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特許7245824重合体ならびにそれを用いた酸素吸収剤および樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】重合体ならびにそれを用いた酸素吸収剤および樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/26 20060101AFI20230316BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20230316BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
C08F20/26
C08L33/04
C08K5/09
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020516229
(86)(22)【出願日】2019-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2019015921
(87)【国際公開番号】W WO2019208259
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2018082510
(32)【優先日】2018-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 大樹
(72)【発明者】
【氏名】福本 隆司
(72)【発明者】
【氏名】久保 敬次
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-506816(JP,A)
【文献】国際公開第2007/040060(WO,A1)
【文献】特開2014-024014(JP,A)
【文献】特開昭61-101518(JP,A)
【文献】特開昭59-104338(JP,A)
【文献】国際公開第2019/107252(WO,A1)
【文献】特開2008-308420(JP,A)
【文献】特開2014-152252(JP,A)
【文献】特開2009-114091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/00- 20/70
C08L 33/00- 33/26
C08K 3/00- 13/08
CAPlus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I);
【化1】

[式中、
XおよびYはそれぞれ独立して酸素原子を表し、
、R、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、
、R、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、
Jは水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、4-ビニルフェノキシ基および炭素数2~6のアルケニルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの置換基で置換された、炭素数3~15の脂肪族炭化水素からなる連結基を表し、
当該置換基の少なくとも1つは(メタ)アクリロイルオキシ基、4-ビニルフェノキシ基および炭素数2~6のアルケニルオキシ基からなる群より選ばれるいずれかであり、
当該連結基は任意の炭素原子が酸素原子に置換されていてもよく、
nは1~5の任意の整数を表す。
ただし、R 、R、RおよびRが複数存在する場合は、それぞれ異なる原子ないし基であってもよい。]
で表される化合物(A)に由来する構造単位を含む重合体であって、
重量平均分子量が5,000以上1,000,000以下である重合体
【請求項2】
およびRが水素原子である、請求項に記載の重合体。
【請求項3】
およびRがそれぞれ独立して、水素原子またはメチル基である、請求項1または2に記載の重合体。
【請求項4】
化合物(A)が下記一般式(II);
【化2】

[式中、
は水素原子またはメチル基を表し、
10は(メタ)アクリロイルオキシ基、4-ビニルフェノキシ基および炭素数2~6のアルケニルオキシ基からなる群より選ばれるいずれかを表し、
11、R12、R13およびR14はそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。]
で表される化合物(A’)である、請求項1~のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項5】
が水素原子である、請求項に記載の重合体。
【請求項6】
10が(メタ)アクリロイルオキシ基である、請求項またはに記載の重合体。
【請求項7】
化合物(A)以外の他の単量体(B)に由来する構造単位をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項8】
単量体(B)が単官能性単量体(B1)である、請求項に記載の重合体。
【請求項9】
単官能性単量体(B1)が(メタ)アクリル酸アルキルエステルである、請求項に記載の重合体。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の重合体を含む酸素吸収剤。
【請求項11】
前記重合体中のビニル基に対して遷移金属塩を0.001~10モル%含む、請求項10に記載の酸素吸収剤。
【請求項12】
請求項10または11に記載の酸素吸収剤と、多官能性単量体および/または樹脂とを含む樹脂組成物。
【請求項13】
多官能性単量体が多価(メタ)アクリル酸エステルである、請求項12に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
請求項12または13に記載の樹脂組成物が硬化してなる硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の不飽和二重結合含有化合物に由来する構造単位を含む重合体ならびにそれを用いた酸素吸収剤および樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料等に使用される不飽和ポリエステル樹脂等のラジカル重合性樹脂は、ポリマー主鎖中に不飽和結合を有し、ビニル架橋剤によって重合硬化する。これらのラジカル重合性樹脂を塗料用途等に用いる場合、通常は空気雰囲気下で硬化を行うため、空気中の酸素により重合反応が阻害されやすく、硬化が遅くなったり、表面がべたついたりするなどの問題がある。これらの問題を防ぐ手段として、特許文献1および2では樹脂に酸素吸収剤を添加する技術が提案されている。また、前記酸素吸収剤として、特許文献3および4にはアリルグリシジルエーテルなどが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-130610号公報
【文献】特開平5-78459号公報
【文献】特開昭61-101518号公報
【文献】米国特許第3644568号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
塗料用途においては、従来、反応性希釈剤としてスチレン等が多く用いられてきたが、環境保護の観点から、難揮発性の(メタ)アクリル酸エステルへ転換する動きが高まっている。しかし、(メタ)アクリル酸エステルを使用する場合は、従来の反応性希釈剤を用いる場合よりも酸素による重合硬化反応の阻害が発生しやすく硬化性に劣るという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、空気雰囲気下等の酸素の存在下においても重合硬化反応を十分に進行させることができ、また外観に優れた硬化物を形成できる硬化性に優れる樹脂組成物を与えることのできる重合体およびそれを含む酸素吸収剤を提供することを目的とする。また、本発明は、当該酸素吸収剤を含む硬化性に優れる樹脂組成物および当該樹脂組成物が硬化してなる硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、特定の不飽和二重結合含有化合物に由来する構造単位を含む重合体を、多官能性単量体やラジカル重合性樹脂等の多官能性化合物を含む塗料をはじめとした従来の硬化性組成物に配合すると、空気雰囲気下等の酸素の存在下においても重合硬化反応を十分に進行させることができ、また外観に優れた塗膜を形成することができる硬化性に優れる樹脂組成物が得られることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は下記[1]~[15]を提供する。
[1]下記一般式(I);
【化1】

[式中、
XおよびYはそれぞれ独立してカルコゲン原子を表し、
、R、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、
、R、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、
Jは水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、4-ビニルフェノキシ基および炭素数2~6のアルケニルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの置換基で置換された、炭素数3~15の脂肪族炭化水素からなる連結基を表し、
当該置換基の少なくとも1つは(メタ)アクリロイルオキシ基、4-ビニルフェノキシ基および炭素数2~6のアルケニルオキシ基からなる群より選ばれるいずれかであり、
当該連結基は任意の炭素原子が酸素原子に置換されていてもよく、
nは1~5の任意の整数を表す。
ただし、Y、R、R、RおよびRが複数存在する場合は、それぞれ異なる原子ないし基であってもよい。]
で表される化合物(A)に由来する構造単位を含む重合体。
[2]Xが酸素原子である、[1]に記載の重合体。
[3]RおよびRが水素原子である、[1]または[2]に記載の重合体。
[4]RおよびRがそれぞれ独立して、水素原子またはメチル基である、[1]~[3]のいずれかに記載の重合体。
[5]化合物(A)が下記一般式(II);
【化2】

[式中、
は水素原子またはメチル基を表し、
10は(メタ)アクリロイルオキシ基、4-ビニルフェノキシ基および炭素数2~6のアルケニルオキシ基からなる群より選ばれるいずれかを表し、
11、R12、R13およびR14はそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。]
で表される化合物(A’)である、[1]~[4]のいずれかに記載の重合体。
[6]Rが水素原子である、[5]に記載の重合体。
[7]R10が(メタ)アクリロイルオキシ基である、[5]または[6]に記載の重合体。
[8]化合物(A)以外の他の単量体(B)に由来する構造単位をさらに含む、[1]~[7]のいずれかに記載の重合体。
[9]単量体(B)が単官能性単量体(B1)である、[8]に記載の重合体。
[10]単官能性単量体(B1)が(メタ)アクリル酸アルキルエステルである、[9]に記載の重合体。
[11][1]~[10]のいずれかに記載の重合体を含む酸素吸収剤。
[12]前記重合体中のビニル基に対して遷移金属塩を0.001~10モル%含む、[11]に記載の酸素吸収剤。
[13][11]または[12]に記載の酸素吸収剤と、多官能性単量体および/または樹脂とを含む樹脂組成物。
[14]多官能性単量体が多価(メタ)アクリル酸エステルである、[13]に記載の樹脂組成物。
[15][13]または[14]に記載の樹脂組成物が硬化してなる硬化物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、空気雰囲気下等の酸素の存在下においても重合硬化反応を十分に進行させることができまた外観に優れた硬化物を形成できて硬化性に優れる樹脂組成物を与えることのできる重合体およびそれを含む酸素吸収剤が提供される。また、本発明によれば、当該酸素吸収剤を含む硬化性に優れる樹脂組成物および当該樹脂組成物が硬化してなる硬化物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の重合体は、上記一般式(I)で表される化合物(A)(以下、単に「化合物(A)」という場合がある)に由来する構造単位を含む。これにより、空気雰囲気下等の酸素の存在下においても重合硬化反応を十分に進行させることができまた外観に優れた硬化物を形成できて硬化性に優れる樹脂組成物を与えることのできる重合体となる。
【0010】
本発明を何ら限定するものではないが、上記のような優れた効果が奏される理由としては、化合物(A)に由来する構造単位が有する炭素-炭素二重結合が樹脂組成物の硬化過程で効果的に酸素を吸収することや効果的に架橋反応(重合硬化反応)に寄与することが要因の1つであると考えられる。
【0011】
[重合体]
本発明の重合体は、下記一般式(I)で表される化合物(A)に由来する構造単位を含む。
【0012】
【化3】
【0013】
一般式(I)において、
XおよびYはそれぞれ独立してカルコゲン原子を表し、
、R、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、
、R、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、
Jは水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、4-ビニルフェノキシ基および炭素数2~6のアルケニルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの置換基で置換された、炭素数3~15の脂肪族炭化水素からなる連結基を表し、
当該置換基の少なくとも1つは(メタ)アクリロイルオキシ基、4-ビニルフェノキシ基および炭素数2~6のアルケニルオキシ基からなる群より選ばれるいずれかであり、
当該連結基は任意の炭素原子が酸素原子に置換されていてもよく、
nは1~5の任意の整数を表す。
ただし、Y、R、R、RおよびRが複数存在する場合は、それぞれ異なる原子ないし基であってもよい。
【0014】
一般式(I)において、XおよびYはそれぞれ独立してカルコゲン原子を表す。XおよびYは、それぞれ、化合物(A)の製造容易性の観点、酸素吸収性能を向上させる観点から、酸素原子または硫黄原子であることが好ましく、酸素原子であることがより好ましい。
【0015】
一般式(I)において、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。
【0016】
、R、RおよびRが表す炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0017】
、R、RおよびRが表す炭素数2~6のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基(cis-3-ヘキセニル基等)、シクロヘキセニル基などが挙げられる。
【0018】
、R、RおよびRが表すアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0019】
、R、RおよびRが表すアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、2-フェニルエチル基、2-ナフチルエチル基、ジフェニルメチル基などが挙げられる。
【0020】
これらの中でも、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基および炭素数2~6のアルケニル基のいずれかであることが好ましく、炭素数1~4のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。
【0021】
一般式(I)において、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。R、R、R、およびRが表す炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基およびアラルキル基の例示は、前記R、R、RおよびRについてのものと同じであり、ここでは重複する説明を省略する。
【0022】
これらの中でも、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数2または3のアルケニル基およびアリール基のいずれかであることが好ましく、水素原子およびメチル基のいずれかであることがより好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。中でも得られる重合体の酸素吸収性能を向上させる観点などから、RおよびRはいずれも水素原子であることが好ましく、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子またはメチル基であることが好ましく、いずれも水素原子であることがより好ましい。
【0023】
一般式(I)において、Jは水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、4-ビニルフェノキシ基および炭素数2~6のアルケニルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの置換基で置換された、炭素数3~15の脂肪族炭化水素からなる連結基を表す。ただし、当該置換基の少なくとも1つは(メタ)アクリロイルオキシ基、4-ビニルフェノキシ基および炭素数2~6のアルケニルオキシ基からなる群より選ばれるいずれかである。
すなわち、Jが表す連結基が1つの置換基で置換されている場合、当該置換基は(メタ)アクリロイルオキシ基、4-ビニルフェノキシ基および炭素数2~6のアルケニルオキシ基からなる群より選ばれるいずれかであり、Jが表す連結基が2つ以上の置換基で置換されている場合、当該置換基のうちの少なくとも1つが(メタ)アクリロイルオキシ基、4-ビニルフェノキシ基および炭素数2~6のアルケニルオキシ基からなる群より選ばれるいずれかであればよく、残りの置換基は水酸基であってもよい。なお、上記連結基は任意の炭素原子が酸素原子に置換されていてもよい。
前記連結基としては、化合物(A)の取り扱いの容易性の観点から、上記置換基で置換された、炭素数3~10の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、上記置換基で置換された、炭素数3~5の脂肪族炭化水素基であることがより好ましい。なお、当該炭素数は上記置換基の炭素数を除外した値であり、前記連結基において任意の炭素原子が酸素原子に置換されている場合には当該置換前の炭素数を意味する。
【0024】
上記のとおり、Jが表す連結基は、水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、4-ビニルフェノキシ基および炭素数2~6のアルケニルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されている。また、炭素数2~5のアルケニルオキシ基は、炭素数2~5のビニルオキシ基であってもよい。Jが表す連結基が有する上記置換基の数に特に制限はなく、例えば、1~6個とすることができ、1~4個であることが好ましく、1~3個であることがより好ましく、1または2個であることがさらに好ましく、1個であることが特に好ましい。
前記連結基が有する置換基としては、得られる重合体の酸素吸収性能を向上させる観点などから、(メタ)アクリロイルオキシ基、4-ビニルフェノキシ基、又は炭素数2~6のアルケニルオキシ基が好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基がより好ましい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルとメタクリロイルのどちらでもよいことを意味する。
【0025】
Jが表す連結基のうち前記置換基を除外した部分の構造の具体例としては、例えば、下記一般式(J-1)で表されるいずれかの構造などが挙げられ、原料の入手容易性や得られる重合体の酸素吸収性能を向上させる観点などから、下記一般式(J-2)で表される構造が好ましい。なお、一般式(J-1)および(J-2)中の「*」は、X、Yまたは上記置換基との結合点を示す。
【0026】
【化4】
【0027】
【化5】
【0028】
一般式(J-2)において、Rは水素原子またはメチル基を表し、好ましくは水素原子である。
【0029】
一般式(I)において、nは1~5の任意の整数を表し、原料の入手容易性の観点などから1~4が好ましく、1または2がより好ましい。
【0030】
一般式(I)で表される化合物(A)の具体例としては、例えば、下記化合物等が挙げられ、酸素吸収性能の観点などから、下記一般式(II)で表される化合物(A’)であることが好ましい。
【0031】
【化6】
【0032】
【化7】
【0033】
一般式(II)において、Rは水素原子またはメチル基を表し、好ましくは水素原子である。R10は(メタ)アクリロイルオキシ基、4-ビニルフェノキシ基および炭素数2~6のアルケニルオキシ基からなる群より選ばれるいずれかを表し、好ましくは(メタ)アクリロイルオキシ基である。なお、前記炭素数2~6のアルケニルオキシ基は、炭素数2~6のビニルオキシ基であってもよい。
【0034】
一般式(II)において、R11、R12、R13およびR14はそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、その例示や好ましいものは、前記一般式(I)におけるR1、R2、R7およびR8において説明したものと同じである。
【0035】
化合物(A)の製造方法に特に制限はなく、公知方法を単独でまたは組み合わせて応用することにより製造することができる。例えば、Jが表す連結基が有する置換基が(メタ)アクリロイルオキシ基である化合物(A)は、対応するアルコールを公知のエステル化反応を応用して(メタ)アクリロイルオキシ基に変換するなどして製造することができる。
【0036】
本発明の重合体は上記のように化合物(A)に由来する構造単位を含む。ここで、化合物(A)の重合位置に特に制限はないが、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、Jが表す連結基が有する置換基(特にその二重結合部分)において重合した構造単位であることが好ましい。
【0037】
本発明の重合体は、上記した化合物(A)に由来する構造単位のみからなっていてもよいが、当該化合物(A)以外の他の単量体(B)に由来する構造単位をさらに含んでいてもよい。本発明の重合体における化合物(A)に由来する構造単位の含有率は、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、10モル%以上であることが好ましく、30モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることがさらに好ましく、80モル%以上、90モル%以上、さらには100モル%であってもよい。
【0038】
上記単量体(B)の種類に特に制限はなく、化合物(A)と共重合可能な単量体を用いることができ、具体的には、単官能性単量体(B1)および/または多官能性単量体(B2)を用いることができる。このうち、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、単量体(B)は単官能性単量体(B1)であることが好ましい。
【0039】
単官能性単量体(B1)としては、反応性二重結合を1つ有する単量体を好ましく用いることができ、具体的には例えば、スチレン、2-メチルスチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル等のビニル単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル;メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソオクチルオキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルキレングリコール構造を有する(メタ)アクリレート;2-トリメチルシリロキシエチル(メタ)アクリレート等のシランまたはシリル基末端の(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、3、4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等の末端にエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;無水マレイン酸やその誘導体等の不飽和ジカルボン酸などが挙げられる。単官能性単量体(B1)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
単官能性単量体(B1)として、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシルがより好ましく、(メタ)アクリル酸メチルがさらに好ましい。
【0041】
本発明の重合体が単官能性単量体(B1)に由来する構造単位を含む場合、化合物(A)に由来する構造単位(構造単位(A))と単官能性単量体(B1)に由来する構造単位(構造単位(B1))とのモル比に特に制限はないが、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、構造単位(A)/構造単位(B1)=99/1~1/99であることが好ましく、80/20~20/80であることがより好ましく、60/40~40/60であることがさらに好ましい。
【0042】
多官能性単量体(B2)の種類に特に制限はなく、例えば、樹脂組成物に配合可能な多官能性単量体として後述するものなどが挙げられる。
【0043】
本発明の重合体の製造方法に特に制限はなく、上記した化合物(A)および必要に応じて他の単量体(B)を重合することにより得ることができる。当該重合反応としては、より効率的に重合体を得ることができることなどから、ラジカル重合法を採用することが好ましい。ラジカル重合法の具体的な方法に特に制限はなく、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合などのいずれの方法を採用してもよいが、特に懸濁重合が、洗浄が容易である点などから好ましい。
【0044】
懸濁重合により重合する場合、その重合温度としては、例えば、30~120℃の範囲内であることが好ましく、50~100℃の範囲内であることがより好ましい。
【0045】
本発明の重合体の重量平均分子量(Mw)は特に制限されないが、硬化性の観点などから、好ましくは5,000以上であり、より好ましくは10,000以上であり、さらに好ましくは30,000以上である。当該重量平均分子量(Mw)の上限に特に制限はなく、当該重量平均分子量(Mw)は、例えば、1,000,000以下、さらには100,000以下とすることができる。
【0046】
本発明の重合体の用途に特に制限はないが、本発明の重合体は酸素吸収性能に優れ、当該重合体またはそれを含む組成物を酸素吸収剤として配合してなる樹脂組成物は、空気雰囲気下等の酸素の存在下にいても重合硬化反応を十分に進行させることができまた外観に優れた硬化物を形成できる硬化性に優れた樹脂組成物となることから、本発明の重合体は、それを含む酸素吸収剤として用いることが好ましい。
【0047】
[酸素吸収剤]
本発明の酸素吸収剤は、上記した本発明の重合体を含む。酸素吸収剤中の当該重合体の含有量に特に制限はないが、効果的に酸素を吸収する観点などから、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上が特に好ましく、85質量%以上、90質量%以上、さらには実質的に100質量%であってもよい。なお、酸素吸収剤の製造コストの観点などから、99.9質量%以下、さらには99.8質量%以下であってもよい。
【0048】
本発明の酸素吸収剤は、本発明の重合体を含むため十分な酸素吸収性能を有するが、酸素吸収性能をさらに向上させるために遷移金属塩をさらに含んでもよい。
【0049】
遷移金属塩を構成する遷移金属としては、例えば、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅等の第4周期の遷移金属元素や、ルテニウム、ロジウム等の第5周期の遷移金属元素などが挙げられる。これらの中でも、酸素吸収剤の酸素吸収性能を向上させる観点などから、第4周期の遷移金属元素が好ましく、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅がより好ましく、コバルトがさらに好ましい。
【0050】
遷移金属塩における遷移金属の対イオンとしては、相溶性の点から有機酸由来のアニオン種が好ましく、有機酸としては、飽和でも不飽和でも、直鎖でも分岐でも、環状構造や置換基を有していてもよい炭素数2~30の有機酸が好ましく、例えば、酢酸、ステアリン酸、ジメチルジチオカルバミン酸、パルミチン酸、2-エチルへキサン酸、ネオデカン酸、リノール酸、オレイン酸、カプリン酸、ナフテン酸などが挙げられる。
【0051】
遷移金属塩としては、前記遷移金属と前記対イオンとを任意に組み合わせたものを用いることができるが、製造コストと酸素吸収性能とのバランスの観点から、2-エチルへキサン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ステアリン酸コバルトが好ましい。
【0052】
本発明の酸素吸収剤が遷移金属塩を含む場合、その含有量は、本発明の重合体中のビニル基に対して、0.001~10モル%が好ましく、0.005~5モル%であることがより好ましく、0.01~1モル%であることがさらに好ましく、0.1~1モル%であることが特に好ましい。遷移金属塩の含有量が前記範囲内であると、酸素吸収剤に対しより効果的に酸素吸収性能を付与することができる。
【0053】
本発明の酸素吸収剤は、本発明の重合体および遷移金属塩の他に、本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤を含んでもよい。具体的には、充填剤、紫外線吸収剤、顔料、増粘剤、低収縮化剤、老化防止剤、可塑剤、骨材、難燃剤、安定剤、繊維強化材、染料、酸化防止剤、レベリング剤、たれ止め剤などを含んでもよい。
【0054】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、上記した本発明の酸素吸収剤と、多官能性単量体および/または樹脂とを含む。
【0055】
本発明の樹脂組成物における酸素吸収剤の含有量に特に制限はないが、得られる樹脂組成物の硬化性の観点などから、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。また、得られる硬化物の物性などの観点から、当該含有量は50質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0056】
・多官能性単量体
本発明の樹脂組成物が含むことのできる上記多官能性単量体としては、分子内に2つ以上の重合性基を有する化合物を好ましく用いることができる。当該重合性基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基等のラジカル重合性基や、エポキシ基等のカチオン重合性基などが挙げられる。多官能性単量体は、分子内に2つ以上のラジカル重合性基を有する化合物であることが好ましい。多官能性単量体としては、例えば、分子内に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する多価(メタ)アクリル酸エステル、エポキシ基含有(メタ)アクリロイル化合物などが挙げられる。なお多価(メタ)アクリル酸エステルは、水酸基含有多価(メタ)アクリル酸エステルであってもよい。本発明の樹脂組成物において、多官能性単量体は、1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0057】
多価(メタ)アクリル酸エステルとしては、ジオール、トリオール等の多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルを用いることができ、より具体的に、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサメチレンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAまたは水添ビスフェノールFのジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0058】
また水酸基含有多価(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0059】
エポキシ基含有(メタ)アクリロイル化合物としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート等の末端にエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0060】
これらの多官能性単量体の中でも、得られる硬化物の耐水性などの観点から、多価(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、1,6-ヘキサメチレンジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0061】
・樹脂
本発明の樹脂組成物に用いる樹脂としては、例えば、塗料、接着剤、コーティング剤等に用いられる樹脂を用いることができる。当該樹脂はラジカル重合性樹脂(例えば、ラジカル反応で反応可能な二重結合を有する樹脂)であってもよく、また、UV硬化性樹脂等の活性エネルギー線硬化性樹脂であってもよい。用途等にもよるが本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、当該樹脂は活性エネルギー線硬化性樹脂であることが好ましい。
【0062】
樹脂の具体例としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、重合性基を有する(メタ)アクリル樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂等のラジカル重合反応により硬化可能な樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体の部分または完全鹸化物、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂等の酸素バリア性が求められる樹脂などが挙げられる。
また、前記樹脂以外にも必要に応じて、フッ素樹脂、ポリアミド66等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂などを用いてもよい。
【0063】
不飽和ポリエステル樹脂としては、例えば、プロピレングリコール-無水フタル酸-無水マレイン酸共重合体、エチレングリコール-無水フタル酸-無水マレイン酸共重合体など、多価アルコールとα,β-不飽和多塩基酸類および他の多塩基酸類との共重合体や、これらの共重合体にスチレン等のラジカル重合性単量体を添加したものなどが挙げられる。また、これらの共重合体は、さらにアリルグリシジルエーテル等の不飽和アルコールのグリシジル化合物を共重合成分の1つとして含んでもよい。
【0064】
ビニルエステル樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂末端に(メタ)アクリル酸を付加させたものなど、エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸を付加させたものなどが挙げられる。
【0065】
ウレタン(メタ)アクリレート樹脂としては、例えば、多価アルコールと過剰の多価イソシアネートより合成されるイソシアネート基残存ポリマーに(メタ)アクリル酸や水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルを付加させたものなどが挙げられる。
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールFなどが挙げられる。
多価イソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2,4,4-又は2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。中でも、多価イソシアネートとして、硬化性に優れるヘキサメチレンジイソシアネートが好ましい。
【0066】
ウレタン(メタ)アクリレート樹脂としては、多価イソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネートと、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしてペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとを反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート樹脂が好ましい。
【0067】
本発明の樹脂組成物における多官能性単量体および樹脂の合計の含有量に特に制限はなく、樹脂組成物の用途等に応じて適宜調整することができるが、得られる樹脂組成物の硬化性などの観点から、当該含有量は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。当該含有量の上限に特に制限はなく、例えば、99質量%以下とすることができる。
【0068】
・重合開始剤
本発明の樹脂組成物は、硬化性をより向上させるなどの観点から、重合開始剤をさらに含むことが好ましい。当該重合開始剤の種類に特に制限はなく、使用される多官能性単量体や樹脂(特にラジカル重合性樹脂)の種類などに応じて適宜選択することができる。具体的には、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤などを用いることができ、本発明の効果がより顕著に奏されることなどからラジカル重合開始剤が好ましい。ラジカル重合開始剤としては、例えば、熱でラジカルを発生する熱ラジカル重合開始剤、光でラジカルを発生する光ラジカル重合開始剤などが挙げられる。
【0069】
具体的な重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルペルオキシド等のジアシルペルオキシド系;t-ブチルペルオキシベンゾエート等のペルオキシエステル系;クメンヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド系;ジクミルペルオキシド等ジアルキルペルオキシド系;メチルエチルケトンペルオキシド、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド系;ペルオキシケタール系;アルキルペルエステル系;ペルカーボネート系などの有機過酸化物などが挙げられる。
【0070】
またラジカル重合開始剤としては、市販品を用いることができる。例えば、イルガキュア(登録商標、以下同じ)651、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア127、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819、イルガキュア784、イルガキュアOXE01、イルガキュアOXE02、イルガキュア754(以上、BASF社製)などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0071】
本発明の樹脂組成物中における重合開始剤の含有量に特に制限はないが、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、1質量%以上であることが特に好ましく、また、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0072】
・その他の成分
本発明の樹脂組成物は、希釈剤、顔料、染料、充填剤、紫外線吸収剤、増粘剤、低収縮化剤、老化防止剤、可塑剤、骨材、難燃剤、安定剤、繊維強化材、酸化防止剤、レベリング剤、たれ止め剤など、上記した酸素吸収剤、多官能性単量体、樹脂および重合開始剤以外の他の成分をさらに含んでもよい。
【0073】
希釈剤としては、例えば、スチレン、(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられ、硬化性の観点から、(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。顔料としては、例えば、酸化チタン、ベンガラ、アニリンブラック、カーボンブラック、シアニンブルー、クロムイエローなどが挙げられる。充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、クレーなどが挙げられる。
【0074】
本発明の樹脂組成物の製造方法に特に制限はなく、上記した酸素吸収剤、多官能性単量体および/または樹脂、および必要に応じてさらに、重合開始剤、その他の成分を混合することにより製造することができる。
【0075】
[硬化方法]
本発明の樹脂組成物を硬化させる方法に特に制限はなく、使用される多官能性単量体、樹脂(特にラジカル重合性樹脂)、重合開始剤の種類などに応じて適宜選択することができる。例えば、本発明の樹脂組成物が光ラジカル重合開始剤を含む場合は、UV等の活性エネルギーを照射して硬化させる方法が挙げられ、また熱ラジカル重合開始剤を含む場合は、加熱して硬化させる方法が挙げられる。また、両者を含む場合に活性エネルギー線を照射した後に加熱してもよい。用途等にもよるが本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、活性エネルギーを照射して硬化させる方法が好ましい。
【0076】
[樹脂組成物の用途]
本発明の樹脂組成物の用途に特に制限はないが、本発明の樹脂組成物は、空気雰囲気下等の酸素の存在下においても重合硬化反応を十分に進行させることができまた外観に優れた硬化物を形成できて硬化性に優れることから、例えば、塗料(UV塗料やUVインキ等)、接着剤、コーティング剤等の硬化性樹脂組成物として好ましく用いることができ、これにより、物性や外観に優れる塗膜、接着層、コーティング層等の硬化物を得ることができる。
【実施例
【0077】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0078】
[製造例1]1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-メタクリロイルオキシプロパンの合成
撹拌機、温度計、滴下ロートを備えた反応器に、空気気流下、アセトニトリル410.2g、1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-ヒドロキシプロパン298.1g(1.31mol)、トリエチルアミン218.3g(2.16mol)を仕込んだ。内温を15℃以下に保持し、撹拌しながらメタクリル酸クロリド166.9g(1.60mol、重合禁止剤としてp-メトキシフェノール2200ppmを含有)を滴下し、滴下終了後25℃に昇温した。内温25℃で1.5時間撹拌した。反応液にイオン交換水167.1g、p-ジメチルアミノピリジン1.70gを加え、25℃で2時間撹拌し、副生物の無水メタクリル酸が分解したことを確認したのち、酢酸エチルで3回抽出した。有機層を2質量%塩酸水溶液、3質量%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。得られた有機層を蒸留により精製し、下記式(A-1)で表される1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-メタクリロイルオキシプロパン300.0g(1.012mol;収率77.6%)を得た。そのH-NMRの測定結果を以下に示す。
【0079】
【化8】
【0080】
H-NMR(400MHz,CDCl,TMS)δ:6.14(s,1H),5.56(quin,J=1.6Hz,1H),5.32(tquin,J=4.0,1.6Hz,2H),5.18(quin,J=5.2Hz,1H),3.99(dq,J=14.8,3.2Hz,4H),3.62(d,J=5.2Hz,4H),1.95(d,J=1.6Hz,3H),1.74(s,6H),1.66(s,6H)
【0081】
[製造例2]1,3-ジアリルオキシ-2-メタクリロイルオキシプロパンの合成
撹拌機、温度計、滴下ロートを備えた反応器に、空気気流下、アセトニトリル81.7g、1,3-ジアリルオキシ-2-ヒドロキシプロパン50.17g(東京化成工業株式会社製、0.291mol)、トリエチルアミン48.5g(0.480mol)、「キノパワー40」0.05g(川崎化成工業株式会社製)を仕込んだ。内温を20℃以下に保持し、撹拌しながらメタクリル酸クロリド37.0g(0.354mol,重合禁止剤としてp-メトキシフェノール2000ppmを含有)を滴下し、滴下終了後25℃に昇温した。内温25℃で1.5時間撹拌した。反応液にイオン交換水60.1g、p-ジメチルアミノピリジン300mgを加え、25℃で2時間撹拌し、副生物の無水メタクリル酸が分解したことを確認したのち、酢酸エチルで3回抽出した。有機層を3質量%塩酸水溶液、3質量%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄した。得られた有機層を蒸留により精製し、下記式(E-1)で表される1,3-ジアリルオキシ-2-メタクリロイルオキシプロパン79.9g(0.333mol;収率57%)を得た。そのH-NMRの測定結果を以下に示す。
【0082】
【化9】
【0083】
H-NMR(400MHz,CDCl,TMS)δ:6.14(d,J=1.6Hz,1H),5.87(ddt,J=17.2,10.4,5.6Hz,2H),5.57(t,J=1.6Hz,1H),5.26(dq,J=17.2,1.6Hz,2H),5.19(quin,J=4.8Hz,2H),5.17(dq,J=10.4,1.6Hz,1H),4.05-3.95(m,4H),3.65(d,J=4.8Hz,4H),1.95(s,3H)
【0084】
[実施例1]重合体(P1)の合成
撹拌機、温度計、還流管を備えた反応器に、窒素気流下、イオン交換水86.4g、リン酸二水素ナトリウム水溶液3.4g、「ROHAGIT Smv」(分散安定剤)0.5g(Rohm社製)を仕込み、撹拌した。そこに製造例1で得られた1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-メタクリロイルオキシプロパン22.5g(0.076mol)、AIBN0.014g(富士フイルム和光純薬株式会社製)、n-オクチルメルカプタン0.15g(富士フイルム和光純薬株式会社製)を仕込み、内温を70℃に保持して6時間撹拌した。その後、内温を80℃まで昇温して1時間熟成した。重合懸濁液を冷却し、水層を除いた後、減圧乾燥した。得られた重合物をメタノールで洗浄し、重合体(P1)を得た。重合体(P1)の数平均分子量(Mn)は18,500であり、重量平均分子量(Mw)は35,000であった。
【0085】
[実施例2]重合体(P2)の合成
撹拌機、温度計、還流管を備えた反応器に、窒素気流下、イオン交換水115.5g、リン酸二水素ナトリウム水溶液4.6g、「ROHAGIT Smv」(分散安定剤)0.7g(Rohm社製)を仕込み、撹拌した。そこに製造例1で得られた1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-メタクリロイルオキシプロパン22.5g(0.076mol)、メタクリル酸メチル7.6g(株式会社クラレ製)、AIBN0.018g(富士フイルム和光純薬株式会社製)、n-オクチルメルカプタン0.20g(富士フイルム和光純薬株式会社製)を仕込み、内温を70℃に保持して6時間撹拌した。その後、内温を80℃まで昇温して1時間熟成した。重合懸濁液を冷却し、水層を除いた後、減圧乾燥した。得られた重合物をメタノールで洗浄し、重合体(P2)を得た。重合体(P2)の数平均分子量(Mn)は17,500であり、重量平均分子量(Mw)は38,900であった。
【0086】
[比較例1]重合体(P3)の合成
撹拌機、温度計、還流管を備えた反応器に、窒素気流下、イオン交換水115.0g、リン酸二水素ナトリウム水溶液4.5g、「ROHAGIT Smv」(分散安定剤)0.7g(Rohm社製)を仕込み、撹拌した。そこに製造例2で得られた1,3-ジアリルオキシ-2-メタクリロイルオキシプロパン30.0g(0.125mol)、AIBN0.018g(富士フィルム和光純薬株式会社製)、n-オクチルメルカプタン0.20g(富士フイルム和光純薬株式会社製)を仕込み、内温を70℃に保持して4時間撹拌した。その後、内温を80℃まで昇温して1時間熟成した。重合懸濁液を冷却し、水層を除いた後、減圧乾燥した。得られた重合物をメタノールで洗浄し、重合体(P3)を得た。得られた重合体(P3)は溶媒に不溶であり、分子量の測定はできなかった。
【0087】
[比較例2]重合体(P4)の合成
撹拌機、温度計、還流管を備えた反応器に、窒素気流下、イオン交換水115.0g、リン酸二水素ナトリウム水溶液4.5g、「ROHAGIT Smv」(分散安定剤)0.7g(Rohm社製)を仕込み、撹拌した。そこに製造例2で得られた1,3-ジアリルオキシ-2-メタクリロイルオキシプロパン21.1g(0.088mol)、メタクリル酸メチル8.8g(株式会社クラレ製)、AIBN0.018g(富士フイルム和光純薬株式会社製)、n-オクチルメルカプタン0.20g(富士フイルム和光純薬株式会社製)を仕込み、内温を70℃に保持して6時間撹拌した。その後、内温を80℃まで昇温して1時間熟成した。重合懸濁液を冷却し、水層を除いた後、減圧乾燥した。得られた重合物をメタノールで洗浄し、重合体(P4)を得た。得られた重合体(P4)は溶媒に不溶であり、分子量の測定はできなかった。
【0088】
<硬化性試験>
上記各重合体を配合したUV硬化性樹脂を含む樹脂組成物の空気雰囲気下における硬化性を確認するため、以下の方法により硬化後の外観を評価するとともに、未硬化部分の厚みを測定した。当該未硬化部分の厚みの値が小さいほど、酸素による重合阻害への防止硬化が高く、酸素の存在下においても重合硬化反応を十分に進行させることができて硬化性に優れることを示す。
直径4cmの穴をあけたPETフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム;厚み300μm)を、穴のないPETフィルム上に貼り付けることによりセルを作製した。
次に、1,9-ノナンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業社製)を100質量部、および、光重合開始剤としてイルガキュア184(BASF社製)を3質量部混合し、更に酸素吸収剤として上記各実施例または比較例で得られた重合体(P1)~(P4)のいずれかを1質量部添加して混合することにより硬化性樹脂組成物を得た。
得られた硬化性樹脂組成物を前記セルに入れ、空気雰囲気下、照度78mW/cm2、積算光量99mJ/cm2の照射条件でUV硬化を行った。
硬化した硬化物(塗膜)の外観を観察し、平坦であった場合には「A」、著しい欠陥があった場合には「B」と評価した。また、硬化物の表面をアセトン含浸したコットンでふき取ることにより未硬化物を取り除き、ふき取り前後の重量変化を測定し、その測定値と硬化性樹脂組成物の比重とから未硬化部分の厚みを算出した。結果を表1に示した。なお、重合体(P1)~(P4)のいずれも添加せずに調製した硬化性樹脂組成物を用いた場合の結果を比較例3として共に示した。
【0089】
【表1】
【0090】
表1に示すように、実施例1および2の重合体を用いた硬化性樹脂組成物は、硬化後の塗膜外観に優れると共に未硬化部分の厚みの値が小さいことから、これらの硬化性樹脂組成物は、酸素による重合阻害への防止効果が高く、酸素の存在下においても重合硬化反応を十分に進行させることができ硬化性に優れることが分かる。したがって、当該硬化性樹脂組成物は、空気雰囲気下等の酸素が存在する実使用下でUV塗料やUVインキ等の硬化性樹脂組成物として使用した場合などにおいても、硬化速度の低下や表面のべたつきの発生を効果的に抑制できることが示唆される。
一方、比較例1および2の重合体を用いた硬化性樹脂組成物は、硬化後の塗膜の外観に劣り、凹凸があって平坦な塗膜が得られておらず、硬化性に劣っていた。重合体を添加しなかった比較例3では、硬化後の未硬化部分の厚みが厚く、硬化性に劣っていた。