(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】高分子複合圧電体、圧電フィルム、圧電スピーカー、フレキシブルディスプレイ
(51)【国際特許分類】
H10N 30/857 20230101AFI20230316BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20230316BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20230316BHJP
H10N 30/045 20230101ALI20230316BHJP
C08L 85/00 20060101ALI20230316BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20230316BHJP
C08K 3/11 20180101ALI20230316BHJP
C08K 3/105 20180101ALI20230316BHJP
【FI】
H10N30/857
H10N30/853
H10N30/20
H10N30/045
C08L85/00
C08L83/04
C08K3/11
C08K3/105
(21)【出願番号】P 2021527557
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2020021973
(87)【国際公開番号】W WO2020261909
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2019121618
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】田村 顕夫
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/018313(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/090512(WO,A1)
【文献】特開2015-161826(JP,A)
【文献】特開2018-049075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/857
H10N 30/853
H10N 30/20
H10N 30/045
C08L 85/00
C08L 83/04
C08K 3/11
C08K 3/105
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される単位と、
式(2-1)で表される単位、式(2-2)で表される単位、および、式(2-3)で表される単位からなる群から選択される少なくとも1種の単位と、を有するポリマーを含む高分子マトリックス、および、
圧電体粒子、を含む、高分子複合圧電体。
式(1) (MO
x/2)
式(2-1) (R
1SiO
3/2)
式(2-2) (R
2
2SiO
2/2)
式(2-3) (R
3
3SiO
1/2)
式(1)中、Mは、Ti、Zr、HfまたはAlを表す。xは、MがTi、ZrまたはHfの場合には4を表し、MがAlの場合には3を表す。
式(2-1)中、R
1は、有機基を表す。
式(2-2)中、R
2は、それぞれ独立に、有機基を表す。
式(2-3)中、R
3は、それぞれ独立に、有機基を表す。
【請求項2】
前記MがTiを表す、請求項1に記載の高分子複合圧電体。
【請求項3】
前記ポリマーが、前記式(2-1)で表される単位、および、前記式(2-2)で表される単位からなる群から選択される少なくとも1種の単位を有する、請求項2に記載の高分子複合圧電体。
【請求項4】
前記ポリマーが、前記式(2-1)で表される単位を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の高分子複合圧電体。
【請求項5】
前記圧電体粒子の含有量が、前記高分子複合圧電体全体積に対して、50体積%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の高分子複合圧電体。
【請求項6】
前記圧電体粒子が、ペロブスカイト型またはウルツ鉱型の結晶構造を有するセラミックス粒子を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の高分子複合圧電体。
【請求項7】
前記圧電体粒子が、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、および、チタン酸バリウムとビスマスフェライトとの固溶体のいずれかを含む、請求項6に記載の高分子複合圧電体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の高分子複合圧電体と、
前記高分子複合圧電体の両面に積層された2つの薄膜電極と、を有する、圧電フィルム。
【請求項9】
請求項8に記載の圧電フィルムを有する圧電スピーカー。
【請求項10】
可撓性を有するフレキシブルディスプレイの画像表示面とは反対側の面に、請求項8に記載の圧電フィルムを取り付けたフレキシブルディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子複合圧電体、この高分子複合圧電体を用いる圧電フィルム、ならびに、この圧電フィルムを用いる圧電スピーカー、および、フレキシブルディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなど、ディスプレイの薄型化および軽量化に対応して、これらの薄型ディスプレイに用いられるスピーカーにも軽量化および薄型化が要求されている。また、プラスチック等の可撓性基板を用いたフレキシブルディスプレイの開発に対応して、これに用いられるスピーカーにも可撓性が要求されている。
【0003】
従来のスピーカーの形状は、漏斗状のいわゆるコーン型、および、球面状のドーム型等が一般的である。しかしながら、このようなスピーカーを上述の薄型のディスプレイに内蔵しようとすると、十分に薄型化できず、また、軽量性や可撓性を損なうおそれがある。また、スピーカーを外付けにした場合、持ち運び等が面倒である。
【0004】
そこで、薄型で、軽量性や可撓性を損なうことなく薄型のディスプレイやフレキシブルディスプレイに一体化可能なスピーカーとして、シート状で可撓性を有し、印加電圧に応答して伸縮する性質を有する圧電フィルムを用いることが提案されている。
【0005】
例えば、シート状で、可撓性を有し、かつ、高音質な音を安定して再生することができる圧電フィルムとして、特許文献1に開示される圧電フィルム(電気音響変換フィルム)を提案されている。特許文献1に開示される圧電フィルムは、常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス中に圧電体粒子を分散してなる高分子複合圧電体(圧電体層)と、高分子複合圧電体の両面に形成された薄膜電極と、薄膜電極の表面に形成された保護層とを有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような圧電フィルムにおいては、昨今より一層の音圧の向上が望まれている。
本発明者らは、特許文献1に記載の圧電フィルムを用いた圧電スピーカーの音圧の特性について検討したところ、現在の要求レベルを満たしておらず、さらなる改良が必要であることを知見した。
【0008】
発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決することにあり、圧電スピーカーに用いた際に、より高い音圧の出力が可能な圧電フィルムが得られる高分子複合圧電体、この高分子複合圧電体を利用する圧電フィルム、ならびに、この圧電フィルムを利用する圧電スピーカーおよびフレキシブルディスプレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
【0010】
[1] 後述する式(1)で表される単位と、
後述する式(2-1)で表される単位、後述する式(2-2)で表される単位、および、後述する式(2-3)で表される単位からなる群から選択される少なくとも1種の単位と、を有するポリマーを含む高分子マトリックス、および、
圧電体粒子、を含む、高分子複合圧電体。
[2] MがTiを表す、[1]に記載の高分子複合圧電体。
[3] ポリマーが、式(2-1)で表される単位、および、式(2-2)で表される単位からなる群から選択される少なくとも1種の単位を有する、[2]に記載の高分子複合圧電体。
[4] ポリマーが、式(2-1)で表される単位を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の高分子複合圧電体。
[5] 圧電体粒子の含有量が、高分子複合圧電体全体積に対して、50体積%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の高分子複合圧電体。
[6] 圧電体粒子が、ペロブスカイト型またはウルツ鉱型の結晶構造を有するセラミックス粒子を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の高分子複合圧電体。
[7] 圧電体粒子が、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、および、チタン酸バリウムとビスマスフェライトとの固溶体のいずれかを含む、[6]に記載の高分子複合圧電体。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の高分子複合圧電体と、
高分子複合圧電体の両面に積層された2つの薄膜電極と、を有する、圧電フィルム。
[9] [8]に記載の圧電フィルムを有する圧電スピーカー。
[10] 可撓性を有するフレキシブルディスプレイの画像表示面とは反対側の面に、[8]に記載の圧電フィルムを取り付けたフレキシブルディスプレイ。
【発明の効果】
【0011】
このような本発明によれば、圧電スピーカーに用いた際に、より高い音圧の出力が可能な圧電フィルムが得られる高分子複合圧電体、この高分子複合圧電体を利用する圧電フィルム、ならびに、この圧電フィルムを利用する圧電スピーカーおよびフレキシブルディスプレイが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の圧電フィルムの一例を概念的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す圧電フィルムの作製方法を説明するための概念図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す圧電フィルムの作製方法を説明するための概念図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す圧電フィルムの作製方法を説明するための概念図である。
【
図5】
図5は、
図1に示す圧電フィルムを用いる圧電スピーカーの一例を概念的に示す図である。
【
図6】
図6は、本発明のフレキシブルディスプレイを有機エレクロトルミネッセンスディスプレイに利用した一例を概念的に示す図である。
【
図7】
図7は、本発明のフレキシブルディスプレイを電子ペーパーに利用した一例を概念的に示す図である。
【
図8】
図8は、本発明のフレキシブルディスプレイを液晶ディスプレイに利用した一例を概念的に示す図である。
【
図9】
図9は、一般的な声帯マイクロフォンの構成を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の高分子複合圧電体、圧電フィルム、圧電スピーカー、フレキシブルディスプレイ、声帯マイクロフォンおよび楽器用センサーについて、添付の図面に示される好適実施態様を基に、詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
本発明の高分子複合圧電体は、一例として、シート状に成型され、両面に薄膜電極(電極層)を設けられて、圧電フィルムとして利用される。このような圧電フィルムは、一例として、圧電スピーカー、マイクロフォンおよび音声センサー等の電気音響変換器の振動板として用いられる。
電気音響変換器は、圧電フィルムへの電圧印加によって、圧電フィルムが面内方向に伸長すると、この伸長分を吸収するために、圧電フィルムが、上方(音の放射方向)に移動し、逆に、圧電フィルムへの電圧印加によって、圧電フィルムが面内方向に収縮すると、この収縮分を吸収するために、圧電フィルムが、下方に移動する。
電気音響変換器は、この圧電フィルムの伸縮の繰り返しによる振動により、振動(音)と電気信号とを変換するものであり、圧電フィルムに電気信号を入力して電気信号に応じた振動により音を再生したり、音波を受けることによる圧電フィルムの振動を電気信号に変換したり、振動による触感付与または物体の輸送に利用される。
具体的には、ギター等の楽器に用いられるピックアップ(楽器用センサー)、スピーカー(例えば、フルレンジスピーカー、ツイーター、スコーカーおよびウーハー等)、ヘッドホン用スピーカー、ノイズキャンセラー、ならびに、マイクロフォン等の各種の音響デバイスが挙げられる。また、本発明の圧電フィルムは非磁性体であるため、ノイズキャンセラーのなかでもMRI(magnetic resonance imaging)用ノイズキャンセラーとして好適に用いることが可能である。
また、本発明の圧電フィルムを利用する電気音響変換器は薄く、軽く、曲がるため、帽子、マフラーおよび衣服といったウエアラブル製品、テレビおよびデジタルサイネージ等の薄型ディスプレイ、音響機器等としての機能を有する建築物、自動車の天井、カーテン、傘、壁紙、ならびに、窓およびベッド等に好適に利用される。
【0015】
図1に、本発明の圧電フィルムの一例を模式的に表す断面図を示す。
図1に示すように、本発明の圧電フィルム10は、圧電性を有するシート状物である圧電体層12と、圧電体層12の一方の面に積層される下部薄膜電極14と、下部薄膜電極14上に積層される下部保護層18と、圧電体層12の他方の面に積層される上部薄膜電極16と、上部薄膜電極16上に積層される上部保護層20とを有する。
【0016】
圧電フィルム10において、高分子複合圧電体である圧電体層12は、
図1に概念的に示すような、高分子材料からなる高分子マトリックス24中に、圧電体粒子26を分散してなる高分子複合圧電体からなるものである。
この圧電体層12は、本発明の高分子複合圧電体である。
【0017】
ここで、高分子複合圧電体(圧電体層12)は、次の用件を具備したものであるのが好ましい。なお、本発明において、常温とは、0~50℃である。
(i) 可撓性
例えば、携帯用として新聞または雑誌のように書類感覚で緩く撓めた状態で把持する場合、絶えず外部から、数Hz以下の比較的ゆっくりとした、大きな曲げ変形を受けることになる。この時、高分子複合圧電体が硬いと、その分大きな曲げ応力が発生し、高分子マトリックスと圧電体粒子との界面で亀裂が発生し、やがて破壊に繋がる恐れがある。従って、高分子複合圧電体には適度な柔らかさが求められる。また、歪みエネルギーを熱として外部へ拡散できれば応力を緩和できる。従って、高分子複合圧電体の損失正接が適度に大きいことが望ましい。
(ii) 音質
スピーカーは、20Hz~20kHzのオーディオ帯域の周波数で圧電体粒子を振動させ、その振動エネルギーによって振動板(高分子複合圧電体)全体が一体となって振動することで音が再生される。従って、振動エネルギーの伝達効率を高めるために高分子複合圧電体には適度な硬さが求められる。また、スピーカーの周波数特性が平滑であれば、曲率の変化に伴い最低共振周波数f0が変化した際の音質の変化量も小さくなる。従って、高分子複合圧電体の損失正接は適度に大きいことが望ましい。
【0018】
スピーカー用振動板の最低共振周波数f0は、下記式で与えられるのは周知である。ここで、sは振動系のスチフネス、mは質量である。
【0019】
【0020】
このとき、圧電フィルムの湾曲程度が大きいほど(すなわち、湾曲部の曲率半径が大きくなるほど)機械的なスチフネスsが下がるため、最低共振周波数f0は小さくなる。すなわち、圧電フィルムの曲率半径によってスピーカーの音質(音量、周波数特性)が変わることになる。
【0021】
以上をまとめると、高分子複合圧電体は、20Hz~20kHzの振動に対しては硬く、数Hz以下の振動に対しては柔らかく振る舞うことが望ましい。また、高分子複合圧電体の損失正接は、20kHz以下の全ての周波数の振動に対して、適度に大きいことが望ましい。
【0022】
一般に、高分子固体は粘弾性緩和機構を有しており、温度上昇または周波数の低下とともに大きなスケールの分子運動が貯蔵弾性率(ヤング率)の低下(緩和)または損失弾性率の極大(吸収)として観測される。その中でも、非晶質領域の分子鎖のミクロブラウン運動によって引き起こされる緩和は、主分散と呼ばれ、非常に大きな緩和現象が見られる。この主分散が起きる温度がガラス転移点(Tg)であり、最も粘弾性緩和機構が顕著に現れる。
高分子複合圧電体(圧電体層12)において、ガラス転移点が常温にある高分子材料(言い換えると、常温で粘弾性を有する高分子材料)をマトリックスに用いることで、20Hz~20kHzの振動に対しては硬く、数Hz以下の遅い振動に対しては柔らかく振舞う高分子複合圧電体が実現できる。特に、この振舞いが好適に発現する等の点で、周波数1Hzでのガラス転移温度が常温にある高分子材料を、高分子複合圧電体のマトリックスに用いるのが好ましい。
【0023】
高分子マトリックスを構成する高分子材料は、常温において、動的粘弾性試験による周波数1Hzにおける損失正接Tanδの極大値が、0.5以上であるのが好ましい。
これにより、高分子複合圧電体が外力によってゆっくりと曲げられた際に、最大曲げモーメント部における高分子マトリックス/圧電体粒子界面の応力集中が緩和され、高い可撓性が期待できる。
【0024】
また、高分子マトリックスを構成する高分子材料は、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの貯蔵弾性率(E’)が、0℃において100MPa以上、50℃において10MPa以下であるのが好ましい。
これにより、高分子複合圧電体が外力によってゆっくりと曲げられた際に発生する曲げモーメントが低減できると同時に、20Hz~20kHzの音響振動に対しては硬く振る舞うことができる。
【0025】
また、高分子マトリックスを構成する高分子材料は、比誘電率が25℃において10以上であると、より好適である。これにより、高分子複合圧電体に電圧を印加した際に、高分子マトリックス中の圧電体粒子にはより高い電界が掛かるため、大きな変形量が期待できる。
しかしながら、その反面、良好な耐湿性の確保等を考慮すると、高分子材料は、比誘電率が25℃において10以下であるのも、好適である。
【0026】
本発明の高分子複合圧電体(圧電体層12)では、これらの条件を好適に満たす高分子マトリックス24を構成する高分子材料として、式(1)で表される単位(以下、単に「単位1」ともいう。)と、式(2-1)で表される単位、式(2-2)で表される単位、および、式(2-3)で表される単位からなる群から選択される少なくとも1種の単位(以下、単に「単位2」ともいう。)と、を有するポリマー(以下、単に「特定ポリマー」ともいう。)を用いる。
式(1) (MOx/2)
式(2-1) (R1SiO3/2)
式(2-2) (R2
2SiO2/2)
式(2-3) (R3
3SiO1/2)
なお、本明細書においては、例えば、シロキサン結合(Si-O-Si)は2個のケイ素原子が1個の酸素原子を介して結合した結合であることより、シロキサン結合におけるケイ素原子1個当たりの酸素原子は1/2個とみなし、式中O1/2と表現される。
【0027】
式(1)中、Mは、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)またはAl(アルミニウム)を表す。なかでも、本発明の効果がより優れる点で、Tiが好ましい。
xは、MがTi、ZrまたはHfの場合には4を表し、MがAlの場合には3を表す。つまり、式(1)で表される単位は、(TiO4/2)、(ZrO4/2)、(HfO4/2)、または、(AlO3/2)を表す。
【0028】
特定ポリマー中における単位1の含有量は特に制限されないが、特定ポリマーの全単位に対して、1~99モル%が好ましく、5~50モル%がより好ましく、10~30モル%がさらに好ましい。
【0029】
式(2-1)中、R1は、有機基を表す。有機基の種類は特に制限されず、炭素原子が含まれる基であればよく、例えば、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、および、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、および、アルキニル基が挙げられ、アルキル基が好ましい。
アルキル基の炭素数は特に制限されず、本発明の効果がより優れる点で、1~10が好ましく、1~5がより好ましい。
芳香族炭化水素基としては、単環であっても、多環であってもよい。芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環基、および、ナフタレン環基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基の種類は特に制限されず、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、および、ヨウ素原子)、炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、および、アリール基)、ヘテロ環基、水酸基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基、エポキシ基(オキシラニル基)、オキセタニル基、3,4-エポキシシクロへキシル基、アクリロイルオキシ基、および、メタクリロイルオキシ基、また、これらを2種以上組み合わせた基(例えば、-O-アルキレン基-エポキシ基、-アルキレン基-3,4-エポキシシクロへキシル基、-アルキレン基-アクリロイルオキシ基、-アルキレン基-メタクリロイルオキシ基)が挙げられる。
【0030】
式(2-2)中、R2は、それぞれ独立に、有機基を表す。R2で表される有機基の定義は、R1で表される有機基の定義と同じである。
式(2-3)中、R3は、それぞれ独立に、有機基を表す。R3で表される有機基の定義は、R1で表される有機基の定義と同じである。
【0031】
特定ポリマーは、本発明の効果がより優れる点で、式(2-1)で表される単位、および、式(2-2)で表される単位からなる群から選択される少なくとも1種の単位を有することが好ましく、式(2-1)で表される単位を有することが好ましい。
【0032】
特定ポリマー中における、単位2の合計含有量は特に制限されないが、特定ポリマーの全単位に対して、1~99モル%が好ましく、50~95モル%がより好ましく、70~90モル%がさらに好ましい。
【0033】
特定ポリマー中における、単位1のモル量と、単位2の合計モル量との比(単位1のモル量/単位2の合計モル量)は特に制限されないが、1/99~99/1が好ましく、50/50~95/5がより好ましく、70/30~90/10がさらに好ましい。
【0034】
なお、上記式(2-1)で表される単位はいわゆるT単位に該当し、式(2-2)で表される単位はいわゆるD単位に該当し、式(2-3)で表される単位はいわゆるM単位に該当する。
【0035】
特定ポリマーは、式(1)で表される単位、式(2-1)で表される単位、式(2-2)で表される単位、および、式(2-3)で表される単位以外の他の単位を有していてもよい。
なお、本発明の効果がより優れる点で、特定ポリマーの全単位に対する、式(1)で表される単位、式(2-1)で表される単位、式(2-2)で表される単位、および、式(2-3)で表される単位の合計含有量は、95モル%以上が好ましく、100モル%がより好ましい。
【0036】
特定ポリマーの合成方法は特に制限されず、公知の方法により合成できる。
例えば、式(3)で表される化合物と、式(4-1)で表される化合物、式(4-2)で表される化合物、および、式(4-3)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種とを加水分解縮合反応させて、特定ポリマーを合成する方法が挙げられる。なお、加水分解縮合反応としては、公知の方法が採用され、公知の触媒を適宜使用してもよい。
式(3) M(Y)x
式(4-1) (R1)Si(Y)3
式(4-2) (R2)2Si(Y)2
式(4-3) (R3)3Si(Y)
【0037】
式(3)中のMおよびxの定義は、式(1)のMおよびxの定義と同じである。
Yは、加水分解性基(加水分解により水酸基となる基)を表す。加水分解性基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシル基、および、アミノ基が挙げられる。
【0038】
式(4-1)中のR1の定義は、式(2-1)のR1の定義と同じである。
式(4-2)中のR2の定義は、式(2-2)のR2の定義と同じである。
式(4-3)中のR3の定義は、式(2-3)のR3の定義と同じである。
式(4-1)~式(4-3)中、Yは加水分解性基を表す。加水分解性基の具体例は、上述した通りである。
【0039】
なお、式(3)で表される化合物と、式(4-1)で表される化合物、式(4-2)で表される化合物、および、式(4-3)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種との混合比率は、上述した単位1のモル量と、単位2の合計モル量との比(単位1のモル量/単位2の合計モル量)の範囲となるように調整されることが好ましい。
【0040】
特定ポリマーの具体例(例1~9)を以下の表1に示す。表1においては、各ポリマーが有する単位1および単位2を例示する。表1中、「*」は結合位置を表す。
【0041】
【0042】
特定ポリマーの重量平均分子量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、1000~200000が好ましく、1500~150000がより好ましい。
本明細書において、ポリマーの重量平均分子量は、下記の装置および条件により測定する。
測定装置:商品名「LC-20AD」((株)島津製作所製)
カラム:Shodex KF-801×2本、KF-802、およびKF-803(昭和電工(株)製)
測定温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン、試料濃度0.1~0.2質量%
流量:1mL/分
検出器:UV-VIS検出器(商品名「SPD-20A」、(株)島津製作所製)
分子量:標準ポリスチレン換算
【0043】
特定ポリマーを含む高分子マトリックス24は、必要に応じて、複数種の特定ポリマーを含んでいてもよい。
また、本発明の高分子複合圧電体を構成する高分子マトリックス24は、誘電特性および機械的特性の調節等を目的として、上述した特定ポリマーに加え、必要に応じて、その他の誘電性高分子を添加してもよい。
【0044】
添加可能な他の誘電性高分子としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体およびポリフッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体等のフッ素系高分子、シアン化ビニリデン-酢酸ビニル共重合体、シアノエチルセルロース、シアノエチルヒドロキシサッカロース、シアノエチルヒドロキシセルロース、シアノエチルヒドロキシプルラン、シアノエチルメタクリレート、シアノエチルアクリレート、シアノエチルヒドロキシエチルセルロース、シアノエチルアミロース、シアノエチルヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルジヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルヒドロキシプロピルアミロース、シアノエチルポリアクリルアミド、シアノエチルポリアクリレート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリヒドロキシメチレン、シアノエチルグリシドールプルラン、シアノエチルサッカロースおよびシアノエチルソルビトール等のシアノ基またはシアノエチル基を有するポリマー、ならびに、ニトリルゴムおよびクロロプレンゴム等の合成ゴム等が例示される。
中でも、シアノエチル基を有する高分子材料は、好適に利用される。
また、圧電体層12の高分子マトリックス24において、他の誘電性高分子は、1種に制限はされず、複数種を用いてもよい。
【0045】
また、誘電性高分子以外にも、高分子マトリックス24のガラス転移点Tgを調節する目的で、高分子マトリックス24は、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、メタクリル樹脂、ポリブテンおよびイソブチレン等の熱可塑性樹脂、ならびに、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂およびマイカ等の熱硬化性樹脂等を含んでいてもよい。
さらに、粘着性を向上する目的で、高分子マトリックス24は、ロジンエステル、ロジン、テルペン、テルペンフェノール、および、石油樹脂等の粘着付与剤を含んでいてもよい。
【0046】
圧電体層12の高分子マトリックス24において、特定ポリマー以外の他の誘電性高分子を用いる場合、他の誘電性高分子の含有量には制限はないが、高分子マトリックス24に占める割合で30質量%以下とするのが好ましい。
【0047】
圧電体層12(高分子複合圧電体)は、このような高分子マトリックスに、圧電体粒子26を分散してなるものである。
圧電体粒子26は、好ましくは、ペロブスカイト型またはウルツ鉱型の結晶構造を有するセラミックス粒子からなるものである。
圧電体粒子26を構成する材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛(PLZT)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、酸化亜鉛(ZnO)、および、チタン酸バリウムとビスマスフェライト(BiFe3)との固溶体(BFBT)等が挙げられる。
【0048】
圧電体粒子26の粒径は、圧電フィルム10のサイズや用途に応じて、適宜、選択すればよい。圧電体粒子26の粒径は、1~10μmが好ましい。
圧電体粒子26の粒径を上記範囲とすることにより、高い圧電特性とフレキシビリティとを両立できる等の点で好ましい結果を得ることができる。
【0049】
なお、
図1においては、圧電体層12中の圧電体粒子26は、高分子マトリックス24中に、均一にかつ規則性を持って分散されているが、本発明は、これに制限はされない。
すなわち、圧電体層12中の圧電体粒子26は、好ましくは均一に分散されていれば、高分子マトリックス24中に不規則に分散されていてもよい。
【0050】
圧電フィルム10において、圧電体層12中における高分子マトリックス24と圧電体粒子26との量比は、圧電フィルム10の面方向の大きさや厚さ、圧電フィルム10の用途、圧電フィルム10に要求される特性等に応じて、適宜、設定すればよい。
圧電体層12中における圧電体粒子26の体積分率は、30体積%以上が好ましく、50体積%以上がより好ましい。上限としては、70体積%以下が好ましい。
高分子マトリックス24と圧電体粒子26との量比を上記範囲とすることにより、高い圧電特性とフレキシビリティとを両立できる等の点で好ましい結果を得ることができる。
【0051】
また、圧電フィルム10において、圧電体層12の厚さには制限はなく、圧電フィルム10のサイズ、圧電フィルム10の用途、圧電フィルム10に要求される特性等に応じて、適宜、設定すればよい。
圧電体層12の厚さは、8~300μmが好ましく、8~40μmがより好ましく、10~35μmがさらに好ましく、15~25μmが特に好ましい。
圧電体層12の厚さを、上記範囲とすることにより、剛性の確保と適度な柔軟性との両立等の点で好ましい結果を得ることができる。
【0052】
圧電体層12は、厚さ方向に分極処理(ポーリング)されているのが好ましい。分極処理に関しては、後に詳述する。
【0053】
図1に示すように、本発明の圧電フィルム10は、このような圧電体層12の一面に、下部薄膜電極14を有し、下部薄膜電極14の上に好ましい態様として下部保護層18を有し、また、圧電体層12の他方の面に、上部薄膜電極16を有し、上部薄膜電極16の上に好ましい態様として上部保護層20を有してなる構成を有する。圧電フィルム10では、上部薄膜電極16と下部薄膜電極14とが電極対を形成する。
言い換えれば、本発明の圧電フィルム10は、圧電体層12の両面を電極対、すなわち、上部薄膜電極16および下部薄膜電極14で挟持し、好ましくは、さらに、上部保護層20および下部保護層18で挟持してなる構成を有する。
このように、上部薄膜電極16および下部薄膜電極14で挟持された領域は、印加された電圧に応じて駆動される。
【0054】
なお、圧電フィルム10は、これらの層に加えて、例えば、薄膜電極と圧電体層12とを貼着するための貼着層、および、薄膜電極と保護層とを貼着するための貼着層を有してもよい。貼着層は、貼着対象同士を貼着できれば、公知の貼着剤(接着剤および粘着剤)が利用可能である。また、貼着剤は、圧電体層12から圧電体粒子26を除いた高分子材料(すなわち、高分子マトリックス24)と同じ材料も、好適に利用可能である。なお、貼着層は、上部薄膜電極16側および下部薄膜電極14側の両方に有してもよく、上部薄膜電極16側および下部薄膜電極14側の一方のみに有してもよい。
【0055】
さらに、圧電フィルム10は、これらの層に加え、上部薄膜電極16および下部薄膜電極14からの電極の引出しを行う電極引出し部、ならびに、圧電体層12が露出する領域を覆って、ショート等を防止する絶縁層等を有していてもよい。
電極引出し部としては、薄膜電極および保護層が、圧電体層の面方向外部に、凸状に突出する部位を設けてもよいし、または、保護層の一部を除去して孔部を形成して、この孔部に銀ペースト等の導電材料を挿入して導電材料と薄膜電極とを電気的に導通して、電極引出し部としてもよい。
なお、各薄膜電極において、電極引出し部は1つには制限されず、2以上の電極引出し部を有していてもよい。特に、保護層の一部を除去して孔部に導電材料を挿入して電極引出し部とする構成の場合には、より確実に通電を確保するために、電極引出し部を3以上有するのが好ましい。
【0056】
圧電フィルム10において、上部保護層20および下部保護層18は、上部薄膜電極16および下部薄膜電極14を被覆すると共に、圧電体層12に適度な剛性と機械的強度を付与する役目を担っている。すなわち、本発明の圧電フィルム10において、高分子マトリックス24と圧電体粒子26とからなる圧電体層12は、ゆっくりとした曲げ変形に対しては、非常に優れた可撓性を示す一方で、用途によっては、剛性や機械的強度が不足する場合がある。圧電フィルム10は、それを補うために上部保護層20および下部保護層18が設けられる。
下部保護層18と上部保護層20とは、配置位置が異なるのみで、構成は同じである。従って、以下の説明においては、下部保護層18および上部保護層20を区別する必要がない場合には、両部材をまとめて、保護層ともいう。
【0057】
なお、図示例の圧電フィルム10は、より好ましい態様として、両方の薄膜電極に積層して、下部保護層18および上部保護層20を有する。しかしながら、本発明はこれに制限はされず、下部保護層18および上部保護層20の一方のみを有する構成でもよい。
【0058】
保護層には、制限はなく、各種のシート状物が利用可能であり、一例として、各種の樹脂フィルムが好適に例示される。中でも、優れた機械的特性および耐熱性を有する等の理由により、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイト(PPS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、トリアセチルセルロース(TAC)、および、環状オレフィン系樹脂等からなる樹脂フィルムが好適に利用される。
【0059】
保護層の厚さにも、制限はない。また、上部保護層20および下部保護層18の厚さは、基本的に同じであるが、異なってもよい。
保護層の剛性が高過ぎると、圧電体層12の伸縮を拘束するばかりか、可撓性も損なわれる。そのため、機械的強度やシート状物としての良好なハンドリング性が要求される場合を除けば、保護層は、薄いほど有利である。
【0060】
本発明者の検討によれば、上部保護層20および下部保護層18の厚さがそれぞれ、圧電体層12の厚さの2倍以下であれば、剛性の確保と適度な柔軟性との両立等の点で好ましい結果を得ることができる。
例えば、圧電体層12の厚さが50μmで下部保護層18および上部保護層20がPETからなる場合、下部保護層18および上部保護層20の厚さはそれぞれ、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、25μm以下がさらに好ましい。
【0061】
圧電フィルム10において、圧電体層12と上部保護層20との間には上部薄膜電極16が、圧電体層12と下部保護層18との間には下部薄膜電極14が、それぞれ形成される。以下の説明では、上部薄膜電極16を上部電極16、下部薄膜電極14を下部電極14ともいう。
上部電極16および下部電極14は、圧電フィルム10(圧電体層12)に電界を印加するために設けられる。
なお、下部電極14および上部電極16は、基本的に同じものである。従って、以下の説明においては、下部電極14および上部電極16を区別する必要がない場合には、両部材をまとめて、薄膜電極ともいう。
【0062】
本発明において、薄膜電極の形成材料には制限はなく、各種の導電体が利用可能である。具体的には、炭素、パラジウム、鉄、錫、アルミニウム、ニッケル、白金、金、銀、銅、クロム、モリブデン、これらの合金、酸化インジウムスズ、および、PEDOT/PPS(ポリエチレンジオキシチオフェン-ポリスチレンスルホン酸)等の導電性高分子等が例示される。
中でも、銅、アルミニウム、金、銀、白金、および、酸化インジウムスズは、好適に例示される。その中でも、導電性、コストおよび可撓性等の理由から、銅がより好ましい。
【0063】
また、薄膜電極の形成方法にも制限はなく、真空蒸着およびスパッタリング等の気相堆積法(真空成膜法)、めっきによる成膜法、上記材料で形成された箔を貼着する方法、塗布する方法等の公知の方法が、各種、利用可能である。
【0064】
中でも特に、圧電フィルム10の可撓性が確保できる等の理由で、真空蒸着によって成膜された銅またはアルミニウムの薄膜は、薄膜電極として、好適に利用される。その中でも特に、真空蒸着により製膜された銅の薄膜は、好適に利用される。
【0065】
上部電極16および下部電極14の厚さには、制限はない。また、上部電極16および下部電極14の厚さは、基本的に同じであるが、異なってもよい。
ここで、上述した保護層と同様に、薄膜電極の剛性が高過ぎると、圧電体層12の伸縮を拘束するばかりか、可撓性も損なわれる。そのため、薄膜電極は、電気抵抗が高くなり過ぎない範囲であれば、薄いほど有利である。
【0066】
圧電フィルム10では、薄膜電極の厚さとヤング率との積が、保護層の厚さとヤング率との積を下回れば、可撓性を大きく損なうことがないため、好適である。
例えば、保護層がPET(ヤング率:約6.2GPa)で、薄膜電極が銅(ヤング率:約130GPa)からなる組み合わせの場合、保護層の厚さが25μmだとすると、薄膜電極の厚さは、1.2μm以下が好ましく、0.3μm以下がより好ましく、0.1μm以下がさらに好ましい。
【0067】
上述のように、圧電フィルム10は、特定ポリマーを含む高分子マトリックス24に圧電体粒子26を分散してなる圧電体層12を、上部電極16および下部電極14で挟持し、さらに、上部保護層20および下部保護層18を挟持してなる構成を有する。
このような圧電フィルム10は、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの損失正接(Tanδ)が0.1以上となる極大値が常温に存在するのが好ましい。
これにより、圧電フィルム10が外部から数Hz以下の比較的ゆっくりとした、大きな曲げ変形を受けたとしても、歪みエネルギーを効果的に熱として外部へ拡散できるため、高分子マトリックスと圧電体粒子との界面で亀裂が発生するのを防ぐことができる。
【0068】
圧電フィルム10は、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの貯蔵弾性率(E’)が、0℃において10~30GPa、50℃において1~10GPaであるのが好ましい。
これにより、常温で圧電フィルム10が貯蔵弾性率(E’)に大きな周波数分散を有することができる。すなわち、20Hz~20kHzの振動に対しては硬く、数Hz以下の振動に対しては柔らかく振る舞うことができる。
【0069】
また、圧電フィルム10は、厚さと動的粘弾性測定による周波数1Hzでの貯蔵弾性率(E’)との積が、0℃において1.0×106~2.0×106N/m、50℃において1.0×105~1.0×106N/mであるのが好ましい。
これにより、圧電フィルム10が可撓性および音響特性を損なわない範囲で、適度な剛性と機械的強度を備えることができる。
【0070】
さらに、圧電フィルム10は、動的粘弾性測定から得られたマスターカーブにおいて、25℃、周波数1kHzにおける損失正接(Tanδ)が、0.05以上であるのが好ましい。
これにより、圧電フィルム10を用いたスピーカーの周波数特性が平滑になり、スピーカー(圧電フィルム10)の曲率の変化に伴い最低共振周波数f0が変化した際の音質の変化量も小さくできる。
【0071】
図2~
図4に、圧電フィルム10の製造方法の一例を概念的に示す。
【0072】
まず、
図2に示すように、下部保護層18の上に下部電極14が形成されたシート状物である下部電極積層体11aを準備する。
さらに、
図4に示す、上部薄膜電極16と上部保護層20とが積層されてなるシート状物である上部電極積層体11cを準備する。
【0073】
下部電極積層体11aは、下部保護層18の表面に、真空蒸着、スパッタリング、および、めっき等によって下部薄膜電極14として銅薄膜等を形成して、作製すればよい。同様に、上部電極積層体11cは、上部保護層20の表面に、真空蒸着、スパッタリング、および、めっき等によって上部薄膜電極16として銅薄膜等を形成して、作製すればよい。
または、保護層の上に銅薄膜等が形成された市販品のシート状物を、下部電極積層体11aおよび/または上部電極積層体11cとして利用してもよい。
下部電極積層体11aおよび上部電極積層体11cは、全く同じものでもよく、異なるものでもよい。
【0074】
なお、保護層が非常に薄く、ハンドリング性が悪い時は、必要に応じて、セパレータ(仮支持体)付きの保護層を用いてもよい。なお、セパレータとしては、厚さ25~100μmのPET等を用いることができる。セパレータは、薄膜電極および保護層の熱圧着後、取り除けばよい。
【0075】
次いで、
図3に示すように、下部電極積層体11aの下部電極14上に、圧電体層12となる塗料(塗布組成物)を塗布した後、硬化して圧電体層12を形成して、下部電極積層体11aと圧電体層12とを積層した積層体11bを作製する。
【0076】
まず、有機溶媒に、特定ポリマーを溶解し、さらに、PZT粒子等の圧電体粒子26を添加し、攪拌して分散してなる塗料を調製する。
有機溶媒には制限はなく、ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルエチルケトン、および、シクロヘキサノン等の各種の有機溶媒が利用可能である。
下部電極積層体11aを準備し、かつ、塗料を調製したら、この塗料を下部電極積層体11aにキャスティング(塗布)して、有機溶媒を蒸発して乾燥する。これにより、
図3に示すように、下部保護層18の上に下部電極14を有し、下部電極14の上に圧電体層12を積層してなる積層体11bを作製する。
【0077】
この塗料のキャスティング方法には制限はなく、バーコーター、スライドコーターおよびドクターナイフ等の公知の方法(塗布装置)が、全て、利用可能である。
あるいは、特定ポリマーが加熱溶融可能な物であれば、特定ポリマーを加熱溶融して、これに圧電体粒子26を添加/分散してなる溶融物を作製し、押し出し成形等によって、
図2に示す下部電極積層体11aの上にシート状に押し出し、冷却することにより、
図3に示すような、積層体11bを作製してもよい。
【0078】
なお、上述のように、圧電フィルム10において、高分子マトリックス24には、特定ポリマー以外にも、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等の高分子圧電材料を添加してもよい。
高分子マトリックス24に、これらの高分子圧電材料を添加する際には、上記塗料に添加する高分子圧電材料を溶解すればよい。あるいは、加熱溶融した特定ポリマーに、添加する高分子圧電材料を添加して加熱溶融すればよい。
【0079】
次いで、下部保護層18の上に下部電極14を有し、下部電極14の上に圧電体層12を形成してなる積層体11bの圧電体層12に、分極処理(ポーリング)を行う。
圧電体層12の分極処理の方法には制限はなく、公知の方法が利用可能である。
一例として、圧電体層12に、直接、直流電界を印加する、電界ポーリングが例示される。なお、電界ポーリングを行う場合には、分極処理の前に、上部電極14を形成して、上部電極14および下部電極16を利用して、電界ポーリング処理を行ってもよい。
また、本発明の圧電フィルム10を製造する際には、分極処理は、圧電体層12(高分子複合圧電体)の面方向ではなく、厚さ方向に分極を行う。
なお、この分極処理の前に、圧電体層12の表面を加熱ローラ等を用いて平滑化する、カレンダ処理を施してもよい。このカレンダ処理を施すことで、後述する熱圧着工程がスムーズに行える。
【0080】
次いで、
図4に示すように、分極処理を行った積層体11bの圧電体層12側に、先に準備した上部電極積層体11cを、上部電極16を圧電体層12に向けて積層する。
さらに、この積層体を、下部保護層18および上部保護層20を挟持するようにして、加熱プレス装置または加熱ローラ対等を用いて熱圧着して、積層体11bと上部電極積層体11cとを貼り合わせ、
図1に示すような、本発明の圧電フィルム10を作製する。
または、積層体11bと上部電極積層体11cとを、接着剤を用いて貼り合わせて、好ましくは圧着して、本発明の圧電フィルム10を作製してもよい。
【0081】
このようにして作製される本発明の圧電フィルム10は、面方向ではなく厚さ方向に分極されており、かつ、分極処理後に延伸処理をしなくても大きな圧電特性が得られる。そのため、本発明の圧電フィルム10は、圧電特性に面内異方性がなく、駆動電圧を印加すると、面内方向では全方向に等方的に伸縮する。
【0082】
このような本発明の圧電フィルム10の製造は、カットシート状の下部電極積層体11aおよび上部電極積層体11c等を用いて行ってもよいが、好ましくは、ロール・トゥ・ロール(Roll to Roll)を利用する。以下の説明では、ロール・トゥ・ロールを『RtoR』ともいう。
周知のように、RtoRとは、長尺な原材料を巻回してなるロールから、原材料を引き出して、長手方向に搬送しつつ、成膜や表面処理等の各種の処理を行い、処理済の原材料を、再度、ロール状に巻回する製造方法である。
【0083】
RtoRによって、上述した製造方法で圧電フィルム10を製造する際には、長尺な下部電極積層体11aを巻回してなる第1のロール、および、長尺な上部電極積層体11cを巻回してなる第2のロールを用いる。
第1のロールおよび第2のロールは、全く、同じものでもよい。
【0084】
この第1のロールから下部電極積層体11aを引き出して、長手方向に搬送しつつ、下部電極積層体11aの下部電極14上に、上述した特定ポリマーおよび圧電体粒子26を含む塗料を塗布し、加熱等によって乾燥して、下部電極14上に圧電体層12を形成して、下部電極積層体11aと圧電体層12とを積層した積層体11bを作製する。
次いで、圧電体層12の分極処理を行う。ここで、RtoRによって圧電フィルム10を製造する際には、積層体10bを搬送しつつ、積層体10bの搬送方向と直交する方向に延在して配置した棒状の電極によって、圧電体層12の分極処理を行う。なお、この分極処置の前に、カレンダ処理を行ってもよいのは、上述したとおりである。
次いで、第2のロールから上部電極積層体11cを引き出し、上部電極積層体11cおよび積層体11bを搬送しつつ、貼り合わせローラ等を用いる公知の方法で上部薄膜電極16を圧電体層12に向けて、積層体10bの上に上部電極積層体11cを積層する。
その後、加熱ローラ対によって積層体10bおよび上部電極積層体11cを挟持搬送することで熱圧着して、本発明の圧電フィルム10を完成し、この圧電フィルム10を、ロール状に巻回する。
【0085】
なお、以上の例は、RtoRによって、シート状物(積層体)を、1回だけ、長手方向に搬送して、本発明の圧電フィルム10を作製しているが、これに制限はされない。
例えば、積層体を形成し、分極処理を行った後に、一度、ロール状に、この積層体11bを巻回した積層体ロールとする。次いで、この積層体ロールから積層体11bを引き出して、長手方向に搬送しつつ、前述のように、上部電極積層体11cの積層および熱圧着を行って、圧電フィルム10を作製し、この圧電フィルム10を、ロール状に巻回してもよい。
【0086】
図5に、本発明の圧電フィルム10を利用する、平板型の圧電スピーカーの一例の概念図を示す。
この圧電スピーカー40は、本発明の圧電フィルム10を、電気信号を振動エネルギーに変換する振動板として用いる、平板型の圧電スピーカーである。なお、圧電スピーカー40は、マイクロフォンおよびセンサー等として使用することも可能である。
【0087】
圧電スピーカー40は、圧電フィルム10と、ケース42と、押さえ蓋48とを有して構成される。
ケース42は、プラスチック等で形成される、一面が開放する円筒状の筐体である。ケース42の側面には、ケース42に挿通するパイプ42aが設けられる。
また、押さえ蓋48は、略L字状の断面を有する枠体であり、ケース42の開放面側を挿入して篏合される。
【0088】
圧電スピーカー40は、開放面を閉塞するように圧電フィルム10によってケース42を覆い、圧電フィルム10の上から、押さえ蓋48をケース42に篏合することで、圧電フィルム10によって、ケース42の開放面を気密に閉塞する。なお、必要に応じて、ケース42の側壁上面と、圧電フィルム10との間に、気密を保持するためのOリング等を設けてもよい。
この状態で、パイプ42aからケース42内の空気を抜くことで、
図5に示すように、圧電フィルム10を凹状態にして保持する。逆に、パイプ42aからケース42内に空気を導入することで、圧電フィルム10を凸状態にして保持してもよい。
【0089】
圧電スピーカー40は、下部電極14および上部電極16への駆動電圧の印加によって、圧電フィルム10が面内方向に伸長すると、この伸長分を吸収するために、減圧によって凹状となっている圧電フィルム10が下方に移動する。
逆に、下部電極14および上部電極16への駆動電圧の印加によって、圧電フィルム10が面内方向に収縮すると、この収縮分を吸収するために、凹状の圧電フィルム10が上方に移動する。
圧電スピーカー40は、この圧電フィルム10の振動によって、音を発生する。
【0090】
なお、本発明の圧電フィルム10において、伸縮運動から振動への変換は、圧電フィルム10を湾曲させた状態で保持することでも達成できる。
従って、本発明の圧電フィルム10は、
図5に示すような剛性を有する平板状の圧電スピーカー40ではなく、単に湾曲状態で保持することでも、可撓性を有する圧電スピーカーとして機能させることができる。
【0091】
このような本発明の圧電フィルム10を利用する圧電スピーカーは、良好な可撓性を生かして、例えば、丸めて、または、折り畳んで、カバン等に収容することが可能である。そのため、本発明の圧電フィルム10によれば、ある程度の大きさであっても、容易に持ち運び可能な圧電スピーカーを実現できる。
また、上述のように、本発明の圧電フィルム10は、柔軟性および可撓性に優れ、しかも、面内に圧電特性の異方性がない。そのため、本発明の圧電フィルム10は、どの方向に屈曲させても音質の変化が少なく、しかも、曲率の変化に対する音質変化も少ない。従って、本発明の圧電フィルム10を利用する圧電スピーカーは、設置場所の自由度が高く、また、上述したように、様々な物品に取り付けることが可能である。例えば、本発明の圧電フィルム10を、湾曲状態で洋服等の衣料品およびカバン等の携帯品等に装着することで、いわゆるウエアラブルなスピーカーを実現できる。
【0092】
本発明のフレキシブルディスプレイは、本発明の圧電フィルムをスピーカーとして用いるフレキシブルディスプレイである。
具体的には、可撓性を有する有機EL表示デバイス、可撓性を有する液晶表示デバイス、可撓性を有する電子ペーパー等の、可撓性を有するシート状の表示デバイスの画像表示面と反対側の面に、本発明の圧電フィルム10をスピーカーとして取り付けた、スピーカー搭載型のフレキシブルディスプレイである。以下の説明では、表示デバイスの画像表示面と反対側の面を『表示デバイスの裏面』ともいう。
なお、フレキシブルディスプレイは、カラーディスプレイであってもモノクロディスプレイであってもよい。
【0093】
前述のように、本発明の圧電フィルム10は、柔軟性および可撓性に優れ、しかも、面内に圧電特性の異方性がない。そのため、本発明の圧電フィルム10は、どの方向に屈曲させても音質の変化が少なく、しかも、曲率の変化に対する音質変化も少ない。
従って、このような本発明の圧電フィルム10を、可撓性を有する画像表示デバイスに取り付けてなる本発明のスピーカー搭載型のフレキシブルディスプレイは、可撓性に優れ、しかも、手に持った状態等による湾曲の方向や湾曲量によらず、すなわち任意の変形に好適に対応して、安定した音質の音声出力を行うことができる。
【0094】
本発明の圧電フィルムをスピーカーとして用いるフレキシブルディスプレイの一例について、
図6~
図8を用いて説明する。
図6は、本発明の圧電フィルムを、有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイに利用した、本発明のフレキシブルディスプレイの一例を概念的に示す断面図である。
図6に示す有機ELディスプレイ60は、可撓性を有するシート状の有機EL表示デバイス62の裏面に、本発明の圧電フィルム10を取り付けてなる、スピーカー搭載型の有機ELフレキシブルディスプレイである。
【0095】
本発明のフレキシブルディスプレイにおいて、有機EL表示デバイス62等の可撓性を有するシート状の画像表示デバイスの裏面に、本発明の圧電フィルム10を取り付ける方法には、制限はない。すなわち、シート状物同士を、面を向かい合わせて取り付ける(貼り合わせる)公知の方法が、全て利用可能である。
一例として、接着剤で貼り付ける方法、熱融着で貼り付ける方法、両面テープを用いる方法、粘着テープを用いる方法、略C字状のクランプ等の積層した複数のシート状物を端部や端辺で挟持する治具を用いる方法、リベット等の積層した複数のシート状物を面内(画像表示面を除く)で挟持する治具を用いる方法、積層した複数のシート状物の両面から保護フィルム(少なくとも画像表示側は透明)等で挟持する方法、および、これらを併用する方法等が例示される。
なお、接着剤等を用いて表示デバイスと圧電フィルム10とを貼り付ける際には、全面的に貼り付けても、端部の全周のみを貼り付けても、四隅と中央部等の適宜設定された場所で点状に貼り付けても、これらを併用してもよい。
【0096】
有機ELディスプレイ60において、圧電フィルム10は、高分子複合圧電体からなる圧電体層12と、圧電体層12の一面に設けられる下部薄膜電極14および他面に設けられる上部薄膜電極16と、下部薄膜電極14の表面に設けられる下部保護層18および上部薄膜電極16の表面に設けられる上部保護層20と、を有して構成される、上述した本発明の圧電フィルム10である。
【0097】
他方、有機EL表示デバイス62は、公知の可撓性を有するシート状の有機EL表示デバイス(有機ELディスプレイパネル)である。
すなわち、有機EL表示デバイス62は、一例として、プラスチックフィルム等の基板64の上に、TFT(Thin Film Transistor)等のスイッチング回路を有する画素電極が形成された陽極68を有し、陽極68の上に有機EL材料を用いる発光層70を有し、発光層70の上にITO(酸化インジウム錫)等からなる透明な陰極72を有し、陰極72の上に透明なプラスチック等で形成された透明基板74を有して構成される。
また、陽極68と発光層70との間には、正孔注入層や正孔輸送層を有してもよく、さらに、発光層70と陰極72との間には、電子輸送層や電子注入層を有してもよい。さらに、透明基板74の上には、ガスバリアフィルム等の保護フィルムを有してもよい。
【0098】
なお、図示は省略するが、圧電フィルム10の下部電極14および上部電極16には、圧電フィルム10すなわちスピーカーを駆動するための配線が接続される。さらに、陽極68および陰極72には、有機EL表示デバイス62を駆動するための配線が接続される。
この点に関しては、後述する電子ペーパー78および液晶ディスプレイ94等に関しても、同様である。
【0099】
図7に、本発明の圧電フィルムを、電子ペーパーに利用した、本発明のフレキシブルディスプレイの一例を概念的に示す。
図7に示す電子ペーパー78は、可撓性を有するシート状の電子ペーパーデバイス80の裏面に、本発明の圧電フィルム10を取り付けてなる、スピーカー搭載型の電子ペーパーである。
【0100】
電子ペーパー78において、圧電フィルム10は、前述の物と同様である。
他方、電子ペーパーデバイス80は、公知の可撓性を有する電子ペーパーである。すなわち、一例として、電子ペーパーデバイス80は、プラスチックフィルム等の基板82の上に、TFT等のスイッチング回路を有する画素電極が形成された下部電極84を有し、下部電極84の上に正または負に帯電した白および黒の顔料を内包するマイクロカプセル86aを配列した表示層86を有し、表示層86の上にITO等からなる透明な上部電極90を有し、上部電極90の上に透明なプラスチック等で形成された透明基板92を有して構成される。
【0101】
なお、
図7に示す例は、本発明のフレキシブルディスプレイを、マイクロカプセルを用いる電気泳動方式の電子ペーパーに利用した例であるが、本発明は、これに制限はされない。
すなわち、本発明のフレキシブルディスプレイには、マイクロカプセルを用いない電気泳動方式、酸化還元反応等を利用する化学変化方式、電子粉粒体方式、エレクトロウェッティング方式、液晶方式等、可撓性を有するシート状のものであれば、公知の電子ペーパーが、全て、利用可能である。
【0102】
図8に、本発明の圧電フィルムを、液晶ディスプレイ(LCD)に利用した一例を概念的に示す。
図8に示す液晶ディスプレイ94は、可撓性を有するシート状の液晶ディスプレイデバイス96の裏面に、本発明の圧電フィルム10を取り付けてなる、スピーカー搭載型の液晶フレキシブルディスプレイである。
【0103】
液晶ディスプレイ94において、圧電フィルム10は、前述の物と同様である。
他方、液晶ディスプレイデバイス96は、公知の可撓性を有するシート状の液晶ディスプレイデバイス(液晶ディスプレイパネル)である。すなわち、一例として、液晶ディスプレイデバイス96は、可撓性を有するエッジライトタイプの導光板98、および、この導光板98の端部からバックライトを入射する光源100を有する。液晶ディスプレイデバイス96は、一例として、導光板98の上に、偏光子102を有し、偏光子102の上に透明な下部基板104を有し、下部基板104の上にTFT等のスイッチング回路を有する画素電極が形成された透明な下部電極106を有し、下部電極106の上に液晶層108を有し、液晶層108の上にITO等からなる透明な上部電極110を有し、上部電極110の上に透明な上部基板112を有し、上部基板112の上に偏光子114を有し、偏光子114の上に保護フィルム116を有して構成される。
【0104】
なお、本発明のフレキシブルディスプレイは、有機ELディスプレイ、電子ペーパーおよび液晶ディスプレイに制限はされず、可撓性を有するシート状の表示デバイス(表示パネル)であれば、各種の表示デバイスを用いた画像表示装置が利用可能である。
【0105】
本発明の声帯マイクロフォンおよび楽器用センサーは、本発明の圧電フィルムを利用する声帯マイクロフォンおよび楽器用センサーである。
高分子マトリックス24に圧電体粒子26を分散してなる圧電体層12と、圧電体層12の表面に設けられる下部薄膜電極14および上部薄膜電極16と、薄膜電極それぞれの表面に設けられる下部保護層18および上部保護層20とを有する本発明の圧電フィルム10は、圧電体層12が、振動エネルギーを電気信号に変換する性能も有する。
そのため、本発明の圧電フィルム10は、これを利用して、マイクロフォンや楽器用センサー(ピックアップ)にも、好適に利用可能である。
【0106】
図9に、一般的な声帯マイクロフォンの一例を概念的に示す。
図9に示すように、従来の一般的な声帯マイクロフォン120は、PZT等の圧電体セラミックス126を黄銅板等の金属板128の上に積層し、この積層体の下面に弾性を有するクッション130を、上面にスプリング132を、それぞれ取り付けて、ケース124内に支持し、ケース内から信号線134および136を引き出してなる、複雑な構成を有する。
【0107】
これに対し、本発明の圧電フィルム10を、音声信号を電気信号に変換するセンサーとして用いる本発明の声帯マイクロフォンは、例えば、圧電フィルム10に貼り付け手段を設け、かつ、圧電体層12(下部電極14および上部電極16)が出力する電気信号を取り出す信号線を設けるだけの簡易な構成で、声帯マイクロフォンを構成できる。
また、このような構成を有する本発明の声帯マイクロフォンは、電気信号を取り出す信号線を設けた圧電フィルム10を声帯付近に貼り付けるだけで、声帯マイクロフォンとして作用する。
【0108】
また、
図9に示すような、圧電体セラミックス126と金属板128とを利用する従来の声帯マイクロフォンは、損失正接が非常に小さいため、共振が非常に強く出やすく、起伏の激しい周波数特性となるため、金属的な音色になりがちである。
これに対して、前述のように、本発明の圧電フィルム10は、可撓性および音響特性に優れ、かつ、変形時に音質変化が小さいため、複雑な曲面を有する人の咽喉部に貼り付けることが可能であり、低音から高音まで、忠実に再現できる。
すなわち、本発明によれば、肉声に極めて近い音声信号を出力可能で、装着感を感じさせない、簡易な構成で、超軽量かつ省スペースな声帯マイクロフォンを実現できる。
【0109】
なお、本発明の声帯マイクロフォンにおいて、声帯付近への圧電フィルム10の貼り付け方法には制限はなく、公知のシート状物の貼り付け方法が、各種、利用可能である。
また、圧電フィルム10を、直接、声帯付近に貼り付けるのではなく、圧電フィルム10を、極薄いケースまたは袋体に収容して、声帯付近に貼り付けるようにしてもよい。
【0110】
さらに、本発明の圧電フィルム10を、音声信号を電気信号に変換するセンサーとして用いる本発明の楽器用センサーは、例えば、圧電フィルム10に貼り付け手段を設け、かつ、圧電体層12(下部電極14および上部電極16)が出力する電気信号を取り出す信号線を設けるだけの簡易な構成で、楽器用センサーを構成できる。
また、このような構成有する本発明の楽器用センサーは、電気信号を取り出す信号線を設けた圧電フィルム10を楽器の一部に貼り付けるだけで、楽器用センサー(すなわち、ピックアップ)として作用する。
【0111】
前述の声帯マイクロフォンと同様、本発明の圧電フィルム10は、薄く、かつ、柔軟性に富むので、本発明の楽器用センサーは、可撓性および音響特性に優れ、かつ、変形時に音質変化が小さいため、複雑な曲面を有する楽器の筐体面に貼り付けることが可能であり、低音から高音まで、楽器の音を忠実に再現できる。
しかも、本発明の楽器用センサーは、振動する楽器の筐体面に対する機械的な拘束も殆どないため、ピックアップを取り付けることによる楽器の原音への影響も、最小限に押さえることができる。
【0112】
先の声帯マイクロフォンと同様、本発明の楽器用センサーにおいて、楽器への貼り付け方法には制限はなく、公知のシート状物の貼着方法が、各種、利用可能である。また、本発明の楽器用センサーは、圧電フィルム10を、極薄いケースまたは袋体に収容して、楽器に貼り付けるようにしてもよい。
【0113】
上述したように、本発明の圧電フィルム10は、電圧の印加によって面方向に伸縮し、この面方向の伸縮によって厚さ方向に好適に振動するので、例えば圧電スピーカー等に利用した際に、高い音圧の音を出力できる、良好な音響特性を発現する。
このような良好な音響特性または圧電による高い伸縮性能を発現する本発明の圧電フィルム10は、複数枚を積層することにより、振動板等の被振動体を振動させる圧電振動素子としても、良好に作用する。
なお、圧電フィルム10を積層する際には、短絡(ショート)の可能性がなければ、積層する圧電フィルムは上部保護層20および/または下部保護層18を有さなくてもよい。または、上部保護層20および/または下部保護層18を有さない圧電フィルムを、絶縁層を介して積層してもよい。
【0114】
一例として、圧電フィルム10の積層体を振動板に貼着して、圧電フィルム10の積層体によって振動板を振動させて音を出力するスピーカーとしてもよい。すなわち、この場合には、圧電フィルム10の積層体を、振動板を振動させることで音を出力する、いわゆるエキサイターとして作用させる。
積層した圧電フィルム10に駆動電圧を印加することで、個々の圧電フィルム10が面方向に伸縮し、各圧電フィルム10の伸縮によって、圧電フィルム10の積層体全体が面方向に伸縮する。圧電フィルム10の積層体の面方向の伸縮によって、積層体が貼着された振動板が撓み、その結果、振動板が、厚さ方向に振動する。この厚さ方向の振動によって、振動板は、音を発生する。振動板は、圧電フィルム10に印加した駆動電圧の大きさに応じて振動して、圧電フィルム10に印加した駆動電圧に応じた音を発生する。
従って、この際には、圧電フィルム10自身は、音を出力しない。
【0115】
1枚毎の圧電フィルム10の剛性が低く、伸縮力は小さくても、圧電フィルム10を積層することにより、剛性が高くなり、積層体全体としては伸縮力が大きくなる。その結果、圧電フィルム10の積層体は、振動板がある程度の剛性を有するものであっても、大きな力で振動板を十分に撓ませて、厚さ方向に振動板を十分に振動させて、振動板に音を発生させることができる。
【0116】
圧電フィルム10の積層体において、圧電フィルム10の積層枚数には、制限はなく、例えば振動させる振動板の剛性等に応じて、十分な振動量が得られる枚数を、適宜、設定すればよい。
なお、十分な伸縮力を有するものであれば、1枚の本発明の圧電フィルム10を、同様のエキサイター(圧電振動素子)として用いることも可能である。
【0117】
本発明の圧電フィルム10の積層体で振動させる振動板にも、制限はなく、各種のシート状物(板状物、フィルム)が利用可能である。
一例として、PET等からなる樹脂フィルム、発泡ポリスチレン等からなる発泡プラスチック、段ボール材等の紙材、ガラス板、および、木材等が例示される。さらに、十分に撓ませることができるものであれば、振動板として、表示デバイス等の機器を用いてもよい。
【0118】
圧電フィルム10の積層体は、隣接する圧電フィルム同士を、貼着層(貼着剤)で貼着するのが好ましい。また、圧電フィルム10の積層体と、振動板も、貼着層で貼着するのが好ましい。
貼着層には制限はなく、貼着対象となる物同士を貼着できるものが、各種、利用可能である。従って、貼着層は、粘着剤からなるものでも接着剤からなるものでもよい。好ましくは、貼着後に固体で硬い貼着層が得られる、接着剤からなる接着剤層を用いる。
以上の点に関しては、後述する長尺な圧電フィルム10を折り返してなる積層体でも、同様である。
【0119】
圧電フィルム10の積層体において、積層する各圧電フィルム10の分極方向には、制限はない。なお、上述のように、本発明の圧電フィルム10の分極方向とは、厚さ方向の分極方向である。
従って、圧電フィルム10の積層体において、分極方向は、全ての圧電フィルム10で同方向であってもよく、分極方向が異なる圧電フィルムが存在してもよい。
【0120】
ここで、圧電フィルム10の積層体においては、隣接する圧電フィルム10同士で、分極方向が互いに逆になるように、圧電フィルム10を積層するのが好ましい。
圧電フィルム10において、圧電体層12に印加する電圧の極性は、分極方向に応じたものとなる。従って、分極方向が上部電極16から下部電極14に向かう場合でも、下部電極14から上部電極16に向かう場合でも、積層される全ての圧電フィルム10において、上部電極16の極性および下部電極14の極性を、同極性にする。
従って、隣接する圧電フィルム10同士で、分極方向を互いに逆にすることで、隣接する圧電フィルム10の電極同士が接触しても、接触する電極は同極性であるので、ショート(短絡)する恐れがない。
【0121】
圧電フィルム10の積層体は、長尺な圧電フィルム10を、1回以上、好ましくは、複数回、折り返すことで、複数の圧電フィルム10を積層する構成としてもよい。
長尺な圧電フィルム10を折り返して積層した構成は、以下のような利点を有する。
すなわち、カットシート状の圧電フィルム10を、複数枚、積層した積層体では、1枚の圧電フィルム毎に、上部電極16および下部電極14を、駆動電源に接続する必要がある。これに対して、長尺な圧電フィルム10を折り返して積層した構成では、一枚の長尺な圧電フィルム10のみで積層体を構成できる。また、長尺な圧電フィルム10を折り返して積層した構成では、駆動電圧を印加するための電源が1個で済み、さらに、圧電フィルム10からの電極の引き出しも、1か所でよい。
さらに、長尺な圧電フィルム10を折り返して積層した構成では、必然的に、隣接する圧電フィルム10同士で、分極方向が互いに逆になる。
【0122】
以上、本発明の高分子複合圧電体、圧電フィルム、圧電スピーカー、フレキシブルディスプレイ、声帯マイクロフォンおよび楽器用センサーについて詳細に説明したが、本発明は上述の例に制限はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0123】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明についてより詳細に説明する。なお、本発明はこの実施例に制限されるものでなく、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。
【0124】
<合成例1:ポリマー(P-1)>
3口フラスコに、アクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル(56.23g、240mmol)、チタン(IV)エトキシド(13.69g、60mmol)、および、アセトン(300g)を投入し、得られた溶液を窒素雰囲気下にて50℃で撹拌しながら、5質量%炭酸カリウム水溶液(8.29g)を5分間かけて滴下した。次に、得られた溶液に純水(54.0g)を20分間かけて滴下し、その後、得られた溶液を50℃で5時間撹拌した。
3口フラスコ内を室温に戻した後、得られた溶液にメチルイソブチルケトン(MIBK)(150g)および5質量%食塩水(150g)を添加し、有機相を抽出した。有機相を5質量%食塩水(150g)および純水(150g)で2回順次洗浄し、得られた溶液を減圧蒸留にて濃縮することで、ポリマー(P-1)を60.3質量%含むMIBK溶液を得た(76.3g、収率81%)。
得られたポリマー(P-1)の重量平均分子量は2900であった。
【0125】
なお、ポリマーの重量平均分子量は、下記の装置および条件により測定した。
測定装置:商品名「LC-20AD」((株)島津製作所製)
カラム:Shodex KF-801×2本、KF-802、およびKF-803(昭和電工(株)製)
測定温度:40℃
溶離液:THF、試料濃度0.1~0.2質量%
流量:1mL/分
検出器:UV-VIS検出器(商品名「SPD-20A」、(株)島津製作所製)
分子量:標準ポリスチレン換算
【0126】
<合成例2~12:ポリマー(P-2)~(P-12)>
合成例1で用いたアクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピルおよびチタン(IV)エトキシドの代わりに、表2に示すシラン化合物および金属アルコキシドを用いて、所定の混合比率で混合した以外は、合成例1と同様の手順に従って、ポリマー(P-2)~(P-12)を含むMIBK溶液を得た。
得られたポリマーの重量平均分子量を表2に示す。
なお、表2に示すシラン化合物(A-1)~(A-7)の構造を以下に示す。
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
<実施例1~12、比較例1:圧電フィルムの作製>
前述の
図2~
図4に示す方法によって、
図1に示す圧電フィルム10を作製した。
まず、上記で作製した各ポリマーを含むMIBK溶液を用いて、下記の組成比で、各実施例および比較例で使用される所定のポリマーをメチルエチルケトン(MEK)とシクロヘキサノンの混合溶剤(それぞれ溶剤の含有量は50質量%)に溶解した。その後、この溶液に、PZT粒子を下記の組成比で添加して、プロペラミキサー(回転数2000rpm)で分散させて、圧電体層12を形成するための塗料を調製した。
・PZT粒子・・・・・・・・・・・600質量部
・所定のポリマー・・・・・・・・・60質量部
・MEK・・・・・・・・・・・・・130質量部
・シクロヘキサノン・・・・・・・・170質量部
・MIBK・・・・・・・・・・・・40質量部
なお、PZT粒子は、市販のPZT原料粉を1000~1200℃で焼結した後、これを平均粒径5μmになるように解砕および分級処理したものを用いた。
【0131】
一方、厚さ4μmのPETフィルムに、厚さ0.1μmの銅薄膜を真空蒸着してなるシート状物を2枚(下部電極積層体11aおよび上部電極積層体11cに該当)用意した。すなわち、本例においては、下部薄膜電極14および上部薄膜電極16は、厚さ0.1mの銅蒸着薄膜であり、下部保護層18および上部保護層20は厚さ4μmのPETフィルムとなる。
なお、プロセス中、良好なハンドリングを得るために、PETフィルムには厚さ50μmのセパレータ(仮支持体PET)付きのものを用い、薄膜電極および保護層の熱圧着後に、各保護層のセパレータを取り除いた。
このシート状物(下部電極積層体11a)の銅蒸着薄膜(下部薄膜電極14)の上に、スライドコーターを用いて、先に調製した圧電体層12を形成するための塗料を塗布した。なお、塗料は、乾燥後の塗膜の膜厚が20μmになるように、塗布した。
次いで、銅蒸着薄膜(下部薄膜電極14)の上に塗料を塗布した物を、120℃のホットプレート上で加熱乾燥することでMEKとシクロヘキサノンとMIBKとを蒸発させた。これにより、PET製の下部保護層18の上に銅製の下部薄膜電極14を有し、その上に、厚さが20μmの圧電体層12を形成してなる積層体(積層体11b)を作製した。
【0132】
この積層体11bの圧電体層12を、分極処理した。
【0133】
分極処理を行った積層体11bの上に、上部薄膜電極16(銅薄膜側)上に各実施例および比較例で使用するポリマーを層厚が0.3μmになるように塗布したフィルムの塗布面を圧電体層12に向けて上部電極積層体11cを積層した。
なお、上記層厚0.3μmのポリマー層は、上記で作製した各ポリマーを含むMIBK溶液を塗布して形成した。
次いで、積層体11bと上部電極積層体11cとの積層体を、ラミネータ装置を用いて120℃で熱圧着することで、圧電体層12と下部薄膜電極14および上部薄膜電極16とを接着して、圧電フィルム10を作製した。
【0134】
<圧電スピーカーの作製>
作製した圧電フィルムからφ70mmの円形試験片を切り出し、
図5に示すような圧電スピーカーを作製した。
ケースは、一面が開放した円筒状の容器で、開口部の大きさφ60mm、深さ10mmのプラスチック製の円筒状容器を用いた。
圧電フィルムをケースの開口部を覆うように配置して、押さえ蓋により周辺部を固定した後、パイプからケース内を空気を排気し、ケース内の圧力を0.09MPaに維持して、圧電フィルムを凹状に湾曲させて、圧電スピーカーを作製した。
【0135】
<比較例2>
厚さ56μmのPVDFからなるフィルムを用意した。このフィルムの両面に厚さ0.1μmの銅蒸着薄膜を形成して、圧電フィルムを作製した。
得られた圧電フィルムを用いて、上記<圧電スピーカーの作製>の手順に従って、圧電スピーカーを作製した。
【0136】
<圧電特性:音圧評価>
作製した圧電スピーカーについて音圧レベルを測定した。
具体的には、圧電スピーカーの圧電フィルムの中央に向けて、0.25m離間した位置にマイクロフォンを配置し、圧電フィルムの上部電極と下部電極との間に1kHz、10V0-Pのサイン波を入力して、音圧レベルを測定した。また、以下の基準に従って、評価した。
比較例1の音圧レベルとの差(各実施例または比較例の音圧レベル-比較例1の音圧レベル)に基づいて以下のように評価した。
比較例1との音圧レベルの差が、+3dB以上の場合を「A」
比較例1との音圧レベルの差が、+2dB以上+3dB未満の場合を「B」
比較例1との音圧レベルの差が、+1dB以上+2dB未満の場合を「C」
比較例1との音圧レベルの差が、-1dB以上+1dB未満の場合を「D」
比較例1との音圧レベルの差が、-1dB未満の場合を「E」
【0137】
結果を表3にまとめて示す。
なお、表3中、「ポリマー」欄は使用したポリマーの種類を示す。
表3中、「Mの種類」欄は、各ポリマーの式(1)で表される単位中のMの種類を表す。
表3中、「単位」欄は、各ポリマーが有する、式(2-2)で表される単位、および、式(2-3)で表される単位からなる群から選択される単位を表す。
また、各ポリマー中の単位1のモル量と単位2の合計モル量との比(単位1のモル量/単位2の合計モル量)は、上記表2の「混合比率A/B」と同じであった。例えば、ポリマーP-1においては、単位1と単位2との比は80/20であった。従って、ポリマーP-1においては、ポリマーP-1の全単位に対して、単位1の含有量は80モル%であり、単位2の含有量は20モル%であった。
なお、比較例1で使用したシリコーンゴムは、「HTV型液状シリコーン(株式会社エイテックス社製)」である。
【0138】
【0139】
表3に示すように、所定の高分子複合圧電体を用いることにより、所望の効果が得られた。
なかでも、実施例1~7の比較より、ポリマーが式(2-1)で表される単位または式(2-2)で表される単位を有する場合が好ましく、式(2-1)で表される単位を有する場合がより好ましいことが確認された。
また、実施例1~5と実施例8~12の比較より、Mの種類がTiの場合に、より優れた効果が得られることが確認された。
以上の結果より、本発明の効果は、明らかである。
【符号の説明】
【0140】
10 圧電フィルム
11a 下部電極積層体
11b 積層体
11c 上部電極積層体
12 圧電体層
14 下部(薄膜)電極
16 上部(薄膜)電極
18 下部保護層
20 上部保護層
24 高分子マトリックス
26 圧電体粒子
40 圧電スピーカー
42 ケース
48 枠体
60 有機ELディスプレイ
62 有機EL表示デバイス
64、82 基板
68 陽極
70 発光層
72 陰極
74、92 透明基板
78 電子ペーパー
80 電子ペーパーデバイス
84、106 下部電極
86 表示層
86a マイクロカプセル
90、110 上部電極
94 液晶ディスプレイ
96 液晶ディスプレイデバイス
98 導光板
100 光源
102、114 偏光子
104 下部基板
108 液晶層
112 上部基板
116 保護フィルム
120 声帯マイクロフォン
126 圧電体セラミックス
128 金属板
130 クッション
132 スプリング
134、136 信号線