(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】イオン源および質量分析計
(51)【国際特許分類】
H01J 49/10 20060101AFI20230320BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20230320BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20230320BHJP
【FI】
H01J49/10
H01J49/04
G01N27/62 G
(21)【出願番号】P 2019229656
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 英樹
(72)【発明者】
【氏名】杉山 益之
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雄一郎
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-095451(JP,A)
【文献】特開2006-153603(JP,A)
【文献】特開2015-201449(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049271(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/10
H01J 49/04
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液が導入され、イオンまたは液滴を供給するキャピラリーと、
前記キャピラリーに試料溶液を供給する配管と、
を有するイオン源において、
前記キャピラリーは、上流側にキャピラリー上流側端面を有し、下流側にキャピラリー下流側端面を有し、前記キャピラリー上流側端面の外径は前記キャピラリー下流側端面の外径よりも大きく、
前記キャピラリーは、上流側に、前記キャピラリー上流側端面を形成する大径部を有し、前記大径部は、下流側に大径部下流側面を有し、
前記配管は、下流側に配管下流端面を有し、
前記イオン源は、前記キャピラリーを保持するキャピラリー保持部を備え、
前記キャピラリー保持部は、前記キャピラリー下流側端面を通過させることが可能な穴と、前記大径部下流側面を設置することが可能な面とを有し、
前記イオン源は、前記配管を保持する配管保持部を備え、
前記キャピラリー保持部および前記配管保持部は、前記キャピラリー上流側端面と、前記配管下流端面とが接触することにより、前記キャピラリーと前記配管とが接続されるように配置され
、
前記キャピラリー保持部および前記配管保持部が直動機構を介して結合される、
ことを特徴とする、イオン源。
【請求項2】
請求項
1に記載のイオン源において、前記直動機構は螺合機構であることを特徴とする、イオン源。
【請求項3】
請求項1に記載のイオン源において、前記キャピラリー保持部または前記配管保持部に弾性部材を備えることを特徴とする、イオン源。
【請求項4】
試料溶液が導入され、イオンまたは液滴を供給するキャピラリーと、
前記キャピラリーに試料溶液を供給する配管と、
を有するイオン源において、
前記キャピラリーは、上流側にキャピラリー上流側端面を有し、下流側にキャピラリー下流側端面を有し、前記キャピラリー上流側端面の外径は前記キャピラリー下流側端面の外径よりも大きく、
前記キャピラリーは、上流側に、前記キャピラリー上流側端面を形成する大径部を有し、前記大径部は、下流側に大径部下流側面を有し、
前記配管は、下流側に配管下流端面を有し、
前記イオン源は、前記キャピラリーを保持するキャピラリー保持部を備え、
前記キャピラリー保持部は、前記キャピラリー下流側端面を通過させることが可能な穴と、前記大径部下流側面を設置することが可能な面とを有し、
前記イオン源は、前記配管を保持する配管保持部を備え、
前記キャピラリー保持部および前記配管保持部は、前記キャピラリー上流側端面と、前記配管下流端面とが接触することにより、前記キャピラリーと前記配管とが接続されるように配置され、
前記キャピラリー保持部または前記配管保持部に弾性部材を備え、
前記弾性部材はバネであることを特徴とする、イオン源。
【請求項5】
試料溶液が導入され、イオンまたは液滴を供給するキャピラリーと、
前記キャピラリーに試料溶液を供給する配管と、
を有するイオン源において、
前記キャピラリーは、上流側にキャピラリー上流側端面を有し、下流側にキャピラリー下流側端面を有し、前記キャピラリー上流側端面の外径は前記キャピラリー下流側端面の外径よりも大きく、
前記キャピラリーは、上流側に、前記キャピラリー上流側端面を形成する大径部を有し、前記大径部は、下流側に大径部下流側面を有し、
前記配管は、下流側に配管下流端面を有し、
前記イオン源は、前記キャピラリーを保持するキャピラリー保持部を備え、
前記キャピラリー保持部は、前記キャピラリー下流側端面を通過させることが可能な穴と、前記大径部下流側面を設置することが可能な面とを有し、
前記イオン源は、前記配管を保持する配管保持部を備え、
前記キャピラリー保持部および前記配管保持部は、前記キャピラリー上流側端面と、前記配管下流端面とが接触することにより、前記キャピラリーと前記配管とが接続されるように配置され、
前記キャピラリー保持部または前記配管保持部に弾性部材を備え、
前記キャピラリー保持部の位置決め面と、前記配管保持部の位置決め面とが接合されることにより、前記キャピラリー保持部および前記配管保持部が互いに位置決めされて固定されることを特徴とする、イオン源。
【請求項6】
請求項1に記載のイオン源において、前記キャピラリー上流側端面および前記配管下流端面の少なくとも一方に樹脂層を有することを特徴とする、イオン源。
【請求項7】
試料溶液が導入され、イオンまたは液滴を供給するキャピラリーと、
前記キャピラリーに試料溶液を供給する配管と、
を有するイオン源において、
前記キャピラリーは、上流側にキャピラリー上流側端面を有し、下流側にキャピラリー下流側端面を有し、前記キャピラリー上流側端面の外径は前記キャピラリー下流側端面の外径よりも大きく、
前記キャピラリーは、上流側に、前記キャピラリー上流側端面を形成する大径部を有し、前記大径部は、下流側に大径部下流側面を有し、
前記配管は、下流側に配管下流端面を有し、
前記イオン源は、前記キャピラリーを保持するキャピラリー保持部を備え、
前記キャピラリー保持部は、前記キャピラリー下流側端面を通過させることが可能な穴と、前記大径部下流側面を設置することが可能な面とを有し、
前記イオン源は、前記配管を保持する配管保持部を備え、
前記キャピラリー保持部および前記配管保持部は、前記キャピラリー上流側端面と、前記配管下流端面とが接触することにより、前記キャピラリーと前記配管とが接続されるように配置され、
前記配管と前記キャピラリーとの相対的な回転を防止する回転防止機構を有することを特徴とする、イオン源。
【請求項8】
試料溶液が導入され、イオンまたは液滴を供給するキャピラリーと、
前記キャピラリーに試料溶液を供給する配管と、
を有するイオン源において、
前記キャピラリーは、上流側にキャピラリー上流側端面を有し、下流側にキャピラリー下流側端面を有し、前記キャピラリー上流側端面の外径は前記キャピラリー下流側端面の外径よりも大きく、
前記キャピラリーは、上流側に、前記キャピラリー上流側端面を形成する大径部を有し、前記大径部は、下流側に大径部下流側面を有し、
前記配管は、下流側に配管下流端面を有し、
前記イオン源は、前記キャピラリーを保持するキャピラリー保持部を備え、
前記キャピラリー保持部は、前記キャピラリー下流側端面を通過させることが可能な穴と、前記大径部下流側面を設置することが可能な面とを有し、
前記イオン源は、前記配管を保持する配管保持部を備え、
前記キャピラリー保持部および前記配管保持部は、前記キャピラリー上流側端面と、前記配管下流端面とが接触することにより、前記キャピラリーと前記配管とが接続されるように配置され、
前記配管保持部および前記キャピラリー保持部はいずれも導電部材を備え、
前記イオン源は、前記配管保持部および前記キャピラリー保持部それぞれの導電部材の電位を互いに等しくするための手段を備える、
ことを特徴とする、イオン源。
【請求項9】
請求項1に記載のイオン源において、前記キャピラリー保持部がガス噴霧管を有することを特徴とする、イオン源。
【請求項10】
請求項1乃至
9のいずれか一項に記載のイオン源を備えた質量分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はイオン源および質量分析計に関し、とくに、高いメンテナンス性を実現できるものに関する。また、この発明の一部は、高い分析安定性および高い分析再現性を実現できるイオン源および質量分析計にも関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析などに用いる一般的なイオン化法であるエレクトロスプレーイオン化法(以下「ESI法」という。)は、試料溶液をキャピラリーの上流端から導入し、電界などにより下流端からイオンや液滴を噴霧する方式である。
【0003】
一般的な従来の質量分析計の構成を
図1に示す。質量分析計101は主に、イオン源102と、質量分析部103を内部に有する真空容器104とを備える。イオン源102は、主にイオン生成部105およびイオン源チャンバ106を備える。
【0004】
イオン源102で生成したイオンは、導入電極107の穴108から真空容器104の中に導入され、質量分析部103で分析される。質量分析部103には電源109により様々な電圧が印加される。電源109による電圧印加のタイミングや電圧値は制御部110で制御される。
【0005】
イオン生成部105の一般的な詳細構造として、配管111によりキャピラリー112に試料溶液を導入し、キャピラリー112の下流端113から電界などによりイオンや液滴を噴霧する。
【0006】
以上のようなイオン源においては、試料溶液が漏れないように配管111とキャピラリー112を接続することが重要となる。
【0007】
配管111とキャピラリー112の接続方法が記載された公知例として、非特許文献1がある。この公知例では
図2に示すように、ユニオン114を介して配管111とキャピラリー112を接続している。
【0008】
配管111およびユニオン114については、コネクタ115のテーパ部116によって内部の溶液をシールする。具体的には、ネジ部117によりコネクタ115を回し進めることでテーパ部116がユニオンの内部のテーパ部118に入り込み、テーパ部116の径が小さくなり配管111の外径に食い込むことで、ユニオン114と配管111がシールされる。
【0009】
キャピラリー112とユニオン114はフェラル119のテーパ部120によって溶液をシールする。具体的には、ネジ部121により押しネジ122を回し進めることでテーパ部120がユニオンの内部のテーパ部123に入り込み、テーパ部120の径が小さくなり樹脂チューブ124の外径に食い込むことで、樹脂チューブ124を介してユニオン114とキャピラリー112がシールされる。樹脂チューブ124を介す理由はキャピラリー112の外径が小径なためである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】「Waters Micromass Quattro Premier Mass Spectrometer Operator's Guide」7.12.2 「Removing the Existing Capillary」および7.12.3「Installing the New Capillary」、[online]、インターネット<URL:https://www.waters.com/waters/supportList.htm?cid=511442&locale=ja_JP>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の技術では、配管およびキャピラリーの接続部分におけるデッドボリュームが大きいという課題があった。
【0012】
たとえば
図2のようなテーパ部によるシール方式では、配管111の側ではテーパ部116とテーパ部118が接するシール箇所より下流側に、キャピラリー112の側ではテーパ部120とテーパ部123が接するシール箇所より上流側に、それぞれ微小な隙間が生ずるためデッドボリュームが大きくなる。
【0013】
また、樹脂チューブ124を介すシール方式では、シール箇所よりも上流側では、樹脂チューブ124とキャピラリー112の間にも隙間があるので、デッドボリュームが大きくなる。
【0014】
デッドボリュームがあると試料溶液の入れ替わりに時間が掛かるため、キャリーオーバーなどによる分析性能の低下が起きる恐れがある。また、溶液の置換が困難なデッドボリュームに汚れが堆積し、それによる詰まりなどで部品寿命を縮める可能性もある。
【0015】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、配管およびキャピラリーの接続部分におけるデッドボリュームをより小さくするイオン源および質量分析計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るイオン源の一例は、
試料溶液が導入され、イオンまたは液滴を供給するキャピラリーと、
前記キャピラリーに試料溶液を供給する配管と、
を有するイオン源において、
前記キャピラリーは、上流側にキャピラリー上流側端面を有し、下流側にキャピラリー下流側端面を有し、前記キャピラリー上流側端面の外径は前記キャピラリー下流側端面の外径よりも大きく、
前記キャピラリーは、上流側に、前記キャピラリー上流側端面を形成する大径部を有し、前記大径部は、下流側に大径部下流側面を有し、
前記配管は、下流側に配管下流端面を有し、
前記イオン源は、前記キャピラリーを保持するキャピラリー保持部を備え、
前記キャピラリー保持部は、前記キャピラリー下流側端面を通過させることが可能な穴と、前記大径部下流側面を設置することが可能な面とを有し、
前記イオン源は、前記配管を保持する配管保持部を備え、
前記キャピラリー保持部および前記配管保持部は、前記キャピラリー上流側端面と、前記配管下流端面とが接触することにより、前記キャピラリーと前記配管とが接続されるように配置される、
ことを特徴とする。
また、本発明に係る質量分析計の一例は、上述のイオン源を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るイオン源および質量分析計は、配管およびキャピラリーの接続部分におけるデッドボリュームをより小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】非特許文献1における配管とキャピラリーとの接続を示す図。
【
図6】
図5のキャピラリー保持部とキャピラリーを組合せた状態の構成図。
【
図10】
図7の構成による耐圧評価の実験結果(時間-圧力プロット)。
【
図11】
図7の構成による耐圧評価の実験結果(荷重-圧力プロット)。
【
図16】実施例6の変形例のイオン生成部の構成図。
【
図18】実施例6のイオン生成部の実験結果(電流値測定)。
【
図19】実施例6のイオン生成部の実験結果(圧力測定)。
【
図20】実施例6のイオン生成部の実験結果(流量依存)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
(実施例1)
実施例1は、弾性力により配管とキャピラリーとを直接に面シールする構成のイオン源および質量分析計である。
【0020】
図3に、実施例1の質量分析計の構成図を示す。質量分析計1は、イオン源2と、質量分析部3などを内部に有する真空容器4とを備える。イオン源2は、イオン生成部5、イオン源チャンバ6、等を備える。
【0021】
質量分析計1は導入電極7および電源9を備える。イオン源2で生成したイオンは、導入電極7の穴8から真空容器4の中に導入され、質量分析部3で分析される。質量分析部3には電源9により様々な電圧が印加される。電源9による電圧印加のタイミングや電圧値は制御部10で制御される。
【0022】
イオン生成部5は、配管11およびキャピラリー12を備える。配管11がキャピラリー12に試料溶液を供給し、これによってキャピラリー12には試料溶液が導入される。キャピラリー12は、導入された試料溶液のイオンまたは液滴を供給する。キャピラリー12によるイオンまたは液滴の供給は、たとえばキャピラリー12の下流端13(キャピラリー下流側端面)から電界などによって試料溶液を噴霧することによって行われる。イオン生成部5では、試料溶液が漏れないように配管11とキャピラリー12を接続している(接続の詳細は後述)。
【0023】
イオン源2には、余分な試料溶液(真空容器4に導入されない液滴や、それらが気化した成分などを含む)が質量分析計1の外部に漏洩しないように、イオン源チャンバ6、真空容器4、およびこれらの接続部分を、密閉状態(または密閉に近い状態)にする場合がある。
【0024】
質量分析計1は、この余分な試料溶液(とくに気化成分)を排出するための排気ポート14を有しても良い。また、キャピラリー12の下流端13の噴霧状態を観察するために、イオン源チャンバ6の一部にガラスなどの透明な部材で構成した窓15を有しても良い。
【0025】
真空容器4は
図3に示すように、内部に複数の真空室16、17、18を備えてもよく、これらの真空室は互いに区切られていてもよい。ただし、その場合にはこれらの真空室は互いに連通しており、たとえば真空室16と真空室17とは小径の穴19を介して連通しており、真空室17と真空室18とは小径の穴20を介して連通している。
【0026】
これらの穴19、20および導入電極7の穴8等は、イオンの通り道であり、各々の穴を有する部材(たとえば隔壁。とくに穴の周囲等)に電圧を印加しても良い。その場合は、電圧を印加する部分と、真空容器4の筐体部等との間を、絶縁物(図示せず)などを介して絶縁すると好適である。
【0027】
なお、真空室の数は1以上であればよく、
図3よりも多い場合も少ない場合もある。真空室16、17、18は、各々、真空ポンプ21、22、23で排気されて、各々、異なる真空度に保持される。たとえば、各々、数百Pa程度、数Pa程度、0.1Pa以下程度に保持される。
【0028】
真空室17内には、イオンを収束させながら透過させるイオン輸送部24が配置される。イオン輸送部24には多重極電極や静電レンズなどを用いることができる。イオン輸送部24が配置される場所は真空室17内に限らず、真空室16や真空室18など、その他の真空室に配置されてもよい。イオン輸送部24には電源9から、高周波電圧、直流電圧、交流電圧などの他、これらを組み合わせた電圧などが印加される。
【0029】
質量分析部3は、たとえばイオン分析部25および検出器26を備える。イオンの分離や解離を行うイオン分析部25には、イオントラップ、四重極フィルター電極、コリジョンセル、飛行時間型質量分析計(TOF)などの他、これらを組み合わせた構成などを用いることができる。
【0030】
イオン分析部25を通過したイオンは検出器26で検出される。検出器26には、電子増倍管やマルチチャンネルプレート(MCP)などを用いることができる。検出器26で検出されたイオンは電気信号などに変換される。
【0031】
質量分析計1は制御部10を備える。検出器26からの電気信号は、制御部10に伝達され、制御部10はイオンの質量や強度などの情報を詳細に分析する事ができる。
【0032】
制御部10は公知のコンピュータを用いて構成されてもよく、たとえば演算手段および記憶手段を備えてもよい。演算手段はたとえばプロセッサを含み、記憶手段はたとえば半導体メモリおよび磁気ディスクを含む。
【0033】
制御部10はさらに入出力部を備えてもよい。入出力部は、ユーザーからの指示入力を受け付け、電圧等の制御を行うための制御信号を出力する。制御部10の記憶手段にはプログラムが格納されていてもよく、制御部10を構成するコンピュータの演算手段がこのプログラムを実行することにより、コンピュータが制御部10としての機能を実現してもよい。
【0034】
電源9から質量分析部3に供給する電圧には、高周波電圧、直流電圧、交流電圧などの他、これらを組み合わせた電圧などを用いることができる。
【0035】
次に、実施例1に係るイオン源2の特徴の1つである、配管とキャピラリーとの直接接続方式について説明する。
図4に、実施例1に係るイオン源2におけるイオン生成部5の構成を示す。
【0036】
図4のイオン生成部5は、配管11を保持する配管保持部27と、キャピラリー12と、キャピラリー12を保持するキャピラリー保持部28とを備える。配管保持部27、キャピラリー12およびキャピラリー保持部28は、容易に組立ておよび分解することが可能である。それぞれの要素について
図5で以下説明する。なお、
図3には配管11およびキャピラリー12の内部空洞を破線で示すが、
図4以降はこれらの内部空洞の図示を省略する。
【0037】
図5(A)に配管保持部27を示す。配管保持部27は、配管固定部29、ナット部30および圧縮バネ31を備える。圧縮バネ31により、配管固定部29が、ナット部30に対して下方向に(すなわちキャピラリー保持部28に向かって)付勢される。なお
図5(A)は圧縮バネ31が完全に伸長した状態の例であり、配管保持部27およびキャピラリー保持部28が互いに組み付けられると圧縮バネ31は圧縮される。なお本実施例では配管保持部27が圧縮バネ31を備えるが、これに代えて、またはこれに加えて、キャピラリー保持部28が圧縮バネを備えてもよい。
【0038】
配管固定部29には配管11が固定される。配管固定部29と配管11との固定は、接着、カシメ、など様々な固定手段により実現することができる。
【0039】
配管固定部29とナット部30とは圧縮バネ31を介して組立てられるが、圧縮バネ31のバネ力で配管固定部29が飛び出さないようにストッパ32があることが望ましい。ストッパ32としては、
図5(A)のような段差に限らず、止め輪、ピン、など様々な機構を用いることができる。ナット部30には内側にメネジ部33を有している。
【0040】
配管保持部27には、配管11が固定される。配管11は、下流側に下流端面34(配管下流端面)を有する。下流端面34は面シールが可能な構造に形成される。とくに、面シールの精度が向上させるために、下流端面34において面粗さを低減するように加工されていることが望ましい。
【0041】
図5(B)にキャピラリー12を示す。キャピラリー12は、外径が比較的小さい小径部12aと、小径部12aより外径が大きい大径部12bとを備える。小径部12aの外径は、たとえば1mm程度以下または1mm以下とすることができ、大径部12bの外径は、たとえば1mm程度以上または1mm以上とすることができる。
【0042】
小径部12aは、たとえば第1の外径を有する小径部材35によって構成される。大径部12bは、たとえば第1の外径より大きい第2の外径を有する大径部材36によって構成される。キャピラリー12は、大径部材36を上流側(
図5(B)における上側)に有する。大径部材36は内部に円筒状の貫通空洞を有し、貫通空洞に小径部材35が挿通されて固定される。
【0043】
小径部材35と大径部材36とは一体化した構成が望ましく、一体化の方法としては各種溶接、各種接着など様々な方式を用いることができる。溶接の一例としてロウ付け方式を利用する場合、大径部材36の内周に小径部材35を挿通して、大径部材36の部材の内周面と小径部材35の外周面との隙間部分にロウ材を流し込み溶接をするのが望ましい。このようにすると、キャピラリー12の全長に渡って小径部材35が延びるため、キャピラリー12の内径が均一化できるからである。
【0044】
キャピラリー12の内径は、試料溶液の流量などの条件にもよるが、たとえば1mm程度以下または1mm以下とすることができる。
【0045】
キャピラリー12は、上流側にキャピラリー上流側端面を有する。本実施例では
図5(B)等に示すように、キャピラリー上流側端面は大径部12bの上流側端面37によって形成される。上流側端面37は面シールが可能な構造に形成される。とくに、面シールの精度が向上させるために、上流側端面37は面粗さを低減するように加工されていることが望ましい。
【0046】
前述の通り、大径部材36の外径を1mm程度以上または1mm以上とする事で、キャピラリー12の抜き差しなどの取り扱い易さや上流側端面37による面シール範囲を確保できる。
【0047】
大径部材36は、上流側端面37に対して反対側(下流側)に、下流側の面として、下流側面38を有する。下流側面38は、大径部における下流側の面(大径部下流側面)を構成する。
【0048】
また、キャピラリー12の下流端13において、キャピラリー12の下流側端面が形成される。上流側端面37の外径は、下流端13の外径よりも大きい。
【0049】
図5(C)にキャピラリー保持部28を示す。キャピラリー保持部28はキャピラリー12の小径部材35が挿入される穴39を有する。穴39は、キャピラリー12の下流端13を通過させることができるように構成される。穴39の上流側入り口にテーパ部40を有することで、キャピラリー12の下流端13を上流側から滑らかに挿入することができる(ただしテーパ部40を備えない構成とすることも可能である)。
【0050】
キャピラリー保持部28は、下流側面38と対峙する設置面41を有する。設置面41は、大径部材36の下流側面38を設置することができるように構成される。また、キャピラリー保持部28は、オネジ部42を有する。なお、本実施例によれば、キャピラリー12を交換する際に、キャピラリー保持部28をイオン源チャンバ6などの筐体部分から取り外す必要はない。
【0051】
次に、キャピラリー12の交換作業における取付け工程について説明する。取付け工程では最初に、キャピラリー保持部28の穴39に、上流側からキャピラリー12の小径部材35の下流端13を挿入し、下流側面38を設置面41に当接させる(
図6の状態)。
【0052】
その後、
図6の状態の構成のキャピラリー保持部28のオネジ部42に対して、配管保持部27のメネジ部33を螺合させる。螺合において、キャピラリー保持部28に対してナット部30を回転させる。
【0053】
ナット部30を回転((例)右ネジの場合は時計回り)させていくと、ナット部30の内周下端面30aがキャピラリー保持部28の設置面41に近付いていき、最終的には両者が当接してナット部30をこれ以上回転できない状態になる(
図4の状態)。つまりメネジ部33とオネジ部42が、配管保持部27とキャピラリー保持部28を結合する結合手段となる。
【0054】
このように、本実施例では、ナット部30の内周下端面30aは配管保持部27の位置決め面として作用し、キャピラリー保持部28の設置面41はキャピラリー保持部28の位置決め面として作用する。これらの位置決め面が接合されることにより、配管保持部27およびキャピラリー保持部28が互いに位置決めされて固定される。
【0055】
また、本実施例では、キャピラリー保持部28および配管保持部27が直動機構を介して結合され、とくに、直動機構は螺合機構である。
【0056】
圧縮バネ31によって、キャピラリー保持部28および配管固定部29が互いに向かって付勢されて結合される。これによって、配管11の下流端面34とキャピラリー12の上流側端面37が接触する。さらにナット部30を回転させていくと、配管11の下流端面34とキャピラリー12の上流側端面37とが接触した状態で、圧縮バネ31の長さが徐々に縮められ、配管11とキャピラリー12とが互いに向かって押し付けられる。これによって配管11とキャピラリー12との間にシール力が発生する。
【0057】
このように、キャピラリー保持部28および配管保持部27は、大径部材36の上流側端面37と、配管11の下流端面34とが接触することにより、キャピラリー12と配管11とが接続されるように配置される。
【0058】
さらにナット部30を回転させると、ナット部30の内周下端面30aがキャピラリー保持部28の設置面41に当接し、この時点でナット部30をそれ以上回転できなくなる。ここで、圧縮バネ31の圧縮される長さは、ナット部30の形状等によって決定される一定の長さとなるので、圧縮バネ31が発生するシール力は一定となる。このため、配管11またはキャピラリー12の交換等のために発生する組み付け作業の都度、配管11の下流端面34とキャピラリー12の上流側端面37の間に、毎回同じシール力を与えることができる(高いシール再現性)。
【0059】
非特許文献1に記載される従来のイオン源(
図2)では、コネクタ115や押しネジ122の締め付け作業の結果は作業者の熟練度に依存する。たとえば、スパナなどの工具や手締めなどで行うため、リークを生じたり、締めすぎにより部品が破損したりする恐れもある。これに対し、本実施例に係るイオン源は、作業者の熟練度に関わらず、それ以上回転できなくなる位置までナット部30を回転させることにより一定の位置決めを実現することができる。
【0060】
また、非特許文献1に記載される従来のイオン源(
図2)では、配管111やキャピラリー112をユニオン114に押付けながらコネクタ115や押しネジ122の締め付ける必要があるため、キャピラリー112の長手方向の固定位置が再現せずに、下流端113と導入電極107の穴108との位置関係がばらつき、分析感度の再現性を低下させる要因になり得る。
【0061】
これに対し、本実施例に係るイオン源によれば、ナット部30の内周下端面30aとキャピラリー保持部28の設置面41とが当接するため、キャピラリー12の下流端13の位置Z1(
図4参照、たとえばキャピラリー12の軸方向における下流端13から導入電極7の穴8の中心までの距離)が毎回同じになる(高い組立て再現性)。これにより分析感度のばらつきも小さくなる(高い分析再現性)。また、配管11の下流端面34とキャピラリー12の上流側端面37が直接接触するのでデッドボリュームが無くなる。このため、たとえば試料溶液の入れ替わり時間が短くなり、キャリーオーバーも低減できる(高い分析安定性)。
【0062】
キャピラリー12の交換作業における取外し工程については、基本的に上記手順を逆に行うだけなので、説明は省略する。以上から、本構成におけるキャピラリー12の交換は、配管保持部27の取付け(または取外し)、キャピラリー12の取付け(または取外し)の2工程のみで、イオン生成部5をイオン源チャンバ6などの筐体部分から取外す必要は無い(高いメンテナンス性)。
【0063】
一般的に、イオン源におけるキャピラリーの内径は非常に小径なので、試料溶液の種類や使用条件などによっては頻繁にキャピラリーを交換する必要がある。この点で、非特許文献1に記載される従来のイオン源では、交換作業が煩雑な上、組立て再現性も低下する。従来の構成における実際の交換の手順を、
図2を用いて大まかに説明すると、まずコネクタ115を緩めて配管111を外した後、イオン生成部105をイオン源チャンバ106などの筐体部分から引き抜く。その後、押しネジ122を緩めてキャピラリー112を外す。新品のキャピラリー112をセットする作業は基本的に上記作業の逆である。このような複雑な工程と比較すると、本実施例に係るイオン源は、より簡易な工程でキャピラリー12の交換を行うことができる。
【0064】
本実施例では、キャピラリー保持部28にオネジ部42を、配管保持部27にメネジ部33を有する構成を説明したが逆でも良い。
【0065】
また、本実施例では、ナット部30の内周下端面30aとキャピラリー保持部28の設置面41とが位置決め面として作用し、これらの当接によりシール力や位置の再現性を実現する構成を説明したが、他の部分を位置決め面としてもよいし、他の部材を用いて位置決め面以外の構成によりシール力や位置を規制しても良い。たとえば、ナット部30の外周下端面30bがキャピラリー保持部28のオネジ部42の下端面と当接するまでナット部30が回転可能であり、これらが当接した時点でナット部30がそれ以上回転できない状態となるよう構成されてもよい。
【0066】
また本実施例では、ナット部30によるネジ回転による直進運動を用いた結合手段を説明した。このような構成によれば構成を簡素にすることができるが、結合手段は他の機構を用いて実現することもできる。手動であってもよいし、自動であってもよい。レバー機構、カム機構、ラックギア機構、スライド機構、ピストン機構など、各種直動機構を用いる事もできる。また、直動機構を用いると構成が簡素となるが、直動機構以外の機構を用いてもよい。
【0067】
また本実施例では、利便性の高い圧縮バネ31によるバネ力を利用した構成を説明したが、圧縮量により荷重を定義できればその他の弾性体を利用する事も可能である。例えば、ネジ回転のトルク量(つまりシール力)を管理できるようなシステムを利用できれば、圧縮バネ31を用いない構成とすることも可能である。たとえば圧縮コイルバネ以外の圧縮バネであってもよく、引張バネであってもよく、ゴムまたは他の弾性部材であってもよく、複数の部材を用いて構成される弾性構造であってもよい。
【0068】
以上で述べた実施例1の構成では、バネ力により配管とキャピラリーとを直接的に接合させて面シールできるため、配管およびキャピラリーの接続部分におけるデッドボリュームをなくし、または小さくすることができる。さらに、高い分析安定性、高い分析再現性、高いメンテナンス性が可能なイオン源および質量分析計が実現できる。
【0069】
(実施例2)
実施例2は、キャピラリーまたは配管の端面(シール面)に樹脂層を有するイオン源および質量分析計である。簡便のため、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0070】
図7に本実施例に係るキャピラリー12の構成を示す。
図7のキャピラリー12は、上流側端面37が樹脂層44によって構成されているという特徴を有する。上流側端面37に樹脂層44を有すると、樹脂特有の柔軟さによる高いシール性能を実現できる利点がある。
【0071】
また、樹脂層44を設けることにより、配管11とキャピラリー12との接続部分における劣化の進行を調整することができる。たとえば、キャピラリー12に詰まり等が発生しやすい分野では、キャピラリー12の交換頻度が配管11の交換頻度より多いと想定される。このような場合には、配管11の下流端面34よりも硬度が低い樹脂層44をキャピラリー12に設けることで、配管11側の劣化を遅延させることができ、すなわち、交換頻度が低い側の部材(長寿命にしたい側の部材)を長持ちさせることができる。
【0072】
樹脂層44には各種樹脂を用いることが可能であるが、耐薬品性に優れたふっ素系樹脂(PTFE、PCTFE、PFA、FEP、ETFE、など)やポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)などを用いることが、より望ましい場合が多い。
【0073】
樹脂層44は穴45を有する。配管11の内径およびキャピラリー12の内径より穴45の内径を大きくすることで、配管11とキャピラリー12の中心軸が多少ずれてもそれを吸収できる。
【0074】
樹脂層44の厚さは、1mm程度以下または1mm以下とすることができる。樹脂層44は大径部材36と接着や溶着などで一体化してもよいし、はめ合い部による圧入またはカシメなどによって固定してもよい。
【0075】
図8は、実施例2の変形例に係るキャピラリー12の構成を示す。穴45の部分での溶液の流れをスムーズにするために、このような構成にしても良い。
図8の樹脂層44の穴45は、上流側の開口部46が下流側の開口部47よりも大きいことが特徴である。これによりスムーズな流れを実現できる。
【0076】
図8の構成においても、
図7と同様に、配管11とキャピラリー12の中心軸のずれの吸収が可能となる。さらに、
図8の構成によれば、配管11の内径がキャピラリー12の内径よりも大きい場合に、それぞれの内周を滑らかに接続することができる。反対に配管11の内径がキャピラリー12の内径よりも小さい場合には、上流側の開口部46を下流側の開口部47よりも小さくしても良い。
【0077】
図9は、実施例2の変形例に係る配管11の構成を示す。このように、配管11の下流端面34を、穴49を有した樹脂層48で構成しても良い。
【0078】
なお、
図9の配管11は、
図7のキャピラリー12または
図8のキャピラリー12とともに用いてもよいし、実施例1のキャピラリー12とともに用いてもよい。すなわち、大径部材36の上流側端面37および配管11の下流端面34のうち少なくとも一方に、樹脂層を有するように構成することができる。
【0079】
以上で述べた実施例2の構成では、シール面に樹脂層を有するため、樹脂特有のシール性能を実現でき、かつ、中心軸ずれを吸収可能なイオン源および質量分析計が実現できる。
【0080】
図10に、
図7に示す構成のキャピラリー12と、実施例1の構成の配管11とを用いて耐圧評価を行った結果について述べる。配管11の構成は、下流端面34がステンレス鋼で、キャピラリー12との接触部が外径1.6mm、内径0.3mmのリング形状とした。一方キャピラリー12の構成は、上流側端面37にPEEK樹脂の樹脂層44を有する構成とし、圧力を上昇させるためにキャピラリー12の内径は封止した。
【0081】
この条件で、配管11に溶液(水:メタノール=1:1)を流量0.1mL/minで送液したときの圧力を、圧縮バネ31によるバネ力(シール力)ごとにプロットした結果を
図10に示す。横軸は時間であり、内径が封止されているので時間を追うごとに圧力が上昇し、シール力よりも内圧が上回ると漏れが生じ、時間-圧力の直線関係からプロットが逸脱する。
【0082】
図11に、逸脱する直前のポイント(圧力)と、圧縮バネ31による荷重との関係をプロットした結果を示す。この結果から、
図7の構成により、一般的なイオン源としては充分な40MPaの耐圧が得られていることが分かる。なお
図10では図示の都合上一部のデータを省略しており、
図10のデータと
図11のデータとは1対1に対応するものではない。
【0083】
(実施例3)
実施例3は、キャピラリー保持部に回転防止ピンを有するイオン源および質量分析計である。簡便のため、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0084】
図12は、実施例3のイオン生成部5の構成図である。実施例3のイオン生成部5は、キャピラリー保持部28に回転防止ピン50を有するという特徴を有する。回転防止ピン50は、キャピラリー保持部28に固定されるかまたはキャピラリー保持部28と一体に形成され、たとえばキャピラリー12の軸と平行に延びる円筒形状に構成される。
図12には2本の回転防止ピン50が示されている。
【0085】
配管固定部29には回転防止ピン50に対応する穴または溝を有し、この穴または溝に回転防止ピン50が係合するので、回転防止ピン50は軸と平行でない方向への移動が規制される。このように、回転防止ピン50は、配管11とキャピラリー12との相対的な回転(たとえばキャピラリー12の軸周りの相対的回転)を防止する回転防止機構として機能する。回転防止ピン50がガイドとなるので、ナット部30の回転動作につられて配管11がキャピラリー12に対して相対的に回転するのを防ぐことができる。
【0086】
なお、配管11がキャピラリー12に対して相対的に回転してしまうと、シール面である下流端面34と上流側端面37とが接触しながら回転することになるので、両者のシール面の劣化を早める恐れがある。これに対して本実施例に係るイオン生成部5によれば、たとえばキャピラリー12を高頻度に交換する場合において、回転防止ピン50による擦れを防止することで配管11の寿命を延ばすことが可能となる。
【0087】
本実施例では、キャピラリー保持部28に回転防止ピン50を設ける構成を説明したが、配管固定部29に回転防止ピン50を設けてもよく、それに対応する穴または溝をキャピラリー保持部28に設けてもよい。
【0088】
また、本実施例では回転防止機構を回転防止ピン50により構成したが、回転防止機構は他の構造または部材によって構成してもよく、たとえば、キーとキー溝、突起とガイド溝、など、様々な回転防止機構を用いる事もできる。
【0089】
以上で述べた実施例3の構成では、回転防止ピンにより部品寿命が長いイオン源および質量分析計が実現できる。
【0090】
(実施例4)
実施例4は、配管およびキャピラリーの中心軸の芯出し(軸整合)をより容易にする構成のイオン源および質量分析計である。簡便のため、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0091】
図13は、実施例4のイオン生成部5の構成図である。
図13のイオン生成部5では、配管固定部29が内周にはめ合い部51を有し、このはめ合い部51によりキャピラリー12の大径部材36がガイドされる構成であるという特徴を有する。
【0092】
配管固定部29は配管11の外径もガイドしているので、キャピラリー12と配管11の中心軸の芯出しがより容易となる。配管固定部29に対するキャピラリー12の抜き差しが容易になるように、配管固定部29にテーパ部52があると望ましい。テーパ部52は単純な面取りなどでも良い。テーパ部や面取りはキャピラリー12の大径部材36に施しても良い(その場合は上流側が尖るようなオステーパ形状となる)。
【0093】
本実施例では、はめ合い部51による芯出し構成を説明したが、その他、ピン、溝、スリットなど、様々な芯出し構成を用いる事も可能である。
【0094】
以上で述べた実施例4の構成では、配管とキャピラリーの芯出しがより容易なイオン源および質量分析計が実現できる。
【0095】
(実施例5)
実施例5は、キャピラリー保持部にコンタクトピンを有するイオン源および質量分析計である。簡便のため、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0096】
図14は、実施例5のイオン生成部5の構成図である。
図14のイオン生成部5は、キャピラリー保持部28にコンタクトピン53を有するという特徴を有する。コンタクトピン53は導電体であり、たとえば銅またはステンレス等の金属から構成される。
【0097】
本実施例のイオン生成部5では、キャピラリー12およびキャピラリー保持部28も導電体(たとえば金属)で構成されており、キャピラリー12と導入電極7との間に電圧を印加して使用することができる。また、本実施例では、配管保持部27の配管固定部29およびナット部30も導電体(たとえば金属)で構成される。このように、すなわち、本実施例では、配管保持部27およびキャピラリー保持部28はいずれも導電部材を備える。このような使用形態は、ESIイオン源において一般的に用いられる。
【0098】
図14の構成では、キャピラリー保持部28を介してキャピラリー12に電圧が印加される。電源54から配線55を経由してキャピラリー保持部28部に電圧が印加される。キャピラリー保持部28にはキャピラリー12が接触しているため、キャピラリー12にも電圧が印加される。
【0099】
キャピラリー12に導入された試料溶液は、電源54から印加した電圧によってイオン化され、下流端13から噴霧される(静電噴霧)。電源54による電圧印加のタイミングおよび電圧値は制御部10で制御される。キャピラリー12に印加する電圧の値は、導入電極7に対して、たとえば絶対値が1kV~10kVとなる範囲内である。
【0100】
なお、正イオンを生成する場合、キャピラリー12には、導入電極7に対して+1kV~+10kVの電圧が印加される。負イオンを生成する場合、キャピラリー12には、導入電極7に対して-1kV~-10kVの電圧が印加される。試料溶液の流量は、キャピラリー12の内径に依存するが、たとえば1nL/分~1mL/分の範囲内に設定される。
【0101】
ここで、比較のために、
図14においてコンタクトピン53を省略した構成を想定する。配管固定部29とキャピラリー12とが互いに直接的に接触していないので、そのような構成では電位的なフロートにより問題が発生する場合がある。たとえば、配管固定部29および圧縮バネ31が金属製であって、かつ、配管11およびナット部30の素材が絶縁物である場合には、配管固定部29および圧縮バネ31の電位がキャピラリー保持部28およびキャピラリー12の電位に対してフロートする恐れがある。このように電位的にフロートした部材があると、分析が不安定となる可能性がある。
【0102】
これに対し、本実施例では、コンタクトピン53が配管固定部29およびキャピラリー保持部28の双方に接触しているので、配管固定部29とキャピラリー保持部28とが導通して同電位となり、フロートした部材が無くなる。
【0103】
このように、コンタクトピン53は、配管保持部27およびキャピラリー保持部28それぞれの導電部材の電位を互いに等しくするための手段として機能する。
【0104】
コンタクトピン53は内部にバネ(図示せず)などを有してもよく、このバネの作用でプローブ部56が長手方向に出入りするよう構成してもよい。配管保持部27を取付けた時に、内部バネの作用でプローブ部56が配管固定部29に押し付けられることで、配管保持部27とキャピラリー保持部28とが同電位になる。
【0105】
本実施例では、キャピラリー保持部28がコンタクトピン53を有する構成を説明したが、配管固定部29がコンタクトピン53を有する構成としても良い。コンタクトピン53の他、差込み式のソケット、板バネ、など、両者を同電位にできる様々な構成を用いる事も可能である。
【0106】
以上で述べた実施例5の構成では、コンタクトピンにより電位的にフロートする部品が無いイオン源および質量分析計が実現できる。
【0107】
(実施例6)
実施例6は、キャピラリー保持部がガス噴霧管を有するイオン源および質量分析計である。簡便のため、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0108】
図15は、本実施例のイオン生成部5の構成図である。本実施例のイオン生成部5は、キャピラリー保持部28にガス噴霧管57を有するという特徴を有する。ガス導入口58から導入されたガスは、キャピラリー12の小径部材35の外側に配置したガス噴霧管57の開口部59から噴霧される。
図15ではキャピラリー保持部28とガス噴霧管57が一体化した構成を説明しているが、これらはそれぞれ別の構成部品になっても良い。
【0109】
ESIイオン源では、試料溶液の流量条件によっては、噴霧ガスを利用する場合がある。ESI方式のイオン生成原理の過程では、試料溶液の液滴が分裂を繰り返し、最終的に非常に微細な液滴になりイオン化する。イオン化の過程で充分に微細になる事ができなかった液滴には、中性液滴や帯電液滴などがある。これらを気化または蒸発させることでイオン化効率が向上する可能性がある。このためにガス噴霧管57による噴霧ガスを利用することができる。
【0110】
噴霧ガスの流量は、たとえば0.5~10L/minの範囲内で、窒素やアルゴンなどの不活性ガスを使用することができる。さらに液滴の気化を強化する場合は、さらに外側から加熱ガス(たとえば800℃程度以下または800℃以下)を噴霧する方式(図示せず)を用いることもある。加熱ガスの流量はたとえば0.5~50L/minの範囲内で、同じく窒素やアルゴンなどの不活性ガスを使用することができる。
【0111】
噴霧ガスを用いる構成では、ガスをシールするために、キャピラリー12の大径部材36にシール材60が配置される。シール材60には、Oリングやガスケットなど、様々な構成を用いることができる。本実施例では大径部材36にシール材60を配置する構成を説明したが、キャピラリー保持部28にシール材60を配置する構成でも良い。
【0112】
本実施例では、実施例1のようにキャピラリー12の下流端13の位置Z1(
図4)だけでなく、ガス噴霧管57の先端からキャピラリー12が突出している突出量Z2の再現性も高い。
【0113】
以上で述べた実施例6の構成では、ガス噴霧管により試料溶液の気化効率が高いイオン源および質量分析計が実現できる。
【0114】
図16は、実施例6の変形例の構成図である。この例では、キャピラリー保持部28の内周にはめ合い部61が形成され、キャピラリー12の大径部材36の一部の外周が、はめ合い部61に嵌合する。
【0115】
図15では、大径部材36のうち面シールの位置にシール材60を配置していたが、
図16ではテーパ部40に対応する位置にシール材60を配置している(軸シールの一種)。はめ合い部61に対応する位置にシール材60を配置する完全な軸シール構成としても良いが、
図16のようにテーパ部40でのシールとすると、キャピラリー12の抜き差し時のシール材60の摩擦抵抗が比較的小さくなり、メンテナンス性が向上できる。
【0116】
図15ではシール材60を潰す力にも圧縮バネ31のバネ力を使用するため、その分だけシール力をロスすることになる。
図16の構成でもシール力のロスが発生するが、斜めシールなので
図15の構成よりもロスが小さい。
【0117】
このような軸シール方式を用いる場合、シール材60は、大径部材36でなくキャピラリー保持部28に配置することも可能である。しかしながら、そのような構成では、キャピラリー12の挿入箇所にシール材60が存在するため、キャピラリー12の挿入時の引っ掛かりの原因になり得る。このため、キャピラリー12にシール材60を配置する方がより望ましい。
【0118】
図16に示すように、キャピラリー12の長手方向(軸方向)の座標軸をZ軸と定義し、Z軸にそれぞれ直交で、かつ、両者同士が直交関係である方向の座標軸をそれぞれX軸、Y軸と定義する。とくに、
図16の紙面下方向をZ軸正方向、紙面手前方向をY軸正方向、紙面右方向をX軸正方向とする。イオンがキャピラリー12の下流端13から導入電極7に向かって進行する際の方向は、大まかにX軸に沿った方向となる。
【0119】
図16のようにはめ合い部61があることで、X軸方向およびY軸方向における位置を規制できるため、取付け位置の再現性が向上する。
【0120】
次に、ガス噴霧管57の先端からのキャピラリー12の突出量Z2の再現性の重要性について説明する。
図17に示した構成で突出量Z2による電流検出の実験を行った。導入電極7の穴8の中心(入口位置)の座標を原点(X,Y,Z)=(0,0,0)と定義する。原点からガス噴霧管57の先端までのZ軸方向距離Zを10mmとし、原点からキャピラリー12の軸までのX軸方向距離Xを5mmとする。なお原点からキャピラリー12の軸までのY軸方向距離は0mmとした(とくに図示しない)。
【0121】
実験は、試料溶液を供給せず、ガスも噴霧しない状態で行った。この条件で、ガス噴霧管57およびキャピラリー12に、導入電極7に対して電圧5kVを印加した時に、ガス噴霧管57およびキャピラリー12と導入電極7と間に流れる電流値を電流計で検出した結果を
図18に示す。
【0122】
図18の結果の通り、突出量Z2に応じて検出電流値が大きく異なることが分かる。電流値は電界の強さ、つまり分析感度に関係するため、高い分析再現性を得るには、突出量Z2の再現性の高い組立てが必要であることが示されている。
【0123】
次に、
図16の構成で耐圧評価を行った結果について述べる。配管11の構成は、下流端面34をPEEK樹脂で構成し、キャピラリー12との接触部をリング形状とし、このリング形状の外径を1.6mm、内径を0.8mmとした。
【0124】
一方キャピラリー12の構成は、上流側端面37をステンレス製とし、圧力を上昇させるためにキャピラリー12の内径は封止した。この条件で、配管11に溶液(水:メタノール=1:1)を流量0.1mL/minで送液したときの耐圧と圧縮バネ31の荷重の関係をプロットした結果を
図19に示す。
【0125】
図19ではシール材60の有無で比較している。シール材60がある構成での実験結果(「Oリング有」)に比べ、シール材60が無い構成での実験結果(「Oリング無」)では、小さい荷重で高い耐圧が得られた。この結果から、前述の通り、シール材60を潰す力が必要となるためバネ力がロスしていると判断できる。
【0126】
本実験では、シール材60にOリング(内径3mm、線径1mm)使用し、テーパ部40の角度は30度で、Oリングの潰し代は15%とした(すなわち、Oリングを配置するための溝の深さを、Oリングの線径の85%とした)。同じ潰し代で
図15のような面シールとした場合、Oリングを潰すための力が斜め方向に必要となり、たとえば約4倍の潰し力を必要とするため、さらにバネ力をロスすることになる。
【0127】
図19の「Oリング有」と同じ実験構成で、キャピラリー12の内径に封止をしないで、実際に溶液(水:メタノール=1:1)を流したときの流量による平均圧力をプロットした結果を
図20に示す。
【0128】
この実験は、キャピラリー12の長さを168mm、内径を0.1mmとした条件で行っている。キャピラリー12の下流端13から実際に流出した溶液を回収し測定した実測液量と、設定流量および通液時間から算出した溶液量の理論値(算出液量)との比率(実測液量/算出液量)も合わせてプロットした。
図20に示す通り、流量と圧力の直線性は良好である。また、溶液量の実測値と理論値は、1に非常に近い値が維持されており、溶液の漏れなどが無いことが確認できた。
【0129】
(実施例7)
実施例7は、キャピラリー保持部が二重構造で構成されるイオン源および質量分析計である。簡便のため、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0130】
図21は、実施例7のイオン生成部の構成図である。本実施例では、イオン生成部5のキャピラリー保持部28は、内部が二重構造になっているという特徴を有する。たとえば、キャピラリー保持部28は、外側部材28aおよび内側部材28bを備える。内側部材28bにより、キャピラリー12の挿入経路からガス導入口58が直接見えない構造が実現できる。すなわち、内側部材28bにより、穴39とガス導入口58とが隔てられており、キャピラリー12が挿入時にガス導入口58またはその周辺に接触しないようになっている。
【0131】
これにより、キャピラリー12を穴39に挿入する時に、ガス導入口58に引っ掛かるのを防止することができる。このような二重構造であっても、内側部材28bの外周の空間63を介してガス導入口58とガス噴霧管57の内部空洞とが連通しているので、ガスが流れる構造が実現できる。
【0132】
空間63により穴39とガス噴霧管57の内径が隔てられているが、ガス噴霧管57の内径の上流側入り口に、穴39よりも大きな開口部64を持つテーパ部65を設けることで、キャピラリー12をスムーズに挿入できる。
【0133】
本実施例では、
図21の構成を説明したが、キャピラリー12の挿入経路からガス導入口58が直接見えない構成(すなわち、キャピラリー12が挿入時にガス導入口58またはその周辺に接触しない構成)であれば、具体的構成は
図21の限りではない。
【0134】
以上で述べた実施例7の構成では、キャピラリーをスムーズに挿入できるイオン源および質量分析計が実現できる。
【0135】
(実施例8)
実施例8は、キャピラリー保持部の設置面がテーパ面で構成されるイオン源および質量分析計である。簡便のため、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0136】
図22は、実施例8のイオン生成部5の構成図である。
図22(A)はキャピラリー保持部28にキャピラリー12をセットした状態を示し、
図22(B)はキャピラリー12の構成を示し、
図22(C)はキャピラリー保持部28の構成を示す。
【0137】
本実施例のイオン生成部5は、
図22に示すように、キャピラリー保持部28の設置面41が、テーパ部40によって構成されるという特徴を有する。これに合わせて、キャピラリー12の下流側面38もテーパ形状となっている。
【0138】
図22(A)のようにテーパ面同士のセットでも、キャピラリー12のZ軸方向の位置は規制できるので、実施例1と同様の効果が得られる(なお座標系の定義は
図16と同様である)。また、テーパ面同士の嵌合によりX軸方向およびY軸方向の位置も規制可能であり(すなわち軸を一致させることが可能であり)、結果としてXYZ軸すべての位置を規制可能なので、部品形状を単純化できる。
【0139】
以上で述べた実施例8の構成では、テーパ面での位置決めにより部品形状を単純化できるイオン源および質量分析計が実現できる。
【0140】
(実施例9)
実施例9は、キャピラリー保持部にバネを有するイオン源および質量分析計である。簡便のため、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0141】
図23は、実施例7のイオン生成部の構成図である。
図23のイオン生成部5は、キャピラリー保持部28が2つの部材からなり(たとえば外側部材67および内側部材68を備え)、これら2つの部材が圧縮バネ66を介して組み付けられるという特徴を有する。
【0142】
図23のキャピラリー保持部28は、外側部材67と内側部材68とが圧縮バネ66を介した状態で構成されている。これにより実施例1と同様に、ナット部30を回転させて配管保持部27とキャピラリー保持部28とを組付けた時に、圧縮バネ66の作用により配管11の下流端面34とキャピラリー12の上流側端面37の間にシール力を与えることができる。
【0143】
キャピラリー保持部28は、外側部材67と内側部材68とに分かれているので、本実施例ではナット部30の内周下端面30aを受ける面69と、キャピラリー12の大径部材36の下流側面38を受ける設置面41は異なる。
【0144】
圧縮バネ66のバネ力で内側部材68が上流側に飛び出さないように、外側部材67にストッパ70を設けることが望ましい。ストッパ70としては、
図23のような段差の他、止め輪、ピン、など様々な機構を用いることができる。
【0145】
ナット部30の内周下端面30aと配管11の下流端面34との、Z軸方向の位置関係Z3が一定であれば、キャピラリー12の下流端13の位置Z1(
図4参照)も一定の位置になる。
【0146】
また、外側部材67の穴71の上流側開口部72の径を、内側部材68の穴39の径よりも大きくすることで、キャピラリー12をスムーズに挿入できる。
【0147】
本実施例では、キャピラリー保持部28が圧縮バネ66を含む機構を有するため、配管保持部27にそのような機構を設ける必要がなく、配管保持部27が軽量化される。このため、キャピラリー12の交換時に、実際に着脱する部分が軽量化され、メンテナンス性が向上する。
【0148】
以上で述べた実施例9の構成では、キャピラリー保持部28に圧縮バネ66を有することで配管保持部を軽量化できるので、メンテナンス性が向上するイオン源および質量分析計が実現できる。
【0149】
以上、説明してきた各実施例の装置構成については、各々の装置構成の特徴要素を組み合わせた装置形態においても、本発明の効果が得られる。
【符号の説明】
【0150】
1…質量分析計
2…イオン源
5…イオン生成部
11…配管
12…キャピラリー(12a…小径部、12b…大径部)
13…下流端(キャピラリー下流側端面)
27…配管保持部
28…キャピラリー保持部
30…ナット部(30a…内周下端面(位置決め面))
31,66…圧縮バネ(弾性部材)
33…メネジ部(直動機構、螺合機構)
37…上流側端面(キャピラリー上流側端面)
41…設置面(位置決め面)
42…オネジ部(直動機構、螺合機構)
44,48…樹脂層
50…回転防止ピン(回転防止機構)
53…コンタクトピン(電位を等しくするための手段)
57…ガス噴霧管