IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

特許7249630熱伝導性ビーズ、その製造方法、樹脂組成物及び成形体
<>
  • 特許-熱伝導性ビーズ、その製造方法、樹脂組成物及び成形体 図1
  • 特許-熱伝導性ビーズ、その製造方法、樹脂組成物及び成形体 図2
  • 特許-熱伝導性ビーズ、その製造方法、樹脂組成物及び成形体 図3
  • 特許-熱伝導性ビーズ、その製造方法、樹脂組成物及び成形体 図4
  • 特許-熱伝導性ビーズ、その製造方法、樹脂組成物及び成形体 図5
  • 特許-熱伝導性ビーズ、その製造方法、樹脂組成物及び成形体 図6
  • 特許-熱伝導性ビーズ、その製造方法、樹脂組成物及び成形体 図7
  • 特許-熱伝導性ビーズ、その製造方法、樹脂組成物及び成形体 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】熱伝導性ビーズ、その製造方法、樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20230324BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230324BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20230324BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
C08J3/12 Z CFC
C08K3/013
C08K3/00
C08L101/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019064433
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020164590
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-09-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】冨永 雄一
(72)【発明者】
【氏名】堀田 裕司
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-255195(JP,A)
【文献】特開2014-040533(JP,A)
【文献】特開2015-048358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
C08J 3/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性ポリマーの硬化物からなる樹脂部と、
前記樹脂部よりも熱伝導率が高く、形状異方性を有し、前記樹脂部に保持された充填材と、を含み、
球状を呈しており、
表面に、長軸が前記表面に沿うように前記充填材が配向した配向層を有している、熱伝導性ビーズの製造方法であって、
前記充填材と未硬化の前記硬化性ポリマーとを含み球状を呈するとともに、その表面に、長軸が前記表面に沿うように前記充填材が配向した前記配向層を備えた未硬化ビーズを作製するビーズ作製工程と、
前記未硬化ビーズ中の前記硬化性ポリマーを硬化させる硬化工程と、を有しており、
前記ビーズ作製工程は、
前記充填材と前記硬化性ポリマーとの混合物からなるビーズ前駆体を作製する造粒工程と、
自転公転型ミキサーを用いて前記ビーズ前駆体を球状に成形しつつ、前記ビーズ前駆体の表面に存在する前記充填材を、長軸が前記ビーズ前駆体の表面に沿うように配向させる充填材整列工程と、を有している、熱伝導性ビーズの製造方法。
【請求項2】
前記充填材の長径Lf[μm]と、前記熱伝導性ビーズの直径Db[μm]との比Db/Lfの値が10以上1000以下である、請求項1に記載の熱伝導性ビーズの製造方法。
【請求項3】
硬化性ポリマーの硬化物からなる樹脂部と、
前記樹脂部よりも熱伝導率が高く、形状異方性を有し、前記樹脂部に保持された充填材と、を含み、
球状を呈する熱伝導性ビーズであって、
前記熱伝導性ビーズの表面に、長軸が前記表面に沿うように前記充填材が配向した配向層を有しており、
前記充填材の長径Lf[μm]と、前記熱伝導性ビーズの直径Db[μm]との比Db/Lfの値が10以上1000以下である、熱伝導性ビーズ。
【請求項4】
前記配向層の厚みは前記熱伝導性ビーズの直径の5%以上である、請求項3に記載の熱伝導性ビーズ。
【請求項5】
前記熱伝導性ビーズ中の前記充填材の含有量は30体積%以上95体積%以下である、請求項3または4に記載の熱伝導性ビーズ。
【請求項6】
樹脂からなる樹脂マトリクスと、
前記樹脂マトリクス中に分散した請求項3~5のいずれか1項に記載の熱伝導性ビーズと、を含む、樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱伝導性ビーズの含有量が30体積%以上95体積%以下である、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項6または7に記載の樹脂組成物の成形体であって、
熱伝導率が最大となる方向における熱伝導率λA[W/m・K]と、熱伝導率が最小となる方向における熱伝導率λB[W/m・K]との比である熱伝導率異方性λA/λBの値が1.5以下である、成形体。
【請求項9】
前記熱伝導率λBが7W/m・K以上である、請求項8に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性ビーズ、その製造方法、樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂等の有機ポリマー系材料は、金属やセラミックスなどの無機物に比べて比重が小さいという特性を有している。このような特性を活かし、電子機器や輸送機器等の種々の分野において、軽量化を目的として無機物からなる部材を有機ポリマー系材料に置き換える技術が提案されている。
【0003】
例えばパーソナルコンピュータ、携帯端末、自動車、LED照明等に搭載される電子部品や電気自動車、ハイブリッド自動車等に搭載されるモータ等の発熱体においては、発熱体から発生する熱を効率よく放熱することが望まれている。しかし、有機ポリマー系材料は、無機材料に比べて熱伝導性が低いという問題がある。そこで、有機ポリマー系材料中に熱伝導性の高い充填材を添加することにより、軽量かつ熱伝導性の高い組成物を得ようとする試みが広く行われている。
【0004】
この種の組成物には、薄片状や棒状等の、いわゆる形状異方性を有する微粒子が充填材として使用されることがある。形状異方性を有する微粒子は、組成物内において互いに接触することにより組成物中に熱の経路を形成し、組成物の熱伝導性を向上させることができる。
【0005】
例えば特許文献1には、熱硬化性樹脂と、前記熱硬化性樹脂中に分散された充填材とを含む、熱伝導性シート用樹脂組成物が記載されている。特許文献1の充填材には、(a)中心部に空隙が形成されており、(b)前記空隙から出発して前記二次凝集粒子の外表面に連通する連通孔が形成されており、(c)前記空隙の平均空隙径に対する前記連通孔の平均孔径の比が0.05以上1.0以下である二次凝集粒子が含まれている。また、この二次凝集粒子は、鱗片状を呈する六方晶型窒化ホウ素の一次粒子により構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-94599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の樹脂組成物を射出成形や移送成形等の方法によって成形する場合、成形中の組成物の流動によって二次凝集粒子がせん断力を受け、二次凝集粒子が崩壊することがある。二次凝集粒子の崩壊によって生じた一次粒子やその凝集物は、一次粒子の長径方向、つまり、外寸法が最大となる方向が組成物の流れに沿うように配向しやすい。そのため、射出成形等によって得られる成形体の内部には、組成物の流動方向に沿った熱の経路がより形成されやすくなる。以上の結果、特許文献1の樹脂組成物からなる成形体の熱伝導性が等方的ではなくなり、所望の熱伝導特性を得られなくなるおそれがある。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、熱伝導性に優れるとともに、等方的な熱伝導性を有する成形体を作製可能な熱伝導性ビーズ、その製造方法、この熱伝導性ビーズを備えた樹脂組成物及び成形体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一参考態様は、硬化性ポリマーの硬化物からなる樹脂部と、
前記樹脂部よりも熱伝導率が高く、形状異方性を有し、前記樹脂部に保持された充填材と、を含み、
球状を呈する熱伝導性ビーズであって、
前記熱伝導性ビーズの表面に、長軸が前記表面に沿うように前記充填材が配向した配向層を有している、熱伝導性ビーズにある。
【0010】
本発明の一態様は、前記の態様の熱伝導性ビーズの製造方法であって、
前記充填材と未硬化の前記硬化性ポリマーとを含み球状を呈するとともに、その表面に、長軸が前記表面に沿うように前記充填材が配向した配向層を備えた未硬化ビーズを作製するビーズ作製工程と、
前記未硬化ビーズ中の前記硬化性ポリマーを硬化させる硬化工程と、を有しており、
前記ビーズ作製工程は、
前記充填材と前記硬化性ポリマーとの混合物からなるビーズ前駆体を作製する造粒工程と、
自転公転型ミキサーを用いて前記ビーズ前駆体を球状に成形しつつ、前記ビーズ前駆体の表面に存在する前記充填材を、長軸が前記ビーズ前駆体の表面に沿うように配向させる充填材整列工程と、を有している、熱伝導性ビーズの製造方法にある。
【発明の効果】
【0011】
前記熱伝導性ビーズの表面には、長軸が前記表面に沿うように前記充填材が配向した配向層が設けられている。熱伝導性ビーズの表面の充填材をこのように配向させることにより、配向層内に、充填材同士が連なってなる熱の経路を容易に形成することができる。そのため、前記熱伝導性ビーズは、配向層に沿って熱を効率よく伝達することができる。更に、熱伝導性ビーズ同士を接触させることにより、隣接する熱伝導性ビーズに配向層を介して熱を効率よく伝達することができる。
【0012】
また、熱伝導性ビーズの充填材は、硬化性ポリマーの硬化物からなる樹脂部に保持されている。そのため、せん断力などの外力が加わった場合に、熱伝導性ビーズの崩壊を抑制し、配向層における充填材の配向状態を維持することができる。
【0013】
更に、前記熱伝導性ビーズは球状であるため、射出成形等の樹脂組成物の流動を伴う成形方法によって前記熱伝導性ビーズを含む樹脂組成物を成形した場合に、樹脂組成物中に熱伝導性ビーズを等方的に分散させることができる。それ故、前記熱伝導性ビーズを含む成形体内には、配向層を含む熱の経路が等方的に形成されやすい。
【0014】
以上の結果、前記熱伝導性ビーズは、熱伝導性に優れるとともに、等方的な熱伝導性を有する成形体を作製することができる。
【0015】
また、前記の態様の製造方法によれば、前記配向層を備えた熱伝導性ビーズを容易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例1における、熱伝導性ビーズの要部を示す断面図である。
図2図2は、充填材の配向角の算出方法を示す説明図である。
図3図3は、製造例1の熱伝導性ビーズの光学顕微鏡像の一例である。
図4図4は、実施例1における、熱伝導性ビーズの作製に用いる自転公転型ミキサーの要部を示す説明図である。
図5図5は、製造例1の熱伝導性ビーズにおける断面の電子顕微鏡像である。
図6図6は、実施例2における、熱伝導性ビーズを含む成形体の要部を示す一部断面図である。
図7図7は、実施例2における、試験体T3の要部を示す一部断面図である。
図8図8は、実施例2における、試験体T4の要部を示す一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.熱伝導性ビーズ
前記熱伝導性ビーズは、硬化性ポリマーの硬化物からなる樹脂部と、樹脂部に保持された充填材と、を有している。
【0018】
・樹脂部
樹脂部に用いられる硬化性ポリマーは、未硬化の状態において流動性を有し、硬化後に固体となる特性を有している。硬化性ポリマーは、加熱によって硬化する熱硬化性ポリマー、光照射によって硬化する光硬化性ポリマー、湿気によって硬化する湿気硬化性ポリマーのいずれであってもよい。硬化性ポリマーとしては、具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、オキサジン樹脂、ビスマレイミド樹脂及びトリアジン樹脂等を使用することができる。また、硬化性ポリマーとしては、これらのポリマーのうち1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
・充填材
前記熱伝導性ビーズにおける充填材は、形状異方性を有するとともに、樹脂部よりも高い熱伝導率を有している。ここで、充填材が「形状異方性を有する」とは、充填材の短径Sf[μm]、つまり、種々の方向において測定した充填材の外寸法のうち最も小さな外寸法の値に対する長径Lf[μm]、つまり、最も大きな外寸法の値の比Lf/Sfの値が3以上であることをいう。形状異方性を有する充填材には、例えば、厚みに比べて長さあるいは幅が十分に広い薄片状や鱗片状と呼ばれる形状、及び、太さに比べて長さが十分に長い棒状や繊維状と呼ばれる形状等が含まれる。
【0020】
f/Sfの値は、1000以下であることが好ましい。Lf/Sfの値が過度に大きい場合、つまり、充填材の長径が短径に対して過度に長い場合には、熱伝導性ビーズの作製過程において充填材同士が絡まりやすくなり、前記未硬化ビーズを球状に成形することが難しくなるおそれがある。Lf/Sfの値を1000以下とすることにより、かかる問題を回避し、球状の熱伝導性ビーズを容易に作製することができる。
【0021】
球状の熱伝導性ビーズをより容易に作製する観点からは、充填材の長径Lfは1mm未満であることが好ましい。
【0022】
充填材の長径Lf[μm]と、前記熱伝導性ビーズの直径Db[μm]との比 b /L f の値は、10以上1000以下であることが好ましく、20以上500以下であることがより好ましい。この場合には、熱伝導性ビーズの作製過程において、表面近傍に存在する充填材をより容易に所望の方向に配向させることができる。また、この場合には、配向層内の充填材同士をより容易に接触させ、配向層内により多くの熱の経路を形成することができる。その結果、熱伝導性ビーズの熱伝導性をより向上させることができる。
【0023】
充填材は、樹脂部よりも高い熱伝導率を備えた物質から構成されていることが好ましい。充填材としては、例えば、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブなどの炭素系材料、六方晶型窒化ホウ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、炭化ケイ素などのセラミックス材料、銅、銀、金などの金属材料、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維、セルロースナノファイバなどの高結晶性有機繊維などから選択される1種または2種以上の物質を採用することができる。
【0024】
また、充填材は、熱的に等方な物質、つまり、どの方向にも同程度に熱を伝えることができる物質から構成されていてもよいし、熱的異方性を有する物質、つまり、特定の方向に熱が伝わりやすい性質を有する物質から構成されていてもよい。充填材が熱的異方性を有する物質から構成されている場合、充填材の長径方向と、熱が伝わりやすい方向とが一致していることが好ましい。この場合には、配向層内において熱伝達をより効率よく行うことができる。その結果、前記熱伝導性ビーズを含む成形体の熱伝導性をより向上させることができる。
【0025】
前記熱伝導性ビーズ中の前記充填材の含有量は30体積%以上95体積%以下であることが好ましい。熱伝導性ビーズ中の充填材の含有量が過度に少ない場合には、熱伝導性ビーズを球状に成形することが難しくなるおそれがある。また、この場合には、配向層内に充填材を介した熱の経路が形成されにくくなるため、熱伝導性の低下を招くおそれもある。一方、熱伝導性ビーズ中の充填材の含有量が過度に多い場合には、樹脂部が不足するため、充填材同士の間に空隙が形成されやすくなり、強度や熱伝導性の低下を招くおそれがある。充填材の含有量を前記特定の範囲とすることにより、これらの問題を容易に回避し、熱伝導性ビーズの熱伝導性を十分に高めることができる。
【0026】
・その他の成分
前記熱伝導性ビーズ内には、前述した作用効果を損なわない範囲で、難燃剤、安定化剤、可塑剤、界面活性剤、帯電防止剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0027】
・熱伝導性ビーズの形状
前記熱伝導性ビーズは、球状を呈している。ここで、前述した「球状」とは、真球、楕円球及びこれらの形状の表面に凹凸を付与した形状等を含む概念である。熱伝導性ビーズが球状であるか否かは、以下の方法によって算出される扁平率の平均値によって判断することができる。
【0028】
扁平率を算出するに当たっては、まず、熱伝導性ビーズを平板上に載置し、光学顕微鏡像を取得する。この光学顕微鏡像における熱伝導性ビーズの輪郭上に互いの距離が最も離れるような2つの点を設定し、2点間の長さを測定する。この2点間の長さ、つまり、光学顕微鏡像に基づいて測定された最も長い外寸法の値を熱伝導性ビーズの長径Lbとする。次いで、光学顕微鏡像に基づいて、長径Lbと直交する方向における外寸法を測定し、この値を熱伝導性ビーズの短径Sbとする。
【0029】
個々の熱伝導性ビーズの扁平率は、前述の方法により得られた長径Lbの値と短径Sbとに基づき、以下の式(1)により算出される値である。
扁平率=(Lb-Sb)/Lb ・・・(1)
【0030】
以上の方法により複数の熱伝導性ビーズについて扁平率を算出し、これらの扁平率の算術平均を扁平率の平均値とすることができる。なお、扁平率の平均値を算出するに当たっては、扁平率の測定に用いるビーズの数が多いほど正確な値を算出することができる。扁平率の平均値を算出する際に用いる熱伝導性ビーズの数は、例えば100個以上であればよい。
【0031】
扁平率は0以上1未満の値をとり、値が0に近いほど熱伝導性ビーズの形状が真球に近いことを意味する。前記熱伝導性ビーズにおける扁平率の平均値は、0.4以下とする。
【0032】
扁平率の平均値は、0.2未満であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましい。この場合には、熱伝導性ビーズがより真球に近い形状となるため、成形体内における熱伝導性ビーズの配置の偏りを抑制することができる。その結果、等方的な熱伝導性を有する成形体をより容易に得ることができる。
【0033】
また、熱伝導性ビーズの表面の凹凸の大きさは、以下の方法により算出される表面凹凸度の平均値に基づいて評価することができる。まず、熱伝導性ビーズを平板上に載置し、光学顕微鏡像を取得する。そして、光学顕微鏡像における熱伝導性ビーズの輪郭の長さを測定し、この値を周囲長P[μm]とする。また、光学顕微鏡像における熱伝導性ビーズの面積を測定し、この値を投影面積S[μm2]とする。
【0034】
表面凹凸度は、熱伝導性ビーズの周囲長Pと熱伝導性ビーズの投影面積Sとに基づき、以下の式(2)により算出される値である。
表面凹凸度=P2/4πS ・・・(2)
【0035】
以上の方法により複数の熱伝導性ビーズについて表面凹凸度を算出し、これらの表面凹凸度の算術平均を表面凹凸度の平均値とすることができる。なお、表面凹凸度の平均値を算出するに当たっては、表面凹凸度の測定に用いるビーズの数が多いほど正確な値を算出することができる。表面凹凸度の平均値を算出する際に用いる熱伝導性ビーズの数は、例えば100個以上であればよい。
【0036】
表面凹凸度は1以上の値をとり、値が1に近いほど熱伝導性ビーズの表面の凹凸が小さいことを意味する。表面凹凸度の平均値は、1.5未満であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましい。この場合には、熱伝導性ビーズの表面がより平滑になるため、成形体内において熱伝導性ビーズ同士が接触しやすくなる。その結果、成形体の熱伝導性をより向上させることができる。
【0037】
前記熱伝導性ビーズの大きさは特に限定されることはないが、例えば、直径10μm以上3mm以下の範囲から適宜設定することができる。熱伝導性ビーズの直径Dbの値としては、具体的には、熱伝導性ビーズの投影面積Sに基づき、以下の式(3)によって算出される球相当径、つまり、体積の等しい真球の直径が用いられる。
b=(4S/π)1/2 ・・・(3)
【0038】
・熱伝導性ビーズの内部構造
前記熱伝導性ビーズは、その表面に、長軸が熱伝導性ビーズの表面に沿うように前記充填材が配向した配向層を有している。例えば充填材が薄片状である場合、前記熱伝導性ビーズの表面近傍に存在する充填材は、その厚み方向が熱伝導性ビーズの径方向に沿うとともに、その板面が熱伝導性ビーズの表面を向くように配向している。また、例えば充填材が棒状である場合、前記熱伝導性ビーズの表面近傍に存在する充填材は、前記熱伝導性ビーズの周方向に延在している。
【0039】
配向層による前述した作用効果を十分に得る観点からは、配向層は、熱伝導性ビーズの直径の5%以上の厚みを有していることが好ましい。
【0040】
熱伝導性ビーズは、表面近傍の充填材が前記特定の方向に配向していれば、等方的な熱伝導性を容易に実現することができる。そのため、熱伝導性ビーズにおける、配向層よりも内側に存在する充填材の配置は、特に限定されることはない。例えば、熱伝導性ビーズ内の充填材は、熱伝導性ビーズの径方向の全体に亘って前記特定の方向に配向していてもよい。また、熱伝導性ビーズは、配向層と、配向層の内側に存在し、充填材が無秩序な向きに配置されたコア層と、を備えた2層構造を有していてもよい。更に、熱伝導性ビーズは、表面から径方向の内側へ向かうにつれて徐々に充填材の配向状態が変化するように構成されていてもよい。
【0041】
配向層における充填材の配向の程度は、以下の方法により算出される配向角の平均値及び標準偏差に基づいて評価することができる。まず、熱伝導性ビーズをその重心を通る面で切断し、重心を含む断面を露出させる。この断面を顕微鏡で観察し、熱伝導性ビーズの表面に最も近い位置に配置された充填材を含む顕微鏡像を取得する。次に、顕微鏡像上において、熱伝導性ビーズの重心と、熱伝導性ビーズの表面に最も近いに配置された充填材の重心とを通る直線を引き、この直線と熱伝導性ビーズの輪郭との交点を決定する。そして、この交点を通る熱伝導性ビーズの輪郭の接線を決定する。以上により決定された熱伝導性ビーズの輪郭の接線と、充填材の長軸に平行な方向に延在する直線とのなす角度を配向角とする。なお、配向角の決定に当たっては、充填材の長軸に平行な方向に延在する直線が、熱伝導性ビーズの輪郭の接線を基準として反時計回り方向に傾いている場合と、時計回り方向に傾いている場合とがある。配向角の値は、便宜上、前者の場合に正の値をとり、後者の場合に負の値をとるものとする。
【0042】
以上の方法により複数の充填材について配向角を算出し、これらの配向角の算術平均を配向角の平均値とすることができる。また、複数の充填材について算出した配向角に統計処理を施すことにより、配向角の標準偏差を算出することができる。なお、配向角の平均値及び標準偏差を算出するに当たっては、配向角の測定に用いる充填材の数が多いほど正確な値を算出することができる。配向角の平均値及び標準偏差を算出する際に用いる充填材の数は、例えば100個以上であればよい。
【0043】
前記配向角の平均値は、-10°以上+10°以下とする。
【0044】
充填材の配向角の平均値は、-8°以上+8°以下であることが好ましく、-5°以上+5°以下であることがより好ましい。また、配向角の標準偏差は、25°以下であることが好ましく、15°以下であることがより好ましい。この場合には、各熱伝導性ビーズの配向層内に、熱伝導性ビーズの表面に沿った熱の経路をより容易に形成することができる。その結果、熱伝導性ビーズ及びこれを備えた成形体の熱伝導性をより向上させることができる。
【0045】
B.熱伝導性ビーズの製造方法
前記熱伝導性ビーズの製造方法は、
前記充填材と未硬化の前記硬化性ポリマーとを含み球状を呈するとともに、その表面に、長軸が前記表面に沿うように前記充填材が配向した配向層を備えた未硬化ビーズを作製するビーズ作製工程と、
前記未硬化ビーズ中の前記硬化性ポリマーを硬化させる硬化工程と、を有している。
【0046】
前記ビーズ作製工程においては、未硬化ビーズの表面に配向層を形成することができれば、どのような方法を採用してもよい。例えば、ビーズ作製工程としては、前記充填材と前記硬化性ポリマーとの混合物からなるビーズ前駆体を作製する造粒工程と、
自転公転型ミキサーを用いて前記ビーズ前駆体を球状に成形しつつ、前記ビーズ前駆体の表面に存在する前記充填材を長軸が前記ビーズ前駆体の表面に沿うように配向させる充填材整列工程と、を備えた方法を採用することができる。
【0047】
前記造粒工程においては、まず、混練機や撹拌機などを用いて充填材と未硬化の硬化性ポリマーとを混合する。未硬化の硬化性ポリマーは液状を呈している。また、未硬化の硬化性ポリマーには、例えば、硬化後のポリマーの骨格となる主剤、主剤同士を結合して硬化させる硬化剤、硬化反応を促進する硬化促進剤などが含まれている。
【0048】
充填材と未硬化の硬化性ポリマーとを混合するに当たっては、どのような順序でこれらの成分を混合してもよい。例えば、主剤等を所定の割合で混合して硬化性ポリマーを作製した後に硬化性ポリマーと充填材とを混合してもよいし、主剤と充填材とを予め混合した後に、硬化剤等を加えてさらに混合してもよい。
【0049】
また、充填材との混合前または混合中に、未硬化の硬化性ポリマーを有機溶剤で希釈し、硬化性ポリマーの粘度を調整することもできる。この場合には、充填材との混合が完了した後、未硬化ビーズを硬化させるまでの間に有機溶剤を揮発等の手段により除去すればよい。
【0050】
次いで、充填材と硬化性ポリマーとの混合物を粒状に成形してビーズ前駆体を作製する。混合物を粒状に成形する方法としては、例えば、ペレタイザー、粉砕機などを使用することができる。
【0051】
充填材整列工程においては、自転公転型ミキサーを用いて前記ビーズ前駆体を球状に成形しつつ、前記ビーズ前駆体の表面に存在する前記充填材を長軸が前記ビーズ前駆体の表面に沿うように配向させる。ここで、自転公転型ミキサーとは、公転軸を中心としてビーズ前駆体を入れた容器を旋回させるとともに、前記容器自体が公転軸に対して傾斜した自転軸を中心として回転するように構成されたミキサーをいう。自転公転型ミキサーによれば、公転によって容器内のビーズ前駆体に遠心力を作用させつつ、自転によって容器内のビーズ前駆体を転動させることができる。これらの結果、ビーズ前駆体の成形と配向層の形成とを同時に行い、未硬化ビーズを作製することができる。
【0052】
硬化工程においては、ビーズ作製工程において得られた前記未硬化ビーズ中の前記硬化性ポリマーを硬化させる。未硬化ビーズの硬化方法としては、硬化性ポリマーの種類に応じた適切な方法を採用することができる。例えば、硬化性ポリマーが熱硬化性ポリマーである場合には、未硬化ビーズを所定の時間及び温度で加熱すればよい。
【0053】
C.樹脂組成物
前記硬化性ビーズと、樹脂からなる樹脂マトリクスと、を混合することにより、樹脂組成物を得ることができる。樹脂マトリクスは、どのような樹脂から構成されていてもよい。例えば、樹脂マトリクスは、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、オキサジン樹脂、ビスマレイミド樹脂、トリアジン樹脂等の熱硬化性樹脂であってもよいし、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、アクリルポリマー、メタクリルポリマー、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル等の熱可塑性樹脂であってもよい。また、樹脂マトリクスとしては、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のうち1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0054】
更に、樹脂マトリクス中には、充填材、難燃剤、安定化剤、可塑剤、界面活性剤、帯電防止剤などの添加剤が含まれていてもよい。樹脂マトリクス中の充填材は形状異方性を有していてもよいし、等方的な形状を有していてもよい。樹脂マトリクス中の充填材が形状異方性を有する場合であっても、前記熱伝導性ビーズと混合することにより、成形後における樹脂マトリクス中の充填材が特定の方向に配向することを抑制できる。その結果、等方的な熱伝導特性を有する成形体を容易に得ることができる。
【0055】
樹脂組成物中には、1種の熱伝導性ビーズが含まれていてもよいし、充填材及び/または硬化性ポリマーの異なる複数種の熱伝導性ビーズが含まれていてもよい。また、樹脂組成物中の熱伝導性ビーズは、単一の直径を有していてもよいし、種々の直径を有していてもよい。成形体における熱伝導性ビーズの充填性をより向上させる観点からは、熱伝導性ビーズとして、粒径分布の異なる複数種の熱伝導性ビーズを併用することが好ましい。
【0056】
樹脂組成物中の熱伝導性ビーズの含有量は、例えば、10体積%以上95体積%以上の範囲から適宜設定することができる。熱伝導性ビーズの含有量が過度に少ない場合には、樹脂組成物中に熱の経路が形成されにくくなる。その結果、成形体の熱伝導性の低下を招くおそれがある。また、熱伝導性ビーズの含有量が過度に多い場合には、樹脂マトリクスが不足し、樹脂組成物を所望の形状に成形することが難しくなるおそれがある。熱伝導性ビーズの含有量を前記特定の範囲とすることにより、これらの問題を容易に回避することができる。
【0057】
樹脂組成物中の熱伝導性ビーズの含有量は、30体積%以上95体積%以下であることが好ましい。この場合には、熱伝導性ビーズ同士がより接触しやすくなるため、成形体内に熱の経路がより形成されやすくなる。それ故、この場合には、成形体の熱伝導性をより高くすることができる。
【0058】
D.成形体
前記樹脂組成物を成形することにより、等方的な熱伝導性を有する成形体を得ることができる。前記樹脂組成物の成形方法は特に限定されることはなく、圧縮成形、真空圧縮成形、移送成形、射出成形、押出成形、キャスト成形などの公知の成形方法から、樹脂マトリクスの種類や所望する成形体の形状等に応じて適宜選択することができる。
【0059】
前記樹脂組成物を成形してなる成形体の内部には、前述したように、熱伝導性ビーズの配向層を含む熱の経路が形成されている。そのため、前記成形体は、等方的な熱伝導性、つまり、いずれの方向においても同程度に熱が伝わる特性を有している。より具体的には、前記成形体は、熱伝導率が最大となる方向における熱伝導率λA[W/m・K]と、熱伝導率が最小となる方向における熱伝導率λB[W/m・K]との比である熱伝導率異方性λA/λBの値が1.5以下となる特性を有している。
【0060】
前記熱伝導率λBは、7W/m・K以上であることが好ましい。この場合には、成形体全体の熱伝導性をより向上させることができる。かかる熱伝導性を備えた成形体は、例えば、放熱部材等の用途に好適である。
【実施例
【0061】
(実施例1)
前記熱伝導性ビーズ及びその製造方法の実施例を、図1図5を参照しつつ説明する。本例の熱伝導性ビーズ1には、図1に示すように、硬化性ポリマーの硬化物からなる樹脂部2と、樹脂部2よりも熱伝導率が高く、形状異方性を有し、樹脂部2に保持された充填材3と、が含まれている。図3に示すように、熱伝導性ビーズ1は球状を呈している。また、図1に示すように、熱伝導性ビーズ1の表面11には、長軸が表面11に沿うようにして充填材3が配向した配向層12が設けられている。
【0062】
本例の熱伝導性ビーズ1は、充填材3と未硬化の硬化性ポリマーとを含み球状を呈するとともに、その表面に、長軸が表面に沿うように充填材3が配向した配向層12を備えた未硬化ビーズを作製するビーズ作製工程と、未硬化ビーズ中の硬化性ポリマーを硬化させる硬化工程と、を有する製造方法により作製される。また、ビーズ作製工程は、充填材3と硬化性ポリマーとの混合物からなるビーズ前駆体100を作製する造粒工程と、図4に示す自転公転型ミキサー4を用いてビーズ前駆体100を球状に成形しつつ、ビーズ前駆体100の表面に存在する充填材3を、長軸がビーズ前駆体100の表面に沿うように配向させる充填材整列工程と、を有している。
【0063】
本例においては、具体的には、以下のようにして2種類の熱伝導性ビーズ1を作製した。
【0064】
・製造例1
製造例1では、充填材3として、平均長径が3.37μmであり、平均短径が0.28μmである薄片状の黒鉛(日本黒鉛商事株式会社製「UP-20」)を使用した。また、硬化性ポリマーとして、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を使用した。硬化性ポリマーには、具体的には、ビスフェノールA骨格を有する主剤(三菱ケミカル株式会社製「jER(登録商標)827」と、硬化剤としての4-メチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物(東京化成工業株式会社製)と、硬化促進剤としての2-エチルー4-メチルイミダゾール(東京化成工業株式会社製)とが含まれている。
【0065】
造粒工程においては、まず、前述した主剤100質量部に対し、108質量部の硬化剤と1質量部の硬化促進剤とを混合して未硬化の硬化性ポリマーを調製した。次いで、この硬化性ポリマー5質量部に対して15質量部の充填材3を加えて混合し、粘土状の混合物を得た。その後、ペレタイザーを用いて得られた混合物を粒状に成形し、ビーズ前駆体100を作製した。
【0066】
充填材整列工程においては、前述したビーズ前駆体100を図4に示す自転公転型ミキサー4(株式会社シンキー製「ARE-310」)の容器41内に入れた後、容器41の公転速度を2000rpm、自転速度を800rpmに設定して2分間攪拌を行った。
【0067】
本例において使用した自転公転型ミキサー4の容器41は、図4に示すように円筒状を呈しており、中心軸と自転軸42とが一致するように配置されている。また、容器41の自転軸42は公転軸43に対して45°傾斜するように配置されている。そして、容器41は、公転軸43の周囲を旋回しつつ、自転軸42(つまり、容器41の中心軸)を回転中心として自転するように構成されている。
【0068】
容器41内のビーズ前駆体100は、容器41の公転によって遠心力を受けつつ、自転によって転動する。これにより、ビーズ前駆体100を球状に成形しつつ、ビーズ前駆体100の表面に存在する充填材3を前記特定の方向に配向させ、前述した未硬化ビーズを得ることができる。
【0069】
硬化工程においては、未硬化ビーズを加熱して硬化性ポリマーを硬化させた。本例の硬化工程では、具体的には、80℃の温度で1時間保持し、次いで120℃の温度で1時間し、その後150℃の温度で3時間保持する温度履歴で未硬化ビーズを加熱した。以上により、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の硬化物からなる樹脂部2中に薄片状黒鉛の充填材3が分散した熱伝導性ビーズ1を作製した。製造例1の熱伝導性ビーズ1における充填材3と樹脂部2との質量比及び体積比は表1に示す通りである。
【0070】
・製造例2
本例では、充填材3として、薄片状黒鉛に替えて、平均長径が3.44μmであり、平均短径0.33μmである六方晶型窒化ホウ素(デンカ株式会社製GPグレード)を用いた以外は、製造例1と同様の条件で造粒工程、充填材整列工程及び硬化工程を実施した。これにより、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の硬化物からなる樹脂部2中に六方晶型窒化ホウ素の充填材3が分散した熱伝導性ビーズ1を作製した。製造例2の熱伝導性ビーズ1における充填材3と樹脂部2との質量比及び体積比は表1に示す通りである。なお、表1においては、六方晶型窒化ホウ素を「h-BN」と表記した。
【0071】
次に、製造例1及び製造例2の熱伝導性ビーズ1の形状と、充填材3の配向状態とを以下の方法により評価した。
【0072】
・熱伝導性ビーズ1の形状
光学顕微鏡により熱伝導性ビーズ1を観察して光学顕微鏡像を取得した。画像解析ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinROOF2015」)を用い、図3に示す、光学顕微鏡像中の熱伝導性ビーズ1の長径Lb[μm]、短径Sb[μm]、周囲長P[μm]及び投影面積S[μm2]を算出した。そして、個々の熱伝導性ビーズ1について、下記式(1)~式(3)に基づいて扁平率、表面凹凸度及び直径Dbの値を算出した。
扁平率=(Lb-Sb)/Lb ・・・(1)
表面凹凸度=P2/4πS ・・・(2)
b=(4S/π)1/2 ・・・(3)
【0073】
100個以上の熱伝導性ビーズ1について扁平率、表面凹凸度及び直径Dbの値を測定した後、統計処理を行い平均値及び標準偏差を算出した。表1に、熱伝導性ビーズ1の扁平率、表面凹凸度及び直径Dbの平均値と標準偏差とを示す。
【0074】
・充填材3の配向状態
熱伝導性ビーズ1を切断した後、断面を研磨して重心を通る断面を露出させた。この断面を走査型電子顕微鏡で観察し、図5に示す電子顕微鏡像を取得した。図には示さないが、熱伝導性ビーズ1の表面11の近傍をより高倍率で観察したところ、表面11の近傍に存在する充填材3は、充填材3の厚み方向が熱伝導性ビーズ1の径方向に沿い、かつ、充填材3の長軸が熱伝導性ビーズ1の表面11に沿うように配向していた。また、製造例1及び製造例2の熱伝導性ビーズ1においては、少なくとも表面11からの深さが50μmまでの範囲内に存在する充填材3が、前記特定の方向に配向していた。即ち、製造例1及び製造例2の熱伝導性ビーズ1における配向層12の厚みは50μm以上であった。
【0075】
次に、画像解析ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinROOF2015」)を用い、以下の方法により熱伝導性ビーズ1の表面11の最も近くに配置された充填材3の配向角θ(図2参照)を算出した。まず、電子顕微鏡像上において、熱伝導性ビーズ1の重心Wbと、熱伝導性ビーズ1の表面11に最も近い位置に配置された充填材3の重心Wfとを通る直線L1を引き、この直線L1と熱伝導性ビーズ1の表面11との交点13を決定した。そして、この交点13を通る熱伝導性ビーズ1の輪郭の接線L2を決定した。以上により決定された接線L2と、充填材3の長軸に平行な方向に延びる直線L3とのなす角度を配向角θとした。なお、便宜上、図2においては充填材3の記載を一部割愛した。
【0076】
100個以上の充填材3について配向角θの値を測定した後、統計処理を行い配向角θの平均値及び標準偏差を算出した。表1に、製造例1及び製造例2の熱伝導性ビーズ1における、配向角θの平均値及び標準偏差を示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示したように、製造例1及び製造例2の熱伝導性ビーズ1は、その表面11に、充填材3が前記特定の方向に配向した配向層12を有している。熱伝導性ビーズ1の表面11の充填材3をこのように配向させることにより、配向層12内に、充填材3同士が連なってなる熱の経路を容易に形成することができる。そのため、熱伝導性ビーズ1は、配向層12に沿って熱を効率よく伝達することができる。更に、熱伝導性ビーズ1同士を接触させることにより、隣接する熱伝導性ビーズ1に配向層12を介して熱を効率よく伝達することができる。
【0079】
また、熱伝導性ビーズ1の充填材3は、硬化性ポリマーの硬化物からなる樹脂部2に保持されている。そのため、せん断力などの外力が加わった場合に、熱伝導性ビーズ1の崩壊を抑制し、配向層12における充填材3の配向状態を維持することができる。
【0080】
更に、熱伝導性ビーズ1は球状であるため、射出成形等の樹脂組成物の流動を伴う成形方法によって前記熱伝導性ビーズ1を含む樹脂組成物を成形した場合に、樹脂組成物中に熱伝導性ビーズ1を等方的に分散させることができる。それ故、熱伝導性ビーズ1を含む成形体内には、配向層12を含む熱の経路が等方的に形成されやすい。
【0081】
以上の結果、製造例1及び製造例2の熱伝導性ビーズ1によれば、成形体内に、配向層12を含む熱の経路を等方的に形成し、熱伝導性を向上させることができる。
【0082】
(実施例2)
本例では、図6を参照しつつ熱伝導性ビーズ1を含む成形体5の例を説明する。なお、本例以降の例において用いる符号のうち、既出の例において用いた符号と同一のものは、特に説明のない限り既出の例における構成要素等と同様の構成要素等を示す。
【0083】
本例の成形体5には、図6に示すように、樹脂マトリクス51と、樹脂マトリクス51中に分散した熱伝導性ビーズ1とが含まれている。本例においては、具体的には、以下のようにして2種類の成形体5(試験体T1、T2)を作製した。
【0084】
・試験体T1
試験体T1の樹脂マトリクス51には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の硬化物511と、この硬化物中に分散した充填材512とが含まれている。試験体T1の樹脂マトリクス51における硬化物511は、具体的には、ビスフェノールA骨格を有する主剤(三菱ケミカル株式会社製「jER(登録商標)827」、硬化剤としての4-メチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物(東京化成工業株式会社製)及び硬化促進剤としての2-エチルー4-メチルイミダゾール(東京化成工業株式会社製)との混合物を硬化させてなるビスフェノールA型エポキシ樹脂である。また、試験体T1における充填材512は、具体的には、薄片状黒鉛(日本黒鉛商事株式会社製「UP-20」)である。
【0085】
試験体T1を作製するに当たっては、まず、主剤100質量部に対し、108質量の硬化剤と1質量部の硬化促進剤とを混合して未硬化の硬化性ポリマーを調製した。次いで、この硬化性ポリマー5質量部に対して15質量部の充填材512を加えて混合し、未硬化の樹脂マトリクスを得た。
【0086】
次に、未硬化の樹脂マトリクス50体積部に対して50体積部の製造例1の熱伝導性ビーズ1を混合し、樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を内径φ40mmの円筒状を呈する金型内に入れ、圧縮成形を行った。プレス成形においては、圧力37MPa、温度80℃の条件で1時間加圧しつつ加熱を行った後、圧力を保ったまま温度を120℃に上昇させ、120℃の温度を1時間保持した。その後、金型から取り出した成形体5を、150℃の温度で3時間加熱して樹脂マトリクス51を十分に硬化させた。以上により、厚み1.2mm、直径40mmの円板状を呈する成形体5を得た。この成形体5を試験体T1とした。
【0087】
・試験体T2
樹脂マトリクス51中の充填材512として、薄片状黒鉛に替えて、平均長径が3.44μmであり、平均短径0.33μmである六方晶型窒化ホウ素(デンカ株式会社製GPグレード)を用いるとともに、熱伝導性ビーズ1として、製造例1の熱伝導性ビーズ1に替えて製造例2の熱伝導性ビーズ1を用いた以外は、試験体T1と同様の条件で成形体5を作製した。この成形体5を試験体T2とした。
【0088】
本例では、試験体T1及び試験体T2との比較のため、熱伝導性ビーズ1を用いずに作製した成形体(試験体T3~T6)を準備した。試験体T3~T6の具体的な作製方法は以下の通りである。
【0089】
・試験体T3
製造例1の熱伝導性ビーズ1と同様の方法により造粒工程及び充填材整列工程を実施し、未硬化ビーズを作製した。この未硬化ビーズを内径φ40mmの円筒状を呈する金型内に入れ、試験体T1と同様の条件で圧縮成形を行った。以上により、厚み1.2mm、直径40mmの円板状を呈する成形体を得た。この成形体を試験体T3とした。
【0090】
・試験体T4
試験体T1において用いた未硬化の樹脂マトリクスを内径φ40mmの円筒状を呈する金型内に入れ、試験体T1と同様の条件で圧縮成形を行った。以上により、厚み1.2mm、直径40mmの円板状を呈する成形体を得た。この成形体を試験体T4とした。
【0091】
・試験体T5
製造例1の未硬化ビーズに替えて製造例2の未硬化ビーズを使用した以外は、試験体T3と同様の条件で圧縮成形を行った。以上により、厚み1.2mm、直径40mmの円板状を呈する成形体を得た。この成形体を試験体T5とした。
【0092】
・試験体T6
試験体T1において用いた未硬化の樹脂マトリクスに替えて試験体T2において用いた未硬化の樹脂マトリクスを使用した以外は、試験体T4と同様の条件で圧縮成形を行った。以上により、厚み1.2mm、直径40mmの円板状を呈する成形体を得た。この成形体を試験体T6とした。
【0093】
以上により得られた試験体T1~T6の熱伝導性を、以下の方法により評価した。
【0094】
・熱伝導率及び熱伝導率異方性の測定方法
熱物性測定装置(株式会社ベテル製「サーモウェーブアナライザTA35」)を用いて、試験体の厚さ方向及び面内方向(つまり、厚さ方向と直角な方向)の熱拡散率λ[m2・s-1]を測定した。また、示差走査熱量計(株式会社日立ハイテクサイエンス製「DSC7000」)を用いて試験体の定圧比熱Cp[J・K-1・kg-1]を測定した。更に、アルキメデス法により試験体の密度ρ[kg・m-3]を測定した。なお、これらの測定は、いずれも25±2℃の環境中で行った。
【0095】
以上により得られた熱拡散率λ、定圧比熱Cp及び密度ρの値を下記式(4)に代入することにより、熱拡散率を測定した方向における熱伝導率の値α[W・m-1・K-1]の値を算出することができる。表2に、試験体T1~T6における、厚さ方向の熱伝導率及び面内方向の熱伝導率を示す。なお、本例の作製方法においては、試験体の厚さ方向または厚さ方向に直角な方向のうち一方が熱伝導率が最大となる方向になり、他方が熱伝導率が最小となる方向になると推定される。
α=λ×Cp×ρ ・・・(4)
【0096】
【表2】
【0097】
表2に示したように、試験体T1及び試験体T2における、熱伝導率が最大となる方向における熱伝導率λA[W/m・K]と、熱伝導率が最小となる方向における熱伝導率λB[W/m・K]との比である熱伝導率異方性λA/λBの値は1.5以下である。かかる結果によれば、試験体T1及び試験体T2は、等方的な熱伝導性を有していることが理解できる。
【0098】
試験体T1及び試験体T2の内部では、図6に一例を示すように、成形後においても熱伝導性ビーズ1の充填材3の配置が維持されていると推定される。そして、熱伝導性ビーズ1の配向層12同士が接触することにより、配向層12を含む熱の経路が等方的に形成されていると考えられる。
【0099】
一方、試験体T3及び試験体T5の熱伝導率異方性λA/λBの値は試験体T1及び試験体T2よりも大きくなった。試験体T3及び試験体T5の内部では、図7に一例を示すように、成形時に未硬化ビーズが圧縮されたことにより、未硬化ビーズに由来する充填材3の配置が球状から楕円球状に変化したと推定される。そして、充填材3の配置が楕円球状に変化したことにより、充填材3の長径方向の端部同士が接触してなる熱の経路が寸断され、厚み方向の熱伝導率の低下を招いたと考えられる。
【0100】
試験体T4及び試験体T6の熱伝導率異方性λA/λBの値は試験体T3及び試験体T5よりも更に大きくなった。試験体T4及び試験体T6の内部では、図8に一例を示すように、成形時の樹脂マトリクス51の流動に伴って、充填材512の長軸と成形体の厚み方向とが直角になるように充填材512が配向したと推定される。そして、充填材512がこのように配向したことにより、熱伝導率異方性の値が大きくなったと考えられる。
【0101】
本発明に係る熱伝導性ビーズ1、樹脂組成物及び成形体5の具体的な態様は、実施例1及び実施例2に記載された態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【0102】
例えば、実施例2においては、熱伝導性ビーズ1と同一の組成を有する樹脂マトリクス51を使用した樹脂組成物及び成形体5の例を示したが、樹脂マトリクス51の組成は、熱伝導性ビーズ1とは異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0103】
1 熱伝導性ビーズ
11 表面
12 配向層
2 樹脂部
3 充填材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8