(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/244 20060101AFI20230327BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20230327BHJP
H01J 37/22 20060101ALI20230327BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
H01J37/244
H01J37/28 B
H01J37/22 502H
H01L21/66 J
(21)【出願番号】P 2019199141
(22)【出願日】2019-10-31
【審査請求日】2022-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西畑 貴博
(72)【発明者】
【氏名】大崎 真由香
(72)【発明者】
【氏名】高木 裕治
(72)【発明者】
【氏名】山本 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誠
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/092757(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/173242(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/089955(WO,A1)
【文献】特開2014-203603(JP,A)
【文献】特開2010-92859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームの照射により試料から放出される信号粒子を検出し電気信号に変換する複数の検出器と、
検出器ごとに設けられ、前記電気信号を前記信号粒子のエネルギーに応じて弁別するエネルギー弁別器と、
それぞれの前記エネルギー弁別器のエネルギー弁別条件を設定する弁別制御ブロックと、
弁別された前記電気信号に基づいて画像を生成する画像演算ブロックと、
を備え、
前記弁別制御ブロックは、複数の前記エネルギー弁別器間において互いに異なるエネルギー弁別条件を設定
し、
前記画像演算ブロックは、複数の前記検出器を用いて得られる画像間の類似度を画像評価値として用いることで前記エネルギー弁別条件を導出する、
荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記検出器は、前記信号粒子を光に変換する信号検出素子と、変換された光を前記電気信号に変換する光/電気変換素子とを備え、
前記信号検出素子は、周方向に複数の領域に分割されている、
荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記検出器は、前記信号粒子を光に変換する信号検出素子と、変換された光を前記電気信号に変換する光/電気変換素子とを備え、
前記信号検出素子は、径方向に複数の領域に分割されている、
荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記検出器は、前記信号粒子を光に変換する信号検出素子と、変換された光を前記電気信号に変換する光/電気変換素子とを備え、
前記信号検出素子は、周方向および径方向に複数の領域に分割されている、
荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記検出器は、フォトダイオードまたはシリコンフォトマルチプライヤである、
荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記検出器は、前記信号粒子を光に変換する信号検出素子と、変換された光を前記電気信号に変換する光/電気変換素子とを備え、
前記信号検出素子は、シンチレータである、
荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記検出器は、前記信号粒子を光に変換する信号検出素子と、変換された光を前記電気信号に変換する光/電気変換素子とを備え、
前記光/電気変換素子は、フォトダイオードまたはシリコンフォトマルチプライヤである、
荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記エネルギー弁別器は、前記電気信号の出力値および前記信号粒子の検出時間を用いて前記電気信号を弁別する、
荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
それぞれの前記エネルギー弁別器は、弁別された前記電気信号に基づいて画像階調値を生成し、
複数の前記画像階調値は、前記画像演算ブロックに並列に供給される、
荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項
1に記載の荷電粒子線装置において、
前記画像演算ブロックは、前記検出器の全ての組合せについて、画像間の前記類似度を算出し、前記類似度が最小となる画像の組合せ、および対応する前記エネルギー弁別条件を導出する、
荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記試料の想定される観察対象パターンの深さ、前記試料の想定される観察対象パターンの材料情報、前記荷電粒子ビームの加速電圧、および前記エネルギー弁別条件のデータベースを格納する記憶装置を備えている、
荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項
11に記載の荷電粒子線装置において、
前記弁別制御ブロックは、ユーザにより入力される前記試料の観察対象パターンの深さ、および前記試料の観察対象パターンの材料情報を用いて、前記荷電粒子ビームの加速電圧、およびそれぞれの前記エネルギー弁別器の前記エネルギー弁別条件を設定する、
荷電粒子線装置。
【請求項13】
荷電粒子ビームの照射により試料から放出される信号粒子を検出し電気信号に変換する複数の検出器と、
検出器ごとに設けられ、前記信号粒子をエネルギーに応じて弁別するエネルギー弁別器と、
それぞれの前記エネルギー弁別器のエネルギー弁別条件を設定する弁別制御ブロックと、
前記電気信号に基づき画像を生成する画像演算ブロックと、
を備え、
前記弁別制御ブロックは、複数の前記エネルギー弁別器間において互いに異なるエネルギー弁別条件を設定
し、
前記画像演算ブロックは、複数の前記検出器を用いて得られる画像間の類似度を画像評価値として用いることで前記エネルギー弁別条件を導出する、
荷電粒子線装置。
【請求項14】
請求項
13に記載の荷電粒子線装置において、
前記エネルギー弁別器は、エネルギーフィルタである、
荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線装置の一態様である走査電子顕微鏡は、試料に向かって電子ビームを照射することによって得られる信号電子に基づいて、画像や信号波形を生成する装置である。一般に、50eV以下のエネルギーで出射する信号電子は二次電子と呼ばれ、50eVよりエネルギーが大きく、一次電子線に近いエネルギーで出射する信号電子は反射電子と呼ばれる。
【0003】
走査電子顕微鏡は、例えば半導体デバイスの評価・計測等に用いられる。半導体デバイスの製造に際し、歩留まり向上のため、複数ある製造工程のうち幾つかの工程間で、半導体基板上の穴や溝といったパターンの出来栄え管理が行われる。例えば、走査電子顕微鏡を用いたパターンの幅等の計測値によりパターンの出来栄え管理により、半導体デバイスの評価が行われる。
【0004】
近年、半導体デバイスの構造は微細化、3D化が進んでおり、半導体デバイスメーカー等の顧客からのニーズが多様化している。例えば、デバイス構造の3D化に伴い、半導体基板上のパターンの断面形状を計測したいというニーズがある。
【0005】
走査電子顕微鏡を用いた断面形状の計測方法の一つに、エネルギーで弁別した信号電子を用いる方法がある。信号電子には、試料の組成や立体形状等の情報が含まれている。このため、信号電子から、試料の3D構造や、表面と底部の組成の違い等の各種情報が得られる。また、信号電子は、高いエネルギーを有するため、穴や溝から側壁を貫通して試料の外部へ脱出できるため、穴や溝の底部からの信号検出および計測にも用いられる。
【0006】
また、信号電子は、側壁内を貫通する距離が長いほど、自身のエネルギー損失量も大きくなる。したがって、エネルギーの高い信号電子はパターンの表面や浅い部分の形状情報を有し、エネルギーの低い信号電子はパターンの深い部分の形状情報を多く有する。この性質を利用し、反射電子を複数のエネルギー領域に弁別して検出することで、各エネルギー領域に応じた深さにおけるパターンの断面形状を推定することができる。
【0007】
例えば、特許文献1には、シンチレータで構成された検出面とSi-PM(シリコンフォトマルチプライヤ)等で構成された光/電気変換素子とを用いて反射電子信号(信号電子)を検出した後、演算回路上で反射電子信号のエネルギー弁別を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
信号電子を複数のエネルギー領域に弁別するためには、エネルギー領域の個数分、エネルギー弁別条件を変えて繰り返し電子ビームを照射する必要がある。しかし、この方法では、電子ビームの照射回数および照射時間の増加を招き、スループットが低下する。
【0010】
そこで、本発明は、信号電子のエネルギー弁別を短時間で行い、スループットを向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0012】
本発明の代表的な実施の形態による荷電粒子線装置は、荷電粒子ビームの照射により試料から放出される信号粒子を検出し電気信号に変換する複数の検出器と、検出器ごとに設けられ、電気信号を信号粒子のエネルギーに応じて弁別するエネルギー弁別器と、それぞれのエネルギー弁別器のエネルギー弁別条件を設定する弁別制御ブロックと、弁別された電気信号に基づいて画像を生成する画像演算ブロックとを備えている。弁別制御ブロックは、複数のエネルギー弁別器間において互いに異なるエネルギー弁別条件を設定する。
【発明の効果】
【0013】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0014】
すなわち、本発明の代表的な実施の形態によれば、信号電子のエネルギー弁別を短時間で行い、スループットを向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る走査電子顕微鏡の構成の一例を示す概略図である。
【
図3】シンチレータの発生フォトン数と電子入射エネルギーとの関係を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態1に係る信号電子検出から画像生成までの処理手順を説明する図である。
【
図5】出力電気信号の出力値と時間との関係を示す図である。
【
図6】電子ビームの照射位置に応じて信号電子のエネルギーが変化する例を説明する図である。
【
図8】本発明の実施の形態2に係る走査電子顕微鏡の構成の一例を示す概略図である。
【
図9】本発明の実施の形態2に係る信号電子検出から画像生成までの処理手順を説明する図である。
【
図10】本発明の実施の形態3に係るエネルギー弁別条件の設定方法の一例を示すフロー図である。
【
図11】本発明の実施の形態4に係る走査電子顕微鏡の構成の一例を示す概略図である。
【
図12】エネルギー弁別条件の設定に関わるユーザインタフェースの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。以下で説明する各実施の形態は、本発明を実現するための一例であり、本発明の技術範囲を限定するものではない。なお、以下において、同一の機能を有する部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は、特に必要な場合を除き省略する。
【0017】
(実施の形態1)
<荷電粒子線装置の構成>
本発明の実施の形態1に係る走査電子顕微鏡の構成の一例を示す概略図である。
図1に示すように、走査電子顕微鏡(荷電粒子線装置)1は、走査電子顕微鏡鏡筒1A、信号処理ブロック1Bを備えている。
【0018】
走査電子顕微鏡鏡筒1Aの内部には、
図1に示すように、電子源2、コンデンサレンズ5、偏向器4、対物レンズ6、検出器7(7a、7b)等が配置されている。これらの構成要素は、上方の電子源2から下方の検出器7まで鉛直方向に順次配置されている。検出器7の下方には、図示しないステージが配置され、ステージ上に検査対象の試料8が載置されている。
【0019】
信号処理ブロック1Bは、エネルギー弁別器14(14a、14b)、弁別制御ブロック21、画像演算ブロック22を備えている。エネルギー弁別器14は、検出器7ごとに設けられる。
図1では、エネルギー弁別器14aは検出器7aに対応して設けられ、エネルギー弁別器14bは検出器7bに対応してそれぞれ設けられる。
【0020】
信号処理ブロック1Bは、出力ケーブル13(13a、13b)を介して走査電子顕微鏡鏡筒1Aと接続されている。具体的に述べると、エネルギー弁別器14aは、出力ケーブル13aを介して検出器7aの光/電気変換素子12aと接続され、エネルギー弁別器14bは、出力ケーブル13bを介して検出器7bの光/電気変換素子12bと接続される。エネルギー弁別器14a、14bは、弁別制御ブロック21及び画像演算ブロック22と接続されている。弁別制御ブロック21及び画像演算ブロック22は、入出力器15と接続されている。
【0021】
走査電子顕微鏡1は、走査電子顕微鏡鏡筒1Aの内部を真空にした状態で使用される。電子源2は、真空状態の走査電子顕微鏡鏡筒1A内で、試料8へ向けて一次電子線(荷電粒子ビーム、電子ビーム)3を照射する。なお、ここでは、電子を荷電粒子として照射する場合について述べているが、電子以外の荷電粒子を用いてもよい。
【0022】
コンデンサレンズ5及び対物レンズ6は、拡散する一次電子線3を試料8に収束させる。偏向器4は、一次電子線を試料8上で走査させる。コンデンサレンズ5、対物レンズ6、偏向器4は、一次電子線の飛行経路を取り囲むように配置される。コンデンサレンズ5、対物レンズ6及び偏向器4は、例えば、平面視で円環状に構成されてもよいし、平面視で複数の円弧状のブロックが順次配置された構成でもよい。
【0023】
コンデンサレンズ5、対物レンズ6、偏向器4を通過した一次電子線3が試料8に衝突すると、試料8から信号電子(信号粒子)9(9a、9b)が発生し出射する。信号電子9はそれぞれの出射エネルギー、出射角度に応じて走査電子顕微鏡鏡筒1A内を飛行する。
【0024】
〈検出器〉
検出器7は、試料8から出射した信号電子9を検出する機能ブロックである。検出器7は、
図1に示すように、信号検出素子10(10a、10b)、ライトガイド11(11a、11b)、光/電気変換素子12(12a、12b)を備えている。信号検出素子10は、例えばシンチレータで構成される。信号検出素子10に信号電子9が衝突すると、信号電子9はシンチレータにより光(フォトン)に変換される。シンチレータにより変換された光はライトガイド11により光/電気変換素子12へ導光される。光/電気変換素子12へ導光された光は、光/電気変換素子12により出力電気信号(電気信号)17(17a、17b)に変換される。光/電気変換素子12により変換された出力電気信号17は、出力ケーブル13を介して信号処理ブロック1Bのエネルギー弁別器14(14a、14b)へ供給される。
【0025】
図1では、2つの検出器7(7a、7b)が設けられる場合の例が示されているが、検出器7の構成はこれに限定されない。
図2は、検出器の他の構成例を示す図である。
図2(a)には、検出器7が4分割された例が示されている。
図2(a)の検出器7は、信号検出素子10が多角形や扇形等のように周方向に分割された構成となっている。また、
図2(a)では隣り合う信号検出素子10間に空間がある場合が示されている、このような空間の無い形状でも構わない。具体的に述べると、隣り合う信号検出素子10の高さを異ならせ、平面視において両方の信号検出素子10が重なるように配置すれば、このような空間を無くすことが可能である。
図2(b)には、信号検出素子10が径方向に複数の領域に分割された構成が示されている。具体的に述べると、
図2(b)の信号検出素子10は、互いに径が異なる複数のリング状に分割されている。
【0026】
また、
図2(a)、
図2(b)の他にも、信号検出素子10が周方向及び径方向に複数の領域に分割されてもよい。なお、
図2(a)では、信号検出素子10が4分割の例が示されているが、
図2(a)、
図2(b)ともに信号検出素子10の個数に制限はない。
【0027】
また、
図2(a)、
図2(b)における信号検出素子10と光/電気変換素子12との接続方法はあくまで一例である。例えば、
図2(a)の構成では、隣り合う信号検出素子10の隙間に光/電気変換素子12を配置してもよい。
【0028】
図1にはライトガイド11を有する検出器7が示されているが、ライトガイド11を設けず、光/電気変換素子12をシンチレータに直接接続してもよい。また、検出器は、シンチレータ及び光/電気変換素子の組み合わせの他、信号電子9のエネルギーを電気信号に直接変換するフォトダイオードやSi-PMなどで構成されてもよい。また、
図1では検出器7が対物レンズ6の下方に配置されているが、検出器7は、対物レンズ6や偏向器4の上方に配置されてもよい。
【0029】
〈エネルギー弁別器〉
エネルギー弁別器14は、弁別制御ブロック21により設定されたエネルギー弁別条件(例えばエネルギー閾値)に基づき、光/電気変換素子12から供給される出力電気信号17に対するエネルギー弁別処理を行う機能ブロックである。具体的に述べると、エネルギー弁別器14aは光/電気変換素子12aから供給される出力電気信号17aのエネルギー弁別処理を行い、エネルギー弁別器14bは光/電気変換素子12bから供給される出力電気信号17bのエネルギー弁別処理を行う。なお、エネルギー弁別処理については、後で詳しく説明する。
【0030】
エネルギー弁別器14は、例えば演算回路等のハードウェアで構成される。また、エネルギー弁別器14には、設定されたエネルギー弁別条件を格納または一時的に保持する記憶装置、エネルギー弁別条件に基づくエネルギー弁別処理を行う弁別演算ブロック等が設けられてもよい。
【0031】
エネルギー弁別器14は、信号電子9のエネルギーを用いて出力電気信号17を選択的に分類する方法を備えていればどのような構成でもよい。
図3は、シンチレータの発生フォトン数と電子入射エネルギーとの関係を示す図である。信号検出素子10がシンチレータで構成される場合、
図3のように信号検出素子10に入射する信号電子9のエネルギーに応じて発生フォトン数が変化する。
【0032】
この性質を利用し、エネルギー弁別器14の演算回路は、出力電気信号17の出力値を読み取り、エネルギー弁別処理を行ってもよい。この場合、信号検出素子10を構成するシンチレータは、信号電子9の入射により発光する物質であれば、例えば、イットリウムアルミネート(YAP)やイットリウムアルミニウムガーネット(YAG)等の単結晶でもよいし、JEDEC分類でP47に分類されるケイ酸イットリウム(Y2SiO5)等の粉末蛍光体、窒化ガリウム(GaN)系の多層薄膜構造体などでもよい。また、光/電気変換素子12は、ファノ因子の小さい半導体型素子であるフォトダイオード(PD(特にアバランシェフォトダイオード:APD))やSi-PM(シリコンフォトマルチプライヤ)などで構成されることが望ましい。これらの光/電気変換素子は、出力のばらつきが小さく、入射するフォトンの個数を出力電気信号の出力値に正確に反映させることができる。
【0033】
〈弁別制御ブロック〉
弁別制御ブロック21は、エネルギー弁別器14に対するエネルギー弁別条件の制御等を行う機能ブロックである。弁別制御ブロック21は、例えば入出力器15から入力されたエネルギー弁別条件を各エネルギー弁別器14に供給することでエネルギー弁別条件の設定を行う。
【0034】
〈画像演算ブロック〉
画像演算ブロック22は、複数の検出器7から出力される出力電気信号17に基づき画像を生成する機能ブロックである。具体的に述べると、画像演算ブロック22は、各エネルギー弁別器14によるエネルギー弁別処理結果に基づき所望の画像を生成する。なお、画像生成処理については後で詳しく説明する。
【0035】
弁別制御ブロック21および画像演算ブロック22は、ハードウェアで構成されてもよいし、プロセッサにおけるプログラムの実行により実現されてよい。また、弁別制御ブロック21および画像演算ブロック22は、これら以外にも、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等で構成されてもよいし、ハードウェアとソフトウェアとが協働して実現されてもよい。
【0036】
入出力器15は、弁別制御ブロック21へのエネルギー弁別条件の送信を行う。このエネルギー弁別条件は、例えば、ユーザが入出力器15を操作してマニュアルで入力したものでもよいし、予め観察対象の試料8に関連付けた所定の閾値をプリセットとして図示しない記憶装置に記憶しておいたものでもよい。また、入出力器15は、画像演算ブロック22で生成された画像の画像データを受信し、画像をディスプレイ15aに表示する。なお、入出力器15は、受信した画像データを記憶装置に格納してもよいし、外部装置に出力してもよい。入出力器15として、例えばパソコン等の情報処理装置を用いることができる。
【0037】
<信号電子検出から画像生成までの処理手順>
図4は、本発明の実施の形態1に係る信号電子検出から画像生成までの処理手順を説明する図である。試料8から発生した信号電子9aが信号検出素子10aに衝突すると、信号電子9aのエネルギー値に応じた個数のフォトンが放出される。放出されたフォトン16aは、
図1のライトガイド11aに導光され、光/電気変換素子12aにおいてフォトンの個数に応じた出力電気信号17aに変換される。エネルギー弁別器14aでは、設定されたエネルギー弁別条件(エネルギー閾値)を満たす電気信号が出力電気信号17aから抽出され、弁別される。エネルギー弁別器14aは、弁別された電気信号を、単位時間当たりの所定の頻度で画像階調値19aに変換する。すなわち、エネルギー弁別器14aは、弁別された電気信号に基づいて画像階調値19aを生成する。
【0038】
一方、試料8から発生した信号電子9bが、信号検出素子10aとは異なる領域の信号検出素子10bに衝突した場合、同様の過程を経て、エネルギー弁別器14bで設定されたエネルギー閾値に応じた電気信号が出力電気信号17aから抽出される。抽出された電気信号は、単位時間当たりの所定の頻度で画像階調値19bに変換される。ここで、エネルギー弁別器14aのエネルギー閾値及びエネルギー弁別器14bのエネルギー閾値は、複数のエネルギー弁別器14間において互いに異なる値となるように設定される。
【0039】
そして、各エネルギー弁別器14a、14bで変換された画像階調値19a、19bは、互いに異なるコントラスト像として画像演算ブロック22に並列に供給される。このような信号電子の検出は、偏向器4により一次電子線を走査させながら行われ、試料8の所定の検査領域内の各箇所におけるエネルギー弁別器ごとの画像階調値が得られる。
【0040】
画像演算ブロック22は、並列に供給された異なるコントラスト像に対する比較演算を行い、検査領域内の各箇所における比較演算後の画像階調値を算出する。画像演算ブロック22は、各箇所の画像階調値に基づき画像20の画像データを生成する。生成された画像データは、入出力器15に供給され、入出力器15に画像20が表示される。
【0041】
<エネルギー弁別方法の具体例>
図5は、出力電気信号の出力値と時間との関係を示す図である。
図5に示すように、出力電気信号17は、さまざまな出力値を持つパルスである。これらの出力電気信号のうち、弁別制御ブロック21により設定されたエネルギー閾値よりも高い値を持つもの、あるいは弁別制御ブロック21により設定されたエネルギー閾値よりも低い出力を持つものを、エネルギー弁別器14が選択して抽出することで、エネルギー弁別処理が行われる。
【0042】
また、別の方法によりエネルギー弁別処理が行われてもよい。例えば、エネルギー弁別器14は、出力電気信号17の出力値および信号電子9の検出時間を用いて出力電気信号17を弁別することができる。具体的に述べると、電子源2から電子ビームが照射されてから信号電子9が信号検出素子10で検出されるまでの検出時間を計測できる場合、エネルギー弁別器14の演算回路は、信号電子9のエネルギー(すなわち速度)に応じた検出時間を読み取ることでエネルギー弁別処理を行うことが可能である。この場合、出力電気信号17はさまざまな時間にパルスとして発生するが、それらの出力電気信号の中で、弁別制御ブロック21で設定された検出時間閾値よりも短い時間のもの、あるいは長い時間のものを選択して抽出することで、エネルギー弁別が行われる。なお、検出時間の計測には、例えばカウンタ回路やタイマ回路等を用いることができる。
【0043】
<エネルギー弁別後の信号を用いた画像生成方法の具体例>
エネルギー弁別処理を複数のエネルギー弁別条件(エネルギー閾値や検出時間閾値等)で行うことにより同一箇所に対する複数の画像階調値19が得られる。画像演算ブロック22において複数の画像階調値19を用いた演算処理が行われることで、試料8の観察対象パターンの部分強調を行うことができ、多様なパターンの計測を行うことができる。
【0044】
図6は、電子ビームの照射位置に応じて信号電子のエネルギーが変化する例を説明する図である。
図6では、試料8に形成されたホールパターンの表面1001の画像および底面1002の画像を生成する方法が示される。
【0045】
ホールパターンの表面1001および底面1002に同じ条件で電子ビームを照射すると、表面1001および底面1002からエネルギーE2を持つ電子が信号電子として反射する。ただし、底面1002で反射した信号電子1004は、試料8の一部を貫通したのち検出器7で検出される。このため、試料8の一部を貫通した信号電子1004のエネルギーE1は、表面1001から放出された信号電子1003のエネルギーE2に比べて、ΔEだけ低下する(E1=E2-ΔE)。このような特性を用いて、画像演算ブロック22は、ホールパターン等のパターンの特定部分を強調した画像を生成することが可能となる。
【0046】
図7は、画像生成の原理を説明する図である。信号電子9のエネルギーがE1のときのフォトン数がm個、信号電子9のエネルギーがE2のときのフォトン数がn個である場合、所定のエネルギー閾値Thによって両者が弁別される。
図7に示すように、所定のエネルギー閾値Th以上の信号を抽出することによって、視野内(検査領域)における信号電子9のエネルギーがE2の領域を選択的に抽出することができる。エネルギーがE2の信号電子9には、試料8の表面1001から放出されたものが多く含まれるため、エネルギーE2の信号電子9に基づいて生成された画像は、試料8の表面1001の情報が強く反映されている。
【0047】
さらに、他のエネルギーを持つ信号電子に基づく出力電気信号、すなわちエネルギー閾値Thより小さい出力電気信号を削除した信号(B)は、試料8の表面1001の情報をより強く反映させた画像となる。
【0048】
一方、エネルギーがE1の信号電子9に基づいて生成された画像は、試料8の底面1002の情報が強く反映されている。このため、底面1002の情報が強く反映された信号(A)から、表面1001の情報が強く反映された信号(B)を減算することによって、底面1002を強調した画像を生成することが可能となる。その際、エネルギー閾値Thを超えた出力電気信号を除外することにより、相対的に下層側の情報を強調するような処理を行うようにしてもよい。
【0049】
図7では、1つのエネルギー閾値Thを用いて信号電子を2つの領域に弁別する場合にについて示されているが、このような場合に限定されるものではない。例えば上層、中層、下層の少なくとも3つの異なる高さのパターンが含まれる試料8の立体構造を評価対象とする場合、パターンがより深くなるにつれて、反射電子のエネルギーの減衰の程度も大きくなると考えられる。このため、上層と中層を弁別する第1のエネルギー閾値Th1、中層と下層を弁別する第2のエネルギー閾値Th2を設けることにより、特に強調したい層を強調するような減算処理を行うことができる。
【0050】
ここでは信号電子9のエネルギーの高低で強調処理を行うことで画像を生成する方法について説明したが、2つの閾値に挟まれた所定の範囲内のエネルギーに対応する出力電気信号を抽出することも可能である。したがって、信号電子9のエネルギーに対して、ハイパス、ローパス、バンドパスの各処理後の画像を生成することが可能である。
【0051】
<本実施の形態による主な効果>
本実施の形態によれば、複数の検出器7ごとにエネルギー弁別器14が設けられ、複数のエネルギー弁別器14間において互いに異なるエネルギー弁別条件が設定される。この構成によれば、1回の電子ビームの照射で、異なるエネルギー範囲のコントラスト画像が取得できるので、信号電子のエネルギー弁別を短時間で行い、スループットを向上させることが可能となる。具体的に述べると、エネルギー閾値を変えながら繰り返し電子ビームを照射することなく、信号検出素子10の分割数(個数)に応じた複数のエネルギー閾値での出力電気信号17の弁別及び弁別後の出力電気信号を用いて生成される画像階調値を一度の電子ビームの照射で得ることが可能となる。また、前記複数のエネルギー閾値での出力電気信号及び画像階調値を用いた断面形状の推定の高速化が可能となる。
【0052】
また、本実施の形態によれば、信号検出素子10は、周方向に複数の領域に分割される。また、信号検出素子10は、径方向に複数の領域に分割される。また、信号検出素子10は、周方向および径方向に複数の領域に分割されている。これらの構成によれば、信号電子の飛行経路に対し、複数の信号検出素子10を効率的に配置することが可能となる。
【0053】
また、本実施の形態によれば、検出器7は、フォトダイオードまたはシリコンフォトマルチプライヤで構成される。この構成によれば、信号電子9を出力電気信号17に直接変換することができるので、変換効率及び検出感度を向上させることが可能となる。
【0054】
また、本実施の形態によれば、信号検出素子10は、シンチレータである。この構成によれば、シンチレータは安価で容易に入手可能であるので、信号検出素子10に掛かるコストが抑えられる。
【0055】
また、本実施の形態によれば、光/電気変換素子12は、フォトダイオードまたはシリコンフォトマルチプライヤで構成される。フォトダイオードおよびシリコンフォトマルチプライヤは、出力のばらつきが小さいので、入射するフォトンの個数を出力電気信号の出力値に正確に反映させることが可能となる。
【0056】
また、本実施の形態によれば、エネルギー弁別器14は、出力電気信号17の出力値および信号電子9の検出時間を用いて電気信号を弁別する。この構成によれば、エネルギー弁別器14の演算回路は、信号電子9の速度に応じた検出時間を読み取ることでエネルギー弁別処理を行うことが可能となる。
【0057】
また、本実施の形態によれば、複数の画像階調値は、画像演算ブロック22に並列に供給される。この構成によれば、信号電子9の検出から画像の生成までの時間が短縮される。
【0058】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。前述の実施の形態では、エネルギー弁別器14の演算回路が出力電気信号17のエネルギー弁別処理を行っていた。一方、エネルギー弁別器は、信号電子のエネルギーに応じてエネルギー弁別処理ができるものであれば、どのような構成でも構わない。そこで、本実施の形態では、検出器7で検出される前に信号電子9のエネルギー弁別を行う方法について説明する。
【0059】
図8は、本発明の実施の形態2に係る走査電子顕微鏡の構成の一例を示す概略図である。
図8の走査電子顕微鏡1では、試料8と信号検出素子10との間にエネルギー弁別器としてのエネルギーフィルタ114(114a、114b)が配置されている。エネルギーフィルタ114は、弁別制御ブロック21と接続され、弁別制御ブロック21からエネルギー閾値が設定される。エネルギーフィルタ114aのエネルギー閾値及びエネルギーフィルタ114bのエネルギー閾値は、互いに異なる値となるように設定される。
【0060】
エネルギーフィルタ114は、信号電子9のエネルギーを選択的に検出する方法であればどのような構成でもよい。エネルギーフィルタ114として、例えば信号電子を減速して追い返すメッシュ状の電極が用いられてもよいし、電場や磁場を信号電子の軌道に対して横向きに印加することで信号電子9の軌道を選択してもよい。
【0061】
なお、エネルギーフィルタ114に代えて、例えば、信号検出素子10を構成するシンチレータの膜厚を検出器7ごとに変えることで、信号検出素子10にエネルギー弁別器としての機能を持たせてもよい。これにより、各検出器の膜厚に応じたエネルギー弁別が可能となる。
【0062】
一方、信号処理ブロック1Bには、
図1のエネルギー弁別器14に代えて階調値演算回路115(115a、115b)が設けられている。階調値演算回路115aは、出力ケーブル13aを介して検出器7aの光/電気変換素子12aと接続され、階調値演算回路115bは、出力ケーブル13bを介して検出器7bの光/電気変換素子12bと接続される。階調値演算回路115は、各検出器7に対応して設けられている。また、階調値演算回路115は、画像演算ブロック22と接続されている。階調値演算回路115は、光/電気変換素子12から出力される出力電気信号17に基づき画像階調値19を演算する。
【0063】
図9は、本発明の実施の形態2に係る信号電子検出から画像生成までの処理手順を説明する図である。試料8から発生した信号電子9aは、設定されたエネルギー閾値に応じた信号電子のみが弁別され、エネルギーフィルタ114aを通過する。エネルギーフィルタ114aを通過した信号電子が信号検出素子10aに衝突するとフォトン16aが放出される。フォトン16aは、ライトガイド11aに導かれ、光/電気変換素子12aでフォトン数に応じた出力電気信号17aに変換される。この出力電気信号17aは、エネルギー弁別後の信号電子に基づくものである。階調値演算回路115aは、単位時間当たりの頻度で出力電気信号17aを画像階調値19aに変換する。
【0064】
一方、試料8から発生した信号電子9bはエネルギーフィルタ114bで弁別された後、信号検出素子10aに衝突する。以下、同様の過程を経て、階調値演算回路115bは、単位時間当たりの頻度で出力電気信号17bを画像階調値19bに変換する。
【0065】
そして、画像階調値19aおよび画像階調値19bは、画像演算ブロック22に並列に供給される。画像演算ブロック22は、供給された画像階調値19aおよび画像階調値19bを用いて画像を生成する。すなわち、本実施の形態では、画像演算ブロック22は光/電気変換素子12a、12bから出力される出力電気信号17a、17bに基づき画像を生成する。
【0066】
本実施の形態によれば、エネルギー弁別器は、エネルギーフィルタ114で構成される。この構成によれば、検出器7には、エネルギー弁別後の信号電子9のみが衝突するので、出力電気信号17の弁別を行わなくてもよい。よって、信号処理ブロック1Bの回路構成が簡略化され、画像生成までの時間が短縮される。
【0067】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3について説明する。本実施の形態では、画像評価値を用いてエネルギー弁別条件を設定する方法について説明する。本実施の形態に係る装置構成は、
図1、
図8と同様である。
【0068】
複数の検出器を用いて得られる複数の画像から、観察対象である試料8の形状や材料等の情報を得るためには、複数の画像間において重複する情報が少ないこと、すなわち互いの画像間において画像のコントラストが異なっていることが望ましい。そこで、本実施の形態では、複数の検出器を用いて得られる画像間の類似度を画像評価値として用いることでエネルギー弁別条件を導出する方法について説明する。
【0069】
以下、図面を用いて、前記類似度を用いてエネルギー弁別条件を導出し、設定するまでのシーケンスの一例を述べる。
図10は、本発明の実施の形態3に係るエネルギー弁別条件の設定方法の一例を示すフロー図である。
図10には、ステップS10~S70が含まれる。
【0070】
まず、ステップS10では、エネルギー弁別条件のリストが作成される。弁別制御ブロック21は、入出力器15によるユーザから入力されたエネルギー弁別条件、あるいは図示しない記憶装置に予め格納されたエネルギー弁別条件等を用いて、エネルギー弁別条件のリストE={E1,E2,E3,…}を作成する。
【0071】
例えば、ユーザがエネルギー弁別条件としてエネルギー閾値の下限値および上限値と、エネルギー閾値の刻み幅を入力することで、弁別制御ブロック21は、自動的に下限値と上限値の間のエネルギー閾値を補完しながらエネルギー弁別条件のリストを作成してもよい。
【0072】
次に、ステップS20では、エネルギー弁別条件のリストEを網羅するよう繰り返し撮像が行われる。このとき、すべてのエネルギー弁別器に対し同一のエネルギー弁別条件が設定されてもよいし、互いに異なるエネルギー弁別条件が設定されてもよい。互いに異なるエネルギー弁別条件が設定される場合、リストEを網羅するのに必要な撮像回数の低減および時間の短縮が実現される。
【0073】
次に、画像演算ブロック22はエネルギー弁別条件のリストEに対応する撮像画像のリストI={I1,I2,I3,…}を作成し(ステップS30)、撮像画像のリストIから検出器の個数に応じた撮像画像の組合せリストIsub={{I1,I2},{I1,I3},{I2,I3},…}を作成する(ステップS40)。
【0074】
本明細書及び
図10では、検出器が2つの場合を想定した組合せリストI
subが例示されているが、検出器の個数に制限はない。例えば、検出器の個数が3つのときの組合せリストは、I
sub={{I
1,I
2,I
3},{I
1,I
2,I
4},{I
1,I
3,I
4},{I
2,I
3,I
4},…}となる。
【0075】
次に、ステップS50では、組合せリストIsubに含まれる各画像の組合せについて類似度が算出される。画像演算ブロック22は、検出器の個数に応じた各画像の組合せについて類似度を算出し、各組合せにおける類似度を一覧にした類似度のリストS={S12,S13,S23,…}を作成する。類似度として、例えば複数(例えば2つ)の画像間における相関値等が挙げられる。
【0076】
なお、検出器の個数が3つ以上の場合、画像演算ブロック22は、組合せリストIsubの各要素{Ii,Ij,Ik,…}(i,j,kは整数)について、2つの画像の全ての組合せ{{Ii,Ij},{Ii,Ik},{Ij,Ik},…}について相関値を計算し、これらの相関値の中で最大のものを類似度Sijkとして採用してもよい。
【0077】
次に、ステップS60では、画像演算ブロック22は、類似度Sijが最小となる画像の組合せ{Ii,Ij}、および対応するエネルギー弁別条件の組合せ{Ei,Ej}を導出する。
【0078】
そして、ステップS70において、弁別制御ブロック21は、ステップS60において導出されたエネルギー弁別条件の組合せ{Ei,Ej}を各エネルギー弁別器に設定する。
【0079】
本実施の形態によれば、画像演算ブロック22は、複数の検出器7を用いて得られる画像間の類似度を画像評価値として用いることでエネルギー弁別条件を導出する。具体的には、画像演算ブロック22は、検出器7の全ての組合せについて、画像間の類似度を算出し、類似度が最小となる画像の組合せ、および対応するエネルギー弁別条件を導出する。この構成によれば、複数の検出器7を用いた場合でも、互いに異なるコントラストの画像が得られるようなエネルギー弁別条件を自動で設定することが可能となる。
【0080】
(実施の形態4)
次に、実施の形態4について説明する。本実施の形態では、データベースを用いたエネルギー弁別条件の設定方法について説明する。
【0081】
図11は、本発明の実施の形態4に係る走査電子顕微鏡の構成の一例を示す概略図である。
図11は、
図1に記憶装置23が追加された構成となっている。なお、本実施の形態は、
図8の構成にも適用可能である。
【0082】
記憶装置23は、試料8に対して想定される観察対象パターンの深さや材料等に関する情報、観察対象パターンに適した電子ビームの加速電圧等の照射条件に関する情報、エネルギー弁別器のエネルギー弁別条件(例えばエネルギー閾値等)のデータベースを予め格納する。
【0083】
加速電圧等の照射条件やエネルギー弁別条件は、入出力器15のユーザが適当な値を設定してもよいし、別途導出される評価指標値が最大あるいは最小となるような値に設定されてもよい。なお、評価指標値として、例えば実施の形態3で述べた複数画像間の類似度といった画像評価値や、画像を用いた観察対象パターンの寸法計測値の再現性や感度といった計測性能指標等が挙げられる。
【0084】
電子ビームの照射の際、弁別制御ブロック21は、ユーザにより入力される観察対象パターンの深さや材料等に関する情報と、記憶装置23に格納されたデータベースとを照合し、電子ビームの加速電圧と各エネルギー弁別器のエネルギー弁別条件とを自動で導出する。そして、弁別制御ブロック21は、導出したエネルギー弁別条件を、それぞれのエネルギー弁別器に設定する。
【0085】
本実施の形態によれば、記憶装置23は、試料8の想定される観察対象パターンの深さ、試料8の想定される観察対象パターンの材料情報、電子ビームの加速電圧、およびエネルギー弁別条件のデータベースを格納する。また、弁別制御ブロック21は、ユーザにより入力される試料8の観察対象パターンの深さ、および試料8の観察対象パターンの材料情報を用いて、荷電粒子ビームの加速電圧、およびそれぞれのエネルギー弁別器の前記エネルギー弁別条件を設定する。この構成によれば、記憶装置23に格納されたエネルギー弁別条件のデータベースに基づき、ユーザが意図した画像が得られるようなエネルギー弁別条件を自動で設定することが可能となる。
【0086】
(実施の形態5)
次に、実施の形態5について説明する。本実施の形態では、エネルギー弁別条件の設定を行うためのユーザインタフェース(入力画面)の具体例について説明する。
【0087】
図12は、エネルギー弁別条件の設定に関わるユーザインタフェースの一例を示す図である。ユーザインタフェース100は、例えば入出力器15のディスプレイ15aに表示される。
図12のユーザインタフェース100には、マニュアル入力欄101、プリセット選択欄102、自動設定欄103、データベース読込み欄104が含まれる。ユーザは、ユーザインタフェースGUIの各欄を参照しながらエネルギー弁別条件等の設定を行うことができる。
【0088】
マニュアル入力欄101には、例えば、検出器ごとにエネルギー閾値の上限値および下限値の入力欄が設けられる。なお、ここでは、検出器が2つの場合の入力欄の構成が示されているが、検出器の数に制限はない。よって、マニュアル入力欄101には、検出器の個数分のエネルギー弁別条件の入力欄が設けられる。
【0089】
プリセット選択欄102では、例えば記憶装置23に格納されたプリセットデータを呼び出す場合に使用される。ユーザは、例えば、プリセット選択欄102のプルダウンリストから所望のデータを選択することで、エネルギー弁別条件を設定することができる。
【0090】
自動設定欄103を選択すると、例えば、画像相関値等の情報に基づき、エネルギー弁別条件が自動で設定される。
【0091】
データベース読込み欄104では、試料8の材質やパターンの深さの設定を行うことができる。
【0092】
本実施の形態によれば、ユーザは、試料8の検査に必要となる各項目を、ユーザインタフェース100を見ながら指定することが可能となる。
【0093】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。なお、図面に記載した各部材や相対的なサイズは、本発明を分かりやすく説明するため簡素化・理想化しており、実装上はより複雑な形状となる場合がある。
【符号の説明】
【0094】
1…走査電子顕微鏡、2…電子源、3…電子ビーム、4…偏向器、5…コンデンサレンズ、6…対物レンズ、7…検出器、8…試料、9…信号電子、10…信号検出素子、11…ライトガイド、12…光/電気変換素子、14、114…エネルギー弁別器、15…入出力器、16…放出フォトン、17…出力電気信号、19…画像階調値、20…画像、21…弁別制御ブロック、22…画像演算ブロック、23…記憶装置、100…ユーザインタフェース