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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】口溶け特性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/14 20060101AFI20230324BHJP
   G01N 33/02 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
G01N11/14 D
G01N33/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019216858
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021085834
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100158964
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 和郎
(72)【発明者】
【氏名】竹内 雄大
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 光伯
(72)【発明者】
【氏名】池田 信章
(72)【発明者】
【氏名】竹内 秀和
(72)【発明者】
【氏名】汐海 紗佑里
(72)【発明者】
【氏名】高野 絢香
(72)【発明者】
【氏名】薮田 寛之
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-053951(JP,A)
【文献】特開2008-145132(JP,A)
【文献】特表2010-529437(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0149019(US,A1)
【文献】特開昭53-099984(JP,A)
【文献】日下舞 他,油脂のおいしさと科学,日本,株式会社エヌ・ティー・エス,2016年08月08日,33~38頁
【文献】細井友加里 他,米菓の物性と構造が口どけ感に及ぼす影響,日本食品化学工学会誌,日本,2023年02月17日,第65巻,第12号,573~582頁,doi:10.3136/nskkk.65.573
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/14
G01N 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ニュートン流体である食品の口溶け特性を評価する、口溶け特性評価方法であって、
前記食品に挿入された状態で回転する回転部に作用するトルクの時間変化を測定する、測定工程と、
前記測定工程において測定されたトルクの時間変化から取得される複数の取得値に基づいて、前記食品の口溶け特性を評価する、評価工程と、を備え、
複数の前記取得値は、前記回転部が回転を開始してからトルクが最大値をとるまでの経過時間である第1経過時間t、及び、前記第1経過時間tが経過してから、前記第1経過時間tよりも長い第2経過時間tが経過するまでの間におけるトルクの減少率dTを少なくとも含む、口溶け特性評価方法。
【請求項2】
前記評価工程において、複数の標準試料における複数の前記取得値と、複数の前記標準試料の官能評価による口溶け特性評価結果と、の対応関係を用いて、前記食品の口溶け特性を評価する、請求項1に記載の口溶け特性評価方法。
【請求項3】
前記評価工程においては、複数の標準試料における複数の前記取得値と、複数の前記標準試料の官能評価による口溶け特性評価結果との対応関係を表す回帰式を用いて、前記食品の口溶け特性を評価する、請求項1又は2に記載の口溶け特性評価方法。
【請求項4】
前記回帰式は、口溶け特性の好適度をαで表す場合に、以下の式(1)で表される、請求項3に記載の口溶け特性評価方法。
【数1】
(式(1)においてa,b及びcは定数である。)
【請求項5】
前記食品は、乳化物である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の口溶け特性評価方法。
【請求項6】
前記食品は、水中油滴型乳化物である、請求項5に記載の口溶け特性評価方法。
【請求項7】
前記回転部は、回転軸を中心に回転し、前記回転軸を含む平面に広がる、板状部分を有する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の口溶け特性評価方法。
【請求項8】
前記回転部は、複数の前記板状部分を有する、請求項7に記載の口溶け特性評価方法。
【請求項9】
複数の前記板状部分のうち、前記回転部の回転方向において隣り合う前記板状部分同士は、前記回転軸の延びる方向からみて、前記回転軸の位置を頂点として角度θをなすように配置されており、
前記第2経過時間tは、前記回転部が回転を開始してから角度θの2倍回転するまでの経過時間以上である、請求項7又は8に記載の口溶け特性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口溶け特性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の口溶け特性を、ヒトの感覚によって評価する官能評価に代えて、食品の力学的特性を測定する装置を用いて評価する方法が知られている。例えば特許文献1には、動的粘弾性測定装置を用いてパン類の力学的特性値を測定し、測定された力学的特性値に基づいてパン類の口溶け特性を評価することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-78672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非ニュートン流体である食品について、口溶け特性を評価することができる評価方法が求められていた。
【0005】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、口溶け特性の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、非ニュートン流体である食品の口溶け特性を評価する、口溶け特性評価方法であって、前記食品に挿入された状態で回転する回転部に作用するトルクの時間変化を測定する、測定工程と、前記測定工程において測定されたトルクの時間変化から取得される複数の取得値に基づいて、前記食品の口溶け特性を評価する、評価工程と、を備え、複数の前記取得値は、前記回転部が回転を開始してからトルクが最大値をとるまでの経過時間である前記第1経過時間t、及び、前記第1経過時間tが経過してから、前記第1経過時間tよりも長い第2経過時間tが経過するまでの間におけるトルクの減少率dTを少なくとも含む、口溶け特性評価方法である。
【0007】
本発明による口溶け特性評価方法において、前記評価工程において、複数の標準試料における複数の前記取得値と、複数の前記標準試料の官能評価による口溶け特性評価結果と、の対応関係を用いて、前記食品の口溶け特性を評価してもよい。
【0008】
本発明による口溶け特性評価方法において、前記評価工程においては、複数の標準試料における複数の前記取得値と、複数の前記標準試料の官能評価による口溶け特性評価結果との対応関係を表す回帰式を用いて、前記食品の口溶け特性を評価してもよい。
【0009】
本発明による口溶け特性評価方法において、前記回帰式は、口溶け特性の好適度をαで表す場合に、以下の式(1)で表されてもよい。
【数1】
(式(1)においてa,b及びcは定数である。)
【0010】
本発明による口溶け特性評価方法において、前記食品は、乳化物であってもよい。
【0011】
本発明による口溶け特性評価方法において、前記食品は、水中油滴型乳化物であってもよい。
【0012】
本発明による口溶け特性評価方法において、前記回転部は、回転軸を中心に回転し、前記回転軸を含む平面に広がる、板状部分を有してもよい。
【0013】
本発明による口溶け特性評価方法において、前記回転部は、複数の前記板状部分を有してもよい。
【0014】
本発明による口溶け特性評価方法において、複数の前記板状部分のうち、前記回転部の回転方向において隣り合う前記板状部分同士は、前記回転軸の延びる方向からみて、前記回転軸の位置を頂点として角度θをなすように配置されており、
前記第2経過時間tは、前記回転部が回転を開始してから角度θの2倍回転するまでの経過時間以上であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、非ニュートン流体である食品の口溶け特性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態に係る装置を示すブロック図である。
図2】トルクの時間変化を測定するための回転部の一例を示す斜視図である。
図3】トルクの時間変化を測定するための回転部の一例を示す断面図である。
図4】測定されたトルクの時間変化の一例を示す図である。
図5】実施例における、マヨネーズ6について測定されたトルクの時間変化を示す図である。
図6】実施例における、好適度αの実測値及び予測値を示す図である。
図7】実施例における、好適度αの実測値と予測値との対応関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0018】
まず、図1を参照して、本実施の形態に係る、口溶け特性評価方法に用いられる装置について説明する。図1は、口溶け特性を評価する方法に用いられる装置1を示すブロック図である。装置1は、回転部11、測定部12、取得値取得機構21及び評価機構22を備える。図1に示す例において、装置1は、回転部11及び測定部12を有するトルク計10と、取得値取得機構21及び評価機構22として機能するコンピュータ20とを備える。この場合、トルク計10は、例えば回転部11に作用するトルクの時間変化を測定部12によって測定可能な、回転式のトルク計である。回転式のトルク計としては、市販の回転式粘度計、例えば市販のB型粘度計を用いることができる。市販のB型粘度計の例としては、英弘精機株式会社製の製品名「DV3T」を用いることができる。また、コンピュータを取得値取得機構21及び評価機構22として機能させるためのプログラムを、コンピュータ20に実行させることによって、コンピュータ20を取得値取得機構21及び評価機構22として機能させることができる。
【0019】
回転部11は、食品に挿入された状態で回転する。測定部12は、食品に挿入された状態で回転する回転部11に作用するトルクの時間変化を測定する。図1の(t,T)は、異なる経過時間tごとに、回転部11に作用するトルクTが測定されていることを表している。取得値取得機構21は、測定部12によって測定されたトルクTの時間変化から、複数の取得値を取得する。ここで、複数の取得値は、回転部11が回転を開始してからトルクTが最大値をとるまでの経過時間である第1経過時間t、及び、第1経過時間tが経過してから、第1経過時間tよりも長い第2経過時間tが経過するまでの間におけるトルクの減少率dTを少なくとも含む。図1の(t,dT)は、第1経過時間t及びトルクの減少率dTが取得されていることを表している。評価機構22は、取得値取得機構21によって取得された複数の取得値に基づいて、食品の口溶け特性を評価する。図1に示す例において、評価機構22は、取得値取得機構21によって取得された複数の取得値に基づいて、口溶け特性の好適度αを算出することによって、食品の口溶け特性を評価する。
【0020】
回転部11の形状について説明する。図2は、回転部11の形状の一例を、回転部11が挿入される食品3とともに示す図である。回転部11の形状は、食品に挿入された状態で回転することができ、測定部12を用いて回転部11に作用するトルクTの時間変化を測定することができるならば、特に限られない。図2に示す例において、回転部11は、回転軸11aを中心に回転する。また、回転部11は、回転軸11aを中心に回転し、回転軸11aを含む平面に広がる、板状部分111を有する。図2に示す例において、板状部分111は、回転軸11aの延びる方向に延びる一対の長辺と、回転軸11aの延びる方向に直交する方向に延びる一対の短辺とを含む矩形の形状を有する。一例として、回転部11は、複数の板状部分111を有する。図2に示す例において、回転部11は、4つの板状部分111を有する。図2に示す例において、回転部11は、回転式粘度計等に用いられる羽根型スピンドルである。市販の羽根型スピンドルの例としては、英弘精機株式会社製の製品名「羽根型スピンドル」を用いることができる。
【0021】
図3は、図2のIII-III線に沿った回転部11の断面を示す図である。換言すれば、図3は、回転軸11aに垂直な面において回転部11を切断した場合の断面を示す図である。図3に示す例においては、回転部11の回転方向において隣り合う板状部分111同士が、回転軸11aの延びる方向からみて、回転軸11aの位置を頂点として角度θをなすように配置されている。図3に示す例において、角度θは90°である。図3に示す例において、板状部分111は、回転部11の回転方向にみて、90°毎に配置されている。回転部11における板状部分111の配置は図3に示す例に限定されず、角度θは60°であってもよいし、120°であってもよいし、180°であってもよい。
【0022】
以下、口溶け特性評価方法の具体例について説明する。本実施の形態に係る口溶け特性評価方法は、回転部11に作用するトルクTの時間変化を測定する、測定工程と、食品の口溶け特性を評価する評価工程と、を備える。
【0023】
(測定工程)
測定工程においては、食品3に挿入された状態で回転する回転部11に作用するトルクTの時間変化を測定する。本実施の形態において、回転部11が挿入され、口溶け特性の評価の対象となる食品3は、非ニュートン流体である。口溶け特性の評価の対象となる食品3の例としては、例えばマヨネーズ、乳化ドレッシング、バター、マーガリン、ヨーグルト及びアイスクリーム等の乳化物、並びにジャム、フルーツソース・ケチャップ等の増粘剤やパルプを含有する粘性ソース類、及びゼリーや寒天等のゲル状食品等が挙げられる。口溶け特性の評価の対象となる食品3は、水中油滴型乳化物であってもよい。水中油滴型乳化物である食品3の例としては、例えばマヨネーズ、乳化ドレッシング、ヨーグルト及びアイスクリームが挙げられる。
【0024】
測定工程においては、まず、回転部11を食品3に挿入する。例えば、図2に示すように、容器4の中に入れられた食品3と回転部11とが配置されている場合、回転部11を、回転軸11aの延びる方向に動かすことによって、回転部11を食品3に挿入することができる。ここで、本実施の形態において、回転部11の板状部分111は、回転軸11aを含む平面に広がっている。このため、食品3のうち、回転部11を食品3に挿入する際に回転部11に押される部分の量を、小さくすることができる。これによって、回転部11によって押されることにより、回転部11が回転を開始する前の時点で、食品3の多くの部分において食品3の構造が崩れてしまい、食品3の粘度が変化してしまうのを抑制することができる。したがって、回転部11が回転を開始する前に、食品3の多くの部分において食品3の構造が崩れてしまい、食品3の粘度が変化してしまうことに起因して、後述する第1経過時間t等の取得値の取得結果にばらつきが生じることを抑制することができる。
【0025】
回転部11を食品3に挿入した後、回転部11の回転を開始し、測定部12を用いて回転部11に作用するトルクTの時間変化を測定する。トルクTの時間変化を測定する際の食品3の温度は、空調の効いた部屋の室温程度であればよく、例えば25℃である。測定工程における回転部11の回転速度は、例えば0.1min-1以上10min-1以下である。
【0026】
ここで、本実施の形態において、回転部11は、回転軸11aを中心に回転し、回転軸11aを含む平面に広がる、板状部分111を有する。このため、回転部11を回転させることによって、板状部分111が広がる面において食品3を押して、食品3に応力を加えつつ、トルクTの時間変化を測定することができる。特に、板状部分111によって、回転部11が食品3に応力を加える面を、より広い面積とし、トルクTの時間変化の測定の再現性を向上することができる。
【0027】
図4は、測定工程において測定されるトルクTの時間変化の一例を示す図である。図4において、横軸は経過時間t、縦軸は回転部11に作用するトルクTの大きさを示している。なお、図4は、食品3が、応力を加えることによって粘度が減少する流体である場合における、トルクTの時間変化の一例である。特に、食品3が、より大きな応力を加えることによって、より大きく粘度が減少する流体である場合における、トルクTの時間変化の一例である。また、本実施の形態において、経過時間tとは、特に断りがない限り、回転部11が回転を開始した時点を起点とした経過時間を意味する。
【0028】
図4に示す例において、回転部11に作用するトルクTは、回転部11が回転を開始してから第1経過時間tが経過するまでの間に増加し、第1経過時間tが経過した時点において最大値Tをとり、第1経過時間tが経過した後には減少する。このようにトルクTの時間変化する理由は、例えば以下のように説明される。まず、回転部11が回転を開始してから第1経過時間tが経過するまでの間には、回転部11の回転によって食品3に加わる応力が小さいために、食品3の粘度が大きい。このため、回転部11を、より大きな回転角だけ回転させるためには、より大きなトルクTが必要になる。これによって、回転部11が回転を開始してから第1経過時間tが経過するまでの間には、トルクTは増加する。次に、第1経過時間tが経過した後には、食品3に加わる応力が十分に大きくなるために、食品3の粘度が十分に減少し、回転部11が食品3の中を回転しやすくなる。このため、第1経過時間tが経過した後のトルクTは、第1経過時間tが経過した時点でのトルクTと比べて、より小さくなる。また、第1経過時間tが経過した後においても、回転部11の回転がさらに進行することによって、食品3に加わる応力がさらに増加して、食品3の粘度がさらに減少する。これによって、第1経過時間tが経過した後において、トルクTは減少する。
【0029】
(評価工程)
評価工程においては、測定工程において測定されたトルクTの時間変化から取得される複数の取得値に基づいて、食品3の口溶け特性を評価する。複数の取得値は、少なくとも、図4に示す、回転部11が回転を開始してからトルクTが最大値Tをとるまでの経過時間である第1経過時間t、及び、第1経過時間tが経過してから、第1経過時間tよりも長い第2経過時間tが経過するまでの間におけるトルクの減少率dTを含む。本実施の形態においては、取得値として、第1経過時間t及びトルクの減少率dTを取得する。ここで、トルクの減少率dTは、図4に示すように、第1経過時間tが経過した時点におけるトルクTと第2経過時間tが経過した時点におけるトルクT2との差である。
【0030】
口溶け特性を、第1経過時間t及びトルクの減少率dTを少なくとも含む取得値を用いて評価する意義について説明する。非ニュートン流体である食品3において、口溶けとは、消費者が食品3を口内で咀嚼し、食品3に応力が加わることによって、食品3の粘度が減少し、食品3が口内で流動しやすくなる現象であると考えられる。そして、第1経過時間tは、食品3の咀嚼が開始されてから口溶けが生ずるまでの時間と対応すると考えられる。例えば、第1経過時間tが短いほど、食品3の咀嚼が開始されてから口溶けが生じるまでの時間も短くなり、消費者が、食品3の口溶け特性を、より好適なものと感じやすくなることが考えられる。
【0031】
また、第1経過時間tが経過してから、第1経過時間tよりも長い第2経過時間tが経過するまでの間にトルクTが減少するのは、以下の現象が生じるためであると考えられる。第1経過時間tが経過した時点において、食品3に加わる応力が十分に大きくなるために、食品3の粘度が減少し、回転部11が食品3の中を回転しやすくなる。これによって、回転部11に作用するトルクTが減少する。このため、トルクの減少率dTは、消費者が食品3を咀嚼する際に感じられる食品3の粘度の、口溶け直前と比較したときの口溶け後の減少量に対応すると考えられる。例えば、トルクの減少率dTが大きいほど、口溶け後において消費者が食品3を咀嚼する際に感じられる食品3の粘度が、口溶け直前と比較して、より大きく減少しやすい。このため、トルクの減少率dTが大きいほど、消費者が、食品3の粘度の減少によって食品3が口内で溶けるような感覚を、より強く感じやすくなり、食品3の口溶け特性を、より好適なものと感じやすくなることが考えられる。
【0032】
以上により、第1経過時間t及びトルクの減少率dTを含む複数の取得値を用いて口溶け特性を評価することによって、消費者の感覚によく対応した口溶け特性評価ができると考えられる。なお、上述の、食品3の口溶けを、消費者が食品3を口内で咀嚼し、食品3に応力が加わることによって、食品3が口内で流動しやすくなる現象と捉えるモデルは、食品3が、応力を加えることによって粘度が減少する流体である場合に、よりよくあてはまると考えられる。このような食品3の例としては、乳化物、特に水中油滴型乳化物が挙げられる。このため、本実施の形態に係る、第1経過時間t及びトルクの減少率dTを少なくとも含む取得値を用いて口溶け特性を評価する評価方法は、食品3が乳化物、特に水中油滴型乳化物である場合に、より有効であると考えられる。
【0033】
第2経過時間tは、回転部11が回転を開始してから、図3に示す、回転部11の回転方向において隣り合う板状部分111同士の角度θだけ回転するまでの経過時間以上であることが好ましい。第2経過時間tは、回転部11が回転を開始してから角度θの2倍回転するまでの経過時間以上であることが、より好ましい。例えば、図3に示すように角度θが90°である場合には、第2経過時間tは、回転部11が回転を開始してから90°回転するまでの経過時間以上であることが好ましく、180°回転するまでの経過時間以上であることが、より好ましい。
【0034】
回転部11が角度θだけ回転すると、ある板状部分111が、回転部11の回転方向において隣り合う別の板状部分111の初期位置まで移動する。これによって、回転軸11aの周囲に、板状部分111が通過していない領域がなくなる。このため、食品3のうち、少なくとも回転軸11aの周囲に位置する部分が、板状部分111からの応力によって流動している状態になると考えられる。したがって、第2経過時間tを、回転部11が角度θだけ回転するまでの経過時間以上とすることによって、食品3のうち回転軸11aの周囲に位置する部分が板状部分111からの応力によって流動している状態になるまでに生ずるトルクTの減少を考慮して、トルクの減少率dTを取得することができる。また、回転部11が角度θの2倍回転すると、食品3のうち回転軸11aの周囲に位置する部分が流動している状態になった後、さらに板状部分111が回転軸11aの周囲を通過するまで、回転部11が回転する。したがって、第2経過時間tを、回転部11が角度θの2倍回転するまでの経過時間以上とすることによって、食品3のうち回転軸11aの周囲に位置する部分が流動している状態になった後、さらに板状部分111が回転軸11aの周囲を通過するまでに生ずるトルクTの減少を考慮して、トルクの減少率dTを取得することができる。
【0035】
本実施の形態においては、複数の標準試料における複数の取得値と、複数の標準試料の官能評価による口溶け特性評価結果と、の対応関係を用いて、食品3の口溶け特性を評価する。特に、複数の標準試料における複数の取得値と、複数の標準試料の官能評価による口溶け特性評価結果との対応関係を表す回帰式を用いて、食品3の口溶け特性を評価する。
【0036】
回帰式は、例えば以下の方法によって算出される。まず、標準試料となる食品を複数用意し、官能評価によって複数の標準試料の口溶け特性を評価する。官能評価においては、例えば、標準試料を口に含んだときに感じられる粘度、標準試料を口に含んでから標準試料の味が感じられなくなるまでの時間、標準試料を咀嚼した際に感じられる食感などを考慮して、標準試料毎に、口溶け特性の好適度αを決定する。ここで、好適度αとは、消費者が食品の口溶けをどの程度好ましく感じるかを表す数値である。例えば、食品3の好適度αが大きいことは、消費者が、食品3の口溶けを、より好ましく感じやすいことを意味する。また、複数の標準試料について、評価対象の食品3に関して第1経過時間t及びトルクの減少率dTを取得する方法と同様の方法によって、第1経過時間t及びトルクの減少率dTを取得する。これによって、複数の標準試料毎に、(α,t,dT)の数値の組を得る。
【0037】
次に、複数の標準試料毎に得た(α,t,dT)の数値の組の関係を、以下の式(1)で表される式に回帰し、式(1)におけるa,b及びcの値を決定する。式(1)で表される式への回帰、並びにa,b及びcの値の決定は、例えば最小二乗法によって行う。これによって、複数の標準試料における、第1経過時間t及びトルクの減少率dTと、官能評価によって決定された好適度αとの対応関係を表す回帰式を算出することができる。
【数2】
(式(1)においてa,b及びcは定数である。)
【0038】
算出された回帰式に、評価対象の食品3に関して得た第1経過時間t及びトルクの減少率dTを代入することによって、評価対象の食品3について好適度αを算出し、算出された好適度αに基づいて食品3の口溶け特性を評価することができる。例えば、食品3の好適度αが大きければ、食品3は、消費者が好ましいと感じる口溶け特性を有していると評価できる。
【0039】
本実施の形態に係る口溶け特性評価方法によれば、非ニュートン流体である食品について、食品毎に官能評価試験を行う場合よりも、より簡便な方法によって、口溶け特性を評価することができる。
【実施例
【0040】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0041】
まず、マヨネーズ1~13までの13のマヨネーズを用意し、マヨネーズ1~13を標準試料として、13の標準試料における複数の取得値と、13の標準試料の官能評価による口溶け特性評価結果との対応関係を表す、以下の式(1)で表される回帰式を算出した。
【数3】
(式(1)においてa,b及びcは定数である。)
【0042】
回帰式の算出においては、まず、13の標準試料毎に、官能評価によって、口溶け特性の好適度αを決定した。官能評価においては、標準試料を口に含んだときに感じられる粘度、標準試料を口に含んでから標準試料の味が感じられなくなるまでの時間、標準試料を咀嚼した際に感じられる食感などの要素を考慮しつつ、消費者が食品の口溶けをどの程度好ましく感じるかを総合的に判断し、好適度αを決定した。以下、標準試料について官能評価において決定された好適度αの値を、好適度αの実測値とも称する。
【0043】
また、13の標準試料毎に、標準試料に挿入された状態で回転する回転部11に作用するトルクTの時間変化を測定した。トルクTの時間変化の測定には、回転部11として羽根型スピンドル(英弘精機株式会社製、製品名「羽根型スピンドル」)を有するトルク計(英弘精機株式会社製、製品名「DV3T」)を用いた。回転部11として用いる羽根型スピンドルは、図2及び図3に示すように、4つの板状部分111を有するものであった。回転部11として用いる羽根型スピンドルにおいて、図3に示す角度θは90°であった。トルクTの時間変化の測定においては、標準試料に挿入された状態の回転部11を、0.5min-1の回転速度で回転させた。図5に、13の標準試料のうち、マヨネーズ6について測定されたトルクTの時間変化を示す。図5において、横軸は経過時間t(s)を示している。また、縦軸は、各経過時間tにおけるトルクTを、トルク計が回転部11の回転のために生じさせ得る最大のトルクに対する割合(%)によって示している。
【0044】
次に、測定されたトルクTの時間変化から、取得値として第1経過時間t及びトルクの減少率dTを取得した。トルクの減少率dTの取得に際しては、第2経過時間tを60秒に定めた。この場合、回転部11が回転を開始してから第2経過時間tが経過するまでに、回転部11は180°回転する。
【0045】
次に、13の標準試料毎に得た(α,t,dT)の数値の組の関係を、最小二乗法を用いて以下の式(1)で表される式に回帰し、式(1)におけるa,b及びcの値を決定して、回帰式を算出した。
【数4】
(式(1)においてa,b及びcは定数である。)
【0046】
算出された回帰式に、マヨネーズ1~13を標準試料として回帰式を算出する際に得た、マヨネーズ1~13毎の第1経過時間t及びトルクの減少率dTを代入することによって、マヨネーズ1~13毎に、回帰式に基づく好適度αを算出した。以下、マヨネーズ1~13について、回帰式に基づいて算出された好適度αの値を、好適度αの予測値とも称する。
【0047】
図6に、マヨネーズ1~13における好適度αの実測値及び予測値を示す。また、図7に、マヨネーズ1~13における好適度αの実測値と予測値との対応関係を示す。図6及び図7から、好適度αの予測値は、好適度αの実測値が大きいマヨネーズでは大きくなり、好適度αの実測値が小さいマヨネーズでは小さくなる傾向が見出された。このことから、食品毎に官能評価を行わなくとも、回帰式に基づいて食品毎の好適度αの予測値を算出することによって、食品毎の好適度αの実測値、すなわち食品毎の官能評価の結果を予測し得ることがわかった。
【符号の説明】
【0048】
1 装置
10 トルク計
11 回転部
11a 回転軸
111 板状部分
12 測定部
20 コンピュータ
21 取得値取得機構
22 評価機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7