(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】半導体基板表面に付着した有機物の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/203 20060101AFI20230322BHJP
【FI】
G01N23/203
(21)【出願番号】P 2020018961
(22)【出願日】2020-02-06
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】大槻 剛
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達夫
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-281601(JP,A)
【文献】特表2008-543027(JP,A)
【文献】特開2006-153751(JP,A)
【文献】特開2010-010126(JP,A)
【文献】特開2015-118077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
H01L 21/00 - H01L 21/98
H01J 37/00 - H01J 37/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板表面に付着した有機物の評価方法であって、
イオンの加速電圧を200keV以上600keV以下で、該イオンを前記半導体基板表面へ入射し、ラザフォード後方散乱を測定
し、
前記ラザフォード後方散乱の測定において、前記イオンの前記半導体基板の表面への入射角を、伏角5°以上15°以内とし、前記半導体基板表面から0.2nmまでの深さの最表面を測定することを特徴とする半導体基板表面に付着した有機物の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体基板の評価方法に関し、半導体基板表面の有機物の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の製造工程において、有機物が、半導体基板上に形成される絶縁膜表面に付着すると、リーク電流の増大や絶縁耐圧の低下など、半導体素子の電気的特性に悪影響を及ぼすことが、例えば、特許文献1に述べられている。かかる品質の悪化は表面に付着する雰囲気由来の有機物と密接な相関があることが知られている。従って、表面に付着する有機汚染を評価する分析法があれば、この汚染の由来を推測することが可能になり、有機物汚染発生の抑制や、前述のような半導体素子の電気的特性の劣化を生じる限度に達する前に基板表面を洗浄して付着有機物を除去するなどの対策が可能になる。
【0003】
従来、このような有機物汚染の評価方法としては、昇温脱離法によって試料ウエーハ表面より有機化合物分子を脱離させる。この脱離したガス状の有機化合物(脱離有機化合物)を所定の方法によりサンプリングし、サンプリングしたガス状の脱離有機化合物についての紫外線吸収スペクトルの測定や、ガスクロマトグラフ、または質量分析等の手法にて測定されていた(特許文献1および特許文献2)。昇温脱離法では、半導体基板を高温まで温度を上げて有機物を脱離させるが、有機物の分子量や構造、さらに半導体基板との結合状態によっては、脱離しなかったり、単分子に分解し捕捉が難しかったりする問題がある。
【0004】
また、別の半導体基板の有機物表面汚染の評価方法として、X線光電子分光(XPS)法によって測定することも知られている。XPS法は、高真空中で測定サンプルに軟X線を照射してサンプル表面から脱出する光電子のエネルギーと数をスペクトロメータで計測することにより、サンプル表面に存在する元素を定性・定量分析する。XPS法による極微量の表面有機物汚染量の評価では、有機物汚染量は、表面から深さ数十オングストロームの分析領域内における全原子数に対する炭素原子数の割合もしくは、上記分析領域内に存在する既知の元素の原子数に対する炭素原子数の比で表される。XPS法は、スペクトル分離が必要であり、分離方法によって誤差を生じ、特に非常に強い(数の多い光電子)スペクトルに微小なスペクトルが隠れてしまい、半導体基板表面の有機物汚染の評価に必要なスペクトルを見落とす問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-171002号公報
【文献】特開平6-347445号公報
【文献】特開2005-121493号公報
【文献】特開平8-220030号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】宇佐美 昌「100例にみる半導体評価技術 第7版」p26-27(1996)工業調査会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、半導体基板表面の有機物汚染の評価方法として、従来、昇温脱離法やXPS法が用いられてきた。しかし、昇温脱離法及びXPS法を用いた半導体基板表面の有機物汚染の評価方法には、それぞれ上述の問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、半導体基板表面に存在する有機物を高感度で評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、半導体基板表面に付着した有機物の評価方法であって、イオンの加速電圧を200keV以上600keV以下で、該イオンを前記半導体基板表面へ入射し、ラザフォード後方散乱を測定することを特徴とする半導体基板表面に付着した有機物の評価方法を提供する。
【0010】
このような半導体基板表面に付着した有機物の評価方法であれば、イオンによる半導体基板表面に付着した有機物の破壊を抑えつつ、母材である半導体基板の影響を低減し、高感度で表面付近を評価することが可能になる。
【0011】
このとき、前記ラザフォード後方散乱の測定において、前記イオンの前記半導体基板の表面への入射角を、伏角5°以上15°以内とし、前記半導体基板表面から0.2nmまでの深さの最表面を測定することが好ましい。
【0012】
このようにすれば、イオンによる半導体基板表面に付着した有機物の破壊をより抑え、また母材である半導体基板の影響をさらに低減しつつ、より高感度で、より一層表面付近を評価することが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の半導体基板表面に付着した有機物の評価方法によれば、半導体基板表面の微量な有機物汚染を、非破壊で、高感度で測定、評価することが可能となる。本発明の半導体基板表面に付着した有機物の評価方法は、クリーンルームやウエーハを搬送・保管するボックスの評価等に非常に有効であり、半導体基板を用いて作製される半導体装置の歩留まり向上などに寄与することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の半導体基板表面に付着した有機物の評価方法における、ラザフォード後方散乱法の実施形態の一例を示す図である。
【
図2】ラザフォード後方散乱分光法おいて、イオンの入射角を低伏角(θ
1)と高伏角(θ
2)とした場合を示す模式図。
【
図3】実施例1と比較例1の有機物測定結果を示す図である(加速電圧依存性)。
【
図4】実施例2における検出された有機物量の入射角依存性を示す図である。
【
図5】実施例2におけるラザフォード後方散乱分光法の実施形態を示す図である。
【
図6】実施例3と比較例2における検出された有機物量を示す図である。
【
図7】一般的なラザフォード後方散乱分光法の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
上述のように、半導体基板表面に存在する有機物を高感度で評価する方法が求められていた。
【0017】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、イオンの加速電圧を、例えば、200keVから500keVと低加速にして、また例えば、半導体基板に対して加速器を水平から5~10°以内に設置し、イオンを半導体基板の表面に入射し、後方散乱したイオンのエネルギーと個数を測定することで、元素分析するラザフォード後方散乱分光法によって、半導体基板表面に付着した有機化合物を評価することにより、半導体基板表面の微量な有機物汚染を、非破壊で、高感度で測定、評価できることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
以下、図面を参照して説明する。
【0019】
まず、ラザフォード後方散乱分光(RBS)法について説明する。RBS法は、Rutherford Backscattering Spectorometoryとよばれ、例えば、高エネルギーに加速されたプローブイオン(例えばヘリウムイオン(He+)や水素イオン(H+)などの軽イオン)を半導体表面に打ち込み、半導体基板を構成する原子の原子核によってラザフォード散乱されて、進行方向が曲げられ逆方向(後方、即ち入射方向)に放出されたときのエネルギー分光とイオンの数から散乱を生じさせた半導体材料内の原子核の質量と密度および原子核の存在する場所(例えば、表面からの深さ)を決定する方法である。非特許文献1によれば、表面からの検出深さは、半導体表面から数μmの深さまでほぼ100オングストローム程度の精度で測定できる。
【0020】
また、RBS法は不純物を含む標準サンプルを準備しなくても定量分析が可能であり、またほとんど非破壊で分析が可能であること、さらに深さ方向分布も測定できることから優れた評価手法である(非特許文献1)。
【0021】
図7に示すような従来のRBS法では、半導体基板1、加速器2、質量分析装置3、位置検出器4を用いて行う。従来のRBS法は、重い母材中に存在する炭素、酸素等の軽元素に対し、これらの軽元素からの散乱粒子の信号は、母材からの強い信号中に隠されてしまい、これらの軽元素からの散乱粒子を母材からのそれと区別することができない。特に表面から数十マイクロメーターの深さの分析を行う場合にこの困難性は顕著となるとされてきていた(例えば、特許文献3)。
【0022】
本発明に係る半導体基板表面に付着した有機物の評価方法の概略図の一例を
図1に示す。本発明の半導体基板表面に付着した有機物の評価方法は、RBS測定時のイオンの加速電圧を200keV以上600keV以下で、イオンを半導体基板表面へ入射し、ラザフォード後方散乱を測定し、半導体基板表面に付着した有機物の評価する方法である。
【0023】
加速電圧が200keV未満であると、イオンが十分に加速されず測定感度が得られなくなり、また加速電圧が600keVを超えると、加速エネルギーが大きすぎて、表面付近の有機物をイオンで除去してしまう。RBS測定時のイオンの加速電圧を200keV以上600keV以下とすれば、母材である半導体基板の影響を低減しつつ、高感度で表面付近を評価することが可能になる。
【0024】
このとき、加速電圧を200keV以上600keV以下の範囲であれば、有機物の分子量、測定装置、被評価物などの条件に応じて、加速電圧を最適値に設定してよい。最適値としては、例えば、200keV~500keV、より好ましくは400keV~450keVが挙げられる。
【0025】
このとき、ラザフォード後方散乱の測定において、イオンの半導体基板の表面への入射角を、伏角5°以上15°以内とし、半導体基板表面から0.2nmまでの深さの最表面を測定することが好ましい。伏角とは、半導体基板表面の水平面から半導体基板表面の中心軸に向けた角度である(半導体基板表面から入射イオン線までの角度)。具体的には、後に詳細に説明する
図2のθ
1やθ
2である。
【0026】
イオンの半導体基板の表面への入射角を、伏角5°以上15°以内とすれば、イオンによる半導体基板表面に付着した有機物の破壊をより抑えつつ、母材である半導体基板の影響をさらに低減し、より高感度で評価することが可能になる。すなわち、プローブイオンの加速器を被評価基板の表面すれすれに(伏角5°以上15°以内)設置することが好ましい。伏角が大きすぎると表面の有機物をイオンで除去してしまい、また伏角が小さすぎると十分プローブイオンが半導体基板表面に当たらなくなってしまう。また、半導体基板表面から0.2nmまでの深さの最表面を測定することで、より一層表面付近を評価することが可能になる。被評価基板の表面すれすれにイオンを入射して測定する分析方法として、特許文献4には表面分析方法が記載されている。この表面分析方法は、水素等の軽元素を分析する手法であり、具体的には、被評価基板最表面の原子を叩き出して分析する手法であり、スパッタリング効果を伴うため、必ずしも最表面を非破壊で分析することが出来ない。
【0027】
ここで、
図2を用いて、イオンの半導体基板の表面への入射角についてさらに詳細に説明する。
図2は、半導体基板1上の有機物5の表面にイオンを入射する際、イオンの入射角θ
1と入射角θ
2の2通りを示している図である。なお、θ
1とθ
2では、伏角はθ
2の方が大きい。
【0028】
入射角が
図2のθ
2のように高伏角だと、イオンが半導体基板1の内部へ押し込まれ、母材の影響が大きくなるが、θ
1のように低伏角でイオンを入射すると、イオンの半導体基板1の内部へ押し込みが抑えられるため、母材の影響を受けにくくなる。また、入射角が低伏角すぎると、イオンが半導体基板1や有機物5に当たらなくなる可能性がある。従って、イオンの半導体基板の表面への入射角を、伏角5°以上15°以内とすることが好ましい。
【0029】
測定深さは、一般に、加速電圧と角度の両方に依存するため、加速電圧を200keV以上600keV以下の範囲であれば、イオンの半導体基板の表面への入射角を、有機物の分子量、測定装置、被評価物などの条件に応じて調整してもよい。
【0030】
本発明の半導体基板表面に付着した有機物の評価方法は、上記のような構成によって、RBS法を、有機物を構成する炭素のような軽元素でかつ、半導体基板の表面に存在しても測定可能になる。半導体基板表面に存在する有機物の分析においては、半導体基板から有機物を脱離させる必要性がなく分析が可能であり、非破壊で、高感度な分析が可能になる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明について詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0032】
(実施例1)
直径300mmボロンドープの通常抵抗シリコンウエーハを準備し、シリコンウエーハ表面を初期化のために0.5%HFで洗浄後通常のSC1洗浄を70℃で行った。この後、7枚のシリコンウエーハをウエーハケースに入れて1週間放置した。この際、測定に使用するウエーハ7枚の前後に5枚ずつのダミーウエーハを入れることで、ケースに直接ウエーハ表面が面しないようにした。1週間放置後に、半導体基板表面に付着した有機物の評価を、加速電圧を200keV、400keV、450keV、500keV、600keVと振って表面の有機物を評価した。なお、このときの入射角は伏角10°とした。その結果、加速電圧が450keVのときが一番高感度に有機物を測定することが可能であった。この結果を
図3に示す。
【0033】
(比較例1)
実施例1に記載の評価を、加速電圧を100keV、1000keVに変更して行った。しかし、加速電圧を100keV、1000keVでは、半導体基板表面に付着した有機物は検出出来なかった。この結果を
図3に併せて示す。
【0034】
(実施例2)
直径300mmボロンドープの通常抵抗シリコンウエーハを準備し、シリコンウエーハ表面を初期化のために0.5%HFで洗浄後通常のSC1洗浄を70℃で行った。この後、9枚のシリコンウエーハをウエーハケースに入れて1週間放置した。この際、測定に使用するウエーハ9枚の前後に5枚ずつのダミーウエーハを入れることで、ケースに直接ウエーハ表面が面しないようにした。1週間放置後に、半導体基板表面に付着した有機物の評価を、イオンの入射角(
図5のθ
3)を伏角2°、4°、6°、8°、10°、12°、16°と振って表面の有機物を評価した。なお、このときの加速電圧は450keVとした。その結果、入射角が伏角10°のときが一番高感度に有機物を測定することが可能であった。この結果を
図4に示す。
【0035】
(実施例3)
直径300mmボロンドープの通常抵抗シリコンウエーハを準備し、シリコンウエーハ表面を初期化のために0.5%HFで洗浄後通常のSC1洗浄を70℃で行った。この後、シリコンウエーハをウエーハケースに入れて1週間放置後に、本発明に係る方法で表面の有機物を評価した。この際、測定に使用するウエーハ2枚の前後に5枚ずつのダミーウエーハを入れることで、ケースに直接ウエーハ表面が対面しないようにした。半導体基板表面に付着した有機物の評価は、加速電圧は450keV、入射角は伏角10°とし行った。その結果、表面密度で0.89g/cm
3有機物が観測された。このときの表面からの深さは0.1nmである。この結果を
図6に示す。
【0036】
(比較例2)
実施例3のウエーハケースから別のシリコンウエーハを取り出し、従来の評価方法である昇温脱離法(TDS法)で有機物分析を行ったが、有機物は検出出来なかった。なお、昇温は室温から500℃までとし、GC-MSを用いて分析した。この結果を
図6に併せて示す。
【0037】
比較例1のように、イオンの加速電圧が100keV、1000keVの場合、半導体基板表面に付着した有機物は、検出出来なかった。また、比較例2のように、昇温脱離法による半導体基板表面に付着した有機物の評価方法では、半導体基板表面に付着した有機物を検出できなかった。
【0038】
一方、本発明の半導体基板表面に付着した有機物の評価方法であれば、実施例1で示したように、イオンの加速電圧を200keV以上600keV以下であれば、高感度で有機物を測定することが可能であった。また、実施例2で示したように、イオンの入射角を2°、4°、6°、8°、10°、12°、16°とした場合、高感度に有機物を測定することが可能であった。また、実施例3で示したように昇温脱離法では検出できなかった半導体基板表面に付着した有機物を検出し、評価できた。
【0039】
以上のように、本発明の半導体基板表面に付着した有機物の評価方法であれば、半導体基板表面の微量な有機物汚染を、非破壊で、高感度で測定、評価することが可能である。
【0040】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0041】
1…半導体基板、 2…加速器、 3…質量分析装置、 4…位置検出器、
5…有機物。