(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】位置検出システム及び位置検出方法
(51)【国際特許分類】
G01S 11/02 20100101AFI20230327BHJP
G01S 13/84 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
G01S11/02
G01S13/84
(21)【出願番号】P 2019023603
(22)【出願日】2019-02-13
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大石 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】古賀 健一
(72)【発明者】
【氏名】菊間 信良
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-513271(JP,A)
【文献】国際公開第2006/085352(WO,A1)
【文献】特開2001-051044(JP,A)
【文献】特開2018-155724(JP,A)
【文献】特開2018-155725(JP,A)
【文献】特開2017-038348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
G01S 11/00 - 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1通信機及び第2通信機の一方から、互いに異なる周波数で送信された電波を他方が受信した際の前記電波の伝搬特性として、前記互いに異なる周波数の電波間の位相差を、互いに異なる周波数の組み合わせごとに少なくとも二組算出する位相差算出部と、
前記少なくとも二組の位相差を基に、前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離である距離推定値を求める距離推定部と
を備え
、
前記位相差算出部は、前記伝搬特性から求まる相関行列において、前記相関行列の対角線上に位置する成分の平均を、電波間の位相差として算出する位置検出システム。
【請求項2】
第1通信機及び第2通信機の一方から、互いに異なる周波数で送信された電波を他方が受信した際の前記電波の伝搬特性として、前記互いに異なる周波数の電波間の位相差を、互いに異なる周波数の組み合わせごとに少なくとも二組算出する位相差算出部と、
前記少なくとも二組の位相差を基に、前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離である距離推定値を求める距離推定部と
を備え、
前記距離推定部は、同一周波数間隔の成分ごとに前記位相差の平均を複素数で求め、各複素数が各々別の項に存在する方程式を立て、前記方程式がゼロとなる解を算出し、その解から前記距離推定値を求め
る位置検出システム。
【請求項3】
前記電波は、等間隔の周波数で複数送信される
請求項1又は2に記載の位置検出システム。
【請求項4】
前記電波は、等間隔の複数周波数が合成されて送信される
請求項
1又は2に記載の位置検出システム。
【請求項5】
第1通信機及び第2通信機の一方から、互いに異なる周波数で送信された電波を他方が受信した際の前記電波の伝搬特性として、前記互いに異なる周波数の電波間の位相差を、互いに異なる周波数の組み合わせごとに少なくとも二組算出する位相差算出部と、
前記少なくとも二組の位相差を基に、前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離である距離推定値を求める距離推定部と
を備え、
前記距離推定部は、前記電波の周波数が不等間隔の場合、前記周波数が不等間隔となる電波間の位相差をゼロとして、前記距離推定値を求める演算を実行す
る位置検出システム。
【請求項6】
前記電波は、等間隔の周波数で複数送信されるものであって、
前記距離推定部は、送信されるべき前記電波の周波数間隔が等間隔である電波の周波数間隔が不等間隔となった場合に、前記周波数が不等間隔となる電波間の位相差をゼロとして、前記距離推定値を求める演算を実行する請求項5に記載の位置検出システム。
【請求項7】
前記電波は、等間隔の複数周波数が合成されて送信されるものであって、
前記距離推定部は、送信されるべき前記電波の周波数間隔が等間隔である電波の周波数間隔が不等間隔となった場合に、前記周波数が不等間隔となる電波間の位相差をゼロとして、前記距離推定値を求める演算を実行する請求項5に記載の位置検出システム。
【請求項8】
前記位相差算出部は、周波数が隣り合う電波間の前記位相差を算出し、
前記距離推定部は、周波数が隣り合う電波間の前記位相差と、周波数が隣り合わない電波間の前記位相差とを前記少なくとも二組の位相差として用いて、前記距離推定値を求める請求項1
~7のうちいずれか一項に記載の位置検出システム。
【請求項9】
第1通信機及び第2通信機の一方から、互いに異なる周波数で送信された電波を他方が受信した際の前記電波の伝搬特性として、前記互いに異なる周波数の電波間の位相差を、互いに異なる周波数の組み合わせごとに、位相差算出部によって少なくとも二組算出するステップと、
前記少なくとも二組の位相差を基に、前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離である距離推定値を距離推定部によって求めるステップと
を備え
、
前記位相差算出部は、前記伝搬特性から求まる相関行列において、前記相関行列の対角線上に位置する成分の平均を、電波間の位相差として算出する位置検出方法。
【請求項10】
第1通信機及び第2通信機の一方から、互いに異なる周波数で送信された電波を他方が受信した際の前記電波の伝搬特性として、前記互いに異なる周波数の電波間の位相差を、互いに異なる周波数の組み合わせごとに、位相差算出部によって少なくとも二組算出するステップと、
前記少なくとも二組の位相差を基に、前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離である距離推定値を距離推定部によって求めるステップと
を備え、
前記距離推定部は、同一周波数間隔の成分ごとに前記位相差の平均を複素数で求め、各複素数が各々別の項に存在する方程式を立て、前記方程式がゼロとなる解を算出し、その解から前記距離推定値を求める位置検出方法。
【請求項11】
第1通信機及び第2通信機の一方から、互いに異なる周波数で送信された電波を他方が受信した際の前記電波の伝搬特性として、前記互いに異なる周波数の電波間の位相差を、互いに異なる周波数の組み合わせごとに、位相差算出部によって少なくとも二組算出するステップと、
前記少なくとも二組の位相差を基に、前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離である距離推定値を距離推定部によって求めるステップと
を備え、
前記距離推定部は、前記電波の周波数が不等間隔の場合、前記周波数が不等間隔となる電波間の位相差をゼロとして、前記距離推定値を求める演算を実行する位置検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1通信機及び第2通信機の位置関係を検出する位置検出システム及び位置検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、端末及びその操作対象の間で電波の通信を行ってこれらの間の距離を測定し、測定した距離の正否を判定する位置検出システムが周知である(特許文献1等参照)。位置検出システムは、例えば端末及びその操作対象の間の距離に準じた測定値を求めた際、この測定値が閾値未満であると判定した場合、例えば2者間の間で無線により実行されたID照合の成立を許容する。これにより、操作対象から遠く離れた端末を中継器等で繋ぐ不正通信が試みられたとしても、これを検出してID照合を不正に成立に移行させずに済む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これら位置検出システムにおいては、位置検出精度の更なる向上が望まれていた。
本発明の目的は、位置検出精度を向上可能にした位置検出システム及び位置検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記問題点を解決する位置検出システムは、第1通信機及び第2通信機の一方から、互いに異なる周波数で送信された電波を他方が受信した際の前記電波の伝搬特性として、前記互いに異なる周波数の電波間の位相差を、互いに異なる周波数の組み合わせごとに少なくとも二組算出する位相差算出部と、前記少なくとも二組の位相差を基に、前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離である距離推定値を求める距離推定部とを備えた。
【0006】
前記問題点を解決する位置検出方法は、第1通信機及び第2通信機の一方から、互いに異なる周波数で送信された電波を他方が受信した際の前記電波の伝搬特性として、前記互いに異なる周波数の電波間の位相差を、互いに異なる周波数の組み合わせごとに、位相差算出部によって少なくとも二組算出するステップと、前記少なくとも二組の位相差を基に、前記第1通信機及び前記第2通信機の間の距離である距離推定値を距離推定部によって求めるステップとを備えた。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、位置検出精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】計算機シミュレーションによる解析結果を示すグラフ。
【
図5】第2実施形態の電波送信部及び電波受信部の構成図。
【
図8】(a)は伝搬特性のパワースペクトル図、(b)は伝搬特性の位相スペクトル図。
【
図9】(a)~(c)は位相のDC成分を説明する位相スペクトル図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、位置検出システム及び位置検出方法の第1実施形態を
図1~
図4に従って説明する。
【0010】
図1に示すように、位置検出システム1は、第1通信機2から電波Saを第2通信機3に送信し、第2通信機3で受信した電波Saを第1通信機2に返信する。第1通信機2は、この電波Saを受信し、この受信信号の位相変化から、第1通信機2及び第2通信機3の位置関係を測定する。電波Saは、複数の信号を混合して成るマルチキャリア信号であることが好ましい。また、第1通信機2が基地局の位置付けであり、第2通信機3が端末の位置付けであることが好ましい。
【0011】
図2に示すように、位置検出システム1は、電波送信部4及び電波受信部5を備える。本例の場合、電波送信部4及び電波受信部5を第1通信機2に設け、第1通信機2から送信された電波Saを第2通信機3に受信させ、第2通信機3から同様の電波Saを返信させる。そして、第1通信機2で電波Saの返信を受け、電波Saの送受信に要した時間から2者間の位置関係を測定する。
【0012】
電波送信部4は、複数の発振器9、加算器10、DAコンバータ11及び送信アンテナ12を備える。発振器9は、各々異なる周波数の無変調連続波(CW波)として複素信号を加算器10に出力する。各周波数の複素信号は、実部及び虚部を有する信号である。加算器10は、複数の複素信号の実部を加算して合成信号を生成し、これをDAコンバータ11に出力する。D/A変換後の信号は、電波Saとして送信アンテナ12から送信される。
【0013】
第2通信機3は、第1通信機2から送信された電波Saを、伝搬時間τ遅れた信号で受信する。そして、第2通信機3は、受信したものと同様の電波Saを第1通信機2に送信する。この電波Saも伝搬時間τ遅れて第1通信機2に至る。
【0014】
電波受信部5は、受信アンテナ15、ADコンバータ16、複素化部17、相関演算部18及び相関行列算出部19を備える。受信アンテナ15は、第2通信機3から返信された電波Saを、伝搬時間τ遅れた信号で受信する。この受信信号は、ADコンバータ16でA/D変換され、複素化部17に出力される。複素化部は、受信信号を基に電波Saの複素信号を生成する。相関演算部18は、複素信号同士の相関を演算し、その演算結果を相関行列算出部19に出力する。相関行列算出部19は、相関演算部18の演算結果から相関行列Rxxを求める。
【0015】
続いて、相関行列Rxxを算出する手法を具体的に説明する。第1通信機2の電波送信部4は、等間隔周波数f1,…,fMのM個の等振幅正弦波信号波を混合して送信する。本例では、このマルチキャリア信号をL波の多重波環境、すなわちマルチパス環境で受信するものとする。電波受信部5は、サンプリング周波数Fsで受信信号をサンプリングし、Np×Ns個のサンプルデータを得る。ここで、Npは相関演算用のサンプル数、Nsは相関演算値のスナップショット数である。なお、この信号は、端末内のデジタル回路で発生するクロック誤差により、端末が送信される際に、周波数誤差fdifを有しているとする。このときの受信信号C(t)は、次式(A)により表される。
【0016】
【数1】
但し、式(A)において、s
0lとτ
lは、第l到来波(遅延波)の複素振幅(全マルチキャリアは同じ振幅)と伝搬遅延時間とする。また、n
l(t)は、外部ノイズを含む雑音である。
【0017】
相関演算部18は、受信信号と送信信号とをNpずつ相関演算することにより、各周波数でNs個の相関値データxm(n)(n=1,…,Ns、m=1,…,M)を取り出す。そして、これを周波数順に並べて、次式(B)のように、M次元の入力ベクトルのスナップショットを生成する。なお、式(B)において、nはスナップショット数であり、mは周波数キャリアの番号である。
【0018】
【数2】
さらに、異なるキャリア間の信号の相関値はゼロであるとすると、式(B)で示す周波数アレーデータは、ベクトル表記により次式(C)で表される。
【0019】
【数3】
ここで、式(C)において、a(τ
l)は、遅延時間τ
lを含むベクトルであり、アレー応答ベクトルと呼ばれる。また、Aは、アレー応答行列と呼ばれる。s(n)は、信号応答ベクトルであり、n(n)は、各周波数の雑音成分から成る雑音ベクトルである。
【0020】
入力ベクトルは、方向推定の場合と同形であり、到来方向推定の手法を用いて、伝搬遅延時間、すなわち端末距離を推定することができる。Ns個のスナップショットデータによる相関行列は、次式(D)により表される。
【0021】
【数4】
また、式(D)のアレーデータの相関行列R
xxは、次式(E)に展開することができる。
【0022】
【数5】
式(E)の行列Sは、信号(波源)相関行列と呼ばれ、到来波が全て互いに無関係であれば、次式(F)で表される。
【0023】
【数6】
ここで、P
lは、各到来波の入力電力であり、σ
2は、雑音n(n)の平均電力である。但し、ここでは簡単のため、雑音成分は各周波数において独立で等電力としている。このようにして、本例の相関行列算出部19は、相関行列R
xxを求める。そして、この相関行列R
xxを用いて、第1通信機2及び第2通信機3の間の距離である距離推定値dが求められる。
【0024】
位置検出システム1は、位相差算出部22及び距離推定部23を備える。本例の位相差算出部22は、第1通信機2及び第2通信機3の一方から、互いに異なる周波数で送信された電波Saを他方が受信した際の電波Saの伝搬特性として、互いに異なる周波数の電波間の位相差を、互いに異なる周波数の組み合わせごとに少なくとも二組算出する。距離推定部23は、少なくとも二組の位相差を基に、第1通信機2及び第2通信機3の間の距離である距離推定値dを求める。
【0025】
位置検出システム1は、相関行列算出部19によって求められた相関行列Rxxを基に、群遅延法によって、電波Saの往復に要した伝搬時間τ、すなわち距離推定値dを算出する。群遅延法とは、一般に入力波形と出力波形との位相差φを各周波数ω=2πfで微分したものであり、伝搬時間をτとすると、次式(1)によって表される。
【0026】
【数7】
従って、群遅延法を用いた距離推定法とは、送信信号と受信信号との間に生じている位相回転量を周波数ごとに求め、さらに隣り合う周波数における位相回転の差を抽出し、距離を推定する手法である。ここでは、先行波のみのマルチキャリア信号を受信した場合について説明する。
【0027】
受信信号C(t)と送信信号の周波数fm成分とを全てのサンプルを用いて相関演算することにより、受信信号に含まれる他の周波数成分との相関を十分に抑制する。これにより、次式(2)に示すように、周波数fm成分の振幅及び位相の変化を表すxmを取得する。
【0028】
【数8】
なお、式(2)において、τは、伝搬時間であり、sは、マルチキャリア信号の複数素数幅(全キャリア同じ値)であり、N
pは、相関演算用のサンプル数であり、N
sは、相関演算用のスナップショット数である。また、式(2)において、Mは、キャリア数、F
sは、サンプリング周波数であり、f
difは、周波数誤差であり、n(t)は、各周波数の雑音成分からなる雑音ベクトルである。
【0029】
受信信号に周波数誤差が発生しない場合(fdif=0の場合)、xmは、データサンプル数tを含まない形となり、tに関する平均化により、周波数fm成分における位相変化を抽出することができる。このとき、xmは、次式(3)により表される。
【0030】
【数9】
このx
mに対して、各々の周波数成分ごとに隣り合う周波数との位相差を抽出し、距離d
mを次式(4)から求める。なお、式(4)のcは、光速であり、[・]
*は、共役複素数を示す。
【0031】
【数10】
距離推定値dは、各々の周波数成分ごとに求めた距離d
mの平均値から得られる。よって、距離推定値dは、次式(5)により求まる。
【0032】
【数11】
また、式(5)は、次式(6)のように表すこともできる。
【0033】
【数12】
しかし、式(5)や式(6)において、例えば周波数誤差が発生する場合、x
mは、データサンプル数tを含む形となり、tに関する平均化により、低下或いは消失する。よって、このとき周波数成分ごとの位相回転量を正しく抽出することができず、推定精度が悪化する懸念があった。また、距離推定値dは、隣接するキャリアとの位相差のみ使用するため、ノイズ等により、推定精度が低下し易い問題もあった。
【0034】
そこで、本例の場合、距離推定にあたり、まず、位相回転量データベクトルXを用いて相関行列Rxxを求める。なお、相関行列Rxxは、次式(7)により求められる。
【0035】
【数13】
そして、この相関行列R
xxについて、相関行列R
xxの各対角線に沿って平均処理を行い、各キャリア間の位相差を含む複素数x
Δpを得る。この複素数x
Δpは、次式(8)によって表される。
【0036】
【数14】
ここで、係数zを次式(9)のように定義する。
【0037】
【数15】
この係数zは、次式(10)のように表すことができる。
【0038】
【数16】
そして、このz
pを用いて、次式(11)の多項式を定義する。
【0039】
【数17】
式(11)において、zが往復の伝搬時間2τに対応する値をとるとき、式(11)の各項は、ゼロをとる。このため、式(9)の条件のとき、式(11)が成立することは明らかである。従って、式(11)のzに関する多項式の解を求めれば、伝搬時間τの推定値、すなわち距離推定値dが得られることになる。しかし、式(11)は、z
*を含み、zのみの多項式ではないため、式(11)をゼロにする解を求めるのが難しくなる。そこで、求めたいものは、|z|=1の解(zz
*=1の解)であるので、z
*=z
-1とおくと、式(11)は、次式(12)に変換することができる。
【0040】
【数18】
そして、式(12)の両辺にz(M-1)をかけて整理すると、次式(13)に式変形することができる。
【0041】
【数19】
式(13)に示されるように、2(M-1)次の多項式が得られる。ここで、もしz=re
jβ(なお、rが大きさ、βが偏角)が式(13)の解であれば、z=(1/r)e
jβも式(13)の解である。このように、z平面、すなわち複素平面の式(13)の解は、必ず同じ偏角をもつ解が単位円を挟んで複数存在する。その中で、単位円上にある2重解が求める解である。こうして得られたzに対し、次式(14)に示すように往復伝搬距離の距離推定値dを得ることができる。
【0042】
【数20】
ここで、
図3に示すように、チャネルのキャリア数の具体例を挙げて、距離推定値dの算出の仕方を説明する。ここでは、チャネルのキャリア数を「N」とし、x
nを各キャリアの伝搬特性として、N=4の例を示す。
【0043】
位相差算出部22は、1つ又は複数飛ばしで隣り合うキャリアとの間の位相差を算出する。この相関行列R
xxでは、対角線上に並ぶ要素が同一周波数間隔の成分となる。
図3の例の場合、同図の1点鎖線で示す群が、1つ隣のキャリアとの位相差θであり、同図の2点鎖線で示す群が、2つ隣のキャリアとの位相差θ’であり、同図の3点鎖線で示すものが、3つ隣のキャリアとの位相差θ’’である。
【0044】
位相差算出部22は、相関行列Rxxの要素を同一周波数間隔の成分ごとに平均化して、キャリア間の位相差θ、θ’、θ’’を算出する。ここで、これらθ、θ’、θ’’は、次式(15)によって表される。
【0045】
【数21】
距離推定部23は、式(15)のθ、θ’、θ’’について、それぞれ指数関数をとり、次式(16)のa、b、cを定義する。
【0046】
【数22】
距離推定部23は、式(11)の考え方に沿って次式(17)を立てて、|z|=1となる解(|z|=1に最も近い解)を算出する。
【0047】
【数23】
そして、距離推定部23は、算出したz(=exp(j2πΔfτ))の位相を用い、式(14)から距離推定値dを算出する。
【0048】
図4に、計算機シミュレーションによる解析結果を示す。同図は、推定値RMSE(Root Mean Squared Error:2乗平均誤差)のSNR特性(signal-noise ratio:信号雑音比)である。シミュレーションの諸元を表1及び表2に示す。なお、表2におけるBはフィルタの帯域幅、TはFSK信号のシンボル長である。
【0049】
【0050】
【表2】
図4では、従来の位置推定手法の場合の特性を一点鎖線で示し、本例の位置推定手法の特性を実線で示す。同図に示されるように、本例で述べたように、距離推定に全キャリア間隔の情報を用いれば、高い推定精度を確保できることが分かる。このことからも、周波数が隣り合う電波間の位相差のみならず、周波数が隣り合わない電波間の位相差も用いて距離推定値dを求める本例の手法は、位置検出精度が高いと言える。
【0051】
以上、本例によれば、位置検出通信送信される各周波数の電波Saのうち、周波数が隣り合わない電波間の位相差、本例の場合、位相差θ’、θ’’を求め、これら位相差θ’やθ’’用いて距離推定値dを求める。このため、多くの位相差の情報から距離推定値dを算出することが可能となる。よって、位置検出精度を向上することができる。
【0052】
位相差算出部22は、周波数が隣り合う電波間の位相差、本例の場合、位相差θを算出する。距離推定部23は、周波数が隣り合う電波間の位相差θと、周波数が隣り合わない電波間の位相差θ’、θ’’とを少なくとも二組の位相差として用いて、距離推定値dを求める。よって、より一層多くの位相差の情報を用いて距離推定値dを求めることが可能となるので、位置検出の精度向上に一層寄与する。
【0053】
電波Saは、等間隔の周波数で複数送信される。よって、等間隔の周波数で送信される電波Saの伝搬特性から、例えば群遅延法などの手法を用いて、精度の高い位置検出を実施することができる。
【0054】
位相差算出部22は、伝搬特性から求まる相関行列Rxxにおいて、この相関行列Rxxの対角線上に位置する成分の平均を、伝搬間の位相差θ、θ’、θ’’として算出する。よって、伝搬特性から求まる相関行列Rxxを用いて、距離推定値dを簡便に精度よく算出することができる。
【0055】
距離推定部23は、式(8)~式(11)に示すように、同一周波数間隔の成分ごとに位相差の平均値を複素数xΔpで求め、各複素数xΔpが各々別の項に存在する方程式(式(11)や式(17))を立てる。そして、距離推定部23は、これら方程式がゼロとなる解の「z」を算出し、この解の「z」から距離推定値dを求める。よって、方程式の解の「z」を求めて距離推定値dを算出する計算により、距離推定値dを高い精度で求めることができる。
【0056】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を
図5~
図9に従って説明する。なお、第2実施形態は、第1実施形態に対し、マルチキャリア信号を用いた位置測定手法ではなく、ブルートゥース(Bluetooth:登録商標)のBLE(Bluetooth Low Energy)通信を用いた位置測定手法に変更した実施例である。よって、第1実施形態と同一部分には同じ符号を付して詳しい説明を省略し、異なる部分についてのみ詳述する。
【0057】
図5に示すように、位置検出システム1は、第1通信機2及び第2通信機3の間の電波Saの行き来にかかる時間を測定する。本例の通信は、例えばブルートゥースが使用されている。本例の位置検出システム1は、第1通信機2及び第2通信機3の間で電波Saを複数チャネルで送信し、これらチャネルの電波Saの伝搬特性を求めて、第1通信機2及び第2通信機3の間の離れ距離である距離推定値dを測定する。
【0058】
電波送信部31は、波形生成部32、変調部33、DAコンバータ34、ミキサ35、発振器36及び送信アンテナ37を備える。波形生成部32は、第1通信機2及び第2通信機3の間で送信される電波Saとして、周期的な2値化符号からなる周期信号Skを生成し、これを変調部33に出力する。周期信号Skは、2値化符号の「0」及び「1」が周期Tごとに切り替わる信号からなることが好ましい。変調部33は、GFSK(Gaussian Frequency-Shift Keying)からなる。周期信号Skは、変調部33で変調されて、DAコンバータ34でD/A変換された後、ミキサ35で発振器36の搬送波と重畳されて、送信アンテナ37から送信される。
【0059】
電波受信部40、受信アンテナ41、ミキサ42、発振器43及びADコンバータ44を備える。電波受信部40は、電波送信部31から送信された電波Saを受信アンテナ41で受信すると、その受信信号を、発振器43の信号を基にミキサ42でベースバンド信号Sbに変換し、このベースバンド信号SbをADコンバータ44でA/D変換する。
【0060】
電波受信部40は、受信した電波Saの伝搬特性を測定する測定部45を備える。測定部45は、第1通信機2及び第2通信機3の一方から複数の周波数で送信された電波Saを他方が受信した際の電波Saの伝搬特性として、少なくとも電波Saの位相を測定する。本例の測定部45は、A/D変換後の信号を用いて、受信した電波Saの伝搬特性を測定する。伝搬特性は、例えば電波Saの振幅及び位相であることが好ましい。
【0061】
測定部45は、フーリエ変換部46及びDC成分抽出部47を備える。フーリエ変換部46は、A/D変換後の信号をフーリエ変換することにより、受信信号の周波数スペクトルを測定する。周波数スペクトルは、送受信された電波Saの振幅及び位相の各データである。フーリエ変換部46は、フーリエ変換から得られた周波数スペクトルのデータ群をDC成分抽出部47に出力する。
【0062】
DC成分抽出部47は、フーリエ変換結果である周波数スペクトルの振幅及び位相のDC成分を抽出する。このDC成分は、フーリエ変換後の周波数スペクトルにおいて、周波数が「0」のときの特性値である。また、DC成分は、DC成分付近の位相差を基に値を補間することによって抽出されることが好ましい。こうして、第1通信機2及び第2通信機3で送受信される電波Saの伝搬特性が得られる。
【0063】
図6に示すように、位置検出システム1は、前述の位相差算出部22及び距離推定部23の他に、乗算部48及び合成部49を備える。なお、これら機能群は、第1通信機2及び第2通信機3のどちらに設けられてもよい。
【0064】
乗算部48は、第1通信機2から第2通信機3に電波送信されて測定された伝搬特性と、第2通信機3から第1通信機2に電波送信して測定された伝搬特性とを乗算する。このように、本例の場合、第1通信機2から第2通信機3に電波送信して伝搬特性を測定するとともに、第2通信機3から第1通信機2にも電波送信して伝搬特性を測定し、これら伝搬特性から位置推定を実行する。
【0065】
合成部49は、乗算後の伝搬特性を複数チャネル分合成する。合成部49は、この合成により、各チャネルの電波特性を並べたベクトルからなる位相回転量データベクトルXを算出する。
【0066】
位相差算出部22は、測定部45によって測定された伝搬特性の位相を用い、周波数が隣り合わない電波間の位相差を少なくとも算出する。本例の位相差算出部22は、合成部49から取得する位相回転量データベクトルXを基に、周波数が隣り合う電波間の位相差θと、周波数が隣り合わない電波間の位相差θ’、θ’’とを算出する。
【0067】
距離推定部23は、位相差算出部22によって求められた位相差を基に、第1通信機2及び第2通信機3の間の距離である距離推定値dを求める。本例の距離推定部23は、周波数が隣り合う電波間の位相差θと、周波数が隣り合わない電波間の位相差θ’、θ’’との両方を用いて、距離推定値dを算出する。
【0068】
次に、
図7~
図9を用いて、本実施形態の位置検出システム1の作用及び効果について説明する。
図7に示すように、S101(「S」はステップの略、以下同様)において、第1通信機2は、電波Saを第2通信機3に送信して、第2通信機3に伝搬特性を測定させる。本例の場合、周期信号Skを元にした電波Saが第1通信機2の送信アンテナ37から送信され、この電波Saが第2通信機3の受信アンテナ41で受信される。第2通信機3では、電波Saの受信信号のベースバンド信号Sbから、チャネルの帯域幅の中心周波数について周波数スペクトルが求められ、この周波数スペクトルのDC成分が抽出されることにより、電波Saの伝搬特性が測定される。
【0069】
図8(a),(b)に示すように、周波数スペクトルの要素には、振幅データP(f)と位相データθ(f)とがある。振幅データP(f)は、
図8(a)に示すようなパワースペクトルで表される。ここで、本例の場合、位置検出通信においては、周期Tが「0」,「1」で繰り返される周期信号Skが送信される。このため、パワースペクトルは、1/T周期でスペクトルが立ち、かつDC成分である周波数「0」のときに頂点をとる放物線状の波形をとる。DC成分抽出部47は、このパワースペクトルからDC成分の振幅P
0を抽出する。
【0070】
図8(b)に示すように、位相データθ(f)は、同図に示されるような位相スペクトルで表される。ここで、本例の場合、位置検出通信においては、周期Tが「0」,「1」で繰り返される周期信号Skが送信される。このため、位相スペクトルは、1/T周期でスペクトルが立ち、かつ値が比例増加していくような波形をとる。
【0071】
ここで、
図9(a)に示すように、電波送受信時、A/D変換やD/A変換のサンプリングタイミングの際に遅延が生じた場合、位相変化特性の傾きが変化してしまう。しかし、同図に示されるように、位相変化特性が傾く変化をとっても、DC成分、すなわち周波数が「0」のときの位相は変化しないことが分かる。このように、周波数「0」の位相には遅延の誤差が現れないので、この位相を電波Saの中心周波数の位相として抽出すれば、遅延の誤差をキャンセルすることができる。しかし、
図9(b)に示すように、周波数「0」の成分にはオフセットによる誤差が生じ、正しく「0」成分を抽出することができない。
【0072】
そこで、
図9(c)に示すように、本例のDC成分抽出部47は、位相スペクトルのDC成分の直近前後の位相θm,θpを利用して、DC成分の位相θ
0を算出する。本例の場合、DC成分の1つ前の位相スペクトルの位相θmと、DC成分の1つ後の位相スペクトルの位相θpとの平均を求め、これをDC成分の位相θ
0として求める。以上のようにして求められたC成分の振幅P
0及び位相θ
0が電波Saの伝搬特性として測定される。
【0073】
図7に戻り、S102において、第2通信機3は、電波Saを第1通信機2に送信して、第1通信機2に伝搬特性を測定させる。すなわち、第2通信機3から第1通信機2にも電波Saを送信して、第1通信機2でも同様に伝搬特性を測定する。なお、このときの伝搬特性の測定の仕方は、第1通信機2から第2通信機3に電波送信した場合と同様であるので、説明を省略する。
【0074】
第1通信機2及び第2通信機3の両方で伝搬特性が測定されると、乗算部48は、これら伝搬特性を乗算する。これにより、位置検出システム1の各デバイスにクロック誤差やPLLの初期位相誤差が発生していても、これら誤差は送信側と受信側とで逆符号の位相誤差で現れていることから、これらの乗算により、誤差をキャンセルすることができる。
【0075】
S103において、第1通信機2及び第2通信機3は、通信の各チャネルで、順次、伝搬特性を測定する。通信がブルートゥースの場合、例えば複数のチャネル(40チャネル)が存在するので、各チャネルにおいて伝搬特性が測定される。
【0076】
S104において、合成部49は、全チャネルの伝搬特性を合成する。本例の場合、合成部49は、各チャネルの伝搬特性を並べたベクトル、すなわち位相回転量データベクトルXを求める。
【0077】
S105において、位相差算出部22及び距離推定部23は、合成部49によって求められた位相回転量データベクトルXを用い、群遅延法によって、電波Saの往復に要した伝搬時間τ、すなわち距離推定値dを算出する。以上により、BLEを用いた通信方式の場合でも、精度よく距離推定値dを求めることが可能となる。
【0078】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
[電波Saが不等間隔となる場合の対処について]
・各実施形態において、群遅延法では、送信する電波Saの周波数間隔を等間隔とすることを前提としているが、実際の環境においては、機器の故障等により、特定の周波数の電波Saの位相情報が得られない場合も想定される。これに対応するために、距離推定部23は、電波Saの周波数が不等間隔の場合、周波数が不等間隔となる電波間の位相差をゼロとして、距離推定値dを求める演算を実行する。具体的には、電波Saの周波数が不等間隔の場合、存在しない周波数の電波の成分をゼロとして相関行列Rxxを生成し、この相関行列Rxxから位相差θ、θ’、θ’’を算出する。この場合、電波Saの周波数が不等間隔となっても、距離推定値dを高い精度で算出することができる。
【0079】
[位置検出通信で送信される電波Saについて]
・各実施形態において、電波Saの各周波数の帯域幅は、必要とする所望の幅のものを適宜用いることができる。
【0080】
・各実施形態において、電波Saは、複数周波数で送信される場合、各周波数が順に送信されるものでもよい。
・各実施形態において、電波Saは、複数周波数で送信される場合、各周波数が重畳された混合波で送信されてもよい。
【0081】
・各実施形態において、電波Saは、同一周波数間隔の電波に限定されず、周波数間隔が非同一の電波でもよい。
[位相差算出部22について]
・各実施形態において、伝搬特性の位相は、DC成分の位相であることに限定されず、例えばDC成分以外の値を用いてもよい。
【0082】
・各実施形態において、位相差算出部22は、乗算や合成をしない伝搬特性から位相差を算出してもよい。この場合、乗算部48や合成部49を省略することができる。
・各実施形態において、位相差の算出は、例えば隣り合わない電波間の位相差のみ算出する態様でもよい。
【0083】
[距離推定部23について]
・各実施形態において、距離推定値dを求める方程式は、式(11),(17)等に限定されず、距離推定値dを算出できる式であれば、種々の式が適用可能である。
【0084】
・各実施形態において、距離推定値dの算出手法は、実施例に述べたような方程式(11),(17)を用いて解の「z」を求めて距離推定値dを導出する手法に限定されない。すなわち、方程式(11),(17)を解く手法以外の他の手法を適用することもできる。
【0085】
[第1通信機2及び第2通信機3について]
・各実施形態において、第2通信機3から第1通信機2に電波Saを送信して、この通信を通じて距離推定部23を算出してもよい。
【0086】
・各実施形態において、第1通信機2及び第2通信機3は、一方から他方にのみ電波Saを送信して、伝搬特性を測定する態様としてもよい。
・各実施形態において、第1通信機2及び第2通信機3のうちどちらを基地局とし、どちらを端末としてもよい。
【0087】
[周期信号Skについて]
・第2実施形態において、周期信号Skは、0と1とが交互に繰り返される信号に限定されず、例えば「0、0、1…」のように、0や1が何度か続く信号でもよい。
【0088】
・第2実施形態において、周期信号Skは、周期Tで「0」「1」が切り替わる周期的な信号に限らず、非周期の信号としてもよい。
[位置検出システム1について]
・各実施形態において、距離推定の手法は、群遅延法に限定されず、例えばビームフォーマ法、MUSIC法、Root-MUSIC法などの他の手法を用いてもよい。
【0089】
・位置検出システム1で使用する通信は、ブルートゥースに限定されず、例えばWiFi等の他の方式を用いてもよい。
・各実施形態において、位置検出システム1で使用する電波Saの周波数は、種々の周波数が使用可能である。
【0090】
[その他]
・各実施形態において、位置検出システム1の搭載対象は、車両すなわち車載キーシステムに限定されず、通信を行う装置や機器であれば、種々のものに採用することができる。
【0091】
次に、上記実施形態及び変更例ら把握できる技術的思想について記載する。
(イ)前記位置検出システムにおいて、前記距離推定部は、同一周波数間隔の成分で前記位相差の平均を求め、前記平均から前記距離推定値を求めることが好ましい。
【符号の説明】
【0092】
1…位置検出システム、2…第1通信機、3…第2通信機、22…位相差算出部、23…距離推定部、Sa…電波、θ、θ’、θ’’…位相差、d…距離推定値、Rxx…相関行列。