発明に係る細胞培養基材上で細胞を培養した後、培養物を冷却すると、当該細胞培養基材は液化する。このように細胞培養基材を液化させた後に培養された細胞を回収しても、回収された細胞はシート状の形状を保持したままである。
【0064】
すなわち、上述した細胞シートの製造方法の好ましい実施形態においては、回収工程が、培養物を冷却して細胞培養基材を液化させた後に、細胞シートを回収する工程を含む。なお、培養物を冷却する際の温度については、細胞培養基材が液化しうる温度であれば特に制限はないが、一例として、好ましくは25℃以下、より好ましくは15℃以下に冷却すれば、細胞培養基材のコアセルベーション能を利用してこれを十分に液化させることが可能となる。一方、培養物を冷却する際の温度の下限値についても特に制限はないが、細胞を正常な状態で生存させるという観点からは5℃以上の温度であることが好ましい。
【実施例1】
【0065】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は実施例に限定して解釈されるものではない。
【0066】
≪ペプチドの化学合成≫
化学合成法(固相法)により、以下の本発明のペプチドを合成した。
(配列番号7のアミノ酸配列からなるペプチド)
(Phe-Gly-Pro-Val-Gly)
(配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチド)
(Phe-Gly-Pro-Gly-Val)
(配列番号9のアミノ酸配列からなるペプチド)
(Phe-Gly-Val-Pro-Gly)
(配列番号10のアミノ酸配列からなるペプチド)
(Phe-Gly-Gly-Val-Pro)
(配列番号18のアミノ酸配列からなるペプチド)
(Phe-Pro-Gly-Gly-Val)
(配列番号19のアミノ酸配列からなるペプチド)
(Phe-Pro-Val-Gly-Gly)
(配列番号20のアミノ酸配列からなるペプチド)
(Phe-Val-Pro-Gly-Gly)
(配列番号21のアミノ酸配列からなるペプチド)
(Phe-Val-Gly-Pro-Gly)
【0067】
また、比較のために、以下の特許文献1記載のペプチドを合成した。
(配列番号23のアミノ酸配列からなるペプチド)
(Phe-Pro-Gly-Val-Gly)
【0068】
化学合成法(固相法)としては、Fmoc法を用いた。なお、ペプチド合成用の樹脂、およびFmocアミノ酸としては、全て渡辺化学工業株式会社製の製品を用いた。また、合成用試薬としては、渡辺化学工業株式会社および和光純薬工業株式会社製の製品を用いた。
【0069】
具体的には、合成用の樹脂(Fmoc-NH-SAL-Resin)に、順次Fmocアミノ酸を結合させていくことにより、目的のペプチドを合成した(図2および図3を参照)。この際、アミノ酸の縮合には0.45M HBTU-HOBtおよび2M DIEAを用い、ペプチドの導入が終了した樹脂に95% TFAを加え25℃で1時間撹拌した後、窒素気流下でTFAを除去した。得られた残渣を3%酢酸(3ml)に溶解し、ジエチルエーテルで洗浄した後凍結乾燥した。得られたペプチドを、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、東ソー株式会社製)を用いて精製し、MALDI TOF-MS測定による質量分析(装置:MALDI-8020、(株)島津製作所社製)を行い、目的のペプチドが高純度に得られたことを確認した。
【0070】
≪自己集合(コアセルベーション)特性の測定≫
上記で得られた各ペプチドついて、各種濃度(0.5~10 mg/ml)のペプチド水溶液(pH = 7.4 イオン強度 I = 0.1 mol/Lのリン酸バッファー)を作製し、ペルチェ式温度コントローラー付き分光光度計(JASCO Ubest V-560、日本分光株式会社製)を用いて窒素気流下で濁度測定を行った。測定条件は、測定波長400 nm、温度変化速度0.5 ℃/minであった。
【0071】
その結果を表1に示す。なお、表1に示す温度は、吸光度(Max)の半分の値をとる時の温度(Tt)を示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示すように、本発明のn=5の低分子量のペプチドは、0.7~10mg/mlの低濃度で自己集合能を有することが確認された。特に、配列番号7~9、及び20のアミノ酸配列からなるペプチドは、従来の特許文献1記載のペプチドよりも低温で自己集合能を有することが確認された。また、配列番号10のアミノ酸配列からなるペプチドは、特許文献1記載のペプチドと同等の自己集合能を有することが確認された。
【0074】
配列番号7のペプチド(n=5)の繰り返し回数を4回へ減少したペプチド(Phe-Gly-Pro-Val-Gly)(配列番号24)についても、自己集合能の確認を行った。測定条件は、以下の通りである。
【0075】
(条件)
・試料の状態:精製後
・濃度:1.0 mg/mL
・溶媒:リン酸buffer(pH=7.4)
・温度範囲:1~51℃(0.5℃/min)
【0076】
その結果を図4に示す。
図4に示すように、吸光度(Max)の半分の値をとる時の温度(Tt)は39.2℃であり、繰り返し回数が4の(Phe-Gly-Pro-Val-Gly)(配列番号24)についても自己集合能を示すことが確認された。
なお、特許文献1のペプチドの配列においては、繰り返し回数が3の場合でも自己集合能を有することが示されていることに鑑みると、本発明の一連のペプチドにおいても、3回の繰り返しで自己集合能を示す蓋然性は極めて高い。
【0077】
以上のとおり、本発明のペプチドは、低分子量でありながら、自己集合能を有することがわかる。さらに、本発明のペプチドは、分子量サイズが小さいにもかかわらず、高分子量のポリペプチドと同様、体温(37℃)付近での自己集合を示すものも存在する。
【0078】
本発明のペプチドは、水溶性であり、内部に薬物を包含することが可能な効率のよいDDS担体を簡易に合成することができる等、様々な医用材料として利用できることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のペプチドは、様々な医用材料としての利用が期待されることから、産業上有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0080】
[配列番号1]
本発明のペプチドが有する繰り返しアミノ酸配列(FGPVG)である。
[配列番号2]
本発明のペプチドが有する繰り返しアミノ酸配列(FGPGV)である。
[配列番号3]
本発明のペプチドが有する繰り返しアミノ酸配列(FGVPG)である。
[配列番号4]
本発明のペプチドが有する繰り返しアミノ酸配列(FGGVP)である。
[配列番号5]
本発明のペプチドが有する繰り返しアミノ酸配列(FGVGP)である。
[配列番号6]
本発明のペプチドが有する繰り返しアミノ酸配列(FGGPV)である。
[配列番号7]
配列番号1の繰り返しアミノ酸配列が5回繰り返されてなる[(FGPVG)]のアミノ酸配列である。
[配列番号8]
配列番号2の繰り返しアミノ酸配列が5回繰り返されてなる[(FGPGV)]のアミノ酸配列である。
[配列番号9]
配列番号3の繰り返しアミノ酸配列が5回繰り返されてなる[(FGVPG)]のアミノ酸配列である。
[配列番号10]
配列番号4の繰り返しアミノ酸配列が5回繰り返されてなる[(FGGVP)]のアミノ酸配列である。
[配列番号11]
配列番号5の繰り返しアミノ酸配列が5回繰り返されてなる[(FGVGP)]のアミノ酸配列である。
[配列番号12]
配列番号6の繰り返しアミノ酸配列が5回繰り返されてなる[(FGGPV)]のアミノ酸配列である。
[配列番号13]
本発明のペプチドが有する繰り返しアミノ酸配列(FPGGV)である。
[配列番号14]
本発明のペプチドが有する繰り返しアミノ酸配列(FPVGG)である。
[配列番号15]
本発明のペプチドが有する繰り返しアミノ酸配列(FVPGG)である。
[配列番号16]
本発明のペプチドが有する繰り返しアミノ酸配列(FVGPG)である。
[配列番号17]
本発明のペプチドが有する繰り返しアミノ酸配列(FVGGP)である。
[配列番号18]
配列番号13の繰り返しアミノ酸配列が5回繰り返されてなる[(FPGGV)]のアミノ酸配列である。
[配列番号19]
配列番号14の繰り返しアミノ酸配列が5回繰り返されてなる[(FPVGG)]のアミノ酸配列である。
[配列番号20]
配列番号15の繰り返しアミノ酸配列が5回繰り返されてなる[(FVPGG)]のアミノ酸配列である。
[配列番号21]
配列番号16の繰り返しアミノ酸配列が5回繰り返されてなる[(FVGPG)]のアミノ酸配列である。
[配列番号22]
配列番号17の繰り返しアミノ酸配列が5回繰り返されてなる[(FVGGP)]のアミノ酸配列である。
[配列番号23]
繰り返しアミノ酸配列(FPGVG)が5回繰り返されてなる[(FPGVG)]のアミノ酸配列である。
[配列番号24]
配列番号1の繰り返しアミノ酸配列が4回繰り返されてなる[(FGPVG)]のアミノ酸配列である。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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