(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】ウニ冷凍物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23B 4/08 20060101AFI20230320BHJP
A23B 4/06 20060101ALI20230320BHJP
A23L 17/00 20160101ALI20230320BHJP
【FI】
A23B4/08 H
A23B4/06 501B
A23L17/00 H
(21)【出願番号】P 2019109621
(22)【出願日】2019-06-12
【審査請求日】2022-04-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年9月に、水産研究助成事業報告(平成29年度)、第1~6頁、公益財団法人北水協会にて、浸漬液を用いたウニの冷凍技術開発について公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】310010575
【氏名又は名称】地方独立行政法人北海道立総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】弁理士法人IPアシスト
(72)【発明者】
【氏名】三上 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】木村 稔
(72)【発明者】
【氏名】武田 忠明
(72)【発明者】
【氏名】成田 正直
(72)【発明者】
【氏名】菅原 玲
(72)【発明者】
【氏名】野嵜 龍介
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-141057(JP,A)
【文献】特開昭63-279766(JP,A)
【文献】国際公開第2004/076602(WO,A1)
【文献】特開平02-261339(JP,A)
【文献】特開平05-236871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 4/00- 5/22
A23L 5/00- 5/30
A23L 13/00-17/50
A23L 29/00-29/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖、糖アルコール及び水溶性食物繊維からなる群より選択される少なくとも1つの炭水化物を15~40質量%の濃度で含有する浸漬液中にウニ生殖巣を含んでなる、ウニ冷凍物。
【請求項2】
浸漬液が、糖又は糖アルコールと、水溶性食物繊維とを含有する、請求項1に記載のウニ冷凍物。
【請求項3】
糖が、マルトース、トレハロース、ラクトスクロース、ガラクトオリゴ糖又はイソマルトオリゴ糖である、請求項1又は2に記載のウニ冷凍物。
【請求項4】
糖アルコールが、ソルビトールである、請求項1~3のいずれか一項に記載のウニ冷凍物。
【請求項5】
水溶性食物繊維が、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、ガラクトマンナン又は低分子化ガラクトマンナンである、請求項1~4のいずれか一項に記載のウニ冷凍物。
【請求項6】
糖、糖アルコール及び水溶性食物繊維からなる群より選択される少なくとも1つの炭水化物を15~40質量%の濃度で含有する浸漬液中にウニ生殖巣を浸漬する浸漬工程、並びに浸漬液中のウニ生殖巣を浸漬液とともに冷凍する冷凍工程を含む、ウニ冷凍物の製造方法。
【請求項7】
浸漬液が、糖又は糖アルコールと、水溶性食物繊維とを含有する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
糖が、マルトース、トレハロース、ラクトスクロース、ガラクトオリゴ糖又はイソマルトオリゴ糖である、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
糖アルコールが、ソルビトールである、請求項6~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
水溶性食物繊維が、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、ガラクトマンナン又は低分子化ガラクトマンナンである、請求項6~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウニ冷凍物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キタムラサキウニ、ムラサキウニ、エゾバフンウニ、バフンウニ等のウニ(海胆、雲丹とも表される)の生殖巣(以下、単にウニと表すこともある。)は、嗜好性の高い独特な風味と限られた漁獲量から、貴重な高級食材として取引されている。また、ウニの漁期は、産地ごとに一定期間に限られている。そのため、漁期以外の時期や海産物に対する需要が特に高くなる年末年始を含む時期に、また漁場から遠く離れた海外等に対して良質のウニを流通させることのできる技術への期待は高い。
【0003】
ウニ生殖巣を身崩れさせずに流通させる手段の1つとして、ミョウバンの使用が挙げられる。しかし、ミョウバン処理されたウニ生殖巣の消費期限は1週間程度と短期であり、加えて未処理のものと比較して風味が劣るという問題を有する。また、食材の代表的な保存方法は冷凍であるが、ウニ生殖巣は、そのまま冷凍しても解凍すると変質して苦みが生じたり身崩れしたりするなどして商品価値を失ってしまうという問題を有する。
【0004】
ウニ生殖巣の冷凍保存を可能にする幾つかの方法が報告されている。例えば、特許文献1には、生ウニにトレハロースを含有せしめた後、表皮部を加熱処理し、次いで、凍結することを特徴とする冷凍生ウニ製造方法が開示されている。また、特許文献2には、温水に動物性蛋白質系コラーゲンと、植物性アルギン酸化合物と、塩とを添加し溶解した処理溶液に、生ウニを浸漬し、この浸漬処理した生ウニの液切りをして、急速冷凍してなる冷凍ウニが開示されている。さらに、特許文献3には、生ウニを哺乳動物乳に漬けて急速冷凍を行うことを特徴とするウニの冷凍保存方法が開示されている。
【0005】
特許文献1に記載の方法では、ウニ生殖巣の表皮部を加熱処理する(表皮部を凝固させる)ことを必要とするが、そのような表皮部が熱変性されたウニ生殖巣は生ウニとは呼び難く、また風味も本来のものから変わってしまうおそれがある。また、特許文献2に記載の方法では、温水を使用することにより熱変性等の好ましくない影響をウニ生殖巣に与えるおそれがある。さらに特許文献3に記載の方法では、解凍後のウニ生殖巣に付着した哺乳動物乳を取り除くために洗浄する必要があり、また品質を損なわずに冷凍保存が可能な期間に関しては何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-81136号公報
【文献】特開2012-231687号公報
【文献】特開平5-236871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先に述べた課題に加えて、特許文献1又は2に記載の方法では、冷凍前にウニ生殖巣を液切りしていることから、冷凍保存の際には冷凍中のウニ生殖巣の乾燥を抑える工夫が必要とされる。また、液切りして冷凍保存するとウニ生殖巣がむき身の状態で保存されることになり、輸送時に冷凍したウニ生殖巣同士の接触や容器との接触等でウニ生殖巣の表面が傷みやすいという課題がある。
【0008】
本発明は、ウニ生殖巣の冷凍保存、特に長期保存を可能とする新たな方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、所定の炭水化物を高濃度で含有する溶液に浸漬したウニ生殖巣を浸漬液ごと冷凍することで解凍後のウニ生殖巣に身崩れがほとんど生じないこと、長期保存が可能となること、及び液切り後に冷凍する従来の冷凍ウニ生殖巣に見られる輸送時の損傷や長期冷蔵保存時の乾燥を抑えることができることを見いだし、以下の発明を完成させた。
【0010】
(1) 糖、糖アルコール及び水溶性食物繊維からなる群より選択される少なくとも1つの炭水化物を15~40質量%の濃度で含有する浸漬液中にウニ生殖巣を含んでなる、ウニ冷凍物。
(2) 浸漬液が、糖又は糖アルコールと、水溶性食物繊維とを含有する、(1)に記載のウニ冷凍物。
(3) 糖が、マルトース、トレハロース、ラクトスクロース、ガラクトオリゴ糖又はイソマルトオリゴ糖である、(1)又は(2)に記載のウニ冷凍物。
(4) 糖アルコールが、ソルビトールである、(1)~(3)のいずれか一項に記載のウニ冷凍物。
(5) 水溶性食物繊維が、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、ガラクトマンナン又は低分子化ガラクトマンナンである、(1)~(4)のいずれか一項に記載のウニ冷凍物。
(6) 糖、糖アルコール及び水溶性食物繊維からなる群より選択される少なくとも1つの炭水化物を15~40質量%の濃度で含有する浸漬液中にウニ生殖巣を浸漬する浸漬工程、並びに浸漬液中のウニ生殖巣を浸漬液とともに冷凍する冷凍工程を含む、ウニ冷凍物の製造方法。
(7) 浸漬液が、糖又は糖アルコールと、水溶性食物繊維とを含有する、(6)に記載の製造方法。
(8) 糖が、マルトース、トレハロース、ラクトスクロース、ガラクトオリゴ糖又はイソマルトオリゴ糖である、(6)又は(7)に記載の製造方法。
(9) 糖アルコールが、ソルビトールである、(6)~(8)のいずれか一項に記載の製造方法。
(10) 水溶性食物繊維が、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、ガラクトマンナン又は低分子化ガラクトマンナンである、(6)~(9)のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるウニ冷凍物は品質を維持したまま長期保存が可能であることから、年末年始等のウニへの需要が高まる時期や、輸送に時間を要する地域、特に海外に対しても、解凍後の身崩れがほとんど生じない良質のウニを提供することが可能になる。さらに、浸漬液中の炭水化物を選択することによって、生鮮時に近い食感や食味を有する良質のウニを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1において塩水又は糖アルコール含有浸漬液を用いて冷凍保存したウニ生殖巣の水分含量を示すグラフである。
【
図2】実施例1において塩水又は糖アルコール含有浸漬液を用いて冷凍保存したウニ生殖巣の官能評価結果を示すグラフである。
【
図3】実施例1において塩水又は糖アルコール含有浸漬液を用いて冷凍保存したウニ生殖巣の官能評価基準を示す図である。
【
図4】実施例2において塩水、糖含有浸漬液又は水溶性食物繊維含有浸漬液を用いて冷凍保存したウニ生殖巣の水分含量を示すグラフである。
【
図5】実施例2において糖含有浸漬液又は水溶性食物繊維含有浸漬液を用いて冷凍保存したウニ生殖巣の官能評価結果を示すグラフである。
【
図6】実施例2において糖含有浸漬液又は水溶性食物繊維含有浸漬液を用いて冷凍保存したウニ生殖巣の官能評価基準を示す図である。
【
図7】実施例3において塩水又は水溶性食物繊維含有浸漬液を用いて冷凍保存したウニ生殖巣の水分含量を示すグラフである。
【
図8】実施例3において塩水又は水溶性食物繊維含有浸漬液を用いて冷凍保存したウニ生殖巣の官能評価結果を示すグラフである。
【
図9】実施例3において塩水又は水溶性食物繊維含有浸漬液を用いて冷凍保存したウニ生殖巣の官能評価基準を示す図である。
【
図10】実施例4において塩水、糖含有浸漬液、水溶性食物繊維含有浸漬液又は糖及び水溶性食物繊維含有浸漬液を用いて冷凍保存したウニ生殖巣の水分含量を示すグラフである。
【
図11】実施例4において糖含有浸漬液、水溶性食物繊維含有浸漬液又は糖及び水溶性食物繊維含有浸漬液を用いて冷凍保存したウニ生殖巣の官能評価結果を示すグラフである。
【
図12】実施例4において糖含有浸漬液、水溶性食物繊維含有浸漬液又は糖及び水溶性食物繊維含有浸漬液を用いて冷凍保存したウニ生殖巣の官能評価基準を示す図である。
【
図13】実施例5において塩水、糖アルコール含有浸漬液、糖含有浸漬液、水溶性食物繊維含有浸漬液又は糖及び水溶性食物繊維含有浸漬液を用いて長期冷凍保存したウニ生殖巣の水分含量を示すグラフである。
【
図14】実施例5において塩水、糖アルコール含有浸漬液、糖含有浸漬液、水溶性食物繊維含有浸漬液又は糖及び水溶性食物繊維含有浸漬液を用いて長期冷凍保存したウニ生殖巣の官能評価結果を示すグラフである。
【
図15】実施例5において塩水、糖アルコール含有浸漬液、糖含有浸漬液、水溶性食物繊維含有浸漬液又は糖及び水溶性食物繊維含有浸漬液を用いて長期冷凍保存したウニ生殖巣の官能評価基準を示す図である。
【
図16】実施例6において塩水、糖含有浸漬液、水溶性食物繊維含有浸漬液又は糖及び水溶性食物繊維含有浸漬液を用いて長期冷凍保存したウニ生殖巣の水分含量を示すグラフである。
【
図17】実施例6において塩水、糖含有浸漬液、水溶性食物繊維含有浸漬液又は糖及び水溶性食物繊維含有浸漬液を用いて長期冷凍保存したウニ生殖巣の官能評価結果を示すグラフである。
【
図18】実施例6において塩水、糖含有浸漬液、水溶性食物繊維含有浸漬液又は糖及び水溶性食物繊維含有浸漬液を用いて長期冷凍保存したウニ生殖巣の官能評価基準を示す図である。
【
図19】実施例7において糖及び水溶性食物繊維含有浸漬液を用いて-25℃及び-40℃において長期冷凍保存した漁獲時期の異なるウニ生殖巣の官能評価結果を示すグラフである。
【
図20】実施例7において糖及び水溶性食物繊維含有浸漬液を用いて-25℃及び-40℃において長期冷凍保存した漁獲時期の異なるウニ生殖巣の官能評価基準を示す図である。
【
図21】実施例8において塩水を用いて浸漬後そのまま又は液切りした後に冷凍保存したウニ生殖巣の水分含量を示すグラフである。
【
図22】実施例8において塩水を用いて浸漬後そのまま又は液切りした後に冷凍保存したウニ生殖巣の官能評価結果を示すグラフである。
【
図23】実施例8において塩水、糖含有浸漬液又は水溶性食物繊維含有浸漬液を用いて浸漬後そのまま又は液切りした後に冷凍保存したウニ生殖巣の官能評価基準を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1の態様は、糖、糖アルコール及び水溶性食物繊維からなる群より選択される少なくとも1つの炭水化物を15~40質量%の濃度で含有する浸漬液中にウニ生殖巣(以下、単にウニと表すこともある。)を含んでなる、ウニ冷凍物に関する。本態様のウニ冷凍物は、浸漬液に浸漬したウニ生殖巣が浸透液とともに冷凍されている冷凍物と表すことができ、また典型的な態様においては、その全体又は大部分が浸漬液中に入った状態にあるウニ生殖巣が浸漬液ごと冷凍されている冷凍物と表すこともできる。
【0014】
浸漬液は、糖、糖アルコール及び水溶性食物繊維からなる群より選択される少なくとも1つの炭水化物を15~40質量%の濃度で含有する溶液である。浸漬液に使用する溶媒は典型的には水であるが、解凍後のウニ生殖巣の品質が水を溶媒とした浸漬液を使用した場合と同等であるかぎり、水と少量の他の溶媒との混合物を用いることもできる。浸漬液中の炭水化物の濃度は、15~40質量%であればよいが、20~40質量%が好ましく、25~40質量%がより好ましく、25~35質量%がさらに好ましい。浸漬液が複数の炭水化物を含有する場合であっても、その合計濃度が上記の範囲内にあればよい。なお、15質量%未満の炭水化物を含有する浸漬液を用いたウニ冷凍物は、解凍時にウニ生殖巣の身崩れが生じやすくなる傾向にある。
【0015】
ある実施形態において、浸漬液は、糖、糖アルコール又は水溶性食物繊維のいずれか1つの炭水化物のみを15~40質量%の濃度で含有する溶液、すなわち15~40質量%の糖を含有する溶液、15~40質量%の糖アルコールを含有する溶液、又は15~40質量%の水溶性食物繊維を含有する溶液であることができる。この実施形態において、浸漬液は、15~40質量%の水溶性食物繊維を含有する溶液であることが好ましい。
【0016】
別の実施形態において、浸漬液は、糖、糖アルコール及び水溶性食物繊維からなる群より選択される2つ以上の炭水化物を15~40質量%の濃度で含有する溶液、すなわち糖及び糖アルコール、糖及び水溶性食物繊維、糖アルコール及び水溶性食物繊維、又は糖、糖アルコール及び水溶性食物繊維のすべてを合計で15~40質量%の濃度で含有する溶液であることができ、糖又は糖アルコールと水溶性食物繊維とを合計で15~40質量%の濃度で含有する溶液であることが好ましい。この実施形態において、2つ以上の炭水化物の含有量の比に制限はなく、例えば浸漬液は5~35質量%の糖又は糖アルコールと、5~35質量%の水溶性食物繊維とを合計で15~40質量%になるように含有する溶液であることができ、5~15質量%の糖又は糖アルコールと、10~25質量%の水溶性食物繊維を含有する溶液であることが好ましい。
【0017】
本発明において使用される糖及び糖アルコールは、冷水に対する溶解度が高く、不快な味を呈しない等の食用に適したものであればその種類に制限はなく、その例としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース等の単糖類;スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、パラチノース、ラフィノース、ラクトスクロース、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖等のオリゴ糖類;キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、エリスリトール等の糖アルコールを挙げることができる。
【0018】
解凍後のウニ生殖巣が甘味を呈することが望まれない場合、本発明において使用される糖及び糖アルコールは強い甘味を有さないもの、例えば甘味度が50以下のものが好ましい。このような糖及び糖アルコールの例としては、ラクトース、マルトース、トレハロース、パラチノース、ラフィノース、乳果オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖等を挙げることができ、好ましくはマルトース、トレハロース、ラクトスクロース、ガラクトオリゴ糖又はイソマルトオリゴ糖、特に好ましくはトレハロースである。
【0019】
水溶性食物繊維は、冷水に対する溶解度が高く、不快な味を呈しない等の食用に適したものであればその種類に特に制限はない。本発明において使用される水溶性食物繊維の例としては、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、ガラクトマンナン若しくは低分子化ガラクトマンナン(グアーガム若しくはその分解物)、βグルカン、ペクチン、グルコマンナン、アルギン酸、ラミナリン、フコイジン、カラギーナン等を挙げることができる。本発明においては、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、ガラクトマンナン又は低分子化ガラクトマンナンが好ましく用いられ、難消化性デキストリンがより好ましく、特にイソマルトデキストリンが好ましい。なお、水溶性食物繊維は、水溶性多糖と表すこともできる。
【0020】
水溶性食物繊維は、市販品を使用してもよく、また当該分野で公知の方法で製造したものを使用することもできる。難消化性デキストリンの市販品としては、商品名ファイバリクサ(登録商標)(イソマルトデキストリン、株式会社林原)、商品名ファイバーソル2(とうもろこし由来の焼成デンプン、松谷化学工業株式会社)、商品名パインファイバーW(松谷化学工業株式会社)等を、ポリデキストロースの市販品としては商品名ライテスII(ダニスコジャパン株式会社)、商品名スターライト(登録商標)III(Tate & Lyle社)等を、ガラクトマンナン又は低分子化ガラクトマンナンの市販品としては商品名サンファイバーR(グアーガム分解物、太陽化学株式会社)等を、それぞれ挙げることができる。特に好ましい水溶性食物繊維は、イソマルトデキストリンであるファイバリクサ(登録商標)である。
【0021】
浸漬液に含有される糖、糖アルコール及び水溶性食物繊維は、それぞれ1種類であってもよく、2種以上であってもよい。
【0022】
浸漬液に含有させる炭水化物として強い甘味を有さない糖若しくは糖アルコールを用いることで、又は水溶性食物繊維を用いることで、あるいはこれらの両方を組み合わせることで、ウニ冷凍物は、解凍後の身崩れがほとんど生じないのみならず、生鮮時に近い食感や食味を有する良質のウニを提供することができる。
【0023】
浸漬液は、冷凍保存を妨げず、また好ましくない風味をウニ生殖巣に与えるものでない限り、糖、糖アルコール及び水溶性食物繊維以外の物質を含有することは妨げられない。例えば、浸漬液は、適当量のpH緩衝剤、酸化防止剤、海水と同程度の濃度の塩化ナトリウム、塩類その他のミネラルを含有していてもよい。
【0024】
生殖巣を採取するウニは、食用に供することができるものであれば種類に特に制限はないが、商品価値の高いウニであることが好ましい。そのようなウニの好ましい例としては、キタムラサキウニ、ムラサキウニ、エゾバフンウニ、バフンウニ、アカウニ、シラヒゲウニ、ガンガゼ等を挙げることができる。特に好ましいウニは、キタムラサキウニ、ムラサキウニ、エゾバフンウニ又はバフンウニである。また、ウニの漁期に制限はなく、漁期後期の成熟が進んで柔らかくなったウニであってもよい。
【0025】
浸漬液中のウニ生殖巣の量は、浸漬液を介さずにウニ生殖巣同士が直接接触しない程度の量であればよく、例えば浸漬液100mLあたり1~150g、好ましくは10~100g、より好ましくは20~50gである。
【0026】
ウニ冷凍物の温度は、浸漬液及びウニ生殖巣が冷凍状態を維持できる温度であれば特に制限はなく、例えば-15℃以下、好ましくは-25℃以下、より好ましくは-40℃以下である。また、ウニ冷凍物は、適当な容器、例えばウニ塩水パック用の容器に収められた状態で容器ごと冷凍されているものであることが好ましい。
【0027】
本発明の別の態様は、糖、糖アルコール及び水溶性食物繊維からなる群より選択される少なくとも1つの炭水化物を15~40質量%の濃度で含有する浸漬液中にウニ生殖巣を浸漬する浸漬工程、並びに浸漬液中のウニ生殖巣を浸漬液とともに冷凍する冷凍工程を含む、ウニ冷凍物の製造方法に関する。ここで、浸漬液、糖、糖アルコール、水溶性食物繊維及びウニ等の各用語の意義は、第1の態様において説明したとおりである。
【0028】
本態様の製造方法は、上記浸漬液にウニ生殖巣を浸漬する、より具体的には前記浸漬液100mL中に1~150g、好ましくは10~100g、より好ましくは20~50gのウニ生殖巣を浸漬する工程を含む。本工程において、ウニ生殖巣は、ウニの殻から分離し、消化管等の付着物を除去して洗浄した後そのまま浸漬液に浸漬してもよく、洗浄後のウニ生殖巣を塩水中で保存した後に本発明の浸漬液に浸漬してもよい。ウニ生殖巣とともに少量の塩水が浸漬液に加えられてもよいが、その場合は加えられる塩水による浸漬液の希釈を考慮して濃縮浸漬液を調製し、塩水添加後の浸漬液濃度が上記範囲内に収まるようにする。
【0029】
浸漬工程において、ウニ生殖巣は、その全体又は大部分が浸漬液に浸された又は浸漬液の中に入った状態に置かれる。本態様における用語「浸漬する」は、ウニ生殖巣の全体又は大部分を浸漬液に浸す又は浸漬液中に入れることをいう。
【0030】
浸漬工程は、釜、鍋その他の比較的大きな容器内で浸漬液にウニ生殖巣を浸漬することにより行ってもよく、又はプラスチック製、紙製、木製その他の個包装として冷凍保存が可能な適当な容器内で浸漬液にウニ生殖巣を浸漬することにより行ってもよい。
【0031】
浸漬工程においては長時間の浸漬を行う必要はなく、ウニ生殖巣を浸漬した浸漬液を直ちに次の冷凍工程に供してもよく、又は概ね10分間から16時間程度の浸漬時間を取ってもよい。また浸漬温度は、概ね室温又はそれ以下であればよいが、ウニ生殖巣の鮮度維持及び雑菌増殖防止の観点から、0℃~10℃、とりわけ0℃~5℃において行われることが好ましい。
【0032】
本態様の製造方法は、浸漬液中のウニ生殖巣を浸漬液とともに冷凍する冷凍工程を含む。浸漬工程が釜、鍋その他の比較的大きな容器を用いて行われたときは、その容器ごと冷凍することも可能ではあるが、個包装として冷凍保存が可能な適当な容器にウニ生殖巣を浸漬液ごと移し、容器ごと冷凍することが好ましい。個包装として冷凍保存が可能な適当な容器内で浸漬液にウニ生殖巣を浸漬したときは、当該容器ごと冷凍すればよい。いずれの場合でも、本態様の製造方法では、浸漬液を液切り等して除去することなく、浸漬液ごとウニ生殖巣を冷凍する。
【0033】
冷凍工程における冷凍温度は、浸漬液及びウニ生殖巣が冷凍し、その状態を維持できる温度であれば特に制限はなく、例えば-15℃以下、好ましくは-25℃以下、より好ましくは-40℃以下である。冷凍は、フリーザーその他の一般的な冷凍用設備を用いて行うことができる。本発明によるウニ冷凍物は、上記の冷凍温度で少なくとも3ヶ月、さらには少なくとも6ヶ月の長期保存が可能である。
【0034】
本発明によるウニ冷凍物の解凍方法に制限はなく、容器ごと冷蔵温度で保管して緩慢解凍してもよく、容器を30~40℃程度の温水中に保持して急速解凍してもよく、容器を5~10℃程度の流水中に保持して流水解凍してもよい。
【0035】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる例には限定されない。
【実施例】
【0036】
各実施例において使用した材料及び方法は以下のとおりである。
・ウニ生殖巣
北海道沿岸で漁獲されたキタムラサキウニから製造された塩水ウニ(ウニ生殖巣の塩水保存物)のパックからウニ生殖巣を取り出し、塩水を液切りして用いた。
・浸漬液
(i) 3質量%の塩水
蒸留水に食塩を溶解して調製し、4℃に冷却して用いた。
(ii) 糖アルコール、糖及び/又は水溶性食物繊維を含有する浸漬液
蒸留水に以下の糖アルコール、糖及び/又は水溶性食物繊維を溶解して調製し、4℃に冷却して用いた。なお、実施例2以降の実施例においては、糖アルコール、糖及び/又は水溶性食物繊維に加えて、0.8質量%のNaClを溶解した。
糖アルコール:ソルビトール(ソルビトールFP、合同化成株式会社)
糖:トレハロース(トレハ、株式会社林原)、マルトース(サンマルトーS、株式会社林原)、ラクトスクロース(乳果オリゴ糖700、株式会社林原)、ガラクトオリゴ糖(オリゴメイト、株式会社ヤクルト本社)、イソマルトオリゴ糖(イソマルト900、昭和産業株式会社)
水溶性食物繊維:イソマルトデキストリン(ファイバリクサ、株式会社林原)、難消化性デキストリン(ファイバーソル2、松谷化学工業株式会社)、グアーガム分解物(サンファイバーR、太陽化学株式会社)、ポリデキストロース(ライテスIIパウダー、ダニスコジャパン株式会社)
・浸漬液ウニパックの作製
塩水を液切りしたウニ生殖巣50gをウニ塩水パック用容器(200mL容)に入れ、浸漬液200mLを充填して密封した。
・冷凍
特に明記されないかぎり、-25℃での冷凍及び保存にはコンデンシングユニット(EP22A-BSG、三菱電機)を、-40℃での冷凍及び保存には冷凍庫(スーパーフリーザーSF-3120F3、日本フリーザー)を用いた。
・解凍
特に明記されないかぎり、冷凍した浸漬液ウニパックは5~10℃の水道水により容器ごと流水解凍し、解凍後に浸漬液からウニ生殖巣を取り出し、水分含量の測定及び官能検査に供した。
・水分含量の測定
解凍した浸漬液ウニパックからウニ生殖巣を取り出し、生殖巣表面に付着した水分を除去した後、定温恒温乾燥器(ナチュラルオーブンNDO-450OND、EYELA)を用いて乾燥処理を行い、乾燥前後の重量から水分含量を算出した。
【0037】
実施例1 糖含有浸漬液を用いたウニ冷凍物の製造及び評価
浸漬液として3質量%の塩水又は10~40質量%の糖アルコール(ソルビトール)水溶液を用いて浸漬液ウニパックを作製し、-40℃で2週間冷凍保存した後、解凍して評価に供した。冷凍前及び解凍後のウニ生殖巣の水分含量を
図1に、解凍後のウニ生殖巣の官能評価結果を
図2に、官能評価の評価基準を
図3に示す。官能評価は、6名のパネリストがウニ生殖巣の身崩れを0~5点(0:非常に崩れている~5:非常にしっかりしている)で、甘さを0~5点(0:非常に甘い~5:全く甘くない)で評価し、その平均値を算出した。
【0038】
3質量%塩水区では解凍後にウニ生殖巣の水分含量が増加し、身崩れが観察された。解凍後の水分含量増加及び身崩れは、10質量%糖アルコール区においても確認された。これに対し、20~40質量%の糖アルコール区では、解凍後の水分含量は低下し、身崩れが抑制された。甘さに関しては、糖アルコール濃度の上昇とともに強くなる傾向が認められた。
【0039】
実施例2 糖又は水溶性食物繊維含有浸漬液を用いたウニ冷凍物の製造及び評価
浸漬液として3質量%の塩水、30質量%の糖(甘味度50以下の糖:トレハロース、マルトース、ラクトスクロース、ガラクトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖)水溶液、又は30質量%の水溶性食物繊維(イソマルトデキストリン)水溶液を用いて浸漬液ウニパックを作製し、-40℃で2週間冷凍保存した後、解凍して評価に供した。冷凍前及び解凍後のウニ生殖巣の水分含量を
図4に、解凍後のウニ生殖巣の官能評価結果を
図5に、官能評価の評価基準を
図6に示す。官能評価は、6名のパネリストがウニ生殖巣の身崩れを0~5点(0:非常に崩れている~5:非常にしっかりしている)で、色を0~5点(0:非常に好ましくない~5:非常に好ましい)で、甘さを0~5点(0:非常に甘い~5:全く甘くない)で評価し、その平均値を算出した。
【0040】
すべての糖区及び水溶性食物繊維区において、解凍後のウニ生殖巣の水分含量は低下し、身崩れが抑制された。甘さに関して、トレハロース区、ガラクトオリゴ糖区及びイソマルトデキストリン区、特にイソマルトデキストリン区の評価が高かった。なお、色に関しては、すべての糖区及び水溶性食物繊維区において、冷凍前よりも濃くなる傾向が認められた。この傾向は、ウニ生殖巣の商品価値の観点からむしろ好ましい結果である。
【0041】
実施例3 水溶性食物繊維含有浸漬液を用いたウニ冷凍物の製造及び評価
浸漬液として3質量%の塩水又は30質量%の水溶性食物繊維(イソマルトデキストリン、難消化性デキストリン、グアーガム分解物、ポリデキストロース)水溶液を用いて浸漬液ウニパックを作製し、-25℃で2週間冷凍保存した後、解凍して評価に供した。冷凍前及び解凍後のウニ生殖巣の水分含量を
図7に、解凍後のウニ生殖巣の官能評価結果を
図8に、官能評価の評価基準を
図9に示す。官能評価は、6名のパネリストがウニ生殖巣の身崩れを0~5点(0:非常に崩れている~5:非常にしっかりしている)で、食感を0~5点(0:非常に好ましくない~5:非常に好ましい)で、総合評価を0~5点(0:非常に好ましくない~5:非常に好ましい)で評価し、その平均値を算出した。
【0042】
3質量%塩水区では解凍後にウニ生殖巣の水分含量が増加し、身崩れが観察された。これに対し、いずれの水溶性食物繊維区においても、解凍後のウニ生殖巣の水分含量は低下し、身崩れが抑制され、さらに食感に関して高い評価が得られた。特にイソマルトデキストリン区は、身崩れ、食感、総合評価の全項目において高い評価が得られた。ただし、イソマルトデキストリン区においては若干の食感の硬さが認められた。
【0043】
以上の実施例1~3から、糖又は水溶性食物繊維を単独で含有する浸漬液を用いた冷凍ウニ生殖巣は、使用した糖又は水溶性食物繊維の種類によらず解凍後の身崩れが抑制されること、及びより好ましい色になることが示された。さらに、水溶性食物繊維又は一部の糖を単独で含有する浸漬液を用いた冷凍ウニ生殖巣は、身崩れ抑制に加えて食味、食感において好ましい評価が得られ、特にイソマルトデキストリン、トレハロース又はガラクトオリゴ糖を用いた場合に高い評価が得られることが示された。
【0044】
実施例4 糖及び水溶性食物繊維含有浸漬液を用いたウニ冷凍物の製造及び評価
浸漬液として3質量%の塩水、30質量%の糖(トレハロース、マルトース、ガラクトオリゴ糖)単独の水溶液、30質量%の水溶性食物繊維(イソマルトデキストリン)単独の水溶液、又は20質量%の糖と10質量%の水溶性食物繊維とを含有する混合水溶液、若しくは10質量%の糖と20質量%の水溶性食物繊維とを含有する混合水溶液を用いて浸漬液ウニパックを作製し、-40℃で1週間冷凍保存した後、解凍して評価に供した。冷凍前及び解凍後のウニ生殖巣の水分含量を
図10に、解凍後のウニ生殖巣の官能評価結果を
図11に、官能評価の評価基準を
図12に示す。官能評価は、7名のパネリストがウニ生殖巣の身崩れを0~5点(0:非常に崩れている~5:非常にしっかりしている)で、色を0~5点(0:非常に好ましくない~5:非常に好ましい)で、甘さを0~5点(0:非常に甘い~5:全く甘くない)で評価し、その平均値を算出した。
【0045】
糖単独区、水溶性食物繊維単独区、及び糖・水溶性食物繊維混合区のすべてにおいて、解凍後のウニ生殖巣の水分含量は低下し、身崩れが抑制された。甘さに関しては、糖単独区よりも混合区のほうが概ね評価が高かった。色に関しては、水溶性食物繊維単独区において、及び水溶性食物繊維の割合が高い混合区において評価が高かった。また、水溶性食物繊維単独区において認められた食感の硬さは、混合区では観察されなかった。
【0046】
実施例5 糖及び水溶性食物繊維含有浸漬液を用いたウニ冷凍物の製造及び3ヶ月冷凍後の評価
浸漬液として3質量%の塩水、40質量%の糖アルコール(ソルビトール)単独の水溶液、30質量%の糖(トレハロース、ガラクトオリゴ糖)単独の水溶液、30質量%の水溶性食物繊維(イソマルトデキストリン)単独の水溶液、又は10質量%の糖と20質量%の水溶性食物繊維とを含有する混合水溶液、若しくは20質量%の糖と5質量%の水溶性食物繊維とを含有する混合水溶液を用いて浸漬液ウニパックを作製し、-40℃で3ヶ月間冷凍保存した後、解凍して評価に供した。冷凍前及び解凍後のウニ生殖巣の水分含量(ただし10%ガラクトオリゴ糖+20%イソマルトデキストリン区はデータ欠損)を
図13に、解凍後のウニ生殖巣の官能評価結果を
図14に、官能評価の評価基準を
図15に示す。官能評価は、7名のパネリストがウニ生殖巣の身崩れを0~5点(0:非常に崩れている~5:非常にしっかりしている)で、甘さを0~5点(0:非常に甘い~5:全く甘くない)で、総合評価を0~5点(0:非常に好ましくない~5:非常に好ましい)で評価し、その平均値を算出した。
【0047】
糖又は糖アルコール単独区、水溶性食物繊維単独区、及び糖・水溶性食物繊維混合区のすべてにおいて、解凍後のウニ生殖巣の水分含量は低下し、身崩れが抑制された。甘さ及び総合評価に関して、糖単独区よりも混合区のほうが評価は高かった。また、水溶性食物繊維単独区において認められた食感の硬さは、混合区では観察されなかった。
【0048】
実施例6 糖及び水溶性食物繊維含有浸漬液を用いたウニ冷凍物の製造及び3ヶ月半冷凍後の評価
浸漬液として3質量%の塩水、10~30質量%の糖(トレハロース)単独の水溶液、10~30質量%の水溶性食物繊維(イソマルトデキストリン)単独の水溶液、又は糖と水溶性食物繊維とを質量比1:2で含有する10~30質量%の混合水溶液を用いて浸漬液ウニパックを作製し、-25℃で3ヶ月半冷凍保存した後、解凍して評価に供した。冷凍前及び解凍後のウニ生殖巣の水分含量を
図16に、解凍後のウニ生殖巣の官能評価結果を
図17に、官能評価の評価基準を
図18に示す。官能評価は、6名のパネリストがウニ生殖巣の身崩れを0~5点(0:完全に崩れている~5:非常にしっかりしている)で、液の濁り(0:非常に濁っている~5:全く濁っていない)で、食感を0~5点(0:非常に好ましくない~5:非常に好ましい)で、総合評価を0~5点(0:非常に好ましくない~5:非常に好ましい)で評価し、その平均値を算出した。官能評価にあたり、解凍後の3%質量塩水区をすべての評価項目の0点の基準とし、及び解凍後の30質量%糖・水溶性食物繊維混合区をすべての評価項目の5点の基準とした。
【0049】
糖単独区、水溶性食物繊維単独区、及び糖・水溶性食物繊維混合区のいずれにおいても、10質量%の濃度で解凍後のウニ生殖巣の水分含量は増加した一方、15質量%以上の濃度で解凍後のウニ生殖巣の水分含量の低下、身崩れ及び液の濁りの抑制、並びに食感及び総合評価の向上が用量依存的に認められた。官能評価のいずれの項目においても、糖・水溶性食物繊維混合区は、同濃度の糖単独区及び水溶性食物繊維単独区よりも評価が高かった。
【0050】
実施例7 糖及び水溶性食物繊維含有浸漬液を用いた、漁獲時期の異なるウニ生殖巣からのウニ冷凍物の製造及び6ヶ月冷凍後の評価
2017年7月上旬及び8月下旬に北海道の日本海沿岸で漁獲されたウニを材料として、浸漬液として糖(トレハロース)と水溶性食物繊維(イソマルトデキストリン)とを質量比1:2で含有する30質量%の混合水溶液を用いて浸漬液ウニパックを作製し(ウニパック作製日:7月11日、8月29日)、-25℃又は-40℃で最大で約6ヶ月間冷凍保存した後、10月17日及び2018年1月16日に解凍して評価に供した。解凍後のウニ生殖巣の官能評価結果を
図19に、官能評価の評価基準を
図20に示す。官能評価は、6名のパネリストがウニ生殖巣の身崩れを0~2点(0:崩れている~2:しっかりしている)で、液の濁りを0~2点(0:濁っている~2:濁っていない)で、食感を0~2点(0:好ましくない~2:好ましい)で評価し、その平均値を算出した。
【0051】
-25℃、-40℃いずれの冷凍温度であっても、またいずれの漁獲時期のウニであっても、冷凍保存後に解凍したウニ生殖巣の身崩れ、液の濁り及び食感は高評価のまま維持された。
【0052】
以上の実施例4~6から、糖を単独で含有する浸漬液を用いた冷凍ウニ生殖巣は身崩れが抑制される一方で味が甘くなる傾向があり、また水溶性食物繊維を単独で含有する浸漬液を用いた冷凍ウニ生殖巣は身崩れが抑制され、かつ味は甘くならない一方で食感が硬くなる傾向があるが、糖と水溶性食物繊維との混合浸漬液を用いた冷凍ウニ生殖巣は官能的に高評価であること、またその効果は用量依存的であることが示された。また、実施例5~7から、15質量%以上の濃度の糖、糖アルコール又は水溶性食物繊維単独の浸漬液、及び糖と水溶性食物繊維との混合浸漬液は、3ヶ月以上冷凍保存してもウニ生殖巣の身崩れを抑制する効果を有することが示された。
【0053】
実施例8 浸漬液を伴わないウニ冷凍物との比較
(1) 浸漬液として3質量%の塩水を用いて浸漬液ウニパックを作製した。ウニパックの一部は、1時間の浸漬後に浸漬液を除去し、ウニ生殖巣のみを残した液切り状態で密封した。2種類のウニパックを-25℃で冷凍保存した後、解凍して評価に供した。冷凍前及び2週間の冷凍保存後に解凍したウニ生殖巣の水分含量を
図21に、解凍後のウニ生殖巣の官能評価結果を
図22に、官能評価の評価基準を
図23に示す。官能評価は、7名のパネリストがウニ生殖巣の身崩れを0~5点(0:完全に崩れている~5:非常にしっかりしている)で、食感を0~5点(0:非常に好ましくない~5:非常に好ましい)で、総合評価を0~5点(0:非常に好ましくない~5:非常に好ましい)で評価し、その平均値を算出した。
【0054】
浸漬液として3質量%の塩水を用いた場合、浸漬液ごと冷凍したウニ生殖巣は解凍後に水分含量が増加したが、液切り後に冷凍したウニ生殖巣は解凍後の水分含量が冷凍前より低下した。また、身崩れ、食感、総合評価の全項目において、液切り後に冷凍したウニ生殖巣は、浸漬液ごと冷凍したウニ生殖巣よりも高い評価を得た。
【0055】
(2) 3質量%の塩水に代えて30質量%の糖(トレハロース)単独の水溶液又は30質量%の水溶性食物繊維(イソマルトデキストリン)単独の水溶液を浸漬液として用いて、上記(1)と同様に2種類のウニパックを作製し、-25℃で冷凍保存した後、解凍して評価に供した。
【0056】
浸漬液として30質量%の糖又は水溶性食物繊維の単独水溶液を用いた場合、浸漬液ごと冷凍したウニ生殖巣、液切り後に冷凍したウニ生殖巣のいずれも、解凍後の水分含量が冷凍前より低下し、また身崩れ、食感、総合評価の全項目において高い評価を得た。特に浸漬液ごと冷凍したウニ生殖巣において、水分含量が低く、官能評価が高い傾向にあった。
【0057】
以上から、浸漬液として3質量%の塩水を用いた場合は冷凍前に浸漬液を除去することによって冷凍ウニ生殖巣の身崩れが抑制され、品質が高まる一方、浸漬液として30質量%の糖又は水溶性食物繊維の単独水溶液を用いた場合は浸漬液ごと冷凍するほうが好ましい結果が得られることが示された。