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特許7244989円筒型スパッタリングターゲット及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】円筒型スパッタリングターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20230315BHJP
   C04B 35/01 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
C23C14/34 B
C04B35/01
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017179069
(22)【出願日】2017-09-19
(62)【分割の表示】P 2016214323の分割
【原出願日】2016-11-01
(65)【公開番号】P2018009251
(43)【公開日】2018-01-18
【審査請求日】2019-09-02
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2016064132
(32)【優先日】2016-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】館野 諭
(72)【発明者】
【氏名】長田 幸三
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】土屋 知久
【審判官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-88831(JP,A)
【文献】特開2016-14191(JP,A)
【文献】特開2012-126587(JP,A)
【文献】特開2016-117950(JP,A)
【文献】特許第5887391(JP,B1)
【文献】特許第5887625(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C14/34
C04B35/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒軸方向の長さが948mm以上の円筒型IGZO焼結体であって、
前記円筒軸方向における相対密度差が0.1%以内であり、
前記円筒軸方向の円筒内側面中央部および円筒外側面中央部において1.176mm 2 の視野を少なくとも5つ観察し、観察される孔における面積の円相当径が平均1μm以下であることを特徴とする円筒型IGZO焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載された円筒型IGZO焼結体と、円筒内側中空部に配置された基材と、を有するスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒型スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。特に、円筒型スパッタリングターゲットを構成する円筒型焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイ(FPD:Flat Panel Display)や太陽電池の製造技術が急速に発展し、大型化が進んでいる。またこれらの市場の拡大に伴い、大型ガラス基板の需要が増えている。
【0003】
特に、大型のガラス基板に金属薄膜や酸化金属薄膜を形成するスパッタリング装置では、従来の平板型スパッタリングターゲットに替えて円筒型(ロータリー型又は回転型ともいう)スパッタリングターゲットが使用されてきている。円筒型スパッタリングターゲットは平板型スパッタリングターゲットに比べて、ターゲットの使用効率が高い、エロージョンの発生が少ない、堆積物の剥離によるパーティクルの発生が少ないという利点がある。
【0004】
上記のように大型のガラス基板に薄膜を形成するスパッタリング装置に使用する円筒型スパッタリングターゲットは、3000mm以上の長さが必要である。このような長さの円筒型スパッタリングターゲットを一体形成で製造し、研削加工することは技術的に現実的ではない。したがって、通常は数10mmから数100mmの複数の円筒型焼結体が連結された分割スパッタリングターゲットが構成される。
【0005】
ここで、上記の円筒型の焼結体に限らず、一般的な焼結体の連結には機械的な強度向上及びその焼結体を使用した薄膜の膜質向上が要求される。複数の焼結体を基材に接合させる場合、焼結体同士の間は一定の間隔をあけて配置する。焼結体を隙間なく配置して基材に接合すると、スパッタ中の熱により焼結体が伸縮し、焼結体同士がぶつかるなどして割れや欠けが生じてしまうおそれがあるためである。一方、焼結体間の隙間は、本来スパッタされるべき焼結体が存在しない。したがって、基材の構成材料がスパッタされるなどの問題を発生させ、所望の組成の薄膜が成膜できないという問題が存在する。さらには、複数の焼結体が連結した分割スパッタリングターゲットでは、隣接する焼結体間の相対密度の差(つまり焼結体密度の「固体間ばらつき」)はその分割スパッタリングターゲットを使用した薄膜の質に影響を及ぼす。このように、連結する焼結体が短いほどスパッタリングターゲットは多分割されることになり、スパッタリング特性に影響を及ぼすリスクが高まる。
【0006】
少しでも前記問題を回避するため、スパッタリングターゲットの少分割化に対応できるより長い円筒型焼結体の製造技術が要求される。長尺円筒型焼結体の製造における問題点は、焼結体内の相対密度の差(つまり焼結体密度の「固体内ばらつき」)および機械的な強度である。例えば、特許文献1には、ITOターゲットの焼結では雰囲気の酸素濃度が品質安定化(密度および強度)に大きく影響することが開示されている。通常、ITOに使用される焼結炉は炉壁側から酸素が供給されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-144056
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら長尺円筒型焼結体の場合、焼結時の円筒内のガス対流が十分でないことから円筒内に酸素不足が生じる。本発明の課題は、複数の焼結体を基材に接合して得られる分割スパッタリングターゲットにおいて少分割化に対応するため、円筒軸方向の長さが470mm以上の円筒型焼結体、円筒型スパッタリングターゲット及びそれらの製造方法を提供することを目的とする。または、本発明は、固体内および個体間における均質性の高い円筒型焼結体、円筒型スパッタリングターゲット、及びそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態による円筒型スパッタリングターゲットの製造方法は、円筒型焼結体を有する円筒型スパッタリングターゲットの製造方法において、酸素を供給するための配管と接続する酸素供給口を設けたステージ上に円筒軸方向の長さが600mm以上の円筒型成形体を配置し、円筒型成形体の円筒内側に設けられた円筒内周より小さい酸素供給口から円筒軸方向に酸素を供給しながら焼結する。
【0010】
また、別の態様において、ステージはチャンバーの中に配置され、酸素を供給するための配管はチャンバーの外から酸素供給口に接続されてもよい。
【0011】
また、別の態様において、酸素は円筒型成形体の円筒内側中空部に向けて供給しながら焼結してもよい。
【0012】
また、別の態様において、酸素は円筒型成形体の円筒軸方向の下方から上方に向けて供給しながら焼結してもよい。
【0013】
本発明の一実施形態による円筒型スパッタリングターゲットに用いる円筒型焼結体は、円筒軸方向の長さが470mm以上の円筒型焼結体であって、円筒軸方向における相対密度差が0.1%以内である。
【0014】
本発明の一実施形態による円筒型スパッタリングターゲットに用いる円筒型焼結体は、円筒軸方向の長さが470mm以上の円筒型焼結体であって、円筒内側面に観察される孔における面積の円相当径が平均1μm以下である。
【0015】
本発明の一実施形態による円筒型スパッタリングターゲットに用いる円筒型焼結体は、円筒軸方向の長さが470mm以上の円筒型焼結体であって、円筒内側面に観察される孔の数が平均4.25×10-5個/μm2以下である。
【0016】
また、別の態様において、円筒内側面に観察される孔は、円筒軸方向の中央部において少なくとも独立した5か所の視野1.176mm2当たりに観察される孔であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、円筒軸方向の長さが470mm以上の円筒型焼結体、円筒型スパッタリングターゲット及びそれらの製造方法を提供することができる。または、固体内および個体間における均質性の高い円筒型焼結体、円筒型スパッタリングターゲット、及びそれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る円筒型スパッタリングターゲットを構成する円筒型焼結体の一例を示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る組み立て後の円筒型スパッタリングターゲットの構成の一例を示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る円筒型焼結体の製造方法を示すプロセスフローである。
図4】本発明の一実施形態に係る円筒型焼結体の製造方法において、円筒型成形体を焼結する工程を示す斜視図である。
図5】本発明の一実施形態に係る円筒型焼結体の製造方法において、円筒型成形体を焼結する工程を示す断面図である。
図6】本発明の一実施形態に係る円筒型焼結体の製造方法において、円筒型成形体を焼結する工程を示す平面図である。
図7】本発明の一実施形態の変形例1に係る円筒型焼結体の製造方法において、円筒型成形体を焼結する工程を示す平面図である。
図8】本発明の一実施形態の変形例2に係る円筒型焼結体の製造方法において、円筒型成形体を焼結する工程を示す断面図である。
図9】本発明の実施例および比較例に係る円筒型焼結体において、円筒軸方向における測定サンプルの採取位置を示す図である。
図10】本発明の実施例および比較例に係る円筒型焼結体の密度、固体内密度差、相対密度、及び固体内の最大相対密度差を示す表である。
図11】本発明の実施例および比較例に係る円筒型焼結体の長さと最小酸素供給量の関係を示す図である。
図12】本発明の実施例および比較例に係る円筒型焼結体のバルク抵抗、及び固体内バルク抵抗値差を示す表である。
図13】本発明の実施例および比較例に係る円筒型焼結体において、円筒内側面、および外側面における測定サンプルの採取位置を示す図である。
図14】本発明の実施例および比較例に係る円筒型焼結体の円筒内側面における電子顕微鏡(SEM、1000倍)写真である。
図15】本発明の実施例および比較例に係る円筒型焼結体の円筒外側面における電子顕微鏡(SEM、1000倍)写真である。
図16】本発明の実施例および比較例に係る円筒型焼結体の円筒内側面における電子顕微鏡(SEM、5000倍または2000倍)写真である。
図17】本発明の実施例および比較例に係る円筒型焼結体の円筒外側面における電子顕微鏡(SEM、5000倍)写真である。
図18】本発明の実施例および比較例に係る円筒型焼結体の円筒内側面における孔における面積の円相当径、および数の平均を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明に係る円筒型スパッタリングターゲット及びその製造方法について説明する。但し、本発明の円筒型スパッタリングターゲット及びその製造方法は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0020】
〈実施形態〉
図1及び図2を用いて、本発明の実施形態に係る円筒型スパッタリングターゲット及び円筒型焼結体の構成及び構造の概要を説明する。
【0021】
[円筒型スパッタリングターゲットの概要]
図1は、本発明の実施形態に係る円筒型スパッタリングターゲットを構成する円筒型焼結体の一例を示す斜視図である。図1に示すように、円筒型スパッタリングターゲット100は、中空構造の複数の円筒型焼結体110を有する。上記複数の円筒型焼結体110は一定のスペースを介して互いに隣接して配置される。ここで、図1においては、説明の便宜上、隣接する円筒型焼結体110のスペースを大きくして図示した。円筒型焼結体110の円筒内側中空部には、詳細を図2に示すように、円筒型焼結体110を保持するための円筒基材130が導入される。
【0022】
また、円筒型焼結体110の厚さは6.0mm以上20.0mm以下とすることができる。また、円筒型焼結体110の円筒軸方向の長さは470mm以上1500mm以下とすることができる。また、円筒型焼結体110の外径は147mm以上175mm以下とすることができる。また、円筒型焼結体110の内径は135mm以下とすることができる。また、隣接する円筒型焼結体110間の円筒軸方向のスペースは0.1mm以上0.4mm以下とすることができる。
【0023】
円筒型焼結体110の材料は、例えば、インジウム、スズ及び酸素からなるITO焼結体(Indium Tin Oxide)、インジウム、亜鉛及び酸素からなるIZO焼結体(Indium Zinc Oxide)、インジウム、ガリウム、亜鉛、及び酸素からなるIGZO焼結体(Indium Gallium Zinc Oxide)、亜鉛、アルミニウム及び酸素からなるAZO焼結体(Aluminium Zinc Oxide)、酸化亜鉛(ZnO)、TiO2等の焼結体である。ただし、本発明にかかる円筒形スパッタリングターゲットの円筒型焼結体は酸素を含むセラミック焼結体であれば、上記組成に限定されない。
【0024】
ここで、本実施形態における円筒型焼結体110の密度は、99.5%以上であるとよい。円筒型焼結体110の密度は、より好ましくは99.6%以上であるとよい。また、円筒型焼結体110の固体内の円筒軸方向における相対密度の差は、0.1%以下であるとよい。円筒型焼結体110の円筒軸方向における相対密度の差は、より好ましくは0.05%以下であるとよく、さらに好ましくは0.03%以下であるとよい。また、隣接する円筒型焼結体110aと110bとの間の相対密度の差、つまり円筒型焼結体の固体間の相対密度の差は、好ましくは0.1%以下であるとよい。
【0025】
尚、焼結体の密度は相対密度で示す。相対密度は、測定された密度及び理論密度によって、相対密度=(測定密度/理論密度)×100(%)で表される。相対密度差は、各測定された密度の差及び理論密度によって、相対密度差=(測定密度差/理論密度)×100(%)で表される。理論密度とは、焼結体の各構成元素において、酸素を除いた元素の酸化物の理論密度から算出される密度の値である。例えば、ITOターゲットであれば、各構成元素であるインジウム、スズ、酸素のうち、酸素を除いたインジウム、スズの酸化物として、酸化インジウム(In23)と酸化スズ(SnO2)を理論密度の算出に用いる。ここで、焼結体中のインジウムとスズの元素分析値(at%、又は質量%)から、酸化インジウム(In23)と酸化スズ(SnO2)の質量比に換算する。例えば、換算の結果、酸化インジウムが90質量%、酸化スズが10質量%のITOターゲットの場合、理論密度は、(In23の密度(g/cm3)×90+SnO2の密度(g/cm3)×10)/100(g/cm3)として算出する。In23の理論密度は7.18g/cm3、SnO2の理論密度は6.95g/cm3として計算し、理論密度は7.157(g/cm3)と算出される。また、各構成元素がZnであればZnO、GaであればGa23の酸化物として算出することができる。ZnOの理論密度は5.67g/cm3、Ga23の理論密度は5.95g/cm3として計算する。一方、測定密度とは、重量を体積で割った値である。焼結体の場合は、アルキメデス法により体積を求めて算出する。円筒型焼結体110の固体内の円筒軸方向における相対密度の差は、円筒型焼結体110の円筒軸方向において150mmおきに40~50mm幅の円筒型測定サンプルを切り出し、それぞれのサンプルの相対密度を算出することで評価することができる。
【0026】
以上のように、円筒形焼結体の長さ、および相対密度を上記の範囲にすることで、円筒型焼結体の機械的強度の向上及びその円筒型焼結体を使用するときノジュールの発生やアーキングに伴うパーティクルの発生を抑制することができ、薄膜の不純物の低減や膜密度の向上の効果を得ることができる。また、円筒型焼結体の固体内及び固体間の相対密度の差をそれぞれ上記の範囲にすることで、複数の円筒型焼結体を有する分割スパッタリングターゲットにおいて電界の歪みを抑制することができる。その結果、スパッタリング時に安定した放電特性を得ることができ、膜質の面内均一性が非常に高い薄膜を1つの円筒型焼結体のサイズを超すような大型の基板に形成することができる。
【0027】
円筒型焼結体110の固体内の差とは、円筒型焼結体110の円筒内側面および外側面の差も含まれる。円筒型焼結体110の円筒内側面および外側面の状態は電子顕微鏡(SEM)観察によって評価することができる。本実施形態における円筒型焼結体110の円筒軸方向中央部における円筒内側面および外側面に観察される孔に大きな差は見られない。本実施形態における円筒型焼結体110の円筒内側面および外側面に観察される孔の形は不規則な粒形であり、結晶粒界および結晶内の何れにも観察される。別言すると、本実施形態における円筒型焼結体110の円筒内側面および外側面には、不規則な気泡状の孔が、結晶粒界および結晶内の何れにも観察される。一方で、円筒軸方向の長さが470mm以上である比較例における円筒型焼結体の円筒内側面には、比較例における円筒外側面や、本実施形態における円筒型焼結体110の円筒内側面および外側面と比べて、より大きい不規則な粒形の孔が観察される。別言すると、円筒軸方向の長さが470mm以上である比較例における円筒型焼結体の円筒内側面には、不規則な結晶粒状の孔が観察される。このような比較例における円筒型焼結体の円筒内側面に観察される孔は、主に結晶粒界に観察される。比較例における円筒型焼結体の円筒外側面は、本実施形態における円筒型焼結体110の円筒内側面および外側面と大きな差が見られない。比較例における円筒型焼結体の円筒外側面に観察される孔の形は、円筒内側面の孔と比べて小さく不規則な粒形であり、結晶粒界および結晶内の何れにも観察される。
【0028】
本実施形態および比較例における円筒型焼結体の円筒内側面および円筒外側面に観察される各々の孔の形は不規則である。このため、孔の大きさは、連続する1つの孔を平面視したときの面積を算出し、相当する面積を有する円の直径(以降、孔における面積の円相当径という)で評価してもよい。孔の数は、観察する面において連続する1つの孔を1として算出してもよい。本実施形態における円筒型焼結体110の円筒内側面に観察される孔における面積の円相当径の平均は1μm以下であるとよい。円筒型焼結体110の円筒内側面に観察される孔における面積の円相当径の平均は、より好ましくは0.5μm以下であるとよい。また、本実施形態における円筒型焼結体110の円筒内側面に観察される孔の数の平均は、4.25×10-5個/μm2以下であるとよい。円筒型焼結体110の円筒内側面に観察される孔の数の平均は、より好ましくは2.125×10-5個/μm2以下であるとよい。なお本実施形態における円筒型焼結体110の円筒外側面に観察される孔における面積の円相当径の平均は1μm以下であるとよい。円筒型焼結体110の円筒外側面に観察される孔における面積の円相当径の平均は、より好ましくは0.5μm以下であるとよい。また、本実施形態における円筒型焼結体110の円筒外側面に観察される孔の数の平均は、4.25×10-5個/μm2以下であるとよい。円筒型焼結体110の円筒外側面に観察される孔の数の平均は、より好ましくは2.125×10-5個/μm2以下であるとよい。
【0029】
尚、円筒型焼結体110の円筒内側面および外側面の状態の評価は、各サンプルの円筒軸方向の中央部において980μm×1200μmの視野を5つ観察し、孔の数および孔における面積の円相当径の平均値を評価する。孔における面積Sの円相当径Lは、まず連続する1つの孔の投影面積Sを算出し、相当する面積を有する円の直径Lを以下の式で算出することで得ることができる。
【数1】
【0030】
本実施形態における円筒型焼結体110の円筒軸方向中央部における円筒内側面および外側面に観察される結晶粒子に大きな差は見られない。本実施形態における円筒型焼結体110の円筒内側面および外側面に観察される結晶粒子は、大きく成長している。一方で、円筒軸方向の長さが957mm以上である比較例における円筒型焼結体の円筒内側面には、外側面と比べて、結晶粒子がより小さく、成長初期段階の結晶粒子が観察される。このような比較例における円筒型焼結体の円筒内側面の結晶粒子は成長初期段階であることから、小さく、不均一であり、平滑性に欠ける。
【0031】
詳細は製造方法で説明するが、円筒型成形体を円筒軸方向に酸素を供給しながら焼結することにより、上記の円筒型焼結体を得ることができる。
【0032】
図2は、本発明の実施形態に係る組み立て後の円筒型スパッタリングターゲットの構成の一例を示す断面図である。図2に示すように、組み立て後の円筒型スパッタリングターゲット100は、図1に示した円筒型焼結体110の円筒内側中空部に円筒基材130が配置されている。円筒基材130と円筒型焼結体110とは、ろう材140によってろう付けされており、隣接する円筒型焼結体110はスペース120を介して配置されている。
【0033】
円筒基材130の材料は、ターゲットをスパッタリングする際に電子やイオンがターゲットに衝突することで発生する熱を効率的に放出できるように熱伝導率が高く、ターゲットにバイアス電圧を印加できる程度の導電性を有する金属材料を使用することができる。具体的に、銅(Cu)、チタン(Ti)これらを含む合金、及びステンレス(SUS)を使用することができる。
【0034】
ろう材140の材料は、円筒基材130と同様に熱伝導率が高く、導電性を有し、円筒基材130が円筒型焼結体110を保持するのに十分な密着力と強度を有する材料を使用することができる。ただし、ろう材140の熱伝導率は円筒基材130の熱伝導率よりも低い材料であってもよい。また、ろう材140の導電性は円筒基材130の導電性よりも低い材料であってもよい。ろう材140としては、例えばインジウム(In)、スズ(Sn)、及びこれらを含む合金を使用することができる。
【0035】
以上のように、本実施形態に係るスパッタリングターゲットによると、円筒形焼結体の長さ、および相対密度を上記の範囲にすることで、円筒型焼結体の機械的強度の向上及びその円筒型焼結体を使用した薄膜の不純物の低減や膜密度の向上の効果を得ることができる。また、円筒型焼結体の固体内及び固体間の相対密度の差をそれぞれ上記の範囲にすることで、複数の円筒型焼結体を有する分割スパッタリングターゲットにおいて電界の歪みを抑制することができる。その結果、スパッタリング時に安定した放電特性を得ることができ、膜質の面内均一性が非常に高い薄膜を1つの円筒型焼結体のサイズを超すような大型の基板に形成することができる。さらに、円筒型焼結体の円筒内側面および円筒外側面の状態をそれぞれ上記の範囲にすることで、円筒型焼結体を有する分割スパッタリングターゲットにおいてターゲットライフを通じて安定した品質を維持することができる。すなわちターゲットを継続使用している途中で特性変化が生じず、密度不良によるノジュールやパーティクルの発生を抑制することができる。
【0036】
[円筒型焼結体の製造方法]
次に、本発明に係る円筒型スパッタリングターゲットの円筒型焼結体の製造方法について、図3を用いて詳細に説明する。図3は、本発明の実施形態に係る円筒型焼結体の製造方法を示すプロセスフローである。図3では、ITO焼結体の製造方法を例示するが、焼結体の材料はITOに限定されず、IGZOなどのその他の酸化金属焼結体にも使用することができる。
【0037】
まず始めに、原料を準備する。混合に用いる原料は、例えば酸化物や合金などに含有される金属元素を使用する。原料は粉末状のものを使用することができ、目的とするスパッタリングターゲットの組成によって適宜選択することができる。例えばITOの場合は、酸化インジウムの粉末及び酸化スズの粉末を準備する(ステップS301及びS302)。これらの原料の純度は、通常2N(99質量%)以上、好ましくは3N(99.9質量%)以上、さらに好ましくは4N(99.99質量%)以上であるとよい。純度が2Nより低いと円筒型焼結体に不純物が多く含まれてしまうため、所望の物性を得られなくなる(例えば、透過率の減少、膜の抵抗値の増加、局所的に異物が含まれるとアーキングに伴うパーティクルの発生)という問題がある。
【0038】
次に、これらの原料粉末を粉砕し混合する(ステップS303)。原料粉末の粉砕混合処理は、ジルコニア、アルミナ、ナイロン樹脂等のボールやビーズを用いた乾式法や、上記のボールやビーズを用いたメディア撹拌型ミル、メディアレスの容器回転式、機械撹拌式、気流式の湿式法を使用することができる。ここで、一般的に湿式法は乾式法に比べて粉砕及び混合能力に優れているため、湿式法を用いて混合を行うことが好ましい。
【0039】
原料組成については特に制限はないが、目的とするスパッタリングターゲットの組成比に応じて適宜調整することが望ましい。
【0040】
ここで、細かい粒子径の原料粉末を使用すると焼結体の高密度化は可能となる。また、粉砕条件を強化して細かい原料粉末を得ることは可能だが、粉砕時に使用するメディア(ジルコニアなど)の混入量も増加し、製品内の不純物濃度は上昇してしまう。このように焼結体の高密度化と製品内の不純物濃度のバランスを見ながら、粉砕時の条件は適正な範囲を設ける必要がある。
【0041】
次に、原料粉末のスラリーを乾燥・造粒する(ステップS304)。ここで、スラリーを急速乾燥する急速乾燥造粒を行ってもよい。急速乾燥造粒は、スプレードライヤを使用し、熱風温度、風量を調整することで行われてもよい。急速乾燥造粒をすることで、原料粉末の比重差による沈降速度の違いによって酸化インジウム粉末と酸化スズ粉末とが分離することを抑制することができる。このように造粒することで、配合成分の比率が均一化され、原料粉末のハンドリング性が向上する。また、造粒する前後に仮焼成を行ってもよい。
【0042】
次に、上述した混合及び造粒の工程によって得られた混合物(仮焼成工程を設けた場合には仮焼成されたもの)を加圧成形して円筒型成形体を形成する(S305)。この工程によって、目的とするスパッタリングターゲットに好適な形状に成形する。円筒型成形体の円筒軸方向の長さは600mm以上とすることができる。成形処理としては、例えば、金型成形、鋳込み成形、射出成形等が挙げられるが、円筒型のように複雑な形状を得るためには、冷間静水圧(CIP)等で成形することが好ましい。CIPによる成形は、まず所定の重量に秤量した原料粉をゴム型に充填する。この際、ゴム型を揺動もしくタッピングしながら充填することで、型内の原料粉の充填ムラや空隙を無くすことができる。CIPによる成形の圧力は、好ましくは100MPa以上200MPa以下であるとよい。上記のように成形の圧力を調整することによって、本実施形態では54.5%以上58.0%以下の相対密度を有する円筒型成形体を形成することができる。より好ましくは、CIPの成形圧力を150MPa以上180MPa以下に調整することで、55.0%以上57.5%以下の相対密度の円筒型成形体を得るとよい。
【0043】
次に、成形工程で得られた円筒型成形体を焼結する(ステップS306)。ここで、円筒型成形体を焼結する方法について、図4から図6を用いて詳しく説明する。図4は、本発明の実施形態に係る円筒型焼結体の製造方法において、円筒型成形体を焼結する工程を示す斜視図である。図5は、本発明の実施形態に係る円筒型焼結体の製造方法において、円筒型成形体を焼結する工程を示す断面図である。また、図6は、本発明の実施形態に係る円筒型焼結体の製造方法において、円筒型成形体を焼結する工程を示す平面図である。
【0044】
まず、図4に示すように、ステップS305の成形工程で得られた円筒型成形体111は、平板状の焼結ステージ200上に円筒軸方向が焼結ステージ200に対して略垂直になるよう立てた状態で配置される。ただし円筒型成形体111が焼結ステージ200上に安定して配置することができるかぎり、これに限定されない。例えば、焼結ステージ200に対して円筒型成形体111が傾いた状態で配置されてもよい。また、図4では省略したが、円筒型成形体111を焼結する際に、円筒型成形体111と焼結ステージ200との間にスペーサを配置してもよい。この場合、スペーサは、円筒型成形体111の底面150よりも小さい面積で底面150と接するように配置するとよい。スペーサを配置することによって、焼結工程に円筒型成形体111の体積が縮小しても、移動で生じる摩擦係数を抑制することができる。したがって、焼結後の円筒型焼結体に発生する内部応力の発生を抑制することができる。
【0045】
図5および図6に示すように、ステップS305の成形工程で得られた円筒型成形体111は、チャンバー300に備えられる焼結ステージ200上に配置される。円筒型成形体111は、板状の焼結ステージ200に設けられた酸素供給口230を円筒中心に配置された状態で焼結される。酸素供給口230は、焼結工程による縮小を考慮して円筒型成形体111の内周より小さく、円筒内側面に酸素を供給することを可能とする。また、酸素供給口230は、円筒型成形体111の円筒軸方向の下方から上方に向かって配置している。焼結ステージ200に設けられた開口部は、酸素供給口230だけであってもよい。1つの酸素供給口230は、酸素を供給する1つの配管240と直接接続される。配管240は、例えば、コントローラー、バルブなどを介してチャンバー300の外から酸素供給口230に接続される。すなわち、配管240から供給される酸素は、焼結ステージ200のその他の領域から漏れることなく、酸素供給口230から円筒内側面に選択的に酸素を供給する。このような構成をとることによって、酸素供給口230から供給する酸素量は、円筒型成形体111の円筒軸方向における長さ、厚さ、および円筒内部空間の大きさに応じて適宜調節することができる。例えば、円筒軸方向の長さが長いほど、酸素供給口230から供給する酸素の量は多くてもよい。しかしながらこれに限定されず、例えば、円筒型成形体111の厚さが厚い場合、酸素供給口230から供給する酸素量はさらに多くてもよい。また例えば、円筒型焼結体の内径が大きく、円筒内部空間が大きい場合、酸素供給口230から供給する酸素量はさらに多くてもよい。
【0046】
酸素供給口230から供給する酸素量の上限は、特に限定しないが150L/min以下であってもよい。1つの酸素供給口230から多量の酸素を供給することで、酸素による冷却効果から、焼結中の円筒型焼結体の変形、割れや、焼結後の円筒型焼結体の密度の低下などの問題が生じることがある。このため、酸素供給口230からの酸素の進行方向には、邪魔板などを配置してもよい。酸素供給口230から供給される酸素は、邪魔板などに衝突させて、円筒内部空間において拡散させてもよい。さらに酸素供給口230から供給する酸素は、配管などを循環中に予備加熱してから供給してもよい。
【0047】
空気雰囲気下で円筒内側中空部に酸素を供給する場合、窒素より重い酸素は円筒軸方向の下方から徐々に充満される。したがって、焼結中の円筒型成形体の円筒内側面にむらなく酸素を供給することができる。円筒型成形体の円筒内側中空部が酸素で充満されると、さらに供給される酸素は円筒内側中空部を介して円筒成形体の上方から円筒外側に流出する。流出した酸素は、チャンバー300の天井部分で下方に流れ、チャンバー300内を循環する酸素の流れが生じる。このためチャンバー300内の酸素濃度が均一化されていてもよい。なお別途、チャンバー300の壁部から円筒外側への酸素の供給があってもよい。この場合、円筒内側中空部への酸素の供給量と、円筒外側への酸素の供給量とをそれぞれ調節することによって、焼結中の円筒型成形体の円筒内側面、および外側面の酸素濃度を均一にすることもできる。
【0048】
ここで図4では円筒型成形体111の円筒内側中空部に下方から酸素を供給する方法を例示したが、この方法に限定されない。例えば、円筒軸方向の下方または上方から酸素を供給してもよい。円筒型成形体111の円筒軸方向に酸素を供給することによって、焼中の円筒軸方向における酸素濃度を均一に保つことができる。
【0049】
また図4では円筒型成形体111の円筒中心に1つ配置した酸素供給口230から酸素を供給する方法を例示したが、この方法に限定されない。円筒内側中空部において均一に酸素が供給されるかぎり、酸素供給口230は円筒中心に限定されない。酸素供給口230は複数であってもよい。また、酸素が円筒内側だけではなく、円筒外側に供給されてもよい。このとき、それぞれの酸素供給口230は独立して酸素供給量を制御できるよう、酸素を供給する配管240とそれぞれ直接接続される。これによって、それぞれの酸素供給口230から供給される酸素の量は、円筒型成形体111の円筒軸方向における長さ、厚さ、円筒内部空間の大きさ、および酸素供給口230に対する円筒型成形体111の位置などに応じて適宜調節することができる。
【0050】
一般的なITO焼結においては、酸素雰囲気下での焼結が焼結体の高密度化には必須である。酸素雰囲気下での焼結においても、長さが600mm以上である円筒型成形体111を焼結する工程においては、円筒内側中空部のガス対流が十分でないことから円筒内側中空部に酸素不足が生じる。円筒内側中空部の酸素不足によって、焼結中の円筒型焼結体の変形、割れや、焼結後の円筒型焼結体の密度の低下、円筒型焼結体の円筒軸方向における相対密度差、円筒型焼結体の円筒内側面において観察される孔の大きさ、若しくは孔の数の増大が生じる。内側中空部の酸素不足による影響を阻止するため、本実施形態においては、上記構成のように、円筒型成形体111を焼結する際に、円筒型成形体111の円筒内側中空部に酸素供給口230から酸素を供給することで、600mm以上の円筒型成形体111の円筒内側中空部を酸素で均一に満たすことができる。さらに円筒内側中空部への酸素の供給と、円筒外側への酸素の供給とを組み合わせることで、焼結中の円筒型成形体111の円筒内側面、および外側面の酸素濃度を均一にすることもできる。その結果、焼結中の円筒型焼結体の変形、割れを防ぐことができる。また、焼結後の円筒型焼結体の密度を向上することができる。さらに、円筒型焼結体の固体内の円筒軸方向における相対密度差を低減することができる。円筒内側面における孔の大きさと数を低減することができる。
【0051】
図3に戻って、円筒型焼結体の製造方法の説明を続ける。上記に詳細を説明したステップS306の焼結は電気炉、熱間静水圧(HIP)、又はマイクロ波焼成を使用することができる。焼結条件は焼結体の組成によって適宜選択することができるが、例えばSnO2を10wt.%含有するITOであれば、酸素ガス雰囲気、1500℃以上1600℃以下、10時間以上20時間以下の条件で焼結することができる。焼結温度が1500℃未満の場合、ターゲットの密度が低下してしまう。一方、1600℃を超えると電気炉や炉材へのダメージが大きく適時メンテナンスが必要となるため、作業効率が著しく低下する。また、焼結時間が10時間未満であるとターゲットの密度が低下してしまい、20時間より長いと焼結工程における保持時間が長くなり、電気炉の稼働率が悪化してしまう。また、焼結工程において使用する酸素ガスの消費量及び電気炉を稼働するための電力が増加してしまう。また、焼結時の圧力は大気圧であってもよく、減圧又は加圧雰囲気であってもよい。
【0052】
ここで、電気炉で焼結する場合、焼結の昇温速度及び降温速度を調整することでクラックの発生を抑制することができる。具体的には、焼結時の電気炉の昇温速度は300℃/時間以下が好ましく、180℃/時間以下であることがより好ましい。また、焼結時の電気炉の降温速度は、600℃/時間以下が好ましい。なお、昇温速度又は降温速度は段階的に変化するように調整されてもよい。
【0053】
焼結工程によって円筒型成形体は収縮するが、全ての材料に共通して熱収縮の始まる温度域に入る前に、炉内の温度を均一にするため、昇温の途中で温度保持を行う。これによって炉内の温度ムラが解消され、炉内に設置したすべての焼結体が均一に収縮する。また到達温度や保持時間は各材料ごとに適正な条件を設定することで、安定な焼結体密度を得ることができる。円筒軸方向の長さが600mm以上である円筒型成形体を焼結することで、円筒軸方向の長さがおおよそ470mm以上の円筒型焼結体となる。
【0054】
次に、形成された円筒型焼結体を、平面研削盤、円筒研削盤、旋盤、切断機、マシニングセンター等の機械加工機を用いて、円筒型の所望の形状に機械加工する(ステップS307)。機械加工は、上記の円筒型焼結体をスパッタリング装置への装着に適した形状にするように行われ、また、所望の表面粗さとなるよう行われる。ここで、スパッタリング中に電界が集中して異常放電が発生しない程度の平坦性を得るために、円筒型焼結体の平均面粗さ(Ra)は0.5μm以下とすることが好ましい。以上の工程によって、高密度で均質性の高い円筒型焼結体を得ることができる。
【0055】
次に、機械加工された円筒型焼結体を基材にボンディングする(ステップS308)。特に円筒型スパッタリングターゲットの場合は、バッキングチューブと呼ばれる円筒型基材にろう材を接着剤として円筒型焼結体がボンディングされる。以上の工程によって、上記の円筒型焼結体を使用した円筒型スパッタリングターゲットを得ることができる。
【0056】
以上のように、実施形態に係る円筒型スパッタリングターゲットの製造方法によると、焼結工程において円筒型成形体の円筒内側中空部に酸素を供給することで、焼結中の円筒型焼結体の変形、割れを防ぐことができる。また、焼結後の円筒型焼結体の密度を向上することができる。さらに、焼結後の円筒型焼結体の円筒軸方向における相対密度差を低減することができる。焼結後の円筒型焼結体の円筒内側面において観察される孔の大きさを低減することができる。さらに、焼結後の円筒型焼結体の円筒内側面において観察される孔の数を低減することができる。これによって、固体内および個体間における均質性の高い円筒型焼結体および円筒型スパッタリングターゲットを提供することができる。
【0057】
〈変形例1〉
図7を用いて、本発明の実施形態の変形例1に係る円筒型焼結体の焼結方法について説明する。
【0058】
図7は、本発明の実施形態の変形例1に係る円筒型焼結体の製造方法において、円筒型成形体を焼結する工程を示す平面図である。図7では、円筒型成形体111を焼結する工程において、16個の酸素供給口230が配置されている。このとき、それぞれの酸素供給口230は独立して酸素供給量を制御できるよう、酸素を供給する配管240とそれぞれ直接接続される。これによって、それぞれの酸素供給口230から供給される酸素量は、円筒型成形体111の円筒軸方向における長さ、厚さ、円筒内部空間の大きさ、および円筒型成形体111に対する酸素供給口230の位置などに応じて適宜調節することができる。
【0059】
図7において、8対の酸素供給口230は、円筒型成形体111の壁を介して均等に配置されている。言い換えると、円筒型成形体111の円筒内側面および外側面に沿って8個の酸素供給口230がそれぞれ配置されている。図7において、8個の酸素供給口230aが円筒型成形体111の円筒内側に位置し、8個の酸素供給口230bが円筒型成形体111の円筒外側に位置するように円筒型成形体111を配置した(以降、酸素供給口230aおよび酸素供給口230bを区別しない場合は酸素供給口230という。)。しかしながらこれに限定されず、酸素供給口230の数、サイズ、および配置は、円筒型成形体111を焼結ステージ200上に安定して配置することができるかぎり限定されない。また酸素供給口230は、円筒型成形体111の円筒内側だけではなく、円筒外側に配置されてもよい。言い換えると、酸素が円筒内側面だけではなく、円筒外側面に供給されてもよい。
【0060】
例えば、円筒型成形体111の長さが長い場合、対流の悪い円筒内側に位置する酸素供給口230aからの酸素供給量を、円筒外側の酸素供給口230bからの酸素供給量より多くすることで、最終的に円筒内側面および外側面の酸素濃度が均一になるよう調整してもよい。また、円筒内側に位置する酸素供給口230aからのみ酸素を供給してもよい。それぞれの酸素供給口230aが供給する酸素量は、例えば、本発明の実施形態における1つの酸素供給口230から酸素を供給するときの供給量の1/8ずつであってもよい。また、それぞれの酸素供給口230aが供給する酸素量は、均等でなくてもよく、それぞれ異なってもよい。すなわち、複数の酸素供給口230aからの酸素の供給量の総和は、本発明の実施形態における1つの酸素供給口230から酸素を供給するときの供給量であってもよい。また、円筒軸方向の長さが長いほど、酸素供給口230から供給する酸素の量の総和は多くてもよい。しかしながらこれに限定されず、例えば、円筒型成形体111の厚さが厚い場合、酸素供給口230aから供給する酸素量の総和はさらに多くてもよい。また例えば、円筒型焼結体の内径が大きく、円筒内部空間が大きい場合、酸素供給口230aから供給する酸素量の総和はさらに多くてもよい。
【0061】
酸素供給口230から供給する酸素量の上限は、特に限定しないが150L/min以下であってもよい。複数の酸素供給口230aから酸素を供給することで、酸素の供給量を分散することができ、円筒内側中空部のガス対流を制御することができる。また酸素による冷却効果による焼結中の円筒型焼結体の変形、割れや、焼結後の円筒型焼結体の密度の低下などの問題を抑制することができる。しかしながら複数の酸素供給口230aから供給した酸素は、さらに邪魔板などを介して、円筒内部空間において拡散させてもよい。さらに酸素供給口230から供給する酸素は、配管などを循環中に予備加熱してから供給してもよい。
【0062】
一般的なITO焼結においては、酸素雰囲気下での焼結が焼結体の高密度化には必須である。酸素雰囲気下での焼結においても、長さが600mm以上である円筒型成形体111を焼結する工程においては、円筒内側中空部のガス対流が十分でないことから円筒内に酸素不足が生じる。円筒内の酸素不足によって、焼結中の円筒型焼結体の変形、割れや、焼結後の円筒型焼結体の密度の低下、円筒型焼結体の円筒軸方向における相対密度差、円筒型焼結体の円筒内側面において観察される孔の大きさ、若しくは孔の数の増大が生じる。円筒内の酸素不足による影響を阻止するため、本実施形態においては、円筒内側に位置する酸素供給口230aからの酸素供給量を、円筒外側の酸素供給口230bからの酸素供給量より多くすることで、最終的に円筒内側面および外側面の酸素濃度が均一になるよう調整してもよい。円筒内側に位置する酸素供給口230aからの酸素供給量をさらに多くすることで、最終的に円筒内側面の酸素濃度が円筒外側面の酸素濃度より高くなるよう調整してもよい。さらに、円筒内側に位置する酸素供給口230aからのみ酸素を供給し、円筒外側の酸素供給口230bからの酸素の供給はないよう調整してもよい。それぞれの酸素供給口230は独立して酸素供給量を制御できるよう、酸素を供給する配管240とそれぞれ直接接続される。複数の酸素供給口230aから酸素を供給することで、円筒内側面においてより均一に酸素を供給することができる。この結果、焼結中の円筒型成形体の円筒内側面、および外側面の酸素濃度を調節することができ、焼結中の円筒型焼結体の変形、割れを防ぐことができる。また、焼結後の円筒型焼結体の密度を向上することができる。さらに、焼結後の円筒型焼結体の円筒軸方向における相対密度差を低減することができる。焼結後の円筒型焼結体の円筒内側面において観察される孔における面積の円相当径を低減することができる。さらに、焼結後の円筒型焼結体の円筒内側面において観察される孔の数を低減することができる。
【0063】
〈変形例2〉
図8を用いて、本発明の実施形態の変形例2に係る円筒型焼結体の焼結方法について説明する。本変形例において、邪魔板260以外は本発明の実施形態と同様であることから、その詳しい説明は省略する。
【0064】
図8は、本発明の実施形態の変形例2に係る円筒型焼結体の製造方法において、円筒型成形体を焼結する工程を示す断面図である。図8では、円筒型成形体111を焼結する工程において、1個の酸素供給口230が配置されている。酸素供給口230は独立して酸素供給量を制御できるよう、酸素を供給する配管240と直接接続される。酸素供給口230からの酸素の進行方向には、邪魔板260が配置されている。本変形例において、邪魔板260は、酸素供給口230を囲うようにキャップ状の形状を有する。邪魔板260は、キャップ形状の側壁部に複数の開口部280を有する。このため酸素供給口230から供給された酸素は、邪魔板260の内側天井部に当たり、散らされた状態で邪魔板260の複数の開口部280から流出する。邪魔板260の複数の開口部280から流出する酸素は、円筒成形体内側中空部において、円筒軸方向の下方から徐々に充満し、円筒軸方向に上昇する。しかしながら邪魔板260の形状はこれに限定されず、邪魔板260は酸素供給口230から供給される酸素を、円筒内部空間において拡散させる形状であればよい。邪魔板260は、例えば、酸素の進行方向側から見て、少なくとも一部酸素供給口230と重畳していればよい。これによって、1つの酸素供給口230から多量の酸素を供給することで生じる、冷却効果による焼結中の円筒型焼結体の変形、割れや、焼結後の円筒型焼結体の密度の低下などを抑制することができる。
【0065】
なお本発明は上記の実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【実施例
【0066】
[円筒型焼結体の製造]
[実施例1]
実施例1では、円筒型ITOターゲット材(円筒型焼結体)を製造する方法について説明する。まず、原料粉末としてBET(Brunauer, Emmet and Teller’s equation)比表面積が4.0~6.0m2/gの4Nの酸化インジウムと、BET比表面積が4.0~5.7m2gの4Nの酸化スズとを準備した。ここで、BET比表面積とは、BET法で求めた表面積を表すものである。BET法とは、窒素、アルゴン、クリプトン、酸化炭素などの気体分子を固体粒子に吸着させ、吸着した気体分子の量から固体粒子の比表面積を測定する気体吸着法である。ここでは、酸化インジウムが90質量%、酸化スズが10質量%となるように原料を秤量した。次にこれらの原料粉末を湿式のボールミルで粉砕し混合した。ここで粉砕メディアとしてジルコニアボールを使用した。混合されたスラリーはスプレードライヤによって急速乾燥造粒した。
【0067】
次に、上記の造粒工程によって得られた混合物をCIPによる成形によって円筒型に成形した。CIPによる成形時の圧力は176MPaであった。
【0068】
上記の成形工程によって得た実施例1の円筒型成形体の各パラメータは以下の通りである。
・円筒外径(直径)=194.0mm
・円筒内径(直径)=158.7mm
・円筒の厚さ=17.65mm
・円筒軸方向の長さ=600mm
【0069】
次に、CIPによって得られた円筒型成形体を、電気炉を使用して焼結した。焼結の条件は以下の通りである。
・昇温速度=300℃/時間
・高温保持温度=1560℃
・高温保持時間=20hr
・焼結時雰囲気=酸素雰囲気
・焼結時圧力=大気圧
・円筒内側中空部への酸素導入=50L/min
・円筒外側への酸素導入=0L/min
【0070】
上記の焼結工程によって得た円筒型焼結体の各パラメータは以下の通りである。
・円筒外径(直径)=155.2mm
・円筒内径(直径)=127.0mm
・円筒の厚さ=14.1mm
・円筒軸方向の長さ=478mm
・焼結体密度=7.134g/cm3
・焼結体の相対密度=99.68%
・焼結体のバルク抵抗値=0.11mΩ・cm
【0071】
[実施例2]
実施例2では、実施例1より円筒軸方向に長い円筒型成形体を焼結した円筒型焼結体について説明する。円筒型成形体の成形工程は実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0072】
実施例1と同様の成形工程によって得た実施例2の円筒型成形体の各パラメータは以下の通りである。
・円筒外径(直径)=193.8mm
・円筒内径(直径)=158.2mm
・円筒の厚さ=17.8mm
・円筒軸方向の長さ=1200mm
【0073】
次に、円筒型成形体を電気炉を使用して焼結した。実施例2の焼結条件は、円筒型成形体内側中空部への酸素導入のパラメータ以外は実施例1と同様であるので、説明を省略する。
・円筒内側中空部への酸素導入=100L/min
・円筒外側への酸素導入=0L/min
【0074】
上記の焼結工程によって得た円筒型焼結体の各パラメータは以下の通りである。
・円筒外径(直径)=155.0mm
・円筒内径(直径)=126.6mm
・円筒の厚さ=14.2mm
・円筒軸方向の長さ=948mm
・焼結体密度=7.132g/cm3
・焼結体の相対密度=99.65%
・焼結体のバルク抵抗値=0.12mΩ・cm
【0075】
[実施例3]
実施例3では、実施例1および実施例2より円筒軸方向にさらに長い円筒型成形体を焼結した円筒型焼結体について説明する。円筒型成形体の成形工程は実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0076】
実施例1と同様の成形工程によって得た実施例3の円筒型成形体の各パラメータは以下の通りである。
・円筒外径(直径)=194.2mm
・円筒内径(直径)=158.5mm
・円筒の厚さ=17.85mm
・円筒軸方向の長さ=1755mm
【0077】
次に、円筒型成形体を電気炉を使用して焼結した。実施例3の焼結条件は、円筒型成形体内側中空部への酸素導入のパラメータ以外は実施例1と同様であるので、説明を省略する。
・円筒内側中空部への酸素導入=150L/min
・円筒外側への酸素導入=0L/min
【0078】
上記の焼結工程によって得た円筒型焼結体の各パラメータは以下の通りである。
・円筒外径(直径)=155.4mm
・円筒内径(直径)=126.8mm
・円筒の厚さ=14.3mm
・円筒軸方向の長さ=1386mm
・焼結体密度=7.130g/cm3
・焼結体の相対密度=99.62%
・焼結体のバルク抵抗値=0.12mΩ・cm
【0079】
次に上記、実施例1乃至3に示した円筒型成形体及び円筒型焼結体に対する比較例について、以下に説明する。以下の比較例では、実施例とは異なり、円筒型成形体内側中空部への酸素導入が無い条件で焼結した円筒型焼結体について説明する。なお比較例においては、円筒型成形体内側中空部への酸素導入の代わりに、チャンバー壁部から円筒型成形体外側への酸素導入条件下で焼結した。円筒型成形体の成形工程は実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0080】
[比較例1]
実施例1と同様の成形工程によって得た比較例1の円筒型成形体の各パラメータは以下の通りである。
・円筒外径(直径)=194.9mm
・円筒内径(直径)=159.0mm
・円筒の厚さ=17.95mm
・円筒軸方向の長さ=480mm
【0081】
次に、円筒型成形体を電気炉を使用して焼結した。比較例1の焼結条件は、円筒型成形体への酸素導入のパラメータ以外は実施例1と同様であるので、説明を省略する。
・円筒内側中空部への酸素導入=0L/min
・円筒外側への酸素導入=100L/min
【0082】
上記の焼結工程によって得た円筒型焼結体の各パラメータは以下の通りである。
・円筒外径(直径)=155.9mm
・円筒内径(直径)=127.2mm
・円筒の厚さ=14.35mm
・円筒軸方向の長さ=385mm
・焼結体密度=7.133g/cm3
・焼結体の相対密度=99.66%
・焼結体のバルク抵抗値=0.11mΩ・cm
【0083】
[比較例2]
実施例1と同様の成形工程によって得た比較例2の円筒型成形体の各パラメータは以下の通りである。
・円筒外径(直径)=193.5mm
・円筒内径(直径)=158.2mm
・円筒の厚さ=17.65mm
・円筒軸方向の長さ=600mm
【0084】
次に、円筒型成形体を電気炉を使用して焼結した。比較例2の焼結条件は、円筒型成形体への酸素導入のパラメータ以外は実施例1と同様であるので、説明を省略する。
・円筒内側中空部への酸素導入=0L/min
・円筒外側への酸素導入=100L/min
【0085】
上記の焼結工程によって得た円筒型焼結体の各パラメータは以下の通りである。
・円筒外径(直径)=156.7mm
・円筒内径(直径)=128.1mm
・円筒の厚さ=14.3mm
・円筒軸方向の長さ=485mm
・焼結体密度=7.041g/cm3
・焼結体の相対密度=98.38%
・焼結体のバルク抵抗値=0.12mΩ・cm
【0086】
[比較例3]
実施例1と同様の成形工程によって得た比較例3の円筒型成形体の各パラメータは以下の通りである。
・円筒外径(直径)=194.1mm
・円筒内径(直径)=158.2mm
・円筒の厚さ=17.95mm
・円筒軸方向の長さ=1200mm
【0087】
次に、円筒型成形体を電気炉を使用して焼結した。比較例3の焼結条件は、円筒型成形体への酸素導入のパラメータ以外は実施例1と同様であるので、説明を省略する。
・円筒内側中空部への酸素導入=0L/min
・円筒外側への酸素導入=100L/min
【0088】
上記の焼結工程によって得た円筒型焼結体の各パラメータは以下の通りである。
・円筒外径(直径)=157.2mm
・円筒内径(直径)=128.1mm
・円筒の厚さ=14.55mm
・円筒軸方向の長さ=957mm
・焼結体密度=7.038g/cm3
・焼結体の相対密度=98.34%
・焼結体のバルク抵抗値=0.12mΩ・cm
なお比較例3は、焼結による変形が確認された。
【0089】
[比較例4]
実施例1と同様の成形工程によって得た比較例4の円筒型成形体の各パラメータは以下の通りである。
・円筒外径(直径)=194.2mm
・円筒内径(直径)=158.4mm
・円筒の厚さ=17.9mm
・円筒軸方向の長さ=1410mm
【0090】
次に、円筒型成形体を電気炉を使用して焼結した。比較例4の焼結条件は、円筒型成形体への酸素導入のパラメータ以外は実施例1と同様であるので、説明を省略する。
・円筒内側中空部への酸素導入=0L/min
・円筒外側への酸素導入=100L/min
【0091】
上記の焼結工程によって得た円筒型焼結体の各パラメータは以下の通りである。
・円筒外径(直径)=155.3mm
・円筒内径(直径)=127.8mm
・円筒の厚さ=13.75mm
・円筒軸方向の長さ=1145mm
・焼結体密度=7.042g/cm3
・焼結体の相対密度=98.39%
・焼結体のバルク抵抗値=0.12mΩ・cm
【0092】
[比較例5]
実施例1と同様の成形工程によって得た比較例5の円筒型成形体の各パラメータは以下の通りである。
・円筒外径(直径)=193.6mm
・円筒内径(直径)=158.3mm
・円筒の厚さ=17.65mm
・円筒軸方向の長さ=1754mm
【0093】
次に、円筒型成形体を電気炉を使用して焼結した。比較例5の焼結条件は、円筒型成形体への酸素導入のパラメータ以外は実施例1と同様であるので、説明を省略する。
・円筒内側中空部への酸素導入=0L/min
・円筒外側への酸素導入=100L/min
【0094】
上記の焼結工程によって得た円筒型焼結体の各パラメータは以下の通りである。
・円筒外径(直径)=157.8mm
・円筒内径(直径)=128.5mm
・円筒の厚さ=14.65mm
・円筒軸方向の長さ=1394mm
・焼結体密度=7.044g/cm3
・焼結体の相対密度=98.42%
・焼結体のバルク抵抗値=0.12mΩ・cm
【0095】
[測定サンプルの準備]
上述した実施例1~実施例3及び比較例1~比較例5の円筒型焼結体について、密度およびバルク抵抗の固体内ばらつきを評価するための測定サンプルを準備した。図9に示すように、円筒型焼結体110は、焼結時における円筒軸方向の下方から上方にむかって150mmずつ分断する。さらにそれぞれの円筒軸方向中央部40~50mm幅の円筒型測定サンプルを切り出し、円筒軸方向の下方より測定サンプル110-1(150mm)、110-2(300mm)、110-3(450mm)とする(後述の表における名称)。
【0096】
[相対密度の評価]
上述した実施例1~実施例3及び比較例1~比較例5の円筒型焼結体および各測定サンプルについて、相対密度を評価した。円筒型焼結体および各測定サンプルの密度は、アルキメデス法を用いて測定した。円筒型焼結体および各測定サンプルの相対密度および相対密度差は、理論密度に基づいて算出した。実施例1~実施例3及び比較例1~比較例5の円筒型焼結体および各測定サンプルにおいて、密度、相対密度、及び円筒型焼結体内の最大相対密度差を図10に示す。
【0097】
図10の結果から、焼結時に円筒型成形体の内側中空部への酸素導入を行った実施例1~実施例3の円筒型焼結体では、円筒型成形体の内側中空部への酸素導入が無い比較例2~比較例5の円筒型焼結体より相対密度が向上した。円筒軸方向の長さが470mm以下である比較例1は、円筒型成形体の内側中空部への酸素導入が無くても相対密度が向上した。実施例1~実施例3の各測定サンプルでは、比較例2~比較例5の各測定サンプルより相対密度差を低減することができた。円筒軸方向の長さが470mm以下である比較例1は、円筒型成形体の内側中空部への酸素導入が無くても相対密度差を低減することができた。また、焼結工程において円筒型成形体の円筒内側面に酸素を供給することで、円筒軸方向の長さが1200mm以上の円筒型成形体も、焼結中の変形、割れなどを防ぐことができた。
【0098】
[最小酸素供給量の評価]
上述した実施例および比較例における円筒型成形体の焼結方法によって、密度7.130g/cm3以上の円筒型焼結体が得られる最小酸素供給量を求めた。具体的には、焼結時における円筒内側中空部への酸素導入の量を段階的に変化させ、円筒軸方向の長さが390、480、950、1200、または1400mmの円筒型焼結体を得た。それぞれの円筒型焼結体の密度は、アルキメデス法を用いて測定した。密度7.130g/cm3以上である円筒型焼結体のうち、それぞれの円筒軸方向の長さ別に、焼結時の酸素導入の量が最も小さい値を最小酸素供給量とする。円筒型焼結体の円筒軸方向の長さに対する最小酸素供給量の関係を図11に示す。
【0099】
図11に示すように、円筒型焼結体の円筒軸方向の長さが390mmまでは、酸素導入がなくても、密度7.130g/cm3以上である円筒型焼結体が得られた。480mmの円筒型焼結体を形成する場合、最小酸素供給量は5L/min以上であった。950mmの円筒型焼結体を形成する場合、最小酸素供給量は20L/min以上であった。1200mmの円筒型焼結体を形成する場合、最小酸素供給量は30L/min以上であった。1400mmの円筒型焼結体を形成する場合、最小酸素供給量は35L/min以上であった。図11の結果から、円筒軸方向の長さが長いほど、密度7.130g/cm3以上の円筒型焼結体を得るのに必要な酸素の量は増加することがわかる。密度7.130g/cm3以上の円筒型焼結体の軸方向の長さX(mm)と、酸素供給口230から供給する最小酸素供給量Y(L/min)は比例関係にあり、以下の式で示すことができる。
Y=0.0345X-12.508
【0100】
[バルク抵抗の評価]
上述した実施例1~実施例3及び比較例1~比較例5の円筒型焼結体および各測定サンプルについて、バルク抵抗を評価した。円筒型焼結体および各測定サンプルのバルク抵抗値は、円筒外側面を四探針法を用いて測定した。実施例1~実施例3及び比較例1~比較例5の円筒型焼結体および各測定サンプルにおける、バルク抵抗値を図12に示す。
【0101】
図12の結果から、実施例1~実施例3及び比較例1~比較例5の円筒型焼結体および各測定サンプルにおいて、円筒外側面におけるバルク抵抗値は殆ど変らなかった。円筒外側面においては十分に酸素が供給されることから、円筒型成形体の円筒内側中空部への酸素導入を行った実施例でも、円筒内側中空部への酸素導入が無い比較例でも円筒外側面におけるバルク抵抗値には殆ど影響しないことが考えられる。
【0102】
[電子顕微鏡観察用サンプルの準備]
上述した実施例1、2及び比較例2、3の円筒型焼結体について、電子顕微鏡による観察をするためのサンプルを準備した。図13に示すように、円筒型焼結体110は、円筒軸方向中央部10mm幅の円筒型サンプル110-4を切り出し、円筒内側面110-4aおよび円筒外側面110-4bから電子顕微鏡観察用サンプルを切り出し、0.5mm研削した状態で鏡面研磨を行った。
【0103】
[電子顕微鏡による観察]
上述した実施例1、2及び比較例2、3の円筒型焼結体について、円筒焼結体の円筒内側面および外側面の電子顕微鏡観察用サンプルを電子顕微鏡(SEM)で観察した。各サンプルにおいて、電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍の視野で観察した写真を図14(円筒内側)および図15(円筒外側)に示す。また各サンプルにおいて、電子顕微鏡(SEM)を用いて2000倍または5000倍の視野で観察した写真を図16(円筒内側)および図17(円筒外側)に示す。図14から図17において(a)実施例1、(b)実施例2、(c)比較例2、(d)比較例3の円筒焼結体の円筒内側面および外側面の電子顕微鏡観察用サンプルを電子顕微鏡(SEM)で観察した。
【0104】
図14(a)および(b)は、実施例1および実施例2における円筒型焼結体内側面の電子顕微鏡写真である。図15(a)および(b)は、実施例1および実施例2における円筒型焼結体外側面の電子顕微鏡写真である。図14(c)および(d)は、比較例2および比較例3における円筒型焼結体内側面の電子顕微鏡写真である。図15(c)および(d)は、比較例2および比較例3における円筒型焼結体外側面の電子顕微鏡写真である。図14および図15に示すように、焼結時に円筒型成形体の円筒内側中空部への酸素導入を行った実施例1および実施例2では、円筒型焼結体内側面(図14(a)および(b))および外側面(図15(a)および(b))の電子顕微鏡写真に大きな差は観られなかった。一方で、焼結時に円筒型成形体の円筒内側中空部への酸素導入が無い比較例2および比較例3では、円筒型焼結体外側面(図15(c)および(d))と比較して円筒型焼結体内側面(図14(c)および(d))の電子顕微鏡写真において大きな孔(写真、黒の不規則な形態)が数多く観察された。比較例2および比較例3における円筒型焼結体の円筒内側面には、不規則な粒形(結晶粒状)の孔が数多く観察された。比較例2および比較例3における円筒型焼結体の円筒内側面に観察される孔は、主に結晶粒界に観察された。
【0105】
次に、結晶粒子の状態を観察するため、比較例においては、特に、図14(c)および(d)で観察された大きな孔がない領域を2000倍または5000倍の視野で観察した。図16(a)および(b)は、実施例1および実施例2における円筒型焼結体内側面の電子顕微鏡写真である。図17(a)および(b)は、実施例1および実施例2における円筒型焼結体外側面の電子顕微鏡写真である。図16(c)および(d)は、比較例2および比較例3における円筒型焼結体内側面の電子顕微鏡写真である。図17(c)および(d)は、比較例2および比較例3における円筒型焼結体外側面の電子顕微鏡写真である。図16および図17に示すように、焼結時に円筒型成形体の円筒内側中空部への酸素導入を行った実施例1および実施例2では、円筒型焼結体内側面(図16(a)および(b))および外側面(図17(a)および(b))の電子顕微鏡写真に大きな差は観られず、結晶粒子が大きく成長していた。焼結時に円筒型成形体の円筒内側中空部への酸素導入がなく、比較例3と比べて円筒軸方向の長さが短い比較例2では、円筒型焼結体内側面(図16(c))および外側面(図17(c))の電子顕微鏡写真に大きな差は観られず、結晶粒子が大きく成長していた。一方で、焼結時に円筒型成形体の円筒内側中空部への酸素導入が無く、比較例2と比べて円筒軸方向の長さが長い比較例3では、円筒型焼結体外側面(図17(d))と比較して円筒型焼結体内側面(図16(d))の電子顕微鏡写真において、小さく、成長初期段階の結晶粒子が観察された。比較例3における円筒型焼結体内側面の結晶粒子は成長初期段階であることから、小さく、不均一であり、平滑性に欠けていた。
【0106】
実施例1および実施例2における円筒型焼結体の円筒内側面および外側面においては、小さく不規則な粒形(気泡状)の孔が観察された(例えば、図17(b)の左上の孔)。比較例2および比較例3における円筒型焼結体の円筒外側面にも、同様の小さく不規則な粒形(気泡状)の孔が観察された。実施例1および実施例2における円筒型焼結体の円筒内側面、並びに実施例1、実施例2、比較例2、および比較例3における円筒型焼結体の円筒外側面に観察される孔は、結晶粒界および結晶内の何れにも観察された。
【0107】
[円筒焼結体内側面の孔の評価]
実施例1~3及び比較例1~5の円筒型焼結体について、上述した方法を用いて円筒焼結体の円筒軸方向中央部における円筒内側面および外側面の組織を電子顕微鏡(SEM)で観察し、孔の数および孔における面積の円相当径を測定した。各サンプルは円筒型サンプル110-4の円筒内側面110-4aにおいて、円周方向に電子顕微鏡観察用サンプルを5つ切り出した。それぞれの電子顕微鏡観察用サンプルから、980μm×1200μmの視野を観察し、孔の数および孔における面積の円相当径の平均値を算出した。円筒型焼結体の孔における面積Sの円相当径Lは、以下の式より算出される。
【数1】
実施例1~実施例3及び比較例1~比較例5の円筒型焼結体の円筒内側面における、孔の数および孔における面積の円相当径の平均値を図18に示す。
【0108】
図18の結果から、焼結時に円筒型成形体の円筒内側中空部への酸素導入を行った実施例1~実施例3の円筒型焼結体では、円筒内側中空部への酸素導入が無い比較例2~比較例5の円筒型焼結体より円筒内側面における孔の数が少なかった。円筒軸方向の長さが470mm以下である比較例1は、円筒型成形体の内側中空部への酸素導入が無くても円筒内側面における孔の数が少なかった。実施例1~3の円筒型焼結体の円筒内側面では、孔における面積の円相当径の平均が1μm以下であった。一方、比較例2~5の円筒型焼結体の円筒内側面では、孔における面積の円相当径の平均が4μm以上であった。円筒軸方向の長さが470mm以下である比較例1は、円筒型成形体の内側中空部への酸素導入が無くても円筒内側面の孔における面積の円相当径の平均が1μm以下であった。なお図18に示すように、実施例1~3及び比較例1~5の円筒型焼結体の円筒外側面における孔の数は何れも4.25×10-5個/μm2以下であり、孔における面積の円相当径の平均は1μm以下であった。
【0109】
実施例1~3では、ITOの結果を示したが、IZO、IGZO、AZOの各組成で構成される円筒軸方向の長さが600mm以上の円筒型成形体においても同様に、本発明の製造方法を用いて焼結した。なお、組成毎に本発明の範囲内で製造条件を適宜変更することができる。この結果、焼結中の円筒型焼結体の変形、割れを防ぐことができた。また、焼結後の円筒型焼結体の密度を向上することができ、さらに、焼結後の円筒型焼結体の円筒軸方向における相対密度差を低減することができた。焼結後の円筒型焼結体の円筒内側面において観察される孔における面積の円相当径を低減することができ、さらに、焼結後の円筒型焼結体の円筒内側面において観察される孔の数を低減することができた。
【0110】
なお、本発明は上記の実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0111】
100:円筒型スパッタリングターゲット
110:円筒型焼結体
111:円筒型成形体
120:スペース
130:円筒基材
140:ろう材
150:底面
200:焼結ステージ
230:酸素供給口
240:配管
260:邪魔板
280:開口部
300:チャンバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図17
図18