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  • 特許-スケール対策が施された熱交換装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】スケール対策が施された熱交換装置
(51)【国際特許分類】
   F28F 19/00 20060101AFI20230327BHJP
   F28G 9/00 20060101ALI20230327BHJP
   B01D 21/00 20060101ALI20230327BHJP
   B01D 21/02 20060101ALI20230327BHJP
   B01D 29/00 20060101ALI20230327BHJP
   B01D 24/00 20060101ALI20230327BHJP
   F25B 30/06 20060101ALI20230327BHJP
   F25B 27/00 20060101ALN20230327BHJP
【FI】
F28F19/00 501A
F28F19/00 501Z
F28G9/00 N
B01D21/00 C
B01D21/02 N
B01D23/02 Z
B01D29/00 Z
F25B30/06 T
F25B27/00 P
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018089885
(22)【出願日】2018-05-08
(65)【公開番号】P2019196854
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090402
【弁理士】
【氏名又は名称】窪田 法明
(72)【発明者】
【氏名】盛田 元彰
(72)【発明者】
【氏名】波津久 達也
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-237129(JP,A)
【文献】特開平07-159059(JP,A)
【文献】特開平06-002946(JP,A)
【文献】特開昭59-018382(JP,A)
【文献】特開昭55-124536(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0024084(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 19/00
F28G 9/00
B01D 21/00
B01D 21/02
B01D 29/00
B01D 24/00
F25B 30/06
F25B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源水と熱媒体とを接触させて該熱源水の熱を該熱媒体に伝導させる一次熱交換部と、該一次熱交換部の底部に溜まっている該熱媒体を二次熱交換部の一次側に送給する熱媒体送給部と、該二次熱交換部の一次側を通過した該熱媒体を該一次熱交換部に戻す熱媒体戻し部と、該一次熱交換部内に生成したスケールを除去するスケール分離除去部とを備え、該熱媒体が該熱源水より高比重の疎水性液体からなり、該熱媒体送給部が、該一次熱交換部の底部に溜まっている該熱媒体を該二次熱交換部の一次側の入口に導く熱媒体供給配管と、該熱媒体供給配管内の該熱媒体を該二次熱交換部の一次側に送るポンプとからなり、該熱媒体戻し部が、該二次熱交換部の一次側の出口から排出された該熱媒体を送給する熱媒体戻り配管と、該熱媒体戻り配管によって送給された該熱媒体を該一次熱交換部内に投入する熱媒体投入部とからなり、該スケール分離除去部が、該一次熱交換部の底部に溜まっている該熱媒体と該熱源水との境界に滞留しているスケールを該熱源水とともに取り出す取出部を備え、該取出部が、該一次熱交換部の側部で、該一次熱交換部内の該熱源水の底部の該熱媒体との境界付近の高さ位置に設けられていることを特徴とするスケール対策が施された熱交換装置。
【請求項2】
前記一次熱交換部がタンク状の容器からなり、該一次熱交換部が、前記熱源水を流入させる熱源水流入部と、該熱源水を排出させる熱源水排出部と、前記熱媒体を抜き取る熱媒体抜き取り部とを有し、該熱源水流入部及び熱源水排出部が該熱媒体と接しない位置にあり、該熱源水排出部が該熱源水流入部より上の高さ位置にあり、該熱媒体抜き取り部が該熱媒体が溜まっている範囲内の高さ位置にあることを特徴とする請求項1に記載の熱交換装置。
【請求項3】
前記疎水性液体がパーフルオロカーボン(PFC)構造を持つフッ素系不活性液体であることを特徴とする請求項1に記載の熱交換装置。
【請求項4】
前記熱媒体投入部が前記熱媒体を前記一次熱交換部の中に投入する噴出口を有し、該噴出口が該一次熱交換部内の前記熱源水と接しない位置にあることを特徴とする請求項1に記載の熱交換装置。
【請求項5】
前記熱媒体投入部の噴出口が前記一次熱交換部の内壁に向けられていることを特徴とする請求項1に記載の熱交換装置。
【請求項6】
前記一次熱交換部の内部に液膜形成用板が立設され、前記熱媒体投入部の噴出口が該液膜形成用板に向けられていることを特徴とする請求項1に記載の熱交換装置。
【請求項7】
前記スケール分離除去部が、前記取出部と、該取出部から取り出された該スケール及び該熱源水から該スケールを沈殿させる分離槽と、該分離槽で分離したスケールを該分離槽から排出させる排出部とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の熱交換装置。
【請求項8】
前記一次熱交換部内で、前記熱源水の底部の前記熱媒体との境界付近の高さ位置に、該熱源水から析出したスケールを捉える網体が略水平に設けられており、前記スケール分離除去部が、該網体と、前記取出部と、該取出部から取り出された該スケール及び該熱源水から該スケールを沈殿させる沈殿槽と、該沈殿槽で沈殿したスケールを該沈殿槽から排出させる排出部とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の熱交換装置。
【請求項9】
前記スケール分離除去部が、前記取出部と、該取出部から延長形成されている抜取配管と、該抜取配管内を通過する熱源水からスケールをトラップするフィルターと、該フィルターを通った熱源水を該一次熱交換部に戻す戻し配管と、該抜取配管内の熱源水を戻し配管を介して該一次熱交換部に送るポンプとを備えていることを特徴とする請求項1に記載の熱交換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地熱発電の生産井から得られた熱水や温泉水をバイナリー発電に利用できるようにするためのスケール対策が施された熱交換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現状の大規模地熱発電や温泉バイナリー発電では、蒸気のみが発電に利用され、それ以外の大量の熱水は、スケールの問題があるため、発電に利用されることなく捨てられていることが多い。
【0003】
また、日本の温泉において、温泉水は浴場で利用されているが、浴場で利用された後の温泉水はほとんどがそのまま捨てられている。日本は温泉大国であり、そのまま捨てられている温泉水の量はトータルとしてかなりの量になるものと思われる。
【0004】
もし、発電に利用されずに捨てられている大量の熱水や、温泉で捨てられている温泉水を発電に利用することができれば、かなりの発電量が得られるはずである。
【0005】
バイナリー発電は、100℃以下の熱源で低沸点の媒体を加熱・蒸発させ、その蒸気でタービンを回すことができる発電方法なので、発電に利用されずに捨てられている大量の熱水や、温泉で捨てられている温泉水の熱を利用して発電する方法として、適した発電方法である。
【0006】
しかし、これらの熱水や温泉水を発電に利用したバイナリー発電が実際に稼働している例はあまりない。これは熱水や温泉水から析出してくるスケールの問題が解決されていないからである。
【0007】
すなわち、地中から出てくる熱水や温泉水(以下、単に「地熱水」という。)にはカルシウム、マグネシウム及びケイ素等のスケール成分が大量に溶け込んでおり、地熱水が地中から外に出て温度や圧力が下がると、地熱水に溶け込んでいたこれらのスケール成分がスケールとして大量に析出してくる。
【0008】
地熱水の熱を利用してバイナリー発電をした場合、バイナリー発電装置に供給された地熱水は配管や蒸発器の内部に入った段階でその温度や圧力が下がり、地熱水に溶け込んでいたスケール成分がスケールとして配管や蒸発器の内面に大量に析出・付着し、配管や蒸発器の内部をスケールで狭隘にし、地熱水が配管や蒸発器の中で流れ難くなり、発電能力が短期間に低下してしまう。
【0009】
発電能力が短期間に低下してしまわないためには、バイナリー発電装置の配管や蒸発器の内部をこまめに清掃して、配管や蒸発器の内面に付着したスケールを除去しなければならない。場合によっては、配管や蒸発器を定期的に交換しなければならない。
【0010】
しかし、バイナリー発電装置の配管や蒸発器をこのように頻繁にメンテナンスするためにはかなりの費用がかかり、発電事業の採算を取ることが難しくなる。しかも、配管や蒸発器のメンテナンスを頻繁に行うためには、発電を頻繁に止めなければならないが、そのようにすると電力が安定的に得られなくなってしまう。
【0011】
このような諸問題が地熱水を利用して発電する温泉バイナリー発電を導入する際のネックになっている。
【0012】
しかし、これらのスケールの問題を解決して、地熱水を温泉バイナリー発電の熱源として利用することができれば、発電に利用されずに捨てられている地熱水は大量に有るわけであるから、かなりの量の電力を得ることができるはずである。
【0013】
そこで、本発明者等はかかる諸問題について鋭意研究し、本発明をなすに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平6-109343号公報
【文献】特開平5-18400号公報
【文献】特開平8-82490号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】後藤雅志、松倉紀行、萩原良道著「沈降する低温の不溶性液滴を含む温水流の速度場および温度場計測」日本機会学会熱工学コンファレンス講演論文集、Vol.2003,Page.131-132,2003年11月10日発行
【文献】稲葉英男、堀部明彦、尾崎公一、横山直樹著「非水溶性熱媒体による低温熱源水からの直接接触熱交換」日本機会学会創立100周年記念中国四国支部記念式典・講演会講演論文集、Page.97-98,1997年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、地熱水を利用して発電するバイナリー発電において、発電装置の配管や蒸発器の内面にスケールを析出・付着させないようにする点である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明はスケール対策が施された熱交換装置に関するものであり、地熱水等の熱源水に含まれているスケール成分をバイナリー発電装置の配管や蒸発器の内面側に付着させないようにするため、熱源水と比重が異なり(高比重又は低比重)、疎水性の液体(異比重・疎水性液体)とを液対液で接触させ、熱源水が保有している熱を異比重・疎水性液体に直接的に伝導させ、熱源水から熱を伝導させられたこの異比重・疎水性液体のみをバイナリー発電装置の蒸発器等の二次熱交換部に送って該蒸発器を加熱し、バイナリー発電装置に発電させることを最も主要な特徴とする。
【0018】
すなわち、本発明に係る熱交換装置は、熱源水と熱媒体とを接触させて該熱源水の熱を該熱媒体に伝導させる一次熱交換部と、該一次熱交換部の底部又は上部に溜まっている該熱媒体をバイナリー発電装置の蒸発器等の二次熱交換部の一次側に送給する熱媒体送給部と、該二次熱交換部の一次側を通過した該熱媒体を該一次熱交換部に戻す熱媒体戻し部と、該一次熱交換部内に生成したスケールを分離・除去するスケール分離除去部とを備えている。
【0019】
ここで、熱源水は地中から出て来た熱水や温泉水等の地熱水で、何らかの用途に使用されたか否かを問わない。熱媒体は熱源水より比重の大きい、又は小さい疎水性液体からなる。熱源水より比重の大きい疎水性液体としては、例えばパーフルオロカーボン(PFC)構造を持つフッ素系不活性液体、比重の小さい疎水性液体としてはヘキサンを例に挙げることができるが、熱源水と比重が異なり疎水性の液体であれば、これ以外の化合物を使用してもよい。
【0020】
熱媒体送給部は、一次熱交換部の底部又は上部に溜まっている熱媒体を二次熱交換部の一次側の入口に導く熱媒体供給配管と、熱媒体供給配管内の熱媒体を二次熱交換部の一次側に送るポンプとからなる。熱媒体戻し部は、二次熱交換部の一次側の出口から排出された熱媒体を送給する熱媒体戻り配管と、熱媒体戻り配管によって送給された熱媒体を一次熱交換部内に投入する熱媒体投入部とからなる。
【0021】
一次熱交換部としてはタンク状の容器を用いることができる。一次熱交換部は、熱源水を流入させる熱源水流入部と、熱源水を排出させる熱源水排出部と、熱媒体を抜き取る熱媒体抜き取り部とを有する。熱源水流入部及び熱源水排出部の位置は熱媒体と接しない高さが好ましい。熱源水排出部の位置は熱源水流入部より上の高さが好ましい。熱媒体抜き取り部の位置は熱媒体が溜まっている範囲内の高さでなければならない。
【0022】
熱媒体投入部は熱媒体を熱交換部の中に投入する噴出口を有している。噴出口は、熱源水に触れる状態で設けてもよいが、噴出口へのスケールの付着を防止するため、熱源水に触れない位置に設けるのが好ましい。噴出口を熱源水に触れる状態で設ける場合は、噴出口へのスケールの付着を防止するため、噴出口から噴射される熱媒体の噴射速度を速くする必要がある。
【0023】
熱媒体投入部の噴出口の一部は熱交換部の内壁に向けて設け、熱交換部の内壁が熱媒体で覆われるようにするのが好ましい。熱交換部の内壁が熱媒体で覆われると、熱交換部の内壁にスケールが付着するのが防止されるからである。
【0024】
熱交換部の内部に液膜形成用板を立設し、熱媒体投入部の噴出口を液膜形成用板に向けて設け、液膜形成用板の上に熱媒体の液膜を形成させ、この液膜と熱源水とで熱交換をさせるようにしてもよい。また、熱交換部と気水分離器とを兼用にしてもよい。
【0025】
スケール分離除去部は、種々の態様のものが考えられるが、例えば、高比重・疎水性液体による熱交換装置において、一次熱交換部の底部に溜まっている熱媒体の上に沈積したスケールを熱源水とともに取り出す取出部と、取出部から取り出されたスケール及び熱源水からスケールを沈殿させる沈殿槽と、沈殿槽で沈殿したスケールを沈殿槽から排出させる排出部とを備えていて、取出部が熱交換部の側部で、熱交換部内の熱源水の底部の熱媒体との境界付近の高さ位置に設けられているものでもよい。
【0026】
また、スケール分離除去部は、熱交換部内の熱源水の底部の熱媒体との境界付近の高さ位置に略水平に設けられた網体と、網体上のスケールを熱源水とともに取り出す取出部と、取出部から取り出されたスケール及び熱源水からスケールを沈殿させる沈殿槽と、沈殿槽で沈殿したスケールを沈殿槽から排出させる排出部とを備えていて、取出部が熱交換部の側部で、該熱交換部内の該熱源水の底部の該熱媒体との境界付近の高さ位置に設けられているもの(図4参照)でもよい。
【0027】
また、スケール分離除去部は、熱交換部の底部に溜まっている熱媒体の上に沈積したスケールを熱源水及び熱媒体とともに取り出す取出部と、取出部から取り出したスケール、熱源水及び熱媒体からスケールを分離する網籠体と、網籠体を通った熱源水及び熱媒体を溜める分離槽とを備え、取出部は熱交換部の側部で、熱交換部内の熱源水の底部の熱媒体との境界付近の高さ位置に設けられ、網籠体は分離槽内に入れ籠状に設けられているもの(図5参照)でもよい。
【0028】
また、スケール分離除去部は、網籠体からなり、網籠体が熱交換部内に入れ籠状に入れられているもの(図6参照)でもよい。
【0029】
また、スケール分離除去部は、熱交換部の底部に溜まっている熱媒体の上に沈積したスケールを熱源水とともに抜き取る抜取配管と、抜取配管内を通過する熱源水からスケールをトラップするフィルターと、フィルターを通った熱源水を熱交換部に戻す配管と、抜取配管内の熱源水を戻し配管を介して熱交換部に送るポンプとを備え、抜取配管と戻し配管は、熱交換部の側部で、熱交換部内の熱源水の底部の熱媒体との境界付近の高さ位置に取り付けられているもの(図7参照)でもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、熱源水と熱交換した熱媒体をバイナリー発電装置の配管や蒸発器等の二次熱交換部に送って発電しており、熱源水を直接、二次熱交換部に送らないので、熱源水からスケールが析出してバイナリー発電装置の配管や蒸発器等の二次熱交換部の内側に付着することがなくなり、析出・付着したスケールを清掃・除去しなくて済み、従って、スケールの清掃・除去に係る費用を削減できるという効果がある。
【0031】
また、本発明は、熱源水と熱交換した熱媒体をバイナリー発電装置の配管や蒸発器等の二次熱交換部に送って発電しており、熱源水を直接二次熱交換部に送らないので、熱源水からスケールが析出してバイナリー発電装置の配管や蒸発器等の二次熱交換部の内側に付着することがなくなり、析出・付着したスケールを清掃・除去しなくて済み、スケールの清掃・除去のために発電装置を頻繁に停止させなくて済み、従って、熱源水を利用したバイナリー発電で電力を安定的に得ることができるという効果がある。
【0032】
また、本発明は、熱交換部で熱源水からスケールを析出させ、熱交換部で析出したスケールをスケール分離除去部で除去させるので、発電に使用した後の熱源水はスケールが析出し難いものとなっており、発電に使用した後の熱源水を河川に排出しても熱源水からスケールが殆ど析出せず、従って、発電に使用した後の熱源水を河川に排出しても、河川をスケールで汚さないという効果がある。
【0033】
また、本発明は、熱交換部で熱源水からスケールを析出させ、熱交換部で析出したスケールをスケール分離除去部で除去させるので、発電に使用した後の熱源水はスケールを析出・除去させたものとなり、この熱源水を還元井に戻した場合、熱源水からスケールが析出し難く、還元井がスケールにより目詰まりを生じるようなことがなく、従って、発電に使用した後の熱源水を地中に還元し続けることができるという効果がある。
【0034】
また、本発明は、熱源水と熱交換した熱媒体をバイナリー発電装置の配管や蒸発器に送って発電しており、スケール対策として熱源水に薬品を添加していないので、発電に使用した後の熱源水を河川に排出したり、地中に還元させても、河川や地中を薬品で汚染させないで済むという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は本発明に係る熱交換装置を組み込んだバイナリー発電システム全体の構成を示す説明図である。
図2図2は本発明に係る熱交換装置の熱交換部の一例の説明図である。
図3図3は本発明に係る熱交換装置の熱交換部の他の例の説明図である。
図4図4は本発明に係る熱交換装置のスケール分離除去部の例1を示す説明図である。
図5図5は本発明に係る熱交換装置のスケール分離除去部の例2を示す説明図である。
図6図6は本発明に係る熱交換装置のスケール分離除去部の例3を示す説明図である。
図7図7は本発明に係る熱交換装置のスケール分離除去部の例4を示す説明図{(a)は側方から見た図、(b)は上方から見た図}である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
熱源水から析出するスケールがバイナリー発電装置の配管や蒸発器等の熱交換器の内面に析出・付着しないようにするという目的を、簡単な構成で、河川や地中の環境を害することなく実現した。
【実施例1】
【0037】
図1は本発明に係る熱交換装置を組み込んだバイナリー発電システム全体の構成を示す説明図、図2は本発明に係る熱交換装置の熱交換部の一例の説明図、図3は本発明に係る熱交換装置の熱交換部の他の例の説明図である。これらの図において、10は地熱流体出口部であり、地熱流体出口部10の下には地中の地熱流体の滞留部に向けて生産井(図示せず)が掘削・形成されている。地熱流体出口部10からは地熱流体が噴出してくるようになっている。
【0038】
12は地熱流体を送給する気水分離器であり、気水分離器12と地熱流体出口部10とは地熱流体送給管14により連結されている。地熱流体出口部10から噴出してきた地熱流体は地熱流体送給管14を介して気水分離器12に送られ、気水分離器12に送られてきた地熱流体は気水分離器12で水蒸気16と熱源水18に気水分離されるようになっている。
【0039】
20は熱源水18を別の熱媒体と熱交換させる熱交換装置である。すなわち、熱交換装置20は気水分離器12で分離・取得された熱源水18と熱媒体24とを熱交換させるものである。気水分離器12と熱交換装置20との間には気水分離器12から熱交換装置20に熱源水18を送る熱源水送給管22が配設されている。
【0040】
熱交換装置20は、熱源水18と熱媒体24とを接触させて熱源水18の熱を熱媒体24に伝導させる一次熱交換部26と、一次熱交換部26の底部に溜まっている熱媒体24をバイナリー発電装置28の蒸発器30(二次熱交換部)の一次側に送給する熱媒体送給部32と、蒸発器30の一次側を通過した熱媒体24を一次熱交換部26に戻す熱媒体戻し部34と、一次熱交換部26の中で生成したスケールを除去するスケール分離除去部(詳細は実施例2以降で説明する)とからなる。
【0041】
熱媒体24はパーフルオロカーボン(PFC)構造を持つフッ素系不活性化合物からなる。このフッ素系不活性化合物は熱源水18より比重が大きい疎水性の液体(重液)である。
【0042】
熱媒体送給部32は、一次熱交換部26の底部に溜まっている熱媒体24をバイナリー発電装置28の蒸発器30の一次側の入口に導く熱媒体送給管36と、熱媒体送給管36の中の熱媒体24をバイナリー発電装置28の蒸発器30の一次側に送るポンプ38とからなる。
【0043】
熱媒体戻し部34は、バイナリー発電装置28の蒸発器30の一次側の出口から排出された熱媒体24を送給する熱媒体戻り管40と、熱媒体戻し部34によって送給された熱媒体24を一次熱交換部26の中に投入する熱媒体投入部42とからなる。
【0044】
一次熱交換部26はタンク状の容器からなる。一次熱交換部26は、熱源水18を流入させる熱源水流入部44と、熱源水18を排出させる熱源水排出部46と、熱媒体24を抜き取る熱媒体抜き取り部48と、熱源水18をドレインまたは還元井(図示せず)に送る熱源水排出あるいは還元部50を有する。
【0045】
熱源水流入部44は一次熱交換部26の側部で熱媒体24が溜まっている高さより上の位置にある。熱源水排出部46は一次熱交換部26の側部で熱源水流入部44より上の高さ位置にある。熱媒体抜き取り部48は一次熱交換部26の側部で熱媒体24が溜まっている高さより下の高さ位置にある。
【0046】
熱媒体投入部42は熱媒体24を一次熱交換部26の中に投入する噴出口を有している。噴出口は一次熱交換部26内の熱源水18の上面から離れた高さ位置にある。噴出口が熱源水18の上面に触れていると、噴出口にスケールが析出・付着して、噴出口を詰まらせてしまうので、これを防止するためである。
【0047】
熱媒体投入部42の噴出口の一部は一次熱交換部26の内壁に向けられ、内壁の表面に熱媒体24の液膜が形成されるようになっている。一次熱交換部26の内壁の表面に熱媒体24の液膜が形成されると、内壁の表面にスケールが析出・付着するのを防止することができるからである。
【0048】
次に、本発明に係る熱交換装置を組み込んだバイナリー発電システム全体の作動について説明する。
【0049】
地中の地熱流体は大気圧より高い圧力を持っているので、地熱流体はこの圧力によって生産井から噴出してくる。生産井から噴出してきた地熱流体は地熱流体出口部10から出てくる。地熱流体出口部10から出てきた地熱流体は地熱流体送給管14を通って気水分離器12に送給される。気水分離器12に送給された地熱流体は気水分離器12で水蒸気16と熱源水18に分離される。
【0050】
気水分離器12で分離された熱源水18は熱源水送給管22を通って熱交換装置20の一次熱交換部26に送給される。一次熱交換部26に送給された熱源水18は一次熱交換部26の中で滞留した後、熱源水還元部50から排出される。滞留している熱源水18の中を熱媒体24が上方から液滴となって落下してくる。液滴となって落下してくる熱媒体24は滞留している熱源水18と熱交換して加熱される。加熱された熱媒体24は一次熱交換部26の底部に溜まる。
【0051】
一次熱交換部26の底部に溜まっている熱媒体24は熱媒体送給管36及びポンプ38によってバイナリー発電装置28の蒸発器30の一次側の入口に送給される。蒸発器30の一次側の入口に送給された熱媒体24は蒸発器30の二次側の低沸点化合物と熱交換し、二次側の低沸点化合物は加熱される。加熱された二次側の低沸点化合物は蒸発して蒸気となり、タービンを回転させ、発電機に発電させる。
【0052】
蒸発器30の一次側で低沸点化合物と熱交換して冷却された熱媒体24は蒸発器30の一次側の出口から熱媒体戻り管40を通って熱媒体投入部42に送られる。熱媒体投入部42に送られた熱媒体24は熱媒体投入部42から一次熱交換部26の中の熱源水中に投入される。熱源水中に投入された熱媒体24は一次熱交換部26の中の熱源水18の中を落下する
【0053】
上記実施例では、一次熱交換部26の内部で滞留させている熱源水18の中に熱媒体24を液滴状態にして落下させ、熱源水18と熱媒体24とを熱交換させているが、図3に示すように、一次熱交換部26の内部に液膜形成用板52を立設させ、熱媒体投入部42の噴出口を液膜形成用板52に向け、液膜形成用板52の表面に熱媒体24の液膜を形成して熱交換させるようにしてもよいし、一次熱交換部26の内部に液膜形成用管53を立設させ、熱媒体投入部42の噴出口を液膜形成用管53に向け、液膜形成用管53の表面に熱媒体24の液膜を形成して熱交換させるようにしてもよい。
【実施例2】
【0054】
図4は本発明に係る熱交換装置のスケール分離除去部の例1を示す説明図である。同図において、スケール分離除去部は、一次熱交換部26の中の熱源水18から析出したスケール54を捉える網体56と、網体56の上のスケール54を熱源水18とともに取り出す取出部58と、取出部58から取り出されたスケール54及び熱源水18からスケール54を沈殿させる沈殿槽60と、沈殿槽60の底に沈殿したスケール54を沈殿槽60から排出させる排出部62とからなる。
【0055】
網体56は熱源水18の中で、一次熱交換部26の底部に溜まっている熱媒体24の近くの高さ位置に、熱媒体24を全面的に覆うように、略水平に設けられている。取出部58は一次熱交換部26の側部で、網体56の直上の高さ位置に設けられている。
【0056】
次に、このスケール分離除去部でスケール54が分離・除去される作動について説明する。一次熱交換部26において、熱源水18が熱媒体24によって熱を取られると、熱源水18からスケール54が析出する。熱源水18から析出したスケール54は沈降する。沈降したスケール54は網体56の上にトラップされる。
【0057】
取出部58のバルブを開けると、スケール54が熱源水18とともに一次熱交換部26の外に排出される。排出されたスケール54と熱源水18は沈殿槽60に入れられ、スケール54は沈殿槽60の底に沈殿する。排出部62のバルブを開けるとスケール54が少量の熱源水18とともに排出される。排出されたスケール54は適宜、処分する。
【実施例3】
【0058】
図5は本発明に係る熱交換装置のスケール分離除去部の例2を示す説明図である。同図において、スケール分離除去部は、一次熱交換部26の底部に溜まっている熱媒体24の上に沈積したスケール54を熱源水18及び熱媒体24とともに取り出す取出部64と、取出部64から取り出したスケール54、熱源水18及び熱媒体24からスケール54を分離する網籠体66と、網籠体66を通った熱源水18及び熱媒体24を溜める分離槽68とからなる。
【0059】
取出部64は一次熱交換部26の側部で、一次熱交換部26の中の熱源水18の底部の熱媒体24との境界付近の高さ位置に設けられている。網籠体66は分離槽68の中に入れ籠状に入れられている。
【0060】
次に、このスケール分離除去部でスケール54が分離・除去される作動について説明する。熱交換部において、熱源水18が熱媒体24によって熱を取られると、熱源水18からスケール54が析出する。熱源水18から析出したスケール54は沈降する。沈降したスケール54は、一次熱交換部26の下方に溜まっている熱媒体24の上に沈積する。
【0061】
取出部64のバルブを開けると、熱媒体24の上に沈積しているスケール54が熱媒体24及び熱源水18とともに一次熱交換部26の外に排出される。排出されたスケール54と熱媒体24及び熱源水18は分離槽68に入れられる。分離槽68には網籠体66が入れ籠状に入れられているので、スケール54は網籠体66にトラップされる。
【0062】
網籠体66を上方に引き上げると、トラップされているスケール54のみを分離槽68から取り出すことができる。網籠体66の中のスケール54は網籠体66から取り出し、適宜、処分する。
【実施例4】
【0063】
図6は本発明に係る熱交換装置のスケール分離除去部の例3を示す説明図である。同図において、スケール分離除去部は網籠体70からなり、網籠体70は一次熱交換部26の中に入れ籠状に入れられている。
【0064】
次に、このスケール分離除去部でスケール54が分離・除去される作動について説明する。一次熱交換部26において、熱源水18が熱媒体24によって熱を取られると、熱源水18からスケール54が析出する。熱源水18から析出したスケール54は熱源水18の中を沈降する。
【0065】
沈降したスケール54は、一次熱交換部26の下方に溜まっている熱媒体24の上に沈積する。メンテナンスの際に、網籠体70を引き上げると、網籠体70の底にスケール54のみがトラップされるので、スケール54のみを一次熱交換部26から取り出すことができる。取り出されたスケール54は網籠体70から取り出し、適宜、処分する。
【実施例5】
【0066】
図7は本発明に係る熱交換装置のスケール分離除去部の例4を示す説明図{(a)は側方から見た図、(b)は上方から見た図}である。同図において、スケール分離除去部は、一次熱交換部26の底部に溜まっている熱媒体24の上に沈積したスケール54を熱源水18とともに抜き取る抜取配管72と、抜取配管72の中を通過する熱源水18からスケール54をトラップするフィルター74と、フィルター74を通った熱源水18を一次熱交換部26に戻す戻し配管76と、抜取配管72の中の熱源水18を戻し配管76を介して一次熱交換部26に送るポンプ78とからなる。
【0067】
抜取配管72と戻し配管76は、一次熱交換部26の側部で、一次熱交換部26の中の熱源水18と、底部に溜まっている熱媒体24との境界付近の高さ位置に取り付けられている。
【0068】
次に、このスケール分離除去部でスケール54が分離・除去される作動について説明する。熱交換部26において、熱源水18が熱媒体24によって熱を取られると、熱源水18からスケール54が析出する。熱源水18から析出したスケール54は沈降する。沈降したスケール54は、一次熱交換部26の下方に溜まっている熱媒体24の上に沈積する。
【0069】
抜取配管72のバルブと戻し配管76のバルブを開け、ポンプ78を動かすと、熱媒体24の上に沈積しているスケール54が熱媒体24及び熱源水18とともに抜取配管72に流れ込む。抜取配管72に流れ込んだスケール54と熱媒体24及び熱源水18の中で、スケール54はフィルター74にトラップされ、熱媒体24及び熱源水18はフィルター74を通過し、ポンプ78及び戻し配管76を通って一次熱交換部26の中に戻る。
【0070】
メンテナンスをする際は、ポンプ78を止め、フィルター74を掃除してフィルター74からスケール54を取り除く。フィルター74から取り除かれたスケール54は適宜、処分する。
【産業上の利用可能性】
【0071】
上記実施例では熱交換装置を温泉バイナリー発電の熱源に使用する場合について説明したが、本発明は温泉バイナリー発電の熱源に使用するという用途だけでなく、冷媒を加熱するタイプの冷却装置の熱源に使用するという用途にも適用できる。
また、上記実施例では熱源水より比重の大きい高比重・疎水性液体を使用する場合について説明したが、比重の小さい低比重・疎水性液体も適用できる。
【符号の説明】
【0072】
10 地熱流体出口部
12 地熱流体送給管
14 気水分離器
16 水蒸気
18 熱源水
20 熱交換装置
22 熱源水送給管
24 熱媒体
26 熱交換部
28 バイナリー発電装置
30 蒸発器
32 熱媒体送給部
34 熱媒体戻し部
36 熱媒体送給管
38 ポンプ
40 熱媒体戻り管
42 熱媒体投入部
44 熱源水流入部
46 熱源水排出部
48 熱媒体抜き取り部
50 熱源水還元部
52 液膜形成用板
54 スケール
56 網体
58 取出部
60 沈殿槽
62 排出部
64 取出部
66 網籠体
68 分離槽
70 網籠体
72 抜取配管
74 フィルター
76 戻し配管
78 ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7