IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧

特許7247098カーボンナノチューブ含有組成物及びカーボンナノチューブ含有組成物の熱硬化物の製造方法
<>
  • 特許-カーボンナノチューブ含有組成物及びカーボンナノチューブ含有組成物の熱硬化物の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ含有組成物及びカーボンナノチューブ含有組成物の熱硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20230320BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230320BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20230320BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/04
C08L63/00
C08J5/18 CEZ
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019551406
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2019017549
(87)【国際公開番号】W WO2019244479
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-10-22
(31)【優先権主張番号】P 2018116560
(32)【優先日】2018-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】森田 稔
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-114420(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104610705(CN,A)
【文献】特開2007-149522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 59/00-59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カーボンナノチューブと、(B)有機溶媒と、(C)熱硬化性樹脂と、を含み、
前記(B)有機溶媒の沸点(T1)と前記(C)熱硬化性樹脂の熱硬化反応開始温度(T2)との差の絶対値が、70℃以下であり、
前記熱硬化反応開始温度(T2)は、示差走査熱量計のサンプル容器に前記(C)熱硬化性樹脂を投入し、密閉容器として窒素雰囲気下、昇温速度5℃/minで室温から300℃まで昇温させた、示差走査熱量測定による硬化発熱挙動から、反応開始温度を求め、得られた示差走査熱量のチャー卜から求められる硬化発熱ピークの立ち上がり温度であり、
前記(B)有機溶媒の沸点(T1)が、前記(C)熱硬化性樹脂の熱硬化反応開始温度(T2)よりも高く、
前記(B)有機溶媒が、N-メチル-2-ピロリドンであるカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項2】
前記(A)カーボンナノチューブの、ラマン分光により求められるラマンスペクトルのGバンドとDバンドとの強度比G/Dが1.0以上、且つ前記(A)カーボンナノチューブの平均長さが1.0μm以上である請求項1に記載のカーボンナノチューブ含有組成物
【請求項3】
前記(C)熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂である請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項4】
前記(A)カーボンナノチューブが、前記カーボンナノチューブ含有組成物の全固形成分100質量%中に0.1質量%以上15質量%以下含まれる請求項1乃至3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ含有組成物の熱硬化物。
【請求項6】
体積抵抗率が、0.1Ω・cm以下である請求項5に記載の熱硬化物。
【請求項7】
(A)カーボンナノチューブと、(B)有機溶媒と、(C)熱硬化性樹脂と、を含み、前記(B)有機溶媒の沸点(T1)と前記(C)熱硬化性樹脂の熱硬化反応開始温度(T2)との差の絶対値が、70℃以下であるカーボンナノチューブ含有組成物をフィルム上に塗布する工程と、
前記カーボンナノチューブ含有組成物を熱処理することにより、前記(B)有機溶媒を揮発させ、且つ前記(C)熱硬化性樹脂の熱硬化反応を開始させる工程と、
を含み、
前記熱硬化反応開始温度(T2)は、示差走査熱量計のサンプル容器に前記(C)熱硬化性樹脂を投入し、密閉容器として窒素雰囲気下、昇温速度5℃/minで室温から300℃まで昇温させた、示差走査熱量測定による硬化発熱挙動から、反応開始温度を求め、得られた示差走査熱量のチャー卜から求められる硬化発熱ピークの立ち上がり温度であり、
前記(B)有機溶媒の沸点(T1)が、前記(C)熱硬化性樹脂の熱硬化反応開始温度(T2)よりも高く、
前記(B)有機溶媒が、N-メチル-2-ピロリドンである、カーボンナノチューブ含有組成物の熱硬化物の製造方法。
【請求項8】
前記熱硬化物が、厚み1μm以上500μm以下の導電性シートを構成する請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、回路装置の被検査電極と電気的に接続して被検査電極の導通検査を行うことができ、且つ導電材料として金属成分を含まない導通検査用導電性部材として用いることができる組成物及びその熱硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体パッケージ等の配線の正常な導通を確認するために、コンタクトプローブと呼ばれる電気コネクタが使用されている。近年、半導体等の電子部品の小型化にともない、半導体パッケージ等の配線が狭ピッチ化され、また配線が細線化されている。これにより、コンタクトプローブの小型化も要求されている。しかし、コンタクトプローブは、バネ、金属細管などを含む精密機械部品であり、その小型化には限界がある。このため、半導体パッケージ等の配線の狭ピッチ化に伴い、電気コネクタとして、コンタクトプローブに代えて異方導電性シート等の導通検査用導電性部材が用いられることがある。
【0003】
上記異方導電性シート等の導通検査用導電性部材として、例えば、シート状部材内に同一平面上に並列配置された複数の金属線を含むコアシートを複数形成し、一のコアシートに含まれる金属線の向きと、他のコアシートに含まれる金属線の向きを略一致させた状態で、2枚以上のコアシートを積層して積層体を形成し、積層体を、金属線の長さ方向と略直交する方向から切断して得られる異方導電性シートが提案されている(特許文献1)。
【0004】
しかし、特許文献1の導通検査用導電性部材では、半導体パッケージ等の配線の狭ピッチ化に対応するためには、その分、並列配置される金属線の間隔を狭める必要がある。しかし、金属線の間隔を狭めて配置すると、金属線同士が接触してしまうおそれがある。従って、特許文献1の導通検査用導電性部材では、やはり、半導体パッケージ等の配線の狭ピッチ化に対応するには限度があった。
【0005】
また、上記導通検査用導電性部材の他の例として、複数の貫通孔が形成された弾性高分子物質よりなる絶縁性シート体と、前記複数の貫通孔内に形成され、弾性高分子物質中に導電性材料が含有されてなる導電路形成部と、を有する異方導電性シートが提案されている(特許文献2)。弾性高分子物質中に含有される導電性材料として、導電性の金属粒子が使用されている。
【0006】
しかし、特許文献2の導通検査用導電性部材では、半導体パッケージ等の配線の狭ピッチ化に対応するためには、導電性粒子が含有された弾性高分子物質を充填する貫通孔の幅を小さくする必要があるので、導電性粒子として粒径の揃った小さな導電粒子を用いる必要がある。その結果、導電性粒子が凝集しやすくなって、貫通孔に導電性粒子を均一に充填することが難しく、結果、十分な導電性が得られなくなるという問題があった。
【0007】
さらに、特許文献1、2では、いずれも、導通検査用導電性部材に導電性を付与するために金属材料を使用している。導通検査用導電性部材に金属材料が使用されると、検査対象である電極や回路装置が金属材料によって汚染されることが問題となる場合がある。そこで、導電材料として金属成分を使用しない導通検査用導電性部材の開発が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6026321号公報
【文献】特許第5018612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、検査対象の回路装置の配線が狭ピッチ化され、また、配線が細線化されていても導通検査を実施することができる、導電性に優れ、且つ導電材料として金属成分を含まない導通検査用導電性部材として用いることができる、組成物及び該組成物の熱硬化物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、カーボンナノチューブを含有する組成物を提供する。本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
【0011】
[1](A)カーボンナノチューブと、(B)有機溶媒と、(C)熱硬化性樹脂と、を含み、
前記(B)有機溶媒の沸点(T1)と前記(C)熱硬化性樹脂の熱硬化反応開始温度(T2)との差の絶対値が、70℃以下であるカーボンナノチューブ含有組成物。
[2]前記(A)カーボンナノチューブの、ラマン分光により求められるラマンスペクトルのGバンドとDバンドとの強度比G/Dが1.0以上、且つ前記(A)カーボンナノチューブの平均長さが1.0μm以上である[1]に記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
[3]前記(C)熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂である[1]または[2]に記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
[4]前記(A)カーボンナノチューブが、前記カーボンナノチューブ含有組成物の全固形成分100質量%中に0.1質量%以上15質量%以下含まれる[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
[5][1]乃至[4]のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ含有組成物の熱硬化物。
[6]体積抵抗率が、0.1Ω・cm以下である[5]に記載の熱硬化物。
[7](A)カーボンナノチューブと、(B)有機溶媒と、(C)熱硬化性樹脂と、を含み、前記(B)有機溶媒の沸点(T1)と前記(C)熱硬化性樹脂の熱硬化反応開始温度(T2)との差の絶対値が、70℃以下であるカーボンナノチューブ含有組成物をフィルム上に塗布する工程と、
前記カーボンナノチューブ含有組成物を熱処理することにより、前記(B)有機溶媒を揮発させ、且つ前記(C)熱硬化性樹脂の熱硬化反応を開始させる工程と、
を含む、カーボンナノチューブ含有組成物の熱硬化物の製造方法。
[8]前記熱硬化物が、厚み1μm以上500μm以下の導電性シートを構成する[7]に記載の製造方法。
【0012】
本発明の組成物では、導電材料として金属成分ではなくカーボンナノチューブを使用している。従って、本発明の組成物では、導電材料として金属成分は配合されていない。なお、本明細書中、「熱硬化反応開始温度(T2)」とは、下記のように測定された温度を意味する。示差走査熱量計(DSC)のサンプル容器に熱硬化性樹脂を投入し、密閉容器として窒素雰囲気下、昇温速度5℃/minで室温から300℃まで昇温させて、DSC測定により硬化発熱挙動を図示して、反応開始温度を求める。図1に示すように、得られたDSCチャー卜から硬化発熱ピークの立ち上がり温度(DSCオンセット)を求め、これを熱硬化反応開始温度(T2)とする。
【発明の効果】
【0013】
カーボンナノチューブは凝集、すなわち、分散性が低下すると導電性等の特性が低下してしまう性質を有している。一方で、本発明の組成物の態様によれば、カーボンナノチューブと熱硬化性樹脂の分散媒として有機溶媒が配合され、有機溶媒の沸点(T1)と熱硬化性樹脂の熱硬化反応開始温度(T2)との差の絶対値が70℃以下に抑えられているので、組成物の熱硬化処理にあたり、有機溶媒の揮発と熱硬化性樹脂の熱硬化が同期化される。上記から、本発明の組成物が熱硬化処理されても、熱硬化物中におけるカーボンナノチューブの分散性は優れた状態を維持できる。従って、本発明の組成物を所定の形態にて熱硬化処理することにより、検査対象の回路装置の配線が狭ピッチ化され、配線が細線化されていても、適切に導通検査を実施することができる、導電性に優れた導通検査用導電性部材を得ることができる。
【0014】
また、本発明の組成物の態様によれば、導電材料として金属成分ではなくカーボンナノチューブを使用していることにより、検査対象である電極や回路装置が、導通検査時に金属材料によって汚染されることを防止できる。
【0015】
本発明の組成物の態様によれば、カーボンナノチューブのラマンスペクトルのGバンドとDバンドとの強度比G/Dが1.0以上であり、カーボンナノチューブの平均長さが1.0μm以上であることにより、組成物の熱硬化物の導電性をさらに向上させることができる。
【0016】
本発明の組成物の態様によれば、カーボンナノチューブが、組成物に含まれる全固形成分100質量%中に0.1質量%以上15質量%以下含まれることにより、熱硬化物に優れた導電性とカーボンナノチューブの優れた分散性とを付与しつつ、良好な成形性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】熱硬化反応開始温度の測定方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の組成物である、カーボンナノチューブ含有組成物の詳細について、説明する。本発明の組成物は、(A)カーボンナノチューブと、(B)有機溶媒と、(C)熱硬化性樹脂と、を含み、前記(B)有機溶媒の沸点(T1)と前記(C)熱硬化性樹脂の熱硬化反応開始温度(T2)との差の絶対値が70℃以下である、カーボンナノチューブ含有組成物である。
【0019】
(カーボンナノチューブ)
カーボンナノチューブとしては、特に限定されず、公知のカーボンナノチューブを使用することができる。具体的には、例えば、グラファイトの1枚面を1層に巻いた単層カーボンナノチューブ、多層に巻いた多層カーボンナノチューブ等が挙げられる。本発明のカーボンナノチューブ含有組成物では、カーボンナノチューブの直径(繊維径)及び平均長さは、特に限定されないが、導電性、成形性等の観点から、平均長さの長いカーボンナノチューブを使用することが好ましく、平均長さの長い単層カーボンナノチューブを使用することが特に好ましい。なお、必要に応じて、単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブとを組み合わせて用いてもよい。
【0020】
単層カーボンナノチューブの平均長さの下限値は、導電性をより向上させる点から1.0μmが好ましく、5.0μmがより好ましく、10μmが特に好ましい。一方で、単層カーボンナノチューブの平均長さの上限値は、成形物、もしくはフィルムにした際の表面外観の悪化を防止する点から200μmが好ましく、150μmがより好ましく、100μmが特に好ましい。
【0021】
単層カーボンナノチューブの直径の下限値は、熱硬化性樹脂と有機溶媒に分散される際の凝集を抑制する点から、0.5nmであることが好ましく、1.0nmであることが特に好ましい。一方で、単層カーボンナノチューブの直径の上限値は、ナノ効果による機械的特性の向上の点から15nmであることが好ましく、10nmであることが特に好ましい。
【0022】
単層カーボンナノチューブのアスペクト比は、特に限定されず、導電性や分散性等の観点から適宜選択することができる。このうち、単層カーボンナノチューブのアスペクト比の下限値は、少ない電気接点数で導電性が確保されるとともに、1本のカーボンナノチューブにおける他のカーボンナノチューブとの電気接点数が多くなって高次元な電気的ネットワークを形成することができる点から、1000が好ましく、5000が特に好ましい。一方で、単層カーボンナノチューブのアスペクト比の上限値は、有機溶媒と熱硬化性樹脂中における優れた分散性を得る点から、200000が好ましく、100000が特に好ましい。
【0023】
単層カーボンナノチューブのラマン分光により求められるラマンスペクトルのGバンドとDバンドとの強度比G/D(以下、「G/Dバンド比」ということがある。)は、特に限定されないが、G/Dバンド比の下限値は、導電性をより向上させる点から1.0が好ましく、4.0がより好ましく、6.0が特に好ましい。一方で、G/Dバンド比の上限値は、高ければ高いほど好ましいが、例えば、100が挙げられる。ここで、Gバンドはラマンスペクトルにおいて1590cm-1付近に見られるラマンシフトであり、グラファイトに由来する。Dバンドはラマンスペクトルにおいて1350cm-1付近に見られるラマンシフトであり、アモルファスカーボンやグラファイトの欠陥に由来する。すなわち、GバンドとDバンドのピーク高さの比であるG/D比が高いカーボンナノチューブほど、直線性および結晶化度が高く、高品質である。また固体のラマン分光分析法は、サンプリングによって測定値がばらつくことがある。そこで少なくとも3カ所、異なる場所についてラマン分光分析によりG/Dバンド比を測定し、その相加平均の値を本願明細書のG/Dバンド比とする。
【0024】
多層カーボンナノチューブは、2層カーボンナノチューブ(DWNT)でもよく、3層以上の多層カーボンナノチューブ(MWNT)でもよい。多層カーボンナノチューブの平均長さの下限値は、上記単層カーボンナノチューブと同様に、導電性をより向上させる点から1.0μmが好ましく、5.0μmがより好ましく、10μmが特に好ましい。一方で、多層カーボンナノチューブの平均長さの上限値は、上記単層カーボンナノチューブと同様に、成形物、もしくはフィルムにした際の表面外観の悪化を防止する点から200μmが好ましく、150μmがより好ましく、100μmが特に好ましい。
【0025】
多層カーボンナノチューブの直径の下限値は、上記単層カーボンナノチューブと同様に、熱硬化性樹脂と有機溶媒に分散される際の凝集を抑制する点から、0.5nmであることが好ましく、1.0nmであることが特に好ましい。一方で、多層カーボンナノチューブの直径の上限値は、上記単層カーボンナノチューブと同様に、ナノ効果による機械的特性の向上の点から15nmであることが好ましく、10nmであることが特に好ましい。
【0026】
多層カーボンナノチューブのアスペクト比は、特に限定されず、導電性や分散性等の観点から適宜選択することができる。このうち、多層カーボンナノチューブのアスペクト比の下限値は、上記単層カーボンナノチューブと同様に、少ない電気接点数で導電性が確保されるとともに、1本のカーボンナノチューブにおける他のカーボンナノチューブとの電気接点数が多くなって高次元な電気的ネットワークを形成することができる点から、1000が好ましく、5000が特に好ましい。一方で、多層カーボンナノチューブのアスペクト比の上限値は、上記単層カーボンナノチューブと同様に、有機溶媒と熱硬化性樹脂中における優れた分散性を得る点から、200000が好ましく、100000が特に好ましい。
【0027】
多層カーボンナノチューブのG/Dバンド比は、特に限定されないが、G/Dバンド比の下限値は、上記単層カーボンナノチューブと同様に、導電性をより向上させる点から1.0が好ましく、4.0がより好ましく、6.0が特に好ましい。一方で、G/Dバンド比の上限値は、上記単層カーボンナノチューブと同様に、高ければ高いほど好ましいが、例えば、100が挙げられる。
【0028】
カーボンナノチューブの含有量は、特に限定されないが、その下限値は、熱硬化物に体積抵抗率0.1Ω・cm以下の優れた導電性を付与する点から、カーボンナノチューブ含有組成物の全固形成分100質量%中に0.1質量%が好ましく、1.0質量%がより好ましく、3.0質量%がさらに好ましく、5.0質量%が特に好ましい。一方で、カーボンナノチューブの含有量の上限値は、熱硬化物中においてカーボンナノチューブの優れた分散性を得る点から、カーボンナノチューブ含有組成物の全固形成分100質量%中に15質量%が好ましく、容易にシート状に成形でき、導電性に優れたシート状の熱硬化物を容易に得ることができる点から、カーボンナノチューブ含有組成物の全固形成分100質量%中に12質量%がより好ましく、10質量%がさらに好ましく、7.0質量%が特に好ましい。なお、「全固形成分」とは、カーボンナノチューブ含有組成物から有機溶媒等の揮発性成分を除いた成分を意味する。
【0029】
カーボンナノチューブのBET比表面積は、特に限定されないが、導電性の点から、600m2/g以上であることが好ましい。なお、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を意味する。
【0030】
(有機溶媒)
有機溶媒は、カーボンナノチューブと後述する熱硬化性樹脂の分散媒として配合されている。本発明の組成物では、有機溶媒の沸点(T1)と後述する熱硬化性樹脂の熱硬化反応開始温度(T2)との差の絶対値が70℃以下となるように、有機溶媒の種類が選択される。従って、配合する熱硬化性樹脂の熱硬化反応開始温度(T2)の値に応じて、有機溶媒の沸点(T1)が、T2-70℃≦T1≦T2+70℃の範囲内となるように有機溶媒の種類が選択される。
【0031】
有機溶媒の沸点(T1)と熱硬化性樹脂の熱硬化反応開始温度(T2)との差の絶対値が70℃以下に抑えられていることにより、カーボンナノチューブ含有組成物の熱硬化処理にあたり、有機溶媒の揮発と熱硬化性樹脂の熱硬化が同期化される。上記から、本発明のカーボンナノチューブ含有組成物が熱硬化処理されても、熱硬化物中におけるカーボンナノチューブの分散性は優れた状態を維持できる。従って、本発明のカーボンナノチューブ含有組成物を熱硬化処理することにより、熱硬化物全体にわたって導電性を均一化でき、また体積抵抗率が0.1Ω・cm以下と優れた導電性を得ることができるので、検査対象の回路装置の配線が狭ピッチ化され、配線が細線化されていても、適切に導通検査を実施することができる、導通検査用導電性部材を得ることができる。
【0032】
有機溶媒の沸点(T1)と熱硬化性樹脂の熱硬化反応開始温度(T2)との差の絶対値が70℃以下であれば、有機溶媒の沸点(T1)も熱硬化性樹脂の熱硬化反応開始温度(T2)も、特に限定されないが、熱硬化物中におけるカーボンナノチューブの分散性をより向上させる点から、有機溶媒の沸点(T1)が熱硬化性樹脂の熱硬化反応開始温度(T2)よりも高いことが好ましい。また、有機溶媒の沸点(T1)と熱硬化性樹脂の熱硬化反応開始温度(T2)との差の絶対値は、70℃以下であれば特に限定されないが、65℃以下が特に好ましい。
【0033】
カーボンナノチューブ含有組成物中における有機溶媒の含有量は、特に限定されないが、カーボンナノチューブ含有組成物中に80質量%以上98質量%以下含まれるのが好ましく、85質量%以上95質量%以下含まれるのが特に好ましい。
【0034】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂は、バインダー樹脂として機能する。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂の他、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。これらの熱硬化性樹脂のうち、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂が特に好ましい。
【0035】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオンレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等の二官能エポキシ樹脂や多官能エポキシ樹脂、又はヒダントイン型エポキシ樹脂、トリスグリシジルイソシアヌレート型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0036】
カーボンナノチューブ含有組成物中における熱硬化性樹脂の含有量は、特に限定されないが、熱硬化性樹脂とカーボンナノチューブの含有量の合計が、カーボンナノチューブ含有組成物中に2質量%以上20質量%以下となるように熱硬化性樹脂が含まれるのが好ましく、5質量%以上15質量%以下となるように熱硬化性樹脂が含まれるのが特に好ましい。
【0037】
熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合には、硬化剤(エポキシ樹脂硬化剤)を用いることができる。エポキシ樹脂硬化剤としては、例えば、アミン類、酸無水物類、多価フェノール類等の公知の硬化剤を挙げることができ、常温以上の所定の温度で硬化性を発揮し、速硬化性を発揮する潜在性硬化剤が好ましい。潜在性硬化剤には、ジシアンジアミド、イミダゾール類、ヒドラジド類、三弗化ホウ素-アミン錯体、アミンイミド、ポリアミン塩及びこれらの変性物、更にマイクロカプセル型のものも使用可能である。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。エポキシ樹脂硬化剤の含有量は、特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂100質量部に対して0.5質量部以上50質量部以下が挙げられる。
【0038】
また、熱硬化性樹脂としてシリコーン樹脂を使用する場合には、硬化剤(シリコーン樹脂硬化剤)を用いることができる。シリコーン樹脂硬化剤としては、例えば、アルコキシシラン化合物を挙げることができる。アルコキシシラン化合物としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基を有するシラン化合物を挙げることができ、具体的には、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、テトラエトキシシラン、グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。シリコーン樹脂硬化剤の含有量は、特に限定されず、例えば、シリコーン樹脂100質量部に対して1.0質量部以上100質量部以下が挙げられる。
【0039】
本発明のカーボンナノチューブ含有組成物では、上記した各成分に加えて、必要に応じて、さらに、イソシアネート系、エポキシ系、メラミン系、過酸化物系等の架橋剤、シランカップリング剤、界面活性剤等の分散剤、電気伝導性充填剤(フィラー)、難燃剤、イオントラップ剤、増粘剤、老化防止剤、酸化防止剤等を配合することができる。
【0040】
次に、本発明のカーボンナノチューブ含有組成物の調製方法について説明する。本発明のカーボンナノチューブ含有組成物の調製方法は、特に限定されないが、例えば、まず、カーボンナノチューブを有機溶媒に分散させて、有機溶媒分散カーボンナノチューブを得る。カーボンナノチューブを有機溶媒に分散させる方法は、特に限定されず、例えば、ホモジナイザー、薄膜旋回、ジョークラッシャー、自動乳鉢、超遠心粉砕、ジェットミル、カッティングミル、ディスクミル、ボールミル、自転公転撹拌、超音波分散などの方法を挙げることができる。次に、得られた有機溶媒分散カーボンナノチューブに、熱硬化性樹脂と必要に応じて硬化剤とを添加し、室温にて、撹拌装置を用いて、所定時間撹拌することで、カーボンナノチューブ含有組成物を調製することができる。上記撹拌装置としては、例えば、ジェットミル、カッティングミル、ディスクミル、ボールミル等を挙げることができる。
【0041】
次に、本発明のカーボンナノチューブ含有組成物の熱硬化物の製造方法について説明する。カーボンナノチューブ含有組成物の熱硬化物の製造方法は、例えば、(A)カーボンナノチューブと、(B)有機溶媒と、(C)熱硬化性樹脂と、を含み、前記(B)有機溶媒の沸点(T1)と前記(C)熱硬化性樹脂の熱硬化反応開始温度(T2)との差の絶対 が、70℃以下であるカーボンナノチューブ含有組成物をフィルム上に塗布する工程と、前記カーボンナノチューブ含有組成物を熱処理することにより、前記(B)有機溶媒を揮発させ、且つ前記(C)熱硬化性樹脂の熱硬化反応を開始させる工程と、を含む。
【0042】
(フィルムに塗布する工程)
上記のように調製したカーボンナノチューブ含有組成物をフィルム上に塗布することで、カーボンナノチューブ含有組成物の塗膜とフィルムとの積層構造体を得ることができる。このとき、カーボンナノチューブ含有組成物をシート状に塗布すると、シート状の積層構造体を得ることができる。カーボンナノチューブ含有組成物の塗布方法は、特に限定されず、例えば、コンマコーター法、スクリーン印刷法、インクジェット法、ロールコータ法、バーコータ法、スプレーコータ法、カーテンフローコータ法、スキージ法、アプリケータ法、ブレードコータ法、ナイフコータ法、グラビアコータ法等、公知の方法を使用することができる。カーボンナノチューブ含有組成物の塗膜の厚さは、特に限定されず、例えば、5~100μmの範囲が挙げられる。
【0043】
なお、上記フィルムを剥離フィルムとして使用する場合には、上記フィルムの材質としては、例えば、ポリイミド、ポリエステル(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等)等を挙げることができる。
【0044】
(熱処理工程)
熱処理により、有機溶媒を揮発させながら、熱硬化性樹脂を熱硬化させていき、カーボンナノチューブ含有組成物の塗膜を熱硬化させることができる。熱処理の温度としては、熱硬化性樹脂の熱硬化開始温度に応じて適宜選択可能であるが、例えば、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂を使用する場合には、70~250℃が挙げられ、熱処理の時間としては、例えば、1~60分を挙げることができる。
【0045】
次に、上記フィルムを積層構造体から剥離することで、カーボンナノチューブ含有組成物の熱硬化物(例えば、シート状の熱硬化物)を得ることができる。
【実施例
【0046】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
<カーボンナノチューブ含有組成物の調製>
バインダー樹脂である熱硬化性樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:YD-128、新日化エポキシ製造株式会社製、質量平均分子量:400、軟化点:25℃以下、液体、エポキシ当量:190)9質量部、エポキシ樹脂硬化剤としてジエチレントリアミン(三井化学ファイン株式会社製、純度:99%以上、比重:0.95)1質量部、有機溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンに分散された単層カーボンナノチューブ(商品名:ZEONANO(登録商標)03DS-NP-RD、日本ゼオン株式会社製、固形分0.3質量%、平均長さ100μm以上、G/Dバンド比5.0以上)177質量部を250mlプラスチック容器(商品名:パックエースP-250、株式会社テラオカ製)に秤量し、遊星式撹拌・脱泡装置(商品名:マゼルスターKK-250、倉敷紡績株式会社製)にて10分間撹拌を行い、カーボンナノチューブ含有組成物を得た。
【0048】
<導電性部材の作製>
カーボンナノチューブ含有組成物10gをポリイミドフィルム上にコンマコーター法により塗布して塗膜を形成し、その後、200℃で30分加熱して、塗膜から有機溶媒を揮発させ、且つ塗膜を熱硬化させて、厚さが10μmの熱硬化塗膜を形成した。これにより、実施例1に係るシート状の導電性部材を得た。
【0049】
(実施例2)
カーボンナノチューブ含有組成物の調製において、N-メチル-2-ピロリドンに分散された単層カーボンナノチューブ(商品名:EC1.5P-NMP、名城ナノカーボン株式会社製、固形分0.2質量%、平均長さ5~10μm、G/Dバンド比50以上)を265質量部用いた以外は実施例1と同様にして、実施例2に係るシート状の導電性部材を得た。
【0050】
(実施例3)
カーボンナノチューブ含有組成物の調製において、N-メチル-2-ピロリドンに分散された単層カーボンナノチューブ(商品名:EC2.0P-NMP、名城ナノカーボン株式会社製、固形分0.2質量%、平均長さ10~15μm、G/Dバンド比50以上)を265質量部用いた以外は実施例1と同様にして、実施例3に係るシート状の導電性部材を得た。
【0051】
(実施例4)
カーボンナノチューブ含有組成物の調製において、N-メチル-2-ピロリドンに分散された単層カーボンナノチューブ(商品名:EC2.0P-NMP、名城ナノカーボン株式会社製、固形分0.2質量%、平均長さ10~15μm、G/Dバンド比50以上)を375質量部用いた以外は実施例1と同様にして、実施例4に係るシート状の導電性部材を得た。
【0052】
(実施例5)
カーボンナノチューブ含有組成物の調製において、N-メチル-2-ピロリドンに分散された単層カーボンナノチューブ(商品名:EC2.0P-NMP、名城ナノカーボン株式会社製、固形分0.2質量%、平均長さ10~15μm、G/Dバンド比50以上)を555質量部用いた以外は実施例1と同様にして、実施例5に係るシート状の導電性部材を得た。
【0053】
(実施例6)
カーボンナノチューブ含有組成物の調製において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に代えて難結晶性液状エポキシ樹脂(商品名:ZX-1059、新日化エポキシ製造株式会社製、粘度2250mPa・s、軟化点:25℃以下、液体、エポキシ当量:165)を9質量部用いた以外は実施例2と同様にして、実施例6に係るシート状の導電性部材を得た。
【0054】
(実施例7)
カーボンナノチューブ含有組成物の調製において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に代えて環状脂肪族ジグリジルエ-テル系エポキシ樹脂(商品名:ZX-1658GS、新日化エポキシ製造株式会社製、粘度50mPa・s、軟化点:25℃以下、液体、エポキシ当量:133)を9質量部用いた他は実施例2と同様にして、実施例7に係るシート状の導電性部材を得た。
【0055】
(実施例8)
カーボンナノチューブ含有組成物の調製において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に代えてシリコーン樹脂であるシラノール基を有するポリジメチルシロキサン(商品名:XP1434、JNC株式会社製、粘度50mPa・s、液状)を7質量部、ジエチレントリアミンに代えてアルコキシエポキシシラン(商品名:S-510、JNC株式会社製、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン)を3質量部用いた以外は実施例2と同様にして、実施例8に係るシート状の導電性部材を得た。
【0056】
(実施例9)
カーボンナノチューブ含有組成物の調製において、カーボンナノチューブとしてN-メチル-2-ピロリドンに分散された単層カーボンナノチューブ(商品名:ZEONANO(登録商標)03DS-NP-RD、日本ゼオン株式会社製、固形分0.3質量%、平均長さ100μm以上、G/Dバンド比5.0以上)を500質量部用いた以外は実施例1と同様にして、実施例9に係るシート状の導電性部材を得た。
【0057】
(実施例10)
カーボンナノチューブ含有組成物の調製において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に代えてシリコーン樹脂であるシラノール基を有するポリジメチルシロキサン(商品名:FM-9915、JNC株式会社製、粘度130mPa・s、液状)を7質量部、ジエチレントリアミンに代えてアルコキシエポキシシラン(商品名:S-510、JNC株式会社製、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン)を3質量部用いた以外は実施例2と同様にして、実施例10に係るシート状の導電性部材を得た。
【0058】
(比較例1)
カーボンナノチューブ含有組成物の調製において、メチルエチルケトンに分散された単層カーボンナノチューブ(商品名:03DS-MK-RD、日本ゼオン株式会社製、固形分0.35質量%、平均長さ100μm以上、G/Dバンド比5.0)を151質量部用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1に係るシート状の導電性部材を得た。
【0059】
(比較例2)
カーボンナノチューブ含有組成物の調製において、メチルエチルケトンに分散された単層カーボンナノチューブ(商品名:EC1.5P-MEK、名城ナノカーボン株式会社製、固形分0.2質量%、平均長さ5~10μm、G/Dバンド比50以上)を265質量部用いた以外は実施例1と同様にして、比較例2に係るシート状の導電性部材を得た。
【0060】
上記のようにして得られた実施例及び比較例の各導電性部材について以下の測定および評価を行った。
【0061】
(有機溶媒沸点(T1))
各実施例及び比較例に用いた有機溶媒分散型カーボンナノチューブに使用した有機溶媒について、融点測定装置(型番:M-560、柴田科学株式会社製)にて昇温速度5℃/minの条件で有機溶媒沸点(T1)を測定した。その結果を下記表1、2に示す。
【0062】
(熱硬化反応開始温度(T2))
各実施例及び比較例に用いた熱硬化性樹脂と硬化剤について、表1、2に示す量を250mlプラスチック容器(商品名:パックエースP-250、株式会社テラオカ製)に秤量し、遊星式撹拌・脱泡装置(商品名:マゼルスターKK-250、倉敷紡績株式会社製)にて10分間撹拌を行った。これらサンプルを、上記の測定方法に従って、示差走査熱量計(型番:DSC7000、株式会社日立ハイテクサイエンス製)にて昇温速度5℃/minにて室温から300℃まで昇温測定し、得られた発熱ピークから、熱硬化反応開始温度(T2)を測定した。
【0063】
(フィルム性評価)
各実施例及び比較例に係る導電性部材からポリイミドフィルムを剥離した際に、熱硬化塗膜の破断状況を目視にて評価した。熱硬化塗膜が破断することなく剥離可能であったものを○、熱硬化塗膜が破断したものを×と評価した。その結果を表1、2に示す。
【0064】
(カーボンナノチューブ(CNT)分散状態評価)
各実施例及び比較例にて得られた導電性部材をウルトラミクロトーム(商品名:EMUC7、Leica製)にて厚み方向に略半分に切断し、その断面を透過電子顕微鏡(商品名:JEM-ARM300F、日本電子株式会社製)にて観察することにより、CNTの分散状態を観察した。全ての観察面についてCNTが単一分散されていたものを○、CNTの凝集体が観察されたものを×と評価した。その結果を表1、2に示す。
【0065】
(体積抵抗率)
各実施例及び比較例にて得られた導電性部材を直径12.5mmの穴あけポンチにて切り抜き、直径12.5mm、厚さ10μmの円盤状の試験片を得た。この試験片について、高精度高機能低抵抗率計(型番:ロレスタGX、株式会社三菱化学アナリテック製、測定端子:PSPプローブ MCP-TP06P RMH112)にて4端子法で体積抵抗率を測定した。その結果を表1、2に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
上記表1から、有機溶媒の沸点(T1)と熱硬化性樹脂の熱硬化反応開始温度(T2)との差の絶対値が70℃以下である実施例1~10では、カーボンナノチューブの凝集が防止されて単一に分散されていた。この実施例1~10では、体積抵抗率を低減でき、導電性部材全体にわたって優れた導電性を得ることができた。従って、実施例1~10では、検査対象の回路装置の配線が狭ピッチ化され、また、配線が細線化されていても、精度よく導通検査を実施することができることが判明した。特に、カーボンナノチューブがカーボンナノチューブ含有組成物の全固形成分100質量%中に5質量%以上10質量%以下含まれる実施例1~8、10では、カーボンナノチューブがカーボンナノチューブ含有組成物の全固形成分100質量%中に13質量%含まれる実施例9と比較して、フィルム成形性にも優れており、容易にシート状に成形できることが判明した。
【0069】
なお、実施例1~10では、導電材料として、カーボンナノチューブを用い、金属成分は配合しないので、導通検査用導電性部材として用いた場合でも、検査対象である電極や回路装置が金属材料によって汚染されることを防止できる。
【0070】
一方で、上記表2から、有機溶媒の沸点(T1)と熱硬化性樹脂の熱硬化反応開始温度(T2)との差の絶対値が70℃超である比較例1~2では、カーボンナノチューブの凝集が生じた。この比較例1~2では、体積抵抗率が増大してしまい、導電性部材として良好な導電性を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のカーボンナノチューブ含有組成物は、熱硬化物である導電性部材の全体にわたって優れた導電性を得ることができるので、導電材料として金属成分を含まない導通検査用導電性部材として用いることができる。また、カーボンナノチューブ含有組成物の熱硬化物である導電性部材は、シート状への成形も可能なので、導通検査用の導電性シートを形成することもできる。また、厚み方向に貫通する複数の貫通孔が設けられた絶縁性シート体の前記貫通孔に、本発明のカーボンナノチューブ含有組成物を充填させて硬化することで、異方導電性シートを形成することもできる。
図1