(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】ラジアルギャップ型回転電機及びラジアルギャップ型回転電機の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 3/46 20060101AFI20230322BHJP
H02K 3/34 20060101ALI20230322BHJP
H02K 1/16 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
H02K3/46 C
H02K3/34 C
H02K1/16 C
(21)【出願番号】P 2019071393
(22)【出願日】2019-04-03
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】榎本 裕治
(72)【発明者】
【氏名】沖代 賢次
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-101673(JP,A)
【文献】特開2005-333785(JP,A)
【文献】特開2008-228363(JP,A)
【文献】特開2009-165202(JP,A)
【文献】特開2010-259140(JP,A)
【文献】特開2014-222978(JP,A)
【文献】国際公開第2011/118357(WO,A1)
【文献】特開2011-097723(JP,A)
【文献】特開2010-041795(JP,A)
【文献】国際公開第2008/044703(WO,A1)
【文献】特開2004-336883(JP,A)
【文献】特開2013-059177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/46
H02K 3/34
H02K 1/16
H02K 15/02
H02K 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、前記回転軸の周りを回転可能な回転子鉄心とを有する回転子と、
前記回転子鉄心にギャップを挟んで対向して配置された固定子鉄心を含む固定子と、を備え、
前記固定子鉄心は、円環形状を有し、内周に沿って設けられた複数の凹部を有するバックヨークと、前記バックヨークの前記凹部に嵌合されたティースとを有し、
前記ティースは、上面視で長方形を有するアモルファス金属箔帯片が互いの摩擦で保持された積層体と、前記積層体を保持するボビンを有し、
前記ボビンは、前記バックヨーク側の端部に前記積層体を着脱可能な開口部を有し、前記開口部以外の部分は前記積層体を覆う構造を有
し、
前記ボビンの側面に複数の突起部が設けられており、
前記ティースは、組み立てた状態で隣り合う前記ボビンの複数の前記突起部同士が接触して円環状に配置され、
隣り合う前記ボビンの前記バックヨーク側の先端に設けられた前記突起部が、隣の前記ボビンの前記突起部との間で、その位置をずらして互いに重なり合うように構成され、
前記ボビンの前記バックヨーク側は、前記積層体の端部が前記ボビンの前記開口部から突出した状態となっており、前記積層体の端部は、前記バックヨークの前記凹部に篏合、装着されていることを特徴とするラジアルギャップ型回転電機。
【請求項2】
前記バックヨークは、軟磁性材料からなる環状の薄板片を積層した積層体であることを特徴とする請求項
1に記載のラジアルギャップ型回転電機。
【請求項3】
前記バックヨークは、周方向に複数に分割された軟磁性材料からなることを特徴とする請求項
1に記載のラジアルギャップ型回転電機。
【請求項4】
前記バックヨークは、軟磁性材料片が周方向にエッジワイズ状に巻かれて形成された積層体であることを特徴とする請求項
1に記載のラジアルギャップ型回転電機。
【請求項5】
前記固定子は、前記ボビンの間に配置されるスロットと、前記スロットの内部に配置されるコイル導体とを有し、前記コイル導体は、前記ギャップ側から2本ずつ断面積が異なることを特徴とする請求項
1に記載のラジアルギャップ型回転電機。
【請求項6】
前記コイル導体の先端部の少なくとも一部が樹脂でモールドされている
ことを特徴とする請求項
5に記載のラジアルギャップ型回転電機。
【請求項7】
回転軸と、前記回転軸の周りを回転可能な回転子鉄心とを有する回転子と、
前記回転子鉄心にギャップを挟んで対向して配置された固定子鉄心を含む固定子と、を備えるラジアルギャップ型回転電機の製造方法において、
前記固定子鉄心は、円環形状を有し、内周に沿って設けられた複数の凹部を有するバックヨークと、前記バックヨークの前記凹部に嵌合されたティースとを有し、
前記ティースは、平面視で長方形を有するアモルファス金属箔帯片が互いの摩擦で保持された積層体と、前記積層体を保持するボビンを有し、
前記ボビンは、前記バックヨーク側の端部に前記積層体を着脱可能な開口部を有し、前記開口部以外の部分は前記積層体を覆う構造を有し、
前記アモルファス金属箔帯片は、所定の幅を有するアモルファス金属箔帯をせん断
加工のみで長方形形状に加工
されていることを特徴とするラジアルギャップ型回転電機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジアルギャップ型回転電機及びラジアルギャップ型回転電機の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械の動力源や自動車駆動用として用いられる回転電機(モータ)は、高効率化が求められる。モータの高効率化は、使用する材料に低損失な物を利用したり、高エネルギー積の永久磁石を用いたりする設計が一般的である。
【0003】
モータの損失は、主に銅損と鉄損及び機械損からなり、要求仕様の出力特性(回転数とトルク)が決まると、機械損は一意に決まるため、銅損と鉄損を低減する設計が重要となる。銅損は、主にコイルの抵抗値と電流の関係で決まり、冷却によってコイル抵抗値の低減や、磁石の残留磁束密度の低下を抑えるような設計を行う。鉄損は、使用する軟磁性材料によって低減が可能である。一般的なモータでは鉄心部分には電磁鋼板が採用されており、その厚みやSiの含有量などによって損失レベルが異なるものが利用されている。
【0004】
軟磁性材料には、電磁鋼板よりも透磁率が高く、鉄損が低い鉄基アモルファス金属や、鉄基ナノ結晶合金等の高機能材料が存在するが、これらの材料系では、その板厚が0.025mmと非常に薄く、また、ビッカース硬度が900程度であり、電磁鋼板の5倍以上に硬い等、モータを効率よく安価に製造する上での課題が多い。
【0005】
アモルファス金属をラジアルギャップ型の回転電機に適用した例として、特許文献1がある。特許文献1には、多面体形状を有し且つ複数のアモルファス金属ストリップ層を含む、高効率の電動モータで使用するためのバルクアモルファス金属磁気構成要素が開示されている。特許文献1には、アモルファス金属ストリップ材料を所定の長さを持つ複数のストリップに切断し、これを積み重ねたアモルファス金属ストリップ材料のバーを形成し、アニール処理を施した後、積み重ねたバーをエポキシ樹脂で含浸し、硬化させ、積み重ねたバーを所定の長さに切断し、所定の立体的形状を持つ多面形形状の複数の磁気構成要素を提供する方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献2には、アモルファス薄板材から鉄心片を打抜き積層しアモルファス積層鉄心を製造する方法において、アモルファス薄板材から鉄心片の所要箇所を打抜き形成するとともに連結用穴を形成し、鉄心片をダイ孔に外形抜きし、ダイ孔を下方から臨み進退自在な受け台上に所望の厚さまで積層し、受け台をダイ孔の下方より後退させるとともに該受け台に積層された積層鉄心を把持拘束し、該積層鉄心の連結用穴に接着連結剤を注入充填し連結することを特徴とするアモルファス積層鉄心の製造方法が開示されている。特許文献2では、電磁鋼板でモータのコアをプレス打抜きするのと同様に順送金型によって、所定のモータコア形状を打抜きする例が示されている。この例では、打抜きで形状加工はできるが、アモルファス箔帯が薄すぎるために電磁鋼板で実現されている板間のカシメ締結が出来ないため、治具に積層された状態で接着剤をコアの所定の穴に注入して積層固着する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-21919号公報
【文献】特開2003-309952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1及び2に示されるラジアルギャップ型回転電機へのアモルファス金属の適用方法は、その製造に特殊な機械加工を行うための装置や、加工に時間がかかりすぎるなどの課題がある。
【0009】
さらに、特許文献2ではアモルファス金属をプレスして積層しているが、アモルファス金属は厚みが電磁鋼板の1/10以下であるため、10倍のプレス回数が必要となる。また、アモルファス金属は、電磁鋼板の5倍は硬いため金型に与える影響が5倍となる。したがって、電磁鋼板に比べて、金型への影響は50倍以上となり、通常は約200万回毎に金型の再研磨を行いながら製造を行うが、再研磨までの回数が1/50以下となるために大幅に製造コストの上昇を招いてしまう。1分間に180SPM(shot per minutes)のスピードでプレスを行なった場合では、約1ヶ月で200万回を迎えるが、同一速度でプレスを行った場合には、生産タクトは枚数の関係から10倍かかり、金型の再研磨は、1日たたないで研磨しなければならないことになる。加えて大型の金型のダイ、パンチの研磨には、プレス装置からの金型積み降ろしなどの手間も含めて多くの工数がかかるため、この条件での生産は現実的でない事がわかる。
【0010】
以上述べた通り、アモルファス金属を用いたラジアルギャップ型のモータの製造について、実用レベルで製造できる構造とその製造装置及び製造方法が見出されていないのが実情であった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑み、高い効率を実現でき、かつ、生産性に優れたアモルファス金属を使用したラジアルギャップ型回転電機、ラジアルギャップ型回転電機の製造方法および磁気式歯車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明のラジアルギャップ型回転電機の一態様は、回転軸と、前記回転軸の周りを回転可能な回転子鉄心とを有する回転子と、前記回転子鉄心にギャップを挟んで対向して配置された固定子鉄心を含む固定子と、を備え、前記固定子鉄心は、円環形状を有し、内周に沿って設けられた複数の凹部を有するバックヨークと、前記バックヨークの前記凹部に嵌合されたティースとを有し、前記ティースは、上面視で長方形を有するアモルファス金属箔帯片が互いの摩擦で保持された積層体と、前記積層体を保持するボビンを有し、前記ボビンは、前記バックヨーク側の端部に前記積層体を着脱可能な開口部を有し、前記開口部以外の部分は前記積層体を覆う構造を有し、前記ボビンの側面に複数の突起部が設けられており、前記ティースは、組み立てた状態で隣り合う前記ボビンの複数の前記突起部同士が接触して円環状に配置され、隣り合う前記ボビンの前記バックヨーク側の先端に設けられた前記突起部が、隣の前記ボビンの前記突起部との間で、その位置をずらして互いに重なり合うように構成され、前記ボビンの前記バックヨーク側は、前記積層体の端部が前記ボビンの前記開口部から突出した状態となっており、前記積層体の端部は、前記バックヨークの前記凹部に篏合、装着されていることを特徴とする。
【0013】
また、上記課題を解決するための本発明のラジアルギャップ型回転電機の製造方法の一態様は、回転軸と、前記回転軸の周りを回転可能な回転子鉄心とを有する回転子と、前記回転子鉄心にギャップを挟んで対向して配置された固定子鉄心を含む固定子と、を備えるラジアルギャップ型回転電機の製造方法において、前記固定子鉄心は、円環形状を有し、内周に沿って設けられた複数の凹部を有するバックヨークと、前記バックヨークの前記凹部に嵌合されたティースとを有し、前記ティースは、平面視で長方形を有するアモルファス金属箔帯片が互いの摩擦で保持された積層体と、前記積層体を保持するボビンを有し、前記ボビンは、前記バックヨーク側の端部に前記積層体を着脱可能な開口部を有し、前記開口部以外の部分は前記積層体を覆う構造を有し、前記アモルファス金属箔帯片は、所定の幅を有するアモルファス金属箔帯をせん断加工のみで長方形形状に加工されていることを特徴とする。
【0015】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い効率を実現でき、かつ、生産性に優れたアモルファス金属を使用したラジアルギャップ型回転電機及びラジアルギャップ型回転電機の製造方法を提供することができる。
【0017】
上述した以外の課題、構成及び効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子鉄心のティースを構成するアモルファス金属箔帯片の上面図
【
図1B】本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子鉄心のティースを構成するアモルファス金属箔帯片の積層体の斜視図
【
図1C】本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子鉄心の一部の上面図
【
図2】アモルファス金属箔帯をせん断する装置の模式図
【
図3A】本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子鉄心を構成するアモルファス金属箔帯片の積層体を保持するボビンの斜視模式図
【
図3B】本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子鉄心を構成するアモルファス金属箔帯片の積層体を保持するボビンの別角度の斜視模式図
【
図3C】
図3Aおよび
図3Bのボビンにアモルファス金属箔帯片の積層体を保持する態様を示す模式図
【
図4A】本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子鉄心を構成するバックヨークの第1の例を示す模式図
【
図4B】本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子鉄心を構成するバックヨークの第2の例を示す模式図
【
図4C】本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子鉄心を構成するバックヨークの第3の例を示す模式図
【
図5A】本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子鉄心を構成するバックヨークにティースを配置する態様を示す斜視模式図
【
図5B】本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子鉄心の上面図
【
図6A】本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子の第1の例を示す斜視模式図
【
図7A】本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子の第2の例を示す斜視模式図
【
図9A】本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子を固定子コイルと共に示す斜視図
【
図9B】本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子および回転子の位置関係を示す斜視図
【
図10A】本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子のコイル先端部がモールドされている態様の1例を示す模式図
【
図10B】本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子のコイル先端部がモールドされている態様の他の例を示す模式図
【
図11】本発明のラジアルギャップ型回転電機の1例を示す分解斜視図
【
図12A】本発明の磁気式歯車の磁極を構成するアモルファス金属箔帯片の積層体とボビンを示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面等を用いて、本発明のラジアルギャップ型回転電機およびラジアルギャップ型回転電機の製造方法の実施形態について説明する。
【0020】
[ティース]
図1Aは本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子鉄心のティースを構成するアモルファス金属箔帯片の上面図であり、
図1Bはこのアモルファス金属箔帯片を積層した積層体10の斜視図である。
図1Aおよび
図1Bに示すように、本発明のティースは、上面視で長方形を有するアモルファス金属箔帯片1の積層体10を有する。
【0021】
図1Aに示すように、アモルファス金属箔帯片1は、長方形の形状を有し、長辺同士1a,1bと短辺1c,1d同士が平行で、その辺と辺との間の角度は直角となっている。アモルファス金属箔帯片1のサイズの一例は、長辺1a,1bの長さ:30mm、短辺1c,1dの長さ:6mm、厚さ:0.025mmである。
図1Bに示す積層体10は、例えばこのアモルファス金属箔帯片1を軸方向に2000枚を積層し、高さ約50mmとすることができる。なお、本明細書において「長方形」は、四つの線分に囲まれ、全ての角が直角(粗級で10~50mm以下の場合は±1.0°)のものを指し、「正方形」を含むものとする。
【0022】
アモルファス金属の材料に特に限定は無いが、例えばメトグラス製のMetglas 2605HB1M(組成:Fe-Si-B)、Metglas 2605SA1(組成:Fe-Si-B)、Metglas 2605S3A(組成:Fe-Si-B-Cr)及びMetglas 2705M(組成:Co-Fe-Ni-Si-B-Mo)を用いることが好ましい。上述した「Metglas」は、日立金属株式会社のグループ会社であるMetglas Incorporatedの登録商標である。
【0023】
図1Cは本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子鉄心の一部の上面図である。
図1Cに示すように、固定子鉄心を構成するバックヨーク2は、円環形状を有し、内周に沿って複数の凹部20を有する。積層体10は、後述する
図3Aに示すボビンに保持されてティース4を構成し、ボビンから突出した積層体10の一端が凹部20に嵌合される(尚、
図1Cではボビンは図示していない)。
図1Cでは、バックヨーク2の周方向に7.5度の角度毎にティース4を均等配置する例を示している。この場合、周方向のティース4の数は48個となる。
【0024】
ティース4は、回転子磁石からの磁束や、固定子コイル(以下、単にコイルと言うことがある。)が発生させた磁束が径方向に流れるため、その磁束密度を考えると、ティース4の両側片が径方向に向かって平行となる方が磁束密度を一定にできる利点もある。また、固定子鉄心に設けられた固定子スロット(コイルを配置するための部屋(空隙溝))の回転子側の開口部(スロット溝の内側(磁石回転子側)の空隙部)は、ギャップの磁気抵抗変化率を少なくするために小さくする必要があり、ティース4を長方形にすることで、この回転子側開口部を狭くする設計ができることも利点の一つである。
【0025】
[ティースを構成する積層体の製造方法]
ここで、アモルファス金属箔帯片を積層した積層体の製造方法について説明する。
【0026】
図2は帯状のアモルファス金属箔帯から箔帯片をせん断する装置の模式図である。
図2に示すように、せん断装置(金型ユニット)100は、上型と下型の組み合わせで構成されており、下型は、下側ベースプレート107に金型ホルダ109が配置され、そのホルダ109に下切断刃105が取り付けられている。上型は、上側ベースプレート106に、金型ホルダ108が取り付けられており、そのホルダ108に上切断刃104が取り付けられた構成となっている。上切断刃104は、固定された下切断刃105に対して、切断クリアランスを設定して上下(
図2の矢印の方向)に移動可能に構成されている。
【0027】
アモルファス金属箔帯の素材シート101は、送りローラ102,103によって等ピッチで金型ホルダ109側に供給される。金型ホルダ109に送り出されたアモルファス金属箔帯の素材シート101は、上刃104及び下刃105によってせん断切断され、アモルファス金属箔帯片1となってベースプレート107の上に順次連続的に積層されて積層体10を製造する。このような方式によると、送りとせん断が繰り返されだけなので切断機構が簡素化される。また、切断刃は汎用的な形状であるので、金型への取り付け取り外しが容易な上、安価で再研磨等のメンテナンスもしやすい。このため、アモルファス金属の硬さや薄さによる製造上の不利益に対しても充分に製造コストを抑えて効率的に生産することができる。
【0028】
本発明のラジアルギャップ型回転電機のティース4を構成するアモルファス金属箔帯は、比較的小さな部品であるため、大きな推力を必要とするプレス機械が必要でなく、前述したような30mm×6mm程度の部品の切断スピードは、500SPM以上の高速切断が期待できる。さらに複数枚重ねた素材シート101を供給することによって、倍化することができ商業的に効果が期待できる製造スピードで生産を行うことができる。
【0029】
本発明のラジアルギャップ型回転電機は、上述したように、アモルファス金属箔帯を、簡易かつ安価にせん断加工で作製できるものであることが特徴の1つである。例えば、放電加工を行うと、被加工品の表面が電気的に結合し、回転電機の特性低下を引き起こす恐れがある。せん断加工のみでアモルファス金属箔帯片及びその積層体を作製できれば、上述したように磁束密度を一定にすること、および、ギャップ側開口部を小さくすることができ、回転電機の特性低下を防止できる。
【0030】
[ボビン]
図3Aおよび3Bは、本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子鉄心を構成するアモルファス金属箔帯片の積層体を保持するボビンの模式図である。
図3Aは磁気ギャップ(以下、単にギャップと言う)に対向する面から見た斜視図であり、
図3Bはバックヨーク2から見た斜視図である。
図3Bに示すように、ボビン3は、バックヨーク2に設置された状態で、バックヨーク側の端部にアモルファスティース金属箔帯の積層体10を着脱可能な開口部32を有し、開口部32以外の部分は積層体10を覆う(包み込む)構造を有している。ボビン3は、樹脂製であることが好ましく、ボビンの両側面には複数の突起部(顎部)30が設けられている。突起部30は、後述するコイル導体の位置をガイドする役割を果たす。なお、ボビンの開口部32側の最端部にある突起部を鍔部31a、ボビンのギャップ側の最端部にある突起部を鍔部31cとする。
【0031】
上述したように、ボビン3のギャップ側は鍔部31cにより閉じた形状となっており、積層体10が移動できないような構造としている。これにより、ギャップ間隔を一定に保つことができる。
【0032】
図3Cは
図3Aおよび
図3Bのボビンにアモルファス金属箔帯片の積層体を保持する態様を示す模式図である。
図3Cに示すように、積層体10は、長辺方向に平行な方向にボビン3へと挿入される構成となる。挿入された積層体10は、互いのアモルファス金属箔帯片の表面同士の摩擦力で保持されるが、さらにボビン3の鍔部31cに突き当てられることで位置決めされて固定される。一方、ボビン3のバックヨーク側は、積層体10の端部10bがボビン3の開口部31から突出した状態となっており、積層体10の端部がその形状のまま見える形となっている。この端部10bは、後述するようにバックヨークに設けた凹部20に嵌合、装着されることになる。
【0033】
[バックヨーク]
次に、バックヨーク2の説明をする。
図4Aは本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子鉄心を構成するバックヨークの第1の例を模式図である。
図4Aではバックヨーク2aの全体像を示している。この例では、円環状のバックヨーク2aの周方向3箇所に、取付穴の耳40が構成されるコアバック形状を示している。バックヨーク2aの材質に特に限定は無いが、電磁鋼板や冷間圧延鋼板(SPCC)等をプレスで打抜きされた板材を積み重ねた積層体で構成したものである。ただし、バックヨーク2aは、その板厚が0.2mm、0.35mm、0.5mm等、必要性に応じて厚さを選定できる。バックヨーク2aは、強度を優先した厚めの設計とする場合、板厚0.5mmの電磁鋼板でティース4と同様の積層厚み50mmとする場合、100枚の積層体で構成することができる。
【0034】
図4Bは本発明のバックヨークの第2の例を示す模式図である。
図4Bに示すバックヨーク2bは、4スロット(収容されるコイル導体の単位)分のバックヨーク片を円周上に12個組み合わせてバックヨーク2bを構成した例を示している。電磁鋼板等の矩形の薄板からプレス加工によって円環状の部品を作製する場合、周深部の部分や、4つ角部に残った材料は廃棄しなければならないため、材料の利用率が極端に悪くなる。このため、円環の部品を得るために、円環を分割して、例えば12分割の小さなブロック体をプレスで内抜き加工して、それらを組み合わせて使用することが好ましい。このようにすることで、材料の利用効率を向上できる。
【0035】
図4Cは本発明のバックヨークの第3の例を示す模式図である。
図4Cでは、バックヨーク2cを巻鉄心とする構成例を示した。この形態でも材料の利用率を改善できる。すなわち、例えば、定幅の電磁鋼板の片側に、上述したティース4の積層体の端部10bを装着するための角型形状の凹部を内抜きする金型を設けて凹部を形成しながら、その凹部にあわせて電磁鋼板をエッジワイズ状に巻きとって積層して行く方法で製作される。この方法では、材料の歩留まりは前述の分割ブロック工法よりも高く出来ることが特長である。
【0036】
図5Aは、上記したバックヨーク2とティース4とを組み付ける態様を示す斜視模式図であり、
図5Bはその上面図である。
図5Aに示すように、積層体10は、上述したようにボビン3に挿入されると、端部10bが突出するので、この端部10bをバックヨーク2の凹部20に挿入し、嵌合させて組立てを行う。嵌合部分に接着剤を用いても良い。バックヨーク2、ボビン3およびティース4の位置関係は
図5Bに示す通りとなり、積層体10は、絶縁体であるボビン3によってモータの固定子コイルが入るスロット部の電気的絶縁が確保される構成となる。
【0037】
[固定子]
図6Aは本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子の第1の例を示す斜視模式図であり、
図6Bは
図6Aの上面図である。
図6Aでは、ティース4を周方向に48個組立てた状態を示している。
図6Bに示すように、円環状にティース4を組み立てた状態で、隣合うボビン3の鍔部31c同士が接触して円環状に配置される。これにより、ボビン3のギャップ側が円周方向に曲がったりずれたりしなくなり、円環状を保持することができる。一方、ボビン3のバックヨーク2側の端部の鍔部31aは、隣りのボビン3の鍔部31bとの間で、その位置をずらして重なる構成としている。鍔部31a,31bが重なる構成とすることで、ボビンの表面積を大きくし、コイル導体配置部からバックヨーク2までの絶縁沿面距離をかせげる構成となっている。
【0038】
図7Aは本発明の固定子の第2の例を示す斜視模式図であり、
図7Bは
図7Aの上面図である。
図7Aおよび7Bには、コイル導体が、隣り合うボビン3同士の突起部30との間の間隙で形成される空間に配置される構成を示している。尚、
図6Bはコイル導体を配置していない状態を示しており、符号33が空間である。
【0039】
[コイル導体]
隣り合うボビン3同士の間隙で構成される空間33の断面は、ティース4が長方形であることから、台形形状となる。したがって、バックヨーク2の内径側(ギャップ側)では、空間の周方向の幅が狭く、外径側(バックヨーク側)に行くほど空間の周方向幅が広くなる形状となっている。このようなスロットに導体を配置する場合において、同一断面をもつコイル導体で構成する場合、一列にコイルを配置しようとすると、内径側のコイル導体の幅に統一する必要があり、スロットの断面積に対する導体の割合(占積率)は、低いものとなってしまう。これを改善するため、本発明では
図7Bに示すように、内径側から、2本ずつのペア(6a,6b,6c)でコイル導体の断面積を外径側にいくほど大きくする構成とした。これにより、空間断面が長方形形状となる一般的なセグメントコンダクタ方式のラジアルギャップモータとほぼ同一の占積率を得ることができる。
【0040】
[固定子コイル]
図8Aは固定子コイルの構成の1例を示す模式図であり、
図8Bは
図8Aの上面図であり、
図8Cは
図8Aの分解斜視図である。
図8Aに示すように、固定子コアのスロット部に取り付けられた絶縁物80に、開き角45°のヘアピン形状の固定子コイル6が挿入されている図面を示している。
図8Cに示すように、波巻を構成する固定子コイル6は、2つの脚を持つヘアピン形状(U字形状)のセグメント導体60の先端部が凸形状となったものを下記する固定子の穴部に装着する。また、その軸方向反対側には、同様のへアピン形状(U字形状)で、その先端部が凹形状となったもの61,62を固定子の別の穴部に装着する。こうして波巻が形成され、バックヨーク2の内部で導体コイルに接続される構造を持つ。
【0041】
図8Bには、固定子の穴部に番号を付けて表す。
図8Bでは、円周方向に48の穴部と径方向に6本のコイルが配置される例を示している。
図8Bでは、第1象限を示す。穴部の番号を角度0度の位置から順に、(1)から(12)までを7.5°ピッチで順に番号を示している。また、径方向のコイル番号を、1層目から6層目として示す。ここで示しているヘアピン状の固定子コイル6dは、右の脚が(5)番穴部の1層目に挿入し、装着され、左側の脚が(11)番穴部の2層目に挿入し、装着されるようなコイルとなっている。ここでは径方向に3つのコイルを示しており、径方向2番目のコイル6eは、右側の脚が(5)番穴部の3層目に挿入・装着され、左側の脚が(11)番穴部の4層目に挿入・装着されるようなコイルとなっている。
【0042】
同様に、径方向3番目のコイル6fも、右の脚が(5)番穴部の5層目に挿入・装着され、左側の脚が(11)番穴部の6層目に挿入・装着される。軸方向反対側の固定子コイルは、
図8Cに示すようにコイルの接続が波状となるように配置される。これを見るとわかるように、これらの固定子コイルは、1層目と2層目、3層目と4層目、5層目と6層目がそれぞれ繋がっている構成となっていることが理解できる。このため、
図7Bで示したように、コイルの断面を径方向に台形状にしているので、狭い方(ギャップ側)から1層目と2層目は同一断面とし、3層目と4層目は1層、2層目より大きい同一断面とし、5層目と6層目は3層、4層目より大きい同一断面とするように、2層ずつ変更している形とすることが有効である。
【0043】
図9Aは本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子コイルを取り付けた状態の固定子の模式図であり、
図9Bは固定子と回転子の分解斜視図である。
図9Aおよび9Bに示すように、固定子90の内側に永久磁石7が配置された回転子91がギャップを保った状態で配置される。これにより、磁力によって磁性体であるティース4が吸引される構造となっている。
【0044】
[樹脂モールド]
樹脂モールドは、コイル導体の先端部の少なくとも一部に施される。以下、コイル6導体全体をモールド固定する
図10A、コイル6の一部をモールド固定する
図10Bについて説明する。
【0045】
図10Aは本発明のラジアルギャップ型回転電機の固定子の模式図である。
図10Aに示すように、固定子コイルの先端部分(コイルのエンド部分)を含めてモールド樹脂23によってモールド固定する構造を示している。モールドは、固定子コイルエンドと、反対側のコイルエンド部に金型をかぶせ、樹脂を射出成型などの方法を用いて金型内に注入し、その固定子スロット(コイル導体が収容される部分)のコイル導体とボビンとの隙間なども含めて樹脂を注入して形成される。樹脂注入には、加圧注入や、減圧(真空引き)注入等の方法で狭い隙間にも注入する方法がとられる。このようにモールドすることで、回転子の磁石に吸引されてもその位置を保持することができる。
【0046】
図10Bには、コイルエンド部の固定子端面に近い部分だけをモールドする構造を示している。自動車駆動用に使用されるモータの一部には、電流密度が高いために、コイルエンド部分にATF(Automatic transmission fluid)などの油をかけて冷却を行うものがある。このため、熱伝導率の低い樹脂で覆うことによって、放熱性を悪化させるため、コイルエンドの一部をむき出しにして、冷却が可能とすることができる。
【0047】
図11は本発明のラジアルギャップ型回転電機の一例を示す模式図である。
図11に示すように、前述した固定子は、ハウジング24に保持され、回転子は、フロントとリア側のエンドブラケット25,26によって、ベアリングを介して回転可能に保持される。
【0048】
[磁気式歯車]
次に、本発明の磁気式歯車について説明する。
図12Aは本発明の磁気式歯車の磁極を構成するボビンとティースを示す模式図である。
図12Bは本発明の磁気式歯車の磁極を示す模式図であり、
図12Cは本発明の磁気式歯車を示す模式図である。
図12A~12Cに示すように、アモルファスティース金属箔帯片を積層した積層体121とボビン122を用いることで、磁気式歯車124を構成することもできる。磁気式歯車124は、磁力により非接触で回転やトルクを伝達するものであり、潤滑が不要で粉塵の発生がないので長寿命であるという特徴に加え、隔壁等により原動側歯車と従動側歯車を隔離することができるものである。
【0049】
図12A~12Bに示すように、ボビン122に長方形状のアモルファス金属箔帯片を積層した積層体121が装着されたものが円環形状に配置される。ボビン122の左右側面は、図示するように互い違いに段差が形成されており、隣り合うボビン同士がこの段差で係止され、径方向に移動することなく円環状に組み立てることができる。
図12Cに示すように、巻線123が施されていてもよい。
【0050】
また、
図12A~Cでは、ボビンの両端にアモルファス金属箔帯積層体を着脱する開口部を有しているが、一方の端部にのみ設けられていてもよい。
【0051】
以上、説明したように、本発明によれば、高い効率を実現でき、かつ、生産性に優れたアモルファス金属を使用したラジアルギャップ型回転電機、ラジアルギャップ型回転電機の製造方法および磁気式歯車を提供できることが実証された。
【0052】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0053】
上述した構成はアモルファス金属のように加工が困難な素材を利用するためのひとつの事例であり、鉄基アモルファス金属部分は、軟加工性のガラス被膜を有する方向性電磁鋼帯や、ナノ結晶合金などを使用する場合においても有効な手段であり、それぞれの材料を用いる場合において各種のアレンジをして構成することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1…アモルファス金属箔帯片、2,2a,2b,2c…バックヨーク、20…凹部、3…ボビン、30…突起部(顎部)、31,31a,31b,31c…鍔部、32…開口部、33…空間、4…ティース、6,6a,6b,6c,6d,6e,6f,60,61,62…コイル、7…永久磁石、8…回転子コア、9…回転軸(シャフト)、10…積層体、10b…積層体の端部、23…モールド樹脂、アモルファス金属箔帯片の積層体、40…取付穴の耳、90A…固定子鉄心、90,901,902…固定子、91…回転子、
100…せん断装置(金型ユニット)、101…アモルファス金属箔帯の素材シート、102,103…送りローラ、104…上刃、105…下刃、106…上側ベースプレート、107…下側ベースプレート、108,109…金型ホルダ、
200…ラジアルギャップ型回転電機、24…ハウジング、25…フロント側エンドブラケット、26…リア側エンドブラケット、120…磁極、121…アモルファスティース金属箔帯の積層体、122…ボビン、123…巻線、124…磁気式歯車