(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】腸内環境改善組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/48 20060101AFI20230323BHJP
A61K 36/06 20060101ALI20230323BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20230323BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230323BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20230323BHJP
【FI】
A61K36/48
A61K36/06 Z
A61P1/14
A61P1/04
A23L33/10
(21)【出願番号】P 2019544437
(86)(22)【出願日】2018-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2018031579
(87)【国際公開番号】W WO2019065038
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2017184430
(32)【優先日】2017-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100216286
【氏名又は名称】篠崎 史典
(72)【発明者】
【氏名】青木 秀之
(72)【発明者】
【氏名】亀田 剛旨
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 ふみ
(72)【発明者】
【氏名】宮島 彩
(72)【発明者】
【氏名】二井 広平
(72)【発明者】
【氏名】矢中 規之
(72)【発明者】
【氏名】カムランシー タナッチャポーン
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-107872(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038793(WO,A1)
【文献】Plant Foods for Human Nutrition,2013年,Vol.68,No.2,pp.177-183
【文献】甲子園大学紀要,2008年03月31日,No.35,pp.35-38
【文献】Applied Biochemistry and Biotechnology,2007年,Vol.136-140,pp.689-701
【文献】Inflammatory Bowel Diseases,2016年,Vol.22,No.12,pp.2802-2810
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A61P 1/14
A61P 1/04
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リゾプス(Rhizopus)属に属するリゾプス ストロニファー(Rhizopus stolonifer)及びリゾプス オリーゼ(Rhizopus oryzae)の少なくとも一種を用いてなる大豆発酵物又はその抽出物を有効成分とする腸内環境改善組成物であって、
腸内環境改善が、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属又はラクトバチルス(Lactobacillus)属の増殖促進によるものである腸内環境改善組成物。
【請求項2】
腸内環境改善が、腸内の有機酸量を増加によるものである、請求項
1に記載の腸内環境改善組成物。
【請求項3】
腸内環境改善が、潰瘍性大腸炎の抑制によるものである、請求項1
又は2に記載の腸内環境改善組成物。
【請求項4】
腸内環境改善組成物が飲食品である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の腸内環境改善組成物。
【請求項5】
リゾプス ストロニファー(Rhizopus stolonifer)及びリゾプス オリーゼ(Rhizopus oryzae)の少なくとも一種を使用し、大豆を発酵させることにより大豆発酵物を製造する工程を含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の腸内環境改善組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内環境改善組成物(又は、「腸内環境改善(用)組成物」)等に関する。
【背景技術】
【0002】
腸内環境は、腸内に生息する様々な細菌により形成されている。腸内に生息する常在菌には、腐敗菌などの有害菌の増殖抑制、外来病原菌の腸管感染防止、生体の免疫刺激、食物の消化や吸収に関係している細菌がいる。また、腸内の常在菌は、有機酸を産生することが知られている。腸内の常在菌により産生された有機酸は、大腸上皮細胞のエネルギー源、大腸粘膜の血流量増加、腸上皮の増殖促進作用などがあり、腸内機能改善に深く関わっている。一方、常在菌には、病原性のある細菌もあり、宿主の抵抗力が低下した際に、腸管から体内に侵入し敗血症、心内膜炎などの疾病を引き起こす原因とされている。また、有害菌が産生したアンモニア、硫化水素などが直接、腸管自体に害を与えると共に、体内に吸収され、発癌、動脈硬化、高血圧などの疾病を引き起こす原因とされている。さらに疾病の発症に腸内細菌が深く関与しているとされている疾病として、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患がある。炎症性腸疾患の潰瘍性大腸炎やクローン病の患者数は年々増加しているにも関わらず、発症する原因はまだ未解明であり、厚生労働省から難治療性疾患として指定されている。このように、腸内環境の健康と疾病の関係が注目されている。腸内環境に生息している常在菌の中で、特にヒトの健康維持のためには、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属とラクトバチルス(Lactobacillus)属が重要であり、大腸に一生涯に渡って、これらの有用菌が存在するような状態となることが理想的であるとされ、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属とラクトバチルス(Lactobacillus)属を優勢にし、有害菌をできるだけ抑えることが腸内環境改善にとって重要であり、ひいては、健康維持・長寿のために必要であるとされている。
【0003】
大豆発酵食品よる腸内環境改善に関しては、これまでに以下のような報告がされている。例えば、大豆発酵食品の納豆による腸内環境改善効果について報告されており、有効成分は、納豆菌であるバチルス(Bacillus)属の菌や納豆特有の成分であるポリ-γ-グルタミン酸によるものである。しかしながら、納豆菌であるバチルス属の菌では、腸内の有用菌であるビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属やラクトバチルス(Lactobacillus)属の増殖効果が認められていない(非特許文献1)。また、ポリ-γ-グルタミン酸では、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属が増殖するものの対象群と比較し、約1.5倍程度しか増殖効果が認められていないことやラクトバチルス(Lactobacillus)属の増殖は確認されていない(特許文献1)。
さらに、これら成分は、納豆特有の臭いや粘性があり摂取しにくいなどの問題がある。味噌などの大豆発酵食品には、潰瘍性大腸炎に効果があるとされている(1S,3S)-1-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロ-β-カルボリン-3-カルボン酸((1S,3S)MTCA)、(1R,3S)-1-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロ-β-カルボリン-3-カルボン酸((1R,3S)MTCA)が含有されていることが知られている。しかしながら、(1S,3S)MTCAや(1R,3S)MTCAによる、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属やラクトバチルス(Lactobacillus)属の増加については確認されていない(非特許文献2、特許文献2)
【0004】
リゾプス(Rhizopus)属の微生物による大豆発酵物の腸内環境改善効果に関しては、以下の報告がある。リゾプス ミクロスポラス(Rhizopus microsporus)で発酵させた大豆発酵物では、腸内のガス生成菌の増殖を抑制することによる整腸作用が報告されているが、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属やラクトバチルス(Lactobacillus)属の増加や潰瘍性大腸炎に対する効果については確認されていない(非特許文献3)。また、リゾプス ミクロスポラス(Rhizopus microsporus)で発酵させた大豆発酵物を高脂肪食と一緒に摂取させた場合、コントロール群と比較し、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の増殖が約3倍程度増加したことや腸内のコハク酸、酢酸などの有機酸が増加したことが報告されている(非特許文献4)。
しかし、ラクトバチルス(Lactobacillus)属などの他の腸内の有用菌に対する増殖効果や潰瘍性大腸炎に対する効果については確認されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-178764号公報
【文献】特許第5320083号
【非特許文献】
【0006】
【文献】腸内細菌学雑誌,18, 93(2004)
【文献】国際農林水産業研究成果情報, 8号,(2000)
【文献】日本醸造協会誌, 85巻, 358-363(1990)
【文献】Plant Food Hum. Nutr, 68, 177-183(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、腸内の有用菌であるビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属やラクトバチルス(Lactobacillus)属の優れた増殖効果、腸内有機酸の増加効果、及び潰瘍性大腸炎の抑制効果等を有する大豆発酵物又はその抽出物を有効成分とする腸内環境改善組成物を提供すること、及び、該腸内環境改善組成物の製造方法、摂取方法、使用方法等を提供することである。
【0008】
本発明者は、微生物による発酵物に着目し、鋭意研究を重ねた結果、インドネシアの伝統的発酵食品として知られる大豆発酵食品に用いられている、リゾプス ストロニファー(Rhizopus stolonifer)及びリゾプス オリーゼ(Rhizopus oryzae)の少なくとも一種を使用した大豆発酵物が、腸内の有用菌であるビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属やラクトバチルス(Lactobacillus)属の優れた増殖効果、腸内有機酸量の増加効果及び潰瘍性大腸炎の抑制効果を示し、その結果、該大豆発酵物を含む組成物に腸内環境改善作用があることを初めて見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、リゾプス ストロニファー(Rhizopus stolonifer)及びリゾプス オリーゼ(Rhizopus oryzae)の少なくとも一種を用いてなる大豆発酵物又はその抽出物を有効成分として含有する腸内環境改善組成物等に関する。
より具体的には、本発明は、以下の[1]~[6]の態様に関する。
[1]リゾプス(Rhizopus)属に属するリゾプス ストロニファー(Rhizopus stolonifer)及びリゾプス オリーゼ(Rhizopus oryzae)の少なくとも一種を用いてなる大豆発酵物又はその抽出物を有効成分とする腸内環境改善組成物。
[2]腸内環境改善が、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属又はラクトバチルス(Lactobacillus)属の増殖促進によるものである、態様[1]に記載の腸内環境改善組成物。
[3]腸内環境改善が、腸内の有機酸量の増加によるものである、態様[1]または[2]に記載の腸内環境改善組成物。
[4]腸内環境改善が、潰瘍性大腸炎の抑制によるものである、態様[1]~[3]のいずれかに記載の腸内環境改善組成物。
[5]腸内環境改善組成物が飲食品である、態様[1]~[4]のいずれかに記載の腸内環境改善組成物。
[6]リゾプス ストロニファー(Rhizopus stolonifer)及びリゾプス オリーゼ(Rhizopus oryzae)の少なくとも一種を使用し、大豆を発酵させることにより大豆発酵物を製造する工程を含む、態様[1]~[5]のいずれかに記載の腸内環境改善組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の大豆発酵物又はその抽出物を有効成分として含む腸内環境改善組成物は、腸内の有用菌であるビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属やラクトバチルス(Lactobacillus)属に対する優れた増殖効果、腸内有機酸量の増加効果、及び潰瘍性大腸炎の抑制効果等を奏し、該組成物は腸内環境の改善に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明は、リゾプス(Rhizopus)属の糸状菌であるリゾプス ストロニファー(Rhizopus stolonifer)及びリゾプス オリーゼ(Rhizopus oryzae)の少なくとも一種を用いてなる大豆発酵物又はその抽出物を有効成分とする腸内環境改善組成物に係る。
【0012】
本発明で使用される糸状菌は、リゾプス(Rhizopus)属に属する糸状菌である、リゾプス オリゼ(Rhizopus oryzae)、リゾプス ストロニファー(Rhizopus stolonifer)等が挙げられる。特に腸内環境改善効果の高いリゾプス ストロニファー(Rhizopus stolonifer)が望ましい。本発明で使用される糸状菌に属する具体的な菌株は、NBRC 及びATCCなどの公的な寄託機関又は法人に寄託されており、これらから容易に入手可能である。このような糸状菌株の好適例として、例えば、実施例で使用されているような、受託番号:NBRC4716及び受託番号:NBRC30816、並びに、受託番号:NBRC4770が付されて寄託されている糸状菌株が挙げられる。更に、本発明に於ける「リゾプス ストロニファー(Rhizopus stolonifer)及びリゾプス オリーゼ(Rhizopus oryzae)」には、これら糸状菌株から当業者に公知の任意の方法・手段で誘導される変異株であって、前記のように腸内環境改善作用効果を有する糸状菌も含まれる。大豆の発酵に際してはこれら糸状菌株の一種を単独又はそれらを組合せて使用してもよい。尚、リゾプス属の微生物は、インドネシアの伝統的発酵食品として知られるテンペの製造に古くから使われてきた糸状菌類であり、極めて安全な微生物であることが特徴である。
【0013】
本発明による大豆発酵物は、主原料である大豆の種類や製造方法、形状、添加物の種類等は特定のものに限定されるものではない。原料の大豆は、糸状菌が発酵できるものであればよく、産地としては、例えば日本産、中国産、北米産、南米産、インドネシア産の大豆等いずれもが使用できる。大豆発酵物の製造方法としては、まず大豆を酸性条件下で浸漬を行った後、脱皮を行う。浸漬時に使用する酸は、酢酸、クエン酸、乳酸、酒石酸等、食用の有機酸であればいずれも使用可能である。添加濃度は、リゾプス属の糸状菌の生育を阻害しない濃度であればよく、例えば酢酸であれば約0.2~0.5重量%が好ましく、より好ましくは約0.5重量%である。浸漬処理した大豆について脱皮を行うが、原料中に大豆の外皮が残存しないことが望ましい。また、原料大豆に脱皮大豆を使用することにより、脱皮工程を省くことも可能である。このようにして得られた浸漬処理済み脱皮大豆は、酸性液中で水煮及び圧力蒸煮を行うが、水煮の時間は約15~90分程度が好ましく、より好ましくは約30分である。加圧蒸煮条件は約110~125℃、約2~5分間加圧蒸煮が好ましく、より好ましくは約121℃、約2~3分間である。該加圧蒸煮した大豆を冷却後、リゾプス属の糸状菌の胞子懸濁液若しくは凍結乾燥菌体等を植菌する。胞子懸濁液、凍結乾燥菌体等の添加量は、約0.1~5.0重量%が好ましく、約0.2~3.0重量%がより好ましい。種菌添加後、よく混合し、これを表面に数十カ所穴を開けたポリ袋に厚さ約1.5cm 程度となるように充填する、若しくは同様の厚さにステンレストレー上に充填し、発酵する。発酵条件としては、温度は約20~45℃、好ましくは約25~40℃ である。また、湿度はRH約60~98%で、好ましくはRH約70~90%である。初発pHは約3.0~7.0で、好ましくは約5.0~6.0である。発酵時間は約10~120時間で、好ましくは約24~72時間である。該条件で発酵させることにより、以下に示すような腸内環境改善効果を有する大豆発酵物を得ることができる。
【0014】
該大豆発酵物はそのままの形態でも利用可能であるが、更に、加熱殺菌、マイクロ波殺菌等を行っても利用可能である。また、必要に応じてこれらをペースト状にしたり、凍結乾燥、風乾等による乾燥品としたり、さらに乾燥品を粉砕後、粉末状にしたり、熱水抽出を含む水抽出や溶媒抽出を行い抽出物としても利用可能である。
【0015】
本発明の大豆発酵物又はその抽出物を有効成分として含む腸内環境改善組成物は、以下に示す効果(腸内環境改善作用)を有する。
即ち、腸内の有用菌の優れた増殖効果を有する。腸内細菌とは、例えば、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属のビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifdum)、ビフィドバクテリウム ブレビ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)等、ラクトバチルス(Lactobacillus)属のラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、及びラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei)等が挙げられる。
更に、該組成物は、腸内の有機酸、例えば、コハク酸及び酢酸等の量を有意に増加させる効果を有する。
又、該組成物は、体重の増加、並びに、DAIスコア及び各種の炎症メディエーターの減少に示されるように潰瘍性大腸炎を抑制(改善)する効果を有する。
以上のことから、該大豆発酵物又はその抽出物を有効成分とする本発明の組成物は、腸内環境改善組成物として有用である。
従って、本発明は、「腸内環境改善」若しくは上記の少なくともいずれか一つも効果、又はそれらと実質的に同義の作用・効果を有する旨の表示が付された腸内環境改善組成物にも係る。
【0016】
本発明の腸内環境改善組成物は任意の形態の飲食品として提供することが出来る。例えば、豆乳、コーヒー等の飲料、ビスケット、キャンディ、チョコレート等の菓子、ハンバーグ、コロッケ等の惣菜、ヨーグルト、チーズ等の乳製品、味噌、醤油等の調味料のほか、タブレット、カプセル、顆粒等の健康食品に使用できる。なお、該腸内環境改善組成物の用途・利用方法に関しては、上記の飲食品の例になんら限定されるものではない。
【0017】
本発明の腸内環境改善組成物には、上記の大豆発酵物又はその抽出物である有効成分に加えて、その用途・利用方法等に応じて当業者に公知の任意の成分を更に含むことが出来る。
例えば、腸内環境改善組成物が飲食品である場合には、必要に応じて、賦形剤、界面活性剤、滑沢剤、酸味料、甘味料、矯味剤、香料、着色剤、安定化剤など食品衛生上許容されるその他の任意の成分を含むことが出来る。
又、該腸内環境改善組成物に於ける有効成分の含有量は、本発明の所望の効果が奏功される限り、該組成物の形態・用途等に応じて、当業者が適宜決めることが出来る。例えば、約0.001~100重量%である。
【0018】
従って、飲食品である本発明の腸内環境改善組成物は、当業者に公知の方法・手段によって、上記の大豆発酵物又はその抽出物を、例えば、粉末状態、エキス状態、ペースト状態等の任意の状態にし、これを各種食品・加工食品、飲料、健康食品等に添加又は混合等することにより、又は、上記の任意の成分等と共に飲食品の製造方法・手段に供することよって容易に製造することが出来る。
また、その他の用途・利用方法を有する本発明の腸内環境改善組成物についても、当該技術分野に於いて公知の任意の製造方法・手段によって容易に製造することが出来る。
【0019】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
脱皮大豆100gに対して、5倍量の3%醸造酢水溶液を加え、室温、一晩、浸漬処理を行った。浸漬処理後、水切りすることにより、浸漬大豆160gを得た。浸漬大豆160gに水道水320gを加え、圧力鍋を使用して、100℃にて10分間蒸煮処理を行った。蒸煮処理後、水切りすることにより、蒸煮大豆200gを得た。40℃以下まで冷却した蒸煮大豆100gに対して、リゾプス ストロニファー(Rhizopus stolonifer、以下、「R.stolonifer」と略記)NBRC30816 の胞子懸濁液を1×106個の胞子数になるように添加し、十分に混合することにより種付処理を行った。これを穴開き袋に充填し、32℃に設定した恒温槽内で、40時間発酵処理を行った。発酵処理後、90℃、30分間の殺菌を行い、さらに凍結乾燥を行い、大豆発酵粉末RSを得た(実施品1)。
【実施例2】
【0021】
R.stoloniferに代えてリゾプス オリーゼ(Rhizopus oryzae、以下、「R. oryzae」と略記)NBRC4716の胞子懸濁液を使用して実施例1と同様に処理することにより、大豆発酵粉末ROを得た(実施品2)。
【0022】
「比較例1」
R.stoloniferに代えてリゾプス ミクロスポラス(Rhizopus microsporus 、以下、「R.microsporus」と略記) NBRC32002の胞子懸濁液を使用して実施例1と同様に処理することにより、大豆発酵粉末RMを得た(比較品1)。
【実施例3】
【0023】
平均体重109gの4週齢Sprague Dawley雄ラットを、各群10匹ずつに分け、1週間の予備飼育後に、実施品1、実施品2及び、比較品1の発酵大豆粉末を20%含む高脂肪食(脂肪30%:実施品1又は実施品2を含むものは本発明の腸内環境改善組成物に相当する)を21日間継続摂取させた。尚、対照群として、発酵大豆粉末を含まない高脂肪食(脂肪30%)を摂取させた。飼育終了後、当業者に公知の標準的な方法により、盲腸内容物を採取、盲腸内容物中の腸内細菌DNAを抽出し、盲腸内のビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属とラクトバチルス(Lactobacillus)属の遺伝子定量解析による菌体量の割合(%)、及び、盲腸内の有機酸(コハク酸、酢酸、総有機酸)量を測定した。その結果を以下の表1及び表2に示す。
リゾプス ストロニファー(R. stolonifer)を使用した大豆発酵物である実施品1を摂取させた場合は、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属及びラクトバチルス(Lactobacillus)属の菌体量の割合(%)が、比較品1を摂取させた場合と比較して、各々、5倍及び10倍と顕著に増加した。さらにコハク酸、酢酸、総有機酸の量においても、実施品1を含む組成物を摂取させた場合は、比較品1を含む組成物を摂取させた場合と比べて増加した。
また、リゾプス オリーゼ(R. oryzae)を使用した大豆発酵物である実施品2を含む組成物を摂取させた場合は、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属及びラクトバチルス(Lactobacillus)属の菌体量の割合(%)が、比較品1を含む組成物を摂取させた場合と比較して、各々、3倍及び2倍と顕著に増加した。さらにコハク酸、酢酸、総有機酸の量においても、実施品2を含む組成物を摂取させた場合は、比較品1を含む組成物を摂取させた場合に比べて増加した。
以上のことから、リゾプス ストロニファー(R. stolonifer)及びリゾプス オリーゼ(R. oryzae)を使用した大豆発酵物(実施品1及び実施品2)を含む本発明の組成物は、従来のリゾプス ミクロスポラス(R. microsporus)による大豆発酵物(比較品1)を含む組成物に比べて、優れたビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属及びラクトバチルス(Lactobacillus)属の増殖効果を有すると共に、盲腸内の有機酸の量を増加させる効果があることが認められた。
【0024】
【0025】
【実施例4】
【0026】
平均体重71.1gの4週齢Sprague Dawley雄ラットを、各群7匹ずつに分け、実施品1の発酵大豆粉末を20%含む高脂肪食(脂肪30%)又は、対照群である高脂肪食(脂肪30%)を1週間摂取させた後、5週齢より2%デキストラン硫酸ナトリウムを含む飲料を21日間継続摂取させた。大腸炎発症期間においても、上記飼料を継続的に摂取させた。当業者に公知の標準的な方法により、飼育中、体重変化、血便などの腸炎の状態を示すDisease Activity Index Score(DAIスコア)の測定を行った。また、飼育終了後、腸の炎症メディエーターであるインターロイキン-17(IL-17)、インターロイキン-6(IL-6)、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の測定を行った。その結果を以下の表3に示す。
リゾプス ストロニファー(R. stolonifer)を使用した大豆発酵物である実施品1を含む組成物は、対照群と比較して、有意に体重を増加させると共に、DAIスコア及び、炎症メディエーター(IL-17、IL-6、COX-2)の値を減少させていた。
以上のことから、リゾプス ストロニファー(R. stolonifer)を使用した大豆発酵物は、優れた潰瘍性大腸炎の改善(抑制)効果を有することが認められた。
【0027】
【0028】
以上の結果が示すように、本発明の腸内環境改善組成物は、既存のリゾプス ミクロスポラス(Rhizopus microsporus)による大豆発酵物を含む組成物に比べて、優れた腸内環境改善効果を有する。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明で使用する大豆発酵物には特有の臭いや粘性がないため、それを含む腸内環境改善組成物を、例えば、摂取しやすい飲食品として提供することが出来る。