(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】ハイドロゲル及びハイドロゲルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/14 20060101AFI20230323BHJP
C08L 33/26 20060101ALI20230323BHJP
C08F 2/10 20060101ALI20230323BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20230323BHJP
C08F 212/36 20060101ALI20230323BHJP
C08F 220/56 20060101ALI20230323BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
C08L101/14
C08L33/26
C08F2/10
C08F2/44 C
C08F212/36
C08F220/56
C08L101/02
(21)【出願番号】P 2018082339
(22)【出願日】2018-04-23
【審査請求日】2021-03-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岩田 昌也
(72)【発明者】
【氏名】笠原 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】グン 剣萍
(72)【発明者】
【氏名】黒川 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】野々山 貴行
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-505883(JP,A)
【文献】特開2009-270032(JP,A)
【文献】特開平03-079608(JP,A)
【文献】国際公開第2015/170735(WO,A1)
【文献】特開2018-009096(JP,A)
【文献】国際公開第2013/140645(WO,A1)
【文献】特開2014-133787(JP,A)
【文献】特開2016-077997(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105085791(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0029789(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1網目構造と、
前記第1網目構造と絡み合った第2網目構造と
から成る相互侵入高分子網目構造を備えるハイドロゲルであって、
前記第1網目構造は、第1架橋剤により架橋した、モノマーが重合したポリマーを含み、
前記第2網目構造は、第2架橋剤により架橋した、モノマーが重合したポリマーを含み、
前記第1網目構造よりも架橋度が小さく、
前記第1架橋剤のうち、50mol%以上は、酸性条件下で分解性を示すアミド結合、エステル結合、及びチオエステル結合を含まず、
前記第2架橋剤のうち、50mol%以上は、酸性条件下で分解性を示すアミド結合、エステル結合、及びチオエステル結合を含まないハイドロゲル。
【請求項2】
請求項1に記載のハイドロゲルであって、
前記第1網目構造を構成する主鎖、及び前記第2網目構造を構成する主鎖は酸性条件下で分解性を示すアミド結合、エステル結合、及びチオエステル結合を含まないハイドロゲル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のハイドロゲルであって、
以下の式(1)で定義される初期弾性率比Xが50%以上であるハイドロゲル。
式(1) X=(E2/E1)×100
(式(1)におけるE2は、塩酸濃度が0.05mol/Lであり、温度が60℃である塩酸水溶液に72時間浸漬する処理の後における前記ハイドロゲルの弾性率。E1は、前記処理の前における前記ハイドロゲルの弾性率。)
【請求項4】
第1モノマーを重合し、第1架橋剤により架橋することで、第1網目構造を形成し、
前記第1網目構造中に、第2モノマー及び第2架橋剤を導入し、
前記第2モノマーを重合し、前記第2架橋剤により架橋することで、前記第1網目構造と絡み合
い、前記第1網目構造よりも架橋度が小さい第2網目構造を形成し、
前記第1架橋剤のうち、50mol%以上は、酸性条件下で分解性を示すアミド結合、エステル結合、及びチオエステル結合を含まず、
前記第2架橋剤のうち、50mol%以上は、酸性条件下で分解性を示すアミド結合、エステル結合、及びチオエステル結合を含まないハイドロゲルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はハイドロゲル及びハイドロゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、第1網目構造と、第2網目構造とを備えるハイドロゲルが知られている。第2網目構造は、第1網目構造と絡み合っている。第1網目構造及び第2網目構造は、それぞれ、モノマーを重合し、架橋することにより形成されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のハイドロゲルは、酸性条件下において、弾性率や強度が低下し易かった。本開示の一局面は、酸性条件下において、弾性率や強度が低下し難いハイドロゲル及びハイドロゲルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一局面は、第1網目構造と、前記第1網目構造と絡み合った第2網目構造と、を備えるハイドロゲルであって、前記第1網目構造は、第1架橋剤により架橋したポリマーを含み、前記第2網目構造は、第2架橋剤により架橋したポリマーを含み、前記第1架橋剤のうち、50mol%以上は、分解性結合を含まず、前記第2架橋剤のうち、50mol%以上は、分解性結合を含まないハイドロゲルである。
【0006】
本開示の一局面であるハイドロゲルは、酸性条件下でも、架橋点の加水分解が起こり難い。そのため、本開示の一局面であるハイドロゲルは、酸性条件下でも、弾性率や強度が低下し難い。
本開示の別の局面は、第1モノマーを重合し、第1架橋剤により架橋することで、第1網目構造を形成し、前記第1網目構造中に、第2モノマー及び第2架橋剤を導入し、前記第2モノマーを重合し、前記第2架橋剤により架橋することで、前記第1網目構造と絡み合った第2網目構造を形成し、前記第1架橋剤のうち、50mol%以上は、分解性結合を含まず、前記第2架橋剤のうち、50mol%以上は、分解性結合を含まないハイドロゲルの製造方法である。
【0007】
本開示の別の局面であるハイドロゲルの製造方法により製造したハイドロゲルは、酸性条件下でも、架橋点の加水分解が起こり難い。そのため、本開示の別の局面であるハイドロゲルの製造方法により製造したハイドロゲルは、酸性条件下でも、弾性率や強度が低下し難い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】各実施例及び各比較例のハイドロゲルにおける初期弾性率比X
Tの測定結果を表すグラフである。
【
図2】実施例1及び比較例2のハイドロゲルにおける初期弾性率比X
Tと、Tとの関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の例示的な実施形態を説明する。
1.ハイドロゲル
本開示のハイドロゲルは、第1網目構造と、第2網目構造とを備える。第2網目構造は、記第1網目構造と絡み合っている。
【0010】
第1網目構造及び第2網目構造は、それぞれ、モノマーが重合して形成されたポリマーを含む。第1網目構造を構成するモノマーを第1モノマーとする。また、第2網目構造を構成するモノマーを第2モノマーとする。
【0011】
第1モノマーとして、例えば、電荷を有するモノマーが挙げられる。電荷を有するモノマーとして、例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、アクリル酸、メタクリル酸、及びそれらの塩等が挙げられる。
【0012】
第1モノマーとして、例えば、電気的に中性であるモノマーが挙げられる。電気的に中性であるモノマーとして、例えば、アクリルアミド、N’N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、ビニルピリジン、スチレン、メチルメタクリレート、フッ素含有不飽和モノマー、ヒドロキシエチルアクリレート、及び酢酸ビニル等が挙げられる。フッ素含有不飽和モノマーとして、例えば、トリフルオロエチルアクリレート等が挙げられる。第2モノマーとして、第1モノマーと同様のものが挙げられる。
【0013】
第1網目構造は、第1架橋剤により架橋している。第1架橋剤のうち、50mol%以上は、分解性結合を含まない架橋剤である。そのことにより、酸性条件下でも、架橋点の加水分解が起こり難い。そのため、本開示のハイドロゲルは、酸性条件下でも、弾性率や強度が低下し難い。第1架橋剤のうち、60mol%以上は、分解性結合を含まない架橋剤であることが好ましく、第1架橋剤のうち、75mol%以上は、分解性結合を含まない架橋剤であることがさらに好ましい。第1架橋剤のうち、分解性結合を含まない架橋剤の比率が高いほど、酸性条件下でも、本開示のハイドロゲルの弾性率や強度が一層低下し難い。
【0014】
分解性結合とは、酸性条件下において加水分解し易い結合を意味する。分解性結合として、例えば、エステル結合、アミド結合、チオエステル結合等が挙げられる。分解性結合を含まない第1架橋剤として、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルピリジン、ジビニルビフェニル、ジビニルスルホン等が挙げられる。第1架橋剤の全てが分解性結合を含まない架橋剤であってもよいし、第1架橋剤の一部は分解性結合を含む架橋剤であってもよい。分解性結合を含む架橋剤として、例えば、N,N′-メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
【0015】
第2網目構造は、第2架橋剤により架橋している。第2架橋剤のうち、50mol%以上は、分解性結合を含まない架橋剤である。そのことにより、酸性条件下でも、架橋点の加水分解が起こり難い。そのため、本開示のハイドロゲルは、酸性条件下でも、弾性率や強度が低下し難い。第2架橋剤のうち、60mol%以上は、分解性結合を含まない架橋剤であることが好ましく、第2架橋剤のうち、75mol%以上は、分解性結合を含まない架橋剤であることがさらに好ましい。第2架橋剤のうち、分解性結合を含まない架橋剤の比率が高いほど、酸性条件下でも、本開示のハイドロゲルの弾性率や強度が一層低下し難い。第2架橋剤として、第1架橋剤と同様のものを用いることができる。
【0016】
第1網目構造及び第2網目構造を構成する主鎖は分解性結合を含まないことが好ましい。この場合、酸性条件下でも、主鎖の加水分解が起こり難い。その結果、酸性条件下でも、本開示のハイドロゲルの弾性率や強度が一層低下し難い。
【0017】
本開示のハイドロゲルにおいて、以下の式(1)で定義される初期弾性率比Xが50%以上であることが好ましい。
式(1) X=(E2/E1)×100
(式(1)におけるE2は、塩酸濃度が0.05mol/Lであり、温度が60℃である塩酸水溶液に72時間浸漬する処理の後におけるハイドロゲルの弾性率。E1は、前記処理の前におけるハイドロゲルの弾性率。)
初期弾性率比Xが50%以上である場合、本開示のハイドロゲルは、酸性条件下でも、弾性率や強度が一層低下し難い。
【0018】
第1網目構造における架橋度は、例えば、0.1~50mol%の範囲が好ましい。架橋度とは、モノマーの仕込みモル濃度に対する架橋剤のモル濃度の比をパーセントで表した値を意味する。実際には重合に関与しなかったモノマーや架橋に関与しないかった架橋剤も僅かにある場合があるが、この場合も、本明細書における架橋度の意味は前記の通りとする。第2網目構造における架橋度は、例えば、0.001~20mol%の範囲が好ましい。第1網目構造及び第2網目構造における架橋度が上記の範囲内である場合、本開示のハイドロゲルの機械的強度が一層高い。
【0019】
第1網目構造が高硬度であり、第2網目構造が高伸張性であることが好ましい。この場合、本開示のハイドロゲルの強度が一層高い。
第2網目構造における架橋度は、第1網目構造における架橋度よりも小さいことが好ましい。この場合、第1網目構造が高硬度となり、第2網目構造が高伸張性となる。その結果、本開示のハイドロゲルの強度が一層高くなる。
【0020】
本開示のハイドロゲル中の第1モノマーの成分量をM1(mol)とする。本開示のハイドロゲル中の第2モノマーの成分量をM2(mol)とする。M1とM2とのモル比(以下ではM1:M2とする)は、1:2~1:100の範囲であることが好ましく、1:3~1:50の範囲であることがさらに好ましく、1:3~1:30の範囲であることが特に好ましい。M1:M2が上記の範囲である場合、本開示のハイドロゲルの機械的強度を一層向上させることができる。
【0021】
本開示のハイドロゲルの含水率は、10~99.9%であることが好ましい。本開示のハイドロゲルの圧縮破断応力は、1~100MPaであることが好ましい。本開示のハイドロゲルの引張肌能力は、0.1~100MPaであることが好ましい。
【0022】
本開示のハイドロゲルの用途として、例えば、人工軟骨、人工関節、人工臓器、細胞培養基材、ドラッグデリバリーシステム(DDS)、コンタクトレンズ、眼内レンズ、ホローファイバー、薬物の運搬架体、特定物質のセンサー又はカテーテルの先端に利用するソフトアクチュエーター、床ずれ・褥瘡防止マット、クッション、潤滑剤、化粧水等の安定剤や増粘剤、燃料電池用材料、バッテリーセパレータ、オムツ、衛生用品、徐放剤、土木材料、建築材料等が挙げられる。人工臓器として、例えば、人工血管や人工皮膚等が挙げられる。
【0023】
2.ハイドロゲルの製造方法
本開示のハイドロゲルの製造方法では、第1網目構造を形成する。第1網目構造は、例えば、以下のように形成できる。第1モノマー、第1架橋剤及び重合開始剤を含む第1重合溶液を調製する。次に、第1モノマーを重合し、第1架橋剤により架橋することで、第1網目構造を形成する。
【0024】
次に、第2網目構造を形成する。第2網目構造は、例えば、以下のように形成できる。第2モノマー、第2架橋剤及び重合開始剤を含む第2重合溶液を調製する。次に、第1網目構造を有するゲルを、第2重合溶液に浸漬し、浸漬した状態で保存する。このとき、第2モノマー及び第2架橋剤は、第1網目構造中に導入され、拡散、浸透する。次に、第1網目構造を有するゲルを第2重合溶液から取り出す。次に、第1網目構造中に導入された第2モノマーを重合し、第2架橋剤により架橋する。その結果、第1網目構造と絡み合った第2網目構造が形成される。
【0025】
本開示のハイドロゲルの製造方法で使用する第1架橋剤及び第2架橋剤は、前記「1.ハイドロゲル」の項で述べたものである。そのため、本開示のハイドロゲルの製造方法により製造したハイドロゲルは、酸性条件下でも、架橋点の加水分解が起こり難い。その結果、本開示のハイドロゲルの製造方法により製造したハイドロゲルは、酸性条件下でも、弾性率や強度が低下し難い。
【0026】
第1重合溶液及び第2重合溶液に含まれる重合開始剤は特に限定されず、モノマーの種類に応じて適宜選択することができる。モノマーを熱重合する場合、重合開始剤として、例えば、過硫酸カリウム等の水溶性熱触媒、過硫酸カリウム-チオ硫酸ナトリウム等のレドックス開始剤、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ベンゾイル(BPO)等を用いることができる。モノマーを光重合する場合、重合開始剤として、例えば、2-オキソグルタル酸、ベンゾフェノン、過酸化水素水等を用いることができる。
【0027】
第1重合溶液及び第2重合溶液における溶媒は特に限定されず、適宜選択することができる。溶媒として、例えば、水、有機溶媒、それらの混合溶媒等が挙げられる。有機溶媒として、例えば、ジメチルスルホキシド、2-メチル-2-プロパノール、テトラヒドロフラン等が挙げられる。第1重合溶液における溶媒と、第2重合溶液における溶媒とは同じであることが好ましい。この場合、第1網目構造と第2網目構造とが、一層絡み合い易い。
【0028】
第1モノマーを重合する方法として、例えば、熱重合、光重合が挙げられる。光重合で使用する光として、例えば、紫外線が挙げられる。第2モノマーを重合する方法として、例えば、熱重合、光重合が挙げられる。光重合で使用する光として、例えば、紫外線が挙げられる。
【0029】
3.実施例
(3-1)実施例1のハイドロゲルの製造
2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)と、ジビニルベンゼン(DVB)と、2-オキソグルタル酸とを、混合溶媒に加え、第1重合溶液を調製した。第1重合溶液における2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の濃度は1mol/Lである。第1重合溶液におけるジビニルベンゼンの濃度は0.04mol/Lである。第1重合溶液における2-オキソグルタル酸の濃度は0.01mol/Lである。混合溶媒は、純水とジメチルスルホキシド(DMSO)との混合溶媒である。
【0030】
2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸は第1モノマーに対応する。ジビニルベンゼンは第1架橋剤に対応する。2-オキソグルタル酸は重合開始剤に対応する。
次に、第1重合溶液を、窒素ガスを用いて脱酸素した。次に、第1重合溶液をガラス製の重合容器に流し込んだ。次に、UVランプを用いて第1重合溶液に紫外線を照射した。紫外線の波長は365nmである。UVランプの出力は22Wである。UVランプの出力電流は0.34Aである。紫外線の照射は、常温において8時間行った。このとき、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びジビニルベンゼンが重合し、ジビニルベンゼンが架橋して、AMPSゲルが形成された。AMPSゲルは第1網目構造に対応する。
【0031】
次に、N'N-ジメチルアクリルアミド(DMAAm)と、ジビニルベンゼンと、2-オキソグルタル酸とを、混合溶媒に加え、第2重合溶液を調製した。第2重合溶液におけるN'N-ジメチルアクリルアミドの濃度は2mol/Lである。第2重合溶液におけるジビニルベンゼンの濃度は0.002mol/Lである。第2重合溶液における2-オキソグルタル酸の濃度は0.005mol/Lである。混合溶媒は、純水とジメチルスルホキシドとの混合溶媒である。
【0032】
N'N-ジメチルアクリルアミドは第2モノマーに対応する。ジビニルベンゼンは第2架橋剤に対応する。2-オキソグルタル酸は重合開始剤に対応する。
次に、第2重合溶液に、AMPSゲルを浸漬した。このとき、第2重合溶液は、AMPSゲル内に導入され、拡散・浸透した。以下では、第2重合溶液が拡散・浸透したAMPSゲルを、拡散・浸透ゲルとする。
【0033】
次に、第2重合溶液から拡散・浸透ゲルを取り出し、適当な大きさに裁断した。次に、UVランプを用いて、拡散・浸透ゲルに紫外線を照射した。紫外線の波長は365nmである。UVランプの出力は22Wである。UVランプの出力電流は0.34Aである。紫外線の照射は、常温において8時間行った。このとき、拡散・浸透ゲルにおいて、第2重合溶液の成分であるN'N-ジメチルアクリルアミド及びジビニルベンゼンが重合し、ジビニルベンゼンが架橋して、第2網目構造が形成された。第2網目構造は、第1網目構造と絡み合っている。以上の工程により、ハイドロゲルが得られた。得られたハイドロゲルは、第1網目構造と、第2網目構造とが独立して形成されているダブルネットワークゲルである。得られたハイドロゲルを、平衡膨潤に達するまで純水内で静置した。さらに、ハイドロゲル内に未反応のモノマー等がなくなるまで純水で洗浄した。
【0034】
(3-2)実施例2、3、及び比較例1、2のハイドロゲルの製造
基本的には実施例1と同様にして、実施例2、3、及び比較例1、2のハイドロゲルを製造した。ただし、第1架橋剤及び第2架橋剤の種類において実施例1と相違する。なお、第1架橋剤の総モル数及び第2架橋剤の総モル数は、実施例1~3及び比較例1、2で同一である。
【0035】
実施例2における第1架橋剤及び第2架橋剤は、ジビニルベンゼンとN,N'-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)との混合物である。N,N'-メチレンビスアクリルアミドはアミド結合を有する。アミド結合は分解性結合に対応する。
【0036】
ジビニルベンゼンとN,N'-メチレンビスアクリルアミドとのモル比を、以下ではDVB/MBAAとする。実施例2における第1架橋剤及び第2架橋剤でのDVB/MBAAは、75/25である。
実施例3における第1架橋剤及び第2架橋剤は、ジビニルベンゼンとN,N'-メチレンビスアクリルアミドとの混合物である。実施例3における第1架橋剤及び第2架橋剤でのDVB/MBAAは、50/50である。
【0037】
比較例1における第1架橋剤及び第2架橋剤は、ジビニルベンゼンとN,N'-メチレンビスアクリルアミドとの混合物である。比較例1における第1架橋剤及び第2架橋剤でのDVB/MBAAは、25/75である。
【0038】
比較例2における第1架橋剤及び第2架橋剤は、N,N'-メチレンビスアクリルアミドのみである。
(3-3)比較例3、4のシングルネットワークハイドロゲルの製造
実施例1における第1重合溶液を用いて、比較例3のシングルネットワークハイドロゲルを製造した。比較例3のシングルネットワークハイドロゲルは、単一の網目構造を有する。また、実施例1における第2重合溶液を用いて、比較例4のシングルネットワークハイドロゲルを製造した。比較例4のシングルネットワークハイドロゲルは、単一の網目構造を有する。
【0039】
(3-5)圧縮試験
実施例1のハイドロゲル、及び比較例3、4のシングルネットワークハイドロゲルについて、圧縮試験を行った。圧縮試験には、株式会社オリエンテック社製のテンシロン万能試験機を用いた。圧縮試験の方法は以下のとおりである。
【0040】
ゲルから試験体を切り抜いた。試験体を試験機の圧縮試験治具で挟み、所定の圧縮速度で圧縮した。圧縮試験治具は、2枚の平らなプレートから成る。圧縮速度は、1分間で試験体の厚みの10%を圧縮する速度とした。上記の条件で、圧縮破断応力と、圧縮破断歪とを測定した。また、応力-歪み曲線のうち、歪み初期の部分における1次直線近似の傾きから、初期弾性率を算出した。圧縮破断応力、圧縮破断歪、及び初期弾性率の測定結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
実施例1のハイドロゲルは、比較例3、4のシングルネットワークハイドロゲルに比べて、初期弾性率及び圧縮破断応力が顕著に大きかった。この結果から、実施例1のハイドロゲルが、ダブルネットワークゲルであることが確認できた。
【0042】
(3-6)膨潤度の測定
実施例1のハイドロゲル、及び比較例3、4のシングルネットワークハイドロゲルについて、以下の式(2)により、膨潤度を求めた。求めた膨潤度を上記表1に示す。
【0043】
式(2) 膨潤度=膨潤させたゲルの重量(WW)/乾燥ゲルの重量(WD)
実施例1のハイドロゲルは、比較例3、4のシングルネットワークハイドロゲルに比べて、膨潤度が小さかった。
【0044】
(3-7)劣化試験
実施例1~3及び比較例1、2のハイドロゲルについて、劣化試験を行った。劣化試験の方法は以下のとおりである。
【0045】
ハイドロゲルの製造直後に弾性率を測定する。このときの弾性率をE1とする。次に、ハイドロゲルを、塩酸濃度が0.05mol/Lであり、pHが1.3である塩酸水溶液に、25℃で24時間浸漬する。この浸漬により、ハイドロゲル内に塩酸水溶液が浸透する。次に、ハイドロゲルを、塩酸濃度が0.05mol/Lであり、温度が60℃である塩酸水溶液にT時間浸漬する。Tは0~72の範囲内である。次に、ハイドロゲルを塩酸水溶液から取り出し、ハイドロゲルの弾性率を測定する。このときの弾性率をE2Tとする。以下の式(3)で定義される初期弾性率比XT(%)を算出する。
【0046】
式(3) X
T=(E2
T/E1)×100
初期弾性率比X
Tの測定結果を
図1に示す。
図1における「60℃×72hr後」は、Tが72時間である場合の初期弾性率比X
Tを表す。Tが72である場合の初期弾性率比X
Tは、初期弾性率比Xに対応する。
【0047】
実施例1~3のハイドロゲルにおける初期弾性率比X
Tは、比較例1、2のハイドロゲルにおける初期弾性率比X
Tより顕著に大きかった。
実施例1及び比較例2のハイドロゲルにおける初期弾性率比X
Tと、Tとの関係を
図2に示す。実施例1のハイドロゲルでは、Tが増加しても、初期弾性率比X
Tが低下し難くかった。それに対し、比較例2のハイドロゲルでは、Tが増加するにつれて、初期弾性率比X
Tが顕著に低下した。
【0048】
4.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0049】
(1)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0050】
(2)上述したハイドロゲルの他、当該ハイドロゲルを構成要素とする製品等、種々の形態で本開示を実現することもできる。