(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】油性食品用分配包装体および蓋材用積層フィルム
(51)【国際特許分類】
B65D 77/20 20060101AFI20230323BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230323BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
B65D77/20 L
B65D77/20 K
B32B27/00 H
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2019086072
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2021-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593040298
【氏名又は名称】株式会社ディスペンパックジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智紀
(72)【発明者】
【氏名】吉田 格
【審査官】吉澤 秀明
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-035449(JP,A)
【文献】特開2016-199745(JP,A)
【文献】特開2006-036347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 77/20
B32B 27/00
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の中央部に吐出手段、および、折り曲げ線を有する蓋材と、前記蓋材の裏面に周縁部を固着され前記折り曲げ線の両側にポケット部を形成する可撓性部材からなる容器体とからなる分配包装体であって、
前記蓋材は、共重合ポリエステル系樹脂を含む表層、中間層として、ポリスチレン系樹脂を含む層、および、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物樹脂を含む層の少なくとも2層、接着樹脂層(A)、ならびに、ポリエチレン系樹脂を
主成分として含むシール層をこの順に備え、下記(I)~
(V)を満たす、油性食品用分配包装体。
(I)前記中間層のポリスチレン系樹脂を含む層が、前記中間層の厚さの割合の50%以上
(II)前記エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物樹脂のエチレン含有率が47モル%以下
(III)前記接着樹脂層(A)を構成する接着性樹脂の、測定温度220℃、測定荷重21.17Nで測定されるMFRが
3.0g/10分以下
(IV)前記ポリエチレン系樹脂が、高密度ポリエチレン(HDPE)である
(V)接着性樹脂層(A)が、接着性樹脂を主成分として含み、アルカリ土類金属塩を含まない
【請求項2】
前記ポリスチレン系樹脂が、汎用ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、スチレン・ブタジエンブロックコポリマーのいずれか1種類以上である、請求項1記載の油性食品用分配包装体。
【請求項3】
前記ポリスチレン系樹脂を含む層が、耐衝撃性ポリスチレン、スチレン・ブタジエンブロックコポリマーのいずれか1種類以上を10質量%以上90質量%以下含む、請求項1または請求項2に記載の油性食品用分配包装体。
【請求項4】
表面の中央部に吐出手段、および、折り曲げ線を有する蓋材と、前記蓋材の裏面に周縁部を固着され前記折り曲げ線の両側にポケット部を形成する可撓性部材からなる容器体とからなる油性食品用分配包装体を形成するための蓋材用積層フィルムであって、
前記蓋材用積層フィルムは、共重合ポリエステル系樹脂を含む表層、中間層として、ポリスチレン系樹脂を含む層、および、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物樹脂を含む層の少なくとも2層、接着樹脂層(A)、ならびに、ポリエチレン系樹脂を
主成分として含むシール層をこの順に備え、下記(I)~
(V)を満たす、蓋材用積層フィルム。
(I)前記中間層のポリスチレン系樹脂を含む層が、前記中間層の厚さの割合の50%以上
(II)前記エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物樹脂のエチレン含有率が47モル%以下
(III)前記接着樹脂層(A)を構成する接着性樹脂の、測定温度220℃、測定荷重21.17Nで測定されるMFRが
3.0g/10分以下
(IV)前記ポリエチレン系樹脂が、高密度ポリエチレン(HDPE)である
(V)接着性樹脂層(A)が、接着性樹脂を主成分として含み、アルカリ土類金属塩を含まない
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の層構成を有する蓋材を使用してなる、油性食品等の包装に好適に使用できる分配包装体および蓋材用積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面の中央部にハーフカット部を設けた折り曲げ線と突起状の吐出手段とを有する硬質材の蓋材と、その蓋材の裏面に周縁部を固着され折り曲げ線の両側にポケット部を形成する可撓性部材の容器体とから成る分配包装体が各種の分野で広く使用されている。内容物の充填は、可撓性部材の深絞り成形によるポケット部の形成の際に行われ、内容物の取出は、ポケット部をはさむように蓋材をV字状に折り曲げることによってハーフカットを破断させることによって行う。すなわち、破断した箇所が開口部となり、当該開口部からポケット部に充填されていた内容物を簡単に取り出すことができる。
【0003】
図1に例示された分配包装体100それ自体は、本出願人の1人によって既に提案されており、特許文献1に記載されて公知である。本発明においては、前記の基本的な構造を有する限り、他の分配包装体であってもよい。このような分配包装体としては、例えば、特許文献2~4に記載の各分配包装体が挙げられる。何れも本出願人の1人によって提案されたものである。また、分配包装体の蓋材は特許文献5に記載されているが、油性成分が多い食品などを使用した際の課題などは言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-18493号公報
【文献】特開2001-180761号公報
【文献】特開2001-335071号公報
【文献】特開2013-091508号公報
【文献】特開2006-35449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来本分配包装体は、食品や調味料等の包装に使用されており、具体的には、マヨネーズやケチャップ、マスタード、ジャムなどの包装体に使用されてきた。しかし、ドレッシングなど、特に油性成分が多い液体状の食品などに使用する際、特に蓋材側に内容物が浸透し、包装体が破れたり、内容物が漏れ出したりするという不具合が起こる懸念があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定の層構成を有する蓋材を分配包装体に使用することによって、上記課題を解決し得る分配包装体を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0007】
第1の本発明は、表面の中央部に吐出手段、および、折り曲げ線を有する蓋材と、前記蓋材の裏面に周縁部を固着され前記折り曲げ線の両側にポケット部を形成する可撓性部材からなる容器体とからなる分配包装体であって、
前記蓋材は、共重合ポリエステル系樹脂を含む表層、中間層として、ポリスチレン系樹脂を含む層、および、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物樹脂を含む層の少なくとも2層、接着樹脂層(A)、ならびに、ポリエチレン系樹脂を含むシール層をこの順に備え、下記(I)~(III)を満たす、油性食品用分配包装体である。
(I)前記中間層のポリスチレン系樹脂を含む層が、前記中間層の厚さの割合の50%以上
(II)前記エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物樹脂のエチレン含有率が47モル%以下
(III)前記接着樹脂層(A)を構成する接着性樹脂の、測定温度220℃、測定荷重21.17Nで測定されるMFRが5.0g/10分以下
【0008】
上記本発明において、前記ポリスチレン系樹脂が、汎用ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、スチレン・ブタジエンブロックコポリマーのいずれか1種類以上であることが好ましい。
【0009】
上記本発明において、前記ポリスチレン系樹脂を含む層が、耐衝撃性ポリスチレン、スチレン・ブタジエンブロックコポリマーのいずれか1種類以上を10質量%以上90質量%以下含むことが好ましい。
【0010】
第2の本発明は、表面の中央部に吐出手段、および、折り曲げ線を有する蓋材と、前記蓋材の裏面に周縁部を固着され前記折り曲げ線の両側にポケット部を形成する可撓性部材からなる容器体とからなる油性食品用分配包装体を形成するための蓋材用積層フィルムであって、
前記蓋材用積層フィルムは、共重合ポリエステル系樹脂を含む表層、中間層として、ポリスチレン系樹脂を含む層、および、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物樹脂を含む層の少なくとも2層、接着樹脂層(A)、ならびに、ポリエチレン系樹脂を含むシール層をこの順に備え、下記(I)~(III)を満たす、蓋材用積層フィルムである。
(I)前記中間層のポリスチレン系樹脂を含む層が、前記中間層の厚さの割合の50%以上
(II)前記エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物樹脂のエチレン含有率が47モル%以下
(III)前記接着樹脂層(A)を構成する接着性樹脂の、測定温度220℃、測定荷重21.17Nで測定されるMFRが5.0g/10分以下
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、所定の層構成を有する蓋材を分配包装体に使用することによって、油性成分が多い食品(油性食品)などに使用する際、蓋材側に内容物が浸透し、包装体が破れたり、内容物が漏れ出したりするという事がない、ドレッシングなどの油性食品等の包装に好適に使用できる分配包装体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(a)及び(b)は分配包装体100の一例の平面説明図と側面説明図である。
【
図2】
図2は突起の尖端部が開口した吐出開口の説明図である。
【
図3】
図3は分配包装体の蓋材10を形成するための積層体であってハーフカット部12aが設けられているものの断面説明図である。
【
図4】
図4は分配包装体100の容器体20を形成するための可撓性部材の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
ただし、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
なお、本明細書において、「主成分」とは、各層を構成する成分の合計を100質量%したとき、50質量%以上を占める成分であることを示し、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。
また、「X~Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含するものである。
また、本明細書における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含するものとする。
【0015】
まず、主として、
図1または
図2に基づき本発明の分配包装体100の概要について説明する。
【0016】
<分配包装体100>
本発明の分配包装体100について説明する。本発明の分配包装体100とは、表面の中央部に吐出手段13、および、折り曲げ線12を有する蓋材10と、その蓋材10の裏面に周縁部を固着され折り曲げ線12の両側にポケット部28、28を形成する可撓性部材からなる容器体20とからなる。
分配包装体の蓋材10は、表面の中央部にハーフカット部12aを設けた折り曲げ線12と突起状の吐出手段13とを有する所定の層構成の積層体から構成される。
【0017】
蓋材10は、容器体20を構成する可撓性部材よりも相対的に硬く、分配包装体100を指でつまんで折り曲げ線12で折り曲げることができ且つ突起状の吐出手段13を開口させるようにできる硬さを有する。また、容器体20を構成する可撓性部材は、蓋材10よりも相対的に柔らかく、分配包装体100を指でつまんで折り曲げ線12で折り曲げたときに、折れ曲がった蓋材10の押圧で潰れて内容物を開口した突起状の吐出手段13から吐出できるように変形することができる材料である。
【0018】
また、蓋材10の表面の「中央部」とは、例えば、蓋材10が長方形の場合には、対向する長辺の中点を結んだ線を含む領域であり、正方形の場合には、対向する辺の中点を結んだ線を含む領域または一つの対角線を含む領域であり、菱形の場合には、短対角線を含む領域であり、円の場合には、円の中心を通る一つの直線を含む領域であり、楕円の場合には、長径の中心を通り、長径に対して垂直な直線を含む領域であるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
蓋材10の吐出手段13は、ハーフカット部12aを設けた折り曲げ線12上に設ければよく、分配包装体100の使用目的に応じ、1個または複数個設けてもよい。突起状の吐出手段13の形状は、分配包装体100の蓋材10を下側に向けてその両端を折り曲げ線12を中心として指でつまんでV字型に折り曲げることにより、突起状の吐出手段13の頂点より開口していくような形状であればよい。例えば、
図1のように凸形状でもよく、三角錐形状、四角錐形状、半円球形状などでもよい。突起状の吐出手段13の形成は、通常、ハーフカット処理の後に、金型成形法で加熱変形させることにより形成することができる。
【0020】
分配包装体100の容器体20は、前記蓋材10の裏面に周縁部を固着され折り曲げ線12の両側にポケット部28,28を形成されたものであり、可撓性部材により構成される。
容器体20は、蓋材10の裏面にその周縁部(図示せず)が融着されている。ポケット部28、28は、分配包装体100の使用目的に応じ、例えば、折り曲げ線12の両側にそれぞれ1個、あるいはその他複数個設けることができる。また、折り曲げ線12の両側にあるポケット部28、28同士を連通させて、折り曲げ線を跨いで一個のポケット部28を形成してもよい。
【0021】
蓋材10の厚さは、分配包装体100の蓋材10として通常用いられている蓋材の厚さ範囲と同様とすることができ、具体的には、通常250μm以上700μm以下、好ましくは250μm以上500μm以下である。このようにすれば、分配包装体100の蓋材10としての良好な開口性や蓋材10を構成する積層体の成形性を損なうことなく、適度なコシ及び触感を持たせて、分配包装体100としての商品価値を保持することができる。
【0022】
蓋材10の表面には、蓋材10を補強したり、開封時の滑り止め、または、意匠性付与のために、リブ14を形成したりしてもよい。リブの形状は特に限定されないが、例えば、
図1に示したように線状リブとすることができる。
【0023】
<蓋材10>
本発明の分配包装体100を構成する蓋材10は、共重合ポリエステル系樹脂を含む表層15、中間層16として、ポリスチレン系樹脂を含む層16a、および、エチレン- 酢酸ビニル共重合体ケン化物樹脂を含む層16bの少なくとも2層、接着樹脂層(A)17、ならびに、ポリエチレン系樹脂を含むシール層18をこの順に備えることが必要である。
なお、上記各層を備えた積層フィルムを、蓋材用積層フィルムという。蓋材用積層フィルムの層構成を
図3に示す。以下、それぞれの層について説明する。
【0024】
(表層15:共重合ポリエステル系樹脂を含む層)
本発明の蓋材10の表層15は、蓋材10の外側(可撓性部材からなる容器体20側(内容物側)とは反対側)に配置される層であり、グラビア印刷法やフレキソ印刷法などにより印刷インクを受容し、印刷層が形成される層である。また、中間層16を保護する機能も有する層である。このような蓋材10の表層15は、良好な印刷適性、印刷安定性を示す熱可塑性樹脂により構成することができ、中でもそれらの特性について特に優れている共重合ポリエステル系樹脂により構成される。通常、表層15は、共重合ポリエステル系樹脂を主成分として含むことが好ましく、同種、異種の共重合ポリエステル系樹脂を含んでいてもよいし、2層以上から構成されていてもよい。
【0025】
表層15に使用する共重合ポリエステル系樹脂は、共重合されたポリエステル系樹脂であればよいが、耐熱性、印刷特性などを考慮し、ポリエステル樹脂を構成するユニット100モル%中にエチレンテレフタレートユニットが好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上であることが好ましい。
具体的には、多価カルボン酸成分100モル%中にテレフタル酸成分を主成分として含むことが好ましい。多価アルコール成分100モル%中にエチレングリコール成分を50~95モル%含むことが好ましく、60~90モル%含むことがより好ましい。
【0026】
上記多価カルボン酸成分を構成する多価カルボン酸類としては、上述のテレフタル酸およびそのエステルの他に、芳香族ジカルボン酸、それらのエステル形成誘導体、脂肪族ジカルボン酸などが利用可能である。芳香族ジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、ナフタレン-1,4-ジカルボン酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などが挙げられる。またこれらの芳香族ジカルボン酸やテレフタル酸のエステル誘導体としてはジアルキルエステル、ジアリールエステルなどの誘導体が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸としては、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シュウ酸、コハク酸などや、通常ダイマー酸と称される脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0027】
上記多価アルコール成分を構成する多価アルコール類としては、上述したエチレングリコールの他に、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-プロパンジオール、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオールなどのアルキレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、ダイマージオール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノール化合物またはその誘導体のアルキレンオキサイド付加物なども併用できる。
【0028】
表層15に使用する共重合ポリエステル系樹脂として、より具体的には、多価カルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とし、多価アルコール成分としてエチレングリコール以外に、該多価アルコール成分100モル%中に1,4-シクロヘキサンジメタノール成分を5モル%以上、好ましくは10~80モル%、より好ましくは15~60モル%、特に好ましくは、20~50モル%含む非結晶性の共重合ポリエステル系樹脂を使用することが好ましい。1,4-シクロヘキサンジメタノール成分を5モル%以上含むことで、印刷適性や耐衝撃性が良好となるため好ましい。また、1,4-シクロヘキサンジメタノール成分を80モル%以下とすることで、共重合ポリエステル系樹脂の非晶化度を高め、フィルムの耐衝撃強度が充分となり、コストの面からも好ましい。
【0029】
表層15の厚さは、分配包装体100の蓋材10として通常用いられている表層の厚さの範囲であればよく、好ましくは10μm以上50μm以下、より好ましくは10μm以上40μm以下である。蓋材10の表層15の厚さが10μm以上とすることで、蓋材10を構成する積層体の表面強度が充分となり、蓋材10の表層15と共に印刷層が剥落することがなく好ましい。一方、厚さが50μm以下とすることで、中間層16に入れるハーフカット12aの調整が容易になるため好ましい。
【0030】
(中間層16)
蓋材10は、中間層16として、ポリスチレン系樹脂を含む層16a、および、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物樹脂を含む層16bの少なくとも2層を有することが重要である。
【0031】
・ポリスチレン系樹脂を含む層16a
ポリスチレン系樹脂(以下「PS系樹脂」と記すことがある。)を含む層16aは、蓋材10に強度と開口性とを付与する層である。適度に割れ性を有するPS系樹脂を配することによって、分配包装体100を折り曲げた際の適度な開封性を発現させることができる。PS系樹脂を含む層16aを構成するPS系樹脂としては、具体的には、汎用ポリスチレン(以下「GPPS」と記すことがある。)、耐衝撃性ポリスチレン(以下「HIPS」と記すことがある。)、スチレン・ブタジエンブロックコポリマーのいずれか、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0032】
ここで、GPPSは、ゴム成分を含まず、割れやすい特性を有する。一方、HIPSは、ゴム成分がブレンドされているので、割れにくい性質を持っている。したがって、GPPSとHIPSとのブレンド比を適切にコントロールすることによって、分配包装体100を開口する際の蓋材10に生じる割れ性を調節することができる。GPPSとHIPSの配合比は、質量比で好ましくは10:90~70:30、さらに好ましくは10:90~80:20とすることが望ましい。GPPSとHIPSの配合比を上記の配合比にすることで、輸送中の意図しない開封を抑制できるとともに、折り曲げた際の適度な開封性を発現することができる。
【0033】
PS系樹脂を含む層16aの厚さは、分配包装体100の蓋材10に通常用いられているPS系樹脂層の厚さ範囲と同様とすることができ、通常150μm以上500μm以下、好ましくは200μm以上400μm以下である。150μm以上とすることで、分配包装体100の蓋材10として使用した際に良好な開口性を得ることできる。一方、必要以上に厚くする必要性もないことから、上限は500μm以下であることが好ましい。
なお、蓋材10を構成する積層体の好ましい厚さが250μm以上700μm以下であることから、積層体においてPS系樹脂を含む層16aは主構成層となっており、中間層16において、PS系樹脂を含む層16aは、中間層16全体の厚みを100%として、50%以上の厚みであることが必要である。
【0034】
また、PS系樹脂を含む層16aは、蓋材10に生じる割れ性を調節するものでもあるので、ハーフカット部12aを設けた折り曲げ線12を有する蓋材10においては、通常、ハーフカット部12aを表層15側からPS系樹脂を含む層16aに達するまで形成することが好ましく、さらに、ハーフカット部12aの深さをPS系樹脂を含む層16aの表層15側から、PS系樹脂層の厚みの10~90%の深さとなるまでカットを入れることが好ましい。
【0035】
・エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物樹脂を含む層16b
エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物樹脂(以下、「EVOH」と記すことがある)を含む層16bは、酸素バリア性を示すとともに、油の浸透を防止する層である。このEVOHを含む層16bはPS系樹脂を含む層16aにドライラミネーション法や共押出法等により積層される。
【0036】
EVOHを含む層16bを構成するEVOHは、エチレン含有率が47モル%以下であることが必須である。好ましくはEVOHのエチレン含有率は、29~47モル%であり、より好ましくは32~44モル%である。
EVOHのエチレン含有率を47モル%以下にすることで、油の浸透を抑制することができ、PS系樹脂を含む層16aとEVOH層16bとのデラミネーションを抑制することができる。
また、EVOHのケン化度は、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましい。ケン化度が90モル%以上であることによりガスバリア性が充分となる。
【0037】
EVOHのエチレン含有率を上記の範囲に保つことにより、内容物である油の浸透を防ぎ、エチレン含有率とケン化度を保つことで蓋材10を構成する積層体の共押出性、および、強度を良好なものとすることができる。また、EVOHを含む層16bの厚さは2~15μmであることが好ましく、さらに好ましい範囲は3~12μmであり、特に好ましくは5~10μmである。EVOHを含む層16bの厚さの下限を2μm以上とすることで内容物の漏れを防ぎ、良好な酸素バリア性を保つことができる。一方、EVOH層16bの厚さの上限を15μm以下とすることで、フィルムの製膜性が良好となり、フィルム強度も充分となる。
【0038】
中間層16として、PS系樹脂を含む層16aとEVOHを含む層16bとの間に、接着樹脂層(B)を有すること好ましい。これにより、PS系樹脂を含む層16aとEVOHを含む層16bとの接着性を良好にできる。接着樹脂層(B)を構成する接着樹脂は、PS系樹脂を含む層16aとEVOHを含む層16bとを接着できれば、特に限定されず、例えば、変性ポリオレフィン樹脂を挙げることができる。変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、カルボキシル基を有するオレフィン系共重合体が好ましく、特にエチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリン酸共重合体、無水マレイン酸変性ポリエチレンなどが適している。
【0039】
また、EVOHを含む層16bには、その機能を失わない範囲で接着樹脂など他の熱可塑性樹脂を適宜必要に応じて添加することができる。接着樹脂としては、上記接着樹脂層(B)を構成する接着樹脂を用いることができる。
ガスバリア性を失わない範囲としてEVOHを含む層16bに添加される接着性樹脂の添加量は20wt%以下が好ましい。
【0040】
(シール層18:ポリエチレン系樹脂を含む層)
蓋材10の裏面(内容物側の面、容器体20とシールする側の面)となるべきシール層18は、後述する可撓性部材からなる容器体20と溶着するためのものであり、従来の分配包装体の蓋材のシール層と同様の構成とすることができ、ポリエチレン系樹脂(PE)を含む層であることが必要である。例えば、シール層18として、高密度ポリエチレン(HDPE)からなる単層のシール層18としてもよく、容器体20とのシール性と、蓋材10の開口性を付与することができる。
また、シール層18は、同種又は異種の2層以上のPEを含む層(PE層)から構成してもよい。具体的には、シール層18をPE層から形成する際に、内容物側のPEアウター層とその内側のPEインナー層との複層構造としてもよい。かかる二層構造のPE層としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、あるいはLDPEとHDPEをブレンドしたものを使用することができる。
【0041】
シール層18として、LDPEとHDPEとのブレンド物を用いる場合、LDPEとHDPEの配合比は、層厚と、PEアウター層及びPEインナー層のそれぞれに要求される特性とを考慮した上で行うことが好ましい。
即ち、PEアウター層は、シール層18の内容物側に位置するから、可撓性部材からなる容器体20とのシール性および適度な開口性を確保する必要があり、そのため、LDPEの配合比を高くすることが好ましい。一方、PEインナー層は、中間層16のPS系樹脂層16aの割れに伴って、層(膜)の「切れ」の伝播が良好に行われる必要があり、そのため、HDPEの配合比を高くすることが好ましい。
具体的には、PEアウター層のLDPEとHDPEの配合比は、質量比で40:60~80:20であることが好ましく、50:50~80:20であることがより好ましく、60:40~80:20であることがさらに好ましい。一方、PEインナー層のLDPEとHDPEの配合比は、質量比で60:40~20:80であることが好ましく、50:50~20:80であることがより好ましく、40:60~20:80であることがさらに好ましい。
このようなPEアウター層及びPEインナー層とすることによって、分配包装体100を開口する際の蓋材10に生じる割れ性の調節が容易になる。また、LDPEとHDPEとのブレンド物を用いることによって、LDPEにより蓋材用積層フィルム製膜時に溶融張力を高めることができ製膜性が安定化し、HDPEによって開口時の易割性に優れた蓋材10を得ることが可能になる。
【0042】
なお、LDPEは、密度が0.92g/cm3以上のものが好ましく、HDPEは、密度0.95g/cm3以上のものが好適に使用される。密度を高くすることにより、PE層により良好な裂け性を付与することができる。
【0043】
シール層18の厚さは、薄すぎると良好なシール性を実現することが困難となり、厚すぎると開口時の良好な切れを実現することが困難になるので、好ましくは10μm以上40μm以下である。特に、シール層18をPEアウター層とPEインナー層とから構成した場合、それぞれの厚さを好ましくは5μm以上20μm以下とする。これにより、開口時の切れを良好に保ちつつ、同時に良好なシール性も保持することが可能となる。
【0044】
(接着樹脂層(A)17)
蓋材10において、EVOHを含む層16bとシール層18との間に接着樹脂層(A)17を配する。接着樹脂層(A)17を構成する接着樹脂は、EVOHを含む層16bとシール層18とを必要な強度に接着することができれば特に限定されないが、不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたポリオレフィン系樹脂が好適に用いられる。
【0045】
かかる不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸等が挙げられる。またこれら不飽和カルボン酸のエステルや無水物も用いることができる。更に誘導体としてアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、酢酸ビニル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸ナトリウム等を挙げることができる。このような接着樹脂としては、例えば、三井化学社製、商品名アドマーが市販されており、これを使用するのが好ましい。直鎖状低密度ポリエチレン(以下「LLDPE」と記すことがある。)タイプのものが好適に使用される。また、測定温度220℃、測定荷重21.17Nで測定されるMFRが5.0g/10分以下であることが必要であり、3.0g/10分以下であることが好ましい。MFRを5.0g/10分以下にすることによって分配包装体100を作製する際のEVOHを含む層16bの樹脂流れが抑制でき、EVOHを含む層16bが局部的に薄くなることを防ぎ、内容物である油が蓋材10に浸透することを防ぐことができるため、内容物漏れを防止できる。
【0046】
また、蓋材10の接着樹脂層(A)17の厚さは5μm以上、50μm以下であることが好ましい。厚さを5μm以上にすることで良好な接着性が得られ、厚さを50μm以下にすることで良好な開封性を得ることができる。
以上説明した蓋材10を形成するための積層体は、ドライラミネート法、共押出法あるいはこれらを組み合わせた方法により製造することができる。また、共押出法により前後の層を接着する際、当該前後の樹脂層が接着し難い場合は貼り合わせる素材に応じて種々の接着樹脂から適切なものを選択して接着させることができる。
【0047】
また、蓋材10は、例えば、蓋材用積層フィルムに対し常法に従ってハーフカット処置を行い、170~220℃の温度でオスメス金型成形により、折り曲げた際に応力が集中する突起状の吐出手段13を形成し、必要に応じて個々の蓋材10に切断することにより製造することができる。なお、シートのまま、あるいは複数個が連結したままで分配包装体100の製造工程に投入し、最後に切り分けてもよい。
【0048】
蓋材10を構成する最外層15、中間層16、および、シール層18には、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の樹脂や添加剤を含有させることもできる。例えば、造核剤、滑剤、耐熱安定剤、耐酸化安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料等の添加剤を適宜含ませてもよい。特に有機酸金属塩や無機フィラー、ソルビトール系核剤などに代表される造核剤は、結晶化速度の促進や微結晶の形成により、防湿性や透明性の向上が期待できるため、耐ピンホール性や柔軟性を損なわない範囲で添加してもよい。
【0049】
<容器体20>
次に、本発明の分配包装体100を構成する容器体20について説明する。容器体20は最外層に位置するポリアミド樹脂層21、およびヒートシール層24の少なくとも2層で構成される可撓性部材を成形して構成される。容器体20を構成する可撓性部材の層構成の一例を
図4に示す。
【0050】
ポリアミド樹脂層21は、強靭で耐衝撃強度、耐ピンホール性、深絞り成形性に優れている。ポリアミドは、特に限定されないが、3員環以上のラクタム、重合可能なω-アミノ酸、ジアミンとジカルボン酸を主成分(50モル%以上)とするものを用いることが好ましい。ポリアミドは、ポリアミド成分とその他の成分との共重合体(例えば、ω-アミノ酸、ジアミンとジカルボン酸を主成分(50モル%以上)とするもの)であってもよい。その場合、ポリアミド成分のモル%は、80モル%以上であることが好ましく、85モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。ポリアミド成分の上限値は典型的な共重合体である上限値であり99モル%以下である。また、ポリアミドはポリマーブレンドであってもよい。その場合、ポリアミド成分はポリマーブレンド全体の質量を基準(100質量%)として、70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい、ポリアミド成分の上限値は典型的なポリマーブレンドの上限値であり99質量%以下である。
【0051】
3員環以上のラクタムとしては、例えば、ε-カプロラクタム、ω-エナントラクタム、ω-ラウロラクタム、α-ピロリドン等を挙げることができる。重合可能なω-アミノ酸としては、例えば、ω-アミノカプロン酸、ω-アミノヘプタン酸、ω-アミノノナン酸、ω-アミノウンドデカン酸、ω-アミノドデカン酸等が挙げられる。ジアミンとしては、例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トチメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トチメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族アミン、1,3/1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、ピペラジン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス-(4’-アミノシクロヘキシル)プロパン等の脂環族ジアミン、およびメタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、ノナンジオン酸、デカンジオン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環族カルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸(1,2-体、1,3-体、1,4-体、1,5-体、1,6-体、1,7-体、1,8-体、2,3-体、2,6-体2,7-体)、金属-イソフタルスルホン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0052】
ポリアミド樹脂層21では、上記3員環以上のラクタム、重合可能なω-アミノ酸、ジアミンとジカルボン酸から誘導されるポリアミドのホモポリマーまたはコポリマーを各々単独で、もしくは混合物として用いることができる。具体的に例示すると、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド7、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド4,6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,9、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6-6,6、ポリアミド6-6,10、ポリアミド6-6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6-6,12、ポリアミド6-6,6-6,10、ポリアミド6-6,6-12、ポリアミド6-6,6-6,12等が挙げられる。これらのポリアミド系樹脂は、ホモポリマーであってもよく、また共重合体やこれらの混合物であっても良い。
【0053】
これらの中でも耐ピンホール性の観点から、ポリアミド6、ポリアミド6/66、ポリアミド6/12、及びポリアミド6/66/12を主成分として用いることが好ましく、中でもポリアミド6が好適に用いられる。また、ポリアミド樹脂層21は2層以上設けることもでき、その場合、各層が異なる種類のポリアミド樹脂で形成されていてもよい。
【0054】
ポリアミド樹脂層21の合計厚さは、下限が10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましい。また、上限は200μm以下が好ましく、170μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。ポリアミド樹脂層21の厚さの下限を10μm以上とすることにより良好な耐ピンホール性が得られ、また上限を200μm以下とすることにより深絞り成形性を良好に維持することができる。
【0055】
ヒートシール層24は、融点90℃以上120℃以下あり、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)のアイオノマー、および、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)のアイオノマーからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を主成分とする。ここでいう主成分とは、ヒートシール層24が、複数の上記樹脂を含む場合、これらの樹脂の合計が50重量%以上であることを意味する。
【0056】
ヒートシール層24は、融点を90℃以上とすることにより、製膜時の巻き取り工程でブロッキングを防ぎ、フィルムの巻き外観にたるみやコブを生じることなく好ましい。また、深絞り成形時に、成形熱板にオリゴマー等の低分子量成分が付着することなく、深絞り成形性が良好となる。
一方、融点を120℃以下とすることにより、シール温度を低く、またはシール時間を短く設定することができ、生産能力や速度の面で好ましい。また、調味料などの液状物や粘稠食品は、シール部分に夾雑物として存在し、夾雑物シール性を向上させるのに、低温シール性は重要な因子である。この範囲の樹脂を選択することで、安定した低温ヒートシール性を得られる。また、最内層に柔軟性のある樹脂を配しているため、屈曲やひねり運動に対する耐ピンホール性が向上する。好ましい融点は95℃以上115℃以下である。
【0057】
酸素バリア性を付与する目的で、少なくとも1層のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層(EVOH層)22の中間層を設けることができる。EVOH層22で用いられるEVOHのエチレン含有率は特に限定されるものではないが、製膜安定性の観点から、下限が好ましくは32モル%以上、より好ましくは38モル%以上であり、上限が好ましくは47モル%以下、より好ましくは44モル%以下である。また、EVOHのケン化度は好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上である。EVOHのエチレン含有率およびケン化度を上記範囲に保つことにより、本発明のフィルムの共押出性、フィルムの強度を良好なものとすることができる。
【0058】
EVOH層22を設ける場合、EVOH層22の厚さは、下限が好ましくは5μm以上、より好ましくは8μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、上限が好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。EVOH層22の厚さの下限値を5μmとすることにより十分な酸素バリア性が得られる。また上限値を30μmとすることによりフィルムの共押出性を悪化することもなく、かつ良好なフィルム強度を保持できる。
【0059】
また、最外層21、EVOH層22、ヒートシール層24の間に接着樹脂層23を設けることができる。使用可能な接着樹脂は、低密度ポリエチレン(LDPE)、線形低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のオレフィン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合物(EVA)、エチレン-メタクリル酸メチル共重合物(EMMA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合物(EEA)、エチレン-アクリル酸メチル共重合物(EMA)、エチレン-アクリル酸エチル-無水マレイン酸共重合物(EEA-MAH)、エチレン-アクリル酸共重合物(EAA)、エチレン-メタアクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン系アイオノマー(ION)等のエチレン共重合体系樹脂が例示でき、その他、変性ポリオレフィン系樹脂、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体若しくはエチレン系エラストマーに、アクリル酸若しくはメタアクリル酸などの一塩基性不飽和脂肪酸、またはマレイン酸、フマル酸若しくはイタコン酸等の二塩基性脂肪酸の無水物を化学的に結合させたものを例示できる。中でもポリエチレンをベースとした接着樹脂を用いることが好ましい。
【0060】
接着樹脂層23を設ける場合、接着樹脂層23の厚さは、下限は3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、8μm以上がさらに好ましい。また上限は特に制限はないが、30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。接着樹脂層23の厚さが3μm以上であれば、層間剥離強度を向上させることができる。また接着樹脂層23の厚さを30μm以下とすることで、可撓性部材の総厚さが適度となり、コストの面からも好ましい。
【0061】
上記した容器体20を構成する可撓性部材の最外層21、中間層22、およびヒートシール層24には、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の樹脂や添加剤を含有させることもできる。例えば、造核剤、滑剤、耐熱安定剤、耐酸化安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料等の添加剤を適宜含ませてもよい。特に有機酸金属塩や無機フィラー、ソルビトール系核剤などに代表される造核剤は、結晶化速度の促進や微結晶の形成により、防湿性や透明性の向上が期待できるため、耐ピンホール性や柔軟性を損なわない範囲で添加してもよい。
【0062】
次に、可撓性部材の製造方法について説明する。可撓性部材は、公知の方法を用いて作製することができる。例えば、押出ラミネーション法、共押出インフレーション法および共押出Tダイ法等を用いることができ、可撓性部材は共押出Tダイ法を用いることが好ましい。例えば、共押出Tダイ法により本発明の可撓性部材を製造する場合は、最外層21、中間層22、ヒートシール層24に使用する原料(ペレット)を押し出し機にそれぞれ充填し180~300℃で溶融し、Tダイにより共押出しして可撓性部材を製造することができる。容器体20は、上記可撓性部材を深絞り成形することにより製造することができる。成形温度は、130~170℃とすることが好ましく、成形時間は2~4秒とすることが好ましい。
【0063】
<分配包装体の製造方法>
本発明の分配包装体100は上記容器体20に内容物を充填し、これに蓋材10を、ヒートシールすることにより製造することができる。シール時の加熱温度は、140~180℃が好ましく、シール時間は1~3秒が好ましい。
【0064】
<分配包装体100の用途>
本発明の分配包装体100は、油性食品を収納するために好適に使用することができる。油性食品としては、油分を含む食品であれば、特に限定されないが、例えば、油分を5~50%含むドレッシングが挙げられ、具体的には、5~15%の油分を含む和風ドレッシングや、30~40%の油分を含むイタリアンドレッシングを挙げることができる。油性食品を分配包装体に収納した場合、従来は、油分が蓋材側に浸透して、内容物漏れが発生する場合があったが、本発明の包装体100では、油性食品が蓋材側に浸透することが防止されているので、内容物漏れが発生することがない。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
<蓋材の材料>
実施例および比較例の蓋材の製造に使用した材料は以下の通りである。
(表層)
市販の共重合ポリエステル製の東和加工社製ポリエステルフィルム(品番:SA-70)赤色1色のグラビア印刷した使用したものを使用した(厚さ:25μm)。
(中間層)
HIPS:PSJ-ポリスチレン(PSジャパン社製)、
GPPS:PSJ-ポリスチレン(PSジャパン社製)、
EVOH1:ソアノール(三菱ケミカル社製)、エチレン含有率32モル%、
EVOH2:ソアノール(三菱ケミカル社製)、エチレン含有率48モル%、
(接着樹脂層)
接着樹脂1:変性ポリオレフィン樹脂(アドマーNF515、三井化学社製)、MFR:3.0g/10分(220℃,21.17N)、
接着樹脂2:変性ポリオレフィン樹脂(アドマーNF514、三井化学社製)、MFR:7.0g/10分(220℃,21.17N)、
接着樹脂3:変性ポリオレフィン樹脂(アドマーSF625、三井化学社製)、MFR:2.3g/10分(220℃,21.17N)、
(シール層)
HDPE:ノバテックHD(日本ポリエチレン社製)、
【0066】
<実施例1>
印刷した共重合ポリエステル製の東和加工社製ポリエステルフィルムと、あらかじめ製造した中間層、接着樹脂層(A)およびシール層からなる共押出フィルムとを使用してドライラミネート法により蓋材を製造した。層構成は以下の通りである。
共重合ポリエステルフィルム(印刷)<25μm>//HIPS(80質量%)+GPPS(20質量% )<280μm>/接着樹脂層(B)(接着樹脂3、MFR:2.3g/10分)<15μm>/EVOH1(エチレン含有率:32モル%)<5μm>/接着樹脂層(A)(接着樹脂1、MFR:3.0g/10分)<10μm>/HDPE<20μm>
【0067】
<実施例2>
中間層のPS層の厚みを278μmとし、EVOH層の厚みを7μmとした以外は、実施例1の手順と同様にして、以下の層構成の蓋材を作製した。
共重合ポリエステル系フィルム(印刷)<25μm>//HIPS(80質量%)+GPPS(20質量%)<278μm>/接着樹脂層(B)(接着樹脂3、MFR:2.3g/10分)<15μm>/EVOH1(エチレン含有率:32モル%)<7μm>/接着樹脂層(A)(接着樹脂1、MFR:3.0g/10分)<10μm>/HDPE<20μm>
【0068】
<比較例1>
接着樹脂層(A)を構成する樹脂を接着樹脂2にした以外は、実施例1の手順と同様にして、以下の層構成の蓋材を作製した。
共重合ポリエステル系フィルム(印刷)<25μm>//HIPS(80質量%)+GPPS(20質量%)<280μm>/接着樹脂層(B)(接着樹脂3、MFR:2.3g/10分)<15μm>/EVOH1(エチレン含有率:32モル%)<5μm>/接着樹脂層(A)(接着樹脂2、MFR:7.0g/10分)<10μm>/HDPE<20μm>
【0069】
<比較例2>
中間層のEVOH層を構成するEVOH1をEVOH2にした以外は、実施例1の手順と同様にして、以下の層構成の蓋材を作製した。
共重合ポリエステル系フィルム(印刷)<25μm>//HIPS(80質量%)+GPPS(20質量%)<280μm>/接着樹脂層(B)(接着樹脂3、MFR:2.3g/10分))<15μm>/EVOH2(エチレン含有率:48モル%)<5μm>/接着樹脂層(A)(接着樹脂1、MFR:3.0g/10分)<10μm>/HDPE<20μm>
<比較例3>
比較例1と同じ層構成の蓋材を使用した。
【0070】
<容器体の製造>
下記層構成を有する共押出複合フィルムを可撓性部材として、成形条件(加熱温度:150℃、加熱時間:3秒)のもと、容器体を製造した。
PA(50μm)/EVOH(10μm)/接着樹脂(10μm)/LLDPE(80μm)
PA:NOVAMID(DSM社製)
EVOH:ソアノール(三菱ケミカル社製)
接着樹脂:アドマー(三井化学社製)
LLDPE:エボリュー(プライムポリマー社製)
【0071】
<分配包装体の製造>
実施例および比較例それぞれについて、上記した蓋材および容器体を使用して、容器体に下記内容物を入れ、下記条件のもと分配包装体を成形した
(成形条件)
蓋材成形加熱温度:160℃、蓋材成形加熱時間:2秒
(シール条件)
蓋材・容器体シール温度:160℃、蓋材・容器体シール時間:2秒
(内容物)
実施例1~2、比較例1~2:イタリアンドレッシング(油含有率36%)、15g/パック
比較例3:和風ドレッシング(油含有率10%)、15g/パック
【0072】
<性能評価試験方法及び評価基準>
以下に記載する3種類の性能評価試験を行い、所定の評価基準に基づいて分配包装体の蓋材の評価を行った。
(1)プラスチックシートの割れ性
内容物を含んだ分配包装体を開封させ、蓋材の直線割れ性を以下の基準により評価した。
粘ることなく直線的にスムーズに割れる:5
直線的にスムーズに割れる:4
粘って割れづらいが直線的に割れる:3
直線的に割れない:2
粘って割れづらく割れても直線的でない:1
【0073】
(2)開封性(内容物の吐出形態)
合計50個の内容物を含んだ分配包装体を開封させ、内容物が吐出する方向を観察し以下の基準により評価した。
全量照準通りに吐出する:5
90%以上が照準通りに吐出する:4
50%以上が照準通りに吐出する:3
照準通りに吐出するものが1以上半数未満である:2
全てが狙いと異なる方向へ吐出する:1
【0074】
(3)保存後の内容物の漏れ
合計100個のパッケージに15kgの重りを載せ40℃×24時間静置後に内容物の漏れがないかを確認した。
内容物漏れが0%:○
内容物漏れが1%以上:×
【0075】
<評価結果>
上記評価試験結果を表1に示す。
【0076】
【0077】
接着樹脂層(A)を構成する接着樹脂のMFRを7.0g/10分にした比較例1では、保存後に内容物の漏れが27%発生した。これはシール時におけるEVOH層の変形を隣接する接着樹脂層(A)が抑制しなかったため、局部的にEVOH層が薄くなる部分があり、そのため油が浸透しPS系樹脂層と接着樹脂層(B)との層間をデラミネーションさせ、内容物が漏れ出したためである。
また、EVOH層を構成するEVOHのエチレン含有率が多い比較例2では、保存後に内容物の漏れが3%発生した。これは、EVOHのエチレン含有率が多いためEVOH層が油を浸透させやすく、浸透した油がPS系樹脂層と接着樹脂層(B)との層間をデラミネーションさせ内容物が漏れ出したためである。
また、比較例3は、比較例1と同様の包装体に和風ドレッシングを収納した例であるが、イタリアンドレッシングに比べて油分が少ない和風ドレッシングであっても、内容物漏れが17%発生した。
これに対して、実施例1、2では、全量標準通りに吐出し、保存後に内容物であるイタリアンドレッシングの漏れは発生しなかった。なお、実施例1、2の包装体では、油分が少ない和風ドレッシングを包装した場合でも、保存後に内容物の漏れは発生しなかった。
【0078】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う油性食品用分配包装体もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【符号の説明】
【0079】
10:蓋材
12:折り曲げ線
13:突起状の吐出手段
15:蓋材の表層(共重合ポリエステル系樹脂を含む層)
16:中間層
16a:ポリスチレン系樹脂を含む層
16b:エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂を含む層
17:蓋材の接着樹脂層(A)
18:シール層(ポリエチレン系樹脂を含む層)
12a:ハーフカット部
20:容器体
21:ポリアミド樹脂層
22:エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層
23:容器体の接着樹脂層
24:ヒートシール層
100:分配包装体