(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】徐放性材料、これを含有する徐放剤およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20230324BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20230324BHJP
A01N 25/18 20060101ALI20230324BHJP
A01N 25/10 20060101ALI20230324BHJP
A61L 9/04 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
C08L29/04 S
C08L67/00
A01N25/18
A01N25/10
A61L9/04
(21)【出願番号】P 2018212589
(22)【出願日】2018-11-12
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124349
【氏名又は名称】米田 圭啓
(72)【発明者】
【氏名】堤 主計
(72)【発明者】
【氏名】豊栖 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健司
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-014069(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102604292(CN,A)
【文献】特開2009-079330(JP,A)
【文献】特開2008-037858(JP,A)
【文献】特開2002-356403(JP,A)
【文献】特開2013-184446(JP,A)
【文献】特開2013-035779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 29/00-29/14
C08L 101/00-101/16
C08L 67/00-67/08
C08K 3/00-13/08
A01N 1/00-65/48
A01P 1/00-23/00
A61L 9/00-9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコール系樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)を含有し、含浸された揮発性化合物(C)を徐放するための徐放性材料であって、
熱可塑性樹脂(B)
はSP値が7~12(cal/cm
3)
1/2
のポリエステル系樹脂であり、ビニルアルコール系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の含有割合(重量比)が95/5~55/45であ
り、ビニルアルコール系樹脂(A)のマトリックス中に熱可塑性樹脂(B)がドメインとして存在する海島構造が形成される徐放性材料。
【請求項2】
熱可塑性樹脂(B)
の酸価が2.0~6.5mg・KOH/gである請求項1に記載の徐放性材料。
【請求項3】
揮発性化合物(C)のSP値が8~10(cal/cm
3)
1/2である請求項1または2に記載の徐放性材料。
【請求項4】
ビニルアルコール系樹脂(A)がエチレン-ビニルアルコール系共重合樹脂である請求項1~3いずれかに記載の徐放性材料。
【請求項5】
請求項1~3いずれかに記載の徐放性材料および揮発性化合物(C)を含有する徐放剤。
【請求項6】
請求項1に記載の徐放性材料に揮発性化合物(C)を含浸させて請求項5に記載の徐放剤を製造する方法であって、
請求項1に記載の徐放性材料に、揮発性化合物(C)を超臨界流体内で圧力10~20MPa、温度35~100℃で含浸させる工程を有する、徐放剤の製造方法。
【請求項7】
揮発性化合物(C)と共に炭素数4以下のアルコールの存在下で含浸させる請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含浸された揮発性化合物を徐放するための徐放性材料、この徐放性材料を含有する徐放剤およびその製造方法に関する。特に、揮発性化合物を多く含有させることができ、徐放性能に優れた徐放性材料、この徐放性材料および揮発性化合物を含有する徐放剤ならびにこの徐放剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然由来薬剤のなかには揮発性化合物が多く、薬効成分である揮発性化合物の揮発(蒸散)を制御することにより、薬効成分の有効活用が図られている。揮発性化合物の揮発(蒸散)を制御する方法の一つとして、揮発性化合物を溶融樹脂に混合して得られた徐放剤から揮発性化合物を徐放させる方法がある。
しかし、溶融状態で揮発性化合物を混合する方法では、耐熱性の問題で使用される揮発性化合物が限定されたり、混合工程中に揮発性化合物が消失したりするので、製造効率上の問題があった。
【0003】
一方、超臨界二酸化炭素などの超臨界流体を利用してポリ乳酸樹脂を可塑化した状態で揮発性化合物を含浸させた徐放剤が知られている(特許文献1など)。
しかし、含浸した揮発性化合物が比較的早く放出されてしまうので、放出量を抑制し、長期間にわたって揮発性化合物を徐放するには難があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように従来の徐放剤では、揮発性化合物に対する樹脂のバリア性能が低く、揮発性化合物が速く揮発してしまうので、徐放剤中の揮発性化合物の含有量が急速に低下し、揮発性化合物の放出量が低下してしまう。一方、バリア性能の高い樹脂、例えばEVOH樹脂(エチレン-ビニルアルコール系共重合樹脂)を含有する徐放性材料を用いた徐放剤では、揮発性化合物の徐放性は改善するものの、超臨界流体を利用して含浸できる揮発性化合物の量が少ないので、揮発性化合物の総放出量が少なくなるという問題があった。
【0006】
本発明は、超臨界流体を用いた超臨界含浸法により揮発性化合物を含浸させることができる徐放性材料であって、揮発性化合物を多く含有させることができ、徐放性能に優れた徐放性材料の提供を目的とする。また本発明は、この徐放性材料および揮発性化合物を含有する徐放剤ならびにこの徐放剤の製造方法の提供をも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
しかるに本発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、ビニルアルコール系樹脂と特定のSP値を有する熱可塑性樹脂とを特定の割合で含有する組成物を徐放性材料として用いることによって、揮発性化合物の含有量が多く、徐放性能に優れた徐放剤が得られることを見出した。
【0008】
即ち本発明の一局面は、ビニルアルコール系樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)を含有し、含浸された揮発性化合物(C)を徐放するための徐放性材料である。熱可塑性樹脂(B)のSP値は7~12(cal/cm3)1/2であり、ビニルアルコール系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の含有割合(重量比)は95/5~55/45である。
【0009】
本発明の他の一局面は、上記徐放性材料および揮発性化合物(C)を含有する徐放剤である。
【0010】
本発明の更に他の一局面は、上記徐放性材料に揮発性化合物(C)を含浸させて上記徐放剤を製造する方法である。この製造方法は、上記徐放性材料に、揮発性化合物(C)を超臨界流体内で圧力10~20MPa、温度35~100℃で含浸させる工程を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、徐放剤から揮発性化合物が徐々に放出され、長期間にわたり徐放性を保持することができる。
本発明による上記効果が得られる理由は定かではないが、以下の理由が推測される。本発明の徐放性材料において、ビニルアルコール系樹脂(A)のマトリックス中に熱可塑性樹脂(B)がドメインとして存在する海島構造が形成され、熱可塑性樹脂(B)に揮発性化合物(C)が集中して包含される。これにより、効率よく徐放性材料中に揮発性化合物(C)が含浸し、揮発性化合物(C)含有量が多くなる。またビニルアルコール系樹脂(A)の優れたバリア性能によって、揮発性化合物(C)が徐々に放出され、長期間にわたり徐放性を保持することができる。
【0012】
後述の比較例1で示すように、バリア性材料として知られ、徐放性能に優れていると考えられるビニルアルコール系樹脂(A)を単独で徐放性材料として用いた場合には、ビニルアルコール系樹脂(A)に揮発性化合物(C)を効率よく包含させることができなかったことから、ビニルアルコール系樹脂(A)を徐放性材料の成分の1つとして用いること自体に阻害要因があると言える。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に記載する構成要件の説明は本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0014】
本発明の一局面に係る徐放性材料は、ビニルアルコール系樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)を含有し、含浸された揮発性化合物(C)を徐放するための徐放性材料である。以下、各成分について説明する。
【0015】
〔ビニルアルコール系樹脂(A)〕
本発明で使用されるビニルアルコール系樹脂(A)は、通常、ビニルエステル系モノマーを重合して得られる重合体をケン化して製造される。本発明においては、そのような樹脂に限定されず、該ビニルエステル系モノマーと共重合可能な他の成分との共重合体をケン化して得られる変性物を用いることもできる。
【0016】
かかるビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、これらの中でも経済的な面で酢酸ビニルが好ましい。
【0017】
ビニルエステル系モノマーと共重合可能な他の成分としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類、その塩または炭素数1~18のモノもしくはジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン、その酸塩またはその4級塩等のアクリルアミド類;メタクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン、その酸塩またはその4級塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;炭素数1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコール等のアリル類;トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド;アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸;グリセリンモノアリルエーテル;エチレンカーボネート;等が挙げられる。
更に、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2-アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2-メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、3-ブテントリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオン基含有単量体、アセトアセチル基含有単量体等も挙げられる。これらを単独でまたは2種以上用いることができる。
【0018】
これらの中でも、酢酸ビニルとの共重合性に優れ、耐水性・耐湿性に優れた共重合体が得られる点からエチレンが好ましい。
【0019】
また、本発明に用いられるビニルアルコール系樹脂(A)には、以下に示すコモノマーが更に含まれていてもよい。かかるコモノマーとしては、例えば、プロピレン、イソブテン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のα-オレフィン;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、3-ブテン-1、2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン、またはそのエステル化物、アシル化物などのヒドロキシ基含有α-オレフィン誘導体;不飽和カルボン酸またはその塩・部分アルキルエステル・完全アルキルエステル・ニトリル・アミド・無水物;不飽和スルホン酸またはその塩;ビニルシラン化合物;塩化ビニル;スチレン;等が挙げられる。
【0020】
更に、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。
【0021】
以上のような変性物の中でも、共重合によって一級水酸基が側鎖に導入されたビニルアルコール系樹脂は、延伸処理や真空・圧空成形などの二次成形性が良好になる点で好ましく、中でも1,2-ジオール構造を側鎖に有するビニルアルコール系樹脂が好ましい。
【0022】
本発明で用いるビニルアルコール系樹脂(A)としては、溶融成形により所望の形状に成形しやすい点で、EVOH樹脂が好ましい。
以下、EVOH樹脂について詳しく説明する。
【0023】
本発明で用いられるEVOH樹脂のエチレン含有量は特に限定されないが、通常は20~60モル%、好ましくは25~50モル%、特に好ましくは30~45モル%である。エチレン含有量が多すぎると、バリア性が低下し徐放性が不足して本発明の効果が得られ難くなる傾向がある。また、エチレン含有量が少なすぎると、溶融成形性、耐水性が低下する傾向がある。なお、エチレン含有量の測定方法としては、ISO14663に準拠した方法を用いることができる。
【0024】
本発明で用いられるEVOH樹脂のケン化度は特に限定されないが、通常は80モル%以上であり、好ましくは90~99.99モル%、特に好ましくは99~99.9モル%である。ケン化度が低すぎると、バリア性が低下し徐放性が不足して本発明の効果が得られ難くなる傾向がある。なお、ケン化度の測定方法としては、JIS K6726(ただし、EVOH樹脂を水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液について測定)に準拠した方法を用いることができる。
【0025】
本発明で用いられるEVOH樹脂の210℃,荷重2160g条件下でのメルトフローレート(MFR)値は、通常は0.1~100g/10分であり、好ましくは0.5~50g/10分、特に好ましくは1~25g/10分である。MFR値が低すぎると、EVOH樹脂の溶融粘度が高すぎて溶融成形性が低下する傾向があり、MFR値が高すぎても、EVOH樹脂の溶融粘度が低すぎて安定した溶融成形が困難となる傾向がある。
【0026】
エチレン含有量、ケン化度、MFR値が異なる2種以上のEVOH樹脂を混合して用いてもよい。この場合、EVOH樹脂の混合物におけるエチレン含有量、ケン化度、MFR値は、各EVOH樹脂の混合割合を重みとする加重平均により算出することができ、その平均値が上記要件を充足するEVOH樹脂の組合せであればよい。
【0027】
〔熱可塑性樹脂(B)〕
本発明で使用される熱可塑性樹脂(B)のSP(溶解度パラメータ)値は7~12(cal/cm3)1/2であり、好ましくは8~11(cal/cm3)1/2である。熱可塑性樹脂(B)のSP値が小さ過ぎると、ビニルアルコール系樹脂(A)との混合性が低下する傾向があり、大き過ぎると、揮発性化合物(C)の含浸量が減少する傾向がある。
ここでSP値とは、Fedors法〔Polm.Eng.Sci.14(2)152(1974)〕によって算出される値である。
【0028】
SP値が7~12(cal/cm3)1/2の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド、共重合ポリアミド、アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられるが、揮発性化合物の含浸量がより多くなる点でポリエステル系樹脂が好ましい。
かかるポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリエチレンテレフターレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンアジペートテレフタレート等が挙げられる。中でもEVOH樹脂等のビニルアルコール系樹脂(A)との溶融混合性が良好である点でポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)が好ましく、PBATの市販品としてはBASF社製「エコフレックス(登録商標)」などが挙げられる。
【0029】
更に、溶融混合によりビニルアルコール系樹脂(A)中で微分散できる点で、無水マレイン酸等で酸変性されたPBATが好ましく、例えば、ラジカル開始剤存在下でPBATと無水マレイン酸とを溶融反応させることで酸変性PBATが得られる。無水マレイン酸で変性されたPBATのSP値は10(cal/cm3)1/2である。
【0030】
熱可塑性樹脂(B)の酸価は、好ましくは2.0~6.5mg・KOH/gであり、特に好ましくは3.5~5.5mg・KOH/gである。酸価が低すぎるとビニルアルコール系樹脂(A)中での分散性が低くなるので、溶融成形性や徐放性が低下する傾向がある。酸価が高すぎると熱安定性が低下するので、溶融成形が難しくなる傾向がある。
本発明における熱可塑性樹脂(B)の酸価の測定方法について、無水マレイン酸で変性されたPBATを例にして以下に説明する。
まず、無水マレイン酸で変性されたPBATから不純物、主に未反応のα、β-不飽和カルボン酸またはその無水物を洗い流すために、溶剤でよく洗浄する。かかる溶剤としては、無水マレイン酸で変性されたPBATが溶解することがない溶剤を用いることが必要であり、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどが挙げられる。
次に、試験瓶に、溶媒としてテトラヒドロフラン100mlをとり、ホットスターラー(設定温度75℃、スターラー回転数750rpm)で撹拌させながら無水マレイン酸で変性されたPBAT5gを投入する。無水マレイン酸で変性されたPBATが溶解するまで、5~6時間撹拌する。溶解後、超純水4mlを添加して更に10分間撹拌を行い、試験液を作製する。かかる試験液を自動滴定装置により、水酸化カリウム水溶液(N/10)で滴定して、下記の式により酸価を求める。
【0031】
【0032】
A=無水マレイン酸で変性されたPBATの滴定に要したN/10水酸化カリウム水溶液の使用量(ml)
B=空試験に要したN/10水酸化カリウム水溶液の使用量(ml)
f=N/10水酸化カリウム水溶液の力価
S=無水マレイン酸で変性されたPBAT採取量(g)
【0033】
<滴定装置>
滴定測定装置:京都電子工業(株)「電位差自動滴定装置AT-610」
参照電極:複合ガラス電極C-171
滴定液:キシダ化学(株)「0.1mol/l(N/10)-水酸化カリウム溶液」
【0034】
〔徐放性材料〕
本発明の徐放性材料は、ビニルアルコール系樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)を含有し、ビニルアルコール系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の含有割合(重量比)〔(A)/(B)〕が95/5~55/45であり、好ましくは90/10~55/45、特に好ましくは80/20~60/40である。
ビニルアルコール系樹脂(A)の含有割合が相対的に少な過ぎると、バリア性が低下し徐放性が不足する傾向があり、多過ぎると、揮発性化合物(C)の含浸量が低下する傾向がある。
【0035】
ビニルアルコール系樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)を混合する方法としては特に限定されないが、均一性の点で溶融混合が好ましい。具体的には、二軸押出機にビニルアルコール系樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)を供給し、溶融混練する方法が好ましい。
【0036】
ビニルアルコール系樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)の溶融混合物からペレットを作成してもよいし、連続的に成形物を製造してもよい。成形方法としては、例えば、押出成形法(T-ダイ押出、インフレーション押出、ブロー成形、溶融紡糸、異型押出等)、射出成形法が挙げられ、溶融成形、特に溶融押出成形することによって、フィルム、シート、容器(ボトルやタンク等)、繊維、棒、管など、各種の成形物を製造することができる。
即ち本発明の徐放性材料は、ペレットのみならず、各種の成形物であってもよい。
【0037】
〔揮発性化合物(C)〕
本発明の徐放性材料に含浸される揮発性化合物(C)としては、例えば、ミルセン、リモネン、ピネン、カンファ、サピネン、フェランドレン、パラシメン、オシメン、テルピネン、ジンギベレン、ベチボン、カズマレン、カリオフィレン、ファルネセン、バレンセン、テルピネン等の炭化水素類;リナロール、ゲラニオール、メントール、テルピネンオール、ビサボロール、フェニルエタノール、シトロネロール、ネロール、テルピネオール、ボルネオール、ネロリドール、セドロール、ベルガモテン、キャロトール、ファルネソール、ナルドール、サンタロール、パチェリアルコール、フェニルエチルアルコール、スクラレオール、マノオール、アビエノール、サルビオール、シンナミックアルコール等のアルコール類;シトロネラール、ゲラニアール、ネラール、アンスラニル酸、オクタール、デカナール、ヘキサナール、シンナムアルデヒド、クミンアルデヒド、バニリン、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;ツヨシ、アトラントン、カルボン、ターメロン、ピペリトン、ヌートカトン等のケトン類;アネトール、メチルオイゲノール、ミリスチシン、メチルチェビコール、エストラゴール、アピオール、エルトラゴール等のフェノールエーテル類;酢酸リナリル、酢酸メンチル、安息香酸メチル、サルチル酸メチル、酢酸ボルニル、酢酸シトネリル、酢酸ゲラニル、酢酸シトロネリル、酢酸ゲラニル、メントールエステル、酢酸テルペニル、酢酸ベンジル、酢酸ミルテニル等のエステル類;シネオール、酢酸テルピニル、ビサポロールオキサイド、カリオフィレンオキサイド等のオキサイド類;セダノライド、リグスティライド、ブチリデンフタライド等のラクトン類;酢酸、桂皮酸、安息香酸等の有機酸類;が挙げられる。これらの中でも、含浸量が多くなる点で、SP値が8~10(cal/cm3)1/2である揮発性化合物が好ましく、このような揮発性化合物として特にリモネン、リナロール、シネオールが好ましい。
【0038】
〔徐放剤〕
本発明の徐放剤は、上記徐放性材料および上記揮発性化合物(C)を含有し、徐放性材料に揮発性化合物(C)を含浸させることにより製造される。言い換えれば、本発明の徐放剤の製造方法は、徐放性材料に揮発性化合物(C)を含浸させる含浸工程を有する。
【0039】
含浸方法としては、一般的な混練法や溶媒溶解法を用いることができるが、超臨界流体を用いた超臨界含浸法を用いることが好ましい。超臨界含浸法を用いることによって、低沸点化合物を含浸することができる。また、溶媒溶解法では残存有機溶媒や溶媒除去時の揮発性化合物の揮発が問題となるが、超臨界含浸法ではこのような問題がなく製造面において有利である。
【0040】
超臨界流体を用いた超臨界含浸法は、具体的には、基材である徐放性材料と揮発性化合物(C)とを高圧セルに封入し、所定の温度および圧力に設定するとともに、例えば二酸化炭素を高圧セルに供給した後、超臨界二酸化炭素の状態にし、この状態を所定時間放置して、揮発性化合物(C)の含浸を行う方法である。
超臨界二酸化炭素とする際の設定圧力は、好ましくは10~20MPaであり、12~18MPaが特に好ましい。また設定温度は、好ましくは35~100℃であり、60~90℃が特に好ましい。含浸処理時間は、好ましくは1~10時間であり、2~6時間が特に好ましい。
【0041】
そして、揮発性化合物(C)の含浸後に、高圧セルの背圧弁を解放し圧力を低下させることによって超臨界流体を気体の状態に戻し、基材から放散除去し、揮発性化合物(C)が含浸された基材(即ち徐放剤)が得られる。
なお、超臨界流体は、揮発性化合物(C)の沸点、ビニルアルコール系樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)の融点等に応じて、二酸化炭素(臨界温度:304.1K,臨界圧力:7.38MPa)、エタン(臨界温度:305.45K,臨界圧力:18.7MPa)、窒素(臨界温度:126K,臨界圧力:3.4MPa)等を用いることができる。
【0042】
超臨界流体を用いて揮発性化合物(C)を徐放性材料に含浸させる際、含浸量が多くなる点で、アルコールを共存させることが好ましい。かかるアルコールとしては、炭素数4以下のアルコールが好ましく、毒性が低く、取扱いが容易な点でエタノールが特に好ましい。
使用するアルコールの量は、揮発性化合物(C)100重量部に対して、好ましくは10~1000重量部、特に好ましくは30~700重量部、更に好ましくは50~200重量部である。
【0043】
本発明の徐放剤は、(A)~(C)成分以外に、配合剤を適宜含有していてもよい。かかる配合剤の配合量は、徐放剤全体に対して、通常5重量%以下である。かかる配合剤としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、ガラス繊維などのフィラー、パラフィンオイル等の可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、中和剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、架橋剤、架橋助剤、着色剤、難燃剤、分散剤、界面活性剤、帯電防止剤、防菌剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、生分解用添加剤、蛍光増白剤、シランカップリング剤などが挙げられ、任意の配合剤を1種または複数種にて配合することができる。また、共役ポリエン化合物、エンジオール基含有物質、脂肪族カルボニル化合物などの公知の添加剤を適宜配合することができる。これら配合剤や添加剤は、徐放性材料の製造から徐放剤の製造の間の各種工程において配合することができる。
【0044】
本発明の徐放剤は、揮発性化合物の徐放性が要求される各種分野に適用することができ、例えば、芳香剤、防カビ剤、シロアリ防除剤等とし利用することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、例中「部」とあるのは、重量基準を意味する。
【0046】
〔酸変性ポリエステル系樹脂の調製〕
PBAT(BASF社製「Ecoflex(登録商標) C1200」)100部、無水マレイン酸0.35部、ラジカル開始剤として2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルオキシ)ヘキサン(日油株式会社製「パーヘキサ25B」)0.25部をドライブレンドした後、これを二軸押出機にて下記条件で溶融混練し、ストランド状に押出した。水冷後、ペレタイザーでカットし、円柱形ペレット形状の酸変性ポリエステル系樹脂を得た。得られた酸変性ポリエステル系樹脂の酸価は4.9mg・KOH/gであった。なお、この酸変性ポリエステル系樹脂のSP値は10(cal/cm3)1/2である。
<二軸押出機>
直径(D):15mm、L/D:60
スクリュ回転数:200rpm
メッシュ:90/90mesh
加工温度:210℃
【0047】
〔実施例1:基材樹脂(徐放性材料)の調製〕
エチレン含有量が44モル%のEVOH樹脂(日本合成化学工業株式会社製「ソアノール(登録商標)AT4403」)と、上記で得られた酸変性ポリエステル系樹脂とを70/30(重量比)の含有割合でドライブレンドした後に、二軸押出機に供給して下記条件で溶融混練した。更にストランド状に押出し、水冷後、ペレタイザーでカットして、円柱形ペレット形状の基材樹脂(徐放性材料)を得た。
なお、表1中の「AT4403」はEVOH樹脂を示し、M-PBATは酸変性ポリエステル系樹脂を示す。
<二軸押出機>
直径(D):15mm、L/D:60
スクリュ回転数:200rpm
メッシュ:90/90mesh
加工温度:230℃
【0048】
基剤樹脂(徐放性材料)のペレットをホットプレス(230℃)でプレスして、5cm×5cm×100μmのシートサンプルを得た。
【0049】
〔揮発性化合物の含浸(徐放剤の製造)〕
加圧容器内に基材樹脂(徐放性材料)のシートサンプルと、リモネン/エタノール=1/1(重量比)の液10gとを入れ、超臨界二酸化炭素存在下で温度:80℃、圧力:14MPa、処理時間:3時間で含浸処理を行って、徐放剤を得た。
シートサンプルの一部を1cm×2cm×100μmに切り出し、ヘッドスペースGCでシートサンプルを110℃に加熱して、揮発したリモネンを定量し、シートサンプルに含浸した含浸量とした。リモネンの徐放剤中の含浸量は1500ppmであった。なお、リモネンのSP値は8.8(cal/cm3)1/2である。
【0050】
〔徐放性の評価〕
含浸処理したシートサンプル(5cm×5cm×X100μm)を20℃の室内に6日間放置した後、5Lのサンプリングバックに入れ密封した。サンプリングバック内の空気を真空ポンプで脱気した後、高純度窒素ガス4Lを封入して1日放置した。サンプリングバック内の窒素ガス0.5Lを取り出し、2,6-ジフェニル-p-フェニレンオキシドの入ったカートリッジに通して窒素ガス中の揮発性化合物を吸着させ、吸着した揮発性化合物の内、リモネンのイオンピーク面積をGC-MSにて求め、7日目のリモネンの揮発ピーク面積とした。
サンプリングバックからシートサンプルを取り出し、20℃の室内に更に6日間放置した後、同様に測定して、14日目のリモネンの揮発ピーク面積を求めた。更に同様にして21日目のリモネンの揮発ピーク面積を求めた。その結果を表1に示す。
【0051】
〔比較例1〕
基材樹脂(徐放性材料)として、上記酸変性ポリエステル系樹脂を含まないEVOH樹脂(日本合成化学工業株式会社製「ソアノール(登録商標)AT4403」)を用いた以外は実施例1と同様にして、リモネンの含浸量を評価した。その結果を表1に示す。
【0052】
〔比較例2〕
基材樹脂(徐放性材料)として、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)(日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック(登録商標)LL UF240」)を用いた以外は実施例1と同様にして、リモネンの含浸量、徐放性を評価した。その結果を表1に示す。
【0053】
【0054】
表1に示すように、実施例1ではリモネンの含浸量が比較例1に比して顕著に多く、21日後においてもリモネンが放出されていることから、徐放性に優れていた。
一方、EVOH樹脂を単独で徐放性材料とした比較例1ではリモネンの含浸量が実施例1よりも少なかったので、測定するまでもなく、放出量も実施例1よりも少なくなると考えられる。またLLDPEを徐放性材料とした比較例2ではリモネンの含浸量は多いものの、7日の期間内に殆どを放出したため、14日後および21日後に放出が無く、徐放性に乏しかった。