(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】優れた性能、安定性および製造性を有する無線周波数シリコン・オン・インシュレータ構造
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20230322BHJP
H01L 27/12 20060101ALI20230322BHJP
H01L 21/322 20060101ALI20230322BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
H01L27/12 B
H01L21/322 P
H01L21/20
H01L21/02 B
(21)【出願番号】P 2020573143
(86)(22)【出願日】2019-07-11
(86)【国際出願番号】 US2019041345
(87)【国際公開番号】W WO2020014441
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-07-08
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518112516
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GlobalWafers Co.,Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・ダブリュー・スタンドリー
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー・エル・リバート
(72)【発明者】
【氏名】ハリプラサド・スリードハラムルティ
(72)【発明者】
【氏名】ライフ・イェンセン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・アール・シークリスト
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/214084(WO,A1)
【文献】特開2017-069240(JP,A)
【文献】特表2017-538288(JP,A)
【文献】特表2017-538297(JP,A)
【文献】特表2018-507562(JP,A)
【文献】特表2018-523300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 21/322
H01L 21/20
H01L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層構造であって、
2つの略平行な主面と、周縁エッジと、中心面とを有して成る単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板であって、前記2つの略平行な主面の一方が、前記単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板の表側面であり、前記2つの略平行な主面の他方が、前記単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板の裏側面である前記単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板、
前記単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板の前記表側面と界面接触しているトラップ・リッチ層と、
前記トラップ・リッチ層と界面接触している誘電層と、
前記誘電層と界面接触している単結晶半導体デバイス層と、
を有して成り、
前記単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板において、前記周縁エッジは、前記単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板の前記表側面と前記裏側面とを繋いており、前記単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板の前記中心面が前記単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板の前記表側面と前記裏側面との間にあり、
前記単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板は、少なくとも約
7500Ω・cmのバルク抵抗率と、約1×10
16原子/cm
3未満の格子間酸素濃度と、少なくとも約1×10
13原子/cm
3の窒素濃度とを有
し、さらに
前記単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板は、1×10
12
原子/cm
3
未満の濃度でp型ドーパントを含んで成り、さらに、酸素サーマルダブルドナー、ニュードナー、過剰サーマルドナーまたはこれらの任意の組合せのドナーの濃度が、前記p型ドーパントの濃度より少なくとも一桁小さく、
前記トラップ・リッチ層は、約1000Ω・cmよりも大きな抵抗率を有し、
前記多層構造が、15dBmの無線入力にて-90dBmよりも良好な第2高調波ひずみのHD2値を示す、多層構造。
【請求項2】
前記単結晶
シリコン・ウエハ・ハンドル基板は、フロートゾーン法で成長させた単結晶シリコン・インゴットからスライスされたシリコン・ウエハを有して成る、請求項1に記載の多層構造。
【請求項3】
前記フロートゾーン法で成長させた単結晶シリコン・インゴットからスライスされたシリコン・ウエハは、少なくとも約150mmの径を有する、請求項2に記載の多層構造。
【請求項4】
前記フロートゾーン法で成長させた単結晶シリコン・インゴットからスライスされたシリコン・ウエハは、少なくとも約200mmの径を有する、請求項2に記載の多層構造。
【請求項5】
前記単結晶
シリコン・ウエハ・ハンドル基板は、少なくとも約10000Ω・cmのバルク抵抗率を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項6】
前記単結晶
シリコン・ウエハ・ハンドル基板は、少なくとも約15000Ω・cmのバルク抵抗率を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項7】
前記単結晶
シリコン・ウエハ・ハンドル基板は、少なくとも約20000Ω・cmのバルク抵抗率を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項8】
前記単結晶
シリコン・ウエハ・ハンドル基板は、約100000Ω・cm未満のバルク抵抗率を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項9】
前記単結晶
シリコン・ウエハ・ハンドル基板は、1×10
11ドナー/cm
3未満の過剰サーマルドナー濃度を有する、請求項1~
8のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項10】
前記単結晶
シリコン・ウエハ・ハンドル基板は、5×10
10ドナー/cm
3未満の過剰サーマルドナー濃度を有する、請求項1~
8のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項11】
前記単結晶
シリコン・ウエハ・ハンドル基板は、1×10
11原子/cm
3未満の濃度でp型ドーパンを含んで成り、
さらに、酸素サーマルダブルドナー、ニュードナーおよび過剰サーマルドナーまたはこれらの任意の組合せのドナーの濃度が、前記p型ドーパントの濃度より少なくとも一桁小さい、請求項1~
10のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項12】
前記単結晶
シリコン・ウエハ・ハンドル基板は、約1×10
15原子/cm
3未満の格子間酸素濃度を有する、請求項1~
11のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項13】
前記単結晶
シリコン・ウエハ・ハンドル基板は、少なくとも約1×10
14原子/cm
3の窒素濃度を有する、請求項1~
12のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項14】
前記単結晶
シリコン・ウエハ・ハンドル基板は、約3×10
15原子/cm
3未満の窒素濃度を有する、請求項1~
12のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項15】
前記単結晶
シリコン・ウエハ・ハンドル基板は、約1×10
15原子/cm
3未満の窒素濃度を有する、請求項1~
12のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項16】
前記単結晶
シリコン・ウエハ・ハンドル基板は、約7×10
14原子/cm
3未満の窒素濃度を有する、請求項1~
12のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項17】
前記単結晶
シリコン・ウエハ・ハンドル基板は、約5×10
14原子/cm
3と約2×10
15原子/cm
3との間の窒素濃度を有する、請求項1~
12のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項18】
前記トラップ・リッチ層は、1以上の多結晶半導体層を有して成り、該1以上の多結晶半導体層の各々が、シリコン、SiGe、SiCおよびGeから成る群から選択される材料を含んで成る、請求項1~
17のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項19】
前記トラップ・リッチ層は、1以上のアモルファス半導体層を有して成り、該1以上のアモルファス半導体層の各々が、シリコン、SiGe、SiCおよびGeから成る群から選択される材料を含んで成る、請求項1~
17のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項20】
前記トラップ・リッチ層は、約3000Ω・cmよりも大きな抵抗率を有する、請求項1~
19のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項21】
前記トラップ・リッチ層は、約2000Ω・cmと約10000Ω・cmとの間の抵抗率を有する、請求項1~
19のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項22】
前記トラップ・リッチ層は、約3000Ω・cmと約10000Ω・cmとの間の抵抗率を有する、請求項1~
19のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項23】
前記トラップ・リッチ層は、約3000Ω・cmと約5000Ω・cmとの間の抵抗率を有する、請求項1~
19のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項24】
前記トラップ・リッチ層は、約0.1マイクロメートルと約50マイクロメートルとの間の厚みを有する、請求項1~
23のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項25】
前記トラップ・リッチ層は、約0.1マイクロメートルと約20マイクロメートルとの間の厚みを有する、請求項1~
23のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項26】
前記トラップ・リッチ層は、約0.1マイクロメートルと約10マイクロメートルとの間の厚みを有する、請求項1~
23のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項27】
前記トラップ・リッチ層は、約0.5マイクロメートルと約5マイクロメートルとの間の厚みを有する、請求項1~
23のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項28】
前記誘電層が、二酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化ハフニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、酸化バリウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムおよびこれらの任意の組合せから成る群から選択される材料を含んで成る、請求項1~
27のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項29】
前記誘電層が、二酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化ハフニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、酸化バリウムおよびこれらの任意の組合せから成る群から選択される材料を含んで成る、請求項1~
27のいずれか1項に記載の多層構造。
【請求項30】
前記多層構造が、15dBmの無線入力にて-100dBmよりも良好な第2高調波ひずみのHD2値を示す、請求項1に記載の多層構造。
【請求項31】
前記多層構造が、15dBmの無線入力にて-110dBmよりも良好な第2高調波ひずみのHD2値を示す、請求項1に記載の多層構造。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2018年7月13日に出願された米国仮特許出願第62/697,474号の優先権の利益を主張する。当該米国仮特許出願の開示内容は、その全体が記載されている如く参照により本明細書中に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
(発明の分野)
本発明は、概して、半導体ウエハ製造の分野に関する。より具体的には、本発明は、半導体オン・インシュレータ(semiconductor-on-insulator)(例えば、シリコン・オン・インシュレータ(silicon-on-insulator))の構造を製造する方法に関しており、優れた無線周波数デバイス性能(radio frequency device performance)を有する半導体オン・インシュレータ構造に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
半導体ウエハは、単結晶インゴット(例えば、シリコンインゴット)から一般に調製されるところ、かかる単結晶インゴットは、後続する処理において半導体ウエハの適当な方向付けのためのフラットまたはノッチを1以上有するようにトリミングおよび研磨される。次いで、インゴットは個々のウエハへとスライスされる。本明細書ではシリコンから得られる半導体ウエハについて言及するものの、他の材料を用いても半導体ウエハの調製はされ得る。例えば、ゲルマニウム、シリコンカーバイド、シリコン・ゲルマニウム、ガリウムヒ素を用いたり、窒化ガリウムまたはリン化インジウムなどの第III族元素と第V族元素との合金、または、硫化カドミウムもしくは酸化亜鉛などの第II族元素と第VI族元素との合金を用いたりすることで半導体ウエハを調製できる。
【0004】
半導体ウエハ(例えば、シリコン・ウエハ)は、複合層構造の調製において利用され得る。例えば半導体オン・インシュレータは、より具体的には、シリコン・オン・インシュレータ(SOI)構造などの複合層構造は、ハンドル・ウエハまたはハンドル層、デバイス層、および、ハンドル層とデバイス層との間の絶縁性(即ち、誘電体)の膜(典型的には酸化物層)を一般的に有して成る。一般的に、デバイス層は0.01~20μm厚さ、例えば、0.05~20μm厚さを有している。厚膜のデバイス層(または厚いフィルム状のデバイス層)は、約1.5μm~約20μmのデバイス層厚さを有し得る。薄膜のデバイス層(または薄いフィルム状のデバイス層)は、約0.01μm~約0.20μmの厚さを有し得る。一般的に、シリコン・オン・インシュレータ(SOI)、シリコン・オン・サファイア(SOS)、シリコン・オン・クォーツなどの複合層構造は、2つのウエハを密接させ、それによって、ファンデルワールス力、水素結合またはその双方で結合を開始させ、引き続いて行われる熱処理により結合が強固にされる。アニールは、末端シラノール基を2つの界面間でシロキサン結合に変換させるので、結合が強くなる。
【0005】
熱アニール後、結合された構造は更なる処理に付されてドナー・ウエハのかなりの部分が除去されて層転写(layer transfer)が達成される。例えば、エッチングまたは研削などのウエハ薄化技術が用いられ得るところ、それはしばしば、ボンド・アンド・エッチSOI(即ち、BESOI:bond and etch SOI)またはボンド・アンド・グラインドSOI(即ち、BGSOI:bond and grind SOI)などと称される。このようなBESOIまたはBGSOIでは、シリコン・ウエハがハンドル・ウエハに結合され、次いで、ハンドル・ウエハ上にシリコンの薄層だけが残るまでゆっくりとエッチング除去がなされる。例えば米国特許第5,189,500号を参照されたい。米国特許第5,189,500号は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。なお、かかる方法は、時間とコストがかかり、複数の基板のうちの1つを無駄にし、数ミクロンよりも薄い層に対して適当な厚さ均一性が一般に供されない。
【0006】
層の転写を達成する別の一般的な方法は、水素注入とそれに続く熱誘発される層スプリッティング(thermally induced layer splitting)を利用する。粒子(原子またはイオン化原子、例えば水素原子または水素原子とヘリウム原子との組合せ)は、ドナー・ウエハの表側面下の特定の深さに埋め込まれる。注入された粒子は、その注入された特定の深さでドナー・ウエハ内に劈開面を形成する。ドナー・ウエハの表面を洗浄することによって、注入プロセス中にウエハ上に堆積した有機化合物または他のコンタミネーション(例えば、ホウ素化合物やその他の粒子状物質など)を除去する。
【0007】
次いで、ドナー・ウエハの表側面をハンドル・ウエハに結合し、親水性結合プロセスにより結合ウエハ(又は接合ウエハ)を形成する。結合に先立って、ドナー・ウエハおよび/またはハンドル・ウエハは、ウエハ表面は、例えば酸素または窒素を含むプラズマにさらすことにより活性化される。プラズマにさらされることで、表面活性化としばしば称されるプロセスで表面の構造が改質されるが、そのような活性化プロセスは、ドナー・ウエハおよびハンドル・ウエハの一方または双方の表面を親水性にする。かかるウエハの表面は、SC1クリーン(SC1 clean)などの湿式処理で付加的に化学的に活性化され得る。湿式処理およびプラズマ活性化はいずれの順序で行ってよく、あるいは、ウエハをいずれか一方の処理のみに付してもよい。次いで、ウエハは一体的に押圧され、ウエハ同士の間に結合が形成される。この結合は、ファンデルワール力ゆえ比較的弱く、さらなる処理に先立って強固にされる必要がある。
【0008】
幾つかのプロセスでは、ドナー・ウエハとハンドル・ウエハ(つまり、接合ウエハもしくは接合ウエハ)との間の親水性結合(または親水性の接合)は、結合ウエハのペアを加熱またはアニールすることにより強固にされる。幾つかのプロセスでは、ウエハの結合は、およそ300℃~500℃などの低温で生じ得る。より低い結合温度では、表面の吸着された水蒸気のブリッジング層(bridging layers)が減少し、各ウエハ表面のシラノール基の互いの水素結合の密度が増加する。幾つかのプロセスでは、およそ800℃~1100℃などの高い温度でウエハ結合が生じ得る。温度がより上げられた高温では、ドナー・ウエハとハンドル・ウエハとの隣接面間に共有結合の形成を引き起こし、例えば、シラノール水素結合を共有シロキサン結合へと変え、これにより、ドナー・ウエハとハンドル・ウエハとの間の結合が強固にされる。結合ウエハの加熱またはアニールと並行して、ドナー・ウエハにより早期に注入された粒子は劈開面を弱める。
【0009】
次いで、ドナー・ウエハの一部が、接合ウエハから劈開面に沿って分離(すなわち、劈開)され、SOIウエハが形成される。劈開は、結合ウエハを固定具(fixture)に置くことでなされ得る。かかる固定具では、結合ウエハの対向する側に対して垂直に機械的な力が加えられ、結合ウエハからドナー・ウエハの一部が引き離される(又は引き剥がされる)。幾つかの方法によれば、吸引カップを利用して機械的な力が加えられる。ドナー・ウエハの一部の分離は、劈開面に沿ったクラック伝播の開始のため、劈開面で結合ウエハのエッジに機械的な力を加えることによって開始される。次いで、吸引カップにより加えられた機械的な力は、結合ウエハからドナー・ウエハの一部を引っ張るので(又は引き剥がすので)、SOIウエハが形成される。
【0010】
他の方法では、結合された対は、代わりにある期間にわたって高温にさらされ、それによって、結合ウエハからドナー・ウエハの部分が分離されてよい。高温にさらすことで、劈開面に沿ってクラックが発生および伝播するので、ドナー・ウエハの一部が分離する。注入されたイオンからのボイド形成に起因してクラックが形成され、それはオストワルド熟成(Ostwald ripening)によって成長する。ボイドは水素とヘリウムで満たされる。ボイドはプレートレット(platelet)になる。プレートレットにおける加圧ガスは、マイクロキャビティとマイクロクラックを伝播するが、それは注入面(implant plane)においてシリコンを弱める。適切なタイミングでアニールを停止すると、弱くなった結合ウエハが機械的プロセスによって劈開され得る。しかしながら、熱処理をより長時間および/またはより高い温度で継続すると、微小クラックの伝播は、すべてのクラックが劈開面に沿って合流するレベルに達するので、ドナー・ウエハの一部が分離される。この方法は、転写層の均一性をより向上させ、ドナー・ウエハのリサイクルを可能にするものの、典型的には、注入および結合されたペアを500℃に近い温度にまで加熱することを要する。
【0011】
アンテナ・スイッチなどのRF関連デバイスに高抵抗率の半導体オン・インシュレータ(シリコン・オン・インシュレータなど)のウエハを使用すると、コストおよび集積(integration)の点で従来の基板よりも優れた利点が得られる。十分とはいえないものの、高周波用途に導電性基板を使用する場合で寄生電力損失の低減および固有の高調波ひずみの最小限への抑制は、抵抗率の高い基板ウエハの使用が必要である。したがって、RFデバイスのハンドル・ウエハの抵抗は、一般に約500Ω・cmよりも大きい。ここで
図1を参照するが、シリコン・オン・インシュレータ構造2は、非常に高い抵抗率のシリコン・ウエハ4、埋め込み酸化物(BOX)層6、およびシリコン・デバイス層10を有して成る。かかる基板は、フリーキャリア(電子または正孔)の生成を引き起こすBOX/ハンドル・インターフェースで高い導電性電荷の反転または蓄積の層12の形成をもたらし易く、それは、基板の実効抵抗率を低下させ、デバイスがRF周波数で動作される際に寄生電力損失およびデバイスの非線形性を生じる。このような反転/蓄積層は、BOX固定電荷、酸化物トラップ電荷、界面トラップ電荷、さらにはデバイス自体に適用されるDCバイアスに起因し得る。
【0012】
それゆえ、誘導される反転層または蓄積層の形成を抑制し、非常に近い表面領域(very near surface region)でも基板の高い抵抗率が維持される方法が求められる。高抵抗率ハンドル基板と埋込み酸化物(BOX)との間のトラップ・リッチ層(trap rich layer)は、SOIウエハを使用して製造されるRFデバイスの性能を向上させ得ることが知られている。これらの高界面トラップ層を形成する方法は提案されている。例えば、
図2に示されるように、RFデバイス用途のためのトラップ・リッチ層を備える半導体オン・インシュレータ多層構造20(例えば、シリコン・オン・インシュレータ、またはSOI)を作成する方法の1つは、アンドープの多結晶シリコン膜28を高抵抗率シリコン基板22上に堆積させ、その多結晶シリコン膜28上に酸化物(例えば埋込み酸化物層24)および最上部シリコン層26のスタックを形成することに基づいている。多結晶シリコン層28は、シリコン基板22と埋込み酸化物層24との間の高欠陥層(high defectivity layer)として機能する。
図2を参照のこと。
図2では、シリコン・オン・インシュレータ多層構造20において高抵抗率基板22と埋込み酸化物層24との間のトラップ・リッチ層28として用いられる多結晶シリコン膜が示されている。代替的な方法は、近接の表面ダメージ層(near surface damage layer)を作るための重イオン注入である。無線周波数デバイスなどのデバイスは、最上部シリコン層26に組み込まれる。
【0013】
学術研究では、酸化物と基板との間の多結晶シリコン層がデバイスの絶縁改善、伝送路損失低減および高調波ひずみの低減をもたらすことが示されている。例えば、H.S.Gamble他“Low-loss CPW lines on surface stabilized high resistivity silicon,” Microwave Guided Wave Lett., 9(10), pp.395-397, 1999、D.Lederer, R.LobetおよびJ.-P.Raskin,“Enhanced high resistivity SOI wafers for RF applications,” IEEE Intl. SOI Conf., pp.46-47, 2004、D.LedererおよびJ.-P.Raskin, “New substrate passivation method dedicated to high resistivity SOI wafer fabrication with increased substrate resistivity,” IEEE Electron Device Letters, vol.26, no.11, pp.805-807, 2005、D.Lederer, B.Aspar, C.LaghaeおよびJ.-P.Raskin,“Performance of RF passive structures and SOI MOSFETs transferred on a passivated HR SOI substrate,” IEEE International SOI Conference, pp.29-30, 2006、および、Daniel C. Kerr他“Identification of RF harmonic distortion on Si substrates and its reduction using a trap-rich layer”, Silicon Monolithic Integrated Circuits in RF Systems, 2008. SiRF 2008 (IEEE Topical Meeting), pp.151-154, 2008を参照されたい。
【発明の概要】
【0014】
発明の要旨
簡潔にいえば、本発明は、以下の多層構造(または多層構造体)を対象としている。
2つの略平行な主面と、周縁エッジ(または周囲エッジもしくは外縁、circumferential edge)と、中心面(または中央面もしくは中心平面、central plane)とを含んで成る単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板であって、当該2つの略平行な主面の一方が、単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板の表側面であり、当該2つの略平行な主面の他方が、単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板の裏側面である単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板(single crystal silicon wafer handle)と、単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板の表側面と界面接触しているトラップ・リッチ層(trap rich layer)と、トラップ・リッチ層と界面接触している誘電層(dielectric layer)と、誘電層と界面接触している単結晶半導体デバイス層(single crystal semiconductor device layer)と、を有して成り、
単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板において、周縁エッジは、単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板の表側面と裏側面とを繋いでおり(または結び合わせており, join)、単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板の中心面が単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板の表側面と裏側面との間にあり、
単結晶シリコン・ウエハ・ハンドル基板が、少なくとも約5000Ω・cmのバルク抵抗率と、約1×1016原子/cm3未満の格子間酸素濃度(interstitial oxygen concentration)と、少なくとも約1×1013原子/cm3の窒素濃度とを有する、多層構造。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、高抵抗率基板と埋込み酸化物層とを有して成るシリコン・オン・インシュレータ・ウエハを示している。
【
図2】
図2は、シリコン・オン・インシュレータ・ウエハを示しており、高抵抗率基板と埋込み酸化物層との間に多結晶シリコン・トラップ・リッチ層を有するSOIウエハを示している。
【
図3】
図3は、トラップ・リッチ層を用いるHR-SOI構造の基板抵抗率を関数とした高調波ひずみを示すグラフである。
【
図4】
図4は、トラップ・リッチ層を用いるSOI処理後のフロートゾーン成長のハンドル・ウエハおよびチョクラルスキー成長のハンドル・ウエハの抵抗率の深さプロファイルを示すグラフである。
【
図5】
図5は、トラップ・リッチ層を用いるSOI処理後のフロートゾーン成長のハンドル・ウエハのBOX/ハンドル界面下の最初の90ミクロンの平均抵抗率を示すグラフである。
【
図6】
図6は、ハンドル基板がフロートゾーン法またはチョクラルスキー法を用いて作成されるSOI多層構造のスリップ・ウィンドウの比較を示すグラフである。
【
図7】
図7は、アニール条件の変更下でハンドル基板がフロートゾーン法を用いて作成されるSOI多層構造の抵抗率を示すグラフである。
【
図8】
図8は、フロートゾーン法を用いてハンドル基板が作成されるSOI多層構造の高調波{こうちょうは}ひずみ(HD2)対ピンと、チョクラルスキー法を用いてハンドル基板が作成されるSOI多層構造の高調波{こうちょうは}ひずみ(HD2)対ピンとの比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発明の態様の詳細な説明)
本発明に従って、優れた無線周波数(RF)デバイス性能、デバイス安定性、およびデバイス製造特性を可能にする半導体オン・インシュレータ(例えば、シリコン・オン・インシュレータ)構造を製造するための方法および構造が提供される。本発明では、高抵抗率(例えば、非常に高い抵抗率または超高い抵抗率)のフロートゾーン(FZ)シリコンベース・ウエハ(ハンドル・ウエハ)、およびトラップ・リッチ層が半導体オン・インシュレータ(例えば、シリコン・オン・インシュレータ)構造へと統合(又は一体化)される。
【0017】
無線周波数(RF)チップの設計は、より高い基板抵抗率レベルから大きな恩恵を受ける。インダクタやコンデンサなどの受動要素の品質要因の改善、伝送路の減衰低減、集積デジタルとRFとアナログ要素との間の基板の電気的絶縁は、より高い抵抗率のシリコン基板で実現される。業界スタンダートは、ハンドル基板の抵抗率が1000Ω・cmを超えるものであり、さらに高い抵抗率が好まれる。高抵抗率基板を半導体オン・インシュレータ(例えば、シリコン・オン・インシュレータ)構造(HRSOI)に統合すると、デバイス絶縁の向上、基板ウエハへの導電性結合(conductive coupling)の減少、および接合容量(junction capacitance)の低下によって、RF機能がさらに向上する。
【0018】
超高抵抗率チョクラルスキー(CZ)結晶を7500Ω・cmを超える抵抗率値まで成長させることは、シビアな課題を伴う。添加される電気的に活性なドーパントの濃度は大幅に低下するため、CZクリスタルプーラー(CZ crystal puller)で使用する全ての原材料およびコンポーネントから導入されるドーパント(ホウ素およびリンなど)の制御については更に重点を置く必要がある。これらの材料およびコンポーネントとしては、ポリシリコン源材料および石英坩堝(quartz crucible)が挙げられる。さらに、溶融物中の非常に低いドーパント・レベルにより、許容可能な半径方向の抵抗率の変動を達成するのに溶融物と固体との界面の境界層へのドーパントの質量移動、そして、かかる境界層を通るドーパントの質量移動の制御が重要になる。より高い抵抗率のチョクラルスキー・シリコンインゴットの成長におけるもう1つの重要な課題は、結晶成長中に組み込まれる格子間酸素の挙動を制御することである。チョクラルスキー成長のシリコンの格子間酸素濃度(または侵入型酸素濃度)は、通常5×1017原子/cm3(10PPMA 新ASTM)よりも高く、例えば最大で約1×1018原子/cm3(20PPMA 新ASTM)などである。このような格子間酸素の供給源は、結晶成長中のSiO2坩堝の溶解である。高抵抗率CZシリコンでは、酸素を約5PPMA(2.5×1017原子/cm3)の範囲に制御でき、それよりも低い濃度、例えば約2PPMA(1×1017原子/cm3)、約3PPMA(1.5×1017原子/cm3)および約4PPMA(2×1017原子/cm3)などに制御できる。しかしながら、低濃度であっても、格子間酸素は、格子間酸素濃度および350~500℃のアニール時間/温度の双方に強く依存し、電気的に活性なサーマルドナーに凝集し得る。4つの酸素原子を超えるような凝集レベルでは、サーマルドナーは電気的に活性となり、ダブル・ドナーとして作用する。このようなドナーの形成は、約450℃で最大となり、その後減少し、約550℃を超えるアニール処理で解離することになり、電気的に不活性な状態に戻り得る。しかしながら、より長いアニール時間および550℃~850℃などのより高いアニール温度では、いわゆるニュー・サーマルドナーが形成され得る。ピークのニュー・サーマルドナー形成は、750℃~800℃の温度で生じる。我々は、高温熱処理を受ける高抵抗率シリコンで別のクラスの過剰ドナーを最近発見した。まだ現時点で特定されていない高速な拡散種は、非常に高いTアニールにてシリコン・ウエハに導入され、ウエハ冷却にて急冷される。その後450℃~650℃に加熱すると、これらの種はウエハ内の格子間酸素と急速に複合体(complex)を形成し、電気的に活性な「過剰ドナー」を形成する。かかる過剰なドナーは、約1050℃~1100℃よりも高く加熱されると解離する。酸素サーマルダブルドナー、ニュードナー、および過剰サーマルドナーは、電子の伝導に寄与し、それは“生じるドナー数”対“ウエハのバックグラウンド・キャリア濃度”に応じ、ウエハの抵抗率およびタイプを変える。p型シリコンにおいて、サーマルドナー濃度は、ウエハがn型へと変換されることになるp型キャリア濃度を超えるポイントまでサーマルドナーがウエハの抵抗率を増加させる。そして、さらにサーマルドナーが生じると、n型ウエハの抵抗率がますます低くなる。デバイス製造プロセス中またはプロセス終了時における抵抗率の変化は、抵抗率に敏感な製造プロセスを乱し、デバイス性能を低下させる可能性がある。サーマルドナーは、原理的には、高Tアニール(サーマルダブルドナーの場合は約550℃よりも高く、ニュードナーおよび過剰ドナーの場合は約1050℃~約1100℃)で消滅され得、実際にはこれらのドナーのほとんどが、金属化後、集積回路の製造フローの後半(「ラインのバックエンド、BEOL」)で起こる低温アニール工程(約450℃の温度で起り得る工程)により形成される。金属が一旦堆積すると、ウエハを約500℃を超えるTにまで加熱できないので、BEOLで形成されたサーマルドナー種のいずれも消滅させることはできない。350~500℃で形成されるサーマルドナーは、短時間の高温アニールにおいて除去され得るものの、過剰サーマルドナーの存在は、4000Ω・cmを超える抵抗率を有する高抵抗率シリコンで特に顕著になり、7500Ω・cmを超える抵抗率を有する材料ではそれが大きくなる。このような材料において、ドーパント濃度は1.8×1012/cm3(p型)またはNd<5×1011/cm3(n型)であり得る。比較のためであるが、過剰サーマルドナー濃度は、約1100~1125℃の温度でアニールされた材料では約1×1012/cm3であり、約1000℃でアニールされた材料では過剰サーマルドナー濃度が低く、1×1011/cm3と低くなる。匹敵するドーパント材料(例えば、ホウ素、ヒ素、リンなど)の濃度および過剰サーマルドナーの濃度を考えると、高抵抗率であると特定された材料は、抵抗率の変動(variability)の点で苦慮し得、さらにはp型からn型への明らかなシフトの点でも苦慮し得る。
【0019】
フロートゾーン(FZ)シリコンは、CZシリコンに対する超高純度な代替品である。 FZは、5000Ω・cmを超える抵抗率レベルで製造することができ、7500Ω・cmを超える、さらに10000Ω・cmを超える、さらには20000Ω・cmを超える抵抗率レベルでFZを製造できる。フロートゾーン・プロセスは、成長する単結晶への酸素導入を最小限にし、酸素サーマルダブルドナーの形成、ニューサーマルドナー形成、および過剰熱ドナー形成を有利に最小にできる。サーマルドナー形成において付随する減少は、インゴットおよびそれからスライスされるウエハの軸方向および半径方向の抵抗率の変動を最小限にする。これは双方とも、デバイスの性能および抵抗率の安定化を向上させることができる。
【0020】
HRSOIウエハは、埋込み酸化物層(BOX)と高抵抗率基板との間の界面であって、下にある高抵抗率基板内に10ミクロンよりも大きく延在し得る界面で寄生伝導(parasitic conduction)を受ける。これは、BOX内での通常の酸化物電荷と、基板の非常に低いドーピング濃度との組合せによって引き起こされる。
図1に示される寄生表面伝導の効果(文献ではPSCと称される)は、実効基板抵抗率を低くし、RF損失、基板の非線形性およびクロストークを増加させる。BOX24と高抵抗率基板22との間にトラップ・リッチ層28(
図2参照)を配置することは、BOX/基板の界面に引き付けられる自由キャリアを捕捉するトラップにより、寄生伝導層12(
図1参照)の形成を防ぎ、蓄積層または反転層の形成を抑制する。トラップ・リッチ層と、抵抗率が5000Ω・cmを超える、7500Ω・cmを超える、さらに10000Ω・cmを超える、さらには20000Ω・cmを超える、さらには30000Ω・cmを超える安定なフロートゾーン・シリコンハンドル・ウエハとを組み合わせると、-80dBmよりも良好な(better than)、-90dBmよりも良好な、-100dBmよりも良好な、又は-110dBmよりも良好な第2高調波ひずみまたはHD2値など優れたRF性能を達成することができる。トラップ・リッチ層を用いたHR-SOI構造での基板抵抗率を変数とした高調波ひずみを示す
図3を参照されたい。そこで示されているように、より高い抵抗率のウエハはより良好なHD2値を呈する。より具体的には、-100dBmよりも良好な、又は-110dBmよりも良好な第2高調波ひずみまたはHD2値は、20000Ω・cmを超える又は30000Ω・cmを超える抵抗率値を有するフロートゾーン・ハンドル基板を備えたSOI構造において達成できる。
【0021】
フロートゾーン・ハンドル・ウエハの使用は、幾つかの問題を解決することを意図している。つまり、1)FZは、5000Ω・cmを超える、7500Ω・cmを超える、さらに10000Ω・cmを超える、さらには20000Ω・cm、またはさらには30000Ω・cmを超える目標レベルの抵抗率へと製造可能な結晶成長の途を供し、これにより、トラップ・リッチ層と組み合わされる場合にRF性能の向上が可能となる。2)FZは、検出限界を下回る酸素含有量を有し、これにより、電気的に活性なサーマルドナーおよび過剰サーマルドナーの形成が減少されたり排除され得たりし、その結果、RFの電気的性能を低下させ得、デバイス製造ラインのウエハの処理を妨げ得る抵抗率シフトを防止する。フロートゾーン・シリコンは、高純度の多結晶ロッドの垂直ゾーン溶融/精製により成長させられる。シード結晶はロッドの一端に配置され、単結晶成長が開始される。かかるプロセスは、酸素を含む不純物の導入を大幅に減じる封じ込め容器(containment vessel)の使用を回避する。超高抵抗率シリコンでは、サーマルドナー形成などの酸素効果を排除することが不可欠である。窒素は、典型的には、FZの成長中に意図的に追加され、点欠陥形成を制御し、機械的強度を向上させる。超高抵抗率FZのドーピング・レベルおよびドーパント・タイプは、多結晶源ロッドの純度に依存する。
【0022】
(I)フロートゾーン・ハンドル・ウエハ
本発明によれば、フロートゾーン法によって成長させた単結晶シリコン・インゴットからスライスされるウエハは、高抵抗率ハンドル構造として、
図2に示される構造を有する半導体オン・インシュレータ(例えば、シリコン・オン・インシュレータ)多層構造体20へと統合(integrate)される。つまり、半導体オン・インシュレータ(例えば、シリコン・オン・インシュレータ)多層構造体20は、フロートゾーン高抵抗率ハンドル構造22(または高抵抗なフロートゾーン・ハンドル構造体(例えば、半導体ハンドル基板22))、トラップ・リッチ層28、誘電体層24、およびデバイス層26を有して成る。
【0023】
本発明で用いられる基板は、半導体ハンドル基板(例えば、単結晶半導体ハンドル・ウエハ)および半導体ドナー基板(例えば、単結晶半導体ドナー・ウエハ)を含む。半導体オン・インシュレータ多層構造体20における半導体デバイス層26は、単結晶半導体ドナー・ウエハに起因する。半導体デバイス層26は、半導体ドナー基板をエッチングするなどのウエハ薄化技術によって、またはダメージ面を含む半導体ドナー基板を劈開することによって、半導体ハンドル基板22上へと移されてよい。
【0024】
一般的に、単結晶半導体ハンドル・ウエハおよび単結晶半導体ドナー・ウエハは、2つの略平行な主面(または主たる面もしくは主要な面)を有して成る。略平行な主面の一方は、基板の表側面(またはフロント面もしくは前面)であり、略平行な主面の他方は、基板の裏側面(またはバック面もしくは背面)である。基板は、表側面と裏側面とをつなぐ周縁エッジ、表側面と裏側面との間のバルク領域、および、表側面と裏側面との間の中心面(または中央面)を有して成る。付加的に、基板は、中心面に垂直な仮想中心軸と、中心軸から周縁エッジまで延びる半径方向長さを付加的に有して成る。また、付加的に、シリコン・ウエハなどの半導体基板は、典型的には、総厚さ変動(TTV)、たわみ(warp)および反り(bow)を有し得るので、表側面のすべての点と裏側面のすべての点との中間点が正確に平面内に収まらない場合もあり得る。ただし、実際的な事項としては、TTV、たわみおよび反りは典型的には非常に僅かなものであり、中間点は、表側面と裏側面との間のほぼ等距離にある仮想の中心面内にあると近似できる。
【0025】
本明細書で説明される操作に先立って、基板の表側面と裏側面とは実質的に同一であってよい。単に便宜上、本発明の方法の操作が実行される表面を区別すべく、表面(サーフェース)を「表側面(front surface)」または「裏側面(back surface)」と称する。本発明の文脈において、単結晶半導体ハンドル基板(例えば、単結晶シリコンハンドル・ウエハ)の「表側面」は、結合構造の内側面となる基板の主面を指す。かかる表側面上にトラップ・リッチ層が形成される。したがって、単結晶半導体ハンドル基板(例えばハンドル・ウエハ)の「裏側面」は、結合構造の外側面となる主面を指す。同様に、単結晶半導体ドナー基板(例えば、単結晶シリコンドナー・ウエハ)の「表側面」は、結合構造の内側面となる単結晶半導体ドナー基板の主面を指す。単結晶半導体ドナー基板の表側面は、しばしば、最終構造において埋込み酸化物(BOX)層の一部または全てを構成する誘電体層、例えば二酸化シリコン層など有して成る。単結晶半導体ドナー基板(例えば単結晶シリコンドナー・ウエハ)の「裏側面」は、結合構造の外側面となる主面を指す。常套的な結合およびウエハ薄化のステップが完了すると、単結晶半導体ドナー基板は、半導体オン・インシュレータ(例えば、シリコン・オン・インシュレータ)複合構造体の半導体デバイス層を構成する。
【0026】
ハンドル・ウエハは、フロートゾーン法によって成長したインゴットに由来する材料、例えばシリコンを含んで成る。フロートゾーン法で成長させるインゴットからスライスされる単結晶シリコン・ハンドル・ウエハは、典型的には、少なくとも約20mm、少なくとも約50mm、少なくとも約100mm、少なくとも約150mm、少なくとも約200mmの公称径(例えば、約150mmまたは約200mmの径)を有している。成長プロセス中の表面張力の制限によって、共通的には、径(または直径)は250mm以下、または約200mm以下となる。ハンドル・ウエハの厚さは、約100マイクロメートル~約5000マイクロメートル、例えば約100マイクロメートル~約1500マイクロメートル、約250マイクロメートル~約1500マイクロメートル、約300マイクロメートル~約1000マイクロメートルなどの間で変わり得、好適には約500マイクロメートル~約1000マイクロメートルの範囲内で変わり得る。幾つかの具体的な態様では、ウエハ厚さは約725マイクロメートルであってよい。また、幾つかの態様では、ウエハ厚さは約775マイクロメートルであってもよい。
【0027】
幾つかの態様では、フロートゾーンの結晶インゴット、および、それからスライスされる単結晶半導体ハンドル基板はバルク抵抗率を有し、少なくとも約5000Ω・cm、少なくとも約7500Ω・cm、例えば、少なくとも約10000Ω・cm、少なくとも約15000Ω・cm、少なくとも約20000Ω・cm、少なくとも約25000Ω・cm、または少なくとも約30000Ω・cmなどのバルク抵抗率を有する。幾つかの態様では、単結晶半導体ハンドル基板は、約100000Ω・cm未満のバルク抵抗率を有する。抵抗率の高いウエハは、ホウ素(p型)、ガリウム(p型)、アルミニウム(p型)、インジウム(p型)、リン(n型)、アンチモン(n型)、およびヒ素(n型)などの電気的に活性なドーパントを含み得、一般的に非常に低い濃度(例えば、1×1012原子/cm3未満、さらには1×1011原子/cm3未満)でそのような電気的に活性なドーパントを含み得る。フロートゾーン単結晶シリコン・インゴットから高抵抗率ウエハを調製する方法自体は、当技術分野で知られており、そのような高抵抗率ウエハは、台湾のGlobalWafers社などの商業的供給業者から入手してもよい。
【0028】
フロートゾーン成長のインゴットに由来するシリコン・ハンドル・ウエハは、およそ2倍までの最小変動~最大変動の超高抵抗値をより確実にターゲットにできる。例えば、ウエハの抵抗率の2つのサイドの最小~最大仕様は、10000~20000Ω・cmまたはそれ以上として受け入れることができ、それは、かかる仕様が一般に1つのサイドとなって、7500Ω・cm以上等となるUHR Czウエハと異なる。目標値の周囲±30~50%の公差(tolerance)は許容され得る。これにより、エンド・ユーザーは、RF電気的性能レベルを改善できるだけでなく(例えば
図3に示すように改善できるだけでなく)、チョクラルスキー成長シリコンと比較した場合、予測可能性が高くなり、変動が少なくなる。かかる解決事由の基本的な理由としては、フロートゾーン成長シリコン・ハンドル・ウエハが検出限界を下回る酸素濃度を有し、サーマルドナー形成および超高抵抗率チョクラルスキー成長シリコンで変動を引き起こす過剰サーマルドナー形成を回避できるからである。幾つかの態様では、フロートゾーン成長シリコン・ハンドル・ウエハは、計測法(metrology)で例えば約2.5×10
16原子/cm
3未満(0.5PPMA、新ASTM規格)、約2×10
16原子/cm
3未満(0.4PPMA、新ASTM規格)、約1×10
16原子/cm
3未満(0.2PPMA、新ASTM規格)、または約1×10
15原子/cm
3未満(0.02PPMA、新ASTM規格)などの検出限界を下回る酸素レベルを有し、チョクラルスキー成長シリコン・ウエハ(検出可能な酸素濃度を有するウエハ)で形成される酸素サーマルドナーおよび過剰ドナーの存在を排除している。幾つかの態様では、シリコン・ハンドル・ウエハは、1×10
11ドナー/cm
3未満、または5×10
10ドナー/cm
3未満の過剰サーマルドナー濃度を有する。幾つかの態様では、酸素濃度が非常に低く、ダブルドナーサーマルドナー濃度、ニュー・サーマルドナー濃度、および/または過剰サーマルドナー濃度は検出可能な限界を下回り、第一近似は、そのようなドナーの濃度が少なくともp型アクセプターまたはn型ドナーの濃度より少なくとも1桁少ない。換言すれば、ダブルドナーサーマルドナー濃度、ニュー・サーマルドナー濃度および/もしくは過剰サーマルドナー濃度のいずれかの濃度、または、ダブルドナーサーマルドナー濃度、ニュー・サーマルドナー濃度および/もしくは過剰サーマルドナー濃度の総計は、p型アクセプターまたはn型ドナー濃度より少なくとも1桁低く、すなわち、p型ドーパントまたはn型ドーパントの濃度の1/10未満となっている。CZでは、サーマルドナーおよび過剰ドナーは、酸素濃度および熱サイクルの詳細に応じ、バックグラウンドのドーピング濃度以下であり得、あるいは、バックグラウンドのドーピング濃度よりも高いものもあり得る。CZ Siにおけるサーマルダブルドナー濃度は、450℃までの温度においてアニール時間と共に非常に大きな値にまで増加し続けることになる。濃度は、最終的にはOiに依存するある値で飽和することになる。~15nppmaの大きいOiに対しては、飽和濃度は~1×10
16/cm
3以上となり得る。飽和(最大)TDD濃度は、Oiの減少と共に減少する。それはHR Siで関連する実際のドーパント濃度よりはるかに大きいものであろう。FZウエハにおけるドナー濃度が低いと、RF性能の変動が減少し、ウエハ抵抗率(静電チャッキング)に敏感なデバイス製造プロセスに関して抵抗率変動の影響が減じられ、超高抵抗率/低酸素のチョクラルスキー成長シリコン・ウエハにおける別の変動原因であるニュー・サーマルドナー形成に対する感度が排除される。
【0029】
付加的には、チョクラルスキー成長シリコン・ハンドル・ウエハの拡がり抵抗プロファイル(SRP)は、例えば450℃アニール後などにおいてBOX/ハンドル界面下の最初の数十ミクロンに亘ってめったにフラットにならない。チョクラルスキー成長シリコン・ハンドル・ウエハのSRPは、TD形成および過剰ドナーによってしばしば影響を受け、
図4に示すようにプロファイルが大幅に変化する。しかしながら、フロートゾーン成長シリコン・ハンドル・ウエハのSRPは、非常にフラットで、450℃および600℃試験でサーマルドナーおよび過剰ドナーが完全に存在しないことを示す。
図4を参照のこと。
図4のグラフにおいて、菱形(◆)の線は、450℃のドナー生成アニール(DGA)のアニール前のフロートゾーン・ハンドル・ウエハの深さあたりの抵抗率を示しており、エックス(X)の線は、450℃のDGAアニール後のフロートゾーン・ハンドル・ウエハの深さあたりの抵抗率を示している。さらに、かかるグラフにおいて、四角(■)の線は、450℃のDGAアニール後のチョクラルスキー成長ハンドル・ウエハp型の深さあたりの抵抗率を示している。そして、このグラフにおいて、三角(▲)の線は、450℃のDGAアニール後のチョクラルスキー成長ハンドル・ウエハn型の深さあたりの抵抗率を示している。
図5も参照されたい。
図5は、トラップ・リッチ層を用いるSOI処理後のフロートゾーン成長ハンドル・ウエハ(5000Ω・cmより高い抵抗率で、10000Ω・cmより高い抵抗性を有するウエハ)のBOX/ハンドル界面下の最初の90ミクロンの平均抵抗率を示している。プロファイルは非常にフラットであり、450℃および600℃試験でサーマルドナーが完全に存在しないことを示している。
【0030】
フロートゾーン成長シリコン・ハンドル・ウエハは、検出可能な限界を下回る酸素を有していると、そのようなウエハは、熱プロセスでスリップ(slip)を有する傾向がより大きくなり得る。しかしながら、フロートゾーン結晶成長中に窒素を追加して、点欠陥の形成を制御し、スリップに抗する強度を追加してもよい。コア・ドーピング(core doping)、ピル・ドーピング(pill doping)、窒素またはアンモニアガスによるガスドーピングなどの特殊なドーピング技術を用いて、均一濃度の不純物を組み込んでもよい。幾つかの態様では、フロートゾーン成長シリコン・ハンドル・ウエハの窒素濃度は、少なくとも約1×1013原子/cm3、例えば少なくとも0.5×1014原子/cm3、少なくとも約1×1014原子/cm3などとなる。幾つかの態様では、フロートゾーン成長シリコン・ハンドル・ウエハの窒素濃度は、約3×1015原子/cm3未満、約1×1015原子/cm3未満、約7×1014原子/cm3未満、または約3×1014原子/cm3未満であってよい。幾つかの態様では、フロートゾーン成長シリコン・ハンドル・ウエハにおける窒素濃度は、少なくとも約0.5×1014原子/cm3であってよく、約3×1014原子/cm3未満であってよい。SOI製造ラインでの窒素ドープのフロートゾーンの成長シリコン・ハンドル・ウエハのデモンストレーションでは、チョクラルスキー成長シリコン・ハンドル・ウエハとほぼ同等の許容可能なスリップ性能を示した。
【0031】
これに関して、フロートゾーン成長シリコン・ハンドル・ウエハおよびチョクラルスキー成長シリコン・ハンドル・ウエハを800℃の酸化に付した後、1100℃で2時間のアニール・サイクルを行い、スリップ検査を行った。その結果、どちらのウエハ・タイプでもスリップは見られなかった。したがって、窒素ドープのフロートゾーン・ハンドル・ウエハは、トラップ・リッチ層の堆積およびその後のSOIウエハ製造に関連する熱サイクルにおいてスリップなく耐えることができる。別の炉プッシュ試験(furnace push test)では、炉を1000℃にまで加熱し、フロートゾーン成長シリコン・ハンドル・ウエハおよびチョクラルスキー成長シリコン・ハンドル・ウエハを急速に炉を通るようにプッシュした。かかるスリップ試験では、双方のウエハ・タイプが同様なふるまいを見せた。
【0032】
幾つかの態様では、単結晶半導体ハンドル基板の表側面、裏側面、または表側面と裏側面との双方は、酸化プロセスなどのプロセスに付され、半導体酸化物層、半導体窒化物層、または半導体酸窒化物層などの誘電体層を成長させることができる。幾つかの態様において、誘電体層は二酸化シリコン(または二酸化ケイ素)を含み、それはシリコンハンドル基板の表側面を酸化することで形成され得る。これは、熱酸化(堆積された半導体材料膜のある部分が消費されることになる熱酸化)および/またはCVD酸化物堆積および/または原子層堆積によって達成され得る。幾つかの態様では、半導体ハンドル基板は、ASM A400などの炉で熱酸化されてよい。酸化環境では、温度は750℃~1100℃の範囲となり得る。酸化環境の雰囲気は、ArまたはN2などの不活性ガスとO2との混合物であり得る。酸素含有量は、1~10%の範囲またはそれよりも高い範囲で変動し得る。幾つかの態様において、酸化環境の雰囲気は、最大で100%となる酸素であってよい(「ドライ酸化」)。幾つかの態様では、酸化環境の雰囲気は、酸素およびアンモニアであり、それは酸窒化シリコン(または酸窒化ケイ素)の堆積に好適である。幾つかの態様において、環境雰囲気は、ArまたはN2などの不活性ガスと、O2などの酸化ガスと、水蒸気との混合物を含んでいてよい(「ウェット酸化」)。幾つかの態様では、環境雰囲気は、ArまたはN2などの不活性ガスと、O2などの酸化ガスと、水蒸気(「ウェット酸化」)と、アンモニアなどの窒化ガスとの混合物を含んでいてよい。幾つかの態様では、環境雰囲気は、ArまたはN2などの不活性ガスとアンモニアなどの窒化ガスとの混合物を含んで成っていてよく、それは、窒化シリコン(または窒化ケイ素)の堆積に好適である。例示的な態様として、半導体ハンドル・ウエハは、A400などの垂直型炉内に仕込んでよい。温度は、N2とO2との混合物を用いて酸化温度にまで上げられる。所望の温度において、水蒸気がガス流に導入される。所望の酸化物厚さが得られたら、水蒸気およびO2をオフにし、炉温度を下げて、ウエハを炉から取り出す。表側面、裏側面またはその双方における酸化層は、約100オングストローム~約100000オングストローム、約100オングストローム~約10000オングストローム、約100オングストローム~約1000オングストロームであってよく、例えば、約100オングストローム~約700オングストローム、約100オングストローム~約500オングストローム、または約100オングストローム~約250オングストロームであってよい。
【0033】
幾つかの態様において、酸化層(oxidation layer)は比較的薄く、約5オングストローム~約25オングストロームであり、例えば約10オングストローム~約15オングストロームである。SC1/SC2洗浄溶液などの標準洗浄溶液にさらすことによって、半導体ウエハの両面に薄い酸化物層を得ることができる。幾つかの態様において、SC1溶液は、5部の脱イオン水、1部のNH4OH水溶液(水酸化アンモニウム、29重量%のNH3)、および1部のH2O2水溶液(過酸化水素、30%)を含んで成る。幾つかの態様では、ハンドル基板は、SC2溶液などの酸化剤を含む水溶液にさらすことで酸化されてよい。幾つかの態様において、SC2溶液は、5部の脱イオン水、1部のHCl水溶液(塩酸、39重量%)、および1部のH2O2水溶液(過酸化水素、30%)を含んで成る。
【0034】
(II)トラップ・リッチ層
本発明の方法では、多結晶またはアモルファスの半導体材料を含んで成るトラップ・リッチ層が、単結晶半導体ハンドル・ウエハの露出された表側面に堆積される。半導体オン・インシュレータ・デバイスにおけるトラップ・リッチ層形成の使用に適した半導体材料は、製造されるデバイスで高欠陥層の形成が好適に可能である。かかる材料には、多結晶半導体材料およびアモルファス半導体材料が含まれる。多結晶またはアモルファスの材料は、シリコン(Si)、シリコン・ゲルマニウム(SiGe)、カーボンをドープしたシリコン(SiC)、およびゲルマニウム(Ge)を含む。多結晶シリコンは、ランダムな結晶方位を有する小さなシリコン結晶を含んで成る材料を表す。多結晶シリコン粒子は、サイズが約20ナノメートルと小さいものであってよい。本発明の方法では、堆積される多結晶シリコンの結晶粒子サイズが小さくなるほど、トラップ・リッチ層における欠陥率が高くなる。アモルファス・シリコンは、短いレンジおよび長いレンジのオーダー(short range and long range order)を欠く非結晶性のアロトロピック形態のシリコンを含む。約10ナノメートル以下の結晶性を有するシリコン粒子もまた本質的にアモルファスと見なされ得る。シリコン・ゲルマニウムは、シリコン(またはケイ素)とゲルマニウムとの任意のモル比のシリコン・ゲルマニウムの合金を含んで成る。炭素をドープしたシリコンは、シリコンおよび炭素の化合物を含み、シリコンと炭素とのモル比が異なっていてよい。多結晶シリコン・トラップ・リッチ層の抵抗率は、少なくとも100Ω・cm、少なくとも約500Ω・cm、少なくとも約1000Ω・cm、さらには、少なくとも約3000Ω・cmであり、例えば約100Ω・cm~約100000Ω・cm、または、約500Ω・cm~約100000Ω・cm、または、約1000Ω・cm~約100000Ω・cm、約500Ω・cm~約10000Ω・cm、または、約750Ω・cm~約10000Ω・cm、約1000Ω・cm~約10000Ω・cm、約2000Ω・cm~約10000Ω・cm、約3000Ω・cm~約10000Ω・cm、または、約3000Ω・cm~約8000Ω・cmである。
【0035】
単結晶半導体ハンドル・ウエハのオプション的に酸化される表側面への堆積のための材料は、当技術分野で知られている手段によって堆積させてよい。例えば、半導体材料は、有機金属化学蒸気堆積(MOCVD)、物理蒸気堆積(PVD)、化学蒸気堆積(CVD)、低圧化学蒸気堆積(LPCVD)、プラズマ増強化学蒸気堆積(PECVD)、または分子ビーム・エピタキシー(MBE)を用いて堆積させてよい。LPCVDまたはPECVDのためのシリコン前駆体には、とりわけ、メチルシラン、四水素化シリコン(シラン)、トリシラン、ジシラン、ペンタシラン、ネオペンタシラン、テトラシラン、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、四塩化シリコン(SiCl4)が挙げられる。例えば、多結晶シリコンは、約550℃~約690℃(例えば約580℃~約650℃など)の温度範囲でシラン(SiH4)を熱分解することによって、表面酸化層に堆積させてよい。チャンバー圧力は、約70~約400mTorrの範囲であってよい。アモルファス・シリコンは、一般的に約75℃~約300℃の範囲の温度でプラズマ増強化学蒸気堆積(PECVD)によって堆積させてよい。シリコン・ゲルマニウム、特にアモルファス・シリコンゲルマニウムは、イソブチルゲルマン、アルキルゲルマニウムトリクロリドおよびジメチルアミノゲルマニウムトリクロリドなどの有機ゲルマニウム化合物を含ませることによって化学蒸気堆積で約300℃までの温度で堆積させてよい。炭素をドープしたシリコンは、四塩化シリコンやメタンなどの前駆体を使用して、エピタキシャル反応器で熱プラズマ化学蒸気堆積で堆積させてよい。CVDまたはPECVDに適当な炭素前駆体には、とりわけ、メチルシラン、メタン、エタン、およびエチレンが挙げられる。LPCVD堆積に対して、メチルシランは炭素とシリコンとの双方を供するので、特に好ましい前駆体である。PECVD堆積に対して、好ましい前駆体としてはシランおよびメタンが挙げられる。幾つかの態様では、シリコン層は、原子ベースで約1%~約10%など、原子ベースで少なくとも約1%の炭素濃度を有して成っていてよい。
【0036】
幾つかの態様では、トラップ・リッチ層の半導体材料の堆積は、トラップ・リッチ材料の多層を調製するために、一時的に中断されてよく、少なくとも1回、好ましくは2回以上一時的に中断されてよい。半導体材料膜の中間表面(interim surface)は、不活性雰囲気、酸化雰囲気、窒化雰囲気、または不動態化雰囲気にさらしてよく、それによって、堆積した半導体材料を毒化または不動態化してよい。換言すれば、本発明の方法は、半導体材料が堆積され、堆積が中断され、半導体材料の層が毒化または不動態化され、半導体材料の次の層が堆積される、といったサイクル・プロセスによって、トラップ・リッチ半導体材料の多層を堆積させることを含んで成り得る。幾つかの態様では、1つの不動態化された半導体層を有して成る多層が形成されてよく、1つの付加的な半導体層が堆積され、トラップ・リッチ層が形成されてよい。幾つかの態様では、多層は、トラップ・リッチ層で2以上の不動態化半導体層および1つの付加的な半導体層を有して成る。このようにトラップ・リッチ層を堆積させることによって、例えば、半導体材料の1つ以上の不動態化層または2つ以上の不動態化層、例えば半導体材料の少なくとも3つの不動態化層、または半導体材料の少なくとも4つの不動態化層を有して成る多層がハンドル基板上に堆積され、例えば、4~約100の不動態化層または4~約60の不動態化層または4~約50の不動態化層または4~約25の不動態化層または6~約20の不動態化層を有して成る多層がハンドル基板上に堆積される。多数の半導体層は、部分的にスループット要求によって、および、現在約20ナノメートルである堆積され得る最小の現実の層厚さによって、制限され堆積され得る。半導体材料のこれらの層の各々は、半導体オン・インシュレータの製造の高温プロセス中において、多層の各層における結晶粒成長が、従来プロセスの如く全体的なトラップ・リッチ層の厚さによって制限されるというよりも、不動態化された多層の厚さによって制限されるように、毒化または不動態化される。幾つかの態様では、半導体層は、第1半導体層を、窒素、亜酸化窒素、アンモニア(NH3)、窒素プラズマ、およびそれらの任意の組合せなどの窒素含有ガスを含んで成る雰囲気にさらすことで不動態化させてよい。これに関して、半導体層が堆積される雰囲気は、窒素などの窒素含有ガスを含んでいてよく、堆積プロセスの終了およびそれに続いて行われるガスにさらす処理は、半導体層上に薄い不動態層を形成するのに十分であり得る。幾つかの態様では、それまでに堆積された半導体層の不動態化をもたらすために、チャンバーから堆積ガスの排出、窒素含有ガスを用いるチャンバーのパージを行ってよい。窒素にさらすことは、例えば、堆積した半導体層を窒化してよく、その結果、例えばわずか数オングストローム厚さの窒化シリコンの薄層の形成がもたらされる。代替的な不動態化法を用いてもよい。例えば、半導体層は、第1半導体層を、酸素、オゾン、水蒸気、またはそれらの任意の組合せなどの酸素含有ガスを含む雰囲気にさらすことで不動態化させてよい。このような態様に従って、半導体層上に形成され、その層の不動態化に十分な半導体酸化物の薄層が形成されてよい。例えば、シリコン酸化物の薄層が、多層における各層間に形成されてよい。酸化物層は、約1オングストローム~約20オングストロームの間、または約1オングストローム~約10オングストロームの間など、わずか数オングストロームの厚さを有していてよい。幾つかの態様では、窒素と酸素との双方を含んで成る空気は、不動態化ガスとして用いてよい。幾つかの態様では、半導体層は、水、過酸化物(例えば、過酸化水素溶液)、またはSC1溶液(NH3:H2O2:H2O)から成る群から選択される液体に対して第1半導体層をさらすことで不動態化させてよい。
【0037】
トラップ・リッチ層の全体の厚さは、約0.3マイクロメートル~約5マイクロメートル、例えば約0.3マイクロメートル~約3マイクロメートル、または約0.3マイクロメートル~約2マイクロメートル、または約2マイクロメートル~約3マイクロメートルであってよい。
【0038】
幾つかの態様では、トラップ・リッチ層の堆積に続いて、トラップ・リッチ層の表面に誘電体層が形成される。幾つかの態様では、単一の半導体ハンドル基板(例えば、単結晶シリコン・ハンドル基板)が酸化され、トラップ・リッチ層上に半導体酸化物(例えば、二酸化シリコン)膜を形成する。幾つかの態様では、トラップ・リッチ層(例えば、多結晶膜など)は、熱酸化(堆積した半導体材料膜のある部分が消費されることになる熱酸化)させてよく、または半導体酸化物(例えば二酸化シリコン)の膜をCVD酸化物堆積によって成長させてもよい。多結晶またはアモルファスのトラップ・リッチ層(例えば、多結晶またはアモルファスのシリコン・トラップ・リッチ層)と接触している酸化物層(例えば、二酸化シリコン層)は、約0.1マイクロメートル~約10マイクロメートルの厚さを有してよく、例えば約0.1マイクロメートル~約4マイクロメートルの厚さ、約0.1マイクロメートル~約2マイクロメートルの厚さ、または約0.1マイクロメートル~約1マイクロメートルの厚さを有していてよい。酸化プロセスは、単結晶半導体ハンドル・ウエハの裏側面をさらに酸化し、シリコンと二酸化シリコンとの異なる熱膨張係数に起因して潜在的に引き起こされるたわみおよび反りが有利に減じられる。
【0039】
(III)結合構造の準備
次いで、フロートゾーン法に従って調製された単結晶シリコン・ンドル・ウエハなどの単結晶半導体ハンドル・ウエハを、常套的な層転写法に従って調製された単結晶半導体ドナー・ウエハに対して結合させる。好適な態様では、単結晶半導体ドナー・ウエハは、シリコン(またはケイ素)、シリコンカーバイド、シリコン・ゲルマニウム、ガリウムヒ素、ガリウム窒化物、インジウムホスファイド、インジウムガリウムヒ素、ゲルマニウム、およびそれらの組合せから成る群から選択される材料を含んで成る。ドナー・ウエハは、フロートゾーン法またはチョクラルスキー法で調製されたインゴットからスライスされてよい。ウエハ厚さは、約100マイクロメートル~約5000マイクロメートルの間で変わり得るものであり、例えば約100マイクロメートル~約1500マイクロメートルの間、約250マイクロメートル~約1500マイクロメートルの間で変わり得、約300マイクロメートル~約1000マイクロメートルの間など好適には約500マイクロメートル~約1000マイクロメートルの間で変わり得る。幾つかの具体的な態様では、ウエハ厚さは約725マイクロメートルであってよい。幾つかの態様では、ウエハ厚さは約775マイクロメートルであってよい。最終的な集積回路デバイスの所望特性に応じて、単結晶半導体(例えば、シリコン)ドナー・ウエハは、ホウ素(p型)、ガリウム(p型)、アルミニウム(p型)、インジウム(p型)、リン(n型)、アンチモン(n型)、ヒ素(n型)などの電気的に活性なドーパントを含んで成っていてよい。単結晶半導体(例えばシリコン)のドナー・ウエハの抵抗率は、1~100Ω・cm、1~50Ω・cm、5~25Ω・cmの範囲であってよい。単結晶半導体ドナー・ウエハは、酸化、注入、および注入後の洗浄(またはクリーニング)を含む標準的なプロセス工程に付してよい。したがって、エッチングおよび研磨され、そしてオプションとして酸化される単結晶半導体ドナー・ウエハは、イオン注入に付され、ドナー基板にダメージ層を形成する。
【0040】
幾つかの態様では、単結晶半導体ドナー・ウエハは誘電体層を有して成る。誘電体層は、単結晶半導体ドナー・ウエハの表側面に形成される1つまたはそれよりも多い絶縁層を有して成っていてよい。絶縁層は、二酸化シリコン、窒化シリコン、および酸窒化シリコンから成る群から選択される材料を含んで成っていてよい。幾つかの態様では、絶縁層は、Al2O3、AlN、またはそれらの組合せから成る群から選択される材料を含んで成っていてよい。幾つかの態様では、他の構成も本発明の範囲内であるものの、誘電体層は、絶縁材料の複数の層(またはマルチプルな層)を有して成る。各絶縁層は、二酸化シリコン、窒化シリコン、および酸窒化シリコンから成る群から選択される材料を含んでいてよい。幾つかの態様では、誘電体層は、絶縁材料の3つの層を有して成り、二酸化シリコン、窒化シリコン、および二酸化シリコンをこの順で有して成る。各絶縁層の厚さは、少なくとも約10ナノメートルの厚さであってよく、例えば、約10ナノメートル~約10000ナノメートル、約10ナノメートル~約5000ナノメートル、50ナノメートル~約400ナノメートル、または約100ナノメートル~約400ナノメートルなどであってよく、例えば、約50ナノメートル、100ナノメートル、または200ナノメートルなどであってよい。
【0041】
イオン注入は、市販の機器によって行ってよく、例えば、アプライドマテリアルズ(Applied Materials)のクアンタムII(Quantum II)、クアンタムH(Quantum H)、クアンタムLEAP(Quantum LEAP)またはクアンタムX(Quantum X)で行ってよい。注入されるイオンには、He、H、H2またはそれらの組合せが挙げられる。イオン注入は、半導体ドナー基板にダメージ層を形成するのに十分な密度および持続時間で実行される。注入密度は、約1012イオン/cm2~約1017イオン/cm2であってよく、例えば約1014イオン/cm2~約1017イオン/cm2、または約1015イオン/cm2~約1017イオン/cm2、または約1016イオン/cm2~約1017イオン/cm2であってよい。注入エネルギーは、約10keV~約3000keVなど、約1keV~約3000keVの範囲であってよい。注入エネルギーは、約1keV~約3000keVであってよく、例えば約5keV~約1000keV、約5keV~約200keV、または約5keV~約100keV、約5keV~約80keVであってよい。注入深さは、SOIプロセスにおいてハンドルに移される単結晶半導体デバイス層の厚さを決定付ける。イオンは、約100オングストローム~約30000オングストロームの深さにまで注入されてよく、例えば、約200オングストローム~約20000オングストロームの深さ、約2000オングストローム~約15000オングストロームの深さ、約15000オングストローム~約30000オングストロームの深さにまで注入されてよい。幾つかの態様では、注入後、単結晶半導体ドナー・ウエハ(例えば単結晶シリコンドナー・ウエハ)を洗浄に付すことが望ましい場合がある。幾つかの好適な態様では、洗浄として、ピラニア洗浄(Piranha clean)とそれに続くDI水リンスおよびSC1/SC2洗浄を挙げることができる。
【0042】
本発明の幾つかの態様では、He+、H+、H2
+やそれらの任意の組合せのイオン注入によって形成されたイオン注入領域を有する単結晶半導体ドナー・ウエハは、単結晶半導体ドナー基板で熱活性化された劈開面を形成するのに十分な温度でアニールされる。適切なツールの例としては、Blue Mモデルなどの単純なボックス炉(Box furnace)が挙げられ得る。幾つかの好適な態様では、イオン注入された単結晶半導体ドナー基板は、約200℃~約350℃、約225℃~約325℃、好ましくは約300℃の温度でアニールされる。熱アニーリングは、約2時間~約10時間(例えば約2時間~約8時間など)の期間にわたって行われ得る。これらの温度範囲の熱アニーリングは、熱的に活性化される劈開面の形成に十分である。劈開面を活性化するための熱アニールの後、単結晶半導体ドナー基板面は、オプションとして洗浄される。
【0043】
幾つかの態様では、イオン注入され、オプションとして洗浄およびオプションとしてアニールされた単結晶半導体ドナー・ウエハは、酸素プラズマおよび/または窒素プラズマの表面活性化にさらされる。幾つかの態様では、酸素プラズマ表面活性化ツールは、市販のツールであり、例えば、EVG(登録商標)810LTの低温プラズマ活性化システム(Low Temp Plasma Activation System)などEVグループから入手可能なツールである。イオンが注入され、オプションとして洗浄された単結晶半導体ドナー・ウエハは、チャンバー内に仕込まれる。チャンバー内を排気し、大気圧未満の圧力にまでチャンバーをO2により充填し直し、それによってプラズマの生成を行う。単結晶半導体ドナー・ウエハは、かかるプラズマに所望の時間(約1秒~約120秒となり得る所望の時間)さらされる。単結晶半導体ドナー基板の表側面を親水性にし、上述の方法に従って調製された単結晶半導体ハンドル基板に結合しやすくするために酸素プラズマ表面酸化が行われる。
【0044】
次いで、単結晶半導体ドナー・ウエハの親水性表側面と単結晶半導体ハンドル・ウエハの表側面とを密接に接触させて、結合構造を形成する。本発明の方法では、単結晶半導体ドナー・ウエハの表側面および単結晶半導体ハンドル・ウエハの表側面の各々は、1つまたはそれよりも多い絶縁層を有して成るものであってよい。絶縁層は、結合構造の誘電体層を構成する。
【0045】
機械的結合は比較的弱い場合があるので、単結晶半導体ドナー・ウエハと単結晶半導体ハンドル・ウエハとの間の結合を固めるために、結合構造をさらにアニールしてよい。本発明の幾つかの態様では、結合構造が、単結晶半導体ドナー基板で熱的に活性化された劈開面を形成するのに十分な温度でアニールされる。適切なツールの例としては、Blue Mモデルなどの単純なボックス炉であり得る。幾つかの態様では、結合構造は、約200℃~約400℃、約300℃~約400℃、例えば約350℃~約400℃の温度でアニールされる。
【0046】
幾つかの態様では、アニールは、約0.5MPa~約200MPaなどの比較的高い圧力で行われ、例えば、約0.5MPa~約100MPa、約0.5MPa~約50MPa、または、約0.5MPa~約10MPa、または、約0.5MPa~約5MPaで行われ得る。常套的な結合方法では、温度は熱劈開によって制限され易い。これは、注入面におけるプレートレット圧力が外部の等方圧(external isostatic pressure)を超える場合にもたらされる。したがって、常套的なアニールは、熱開裂のため、約350℃~約400℃の結合温度に制限され得る。注入および結合の後、ウエハ同士は一体的に弱く保持される。しかしながら、ウエハ間のギャップは、ガスの侵入または漏れを防ぐのに十分である。弱い結合は熱処理によって強化できるものの、注入中に形成されたキャビティはガスで満たされる。加熱の間、キャビティ内のガスの加圧がなされる。圧力は、注入量に依存して0.2~1GPaに達し得ると見積もられる(Cherkashin等、J.Appl.Phys.118、245301(2015年))。圧力が臨界値を超えると、層が剥離する。これは、サーマル・クリーブ(thermal cleave)と呼ばれる。これはアニールにおいてより高い温度またはより長い時間となることを防ぐ。本発明の幾つかの態様では、結合は、例えば約0.5MPa~約200MPaの高い圧力で生じ、例えば約0.5MPa~約100MPa、または、約0.5MPa~約50MPa、または、約0.5MPa~約10MPa、約0.5MPa~約5MPaなどの高い圧力で生じ、それによって、高い温度での結合を可能にする。幾つかの態様では、結合構造は、約300℃~約700℃、約400℃~約600℃の温度でアニールされ、例えば約400℃~約450℃、約450℃~約600℃または約350℃~約450℃の温度でアニールされる。サーマル・バジェット(thermal budget)を増やすと、結合強度にプラスの効果を与えることになる。熱アニールは、約0.5時間~約10時間、例えば約0.5時間~約3時間、好ましくは約2時間となる時間で行われ得る。このような温度範囲内の熱アニールは、熱的に活性化された劈開面の形成に十分である。常套的な結合アニールでは、ロール・オフ(roll off)によりハンドル・ウエハとドナー・ウエハとの双方のエッジが大きく離れ得る。かかる領域では層転写はない。それはテラス(terrace)と呼ばれる。加圧された結合は、このテラスを減じ、SOI層をエッジに向かってさらに延びることが予想される。このメカニズムは、トラップされた空気ポケットが圧縮され、外側に「ジッパー」することに基づいている。劈開面を活性化する熱アニールの後、結合構造が劈開されてよい。
【0047】
熱アニール後、単結晶半導体ドナー・ウエハと単結晶半導体ハンドル・ウエハとの間の結合は、劈開面で結合構造の劈開を通じた層転写の開始に十分に強い。劈開は、当該技術分野で知られている技術に従って行われてよい。幾つかの態様では、結合構造は、片側が固定吸引カップ(stationary suction cup)に取り付けられ、反対側がヒンジ付きアームに追加の吸引カップにより取り付けられる常套的な劈開ステーションに配置されてよい。吸引カップ・アタッチメントの近くでクラックの開始が生じ、可動アームがヒンジを中心に回転してウエハを劈開する。劈開は、半導体ドナー・ウエハの一部を除去し、それにより、半導体オン・インシュレータ複合構造20上に単結晶半導体デバイス層26(好ましくはシリコン・デバイス層)を残す。
図2を参照のこと。
【0048】
劈開後、その劈開された構造は、移されたデバイス層26と単結晶半導体ハンドル・ウエハ22との間の結合をさらに強化すべく、高温アニールに付されてよい。適切なツールの例は、ASM A400などの垂直型炉(vertical furnace)であってよい。幾つか好適な態様では、結合構造は、約1000℃~約1200℃、好ましくは約1000℃の温度でアニールされる。熱アニールは、約0.5時間~約8時間、好ましくは約4時間の期間行われてよい。これらの温度範囲にある熱アニールは、移されたデバイス層と単結晶半導体ハンドル基板との間の結合を強化するのに十分である。
【0049】
劈開および高温アニールの後、結合構造は、表面から薄い熱酸化物を除去して粒粒物を洗浄するように設計された洗浄プロセスに付されてよい。幾つかの態様では、単結晶半導体デバイス層は、キャリアガスとしてH2を用いる水平流シングル・ウエハ・エピタキシャル反応器において気相HClエッチ・プロセスに付され、所望の厚さおよび滑らかさを有するようにされてよい。幾つかの態様では、半導体デバイス層26は、約20ナノメートル~約3マイクロメートルの厚さを有していてよく、例えば、約20ナノメートル~約2マイクロメートル、例えば、約20ナノメートル~約1.5マイクルメートル、または約1.5マイクロメートル~約3マイクロメートルの厚さを有していてよい。
【0050】
幾つかの態様では、エピタキシャル層が、移された単結晶半導体デバイス層26上に堆積されてよい。堆積されたエピタキシャル層は、下にある単結晶半導体デバイス層26と実質的に同じ電気的特性を有して成っていてよい。別法にて、エピタキシャル層は、下にある単結晶半導体デバイス層26と異なる電気的特性を有して成っていてもよい。エピタキシャル層は、シリコン、シリコンカーバイド、シリコン・ゲルマニウム、ガリウムヒ素、ガリウム窒化物、インジウムホスファイド、インジウムガリウムヒ素、ゲルマニウム、およびそれらの組合せから成る群から選択される材料を含んで成っていてよい。最終的な集積回路デバイスの所望特性に応じて、エピタキシャル層は、ホウ素(p型)、ガリウム(p型)、アルミニウム(p型)、インジウム(p型)、リン(n型)、アンチモン(n型)、およびヒ素(n型)などの電気的に活性なドーパントを含んで成っていてよい。エピタキシャル層の抵抗率は、1~1050Ω・cm、1~50Ω・cmであってよく、典型的には5~25Ω・cmであってよい。幾つかの態様では、エピタキシャル層は、約20ナノメートル~約3マイクロメートルの厚さを有していてよく、例えば約20ナノメートル~約2マイクロメートル、約20ナノメートル~約1.5マイクロメートル、または約1.5マイクロメートル~約3マイクロメートルの厚さを有していてよい。
【0051】
完成したSOI多層構造は、単結晶半導体ハンドル・ウエハ22、トラップ・リッチ層28、誘電体層24、および半導体デバイス層26を有して成っていてよく、次いで、ライン計測検査の最後に付され、典型的なSC1-SC2プロセスを用いて最終的な時点で洗浄に付されてよい。このように、本発明は、トラップ・リッチ層、および、窒素ドープの高抵抗率(20kΩ・cmよりも大きい抵抗率)のフロートゾーン材料で作成されたハンドル基板を有して成るSOI多層構造を対象としている。フロートゾーン・ウエハは、典型的なBEOLアニールに亘って標準的なチョクラルスキー・ハンドル・ウエハよりも良好な抵抗率安定性を呈したものとなる。FZプロセスを用いて達成できるより高い抵抗率は、伝統的なCZシリコン材料では容易に達成できないような基板RF損失、クロストークおよび高調波ひずみのステップ変化状の改善を可能にする。我々のCPW構造での-110dBmのHD2を有するFZのCTLSOI基板の第1のデモンストレーションを我々は報告する。
【0052】
本発明は、更に以下の実施例によって説明される(なお、かかる実施例は発明を制限するものではない)。
【0053】
実施例1. フロートゾーン・ウエハ
かかる試験では、商業的に成長させた200mmの高抵抗率の窒素ドープのフロートゾーン結晶から得られるウエハを用いた。ウエハの抵抗率は、20kΩ・cmよりも大きいものであった。ウエハ内の酸素濃度は、1×1016原子/cm3未満であった。ウエハの機械的強度のために異なるレベルの窒素を有するウエハが評価されたところ、窒素濃度は0.5×1014/cm3~3×1014/cm3の範囲であった。次いで、FZウエハにはその上にトラップ・リッチ層を堆積させた。次いで、ウエハは、高容量製造(HVM)プロセス・フロー下でSOIウエハへと処理された。SOIウエハ製造フローの最後では、ウエハはKLAテンコールSP1を用いた表面検査、平坦性、ADE9700を用いた形状測定、スリップ検査を含む標準的な品質検査に付した。
【0054】
実施例2.スリップ・ストレス試験
低い窒素濃度およびより高い窒素濃度を有するフロートゾーン法で調製したハンドル基板を有するように製造されたSOIウエハは、ウエハに対して半径方向の熱勾配を変えて急速熱プロセス(RTP)熱サイクルを模すことによって、高められた熱ストレス試験に付した。かかる熱ストレス試験の目的は、ウエハに意図的にスリップを誘発するためであり、FZハンドル基板を有するSOI構造とチョクラルスキー(CZ)法によって調製したハンドル基板を有するSOIウエハとの機械的強度のロバスト性を試験した。格子間酸素Oiを~3.5PPMA(新ASTM)有するCZウエハ上に調製したSOI構造は、制御ウエハとして含ませた。FZハンドル基板を有するUHR SOI構造は、引き続いて行われるデバイス製造プロセス・フローで安全処理に適切と考えられる誘発された熱勾配がスリップ・フリーの“ウインドウ”(slip free “window”)を示したが、より高い酸素のCZウエハに対するものほど全く広いウインドウではなかった。
図6を参照されたい。
図6は、フロートゾーン法またはチョクラルスキー法を用いてハンドル基板が作成されるSOI多層構造のスリップ・ウインドウを比べている。かかるウエハで試験された窒素範囲内では、より高いN濃度で僅かな向上が見られる。
【0055】
実施例3.抵抗率の安定性
拡がり抵抗プロファイル(SRP)測定はラインの最後に行い、ウエハの抵抗率安定性を調べた。酸素を含むチョクラルスキー(CZ)法で調製したハンドル基板を有するSOIウエハの抵抗率は、350℃~500℃の範囲の温度でサーマル・ダブル・ドナーを成し、発生割合がおよそ450℃で強くピークとなる。これは、かかる温度範囲にしばしば収まるBEOL金属アニールプロセスの間でハンドル・ウエハでの抵抗率の低下につながり得る。FZハンドル基板を有するSOI構造は、酸素を事実上有していないので、このような抵抗率変化には影響を受けない。
図7を参照されたい。
図7は、予想された如く、FZハンドル基板を有するSOI構造の抵抗率が450℃の1時間のアニール前後で同じに維持されることを示している。付加的な事項として、FZハンドル基板は窒素ドープのものであるので、仮に酸素と窒素が存在しているならCZシリコンで予測されるであろうN-O関連ドナーが形成されていないことを確認するために600℃の1時間のアニールが行われた。
【0056】
実施例4.高調波ひずみ
FZハンドル基板を有する幾つかのSOI構造に対して無線周波数(RF)試験を行った。SOIウエハの最上部シリコン層を除去し(湿式化学エッチングを通じて除去し)、同一平面状の導波路構造をBOX層上に直接的に作成した。第2高調波ひずみ(HD2)および第3高調波ひずみ(HD3)が35dBmまでの入力(input power)に対して測定した。結果の半径方向の均一性を決定するために、デバイスはウエハの直径にわたって試験された。そして、結果については、チョクラルスキー法で調製されたハンドル基板を有するSOIウエハ上の同様に作製された平面状の導波路構造と比較した。
【0057】
図8は、チョクラルスキー法で調製されたハンドル基板を有する我々の第1世代および第2世代SOIウエハのHD2性能を示している。かかるウエハについてピン(Pin)=15dBmでのHD2性能は、それぞれ-80dBmおよび-90dBmである。一方、FZハンドル基板を有するSOI構造のHD2は、ピン=15dBmで-110dBmの値へと20dBmの劇的な改善を示している。性能の差は、典型的なCZウエハとZウエハとの間の抵抗率の差によって引き起こされる。HD2は、ウエハの多数のサイトで測定されたが、HD2の強い半径方向変動はみられなかった。FZハンドル基板を有するSOI構造は、チョクラルスキー法で調製されたハンドル基板を有するSOIウエハよりも一貫してより良い性能を呈すものであった。
【0058】
本開示またはその態様の要素について言及される場合、「ある(a)」、「ある(an)」、「その(the)」、および「上記(said)」などの冠詞は、1またはそれよりも多い要素を意味することを意図している。「有して成る/含んで成る(comprising)」、「含む(including)」、および「有する(having)」の用語は、包含的なものであることを意味しており、挙げられた要素以外の追加要素も存在し得ることを意味している。
【0059】
本開示の範囲から逸脱することなく、上述した事項について種々の変更を行うことができるので、上記説明に含まれ図面に示される全ての事項は、例示的なものとして解され、限定的な意味で解されないことを意図している。