(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】マスク、マスクの製造方法および電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/04 20060101AFI20230324BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20230324BHJP
H10K 50/00 20230101ALI20230324BHJP
【FI】
C23C14/04 A
H05B33/10
H05B33/14 A
(21)【出願番号】P 2019086482
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古谷 正基
(72)【発明者】
【氏名】本田 淳雄
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-204100(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0117475(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/04
H05B 33/10
H10K 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に成膜パターンを形成するためのマスクであって、
開口部を有するフレームと、
前記フレームによって囲まれた内部領域を分割する複数のラインを含むマスク箔を有しており、
前記複数のラインは、第一のラインと、前記第一のラインの両端部以外の位置に一端部が接合された第二のラインを含み、
前記第一のラインに付与される単位断面積あたりのテンションに対して、前記第二のラインに付与される単位断面積あたりのテンションが小さい
ことを特徴とするマスク。
【請求項2】
前記第一のラインの両端部が前記フレームと接合されている
ことを特徴とする請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
前記第一のラインに前記第二のラインのテンションが作用する作用部位から、前記第一のラインが前記フレームに接合された部位までの長さを、モーメントの腕の長さとしたときに、前記第一のラインに付与される単位断面積あたりのテンションよりも、前記第二のラインに付与されるテンションに起因して前記第一のラインに付与される断面係数あたりのモーメントのほうが小さい
ことを特徴とする請求項2に記載のマスク。
【請求項4】
前記第一のラインと前記第二のラインはT字状またはY字状に交差する交差部を有することを特徴とする請求項3に記載のマスク。
【請求項5】
前記第二のラインは、前記第一のラインの前記フレームに対して反対側となる面に接合されている
ことを特徴とする請求項4に記載のマスク。
【請求項6】
基板表面に成膜パターンを形成するためのマスクであって、
開口部を有するフレームと、
前記フレームによって囲まれた内部領域を分割する複数のラインを含むマスク箔を有しており、
前記複数のラインは、第一のラインと、前記第一のラインの両端部以外の位置に一端部が接合された第二のラインを含み、
前記第一のラインと前記第二のラインが接合する接合領域における前記第二のラインの幅は、非接合領域における前記第二のラインの幅よりも大きい
ことを特徴とするマスク。
【請求項7】
前記第二のラインの長手方向における前記接合領域の長さは、前記第一のラインの幅よりも小さい
ことを特徴とする請求項6に記載のマスク。
【請求項8】
前記第二のラインの長手方向における前記接合領域の長さの、前記第一のラインの幅に対する比は、25%~75%の範囲内である
ことを特徴とする請求項7に記載のマスク。
【請求項9】
基板表面に成膜パターンを形成するためのマスクであって、
開口部を有するフレームと、
前記フレームによって囲まれた内部領域を分割する複数のラインを含むマスク箔を有し
ており、
前記複数のラインは、第一のラインと、前記第一のラインの両端部以外の位置に一端部が接合された第二のラインを含み、
前記第一のラインと前記第二のラインが接合する接合領域において、前記第一のラインを介して前記第二のラインと反対の側に、第三のラインが配置され、前記第一のラインと接合される
ことを特徴とするマスク。
【請求項10】
前記第一のラインの両端部が前記フレームと接合されている
ことを特徴とする請求項6~9のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項11】
前記第一のラインと前記第二のラインはT字状またはY字状に交差する交差部を有することを特徴とする請求項6~10のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項12】
前記第一のラインに付与されているテンションは、前記第二のラインに付与されているテンションよりも大きい
ことを特徴とする請求項6~11のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項13】
前記第二のラインは、前記第一のラインの前記フレームとは反対側の面に接合されている
ことを特徴とする請求項12に記載のマスク。
【請求項14】
基板表面に成膜パターンを形成するためのマスクの製造方法であって、
開口部を有するフレームに、前記フレームによって囲まれた内部領域を分割するような、第一のラインと第二のラインを含む複数のラインを含むマスク箔を張架するものであり、
前記第一のラインにテンションを付与しながら、前記フレームに第一のラインの両端を接合して張架するステップと、
前記第二のラインにテンションを付与しながら、前記第一のラインの両端部以外の位置に前記第二のラインの一端部を接合して張架するステップと、
を有しており、
前記第一のラインに付与される単位断面積あたりのテンションに対して、前記第二のラインに付与される単位断面積あたりのテンションを小さくする
ことを特徴とするマスクの製造方法。
【請求項15】
電子デバイスの製造方法であって、
基板にマスクをアライメントするステップと、
前記マスクを介して前記基板に蒸着材料を蒸着させるステップと、
を含み、
前記マスクは、開口部を有するフレームと、前記フレームによって囲まれた内部領域を分割する複数のラインを含むマスク箔を有しており、
前記複数のラインは、第一のラインと、前記第一のラインの両端部以外の位置に一端部が接合された第二のラインを含み、
前記第一のラインに付与される単位断面積あたりのテンションに対して、前記第二のラインに付与される単位断面積あたりのテンションが小さい
ことを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク、マスクの製造方法および電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス基板等の成膜対象物に蒸着材料を蒸着して成膜を行う蒸着装置が用いられている。例えば、有機ELパネルの製造時に有機層を蒸着する有機層蒸着装置が知られている。有機層は、厚みが数十μm~数μmの薄い膜であり、膜の形成には1つあるいは複数の開口部が設けられた成膜用のマスクが用いられる。成膜用マスクは例えば、フレーム部と、ライン状のマスク箔を複数組み合わせたマスク箔部を含み、マスク箔部の間に開口部が設けられた構成をしている。有機層蒸着装置がかかる成膜用マスクを介して蒸着材料をガラス基板に蒸着させると、開口部では蒸着材料が通過してガラス基板上に堆積し、マスク箔部では蒸着材料がマスクされて、ガラス基板上の所望の位置に所望のパターン形状の有機層が形成される。
【0003】
有機層蒸着装置は、ガラス基板の被成膜面へのコンタミネーション物質の付着を避けるために、被成膜面を重力方向下側に向けた状態で成膜することが多い。その場合、ガラス基板は被成膜面を下側にして水平に保持され、マスクは被成膜面と対向するように水平に保持される。有機層蒸着装置は、ガラス基板とマスクの相対する位置に設けられたアライメントマークを参照して、必要な位置決め精度が得られるまでアライメント工程を行ったのち、ガラス基板とマスクを重ね合わせる。重ね合わされたマスクのうち一部の領域(例えばフレーム部)は、ガラス基板に当接するが、他の領域(例えばマスク箔部の一部)は、自重で撓んでガラス基板から離れている。そして、ガラス基板越しに磁気吸引力や静電吸着力等でマスク箔部に吸引力を付与することで、マスク箔部の全体がガラス基板に向けて引き上げられる。
【0004】
ここで、有機層のような薄い層を成膜する際には、成膜時にマスクの影が発生しないように薄いマスク箔が用いられる。かかるマスク箔において精度良く成膜を行うためには、マスク箔と成膜対象物とができるだけ密着し、隙間を可及的に小さくすることが必要である。例えば、蒸着材料の回り込み、素子間や配線パターン間の短絡、漏れ電流やクロストークが発生しないようにするためには、マスク箔とガラス基板の隙間を数μm以内とすることが好ましい。
【0005】
また、ガラス基板のサイズと、製造しようとするディスプレイパネルのサイズや形状との関係によっては、マスク箔部の形状が単純なマトリックス状ではなくなる。例えば、一枚のガラス基板から複数種類の大型ディスプレイパネルを製造する場合のように、複数種類の開口部パターンを組み合わせたパネルレイアウトにおいては、フレームの対向する両辺の間に張架されるラインだけではなく、少なくとも一方の端部が別のラインの中間部に接続されたラインも存在する。この場合、マスク箔のライン同士がT字状に交差し、交差部においてライン同士が接合されることになる。この場合、ラインの交差部等におけるテンションのバランスが悪化するおそれがある。
【0006】
特許文献1は、磁力によってマスクを基板へ吸着させる製造方法を提案している。
特許文献2は、基板とマスクを位置決めした後にマスクを架張する工程、および、磁力吸着した後に磁石を移動してマスクを架張する工程において、マスク箔のT字交差部の直上にマグネットを配置した状態でマスクを吸引して、交差部に生じた変形を解消する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-41069号公報
【文献】特許第5958690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、マグネットや電磁石等の磁力発生源の配置により磁力および箔への吸引力は均一ではなく磁極間でゼロになる区間を生じるため、マスク箔に変形を生じていると、マスク箔が基板に密着できずに隙間を生じる要因になっていた。
【0009】
また、特許文献2では、マスク箔のT字交差部の変形の原因となる箔張力は数十N~数百Nであるのに対して、マグネットの吸引力は数桁低いため、マスク箔の変形を押しつぶして解消するには不十分である。そのため、マスク箔が基板に密着できずに隙間を生じる要因になっていた。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数のラインを組み合わせた形状のマスクにおいて、マスクの変形により生じる成膜対象物とマスクの隙間を小さくするための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、
基板表面に成膜パターンを形成するためのマスクであって、
開口部を有するフレームと、
前記フレームによって囲まれた内部領域を分割する複数のラインを含むマスク箔を有しており、
前記複数のラインは、第一のラインと、前記第一のラインの両端部以外の位置に一端部が接合された第二のラインを含み、
前記第一のラインに付与される単位断面積あたりのテンションに対して、前記第二のラインに付与される単位断面積あたりのテンションが小さい
ことを特徴とするマスクである。
【0012】
本発明は、また以下の構成を採用する。すなわち、
基板表面に成膜パターンを形成するためのマスクであって、
開口部を有するフレームと、
前記フレームによって囲まれた内部領域を分割する複数のラインを含むマスク箔を有しており、
前記複数のラインは、第一のラインと、前記第一のラインの両端部以外の位置に一端部が接合された第二のラインを含み、
前記第一のラインと前記第二のラインが接合する接合領域における前記第二のラインの幅は、非接合領域における前記第二のラインの幅よりも大きい
ことを特徴とするマスクである。
【0013】
本発明は、また以下の構成を採用する。すなわち、
基板表面に成膜パターンを形成するためのマスクであって、
開口部を有するフレームと、
前記フレームによって囲まれた内部領域を分割する複数のラインを含むマスク箔を有しており、
前記複数のラインは、第一のラインと、前記第一のラインの両端部以外の位置に一端部が接合された第二のラインを含み、
前記第一のラインと前記第二のラインが接合する接合領域において、前記第一のラインを介して前記第二のラインと反対の側に、第三のラインが配置され、前記第一のラインと接合される
ことを特徴とするマスクである。
【0014】
本発明は、また以下の構成を採用する。すなわち、
基板表面に成膜パターンを形成するためのマスクの製造方法であって、
開口部を有するフレームに、前記フレームによって囲まれた内部領域を分割するような、第一のラインと第二のラインを含む複数のラインを含むマスク箔を張架するものであり、
前記第一のラインにテンションを付与しながら、前記フレームに第一のラインの両端を接合して張架するステップと、
前記第二のラインにテンションを付与しながら、前記第一のラインの両端部以外の位置に前記第二のラインの一端部を接合して張架するステップと、
を有しており、
前記第一のラインに付与される単位断面積あたりのテンションに対して、前記第二のラインに付与される単位断面積あたりのテンションを小さくする
ことを特徴とするマスクの製造方法である。
【0015】
本発明は、また以下の構成を採用する。すなわち、
電子デバイスの製造方法であって、
基板にマスクをアライメントするステップと、
前記マスクを介して前記基板に蒸着材料を蒸着させるステップと、
を含み、
前記マスクは、開口部を有するフレームと、前記フレームによって囲まれた内部領域を分割する複数のラインを含むマスク箔を有しており、
前記複数のラインは、第一のラインと、前記第一のラインの両端部以外の位置に一端部が接合された第二のラインを含み、
前記第一のラインに付与される単位断面積あたりのテンションに対して、前記第二のラインに付与される単位断面積あたりのテンションが小さい
ことを特徴とする電子デバイスの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数のラインを組み合わせた形状のマスクにおいて、マスクの変形により生じる成膜対象物とマスクの隙間を小さくするための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】有機ELパネルの製造ラインの制御ブロック図
【
図5】マスクチャックを示す概略図と搬送キャリアの概略図
【
図8】マグネット配置を示す図と磁気吸引力の分布を示すグラフ
【
図11】アライメントの進行の各段階の続きを示す概略図
【
図12】アライメントの進行の各段階の続きを示す概略図
【
図15】マスク箔隙間発生を説明するための単純化モデル図
【
図16】第一のラインと第二のラインのテンションの関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲をそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がないかぎりは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、説明を省略する。
【0019】
本発明は、成膜対象物に蒸着による成膜を行う蒸着装置に使用される蒸着マスクに好適であり、典型的には有機ELパネルを製造するためにガラス基板に対して有機材料等を蒸着して成膜する蒸着装置に適用できる。本発明は、基板等の成膜対象物に薄膜、無機薄膜を形成するためのマスクにも好適である。本発明は、成膜装置およびその制御方法、成膜方法としても捉えられる。本発明はまた、マスクの製造方法としても捉えられる。本発明はまた、電子デバイスの製造装置や電子デバイスの製造方法としても捉えられる。本発明はまた、制御方法をコンピュータに実行させるプログラムや、当該プログラムを格納した記憶媒体としても捉えられる。記憶媒体は、コンピュータにより読み取り可能な非一時的な記憶媒体であってもよい。
【0020】
(製造ライン全体構成)
図1は、有機ELパネルの製造ライン100の全体構成を示す概念図である。概略、製造ライン100は、蒸着処理工程搬送路100a、リターン搬送路100b、マスク受渡機構100c、キャリアシフタ100d、マスク受渡機構100e、および、キャリアシフタ100fを備える、循環型搬送路を構成する。循環型搬送路を構成する各構成要素、例えば基板搬入室101、反転室102、アライメント室103、加速室104、蒸着室105、減速室106、マスク分離室107、反転室108、ガラス基板排出室109などには、搬送路を構成するための搬送モジュール301が配置されている。詳しくは後述するが、本図には、製造プロセスの各エ程においてガラス基板G、マスクMおよび静電チャック308(符号C)がどのように搬送路上を搬送されるかが示される。
【0021】
蒸着処理工程搬送路100aでは、概略、外部よりガラス基板Gが搬送方向(矢印A)に搬入され、ガラス基板GとマスクMが搬送キャリア上に位置決めされて保持され、搬送キャリア302とともに搬送路上を移動しながら蒸着処理を施された後、成膜済みのガラス基板Gが排出される。リターン搬送路100bでは、蒸着処理完了後に分離されたマスクMと、ガラス基板排出後の搬送キャリア302が、基板搬入室側へと復帰する。
【0022】
マスク受渡機構100cでは、蒸着処理完了後に搬送キャリアから分離されたマスクMが、リターン搬送路へと移動される。リターン搬送路に移動したマスクMは、基板を排出して空になった搬送キャリアに302再び載置される。キャリアシフタ100dでは、ガラス基板Gを次工程へと排出した空の搬送キャリア302がリターン搬送路100bへと乗せ換えられる。マスク受渡機構100eでは、リターン搬送路100bを搬送されてきた搬送キャリアから分離されたマスクMが、蒸着処理工程搬送路100a上のマスク装着位置P2へと搬送される。キャリアシフタ100fでは、マスクM分離後の空の搬送キャリアが、リターン搬送路100bから蒸着処理工程搬送路100aの始点のガラス基板搬
入位置P1へと搬送される。
【0023】
図2は、製造ライン100の制御ブロックの概念図である。制御ブロックは、製造ライン100の全体の稼働情報を管理する稼働管理制御部700と、運行コントローラ20を含む。また、製造ライン100を構成する基板搬入室101、反転室102、アライメント室103、加速室104、蒸着室105等の各室(各装置)には、各室内部の駆動機構を制御する駆動制御部が設けられている。すなわち、基板搬入室101には基板搬入室制御部701a、反転室102には反転室制御部701b、アライメント室103にはアライメント室制御部701c、加速室104には加速室制御部701d、蒸着室105には蒸着室制御部701eが設けられている。上記以外の各装置(各室)にも、それぞれ制御部701Nが設けられている。これらの駆動制御部と全体を管理する稼働管理制御部700は、制御手段に含めて考えてもよい。また運行コントローラ20も、制御手段に含めて考えてもよい。
【0024】
また、上記の各装置(各室)には、搬送モジュールa(301a)~搬送モジュールN(301N)が設けられている。各装置に配置されている搬送モジュール301には、ガラス基板Gおよび搬送キャリア302の搬送方向に沿って、複数の駆動用コイルがライン状に配置されている。各搬送モジュール301に設けられたエンコーダの値に応じて、各駆動用コイルに流れる電流もしくは電圧を制御することにより、搬送キャリア302の駆動が制御される。
【0025】
(搬送キャリア302の搬送駆動部の構成)
(搬送キャリアの構成)
図3(A)は固定部としての搬送モジュール301、可動部としての搬送キャリア302からなる搬送ユニット300を
図1の矢印Aで示す搬送方向から見た正面図である。
図3(B)は
図3(A)における枠Sで囲む要部の拡大図、
図3(C)は搬送キャリア302の側面図、
図4は搬送キャリアの分解斜視図である。搬送モジュール301は、製造ライン100の全域にわたって複数個配列されて搬送路を構成する。各搬送モジュール301の駆動用コイルに供給する電流を制御することにより、複数の搬送モジュール全体を1つの搬送路として制御し、搬送キャリア302を連続して移動させることができる。
【0026】
図において、搬送キャリア302のキャリア本体302Aは、矩形状のフレームで構成され、その左右両側面には搬送方向Aに平行な断面コ字形状に開くガイド溝303a,303bがそれぞれ形成されている。一方、搬送モジュール301側の側板の内面には、複数のローラ列からなるローラベアリング(ガイドローラ)304a,304bが回転自在に取り付けられている。そして、各ガイド溝303a,303b内に、ローラベアリング304a,304bがそれぞれ挿入されることによって、搬送キャリア302が搬送モジュール301に対して、矢印A方向(搬送方向)に移動自在に支持される。
【0027】
(搬送キャリア上のガラス基板GとマスクMの保持機構)
次に、搬送キャリア302にガラス基板Gを保持する機構と、ガラス基板上にマスクMを保持する機構について説明する。本発明によれば、ガラス基板は静電チャックによって、マスクは磁気吸着手段としての磁気吸着チャック307によってそれぞれ搬送キャリアに重ねて保持されるように構成されている。
【0028】
図3、
図4において、矩形フレーム状の搬送キャリア302のキャリア本体302A下面には、マスクMを磁気的に吸着する磁気吸着チャック307、ガラス基板Gを静電力によって吸着する静電チャック308を重ねて収納したチャックフレーム309が取り付けられており、キャリア本体302Aの矩形フレーム上面には、静電チャック308に電荷を帯電させる制御部が内蔵された制御ボックス312が配されている。
この制御ボックス312内の制御部を動作させてチャックフレーム309内の静電チャック308を帯電させることにより、ガラス基板Gを吸着して保持することができる。
【0029】
(磁気吸着チャックの構成)
また磁気吸着チャック307は、
図3、
図4に示すように、チャック本体307xと、チャック本体302xの背面(ガラス基板Gと反対側)からキャリア本体302側にZ軸方向に延びる2本のガイドロッド307aとを有している。このガイドロッド307aがキャリア本体302Aのフレームに設けられた筒状ガイド307bに摺動自在に挿入され、チャックフレーム309内を上下に移動可能となっている。
【0030】
磁気吸着チャック307は、外部に設けられた駆動源側の連結端部の駆動側連結端部に設けられた駆動側フック307gに係脱可能な連結部である連結フック307cを有している。この連結フック307cが駆動側フック307gと係合することによって、ガイドロッド302aを介して、チャック本体307xを上下方向に駆動させる。駆動側フック307gは、装置外部に配置される流体圧シリンダやボールねじを用いた駆動装置等のアクチュエータ307hによって制御される。
【0031】
図示例では、ガイドロッド307aの先端部に固定されたキャップ307iに連結フック307cが設けられると共に、キャップ307iの側面に側方に延びる位置決め片307dが設けられている。一方、キャリア本体302A側には、この位置決め片307dが、チャック本体307xの上端位置にて当接する上端ロック片307fと、下端位置をロックする下端ストッパ307eとに選択的に係合可能となっている。上端ロック片307fは水平方向に移動可能となっており、上端位置にて位置決め片307dの下面に係合する係合位置と、位置決め片307dから離れる退避位置間を移動可能となっており、退避位置において、位置決め片307dが下方に移動可能となり、下端ストッパ307eに当接して下降位置が規制される。この下降限は、マスクMを磁気吸着する位置であるが、チャック本体307xと静電チャック308との間には若干隙間を設けている。これによって、磁気吸着チャック307の重量が静電チャック308に作用するのを回避している。
【0032】
この上端ロック片307fの駆動も外部駆動力によって駆動されるもので、たとえば、回転駆動のアクチュエータ307mで先端に設けたピニオンを回転駆動させ、上端ロック片307fまたは、直線ガイドの可動部材に設けたラックに噛合うようにすれば、水平移動させることができる。
【0033】
上端ロック片307fは、
図3に示すように、キャリア本体302Aに設けられた台座307jの上面に、所定間隔離間した一対の直線ガイド307kを介してスライド自在に支持されている。直線ガイド307kの間の台座307j上面には、下端ストッパ307eが突設されており、位置決め片307dは直線ガイド307kの間を通過可能な幅に構成されており、上端ロック片307fが退避位置に移動すると、下方への移動が可能となり、下端ストッパ307eに当接する。
【0034】
そして、チャックフレーム309の静電チャック308にガラス基板Gを保持した状態で、マスクMをガラス基板Gに対してアライメントを行いながら接近させ、マスクMがガラス基板Gに当接した状態で、磁気吸着チャック307をマスクM側へと移動させることによって、マスクMがガラス基板Gおよび静電チャック308を挟んで磁気的に吸着される。これによって、ガラス基板GとマスクMが相互に位置合わせされた状態で、チャックフレーム309にチャックされ、結果として搬送キャリア302に保持されることとなる。
【0035】
(磁気吸着チャックの形状)
図4を参照して、磁気吸着チャック307や静電チャック308の形状を説明する。
チャックフレーム309は、キャリア本体302Aより一回り小さい矩形状の部材で、静電チャック308の外周縁を保持し、磁気吸着チャック307と上記格子状の格子状の支持フレームの4辺をガイドするガイド壁を構成している。
【0036】
静電チャック308はセラミック等の板状部材で、内部電極に電圧を印加し、ガラス基板Gとの間に働く静電力によってガラス基板Gを吸着するもので、チャックフレーム309の下側縁に上下に移動不能に固定されている。静電チャック308は、
図4に示すように、複数のチャック板308aに分割されており(図では6枚)、各チャック板308aの辺同士が複数のリブ309bによって固定されている。リブ309bは、磁気吸着チャック307の支持枠が干渉しないように複数に分かれている。
【0037】
磁気吸着チャック307のチャック本体307xは、矩形状の枠体307x1にマスクMに形成された遮蔽パターンに対応するパターンの格子状の支持フレーム307x2と、支持フレーム307x2に取り付けられるヨーク板307x3および吸着マグネット307x4と、を備えた構成となっている。
【0038】
図7には吸着マグネット307x4の配置が示されている。
図7は、磁気吸着チャック307の吸着マグネット307x4が配置された面を下方から見た様子を示す。ヨーク板307x3に沿って直交方向にS極、N極のマグネットが交互にライン上に配列されている。
【0039】
(マスク保持手段)
搬送キャリア302下面のチャックフレーム309の周囲複数箇所(実施例では10箇所)には、磁気吸着チャック307とは別に、マスクMを保持するマスク保持手段としてのマスクチャック311が設けられている。このマスクチャック311は、外部からの駆動力で駆動される構成で、搬送キャリア302には駆動源は搭載されていない。
【0040】
図5(A)には、このマスクチャック311の構造が示されている。
マスクチャック311は、図示のように、搬送キャリア下面に4本の支柱311dによって取り付けられたベース311aに、マスクM周縁のマスクフレーム412を上下より挟持するチャック片311b,311cを備えている。上側のチャック片311bはマスクMの周縁のマスクフレーム412の上面に当接する位置に配され、下側のチャック片311cは、回転軸311fによって矢印311g方向に回転駆動可能となっている。すなわち、下側のチャック片311cは、上側のチャック片311bとともにマスクフレーム412を挟持する図示の挟持位置と、マスクフレーム412から離間し、マスクフレーム412の上下動を妨げない311hで示す退避位置に移動可能である。これらの移動は、外部に配置されるアクチュエータ311m(
図3(A)参照)からチャンバ内部に延びる駆動側の連結端部311jに、連結部311iが連結されることによって回転軸311fを回転駆動することによって行われる。
【0041】
また回転軸311fは、チャック片311bとともにマスクフレーム412を挟持した状態で、チャック片311cを搬送キャリア側へと弾性的に付勢する付勢部材311kを備えている。この付勢部材311kの付勢力によって、マスクMを確実に搬送キャリア302に保持し、位置ずれを防止することができる。
【0042】
マスクチャック311は、マスク装着前は、上記退避位置に移動されており、マスクMが後述の昇降装置によって搬送キャリア302下面へと上昇し、ガラス基板Gに当接された状態となると、
図3に示すアクチュエータによって、連結部311iを介して駆動され、チャック片311cがマスク及びガラス基板側へと回転し、マスクMの周縁部分を係止
し、弾性的に搬送キャリア302にチャックした状態となる。
【0043】
なお、マスクチャック311は、マスクMの周縁のマスクフレーム412を係止することによって、ガラス基板Gを挟んで保持しているため、以後、ガラス基板Gに対する静電チャック308、マスクMに対する磁気吸着チャック307を解除しても、ガラス基板GとマスクMを重ねて装着保持した状態を維持することができる。
【0044】
図5(B)は、この搬送キャリアを簡略化して概念的に示した図である。
図3(A)と同一の機能部分に、同一の符号を付している。
すなわち、搬送キャリア302へのガラス基板Gの保持には静電チャック308が用いられ、マスクMの保持には磁気吸着チャック307が用いられ、両チャックともチャックフレーム309内に組み込まれている。磁気吸着チャック307によるマスクMの保持は、チャックフレーム309内における磁気吸着チャック307の昇降動作によって動作される。なお、
図3では、上端ロック片を水平移動させているが、
図5では、回転駆動させる構成としている。ロック、アンロックができればよく、水平移動でもよいし、回転移動でもよい。磁気吸着チャック307によるマスク保持が完了した後は、機械式のマスクチャック311により、マスクフレーム412がキャリア本体302Aに保持される。マスクチャック311には与圧用スプリング等の付勢部材311kが組み込まれており、弾性的に保持される。これら、静電チャック308、磁気吸着チャック307及びマスクチャック311の3種のチャックが搬送キャリア302にコンパクトに組み込まれている。
【0045】
(アライメントプロセス)
図6(A)~
図6(C)はアライメント室103内で行われるマスクチャック動作を行うマスク昇降装置、およびその動作を説明するための図である。
【0046】
アライメント室103内においては、搬送モジュール301がチャンバ内のメインフレーム200に固定され、搬送キャリア302は、静電チャックによって保持されたガラス基板Gを下方に向けた状態で、磁気浮上によって搬送モジュール301に吊り下げられた状態に維持されている。
【0047】
同図に示すように、搬送キャリア302の下方には、マスクMを保持して昇降する昇降装置202が配されている。昇降装置は、ジャッキ203a,203b,203c,203dによってそれぞれ上下動する昇降ロッド204a,204b,204c,204dにより、前後左右の4点を支持して、マスクトレイ205を昇降制御するように構成されている。
【0048】
また
図6(C)に示すように、マスクトレイ205はマスクMの周縁のマスクフレームMF上を複数のマスク支持部206で支持するように構成されている。
【0049】
以上の構成により、マスクトレイ205上に載置されたマスクMは、ジャッキ203a~203dによって上昇され、磁気浮上している搬送キャリア302に保持されたガラス基板Gへと接近し、所定の近接距離になると、ガラス基板GとマスクMに対してアライメント動作が行われる。
【0050】
アライメント動作は、アライメントカメラによって、ガラス基板とマスクに予め形成されているアライメントマークを撮像して両者の位置ずれ量及び方向を検知し、磁気浮上している搬送キャリア302の搬送駆動系によって搬送キャリアの位置を微動しながら位置合わせ(アライメント)を行い、ガラス基板とマスクの位置が正確に位置合わせされた状態で、磁気吸着チャックによってマスクMが吸着され、搬送キャリアに保持される。
【0051】
この保持状態は、前述のように10カ所のマスクチャック311によってロックされ、以後、静電チャック、磁気吸着チャックを解除しても、ガラス基板とマスクがアライメントされた状態で搬送キャリアに保持された状態が維持される。
【0052】
ここで、アライメントの際に、搬送キャリア302が磁気浮上した状態で、搬送モジュール301に対する位置を微調整するようにしている。そのため、アライメント専用の微動調整機構を別途設けることなく、搬送キャリア駆動系によってアライメントを実施できるので、搬送キャリア302の構成の簡略化、軽量化にも有効である。
【0053】
(処理フロー)
図9のフローチャートと、
図10~
図12を参照して、アライメント室103におけるアライメント動作の詳細を説明する。
図10(A)~
図12(D)はそれぞれ、
図9のステップS1~S5,S7~S12に対応する。
【0054】
まずステップS1において、
図10(A)のように、マスクMがマスク受渡機構100eによりプリアライメント室100gから搬入される。アライメント室制御部は、アライメント室103に設けられたセンサにより搬入の完了を検知する。
【0055】
次にステップS2において、
図10(B)のように、反転室102からアライメント室103に、基板を保持した搬送キャリア302が磁気浮上搬送モードで搬入される。ここでの搬送方向Aは、奥から手前に向かう方向とする。アライメント室制御部は、搬送モジュール301のエンコーダの値から位置を検出し、所定のアライメント位置で搬送キャリア302を停止させる。このときのマスクMとガラス基板Gのクリアランス(隙間)を、CLS2とする。例えばCLS2=68mmである。
【0056】
次にステップS3において、
図10(C)のように、昇降装置202(ジャッキ203a~203d、昇降ロッド204a~204d)によりマスクMを上昇させ、ガラス基板Gに接触する直前で停止する。停止位置は、次のステップS4において、アライメントカメラが、ガラス基板GとマスクMのそれぞれのアライメントマークを同時に計測可能な位置となる。このときのマスクMとガラス基板GのクリアランスをCLS3とすると、例えばCLS3=3mmである。
【0057】
次にステップS4において、
図10(D)のように、アライメントカメラ1310により、ガラス基板GとマスクMのそれぞれのアライメントマークが同時に計測される。なお、搬送キャリア302には、アライメントカメラの光軸方向に沿って貫通孔が設けられている。アライメントカメラは、この貫通孔を介して、ガラス基板GとマスクMに設けられたアライメントマークを計測することができる。また、アライメントマーク計測を可能にする構成であれば、貫通孔ではなく、例えば切欠きなどを用いてもよい。
【0058】
次にステップS5において、
図11(A)のように、アライメント室制御部は、S4における計測結果からガラス基板GとマスクMの位置ズレ量を算出し、位置ずれの値が所定の許容範囲に収まるように、ガラス基板Gを保持した搬送キャリア302の位置を調整する。位置調整の際には、符号331で示すように、駆動用コイル306a、306bに印加される電流または電圧を制御して、駆動用マグネット305a,305bとの間の磁力を調整する。このように本ステップのアライメント動作は、搬送キャリア302を浮上させた状態で行われる。次にステップS6において、アライメントカメラが再度計測を行い、アライメント室制御部が位置ずれの値が所定の範囲内かどうかを判定する。もし範囲外であればS5に戻り、位置ずれ値が範囲内に収まるまでアライメントを繰り返す。
【0059】
以上述べたように、本フローのアライメント動作は、搬送キャリアおよびそれに保持さ
れるガラス基板Gが磁気浮上した状態で、磁力により搬送キャリアの位置を調整することで行われる。この構成では搬送キャリアと搬送モジュールが非接触であるため、摩擦等の影響が抑制され、また高精度な位置決めが可能になる。また、アライメントに搬送キャリアを搬送するための駆動用コイルと駆動用マグネットにより発生する磁力を用いるため、アライメント用に別の駆動手段を設ける必要がない。その結果、装置の構成を簡易化するとともにコストを低減することが可能である。
【0060】
アライメント動作が完了すると、マスクMを磁気吸着する行程に入るが、この実施形態では、まず、マスクチャック311によって、マスクフレームMFをチャックする。
すなわち、S7において、
図11(B)のように、マスクMを上昇させてガラス基板Gに近接させる。マスクMの上昇時には、昇降装置202によってマスクトレイ205を上昇させることにより、マスク支持部206によって支持されているマスクMが上昇する。マスクM自体は、模式的に示すように撓んでおり、マスク支持部206に支持されたマスクフレームMFが上昇し、ガラス基板Gと所定の隙間まで近接する。このときのマスクMとガラス基板GのクリアランスをCLS71とすると、例えばCLS71=0.5mmである。また、搬送キャリア302が磁気浮上していることから、キャリアスタンド部302A1の下端とマスクトレイ205の間にはクリアランスCLS72が存在する。
【0061】
次に、S8において、
図11(C)のように、磁気浮上制御をOFFとし、搬送キャリア302をマスクトレイ205に着座させる。磁気浮上制御がOFFとなることによって、浮上力をなくした搬送キャリア302が自重によって落下し、マスクトレイ205に着座する。図示例では、キャリア本体302Aに設けられたキャリアスタンド部302A1の下端が当接するようになっている。このときのマスクMとガラス基板GのクリアランスをCLS8とすると、例えばCLS8=0.3mmである。
【0062】
次に、S9において、
図11(D)のように、マスクチャックを実施する。
すなわち、外部の駆動装置の駆動によって、回転軸311fが回転駆動され、チャック片311cがマスクフレームMFに係合してチャックされる。図示例では、上側のチャック片311bを省略している。この時点で、マスクフレームMFが固定される。この状態は静電チャック308、磁気吸着チャック307を解除しても維持される。
【0063】
次に、S10において、
図12(A)のように、マスクチャック311でマスクMが保持された状態で、搬送キャリア302を浮上開始位置まで上昇させる。搬送キャリア302の上昇はマスクトレイの昇降装置によって行う。浮上開始位置は、搬送モジュール301の駆動用コイル306と搬送キャリア302の駆動用マグネット305の間隔が、搬送キャリア302を浮上させることができる程度の吸引力となる距離である。本ステップでは例えば、搬送キャリア302を0.7mm程度上昇させる。
【0064】
次に、S11において、
図12(B)のように、磁気浮上制御をONとし、マスクトレイ205から、マスクMが保持された搬送キャリア302を浮上させる。すなわち、搬送モジュール301の駆動用コイル306と搬送キャリア302の駆動用マグネット305間の吸引力によって、搬送キャリア302がマスクトレイ205から所定量浮上する。上昇量は、たとえば、0.5mm程度である。すなわち、このときのマスクトレイ205と、搬送キャリア302のキャリアスタンド部302A1の下端の間のクリアランスをCLS11とすると、例えばCLS11=0.5mmである。
【0065】
次に、S12において、
図12(C)のように、磁気吸着チャック307を下降させてマスクMを磁気吸着させる。すなわち、上昇端でロックされていたロック片が外部のアクチュエータによって回転駆動されて、退避位置に移動して下降方向へのロックが外れ、磁気吸着チャック307がガラス基板Gを保持する静電チャック308に向けて下降し、静
電チャック308及びガラス基板Gを挟んで、磁気吸着チャック307の吸着マグネットとマスクMが磁気吸着されて保持される。これによって、アライメントされた状態のマスクMがガラス基板Gの成膜面に全面的に密着して保持される。なお、磁気吸着チャック307の下方への移動は、搬送キャリア302の外部からの駆動力によって実現している。このときの磁気吸着チャックの下降量は、例えば30mmである。
【0066】
次に、S13において、
図12(D)のように、搬送キャリア302が搬送方向Aに向かって、アライメント室103から加速室104に搬出される。
【0067】
以上のフローにより、静電チャック308によって保持されたガラス基板Gの成膜面に、アライメントされたマスクMが磁気吸着チャック307によって保持され、さらにマスクチャック311によってマスクフレームMFがチャックされた状態で、搬送キャリア302が搬出される。
【0068】
なお、上記の説明では、磁気浮上式の搬送キャリアを用いて基板とマスクを搬送するような装置構成を示したが、本実施例の適用対象はこれに限定されない。フレームに複数のライン状のマスク箔部が張架されたマスクであって、少なくとも一つのラインの一端部が他のラインの両端部以外の部分に接合されているようなマスクを用いる装置であれば、本発明を適用可能である。
【0069】
[実施例1]
実施例1について以下に説明する。まず本実施例の前提となる吸着手段およびマスクの構成やその問題点について述べたのち、かかる問題点に対する本実施例の効果について説明する。
【0070】
(磁気吸着チャックの吸引力)
図8(A)は、吸着マグネット307x4の配置を簡略化して概念的に示した断面図である。
図8(B)は、
図8(A)のマスク箔に対する単位面積あたり磁気吸引力(mN/mm
2)を示すグラフである。
【0071】
吸着マグネット307x4は、磁気吸着チャック307に、マグネット磁力や配置ピッチ、ギャップなどの要件に基づいて決定される磁気吸引力に基づいて配置される。なお、ガラス基板GとマスクMの間に隙間を発生させないためには、マスク箔部403がガラス基板Gに略当接することが必要である。そのためには、マスク箔全域において、吸着マグネット307x4の単位面積当たり磁気吸引力が、マスク箔部403の単位面積当たり重量に対して、少なくとも1倍以上の吸引力となる必要がある。
【0072】
例えば本実施例では、吸着マグネット307x4が、マスク箔部403の単位面積当たり重量に対して3倍以上の吸引力を持つように、吸着マグネット307x4を配置する。
図8(A)の例では、吸着マグネット307x4と、磁力の作用対象となるマスク箔部403の間隔は、間にガラス基板G等を介して18.5mmである。このとき、吸着マグネット307x4の幅が10mm、高さが6mm、マグネットのピッチは25mmと設定される。
【0073】
図8(B)は、吸着マグネット307x4によるマスク箔吸着力を磁気解析したグラフである。横軸は水平方向の位置を示し、縦軸は単位面積あたりの磁気吸引力を示す。
図8(B)は概略、
図8(A)に示される吸着マグネット307x4のうち隣接する2つのマグネットに対応している。
【0074】
(マスクの構成)
図13は、成膜用マスク401の構成の概略の一例を示した図である。本実施例における成膜用マスク401は、上述のマスクMに対応する構造物である。成膜用マスク401は、マスクフレーム402、マスク箔部403から構成される。成膜用マスク401は、一枚のガラス基板Gから複数枚のパネルを製造するときに、パネル同士の間の領域をマスキングする目的で用いられる。そのため、マスク箔部403は、複数のライン状の箔が組み合わさったような形状をしている。
【0075】
具体的には、図示例のマスク箔部403は、第一のライン403a、ならびに、第二のライン403b、403cおよび403dを含み、これらの構成要素が段差なく接合した一体構造をしている。マスク箔部403は、マスクフレーム402に接合される。ここでは、両端がマスクフレーム402に接合されたラインを「第一のライン」、一端がマスクフレーム402に接合されており、他端が別のラインに接合されたラインを「第二のライン」と呼んでいる。すなわち、フレームによって囲まれた内部領域を分割するように、第一のラインと第二のラインは配置されている。
また、大型のマスク箔から、開口部分を切り抜くことによっても、接合段差のないマスク箔を作成できる。
【0076】
図13のように段差なくマスクを製造する方法として、例えば、エッチング等により接合領域での各マスク箔の厚みを半分程度に減らす方法がある。
あるいは、第一のラインと第二のラインを突き合わせて溶接する方法もある。突合せ溶接法を用いる場合は、第一のラインから幅方向に突出した部分を設けておき、当該突出した部分の端部と、第二のラインの一端部と、を溶接しても良い。
【0077】
図14は、上述のマスクMに対応する構造物の別の例である、成膜用マスク411の構成の概略を示した図である。成膜用マスク411は、マスクフレーム412と、マスク箔部が接合されている。マスク箔部は、第一のライン413、第二のライン414、415および416、ならびに、周辺部ライン417を含む。
【0078】
図14の成膜用マスク411の製造方法では、まず、第一のライン413が所定のテンションを掛けた状態でマスクフレーム412に接合される。その後、第一のライン413の両端部以外の位置に第二のライン414、415および416の一端部が接合される。なお、第二のラインの一端部を第一のライン413に接合するのではなく、第二のラインを、第一のラインを跨ぐように接合したのち、第一のラインとの交差部を切断してもよい。そして、各第二のラインは、先に第一のラインに接合された一端以外の端部(他端部)で、マスクフレーム412に接合される。なお、マスクのライン構成によっては、各第二のラインの他端部が、さらに他のラインに接合される場合もある。なお、第二のラインの一端部を先にマスクフレーム412に接合したのち、他端部を第一のラインに接合しても良い。
【0079】
各ラインを張架するステップにおいては、好ましいテンションを付与する必要がある。その手法の一例として、テンションを計測しながら、第一のラインをフレームにレーザ溶着し、第一のラインと第二のラインの交差部を溶着し、フレーム外側から架張しながら第二のラインをレーザ溶着する方法がある。
【0080】
その後、周辺部ライン417がマスクフレーム412に接合される。なお、第一のラインの接合前、または第二のラインの接合前に、周辺部ラインをマスクフレーム412に接合してもよい。
【0081】
成膜用マスク401と411の違いは、マスク箔部403に接合による段差があるかどうかである。接合方法として例えば、レーザを用いたスポット溶接を多点で行う方法が挙
げられる。ただし本発明はこれには限定されず、他の接合方法を用いてもよい。
【0082】
(テンション印加によるマスク箔の変形)
続いて、このような複数のラインが組み合わさった形状のマスク箔に起きる変形について述べる。両端をマスクフレームに接合されている第一のライン、および一端部が第一のラインに接合されている第二のラインには、ともに、自重によるたわみが発生する。ラインの両端を接合するとラインにテンションが印加するため自重によるたわみが減少するものの、特に第一のラインについては、両端部以外の箇所で第二のラインのテンションを受けて、蛇行だけではなく箔の変形を発生する場合がある。
【0083】
このようにラインが変形した状態で、マグネットの吸引力を受けてガラス基板と当接すると、ラインの自重は吸引力でキャンセルされるためにたわみ部分が引き揚げられるが、すでにラインに印加されているテンションはキャンセルされ無い。その結果、ラインの変形が残った状態でガラス基板に当接することになる。
発明者が検討した一例においては、厚み50μmのストレートな第一のラインのみをマスクフレームの対向する辺の間に張ったときに、マグネットの吸引力を印加することにより、ガラス基板とマスクの隙間が数十μm以内になり、隙間を比較的小さくできることを確認した。一方、第二のラインを、第一のラインの途中の位置と、マスクフレームの辺のうち第一のラインが接続されていない辺と、の間で張架してテンションを印加したところ、ガラス基板とマスクの隙間が100μmを超えており、隙間が大きくなってしまうことを確認した。
【0084】
図15は、マスク箔の隙間発生の単純化モデル示す。本図を参照しつつ、発明者の検討について説明する。
図15(A)は単純化した構成を示す図であり、(A-1)は、マスクフレーム402、第一のライン403a、および、1つの第二のライン403bの配置を示す。第一のライン403aと第二のライン403bは、交差部403xで交差する。(A-2)は、第一のライン403aに作用する力を簡易的に示した図であり、第一のライン403aのテンションT1、第二のライン403bのテンションT2とし、腕の長さLとする。(A-3)は、第一のライン403aについて、箔の断面積A,水平方向に変形する断面係数Zであることを示す。
【0085】
図15(B)と(C)は、交差部403x付近において、第一のラインに作用する力を単純化した力学モデルを表す。これらの図においては、右側に向かう矢印は、第一のライン403aに引張応力が作用していることを示す。左側に向かう矢印は、第一のライン403aに圧縮応力が働いていることを示す。
【0086】
図15(B)は、第一のラインに作用する2種類の応力を表す。(B-1)はテンションT1による引張応力σtを示し、(B-2)はテンションT2に起因する曲げ応力σbを示す。すなわち、第一のラインのテンションT1による引張応力σt、第二のラインのテンションが第一のラインに与えるモーメントM×L(腕の長さ)による曲げ応力σbとしたときに、組合せ応力σmaxとして第一のラインに作用すると想定する。
【0087】
図15(C)は、組合せ応力σmaxが圧縮応力になる場合を示す。組合せ応力T2による曲げ応力σbがT1による引張応力σtを上回ると(σmax<0)、第一のラインに圧縮応力が作用する。その結果、
図15(D)に示すように、薄い箔であるラインが座屈して変形を起こすと想定する。このとき、
図8(B)に示すマグネットによる吸引力が圧縮応力よりも大きければ、かかる第一のラインの変形を平坦化できる。しかし吸引力が圧縮応力よりも小さいと、第一のラインが変形したまま平坦化されない場合がある。
【0088】
(印加テンションについての検討)
図16は、
図15で示した力学モデルから作成した計算式による、第一のラインのテンションT1と、第一のラインに圧縮応力が発生しないような第二のラインのテンションT2の上限値と、の関係を示すグラフである。本グラフの例では、第一のラインの厚み50[μm]と設定する。また、腕の長さL、すなわち、第一のラインの作用個所(交差部403x付近)からフレーム接合箇所の距離を、500[mm]と設定する。
【0089】
本グラフより、第一のラインの幅が10mm~50mmそれぞれの場合において、圧縮応力が発生しないような第二のラインの上限テンションが求められるので、第二のラインを接合するときにはこの上限値を下回るようなテンションT2とすればよい。
発明者が、厚み50μmのT字交差するラインについて検討したところによれば、第二のラインのテンションT2をグラフの上限テンション以内として、マグネットの吸引力を印加することにより、ガラス基板とマスクの隙間が数十μm以内になることを確認した。
【0090】
数式を用いてさらに検討を続ける。
図15において、第一のライン403aに付与される単位断面積あたりのテンションは、テンションT1[N]、断面積A=b×n[mm
2]として、T1/bn[N/mm
2]と表される。
また、第二のライン403bに付与されるテンションをT2[N]、第一のラインの作用部位からフレームとの接合部までの距離である腕の長さをL[mm]とすると、第一のラインに付与される断面係数当たりのモーメントは、T2×L/(bh
2/6)[N/mm
2]と表される。なお、ここでは第二のラインのテンションが第一のラインに作用する箇所を「作用部位」と呼ぶ。
図15の例では、第一のラインの左右の腕の長さが同じ(L)であり、第一のラインを左右に分けたときの中心線、または、当該中心線上の点、または中心線を含む中心領域が、作用部位となる。作用部位を領域として考えるときの外周は、必ずしも厳密に定める必要はないが、例えば第二のラインの長手方向の二辺を第一のライン上に延長した2本の線と、第一のラインの長手方向の二辺と、で囲まれる領域を、作用部位としても良い。
したがって、ライン変形による座屈を抑制するためには、第一のラインに付与される単位断面積あたりのテンション(T1/bn)と、第二のラインに付与されるテンションによって第一のラインの作用箇所からフレーム接合部までを腕の長さとして前記第一のラインに付与される断面係数あたりのモーメントとを比較したときに、後者が前者よりも小さくなるようにすると良い。
【0091】
このことにより、以下のマスクが有効であると言える。すなわち、基板表面に成膜パターンを形成するためのマスクであって、開口部を有するフレームと、前記フレームによって囲まれた内部領域を分割する複数のラインを有しており、前記複数のラインは、第一のラインと、前記第一のラインの両端部以外の位置に一端部が接合された第二のラインを含み、前記第一のラインに付与される単位断面積あたりのテンションに対して、前記第二のラインに付与される単位断面積あたりのテンションが小さいことを特徴とするマスク、である。
【0092】
このように、第一のラインに付与されるテンションが、第二のラインに付与されるテンションよりも大きいマスクを用いることにより、第一のラインに作用する組み合わせ応力σmaxが圧縮応力となることがないため、ラインの接合部における座屈変形が低減される。その結果、複数のラインを組み合わせた形状のマスクにおいて、マスクの変形により生じる成膜対象物とマスクの隙間を可及的に小さくすることができる。
【0093】
特に、以下のマスクが有効であると言える。すなわち、上記のマスクにおいて、前記第一のラインの両端部が前記フレームと接合されているマスク、である。
このように、第一のラインの両端部がフレームと接合されている場合に、当該第一のラインのテンションと、第一のラインに接合される第二のラインとのテンションに差をつけ
ることにより、マスクの変形を防止できる。
【0094】
さらに、以下のマスクが有効であると言える。すなわち、上記のマスクにおいて、前記第一のラインに前記第二のラインのテンションが作用する作用部位から、前記第一のラインが前記フレームに接合された部位までの長さを、モーメントの腕の長さとしたときに、前記第一のラインに付与される単位断面積あたりのテンションよりも、前記第二のラインに付与されるテンションに起因して前記第一のラインに付与される断面係数あたりのモーメントのほうが小さい、である。
このように、第一のラインに付与されるテンションと第二のラインに付与されるテンションを設定することにより、ラインの接合部における座屈変形が防止される。その結果、成膜対象物とマスクの間の隙間を一層小さくすることができる。
【0095】
[実施例2]
続いて、実施例2について説明する。ガラス基板とマスクの隙間を減らすためには、第一のラインと第二のラインの接合領域の変形を緩和することが重要である。そこで本実施例では特に、二つのラインの接合領域の形状を工夫して変形を緩和する方法について説明する。既に上述したものと同様の構成については同じ符号を付し、説明を簡略化する。
【0096】
本実施例のマスクは、
図14の成膜用マスク411のように、フレーム間に張架された第一のライン413と、少なくとも一端が他のラインに張架された第二のライン414とが、スポット溶接等の手法で接合されることで形成されたものである。
図17は、本実施例の第一のライン413と第二のライン414の接合領域の形状を示す。
【0097】
なお、典型的にはライン接合はスポット溶接により行われる。その場合の、第一のラインと第二のラインが接合される接合領域の範囲について、
図17(C)を用いて説明する。図示したように、2つのラインが複数のスポット溶接Sにより溶接されるとき、接合領域Cの外周は、最外部のスポット溶接位置Sを結んだ線によって規定される。ただし、
図17(D)に示すように、最外部のスポット溶接位置SPを結んだ領域に、若干の余分の領域を含めて、接合領域Cとしても良い。また、スポット溶接以外の手法で接合が行われる場合についても同様に接合領域Cを定義できる。また、後述する「当て箔」の接合される領域である第二の接合領域についても同様である。
【0098】
(第二のラインがT字状端部を持つ例)
図17(A)に、第二のラインの一端部の好ましい構成例を示す。
図17の(A-1)は接合領域C周辺部の拡大上面図である。(A-2)は接合領域CをY軸正方向に向かって見た図である。第一のライン413を白抜きで、第二のライン414を色付きで、接合領域Cを右上がりハッチングで示す。
【0099】
図中の数字はそれぞれの部位の長さ(単位は[mm])である。すなわち、第一のライン413の幅(符号413a1)は、15.1mmである。第二のライン414のうち、接合領域ではない被接合領域における幅(符号414a1)は、25.4mmである。第二のライン414のうち、接合領域に含まれる部分の幅(符号414a2)は、46.6mmである。すなわち、第二のライン414の幅は、被接合領域よりも接合領域において大きい。なお、本明細書において第二のライン414の「幅」とは、第二のラインの短手方向(図中、左右方向)における長さを示す。
【0100】
言い換えると、第二のライン414の両端のうち、接合領域Cに対応する端部は、左右に突出部(符号414a3、414a4)を備えたT字状の形である。
また別の言い換えをすると、第一のライン413と接合される第二のライン414の一端部の接合領域周辺の形状を見ると、第一のライン413の長手方向(図中、左右方向)
における第二のライン414の幅が、第二のライン414の本体部分における幅よりも大きくなる。
【0101】
このように
図17(A)の例では、第二のライン414の幅が一定ではなく、接合領域Cと重畳するかどうかに応じて変化する。具体的には、第二のライン414が第一のライン413に重畳する接合領域Cにおける第二のライン414の幅が、被接合領域(本体部分)における第二のライン414の幅よりも大きくなっている。
このような構成により、
図16における上限テンション(第一のライン413が変形を開始するような、第二のライン414のテンションの上限)の値を上げる効果がある。したがって、変形が発生するケースが少なくなったり、変形形状がなだらかになったりする効果が得られる。
【0102】
(当て箔を用いる例)
図17(B)に、
図17(A)と同じ効果を得る別の接合領域の形状の例を示す。第二のライン414の幅(414a1)は一定であり、接合領域Cと被接合領域の間で変化せず、25.4mmである。
一方で本図では、第一のライン413の両面のうち、第二のライン414が接合する側の面とは逆側の面に、第一のライン413の長手方向に長い、第三の短冊ライン419を接合する。これにより、接合領域Cとは第一のライン413を介して逆側に、当て部材接合領域C2が形成される。本図では、接合領域Cを右上がりの破線ハッチングで、当て部材接合領域C2を左上がりの一点鎖線ハッチングで示す。
【0103】
第三の短冊ライン419の材質は、他のラインと同じでもよい。また、第三の短冊ライン419を、当て部材接合領域C2において第一のライン413と接合する方法も、接合領域Cと同じで良い。また、第三の短冊ラインの形状は短冊状には限定されず、マスクの変形を抑制できるような当て箔であればよい。
このような構成によっても、第二のライン414の上限テンションの値を上げて、変形を抑制する効果が得られる。なお、マスクのうちガラス基板Gと当接するのは第二のライン414の方であるため、当て箔(第三の短冊ライン)を追加しても、マスクと基板の当接状態は変化しない。
なお、第二のラインの幅が一様ではなく、例えば
図17(A)、
図18(A)(B)のような場合にも、当て部材を配置して構わない。
【0104】
(T字状端部の別の例)
図18は、別の接合領域の形状を示す図である。
【0105】
図18(A)は、接合領域周辺における第二のライン414の端部の形状がT字型であり、突出部の第一のライン413の長手方向における幅が、第一のライン413の幅より狭いものである。本図の例では、第一のライン143と接合される第二のライン414の一端部の接合領域Cに関して、接合領域Cにおける第二のライン414の幅(符号414a2)が、被接合領域(第二のライン本体部分)における第二のライン414の幅(符号414a1)よりも大きい。この点は、
図17(A)の例と同様である。
本図の例ではさらに、接合領域Cにおいて、第二のライン414の長手方向(図中、上下方向)における長さ(符号413a4)が、第一のライン413の幅(符号413a1)よりも小さい。
【0106】
接合領域Cの形状をこのようにすることで、第一のライン413の接合部領域の幅を分断するノッチが発生する。これにより、第一のライン413が変形を開始する第二のラインのテンション上限を上げる効果がある。
【0107】
(T字状端部の別の例2)
図18(B)は、
図18(A)と同じ効果を得る別の接合領域の形状を示す。この例では、第二のライン414の接合領域Cでの箔の形状は
図17(A)と同様である。すなわち、第二のライン414の端部の突出部の、第二のライン414の長手方向における長さは、第一のライン413の幅と同等の長さである(いずれも、符号413a1)。
しかし本図では、接合領域Cの、第二のライン414の長手方向における長さ(符号413a5)が、第一のライン413の幅(符号413a1)よりも小さい。
このような構成によっても、
図18(A)と同様の効果が得られる。
【0108】
(効果の確認)
マスク箔の動解析により、接合領域Cにおける第二のライン414形状の変化と、マスクと基板の間の隙間量の関係を確認した。
図19(A)は、動解析に用いた主要な設定である。すなわち、幅52mm、厚さ200μmの第一のライン413は、両端部ともマスクフレーム412に接続され、テンションT1を印加された状態で張架されている。また、幅10mm、厚さ50μmの第二のライン414は、一端部がマスクフレーム412に、他端部が第一のライン413に接続され、テンションT2を印加された状態で張架されている。図示例ではまた、別の複数の第二のライン415、416も示されている。これらは共に幅10mm、厚さ50μmであり、テンションT3が印加されている。
【0109】
図19(B)は、接合領域Cにおける第二のライン414の形状が互いに異なる2種類のマスクについて、第二のライン414のテンションT2と、マスクーガラス間の隙間の大きさを比較したグラフである。接合領域Cが「Ref形状」であるマスクは、比較用として示すものである。すなわち、Ref形状のマスクは、
図17、18で示すような構成は備えていない。一方、接合領域Cが「T字形状」であるマスクは、
図17(A)で示した構成を備えている。測定条件として、第一のラインのテンションT1を1000Nに固定し、第二のラインのテンションT2を様々に変更した。横軸はテンションT2を、縦軸は隙間量を示す。
【0110】
図19(B)に示されるように、Ref形状のマスクを用いた場合(実線グラフ)と比べて、T字形状のマスクを用いた場合(破線グラフ)は、同じテンションT2が印加されている場合でも隙間量が小さくなっている。また、テンションT2が高いほど、隙間量減少の効果が大きくなっている。このことより、本実施例のマスク構成によって、第一のライン413が変形を開始する第二のライン414のテンション上限を上げる効果を確認できた。
【0111】
本実施例より、以下のマスクが有効であることがわかる。すなわち、基板表面に成膜パターンを形成するためのマスクであって、開口部を有するフレームと、前記フレームによって囲まれた内部領域を分割する複数のラインを有しており、前記複数のラインは、第一のラインと、前記第一のラインの両端部以外の位置に一端部が接合された第二のラインを含み、前記第一のラインと前記第二のラインが接合する接合領域における前記第二のラインの幅は、非接合領域における前記第二のラインの幅よりも大きいマスク、である。
このような、例えば
図17(A)、
図18(A)(B)のようなマスクを用いることで、変形の低減が可能になる。
【0112】
本実施例より、以下のマスクも有効であることがわかる。すなわち、基板表面に成膜パターンを形成するためのマスクであって、開口部を有するフレームと、前記フレームによって囲まれた内部領域を分割する複数のラインを有しており、前記複数のラインは、第一のラインと、前記第一のラインの両端部以外の位置に一端部が接合された第二のラインを含み、前記第一のラインと前記第二のラインが接合する接合領域において、前記第一のラ
インを介して前記第二のラインと反対の側に、第三のラインが配置され、前記第一のラインと接合される、マスクである。
このような、例えば
図17(B)のようなマスクを用いることでも、変形の低減が可能になる。
【0113】
上記各実施例では、第一のラインと第二のラインがT字状に交差する交差部を有する場合について説明した。しかし、本発明は、第一のラインと第二のラインが単純な十字型の交差部を持ちバランスよくテンションが付与されている場合以外であれば適用可能である。例えば、第一のラインと第二のラインがY字状に交差する交差部を有する場合も、本発明の対象である。
【0114】
上記各実施例では、第一のラインへの第二のラインの作用部位が、第一のラインの中間点にある場合について説明した。しかし、本発明は、第一のラインが第二のラインにより分割されたときの左右の腕の長さが異なる場合についても、対象となる。すなわち、一方の腕の長さL1、他方の腕の長さをL2とし、L1>L2だとすると、長さL1の腕に基づいてモーメントを求めることにより、好ましい第二のラインのテンション上限値を算出できる。
【0115】
図18(A)、(B)では、第二のライン414が第一のライン413と重畳する領域において、第二のライン414の長手方向に関し、接合領域の長さ(符号413a4,413a5)が6.5mm、非接合領域の長さが4.3×2=8.6mmであった。すなわち、第一のラインの幅に対する接合領域の長さの比は、約43%であった。一般的にh、
この比を25%~75%の範囲内に収めることにより、好適な変形防止性能が得られる。ただし、本発明はこの数値範囲に限定されない。
【0116】
以上、本発明によれば、複数のラインを組み合わせた形状のマスクにおいて、マスクの変形により生じる成膜対象物とマスクの隙間を小さくするための技術を提供することができる。したがって、成膜対象物とマスクの間の隙間を減少させて、蒸着材料の蒸着領域以外への回り込みを抑制できる。すなわち、本発明の実施例に係るマスクや、本発明のマスクの製造方法により製造されたマスクを用いて有機ELディスプレイなどの電子デバイスを製造するような、電子デバイスの製造方法は、精度の高い蒸着を可能にし、高品質な電子デバイスを提供可能にする。本発明における電子デバイスは、発光素子を備えた表示装置(例えば有機EL表示装置)や照明装置(例えば有機EL照明装置)、光電変換素子を備えたセンサ(例えば有機CMOSイメージセンサ)も含むものである。
【符号の説明】
【0117】
401:成膜用マスク、402:マスクフレーム、403a、413:第一のライン、403b、414:第二のライン