(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】スクリューポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 18/16 20060101AFI20230314BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20230314BHJP
F04C 25/02 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
F04C18/16 B
F04C29/00 D
F04C25/02 M
(21)【出願番号】P 2021017797
(22)【出願日】2021-02-05
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敏生
(72)【発明者】
【氏名】西山 正樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 建治
(72)【発明者】
【氏名】田中 智成
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】実開昭53-080111(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第111648956(CN,A)
【文献】実開昭58-004788(JP,U)
【文献】特開平04-203386(JP,A)
【文献】特開2002-206493(JP,A)
【文献】特開平08-189485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/16
F04C 25/02
F04C 29/00-29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじれ方向が逆方向で所定ピッチの螺旋歯を夫々有する一対のスクリューロータと、これら一対のスクリューロータを非接触で互いに噛み合わせた状態で且つ各螺旋歯の歯先の面との間に隙間を存して格納するケーシングとを備え、各スクリューロータをそれらの回転軸回りで夫々逆方向に同期回転させ、ケーシングの軸方向一端より吸引し、この吸引されたものをケーシングと各スクリューロータとの間に軸方向に沿って形成される複数の作動空間に閉じ込めて圧縮しながらケーシングの軸方向他端より吐出するスクリューポンプにおいて、
各螺旋歯の歯先の面に、ケーシングの内面と各螺旋歯の歯先の面との間の隙間に侵入した異物が退避する窪み部を歯先の面の軸方向範囲内に収まる螺旋に沿って連続または不連続で形成し
て当該窪み部に退避した異物が各スクリューロータの回転に伴って直接または各螺旋歯の歯先の面との間の隙間を経て窪み部の終端まで移送されるようにし、
前記窪み部の始端が前記各螺旋歯の吸引端から離間した位置に、及び、前記窪み部の終端が前記各螺旋歯の吐出端から離間した位置に夫々設定されることを特徴とするスクリューポンプ。
【請求項2】
前記ケーシングに前記異物を排出する排出口が設けられ、前記排出口が重力加速度方向からみて最下流側に位置することを特徴とする請求項1記載のスクリューポンプ。
【請求項3】
前記窪み部が形成される前記螺旋は、前記歯先の面の軸方向幅に応じて、軸方向に間隔を存した複数のもので構成されることを特徴とする請求項1
または請求項2記載のスクリューポンプ。
【請求項4】
前記各螺旋歯の歯先の面の単位面積に対する、前記窪み部の開口面の単位面積の比が0.1~0.6の範囲に設定されることを特徴とする請求項
1または請求項2記載のスクリューポンプ。
【請求項5】
請求項1または請求項2記載のスクリューポンプにおいて、
前記窪み部は、前記各螺旋歯の歯先エッジ部の稜線に平行な螺旋に沿ってのびる凹溝状のものを含み、
前記ケーシングの軸方向一端側に位置する前記窪み部の壁面と歯先の面とがなす角度が30度~90度の範囲に設定されることを特徴とするスクリューポンプ。
【請求項6】
前記ケーシングの軸方向一端側に位置する前記窪み部の壁面と歯先の面とがなす角度と、前記ケーシングの軸方向他端側に位置する前記窪み部の壁面と歯先の面とがなす角度との和が90度以下に設定されることを特徴とする請求項5記載のスクリューポンプ。
【請求項7】
前記一対のスクリューロータの各回転軸に突部が夫々形成され、両スクリューロータの相対回転時に一方のスクリューロータの回転軸に形成した突部が他方のスクリューロータの歯先の面に形成した窪み部内に進入するように構成したことを特徴とする請求項5または請求項6記載のスクリューポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリューポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
真空処理装置の真空チャンバなどを真空排気する真空ポンプとして、容積移送型のスクリュー(真空)ポンプが一般に知られている(例えば、特許文献1参照)。このものは、ねじれ方向が逆方向で所定ピッチの螺旋歯を夫々有する一対のスクリューロータと、これら一対のスクリューロータを非接触で互いに噛み合わせた状態で且つ各螺旋歯の歯先の面との間に隙間を存して格納するケーシングとを備える。真空排気に際しては、各スクリューロータをそれらの回転軸回りで夫々逆方向に同期回転させ、一対のスクリューロータの螺旋歯で区画される容積を移動させる。これにより、ケーシングの軸方向一端より真空チャンバ内の気体(被移送物)を吸引し、この吸引されたものをケーシングと各スクリューロータとの間に軸方向に沿って形成される複数の作動空間に閉じ込めて圧縮しながら移送して、ケーシングの軸方向他端より吐出する。このとき、気体の逆流量が可及的に抑制されるように、使用環境に応じた熱膨張や加工精度等を考慮して、ケーシング内面と各螺旋歯の歯先の面との間の隙間や、非接触で互いに噛み合う各螺旋歯の歯先の面相互の隙間が設定される。
【0003】
ここで、真空雰囲気の真空チャンバ内にて各種のプロセスを実施していると、真空チャンバ内で、その壁面(防着板の壁面)から剥離した成膜物や、その真空チャンバ内の気中にて反応生成物といった固体(微細な粉状)の異物が発生し、この異物がスクリューポンプのケーシング内に進入する場合がある。そして、ケーシング内に進入した異物のサイズや進入した異物の量によっては、ケーシングの内面と各螺旋歯の歯先の面との間の隙間に侵入した結果、その異物が詰まることがある。このように侵入した異物は、スクリューロータの回転に伴って、ケーシングの内面や各螺旋歯の歯先の面を転がりながら下流側(軸方向他端側)へとやがて送られるが、このときの状態(詰まり度合)に応じてスクリューロータの回転軸を回転駆動するモータトルクの増大を招き、状態によっては、モータの最大トルクを超過させ、スクリューポンプの異常停止を招く。また、ケーシング内面や各螺旋歯の歯先の面を摩損させて、気体の逆流量増加に伴うスクリューポンプの排気性能の劣化を招くことがあり、これでは、継続的に当該条件下で排気性能を保つ運転が期待できず、スクリューポンプとして支障をきたす虞がある。
【0004】
そこで、気体を吸引するケーシングの軸方向一端より上流側に、例えば、真空チャンバとスクリューポンプとを接続する排気管に上記異物の進入を阻止するトラップを設けることが一般に知られている(例えば、特許文献2参照)。然し、上記隙間に詰まるサイズの異物を捕捉できるようにトラップを構成すると、排気コンダクタンスが大きくなって排気速度の低下を招くという問題がある。この場合、例えば、所定容積の真空チャンバ内を所定圧力まで真空排気するのに多大な時間を要する。また、スクリューポンプのケーシング内で、例えば、プロセスに使用されるガスの析出により異物が発生し、これが上記隙間に詰まるような場合があるが、このような場合には上記従来例の方法では何らの対応もできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-189485号公報
【文献】特開2000-53250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、ケーシングの内面と各螺旋歯の歯先の面との間の隙間に侵入した異物の影響を受けずに、常時、正常な運転が可能なスクリューポンプ及びこのスクリューポンプに好適に利用可能なスクリューロータを提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、ねじれ方向が逆方向で所定ピッチの螺旋歯を夫々有する一対のスクリューロータと、これら一対のスクリューロータを非接触で互いに噛み合わせた状態で且つ各螺旋歯の歯先の面との間に隙間を存して格納するケーシングとを備え、各スクリューロータをそれらの回転軸回りで夫々逆方向に同期回転させ、ケーシングの軸方向一端より吸引し、この吸引されたものをケーシングと各スクリューロータとの間に軸方向に沿って形成される複数の作動空間に閉じ込めて圧縮しながらケーシングの軸方向他端より吐出する本発明のスクリューポンプは、各螺旋歯の歯先の面に、ケーシングの内面と各螺旋歯の歯先の面との間の隙間に侵入した異物が退避する窪み部を歯先の面の軸方向範囲内に収まる螺旋に沿って連続または不連続で形成して当該窪み部に退避した異物が各スクリューロータの回転に伴って直接または各螺旋歯の歯先の面との間の隙間を経て窪み部の終端まで移送されるようにし、前記窪み部の始端が前記各螺旋歯の吸引端から離間した位置に、及び、前記窪み部の終端が前記各螺旋歯の吐出端から離間した位置に夫々設定されることを特徴とする。この場合、前記ケーシングに前記異物を排出する排出口が設けられ、前記排出口が重力加速度方向からみて最下流側に位置することが好ましい。
【0008】
本発明によれば、例えば、真空チャンバ内の真空排気中に、固体(微細な粉状)の異物がケーシング内に進入し、ケーシングの内面と各螺旋歯の歯先の面との間の隙間に侵入して異物が詰まったとしても、この異物をスクリューロータの回転に伴って速やかに各螺旋歯の歯先の面に形成した窪み部内に落ち込ませて退避させることができる。このことは、例えば、ケーシング内でのプロセスガスの析出により発生した異物が上記隙間に詰まった場合も同様である。このため、ケーシングの内面と各螺旋歯の歯先の面との間の隙間に異物が詰まった状態が可及的速やかに解消されることで、モータトルクの増大や、ケーシング内面や各螺旋歯の歯先の面の摩損といった不具合の発生が可及的に抑制される。その結果、凹溝状の窪み部を歯先の面の軸方向範囲内に収まる螺旋に沿って形成したことで(言い換えると、軸方向で互いに隣接する作動空間を、窪み部を介して直接連通させないことで)、排気性能の低下を確実に抑制しながら、上記隙間に侵入した異物の影響を受けずに、常時、正常な運転が可能になる。その上、上記従来例のように、上記隙間に詰まるサイズの異物を捕捉できるようにトラップを必要としないため、排気速度の低下を招くといった不具合も生じない。
【0009】
本発明においては、前記窪み部が形成される前記螺旋は、前記歯先の面の軸方向幅に応じて、軸方向に間隔を存した複数のもので構成されることが好ましい。これにより、ケーシングの内面と各螺旋歯の歯先の面との間の隙間に侵入して詰まった異物を可及的速やかに窪み部内へと退避させることができ、有利である。
【0010】
ここで、各螺旋歯の歯先の面に窪み部を形成した場合、ケーシング内面と各螺旋歯の歯先の面との間の隙間が局所的に大きくなって気体の逆流量が増加し、排気性能が低下する虞がある。本発明においては、前記窪み部の始端が前記各螺旋歯の吸引端から離間した位置に、及び、前記窪み部の終端が前記各螺旋歯の吐出端から離間した位置に夫々設定されることが好ましく、また、前記各螺旋歯の歯先の面の単位面積に対する、前記窪み部の開口面の単位面積の比が0.1~0.6の範囲に設定されることが好ましい。
【0011】
ところで、窪み部内に退避させた異物をケーシング外に速やかに排出しようとする場合、前記窪み部は、前記各螺旋歯の歯先エッジ部の稜線に平行な螺旋に沿ってのびる凹溝状のものを含むように構成することが考えられるが、これでは、窪み部の開口面の単位面積を上記のように設定していても気体の逆流量が増加してしまう虞がある。そこで、前記ケーシングの軸方向一端側に位置する前記窪み部の壁面と歯先の面とがなす角度が30度~90度の範囲に設定されることが好ましい。これによれば、逆流する気体が窪み部の壁面と歯先の面との角部に衝突して渦を巻くような還流が発生することで、気体の逆流を抑制することができる。なお、凹溝状の窪み部は、例えば、エンドミルを用いた切削加工により形成することが考えられ、このときの加工性を考慮すると、前記ケーシングの軸方向一端側に位置する前記窪み部の壁面と歯先の面とがなす角度と、前記ケーシングの軸方向他端側に位置する前記窪み部の壁面と歯先の面とがなす角度との和が90度以下に設定されることが好ましい。
【0012】
また、各螺旋歯の歯先の面に窪み部を形成した場合、非接触で互いに噛み合う各螺旋歯の歯先の面相互の隙間も局所的に大きくなって気体の逆流量が増加し、排気性能が低下してしまう虞がある。本発明においては、前記一対のスクリューロータの各回転軸に突部が夫々形成され、両スクリューロータの相対回転時に一方のスクリューロータの回転軸に形成した突部が他方のスクリューロータの歯先の面に形成した窪み部内に進入する構成を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】真空チャンバに接続される本発明の実施形態のスクリューポンプを示す概略図。
【
図2】
図1に示すスクリューポンプの構造を示す断面図。
【
図3】
図2に示す一対のスクリューロータの断面図。
【
図5】(a)及び(b)は、窪み部の変形例を示す模式平面図。
【
図7】(a)及び(b)は、本実施形態のスクリューポンプの排気性能を確認する実験結果のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、真空処理装置の真空チャンバを真空排気するものを例に本発明のスクリューポンプ及びこのスクリューポンプに好適に使用可能なスクリューロータの実施形態を説明する。以下においては、上、下、左、右といった方向を示す用語は、
図2に示すスクリューポンプSPの姿勢を基準として説明する。
【0016】
図1を参照して、Vcは、シリコンウエハやガラス基板等の被処理物に対して成膜処理やエッチング処理といった各種のプロセスが実施される真空チャンバである。真空チャンバVcには、その内部を所定圧力まで真空排気するために、排気管Peを介して真空ポンプユニットPuが接続されている。真空ポンプユニットPuは、メカニカルブースターポンプなどのメインポンプPmと、メインポンプPmの背圧側の補助ポンプPaとで構成される。そして、補助ポンプPaとして、本実施形態のスクリューポンプSPが用いられる。
【0017】
図2~
図4を参照して、スクリューポンプSPは、左右一対のスクリューロータ1
1,1
2とケーシング2とを備える。各スクリューロータ1
1,1
2は、回転軸11a,11bと、回転軸11a,11bに形成した螺旋歯12a,12bとを有する。各スクリューロータ1
1,1
2の各螺旋歯12a,12bは、捩れ方向が互いに逆方向として一対として構成される以外、同一の形態を有する一条のものである。特に図示して説明しないが、螺旋歯12a,12bの軸直角断面形状は、その歯底の面を構成する、スクリューロータ1
1,1
2の回転中心を中心とする第1円弧と、その歯先の面を構成する、スクリューロータ1
1,1
2の回転中心を中心とする第2円弧と、第1円弧と第2円弧とを夫々結ぶ、エピトロコイド曲線、外サイクロイド曲線やインボリュート曲線などから適宜選択される第1曲線と第2曲線とで創成されるものである。本実施形態では、各螺旋歯12a,12bが、不等ピッチ部(不等リード部)121と、等ピッチ部122とで構成される。不等ピッチ部121は、各螺旋歯12aの吸入端121a,121bから軸方向下方に向う所定範囲にて、歯先の面13a,13bの軸方向幅(上下方向幅)W1a,W1bと、ピッチP1a,P1bとを次第に小さくして形成され、等ピッチ部122は、不等ピッチ部121の後端から各螺旋歯12a,12bの吐出端122a,122bまでの範囲にて、歯先の面13a,13bの軸方向幅W1cと、ピッチP1cとが不等ピッチ部121より小さい同等のものとして形成されている。なお、各スクリューロータ1
1,1
2の各螺旋歯12a,12bとしては、公知ものが利用できるため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0018】
ケーシング2は、螺旋歯12a,12bが形成された各スクリューロータ11,12の部分を格納する筒状のケーシング部本体21を備え、ケーシング部本体21の上部開口及び下部開口は上カバー22及び下カバー23で夫々閉塞されている。上カバー22(または上カバー22近傍のケーシング部本体21を含んだ箇所)には吸引口24が設けられ、吸引口24にメインポンプPmからの排気管Peが接続されている。下カバー23には吐出口25が設けられると共に、後述する異物を排出する排出口26が設けられ、排出口26から排出された異物は、ケーシング本体部に21外に設けられる図示省略の回収容器で回収されるようにしている。なお、排出口26の位置は、スクリューポンプSPの設置姿勢(重力加速度方向)に応じて適宜設定することができる。
【0019】
ケーシング部本体21には、上下方向に貫通して、後述の各軸受及びギアにより、各螺旋歯12a,12bを非接触で互いに噛み合わせた状態で格納できる、互いに結合した一対の円筒状内壁(ケーシング2の内面)21aが形成されている。そして、一方の(
図2中、左側)スクリューロータ1
1の第1の螺旋歯12aと、隙間Gp1を存して、他方の(
図2中、右側)スクリューロータ1
2の第2の螺旋歯12bとを非接触で噛み合わせた状態で、円筒状内壁21aにより区画される空間に、第1及び第2の各螺旋歯12a,12bの歯先の面13a,13bとケーシング2の内面21aとの間に隙間Gp2を存して格納される。これにより、一方のスクリューロータ1
1の第1の螺旋歯12aとケーシング部本体21との間、他方のスクリューロータ1
2の第2の螺旋歯12bとケーシング部本体21との間に上下方向に複数の作動室S1a~S6bが形成される。隙間Gp1,Gp2は、気体の逆流量が可及的に抑制されるように、例えば、0.05mmに設定される。なお、各作動室S1a~S6bの回転軸方向の区画は、上記第1円弧と第2円弧とを夫々結ぶ曲線よって創生された図示省略の面の隙間にて構成され、この区画が作動空間となる。この回転軸方向の区画は螺旋(ピッチ)に依存して確定されるため、図中の隣接する各作動室S1a~S6bは一部連通した容積として、作動空間となる構成としてもよい。
【0020】
上カバー22及び下カバー23には、軸受3a,3bと軸受4a,4bとが夫々設けられ、各スクリューロータ11,12の回転軸11a,11bの両端が夫々支承される。下カバー23の下側には補助ケーシング部27が取り付けられている。そして、補助ケーシング部27内に延出した回転軸11a,11bの下端部には、互いに噛合うギア5a,5bが夫々外嵌され、一方の回転軸11aの下端が補助ケーシング部27内に設けた駆動モータ6に連結されている。駆動モータ6を回転駆動すると、各スクリューロータ11,12が回転軸11a,11b回りで夫々逆方向に同期回転される。これにより、真空チャンバVc内の気体が吸引口24より吸引され、吸引したものがケーシング部本体21とスクリューロータ11,12との間に上下方向に沿って形成される複数の作動室S1a~S6bまたは作動空間に閉じ込めて圧縮しながら移送して、吐出口26より吐出される。
【0021】
ところで、真空チャンバVcの真空排気中に、例えば、真空チャンバVc内で発生した異物が吸引口24からケーシング部本体21内に進入して上記隙間Gp2に侵入したり、堆積が進行することで詰まることがある。ここで、「詰まる」とは、隙間Gp2に介在する異物の接触面(歯先の面13a,13bおよび円筒状内壁21a)部位の面圧、及び、この反力となる、各軸受3a,3b,4a,4bに生じる面圧が上昇する現象を示す。各面圧の上昇は垂直荷重の上昇であり、摩擦力の増大を生じさせる。このため、モータトルクの増大や、ケーシング内面21aや第1及び第2の各螺旋歯12a,12bの歯先の面13a,13bの摩損の発生が可及的に抑制されるように構成しておく必要がある。そこで、本実施形態では、第1及び第2の各螺旋歯12a,12bの歯先の面13a,13bに、上記隙間Gp2に侵入した異物が退避する第1の窪み部14a,14bと第2の窪み部14c,14dとを夫々形成することとした。なお、各窪み部14a~14dは、異物からみて受ける面圧を減ずる領域であることから、異物を高い面圧領域から低面圧領域へと誘引する効果を奏するといえる。
【0022】
具体的には、不等ピッチ部121に形成される第1の窪み部14a,14bは、歯先の面13a,13bの稜線L1,L2に平行状に沿い、且つ、互いの間隔比率を変えずに3本の螺旋Lsに沿い、不等ピッチ部121の後端まで連続して夫々のびる凹溝状のもので構成される。等ピッチ部122に形成される第2の窪み部14c,14dは、上記同様、歯先の面13a,13bの稜線L1,L2と平行な1本の螺旋Lsに沿って連続してのびる凹溝状のもので構成される。第1及び第2の各窪み部14a~14dの歯たけ方向の深さd1と、軸方向幅W2は、
図3中に拡大して示すように、上記隙間Gp2と同等以上に設定される。この場合、
図4中に拡大して示すように、異物を第1及び第2の各窪み部14a~14d内に速やかに退避させる目的と、隣接する作動空間における大気圧力側作動空間から気体の逆流量の増加を抑制する目的を両立させるため、第1及び第2の各螺旋歯12a,12bの歯先の面13a,13bの単位面積に対し、各窪み部14a~14dの開口面(ハッチングを付した部分)の総面積が0.1~0.6の範囲に設定される。これに応じて、不等ピッチ部121及び等ピッチ部122に形成する凹溝状の窪み部14a~14dの軸方向幅W2または第1及び第2の各窪み部14a~14dの本数(軸方向幅W2の分割数)が適宜決定される。
【0023】
なお、上記螺旋Lsは、歯先の面13a,13bの稜線L1,L2を除いた軸方向幅(軸方向範囲)Wr1、Wr2,Wr3(
図4参照)内に収まっていれば、稜線L1,L2に対して必ずしも平行である必要はない。螺旋Lsの目的は異物の排出促進であるため、例えば、異物を回転軸方向(排出口26方向)へ移動させる運動を付与することが望ましく、具体的には、稜線L1,L2に比べ、螺旋Lsを排出口26方向へと傾ける(螺旋のピッチを伸ばす)構成を用いることは好ましいといえる。更に、本発明における各螺旋歯12a,12bの歯先の面13a,13bの単位面積の1単位は、最大で作動空間の区画単位で示される範囲の歯先の面13a,13bの面積で示され、最小で作動空間の区画単位の1/8(π/4rad)に相当する範囲の歯先の面13a,13bの面積または後述する不連続な窪み部の1周期に相当する範囲の歯先の面13a,13bの面積として示される。
【0024】
また、不等ピッチ部121における第1の窪み部14a,14bの始端140aは、凹溝状の第1の窪み部14a,14b(例えば、
図3における、壁面141a、壁面141b、窪み部14bの底面、円筒状内壁21aの4面で区画される雰囲気空間)が吸引口25に連通しないように、第1及び第2の各螺旋歯12a,12bの吸引端121a,121bから離間した位置に設定される。他方、等ピッチ部122における第2の窪み部14c,14dの始端は、いずれかの不等ピッチ部121の第1の窪み部14a,14bの後端(窪み部の雰囲気空間を連通)させることができるが、第1の窪み部14a,14bの後端と縁切りして不連続とすることもできる。好ましくは、等ピッチ部122に設けられる第2の窪み部14c,14dを、同一形状を保った状態で不等ピッチ部121まで連続させ、等ピッチ部122から不等ピッチ部121の歯先の面13a,13bの軸方向幅の増加に応じた窪み部を不連続的に追加する構成とする。不連続的に追加される窪み部を、連続する窪み部を挟むように構成すれば、螺旋歯12a,12bの所定ピッチに全域に対して各窪み部が平行状態を保てる面で更に好ましい。このように構成することで窪み部の加工時間(切削時間)を短くすることができ、スクリューロータ1
1,1
2の製造面で効果を奏する。
【0025】
更に、等ピッチ部122における第2の窪み部14c,14dの後端(終端)140bは、凹溝状の第2の窪み部14c,14dが吐出口25に連通しないように、第1及び第2の各螺旋歯12a,12bの吐出端122a,122bから離間した位置に設定される。また、第1及び第2の各窪み部14a~14dのケーシング2上端側(低圧側)に位置する壁面141aと歯先の面13a,13bとがなす角度θ1は、30度~90度の範囲内に設定され、角度θ1と、第1及び第2の各窪み部14a~14dのケーシング2下端側(高圧側)に位置する壁面141bと歯先の面13a,13bとがなす角度θ2との和(θ1+θ2)は、90度以下に設定される。このような角度で窪み部14a~14dを形成することで、ケーシング2の内面と各螺旋歯12a,12bの歯先の面13a,13bとの間の隙間に異物が侵入し、その隙間や、特に角部142にて面圧を発生させたとしても、角部142の変形が抑止される効果が得られる。加えて、窪み部の底面側より開口(軸方向幅W2)側が広い形状とされていることにより、切削粉の排出が用意になるために加工時間(切削時間)を短くすることができ、スクリューロータ11,12の製造面で効果を奏する。
【0026】
以上の実施形態によれば、真空チャンバVc内の真空排気中に、固体(微細な粉状)の異物がケーシング2内に進入して、ケーシング2の内面21aと第1及び第2の各螺旋歯12a,12bの歯先の面13a,13bとの間の隙間Gp2に異物が侵入して詰まったとしても、この異物は、スクリューロータ11,12の回転に伴って、上記のようにして不等ピッチ部121、等ピッチ部122に適宜形成された第1及び第2の各窪み部14a~14d内に速やかに退避できる(このことは、例えば、ケーシング2内でのプロセスガスの析出により発生した異物が上記隙間Gp2に詰まった場合も同様である)。そして、第1及び第2の各窪み部14a~14d内に退避した異物は、スクリューロータ11,12の回転に伴って直接または、不等ピッチ部121と等ピッチ部122との境界に位置する第1及び第2の各螺旋歯12a,12bの歯先の面13a,13bとの間の隙間Gp2を更に経て、第2の窪み部14c,14dの終端まで移送され、排出口26から回収容器に回収される。このため、ケーシング2の内面21aと第1及び第2の各螺旋歯12a,12bの歯先の面13a,13bとの間の隙間Gp2に異物が詰まった状態、即ち、異物に起因する面圧上昇並びに摩擦力の上昇が可及的に解消されることで、モータトルクの増大や、ケーシング2の内面21aや第1及び第2の各螺旋歯12a,12bの歯先の面13a,13bの摩損といった不具合の発生が可及的に抑制される。これにより、凹溝状の第1及び第2の各窪み部14a~14dを歯先の面13a,13bの軸方向範囲Wr1,Wr2,Wr3内に収まる螺旋Lsに沿って形成したことで(言い換えると、軸方向で互いに隣接する作動空間を第1及び第2の各窪み部14a~14dにより直接連通させないことで)、排気性能の低下を確実に抑制しながら、上記隙間Gp2に侵入した異物の影響を受けずに、常時、正常な運転が可能になる。その上、上記従来例のように、上記隙間Gp2に詰まるサイズの異物を捕捉できるようにトラップを必要としないため、排気速度の低下を招くといった不具合も生じない。
【0027】
また、第1及び第2の各窪み部14a~14dのケーシング2の軸方向一端側(上端側)に位置する壁面141aと歯先の面13a,13bとがなす角度θ1を30度~90度の範囲に設定したことで、逆流する気体が窪み部14a~14dの壁面141aと歯先の面13a,13bとの角部142に衝突して渦を巻くような還流が発生して気体の逆流を抑制することができ、しかも、角度θ1と、各窪み部14a~14dの軸方向他端側(下端側)に位置する壁面141bと歯先の面13a,13bとがなす角度θ2との和(θ1+θ2)を90度以下に設定したことで、凹溝状の窪み部14a~14dを例えばエンドミルを用いた切削加工により加工性よく形成することができる。なお、エンドミルを用いた切削加工において、軸心の振れ等や切削粉等の影響等により、角度θ2との和(θ1+θ2)が90度をやや超過する加工法が用いられる場合もあるが、これらも、本発明の90度とする技術思想に含まれる。
【0028】
次に、第1及び第2の各螺旋歯12a,12bの歯先の面13a,13bに第1及び第2の各窪み部14a~14dを夫々形成した上記実施形態のスクリューポンプSPの排気性能を歯先の面に窪み部を形成していない従来品との比較で確認した。この場合、発明品のスクリューポンプSPでは、第1及び第2の各螺旋歯12a,12bの歯先の面13a,13bとの間の隙間Gp2を0.13mm、不等ピッチ部121に形成される3本の第1の窪み部14a,14bの幅を4mm(歯先の面13a,13bの単位面積に対する各窪み部14a,14bの開口面の単位面積が約0.4)、等ピッチ部122における1本の第2の窪み部14c,14dの幅を4mm(歯先の面13a,13bの単位面積に対する各窪み部14c,14dの開口面の単位面積が約0.4)、各窪み部14a~14dの深さd1を0.5mm、角度θ1を30度とした。
図7(a)は、吸引口24の圧力に対する排気速度の変化を示す。図中、実線が発明品、点線が従来品であり、排気速度比に置き換えたものを
図7(b)に示す。これによれば、10Pa~10000Paの範囲において、発明品は、従来品の90%以上の排気速度を保つことができたことが確認された。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、第1及び第2の各窪み部14a~14dとして、不等ピッチ部121、等ピッチ部122にて夫々、螺旋Lsに沿ってのびる凹溝状のものを連続して形成したものを例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、
図5(a)に示すように、第1及び第2の各窪み部14eを歯先の面13a,13bにおいて矩形の輪郭を持つ凹部とし、このような凹部14eの複数個が、歯先の面13a,13bの軸方向範囲Wrに収まる螺旋Lsに沿って間隔を置いて不連続で形成されていてもよい。これにより、渦を巻くような還流をより発生させて気体の逆流を抑制することができる。この場合、特に図示して説明しないが、凹溝状の第1及び第2の各窪み部14a~14d内に所定間隔で詰め物を充填して凹部14eの複数個が不連続で形成されるようにしてもよい。また、
図5(b)に示すように、凹部14eと、スリット状の凹部14fとを螺旋Lsに沿って不連続で形成(例えば交互に形成)してもよい。
【0030】
ところで、上記実施形態のように、歯先の面13a,13bに第1及び第2の各窪み部14a~14dを形成すると、両スクリューロータ1
1,1
2間の隙間Gp1が局所的に大きくなり、これに伴い、気体の逆流量が増加し、排気性能が低下する虞がある。なお、実験により、隙間Gp1および図示しない面の隙間である回転軸方向の第1円弧と第2円弧とを夫々結ぶ曲線よって創生された面間の隙間は、隙間を貫通する距離が短いことから、異物を詰まらせる確率が低く、この部位のついての凹部等の窪み部は不要という知見が得られている。また、変形例に係るスクリューロータ10
1,10
2では、
図6に示すように、一対のスクリューロータ1
1,1
2の螺旋歯12a,12bのない各回転軸11a,11bの部分には、螺旋Lsに沿ってのびる突条(突部)15a,15bが夫々形成され、両スクリューロータ1
1,1
2の相対回転時に、一方のスクリューロータ1
1(1
2)の回転軸11a(11b)の部分に形成した突条15a,15bが他方のスクリューロータ1
2(1
1)の歯先の面13b(13a)に形成した第1及び第2の各窪み部14b(14a)、14d(14c)内に連続して進入するようにしている。これによれば、気体の逆流量を抑制でき、排気性能の低下を抑制することができる。突部15a,15bの形状は、第1及び第2の各窪み部14a~14dの形状に応じて適宜設定される。
【0031】
また、上記実施形態では、第1及び第2の各螺旋歯12a,12bが、不等ピッチ部121と等ピッチ部122とを持つ一条のもので構成される場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、不等ピッチ部または等ピッチ部のみで構成されたものや、複数条で構成されたものにも本発明は適用することができる。更に、上記実施形態では、真空チャンバVc内を真空排気するために用いられるスクリューポンプSP及びスクリューロータ11,12を例に説明したが、これに限定されず、粉体移送用真空置換タンク内を真空排気する場合にも本発明を適用することができる。また、上記実施形態では、下カバー23に排出口26を形成したものを例に説明したが、スクリューポンプSPの設置姿勢、即ち、重力加速度方向からみて最下面を含むように構成されていてもよい。これにより、異物の移動について重力による移動障壁が存在せず、その結果、ケーシング2及び下カバー23より容易に排出可能な構成となる。また、歯先の面13a,13bとのなす角度θ1を90度とした方形状の溝として窪み部を構成すれば、より異物を退避させることが可能となる。なお、各螺旋歯12a,12bの、歯先の面13a,13bの稜線(L1,L2部)形成されている角部は、軸方向の気密に寄与しているため、その近傍に窪み部を設けることは避けることが好ましい。つまり、窪み部が一つの螺旋で示されるように校正されている場合は、稜線(L1,L2部)から見て中央にその螺旋を設けることが好ましい。また、各螺旋歯の断面視で鋭角側の稜線(L1,L2部)が特に気密に寄与していることから、螺旋は中央より鈍角側に設けることがより好ましい。
【符号の説明】
【0032】
SP…スクリューポンプ、11,12,101,102…スクリューロータ、11a,11b…回転軸、12a,12b…螺旋歯、P1a,P1b,P1c…ピッチ、121a,121b…吸引端、122a,122b…吐出端、13a,13b…歯先の面、Wr1~Wr3…軸方向幅(軸方向範囲)、14a~14d…凹溝状の窪み部、14e…凹部(窪み部),14f…スリット状の凹部(窪み部)、Ls…螺旋、140a…第1の窪み部の始端、140b…第2の窪み部の終端、141a,141b…窪み部の壁面、θ1,θ2…角度、15a,15b…突部、2…ケーシング、21a…円筒状内壁(ケーシングの内面)、S1a~S6b…作動室。