(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】積層体の製造方法、及び積層体
(51)【国際特許分類】
B05D 7/24 20060101AFI20230322BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20230322BHJP
B05D 3/10 20060101ALI20230322BHJP
B32B 15/082 20060101ALI20230322BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230322BHJP
H05K 3/38 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
B05D7/24 302L
B05D7/14 Z
B05D3/10 H
B32B15/082 B
H05K1/03 610H
H05K3/38 B
(21)【出願番号】P 2020516234
(86)(22)【出願日】2019-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2019016028
(87)【国際公開番号】W WO2019208276
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018085492
(32)【優先日】2018-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019006964
(32)【優先日】2019-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】山邊 敦美
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】寺田 達也
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/017801(WO,A1)
【文献】特開平04-004146(JP,A)
【文献】国際公開第2018/055839(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/048965(WO,A1)
【文献】特開2011-225710(JP,A)
【文献】特開2008-260864(JP,A)
【文献】特開2009-235565(JP,A)
【文献】特開2017-128804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 7/24
B05D 7/14
B05D 3/10
B32B 15/082
H05K 1/03
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔と、前記金属箔の少なくとも一方の表面に接するフッ素樹脂層とを有する積層体の製造方法であり、
アミノアルコキシシランと(メタ)アクリロイルオキシアルキルアルコキシシランとの混合物であるシランカップリング剤で処理された、十点平均粗さが0.2~4μmである金属箔の表面に、380℃における溶融粘度が1×10
2~1×10
6Pa・sであるテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを含む分散液を塗布し乾燥し、加熱してフッ素樹脂層を形成することを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂パウダーの体積基準累積50%径が、0.05~4μmである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記金属箔のケイ素原子密度が、12atomic%以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記金属箔が、
アミノアルコキシシランと(メタ)アクリロイルオキシアルキルアルコキシシランとの混合物であるシランカップリング剤を噴霧乾燥して処理された金属箔である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ポリマーの全単位に対して、テトラフルオロエチレンに由来する単位を99.5mol%以上含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ポリマーの全単位に対して、テトラフルオロエチレン以外のモノマーに由来する単位を0.5mol%超含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記分散液の25℃における粘度が、10~1000mPa・sである、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記金属箔が、金属箔本体と、前記金属箔本体の前記フッ素樹脂層の側に設けられた防錆処理層とを有する、請求項1~
8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
アミノアルコキシシランと(メタ)アクリロイルオキシアルキルアルコキシシランとの混合物であるシランカップリング剤で処理された表面を有する金属箔と、前記表面に接するフッ素樹脂層とを有し、前記表面の十点平均粗さが0.2~4μmであり、前記フッ素樹脂層が380℃における溶融粘度が1×10
2~1×10
6Pa・sであるテトラフルオロエチレン系ポリマーの層である積層体。
【請求項11】
前記フッ素樹脂層の厚さが、20μm未満である、請求項
10に記載の積層体。
【請求項12】
前記金属箔のケイ素原子密度が、12atomic%以下である、請求項
10又は
11に記載の積層体。
【請求項13】
金属箔とフッ素樹脂層との剥離強度が、5N/cm以上である、請求項
10~12のいずれか1項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製造方法、及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属箔の表面に樹脂層を有する積層体(銅張積層板等)は、金属箔をエッチング等によって加工することによってプリント配線板として用いられる。
高周波信号の伝送に用いられるプリント配線板には、伝送特性に優れることが要求される。伝送特性を高めるには、プリント配線板の樹脂層として、比誘電率及び誘電正接が低い材料を用いる必要がある。かかる絶縁材料としてはフッ素樹脂が知られているが、フッ素樹脂は金属箔との接着性が不充分である。
かかる積層体として、金属箔とフッ素樹脂層との間にシランカップリング剤を存在させた金属樹脂複合体が提案されており、前記金属樹脂複合体の製造方法として、特許文献1には、シランカップリング剤で処理された表面を有する金属箔とフッ素樹脂フィルムを熱圧着させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記方法で得られる金属樹脂複合体における、金属箔とフッ素樹脂層の接着性は、未だ充分とは言えず、さらなる接着性の改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]金属箔と、前記金属箔の少なくとも一方の表面に接するフッ素樹脂層とを有する積層体の製造方法であり、シランカップリング剤で処理された、十点平均粗さが0.2~4μmである金属箔の表面に、380℃における溶融粘度が1×102~1×106Pa・sであるテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを含む分散液を塗布し乾燥し、加熱してフッ素樹脂層を形成することを特徴とする積層体の製造方法。
[2]前記樹脂パウダーの体積基準累積50%径が、0.05~4μmである[1]の製造方法。
[3]前記金属箔のケイ素原子密度が、12atomic%以下である、[1]又は[2]の製造方法。
[4]前記金属箔が、シランカップリング剤を噴霧乾燥して処理された金属箔である、[1]~[3]のいずれかの製造方法。
[5]前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ポリマーの全単位に対して、テトラフルオロエチレンに由来する単位を99.5mol%以上含む、[1]~[4]のいずれかの製造方法。
[6]前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ポリマーの全単位に対して、テトラフルオロエチレン以外のモノマーに由来する単位を0.5mol%超含む、[1]~[4]のいずれかの製造方法。
[7]前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、[1]~[6]のいずれかの製造方法。
[8]前記分散液の25℃における粘度が、10~1000mPa・sである、[1]~[7]のいずれかの製造方法。
[9]前記シランカップリング剤が、アルコキシシリル基を有し、さらにメルカプト基、アミノ基、(メタ)アクリル基、イソシアヌレート基、ウレイド基及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも一種を有する化合物を含む、[1]~[8]のいずれかの製造方法。
[10]前記シランカップリング剤が、アミノアルコキシシランと(メタ)アクリロイルオキシアルキルアルコキシシランとの混合物である、[1]~[9]のいずれかの製造方法。
[11]前記金属箔が、金属箔本体と、前記金属箔本体の前記フッ素樹脂層の側に設けられた防錆処理層とを有する、[1]~[10]のいずれかの製造方法。
[12]シランカップリング剤で処理された表面を有する金属箔と、前記表面に接するフッ素樹脂層とを有し、前記表面の十点平均粗さが0.2~4μmであり、前記フッ素樹脂の層が、380℃における溶融粘度が1×102~1×106Pa・sであるテトラフルオロエチレン系ポリマーの層である積層体。
[13]前記フッ素樹脂層の厚さが、20μm未満である、[12]の積層体。
[14]前記金属箔のケイ素原子密度が、12atomic%以下である、[12]又は[13]の積層体。
[15]金属箔とフッ素樹脂層との剥離強度が、5N/cm以上である、[12]~[14]のいずれかの積層体。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、金属箔とフッ素樹脂層との接着性に優れる積層体の製造方法、及び接着強度の高い、金属箔の表面に形成されたフッ素樹脂層を有する積層体、が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の積層体の一例を示す断面模式図である。
【
図2】本発明の積層体の他の例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「樹脂パウダーのD50」は、レーザー回折・散乱法によって求められる体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
「樹脂パウダーのD90」は、レーザー回折・散乱法によって求められる体積基準累積90%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が90%となる点の粒子径である。
「溶融粘度」は、ASTM D 1238に準拠し、フローテスター及び2Φ-8Lのダイを用い、予め測定温度にて5分間加熱しておいたフッ素樹脂の試料(2g)を0.7MPaの荷重にて測定温度に保持して測定される溶融粘度を意味する。
「融点」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した融解ピークの最大値に対応する温度である。
「比誘電率」及び「誘電正接」は、ASTM D 150に準拠した変成器ブリッジ法にしたがい、温度を23℃±2℃の範囲内、相対湿度を50%±5%RHの範囲内に保持した試験環境において、絶縁破壊試験装置を用いて1MHzで求めた値である。高周波数帯では、SPDR(スプリットポスト誘電体共振器)法により、23℃±2℃、50±5%RHの範囲内の環境下にて、周波数20GHzで測定される値である。
「算術平均粗さ(Ra)」は、Oxford Instruments社製の原子間力顕微鏡を用い、層の表面を下記の測定条件にて分析して、層表面1μm
2範囲のRaを求めた値である。
(測定条件)
プローブ:AC160TS-C3(先端R<7nm、バネ定数 26N/m)
測定モード:AC-Air
Scan Rate:1Hz
「十点平均粗さ(Rz
JIS)」は、JIS B 0601:2013の附属書JAで規定される値である。
図1~
図2における寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なる。
【0009】
本発明の製造方法は、シランカップリング剤(以下、Si剤ともいう)処理された所定粗さの金属箔表面に、所定溶融粘度のテトラフルオロエチレン系ポリマー(TFE系ポリマー)のパウダー分散液を塗布乾燥し、所定温度で加熱して、前記金属箔の表面にフッ素樹脂層を接着積層させる方法とも言える。
【0010】
本発明の積層体(樹脂付金属箔)が、接着性と電気特性に優れている理由は、必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
本発明において、フッ素樹脂層の形成はTFE系ポリマーのパウダーの少なくとも一部が溶融し金属箔表面の微小な粗さ部分の凹凸に高度に充填して進行するため、フッ素樹脂層と金属箔は隙間なく大面積で接触する。
また、シランカップリング剤処理された金属箔は所定の表面粗さを有し、フッ素樹脂層の形成に際してはTFE系ポリマーとシランカップリング剤とが高度に相互作用して接着効果を発現しやすい。このように、金属箔の特徴とTFE系ポリマーのパウダーの特徴との相乗効果によって、本発明の積層体は、接着性と電気特性(フッ素樹脂の物性に起因する低い比誘電率と低い誘電正接性等。)に優れていると考えられる。
なお、この相乗効果は、実施例における積層体の剥離試験の結果、つまり、積層体を剥離させた際、金属箔とフッ素樹脂層とが層間剥離するのではなくフッ素樹脂層が凝集破壊している結果からも、裏付けられるとも言える。
【0011】
本発明における積層体は、金属箔と、金属箔の少なくとも一方の表面に接するフッ素樹脂層(以下、「F樹脂層」とも記す。)を有する。
本発明の積層体は、金属箔の両面にF樹脂層を有してもよい。
本発明の積層体は、F樹脂層に接する基板をさらに有してもよい。
本発明の積層体の層構成としては、金属箔/F樹脂層、金属箔/F樹脂層/金属箔、F樹脂層/金属箔/F樹脂層、基板/F樹脂層/金属箔、金属箔/F樹脂層/基板/F樹脂層/金属箔等が挙げられる。「金属箔/F樹脂層」とは、金属箔、F樹脂層がこの順に積層されていることを示し、他の層構成も同様である。
【0012】
図1は、本発明の積層体の一例を示す断面模式図である。
積層体10は、金属箔12と、金属箔12の一方の表面に接するフッ素樹脂層14とを有する。
図2は、本発明の積層体の他の例を示す断面模式図である。
積層体11は、金属箔12と、金属箔12の一方の表面に接するフッ素樹脂層14と、フッ素樹脂層14に接する基板16とを有する。
【0013】
本発明における金属箔は、シランカップリング剤で処理された、十点平均粗さが0.2~4μmである表面を、少なくとも一方に有する。
金属箔の表面がシランカップリング剤で処理されていることは、金属箔表面を蛍光X線分析(XRF)法で分析し、ケイ素原子とシランカップリング剤の官能基に特有の原子(窒素原子、硫黄原子等)とを検出することによって確認できる。ケイ素原子と前記原子の検出量は、検出限界以上であればよく、それぞれ0.01質量%以上検出されるのが好ましい。
金属箔表面のシランカップリング剤処理は、金属箔表面の全体にされていてもよく、金属箔表面の一部がされていてもよく、積層体の電気特性及び金属箔とF樹脂層の接着性の観点から、金属箔表面の一部がされているのが好ましい。
【0014】
また、金属箔表面の一部がシランカップリング剤で処理されている態様としては、金属箔の表面の粗さ部分(凹凸部分)の区別なく、その一部がシランカップリング剤で処理されている態様であってもよく、金属箔の表面の粗さ部分(凹凸部分の凸部分等の粗化処理部)がシランカップリング剤で処理されている態様であってもよい。金属箔表面のシランカップリング剤処理の態様は、金属箔断面をエネルギー分散型X線分光器(EDS)により元素分析し、ケイ素原子とシランカップリング剤の官能基に特有の原子(窒素原子、硫黄原子等)とを検出することによって確認できる。
【0015】
表面の一部がシランカップリング剤で処理された金属箔は、例えば、シランカップリング剤を金属箔の表面に噴霧乾燥して得られる。噴霧乾燥の方法としては、国際公開第2015/40988号の段落[0061]~[0064]に記載された処理方法が挙げられる。具体的な噴霧乾燥の方法としては、シランカップリング剤と溶媒(アルコール、トルエン、ヘキサン、水等)とを含み、シランカップリング剤の濃度が0.5~1.5質量%に調整された処理液を、金属箔の表面に噴霧し、100~130℃で1~10分間加熱する方法が挙げられる。
【0016】
金属箔表面におけるシランカップリング剤処理は、その処理密度が制御されているのが特に好ましい。かかるシランカップリング剤の処理密度は、XPS法(X線光電分光法)による金属箔の表面分析により定量できる。金属箔表面におけるシランカップリング剤の処理密度はXPS法による金属箔の表面分析により定量されるケイ素原子密度に換算した値で、12atomic%以下が好ましく、10atomic%以下が特に好ましい。その下限は、通常、1atomic%である。
本発明の製造方法においては、TFE系ポリマーの分散液の塗布乾燥と加熱によるTFE系ポリマーの焼成によってフッ素樹脂層が形成され、焼成における高温加熱によりシランカップリング剤が部分的に分解しやすい。その分解物が多量であると、金属箔とフッ素樹脂層の接着強度、特に経時的な接着強度を低下させやすい。金属箔表面におけるシランカップリング剤の処理密度が、上記範囲にあると、かかる接着強度の低下を効果的に抑制しやすい。処理密度は、上述した噴霧乾燥法等の条件を変更することによって調整するのが好ましい。
【0017】
シランカップリング剤は、加水分解性シリル基と、加水分解性シリル基以外の反応性基(以下、「反応性基」とも記す。)を有する有機化合物が好ましい。加水分解性シリル基の加水分解により形成されるシラノール基(Si-OH)が金属箔の表面と相互作用してシランカップリング剤が金属箔の表面に固定され、反応性基がF樹脂層表面と相互作用することによって、金属箔とF樹脂層との接着性が発現する。
【0018】
加水分解性シリル基としては、アルコキシシリル基が好ましく、トリアルコキシシリル基がより好ましく、トリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基が特に好ましい。
反応性基としては、水酸基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基、アミド基、スルフィド基、スルホニル基、スルホ基、スルホニルジオキシ基、エポキシ基、(メタ)アクリル基、メルカプト基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、ウレイド基が挙げられ、メルカプト基、アミノ基、(メタ)アクリル基、イソシアネート基、イソシアヌレート基又はウレイド基が好ましく、メルカプト基、アミノ基又は(メタ)アクリル基がより好ましく、メルカプト基が特に好ましい。なお、(メタ)アクリル基とはアクリル基とメタクリル基の総称である。
【0019】
アルコキシシリル基とアミノ基を有する有機化合物(アミノ系シランカップリング剤)としては、アミノアルコキシシランが挙げられ、その具体例としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。また、アミノアルコキシシランの誘導体として、ケチミン(3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン等)、アミノアルコキシシランの塩(N-ビニルベンジル-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン酢酸塩等)等も挙げられる。
【0020】
アルコキシシリル基とメルカプト基を有する有機化合物(メルカプト系シランカップリング剤)としては、メルカプトアルコキシシランが挙げられ、その具体例としては、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピル(ジメトキシ)メチルシラン等が挙げられる。
【0021】
アルコキシシリル基と(メタ)アクリロイルオキシ基を有する有機化合物((メタ)アクリル系シランカップリング剤)としては、(メタ)アクリロイルオキシアルキルアルコキシシランが挙げられ、その具体例としては、3-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。なお、(メタ)アクリロイルオキシ基とはメタクリロイルオキシ基とアクリロイルオキシ基の総称であり、(メタ)アクリロイルオキシアルキルアルコキシシランとはメタクリロイルオキシアルキルアルコキシシランとアクリロイルオキシアルキルアルコキシシランの総称である。
【0022】
金属箔表面は、1種のシランカップリング剤で処理されていてもよく、複数種のシランカップリング剤で処理されていてもよい。
1種のシランカップリング剤で処理する場合のシランカップリング剤は、アミノアルコキシシラン又はメルカプトアルコキシシランが好ましい。
複数種のシランカップリング剤で処理する場合のシランカップリング剤は、アミノアルコキシシランと(メタ)アクリロイルオキシアルキルアルコキシシランとの混合物が好ましい。この場合、それぞれのシランカップリング剤の反応性基((メタ)アクリロイルオキシ基とアミノ基)の相互作用により、TFE系ポリマーの分散液からフッ素樹脂層が形成される際の濡れ性が向上し、金属箔表面とフッ素樹脂層の接着強度が特に向上しやすい。
【0023】
金属箔の材質としては、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金(42合金も含む)、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金等が挙げられる。
金属箔としては、銅箔が好ましい。銅箔の具体例としては、圧延銅箔、電解銅箔が挙げられる。
金属箔は、金属箔本体と、金属箔本体のF樹脂層の側に設けられた防錆処理層とを有する金属箔が好ましい。なお、金属箔が防錆処理層を有する場合には、防錆処理層の表面がシランカップリング剤で処理されている。
【0024】
防錆処理層としては、ニッケル、亜鉛、錫、コバルト、モリブデン、銅、タングステン、リン、ヒ素、クロム、バナジウム、チタン、アルミニウム、金、銀、白金族元素、鉄、及びタンタルからなる群から選ばれる1種以上の元素を含む層が挙げられる。防錆処理層は、前記元素を金属又は合金として含んでいてもよく、前記元素を酸化物、窒化物又はケイ化物として含んでいてもよい。
防錆処理層は、金属箔の酸化を長期間抑制し、F樹脂層の比誘電率及び誘電正接の上昇が抑制する観点から、コバルト酸化物、ニッケル酸化物又は金属亜鉛を含むことが好ましく、金属亜鉛が特に好ましい。
金属箔には、耐熱層が形成されていてもよい。耐熱層としては、防錆処理層と同様な元素を含む層が挙げられる。
【0025】
金属箔のF樹脂層と接する側の表面の十点平均粗さ(RzJIS)は、0.2~4μmであり、0.3~3.4μmが好ましく、0.7~1.5μmが好ましい。表面のRzJISが前記範囲の下限値以上であれば、F樹脂層との接着性が良好となる。金属箔の表面のRzJISが前記範囲の上限値以下であれば、金属箔の粗さに起因する電気的伝送損失を低減できる。
金属箔の厚さは、積層体の用途において充分な機能が発揮できる厚さであればよい。金属箔の厚さは、その表面の十点平均粗さ以上の厚さであり、2~40μmが好ましい。金属箔としては、キャリア銅箔(厚さ10~35μm)と、剥離層を介してキャリア銅箔上に積層された極薄銅箔(厚さ2~5μm)とからなるキャリア付金属箔を使用してもよい。また、金属箔の厚さは、F樹脂層の厚さより大きいのが好ましい。
【0026】
本発明におけるF樹脂層は、380℃における溶融粘度が1×102~1×106Pa・sであるTFE系ポリマーを含む。
F樹脂層は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて無機フィラー、フッ素樹脂以外の樹脂、添加剤等を含んでいてもよい。
F樹脂層の厚さは、1~50μmが好ましく、3~30μmがより好ましく、5~15μmがさらに好ましい。より具体的な好適なF樹脂層の厚さの態様としては、20μm未満や10μm未満が挙げられる。この態様におけるF樹脂層の厚さは、1μm以上である。F樹脂層の厚さが前記下限値以上であれば、プリント配線板としての伝送特性に優れる。F樹脂層の厚さが前記上限値以下であれば、金属箔の一方の表面のみにF樹脂層を有する場合でも反りを抑制できる。F樹脂層の膜厚は、電磁式・渦電流式膜厚計で測定できる。
【0027】
F樹脂層の比誘電率は、2.0~6.0が好ましく、2.0~3.5が好ましく、2.0~3.0がより好ましい。比誘電率が前記範囲の上限値以下であれば、低誘電率が求められるプリント配線板等に積層体を好適に使用できる。F樹脂層の比誘電率が前記範囲の下限値以上であれば、F樹脂層の電気特性及び接着性の双方に優れる。
F樹脂層の最表面の算術平均粗さRaは、F樹脂層の厚さ未満であり、かつ、2.0~30nmが好ましく、2.1~10nmがより好ましく、2.2~8nmが特に好ましい。Raが前記範囲の下限値以上であれば、F樹脂層と他の接着対象物との接着性に優れる。Raが前記範囲の上限値以下であれば、F樹脂層に貫通穴が形成されることなく他の接着対象物を積層できる。
【0028】
TFE系ポリマーは、340℃における溶融粘度が1×102~1×106Pa・sであるのが好ましく、300℃における溶融粘度が1×102~1×106Pa・sであるのが特に好ましい。
TFE系ポリマーの比誘電率(測定周波数:1MHz)は、2.5以下が好ましく、2.4以下がより好ましく、2.0~2.4が特に好ましい。TFE系ポリマーの比誘電率が低いほど、プリント配線板の伝送特性がさらに優れる。比誘電率の下限値は、通常2.0である。TFE系ポリマーの比誘電率は、TFEに由来する単位(以下、「TFE単位」とも記す。他の単位も同様である。)の割合によって調整できる。
【0029】
TFE系ポリマーは、TFEのホモポリマーであってもよく、TFEと、TFEと共重合可能な他のモノマー(以下、「コモノマー」とも記す。)とのコポリマーであってもよい。また、TFE系ポリマーは、ポリマーに含まれる全単位に対して、TFE単位を90mol%以上含むのが好ましい。
TFE系ポリマーとしては、低分子量のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びフルオロポリマーAが挙げられる。
【0030】
低分子量のPTFEは、ポリマー全体として380℃における溶融粘度が1×102~1×106Pa・sであるPTFEだけでなく、コア部分とシェル部分からなるコア-シェル構造においてシェル部分のみが上記溶融粘度を満たすPTFEであってもよい。
低分子量のPTFEとしては、高分子量のPTFE(溶融粘度が1×109~1×1010Pa・s程度)に放射線を照射して得られるPTFE(国際公開第2018/026012号、国際公開第2018/026017号等)であってもよく、TFEを重合してPTFEを製造する際に連鎖移動剤を用い分子量を低減して得られるPTFE(特開2009-1745号公報、国際公開第2010/114033号等。)であってよい。
【0031】
なお、PTFEは、TFEを単独で重合して得られたホモポリマーであってもよく、TFEとコモノマーとを共重合して得られたコポリマーであってもよい(国際公開第2009/20187号等)。ポリマーに含まれる全単位に対して、TFE単位は、99.5mol%以上が好ましく、99.8mol%以上がより好ましく、99.9mol%以上がさらに好ましい。上記範囲であると、PTFE物性を維持できる。コモノマーとしては、後述する含フッ素モノマーが挙げられ、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)及びフルオロアルキルエチレン(FAE)からなる群から選ばれる一種が好ましい。
【0032】
コア-シェル構造を有するPTFEとしては、特表2005-527652号公報、国際公開第2016/170918号等に記載のPTFEが挙げられる。シェル部分の溶融粘度を上記範囲とするためには、連鎖移動剤を用いてシェル部分を低分子量化する方法(特開2015-232082号公報等)、シェル部分の製造の際にTFEと上記コモノマーとを共重合する方法(特開平09-087334号公報)等が挙げられる。
後者の場合、コモノマーの使用量はTFEに対して0.001~0.05mol%が好ましい。また、シェル部分だけでなくコア部分も共重合により製造してもよい。この場合もコモノマーの使用量はTFEに対して0.001~0.05mol%が好ましい。
【0033】
低分子量のPTFEの標準比重(以下、SSGとも記す)は、2.14~2.22が好ましく、2.16~2.20がより好ましい。SSGは、ASTM D4895-04に準拠して測定できる。
【0034】
フルオロポリマーAは、TFEとコモノマーとのコポリマーであり、ポリマーに含まれる全単位に対して、コモノマーに由来する単位を0.5mol%超含む。フルオロポリマーAの融点は、260~320℃が好ましく、295~310℃が特に好ましい。フルオロポリマーAの融点が前記範囲の下限値以上であれば、耐熱性に優れる。フルオロポリマーAの融点が前記範囲の上限値以下であれば、溶融成形性に優れる。
フルオロポリマーAとしては、エチレン/テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、TFE/HFPコポリマー(FEP)、TFE/PAVEコポリマー(PFA)、等が挙げられる。フルオロポリマーAとしては、電気特性(誘電率、誘電正接)及び耐熱性の点から、PFA、FEPがより好ましく、PFAがさらに好ましい。
【0035】
TFE系ポリマーは、F樹脂層と基板又は金属箔との接着性がさらに優れる点から、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基(以下、「接着性基」とも記す。)を有するTFE系ポリマーが好ましい。接着性基はプラズマ処理等により付与してもよい。
接着性基を有するTFE系ポリマーは、比誘電率及び誘電正接が低く、耐熱性、耐薬品性等が優れる点から、TFE単位及びコモノマー単位を有し、かつ接着性基を有するフルオロポリマーAが好ましい。
【0036】
接着性基は、ポリマー中の単位に含まれていてもよく、ポリマーの主鎖の末端基に含まれていてもよい。後者のフルオロポリマーは、接着性基を、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として有するフルオロポリマーが挙げられる。
フルオロポリマーAは、接着性基を有する単位とTFE単位とを含むポリマーが好ましい。また、この場合のフルオロポリマーAは、さらに他の単位(後述するPAVE単位、HFP単位等)を含むのが好ましい。
【0037】
接着性基は、F樹脂層と金属箔の接着性の観点から、カルボニル基含有基が好ましい。
カルボニル基含有基としては、メトキシ基、エトキシ基、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、酸無水物残基、脂肪酸残基等が挙げられ、カルボキシ基又は酸無水物残基が好ましい。
【0038】
接着性を有する単位は、接着性基を有するモノマーに由来する単位が好ましい。接着性基を有するモノマーは、カルボニル基含有基を有するモノマー、ヒドロキシ基を有するモノマー、エポキシ基を有するモノマー又はイソシアネート基を有するモノマーがより好ましくカルボニル基含有基を有するモノマーが好ましい。
カルボニル基含有基を有するモノマーとしては、酸無水物残基を有する環状モノマー、カルボキシ基を有するモノマー、ビニルエステル又は(メタ)アクリレートが好ましく、酸無水物残基を有する環状モノマーが特に好ましい。
前記環状モノマーとしては、不飽和ジカルボン酸無水物等が挙げられ、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸。以下、「NAH」とも記す。)又は無水マレイン酸が好ましい。
【0039】
接着性基を有する単位及びTFE単位以外の他の単位としては、HFPに由来する単位、PAVEに由来する単位及びFAEに由来する単位からなる群から選ばれる一種の単位が好ましい。
PAVEとしては、CF2=CFOCF3、CF2=CFOCF2CF3、CF2=CFOCF2CF2CF3(PPVE)、CF2=CFOCF2CF2CF2CF3、CF2=CFO(CF2)8F等が挙げられ、PPVEが好ましい。
FAEとしては、CH2=CH(CF2)2F、CH2=CH(CF2)3F、CH2=CH(CF2)4F、CH2=CF(CF2)3H、CH2=CF(CF2)4H等が挙げられ、CH2=CH(CF2)4F、CH2=CH(CF2)2Fが好ましい。
【0040】
フルオロポリマーAとしては、接着基を有する単位とTFE単位と、PAVE単位又はHFP単位とを含むポリマーが好ましい。かかるフルオロポリマーAの具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載された重合体(X)が挙げられる。
フルオロポリマーAにおけるTFE単位の割合は、フルオロポリマーAを構成する全単位のうち、90~99モル%が好ましい。
フルオロポリマーAにおけるPAVE単位の割合は、フルオロポリマーAを構成する全単位のうち、0.5~9.97モル%が好ましい。
フルオロポリマーAにおける接着性基を有する単位の割合は、フルオロポリマーAを構成する全単位のうち、0.01~3モル%が好ましい。
【0041】
本発明の製造方法は、所定の金属箔の表面に、TFE系ポリマーの樹脂パウダーを含む分散液を塗布し乾燥した後、TFE系ポリマーの溶融粘度となる温度以上に加熱する。
分散液は、TFE系ポリマーの樹脂パウダーと液状媒体を含み、分散媒である液状媒体にTFE系ポリマーのパウダーが分散した溶液である。
【0042】
液状媒体は、分散液に含まれる分散液の以外の成分よりも低沸点であり、樹脂パウダーと反応しない化合物が好ましい。
液状媒体は、水、アルコール(メタノール、エタノール等)、含窒素化合物(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等)、含硫黄化合物(ジメチルスルホキシド等)、エーテル(ジエチルエーテル、ジオキサン等)、エステル(乳酸エチル、酢酸エチル等)、ケトン(メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン等)、グリコールエーテル(エチレングリコールモノイソプロピルエーテル等)、セロソルブ(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)等が挙げられる。液状媒体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
樹脂パウダーのD50は、0.05~4μmが好ましく、0.1~3.5μmがより好ましく、0.1~3.0μmが特に好ましい。樹脂パウダーのD50が前記範囲にある場合、樹脂パウダーの流動性と液状媒体への分散性が優れるだけでなく、F樹脂層の形成において、TFE系ポリマーが金属箔表面の微小な粗さ部分の凹凸に高度に充填されやすい。
樹脂パウダーのD90は、8.0μm以下が好ましく、1.5~5.0μmが特に好ましい。樹脂パウダーのD90が前記範囲にある場合、樹脂パウダーの液状媒体への分散性とF樹脂層の均一性とに優れる。
【0044】
樹脂パウダーの疎充填嵩密度は、0.05g/mL以上が好ましく、0.08~0.5g/mLが特に好ましい。
樹脂パウダーの密充填嵩密度は、0.05g/mL以上が好ましく、0.1~0.8g/mLが特に好ましい。
疎充填嵩密度又は密充填嵩密度が前記範囲にあれば、樹脂パウダーのハンドリング性が優れる。
【0045】
樹脂パウダーは、本発明の効果を損なわない範囲において、TFE系ポリマー以外の樹脂を含んでいてもよいが、F樹脂層の比誘電率及び誘電正接を低くする観点から、TFE系ポリマーを主成分とするのが好ましい。樹脂パウダーにおけるTFE系ポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%が特に好ましい。
樹脂パウダーに含まれる他の成分としては、TFE系ポリマー以外の樹脂、無機フィラー、ゴム等が挙げられる。TFE系ポリマー以外の樹脂としては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド等が挙げられる。
【0046】
分散液には、TFE系ポリマー以外の樹脂(以下、「他の樹脂」とも記す。)を含んでいてもよい。
他の樹脂は、液状媒体に溶解する樹脂であってもよく、液状媒体に溶解しない樹脂であってもよい。
他の樹脂は、非硬化性樹脂であってもよく、硬化性樹脂であってもよい。
非硬化性樹脂としては、熱可塑性ポリイミド等の熱溶融性樹脂、硬化性樹脂の硬化物等の非溶融性樹脂が挙げられる。
【0047】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、多官能シアン酸エステル樹脂、多官能マレイミド-シアン酸エステル樹脂、多官能性マレイミド樹脂、ビニルエステル樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラニン樹脂、グアナミン樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂、硬化性フッ素樹脂(ただし、接着性基を有するTFE系ポリマーを除く。)、熱硬化性ポリイミド、その前駆体であるポリアミック酸等が挙げられる。
熱硬化性樹脂は、プリント配線板に有用な点から、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ビスマレイミド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱硬化性ポリイミド、その前駆体であるポリアミック酸が好ましく、エポキシ樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱硬化性ポリイミド、その前駆体であるポリアミック酸が特に好ましい。熱硬化性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
分散液に含まれ得る他の成分としては、界面活性剤、消泡剤、無機フィラー、反応性アルコキシシラン、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤等が挙げられる。
【0049】
分散液における樹脂パウダーの割合は、5~60質量%が好ましく、30~50質量%が特に好ましい。樹脂パウダーの割合が前記範囲にある場合、F樹脂層の比誘電率及び誘電正接を低く制御できるだけでなく、分散液中の樹脂パウダーの分散性が優れ、F樹脂層の機械的強度も優れる。
分散液における液状媒体の割合は、15~65質量%が好ましく、25~50質量%が特に好ましい。液状媒体の割合が前記範囲にある場合、分散液の金属箔の塗布性と形成されるF樹脂層の外観とが良好になる。
なお、分散液が他の樹脂を含む場合、分散液における他の樹脂の割合は、1~50質量%が好ましく、5~30質量部が特に好ましい。他の樹脂の割合が前記範囲にある場合、F樹脂層の機械的強度とF樹脂層の比誘電率及び誘電正接とがバランスしやすい。
【0050】
分散液が界面活性剤を含む場合、分散液における界面活性剤の割合は、0.1~30質量%が好ましく、1~10質量部がさらに好ましい。界面活性剤の割合が前記範囲の下限値以上であれば、液状組成物において樹脂パウダーが均一に分散しやすい。界面活性剤の割合が前記範囲の上限値以下であれば、F樹脂層の比誘電率及び誘電正接をさらに低くできる。
【0051】
分散液の25℃における粘度は、10~1000mPa・sが好ましく、50~750mPa・sがより好ましい。分散液の25℃における粘度が上記範囲である場合、分散液の塗工性が優れる。その結果、F樹脂層の形成において樹脂パウダーが金属箔表面の微小な粗さ部分の凹凸に高度に充填されるので、F樹脂層の形成が進行し易い。
【0052】
金属箔の表面への分散液の塗布方法としては、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法等が挙げられる。
【0053】
金属箔の表面に分散液を塗布した後の乾燥は、必ずしも液状媒体を完全に揮発させる必要はなく、分散液の塗布により形成される塗工層から安定した自立膜が形成される程度まで液状媒体を揮発させればよい。乾燥においては、分散液に含まれる液状媒体のうち、50質量%以上を揮発させることが好ましい。乾燥は、1段階で実施してもよく、異なる温度にて2段階以上で実施してもよい。
【0054】
乾燥方法としては、オーブンを用いる方法、通風乾燥炉を用いる方法、赤外線等の熱線を照射する方法等が挙げられる。
乾燥温度は、50~150℃が好ましく、80~100℃がより好ましい。加熱温度が前記範囲にある場合、積層体の生産性と、F樹脂層と金属箔とF樹脂層の接着性とが向上しやすい。なお、乾燥温度は、通常、雰囲気の温度を示す。
乾燥時間は、0.1~30分間が好ましく、0.5~20分間がより好ましい。
【0055】
金属箔の表面への分散液の塗布し乾燥した後の加熱は、樹脂パウダーの焼成温度にて行われ、TFE系ポリマーの溶融粘度が1×102~106Pa・sとなる温度にて行われるのが好ましい。加熱においては、分散液の塗布により形成される塗工層から安定した自立膜を加熱し、前記自立膜中のTFE系ポリマーの少なくとも一部を溶融させ、その後、冷却してF樹脂層を形成する。
所定の温度にてTFE系ポリマーの少なくとも一部を溶融させることによって、樹脂パウダーの個々の粒子の融着が進行するだけでなく、TFE系ポリマーが金属箔表面の微小な粗さ部分の凹凸に高度に充填するため、金属箔とF樹脂層の接着性が優れる。なお、分散液が他の樹脂を含む場合、例えば、熱溶融性の他の樹脂を含む場合は、TFE系ポリマーと該樹脂が溶融ブレンドしたF樹脂層が形成され、熱硬化性の他の樹脂を含む場合は、TFE系ポリマーと該樹脂の硬化物からなるF樹脂層が形成される。
【0056】
加熱方法としては、オーブンを用いる方法、通風乾燥炉を用いる方法、赤外線等の熱線を照射する方法等が挙げられる。F樹脂層の表面の平滑性を高めるために、加熱板、加熱ロール等で加圧してもよい。加熱方法は、短時間でTFE系ポリマーを焼成でき、装置が比較的コンパクトである点から、遠赤外線を照射する方法が好ましい。
遠赤外線の有効波長帯は、TFE系ポリマーの均質な焼成をもたらし、均一なF樹脂層を形成できる点から、2~20μmが好ましく、3~7μmが特に好ましい。なお、遠赤外線の照射による加熱と熱風による加熱とを組み合わせてもよい。
【0057】
加熱における雰囲気は、金属箔やF樹脂層の酸化を抑制する点から、酸素ガス濃度が、100~500ppmであるのが好ましく、200~300ppmであるのが特に好ましい。また、雰囲気は、不活性ガス雰囲気又は還元性ガス雰囲気が好ましい。
不活性ガスとしては、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガス等が挙げられ、窒素ガスが好ましい。
還元性ガスとしては、水素ガスが挙げられる。還元性ガス雰囲気は、0.1体積%以上4体積%未満の水素ガスと窒素ガスとの混合ガスが好ましい。
【0058】
加熱温度は、具体的には、300℃以上が好ましく、330~380℃がより好ましく、350~370℃が特に好ましい。加熱温度が前記範囲にあれば、樹脂パウダーの個々の粒子の融着が進行するだけでなく、TFE系ポリマーが金属箔表面の微小な粗さ部分の凹凸に高度に充填するため、金属箔とF樹脂層の接着性が優れる。なお、加熱温度は、通常、雰囲気の温度を示す。
加熱時間は、30秒~30分間が好ましく、30秒~10分間がより好ましく、1~1分30秒間がさらに好ましい。加熱時間が前記範囲にあれば、TFE系ポリマーが金属箔表面の微小な粗さ部分の凹凸に高度に充填させつつ、積層体の生産性にも優れる。
【0059】
本発明の積層体における、金属箔とF樹脂層との剥離強度は、5N/cm以上が好ましく、7N/cm以上がより好ましく、10N/cm以上が特に好ましい。前記剥離強度の上限は、特に限定されず、通常は20N/cm以下である。
【0060】
本発明の積層体は、フレキシブル銅張積層板やリジッド銅張積層板としてプリント配線板の製造に使用できる。本発明の積層体は、複数枚を積層して用いてもよい。
本発明の積層体を利用したプリント配線板は、本発明の積層体の金属箔をエッチング等によって加工して所定のパターンの導体回路を形成する方法や、本発明の積層体をセミアディティブ法(SAP法)又はモディファイドセミアディティブ法(MSAP法)による電解めっきによって導体回路を形成する方法によって製造できる。
プリント配線板の製造においては、導体回路を形成した後に、導体回路上に層間絶縁膜を形成し、層間絶縁膜上にさらに導体回路を形成してもよい。この際、導体回路上に、ソルダーレジストを積層してもよく、カバーレイフィルムを積層してもよい。
【0061】
なお、本発明においては、F樹脂層を設けた後、積層体をアニール処理してもよく、積層体のF樹脂層の表面を表面処理してもよく、積層体のF樹脂層の表面に基板を積層してもよい。
たとえば、アニール処理によって、厚さ方向の線膨張係数を低減できる。
アニール処理の温度は、80~190℃が好ましく、120~180℃が特に好ましい。アニール処理の時間は、10~300分間が好ましく、30~120分間が特に好ましい。アニール処理の際の圧力は、0.001~0.030MPaが好ましく、0.005~0.015MPaが特に好ましい。
また、表面処理によって、積層体(樹脂層付金属箔)のF樹脂層の表面に基板を積層する場合の、F樹脂層と基板との接着性を向上できる。表面処理としては、コロナ放電処理、大気圧プラズマ処理、真空プラズマ処理、UVオゾン処理、エキシマ処理、ケミカルエッチング、シランカップリング剤処理、微粗面化処理等が挙げられ、真空プラズマ処理が好ましい。
【0062】
プラズマ照射装置としては、高周波誘導方式、容量結合型電極方式、コロナ放電電極-プラズマジェット方式、平行平板型、リモートプラズマ型、大気圧プラズマ型、ICP型高密度プラズマ型等が挙げられる。
プラズマ処理に用いるガスとしては、酸素ガス、窒素ガス、希ガス(アルゴン等)、水素ガス、アンモニアガス等が挙げられ、希ガス又は窒素ガスが好ましい。ガスは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
プラズマ処理の雰囲気としては、希ガス又は窒素ガスの体積分率が50体積%以上の雰囲気が好ましく、90体積%以上の雰囲気がさらに好ましく、100体積%の雰囲気が特に好ましい。希ガス又は窒素ガスの体積分率が前記範囲の下限値以上であれば、F樹脂層の表面のRaが30nm以下の微細な凹凸を形成できる。
本発明の積層体のF樹脂層の表面には、さらに基板を積層してもよい。基板としては、耐熱性樹脂フィルム、繊維強化樹脂板の前駆体であるプリプレグ等が挙げられる。
プリプレグは、強化繊維(ガラス繊維、炭素繊維等)の基材(トウ、織布等)に熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含浸させたシート状の基板である。
本発明の積層体のF樹脂層の表面に基板を積層する方法としては、本発明の積層体のF樹脂層側の表面と基板を熱プレスする方法が挙げられる。
【0064】
耐熱性樹脂フィルムにおける耐熱性樹脂としては、ポリイミド(芳香族ポリイミド等)、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン(ポリエーテルスルホン等)、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶ポリエステル等が挙げられる。
耐熱性樹脂フィルムは、耐熱性樹脂以外の他の成分を含んでいてもよい。また、耐熱性樹脂フィルムの表面は、コロナ放電処理、プラズマ処理等によって表面処理されていてもよい。
耐熱性樹脂フィルムの膜厚は、プリント配線板の薄肉化及び機械的強度のバランスの点から、0.5~100μmが好ましく、3~25μmがさらに好ましい。
【0065】
繊維強化樹脂板は、マトリックス樹脂と、マトリックス樹脂に埋設された強化繊維とを有する。繊維強化樹脂板は、多層であってもよい。
マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂等)の硬化物、耐熱性樹脂等が挙げられる。
強化繊維としては、ガラス繊維、カーボン繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ポリアリレート繊維等の有機繊維が挙げられる。強化繊維の形態としては、織布、不織布等が挙げられる。
【0066】
基板がプリプレグの場合、プレス温度は、120~300℃が好ましく、160~220℃が特に好ましい。プレス温度が前記範囲にあれば、プリプレグの熱劣化を抑制しつつ、積層体とプリプレグを高強度接着できる。
基板が耐熱性樹脂フィルムの場合、プレス温度は、310~400℃が好ましく、330~370℃が特に好ましい。プレス温度が前記範囲にあれば、耐熱性樹脂フィルムの熱劣化を抑制しつつ、積層体と耐熱性樹脂フィルムを高強度接着できる。
熱プレスの圧力は、0.2MPa以上が好ましく、1MPa以上がさらに好ましい。また、プレス圧は、10MPa以下が好ましい。
【0067】
熱プレスは、真空雰囲気下で行うことが好ましい。真空度は、100kPa以下が好ましく、20kPa以下がさらに好ましい。真空度が前記範囲にあれば、界面への気泡混入と、積層体及び基板の酸化劣化を抑制できる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0069】
各種測定方法を以下に示す。
<ポリマーの共重合組成比>
NAHに由来する単位を含むフルオロポリマーにおける該単位の割合(モル%)は、そのプレス成形品(厚さ200μmのフィルム)の赤外吸収スペクトルにおいて、1778cm-1に現れる前記単位の吸収ピークの吸光度を、NAHのモル吸光係数20810mol-1・L・cm-1で換算して求め、他の単位の割合は溶融NMR分析及びフッ素含有量分析により求めた。
<樹脂パウダーのD50及びD90>
ポリマーのパウダーを水中に分散させ、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA-920測定器)を用いて測定した。
<金属箔表面の元素分析1>
XRF分析装置(リガク社製、ZSX PrimusII、測定径30mmφ)を用い、金属箔の表面を分析し、炭素原子を除く原子種と、その組成(質量%)とを求めた。
<金属箔表面の元素分析2>
XPS法による金属箔の表面分析(SEM装置:日立ハイテクノロジーズ社製 SU8230、EDX装置:Bruker社製 QUANTAX XFlash FQ。)により、金属箔表面のケイ素原子密度(atomic%)を求めた。
【0070】
<層表面の、算術平均粗さ(Ra)>
Oxford Instruments社製の原子間力顕微鏡を用い、層の表面を下記の測定条件にて分析して、層表面1μm2範囲のRaを求めた。
(測定条件)
プローブ:AC160TS-C3(先端R<7nm、バネ定数 26N/m)
測定モード:AC-Air
Scan Rate:1Hz
【0071】
<積層体の剥離強度>
矩形状(長さ100mm、幅10mm)に切り出した積層体の長さ方向の一端から50mmの位置を固定し、引張り速度50mm/分で、長さ方向の片端から積層体に対して90°剥離させた際にかかる、最大荷重を剥離強度(N/cm)とした。
<剥離片の濡れ張力>
ぬれ張力試験用混合液(和光純薬工業社製)を用い、JIS K 6768:1999で規定される方法で測定される値である。
【0072】
使用材料を以下に示す。
[TFE系ポリマー]
ポリマー1:TFE(テトラフルオロエチレン)に由来する単位、NAH(無水ハイミック酸)に由来する単位及びPPVE(ペルフルオロプロピルビニルエーテル)に由来する単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含むコポリマーであり、融点300℃、かつ、300℃における溶融粘度が103であるポリマー。
ポリマー2:TFEに由来する単位を99.5モル%以上含む実質的にTFEのホモポリマーであり、380℃おける溶融粘度が1.4×104であるポリマー。
ポリマー3:TFEに由来する単位を99.5モル%以上含む実質的にTFEのホモポリマーであり、380℃おける溶融粘度が1.1×1010であるポリマー。
【0073】
[金属箔]
箔1:RzJISが1.1μmの、シランカップリング剤処理面を有する銅箔(厚さ18μm。元素分析1による、箔表面のケイ素原子量0.05質量%、硫黄原子量0.01質量%。三井金属鉱業社製、品番:HS1-VSP)
箔2:RzJISが1.2μmの、シランカップリング剤処理面を有する銅箔(厚さ12μm。元素分析1による、箔表面のケイ素原子量0.33質量%、硫黄原子量0.01質量%。福田金属箔粉工業社製、品番:CF-T4X-SV)
箔3:RzJISが1.1μmの、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン処理面を有する銅箔(厚さ18μm)
箔4:RzJISが1.1μmの、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン処理面を有する銅箔(厚さ18μm)
箔5:RzJISが3.4μmの、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン処理面を有する銅箔(厚さ18μm)
箔6:RzJISが4.5μmの、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン処理面を有する銅箔(厚さ18μm)
箔7:RzJISが0.1μmの、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン処理面を有する銅箔(厚さ18μm)
箔8:RzJISが1.1μmの、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランと3-アミノプロピルトリメトキシシランの等量混合物による処理面を有する銅箔(厚さ18μm)
箔9:RzJISが1.1μmの、3-アミノプロピルトリメトキシシラン処理面を有する銅箔(厚さ18μm)
箔10:RzJISが1.1μmの、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン処理面を有する銅箔(厚さ18μm)
箔11:RzJISが1.2μmの、3-アミノプロピルトリメトキシシラン処理面を有する銅箔(厚さ12μm。元素分析2による、箔表面のケイ素原子密度8.5atomic%。)
箔12:RzJISが0.9μmの、3-アミノプロピルトリメトキシシラン処理面を有する銅箔(厚さ12μm。元素分析2による、箔表面のケイ素原子密度13.1atomic%。)
【0074】
[例1]パウダー分散液の調整例
国際公開第2016/017801号の段落[0123]に記載の方法でポリマー1のパウダー(D50:2.6μm、D90:7.1μm)を得た。
このパウダーの120g、ノニオン性界面活性剤(ネオス社製、フタージェント710FL)の12g、メチルエチルケトンの234gを横型ボールミルポットに投入し、15mm径のジルコニアボールにて分散させ、ポリマー1のパウダーが分散した分散液1を得た。ポリマー1のパウダーのかわりにポリマー2のパウダー(D50:0.3μm)を用いる以外は同様にして分散液2を、ポリマー1のパウダーのかわりにポリマー3のパウダー(D50:0.3μm)を用いる以外は同様にして分散液3を、それぞれ得た。分散液の25℃おける粘度は、分散液1が230mPa・sであり、分散液2が780mPa・sであり、分散液3が1000mPa・s超であった。
【0075】
[例2]積層体の製造例
[例2-1]
箔1のシランカップリング処理面にパウダー分散液1を塗布し、窒素雰囲気下、100℃で15分乾燥し、さらに350℃で15分間加熱し、徐冷して、ポリマー1層(膜厚7μm)と箔1とが接着積層された積層体を得た。
プラズマ処理装置(NORDSON MARCH社製、AP-1000)を用い、RF出力:300W、電極間ギャップ:2インチ、導入ガス:アルゴンガス、導入ガス量:50cm3/分、圧力:13Pa、処理時間:1分間の条件で、積層体のポリマー1層側をプラズマ処理した。プラズマ処理後のポリマー1層表面のRaは8nmであった。
次に、ポリマー1層の表面に、プリプレグであるFR-4シート(日立化成社製、強化繊維:ガラス繊維、マトリックス樹脂:エポキシ樹脂、品名:CEA-67N 0.2t(HAN)、厚さ:0.2mm)を重ねて設置し、真空熱プレス(温度:185℃、圧力:3.0MPa、時間:60分間)して、プリプレグ、ポリマー1層、箔1がこの順に積層された片面銅張積層体を得た。
プリプレグであるFR-4シート(日立化成社製、強化繊維:ガラス繊維、マトリックス樹脂:エポキシ樹脂、品名:CEA-67N 0.2t(HAN)、厚さ:0.2mm)の各面それぞれに、積層体を最外層に銅箔が構成されるように設置し、プレス温度:185℃、プレス圧:3.0MPa、プレス時間:60分間の条件で真空熱プレスして両面銅張積層体を得た。
片面銅張積層体の剥離強度は14N/cmであり、両面銅張積層体に伝送線路を形成してなるプリント配線基板が示す電気特性は、比誘電率で4.51であり誘電正接で0.01511であった。
【0076】
[例2-2]
箔1のかわりに箔2を用いる以外は、例2と同様にして、積層体、片面銅張積層体及び両面銅張積層体を得た。
積層体のプラズマ処理後のポリマー1層表面のRaは5nmであり、片面銅張積層体の剥離強度は10N/cmであり、両面銅張積層体に伝送線路を形成してなるプリント配線基板が示す電気特性は、両面銅張積層体の比誘電率で4.32であり誘電正接で0.01568であった。
【0077】
[例2-3]
箔1のシランカップリング剤処理面をUVコロナ処理して、シランカップリング剤処理面が除去された銅箔(箔表面のケイ素原子量:検出限界未満)を得た。この銅箔を用いる以外は、例2-2と同様にして、積層体と片面銅張積層体を得た。片面銅張積層体の剥離強度は2N/cmにすぎなかった。
さらに、例2-1と例2-2における、剥離試験後の剥離金属箔片と剥離プリプレグ片との、それぞれポリマー1層が接していた面側は、水性インクをはじくことを確認した。一方、例2-3における、剥離金属箔片のポリマー1層が接していた面側は水性インクをはじかず、剥離金属箔片のポリマー1層が接していた面側のみが水性インクをはじいた。また、例2-1と例2-2における剥離金属箔片のポリマー1層が接していた面側の濡れ張力はそれぞれ22.6mN/mであり、例2-3におけるそれが40mN/mであった。つまり、例2-1と例2-2の積層体では、剥離試験において、ポリマー1層が凝集破壊して剥離するほどポリマー1と金属箔とが強固に接着積層していた。
【0078】
[例3]積層体の製造例(その2)
[例3-1~例3-9]
使用する分散液と金属箔の種類を変更する以外は、例2と同様にして、片面銅張積層体と両面銅張積層体を得て、物性を評価した。結果をまとめて表1に示す。
表中の剥離強度を示す記号は、9N/cm以上の場合が「S」、7N/cm以上9N/cm未満の場合が「A」、5N/cm以上7N/cm未満の場合が「B」、5N/cm未満の場合が「C」である。
表中の電気特性を示す記号は、比誘電率と誘電正接が、この順に、4.55以下であり0.016以下である場合が「a」、4.5超であり0.016超である場合が「b」、測定していない場合が「-」である。
【0079】
【0080】
[例4]積層体の製造例(その3)
[例4-1]
箔1のかわりに箔11に使用する以外は例2-1と同様にして片面銅張積層体と両面銅張積層体を製造した。製造直後の片面銅張積層体の剥離強度は10N/cmであり、3カ月間25℃にて保管した片面銅張積層体の剥離強度は8N/cmであった。
[例4-2]
箔1のかわりに箔12に使用する以外は例2-1と同様にして片面銅張積層体と両面銅張積層体を製造した。製造直後の片面銅張積層体の剥離強度は10N/cmであり、3カ月間25℃にて保管した片面銅張積層体の剥離強度は5N/cm未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、プリント配線板の製造に用いる銅張積層板等として有用な積層体が得られる。
なお、2018年4月26日に出願された日本特許出願2018-085492号及び2019年1月18日に出願された日本特許出願2019-006964の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0082】
10 積層体、11 積層体、12 金属箔、14 フッ素樹脂層、16 基板。