(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】金属微粒子分散体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/00 20060101AFI20230320BHJP
B22F 1/0545 20220101ALI20230320BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20230320BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230320BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20230320BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20230320BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20230320BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20230320BHJP
H01B 1/22 20060101ALN20230320BHJP
【FI】
B22F9/00 B
B22F1/0545
B22F9/24 Z
B22F9/24 E
B22F9/24 F
B22F1/00 K
B82Y30/00
B82Y40/00
H01B1/00 H
H01B13/00 Z
H01B1/22 A
(21)【出願番号】P 2019125298
(22)【出願日】2019-07-04
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000208662
【氏名又は名称】第一稀元素化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】阿部 浩也
(72)【発明者】
【氏名】柳下 定寛
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 理大
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-105401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属微粒子と、界面活性剤と、水と、残りが不可避不純物のみからなり、
前記金属微粒子の平均粒径及び平均円形度係数がそれぞれ15~100nm及び0.60以上であること、
を特徴とする金属微粒子分散体。
【請求項2】
前記界面活性剤が陰イオン界面活性剤であること、
を特徴とする請求項1に記載の金属微粒子分散体。
【請求項3】
前記界面活性剤がラウリル硫酸ナトリウム又はデオキシコール酸ナトリウムであること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の金属微粒子分散体。
【請求項4】
前記界面活性剤の濃度が略臨界ミセル濃度又は前記臨界ミセル濃度以下となっていること、
を特徴とする請求項1~3のうちのいずれかに記載の金属微粒子分散体。
【請求項5】
前記金属微粒子が銀微粒子であること、
を特徴とする請求項1~4のうちのいずれかに記載の金属微粒子分散体。
【請求項6】
前記金属微粒子が結晶粒界を持つ多結晶体であること、
を特徴とする請求項1~5のうちのいずれかに記載の金属微粒子分散体。
【請求項7】
難溶性金属化合物と、界面活性剤と、水と、残りが不可避不純物のみからなる水溶液において、
前記難溶性金属化合物から溶解した金属イオンの還元によって平均粒径が15~100nmの金属微粒子を生成させること、
を特徴とする金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項8】
前記界面活性剤が陰イオン界面活性剤であること、
を特徴とする請求項
7に記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項9】
前記界面活性剤の濃度を略臨界ミセル濃度又は前記臨界ミセル濃度以下とすること、
を特徴とする請求項
7又は8に記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項10】
前記難溶性金属化合物の溶解により水溶液中に存在する金属イオンの濃度を10~100ppmとすること、
を特徴とする請求項
7~9のうちのいずれかに記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項11】
前記難溶性金属化合物を酸化銀(Ag
2O)又は炭酸銀(Ag
2CO
3)とすること、
を特徴とする請求項
7~10のうちのいずれかに記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項12】
前記水溶液に対して、(1)加熱又は(2)可視光の照射の少なくとも一つの処理を施すこと、
を特徴とする請求項
7~11のうちのいずれかに記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属微粒子分散体及びその製造方法に関し、より具体的には、金属ナノ粒子が水中に分散した金属微粒子分散体及びその効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属ナノ粒子の利用分野は拡大しており、例えば、プリンテッドエレクトロニクス、ライフサイエンス及び触媒等の分野での需要拡大が期待されている。ここで、金属ナノ粒子の合成は液相で行われることが多く、一般的に、溶媒に金属塩前駆体、還元剤、界面活性剤及びその他の添加剤を加えることが必要である。
【0003】
しかしながら、合成後は反応副産物や有害な還元剤を洗浄して金属ナノ粒子を高純度化する工程が必要である。加えて、当該金属ナノ粒子を使用する際には適当な溶媒への再分散工程が必要となる。これらの余分な工程は有害物質の廃棄等を含むと共に、製造コストを増加させる原因となる。
【0004】
これに対し、例えば、特許文献1(特開2001-152213号公報)では、Au(III)イオンとPd(II)イオンと、ノニオン系界面活性剤とを含む水溶液に、超音波を照射し、AuとPdとの合金の超微粒子やAuとPtとのコアセル型超微粒子を製造方法が提案されている。
【0005】
前記特許文献1に記載されている金属超微粒子の製造方法においては、超音波の印加によって生じるキャビテーションバブルと水溶液との界面域で、界面活性剤が熱分解することによって還元性ラジカルが生じ、貴金属イオンが還元されることで金属超微粒子が生成する、としている。
【0006】
また、特許文献2(特開2007-327129号公報)では、少なくとも銀イオンと、界面活性剤と、を含む電解液内に電界を形成することにより前記銀イオンを還元して三角錐状の銀三角錐粒子を析出させることを特徴とする銀三角錐粒子の製造方法、が提案されている。
【0007】
前記特許文献2に記載されている銀三角錐粒子の製造方法においては、界面活性剤は分子の主鎖中の炭素数が1以上20以下のアルキル鎖を有する界面活性剤であることが必須であり、当該界面活性剤を含む電解液内に電界を形成することにより、三角錐状の銀三角錐粒子を得ることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-152213号公報
【文献】特開2007-327129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載の金属超微粒子の製造方法においては、キャビテーションバブルによって還元性ラジカルが生じるような、特殊な超音波を印加する必要がある。当該方法は産業的な大量生産に不向きであることに加え、キャビテーションの形成状況は水溶液の領域によって異なり、均質な金属微粒子を製造することは困難である。
【0010】
また、上記特許文献2に記載の銀三角錐粒子の製造方法においては、得られる銀微粒子が三角錐状となっており、導電性インクや接合用ペースト等の一般的な用途に関しては、充填性や流動性等の観点から不向きである。加えて、電解液内に安定的に電界を形成させる必要があり、大量生産に不向きであることに加え、製造コストが高くなる。更に、金属微粒子水溶液を得るためには、電解液から金属微粒子を分離・洗浄した後に、水中に安定かつ均一に分散させる必要がある。
【0011】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、略球状の金属微粒子、界面活性剤及び不可避不純物のみが水に添加された金属微粒子分散体、及び当該金属微粒子分散体を安価かつ簡便に大量生産することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記目的を達成すべく、金属微粒子分散体及びその製造方法について鋭意研究を重ねた結果、金属微粒子の原料として難溶性金属化合物を用いること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明は、金属微粒子と、界面活性剤と、水と、残りが不可避不純物のみからなり、 前記金属微粒子の平均粒径及び平均円形度係数がそれぞれ15~100nm及び0.60以上であること、を特徴とする金属微粒子分散体、を提供する。
【0014】
即ち、本発明の金属微粒子分散体には反応副産物や有害な還元剤が含まれていない。また、平均粒径が15~100nm以下の微細な略球状の金属微粒子は界面活性剤で被覆された状態で水中に安定に均一分散しており、長期保存性にも優れている。
【0015】
ここで、金属微粒子の平均粒径は15~50nmであることが好ましく、15~30nmであることがより好ましい。平均粒径を15nm以上とすることで金属微粒子の安定性を担保することができる。また、100nm以下とすることで、例えば、低温焼結性を利用して接合用組成物や成膜材料として好適に使用することができ、当該低温焼結性は平均粒径を50nm以下とすることで顕著となり、30nm以下とすることでより顕著となる。
【0016】
また、金属微粒子の平均円形度係数は0.70以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましい。金属微粒子が高い平均円形度係数を有することで、良好な充填性や流動性を実現することができ、導電性インクや接合用ペースト等の一般的な用途に好適に使用することができる。
【0017】
本発明の金属微粒子分散体においては、前記界面活性剤が陰イオン界面活性剤であることが好ましく、ラウリル硫酸ナトリウム又はデオキシコール酸ナトリウムであることがより好ましい。これらの陰イオン界面活性剤は生体親和性を有しており、特に、デオキシコール酸ナトリウムは人体に無害である。よって、これらの界面活性剤を用いることで、人体への影響を配慮することなく金属微粒子分散体を使用することができる。
【0018】
また、本発明の金属微粒子分散体においては、前記界面活性剤の濃度が略臨界ミセル濃度又は前記臨界ミセル濃度以下となっていること、が好ましい。界面活性剤の使用量を最小に抑えることで泡立ちを抑えることができ、例えば、樹脂部材等に金属微粒子をコートする際に気泡などによるムラができにくくなり、製造コストを抑えることもできる。
【0019】
また、本発明の金属微粒子分散体においては、前記金属微粒子がロジウム微粒子、パラジウム微粒子、白金微粒子、金微粒子、銀微粒子であること、が好ましく、前記金属微粒子が銀微粒子であること、がより好ましい。銀微粒子分散体は、導電性インク、接合用組成物、触媒及び抗菌用添加剤等に好適に用いることができる。
【0020】
また、本発明の金属微粒子分散体においては、前記金属微粒子が結晶粒界を持つ多結晶体であること、が好ましい。金属微粒子が多結晶となっていることで、金属微粒子に良好な低温焼結性を付与できるだけでなく、均質な金属微粒子からなる金属微粒子分散体を得ることができる。
【0021】
更に、本発明の金属微粒子分散体においては、金属酸化物が分散していること、が好ましい。分散させる金属酸化物の種類、サイズ及び形状は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の金属酸化物を用いることができる。例えば、金属酸化物がジルコニアの場合、ジルコニアナノ粒子、ジルコニアペレット、ジルコニアビーズ、ジルコニアボール等のジルコニア成形体を用いることができる。金属微粒子に加えて金属酸化物が分散していることで、例えば、触媒や導電性セラミックス等として用いることができる。
【0022】
また、本発明は、難溶性金属化合物と、界面活性剤と、水と、残りが不可避不純物のみからなる水溶液において、前記難溶性金属化合物から溶解した金属イオンの還元によって平均粒径が15~100nm以下の金属微粒子を生成させること、を特徴とする金属微粒子分散体の製造方法、も提供する。
【0023】
本発明者が多数の実験を遂行した結果、難溶性金属化合物から徐々に溶解される金属イオンと界面活性剤が水中で共存する状況下においては、当該金属イオンが還元されて金属微粒子が安定的に生成することが明らかになった。当該還元プロセスの正確なメカニズムについては必ずしも明らかになっていないが、水酸化物イオンが還元剤として作用しているものと考えられる。また、適量の界面活性剤が触媒的な役割を果たし、溶解した金属イオンの還元反応を進めているとも考えられる。
【0024】
即ち、本発明の金属微粒子分散体の製造方法においては還元剤の添加が不要であり、金属微粒子及び界面活性剤のみが水に添加された金属微粒子分散体を安価かつ簡便に製造することができる。また、電解液や還元剤等を用いた場合のように、金属微粒子を分離及び高純度化する工程や、水に再分散させる工程が不要である。なお、製造工程における反応副産物はなく、金属微粒子分散体のpHは中性~弱塩基となる。
【0025】
本発明の金属微粒子の製造方法に用いる界面活性剤は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の界面活性剤を用いることができるが、前記界面活性剤が陰イオン界面活性剤であることが好ましく、ラウリル硫酸ナトリウム又はデオキシコール酸ナトリウムを用いることがより好ましい。これらの界面活性剤を用いることで、金属イオンとの反応による金属石鹸や他の難溶性塩の形成を抑制することができる。また、デオキシコール酸ナトリウムは人体に悪影響を及ぼさないという観点からも好ましい。なお、例えば、オレイン酸Naは陰イオン界面活性剤であるが、水溶液中の銀イオンと反応して、金属石鹸の一つであるオレイン酸銀を生成する。
【0026】
また、本発明の金属微粒子分散体の製造方法においては、前記界面活性剤の濃度を略臨界ミセル濃度又は前記臨界ミセル濃度以下とすること、が好ましい。本発明者が多数の実験を遂行した結果、界面活性剤の濃度を臨界ミセル濃度以下とすることで、上述の金属イオンの還元による金属微粒子の生成が進行し、当該生成は界面活性剤の濃度が略臨界ミセル濃度となった場合に最も円滑に進行する。即ち、最も好ましい界面活性剤の濃度は、略臨界ミセル濃度である。ここで、「略臨界ミセル濃度」に関して、理論的な臨界ミセル濃度±3mol/L程度の濃度を意味する。
【0027】
また、本発明の金属微粒子分散体の製造方法においては、前記難溶性金属化合物の溶解度を10~100ppmとすること、が好ましい。難溶性金属化合物の溶解度は温度に依存するが、当該溶解度を10~100ppmとすることで、適量の金属イオンが供給され、平均粒径及び平均円形度係数がそれぞれ15~100nm及び0.60以上である金属微粒子を安定して製造することができる。
【0028】
また、本発明の金属微粒子分散体の製造方法においては、前記難溶性金属化合物を酸化銀(Ag2O)又は炭酸銀(Ag2CO3)とすること、が好ましい。本発明の効果を損なわない限りにおいて難溶性金属化合物は限定されず、従来公知の種々の難溶性金属化合物を用いることができ、所望する金属微粒子の種類やサイズ等に応じて適宜選定すればよいが、酸化銀(Ag2O)又は炭酸銀(Ag2CO3)を用いることで、銀微粒子分散体を好適に得ることができる。ここで、銀微粒子分散体を得るために最も好ましい難溶性金属化合物は酸化銀(Ag2O)である。
【0029】
また、本発明の金属微粒子分散体の製造方法においては、前記水溶液に対して、(1)加熱又は(2)可視光の少なくとも一つの処理を施すこと、が好ましい。これらの処理を施すことで、金属微粒子の生成速度を増加させることができる。
【0030】
更に、本発明の金属微粒子分散体の製造方法においては、金属酸化物を添加すること、が好ましい。製造工程において水に金属酸化物を添加することで、金属微粒子と金属酸化物が均一に混合した分散体を容易に得ることができる。分散させる金属酸化物の種類、サイズ及び形状は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の金属酸化物を用いることができる。例えば、金属酸化物がジルコニアの場合、ジルコニアナノ粒子、ジルコニアペレット、ジルコニアビーズ、ジルコニアボール等のジルコニア成形体を用いることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、略球状の金属微粒子、界面活性剤及び不可避不純物のみが水に添加された金属微粒子分散体、及び当該金属微粒子分散体を安価かつ簡便に大量生産することができる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】実施例1で得られた金属微粒子のTEM観察像である。
【
図2】
図1のTEM観察像の点線で囲った領域からの電子線回折像である。
【
図3】実施例1で得られた金属微粒子の高分解TEM観察像である。
【
図4】実施例4で得られた金属微粒子のTEM観察像である。
【
図5】
図4のTEM観察像の点線で囲った領域からの電子線回折像である。
【
図6】実施例4で得られた金属微粒子の高分解TEM観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら本発明の金属微粒子分散体及びその製造方法について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0034】
(1)金属微粒子分散体
本発明の金属微粒子分散体は、金属微粒子と、界面活性剤と、水と、残りが不可避不純物のみからなり、金属微粒子の平均粒径及び平均円形度係数がそれぞれ15~100nm及び0.60以上であること、を特徴としている。
【0035】
(1-1)金属微粒子
金属微粒子は平均粒径及び平均円形度係数がそれぞれ15~100nm及び0.60以上となっている。即ち、金属微粒子は三角錐や多角形等ではなく、概ね球状を有している。金属微粒子のより好ましい平均粒径は50nm以下であり、最も好ましい平均粒径は30nm以下である。なお、金属微粒子の平均直径は、例えば、透過電子顕微鏡(TEM)観察像から20個程度の金属微粒子の直径を測定して平均することで求めることができ、レーザー回折・散乱式の粒径分布(粒度分布)測定装置を用いて求めることもできる。
【0036】
また、円形度係数とは、粒子の球状度を示す係数であり、当該粒子と真球とを比較したときに、当該粒子の形状に真球から外れた凹凸がどの程度存在しているかの指標となる数値である。金属微粒子の平均円形度係数は0.70以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましい。
【0037】
円形度係数は、粒子を2次元に投影させた図形(真球の場合は真円)について、式(4π×面積)/(周囲長)2により与えられる。円形度係数は0を超え1.0以下の値をとり、円形度係数1.0の球は真球である。なお、球の評価であるため、ランダムに配置した複数の粒子の投影について円形度係数を求め、その平均をとれば、3次元の粒子を2次元に投影することによる誤差を問題ない範囲にまで小さくすることができる。この観点からは、円形度係数を求める際に平均をとる粒子の数は、30以上が好ましい。
【0038】
粒子の円形度係数を求めることができる画像解析ソフトウェアは市販されており、粒子のTEMによる観察像に対して、Mountech Co.,Ltd製の画像解析式粒度分布ソフトウェアMac-Viewを適用してその円形度係数を求めることができる。1つの画像内に解析対象の粒子が30以上存在しない場合は、2以上の画像を用いることにより、解析対象の粒子の数を30以上としてもよい。また、求める係数の誤差を小さくするために、円形度係数を求めるための画像(TEM観察像)では、当該画像全体の面積に占める1つの解析対象の粒子の面積が少なくとも1%以上であり、測定環境が許せば、1つの粒子の面積がさらに大きな割合を占める画像を使用してもよい。これとともに、求める係数の誤差を小さくするために、円形度係数を求めるための画像では、解析対象の粒子の円周部のピクセル数が少なくとも250ピクセル以上であり、好ましくは300ピクセル以上であり、測定環境が許せばさらに大きなピクセル数の画像を使用してもよい。
【0039】
金属微粒子の種類は特に限定されず、例えば、Ag微粒子、Au微粒子、Pt微粒子、Rh微粒子及びPd微粒子等を挙げることができる。また、これらの合金微粒子や、コアシェル構造を有する微粒子であってもよい。
【0040】
(1-2)界面活性剤
界面活性剤は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の界面活性剤を用いることができるが、陰イオン界面活性剤であることが好ましい。陰イオン界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びドデカンスルホン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0041】
ここで、陰イオン界面活性剤の中でも、ドデシル硫酸ナトリウム又はデオキシコール酸ナトリウムを用いることがより好ましい。これらの界面活性剤を用いることで、金属イオンとの反応による金属石鹸や難溶性塩(Agイオンとの反応の場合はAgClやAgBr等)の形成を抑制することができる。また、デオキシコール酸ナトリウムは人体に悪影響を及ぼさないという観点からも好ましい。
【0042】
界面活性剤の疎水鎖長と金属イオンの還元の進行速度には相関が認められ、疎水鎖が長い界面活性剤を使用することで、金属イオンの還元を円滑に進行させることができる。疎水鎖は界面活性剤の炭素数に依存することから、当該炭素数は2以上であることが好ましい。なお、ドデシル硫酸ナトリウムの炭素数は12であり、デオキシコール酸ナトリウムの炭素数は24である。
【0043】
(1-3)金属微粒子分散体の特性
金属微粒子は界面活性剤によって被覆され、水中に安定に均一分散しており、長期保存性にも優れている。
【0044】
金属微粒子分散体における界面活性剤の濃度は、略臨界ミセル濃度又は臨界ミセル濃度以下となっていることが好ましく、最も好ましい界面活性剤の濃度は、略臨界ミセル濃度である。
【0045】
金属微粒子に加えて、金属酸化物を均一分散させることもでき、例えば、ジルコニア微粒子と銀微粒子とが均一混合した金属微粒子分散体として用いることができる。
【0046】
(2)金属微粒子分散体の製造方法
本発明の金属微粒子分散体の製造方法は、難溶性金属化合物と、界面活性剤と、水と、残りが不可避不純物のみからなる水溶液において、難溶性金属化合物から溶解した金属イオンの還元によって平均粒径が15~100nm以下の金属微粒子を生成させること、を特徴とするものである。
【0047】
(2-1)難溶性金属化合物
本発明の金属微粒子分散体の製造方法においては、金属微粒子の金属源として難溶性金属化合物を使用し、金属イオンを徐々に水中に放出することが最大の特徴である。より具体的には、難溶性金属化合物の溶解度を10~100ppmとすることが好ましく、室温(25℃)における金属イオン濃度を1×10-4~1×10-3mol/L(以下、mol/LをMとする)とすることが好ましい。このような金属イオン濃度が低い状態に界面活性剤が存在することで、金属イオンの還元が進行して金属微粒子を生成させることができる。
【0048】
難溶性金属化合物としては、例えば、銀微粒子を生成させる場合には、酸化銀(Ag2O)又は炭酸銀(Ag2CO3)を用いることが好ましい。酸化銀(Ag2O)又は炭酸銀(Ag2CO3)を用いることで、溶解度を10~100ppmの範囲とすることができ、室温における銀イオンの濃度を1×10-4~1×10-3Mとすることができる。
【0049】
より具体的には、酸化銀(Ag2O)の溶解度は室温で13~25ppm、80℃で53ppmであり、室温での銀イオン濃度は1.1~2.2×10-4Mとなり、上記の範囲内となる。
【0050】
例えば、難溶性金属化合物としてAg2O粉体を用いた場合、Ag2O粉体と水を容器に入れて振とうすることにより、Ag2Oが溶解した飽和水溶液となる。この時、当該容器の底には溶解していないAg2O粉体が存在している。還元反応の進行に伴って溶解種の量は低下するが、それを補うように、残存しているAg2O粉体から溶解種が供給される。ここで溶解種とは、Ag2Oの場合、プラス1価のAgイオンとマイナス1価の水酸化物イオンである。なお、厳密には、沈殿物は金属イオンから生成した金属、金属水酸化物又は金属酸化物を含んでいる。
【0051】
当該反応系の特徴はイオン供給がほぼ一定となることであり、Ag2O飽和水溶液ではAg2O + H2O → 2Ag+ + 2OH-の反応が進行する。室温では、Ag+の量は15ppmとなり、Ag+及びOH-が還元によって消費されて少なくなると、それらの減少を補うように、Ag2O粉体から溶け出す。
【0052】
(2-2)界面活性剤
本発明の金属微粒子分散体の製造方法で使用する界面活性剤は、金属微粒子分散体に関して(1-2)で詳述している通りである。
【0053】
ここで、界面活性剤の濃度は、略臨界ミセル濃度又は臨界ミセル濃度以下とすることが好ましい。界面活性剤の濃度を臨界ミセル濃度以下とすることで、金属イオンの還元による金属微粒子の生成が進行し、当該生成は界面活性剤の濃度が略臨界ミセル濃度となった場合に最も円滑に進行する。即ち、最も好ましい界面活性剤の濃度は、略臨界ミセル濃度である。なお、例えば、ドデシル硫酸ナトリウムの臨界ミセル濃度は8mMであり、デオキシコール酸ナトリウムの臨界ミセル濃度は5mMである。
【0054】
(2-3)製造条件
本発明の金属微粒子分散体の製造方法においては、難溶性金属化合物と、界面活性剤と、水と、残りが不可避不純物のみからなる水溶液を室温に放置しておくだけでも金属微粒子が生成するが、僅かに加熱することで、生成速度を増加させることができる。加熱による金属微粒子生成速度の増加は、例えば、銀微粒子の場合において数十度~100℃程度の加熱でも十分に効果を得ることができる。
【0055】
また、水溶液に対して、(1)加熱又は(2)可視光の照射の少なくとも一つの処理を施すことで、金属微粒子の生成速度を増加させることができる。これらの処理は両方を施してもよい。
【0056】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0057】
≪実施例1≫
容量60ccのポリマー容器に超純水30mlとドデシル硫酸ナトリウム(NaC12H25SO4、以下SDS)水溶液30mlを入れた。SDSは陰イオン界面活性剤の一つである。また、当該水溶液中のSDSのモル濃度は、室温での臨界ミセル濃度(CMC)に近い値である8mMとした。28℃におけるSDSのCMCは8.1mM(Paula et al., Journal of Physical Chemistry, Vol.99 (1995) pp.11742)である。
【0058】
次に、難溶性金属化合物である粉体状のAg2Oを5mg入れ、ポリマー容器に蓋をした。なお、超純水、SDS及びAg2Oは全て富士フィルム和光純薬製である。次に、ポリマー容器に蓋をした状態で、振とう機(ツイストミキサー、アズワン製)を用いて10分間振とうさせた後、80℃の電気炉(小型高温チャンバー、エスペック製)内に6時間保持した。
【0059】
次に、ポリマー容器を電気炉から取り出し、容器の内容物を直径0.2μmのフィルターを用いて濾過した後、得られた溶液の色を観察したところ、溶液は黄色に着色されていた。銀ナノ粒子は表面プラズモン共鳴によりその分散液は黄色を呈することから、得られた溶液は銀ナノ粒子分散液であると考えられる。
【0060】
また、得られた溶液を透過型電子顕微鏡(TEM,JEOL社製,JEM2010F)観察用グリット上で乾燥させて、TEM観察を行った。TEM観察像及びTEM観察像の点線で囲った領域からの電子線回折像を
図1及び
図2にそれぞれ示す。電線回折像において、銀結晶の面間隔に対応する回折リングが観察される。内側から、銀結晶の111面(0.2359nm)、200面(0.2043nm)、220面(0.1444nm)、311面(0.1232nm)、222面(0.1179nm)に対応している。
【0061】
TEM観察像に対して、Mountech Co., Ltd製の画像解析式粒度分布ソフトウェアMac-Viewを用いて銀ナノ粒子の平均粒径及び円形度係数を求めたところ、それぞれ31nm及び0.88であった。
【0062】
得られた銀ナノ粒子の代表的な高分解TEM像を
図3に示す。銀ナノ粒子には明らかな結晶粒界が存在しており、当該銀ナノ粒子は多結晶体であることが分かる。
【0063】
≪実施例2:金属微粒子の生成に及ぼす界面活性剤濃度の影響≫
SDSのモル濃度を変化させたこと以外は実施例1と同様にして溶液を得た。具体的には、SDSのモル濃度を1mM、5mM及び20mMとして得られた各溶液の色を観察したところ、表1に示す結果となった。なお、実施例1における8mMの結果も合わせて示しており、溶液の色が黄色の場合は〇、薄い黄色の場合は△、着色が認められない場合は×としている。
【0064】
【0065】
表1の結果より、界面活性剤のモル濃度を臨界ミセル濃度又は臨界ミセル濃度以下とすることで金属微粒子が生成し、特に、臨界ミセル濃度とすることで、金属微粒子が効率的に生成していることが分かる。
【0066】
≪実施例3:金属微粒子の生成に及ぼす界面活性剤の種類の影響≫
界面活性剤を変更したこと以外は実施例1と同様にして溶液を得た。界面活性剤には陰イオン性のデオキシコール酸ナトリウム(SDC)、陽イオン性の臭化ヘキサデシトルトリメチルアンモニウム(CTAB)及び非イオン性のPoloxamer407を用い、濃度は各界面活性剤の臨界ミセル濃度とした。ここで、SDCの臨界ミセル濃度は5.3mM(Simonovic et al., Mikrochim Acta, Vol.127 (1997) pp.101)、CTABの臨界ミセル濃度は0.9mM(Goronja et al., Hemijska Industrija, Vol.40(2016) pp.485)、Poloxamer407の臨界ミセル濃度は0.56mM(Alexandridis et al., Macromolecules, Vol.27(1994)pp.2414)である。
【0067】
得られた各溶液の色を観察したところ、表2に示す結果となった。なお、実施例1におけるSDSの結果も合わせて示しており、溶液の色が黄色の場合は〇、薄い黄色の場合は△、着色が認められない場合は×としている。
【0068】
【0069】
表2の結果より、陰イオン性の界面活性剤を使用することで、金属微粒子が効率的に生成していることが分かる。
【0070】
≪実施例4:金微粒子の生成≫
難溶性金属化合物である水酸化金(Au(OH)3)を得るために、2つの水溶液を調整した。テトラクロロ金酸四水和物(HAuCl4、富士フィルム和光純薬製)を超純水に溶解し、HAuCl4のモル濃度が1mMの水溶液50ccを作製した。また、10mMの水酸化ナトリウム水溶液(NaOH、キシダ化学製)を超純水で希釈し、NaOHのモル濃度が1mMの水溶液200ccを作製した。次に、これら2つの水溶液を混合し、HAuCl4 + 4NaOH → Au(OH)3 + 4NaCl + H2Oの反応により水酸化金を得た。
【0071】
水酸化金が生成した混合溶液中にSDCを添加した後、100℃の電気炉内に8時間保持した。次に、容器の内容物を直径0.2μmのフィルターを用いて濾過した後、得られた溶液の色を観察したところ、溶液は赤色に着色されていた。金ナノ粒子は表面プラズモン共鳴によりその分散液は赤色を呈することから、得られた溶液は金ナノ粒子分散液であると考えられる。
【0072】
実施例1と同様にして得られた金属微粒子のTEM観察を行った。TEM観察像及びTEM観察像の点線で囲った領域からの電子線回折像を
図4及び
図5にそれぞれ示す。電線回折像において、金結晶の面間隔に対応する回折リングが観察される。内側から、金結晶の111面(0.2355nm)、200面(0.2039nm)、220面(0.1442nm)、311面(0.1230nm)、222面(0.1177nm)に対応している。
【0073】
また、実施例1と同様にして金ナノ粒子の平均粒径及び円形度係数を求めたところ、それぞれ19nm及び0.86であった。得られた金ナノ粒子の代表的な高分解TEM像を
図6に示す。金ナノ粒子には明らかな結晶粒界が存在しており、当該金ナノ粒子は多結晶体であることが分かる。
【0074】
≪比較例1≫
SDSを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして溶液を得た。実施例1と同様にして溶液の色を観察したところ、溶液は無色透明であり、着色は認められなかった。
【0075】
≪比較例2≫
SDCを添加しなかったこと以外は実施例4と同様にして溶液を得た。実施例1と同様にして溶液の色を観察したところ、溶液は無色透明であり、着色は認められなかった。
【0076】
比較例1及び比較例2の結果より、水溶液に界面活性剤を添加しない場合は金属微粒子が生成しないことが分かる。
【0077】
≪比較例3≫
難溶性金属化合物であるAg2Oの代わりに可溶性のAgNO3を使用したこと以外は実施例1と同様にして溶液を得た。なお、AgNO3のモル濃度は、Ag2Oの80℃での溶解度0.053g/L(Evanoff et al., Journal of Physical Chemistry B, Vol.198 (2004) pp.13948)とほぼ同じ濃度となるように0.5mMとした。
【0078】
実施例1と同様にして溶液の色を観察したところ、溶液は無色透明であり、着色は認められなかった。当該結果より、可溶性の金属化合物を使用した場合は金属微粒子が生成しないことが分かる。