(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】イムノクロマトグラフィー装置、イムノクロマトキット並びにイムノクロマト検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20230322BHJP
【FI】
G01N33/543 515D
G01N33/543 515K
G01N33/543 521
(21)【出願番号】P 2019110398
(22)【出願日】2019-06-13
【審査請求日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2018114010
(32)【優先日】2018-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸 寛
(72)【発明者】
【氏名】望月 浩子
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150733(WO,A1)
【文献】特開2015-34719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/543
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜硝酸化合物を含有する部位を有する亜硝酸化合物含有部材と、標識物質含有部位を有する標識物質保持部材と、25℃の蒸気圧が5×10
-2Pa以下である酸無水物を含有する部位を有する酸無水物含有部材と、検出部を有するクロマトグラフ媒体部材とを、この順に試料が展開されるように設けたことを特徴とする、検体中の検出対象に含まれる被検出物質を検出するためのイムノクロマトグラフィー装置。
【請求項2】
前記酸無水物の25℃の蒸気圧が、2×10
-2Pa以下であることを特徴とする請求項1に記載のイムノクロマトグラフィー装置。
【請求項3】
前記酸無水物の25℃の水に対する溶解度が、0.1mg/L以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のイムノクロマトグラフィー装置。
【請求項4】
前記酸無水物が、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸無水物、テトラプロペニルこはく酸無水物、オクタデセニルこはく酸無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物、3-アセトアミドフタル酸無水物、及び4-(1-プロピニル)フタル酸無水物から選択された1種以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー装置。
【請求項5】
前記酸無水物含有部材中の前記酸無水物の含有量が、0.4μmol/装置~8.4μmol/装置であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー装置。
【請求項6】
前記亜硝酸化合物含有部材中の前記亜硝酸化合物の含有量が、12.5μmol/装置~160μmol/装置であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー装置。
【請求項7】
前記亜硝酸化合物が、亜硝酸塩であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー装置と、検体を希釈して展開するための検体希釈液とを含む、イムノクロマトキット。
【請求項9】
請求項8に記載のイムノクロマトキットを用いて、検体中の検出対象に含まれる被検出物質を検出する方法であって、以下の工程(i)~(iii)を含むイムノクロマト検出方法。
(i)検体希釈液により前記検体を希釈して得られる検体含有液を前記イムノクロマトグラフィー装置に滴下し、前記検体含有液を、前記亜硝酸化合物および標識物質とともに前記酸無水物含有部材に向かって移動させ、前記亜硝酸化合物と前記25℃の蒸気圧が5×10
-2Pa以下である酸無水物との反応により生成した亜硝酸により、前記検体から被検出物質を抽出すると同時に、前記標識物質によって前記被検出物質を標識化する工程
(ii)前記検体含有液がクロマトグラフ媒体部材上を移動して、検出部において前記被検出物質を検出する工程
(iii)前記検体含有液が、吸収部材により吸収される工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマトグラフィー装置、イムノクロマトキット並びにイムノクロマト検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、イムノクロマトグラフ用ストリップ形式のイムノアッセイは、抗体の持つ特異的反応性を利用して、検体中の検出対象を検出する簡便な体外診断キットもしくは携帯用診断装置として汎用性が高まっている。
【0003】
特に、最近では、インフルエンザウイルスや細菌といった病原体に対する感染の有無を検査するためのイムノクロマト法に基づく簡便な検査具についても関心が高まり、研究開発が進められてきた。
【0004】
例えば、溶血性連鎖球菌(以下、単に「溶連菌」と言うことがある)の診断は、群特異的である多糖体を抗原として検査することで行う。多糖体の抽出法としては、酵素やファージ、塩酸や次亜塩素酸などを用いた方法が知られているが、亜硝酸を用いる抽出法が最も一般的である。
【0005】
亜硝酸による抽出法は、多糖体の抽出効率が高い点と亜硝酸が低価格で取り扱いが容易である点にメリットがある。しかしながら、亜硝酸自体が不安定で分解しやすい化合物であるため、抽出前に亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸化合物と有機酸とを混合し、その都度亜硝酸を調製しなければならない点にデメリットがある。なお、有機酸としては、酢酸、クエン酸、酒石酸、イタコン酸、シュウ酸、コハク酸、グリコール酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸等が挙げられる(例えば下記特許文献1、2参照)。
【0006】
また、有機酸および亜硝酸化合物を含有させた従来の検査デバイスにおいては、検査デバイスの保存中に、一部の有機酸と亜硝酸化合物とが検査デバイス内で拡散することによって、両者が接触し、亜硝酸が発生してしまう恐れがある。検査デバイスの保存中に亜硝酸の発生が進行すると、実際に検査デバイスを使用する際には、亜硝酸の発生が不十分となって検出対象の抽出効率が低下してしまい、検出感度が落ちてしまう。したがって、この点で検査デバイスの保存安定性を向上させる余地があった。
【0007】
そこで下記特許文献3は、前記問題点を解消するため、試料滴下部材と、標識物質含有部位を有する標識物質保持部材と、検出部を有するクロマトグラフ媒体部材と、吸収部材とを含み、亜硝酸化合物と、有機酸又は有機酸誘導体とを含有する、検体中の検出対象を検出するためのイムノクロマトグラフィー装置であって、前記試料滴下部材、前記標識物質保持部材、前記クロマトグラフ媒体部材および前記吸収部材がこの順に試料が展開されるように配設され、前記標識物質含有部位より上流側に、前記亜硝酸化合物を含有する部位と、前記有機酸又は有機酸誘導体を含有する部位とを有し、前記亜硝酸化合物を含有する部位と、前記有機酸又は有機酸誘導体を含有する部位とが、厚み方向に実質的に接触しないイムノクロマトグラフィー装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-232064号公報
【文献】特開2015-34719号公報
【文献】国際公開第2017/150733号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、本発明者の検討によれば、特許文献3に記載のイムノクロマトグラフィー装置では保存安定性に一定の効果がみられるものの、使用する酸の種類によっては装置内で酸が分解、揮発、昇華するなどの問題が生じ、これが保存中の亜硝酸化合物と反応する場合もあった。したがって、保存安定性に改善の余地がある。また、亜硝酸化合物を含有する部位と有機酸又は有機酸誘導体を含有する部位とが厚み方向に実質的に接触しないような特別な構造を必要とし、製造上の煩雑さが生じる。さらに、検出感度についても改善の余地があった。
【0010】
したがって本発明の目的は、保存安定性をさらに向上させ、検出対象に含まれる被検出物質を高感度に検出でき、製造上の煩雑さも改善し得る、イムノクロマトグラフィー装置、イムノクロマトキット並びにイムノクロマト検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、従来のイムノクロマトグラフィー装置に使用されていた有機酸に替えて、特定の蒸気圧を有する酸無水物を使用するとともに、該装置の各部材を設置する順番を特定化することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の通りである。
【0012】
1.亜硝酸化合物を含有する部位を有する亜硝酸化合物含有部材と、標識物質含有部位を有する標識物質保持部材と、25℃の蒸気圧が5×10-2Pa以下である酸無水物を含有する部位を有する酸無水物含有部材と、検出部を有するクロマトグラフ媒体部材とを、この順に試料が展開されるように設けたことを特徴とする、検体中の検出対象に含まれる被検出物質を検出するためのイムノクロマトグラフィー装置。
2.前記酸無水物の25℃の蒸気圧が、2×10-2Pa以下であることを特徴とする前記1に記載のイムノクロマトグラフィー装置。
3.前記酸無水物の25℃の水に対する溶解度が、0.1mg/L以上であることを特徴とする前記1または2に記載のイムノクロマトグラフィー装置。
4.前記酸無水物が、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸無水物、テトラプロペニルこはく酸無水物、オクタデセニルこはく酸無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物、3-アセトアミドフタル酸無水物、及び4-(1-プロピニル)フタル酸無水物から選択された1種以上であることを特徴とする前記1~3のいずれか1に記載のイムノクロマトグラフィー装置。
5.前記酸無水物含有部材中の前記酸無水物の含有量が、0.4μmol/装置~8.4μmol/装置であることを特徴とする前記1~4のいずれか1に記載のイムノクロマトグラフィー装置。
6.前記亜硝酸化合物含有部材中の前記亜硝酸化合物の含有量が、12.5μmol/装置~160μmol/装置であることを特徴とする前記1~5のいずれか1に記載のイムノクロマトグラフィー装置。
7.前記亜硝酸化合物が、亜硝酸塩であることを特徴とする前記1~6のいずれか1に記載のイムノクロマトグラフィー装置。
8.前記1~7のいずれか1に記載のイムノクロマトグラフィー装置と、検体を希釈して展開するための検体希釈液とを含む、イムノクロマトキット。
9.前記8に記載のイムノクロマトキットを用いて、検体中の検出対象に含まれる被検出物質を検出する方法であって、以下の工程(i)~(iii)を含むイムノクロマト検出方法。
(i)検体希釈液により前記検体を希釈して得られる検体含有液を前記イムノクロマトグラフィー装置に滴下し、前記検体含有液を、前記亜硝酸化合物および前記標識物質とともに前記酸無水物含有部材に向かって移動させ、前記亜硝酸化合物と前記25℃の蒸気圧が5×10-2Pa以下である酸無水物との反応により生成した亜硝酸により、前記検体から被検出物質を抽出すると同時に、前記標識物質によって前記被検出物質を標識化する工程
(ii)前記検体含有液がクロマトグラフ媒体部材上を移動して、検出部において前記被検出物質を検出する工程
(iii)前記検体含有液が、吸収部材により吸収される工程
【発明の効果】
【0013】
本発明のイムノクロマトグラフィー装置およびイムノクロマトキットは、25℃の蒸気圧が5×10-2Pa以下である酸無水物を使用しているため、イムノクロマトグラフィー装置内での酸無水物の昇華が抑制される。そのため、当該装置およびキットの保管中に酸無水物の昇華が抑制され、酸無水物が亜硝酸塩と反応し亜硝酸が生成してしまうことを抑制できるため、保存安定性が向上する。
また、装置の各部材を設置する順番を特定化し、前記酸無水物を使用することにより、当該装置の使用時の亜硝酸生成効率が高まり、被検出物質を高感度で検出することができる。さらに、保存安定性が向上していることから、亜硝酸化合物を含有する部位と有機酸又は有機酸誘導体を含有する部位とが厚み方向に実質的に接触しないような特別な構造を必ずしも要さず、製造上の煩雑さを避けることができる。
【0014】
本発明のイムノクロマト検出方法は、25℃の蒸気圧が5×10-2Pa以下である酸無水物を使用するとともに、該装置の各部材を設置する順番を特定化しているので、イムノクロマトグラフィー装置内での酸無水物の昇華が防止され、これにより、亜硝酸の生成も抑制され、保存安定性が向上する。また、装置の各部材を設置する順番を特定化し、前記酸無水物を使用することにより、当該装置の使用時の亜硝酸生成効率が高まり、被検出物質を高感度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態のイムノクロマトグラフィー装置の構造を説明するための断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の別の実施形態のイムノクロマトグラフィー装置の構造を説明するための断面図である。
【
図3】
図3は、実施例9、10および比較例10、11で測定された検出部(4)の赤いラインの発色強度の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の一実施形態は、検体中の検出対象から被検出物質(抗原)を抽出し、その被検出物質(抗原)に特異的に結合する結合物質(抗体)との反応(抗原-抗体反応)により形成される複合体をクロマトグラフ媒体に展開させることで、検出対象を各種の検出手段により確認するためのイムノクロマトグラフィー装置、イムノクロマトキット並びにイムノクロマト検出方法(以下、単に「イムノクロマト検出系」と言うことがある)に基づくものである。
【0017】
その抗原と最も特異的に反応して結合する抗体としては、それと特異的に結合する、例えばモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体若しくはその他の公知の抗体を任意に使用することができる。
【0018】
上記抗体には標識を付けておくことで、検出対象の検出が可能となる。標識としては、酵素、発色物質、蛍光物質、または放射性物質などを任意に使用することができる。例えば、操作が簡単で検定時間も短くするというイムノクロマト検出方法の特色を出すためや、抗体及び抗原等の種類を考慮して決めればよい。
【0019】
また、検出手段は、操作が簡単で、比較的短時間で判定できるという、イムノクロマト検出方法の特色を表すためには、目視判定で、正確に判定できると言う性能を有することを特徴とする。一方、時間、精度などが要求される場合には、分光光度検出及び放射線検出など、各種の検出手段を付帯させて検出することができる。
【0020】
本発明における検出対象としては、本発明のイムノクロマト検出系により生成する亜硝酸によって、細菌に特異な抗原が抽出されるような細菌であれば適用可能である。特に厚いペプチドグリカン層を有するグラム陽性菌を含む検出対象において好ましく用いられる。
【0021】
例えば、ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌、かん菌、たんそ菌、セレウス菌、ジフテリア菌、リステリア、破傷風菌、ボツリヌス菌、及びウェルシュ菌などが挙げられる。なかでも球菌類であるブドウ球菌、連鎖球菌、及び肺炎球菌において好ましく用いられる。最適には連鎖球菌、特に溶血性連鎖球菌において好ましく用いられる。
【0022】
上記検出対象を含有する検体としては、例えば、唾液、鼻汁、鼻腔拭い液、鼻腔吸引液、痰、咽頭拭い液、肺胞洗浄液、直腸拭い液、便懸濁液、尿、及び羊水等の生体試料のみならず、食品抽出液、上水、下廃水、及び培養液等といった試料であることができ、特に限定されるものではない。
【0023】
なかでも、本発明はこれらの検体中に含まれ、原因となる菌がグラム陽性菌、特に、溶連菌を含む場合に有用である。本発明は、呼吸器疾患患者等から採取される唾液等に含まれる溶連菌を検出対象とし、溶連菌から抽出された多糖体を被検出物質として、検出対象の溶連菌を検出することができる。
【0024】
以下、本発明のイムノクロマト検出系の実施形態を順次説明をするが、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではない。
【0025】
本発明のイムノクロマトグラフィー装置は、亜硝酸化合物を含有する部位を有する亜硝酸化合物含有部材と、標識物質含有部位を有する標識物質保持部材と、25℃の蒸気圧が5×10-2Pa以下である酸無水物(以下、単に「酸無水物」と言うことがある)を含有する部位を有する酸無水物含有部材と、検出部を有するクロマトグラフ媒体部材とを、この順に試料が展開されるように設けたことを特徴とする。なお、本発明においては、上記順に試料が展開されるのであれば、上記各部材間に他の部材を任意に設けてもよく、必ずしも、亜硝酸化合物含有部材と、標識物質保持部材と、酸無水物含有部材と、クロマトグラフ媒体部材とが連続的に設けられている必要はない。
以下、本発明のイムノクロマトグラフィー装置の好ましい実施形態について説明する。
【0026】
<イムノクロマトグラフィー装置>
好ましい実施形態として、本発明のイムノクロマトグラフィー装置は、試料滴下部材と、亜硝酸化合物を含有する部位を有する亜硝酸化合物含有部材と、標識物質含有部位を有する標識物質保持部材と、25℃の蒸気圧が5×10-2Pa以下である酸無水物を含有する部位を有する酸無水物含有部材と、検出部を有するクロマトグラフ媒体部材と、吸収部材とをこの順に試料が展開されるように備えることができる。また、前記試料滴下部材中に亜硝酸化合物を含有する部位を有し、前記試料滴下部材が亜硝酸化合物含有部材の機能を兼ね備えていることもできる。
【0027】
本明細書において、「部材」と、「部位」とは意味が異なるものとして用いる。例えば、「亜硝酸化合物(酸無水物)を含有する部材」とは、亜硝酸化合物(酸無水物)を含有する「部材」全体を意味し、「亜硝酸化合物(酸無水物)を含有する部位」とは、亜硝酸化合物(酸無水物)を含有する部材の中で、実際に亜硝酸化合物(酸無水物)を含有する領域を意味することとする。なお、「部位」が部材の一部の領域ではなく部材全体を示す場合もある。
【0028】
本明細書において、「試料展開方向」とは、試料が、試料滴下部材に滴下されてから吸収部材で吸収されるまでに展開(移動)する方向をいい、例えば、
図1に示すイムノクロマトグラフィー装置においては、矢印(右矢印)で示す方向をいう。また、本発明において「上流側」とは、上記「試料展開方向」と正反対の方向をいい、吸収部材を基準として試料滴下部材方向(側)をいう。
【0029】
以下図面を参照しながら本発明のイムノクロマトグラフィー装置について具体的に説明する。
【0030】
本発明のイムノクロマトグラフィー装置の一実施形態としては、
図1に示すように、試料滴下部位11を有する試料滴下部材(1)と、標識物質含有部位を有する標識物質保持部材(2)と、25℃の蒸気圧が5×10
-2Pa以下である酸無水物とを含有する部位を有する酸無水物含有部材(7)と、検出部(4)を有するクロマトグラフ媒体部材(3)と、吸収部材(5)とをこの順に試料が展開されるように備え、前記のように、試料滴下部材(1)中に亜硝酸化合物を含有する部位(12)を有し、前記試料滴下部材(1)が亜硝酸化合物含有部材の機能を兼ね備えている。
【0031】
そして、上記装置は、試料滴下部材(1)、標識物質保持部材(2)、酸無水物含有部材(7)、検出部(4)を有するクロマトグラフ媒体部材(3)および吸収部材(5)の各部材がこの順に試料が展開されるように、イムノクロマトグラフィー装置を構成する各部材が連結して配設されている。
【0032】
なお、上記部材以外の他の部材を上記装置の任意の位置に備えていてもよく、例えば
図2に示すように、試料滴下部材(1)に亜硝酸化合物含有部材の機能を持たせずに、試料滴下部材(1)と標識物質保持部材(2)の間に、亜硝酸化合物を含有する部位を有する亜硝酸化合物含有部材(8)が設けられていてもよい。亜硝酸化合物含有部材(8)としては、ガラスファイバーまたはセルロースの膜等が通常使用される。亜硝酸化合物含有部材(8)の形状としては、シート状のものを使用することができる。
各部材が連結される態様としては、
図1に示すように各部材同士が重なって連結されていてもよいし、各部材同士は重ならず、部材の側面同士が試料展開方向の側で接触して連結されていてもよい。
【0033】
試料滴下部材(1)とは、イムノクロマトグラフィー装置において検体を含有する試料(以下、単に「試料」と言うことがある)を滴下する部位(以下、単に「試料滴下部位11」と言うことがある)を有する部材をいい、
図1の符号1で示す部材をいう。
【0034】
試料滴下部位11は、試料滴下部材(1)のうち、試料を滴下する一部分の領域を指す。試料滴下部材(1)における試料滴下部位11の位置は特に制限はなく、例えば、試料滴下部材(1)の両端又はその付近であってもよいし、試料滴下部材(1)の中央又はその付近であってもよい。試料滴下部材(1)には、後述する亜硝酸化合物や本発明の効果を損なわない任意の試薬を含有させることができる。
【0035】
試料滴下部材(1)は、試料が迅速に吸収されるが、保持力は弱く、速やかに試料が移動していくような性質の多孔質シートで構成することができる。多孔質シートとしては、例えば、セルロース濾紙、再生セルロース濾紙、ガラスファイバー濾紙、ポリウレタン、ポリアセテート、酢酸セルロース、ナイロン、及び綿布等が挙げられる。試料滴下部材(1)の形状としては、シート状のものを使用することができる。
【0036】
標識物質保持部材(2)とは、標識成分によって試薬成分を標識した標識物質を含有する部位(以下、単に「標識物質含有部位21」と言うことがある)を有する部材であり、
図1の符号2で示す部材をいう。
【0037】
標識物質含有部位21は、標識物質保持部材(2)のうち、実際に標識物質を含有する領域を指す。標識物質含有部位21は
図1に示すように標識物質保持部材(2)の一部分の領域を占めるものであってもよいし、標識物質保持部材(2)の部材全体の領域を占めるものであってもよい。
【0038】
標識物質含有部位21が標識物質保持部材(2)の一部分の領域を占めるものである場合、標識物質保持部材(2)における標識物質含有部位21の位置は特に制限はなく、例えば標識物質保持部材(2)の両端又はその付近であってもよいし、標識物質保持部材(2)の中央又はその付近であってもよい。標識物質保持部材(2)には、本発明の効果を損なわない任意の試薬を含有させることができる。
【0039】
標識成分としては、例えば、金属粒子、ラテックス粒子、酵素、及び蛍光化合物等があり、なかでも金属粒子が好ましい。試薬成分としては、分析物を認識する能力を有する粒子又は分子であり、好ましくはモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体若しくはそのフラグメントである(第一試薬)。
【0040】
金属粒子としては、金、銀、白金、ゲルマニウム、ロジウム、及びパラジウムのような貴金属の単粒子、ならびに複合粒子が任意に好ましく使用できる。なかでも、金が色相の変化に敏感であり、特に好ましい。
【0041】
金属粒子の平均粒径は、好ましくは1nm~500nm、より好ましくは10nm~250nm、さらに好ましくは35nm~100nmである。なお、上記平均粒径を有する、金のナノ径の各種金粒子を金ナノ粒子という。
【0042】
イムノクロマト検出方法においては、この金の粒径、粒度分布、及び色調などを考慮して、金粒子の表面に白金粒子を担持させた、金複合粒子とすることにより、イムノクロマト検出方法の標識とすること、タンパク質の染色剤としての有用性を高めるために使用することができる。さらに、金属粒子表面に結合できる官能基と抗体と結合できる反応基を有する金標識増幅剤のような、いわゆる増感剤を使用すれば測定感度を高めることができる。
【0043】
標識物質保持部材(2)としては、例えば、ガラスファイバーまたはセルロースの膜等が通常使用される。標識物質保持部材(2)の形状としては、シート状のものを使用することができる。
【0044】
本発明のイムノクロマトグラフィー装置は、標識物質保持部材(2)より下流側に酸無水物を含有する部位を有する酸無水物含有部材(7)を有する。
酸無水物含有部材(7)は、多孔質シートで構成することができる。多孔質シートとしては、例えば、セルロース濾紙、再生セルロース濾紙、ガラスファイバー濾紙、ポリウレタン、ポリアセテート、酢酸セルロース、ナイロン、および綿布等が挙げられる。酸無水物含有部材(7)の形状としては、シート状のものを使用することができる。
【0045】
図1に示す形態において、試料滴下部材(1)に試料を滴下すると、試料は、装置の下流方向に流れ、試料滴下部材(1)に含まれる亜硝酸化合物および標識物質保持部材(2)に含まれる標識物質とともに酸無水物含有部材(7)に向かって移動する。この酸無水物含有部材(7)において、亜硝酸化合物と酸無水物とが反応し、亜硝酸を生成し、試料から被検出物質を抽出すると同時に、標識物質によって被検出物質を標識化する。
この本発明の形態では、次のような効果を奏することができる。
【0046】
(1)亜硝酸化合物と酸無水物とが接触すると、酸無水物が加水分解し、即座に試料のpHを低下させることで亜硝酸を効率よく発生させることができる。これにより亜硝酸による被検出物質の抽出が迅速に行われ、検出感度が向上する。
(2)亜硝酸の生成による被検出物質の抽出と、抽出された被検出物質の標識化とを同時に進行させることができるため、被検出物質に結合しない標識物質のロスを減らすことができ、検出感度を向上させることができる。また、下記のように保存安定性を向上させることができるため、上記特許文献3に記載されたような特別な構造を持たせる必要が必ずしもなく、選択できる構造には多くの自由度がある。
(3)従来技術において使用されていた亜硝酸を発生させるための酸の中には、それ自体が揮発し、または分解によって生じた酸が揮発することで、試料と接するよりも前に亜硝酸が発生し、保存安定性に悪影響が生じていた。本発明では、下記で具体的に説明するような酸無水物を使用しているため、上記のような酸の揮発が抑制され、保存安定性を向上させることができる。
(4)イムノクロマトグラフィー装置は一般的に展開速度が速いほど検出感度が低くなるが、上記効果により検出感度が向上したため、各部材に展開速度を向上させる部材を選択することにより、従来と同等の検出感度を維持しつつ展開速度を向上(検出時間を短縮)させることができる。
【0047】
前記酸無水物の25℃の蒸気圧は、5×10-2Pa以下であり、2×10-2Pa以下が好ましく、5×10-3Pa以下がさらに好ましい。蒸気圧を上記のように設定することにより、装置からの酸無水物の昇華が抑制される結果、亜硝酸生成効率が高まり、被検出物質を高感度に検出できる。
なお、蒸気圧は公知のデータベースの値(計算値)を用いることができる。また、前記酸無水物は25℃、20Paで12時間減圧したときの重量増減が5%以内であるものが好ましい。
【0048】
また本発明に使用される酸無水物は、25℃の水に対する溶解度が、0.1mg/L以上であることが好ましく、1mg/L以上であることがさらに好ましく、10mg/L以上であることがとくに好ましい。
溶解度を上記のように設定することにより、酸無水物が検体含有液に速やかに溶解することができるため、亜硝酸の発生効率が高まり、被検出物質の検出感度をさらに向上させることができる。
なお、溶解度は、データベースの値(計算値)を用いることができる。
【0049】
本発明に使用される酸無水物は、一分子中に2以上の酸無水物基を有する化合物であることが好ましい。酸無水物の蒸気圧はその分子量が関係しており、分子量が大きいほど蒸気圧が低くなる傾向にある。しかし分子量が大きくなると、疎水性の炭素鎖等の影響により、酸無水物の水への溶解度が低下する傾向にある。一方、一分子中に2以上の酸無水物基を有する化合物は、単位重量あたりの酸無水物量が比較的大きく、高い親水性を有することになるため、良好な保存安定性を維持しつつ、かつ検出感度をより向上させることが可能となる。ただし、単位重量あたりの酸無水物量が大きすぎると、検体含有液のpHが低下し抗原抗体反応を阻害するという問題が生じるおそれがあるため、一分子中に含まれる酸無水物基は3以下であることが好ましい。もっとも好ましくは一分子中に2つの酸無水物基を有する化合物(酸二無水物)である。
【0050】
なお、本発明に使用される酸無水物は、溶解度が高く、被検出物質を感度良く検出するという観点から、ベンゼン環を2つ以上有する酸無水物を含まないものが好ましい。
【0051】
本発明に使用される酸無水物の具体例としては、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸無水物、テトラプロペニルこはく酸無水物、オクタデセニルこはく酸無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビフタル酸無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物、3-アセトアミドフタル酸無水物、4-(1-プロピニル)フタル酸無水物、2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、及び1,2-ナフタレンジカルボン酸無水物等が挙げられ、これらは1種または2種以上を組み合わせてもよい。特に、一分子中に2つの酸無水物基を有する化合物である、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物が好ましい。
【0052】
本発明における亜硝酸化合物は、酸と反応して亜硝酸を生成するものであって、検査に悪影響が及ばないものであれば特に制限されない。好ましくは、亜硝酸塩である。亜硝酸塩としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、及び亜硝酸マグネシウム等の無機亜硝酸塩、亜硝酸メチル、亜硝酸エチル、亜硝酸ブチル、及び亜硝酸アミル等の有機亜硝酸化合物が挙げられる。さらには、それらを混合して使用することも可能である。好ましくは、無機亜硝酸塩であって、なかでも、亜硝酸のアルカリ金属塩が好ましく、亜硝酸ナトリウムが最も好ましい。
【0053】
本発明のイムノクロマトグラフィー装置における亜硝酸化合物の含有量は、検出感度向上の観点から、好ましくは12.5μmol/装置~160μmol/装置であり、より好ましくは50μmol/装置~100μmol/装置である。また、亜硝酸化合物を含有させる部位の単位面積あたりの亜硝酸化合物の含有量は、好ましくは12.5μmol/cm2~160μmol/cm2であり、より好ましくは50μmol/cm2~100μmol/cm2である。このような含有量によれば、被検出物質の抽出効率が高まり、その結果、被検出物質の検出感度をさらに向上させることができる。
【0054】
また、本発明のイムノクロマトグラフィー装置における酸無水物の含有量は、検出感度向上の観点から、好ましくは0.4μmol/装置~8.4μmol/装置であり、より好ましくは0.6μmol/装置~4.0μmol/装置であり、とくに好ましくは0.8μmol/装置~2.0μmol/装置である。また、好ましくは0.4μmol/cm2~8.4μmol/cm2であり、より好ましくは0.6μmol/cm2~4.0μmol/cm2である。このような含有量によれば、被検出物質の抽出効率が高まり、その結果、被検出物質の検出感度をさらに向上させることができる。
【0055】
クロマトグラフ媒体部材(3)は、膜担体上に検出部(4)を作製したものである。膜担体としては、毛細管現象により試料を吸収し移動させることができるものであれば、特に限定されるものではない。
【0056】
クロマトグラフ媒体部材(3)は、例えば、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ナイロン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ガラス繊維、ポリオレフィン、セルロース、及びこれらの混合繊維からなる人工ポリマーからなる群から選択して使用することができる。クロマトグラフ媒体部材(3)の形状としては、シート状のものを使用することができる。
【0057】
検出部(4)には、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体若しくはそのフラグメント(第二試薬)が、ニトロセルロースのシート上に担持固定されている。
【0058】
吸収部材(5)には、過剰の試料を迅速に吸収する能力を有する材料であるガラス繊維、及びセルロース繊維等からなる濾紙が汎用されているが、さらに吸収した液体が逆流しないように保持する能力を有する材料を用いればより好ましい(特開2012-189346号公報)。吸収部材(5)の形状としては、シート状のものを使用することができる。
【0059】
また上述したように、上記以外の他の部材を本発明の装置の任意の位置に備えていてもよい。これらの部材としては、試料が迅速に吸収されるが、保持力は弱く、速やかに検体(検体試料)が移動していくような性質の多孔質シートで構成することができる。
【0060】
多孔質シートとしては、例えば、セルロース濾紙、再生セルロース濾紙、ガラスファイバー濾紙、ポリウレタン、ポリアセテート、酢酸セルロース、ナイロン、及び綿布等が挙げられる。これらの部材の形状としては、シート状のものを使用することができる。
【0061】
また、本発明のイムノクロマトグラフィー装置は、バッキングシート(6)を含有することができる。バッキングシート(6)は基材である。バッキングシート(6)の片面に粘着剤を塗布したり、粘着テープを貼り付けることにより片面が粘着性を有する。この粘着面上に、試料滴下部材(1)、標識物質保持部材(2)、酸無水物含有部材(7)、検出部(4)を有するクロマトグラフ媒体部材(3)、及び吸収部材(5)の一部または全部が密着して設けられている。
バッキングシート(6)は、粘着剤によって試料液に対して不透過性、非透湿性となるようなものであれば、基材としては特に限定されない。
【0062】
検出部(4)に用いる試薬成分(第二試薬)及び標識試薬に用いる試薬成分(第一試薬)は、その一方又は両方がモノクローナル抗体であってもよいし、ポリクローナル抗体であってもよい。好ましくは、検出部(4)に用いる試薬成分(第二試薬)がポリクローナル抗体であり、標識試薬に用いる試薬成分(第一試薬)がモノクローナル抗体である場合である。
【0063】
モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体若しくはそのフラグメントは、公知であり、入手可能であり、公知の方法により調製することができる。抗体産生動物種としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、及びウマ等である。免疫グロブリンとしては、IgG、IgM、IgA、IgE、及びIgDのいずれでもよい。
【0064】
なかでも、標識物質保持部材(2)に用いる試薬成分(第一試薬)及び検出部(4)に用いる試薬成分(第二試薬)の両方に、ウサギ由来の抗体を用いることが好ましい。
【0065】
<イムノクロマトキット>
本発明のイムノクロマトキットは、上記のイムノクロマトグラフィー装置と、検体を希釈するための検体希釈液とを含む。
【0066】
本発明のイムノクロマトキットにおいて検体希釈液は、展開液としても使用することができる。検体希釈液を展開液として用いる場合には、検体と検体希釈液(展開液)を予め混合した検体含有液を試料として、試料滴下部材に供給・滴下して展開させることもできる。または、先に検体を試料滴下部材に供給・滴下した後、検体希釈液(展開液)を試料滴下部材に供給・滴下して展開させてもよい。
【0067】
通常、展開液のpH条件は酸性である方が、亜硝酸化合物と酸無水物とが反応して生成される亜硝酸の生成効率が高く、抗原の抽出効率を高めることができる。一方、pH条件が酸性であると、イムノクロマトグラフィー装置や後述する検体希釈液中に存在する、例えば、カゼイン等のタンパク質、またはその塩や検体中に含まれる高粘性タンパク質などが析出してくる、または標識物質の凝集が起こり展開不良となるといった問題が生じる可能性がある。
【0068】
したがって、本発明における展開液のpH条件としては、亜硝酸が生成するpHであって、カゼイン等のタンパク質や検体中に含まれる高粘性タンパク質などが析出せず、かつ、標識物質の凝集が起こらないpHが好ましい。上記pH条件としては、pHが6.5~8.5、好ましくは6.6~8.0、最も好ましくは6.8~7.5である。上記pHであればタンパク質の析出や標識物質の凝集が起こりにくい。
【0069】
また、本発明のイムノクロマトキットにおいて、検体希釈液中やイムノクロマトグラフィー装置の各部位には、上述した試薬以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、各種試薬、例えば、非イオン性界面活性剤等の界面活性剤、塩、緩衝剤、その他各種添加剤等を含有させることができる。
【0070】
本発明のイムノクロマトキットに使用できる非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(商品名「Tween」シリーズ)、ポリオキシエチレンp-t-オクチルフェニルエーテル(商品名「Triton」シリーズ)、ポリオキシエチレンp-t-ノニルフェニルエーテル(商品名「TritonN」シリーズ)、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、及びアルキルモノグリセリルエーテル等を挙げることができる。また、悪影響を及ぼさない範囲内において非イオン性界面活性剤以外のイオン性界面活性剤などを配合して使用することも可能である。
【0071】
本発明の検体希釈液やイムノクロマトグラフィー装置に使用する非イオン性界面活性剤の含有量としては、1装置あたり好ましくは0.24mg~2.4mgの範囲であり、より好ましくは0.6mg~1.8mgの範囲で含有させることができる。
【0072】
1装置あたり0.24mg未満では展開が不安定となり正確な判定が行えない、または、非特異的反応を抑制できず正確な判定がやや難しくなる傾向を示す。1装置あたり2.4mgを超えると、必要以上の濃度となり、非特異的反応の抑制には好ましい影響を与えることがないばかりか、技術的に無意味になり、経済的でなく無駄となる。
【0073】
本発明の検体希釈液やイムノクロマトグラフィー装置に使用される塩としては、代表的なものとしては塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、及び塩化マグネシウム等が挙げられる。好ましくは塩化ナトリウムである。
【0074】
本発明の検体希釈液やイムノクロマトグラフィー装置に使用される塩の濃度としては、1装置あたり1mM~500mMの範囲が好ましく、5mM~200mMの範囲がより好ましく、10mM~50mMの範囲がさらに好ましい。濃度が1mMより低くなると、例えば0.1mM程度に少なくなるとタンパク質の抽出作用が不十分になる。500mM超では、例えば、1M、2Mと多くなれば、技術的に無意味な量であり、必要以上の濃度となり経済的でなく無駄となる。
【0075】
本発明の検体希釈液やイムノクロマトグラフィー装置に使用される塩としては、1種のみならず2種以上配合して使用することもできる。
【0076】
本発明の検体希釈液やイムノクロマトグラフィー装置に使用する緩衝剤としては、試料の添加や試料の蒸発や希釈による濃度の変化、外部からの多少の異物の混入によっても致命的な影響を生じない作用(緩衝作用)を持つものであれば特に制限はない。
【0077】
本発明において、緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝液(リン酸+リン酸ナトリウム)、酢酸緩衝液(酢酸+酢酸ナトリウム)、クエン酸緩衝液(クエン酸+クエン酸ナトリウム)、ホウ酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液(トリス(ヒドロキシルメチル)アミノメタン+塩酸)、TE緩衝液(トリス+エチレンジアミン四酢酸)、TAE緩衝液(トリス+酢酸+エチレンジアミン四酢酸)、TBE緩衝液(トリス+ホウ酸+エチレンジアミン四酢酸)又はHEPES緩衝液(2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルフォン酸)、及びBicine緩衝液(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン緩衝剤)等が挙げられる。
【0078】
好ましくは、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、及び酢酸緩衝液などであり、より好ましくは、トリス塩酸緩衝液である。本発明のイムノクロマト検出系においては、悪影響を及ぼさない範囲内であれば2種以上の緩衝剤を用いることも可能であって、何ら制限されない。
【0079】
本発明で使用する緩衝剤の濃度としては、1装置あたり10mM~500mMの範囲が好ましく、10mM~300mMの範囲がより好ましく、30mM~100mMの範囲がさらに好ましい。
【0080】
濃度が10mMより低くなると緩衝作用が不十分になり、タンパク質成分の析出抑制や標識粒子の凝集抑制も不十分となる。500mMを超えると、必要以上の濃度となり経済的でなく無駄となる。
また、緩衝液のpH範囲は7.1~9.8が最適である。
【0081】
本発明の検体希釈液やイムノクロマトグラフィー装置中には、生物学的親和性に基づく副反応を抑制したり、非特異的反応を抑制することが公知の添加剤、例えば、抗原抗体反応の促進あるいは非特異的反応を抑制するためのタンパク質(例えば、牛血清アルブミン、ゼラチン、及びカゼイン等)、高分子化合物(例えば、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及びデキストラン等)、イオン性界面活性剤又はポリアニオン(例えば、デキストラン硫酸、ヘパリン、ポリスチレンスルホン酸、及びコンドロイチン硫酸等)、あるいは抗菌剤等の1種もしくは2種以上を添加して使用することも可能かつ有効であって、何ら妨げるものではない。
【0082】
また、これらの抗原抗体反応の促進あるいは非特異的反応を抑制するためのタンパク質、高分子化合物、イオン性界面活性剤又はポリアニオン、あるいは、抗菌剤等の1種もしくは2種以上を、固定相を構成するクロマトグラフ媒体部材上の、移動相の移動経路上に保持させておくことも可能かつ有効であって、何ら妨げるものではない。
【0083】
本発明の検体希釈液やイムノクロマトグラフィー装置中に含有させる上記添加剤の濃度としては、1装置あたり0.01質量%~20質量%の範囲が好ましく、0.1質量%~10質量%の範囲がより好ましく、0.5質量%~5質量%の範囲がさらに好ましい。0.01質量%未満では、非特異的反応を抑制できず正確な判定が行えない。20質量%を超えると、必要以上の濃度となり経済的でなく無駄となる。
【0084】
検体希釈液は、通常、溶媒として水を用い、上記の非イオン性界面活性剤、塩、及び緩衝剤等の他に、例えば抗原抗体反応の促進または非特異的反応を抑制するためのタンパク質、高分子化合物(PVP等)、イオン性界面活性剤もしくはポリアニオン、または、抗菌剤、キレート剤等の1種もしくは2種以上を加えてもよい。
【0085】
加える順序は特に特定されず、同時に加えても差支えない。検出する検体と検体希釈液を予め混合した検体含有液を、試料滴下部材上に供給・滴下して展開させることもできるし、先に検体を試料滴下部材上に供給・滴下した後、検体希釈液を試料滴下部材上に供給・滴下して展開させてもよい。
【0086】
各種試薬をイムノクロマトグラフィー装置に含有させる場合、その方法としては、例えば、各種試薬を含有させる部位に塗布又は含浸させた後、乾燥させる方法により、当該部位に担持または保持させる態様とすることができる。
また、各部材の全体ではなく一部分にスポット的に各種試薬を含有させる場合は、例えば、部材をマスクした後にスプレーにより噴霧する方法などが挙げられる。
【0087】
本発明の典型的なキット構成における判定の原理を以下の1~5に説明する。
【0088】
1.検体を検体希釈液で希釈処理した検体含有液を試料として、イムノクロマトグラフィー装置の試料滴下部材(1)(試料滴下部位11)に、所定量(通常、0.1mL/措置~2.0mL/装置)滴下する。検体含有液が滴下されると、検体含有液は試料滴下部材(1)に迅速に吸収され、速やかに標識物質保持部材(2)へと移動を始める。
【0089】
2.標識物質保持部材(2)より試料展開方向の上流側のいずれかの位置に保持された亜硝酸化合物は、移動してきた検体含有液の水分に溶解し、検体と共に移動する。これと同時に、標識物質含有部位21に保持されていた標識試薬(第一試薬)が検体含有液の水分に溶解する。
【0090】
3.次いで、亜硝酸化合物および標識試薬(第一試薬)を含む検体含有液は、酸無水物含有部材(7)に保持された酸無水物と接触し、亜硝酸化合物と酸無水物とが反応して亜硝酸を生成する。この亜硝酸は検体中の検出対象に含まれる被検出物質を抽出する。これと同時に、標識試薬(第一試薬)が被検出物質(例えば多糖体等)を標識化し、検体と共に移動する。
【0091】
4.次いで、検体含有液の水分に溶解した標識試薬は、クロマトグラフ媒体部材(3)上の検出部(4)を通過する。ここでは、検体含有液中に被検出物質が存在する場合、当該被検出物質は、抗原・抗体の特異的結合反応により、検出部(4)に担持固定されている抗体(第二試薬)と標識試薬(第一試薬)とによってサンドイッチ状に挟まれるように検出部に固定され、検出部(4)が着色することで、検出対象を検出できる。検体中に被検出物質が存在しない場合には、検体含有液の水分に溶解した標識試薬(第一試薬)は、クロマトグラフ媒体部材(3)上の検出部(4)を通過しても特異的結合反応が起こらないので、検出部(4)が着色しない。
【0092】
5.最後に、検体含有液は、吸収部材(5)へと移動し吸収される。
【0093】
このようにして、検体中の被検出物質の有無を正確に判定することができる。
【0094】
<イムノクロマト検出方法>
本発明のイムノクロマト検出方法は以下の工程(i)~(ii)、好ましくはさらに工程(iii)を含み、上記のイムノクロマトキットを用いて検体中の検出対象を検出する。
(i)検体希釈液により検体を希釈して得られる検体含有液をイムノクロマトグラフィー装置に滴下し、前記検体含有液を、亜硝酸化合物および前記標識物質とともに前記酸無水物含有部材に向かって移動させ、亜硝酸化合物と酸無水物との反応により生成した亜硝酸により、前記検体から被検出物質を抽出すると同時に、前記標識物質によって前記被検出物質を標識化する工程
(ii)前記検体含有液がクロマトグラフ媒体部材上を移動して、検出部において前記被検出物質を検出する工程
(iii)前記検体含有液が、吸収部材により吸収される工程
各工程についての詳細は、判定の原理で上述した内容と同様である。
【実施例】
【0095】
以下、本発明の実施形態を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0096】
[実施例1]
<イムノクロマトキットの作製>
本実施例では、検体希釈液、及び、亜硝酸ナトリウムを含む試料滴下部材(1)と、標識物質保持部材(2)と、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物を含む酸無水物含有部材(7)と、検出部(4)を有するクロマトグラフ媒体部材(3)と、吸収部材(5)とをこの順に試料が展開されるように、各部材を有するイムノクロマトグラフィー装置を含むイムノクロマトキットを作製した。
【0097】
(1)クロマトグラフ媒体部材(3)上への検出部(4)の作製
メンブレンとしてニトロセルロースからなるシート(ミリポア社製、商品名:HF120、250mm×25mm)を用いた。5質量%のイソプロパノールを含む10mMのリン酸緩衝液(pH7.4)で1.0mg/mLの濃度になるようにウサギ由来抗溶連菌ポリクローナル抗体(第二試薬)(Meridian社製)を希釈し、その希釈された溶液150μLを抗体塗布機(BioDot社製)によりメンブレン上に1mmの幅で塗布し、50℃で30分間乾燥させ、室温で一晩乾燥させ、クロマトグラフ媒体部材(3)上に検出部(4)を作製した。
【0098】
(2)標識物質溶液の作製
金コロイド懸濁液(田中貴金属工業社製:平均粒子径40nm)0.9mLに、50mM リン酸緩衝液(pH7.5)で0.03mg/mLの濃度になるように希釈したウサギ由来抗溶連菌モノクローナル抗体(Virostat社製)0.1mLを加え、4℃で10分間静置した。
次いで、0.01質量%の片末端チオール化ポリエチレングリコール(日本油脂社製、分子量20,000)を含む、50mM リン酸緩衝液(pH7.5)を0.1mL加え、十分撹拌した後、15,000Gで5分間遠心分離を行い、上清を除去した後、1質量%の牛血清アルブミンを含む20mM トリス緩衝液(pH8.0)を0.1mL加え、標準物質溶液を作製した。
【0099】
(3)亜硝酸ナトリウムを含む試料滴下部材(1)の作製
20mm×100mmのグラスファイバーパッド(ミリポア社製)に、3Mの亜硝酸ナトリウム水溶液0.5mLを塗布し、減圧乾燥機にて室温で4時間乾燥させ、亜硝酸ナトリウムを含む試料滴下部材(1)を作製した。試料滴下部材(1)が含有する亜硝酸ナトリウムの量は1.5mmolである。また、75μmol/cm2である。
【0100】
(4)酸無水物含有部材(7)の作製
ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物(25℃の蒸気圧=2.3×10-3、25℃の水に対する溶解度=3.4×103mg/L)をジエチルホルムアミドに溶解させ、50mMとした。調製した溶液を20mm×100mmのグラスファイバーパッド(ミリポア社製)に含浸させ、24時間減圧乾燥させ、酸無水物含有部材(7)を作製した。酸無水物含有部材(7)が含有するビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物の量は20μmolである。また、1μmol/cm2である。
【0101】
(5)イムノクロマトグラフィー装置の作製
上記作製した標識物質溶液50μlに50μlの30質量%トレハロース水溶液と400μLの脱イオン水を加えたものを8mm×150mmのグラスファイバーパッド(ミリポア社製)に均一になるように塗布した後、減圧乾燥機にて室温で4時間乾燥させ、標識物質保持部材(2)を作製した。
【0102】
次に、バッキングシート(6)からなる基材に、試料滴下部材(1)、標識物質保持部材(2)、酸無水物含有部材(7)、検出部(4)を有するクロマトグラフ媒体部材(3)、吸収部材(5)を試料展開方向に沿って、この順で連結するように貼り合わせ、実施例1で用いる装置とした(
図1に示す順)。
続いて、裁断機で幅が5mmとなるように裁断し、イムノクロマトグラフィー装置とした。当該装置における試料滴下部材(1)が含有する亜硝酸ナトリウムの量は75μmolであり、75μmol/cm
2である。また、当該装置における酸無水物含有部材(7)が含有する酸無水物の量は1μmolであり、1μmol/cm
2である。
【0103】
(6)検体希釈液の作製
0.5質量%のTween20、0.6質量%ポリビニルピロリドン(平均分子量36万)、1質量%の牛血清アルブミンと150mM塩化ナトリウムを含む20mMのトリス緩衝溶液(pH8.0)からなる、検体を希釈しイムノクロマトグラフィー装置へ滴下し展開するための検体希釈液とした。
【0104】
<測定>
上記作製したイムノクロマトグラフィー装置及び検体希釈液を用い、不活化したA群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)を5×105org/mLとなるように加えたものを陽性検体試料とした。
該検体試料150μLを前記装置の試料滴下部位に滴下し展開させ、5分後、目視判定を行った。検出部(4)上の赤い線を目視確認できるものを「+」(陽性)、鮮明に目視確認できるものを「++」(強陽性)、赤い線をうっすら目視確認できるものを「±」(弱陽性)、赤い線を目視確認できないものを「-」(陰性)とした。結果を表1に示す。
また上記とは別に、上記作製したイムノクロマトグラフィー装置を50℃で24時間保管した後、上記測定及び目視判定を行った。結果を表1に示す。
なお、上記溶連菌を加えない検体希釈液を陰性検体試料として測定も行ったところ、すべての例において陰性が確認された。
【0105】
また、本実施例及び比較例で使用した酸について、25℃、20Paで昇華するか否かについて次の方法で確認した。まず、ガラスバイアルに各酸を1g秤量し、25℃、20Paで12時間減圧した後の重量を測定した。重量の増減が5%以内である場合を昇華しないとし、重量の増減が5%を超える場合昇華するとして評価を行った。結果を表1に示す。表1中、「〇」は昇華しない、「×」は昇華する、「―」は未計測であることを示す。
【0106】
なお、本実施例及び比較例で使用した酸について、25℃での蒸気圧及び25℃の水に対する溶解度は、データベースの値(計算値)を用いた。表1中「―」で示す箇所の値は未確認である。
【0107】
[実施例2]~[実施例8]および[比較例1]~[比較例9]
実施例1において、酸無水物の種類を表1に記載したものに変更したこと以外は、実施例1と同様にイムノクロマトキットを作製し、各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0108】
【0109】
[実施例9]
実施例1において、不活化したA群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)を2×10
6org/mLとなるように加えたものを陽性検体試料とした以外は実施例1と同様にしてイムノクロマトキットを作製し、5分後の発色強度をイムノクロマトリーダー(浜松ホトニクス(株)製)で測定した。その結果を表2及び
図3に示す。
【0110】
[比較例10]
実施例9において、バッキングシート(6)からなる基材に、試料滴下部材(1)、酸無水物含有部材(7)、標識物質保持部材(2)、検出部(4)を有するクロマトグラフ媒体部材(3)、吸収部材(5)を試料展開方向に沿って、この順で連結するように貼り合わせこと以外は、実施例9と同様にしてイムノクロマトキットを作製し、5分後の発色強度をイムノクロマトリーダー(浜松ホトニクス(株)製)で測定した。その結果を表2及び
図3に示す。
【0111】
[実施例10]
実施例2において、不活化したA群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)を2×10
6org/mLとなるように加えたものを陽性検体試料とした以外は実施例2と同様にしてイムノクロマトキットを作製し、5分後の発色強度をイムノクロマトリーダー(浜松ホトニクス(株)製)で測定した。その結果を表2及び
図3に示す。
【0112】
[比較例11]
実施例10において、バッキングシート(6)からなる基材に、試料滴下部材(1)、酸無水物含有部材(7)、標識物質保持部材(2)、検出部(4)を有するクロマトグラフ媒体部材(3)、吸収部材(5)を試料展開方向に沿って、この順で連結するように貼り合わせたこと以外は、実施例10と同様にしてイムノクロマトキットを作製し、5分後の発色強度をイムノクロマトリーダー(浜松ホトニクス(株)製)で測定した。その結果を表2及び
図3に示す。
【0113】
【0114】
前記結果から、実施例のイムノクロマトグラフィー装置は、従来のイムノクロマトグラフィー装置に使用されていた有機酸に替えて、特定の蒸気圧を有する酸無水物を使用するとともに、該装置の各部材を設置する順番を特定化しているので、比較例に比べて、保存安定性および検出感度が向上した。特に、一分子中に2以上の酸無水物基を有する酸無水物を含むパッドを使用した実施例1、2、7、8は、より良好な結果となった。
【符号の説明】
【0115】
1 試料滴下部材
11 試料滴下部位
12 亜硝酸化合物含有部位
2 標識物質保持部材
21 標識物質含有部位
3 クロマトグラフ媒体部材
4 検出部
5 吸収部材
6 バッキングシート
7 酸無水物含有部材
8 亜硝酸化合物含有部材