(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】窒化物蛍光体及び発光装置
(51)【国際特許分類】
C09K 11/64 20060101AFI20230323BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20230323BHJP
【FI】
C09K11/64
H01L33/50
(21)【出願番号】P 2019121831
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村▲崎▼ 嘉典
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-078285(JP,A)
【文献】特開2012-251122(JP,A)
【文献】特開2013-214718(JP,A)
【文献】特開2012-077291(JP,A)
【文献】特開2006-063286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される組成を含み、250nm以上570nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を吸収して、発光ピーク波長が610nmより大きく630nm以下の範囲にある、窒化物蛍光体。
(
M
a
1-x
M
b
x
)
3
M
c
y
M
d
z
N
2+y+4/3z
(I)
(式(I)中、M
a
は、Srを必須とし、Ba、Ca及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいてもよいアルカリ土類金属元素であり、M
b
は、Eu、Ce、Tb、Pr、Sm、Yb及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の賦活元素であり、M
c
は、第13族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M
d
は、第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、x、y及びzは、0<x≦0.2、0.7≦y≦5.5、4.0≦z≦7.0を満たす数である。)
【請求項2】
下記式(II)で表される組成を含み、250nm以上570nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を吸収して、発光ピーク波長が610nmより大きく630nm以下の範囲にある、窒化物蛍光体。
(M
a
1-x
M
b
x
)
3
M
c
y
M
d
z
O
w
N
2+y+4/3z-2/3w
(II)
(式(II)中、M
a
は、Srを必須とし、Ba、Ca及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいてもよいアルカリ土類金属元素であり、M
b
は、Eu、Ce、Tb、Pr、Sm、Yb及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の賦活元素であり、M
c
は、第13族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M
d
は、第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、w、x、y及びzは、0<w≦0.3、0<x≦0.2、0.7≦y≦5.5、4.0≦z≦7.0を満たす数である。)
【請求項3】
Ba、Ca及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含み、組成中のアルカリ土類金属元素の合計のモル比を1としたときに、Ba、Ca及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素のモル比が0.5未満である、請求項1
又は2に記載の窒化物蛍光体。
【請求項4】
前記賦活元素のモル比が、0より大きく0.2以下の範囲の数と3の積である請求項1
から3のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体。
【請求項5】
第13族元素がAlである、請求項1か
ら4のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体。
【請求項6】
第14族元素がSiである、請求項1か
ら5のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体。
【請求項7】
前記賦活元素が、Eu、Ce、Tb、Pr、Sm、Yb及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の元素である、請求項1か
ら6のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体。
【請求項8】
CuKα線を用いたX線回折測定により得られるXRDスペクトルにおいて、ブラッグ角度(2θ)における、以下の第1角度範囲から第5角度範囲のそれぞれの位置にピークを有する、請求項1か
ら7のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体。
第1角度範囲:27.4°以上28.5°以下の範囲内(27.4°≦2θ≦28.5°)
第2角度範囲:30.5°以上31.5°以下の範囲内(30.5°≦2θ≦31.5°)
第3角度範囲:32.1°以上32.5°以下の範囲内(32.1°≦2θ≦32.5°)
第4角度範囲:34.5°以上35.5°以下の範囲内(34.5°≦2θ≦35.5°)
第5角度範囲:36.1°以上36.5°以下の範囲内(36.1°≦2θ≦36.5°)
【請求項9】
CuKα線を用いたX線回折測定装置により得られるXRDスペクトルにおいて、ブラッグ角度(2θ)における、第2角度範囲の30.5°以上31.5°以下の範囲内に存在するピークが3つのピークトップを有し、第4角度範囲の34.5°以上35.5°以下の範囲内に存在するピークが2つのピークトップを有し、第5角度範囲の36.1°以上36.5°以下の範囲内に存在するピークが2つのピークトップを有する、請求
項8に記載の窒化物蛍光体。
【請求項10】
発光スペクトルにおける半値幅が95nm以上120nm以下である、請求項1から9のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体。
【請求項11】
請求項1か
ら10のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体と、励起光源とを含む発光装置。
【請求項12】
前記励起光源が、発光ダイオード又はレーザーダイオードである、請求
項11に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物蛍光体及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(Light Emitting Diode、以下「LED」ともいう。)やレーザーダイオード(Laser Diode、以下「LD」ともいう。)等の励起光源と、蛍光体を組み合わせて、光の混色の原理によって白色、電球色等に発光する発光装置が種々開発されている。これらの発光装置は、照明用、車載用、液晶表示装置のバックライト用などの幅広い分野で利用されている。
【0003】
このような発光装置には、多種多様の蛍光体が用いられている。例えば、緑色系を発光する蛍光体としては、(Sr,Ba)2SiO4:Eu、La3Si6N11:Ceで表される組成を有する蛍光体やβサイアロン蛍光体が用いられている。特許文献1には、赤色系を発光する蛍光体の例として、Euを賦活剤として添加したEu0.05Sr1.95Si5N8及びEu0.05Sr1.95Si4.8Al0.2N7.93で表される組成を有する赤色系を発光する蛍光体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発光装置に用いられる蛍光体は、照明装置に用いるLEDやLDの用途において、照明装置による物体の色の見え方(以下、「演色性」ともいう。)に優れた光を発することができる蛍光体が求められている。発光装置の演色性を向上させるためには、蛍光体は、蛍光体から発せられる光の発光スペクトルにおいて、広い波長領域の発光スペクトルを有することが望ましい。
そこで本発明の一態様は、母体結晶に、少なくとも1種のアルカリ土類金属元素と、少なくとも1種の第13族元素と、少なくとも1種の第14族元素とを含み、発光スペクトルにおいて、従来の窒化物蛍光体と比べて半値幅の広い発光スペクトルを有する光を発する窒化物蛍光体及び発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段は、以下の態様を包含する。
【0007】
本発明の第一の態様は、Srを必須として、Ba、Ca及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいてもよいアルカリ土類金属元素と、第13族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素と、第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素と、第7族元素及びランタノイド元素からなる群から選択される少なくとも1種の賦活元素と、窒素と、を組成に含み、前記組成中の前記アルカリ土類金属元素及び前記賦活元素の合計のモル比を3としたときに、前記第13族元素のモル比が0.7以上5.5以下の範囲内の数であり、前記第14族元素のモル比が3.5より大きく7.0以下の範囲内の数である、窒化物蛍光体である。
【0008】
本発明の第二の態様は、前記窒化物蛍光体と、励起光源とを含む発光装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、母体結晶に、少なくとも1種のアルカリ土類金属元素と、少なくとも1種の第13族元素と、少なくとも1種の第14族元素とを含み、発光スペクトルにおいて、従来の窒化物蛍光体と比べて半値幅が広い発光スペクトルを有する光を発する蛍光体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、発光装置の一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1に係る窒化物蛍光体の発光スペクトルと、比較例1及び2に係る窒化物蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
【
図3】
図3は、Sr
2N、Si
3N
4、AlN、実施例1から4の窒化物蛍光体、及び、比較例1の窒化物蛍光体の各XRDスペクトルを示す図である。
【
図4】
図4は、Sr
2N、Si
3N
4、AlN、実施例1から4の窒化物蛍光体、及び、比較例1の窒化物蛍光体の各XRDスペクトルと、第1角度範囲から第5角度範囲の領域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る窒化物蛍光体及び発光装置を説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は、以下の窒化物蛍光体及び発光装置に限定されない。なお、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。なお、本明細書において、蛍光体の組成を表す式中、カンマ(,)で区切られて記載されている複数の元素は、これらの複数の元素のうち少なくとも1種の元素を組成中に含有し、2種以上を組み合わせて含んでいてもよいことを表す。また、本明細書において、蛍光体の組成を表す式中、コロン(:)の前は母体結晶を構成する元素及びそのモル比を表し、コロン(:)の後は賦活元素を表す。本明細書において、「モル比」とは、化合物又は蛍光体の化学組成1モル中の各元素の比を表す。
【0012】
また、後述するとおり、本明細書中の蛍光体の組成は誘導結合プラズマ発光(ICP)分析装置を用いてICP発光分析法により求めたものである。本明細書中では、得られた蛍光体中のSrを含むアルカリ土類金属元素と賦活元素との合計のモル数を基準としたときの、各元素の相対モル比を便宜上組成として示すものであり、組成における各元素のモル比の数値に限定されるものではない。
【0013】
(窒化物蛍光体)
本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体は、Srを必須として、Ba、Ca及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいてもよいアルカリ土類金属元素と、第13族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素と、第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素と、第7族元素及びランタノイド元素からなる群から選択される少なくとも1種の賦活元素と、窒素と、を組成に含み、前記組成中の前記アルカリ土類金属元素及び前記賦活元素の合計のモル比を3としたときに、前記第13族元素のモル比が0.7以上5.5以下の範囲内の数であり、前記第14族元素のモル比が3.5より大きく7.0以下の範囲の数である。なお、以下単に「窒化物蛍光体」と呼ぶ場合は本実施形態に係る窒化物蛍光体を指すものとする。
【0014】
窒化物蛍光体は、Srを必須として含むことによって、安定した母体結晶を得ることができる。窒化物蛍光体は、Srを必須として、Ba、Ca及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいてもよい。窒化物蛍光体に含まれる組成中で、アルカリ土類金属元素Maと表す場合がある。また、窒化物蛍光体に含まれる組成中で、賦活元素Mbと表す場合がある。本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体又は後述する式(I)若しくは式(II)で表される組成を含む窒化物蛍光体が、Srと共に、Ba、Ca及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む場合には、組成中のアルカリ土類金属元素Maの合計のモル比を1としたときに、Ba、Ca及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素のモル比が0.5未満であることが好ましい。組成中のSrのモル比が大きくなることで、発光強度の高い窒化物蛍光体を得ることができる。窒化物蛍光体中で、Srと共に、Ba、Ca及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む場合は、所望の色度に発光する窒化物蛍光体を得ることができる。また、窒化物蛍光体の、組成中のアルカリ土類金属元素の合計のモル比を1としたときに、Ba、Ca及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素のモル比が0.5未満であると、安定した結晶構造を維持することができる。
【0015】
窒化物蛍光体は、第13族元素として、B、Al、Ga、In及びTlからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む。窒化物蛍光体に含まれる組成中で、第13族元素Mcと表す場合がある。本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体又は後述する式(I)若しくは式(II)で表される組成を含む窒化物蛍光体は、第13族元素Mcを含み、第13族元素Mcは、好ましくはB、Al、Ga及びInからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。第13族元素Mcは、より好ましくはB、Al及びGaからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。第13族元素Mcは、さらに好ましくはB及びAlからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。第13族元素Mcは、特に好ましくはAlである。窒化物蛍光体に含まれる13族元素がAlであると、安定した結晶構造を有する窒化物蛍光体が得られる。例えば(Sr,Mg,Ca,Ba)2Si5N8:Euで表される組成を有する窒化物蛍光体が知られているが、本発明の一実施形態の窒化物蛍光体は、第14族元素であるSiの他に、第13族元素を含み、(Sr,Mg,Ca,Ba)2Si5N8:Euで表される組成を有する窒化物蛍光体の結晶構造とは異なる結晶構造を有する。また、本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体は、(Sr,Mg,Ca,Ba)2Si5N8:Euで表される組成を有する窒化物蛍光体から発せられる光の発光ピーク波長とは異なる波長範囲に発光ピーク波長を有する。本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体は、所望の色度を得る際に使用し得る蛍光体の選択の幅を広げることができる。本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体の組成中及び式(I)又は式(II)で表される組成中、アルカリ土類金属元素Ma及び賦活元素Mbの合計のモル比を3としたときに、第13族元素Mcのモル比(変数y)は、0.7以上5.5以下の範囲内(0.7≦y≦5.5)の数である。窒化物蛍光体の組成中の第13族元素Mcのモル比は、好ましくは0.8以上5.4以下の範囲内(0.8≦y≦5.4)の数である。窒化物蛍光体の組成中の第13族元素Mcのモル比は、さらに好ましくは0.9以上5.4以下の範囲内(0.9≦y≦5.4)の数である。窒化物蛍光体の組成中の第13族元素Mcのモル比は、特に好ましくは1.0以上5.3以下の範囲内(1.0≦y≦5.3)の数である。窒化物蛍光体の組成中の第13族元素Mcのモル比(変数y)が、0.7以上5.5以下の範囲内(0.7≦y≦5.5)の数であると、従来知られている窒化物系蛍光体の結晶構造とは異なる結晶構造を有し、半値幅が広い発光スペクトルを有し、エネルギー効率が高い光を発する窒化物蛍光体が得られる。本明細書において、半値幅は、発光スペクトルにおける発光スペクトルの半値全幅(Full Width at Half Maximum:FWHM)をいう。半値幅は、発光スペクトルにおける発光ピークの最大値の50%の値を示す発光スペクトルの波長幅をいう。
【0016】
窒化物蛍光体は、第14族元素として、C、Si、Ge、Sn及びPbからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む。窒化物蛍光体に含まれる組成中で、第14族元素Mdと表す場合がある。本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体又は後述する式(I)若しくは式(II)で表される組成を含む窒化物蛍光体は、第14族元素Mdを含み、第14族元素Mdは、好ましくはC、Si、Ge及びSnからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。第14族元素Mdは、より好ましくはC、Si及びGeからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。第14族元素Mdは、さらに好ましくはSi及びGeから選択される少なくとも1種の元素である。第14族元素Mdは、特に好ましくはSiである。窒化物蛍光体の式(I)又は式(II)で表される組成中、アルカリ土類金属元素Ma及び賦活元素Mbの合計のモル比を3としたときに、第14族元素Mdのモル比(変数z)は、3.5より大きく7.0以下の範囲(3.5<z≦7.0)の数である。窒化物蛍光体の組成中の第14族元素Mdのモル比は、好ましくは3.6以上6.5以下の範囲内(3.6≦z≦6.5)の数である。窒化物蛍光体の組成中の第14族元素Mdのモル比は、より好ましくは4.0以上6.2以下の範囲内(4.0≦z≦6.2)の数である。窒化物蛍光体の組成中の第14族元素Mdのモル比は、特に好ましくは4.5以上6.0以下の範囲内(4.5≦z≦6.0)の数である。窒化物蛍光体の組成中の第14族元素Mdのモル比が、3.5より大きく7.0以下の範囲の数であれば、第14族元素と共に、第13族元素Mcを含み、従来知られている結晶構造とは異なる結晶構造においても、安定した結晶構造の窒化物蛍光体が得られる。
【0017】
窒化物蛍光体は、賦活元素Mbとして、第7族及びランタノイド元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む。本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体又は後述する式(I)若しくは式(II)で表される組成を含む窒化物蛍光体に含まれる賦活元素Mbは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、好ましくはEu、Ce、Tb、Pr、Sm、Yb及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。賦活元素Mbは、より好ましくはEu、Ce、Tb、Pr、Yb及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。賦活元素Mbは、さらに好ましくはEu、Ce、Yb及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。賦活元素Mbは、特に好ましくはEuである。本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体の組成中及び式(I)又は式(II)で表される組成中、のアルカリ土類金属元素Ma及び賦活元素Mbの合計のモル比を3としたときに、賦活元素Mbのモル比(3×(変数x))は0より大きく0.2以下の範囲(0<x≦0.2)の数と3の積である。窒化物蛍光体の組成中の賦活元素Mbのモル比は、好ましくは0.001以上0.18以下の範囲内(0.001≦x≦0.18)の数と3の積である。窒化物蛍光体の組成中の賦活元素Mbのモル比は、より好ましくは0.002以上0.15以下の範囲内(0.002≦x≦0.15)の数と3の積である。窒化物蛍光体の組成中の賦活元素Mbのモル比は、さらに好ましくは0.005以上0.10以下の範囲内(0.005≦x≦0.10)の数と3の積である。窒化物蛍光体の組成中の賦活元素Mbのモル比が0より大きく0.2以下の範囲の数であれば、所定の発光ピーク波長を有する励起光源からの光によって所望の色度の光を発する窒化物蛍光体を得ることができる。
【0018】
窒化物蛍光体は、下記式(I)で表される組成を含むことが好ましい。
(Ma
1-xMb
x)3Mc
yMd
zN2+y+4/3z (I)
(式(I)中、Maは、Srを必須とし、Ba、Ca及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいてもよいアルカリ土類金属元素である。Mbは、Eu、Ce、Tb、Pr、Sm、Yb及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の賦活元素である。Mcは、第13族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素である。Mdは、第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素である。x、y及びzは、0<x≦0.2、0.7≦y≦5.5、3.5<z≦7.0を満たす数である。)
【0019】
窒化物蛍光体は、酸素を含んでいてもよく、組成中にアルカリ土類金属元素及び賦活元素の合計のモル比を3としたときに、組成中の酸素のモル比が0より大きく0.3以下の範囲の数であってもよい。窒化物蛍光体は、酸素を含む場合がある。窒化物蛍光体中に酸素を含む場合であっても、窒化物蛍光体から半値幅の広い発光スペクトルを有する光が発せられる。窒化物蛍光体中の酸素の量は、例えば酸素・窒素分析装置(株式会社堀場製作所製)を用いて、不活性ガス中融解-赤外線吸収法により測定することができる。
【0020】
窒化物蛍光体は、下記式(II)で表される組成を含んでいてもよい。
(Ma
1-xMb
x)3Mc
yMd
zOwN2+y+4/3z-2/3w (II)
(式(II)中、Maは、Srを必須とし、Ba、Ca及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいてもよいアルカリ土類金属元素であり、Mbは、Eu、Ce、Tb、Pr、Sm、Yb及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の賦活元素であり、Mcは、第13族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、Mdは、第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素でありw、x、y及びzは、0<w≦0.3、0<x≦0.2、0.7≦y≦5.5、3.5<z≦7.0を満たす数である。)
【0021】
本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体及び式(I)又は式(II)で表される組成を含む窒化物蛍光体は、発光波長が250nm以上570nm以下の範囲内の光を吸収して、610nmより大きく630nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を発する。本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体及び式(I)又は式(II)で表される組成を含む窒化物蛍光体は、発光波長が250nm以上570nm以下の範囲内の光を吸収して、好ましくは発光波長が615nm以上629nm以下の範囲内の光を発し、より好ましくは発光波長が615nm以上628nm以下の範囲内の光を発する。本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体及び式(I)又は式(II)で表される組成を含む窒化物蛍光体は、紫外線から可視光領域の光を吸収して発光する。窒化物蛍光体の発光スペクトルの半値幅は、例えば120nm以下であり、好ましくは115nm以下であり、より好ましくは110nm以下であり、さらに好ましくは105nm以下である。窒化物蛍光体の発光スペクトルの半値幅は、90nm以上であってもよい。窒化物蛍光体の発光スペクトルにおける半値幅が、95nm以上120nm以下であると、該窒化物蛍光体を搭載する発光装置の演色性が向上する。また、半値幅が100nm以上120nm以下であればより好ましい。
【0022】
本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体及び式(I)又は式(II)で表される組成を含む窒化物蛍光体は、CuKα線を用いたX線回折測定により得られるXRDスペクトルにおいて、以下のブラッグ角度(2θ)における第1角度範囲から第5角度範囲のそれぞれの位置にピークを有する。
第1角度範囲:27.4°以上28.5°以下の範囲内(27.4°≦2θ≦28.5°)
第2角度範囲:30.5°以上31.5°以下の範囲内(30.5°≦2θ≦31.5°)
第3角度範囲:32.1°以上32.5°以下の範囲内(32.1°≦2θ≦32.5°)
第4角度範囲:34.5°以上35.5°以下の範囲内(34.5°≦2θ≦35.5°)
第5角度範囲:36.1°以上36.5°以下の範囲内(36.1°≦2θ≦36.5°)
【0023】
本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体及び式(I)又は式(II)で表される組成を有する窒化物蛍光体は、CuKα線を用いたX線回折測定により得られるXRDスペクトルにおいて、例えば(Sr,Mg,Ca,Ba)2Si5N8:Euで表される組成を有する窒化物蛍光体とは異なるブラッグ角度の範囲に特徴的なピークを有し、XRDスペクトルに示されるピークから(Sr,Mg,Ca,Ba)2Si5N8:Euで表される組成を有する窒化物蛍光体とは異なる結晶構造を有すると推測される。本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体が、第1角度範囲から第5角度範囲に特徴的なピークを有するのは、アルカリ土類金属元素及び第14族元素に加えて、第13族元素を含むことで、結晶構造が変化したためと推測される。例えば(Sr0.99Eu0.01)2Si5N8で表される組成を有する窒化物蛍光体は、第3角度範囲の位置にピークが存在しない。また、例えば(Sr0.99Eu0.01)2Si5N8で表される組成を有する窒化物蛍光体は、第1角度範囲、第4角度範囲及び第5角度範囲に、複数のピークトップを有するピークが存在しない。
【0024】
本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体及び式(I)又は式(II)で表される組成を含む窒化物蛍光体は、CuKα線を用いたX線回折測定により得られるXRDスペクトルにおいて、ブラッグ角度(2θ)における、第1角度範囲、第2角度範囲、第4角度範囲及び第5角度範囲に特徴的なピークを有する。具体的には、本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体及び式(I)又は式(II)で表される組成を含む窒化物蛍光体は、第1角度範囲の27.4°以上28.5°以上の範囲内に存在するピークが2つのピークトップを有し、第2角度範囲の30.5°以上31.5°以下の範囲内に存在するピークが3つのピークトップを有し、第4角度範囲の34.5°以上35.5°以下の範囲内に存在するピークが2つのピークトップを有し、第5角度範囲の36.1°以上36.5°以下の範囲内に存在するピークが2つのピークトップを有する。本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体は、CuKα線を用いたX線回折測定により得られるXRDスペクトルにおいて、ブラッグ角度(2θ)における、第1角度範囲から第5角度範囲に特徴的なピークを有し、例えば(Sr,Mg,Ca,Ba)2Si5N8:Euで表される組成を有する窒化物蛍光体とは異なる結晶構造を有することから、(Sr,Mg,Ca,Ba)2Si5N8:Euで表される組成を有する窒化物蛍光体とは異なる波長範囲内に発光ピーク波長を有し、所望の色度を得る際に使用し得る蛍光体の選択の幅を広げることができる。
【0025】
(発光装置)
本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体は、励起光源と組み合わせて、照明装置、液晶表示装置のバックライトなどに用いる発光装置に用いることができる。励起光源としては、発光ダイオード(LED)又はレーザーダイオード(LD)であることができる。窒化物蛍光体と、例えばLEDやLDなどの励起光源とを組み合わせた発光装置は、照明装置、液晶表示装置のバックライトなどに用いることができる。本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体は半値幅が広い発光スペクトルを有する光を発するので、照明装置に用いる蛍光体として特に適している。
【0026】
励起光源は、例えば、250nm以上570nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を発する励起光源を用いることができる。好ましくは250nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を発する励起光源を用いることができる。当該波長範囲の励起光源を用いることにより、窒化物蛍光体の発光強度の高い発光装置を提供することができる。また、440nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を励起光源にすれば、照明装置に適している。発光装置の励起光源は、発光素子を用いることができる。励起光源は、発光ピーク波長が、420nm以上500nm以下の範囲内にあることがより好ましく420nm以上460nm以下の範囲内にあることがさらに好ましい。
【0027】
発光素子として、窒化物系半導体(InXAlYGa1-X-YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)を用いた半導体発光素子を用いることが好ましい。発光装置の励起光源として半導体発光素子を用いることによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高い発光装置を得ることができる。発光素子の発光スペクトルにおいて、半値幅は、例えば、30nm以下であることが好ましい。
【0028】
発光装置は、本発明の一実施形態に係る窒化物蛍光体を第1蛍光体として用いて、第1蛍光体とは異なる発光ピーク波長を有する第2蛍光体を用いてもよい。第1蛍光体は、250nm以上570nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を吸収して、610nmより大きく780nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を発するものであれば、1種の蛍光体を単独で用いてもよく、2種以上の蛍光体を併用してもよい。第2蛍光体は、目的とする波長範囲内に発光ピーク波長を有するものであれば、1種の蛍光体を単独で用いてもよく、2種以上の蛍光体を併用してもよい。第2蛍光体としては、例えば、(Ca,Sr,Ba)8MgSi4O16(F,Cl,Br)2:Eu、Si6-αAlαOαN8-α:Eu(0<α≦4.2)、(Lu,Y,Gd, Tb)3(Ga,Al)5O12:Ce、(La,Y,Gd)3Si6N11:Ce等が挙げられる。第2蛍光体として緑色発光する蛍光体や黄色発光する蛍光体を選択することで、所望の白色が得られる。
【0029】
発光装置の一例を図面に基づいて説明する。
図1は、発光装置の一例を示す概略断面図である。この発光装置は、表面実装型発光装置の一例である。
【0030】
発光装置100は、リード電極20とリード電極30と絶縁部42とを含むパッケージ40と、発光素子10と、発光素子10を被覆する封止部材50とを備える。発光素子10は、パッケージ40の凹部内に配置されている。発光素子10のアノード電極とカソード電極は、それぞれ、パッケージ40に備えられた給電用のリード電極20、30に導電性ワイヤ60によって電気的に接続されている。封止部材50は、凹部内に充填されており、発光素子10を被覆して封止している。封止部材50は、例えば、樹脂と、発光素子10からの光を波長変換する蛍光体70を含む。さらに蛍光体70は、第1蛍光体71と第2蛍光体72とを含む。給電用のリード電極20、30は、その一部がパッケージ40の外側面に露出されている。これらのリード電極20、30を介して、外部から電力の供給を受けて発光素子10が発光し、発光素子10の発光によって蛍光体70が発光し、発光装置100の発光が得られる。例えば、発光素子10と第1蛍光体71と第2蛍光体72とから発せられる光が混色されて、発光装置100の発光として白色光が得られる。
【0031】
窒化物蛍光体の製造方法
窒化物蛍光体は、原料を含む原料混合物を準備し、原料混合物を熱処理することによって製造することができる。
【0032】
(原料)
窒化物蛍光体の原料は、Srを含む化合物と、少なくとも1種の第13族元素を含む化合物と、少なくとも1種の第14族元素を含む化合物と、第7族元素及びランタノイド元素からなる群から選択される少なくとも1種の賦活元素を含む化合物と、窒素を含む化合物と、必要に応じてBa、Ca及びMgからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属元素を含む化合物を用いることができる。窒素を含む化合物は、他の原料となる化合物と同一の化合物であってもよい。原料となる化合物としては、アルカリ土類金属元素(Be、Raを除く)、第13族元素、第14族元素、第7族元素及びランタノイド元素から選択される少なくとも1種の元素を含む水素化物、窒化物、フッ化物、酸化物、炭酸塩、塩化物当が挙げられる。得られる蛍光体中に含まれる不純物が少なく、発光強度を高くするために、アルカリ土類金属元素(Be、Raを除く)、第13族元素、第14族元素、第7族元素及びランタノイド元素から選択される少なくとも1種の元素を含む窒化物を用いることが好ましい。原料として、具体的には、Sr3N2、Sr2N、SrN、SrH2、SrF2、SiO2、Si3N4、SiF4、Si(NH)2、Si2N2NH、Si(NH2)4、AlN、AlH3、AlF3、LiAlH4、EuN、EuF3、EuH3、BaH2、Ba3N2、BaF2、CaH2、Ca3N2、CaF2、MgH2、Mg3N2、MgF2等が挙げられる。
【0033】
また、原料となる各化合物は、平均粒径が約0.1μm以上15μm以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは約0.1μmから10μmの範囲内である。原料となる各化合物の平均粒径が約0.1μm以上15μm以下の範囲内であることは、他の原料との反応性、熱処理時及び熱処理後の粒径制御等の観点から好ましい。平均粒径が15μmより大きい粒径を有する化合物は粉砕して、前記平均粒径の範囲内の化合物を用いることができる。また、原料となる化合物は、精製工程を必要とせず、製造工程を簡略化できるため、精製したものであることが好ましい。
【0034】
(原料混合物)
原料となる各化合物を計量し、その後、計量した原料となる各化合物を、混合機を用いて湿式又は乾式で混合し、原料混合物を得る。混合機は工業的に通常用いられているボールミルの他、振動ミル、ロールミル、ジェットミル等を用いることができる。原料混合物は上記混合機を用いて粉砕して比表面積を大きくすることもできる。また、粉末の比表面積を一定範囲とするために、工業的に通常用いられている沈降槽、ハイドロサイクロン、遠心分離器等の湿式分離機、サイクロン、エアセパレータ等の乾式分級機を用いて分級することもできる。
【0035】
(フラックス)
原料混合物は、フラックスを含んでいてもよい。原料混合物がフラックスを含むことで、原料間の反応がより促進され、更には固相反応がより均一に進行するために粒径が大きく、発光特性により優れた蛍光体を得ることができる。蛍光体を得るための熱処理の温度が、フラックスとして用いた化合物の液相の生成温度と同程度の温度であると、フラックスによって原料間の反応が促進される。フラックスとしては、希土類金属元素、アルカリ土類金属元素、及びアルカリ金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含むハロゲン化物を用いることができる。フラックスとしては、ハロゲン化物の中でも、フッ化物を用いることができる。フラックスに含まれる元素が、窒化物蛍光体を構成する元素の少なくとも一部と同一の元素である場合には、目的とする組成を有する窒化物蛍光体の原料の一部として、窒化物蛍光体の組成が目的の組成となるようにフラックスを加えることもでき、目的の組成となるように原料を混合した後、さらに添加するようにフラックスを加えることもできる。
【0036】
(熱処理)
原料混合物は、黒鉛等の炭素、窒化ホウ素(BN)、アルミナ(Al2O3)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)等の材質の坩堝やボートに載置して、炉内で熱処理することができる。
【0037】
熱処理雰囲気は、窒素雰囲気中であってもよい。熱処理雰囲気は還元性を有する水素ガスと、窒素ガスとを含む水素窒素雰囲気であってもよい。窒素雰囲気中、窒素ガスを好ましくは70体積%以上含有してもよく、80体積%以上含有してもよく、90体積%以上含有してもよい。また、還元性のある水素ガスを含む水素窒素雰囲気中、水素ガスを1体積%以上含有してもよく、2体積%以上含有してもよく、3体積%以上含有してもよい。熱処理雰囲気は、大気雰囲気中で固体カーボンを用いた還元雰囲気であってもよい。例えば賦活元素がEuである場合、2価のEuは酸化されて3価のEuになりやすいが、還元雰囲気で熱処理することにより、3価のEuを2価のEuに還元することができ、窒化物蛍光体中で発光に寄与する2価のEuが占める割合を増大させることができる。
【0038】
熱処理温度は、好ましくは1200℃以上2100℃以下の範囲内であり、より好ましくは1200℃以上1900℃以下の範囲内であり、さらに好ましくは1200℃以上1700℃以下の範囲内である。熱処理温度が1200℃以上2100℃以下であれば、熱による分解が抑制され、目的とする組成を有し、安定した結晶構造を有する蛍光体が得られる。
【0039】
熱処理は二段階以上の複数回の熱処理を行なってもよい。例えば二段階の熱処理を行なう場合には、一回目の熱処理を1000℃以上1500℃未満で行い、二回目の熱処理を1400℃以上2100℃以下の温度で行ってもよい。一回目の熱処理温度が1000℃以上1600℃未満であると、目的とする組成を有する熱処理物を得やすくなる。二回目の熱処理温度が1500℃以上2100℃以下であると、安定した結晶構造を有する蛍光体を得ることができる。
【0040】
熱処理においては、所定温度で保持時間を設けてもよい。例えば一回目の熱処理と二回目の熱処理の間に、20℃以上28℃以下の室温程度の温度で、保持する時間を設けてもよい。保持時間は、例えば0.5時間以上48時間以内であってもよく、1時間以上40時間以内であってもよく、2時間以上30時間以内であってもよい。保持時間を0.5時間以上48時間以内で設けることによって、結晶成長を促進することができる。
【0041】
熱処理雰囲気の圧力は、0.1MPa以上200MPa以下の加圧雰囲気で行なうことが好ましい。熱処理によって得られる熱処理物は、熱処理温度が高温になるほど結晶構造が分解され易くなるが、加圧雰囲気にすることによって、結晶構造の分解が抑制され、発光強度の低下を抑制することができる。熱処理雰囲気の圧力は、ゲージ圧で、より好ましくは0.1MPa以上100MPa以下であり、さらに好ましくは0.5MPa以上10MPa以下であり、製造の容易さの点から、よりさらに好ましくは1.0MPa以下である。
【0042】
熱処理時間は、熱処理温度、熱処理時の雰囲気の圧力によって適宜選択することができ、好ましくは0.5時間以上20時間以内である。二段階以上の熱処理を行なう場合であっても、一回の熱処理時間は0.5時間以上20時間以内であることが好ましい。熱処理時間が0.5時間以上20時間以内であると、得られる熱処理物の分解が抑制され、安定した結晶構造を有し、所望の発光強度を有する蛍光体を得ることができる。また、生産コストも低減でき、製造時間を比較的短くすることができる。熱処理時間は、より好ましくは1時間以上10時間以内であり、さらに好ましくは1.5時間以上9時間以内である。
【0043】
熱処理して得られた熱処理物は、粉砕、分散、固液分離、乾燥等の後処理を行ってもよい。固液分離は濾過、吸引濾過、加圧濾過、遠心分離、デカンテーションなどの工業的に通常用いられる方法により行うことができる。乾燥は、真空乾燥機、熱風加熱乾燥機、コニカルドライヤー、ロータリーエバポレーターなどの工業的に通常用いられる装置により行うことができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
原料として、Sr2Nが14.1g、AlNが2.1g、Si3N4が9.4g、EuNが0.25gとなるように計量した。仕込み組成が(Sr0.99Eu0.01)3AlSi4N8+1/3となるように各原料を用いた。メノウ乳鉢とメノウ乳棒を用いて、20分間、各原料を混合して、原料混合物を得た。得られた原料混合物を、1500℃、1気圧(0.101MPa)、水素ガスを含む窒素雰囲気(水素:3体積%、窒素:97体積%)中で、10時間熱処理した。熱処理後、得られた熱処理物を粉砕して、実施例1の窒化物蛍光体を得た。
【0046】
(実施例2)
原料として、Sr2Nが14.1g、AlNが4.2g、Si3N4が9.4g、EuNが0.25gとなるように計量した。仕込み組成が(Sr0.99Eu0.01)3Al2Si4N9+1/3となるように各原料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の窒化物蛍光体を得た。
【0047】
(実施例3)
原料として、Sr2Nが14.1g、AlNが6.2g、Si3N4が11.8g、EuNが0.25gとなるように計量した。仕込み組成が(Sr0.99Eu0.01)3Al3Si5N11+1/3となるように各原料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の窒化物蛍光体を得た。
【0048】
(実施例4)
原料として、Sr2Nが14.1g、AlNが8.4g、Si3N4が9.4g、EuNが0.25gとなるように計量した。仕込み組成が(Sr0.99Eu0.01)3Al4Si4N11+1/3となるように各原料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の窒化物蛍光体を得た。
【0049】
(比較例1)
原料として、Sr2Nが9.4g、Si3N4が11.7g、EuNが0.16gとなるように計量した。仕込み組成が(Sr0.99Eu0.01)2Si5N8となるように各原料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の窒化物蛍光体を得た。
【0050】
(比較例2)
原料として、Sr2Nが14.1g、Si3N4が9.4g、EuNが0.25gとなるように計量した。仕込み組成が(Sr0.99Eu0.01)3Si4N7+1/3となるように各原料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の窒化物蛍光体を得た。
【0051】
(発光特性)
得られた窒化物蛍光体について、量子効率測定システム(製品名:QE-2000、大塚電子株式会社製)を用いて発光スペクトルを測定した。量子効率測定システムで用いた励起光の発光ピーク波長は460nmであった。得られた各発光スペクトルから、発光ピーク波長(λp:nm)、半値幅(nm)を求めた。結果を表1に示す。
【0052】
(色度x、y)
得られた窒化物蛍光体について量子効率測定システム(製品名:QE-2000、大塚電子株式会社製)を用いて、CIE1931表色系の色度座標における色度x、yを測定した。結果を表1に示す。
【0053】
(XRD(X線回折)スペクトルの測定)
得られた窒化物蛍光体について、X線回折装置(製品名:SmartLab、株式会社リガク製)を用い、光源がCuKα線、管電流が200mA、管電圧が45kVの条件のもとでXRD(X線回折)スペクトルを測定した。得られたXRDスペクトルを
図3に示す。
図3において、上から順に、原料Sr
2N、原料Si
3N
4、原料AlN、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、比較例1の各窒化物蛍光体のXRDスペクトルを示す。原料Sr
2N、原料Si
3N
4及び原料AlN、のXRDスペクトルは、無機結晶構造データベース(Inorganic Crystal Structure Database:ICSD)に登録されているデータを利用したものである。
【0054】
(組成分析)
得られた窒化物蛍光体について、誘導結合プラズマ発光分析装置(Perkin Elmer(パーキンエルマー)社製)を用いて、ICP発光分析法により、組成分析を行った。得られた結果から窒化物蛍光体に含まれるSrとEuの合計のモル比を3として、Alのモル比と、Siのモル比を算出した。結果を表1に示す。ここで、表1における分析組成式とは、得られた窒化物蛍光体の粉末中に含まれるSrとEuの合計モル比を基準とした場合における各元素の相対モル比を便宜上組成式のように表現したものである。よって、この分析組成式は、化合物又は窒化物蛍光体の組成を限定するものではない。
【0055】
【0056】
表1に示すとおり、実施例1から4に係る窒化物蛍光体は、比較例1及び比較例2と比べて半値幅の広い発光スペクトルの光を発し、広い波長領域の光が発せられることが確認できた。実施例1から4に係る窒化物蛍光体は、比較例1及び2と比べて発光ピーク波長が長波長側にシフトしており、比較例1及び2とは異なる結晶構造を有していると推測された。また、実施例1から4に係る窒化物蛍光体は、色度x、yの数値が、比較例1及び2係る窒化物蛍光体の色度x、yと比べて大きく変化しておらず、所望の色度x、yが得られていた。発光ピーク波長が実施例1から4に係る窒化物蛍光体と、比較例1及び比較例2とで異なるにもかかわらず、色度が大きく変化していないのは、実施例1から4に係る窒化物蛍光体において見積もられた半値幅が比較例1及び比較例2の半値幅と比べて広いことから理解することができる。
【0057】
図2は、実施例1に係る窒化物蛍光体の発光スペクトルと、比較例1及び比較例2に係る窒化物蛍光体の発光スペクトルを示す。各発光スペクトルは、それぞれの最大発光強度で規格化している。
図2において、横軸は波長(nm)を表し、縦軸は強度(任意単位:a.u.)を表す。実施例1に係る窒化物蛍光体の発光ピーク波長は、比較例1及び比較例2に係る窒化物蛍光体の発光ピーク波長と比べて、長波長側にシフトしていた。この結果から、実施例1に係る窒化物蛍光体と、比較例1及び比較例2に係る窒化物蛍光体は、結晶構造が異なることが推測された。
【0058】
図3及び
図4は、上から順に、原料Sr
2N、原料Si
3N
4、原料AlN、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、及び比較例1の各窒化物蛍光体、のXRDスペクトルを示す。
図3及び
図4において、横軸は、ブラッグ角度(2θ(°))を表し、縦軸は、強度(任意単位:a.u.)を表す。原料のXRDスペクトルはICSDから参照したものである。
図4は、
図3に示すXRDスペクトルと、第1角度範囲から第5角度範囲の領域を示す。
図4において、横軸は、ブラッグ角度(2θ(°))を表し、縦軸は、強度(任意単位:a.u.)を表す。
【0059】
実施例1から4に係る窒化物蛍光体は、XRDスペクトルにおいて、実施例1から4に係る窒化物蛍光体は、以下のブラッグ角度における第1角度範囲から第5角度範囲のそれぞれの位置にピークを有していた。
第1角度範囲:27.4°以上28.5°以下の範囲内(27.4°≦2θ≦28.5°)
第2角度範囲:30.5°以上31.5°以下の範囲内(30.5°≦2θ≦31.5°)
第3角度範囲:32.1°以上32.5°以下の範囲内(32.1°≦2θ≦32.5°)
第4角度範囲:34.5°以上35.5°以下の範囲内(34.5°≦2θ≦35.5°)
第5角度範囲:36.1°以上36.5°以下の範囲内(36.1°≦2θ≦36.5°)
【0060】
実施例1から4に係る窒化物蛍光体は、XRDスペクトルにおいて、第1角度範囲の27.4°以上28.5°以下の範囲内に存在するピークが2つのピークトップを有し、第2角度範囲の30.5°以上31.5°以下の範囲内に存在するピークが3つのピークトップを有し、第3角度範囲の32.1°以上32.5°以下の範囲内に存在するピークが1つのピークトップを有し、第4角度範囲の34.5°以上35.5°以下の範囲内に存在するピークが2つのピークトップを有し、第5角度範囲の36.1°以上36.5°以下の範囲内に存在するピークが2つのピークトップを有していた。
【0061】
実施例1から4に係る窒化物蛍光体は、XRDスペクトルにおいて、比較例1の(Sr0.99Eu0.01)2Si5N8で表される組成を有する窒化物蛍光体とは異なる位置に特徴的なピークを有していた。実施例1から4に係る窒化物蛍光体は、XRDスペクトルの違いから比較例1に係る窒化物蛍光体とは結晶構造が異なることが確認できた。比較例1に係る窒化物蛍光体は、XRDスペクトルにおいて、第3角度範囲にはピークが存在しない。また、比較例1に係る窒化物蛍光体は、XRDスペクトルにおいて、第1角度範囲と、第2角度範囲と、第4角度範囲と、第5角度範囲には、ピークが存在する。しかしながら、第1角度範囲、第2角度範囲、第4角度範囲及び第5角度範囲に存在するピークはいずれも1つのピークトップのみを有するか、もしくは各実施例におけるXRDスペクトルよりもピークトップの数が少なかった。なお、それぞれの角度範囲におけるピークの本数はバックグランドよりも強度が顕著に高いピークのみを数えた。
【0062】
無機結晶構造データベース(ICSD)に登録されているデータから特定した、原料であるSr2N、Si3N4及びAlNそれぞれのブラッグ角度の位置は、実施例1から4に係る窒化物蛍光体のXRDスペクトルの位置とは完全に一致はしていなかった。また、第1角度範囲から5角度範囲のいずれにおいても、原料から得られるピークの本数と実施例1から実施例4に係る窒化物蛍光体のピークの本数が異なっていた。以上の比較から、実施例1から実施例4に係る窒化物蛍光体は、原料とは異なる結晶構造を有していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る窒化物蛍光体は、LED又はLDを励起光源として用いる、照明用又は車載用、液晶装置のバックライト用等の発光装置に利用できる。
【符号の説明】
【0064】
10:発光素子、40:パッケージ、50:封止部材、70:蛍光体、71:第1蛍光体、72:第2蛍光体、100:発光装置。