(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】作物中の放射性セシウム量を推定する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/02 20060101AFI20230327BHJP
G01N 30/00 20060101ALI20230327BHJP
G01N 33/18 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
G01N33/02
G01N30/00 B
G01N30/00 E
G01N33/18 Z
(21)【出願番号】P 2021009433
(22)【出願日】2021-01-25
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井倉 将人
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-173316(JP,A)
【文献】特開2013-246049(JP,A)
【文献】特開2014-228282(JP,A)
【文献】YOSHIKAWA, Seiko et al.,Relationship between radiocesium absorbed by paddy rice and trapped by zinc-substituted Prussian blue sheet buried in soil,Soil Science and Plant Nutrition,2019年,Vol.65, No.3,pp.289-297
【文献】井倉 将人 ほか,P8-1-13 セシウム吸着シートを用いた畑地土壌の溶存態放射性セシウム量評価と作物吸収量判定,日本土壌肥料学会講演要旨集,Vol.63,2017年,Page.161
【文献】海水中の低濃度放射性セシウムを迅速にモニタリング-銅置換体プルシアンブルーを用いて40分で20Lの海水中の放射性セシウムを捕捉-,産総研・日本バイリーン共同プレス発表資料,2016年
【文献】堀井 雄太 ほか,セシウム吸着に用いるプルシアンブルー類似体の特性評価と水溶液中からのセシウム除去法の検討,RADIOISOTOPES,2020年,Vol.69, No.7,pp.217-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00 - 30/18
G01N 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作物中の放射性セシウム量を推定する方法であって、
(I)作物を栽培するための土壌中に銅置換体プルシアンブルーシートを埋設する工程、
(II)(I)の工程で埋設した銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量を測定する工程、並びに
(III)(II)の工程で測定した銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量から、下記(i)~(iv)の工程:
(i)放射性セシウム量を推定する作物と同じ種類の作物が生育している土壌中に銅置換体プルシアンブルーシートを埋設する工程、
(ii)(i)の工程で生育した作物中の放射性セシウム量と(i)の工程で埋設した銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量とを測定する工程、
(iii)(ii)の工程で測定した作物中の放射性セシウム量に対して(ii)の工程で測定した銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量をプロットする工程、及び
(iv)放射性セシウム量を推定する作物と同じ種類の作物が生育している(i)の工程における土壌とは別の1つ以上の土壌において、(i)~(iii)の工程を実施することにより、作物中の放射性セシウム量と銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量との関係を示す検量線を作成する工程
を含む方法により作成した検量線を用いて、作物中の放射性セシウム量を推定する工程
を含
み、
ここで、土壌溶液中のカリウム濃度は50mg/L~1000mg/Lであるか、又は土壌中の交換性カリウム濃度は25mgK
2
O/100g~100mgK
2
O/100gである、
前記方法。
【請求項2】
土壌溶液中のカリウム濃度が、390mg/L~1000mg/Lである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
作物が、ダイズである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(II)の工程、並びに(III)の(ii)及び(iv)の工程における銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量が、ゲルマニウム半導体検出器を用いて測定される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作物中の放射性セシウム量を推定する方法、特に、土壌中の溶存態放射性セシウム量から作物中の放射性セシウム吸収量を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
福島原子力発電所における放射性物質の放出事故に伴い、汚染された海や河川、土壌に含まれる放射性セシウムの動態モニタリングに関心が集まっている。放射性セシウムは、その高い放射能量によって、長期間にわたって人体や植物、特に作物に悪影響を与える懸念がある。そこで、放射性セシウムの動態を調査することによって、汚染された海や河川、土壌における放射性セシウムの状態(例えば、溶存態、交換態、有機結合態、固定態など)及び分布を把握して、放射性セシウムの分離、回収などの除染や、放射性セシウムが存在する土壌における植物の栽培を効率よく実施することができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、モニタリング現地において、プルシアンブルー型錯体化合物を担持させた不織布に水を一定速度で一定時間通水させ、該不織布上で濃縮された水中の放射性セシウム量を測定することを特徴とする、水中の放射性セシウムのモニタリング方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、リター/土壌を浸出して来る浸出水について、除去フィルター層を通過させてこれに含まれている懸濁物質を除去した後に、セシウムを吸着する吸着物質を保持した吸着フィルター層を通過させ、所定時間後に該吸着フィルター層を検査する放射性セシウムの動態モニタリング装置であって、前記リター/土壌の位置を保持しその下部に空間を与えるとともに前記浸出水を通過させる透水板と、前記空間の底部から前記浸出水を排出する排出口と、を含み、前記除去フィルター層及び前記吸着フィルター層を上下に離間させて前記透水板及び前記排出口の間に挿入されていることを特徴とする放射性セシウムの動態モニタリング装置が開示されている。
【0005】
ところで、土壌中において、植物、特に作物が吸収し、保持する放射性セシウム量に大きな影響を及ぼし得る溶存態放射性セシウムの評価には、特許文献2にも開示されているように、浸出水などの土壌溶液の採取が必要である。しかしながら、畑地などの土壌では、溶存態放射性セシウムを評価するために十分な土壌溶液の採取が困難であることが多かった。
【0006】
このような問題点に対して、非特許文献1~3には、土壌中に直接埋設した亜鉛置換体プルシアンブルーシートに吸着させた溶存態放射性セシウム量と作物中の放射性セシウム量との間に相関関係があることを利用して、作物中の放射性セシウム量を推定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-246049号公報
【文献】特開2017-173316号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】井倉将人ら、「セシウム吸着シートを用いた畑地土壌の溶存態放射性セシウム量評価と作物吸収量判定」、日本土壌肥料学会講演要旨集、2017年9月5日、第63巻、161頁
【文献】井倉将人ら、「セシウム吸着シートを用いた畑地土壌の溶存態放射性セシウム量評価と作物吸収量判定-現地大豆圃場における溶存態放射性セシウム量評価について-」、日本土壌肥料学会講演要旨集、2018年8月29日、第64巻、147頁
【文献】井倉将人ら、「セシウム吸着シートを用いた畑地土壌における溶存態放射性セシウム量の変動把握」、日本土壌肥料学会講演要旨集、2019年9月3日、第65巻、134頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1~3に記載される方法により作物中の放射性セシウム量を推定する場合、土壌中に存在するカリウムが溶存態放射性セシウムの亜鉛置換体プルシアンブルーシートへの吸着に影響を及ぼすことがわかってきた。
【0010】
したがって、本発明は、土壌中に存在するカリウムに依存することなく、土壌中に存在する溶存態放射性セシウム量を評価し、評価した溶存態放射性セシウム量から作物中の放射性セシウム量を安定して推定する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討した結果、作物中の放射性セシウム量を推定する方法において、亜鉛置換体プルシアンブルーシートの代わりに銅置換体プルシアンブルーシートを使用したところ、土壌中に存在するカリウムに依存することなく、土壌中の溶存態放射性セシウム量を正確に評価することができ、銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量から作物中の放射性セシウム量を安定して推定することができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)作物中の放射性セシウム量を推定する方法であって、
(I)作物を栽培するための土壌中に銅置換体プルシアンブルーシートを埋設する工程、
(II)(I)の工程で埋設した銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量を測定する工程、並びに
(III)(II)の工程で測定した銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量から、下記(i)~(iv)の工程:
(i)放射性セシウム量を推定する作物と同じ種類の作物が生育している土壌中に銅置換体プルシアンブルーシートを埋設する工程、
(ii)(i)の工程で生育した作物中の放射性セシウム量と(i)の工程で埋設した銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量とを測定する工程、
(iii)(ii)の工程で測定した作物中の放射性セシウム量に対して(ii)の工程で測定した銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量をプロットする工程、及び
(iv)放射性セシウム量を推定する作物と同じ種類の作物が生育している(i)の工程における土壌とは別の1つ以上の土壌において、(i)~(iii)の工程を実施することにより、作物中の放射性セシウム量と銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量との関係を示す検量線を作成する工程
を含む方法により作成した検量線を用いて、作物中の放射性セシウム量を推定する工程
を含む前記方法。
(2)土壌溶液中のカリウム濃度が0mg/L~1000mg/Lであるか、又は土壌中の交換性カリウム濃度が0mgK2O/100g~100mgK2O/100gである、(1)に記載の方法。
(3)作物が、ダイズである、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)(II)の工程、並びに(III)の(ii)及び(iv)の工程における銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量が、ゲルマニウム半導体検出器を用いて測定される、(1)~(3)のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、土壌中に存在するカリウムに依存することなく、土壌中に存在する溶存態放射性セシウム量を評価し、評価した溶存態放射性セシウム量から作物中の放射性セシウム量を安定して推定する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1におけるカリウム濃度と溶存態セシウムのZnPB又はCuPBへの吸着量の関係を示すグラフである。
【
図2】実施例2におけるCuPBを含有する構造体(CuPB構造体)1を模式的に示す図である。
【
図3】実施例2におけるCuPB構造体1の埋設領域を模式的に示す図である。
【
図4】実施例2における大豆子実中の
137Cs濃度とCuPB構造体1の銅置換体プルシアンブルーシート2に吸着した溶存態放射性セシウム
137Cs濃度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。図面では、明確化のために各部の寸法及び形状を誇張しており、実際の寸法及び形状を正確に描写してはいない。それ故、本発明の技術的範囲は、これら図面に表された各部の寸法及び形状に限定されるものではない。なお、本発明の作物中の放射性セシウム量を推定する方法は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0016】
本発明は、作物中の放射性セシウム量を推定する方法であって、(I)作物を栽培するための土壌中に銅置換体プルシアンブルーシートを埋設する工程、(II)(I)の工程で埋設した銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量を測定する工程、及び(III)(II)の工程で測定した銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量から、特定の方法により作成した検量線を用いて、作物中の放射性セシウム量を推定する工程を含む前記方法に関する。
【0017】
以下に、(I)~(III)の工程の詳細を説明する。
【0018】
(I)作物を栽培するための土壌中に銅置換体プルシアンブルーシートを埋設する工程
(I)の工程では、作物を栽培するための土壌中に銅置換体プルシアンブルーシートを埋設する。
【0019】
銅置換体プルシアンブルーシートとは、銅置換体プルシアンブルーが担持されているシートである。銅置換体プルシアンブルーとは、例えば特開2013-246049号公報に記載のプルシアンブルー型錯体化合物において、Mが銅である化合物、すなわちAxCu[Fe(CN)6]y・zH2O(式中、Aは、陽イオンを形成するカリウム、リチウム、ナトリウム、ルビジウム、アンモニア又はこれらの混合体である)である。シートは、銅置換体プルシアンブルーを担持することができれば限定されず、例えば不織布製や濾紙製などのシートである。
【0020】
銅置換体プルシアンブルーシート中における銅置換体プルシアンブルーの濃度は、土壌中における溶存態放射性セシウムが銅置換体プルシアンブルーに対して吸着・脱着の平衡状態に到達するために必要な濃度以上であれば限定されない。銅置換体プルシアンブルーシート中における銅置換体プルシアンブルーの濃度は、下記で詳細を説明する好ましい土壌中のカリウム濃度に依存することなく一定のセシウム吸着量を示す濃度であることが好ましい。
【0021】
銅置換体プルシアンブルーシートは、土壌中に埋設した際に、土壌が付着しないように、土壌自体は通過しないが土壌に含まれる水分は透過するようなフィルター材料、例えば親水性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製のメンブレンフィルターなどの親水性メンブレンフィルターで密着して覆うことが好ましい。ここで、フィルター材料の孔の平均径は、通常0.1μm~1μm、例えば0.2μmである。なお、銅置換体プルシアンブルーシートを覆うフィルター材料は、銅置換体プルシアンブルーシートの両面を覆ってもよいが、銅置換体プルシアンブルーシートのいずれか一面を覆えばよい。銅置換体プルシアンブルーシートのフィルター材料により覆われた面と反対側の面は、土壌も土壌に含まれる水分も通過しない材料、例えばポリエチレンシートなどで密着して覆うことが好ましい。銅置換体プルシアンブルーシートのフィルター材料により覆われた面と反対側の面を土壌も土壌に含まれる水分も通過しない材料で覆うことにより、銅置換体プルシアンブルーシートとフィルター材料との間に空気が入り込むことを防ぎ、土壌に含まれる水分がフィルター材料を容易に透過できるようになる。
【0022】
さらに、銅置換体プルシアンブルーシートは、例えば土壌中の環境に影響を受けて折れ曲がったりしないよう安定して存在できるように、銅置換体プルシアンブルーシートの外縁(外周)部分を枠、例えばプラスチック製の枠で挟むことで固定することが好ましい。
【0023】
例えば、銅置換体プルシアンブルーシートは、直径4.8cmの円形型シートであり、その片側の面は直径5cmの円形型シートの親水性メンブレンフィルターで覆われており、その反対側の面は直径5cmの円形型シートのポリエチレンシートで覆われており、親水性メンブレンフィルターの縁部分とポリエチレンシートの縁部分とは、銅置換体プルシアンブルーシートが内包されるように圧着されている。さらに、親水性メンブレンフィルター及びポリエチレンシートに内包された銅置換体プルシアンブルーシートは、圧着されている外縁部分をプラスチック製の枠で挟むことで固定されている。
【0024】
作物を栽培するための土壌は、溶存態放射性セシウムが存在し得る土壌である以外は限定されず、作物の栽培に適した土壌、例えば農地、例えば畑地、水田が挙げられる。土壌は、畑地が好ましい。
【0025】
作物を栽培するための土壌を畑地にすることによって、特に評価が困難であった畑地土壌中の溶存態放射性セシウム濃度を容易に評価することができる。
【0026】
なお、作物を栽培するための土壌には、放射性セシウム量を推定する作物を、未だ植えていなくても、又は既に植えていてもよい。
【0027】
土壌中の水分量は、限定されないが、畑地土壌では、土壌水分の指標であるpF1.5(圃場容水量(地下水位30cmの時の土壌の水分量))からpF3.0(有効水分量(植物が容易に利用できる水分量))の間の水分量が望ましい。例えば、黒ボク土では、含水比{(水分重量(g)/乾土重量(g))×100}(%)が50%~80%、褐色森林土では、35%~55%、砂質土・まさ土では、10%~30%などの範囲である。水田土壌の水分量においては、湛水条件下による飽和状態が望ましい。
【0028】
土壌中の水分量が前記範囲であることによって、土壌中における溶存態放射性セシウムが容易に銅置換体プルシアンブルーシートに吸着される。
【0029】
土壌中のカリウム濃度は、限定されない。本発明の作物中の放射性セシウム量を推定する方法では、土壌中に存在するカリウムの影響は小さいためである。
【0030】
本発明によって、土壌中のカリウム濃度に依存することなく、溶存態放射性セシウム量を評価することができ、当該溶存態放射性セシウム量から、作物中の放射性セシウム量を安定して推定することができる。特に、土壌中のカリウム濃度は、土壌溶液中のカリウム濃度(土壌中の溶存態カリウム濃度)として、通常0mg/L~1000mg/L、好ましくは0mg/L~400mg/L、より好ましくは50mg/L~400mg/L、あるいは、土壌中の交換性カリウム濃度として、通常0mgK2O/100g~100mgK2O/100g、好ましくは25mgK2O/100g~100mgK2O/100gであれば、土壌中の溶存態放射性セシウム量をより安定して評価し、さらに評価した溶存態放射性セシウム量から作物中の放射性セシウム量をより安定して推定することができる。ここで、土壌中の交換性カリウム濃度とは、1mol/Lの酢酸アンモニウム溶液により土壌粘土鉱物などから抽出されたカリウム濃度を意味する。
【0031】
作物としては、限定されないが、例えば豆類、穀物類、葉菜類、果菜類、根菜類、牧草などが挙げられ、例えばメロン、カボチャ、キュウリ、スイカ、ツルレイシ、トウガン、ヘチマ、ユウガオ、トウガラシ、ピーマン、トマト、ナス、カリフラワー、キャベツ、コマツナ、チンゲンサイ、ハクサイ、ブロッコリー、カブ、ダイコン、ワサビ、ウド、シュンギク、レタス、セルリー、パセリー、イチゴ、アスパラガス、タマネギ、ニラ、ネギ、サツマイモ、ショウガ、ニンジン、イネ、ソラマメ、ダイズ、オクラ、ホウレンソウ、マンゴー、カキ、グミ、イチジク、パッションフルーツ、パイナップル、パパイア、アンズ、ウメ、オウトウ、カリン、キイチゴ、スモモ、セイヨウナシ、ナシ、ビワ、マルメロ、モモ、リンゴ、ブドウ、クリ、キウイフルーツ、カンキツなどが挙げられる。作物は、ダイズが好ましい。
【0032】
作物を前記に列挙した作物にすることによって、作物中の放射性セシウム量と、土壌中に存在する溶存態放射性セシウム量、すなわち銅置換体プルシアンブルーシートに吸着する溶存態放射性セシウム量との間に正の相関関係を得ることができる。
【0033】
土壌中の銅置換体プルシアンブルーシートを埋設する領域は、銅置換体プルシアンブルーシート全てが土壌中に埋まる領域であれば限定されない。銅置換体プルシアンブルーシートは、放射性セシウム量を推定する作物を既に植えている場合、作物と作物の間、好ましくは作物同士の株間中央において、作土層表面から作土層最深深さの間、好ましくは中間深さに埋設されることが好ましい。
【0034】
放射性セシウム量を推定する作物を既に植えている場合に、土壌中の銅置換体プルシアンブルーシートを前記領域に埋設することによって、銅置換体プルシアンブルーシートが土壌に含まれる水分による乾燥及び浸透の影響を受けにくくなり、一定の環境下を保つことができる。
【0035】
土壌中の銅置換体プルシアンブルーシートを埋設する頻度は、限定されず、高い方が好ましいが、作物を栽培するための土壌において、通常土壌1ヘクタール中に1箇所~3箇所であり、好ましくは土壌1ヘクタール中に3箇所~5箇所である。
【0036】
土壌中に銅置換体プルシアンブルーシートを前記頻度で埋設することによって、作物中の放射性セシウム量を安定して推定することができる。
【0037】
銅置換体プルシアンブルーシートを埋設する期間は、土壌中における溶存態放射性セシウムが銅置換体プルシアンブルーに対して吸着・脱着の平衡状態に到達するために必要な期間以上であれば限定されず、通常1週間~3週間、例えば2週間である。
【0038】
銅置換体プルシアンブルーシートを埋設する時期は、限定されないが、極度に乾燥していない時期、例えば適度に雨が降り、適切な湿度を有する時期が好ましい。
【0039】
土壌中に銅置換体プルシアンブルーシートを前記時期に埋設することによって、土壌中における溶存態放射性セシウムが銅置換体プルシアンブルーに対して吸着・脱着の平衡状態に到達するために必要な一定の土壌中の水分量を容易に確保することができる。
【0040】
(II)(I)の工程で埋設した銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量を測定する工程
(II)の工程では、(I)の工程で埋設した銅置換体プルシアンブルーシートを土壌から取り出して、当該銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量を測定する。
【0041】
土壌から取り出した銅置換体プルシアンブルーシートは、土壌に含まれる水分により湿った状態であるため、通風乾燥機内で、通常25℃~30℃、通常12時間~24時間乾燥することが好ましい。
【0042】
銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量は、限定されないが、ゲルマニウム半導体検出器により測定することができる。
【0043】
ゲルマニウム半導体検出器による銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量の測定条件は、当該技術分野において公知の条件を使用することができ、取り出した銅置換体プルシアンブルーシートを、充填容器、例えば市販のプラスチック容器(U8容器形状、ポリプロピレン製)などに充填して測定する。ゲルマニウム半導体検出器による銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量の測定は、例えば「放射能測定法シリーズ7 ゲルマニウム半導体検出器によるガンマ線スペクトロメトリー」([online]、令和2年改訂、原子力規制庁監視情報課、インターネット、URL:https://www.kankyo-hoshano.go.jp/series/lib/No7.pdf)に記載されている方法に基づいて実施することができる。
【0044】
銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量を前記方法により測定することで、非破壊で、簡単・迅速に銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量を測定することができる。
【0045】
(III)(II)の工程で測定した銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量から、特定の方法により作成した検量線を用いて、作物中の放射性セシウム量を推定する工程
(III)の工程では、(II)の工程で測定した銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量から、(i)~(iv)の工程を含む方法により作成した検量線を用いて、作物中の放射性セシウム量を推定する。
【0046】
以下に、(i)~(iv)の工程を含む検量線の作成方法を説明する。なお、(i)~(iv)の工程は、(III)の工程において検量線を使用する前であればいつ実施してもよく、例えば、(I)の工程の前に作成しておいても、(I)の工程と同時に作成しても、(II)の工程の後に作成してもよい。
【0047】
(i)放射性セシウム量を推定する作物と同じ種類の作物が生育している土壌中に銅置換体プルシアンブルーシートを埋設する工程
(i)の工程では、(I)の工程で栽培している放射性セシウム量を推定する作物と同じ種類の作物が生育している土壌中に銅置換体プルシアンブルーシートを埋設する。
【0048】
ここで、銅置換体プルシアンブルーシート、土壌などの条件は、(I)の工程で説明した条件と同等にすることができる。土壌中のカリウムは作物中への溶存態放射性セシウムの吸収を抑制する効果を有するため、土壌中のカリウム濃度は、(I)の工程において放射性セシウム量を推定する作物を栽培するための土壌中のカリウム濃度と同じか、その濃度以下、特に、土壌溶液中のカリウム濃度として、50mg/L~400mg/L、あるいは、土壌中の交換性カリウム濃度として、25mgK2O/100g~100mgK2O/100gとすることが好ましい。土壌中の銅置換体プルシアンブルーシートを埋設する領域、頻度及び期間などの条件は、(I)の工程において放射性セシウム量を推定する作物を既に植えている場合の条件と同等にすることができる。
【0049】
なお、土壌中の交換性カリウム濃度は、特に大豆子実中の放射性セシウム濃度に強く影響するため、作物としてダイズを使用する場合には、土壌中に銅置換体プルシアンブルーシートを埋設する際に、埋設地点の土壌を採取しておき、必要に応じて土壌中の交換性カリウム濃度の測定を行うことが好ましい。
【0050】
(ii)(i)の工程で生育した作物中の放射性セシウム量と(i)の工程で埋設した銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量とを測定する工程
(ii)の工程では、(i)の工程で生育した作物中の放射性セシウム量と(i)の工程で埋設した銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量とを測定する。
【0051】
ここで、(i)の工程で生育した作物は、限定されないが、放射性セシウム量を推定する作物における放射性セシウム量を推定することが望ましい時期の作物、例えば収穫期の作物であることが好ましい。(i)の工程で生育した作物が収穫期の作物であることにより、放射性セシウム量を推定する作物の収穫期における放射性セシウム量を推定することができる。
【0052】
(i)の工程で生育した作物中の放射性セシウム量は、限定されないが、例えば新鮮物である作物又は乾燥処理した作物を場合により粉砕して調製した試料を用いてゲルマニウム半導体検出器により測定することができる。ゲルマニウム半導体検出器による(i)の工程で生育した作物中の放射性セシウム量の測定は、例えば「放射能測定法シリーズ7 ゲルマニウム半導体検出器によるガンマ線スペクトロメトリー」([online]、令和2年改訂、原子力規制庁監視情報課、インターネット、URL:https://www.kankyo-hoshano.go.jp/series/lib/No7.pdf)に記載されている方法に基づいて実施することができる。
【0053】
作物中の放射性セシウム量の測定にゲルマニウム半導体検出器を用いる場合、試料を充填する測定容器は、限定されないが、例えば700mLのマリネリ容器や2Lのマリネリ容器などが好ましい。
【0054】
試料を充填する測定容器として容量の多い測定容器を使用することによって、分析精度を確保することができる。
【0055】
なお、作物中の放射性セシウム量は、限定されないが、例えば、一定重量の作物における可食部分(例えば、実や葉など)中における放射性セシウム量として測定される。
【0056】
さらに、(i)の工程で埋設した銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量は、限定されないが、(II)の工程で使用される方法と同様の方法により測定することができる。
【0057】
(iii)(ii)の工程で測定した作物中の放射性セシウム量に対して(ii)の工程で測定した銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量をプロットする工程
(iii)の工程では、(ii)の工程で測定した作物中の放射性セシウム量に対して(ii)の工程で測定した銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量をプロットする。
【0058】
(iv)放射性セシウム量を推定する作物と同じ種類の作物が生育している(i)の工程における土壌とは別の1つ以上の土壌において、(i)~(iii)の工程を実施することにより、作物中の放射性セシウム量と銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量との関係を示す検量線を作成する工程
(iv)の工程では、放射性セシウム量を推定する作物と同じ種類の作物が生育している(i)の工程における土壌とは別の1つ以上の土壌において、(i)~(iii)の工程を実施することにより、作物中の放射性セシウム量と銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量との関係を示す検量線を作成する。
【0059】
ここで、(iv)の工程における(i)の工程における土壌とは別の1つ以上、例えば1つ、2つ、3つ、又は4つの土壌は、(i)の工程における土壌と異なる地域の土壌であることが好ましい。(iv)の工程における土壌が(i)の工程における土壌と異なる地域の土壌であることにより、(iv)の工程における土壌中の溶存態放射性セシウム量と(i)の工程における土壌中の溶存態放射性セシウム量とが異なる可能性が高くなり、その結果、濃度幅を有する検量線を作成することができる。
【0060】
前記以外の条件は、(i)の工程に記載の通りである。
【0061】
作物中の放射性セシウム量は、土壌中に存在する溶存態放射性セシウム量と正の相関関係を有する。すなわち、土壌中に存在する溶存態放射性セシウム量が多いほど、作物中の放射性セシウム量は多くなる。
【0062】
さらに、土壌中に存在する溶存態放射性セシウム量は、銅置換体プルシアンブルーシートに吸着する溶存態放射性セシウム量と正の相関関係を有する。加えて、土壌中に存在する溶存態放射性セシウムは、銅置換体プルシアンブルーシートに吸着する際に、土壌中に存在するカリウムに大きな影響を受けない。すなわち、土壌中に存在する溶存態放射性セシウムは、土壌中に存在するカリウムに依存することなく、銅置換体プルシアンブルーシートに吸着し、土壌中に存在する溶存態放射性セシウム量が多いほど、銅置換体プルシアンブルーシートに吸着する溶存態放射性セシウム量は多くなる。
【0063】
したがって、作物中の放射性セシウム量は、銅置換体プルシアンブルーシートに吸着する溶存態放射性セシウム量と正の相関関係を有する。すなわち、銅置換体プルシアンブルーシートに吸着する溶存態放射性セシウム量が多いほど、作物中の放射性セシウム量は多くなる。このため、作物中の放射性セシウム量と銅置換体プルシアンブルーシートに吸着する溶存態放射性セシウム量との関係において、検量線を作成することができる。
【0064】
以上により、(III)の工程では、(II)の工程で測定した銅置換体プルシアンブルーシートに吸着した溶存態放射性セシウム量から、前記(i)~(iv)の工程を含む方法により作成した検量線を用いて、作物中の放射性セシウム量を推定することができる。
【0065】
前記で説明した本発明の作物中の放射性セシウム量を推定する方法は、例えば溶存態放射性セシウムが存在する土壌において作物を栽培する際に利用することができる。
【0066】
例えば、従来実施していた(ア)過去に作物を栽培したことのある溶存態放射性セシウムが存在する土壌に当該作物と同じ種類の作物を植える工程、(イ)(ア)の工程の前又は後に、土壌中の放射性セシウム濃度を測定する工程、及び(ウ)(イ)の工程で測定した土壌中の放射性セシウム濃度に基づいて施肥する工程を含む、溶存態放射性セシウムが存在する土壌において作物を栽培する方法において、(イ)の工程として本発明の作物中の放射性セシウム量を推定する方法を使用することによって、栽培している又はこれから栽培する予定の作物中に含まれ得る放射性セシウム量、特に収穫期の作物中に含まれ得る放射性セシウム量を迅速且つ正確に安定して推定することができ、その量に応じて、作物に与える肥料などの量を適切に決定することができる。
【0067】
このような作物の栽培において本発明を使用する態様を、(ア)過去に作物を栽培したことのある溶存態放射性セシウムが存在する土壌に当該作物と同じ種類の作物を植える工程、(イ)(ア)の工程の前又は後に、本発明の方法により(ア)の工程で植える又は植えた作物中の放射性セシウム量を推定する工程、及び(ウ)(イ)の工程で推定した作物中の放射性セシウム量に基づいて施肥する工程に分けて、以下に、詳細を説明する。
【0068】
(ア)過去に作物を生育したことのある溶存態放射性セシウムが存在する土壌に当該作物と同じ種類の作物を植える工程
(ア)の工程では、過去に作物を生育したことのある溶存態放射性セシウムが存在する土壌に当該作物と同じ種類の作物を植える。
【0069】
ここで、溶存態放射性セシウムが存在する土壌は、限定されないが、例えば福島原子力発電所における放射性物質の放出事故に伴い、汚染された土壌などが挙げられる。
【0070】
さらに、溶存態放射性セシウムが存在する土壌は、過去、すなわち溶存態放射性セシウムによって汚染された後で、且つ(ア)の工程よりも前に、作物を栽培し、収穫している土壌である。溶存態放射性セシウムが存在する土壌は、毎年作物を栽培し、収穫している土壌が好ましい。溶存態放射性セシウムが存在する土壌が前記土壌であることによって、土壌中の溶存態放射性セシウム濃度以外の性質、例えば土壌中のカリウム濃度などの性質を容易に把握することができる。
【0071】
(イ)(ア)の工程の前又は後に、本発明の方法により(ア)の工程で植える又は植えた作物中の放射性セシウム量を推定する工程
(イ)の工程では、(ア)の工程の前又は後に、前記において説明した本発明の方法により(ア)の工程で植える又は植えた作物中の放射性セシウム量を推定する。
【0072】
(イ)の工程において、本発明の方法を使用することにより、(ア)の工程で植える又は植えた作物の、特に収穫期における放射性セシウム量を迅速且つ正確に安定して推定することができる。
【0073】
(ウ)(イ)の工程で推定した作物中の放射性セシウム量に基づいて施肥する工程
(ウ)の工程では、(イ)の工程で推定した作物中の放射性セシウム量に基づいて施肥する。
【0074】
(ウ)の工程では、例えば、(イ)の工程で推定した作物中の放射性セシウム量が過去に前記土壌において栽培した作物中の放射性セシウム量よりも多い場合に、カリウムを追肥することができる。カリウムの追肥は、特に土壌中のカリウム濃度が、土壌中の交換性カリウム濃度として25mgK2O/100g以上になるように実施することが好ましい。
【0075】
ここで、過去に前記土壌において生育した作物中の放射性セシウム量は、限定されないが、例えば本発明の作物中の放射性セシウム量を推定する方法や、本発明の(ii)の工程における(i)の工程で生育した作物中の放射性セシウム量の測定方法と同じ測定方法を使用することができる。
【0076】
(ウ)の工程において、(イ)の工程で推定した作物中の放射性セシウム量が過去に前記土壌において生育した作物中の放射性セシウム量よりも多い場合にカリウムを追肥することによって、作物中への溶存態放射性セシウムの吸収を抑制することができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0078】
実施例1.プルシアンブルーシートの溶存態セシウム(Cs)吸着量に対する溶存態カリウム(K)濃度の影響評価
以下の(1)~(4)により、プルシアンブルーシートの溶存態セシウム(Cs)吸着量に対する溶存態カリウム(K)濃度の影響を評価した。
【0079】
(1)安定同位体セシウム(133Cs)の濃度を0.5mmol/Lに調整した水溶液(Cs水溶液)を調製した。
(2)Cs水溶液に、安定同位体カリウム(K)を、0.25mmol/L、0.5mmol/L、1mmol/L、2mmol/L、5mmol/L、10mmol/L、25mmol/L、又は100mmol/Lになるように加え、K添加Cs水溶液を調製した。
(3)各K添加Cs水溶液100mL中に銅置換体プルシアンブルーシート(CuPB)又は亜鉛置換体プルシアンブルーシート(ZnPB)を含浸させ、24時間静置した。
(4)24時間後に各銅置換体プルシアンブルーシート又は亜鉛置換体プルシアンブルーシートを取り出し、乾燥(通風乾燥機内での、25℃~30℃、12時間~24時間の乾燥)後、各シート中に吸着したCs量を測定した。
【0080】
【0081】
【0082】
表1及び
図1より、ZnPBでは、カリウム濃度が増加することによりCs吸着量が顕著に減少する一方で、CuPBでは、カリウム濃度が増加してもCs吸着量の減少度合いが著しく小さいことがわかった。特に、CuPBでは、カリウム濃度を0.25mmol/L(9.75mg/L)から25mmol/L(975mg/L(約1000mg/L))まで増加しても、Cs吸着量はほぼ変化しなかった。すなわち、カリウムと溶存態Csとが共存する条件において、溶存態Csの吸着にZnPBを使用する場合、カリウムが、溶存態Csと競合してZnPBに吸着してしまい、溶存態CsのZnPBへの吸着を阻害する一方で、溶存態Csの吸着にCuPBを使用する場合、カリウムは、CuPBに吸着しないか、あるいはCuPBに吸着したとしてもその量は少ないため、溶存態CsのCuPBへの吸着に大きな影響を及ぼさない。
【0083】
安定同位体セシウム(133Cs)の各プルシアンブルーシートへの吸着の傾向は、放射性セシウム(RCs、137Cs及び134Cs)の各プルシアンブルーシートへの吸着の傾向と同様であると考えられる。
【0084】
したがって、CuPBは、カリウム濃度に依存することなく、RCsを安定して吸着することができることがわかった。
【0085】
実施例2.大豆子実中の137Cs濃度と土壌中に埋設した銅置換体プルシアンブルーシート(CuPB)に吸着した溶存態放射性セシウム137Cs濃度の関係
前記(i)~(iv)の工程にしたがって、作物を大豆子実として、大豆子実中の137Cs濃度と土壌中に埋設した銅置換体プルシアンブルーシート(CuPB)に吸着した溶存態放射性セシウム137Cs濃度の関係を評価した。
【0086】
(i’)大豆が生育している土壌中にCuPBを埋設する工程
(i’)の工程では、大豆が生育している土壌中にCuPBを埋設した。
【0087】
CuPBとしては、
図2に模式的に示すCuPBを含有する構造体(CuPB構造体)1を使用した。CuPB構造体1は、以下のように作製した。
【0088】
直径4.8cmの円形型の銅置換体プルシアンブルーシート2を、直径5cmの円形型シートの親水性メンブレンフィルター(親水性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製のメンブレンフィルター)3及び直径5cmの円形型シートのポリエチレンシート4の中心部分に設置した。親水性メンブレンフィルター3及びポリエチレンシート4の外縁部分を圧着することで銅置換体プルシアンブルーシートを内包した。圧着した外縁部分をプラスチック製の枠5で挟むことで固定した。
【0089】
続いて、CuPB構造体1を、
図3に示すように、各大豆株間中央における、深さ7.5cm~10cm程度(作土層の深さ15cm~20cm)の領域に、3反復(1つの土壌あたり3個のCuPB構造体1を埋設)で埋設した。
【0090】
銅置換体プルシアンブルーシートを埋設した土壌は、137Cs濃度が1500Bq/kg~5000Bq/kg、カリウム濃度が、交換性カリウム濃度として、5mgK2O/100g~100mgK2O/100g程度の範囲にある黒ボク土、褐色森林土、低地土などの農地土壌であった。
【0091】
(ii’)(i’)の工程で生育した大豆の子実中の放射性セシウム137Cs濃度と(i’)の工程で埋設したCuPB構造体1の銅置換体プルシアンブルーシート2に吸着した溶存態放射性セシウム137Cs濃度とを測定する工程
(ii’)の工程では、(i’)の工程で生育した大豆の子実中の放射性セシウム137Cs濃度と(i’)の工程で埋設したCuPB構造体1の銅置換体プルシアンブルーシート2に吸着した溶存態放射性セシウム137Cs濃度とを測定した。
【0092】
ここで、大豆の子実中の放射性セシウム137Cs濃度は、未粉砕の大豆子実を700mLマリネリ又は2Lマリネリ容器に充填し、ゲルマニウム半導体検出器による放射能分析で測定した。測定操作及び解析方法は、「放射能測定法シリーズ7 ゲルマニウム半導体検出器によるガンマ線スペクトロメトリー」([online]、令和2年改訂、原子力規制庁監視情報課、インターネット、URL:https://www.kankyo-hoshano.go.jp/series/lib/No7.pdf)に従った。
【0093】
CuPB構造体1の銅置換体プルシアンブルーシート2に吸着した溶存態放射性セシウム137Cs濃度の測定は、CuPB構造体1を埋設してから2週間後に、土壌からCuPB構造体1を取り出し、CuPB構造体1の銅置換体プルシアンブルーシート2を乾燥(通風乾燥機内での、25℃~30℃、12時間~24時間の乾燥)してから行った。CuPB構造体1の銅置換体プルシアンブルーシート2に吸着した溶存態放射性セシウム137Cs濃度は、銅置換体プルシアンブルーシート2を放射能分析用のプラスチック容器(U8容器、内径5cm)内の底面に配置し、ゲルマニウム半導体検出器により放射能分析を行った。測定操作及び解析方法は、「放射能測定法シリーズ7 ゲルマニウム半導体検出器によるガンマ線スペクトロメトリー」([online]、令和2年改訂、原子力規制庁監視情報課、インターネット、URL:https://www.kankyo-hoshano.go.jp/series/lib/No7.pdf)に従った。なお、CuPB構造体1の銅置換体プルシアンブルーシート2に吸着した溶存態放射性セシウム137Cs濃度は、土壌中に埋設した3個のCuPB構造体1の銅置換体プルシアンブルーシート2に吸着した溶存態放射性セシウム137Cs濃度の平均値とした。
【0094】
(iii’)(ii’)の工程で測定した大豆の子実中の放射性セシウム137Cs濃度に対して(ii’)の工程で測定したCuPB構造体1の銅置換体プルシアンブルーシート2に吸着した溶存態放射性セシウム137Cs濃度をプロットする工程
(iii’)の工程では、(ii’)の工程で測定した大豆の子実中の放射性セシウム137Cs濃度に対して(ii’)の工程で測定したCuPB構造体1の銅置換体プルシアンブルーシート2に吸着した溶存態放射性セシウム137Cs濃度をプロットした。
【0095】
(iv’)大豆が生育している(i’)の工程における土壌とは別の3つの土壌において、(i’)~(iii’)の工程を実施することにより、大豆の子実中の放射性セシウム137Cs濃度とCuPB構造体1の銅置換体プルシアンブルーシート2に吸着した溶存態放射性セシウム137Cs濃度との関係を示す図を作成する工程
(iv’)の工程では、大豆が生育している(i’)の工程における土壌とは別の3つの土壌において、(i’)~(iii’)の工程を実施することにより、大豆の子実中の放射性セシウム137Cs濃度とCuPB構造体1の銅置換体プルシアンブルーシート2に吸着した溶存態放射性セシウム137Cs濃度との関係を示すグラフを作成した。
【0096】
銅置換体プルシアンブルーシートを埋設した別の3つの土壌は、137Cs濃度が1500Bq/kg~5000Bq/kg、カリウム濃度が、交換性カリウム濃度として、5mgK2O/100g~100mgK2O/100g程度の範囲にある黒ボク土、褐色森林土、低地土などの農地土壌であった。
【0097】
【0098】
【0099】
表2及び
図4より、大豆子実中の
137Cs濃度とCuPB構造体1の銅置換体プルシアンブルーシート2に吸着した溶存態放射性セシウム
137Cs濃度には正の相関関係があることがわかった。したがって、
図4における大豆子実中の
137Cs濃度とCuPB構造体1の銅置換体プルシアンブルーシート2に吸着した溶存態放射性セシウム
137Cs濃度の相関関係から求められる回帰直線は、検量線として使用することができ、当該検量線によって、CuPB構造体1の銅置換体プルシアンブルーシート2に吸着した溶存態放射性セシウム
137Cs濃度から、大豆子実中の
137Cs濃度を推定できることがわかった。
【符号の説明】
【0100】
1:CuPBを含有する構造体、2:銅置換体プルシアンブルーシート、3:親水性メンブレンフィルター、4:ポリエチレンシート、5:プラスチック製の枠