(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置およびホルダ
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20230317BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20230317BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
H01J37/20 A
H01L21/68 N
H01J37/20 D
H01J37/20 F
H01J37/28 B
(21)【出願番号】P 2019223598
(22)【出願日】2019-12-11
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】秦 真人
(72)【発明者】
【氏名】前沢 昇
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-317188(JP,A)
【文献】特開2011-155162(JP,A)
【文献】特開2004-259479(JP,A)
【文献】国際公開第2006/049085(WO,A1)
【文献】特開2005-071775(JP,A)
【文献】中国実用新案第204441270(CN,U)
【文献】特開2007-324099(JP,A)
【文献】特開2010-272586(JP,A)
【文献】特開2019-041029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
H01L 21/683
H01J 37/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子源と、
試料室の内部に設けられ、且つ、第1電極を有するステージと、
前記ステージ上に設けられ、且つ、試料を保持可能なホルダと、
前記試料室の外部に設けられ、且つ、負電圧を供給可能な第1電源と、
前記試料室の内部に設けられ、且つ、前記第1電源および前記第1電極に電気的に接続された第1ケーブルと、
を有し、
前記ホルダには、前記第1電極に電気的に接続された第1電流抑制素子が設けられ、
前記第1電流抑制素子は、抵抗素子または高抵抗ケーブルであり、
前記第1電流抑制素子に含まれる第1導電材料の第1シート抵抗は、前記第1ケーブルに含まれる第3導電材料の第3シート抵抗よりも大きい、荷電粒子線装置。
【請求項2】
荷電粒子源と、
試料室の内部に設けられ、且つ、第1電極を有するステージと、
前記ステージ上に設けられ、且つ、試料を保持可能なホルダと、
前記試料室の外部に設けられ、且つ、負電圧を供給可能な第1電源と、
前記試料室の内部に設けられ、且つ、前記第1電源および前記第1電極に電気的に接続された第1ケーブルと、
を有し、
前記ホルダには、前記第1電極に電気的に接続された第1電流抑制素子が設けられ、
前記第1電流抑制素子は、インダクタまたはサイリスタである、荷電粒子線装置。
【請求項3】
荷電粒子源と、
試料室の内部に設けられ、且つ、第1電極を有するステージと、
前記ステージ上に設けられ、且つ、試料を保持可能なホルダと、
前記試料室の外部に設けられ、且つ、負電圧を供給可能な第1電源と、
前記試料室の内部に設けられ、且つ、前記第1電源および前記第1電極に電気的に接続された第1ケーブルと、
を有し、
前記ホルダには、前記第1電極に電気的に接続された第1電流抑制素子が設けられ、
前記ホルダには、第2電流抑制素子が更に設けられ、
前記第1電流抑制素子の電気的特性は、前記第2電流抑制素子の電気的特性と異なっている、荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項
3に記載の荷電粒子線装置において、
前記第1電流抑制素子および前記第2電流抑制素子は、それぞれ抵抗素子または高抵抗ケーブルであり、
前記第1電流抑制素子に含まれる第1導電材料の第1シート抵抗、および、前記第2電流抑制素子に含まれる第2導電材料の第2シート抵抗は、前記第1ケーブルに含まれる第3導電材料の第3シート抵抗よりも大きく、
前記第1シート抵抗は、前記第2シート抵抗と異なっている、荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項
3に記載の荷電粒子線装置において、
前記第1電流抑制素子および前記第2電流抑制素子は、それぞれインダクタであり、
前記第1電流抑制素子におけるコイルの巻き数またはコイルを構成する導電材料は、前記第2電流抑制素子におけるコイルの巻き数またはコイルを構成する導電材料と異なっている、荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項
3に記載の荷電粒子線装置において、
前記第1電流抑制素子および前記第2電流抑制素子は、それぞれ、p型半導体層およびn型半導体層を含む半導体素子によって構成されるサイリスタであり、
前記第1電流抑制素子における前記p型半導体層の不純物濃度、前記n型半導体層の不純物濃度、前記p型半導体層の幅または前記n型半導体層の幅は、前記第2電流抑制素子における前記p型半導体層の不純物濃度、前記n型半導体層の不純物濃度、前記p型半導体層の幅または前記n型半導体層の幅と異なっている、荷電粒子線装置。
【請求項7】
荷電粒子源と、
試料室の内部に設けられ、且つ、第1電極を有するステージと、
前記ステージ上に設けられ、且つ、試料を保持可能なホルダと、
前記試料室の外部に設けられ、且つ、負電圧を供給可能な第1電源と、
前記試料室の内部に設けられ、且つ、前記第1電源および前記第1電極に電気的に接続された第1ケーブルと、
を有し、
前記ホルダには、前記第1電極に電気的に接続された第1電流抑制素子が設けられ、
前記ステージの一部は、前記ホルダを搬送するための搬送経路を構成し、
前記第1電極は、前記搬送経路に設けられ、
前記搬送経路によって前記ホルダを搬送させる場合、少なくとも、前記ホルダが前記搬送経路に設置された時から、前記ホルダが前記ステージに固定されるまでの期間において、前記第1電極には、前記第1電源から前記負電圧が印加される、荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項
7に記載の荷電粒子線装置において、
前記ホルダが前記ステージに固定された状態において、前記第1電流抑制素子は、前記第1電極に接触している、荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項
8に記載の荷電粒子線装置において、
前記ホルダが前記ステージに固定されている状態で、前記試料室の内部において前記試料を解析する場合、前記荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームが前記試料に照射され、前記荷電粒子ビームの照射期間中において、前記ホルダには、前記第1ケーブル、前記第1電極および前記第1電流抑制素子を介して前記第1電源から前記負電圧が印加される、荷電粒子線装置。
【請求項10】
荷電粒子源と、
試料室の内部に設けられ、第1電極を有し、且つ、試料を保持可能な静電チャックと、
前記試料室の外部に設けられ、且つ、負電圧を供給可能な第1電源と、
前記試料室の内部に設けられ、且つ、前記第1電源および前記第1電極に電気的に接続された第1ケーブルと、
を有し、
前記静電チャックは、前記第1電極と前記第1ケーブルとの間に設けられ、且つ、前記第1電極および前記第1ケーブルに電気的に接続された第1電流抑制素子を更に有し、
前記第1電流抑制素子は、抵抗素子または高抵抗ケーブルであり、
前記第1電流抑制素子に含まれる第1導電材料の第1シート抵抗は、前記第1ケーブルに含まれる第3導電材料の第3シート抵抗よりも大きい、荷電粒子線装置。
【請求項11】
荷電粒子源と、
試料室の内部に設けられ、第1電極を有し、且つ、試料を保持可能な静電チャックと、
前記試料室の外部に設けられ、且つ、負電圧を供給可能な第1電源と、
前記試料室の内部に設けられ、且つ、前記第1電源および前記第1電極に電気的に接続された第1ケーブルと、
を有し、
前記静電チャックは、前記第1電極と前記第1ケーブルとの間に設けられ、且つ、前記第1電極および前記第1ケーブルに電気的に接続された第1電流抑制素子を更に有し、
前記第1電流抑制素子は、インダクタまたはサイリスタである、荷電粒子線装置。
【請求項12】
荷電粒子線装置によって解析される試料を保持するためのホルダであって、
前記荷電粒子線装置の内部に設けられたステージの電極に接触するための接触領域と、
前記接触領域に設けられ、且つ
、インダクタまたはサイリスタによって構成される電流抑制素子と、
を有する、ホルダ。
【請求項13】
請求項
12に記載のホルダにおいて、
前記接触領域には、それぞれ異なる電気的特性を有する複数の前記電流抑制素子が設けられている、ホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、荷電粒子線装置およびホルダに関し、特に、リターディング電圧を印加するための給電機構を有する荷電粒子線装置と、電流抑制素子を備えたホルダとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の解析技術では、例えば走査型電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)のような荷電粒子線装置を用いて、半導体デバイスなどの試料のパターン計測、欠陥検査および画像取得などが行われている。また、解析時には、試料はホルダに保持され、ホルダは試料テーブル上に設置された状態で行われる。その際、試料テーブルを介して、ホルダへリターディング電圧を印加する技術がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、試料とアースとを導通させるための接触端子と、上記試料の表面のアースに対する電位を計測する表面電位計とを備えた荷電粒子線装置が開示され、上記試料にリターディング電圧を印加させる技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、試料にリターディング電圧を印加するための電源および配線部を有する荷電粒子線装置が開示され、上記配線部を真空容器の内部および外部に配置させ、真空容器の内部の配線部に、試料に励起された電流の検出モジュールとして抵抗を設ける技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-272586号公報
【文献】特開2005-071775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示された技術では、リターディング電圧を印加したり遮断したりする際、意図せずに放電してしまった際、または、その放電に伴ってリターディング電圧が急峻に変化した際に、発生する放射ノイズおよび伝導ノイズが発生することがある。そして、それらの影響によって、荷電粒子線装置のコントローラおよび制御部が誤動作するという問題があり、最悪の場合には、荷電粒子線装置の部品が破損するという問題がある。
【0007】
このため、リターディング電圧の印加時に、電源ラインの急峻な電荷の移動を抑制し、荷電粒子線装置の信頼性を向上させる技術が望まれる。また、そのような急峻な電荷の移動を抑制に寄与できるホルダの開発が望まれる。
【0008】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0010】
一実施の形態である荷電粒子線装置は、荷電粒子源と、試料室の内部に設けられ、且つ、第1電極を有するステージと、前記ステージ上に設けられ、且つ、試料を保持可能なホルダと、前記試料室の外部に設けられ、且つ、負電圧を供給可能な第1電源と、前記試料室の内部に設けられ、且つ、前記第1電源および前記第1電極に電気的に接続された第1ケーブルとを有する。ここで、前記ホルダには、前記第1電極に電気的に接続された第1電流抑制素子が設けられている。
【0011】
一実施の形態である荷電粒子線装置は、荷電粒子源と、試料室の内部に設けられ、第1電極を有し、且つ、試料を保持可能な静電チャックと、前記試料室の外部に設けられ、且つ、負電圧を供給可能な第1電源と、前記試料室の内部に設けられ、且つ、前記第1電源および前記第1電極に電気的に接続された第1ケーブルとを有する。ここで、前記静電チャックは、前記第1電極と前記第1ケーブルとの間に設けられ、且つ、前記第1電極および前記第1ケーブルに電気的に接続された第1電流抑制素子を更に有する。
【0012】
一実施の形態であるホルダは、荷電粒子線装置の内部に設けられたステージの電極に接触するための接触領域と、前記接触領域に設けられ、且つ、抵抗素子、高抵抗ケーブル、インダクタまたはサイリスタによって構成される電流抑制素子とを有する。
【発明の効果】
【0013】
一実施の形態によれば、荷電粒子線装置の信頼性を向上させることができる。また、リターディング電圧の印加時に、電源ラインの急峻な電荷の移動を抑制可能なホルダを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態1における荷電粒子線装置を示す模式図である。
【
図2】実施の形態1における荷電粒子線装置の要部を示す模式図である。
【
図3】検討例におけるリターディング電源の電源ラインを示す等価回路図である。
【
図4】実施の形態1におけるリターディング電源の電源ラインを示す等価回路図である。
【
図5】実施の形態1におけるホルダ周辺の構造を示す断面図である。
【
図6】実施の形態2におけるリターディング電源の電源ラインを示す等価回路図である。
【
図7】実施の形態2におけるホルダ周辺の構造を示す断面図である。
【
図8】実施の形態3におけるリターディング電源の電源ラインを示す等価回路図である。
【
図9】実施の形態3における静電チャック周辺の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0016】
また、実施の形態で用いられる図面では、図面を見易くするために、ハッチングが省略されている場合もあり、ハッチングが付されている場合もある。
【0017】
また、実施の形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装および形態も可能である。本開示の技術的思想の範囲および精神を逸脱することなく、構成および構造の変更と、多様な要素の置き換えとが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をそれらに限定して解釈してはならない。
【0018】
また、以下の実施の形態の説明では、荷電粒子線装置として、電子ビームを使用した走査電子顕微鏡(SEM)に、本開示を適用した例を示す。しかし、この実施の形態は限定的に解釈されるべきではなく、例えば、イオンビーム等の荷電粒子ビームを使用する装置、または一般的な観察装置に対しても、本開示は適用され得る。
【0019】
また、本願において説明されるX方向、Y方向およびZ方向は互いに直交している。本願では、Z方向をある構造体の上方向または高さ方向として説明する場合もある。
【0020】
(実施の形態1)
<荷電粒子線装置1の構造>
以下に
図1および
図2を用いて、実施の形態1における荷電粒子線装置1について説明する。荷電粒子線装置1は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)であり、その応用装置である測長SEMである。測長SEMは、半導体デバイスのような試料に含まれる微細パターンの寸法計測に特化した装置である。
図1は、荷電粒子線装置1の全体的な概要を説明する模式図であり、
図2は、荷電粒子線装置1の要部を説明する模式図である。
【0021】
また、実施の形態1で使用される試料10は、例えば半導体技術で製造されたウェハである。ウェハには、半導体基板、上記半導体基板上に形成されたトランジスタなどの半導体素子、および、上記半導体素子上に形成された配線層などが含まれる。また、試料10の状態は、半導体基板のみの場合も含むし、上記半導体基板上に上記半導体素子および上記配線層などが完成されている場合も含むし、これらが製造途中である場合も含む。
【0022】
まず、
図1を用いて、試料10の搬入時および搬出時における、それらの経路および動作について説明する。
【0023】
荷電粒子線装置1は、測長SEMユニット201および試料搬送ユニット202を備え、荷電粒子線装置1の外部において、1枚または複数枚の試料10が収納されたカセット204が、ユーザインタフェース205に設置されている。試料搬送ユニット202は、カセット204と測長SEMユニット201との間で試料10を搬送するための試料搬送用ロボット203を備えている。
【0024】
測長SEMユニット201は、試料室171および準備室172を備え、試料室171には、電子光学系170と、試料テーブル20が保持されたホルダ50を設置可能なステージ60とが設けられている。ステージ60は、X方向、Y方向およびZ方向へ移動が可能である。また、準備室172には、ホルダ搬送用ロボット161が設けられている。
【0025】
カセット204の内部は、窒素などの不活性ガスによって充満され、準備室172では、大気圧および真空のように、圧力の状態遷移が繰り返し行われる。また、試料搬送ユニット202の内部が、窒素などの不活性ガスによって充満されていてもよい。
【0026】
カセット204は、ユーザまたは工場の自動システムによって、ユーザインタフェース205に手動または自動で載置される。ユーザインタフェース205は、ロードポートまたはカセット置台などと呼ばれる場合もある。試料10を収納するカセット204が載置された後に、ユーザまたは工場の自動システムからコントローラ(図示せず)に対して、寸法計測などの処理および命令が入力される。
【0027】
上記コントローラは、入力された処理および命令に従って、試料10を測長SEMユニット201内の試料室171へ搬入するための動作を行う。
【0028】
まず、試料搬送ユニット202内の試料搬送用ロボット203によって、カセット204から試料10が取り出される。次に、出入口173の開閉を伴って、試料搬送用ロボット203に保持されている試料10が、準備室172へ搬入される。
【0029】
準備室172内に実装されているホルダ搬送用ロボット161のアーム上には、ホルダ50が設置されている。試料10は、準備室172内のホルダ50上に搭載され、ホルダ50によって保持される。
【0030】
試料10がホルダ50上に保持された後、上記コントローラは、準備室172内を真空にするように命令を発する。出入口174の開閉に伴って、ホルダ搬送用ロボット161は、試料10が保持されたホルダ50を、試料室171へ搬入する動作210を行う。搬入されたホルダ50は、ステージ60の試料テーブル20の上に載置され、ステージ60の移動機構によって、ステージ60は、電子光学系170の視野範囲内に移動される。上記コントローラが制御部101(
図2参照)を介して電子光学系170の制御を行うことで、試料10のパターンの寸法計測などが実施され、試料10のSEM画像などの解析データが取得される。
【0031】
所望の寸法計測が行われた後に、試料10は、上記説明と逆の手順によって搬出される。ホルダ搬送用ロボット161の動作210によって、ホルダ50は、ステージ60から離脱され、試料室171から準備室172へ搬出される。準備室172において大気開放が行われた後、試料搬送用ロボット203によって、ホルダ50に搭載されていた試料10が取り出され、試料10は、カセット204内へ収納される。
【0032】
その後、次の試料10または次のカセット204の処理が、同様の手順によって実施される。測長SEMは、24時間365日稼働する半導体工場におけるプロセスのインライン装置として用いられる。従って、荷電粒子線装置1には、稼働率および信頼性などの観点において、高い性能が必要とされる。
【0033】
図2を用いて、荷電粒子線装置1の一部である測長SEMユニット201の構成について説明する。
【0034】
まず、電子光学系170の構成および動作の概要について説明する。なお、ここで説明する内容は、基本構成の一例であり、図示および説明を省略している部分も存在する。そのため、様々な機能を実現するために電子光学系170に実装される電子光学系部品およびレンズなどが、
図2に追加、削除または置換されても構わない。
【0035】
図示しない電子光学系電極によって、電子源(荷電粒子源)110から放出され、且つ、加速された電子ビーム(一次電子ビーム、荷電粒子ビーム)EB1は、走査用偏向器113によって、試料10上を一次元または二次元に走査される。この時、電子ビームEB1は、電子レンズ114によって収束され、試料10へ照射される。試料10への照射の際に、電子ビームEB1は、ホルダ50に印加された負電圧であるリターディング電圧31によって減速されている。
【0036】
電子ビームEB1が試料10に照射されると、照射された場所から二次電子および反射電子のような荷電粒子が放出される。この放出された荷電粒子は、試料10に印加されるリターディング電圧31に基づいた加速作用によって、電子源110の方向へ加速され、変換電極111に衝突し、二次電子EB2を発生させる。変換電極111から放出された二次電子EB2は、検出器112によって捕捉される。捕捉された二次電子EB2の量によって検出器112の出力が変化し、この出力に応じて、SEM画像の各ピクセルの輝度が決定される。
【0037】
例えば、二次元像を形成する場合には、走査用偏向器113の制御信号と、検出器112の出力との同期をとることで、走査領域の画像が形成される。例えば試料10上のフォトレジストパターンに対する解析を行う場合、測長SEMでは、フォトレジストパターンのSEM画像が取得され、SEM画像の濃淡信号から、フォトレジストパターンの幅が自動で計測される。
【0038】
電子光学系170の制御およびSEM画像の形成などは、制御部101からの制御信号によって制御される。制御部101には、各種用途の必要数に応じて、コントローラおよび電源が複数実装されている。制御部101は、
図1に示されるユーザインタフェース205のコントローラによって制御される。上記コントローラによって、FAPC(Factory Automation PC)、または、その目視確認ができるモニタを有した情報端末へ、その表示、各コントローラ間への通信、または、工場の自動システムへの通信などが行われる。
【0039】
また、ステージ60は、電子源110側の最表面に試料テーブル20を含み、試料テーブル20は、真空用高電圧ケーブル40、真空封止用のコネクタ46および大気用高電圧ケーブル41を介してリターディング電源30に電気的に接続されている。すなわち、ステージ60は、リターディング電源30に電気的に接続されている。このため、ホルダ50を設置可能なステージ60を介して、ホルダ50および試料テーブル20にリターディング電圧31を印加させることが可能となっている。
【0040】
真空用高電圧ケーブル40、コネクタ46、大気用高電圧ケーブル41およびリターディング電源30は、測長SEMユニット201に含まれているが、真空用高電圧ケーブル40は試料室171の内部に設けられ、大気用高電圧ケーブル41およびリターディング電源30は試料室171の外部に設けられている。コネクタ46は、セラミックなどからなり、試料室171の壁面に取り付けられている。また、コネクタ46は、試料室171の内外を電気的に接続可能にさせるように、真空用高電圧ケーブル40の端部と、大気用高電圧ケーブル41の端部とに接続されている。
【0041】
ここで、ホルダ50を介して試料10へ負電圧であるリターディング電圧31を印加する方法は、リターディング法と呼ばれる。
【0042】
走査型電子顕微鏡において、リターディング法とは、最終加速電圧よりも高い加速電圧の電子ビームEB1を、試料10の直前で減速させることで、高分解能を得る手法である。リターディング法を用いることで、極低加速電圧において、試料10の高分解能の観察が可能となる。この利点として、上記低加速における分解能の改善ができることに加えて、試料10の最表面の微細な状態が観察できること、および、電子ビームEB1によるダメージに敏感な試料10の観察ができることなどが挙げられる。
【0043】
これらの利点によって、リターディング法は採用されているが、そのためには、試料10へ、比較的に大きな負電圧であるリターディング電圧31を印加する必要がある。このようなリターディング電圧31は、例えばマイナス数kVの電圧である。
【0044】
リターディング電圧31は、リターディング電源30の内部で生成され、リターディング電源30の外部へ出力される。出力されたリターディング電圧31は、大気用高電圧ケーブル41およびコネクタ46を介して、試料室171の内部へ導入される。試料室171の内部では、リターディング電圧31は、真空用高電圧ケーブル40を介して、ステージ60の試料テーブル20へ印加される。なお、真空用高電圧ケーブル40は、ステージ60の可動に耐えられるようにステージ60に配線されている。
【0045】
試料10へリターディング電圧31の印加する工程は、ホルダ50がステージ60の試料テーブル20上に設置された後、SEM画像の取得のためにステージ60が視野範囲まで移動する時に開始される。この時、ホルダ50へリターディング電圧31が印加され、ホルダ50の電位は、基準電位からリターディング電位になる。
【0046】
逆に、試料10からリターディング電圧31を遮断する工程は、SEM画像の取得などの作業が終了した後、ホルダ搬送用ロボット161がホルダ50を搬出する前まで行われる。この時、リターディング電圧31は遮断され、ホルダ50の電位は基準電位に戻される。その後、準備室172へホルダ50が搬送される。
【0047】
試料室171の内部において試料10を解析する場合、電子源110から放出された電子ビームEB1が試料10に照射され、電子ビームEB1の照射期間中において、リターディング電圧31は、ホルダ50と試料テーブル20との接触部(接点部)を介してホルダ50へ印加される。ホルダ50へリターディング電圧31が印加されることで、上述のように、ホルダ50と一体になっている試料10へもリターディング電圧31が印加され、試料10の表面がリターディング電位となる。なお、上記接触部は、例えば後述の
図3または
図4のような等価回路図では、接触部301として示されている。
【0048】
ここで、試料室171の内部では、高真空が保たれる必要があるので、できる限りその容量を小さく制作する必要がある。通常、リターディング電源30は、測長SEMユニット201の内部に実装され、試料室171の外部に設けられている。このため、リターディング電源30の電源ラインは、一般的に長くなってしまう傾向がある。
【0049】
<検討例におけるリターディング電源30の電源ラインと、その問題点>
図3は、本願発明者らが検討した検討例における等価回路図であり、リターディング電源30の電源ラインを示す等価回路図である。
【0050】
リターディング電源30は、リターディング電圧31と、パスコンなどのリターディング電源30の出力容量32と、リターディング電源30の出力電流抑制素子33とを有している。
【0051】
リターディング電源30の電源ラインにおいて、大気用高電圧ケーブル41および真空用高電圧ケーブル40の等価回路は、ケーブルの抵抗成分42と、ケーブルの誘導成分43と、ケーブルの抵抗成分44と、ケーブルの容量成分45とによって示されている。ここで、ケーブルの容量成分45は、大気用高電圧ケーブル41、真空用高電圧ケーブル40およびコネクタ46などからなるリターディング電源30の電源ラインの浮遊容量の合計である。実際には、リターディング電源30の電源ライン上の様々な箇所には、小さい浮遊容量が存在しているが、ケーブルの容量成分45には、そのような小さい浮遊容量も含まれる。
【0052】
リターディング電源30の電源ライン上において、試料テーブル20(ステージ60)は、リターディング電源30の電源ラインとホルダ50とが接続される接触部301を有している。リターディング電源30の電源ラインにおいて、ホルダ50の等価回路は、ホルダ50の容量成分51で示すことができる。こちらも上記ケーブルの容量成分45と同様に、実際には、複数の箇所において小さな浮遊容量が存在しており、ここでは、それらの合計をホルダ50の容量成分51として示している。
【0053】
このように、リターディング電源30から見ると、試料10が載置されたホルダ50は、容量性負荷として考えることができる。そのため、マイナス数kVを出力する高電圧電源であるリターディング電源30では、大きな電流は必要が無い。更に、突入電流を防止する目的もあり、出力側には出力電流抑制素子33が実装されている。
【0054】
この出力電流抑制素子33は、非常に重要である。仮に、人が感電した場合であっても、出力電流抑制素子33は、安全な範囲の電流値に絞ることができる機能を有している。また、出力電流抑制素子33は、リターディング電圧31が高電圧であるので、電圧の印加時および遮断時の過渡応答に対して、急峻な変化を抑制する機能も有している。更に、ステージ60の移動中に、大きな電界が発生することを緩和するために、出力電流抑制素子33は、静電誘導などの影響を抑える機能も有している。
【0055】
リターディング電圧31が急峻に変化する場合、急激な電荷の移動(電流)が伴われるが、この急峻な変化は、ステップ応答またはインパルス応答として考えることができる。これらの応答をフーリエ変換すればわかるように、その変化点では、高周波成分が多く含まれるので、高周波成分が、放射ノイズとして空間へ伝搬されることがある。また、ケーブルの容量成分45およびホルダ50の容量成分51などに含まれる浮遊容量などを介して、高周波成分が、伝導ノイズとして、真空試料室、他の信号ケーブル、他の電源ケーブルおよび基準フレームなどへ伝搬されることがある。
【0056】
低電圧回路または小電流回路では、このような放射ノイズまたは伝導ノイズによる影響が大きい。また、共振などの条件によっては、固有な場所で各ノイズが大きくなる場合があるので、制御部101内のコントローラの誤動作を引き起こしたり、最悪の場合は、電子部品の破損に至ったりする可能性がある。これによって荷電粒子線装置1の性能に悪影響が及び、荷電粒子線装置1の信頼性が低下する恐れがある。それらを防ぐためにも、出力電流抑制素子33は重要である。
【0057】
ところが、上述のように、リターディング電源30の電源ラインの大気用高電圧ケーブル41および真空用高電圧ケーブル40は、荷電粒子線装置1の構成上、やむを得ず長くなってしまう。従って、ケーブルの容量成分45が無視できない状態となる。その場合、供給源であるリターディング電源30に、出力電流抑制素子33が存在しているだけでは、上述の期待する効果を発揮させることが困難である。
【0058】
例えば、装置実測では、各容量成分の関係は、「ホルダ50の容量成分51<ケーブルの容量成分45」であり、各容量成分の割合は、「ホルダ50の容量成分51:ケーブルの容量成分45=1:2」であった。
【0059】
ケーブルの容量成分45(静電容量C)が、上述のようにケーブル長などによって大きくなり、リターディング電圧31(電圧V)もマイナス数kVと高いので、Q=CVの関係から、ケーブルの容量成分45に蓄積される電荷Qが非常に大きくなる。
【0060】
リターディング電圧31が印加された状態、つまり、ケーブルの容量成分45に電荷が蓄積された状態であり、且つ、ホルダ50の容量成分51が空状態(ゼロ状態)において、試料テーブル20とホルダ50とが接触部301で接触すると、ケーブルの容量成分45に蓄積された電荷が、空状態のホルダ50の容量成分51へ急激に移動する。これは、電流が急峻に流れることを意味し、リターディング電圧31の急峻な変化を意味する。すなわち、これは、荷電粒子線装置1の信頼性が低下する可能性があることを意味している。
【0061】
また、リターディング電圧31を遮断する際に、ホルダ50の容量成分51またはケーブルの容量成分45に電荷が残されている状態で、基準電位であるホルダ搬送用ロボット161と、ホルダ50とが接触すると、急激な電荷の移動が発生する場合がある。従って、上述と同様に、荷電粒子線装置1の信頼性が低下する可能性がある。
【0062】
電荷の急激な移動が発生した場合、すなわち、急峻な電流が流れた場合には、ケーブルの抵抗成分42およびケーブルの誘導成分43によって、それらが大きな電圧として見えることがある。また、同時にリターディング電圧31の急峻な変化を伴うことになる。
【0063】
この電源ラインの急峻な変化は、リターディング電圧31の印加時および遮断時以外にも、意図せず発生する場合がある。それは、リターディング電源30の電源ラインと、試料室171を構成するチャンバおよびフレームなどの基準電位との間で、沿面放電または空間放電などのような放電が発生した場合である。これらの放電は、例えば、試料10と共に異物が混入してしまった場合に発生する。この場合、異物の周辺に大きな電界集中が発生する、または、異物自体がキャリアとなることによって絶縁破壊が発生し、絶縁破壊が原因となって放電が発生する。
【0064】
また、半導体の製造プロセスでは、様々な材料および様々な薬品が使用され、試料10を構成する膜およびパターン形状には、様々な物質が含まれている。そのため、高真空の試料室171へ試料10を搬入した際に、意図せずに試料10からガスが発生してしまう場合がある。そのガスは、準備室172内で発生するとは限らず、ガスは、試料室171内で発生する場合もある。試料10からガスが発生してしまった場合も、局所的に真空度が下がり、沿面距離または空間距離が耐えられなくなり、放電が発生することがある。ここで、低真空状態は、高真空状態または大気状態よりも放電しやすい状態である、というパッシェンの法則が経験的に知られている。
【0065】
放電時には、本来、電流が流れるはずがない試料室171のフレームまたはケーブルなどに電流が流れると共に、放電時に発生したエネルギーにより、放射ノイズである電磁波も飛び交ってしまう。この放電のインパクトは、多くの電荷の移動を伴った場合に影響が大きくなる。放電が発生すると、ホルダ50の容量成分51およびケーブルの容量成分45に蓄えられていた電荷が、一気に放出されるので、放電のインパクトと共に、上述と同様の急峻な電圧変化が発生し、放射ノイズまたは伝導ノイズが発生する。そのため、放電の影響によって、荷電粒子線装置1の信頼性が低下する可能性がある。
【0066】
<実施の形態1におけるリターディング電源30の電源ライン>
本願発明者らは、以上のような検討例が有する問題点も考慮し、リターディング電源30とホルダ50とを結ぶ電源ラインに関する工夫を行った。
図4は、実施の形態1におけるリターディング電源30の電源ラインの等価回路図を示している。
【0067】
図4に示される電源ラインの各構成は、検討例の
図3に示される電源ラインの各構成とほぼ同様であるが、ホルダ50の構成が検討例と異なっている。従って、以下の説明では、ホルダ50以外の構成についての説明を省略する。
【0068】
ホルダ50は、試料テーブル20(ステージ60)の電極に接触するための接触領域CRを有し、接触領域CRには、電流抑制素子CSEが設けられている。ここで、電流抑制素子CSEは、抵抗素子、高抵抗ケーブル、インダクタまたはサーミスタなどである。実施の形態1においても、試料テーブル20とホルダ50との接触部301を介して、リターディング電圧31の印加および遮断が行われる。なお、電流抑制素子CSEが抵抗素子または高抵抗ケーブルである場合、抵抗素子または高抵抗ケーブルに含まれる導電材料は、真空用高電圧ケーブル40および大気用高電圧ケーブル41に含まれる導電材料よりも、高いシート抵抗を有している。
【0069】
ホルダ50を搬入する動作210に伴って、リターディング電圧31は、試料テーブル20および電流抑制素子CSEを介してホルダ50へ印加され、リターディング電圧31が徐々に上昇する。なお、ここではリターディング電圧31は負電圧なので、実際には、リターディング電圧31が徐々に降下する。以降では、リターディング電圧31を大きくすることを「降下」と表現し、リターディング電圧31を小さくすることを「上昇」と表現する。
【0070】
リターディング電圧31が目標の電位まで到達したら、最終的には、リターディング電圧31が電流抑制素子CSEを介してホルダ50に印加された状態で、上記SEM画像の取得が行われる。
【0071】
SEM画像の取得およびパターン計測の処理などが終了した後、ホルダ50が搬出される際には、ホルダ50が電流抑制素子CSEを介して試料テーブル20に接触している状態で、リターディング電圧31を徐々に上昇させ、ホルダ50が基準電位まで到達した後、ホルダ搬送用ロボット161によってホルダ50が搬出される。
【0072】
ここで、電流抑制素子CSEが抵抗素子または高抵抗ケーブルの場合には、電流抑制素子CSEは、ホルダ50の容量成分51とRCのローパスフィルタの関係になっているので、RCの時定数によって、リターディング電圧31は、ゆっくりと印加されるようになる。すなわち、ケーブルの容量成分45にたまった電荷が、ホルダ50の容量成分51に流れ込む際、または、容量成分51にたまった電荷が、ケーブルの容量成分45に流れ込む際に、電流抑制素子CSEは、これらの電荷の急激な移動を抑制している。
【0073】
また、電流抑制素子CSEがインダクタの場合には、電流抑制素子CSEは、ホルダ50の容量成分51とLCのローパスフィルタの関係になっているので、電流抑制素子CSEは、電流を抑制する機能を有する。インダクタは、急激な電荷の移動を妨げる機能を有し、高周波ノイズを遮断する機能を有する。従って、インダクタは、急峻に変化するような過渡応答において電流を抑制し、定常状態おいて電流を導通させることができる。なお、インダクタは、導体材料を巻くことで形成できるコイルによって構成される。従って、任意の形状または任意の定数で、真空内において金属配線を巻くことで、インダクタを形成することもできる。
【0074】
また、電流抑制素子CSEがサーミスタの場合にも、インダクタと同様の効果が期待できるので、システムに合わせて最適な電流抑制素子CSEを選択することが望ましい。
【0075】
試料10またはホルダ50において、意図しない放電が起きた場合には、ホルダ50の容量成分51にたまった電荷は放出される。しかし、リターディング電圧31が電流抑制素子CSEを介してホルダ50に印加されているので、電流が抑制され、ケーブルの容量成分45からの急激な電荷の放出が抑制され、放電のインパクトが軽減される。
【0076】
ホルダ50が試料室171へ搬入されてから、SEM画像の取得までの期間には、ホルダ50を電子光学系170の視野範囲へ移動させるので、電気的に見れば、少し時間がある。その時間の範囲内において、リターディング電圧31を目標の電位まで徐々に変化させ、ホルダ50にリターディング電圧31を印加させることができる。リターディング電圧31を遮断する場合も同様である。
【0077】
リターディング電圧31が印加または遮断される時の過渡応答の影響を下げるために、及び、急激な電界の変化を防ぐために、制御部101は、プログラムに従って、徐々にリターディング電圧31を上昇または降下させる。しかし、ホルダ50と試料テーブル20との接触部301は、メカニカルスイッチと原理的に同じであるが、その機械的な構造に起因して、極々まれに接触が不良となる状況、または、チャタリングのように離脱と着脱とが繰り返される状況が、発生してしまう可能性がある。そのような場合、上述のように、徐々にリターディング電圧31を変化させたとしても、期待する効果が発揮されない可能性がある。
【0078】
また、例えば、リターディング電圧31の遮断時に、徐々にリターディング電圧31を降下させたとしても、意図せずに電荷が蓄えられている個所が発生していた場合には、電荷が残された状態のまま、ホルダ50と試料テーブル20とが接触する可能性がある。その場合には、上述と同様に、急峻な電荷の移動が発生してしまうことがある。そして、放電のようなイレギュラーな状況の発生の場合には、プログラムで徐々に変化される対応だけでは、急峻な電荷の移動を防ぐことができない。
【0079】
以上を考慮して、実施の形態1では、制御部101のプログラムは従来通りであるが、機械的な構造の追加が行われているのである。すなわち、ホルダ50の接触領域CRにおいて、電流抑制素子CSEの追加が行われている。
【0080】
<電流抑制素子CSEを備えたホルダ50の構造>
図5は、実施の形態1におけるホルダ50周辺の構造を示す断面図である。
【0081】
実施の形態1では、ステージ60の表面(試料テーブル20の表面)に、電流抑制素子CSEに接触するための電極ELが設けられている。電極ELは、真空用高電圧ケーブル40に電気的に接続されている。また、電極ELが周囲の試料テーブル20から電気的に分離するように、電極ELは、絶縁層ILに囲まれている。
【0082】
ステージ60の一部は、ホルダ50を搬送させるための搬送経路A1を構成している。なお、ここでは図示はしないが、ステージ60には、搬送経路A1に沿ってレールおよびベアリングなどのガイド部材が設けられている。
【0083】
ホルダ50の底面付近の一部は、試料テーブル20(ステージ60)の電極に接触するための接触領域CRを構成し、接触領域CRには、電流抑制素子CSEが備えられている。
図4の等価回路における接触部301は、電極ELと、接触領域CRにおける電流抑制素子CSEとの接点(接面)に相当する。また、浮遊容量を最小限にするためには、電流抑制素子CSEは、ホルダ50と一体であることが望ましい。
【0084】
また、電流抑制素子CSEは、ホルダ50の底面ではなく、ホルダ50の内部に設けられていても構わない。例えば、接触領域CRには、電流抑制素子CSEと、電流抑制素子CSEよりもホルダ50の底面側に設けられたホルダ電極とが設けられ、ホルダ50および試料テーブル20は、電流抑制素子CSE、上記ホルダ電極および電極ELを介して電気的に接続されていてもよい。
【0085】
ホルダ50は、搬入または搬出の動作210によって、ステージ60の搬送経路A1を移動する。搬入時では、ホルダ50が搬送経路A1を移動し、ホルダ50がステージ60に固定されるまで、ホルダ50には、電流抑制素子CSEを介してリターディング電圧31が印加されている。また、ホルダ50がステージ60に固定された状態において、ステージ60の電極ELと、ホルダ50の接触領域CRに設けられた電流抑制素子CSEとが、接触している。
【0086】
搬出時には、搬入時と逆の動作が行われる。ホルダ50がステージ60から離脱する前までの期間において、ホルダ50には、電流抑制素子CSEを介してリターディング電圧31が印加されている。
【0087】
また、試料室171の内部において試料10を解析する場合、解析は、ホルダ50がステージ60に固定された状態で行われる。電子ビームEB1の照射期間中において、ホルダ50には、大気用高電圧ケーブル41、真空用高電圧ケーブル40、電極ELおよび電流抑制素子CSEを介して、リターディング電源30からリターディング電圧31が印加される。
【0088】
図4に示されるケーブルの容量成分45の影響を小さくするためには、接触部301の近傍に、電流抑制素子CSEが実装される必要がある。
図5に示されるように、ホルダ50の接触領域CRに電流抑制素子CSEが設けられていることで、ケーブルの容量成分45の影響を小さくすることができる。従って、リターディング電圧31の印加時に、電源ラインの急峻な電荷の移動を抑制することができ、荷電粒子線装置1の信頼性を向上させることができる。
【0089】
また、ステージ60の搬送経路A1に電極ELが設けられ、ホルダ50の底面に電流抑制素子CSEが設けられているので、電極ELと電流抑制素子CSEとの接触面を確保し易い。すなわち、接触部301の面積を大きくすることができる。このため、接触不良またはチャタリングに関する不具合が発生し難いので、ホルダ50へリターディング電圧31を安定して印加させることができる。
【0090】
(実施の形態2)
以下に
図6および
図7を用いて、実施の形態2における荷電粒子線装置1を説明する。なお、以下の説明では、主に実施の形態1との相違点を説明する。
【0091】
実施の形態2では、
図6および
図7に示されるように、ホルダ50の接触領域CRに複数の電流抑制素子CSE1~CSE3が備えられている。なお、ここでは三個の電流抑制素子CSE1~CSE3を例示しているが、電流抑制素子の数は、二個でもよいし、四個以上でもよい。
【0092】
実施の形態1の電流抑制素子CSEと同様に、電流抑制素子CSE1~CSE3は、それぞれ抵抗素子、高抵抗ケーブル、インダクタまたはサーミスタであるが、電流抑制素子CSE1~CSE3は、それぞれ別の素子であってもよいし、それぞれ同じ素子であってもよい。また、電流抑制素子CSE1~CSE3が、それぞれ同じ素子である場合、それぞれの電気的特性が異なっていることが望ましい。
【0093】
例えば、電流抑制素子CSE1~CSE3が、それぞれ抵抗素子または高抵抗ケーブルである場合、電流抑制素子CSE1~CSE3の各々に含まれる導電材料のシート抵抗は、互いに異なっている。電流抑制素子CSE1および電流抑制素子CSE3の各々に含まれる導電材料のシート抵抗は、電流抑制素子CSE2に含まれる導電材料のシート抵抗よりも大きい。
【0094】
電流抑制素子CSE1のシート抵抗が相対的に大きいことで、ファーストコンタクトの影響を和らげることができる。電流抑制素子CSE2のシート抵抗が相対的に小さいことで、所望の時間までにリターディング電圧31の昇圧または降圧を容易に行うことができる。電流抑制素子CSE3のシート抵抗が相対的に大きいことで、放電などのような予期せぬ電荷の移動に対して備えることができる。なお、電流抑制素子CSE1のシート抵抗および電流抑制素子CSE3のシート抵抗は、同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。このように電流抑制素子CSE1~CSE3の各々のシート抵抗を設定することで、荷電粒子線装置1の信頼性低下を防ぐことが可能となる。
【0095】
また、電流抑制素子CSE1~CSE3が、それぞれインダクタである場合、電流抑制素子CSE1~CSE3におけるコイルの巻き数またはコイルを構成する導電材料などが、それぞれ異なっている。
【0096】
また、電流抑制素子CSE1~CSE3が、それぞれサイリスタである場合、それぞれのサイリスタは、例えばp型半導体層およびn型半導体層を含むダイオードまたはトランジスタのような半導体素子によって構成されている。電流抑制素子CSE1~CSE3が、それぞれ上記半導体素子である場合、電流抑制素子CSE1~CSE3におけるp型半導体層の不純物濃度、n型半導体層の不純物濃度、p型半導体層の幅またはn型半導体層の幅などが、それぞれ異なっている。
【0097】
ホルダ50の搬入時には、動作210に伴って、電極ELは、電流抑制素子CSE3、電流抑制素子CSE2および電流抑制素子CSE1の順に接触する。また、ホルダ50の搬出時には、動作210に伴って、電極ELは、電流抑制素子CSE1、電流抑制素子CSE2および電流抑制素子CSE3の順に接触する。リターディング電圧31は、電極ELおよび電流抑制素子CSE1~CSE3を介してホルダ50の試料10へ印加される。
【0098】
また、動作710のように、試料テーブル20の電極ELを搬送経路A1に沿う方向(X方向)に沿って移動させることもできる。その場合、制御部101によって、電極ELが電流抑制素子CSE1~CSE3のうち何れかに接触するかが制御される。このように、ホルダ50および試料テーブル20の相対的な位置において、任意の電流抑制素子CSE1~CSE3への接続を変更することもできるし、例えばリレーのような部品を使用して、接触部301へ信号を送り、任意の接続へ変更することもできる。このように電流抑制素子CSE1~CSE3を選択できるので、アプリケーションまたは荷電粒子線装置1の状況に合わせて、より効果的に急激な電荷の移動を抑制することができる。
【0099】
(実施の形態3)
以下に
図8および
図9を用いて、実施の形態3における荷電粒子線装置1を説明する。なお、以下の説明では、主に実施の形態1との相違点を説明する。
【0100】
実施の形態1の荷電粒子線装置1では、ホルダ50および試料テーブル20が分離されていたが、実施の形態3の荷電粒子線装置1では、ホルダ50および試料テーブル20が一体となった静電チャック80が用いられ、静電チャック80の表面上に試料10が搭載される。また、実施の形態3における動作210では、準備室172のホルダ搬送ロボット161によって、ホルダ50は搬送されず、試料10のみが搬送される。
【0101】
図8は、静電チャック80を用いた場合におけるリターディング電圧31の電源ラインの等価回路図であり、
図9は、静電チャック80周辺の構造を示す断面図である。
【0102】
静電チャック80を用いる場合、試料10を静電吸着するために、試料10の保持台への電極が増える。従って、実施の形態3では、
図8に示されるように、実施の形態1における
図4の等価回路に対して、等価回路が2系統に増えている。
【0103】
静電チャック用電源830は、リターディング電圧31と、リターディング電圧31に電気的に接続された2系統の電源ラインとを有する。第1の電源ラインは、静電チャック電極EL1へ電圧を印加するためのリターディング電圧31に重畳した直流電源83と、出力容量832と、出力電流抑制素子833とを有する。第2の電源ラインは、静電チャック電極EL2へ電圧を印加するためのリターディング電圧31に重畳した直流電源84と、出力容量862と、出力電流抑制素子863とを有する。
【0104】
実施の形態1で説明した真空用高電圧ケーブル40、大気用高電圧ケーブル41およびコネクタ46などの等価回路は、実施の形態3では、ケーブル840およびケーブル850の透過回路として示されている。すなわち、真空用高電圧ケーブル40、大気用高電圧ケーブル41およびコネクタ46などに含まれる抵抗成分42、誘導成分43、抵抗成分44および容量成分45は、直流電源83の第1の電源ラインおよび直流電源84の第2の電源ラインに含まれる下記の各成分に対応している。
【0105】
ケーブル840(直流電源83の第1の電源ライン)は、抵抗成分842、誘導成分843、抵抗成分844および容量成分845を含み、ケーブル850(直流電源84の第2の電源ライン)は、抵抗成分852、誘導成分853、抵抗成分854および容量成分855を含む。
【0106】
静電チャック用電源830の負荷である静電チャック80は、電極EL1と基準電位との間の容量成分81、電極EL2と基準電位との間の容量成分82、および、電極EL1と電極EL2と間の容量成分85を含む。また、静電チャック80は、直流電源83の第1の電源ラインに導入される電流抑制素子CSE1、および、直流電源84の第2の電源ラインに導入される電流抑制素子CSE2を備えている。
【0107】
ここで、第1の電源ラインの容量成分845と、静電チャック80の容量成分85および容量成分81との間で、急激な電荷の移動が発生するような状況において、電流抑制素子CSE1は、それを抑制する機能を有する。また、第2の電源ラインの容量成分855と、静電チャック80の容量成分85および容量成分82との間で、急激な電荷の移動が発生するような状況において、電流抑制素子CSE2は、それを抑制する機能を有する。
【0108】
また、静電チャック80の表面上においても、意図せずに放電が発生する場合がある。その場合でも、容量成分81または容量成分82からの放電による電荷の移動のみに抑制できる。すなわち、電流抑制素子CSE1または電流抑制素子CSE2によって、容量成分845または容量成分855からの電荷の移動が抑制される。
【0109】
図9に示されるように、静電チャック80は、その内部に、静電吸着用の電極EL1と、静電吸着用の電極EL2と、電流抑制素子CSE1と、電流抑制素子CSE2とを有する。電流抑制素子CSE1は、電極EL1とケーブル840の真空用高電圧ケーブルとの間に設けられ、電極EL1およびケーブル840の真空用高電圧ケーブルに電気的に接続されている。また、電流抑制素子CSE2は、電極EL2とケーブル850の真空用高電圧ケーブルとの間に設けられ、電極EL2およびケーブル850の真空用高電圧ケーブルに電気的に接続されている。すなわち、電極EL1および電流抑制素子CSE1は、ケーブル840を介してリターディング電圧31に電気的に接続され、電極EL2および電流抑制素子CSE2は、ケーブル850を介してリターディング電圧31に電気的に接続されている。
【0110】
以上のように、静電チャック80の電極に電流抑制素子CSE1および電流抑制素子CSE2が備えられていることで、浮遊容量を分断することができ、放電を含めた急激な電荷の移動を最小限に抑制することができる。そのため、荷電粒子線装置1の信頼性を向上させることができる。
【0111】
以上、本願の発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本願の発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0112】
1 荷電粒子線装置
10 試料
20 試料テーブル
30 リターディング電源
31 リターディング電圧
32 出力容量
33 出力電流抑制素子
40 真空用高電圧ケーブル
41 大気用高電圧ケーブル
42 ケーブルの抵抗成分
43 ケーブルの誘導成分
44 ケーブルの抵抗成分
45 ケーブルの容量成分
46 コネクタ
50 ホルダ
51 ホルダの容量成分
60 ステージ
80 静電チャック
81 容量成分
82 容量成分
83 直流電源
84 直流電源
101 制御部
110 電子源(荷電粒子源)
111 変換電極
112 検出器
113 走査用偏向器
114 電子レンズ
161 ホルダ搬送用ロボット
171 試料室
172 準備室
173 出入口
174 出入口
203 試料搬送用ロボット
210 搬入および搬出の動作
301 接触部
710 動作
832 出力容量
833 出力電流抑制素子
840 ケーブル
842 ケーブルの抵抗成分
843 ケーブルの誘導成分
844 ケーブルの抵抗成分
845 ケーブルの容量成分
850 ケーブル
852 ケーブルの抵抗成分
853 ケーブルの誘導成分
854 ケーブルの抵抗成分
855 ケーブルの容量成分
862 出力容量
863 出力電流抑制素子
CSE、CSE1~CSE3 電流抑制素子
CR 接触領域
EB1 電子ビーム(荷電粒子ビーム)
EB2 二次電子
EL、EL1、EL2 電極