(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】静電チャック部材及び静電チャック装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20230322BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20230322BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20230322BHJP
C23C 14/50 20060101ALI20230322BHJP
C23C 16/458 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H01L21/302 101G
H01L21/31 C
C23C14/50 A
C23C16/458
(21)【出願番号】P 2022136600
(22)【出願日】2022-08-30
【審査請求日】2022-09-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】金原 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】乾 敏祥
(72)【発明者】
【氏名】一由 拓
(72)【発明者】
【氏名】菅又 徹
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/153756(WO,A1)
【文献】特開2018-022871(JP,A)
【文献】特開2009-235536(JP,A)
【文献】特開2020-107881(JP,A)
【文献】特開2009-099897(JP,A)
【文献】特表2013-512564(JP,A)
【文献】特表2020-526936(JP,A)
【文献】特表2018-509764(JP,A)
【文献】特開平6-252252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H01L 21/3065
H01L 21/31
C23C 14/50
C23C 16/458
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と、前記第1面とは反対側の面である第2面とを有する静電吸着用電極と、
前記静電吸着用電極を内包、又は一面に有し、前記一面とは反対側の面が板状試料を載置する載置面である基体と、を備え、
前記基体は、前記第1面より前記載置面側を構成する上部基体と、前記静電吸着用電極の側面を覆う側部基体とを有し、
前記上部基体は、前記載置面を有する基体本体と、
前記側部基体の最外部よりも外側に突出する突出部と、を有
し、
前記基体の径方向における前記突出部の幅は、前記静電吸着用電極の厚さよりも大きい静電チャック部材。
【請求項2】
前記突出部の比誘電率は、前記側部基体の比誘電率以上である請求項1に記載の静電チャック部材。
【請求項3】
前記基体は、前記第2面より前記載置面とは反対側を構成する下部基体を有し、
前記下部基体の厚さと前記側部基体の厚さとの合計は、前記上部基体の厚さよりも大きい請求項1に記載の静電チャック部材。
【請求項4】
前記突出部の比誘電率は、前記下部基体の比誘電率よりも大きい請求項
3に記載の静電チャック部材。
【請求項5】
前記基体本体と前記突出部とは同じ材料を形成材料とする請求項1に記載の静電チャック部材。
【請求項6】
前上部記基体は、前記載置面の周縁部において周方向に設けられた凸曲面を有する請求項1に記載の静電チャック部材。
【請求項7】
前記基体は、前記第2面より前記載置面とは反対側を構成する下部基体を有し、
前記突出部は、前記下部基体側に面する第1傾斜面を有する請求項1に記載の静電チャック部材。
【請求項8】
前記側部基体及び前記下部基体は、前記第1傾斜面と連続し前記下部基体側に面する第2傾斜面を有する請求項
7に記載の静電チャック部材。
【請求項9】
前記突出部の材料は、絶縁性材料と導電性材料とを含む複合材であり、
前記側部基体の材料は、前記突出部の材料よりも前記導電性材料の含有率が低い請求項1に記載の静電チャック部材。
【請求項10】
請求項1から
9のいずれか1項に記載の静電チャック部材と、
前記静電チャック部材を冷却し前記静電チャック部材の温度を調整するベース部材と、を有する静電チャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック部材及び静電チャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、IC、LSI、VLSI等の半導体装置を製造する半導体製造工程において、シリコンウエハ等の板状試料は、静電チャック機能を備えた静電チャック部材に静電吸着により固定されて所定の処理が施される(例えば、特許文献1参照)。このような工程においては、例えば静電チャック装置でシリコンウエハを固定した後、シリコンウエハにプラズマを用いたエッチング処理や成膜処理を施す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような製造工程において静電チャック装置を用いると、静電チャック部材にはウエハ残滓に代表される粒子状の異物(以下、異物粒子)が生じることがある。このような異物粒子は、半導体製造装置内で帯電し、静電チャック装置に駆動により生じる静電界に導かれて静電チャック装置の表面に付着する。帯電した異物粒子(荷電性異物粒子)が付着した静電チャック装置では、製造工程中のプラズマ安定性が損なわれ、生産性が低下するおそれがある。また、異物粒子に起因して、プラズマ工程中に異常放電が生じ、静電チャック装置の絶縁破壊が生じる場合がある。
【0005】
このような異物粒子に起因した絶縁破壊は、静電チャック部材の上部表面のみならず、側面表面においても生じ得る。特に、近年では、シリコンウエハから得られる半導体チップの歩留まり向上を目的として提案されている、静電吸着用電極を拡大した静電チャック部材で課題となりやすい。
【0006】
静電吸着用電極が拡大すると、静電チャック部材の側面表面と静電吸着用電極との距離が近づき、静電チャック部材の側面表面の電界強度が増加する。そのため、静電吸着用電極を拡大させた静電チャック部材は、従来の静電チャック部材と比べ側面に荷電性異物粒子が静電吸着しやすい構成となる。
【0007】
また、半導体製造装置内の空間にイオンや電子が存在する場合、これらイオンや電子も静電界に導かれて静電チャック部材に付着する。このようなイオンや電子は、荷電性異物粒子と同様に、静電チャック部材の絶縁破壊の要因となりうる。そのため、側面に付着する荷電性異物粒子等の影響を低減し、絶縁破壊を抑制することが可能な静電チャック部材が求められていた。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、側面で生じる絶縁破壊を抑制可能な静電チャック部材を提供することを目的とする。また、このような静電チャック部材を有する静電チャック装置を提供することを合わせて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、以下の態様を包含する。
【0010】
[1]第1面と、前記第1面とは反対側の面である第2面とを有する静電吸着用電極と、前記静電吸着用電極を内包、又は一面に有し、前記一面とは反対側の面が板状試料を載置する載置面である基体と、を備え、前記基体は、前記第1面より前記載置面側を構成する上部基体と、前記静電吸着用電極の側面を覆う側部基体とを有し、前記上部基体は、前記載置面を有する基体本体と、前記側部基体の最外部よりも外側に突出する突出部と、を有する静電チャック部材。
【0011】
[2]前記基体の径方向における前記突出部の幅は、前記静電吸着用電極の厚さよりも大きい[1]に記載の静電チャック部材。
【0012】
[3]前記突出部の比誘電率は、前記側部基体の比誘電率以上である[1]又は[2]に記載の静電チャック部材。
【0013】
[4]前記基体は、前記第2面より前記載置面とは反対側を構成する下部基体を有し、前記下部基体の厚さと前記側部基体の厚さとの合計は、前記上部基体の厚さよりも大きい[1]から[3]のいずれか1項に記載の静電チャック部材。
【0014】
[5]前記突出部の比誘電率は、前記下部基体の比誘電率よりも大きい[4]に記載の静電チャック部材。
【0015】
[6]前記基体本体と前記突出部とは同じ材料を形成材料とする[1]から[5]のいずれか1項に記載の静電チャック部材。
【0016】
[7]前上部記基体は、前記載置面の周縁部において周方向に設けられた凸曲面を有する[1]から[6]のいずれか1項に記載の静電チャック部材。
【0017】
[8]前記基体は、前記第2面より前記載置面とは反対側を構成する下部基体を有し、前記突出部は、前記下部基体側に面する第1傾斜面を有する[1]から[7]のいずれか1項に記載の静電チャック部材。
【0018】
[9]前記側部基体及び前記下部基体は、前記第1傾斜面と連続し前記下部基体側に面する第2傾斜面を有する[8]に記載の静電チャック部材。
【0019】
[10]前記突出部の材料は、絶縁性材料と導電性材料とを含む複合材であり、前記側部基体の材料は、前記突出部の材料よりも前記導電性材料の含有率が低い[1]から[9]のいずれか1項に記載の静電チャック部材。
【0020】
[11][1]から[10]のいずれか1項に記載の静電チャック部材と、前記静電チャック部材を冷却し前記静電チャック部材の温度を調整するベース部材と、を有する静電チャック装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、側面で生じる絶縁破壊を抑制可能な静電チャック部材を提供することができる。また、このような静電チャック部材を有する静電チャック装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、第1実施形態の静電チャック部材10の概略斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態の静電チャック部材10を示す断面図である。
【
図3】
図3は、静電チャック部材10の機能を説明する説明図である。
【
図4】
図4は、第2実施形態に係る静電チャック部材20の説明図である。
【
図5】
図5は、第3実施形態に係る静電チャック部材30の説明図である。
【
図6】
図6は、第3実施形態の変形例に係る静電チャック部材40の説明図である。
【
図7】
図7は、第3実施形態の変形例に係る静電チャック部材50の説明図である。
【
図8】
図8は、本実施形態の静電チャック装置を示す断面図である。
【
図9】
図9は、静電チャック装置を有する半導体製造装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1実施形態]
以下、
図1を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る静電チャック部材について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0024】
《静電チャック部材》
図1は、本実施形態の静電チャック部材10の概略斜視図である。
図2は、本実施形態の静電チャック部材10を示す断面図であり、
図1の線分II-IIにおける矢視断面図である。
【0025】
図1,2に示すように、静電チャック部材10は、一対のセラミックス板11,12と、一対のセラミックス板11,12の間に介在する静電吸着用電極13及び絶縁層15と、を備える。以下の説明では、静電吸着用電極を単に「電極」と略称する。
【0026】
以下の説明においては、静電チャック部材10のセラミックス板11の面方向をx方向、厚さ方向をy方向として説明することがある。また、y方向において、セラミックス板11側を「上」、セラミックス板12側を「下」として各部材の位置を説明することがある。「上面」や「下方向」のように、「上」「下」を用いた表現においても同じ定義として用いる。
【0027】
図1,2に示すように、静電チャック部材10は、セラミックス板11と、電極13及び絶縁層15と、セラミックス板12とがこの順に積層されている。すなわち、静電チャック部材10は、セラミックス板11とセラミックス板12が、電極13及び絶縁層15を介して、接合一体化されてなる接合体である。また、電極13及び絶縁層15は、セラミックス板11においてセラミックス板12と対向する接合面、及びセラミックス板12においてセラミックス板11と対向する接合面に接して設けられている。
【0028】
一対のセラミックス板11,12、及び絶縁層15を合わせた構成は、本発明における「基体」に該当する。電極13の上面13xは、本発明における「第1面」であり、下面13yは、電極13において上面13xとは反対側の面であり、本発明における「第2面」である。
【0029】
セラミックス板11は、基体において上面13xよりも載置面10x側を構成し、本発明における「上部基体」に該当する。セラミックス板12は、基体において下面13yよりも下側(載置面10xとは反対側)を構成し、本発明における「下部基体」に該当する。絶縁層15は、電極13の側面を覆い、本発明における「側部基体」に該当する。
【0030】
基体の一主面は、板状試料を載置する載置面10xである。載置面10xの周縁部には、ヘリウム(He)等の冷却ガスが漏れないように、この周縁部を一周するように、断面四角形状の環状突起部が設けられていてもよい。
【0031】
なお、基体の一主面に微小突起を有する静電チャック部材においては、各微小突起の頂部に接する仮想面を載置面10xとする。また、このように設定した仮想面が凹面又は凸面である場合には、仮想面の平均二乗平面を載置面10xとする。
【0032】
静電チャック部材10において、電極13は基体の内部に設けられているがこれに限らない。静電チャック部材において、電極13は、載置面10xとは反対側に設けられていてもよい。この場合、静電チャック部材10の基材は、上部基体と側部基体とから構成されている。
【0033】
図2に示す断面図は、平面視において静電チャック部材10に外接する円のうち最小の円を想定したとき、この円の中心を含む仮想面により、静電チャック部材を切断した断面である。言い換えると、
図2は、基体(載置面10x)の中心Cを通り基体(載置面10x)の法線Nを含む断面における断面図である。静電チャック部材10が平面視で略円形である場合、上記円の中心と、平面視における静電チャック部材の形状の中心とは凡そ一致する。
【0034】
なお、本明細書において「平面視」とは、静電チャック部材の厚さ方向であるY方向から見た視野を指す。
また、「断面視」とは、載置面に垂直、且つ平面視において静電チャック部材に外接する円のうち最小の円を想定したとき、この円の中心を含む仮想面で切断したときの、断面と直交する方向の視野を指す。
【0035】
(セラミックス板)
セラミックス板11,12は、平面視において外周の形状を同じくする。
【0036】
セラミックス板11,12は、同一組成又は主成分が同一である。セラミックス板11,12は、絶縁性材料から構成されてもよいし、絶縁性材料と導電性材料の複合体から構成されてもよい。
【0037】
セラミックス板11,12に含まれる絶縁性材料は、特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化イットリウム(Y2O3)、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)等が挙げられる。なかでも、Al2O3、AlNが好ましい。
【0038】
セラミックス板11,12に含まれる導電性材料は、特に限定されないが、例えば、炭化ケイ素(SiC)、酸化チタン(TiO2)、窒化チタン(TiN)、炭化チタン(TiC)、炭素材料、希土類酸化物、希土類フッ化物等が挙げられる。炭素材料としては、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバーが挙げられる。なかでも、SiCが好ましい。
【0039】
セラミックス板11,12の材料は、体積固有抵抗値が1013Ω・cm以上1017Ω・cm以下程度であり、機械的な強度を有し、しかも腐食性ガス及びそのプラズマに対する耐久性を有する材料であれば、特に限定されない。このような材料としては、例えば、Al2O3焼結体、AlN焼結体、Al2O3-SiC複合焼結体等が挙げられる。高温での誘電特性、高耐食性、耐プラズマ性、耐熱性の観点から、セラミックス板11,12の材料は、Al2O3-SiC複合焼結体が好ましい。
【0040】
セラミックス板11,12を構成する絶縁性材料の平均一次粒子径は、0.5μm以上3.0μm以下が好ましく、0.7μm以上2.0μm以下がより好ましく、1.0μm以上2.0μm以下がさらに好ましい。
【0041】
セラミックス板11,12を構成する絶縁性材料の平均一次粒子径が0.5μm以上3.0μm以下であれば、緻密で耐電圧性が高く、耐久性の高いセラミックス板11,12が得られる。
【0042】
セラミックス板11,12を構成する絶縁性材料の平均一次粒子径の測定方法は、次の通りである。日本電子社製の電解放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM。日本電子株式会社製、JSM-7800F-Prime)で10000倍に拡大して、セラミックス板11,12の厚さ方向の切断面を観察し、インターセプト法により絶縁性材料200個の粒子径の平均を平均一次粒子径とする。
【0043】
(静電吸着用電極)
電極13は、電荷を発生させて静電吸着力で板状試料を固定するために用いられる。電極13は、厚さ方向よりも厚さ方向と直交する方向に大きな広がりを有する薄型電極である。このような電極13は、電極層形成用ペーストを塗布し焼結することで形成される。得られる電極13の厚さは、電極層形成用ペーストの塗布厚さと、得られる電極13の厚さとの対応関係を予備実験により求めておくことにより、電極層形成用ペーストの塗布厚さを調整することで制御することができる。
【0044】
電極13は、導電性材料の粒子の焼結体、又は絶縁性セラミックスの粒子と導電性材料の粒子との複合体(焼結体)から構成される。
【0045】
電極13が絶縁性セラミックスと導電性材料から構成される場合、これらの混合材料の体積固有抵抗値は10-6Ω・cm以上10-2Ω・cm以下程度であることが好ましい。
【0046】
電極13が絶縁性セラミックスと導電性材料との複合体から構成される場合、電極13において、導電性材料の含有量は、15質量%以上100質量%以下が好ましく、20質量%以上100質量%以下がより好ましい。導電性材料の含有量が上記下限値以上であれば、セラミックス板12に充分な誘電特性を発現できる。
【0047】
電極13に含まれる導電性材料は、導電性セラミックスであってもよく、金属や炭素材料等の導電性材料であってもよい。電極13に含まれる導電性材料は、SiC、TiO2、TiN、TiC、タングステン(W)、炭化タングステン(WC)、モリブデン(Mo)、炭化モリブデン(Mo2C)、タンタル(Ta)、炭化タンタル(TaC、Ta4C5)、炭素材料及び導電性複合焼結体からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0048】
炭素材料としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等が挙げられる。
【0049】
導電性複合焼結体としては、例えば、Al2O3-Ta4C5、Al2O3-W、Al2O3-SiC、AlN-W、AlN-Ta等が挙げられる。
【0050】
電極13に含まれる導電性材料が前記物質からなる群から選択される少なくとも1種であることにより、電極の導電率を担保できる。
【0051】
電極13に含まれる絶縁性セラミックスは、特に限定されないが、例えば、Al2O3、AlN、窒化ケイ素(Si3N4)、Y2O3、YAG、サマリウム-アルミニウム酸化物(SmAlO3)、酸化マグネシウム(MgO)及び酸化ケイ素(SiO2)からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0052】
電極13が、導電性材料と絶縁性材料からなることにより、セラミックス板11,12と電極13との接合強度が向上する。また、電極13が、導電性材料と絶縁性材料からなることにより、電極としての機械的強度が強くなる。
【0053】
電極13に含まれる絶縁性材料が、Al2O3であることにより、高温での誘電特性、高耐食性、耐プラズマ性、耐熱性が保たれる。
【0054】
電極13における導電性材料と絶縁性材料の含有量の比(配合比)は、特に限定されず、静電チャック部材10の用途に応じて適宜調整される。
【0055】
(絶縁層)
絶縁層15は、セラミックス板11とセラミックス板12の間であって、電極13が形成された部分以外の位置において、セラミックス板11,12を相互に接合するために設けられた構成である。絶縁層15は、セラミックス板11とセラミックス板12との間(一対のセラミックス板の間)において、平面視で電極13の周囲に配置されている。
【0056】
絶縁層15の形状(絶縁層15を平面視した場合の形状)は、特に限定されず、電極13の形状に応じて適宜調整される。絶縁層15の厚さ(Y方向の幅)は、電極13の厚さと等しくなっている。
【0057】
絶縁層15は、絶縁性材料から構成されてもよいし、絶縁性材料と導電性材料の複合体から構成されてもよい。絶縁層15の体積固有抵抗値は、1013Ω・cm以上1017Ω・cm以下である。
【0058】
絶縁層15を構成する絶縁性材料は、特に限定されないが、セラミックス板11,12の主成分と同じであることが好ましい。絶縁層15を構成する絶縁性材料は、例えば、Al2O3、AlN、Si3N4、Y2O3、YAG、SmAlO3、MgO及びSiO2からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。絶縁層15を構成する絶縁性材料は、Al2O3が好ましい。絶縁層15を構成する絶縁性材料が、Al2O3であることにより、高温での誘電特性、高耐食性、耐プラズマ性、耐熱性が保たれる。
【0059】
絶縁層15を構成する導電性材料は、特に限定されないが、セラミックス板11,12の主成分と同じであることが好ましい。絶縁層15を構成する導電性材料は、例えば、SiC、TiO2、TiN、TiC、W、WC、Mo、Mo2C及び炭素材料からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。炭素材料としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等が挙げられる。絶縁層15を構成する導電性材料は、SiCが好ましい。
【0060】
絶縁層15において、絶縁性材料の含有量は、80質量%以上96質量%以下が好ましく、80質量%以上95質量%以下がより好ましく、85質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。絶縁性材料の含有量が上記下限値以上であれば、充分な耐電圧性が得られる。絶縁性材料の含有量が上記上限値以下であれば、絶縁層15に含有させる導電性材料の除電効果を充分に発現できる。
【0061】
絶縁層15において、導電性材料の含有量は、4質量%以上20質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましく、5質量%以上15質量%以下がさらに好ましい。導電性材料の含有量が上記下限値以上であれば、導電性材料の除電効果を充分に発現できる。導電性材料の含有量が上記上限値以下であれば、充分な耐電圧が得られる。
【0062】
絶縁層15を構成する絶縁性材料の平均一次粒子径は、0.5μm以上3.0μm以下が好ましく、0.7μm以上2.0μm以下がより好ましい。
【0063】
絶縁層15を構成する絶縁性材料の平均一次粒子径が0.5μm以上であれば、充分な耐電圧性が得られる。一方、絶縁層15を構成する絶縁性材料の平均一次粒子径が3.0μm以下であれば、研削等の加工が容易である。
【0064】
絶縁層15を構成する導電性材料の平均一次粒子径は、0.1μm以上1.0μm以下が好ましく、0.1μm以上0.8μm以下がより好ましい。
絶縁層15を構成する導電性材料の平均一次粒子径が0.1μm以上であれば、充分な耐電圧性が得られる。一方、絶縁層15を構成する導電性材料の平均一次粒子径が1.0μm以下であれば、研削等の加工が容易である。
【0065】
絶縁層15を構成する絶縁性材料の平均一次粒子径及び導電性材料の平均一次粒子径の測定方法は、セラミックス板11,12を構成する絶縁性材料の平均一次粒子径及び導電性材料の平均一次粒子径の測定方法と同様である。
【0066】
絶縁層15は、セラミックス板11,12と別体として設けられていてもよく、セラミックス板11,12のいずれか一方と一体的に形成された後、他方のセラミックス板と接合する構成であってもよい。
【0067】
本明細書において「一体的に形成されている」とは、1つの部材として形成されている(1つの部材である)ことを意味する。この意味において、「セラミックス板11,12のいずれか一方と一体的に形成された」構成とは、例えば、もともと2つの部材であったセラミックス板11と絶縁層15とを1つに「一体化」した構成とは異なる。セラミックス板と絶縁層とが一体的に形成された部材は、材料となるセラミックス板(凹部を有さないセラミックス板)の一面に、研削又は研磨により凹部加工をすることで形成することができる。
【0068】
さらに、絶縁層15は、セラミックス板11,12の両方と一体的に形成された構成であってもよい。
【0069】
例えば、絶縁層15がセラミックス板11と一体的に形成され、凹部加工されたセラミックス板である場合、凹部加工されたセラミックス板のうち、電極の上面よりも載置面側を構成する部分が、本発明における「上部基体」に該当する。同様に、凹部加工されたセラミックス板のうち、電極の側面を覆う部分が、本発明における「側部基体」に該当する。絶縁層15がセラミックス板12と一体的に形成されている場合、及び絶縁層15がセラミックス板11,12の両方と一体的に形成されている場合も、同様に「上部基体」「側部基体」「下部基体」を定義する。
【0070】
セラミックス板11,12の両方と絶縁層とが一体的に形成された静電チャック部材は、以下の方法で形成することができる。
【0071】
例えば、セラミックス板の原料である無機粒子の原料粉末(例えば、アルミナ粉末や、SiC粉末)を用いて、セラミックス板11,12と同等の形状を有し焼結させる前の仮成形体を形成し、得られた仮成形体の一方に、導電ペーストをスクリーン印刷した後、他方の仮成形体を重ねて積層体とする。その後、積層体をホットプレス焼成することで、セラミックス板11,12の両方と絶縁層とが一体的に形成された静電チャック部材が得られる。
【0072】
上記仮成形体は、プレス成形や、原料粉末のペーストを成形型に流し込むことで成形してもよく、無機粒子の原料粉末を用いて薄板状のグリーンシートを形成した後、グリーンシートを積層して成形してもよい。
【0073】
得られる電極13の厚さは、電極層形成用ペーストの塗布厚さと、得られる電極13の厚さとの対応関係を予備実験により求めておくことにより、電極層形成用ペーストの塗布厚さを調整することで制御することができる。
【0074】
(静電チャック部材の形状)
以下の説明においては、セラミックス板11の厚さを「厚さT1」、セラミックス板12の厚さを「厚さT2」、電極13の厚さ(=絶縁層15の厚さ)を「厚さT3」とする。
【0075】
セラミックス板11の厚さT1、及びセラミックス板12の厚さT2は、静電チャック部材10が採用される静電チャック装置や半導体製造装置の性能に応じて適宜設定される。一例として、厚さT1は100μm以上、900μm以下が好ましく、400μm以上600μm以下がより好ましい。また、厚さT2は下部セラミック板に形成する付加的な内部電極やヒーター等の有無によって大きく異なり、0.9mm以上4mm以下等が選ばれているが、これらに限定されない。
【0076】
電極13の厚さT3は、静電チャック部材10が採用される静電チャック装置や半導体製造装置の性能に応じて適宜設定される。一例として、厚さT3は5μm以上40μm以下が好ましく、10μm以上20μm以下がより好ましい。
【0077】
静電チャック部材10において、セラミックス板(上部基体)11は、載置面10xを有する基体本体11aと、絶縁層(側部基体)15の最外部15a(静電チャック部材10の側周面10y)よりも外側に突出する突出部11bと、を有する。そのため、絶縁層15の側面は、平面視において突出部11bの下に隠れている。
【0078】
なお、突出部11bは、セラミックス板11の周縁部において周方向の一部に設けられていてもよく、周方向の全部において設けられていてもよい。また、突出部11bの大きさは、周方向で一定であってもよく、周方向で異ならせてもよい。
【0079】
突出部11bの材料は、上述したセラミックス板11の材料として例示した材料と同じく、絶縁性材料と導電性材料とを含む複合材を用いることができる。突出部11bは、基体本体11aと異なる材料で形成されていてもよく、同じ材料で形成されていてもよい。
【0080】
突出部11bの材料を基体本体11aと異ならせる場合、例えば、セラミックス板11を製造する際に、突出部11bに相当する位置の導電性材料のドープ量を基体本体11aよりも増量することで製造することができる。または、セラミックス板11を製造する際、セラミックス板11の内側の加熱温度を外周よりも高くし、外周におけるSiC等の導電性材料の蒸発を促進することで製造することができる。
【0081】
図3は、静電チャック部材10の機能を説明する説明図であり、
図2と同じ視野の図である。
【0082】
静電チャック部材10の電極13に印可し、電界を発生させると、荷電性異物粒子は、電極13に電圧を印加して発生する電界に沿って静電チャック部材10に引き寄せられる。
図3では、電気力線を符号Lで示している。
【0083】
通常、荷電性異物粒子は、ウエハプロセス中に、静電チャック部材の表面に対して吸着及び脱離を繰り返していると想定される。ここで、荷電性異物粒子の単位表面積あたりの付着量が多くなると、荷電性異物粒子は、複数が凝集した凝集体として、静電チャック部材の表面に対して吸着及び脱離をすると想定される。このような凝集体が静電チャック部材の表面に吸着及び脱離する場合、絶縁破壊の原因となる「異常放電」が生じると考えられる。
【0084】
電気力線は、相対的に比誘電率が大きい箇所に向かう。ここで、静電チャック部材10は、突出部11bを有する。そのため、突出部11bが無い場合に、静電チャック部材10の側周面10yに引き込まれる電気力線L1は、静電チャック部材10の周囲の空間の誘電率よりも相対的に大きい比誘電率を有する突出部11bの側に曲がる。その結果、突出部11bが無い場合に静電チャック部材10の側周面10yに付着するはずだった荷電性異物粒子は、突出部11bに付着する。
【0085】
これにより、静電チャック部材10の側周面10yへの荷電性異物粒子の付着量を低減して、異常放電の発生量を抑制し、絶縁破壊を抑制することができる。また、突出部11bを有する静電チャック部材10によれば、荷電性異物粒子に起因する絶縁破壊を抑制すると共に、イオンや電子に起因する絶縁破壊を重畳的に抑制可能である。
【0086】
また、静電チャック部材10は、以下のような構成であると好ましい。
以下の説明においては、静電チャック部材10の周方向における絶縁層15の幅を「幅D1」、周方向における突出部11bの幅を「幅D2」とする。
【0087】
突出部11bの幅D2は、電極13の厚さT3よりも大きいことが好ましい。これにより、突出部11bは、平面視において絶縁層15の側面を効果的に覆い、絶縁層15の側面への荷電性異物粒子の付着を抑制することができる。
【0088】
突出部11bの材料の比誘電率は、絶縁層15の材料の比誘電率以上であることが好ましい。これにより、電極13に印可し発生した電界(電気力線)を、突出部11bの方に引き寄せやすく、荷電性異物粒子を突出部11bに付着させやすい。
【0089】
上記比誘電率の関係を満たすため、絶縁層15の材料は、後述する突出部の材料よりも導電性材料の含有率が低いことが好ましい。
【0090】
セラミックス板12の厚さT2と絶縁層15の厚さT3との合計は、セラミックス板11の厚さT1よりも大きいことが好ましい。これにより、静電チャック部材10の側周面10yにおいて、突出部11bより下方に広い低誘電率の部分が形成されることとなる。そのため、静電チャック部材10の側周面側の空間においては、電極13に印可して生じる電界は、相対的に誘電率が高い突出部11bに引き寄せられやすく、側周面10yに回り込む電界を相対的に抑制することができる。
【0091】
突出部11bの比誘電率は、セラミックス板12の比誘電率よりも大きいことが好ましい。これにより、これにより、静電チャック部材10の側周面10yにおいて、絶縁層15より上方に高い誘電率の部分が形成されることとなり、効果的に突出部11bに電界を引き寄せ、側周面10yに回り込む電界を相対的に抑制することができる。
【0092】
突出部11bの比誘電率をセラミックス板12の比誘電率よりも大きくする場合、セラミックス板11のうち突出部11bの比誘電率のみ上記関係を満たしてもよく、セラミックス板11の全体の比誘電率が、セラミックス板12の比誘電率よりも大きいこととしてもよい。
【0093】
近年、シリコンウエハから得られる半導体チップの歩留まり向上を目的として、静電チャック部材が有する静電吸着用電極を拡大する提案がなされている。静電チャック部材10において電極13を拡大させると、載置面10xの中央と周縁とで吸着力の差が小さくなり、シリコンウエハの外周部分においても中央部分と同様の加工(エッチング処理)が可能となる。これにより、シリコンウエハの外周部分においても好適に半導体チップを製造可能となり、歩留まりが向上する。近年では、幅D1は、1mm以下(1000μm以下)とすることが求められている。
【0094】
一方で、電極13が拡大し幅D1が小さくなると、静電チャック部材10の側周面の電界強度が増加する。そのため、電極13を拡大させた静電チャック部材10では、電極13を拡大させない静電チャック部材と比べ、側周面に荷電性異物粒子が静電吸着しやすい構成となる。
【0095】
また、セラミックス板11の厚さT1との関係において、幅D1は、厚さT1の2倍以下とすることが求められている(D1/T1≦2)。このように幅D1が小さくなることにより、側周面10yに対して荷電性異物粒子が付着しやすくなっていた。
【0096】
このように近年求められる構成においても、静電チャック部材10が突出部11bを有することにより、側周面に引き込まれるはずの電界を突出部11bに引き寄せ、突出部11bが無い場合に静電チャック部材の側周面に付着するはずだった荷電性異物粒子を、突出部11bに付着させることができる。これにより、静電チャック部材10によっても、側周面で生じる絶縁破壊を抑制可能となる。
【0097】
静電チャック部材10において、突出部11bの幅D2を十分な大きさとすることが出来ない場合(例えばD1>D2の場合)、下記式(1)を満たすように突出部11bの比誘電率ε1と、絶縁層15の比誘電率ε3と、各層の厚さとを制御するとよい。
ε1×T1>ε3×T3 …(1)
【0098】
静電チャック部材10においては、下記式(2)を満たすように突出部11bの比誘電率ε1と、各層の厚さとを制御してもよい。これにより、静電チャック部材10の側周面10yにおいて、上部では高い誘電率を示す構成が相対的に狭く分布し、下部では低い誘電率を示す真空部分(何もない部分)が相対的に広く分布することとなる。そのため、側周面に引き込まれるはずの電界を突出部11bに引き寄せ易く、側周面10yに回り込む電界を相対的に抑制することができる。
ε0×ε1×D2<ε0×T2 …(2)
(ε0は、真空の誘電率を表す)
【0099】
以上のような構成の静電チャック部材10によれば、側周面で生じる絶縁破壊を抑制可能となる。
【0100】
なお、本実施形態においては、突出部11bと基体本体11aとが同じ厚さであることとして図示しているが、突出部11bと基体本体11aとが異なる厚さであってもよい。
【0101】
[第2実施形態]
図4は、第2実施形態に係る静電チャック部材20の説明図である。以後の各実施形態においては、第1実施形態の静電チャック部材10と共通する材料を用いることができ、形状が異なる。以後の各実施形態において、第1実施形態と共通する構成要素については、詳細な説明は省略する。
【0102】
図4に示すように、静電チャック部材20は、一対のセラミックス板21,22と、一対のセラミックス板21,22の間に介在する静電吸着用電極23及び絶縁層25と、を備える。一対のセラミックス板21,22、及び絶縁層25を合わせた構成は、本発明の基体に該当する。また、セラミックス板21は、基体本体21aと突出部21bとを有する。
【0103】
突出部21bの上端部分には、面取りされ載置面20xの法線方向からの視野に露出する凸曲面CSが形成されている。
図4の視野において、凸曲面CSは、載置面20xと重なる仮想面S1との交点αから、Y方向と平行であり突出部の外周端部と重なる仮想面S2との交点βまでの領域である。
【0104】
本明細書において、凸曲面CSを構成する「凸曲面」とは、側周面のうち、断面視において+y方向に凸の曲面を指す。
【0105】
静電チャック部材20は、側周面20yの周方向の一部において凸曲面CSが形成されていてもよく、周方向の全部において凸曲面CSが形成されていてもよい。また、凸曲面CSの曲率は、周方向で一定であってもよく、周方向で異ならせてもよい。
【0106】
静電チャック部材が角部を有していると、板状試料を吸着させるための静電界が角部に集中しやすく、この静電界に引き寄せられる荷電性異物粒子も強固に付着しやすい。一方で、静電チャック部材20のように角部が面取りされ、凸曲面CSとなっていると、上述の静電界が凸曲面CSで分散し特定の箇所に集中しにくくなる。その結果、荷電性異物粒子の付着箇所が分散し、単位表面積あたりの荷電性異物粒子の数が減少する結果、異常放電を抑制しやすい。
【0107】
また、角部を曲面化すると、形成される凸曲面CSの面積は、交点αから仮想面S1と仮想面S2とを辿って交点βに至る面、すなわち、角部を曲面化しない場合に存在する面の面積よりも小さい。上述のように、静電チャック部材の角部には荷電性異物粒子が付着しやすいところ、角部を曲面化すると荷電性異物粒子が付着し得る部分の表面積を減らすことができるため、異常放電を抑制する構成として好適である。
【0108】
凸曲面CSの曲率半径は、電極23の厚さT3以上であると好ましい。凸曲面CSの曲率を電極23の厚さT3より大きくすることで、プラズマ処理時に凸曲面CSでの電界の集中を抑制することができ、荷電性異物粒子の特定部分(例えば角部)への固着の集中を抑制することができる。
【0109】
凸曲面CSの曲率半径は、次の方法で求める。
まず、静電チャック部材の測定したい部分(凸曲面)について、載置面に垂直、且つ平面視において静電チャック部材に外接する円のうち最小の円を想定したとき、この円の中心を含む仮想面で切断する。断面を1000番以上の砥石で研削してもよい。
【0110】
次いで、得られた断面の拡大写真を撮像する。拡大倍率は、実体鏡を用いて測定したい凸曲面を観察し、凸曲面の大きさに応じて設定する。拡大倍率は、得られた写真から適切に曲率半径が測定できる倍率であり、例えば40倍から200倍の範囲から適宜選択する。
得られた拡大写真から、凸曲面の曲率半径を測定する。
【0111】
以上のような構成の静電チャック部材20によっても、側周面に引き込まれるはずの電界を突出部21bに引き寄せ、突出部21bが無い場合に静電チャック部材20の側周面に付着するはずだった荷電性異物粒子を、突出部21bに付着させることができる。これにより、静電チャック部材20によっても、側周面で生じる絶縁破壊を抑制可能となる。
【0112】
なお、
図4では面取りして形成される面を、連続した曲面である凸曲面CSとして示しているが、これに限らない。例えば、
図4の凸曲面CSの一部が平坦面であってもよい。このような面は、例えば、
図4に示す仮想面S1と仮想面S2とに沿う角部を直線的に面取りした傾斜面を形成した後、さらに、面取りにより生じる新たな2つの角部を、外に凸となる曲面(凸曲面)に加工することで得られる。
【0113】
以上のような構成の静電チャック部材においては、面取り前には1つであった角部を、面取りにより2つとすることで、上述した静電界の集中を分散している。さらに、面取り加工で形成される角部をそれぞれ曲面に加工しているため、側周面で生じる絶縁破壊を抑制可能となる。
【0114】
なお、上述した「2つの角部」を更に直線的に面取りし、新たに生じる角部を凸曲面に加工してもよい。
【0115】
[第3実施形態]
図5は、第3実施形態に係る静電チャック部材30の説明図である。
図5に示すように、静電チャック部材30は、一対のセラミックス板31,32と、一対のセラミックス板31,32の間に介在する静電吸着用電極33及び絶縁層35と、を備える。一対のセラミックス板31,32、及び絶縁層35を合わせた構成は、本発明の基体に該当する。また、セラミックス板31は、基体本体31aと突出部31bとを有する。
【0116】
静電チャック部材30の側周面30yは、セラミックス板31の側面31yと、絶縁層35の側面35yと、セラミックス板32の側面32yとが連続し、セラミックス板32側(-y側)に面する傾斜面である。側面31yは、本発明の「第1傾斜面」に該当する。側面35yと側面32yとが連続する面は、側面31yと連続し、本発明の「第2傾斜面」に該当する。
【0117】
静電チャック部材30の側周面30yは、例えば、平面視で同形状であり同じ大きさの一対のセラミックス板と、静電吸着用電極と、絶縁層とを有する積層体を形成した後、得られた積層体の側周面を研磨することで形成することができる。
【0118】
以上のような構成の静電チャック部材30によっても、側周面に引き込まれるはずの電界を突出部31bに引き寄せ、突出部31bが無い場合に静電チャック部材30の側周面に付着するはずだった荷電性異物粒子を、突出部31bに付着させることができる。これにより、静電チャック部材30によっても、側周面で生じる絶縁破壊を抑制可能となる。
【0119】
なお、本実施形態においては、側周面30yを傾き一定の面として図示したが、これに限らない。側周面は、セラミックス板32側に面するならば、傾きが変化してもよい。側周面は、例えば凸曲面であってもよく、凹曲面であってもよい。また、側周面30yの傾斜角は、周方向で一定であってもよく、周方向で異ならせてもよい。
【0120】
(変形例1)
図6は、第3実施形態の変形例に係る静電チャック部材40の説明図である。
図6に示すように、静電チャック部材40は、一対のセラミックス板41,42と、一対のセラミックス板41,42の間に介在する静電吸着用電極43及び絶縁層45と、を備える。一対のセラミックス板41,42、及び絶縁層45を合わせた構成は、本発明の基体に該当する。また、セラミックス板41は、基体本体41aと突出部41bとを有する。
【0121】
セラミックス板41は、上述のセラミックス板31と同様、セラミックス板42側(-y側)に面する傾斜面である側面41yを有する。一方、絶縁層45及びセラミックス板42の側面は、y軸と平行な面である。すなわち、変形例である静電チャック部材40においては、本発明の第1傾斜面のみを有する。
【0122】
以上のような構成の静電チャック部材40によっても、突出部41bが無い場合に静電チャック部材40の側周面に付着するはずだった荷電性異物粒子を、突出部41bに付着させることができる。これにより、静電チャック部材40によっても、側周面で生じる絶縁破壊を抑制可能となる。
【0123】
(変形例2)
図7は、第3実施形態の変形例に係る静電チャック部材50の説明図である。
図7に示すように、静電チャック部材50は、一対のセラミックス板51,52と、一対のセラミックス板51,52の間に介在する静電吸着用電極53及び絶縁層55と、を備える。一対のセラミックス板51,52、及び絶縁層55を合わせた構成は、本発明の基体に該当する。また、セラミックス板51は、基体本体51aと突出部51bとを有する。
【0124】
静電チャック部材50の側周面50yは、セラミックス板51の側面51yと、絶縁層55の側面55yと、セラミックス板52の側面52yとが連続する凹曲面である。側面51yは、本発明の「第1傾斜面」に該当する。
【0125】
静電チャック部材50の側周面50yは、例えば、平面視で同形状であり同じ大きさの一対のセラミックス板と、静電吸着用電極と、絶縁層とを有する積層体を形成した後、得られた積層体の側周面を研磨することで形成することができる。
【0126】
以上のような構成の静電チャック部材50によっても、側周面に引き込まれるはずの電界を突出部51bに引き寄せ、突出部51bが無い場合に静電チャック部材50の側周面に付着するはずだった荷電性異物粒子を、突出部51bに付着させることができる。これにより、静電チャック部材50によっても、側周面で生じる絶縁破壊を抑制可能となる。
【0127】
[静電チャック装置]
以下、
図8を参照しながら、本発明の一実施形態に係る静電チャック装置について説明する。以下の説明では、上述の静電チャック部材10を有する静電チャック装置について説明するが、静電チャック装置には、上述した他の静電チャック部材もそれぞれ採用可能である。以下の説明においては、第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0128】
図8は、本実施形態の静電チャック装置を示す断面図である。静電チャック装置100は、円板状の静電チャック部材10と、静電チャック部材10を冷却し所望の温度に調整する円板状のベース部材103と、これら静電チャック部材10及びベース部材103を接合・一体化する接着剤層104と、を有している。
【0129】
以下の説明においては、静電チャック部材10側を「上」、ベース部材103側を「下」として記載し、各構成の相対位置を表すことがある。
【0130】
[静電チャック部材]
静電チャック部材10は、上述したセラミックス板11,12、電極13、絶縁層15の他、電極13に接するようにベース部材103の固定孔115内に設けられた給電用端子116を有している。
【0131】
[給電用端子]
給電用端子116は、電極13に電圧を印加するための部材である。
給電用端子116の数、形状等は、電極13の形態、すなわち単極型か、双極型かにより決定される。
【0132】
給電用端子116の材料は、耐熱性に優れた導電性材料であれば特に制限されない。給電用端子116の材料としては、熱膨張係数が電極13及びセラミックス板12の熱膨張係数に近似した材料であることが好ましく、例えば、コバール合金、ニオブ(Nb)等の金属材料、各種の導電性セラミックスが好適に用いられる。
【0133】
[導電性接着層]
導電性接着層117は、ベース部材103の固定孔115内及びセラミックス板12の貫通孔118内に設けられている。また、導電性接着層117は、電極13と給電用端子116の間に介在して、電極13と給電用端子116を電気的に接続している。
【0134】
導電性接着層117を構成する導電性接着剤は、炭素繊維、金属粉等の導電性物質と樹脂を含む。
【0135】
導電性接着剤に含まれる樹脂としては、熱応力により凝集破壊を起こし難い樹脂であれば特に限定されず、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポシキ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。
これらの中でも、伸縮度が高く、熱応力の変化によって凝集破壊し難い点から、シリコーン樹脂が好ましい。
【0136】
[ベース部材]
ベース部材103は、金属及びセラミックスの少なくとも一方からなる厚みのある円板状の部材である。ベース部材103の躯体は、プラズマ発生用内部電極を兼ねた構成とされている。ベース部材103の躯体の内部には、水、Heガス、N2ガス等の冷却媒体を循環させる流路121が形成されている。
【0137】
ベース部材103の躯体は、外部の高周波電源122に接続されている。また、ベース部材103の固定孔115内には、その外周が絶縁材料123により囲繞された給電用端子116が、絶縁材料123を介して固定されている。給電用端子116は、外部の直流電源124に接続されている。
【0138】
ベース部材103を構成する材料は、熱伝導性、導電性、加工性に優れた金属、又はこれらの金属を含む複合材であれば特に制限されない。ベース部材103を構成する材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ステンレス鋼(SUS)、チタン(Ti)等が好適に用いられる。
【0139】
ベース部材103における少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理又はポリイミド系樹脂による樹脂コーティングが施されていることが好ましい。また、ベース部材103の全面が、前記のアルマイト処理又は樹脂コーティングが施されていることがより好ましい。
【0140】
ベース部材103にアルマイト処理又は樹脂コーティングを施すことにより、ベース部材103の耐プラズマ性が向上するとともに、異常放電が防止される。したがって、ベース部材103の耐プラズマ安定性が向上し、また、ベース部材103の表面傷の発生も防止できる。
【0141】
[接着剤層]
接着剤層104は、静電チャック部材10と、ベース部材103とを接着一体化する構成である。
【0142】
接着剤層104の厚さは、100μm以上かつ200μm以下が好ましく、130μm以上かつ170μm以下がより好ましい。
接着剤層104の厚さが上記の範囲内であれば、静電チャック部材10とベース部材103との間の接着強度を充分に保持できる。また、静電チャック部材10とベース部材103との間の熱伝導性を充分に確保できる。
【0143】
接着剤層104は、例えば、シリコーン系樹脂組成物を加熱硬化した硬化体、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等で形成されている。
シリコーン系樹脂組成物は、シロキサン結合(Si-O-Si)を有するケイ素化合物であり、耐熱性、弾性に優れた樹脂であるので、より好ましい。
【0144】
このようなシリコーン系樹脂組成物としては、特に、熱硬化温度が70℃~140℃のシリコーン樹脂が好ましい。
【0145】
ここで、熱硬化温度が70℃を下回ると、静電チャック部材10とベース部材103とを対向させた状態で接合する際に、接合過程で硬化が充分に進まず、作業性に劣るため好ましくない。一方、熱硬化温度が140℃を超えると、静電チャック部材10及びベース部材103との熱膨張差が大きく、静電チャック部材10とベース部材103との間の応力が増加し、これらの間で剥離が生じることがあるため好ましくない。
【0146】
すなわち、熱硬化温度が70℃以上であると、接合過程で作業性に優れ、熱硬化温度が140℃以下であると、静電チャック部材10とベース部材103との間で剥離し難いため好ましい。
【0147】
本実施形態の静電チャック装置100によれば、上述した静電チャック部材10を有するため、静電チャック部材の側周面において、絶縁破壊(放電)の発生を抑制できる。
【0148】
なお、静電チャック装置100は、静電チャック部材の周囲を囲むフォーカスリングを有してもよい。その場合、フォーカスリングの形状は、静電チャック部材の側周面の形状に合わせて相補的な形状に変更してもよい。
【0149】
[半導体製造装置]
図9は、上述の静電チャック装置を有する半導体製造装置の説明図である。半導体製造装置1000は、静電チャック装置100と、真空チャンバ200と、上部電極300と、磁石400と、ガス供給手段500と、真空ポンプ600と、プラズマ安定化システム700と、を有する。
【0150】
真空チャンバ200は、静電チャック装置100を収容し、内部でプラズマ処理を行う反応場として用いられる。真空チャンバ200は、半導体製造装置に用いられる公知の構成を採用することができる。真空チャンバ200は、板状試料の出し入れを行う不図示のゲートを有する。
【0151】
上部電極300は、真空チャンバ200内に収容され、真空チャンバ200内にプラズマを発生させる際に静電チャック装置100と協働して用いられる対向電極である。上部電極300は、不図示の電源に接続される。
【0152】
磁石400は、真空チャンバ200の周囲に配置され、真空チャンバ200内の上部電極300と静電チャック装置100との間の空間に縦方向の磁界を発生させる。
【0153】
ガス供給手段500は、真空チャンバ200内にプラズマガスGを供給する。ガス供給手段500は、例えば、上部電極300に設けられたガス孔から、真空チャンバ200内にプラズマガスGを供給する。
【0154】
真空ポンプ600は、真空チャンバ200内の気体を排気し、プラズマを発生させる雰囲気を整える。真空ポンプ600は、例えば、真空チャンバ200において静電チャック装置100よりも下方に接続されている。
【0155】
プラズマ安定化システム700は、半導体製造装置1000において発生させるプラズマの状態を変動させる種々の外的要因を検出し、補償することで、プラズマの状態を安定させる。プラズマ安定化システム700は、検出器710と、検出器710による検出結果に基づいて半導体製造装置1000を制御する制御部720と、を有する。
【0156】
検出器710は、真空チャンバ200内のプラズマの様子を直接又は間接的に検出する。検出器710は、1つであってもよく、複数であってもよい。検出器710により検出される項目としては、例えば、真空チャンバ200内の真空度、プラズマの色、プラズマの温度、上部電極300と静電チャック装置100が有するプラズマ発生用内部電極(不図示)との間の電気容量、上部電極300とプラズマ発生用内部電極との間のインダクタンスなどが挙げられる。
【0157】
制御部720は、検出器710により検出される各項目の検出値、又は検出値の単位時間あたりの変化量に基づいて、半導体製造装置1000を制御する。制御部720は、上記項目の検出値と、真空チャンバ200内で発生するプラズマの状態と、の対応関係を予め記憶している。制御部720は、検出値と上記対応関係とに基づいて、プラズマの状態が予め定めた範囲に収まるように、半導体製造装置1000をフィードバック制御する。フィードバック制御する項目は、例えば、半導体製造装置内の温度、真空度、バイアス電圧が挙げられる。
【0158】
これらにより、プラズマ安定化システム700は、半導体製造装置1000におけるプラズマ状態の長期的な変動を抑制し、状態を安定化させることができる。
【0159】
このようなプラズマ安定化システムは、半導体製造装置を用いた製造プロセス全体に航プラズマ状態の変動抑制には効果的である。一方、プラズマ安定化システムは、ウエハプロセス中の異常放電のように、極めて短い時間発生する変動要因に対しては、状態変動を抑制する効果が無かった。
【0160】
一方で、半導体製造装置1000は、上述の静電チャック装置100を有するため、ウエハはプロセス中に発生する異常放電を抑制することができる。そのため、半導体製造装置1000は、プラズマ安定化システム700を有することにより、長期的にも短期的にもプラズマを安定させることが可能となる。
【0161】
なお、制御部720は、プラズマ安定化システム700の固有の構成であってもよく、半導体製造装置1000の制御を行う制御装置が、機能を兼ねていてもよい。
【0162】
このような半導体製造装置1000においては、例えば、真空チャンバ200の排気口の位置(真空ポンプ600の接続位置)によって、静電チャック部材10の側周面における荷電性異物粒子の付着しやすさの傾向が異なることがある。半導体製造装置1000について経験的に上記傾向が判明している場合、静電チャック部材10は、荷電性異物粒子が付着しやすい位置の側周面について、その他の側周面よりも突出部を大きくしておく等、荷電性異物粒子の付着を抑制する構成を採用するとよい。
【0163】
本実施形態の半導体製造装置1000によれば、上述した静電チャック装置100を有するため、絶縁破壊(放電)の発生を抑制できる。
【0164】
また、半導体製造装置1000は、静電チャック装置100により異常放電(プラズマの短期的な変動)を抑制すると共に、プラズマ安定化システム700により、プラズマの長期的な変動を抑制可能である。そのため、安定したプラズマ処理が可能となり、歩留まりが改善した半導体製造装置とすることができる。
【0165】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
また、上記説明ではシリコンウエハを用いて説明したが、本発明の静電チャック部材で処理可能なウエハはシリコンだけでなく、インジウムリン系であってもガリウムひ素系であっても他の材料であってもよいことは明らかである。
【符号の説明】
【0166】
10,20,30,40,50…静電チャック部材、10x,20x…載置面、11…セラミックス板(上部基体)、11a,21a,31a,41a,51a…基体本体、11b,21b,31b,41b,51b…突出部、13,23,33,43,53…静電吸着用電極(電極)、15,25,35,45,55…絶縁層(側部基体)、15a…最外部、31y,32y,35y,41y,51y,52y,55y…側面、100…静電チャック装置、103…ベース部材、CS…凸曲面
【要約】
【課題】側面で生じる絶縁破壊を抑制可能な静電チャック部材を提供する。また、このような静電チャック部材を有する静電チャック装置を提供する。
【解決手段】第1面と、第1面とは反対側の面である第2面とを有する静電吸着用電極と、静電吸着用電極を内包、又は一面に有し、一面とは反対側の面が板状試料を載置する載置面である基体と、を備え、基体は、第1面より載置面側を構成する上部基体と、静電吸着用電極の側面を覆う側部基体とを有し、上部基体は、載置面を有する基体本体と、側部基体の最外部よりも外側に突出する突出部と、を有する静電チャック部材。
【選択図】
図1